ボクの夏休み日記 ドラマ

舞台は南国、大縄島。主人公の片岡薫は東京からやってきた男の子。引っ込み思案な性格である薫は、なかなか島の雰囲気になじめない。が、明るく元気な性格である島民の伊良波凪咲に出会い、徐々に変わっていく薫。友達もでき、ゆっくりとしたほのぼのとした日々を楽しむ薫。ただある外国の思惑に巻き込まれていき、物語は予想外の方向に……?
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第一稿

○アシレマ国・大統領室・半年前

しっかりと整理整頓されている部屋。
経済学者「このままの経済状況が続きますと、国は破綻しますぞ」
白髪が少し生え始めている学者が、高級そう ...続きを読む
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○アシレマ国・大統領室・半年前

しっかりと整理整頓されている部屋。
経済学者「このままの経済状況が続きますと、国は破綻しますぞ」
白髪が少し生え始めている学者が、高級そうな椅子に座っているアシレマ大統領(46)に詰め寄っている。
表情は、両者とも真剣だ。
大統領「やはり、サブプライムローンが問題か」
学者「端的に申しますと」
大統領、目の前にある机を思いっきり叩き、
大統領「くそ! だから、気をつけろと言ったんだ! 次はどうせ、金を刷って刷って、私達を助けろ、とでも言うつもりだろう」
学者「……」
大統領「また、税金を上げろというのか、あいつらは!!」
大統領、また、机を叩く。
学者、その音に、身体をビクッとさせる。
電話が鳴る。
大統領、乱暴に受話器を取る。
大統領「何だ?」
女の声「緊急の用だと電話が入っておりますが」
大統領「誰からだ?」
女の声「それが……」
大統領「誰だ?」
女の声「……Cと言えば分かると……」
大統領、目を見開き、手が震える。その震えのせいで、受話器を落としそうになる。
大統領、数秒、考え、
大統領「……繋いでくれ」
女の声「……はい、分かりました」
大統領、電話をしている。
その様子を、心配そうに見ている学者。
大統領、受話器を置き、溜息をつく。
学者「どうしました……」
大統領「――これでいい」
学者「(意味が分からなさそうに)はっ?」
大統領、天を仰ぎ、
大統領「これで、合衆国は救われる」

○タイトル「ボクの夏休み日記~南海の孤島で起きた一大事!!~」

○上空・東京・早朝

街並み。高いビルが連なる。
ビルの合間の道路。
沢山の車が走っている。
その中を、グレーの軽自動車が走っている。

○久瑠の軽自動車・車内

片岡|久瑠《くる》(38)が運転をしている。ショートカットの黒髪。
助手席には、片岡|薫《かおる》(12)が座っている。
薫の髪は、前髪は目にかかるほど長く、手入れをしておらず、ボサボサだ。顔は、不満そうで、俯いている。
久瑠、薫をチラッと見、
久瑠「まだ、怒ってるの?」
薫、答えない。
久瑠「はぁ……」

○鹿児島・道・10時頃

畦道。
久瑠、大きなリュックサックを片方の肩に下げながら、薫の手を引っ張り、歩いている。
薫は、かなり抵抗している。
久瑠、それでも、引っ張り歩く。
周りの年配の人達が、その様子を、遠巻きに見ている。ひそひそ話をしている人達もいる。
久瑠「ふぅ……。あと少し、あと少し」

○同・港

晴天。青い海が広がっている。
空には、白いカモメが、数羽、飛んでいる。
海の向こうには、桜島。頂上からは、白い煙が出ている。
あまり整備されていない船着場に、ボロくて、大きさが、全長約八メートル。幅約三メートルの船が一隻、停まっている。
船着場に、|風吹洗《かぜふきあらい》(38)がいる。しっかりとした体格で、肌は焼けている。半袖半ズボンで、サンダルを履いている。
洗「まだかぁ」
うーんと、背伸びをする。
洗「うん?」
洗の目線の先、久瑠と薫が歩いて来る。
相変わらず、薫は久瑠に引っ張られた形だ。
久瑠「(手を振り、洗の方に歩きながら)洗くーん! 元気だったぁ?」
洗「おお、見ての通りよぉ」
久瑠・薫、洗の前に到着する。
洗「それが、お前のワラビかぁ?」
洗、久瑠の後ろに隠れている薫を覗き見る。
薫、洗の視線から、避けようとする。が、久瑠に手を繋がれたままで、逃げられない。
薫、諦める。
久瑠「この通り、とっても人見知りでねぇ」
洗「そうかそうか。まぁ、あの島で暮らせば、なんくるないさー」
久瑠「そうだといいんだけどねー」
久瑠、自分にしがみついている薫を無理やり、、引き剥がし、洗の前に差し出す。
薫に、大きなリュックサックを背負わせる。リュックサックの取っ手を掴み、薫が逃げられないようにしている。
薫の表情は不機嫌だ。
一方、久瑠の表情は、明るく、上機嫌。
久瑠「じゃあ、これ、お願いね」
洗「(笑顔で)マカチョーケー」
洗、薫の手を取り、船が停まっている方に行く。抵抗する薫。
しかし、洗の手の引っ張る力が強いため、逃げられない。
そんな二人の様子を笑顔で、見送る久瑠。
久瑠「さーて、どうなるか」
腕時計を見る。
久瑠「あっ! 早く戻らないと。夜勤に遅れちゃう」
久瑠、その場から、走り去って行く。
久瑠の反対側には、島に向けて出港する船。

○海上

蒼い海の上に、白い船が一隻。周りには、島影一つ見えない。

○船上

大きなリュックサックを脇に置き、手すりに手をかけ、景色を見ている薫。
船上の後方にいる。
どんよりとした目をしている。
顔は、青白く、今にも吐きそう。
薫「……」
洗の声「おーい。大丈夫かぁー?」
薫、答えない。必死にこらえている。
洗の声「もうすぐ着くドー。頑張れェ」
× × ×
薫の吐瀉物を雑巾で拭いている洗。
洗「この距離はきついかぁ。もしかして、船に乗るの初めてかぁ?」
薫、三角座りをして、そこに顔を埋めている。
洗「初めてなら、仕方ないなぁ」
× × ×
洗の声「おっ! 見えてきたぞー」
薫、顔を埋めていた状態から、顔を上げ、船の進む方向を見る。小さな島影が見える。安心したような顔をする。

○大縄島・港

白いカモメが沢山飛んでいる。
日差しが強く、ジリジリとしている。
本島にある港より、大きい。船が十隻ぐらい停まっている。大きさは、洗が使用しているものと同じぐらいか、それよりも大きいものだ。側面には「大漁」「祈願」等の文字が書いてある。
そこに、薫達が乗っている船が入って来る。
船が停まる。
洗が、難なく降りる。
薫もそれに続こうとするが、船酔いのせいで足元がフラフラだ。
洗「ほれ」
降りようとした薫に手を差し伸べる。右手には薫のリュックサックを持っている。
薫、その手を見る。そっぽを向き、受け取らない。自力で降りようとする薫。
しかし、転けそうになり、思わず、洗の手を握ってしまう。
洗、そのまま、薫を引っ張り下ろす。
洗「おっと、危ねぇ、危ねぇ」
薫、洗の手を振りほどこうとするが、振りほどけない。
洗「おー。ごめん。ごめん。痛かったかぁ」
洗、手を緩める。
薫、洗から手を放す。
洗、薫を振り返り、
洗「ここが大縄島バーヨー」
薫、無視する。
洗、気にせず、周りをキョロキョロと見回し、
洗「もう、そろそろ来てる頃……」
宗次郎の声「おーい! こっちさぁ」
|屋比久宗次郎《やびくそうじろう》(72)が手を振っている。
半袖長ズボンの格好だ。肌は少し焼けている。
洗「ウリッ、思った通り」
洗、また薫の手を握り、宗次郎の方へ行く。
薫、逃げられないのを悟り、抵抗はしない。
宗次郎「お疲れ様よぉ」
洗「(笑いながら)気にすんでねぇよ。屋比久爺の頼みなら断れないヤッサー」
宗次郎「ハハハ。この借りは返すさぁ」
洗「いつもどおりサトウキビだろ?」
宗次郎「(笑いながら)バレたか」
洗・宗次郎、お互い笑い合う。
二人の会話を側で、聞き流している薫。
宗次郎、薫をニッと笑いながら、見る。
宗次郎「オジィヤンドー。覚えておらんヤー。これが、もっとワラビの頃、会ってるさぁ」
薫は、宗次郎を見ず、俯いている。
薫「……」
宗次郎「(気にせず)さぁ、行こうドー」
宗次郎、薫に手を差し出す。
薫、手を見るが、そっぽを向く。
宗次郎、気にせず、薫の手を掴む。
薫、一瞬戸惑う。
薫「……」
宗次郎「(ニッコリ笑って)帰って、おいしいもんでも食べようヤッサー」

○島内・道・13時頃

薫と宗次郎、ゆっくりとしたスピードで、並んで歩いている。手は繋いだままだ。
薫、チラッと横を向く。
傾斜が、急な屋根が備え付けられた家々が並んでいる。どの家も大きな庭があり、そこに畑を耕している家もある。
玄関脇には、動物を象った像が置いてある。
薫、怪訝そうな顔をする。
しかし、すぐに俯き、今度は、宗次郎の方を見る。
宗次郎は、穏やかな表情。
薫、繋いでいる手を見る。きつく握られているのではなく、添えてられている感じだ。
宗次郎の手を振りほどき、その場から走り去って行く薫。
宗次郎「(薫を振り返りながら)あっ! 薫ちゃーん」
× × ×
薫、走る。
速くはない。
息は切れ切れで、必死の表情だ。

○同・野原

ただ、緑の草むらが広がっており、木が所々に生えている。
ほとんど林に近い。
薫が、フラフラと歩いて来る。
息は、絶え絶えだ。今にも倒れそう。
フラフラと一本の木に近づき、幹に手をつき、呼吸を整える。
背負っていたリュックサックを丁寧に降ろし、その脇に幹に寄りかかるよう座る。
薫「(息を整えつつ)……」
ガサガサと音が聞こえる。
薫「?」
薫、立ち上がり、回りを見るが、誰もいない。木を見上げるが、そこにも誰もいない。
薫、前を向くと、
女の子の声「わっ!」
薫、思わず驚いて、腰を抜かしてしまい、幹に身を任せるように座ってしまう。
薫、正面を見上げる。
その目線の先には。|伊良波凪咲《いらなみなぎさ》(12)。半袖半ズボンを履いていて、肌は焼けている。
凪咲「(笑いながら)驚かせちゃった? ごめんごめん」
薫「……」
凪咲「あんまりこの辺りで、見ない顔だからさぁ。外から来たの?」
薫「……」
凪咲、戸惑い、後頭部を掻く。
凪咲「モシカシーネー、通じてない?」
薫、答えず、ジーッと凪咲を見ている。
凪咲「(後頭部を掻きながら)困ったなぁ」
宗次郎の声「おーい」
宗次郎、薫達がいる方へ走って、駆け寄って来る。
薫、急いで立ち上がり、リュックサックを背負う。
宗次郎の声「(大声で)あっ! 凪咲ちゃん。薫ちゃんを捕まえてくれさぁ」
凪咲「薫ちゃん……?」
凪咲、振り返る。
と、薫がリュックサックを背負って、走っている。足取りはフラフラだ。
凪咲「(大声で)何か分からないけど、捕まえればいいんだなー!!」
宗次郎の声「(大声で)そうさぁー」
凪咲「よし」
凪咲、薫の方に向かって走る。あっという間に、薫に追いつき、薫の腕を掴み、手を握る。
薫、頬が少し赤くなる。
凪咲「ハハ。捕まえたぁ」
凪咲、薫を引っ張って、宗次郎の元へ行く。
薫は、抵抗せず、付いて行く。
薫・凪咲、宗次郎の元へ辿り着く。さっきの木があった所だ。
宗次郎「もう仲良しになったんさぁ」
薫、ハッとし、握っていた凪咲の手を振り払う。
宗次郎、微笑む。
宗次郎「それはそうとさぁ、凪咲ちゃん。舞の練習はまたサボリねぇ?」
凪咲「アハハ。バレた?」
宗次郎「(笑いながら)あんまりサボると、禊の母さんに怒られるドー」
凪咲「(後頭部を掻きながら)いやぁ、もう何回も怒られてるしさぁ」
凪咲、苦笑いをする。
宗次郎「アハハ。儂みたいに凪咲ちゃんの舞を楽しみにしている人も、たくさんいるでよぉ。なんとか頑張ってくれねぇ」
凪咲「(少し照れ臭そうに)そこまで言われちゃ仕方ないさぁ」
凪咲、薫の方を見、
凪咲「宗次郎オジィ……この子は……」
宗次郎、薫の方を見、
宗次郎「儂の孫」
凪咲、腕を組み、ウンウンと頷く。
凪咲「なるほどねぇ。そう言われれば似ているような気も……」
凪咲、薫と宗次郎の顔を見比べ、
凪咲「……う~ん、似てないさぁ」
宗次郎「なんじゃい、それ」
凪咲「アハハ」
宗次郎、薫の手を強く握る。
宗次郎「(ニカッと笑いながら)今度は逃げられんドー」
薫、俯く。
宗次郎「じゃあ、儂らはもう帰るさぁ。凪咲ちゃんもそろそろ戻らな、また、怒られるドー」
凪咲「(背伸びをしながら)そうだね―。そろそろ私も、帰るさぁー」
宗次郎「またよぉ」
宗次郎、凪咲に手を振る。
凪咲、ブンブンと手を振り返し、
凪咲「バイバーイ! 薫ー! 今度遊ぼうさぁー!」
宗次郎、薫を見、
宗次郎「もう友達が出来たなぁ、薫ちゃん」
薫「……」
宗次郎・薫、野原から去って行く。
凪咲、走りながら、その場から去って行く。

○同・宗次郎宅・前

坂道を登っている宗次郎と薫。
二人共、手は繋いだままだ。
薫はヘトヘトで、足取りは非常に重い。
宗次郎は、疲れを感じさせないぐらい元気一杯に歩いている。
薫「ハァハァハァ」
坂道を登り切った薫と宗次郎。
薫、前屈みになり、肩を上下させながら、息をしている。
手をつないだままの宗次郎、横にいる薫を向き、
宗次郎「大丈夫ねぇ」
薫「……」
宗次郎「無理するなよぉ」
薫、微かに頷く。
宗次郎、その様子を見て、軽く頷き、
薫をゆっくりと引っ張って行く。
一軒の家の前に立つ二人。
他家よりも、少し大きい家。庭もそれに合わせて、他家より広い。玄関脇外には、石造りの動物像。獅子のような造形だ。
宗次郎「ここさぁ」
薫、家を見回す。
宗次郎、片手で引き戸を開け、薫を連れて入って行く。

○同・宗次郎宅・玄関~居間

ガラガラと引き戸を開ける音を立てて、玄関に入って来る宗次郎・薫。
玄関は、狭く、人二人分くらいのスペース。
薄暗く、照明灯は存在しない。太陽の光が窓から差し込んでいる。
宗次郎、靴を雑に脱ぐ。靴は、揃って脱がれていない。
薫、靴を丁寧に脱ぐ。薫、靴を綺麗に並べる。ついでに、宗次郎の靴も綺麗に並べる。
宗次郎、振り返り、
宗次郎「薫ちゃんは偉いねぇ」
薫「……」
薫、少しムッとした表情をする。
宗次郎、薫を手招きし、部屋を指差し、
宗次郎「ここで待っといてくれんかのう」
薫、部屋を覗く。部屋はやはり、薄暗い。
十畳の広さ、床は畳張り。
縁側から入る太陽の光のおかげで、真っ暗ではなく、生活に支障はなさそうだ。
部屋の真中には、ちゃぶ台が置いてある。
ちゃぶ台の回りには、座布団が乱雑に置いてある。
部屋の隅には、仏壇。こちらは綺麗に整理されている。
宗次郎「散らかっていて、悪いさぁ」
薫「……」
宗次郎「昼飯を用意してくるから、適当に寛いどけー」
宗次郎、部屋から出て行く。
宗次郎が開けっ放しにしたままの障子を、薫が閉める。
薫、座布団を綺麗に並べ、そこに座る。
ズボンのポケットから、スマートフォンを取り出し、ロックを解除する。画面の右上には、圏外の表示。
薫、肩を落とす。

○同・宗次郎宅・居間

宗次郎「おーい、ここ開けてくれさぁ」
スマートフォンでゲームをしていた薫、ゲームを一時停止し、障子を開ける。
宗次郎、両手にゴーヤチャンプルーがたくさん盛られた大きな皿を持っている。
それらを、ちゃぶ台の上に載せる。
宗次郎「オジィ特製のゴーヤチャンプルーやー。美味しいドー。んっ?」
宗次郎、ちゃぶ台の回りを見、
宗次郎「なんやー、片付けてくれたんさぁ。偉いねぇ、薫ちゃんはぁ」
薫「その名前、嫌い」
宗次郎「(驚き、薫を見)えっ?」
薫「その名前、嫌いだから。呼ばないで」
宗次郎「じゃあ、なんて呼べばいいさぁ?」
薫「(少し考えて)片岡でいい」
薫、元いた場所に戻り、ゲームを再開する。
宗次郎、薫を不思議そうに見ている。

○同・アシレマ軍駐屯地内・外

晴天。
軍用ヘリが降りて来て、着陸する。
扉が開き、アシレマ軍兵士が降りる。
兵士「足元にお気をつけ下さい」
三人の男女が、扉から、降りて来る。
先頭は、ブライアン・アームストロング(38)。黒スーツをピシッと着こなしている。金髪ショートの髪で、黒いサングラスをかけている。肌は、白い。
真ん中は、アメリア・ハーツ(24)。黒スーツを丁寧に着こなしている。金髪セミショートの髪で、こちらも黒いサングラスをかけている。肌は、白い。最後尾は、キース・ロバート(22)。黒スーツをだらしなく着ている。上着のボタンは一つもかけていない。サングラスは目にかけずに、額の上にかけている。クチャクチャとガムを噛んでいる。肌は、白い。
キース「(ガムを噛み、空を見上げながら)あっちぃな。ここ」
キース、ブライアン達の方を見、
キース「リーダーあんた達、見てるだけで暑苦しいぜ」
アメリア、キースを睨み付け、
アメリア「口を慎め」
キース「おー、怖えー、怖えー。そんなんだから、目尻に皺が出来るんだぜ。ああ、だから、サングラスをかけているのか、バレないように」
アメリア「貴様……」
二人のやり取りが続く。
ブライアン、フッと笑う。
兵士「あの……」
ブライアン「ああ、気にしないでくれ。いつものことだ。さぁ、案内してくれ」
兵士「はぁ……分かりました」
兵士、歩いて行く。
それに連なる形で、ブライアンも付いて行く。
アメリアとキースは、口論を続けながら付いて行く。
白い建物の前で、兵士が停まり、
兵士「ここです」
ブライアン「案内、すまないな」
兵士「いえ。では、後ほど、呼びますので」
ブライアン「ああ、分かった」
ブライアン・アメリア・キース、建物の中へ入って行く。
アメリアとキース、口論は終わっている。
アメリアは不機嫌な顔をしている。

○同・アシレマ軍駐屯地内・会議室

白い壁に白い天井。白い椅子に白い長テーブル。あらゆるものが白色で統一されている。ホワイトボードが置いてある。
部屋は、そんなに大きくはなく、二十畳程度。
椅子に、アメリアとキースが座っている。
一番距離が出来る対角線上にお互い、座っている。
アメリアは不機嫌な表情で、サングラスは外している。サングラスは胸ポケットにかけている。
キースは、ニヤニヤと笑っている。
自動ドアが開かれ、ブライアンが入って来る。サングラスは外しており、胸ポケットにかけている。
ブライアン「ふぅ……」
キース「遅かったすね。もう頭の中で、一つプログラムを組んでしまったぜ」
ブライアン「色々、手続きがな……」
ブライアン、近くにある椅子に座る。
ブライアン「今回の作戦、全権こちら側が引き受けることになった」
アメリア「予定通りですね」
キース「やっるねー」
ブライアン「全てCと大統領のお膳立てだがな」
アメリア「大統領はともかく……。何者なんですか? Cという人物は」
ブライアン「会ったことは……ない。電話越しでしか話したことがない」
キース「ネットで調べても、あらゆる情報機関にハッキングかけても、分からなかったぜ」
アメリア「(不審そうに)……」
ブライアン「まぁ、俺達は俺達の仕事をしっかりやればいい。そして、お金を貰えればそれでいい」
アメリア、立ち上がり、壁際に置いてあったコーヒーメーカーに近づき、
アメリア「リーダー、コーヒーでも飲みますか?」
ブライアン「ああ、頼む」
アメリア「(用意をしながら)砂糖は、十二個でしたっけ?」
ブライアン「十三個だ」
キース「俺にはくれないの」
アメリア「自分でやれ」
キース「ひっでー」
× × ×
コーヒーが入れられたカップが三つ、ブライアン・キース・アメリア、それぞれの前に置かれている。
キース、足を机に載せている。
ブライアン、コーヒーを一口、飲み、立ち上がる。ホワイトボードの前まで歩き、ズボンのポケットから、大縄島の地図を取り出し、ホワイトボードに磁石で貼り付ける。
ブライアン「さぁ、今回の作戦目標を言ってみろ、アメリア」
アメリア「はい。今回の作戦目標は、大縄島の占拠です」
ブライアン「その通りだ。で、大縄島の主な特徴は?」
アメリア「人口が非常に少ない。電気は一部を除いて通っていない。ネットのインフラは、ここ駐屯地や一部の公共の場にしか通っていない。この三つです」
ブライアン「(感心したように)流石だな」
アメリア、満面の笑みで、
アメリア「はい! 一度、覚えたことは忘れませんから。あっ、あと一つ、重要な事がありました」
ブライアン、真剣な顔つきになり、
アメリア「数ヶ月前から、ずっと反対運動が起こっていることです」
キース、欠伸をする。
ブライアン「そうだ。それが一番、問題だ。まぁ、土地を無理やり買い取るという無茶な手段を講じたのが、奴らの間違いと思うがな」
ブライアン、フッと笑う。
キース「まぁ、いいんじゃねーの? それで、俺達が此処にいるわけだし」
ブライアン「そうだな」
キース、ルービックキューブをズボンのポケットから取り出し、遊び始める。
キース「(ルービックキューブをしながら)たださ、例のブツを俺は見てないんだ。見ないとなんともなんねーよ」
ブライアン「見るか? という、俺もまだ見ていないんだがな」
キース「おー、見に行こうぜ」
アメリア「もう見られるのですか?」
ブライアン「最終調整中だそうだ」

○同・駐屯地内・通路

兵士が、ブライアン・アメリア・キースを連れて歩いている。
キースは、あくびをし、付いていく。
アメリア「あの……リーダー」
ブライアン「何だ?」
アメリア「今一つ分からないことがあるのですが」
ブライアン「言ってみろ」
アメリア「作戦内容と全く関係ないことですが……」
ブライアン「それでもいい」
アメリア「なぜこんな僻地の島に、軍事施設が?」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「何だ、そんな事か」
ブライアン、胸ポケットから、スマートフォンを取り出し、
ブライアン「これを見てみろ」
スマートフォンをアメリアに手渡す。
アメリア、受け取り、画面を見、驚いた顔をし、
アメリア「これは……」
スマートフォンには、大縄島を中心とした世界地図が表示されている。
ブライアン「この島は、三つの国に囲まれている。東、西、南の三方向な」
アメリア「そして、アシレマが……」
ブライアン「そうだ。条約により、アシレマ軍が守っている形だ」
アメリア「しかし……この位置は………」
ブライアン「そう、他国の牽制にもなる。有事の時、どこでも駆けつけられるようにな」
アメリア、感心した表情になり、ブライアンにスマートフォン返しながら、
アメリア「それで、この軍事施設ですか……」
ブライアン、スマートフォンを受け取り、
ブライアン「見方を変えれば、いい観光地になるな」
アメリア「はい?」
ブライアン「三つの国が隣接し、いや、正確には四つか。しかも、この自然の多さ……観光地にピッタリだな」
アメリア「(頷き)確かに」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「カジノでも建てたら、繁盛しそうだ」
アメリア、クスっと笑い、
アメリア「そうですね」
ブライアン「Cの目的もそれだったりしてな」
アメリア「(クスクス笑いながら)それはないでしょう」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「そうだな」
兵士、扉の前で停まり、
兵士「こちらです」
兵士、人差し指を、扉の横にあるセンサーに押し付ける。
扉が開く。
ブライアン「これは……」
アメリア「すごい……」
キース「おーおー。Cのおっちゃんもやるねー」
キース、ニヤニヤと笑っている。

○同・宗次郎宅・居間・夜

宗次郎、電話の前に座り、電話をかける。黒電話で、ダイヤル式だ。
久瑠の声「もしもし」
宗次郎「儂さぁ。儂。お前の父さんドー」

○東京・病院・ナースステーション内

広く、白い壁・白い床の部屋。
部屋全体が、きちんと整理されている。
しかし、全体的に机の上は、散らかっている。
そこに、ナース姿の久瑠が一人、椅子に座っている。
携帯電話を使用して、電話をしている。
久瑠「分かるわよ。携帯なんだから。で、何かあった?」
宗次郎の声「電話は大丈夫なのさぁ」
久留、前髪をいじりながら、
久瑠「大丈夫よ。さっき、急患があって、一段落ついたところだから」
宗次郎の声「いや、薫ちゃんのことなんじゃがねぇ」
久瑠「(前髪をいじりながら)その名前で呼ぶなって言われたんでしょ」

○島内・宗次郎宅・居間・夜

宗次郎、電話の前に座って、電話をしている
宗次郎「そう、それさぁ。なんであんなに嫌がるんドー?」
久瑠の声「んー。何か学校で、その名前のせいで、少しからかわれたみたい」
宗次郎「からかわれる? なんでさぁ?」
久瑠の声「女の子っぽい名前だからじゃない?」
宗次郎「(首を傾げ)どこがねぇ?」
久瑠の声「こっちではそうなのよ。細かいことでからかわれるのよ」

○東京・病院・ナースステーション内

久瑠、窓に寄りかかりながら、携帯電話を使用して、会話。
宗次郎の声「めんどくさいねぇ」
久瑠「そう、めんどくさいの」
久瑠、チラッと外の景色を見る。ライトアップされた東京スカイツリーが見える。
宗次郎の声「なら、あんまり、薫ちゃんって呼ばないほうがいいのかねぇ」
久瑠「(東京スカイツリーを見つつ、前髪をいじりながら)気にしないでいいよ。その島にいたら、何とかなると思うから」

○島内・宗次郎宅・居間・夜

宗次郎、ニコッと笑い、
宗次郎「ハハ。そうさぁ」
久瑠の声「じゃあ、薫のこと宜しくね」
宗次郎「おお、任しとけ」
宗次郎、受話器を置く。
宗次郎、立ち上がり、背筋を伸ばし、
宗次郎「さて、寝るさぁ」

○同・宗次郎宅・居間

朝。
陽の光が差し込んでいる。
ちゃぶ台の上に、二人分の朝食を並べている宗次郎。
ご飯に、大根の漬物、イワシの塩焼きだ。
宗次郎「さぁ、薫ちゃんを起こしにいくさぁ」
立ち上がり、襖を開け、出て行く。

○同・宗次郎宅・客室

薫、布団の上で、ネットブックをいじっている。キーのタッチ音。
ディスプレイには、プログラムが表示されている。
宗次郎の声「薫ちゃーん。朝ご飯ドー」
襖が開かれる。薫が、宗次郎を睨みつける。
宗次郎「なんじゃ。起きとったのさぁ。薫ちゃんは早起きじゃねぇ」
薫、ネットブックを閉じる。
宗次郎「(ニッと笑い)さぁ、ご飯を食べようさぁ」

○同・宗次郎宅・居間

朝食を食べている薫と宗次郎。
薫は、ボソボソと食べ、宗次郎は、噛み締めるように食べている。
凪咲の声「宗次郎オジィ!!」
凪咲、縁側の方にある襖を勢い良く開ける。
凪咲「薫はいるかー!!」
宗次郎「ここにいるさぁ」
薫、凪咲の方をゆっくりと振り返る。
薫「……」
凪咲「遊びに行くさぁ」
凪咲、ニコニコとした良い笑顔だ。
薫、無視し、ご飯を食べるのを再開する。
凪咲、居間に入り、薫の腕を掴み、
凪咲「ご飯はいいから、遊びに行こー」
薫を引っ張って行く。
箸を持ったままの薫、抵抗するが、凪咲の力に敵わず、引っ張られて行く。
そのまま、縁側から出て行く二人。
そんな二人の様子を見ていた宗次郎、
宗次郎「まぁ、なんくるないさー」
宗次郎、熱い緑茶を飲む。

○同・道

凪咲「という訳で、連れて来たさぁ」
凪咲と薫、手を繋いでいる。二人の前には、|洲鎌太陽《すがまたいよう》(12)。黒色短髪の髪で、肌は焼けている。
太陽「という訳と言われてもよぉ……」
太陽、凪咲の隣で俯いている薫を見ながら、
太陽「それ、無理やり過ぎるだろ」
凪咲「いやー、こうでもしなきゃ、外に出せなさそうだったからさぁ」
太陽「(溜息をつき)……。お前、名前は?」
薫、俯いたまま。
太陽、首を傾げる。
凪咲「薫って言うんだよー」
薫、凪咲をキッと睨み、太陽を見る。
太陽、全く気にしていない顔。
薫「えっ?」
あまりにも小さい声で、誰にも聞こえていない。
太陽、薫から少し離れ、凪咲を呼び、
太陽「何だ? あいつ喋れないのか」
凪咲「う~ん。何か話すのが苦手なのかな」
太陽「何だそりゃ」
凪咲「こっちの言葉が通じてないってことはないと思うけどさぁ」
太陽「そうか……」
太陽、薫の方を見て、
太陽「何か気に入らないな」
凪咲「そう? 私は気になるけど」
太陽、凪咲を見、驚き、
太陽「なっ!?」
凪咲「どんな声してくれるのかなぁって」
太陽、安心したような表情になり、
太陽「あっ、そういうこと……」
凪咲「何が、そういうことさぁ?」
凪咲、太陽の顔に近づき、
太陽「(少し顔を赤くしながら)何でもねーよ」
凪咲「(首を傾げ)?」
太陽「あれをやって試すさぁ」
凪咲「あれ……? ああ、あれねぇ」
太陽「それが出来たら、俺達の仲間入りだ」
凪咲「(少し困った表情で)あれをする意味あるかなぁ」
太陽「まぁ、ただの度胸試しだよ」
太陽・凪咲、薫がいる所に戻る。
太陽「なぁ、薫。お前、泳げるか?」
薫、頷く。
太陽「よし! なら、決まりだな。いつもの崖に行って――」
女の声「お前ら、またこんなことしてるのかぁ」
太陽、後ろを振り返る。それにつられて、薫や凪咲もそっちの方を見る。
岸川愛(27)。ピンク色の上下ジャージを着ている。サイズは少し大きめで、余らしている。髪型は、ポニーテールで、茶髪。赤フレームの眼鏡をかけている。肌は白い。
『缶ビール365×24本入り』と書かれた段ボール箱を両手で抱えている。片手には、開けた後の缶ビール。
愛「(段ボール箱を降ろしながら)この前、崖から海ん中、飛び込むのは危ないから止めとけって言っただろうが」
太陽「げっ……先生」
太陽、愛から一歩、二歩下がる。
凪咲「センセー。もう一杯飲んでるんさぁ」
愛「こんなに暑いんだから、飲まなきゃ、やってられないぜ。あまり、娯楽もないしなぁ、この島はぁ」
愛、残りのビールを飲み干す。
愛「度胸試し、そんなにしたいんなら、違うのにしときな」
太陽「例えば?」
愛、空のビール缶をブラブラさせながら、
愛「う~ん、肝試しとか? あたしが若い頃はそうだったなぁ。もちろん、今でも若いけど」
太陽、少し怯み、
太陽「き、肝試し……」
凪咲「肝試しって何さぁ?」
薫、会話を聞いている。
愛「夜の墓地とかに行って、決められた場所を目指す遊びみたいなもんかな」
凪咲、目を輝かせながら、
凪咲「面白そうさぁ!! 太陽、それにしよう!」
太陽「(汗を掻きながら)あ……ああ、そうだな。それなら、危なくないしな……」
薫、全く怖がっていない。いつもと同じ表情。
愛「よし。決まり! じゃあ、あたしは帰る」
愛、段ボール箱を両手で軽く持ち上げ、その場から去って行く。
凪咲「センセーも参加するんじゃないのー」
愛「参加するわけねーだろ。今から、晩酌だ晩酌」
薫「(ボソボソと、誰にも聞こえないような声で)まだ朝なのに……?」
愛「(大声で)あっ、お前ら、分かってると思うけど、駐屯地の近くにも近づくなよー。あそこは、もっと危ないんだからなー」
凪咲「はーい」
太陽「はいはい」
薫「(誰にも聞こえない小さな声で)駐屯地……危ない?」

○同・墓地・道・夜

墓地には、薫・凪咲・太陽の三人。
凪咲「他の子は? 誘わなかったのー?」
太陽「誘ったんだけどさ、親にダメだってさぁ」
太陽、大きく溜息をする。
凪咲「どうしたんねぇ? どこか痛いのさぁ?」
太陽「いや、何でもねーよ」
薫、回りを見回している。無表情で全く怖がっている様子はない。むしろ、めんどくさそうな顔をしている。
凪咲「なんか、こういうのワクワクするさぁ。なぁ、薫」
薫「……」
凪咲「(嬉しそうな表情で)で、どこを目指すんだ?」
太陽「とりあえず、一番てっぺんにある大きな墓だな。そこまで行ってUターンして戻って来る。で、いいんじゃないのか」
凪咲「一人で行くのか? それとも三人でさぁ?」
太陽「(考えず、すぐに)三人で行こう」
凪咲、首を傾げる。腕を組み、
凪咲「それなら、度胸を試せないような……」
太陽「(咄嗟に)いや、あのあの一人で行って道に迷ったら、困るだろ? 特に、ほら、薫は初めてなんだからさ」
凪咲、大きく何度も頷き、
凪咲「なるほどさぁ。太陽は頭がいいねぇー」
薫、クスっと小さく笑う。誰も気づかない。
太陽「そうと決まったら、早く行こうぜ」
太陽、先頭になってなだらかな坂を歩いて行く。
凪咲「おー!!」
凪咲、腕を振り上げる。凪咲、振り返り、
凪咲「薫も行くさぁ」
薫、頷き、付いて行く。
× × ×
墓が道筋に、沢山並んでいる。大きさは様々だ。
どれも、定期的に掃除されているのか、綺麗な状態だ。
墓の裏側は、森になっている。
道は、なだらかな登り坂になっている。
そんな中を、薫・凪咲・太陽が歩いている。皆、懐中電灯を持っており、それで辺りを照らしている。
先頭は、太陽。次に、凪咲。最後尾は、薫。
太陽は、若干、顔が引きつっている。
凪咲、楽しそうな表情。
薫、無表情。
凪咲「(鼻歌交じりで)楽しいねぇ」
太陽「……」
太陽が前方を照らしながら、歩いていると、赤い光の玉みたいなものが通る。
太陽「ヒッ」
太陽、足を止める。それに続いて、凪咲・薫の足も止まる。
太陽「……今、何か通ったような……」
凪咲「えっ! どこどこ? ユーレイかな!」
太陽「そ、そんなもんいるわけねーだろ」
薫、その二人の会話を少し楽しそうに見ている。
凪咲「どっちに行ったのさぁ?」
太陽「(少し口を尖らせ)……あっちだよ……」
太陽、進行方向奥のほうを指差す。
凪咲「追いかけよー!!」
凪咲、薫の手を引っ張り、その方向へ走る。
太陽「あっ! おい」
太陽、二人を追いかける。
× × ×
薫・凪咲、手を繋いだまま、
凪咲「なんだ。だれもいないねぇー」
薫、肩で激しく息をしながら、後ろを振り返る。
真っ暗闇で、太陽の姿はない。
薫「(小さな声で)ねぇ、凪咲さん……」
凪咲、首を傾げる。キョロキョロ回りを見る。
凪咲「? どこからか、声が……」
薫「凪咲さん」
凪咲「ユーレイか!」
薫「凪咲さん!」
凪咲、薫を振り返り、
凪咲「えっ!! 薫? なんだユーレイじゃないのさぁ」
凪咲、一回頭を下げるほど、落ち込むが、すぐに顔を上げる。かなり驚いた顔で、
凪咲「薫!」
薫の肩を両手で持ち、揺さぶりながら、
凪咲「薫の声、初めて聞いたさぁ! そんな声だったんだな!」
薫「(揺さぶられながら)いや、だからさぁ」
凪咲「(満面の笑みで)いい声さぁ」
薫「(揺さぶられながら、大きな声で)凪咲さん!」
凪咲「凪咲でいいさー」
薫「(大きな声で)凪咲!」
凪咲、薫の大きな声に驚き、揺さぶるのを止める。
凪咲「で、どうしたのさぁ? そんなに慌てて」
薫「(肩で息をしながら)太陽君がいない」
凪咲、回りを見、
凪咲「アイッ! 本当だ。速く走りすぎたかな」
薫「探しに行かなきゃ」
凪咲、首を傾げる。
凪咲「なんでさぁ? まっすぐ来ただけだから、分かると思うけど」
薫「そうなんだけど……太陽君、こういうの苦手みたいだし」
凪咲「こういうの?」
薫「ユーレイとか」
凪咲「そうなの? へー、知らなかったさぁ」
薫、信じられないような顔をする。
薫「早く戻ろう」
凪咲「うん!」
薫・凪咲、その場から走り去って行く。
薫・凪咲が去った後、木の影にいた白い影がうっすらと消える。
× × ×
暗闇の中、太陽が歩いている。
太陽「クソッ。あいつらどこまで、行ったんだよ」
懐中電灯が、点滅し出す。
太陽「アレッ?」
懐中電灯を顔まで持って行き、叩く。懐中電灯の光が消える。
太陽「……マジかよ」
太陽、立ち止まる。キョロキョロと周りを見る。何も見えない。
太陽「(大声で)おーい! 凪咲ー! 薫ー!」
静寂。
太陽「(大声で)おーい!」
静寂。蛙の鳴き声だけが聞こえる。
太陽、項垂れる。
太陽「(涙声で)どうすればいいんだよ……」
凪咲の声「太陽! どこだー!」
薫の声「おーい! 太陽君ー!」
遠くから聞こえる凪咲の声。薫の声は、凪咲の大きな声に消されて、小さく聞こえる。
太陽、安堵の表情をし、
太陽「良かった……」
薫の声「おーい! 太陽君ー!」
薫の声が近づく。
太陽、身体をビクッと震わせ、
太陽「えっ……もう一人声が……。えっ……。誰の声だ……。もしかして、ゆ、幽霊……」
太陽、腰を抜かし、その場に座ってしまう。涙目になっている。
× × ×
薫、凪咲と歩きながら、
薫「おーい!」
薫、何かに気づいたような表情。
薫「あっ……」
凪咲「どうしたさぁ? 薫」
薫「凪咲さん……」
凪咲「だから、凪咲でいいさぁ」
薫「(恥ずかしそうに)……凪咲。太陽君、呼ぶの君だけでやって」
凪咲「?(首を傾げ)んー、わかったー。おーい、太陽ー!」
薫、フゥと息をし、
薫「これで大丈夫かな?」
× × ×
太陽、腰を抜かし、地べたに座っている。
もはや、恐怖のあまり声も出ないようだ。
顔は、俯いたまま動かない。
凪咲・薫が、太陽に向かって、坂を降りながら、走って来る。
凪咲「大丈夫かぁ、太陽」
凪咲、太陽の肩を掴む。
太陽、顔を上げる。目が真っ赤だ。
太陽「(涙声で)大丈夫に決まってるだろ」
凪咲「モシカシーネー、泣いてたさぁ?」
太陽「(涙目、涙声で)泣いてねーよ!」
薫、太陽に近づき、
薫「その……太陽君、大丈夫?」
太陽「だから、大丈夫だって! ……えっ」
太陽、泣きそうな顔から、とても驚いた表情になる。立ち上がり、
太陽「薫さぁ、今喋ったよな……?」
薫、たじろぎ、
薫「……うん」
凪咲「薫が気づいたんだよー。太陽がいないことにさぁ」
太陽「そうだったのか……。って、お前は気づかなかったのかよ」
凪咲、エヘヘと笑い、
凪咲「(後頭部を掻きながら)ごめんさぁ」
太陽「はぁ……お前って奴は」
太陽、薫を真正面に据え、
太陽「太陽でいいよ」
薫「えっ?」
太陽「それから、もう、お前はこの島の住人で、俺達の仲間さぁ」
太陽、握手を求める。
薫、戸惑うが、すぐに握手を返す。
凪咲、二人のその様子を笑顔で見ている。
太陽・薫、手を離し、
太陽「じゃあ、帰るか。大分遅くなってしまっただろ」
凪咲「太陽のせいだと思うけどなー」
太陽「うるせー」
薫、クスっと笑う。
薫・凪咲・太陽、歩いて行く。
太陽「(そっぽを向きながら、照れ臭そうに、小声で)その……ありがとな」
薫「えっ?」
太陽「何でもねーよ」
太陽、薫・凪咲から離れるように一人で歩いて行く。
太陽、薫達の方を振り返る。
薫達の後方、森の中を、赤くて丸い光がいくつも通る。
太陽、それを見て、
太陽「(大声、涙声で)幽霊だぁぁぁぁ!!」
墓地中に響き渡る太陽の声。
太陽、走って、逃げる。
薫・凪咲「太陽!」
薫・凪咲、太陽を追いかける。

○同・墓地横・森・夜

スーツ姿のブライアンとアメリア。サングラスはかけていない。
ブライアン「? 声がしなかったか?」
アメリア、首を傾げ、
アメリア「いえ、私は何も」
ブライアン「気のせいか……」
アメリア「この時間に、こんな所を出歩いている者などいないでしょう」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「そうだな。そのための場所だ」
キースの声「リーダー。問題でもあったのかぁ?」
ブライアン「いや、何でもない。続けてくれ」
キースの声「あいよ。(嬉しそうな声で)それにしてもよぉ、マジでこいつ、調整しがいがあるぜぇ」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「それは良かった」

○同・宗次郎宅・前・22時頃

薫、家に入るのを戸惑っている。
深呼吸をし、気合を入れる。決心をしたような表情をし、
薫「ただいまー」
玄関の引き戸を開ける。

○同・宗次郎宅・玄関

薫「ただいまー」
引き戸を開け、入って来る薫。
宗次郎「おー、遅かったねぇ。薫ちゃん」
宗次郎、居間から出てきて、薫に近づく。
目を丸くし、
宗次郎「今、ただいまって言ったさぁ?」
薫、ゆっくりと、ぎこちなく頷く。
薫「あの……」
宗次郎、微笑んで、
宗次郎「んっ? 何さぁ」
薫「(意を決して)髪の毛、切ることって出来る……?」
宗次郎「(驚き)おお、出来るドー。昔はよく、自分で切ったもんさぁ」
薫、恥ずかしそうに
薫「じゃあ、前髪を切って欲しい……」
宗次郎「おお、マカチョーケー」

○同・道

朝。
凪咲「おお! その髪、似合うさぁー。薫!」
太陽「まあ、いいんじゃねーか」
薫、照れ臭そうに笑い、
薫「そうかな……?」
薫、目にかかるほど長かった前髪が、眉毛あたりまでに切られている。雑な切り方ではなく、丁寧な感じで、プロが切ったものと大して変わらない出来栄え。
凪咲「今日は、何して遊ぶさぁ?」
太陽「そうだな……。川でも行くか」
太陽、凪咲を見、
太陽「って、お前、舞の練習はいいのかよ。祭り、来週だろ」
薫「祭り?」
凪咲「そうかぁ。薫は初めてだもんなー」
太陽「結構大きい祭りなんだぜ。島中の皆が集まるぐらいのさぁ」
薫「(感心したように)へー。そんな祭りがあるんだねー。こっちにはそんなものないから、分からないや」
太陽「そうなのか。やっぱり、結構変わってるのな、この島は」
太陽、頷き、
太陽「で、その祭りで出し物みたいなものがあるんだが、そこで、(凪咲を親指で指差し)こいつが舞を踊るんだよ」
凪咲「(照れながら)へへー」
薫「(感心したように)へぇー、すごいねー。でも、何で、凪咲が?」
太陽「なんだ、知らないのか。こいつは」
凪咲「巫女だからさぁー」
薫「(凪咲を見ながら、驚き)巫女!?」
凪咲「そうさぁー」
太陽「そんなに、驚くことかぁ?」
薫「いや、その、もしかして本物の巫女……?」
太陽・凪咲、同時に首を傾げる。
太陽「なんだよ、本物って?」
薫、若干、戸惑いながら、
薫「こっちでは、巫女ってほとんどバイトなんだ」
太陽「何だそりゃ。それは、もう巫女じゃねーだろ」
薫「そうだと思うけど……こっちではそうなんだよ」
太陽「やっぱり、変わってんなー」
薫、凪咲を見、
薫「それで、練習かぁ」
凪咲「(笑顔で)結構、大変なんだよー」
薫「すごいなぁ。僕なら出来ないや。(少し俯き)体力ないし」
太陽「なら、遊んで、つけりゃーいい。で、凪咲。今日は、練習大丈夫なのか」
凪咲「昼からだから、それまでならいけるさぁ」
太陽「よし。なら、今日は、海に行こうぜ」
凪咲「おー!!」
薫「(小さい声で、恥ずかしそうに)うん」
× × ×
遊ぶシーンのカット。港で釣り、磯で魚探し、山で虫取りのカット。
薫の表情、辛そうだが、その中にも、笑みは絶えない。
凪咲・太陽の表情にも、笑顔は絶えない。

○同・駐屯地内・コンピュータールーム

かなりの大きさのスーパーコンピューターが、何台も並んでいる。あまりの多さに圧迫されそう。
その中心に、大画面のモニターが何台も並んでいる。そして、それらモニターの下には、デスクトップサイズのモニター。
その前には、キーボード。カチャカチャとキーボードを叩く音が響いている。
自動扉が開かれ、ブライアンが入って来る。
ブライアン「どうだ?」
サングラスはかけていない。服は黒スーツ。手には、冊子を一冊、持っている。
キーボードを叩いているキース。振り返らず、キーボードを叩くのを続けながら、
キース「調整中。やっと半分」
キースも黒スーツ。相変わらず、着崩している。サングラスはかけていない。ズボンのポケットから、ガムを取り出し、口に放り投げる。キーボードを叩くのを続ける。画面には、プログラムが並んでいる。
ブライアン「(紙を見ながら)そうか……。この資料を見るか?」
キース「(ガムを噛みながら)いらない。俺はマニュアルを読まない|性質《たち》なんで」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「頼りになるな」
キース「俺が天才なだけっすよ」
ブライアン、軽く頷き、扉から出て行く。

○同・駐屯地内・会議室

ドアを開け、ブライアンが入って来る。
椅子に座らず立ったまま、机の上に置いた地図を見ているアメリア。片手でボールペンを回し続けている。
ブライアン「何をしているんだ?」
アメリア、返事をしない。集中しすぎて、周りのことが見えていない様だ。スーツはピシッと着こなしている。サングラスはかけていない。
ブライアン「アメリア?」
アメリア、ハッとし、
アメリア「(頭を何度も下げながら)すみません、リーダー」
ブライアン「何を見ているんだ?」
ブライアン、紙を覗き込む。
ブライアン「これは、この島の地図か……? 俺が持っているものとは……」
大縄島の地図。かなり詳細に書かれている。標高地が高い場所が多い。
アメリア「多少違うと思います。これは、最新版の地図ですから。軍から借りて参りまして、記憶中です。何が起こるか分かりませんので、念のために」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「本当に頼りになる部下だよ、お前達は」
アメリア、満面の笑みになり、
アメリア「ありがとうございます!」
アメリア、深々と頭を下げる。
ブライアン「さて、じゃあ、余り物の俺は、計画をいつ実行するか算段でも立てようか」
ブライアン、フッと笑う。

○同・宗次郎宅・客室

朝。寝汗をたっぷりとかいた薫が起きる。
パジャマ姿だ。青のストライプ上下。
かなり、眠そう。
薫「(背伸びをしながら)うーん」
薫、枕元に置いてあるスマートフォンを見、
薫「そろそろ、フェイス・トゥ・フェイスを見ないとなぁ」
薫、側に置いてあるリュックサックを見、
薫「ネットもしたいしなぁ」
薫、爪を噛む。
薫「(噛みながら)うーん、凪咲と太陽に聞いてみようかな」
薫、立ち上がり、着替え始める。

○同・宗次郎宅・居間

朝食。ソーキそば。
薫と宗次郎、向い合って食べている。
薫「(麺をすすり終わり)お爺ちゃん」
宗次郎「んっ?」
薫「この辺りで、ネットが出来る所ってあるかな」
宗次郎「(麺をすすりながら)ネット? 港に行けばあるんじゃないのさぁ」
薫、面食らい、
薫「あー……、いいや。この話は……」
宗次郎「そうかぁ」
薫、麺をすするのを再開する。
凪咲の声「おーい! 薫ー!!」
太陽の声「遊びに行こうぜー!!」
薫、急いで麺をすする。
宗次郎「もう来たんドー、元気じゃねぇ」
薫、食べ終わり、居間から出て行き、客室に戻り、自分のリュックサックを背負って、玄関に向かう。
薫「行って来ます!」
宗次郎「(手を振りながら、笑顔で)いってらっしゃい」
宗次郎、ソバを食べ終わり、笑顔で、
宗次郎「思ったより、早くなんとかなったねぇ」

○同・宗次郎宅・前

薫、ハァハァと息をしながら、玄関から出て来る。
薫「早いねー」
太陽「そうかぁ? いつも通り、来たつもりだけどさぁ。なぁ、凪咲」
凪咲「そうだよー」
薫「まだ七時だけど……」
太陽「まぁ、細かいことは気にすんな。で、今日はどこ行く?」
凪咲、腕を組みながら、考え、
凪咲「面白そうな所は回ったしねー」
太陽「あと行ってない所は、ロケット発射場ぐらいか。でも、遠いしな」
薫、おずおずと
薫「あの……」
凪咲、薫を見、
凪咲「どうしたさぁ、薫?」
薫「あの……、インターネットが繋がる場所はないかな?」
太陽・凪咲「インターネット?」
薫、諦めたような顔になる。
太陽「インターネットか……。凪咲、分かるか?」
凪咲「意味は分かるさぁ。ただ、どこで出来るかは分からないなー」
薫、ポケットから、スマートフォンを取り出し、
薫「電波が届く場所でもいいんだけど」
凪咲、スマートフォンを見、
凪咲「それ、何?」
薫「スマートフォン。携帯電話みたいなものだよ」
凪咲「携帯電話かぁ。すごいなぁ、薫。私らの学校じゃ、誰も持ってないさぁ」
薫「すごいのは、凪咲達だよ。一日一回は、パソコンか、これを使って、インターネットでもしないと落ち着かないもん」
太陽「でも、ここ何日かは、使えなかったんだろ? 薫、別に普通だったぜ」
薫、驚き、
薫「……本当だ」
太陽「別に使えなくても、問題なくねーか」
薫、首を振り、
薫「でも、やっぱりいるや。もしかしたら、お父さんから、何かメールが来てるかもしれないし」
凪咲「?」
凪咲、首を傾げる。
薫「お父さんは、海外にいるんだ」
凪咲「海外? アシレマとか?」
薫「えーと。何処だったかな……確か、エートリアっていう国だったかな……?」
太陽「何処だよ」
凪咲「初めて聞いたさぁ」
薫「西の方にある国らしいけど……発展途上国かなんかで……。詳しいことは、僕も分からないや」
太陽「海外は海外だろ。海外かー。何か、かっこいいな」
薫「そうかな。(照れ笑いをしながら)確かに嫌いじゃないけど。このリュックサックに入ってるネットブックも、お父さんに買ってもらったものなんだ」
太陽「へぇ。なら、大切にしないとな」
薫、笑顔で、
薫「うん」
太陽「そうとなると、ネットが出来る所を探さないといけないな」
凪咲、腕を組みながら、考え、
凪咲「センセーなら、知っているんじゃないかな」
太陽、凪咲を見、
太陽「おっ! それ頂き! 先生ん家行こうぜ」
薫「こんな時間に大丈夫なの?」
太陽「大丈夫、大丈夫さぁ」
薫・凪咲・太陽、その場から去って行く。

○同・愛自宅・前

太陽が先頭、それに凪咲が続き、最期に薫が歩いている。
平屋の横には、車が十台停められる駐車場があり、空きはない。その停まっている車の中に一台、赤色のフェラーリフォーがある。明らかに異彩を放っている。
薫、立ち止まり、それを訝しく見る。
先を行っている太陽、
太陽「おーい、薫! 置いていくぞー」
薫「あっ、待ってー。今、行くー」
薫、太陽・凪咲が待っている方に駆け寄る。
太陽「ここだ、ここ」
玄関の引き戸の前にいる三人。平屋は、所々、外壁が朽ちている。新しく出来た感じではない。
凪咲「(大声で)センセー!」
薫、チラッと表札を見る。
紙の表札には、『岸川愛』の文字。
凪咲「(大声で)センセー!!」
薫「近所迷惑じゃないかな……」
太陽「この時間なら、みんな起きてるよ」
引き戸が少し開かれ、
愛「もう少し、静かに呼びなさい」
凪咲「(後頭部を掻きながら)ハハハ。ごめん、ごめん」
引き戸が最後まで開かれる。
ピンク色の上下のジャージを着ている愛。
ダボダボではなく、ピシッとしているジャージだ。赤フレームの眼鏡をかけている。髪は、ポニーテール。
愛「あと、こんな時間に連絡もなしに、来るのは感心しないなー。次からは、連絡をするように」
凪咲「はーい」
太陽「(面倒くさそうに)はいはい」
薫「(驚きの表情で)……」
愛「よろしい」
薫、驚きのあまり、動けない、話せない。
愛、玄関に戻り、つかっけサンダルを脱ぎながら、
愛「どうぞ。入って」
凪咲「(靴を脱ぎながら)おじゃましまーす」
薫「(太陽に)ねぇ」
太陽「んっ? 何だよ」
薫「前、僕が会った人と同じ人だよね?」
太陽「? ああ、あの時は先生、酔っていたからな。こっちが普通さぁ」
薫、腑に落ちなさそうな表情。
太陽も、愛の家に入って行く。
薫「あんなに変わるもんなのかなぁ」
薫も、入って行く。

○同・愛自宅・居間

家具類が、ピンク色で統一されている部屋。絨毯もピンク色。棚の上には、大量の日焼け止めクリーム。ノートパソコンが部屋の脇の方、床の上に置かれている。
それも淡いピンク色のスケルトンカラーだ。部屋の隅の方には、ビールが入った段ボール箱が積まれている。その脇には、大量の酒瓶。その空間だけ、ピンク色の絨毯と何一つマッチしていない。
薫・凪咲・太陽、部屋の中央に置かれた薄ピンク色のテーブルの周りに座っている。
愛の声「飲み物は麦茶でいいー?」
凪咲「麦茶、大好きー!」
太陽「なんでもいいー」
薫「大丈夫です」
薫、部屋を見回す。床に置かれているノートパソコンに目を留め、その後、また部屋を見回す。
太陽「落ち着かないなー。やっぱり、ピンク色すぎんだよな」
凪咲「私は好きだけどなー」
太陽「女子だからだろ。男は嫌いだぜ、ピンク色は。なぁ、薫」
薫「まぁ、落ち着く落ち着かないで言うなら、落ち着かないね」
太陽「だろー」
愛、部屋に戻って来る。麦茶を、薫達、それぞれの前に置き、テーブルの脇に座る。
部屋の隅に置いてあるビールに、手を伸ばそうとしたが、途中で止める。
愛、薫を見、笑顔で、
愛「そういえば、君の名前、聞いていなかったね」
薫「(恥ずかしそうに)えっと……、片岡薫です……」
愛「薫君ね。宜しくね」
愛、握手を求める。
薫、恥ずかしそうに、握手を返す。
愛「で、何の話かな?」
太陽「先生。車持っていたよな」
愛「持っているけど?」
太陽「今度、発射場まで連れて行ってくれよ。薫がいる間にさぁ」
愛「いいよ。また細かいことが決まったら教えてね」
太陽「分かった」
凪咲、太陽を見、
凪咲「んっ? その用で来たんじゃないんじゃ?」
太陽「ああ、そうだ。忘れてた」
愛「で、何の用?」
凪咲「インターネット出来る場所がないか、探してるんだよー」
愛「インターネット? なら、図書館に行けば出来るよ」
太陽「図書館? あんな所で出来るのか」
愛「前に、授業で教えたでしょ」
太陽「そうだったか。凪咲、知ってたか?」
凪咲、首を横に振る。
凪咲「いや、全然知らなかったさぁ」
愛、頭に手をやり、少し項垂れる。
愛「あんた達、もう少し真剣に授業聞きなさいよ……」
薫「ねぇ、愛先生」
愛、顔を上げ、
愛「先生でいいわよ。何?」
薫、ノートパソコンを指差し、
薫「あのパソコン……」
愛、ノートパソコンを見ながら、
愛「ああ、あのパソコンね」
薫「ピンク色って珍しいね。立ち上げてもいい?」
愛「いいけど。あのパソコン、数日前から、調子が悪いのよね。突然、電源が切れたり、スリープしたり、データが消えたり」
薫、爪を噛む。
薫「(爪を噛みながら)それって、たぶん……」
薫、立ち上がり、ノートパソコンを手に取り、戻って来る。
ノートパソコンを立ち上げる。
ディスプレイにデスクトップ画面が表示される。
薫、爪を噛み、コマンドプロンプトを起動し、カチャカチャとキーボードを叩く。
凪咲・太陽、意味が分からない様な顔をして、薫の様子を見ている。
愛もそんな顔で見ているが、二人よりはまだマシだ。
薫「やっぱり、そうだ。先生、このパソコン、ウィルスにやられてますよ」
愛「えっ!? 嘘!?」
愛、薫の背後に行く。
薫「ウィルス対策ソフト入れてます?」
愛「……多分、入れていないけど……」
薫「(キーボードを叩きながら)入れておいた方がいいですよ。フリーのものでもいいですから」
愛「今度からそうする……」
凪咲・太陽、薫達の方を見ながら、ヒソヒソ声で、
凪咲「ウィルスって……パソコンって、風邪ひくの?」
太陽「いや、それはないだろ。多分……」
凪咲と太陽、ひそひそ話を続ける。
薫「(爪を噛みながら)感染しているファイルは、これだけか……。これなら」
薫、カチャカチャとキーボードを叩く。
薫「はい。これで大丈夫ですよ」
愛、驚き、
愛「えっ!? どういうこと?」
薫「ウィルス、そのものを消しましたから、感染が広がることもないですよ」
愛、更に驚き、
愛「そんなこと出来るの……?」
薫、笑顔で、
薫「少しプログラムの知識があれば出来ますよ」
愛「……」
愛、絶句している。
愛「すごいね、薫君」
薫、照れる。
薫「ありがとうございます」
凪咲・太陽、薫達の方を見ながら、
凪咲「どうしたのー」
愛「薫君にパソコンを直してもらったのよ」
太陽「それってすごいんじゃないか……。パソコンってそんな簡単に直せるものなのかよ」
愛、首を振り、
愛「直せないわ。だから、薫君すごいねって言っていたの」
凪咲「(笑顔で)薫は、やっぱり、すごい奴だったんだなー」
薫、照れている。
太陽、そんな二人の様子を見て、少し機嫌が悪い顔。
太陽「時間もあんまりないから、早く図書館に行こうぜー」
太陽、立ち上がる。
太陽「凪咲、明後日、祭りなんだから、昼から練習あるんだろ?」
凪咲「うんー」
太陽「なら、早く行かないとさぁ」
太陽、居間から出て行く。
太陽「おじゃましました―」
凪咲、立ち上がり、
凪咲「センセー。またなー」
居間から出て行く。
薫「じゃあ、僕も行かないと」
薫も、立ち上がり、居間から出て行こうとする。
愛「あっ、薫君。ありがとうね」
薫、笑いながら、出て行く。
愛、一人になった居間で、ノートパソコンを見ながら、
愛「普通は出来ないよね……」

○同・神社・前

薫・凪咲・太陽、並んで歩いている。
薫、立ち止まり、鳥居を見る。
太陽、薫に気づき、
太陽「ちょっと見て行くか」
薫「ここで、祭りをするの?」
太陽「そうさぁ」
凪咲「私もここで、踊るんだよー」
薫「ちょっと見てみたいかも……」
太陽「じゃあ、ちょっと見て行くか」
薫・凪咲・太陽、石段を登って行く。

○同・神社・石段

薫、息も切れ切れに、石段を登っている。
凪咲・太陽は、少し先を行っている。二人とも、息一つついていない。
凪咲、振り返り、
凪咲「薫ー。大丈夫ー!?」
薫、凪咲を見、
薫「ハァハァ。大丈夫……」
凪咲の向こう側、かなりの数の石段が並んでいる。
太陽、振り返り、
太陽「無理するなよー」
薫「(息をしながら)分かったー」
階段を登って行く薫。足を踏み外す。
薫「あっ……」
凪咲・太陽、薫を振り返り、
凪咲・太陽「薫!」
急いで駆け寄る。
が、間に合わない。
宗次郎「おっと」
宗次郎、薫を支える。
宗次郎「大丈夫さぁ、薫ちゃん」
薫「あっ、ありがとう……」
凪咲・太陽、薫の元に駆け寄りながら、
凪咲「大丈夫ー!?」
太陽「どっか怪我してないかぁ」
凪咲・太陽、薫の元に着く。
凪咲「ありがとう。宗次郎オジィ」
太陽「全くだぜ。だから、無理するなって言ったのにさぁ」
薫「(俯き)ごめん……」
太陽、肩に薫の左手をかけ、
太陽「おい、凪咲。反対側」
凪咲「はーい」
凪咲、薫の右手を肩にかける。
太陽「こうすれば、楽だろ?」
薫「うん……ありがとう」
凪咲「でも、良かったー。ちょうど、宗次郎オジィが来ててさぁ」
薫「どうして、ここに……」
宗次郎「(笑顔で)祭りの準備の手伝いドー」

○同・神社内・参道

階段を登り切った薫・凪咲・太陽・宗次郎。
参道で、屋台の準備がされている。人は、まだらにいる感じで、そんなに数はいないが、賑やかな雰囲気だ。
太陽「おー。結構進んでるなー」
薫、物珍しそうに見ている。
宗次郎「じゃあ、儂は手伝いに行くからさぁ」
宗次郎、並んでいる屋台に向かう。
太陽「本殿も行ってみるか、薫?」
薫、ウンウンと、嬉しそうに二回頷く。

○同・神社内・本殿前

舞台の建設が進んでいる。かなりの大きさだ。舞台の前には、伊良波|神人《しんと》(46)と伊良波|禊《みそぎ》(35)。舞台の建設の様子を見ている。
神人は、ダークブラウンの半袖ポロシャツ、ワインレッドのスウェットを着ている。
禊は、白色のワンピースを着ている。黒髪のロングと非常に合っている感じだ。
凪咲「お父さーん! お母さーん!」
凪咲が、二人の元に駆け寄る。
その場に残された薫・太陽。
薫「二人共、優しそうだね」
太陽「実際、優しいさぁ。遊びに行くと、いつも、晩飯ご馳走してくれる」
凪咲、すぐに戻って来て、
凪咲「やっぱり、昼からは練習だってさぁ」
太陽「そうか。なら、早く行かないとな」
凪咲「でも、あの杉は見た方がいいんじゃないかな?」
太陽「それだけ、薫に見せるか」
薫、首を傾げ、
凪咲「杉?」
凪咲「この島の神様さぁ」

○同・神社内・大杉前

本殿の裏。
杉がたくさん並んでいる。
その中に、一際大きな杉が一本。二十五メートルぐらいの高さ。幹周りは、十三メートルぐらい。
薫、その杉を見上げながら、
薫「すごい……」
太陽「(見上げながら)すごいだろー」
凪咲「(見上げながら)この島を守ってるんだよー」
薫、凪咲を見、
薫「神様って言ってたよね?」
凪咲「そうさぁ。神様さぁ。名前はホーキナーって言うんだよー。私達、島の人を創ってくれたんだってー」
太陽「俺は信じていないけどなー」
凪咲「いるさぁ。。神様はいるよー。だから、毎年、私が舞を踊っているんだよー」
太陽「(意地悪そうに)見たことあんのかよ」
凪咲「ないけど……いるさぁ」
太陽「なんだよそれ。なぁ、薫いないよな。神様なんてさぁ」
薫「(杉を見上げながら)いない……」
太陽「ほらな」
凪咲、ショボンとし、俯く。
薫「でも、この木を見てたら、いてもおかしくないような気もしてくる」
凪咲、顔を上げる。
太陽、少し驚き、
太陽「ええっ!?」
凪咲「(笑顔で)ほら、神様はいるんだよー」
薫、まだ杉を見上げている。
気持ちの良い風が吹く。

○同・図書館内

自動扉が開かれ、入って来る薫・凪咲・太陽。
凪咲「(大声で)涼しいなー!」
凪咲、両手を広げて、涼んでいる。
薫、慌てる。
薫「凪咲。図書館なんだから、静かにしないと」
太陽「ほとんど、人はいないけどな」
薫、周りを見る。人は、まだらに、二~三人いる程度だ。
凪咲の声を気にしている人は、誰もいない。
薫「本当だ。良かったぁ」
太陽「で、電波はどうなんだ?」
薫、ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見る。アンテナが一本だけ立っている。
薫「(見ながら)あるのはあるけど、ほとんどないー」
薫、適当な椅子に座り、リュックサックからネットブックを取り出す。サイズは、大きくない。
薫、パソコンを立ち上げる。
凪咲・太陽、後ろから覗き込む。
デスクトップ画面が表示される。
薫、パッドを操作しながら、
薫「やっぱり、無線LANの方も電波が弱いや」
試しに、インターネットに繋いでみる。
読み込みのバーがちょっとずつ動いている。
薫「これは……遅すぎる……」
薫、力無く項垂れ、パソコンを閉じる。
薫「他にはないよね……?」
太陽、顎に手を備えながら、考える。
凪咲、腕を組みながら、考える。
凪咲「あっ!? 駐屯地は?」
太陽「あそこかぁ。確かにあるかも……」
太陽、壁に掛けられている時計を見る。針は、九時五十分を示している。
太陽「この時間なら、まだデモはやってないな……」
薫、首を傾げる。
薫「デモ?」
太陽「ああ、ちょっと色々あってな」
薫「?」
凪咲「早く行かないと、デモが始まっちゃうさぁ」
太陽「よし。急ぐか」
凪咲・太陽、図書館から出て行こうと歩き始める。
薫、急いで、リュックサックにノートブックを片付けながら、
薫「あっ、ちょっと待ってー」
太陽、振り返り、
太陽「早く行くぞー」
片付け終わった薫、太陽達に近づき、
薫「少しだけ、本を見ていいかな」
太陽、壁に掛けられている時計を見、
太陽「十分だけな」
薫「ありがとう」
凪咲「何を見るのー?」
薫「島の歴史」
× × ×
薫、机の上に、『大縄島の歴史大全』とタイトルが書かれた本を置き、最初のページを開き、順番にペラペラとめくっていく。
ページを開く手が止まり、凪咲に振り返り、本を見せながら、
薫「これが神様?」
薫、頭に樹の枝みたいなものが生えており、体が緑の草みたいなもの覆われている人のイラストを指差す。
凪咲「そうさぁ。ホーキナーだよー」
薫、本に顔を戻し、
薫「確かに、人を創造したって書いてあるね……。それに、恋愛成就の神様なんだね」
太陽、少し驚き、顔を赤くし、
太陽「恋愛!?」
凪咲「それは知らなかったさぁ」
薫、さらにページをめくっていく。
戦争の歴史のページが開かれ、
薫「戦争……世界大戦……」
薫、ゆっくりとしたスピードで、ページをめくっていく。占拠、大敗の文字が書かれている。
太陽、壁に掛けられた時計を見る。十時五分を示している。
太陽「やっべ。薫、もう行くぞ。十五分も経っちまった」
薫、本を閉じながら、振り返り、
薫「ごめん。行こう」

○同・道

薫・凪咲・太陽、並んで歩いている。
進行方向に、アロハシャツ姿で、ダークグリーンの裾が短いジーパンを着ているブライアン。黒いサングラスもかけている。
ブライアン、立ち止まり、キョロキョロと周りを見回している。
太陽「(ブライアンを見ながら)外国人か……。駐屯地の奴か……? にしては、格好が……」
ブライアン、薫達の方に近づく。
太陽、多少警戒し、
ブライアン「(片言の日本語で)何かお薦めの場所ありませんか?」
太陽「はっ?」
ブライアン「(片言の日本語で)私、その駐屯地の兵隊さんに知り合いがいまして……今、会ってきたんですよ。その、ついでに、観光地巡りをしようかなと思っていましてね」
凪咲「それなら、明後日、祭りがあるよー」
ブライアン「明後日?」
凪咲「そうさぁ。そこで、私も舞を踊るんだー。オジサンも良かったら、見て来てよー」
ブライアン「(笑顔で)それは……楽しそうですね。何時から、踊るのですか?」
凪咲、腕を組みながら、考え、
凪咲「えーと。八時からだったかな」
ブライアン「八時からですか。分かりました。じゃあ、見に行きますね」
凪咲「(嬉しそうに)オジサン、約束さぁ」
ブライアン「(笑顔で)約束は守ります」
ブライアン、笑顔で、
ブライアン「ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
凪咲「どういたしましてさぁ」
ブライアン、すれ違いざまに、薫が背負っているリュックサックをチラッと見る。
凪咲「オジサーン! 絶対見に来てねー!」
凪咲、ブライアンに手を振る。
ブライアン、笑顔で、軽く振り返し、正面を見る。フッと笑う。
太陽「余計なことで時間食っちまったさぁ。急ごうぜ」
凪咲「うん!」
薫「うん」
薫達、早足で道を行く。

○同・駐屯地内・側

草が鬱蒼と生い茂っている。
薫「この場所、大丈夫なの?」
太陽「見つかると、何を言われるか分からないからな」
凪咲「(人差し指を口に当てながら)シッー、だよ。シッー」
薫「(頷き)わかった」
薫達の前方、フェンスの向こう側に、広い敷地が広がっている。点々と、大小様々な建物が建っている。塔のように高い建物もある。軍用車両が何台も見える。
薫、物珍しそうに見ている。
薫「すごいなぁ。こんなの見たことないよ」
太陽、不機嫌そうに、鼻で笑い、
太陽「まぁ、そうだよな」
薫「?」
太陽「で、電波はどうなんだ?」
薫、スマートフォンを取り出す。
薫が見ると、アンテナが五本立っている。
薫「(嬉しそうに)ここなら、いけそうだけど……無線LANはどうかな」
薫、草むらの上に座り、リュックサックからネットブックを取り出し、立ち上げる。
デスクトップの画面が表示される。
凪咲・太陽、薫の後ろから、画面を覗き込んでいる。
薫「(パッドを操作しながら)パスワードがかかっていると思うんだけどな……。(驚き)あれっ!? かかってない……」
薫、不審そうに、インターネットに繋いでみる。
AHOOのホームページが表示される。
薫「繋がった……」
薫、アドレスバーにフェイス・トゥ・フェイスのURLを打ち込む。
フェイス・トゥ・フェイスのトップページが表示される。
IDを打ち込む欄に、薫、『darkness2012』と打ち込む。
パスワードの欄も、カチャカチャと打ち込む。
ディスプレイにフェイス・トゥ・フェイスのマイページが表示される。
凪咲「(覗き込みながら)なぁ、薫」
3289と数字が書いてある箇所を指差す。
凪咲「この数字は、何さぁ?」
薫、それを見て、
薫「ああ、それはね、友達の数」
太陽・凪咲「友達の数ー!?」
何を驚いているのか、分からない感じで、
薫「うん、そうだよ。海外にも、少しいるかな」
凪咲「薫は、ホントーにすごいなー」
凪咲、ウンウンと頷いている。
薫「せっかくだから、大縄島のことを書いておこうかな」
カチャカチャとキーボードを叩く、薫。
速度はかなりのものだ。
薫「こんな感じかな」
タイトル『夏休み』
内容『僕は、今、大縄島という島に来ています。自然が多く、空気が綺麗です。友達とも毎日、遊んでいます。ただ、ネット環境が整っていないのが辛いです……』
薫、『公開する』のアイコンをクリックする。
薫「これで、終わりと」
凪咲「何をしたんだ、薫?」
薫「今、書いた文章を世界中の皆に公開したんだよ。これで、フェイス・トゥ・フェイスのユーザーなら誰でも見れるんだよ」
太陽「ふ~ん。自分の日記を世界中にバラまくみたいなものか」
薫、俯き、う~んと考え、
薫「まぁ、そんなもんかな」
凪咲「私なら、自分が書いている日記を公開するのは嫌だなー」
太陽「(凪咲をおちょくるように)何さぁ? 日記書いてんのか?」
凪咲、慌てる。
凪咲「書いてないさぁ」
首を振り、否定する。
薫、苦笑する。ディスプレイに顔を戻し、
薫「んっ?」
デスクトップ画面に、ネットワークサーバーのアイコンが表示されている。
薫「何だろう、これ?」
クリックする、薫。
次々、クリックし、階層を表示していく。
フォルダ名『Secret』というフォルダを見て、薫の手が止まる。
太陽「どうしたんだ?」
薫「(爪を噛みながら)この先は、まずいような気がする……。ほら、ここ」
薫、『Secret』と書かれたフォルダを指差す。
太陽「エスイーシー……。どういう意味さぁ? 凪咲、分かるか?」
凪咲「えーと、秘密って意味じゃなかったかな」
薫、頷き、
薫「そう、たぶん、この駐屯地のサーバーだろうから、軍の重要なことがここに置いてあるんじゃないのかな?」
太陽「でも、変じゃないか? そんなに大切なら、パスワードだっけか? そんぐらいしてるだろ。なあ、凪咲もそう思うだろ?」
凪咲、腕を組みながら考え、
凪咲「私なら、日記帳には鍵をかけるさぁ」
太陽「お前、日記帳に鍵、かけてんのか?」
凪咲「かけてなさぁ!(焦りながら)……いや、日記なんてつけていないよー!!」
太陽「もういいわ……分かったよ。なぁ、薫、進んでもいいんじゃないか」
薫、爪を噛みながら、
薫「確かにそうなんだよね……。……進んでみようか……」
薫、『Secret』フォルダをクリックする。
画像のファイルがたくさん表示されている。中には、文章のデータもある。
薫「流石に、これは開けないでしょ……」
薫、適当なファイルをダブルクリックする。
画像が表示される。
薫「開けた……」
太陽「何だこれ?」
凪咲「?」
画像には、銀色で巨大な人型のロボット何台も写っている。頭に当たる部分が、体のバランスに比べて大きく、円盤型。頭の中心には、丸い紅い眼みたいなものがある。
薫「ロボット……?」
太陽「ロボットだよな……」
凪咲「本で見たことあるさぁ」
薫、爪を噛みながら、
薫「何で、こんなものが……ここに……?」
薫、驚きを隠せない顔。
遠くから、怒号が聞こえ始める。
太陽「やっべー。もう始まったのかよ」
薫「えっ……何!?」
太陽「(言いにくそうに)デモだよ」
薫「ずっと聞いていたけど、一体何のデモなの?」
太陽「それは……知らない」
薫「知らない……?」
凪咲「誰も教えてくれないんだー。ただ、危ないから近づくなって、それだけさぁ」
薫、首を傾げる。
太陽「人に見つかると、面倒だから、早く帰ろうぜ」
薫「あっ、ちょっとだけ待って」
薫、パソコンを操作する。

○同・宗次郎宅・客室・夜

布団に寝転がりながら、パソコンのディスプレイを見ている薫。
画面には、人型ロボットが写っている画像。
薫「(爪を噛みながら)これは……重要機密っぽいよね……」
薫、他の画像ファイルも見ていく。

○同・駐屯地内・会議室

ブライアンが入って来る。黒スーツ姿。サングラスはかけていない。
板チョコレートを齧っている。
アメリア「あっ、リーダー。どこに行っていたんですか?」
アメリアもスーツ姿だ。サングラスはかけていない。
ブライアン「何、ちょっと視察にな」
アメリア「何かありましたか?」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「明後日、この島で祭りがあることは知っているか?」
アメリア、頷き、
アメリア「降臨祭のことですね。何でも、この大縄島の神の誕生を祝う祭だとか」
ブライアン、頷き、
ブライアン「流石だな。ただ、メインイベントのことは知らないだろ?」
アメリア、首を傾げ、
アメリア「メインイベント? 巫女が踊るという舞のことですか?」
ブライアン、柄にも無く本当に驚き、齧っているチョコレートを落としそうになる。
ブライアン「それも知っているのか」
アメリア「資料に書いてあったことは大方」
ブライアン「開始時間は?」
アメリア「(ハッキリと)それは知りませんね。資料にも書いてありませんでした」
ブライアン「二十時だ」
アメリア「えっ!?」
ブライアン「踊る当人から、直接聞いた情報だ。間違いない」
アメリア「流石ですね! で、それが……?」
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「祭りで、島民が集まり、かつ舞に夢中になっているこの瞬間……狙いどきだな」
アメリア、すぐに察し、
アメリア「準備にかかります!」
アメリア、部屋を駆け足で、出て行く。
ブライアン、フッと笑い、
ブライアン「神という旧来的なものに対し、最新型のロボットがそこに攻める……なかなか皮肉的じゃないか」

○同・駐屯地内・コンピュータールーム・深夜

アメリア、自動扉から入って来る。
アメリア「キース! 明後日の二十時に作戦決行だ。ロボットの方の調整は大丈夫なんだろうな!?」
キース、コンピューター前に置かれている椅子にだらしなく座りながら、振り返り、
キース「(眠そうに)ああ、うっせーな。もう完成してるぜ。だから、寝かしてくれ」
アメリア「それならいいが……」
アメリア、部屋から出て行く。
キース、コンピューターのディスプレイを見、
キース「(眠そうに)ただ、誰かが、こっちのサーバーに侵入した形跡があるんだよなー。全くどこのどいつだよ。っていうか、パスワードを設定していないってここのセキュリティ対策はどうなってんだよ。馬鹿じゃねーか。クソっ……データが盗まれてるか見ないといけないけどよぉ。眠ぃ、また明日だな」
キース、欠伸をし、寝息をたて、眠り始める。

○同・駐屯地内・会議室・昼前

椅子に座り、コーヒーを飲んでいるブライアン。ゆっくりとした時間が流れている。
アメリアは、反対側に座り、コップに注がれたメロンソーダをストローを使用して、飲んでいる。
アメリア「聞いていませんでしたが、報道機関の方は大丈夫なのですか?」
ブライアン「それについて、心配する必要はない」
アメリア「それも……Cが……?」
ブライアン、頷く。
ブライアン「何でも、金で黙らせたらしい」
アメリア、驚きを隠せない顔。
ドアが、開き、キースが入って来る。
キース「(眠そうに)おはよーっす……」
ブライアン、キースを見、
ブライアン「もう、昼前だがな」
キース「堅いこと言うなよなー。こちとら、徹夜続きだったんだからな」
キース、コーヒーを用意しながら、
キース「あっ、そうだ。報告しなきゃいけないことがあったわ」
ブライアン「何だ?」
少しの間。
キース、コーヒーを一口飲み、笑顔で、
キース「誰かが、この基地のサーバーに侵入した」
ブライアン・アメリア「なっ!?」
二人、思わず、立ち上がる。
キース、おどけながら、
キース「しかも、機密ファイルをダウンロードされた」
ブライアン、ただ黙っている。
アメリア、怒りのあまり手が震えている。
キース「(笑いながら)やっぱり、これぐらいのリスクがないと、面白くないよなぁ」
アメリア、バンッと机を叩き、
アメリア「貴様……。盗まれたのを分かっていたな!!」
キース「分かったのは、昨日の夜のことだぜ。だいたい、俺は悪くない。悪いのは、ここのセキュリティ対策だぜ」
キース、コーヒを一口飲む。
アメリア、キースに近づこうとするが、ブライアンに腕を捕まれ、止められる。
アメリア「リーダー……」
ブライアン「私のミスだ」
アメリア「しかし……」
ブライアン「(アメリアを睨み)私のミスだ」
アメリア、怯む。
ブライアン、キースを見、
ブライアン「特定は出来るか……?」
キース「無線LAN経由で接続してきてたぜ。時間をかけたら、もっと特定できるけどな」
アメリア、ブツブツと呟き、
アメリア「ノートパソコンを使用した可能性が高い……。そもそも、この島の住人でノートパソコンを所有しているものは……」
ブライアン、アメリアの呟きを聞き、ハッとした表情をする。
昨日会った薫達を思い出す。
薫の焼けきっていない肌、リュックサック。
ブライアン「(大声で)あの子供たちか!」
アメリア、ブライアンの大声に驚く。
ブライアン、アメリアを向き、
ブライアン「アメリア、明日、俺達も祭りに参加するぞ」

○同・神社内・参道・夜・19時

凪咲「なっ! 楽しいだろ! 薫!」
凪咲、いつも通りの格好。手には、ヨーヨー釣りのヨーヨーやイカ焼きを持っている。
広い参道の両脇には、イカ焼きや唐揚げ、射的、ヨーヨー釣りなどの定番に、ソーキそばやサーターアンダギー、チャンプルー、もずく肉まん、泡盛などの一風変わったものを扱った屋台が並んでいる。
人は、かなりの数来ており、密度は高い。
着物を着ている人も多い。
薫「(笑顔で)楽しいよ。こんなのあまり来たことなかったから……」
薫もいつもと着ている服は変わらない。
太陽「次は、射的しようぜ、射的」
太陽もいつも通りの格好。
薫「うん!」
× × ×
太陽、射的で大きな猫のぬいぐるみを取り、凪咲にあげる。
薫、スーパーボール掬いをするが、取れない。
三人で、かき氷を一気食いし、頭を押さえている。
もずく肉まんを頬張る三人。
など、祭りを満喫する三人。
× × ×
凪咲「今、何時さぁ?」
薫、スマートフォンをポケットから取り出し、
薫「あれっ?」
凪咲「どうした、薫?」
薫、首を振り、
薫「何でもないよ。時間は……七時四五分……八時から踊るのじゃなかったっけ?」
凪咲、食べていたサーターアンダギーを、急いで食べ、残りを薫に渡し、大きな猫のぬいぐるみを太陽に預け、
凪咲「行って来るー!!」
凪咲、急いで、人混みをかき分けながら、本殿に向かう。
太陽「俺達も、もう行って、待ってようぜ」
薫「そうだね」
薫・太陽、本殿に向かう。
薫「(歩きながら)ねぇ、太陽」
太陽「なんだ」
薫「(不思議そうな表情で)さっき、スマートフォンを見たら、本当に一瞬だけど、電波が入っていたんだけど……何でかな」
太陽「わかんねー。携帯持ってないしさぁ」
薫「だよね……」
 薫、近くに見える高台を指差しながら、
薫「あの高台は?」
太陽「(その方向を見ながら)ああ、あれは墓地のてっぺんだよ」
太陽、嫌な顔をしながら、
太陽「結局、あの日は行かなかったもんな……」
薫、高台を見つめている。
薫達を後ろから見ているブライアンとアメリア。
ブライアン、アロハシャツ姿で、ダークグリーンの裾が短いジーパンを着ている。
靴は、白いスニーカーを履いている。
アメリア、水色のキャミソールワンピースを着ている。こちらも、白いスニーカーを履いている。
二人共、サングラスはしていない。
アメリア「あの子達ですか?」
ブライアン「ああ、間違いない。追うぞ」
アメリア「はい」

○同・神社内・本殿前

高さ五メートル、縦二十メートル、横三十メートルの長方形型の祭壇がある。
四角には、松明が置いてある。
祭壇の両端には、巫女装束を着た女達が神楽笛や三味線を持っている。
その中心には、巫女装束を着た凪咲が目を瞑って、正座をしている。
前には、大幣。
祭壇の周りには、沢山の人だかりが出来ている。薫達もその中にいる。騒ぎ立てることなく、皆、真剣に見ている。
太陽「そろそろ始まるぞ」
薫「うん。凪咲、いつもと雰囲気違うね」
太陽「こればっかりは真剣にやらないとな」
両端の巫女達、楽器を演奏し始める。
それが合図となり、凪咲、立ち上がり、舞を踊り始める。中里節に近い動き。
薫、凪咲が踊る姿を真剣に見つめる。
遠くから、舞を見ているブライアン・アメリア。舞を見つめる視線ではなく、状況を真剣に見つめている目だ。
ブライアン、右手の腕時計を見、
ブライアン「そろそろだ」

○同・駐屯地内・コンピュータールーム

キース、キーボードをカチャカチャと打っている。
キース「さーて、パーティの始まりだぜぇ」
キース、エンターキーを押す。

○同・墓地

墓が揺れている。土がモゴモゴと動いている。
墓の下から、ロボットの手が飛び出す。
そこから、ロボットの体が這い出て来る。土がある程度、こびりついたまま。
違う墓からも一体出て来る。
両機とも、高さ五メートル弱。人間にあたる胴体の部分が、頭に比べて細い。頭は、円盤型になっている。手に当たる部分は、五本の指になっており、人間に近い。足に指はついていない。
二体のロボット、歩き出し、山の斜面を滑り降りる。

○同・神社内・本殿前

舞が最高潮に至る瞬間。
ザザーと斜面からロボットが滑り降りる音が聞こえる。
薫、首を傾げ、
薫「何の音? 演出?」
太陽「(分からなさそうに)いや、こんな音は初めてだな」
観客達もザワザワと騒ぎ始める。
凪咲達を含める巫女達も、観客の様子と音に戸惑いながらも、舞を続ける。
ドン! とロボットが地面を踏みしめる音が響く。祭壇の向こう側・正面に一機。観客達を囲むように、右に二機。左に二機。計五体のロボットが現れる。
観客達、何が起こっているのか理解出来ない様子。
太陽、口が開いてしまい、閉じないほど、驚きながら、
太陽「おい……薫、あれって……」
薫、一瞬思考停止。、
薫「うん……。あの写真に写っていたのと一緒だ……」

○同・駐屯地内・コンピュータールーム

モニターが沢山並んでいる前の席に、座っているキース。目の前にあるディスプレイを見ながら、マイクを調整している。
キース「(ニヤケながら)えー、テステス。マイクのテスト中でーす」
沢山あるモニターのうち、五台だけロボットからの映像が映し出されている。
一つの映像は、男性のズームアップ。
残りは、舞を見ていた観客を写している。
恐怖で固まっていた表情が、驚きに変わる。
キース、マイクを持ちながら、
キース「あー、聞こえてるみたいですねー」
キース、一呼吸し、
キース「逃げんなよ」
ざわめく観客。怖がって泣いている子供もモニター越しに見える。
キース「もし、逃げようとしたら……あー、骨の一本ぐらいは、簡単にいっちゃうだろうなー」
青ざめる観客達。
先のズームアップされていた男性、包囲網から逃げようと走る。
キース「あーあ。やめた方がいいのによー」
ロボットの右手が男の足を払う。
男、転び、痛さのあまり、のたうち回る。
キース「(楽しそうに)あーあ。だから、言ったのによー。そういうふうに、プログラムしてあんだからよぉ。今ので、骨はいっちゃったかなー」
観客達、先より顔が青くなる。

○同・神社内・本殿前

太陽「(ヒソヒソと)薫、どうするさぁ?」
薫「(ヒソヒソと)どうするって言われても……」
凪咲「困ったことになったなー」
薫・太陽、振り返ると、巫女装束を着た凪咲がいる。
太陽「いつの間に……」
ロボットのいる方向、正面から、まっすぐ薫達の方にブライアンとアメリアが歩いて来る。
二人共、黒スーツに着替えている。サングラスもかけている。
太陽「おい、なんだあいつら……こっちに向かって来るぞ」
太陽、身構える。
薫、動かない。
凪咲、少し後ずさる。
ブライアン、薫の前に立つ。
ブライアン「家に案内しろ」
太陽、ブライアンに殴りかかる。
ブライアン、太陽の腕を取り、関節を逆に曲げようとする。
太陽「つぅ……」
痛さのあまり、悲鳴も出ない。
薫・凪咲「太陽!」
ブライアン「おとなしく案内してくれれば、手荒な真似はしない」
薫、泣きそうな顔で頷く。
ブライアン、太陽の手を離す。
太陽、悔しそうな顔。ひねられた箇所を片手で握っている。
太陽「薫……」
ブライアン「行くぞ」
宗次郎の声「待て!」
観客の中にいた宗次郎、前に出てきて、
宗次郎「儂の孫に何するんドー!」
ブライアン「アメリア」
アメリア「はい」
アメリア、宗次郎に近づき、
宗次郎「なんねぇ」
アメリア「(ニッコリ笑い)すいません、これが仕事なもので」
アメリア、宗次郎の後ろ首に手を回し、手刀。
宗次郎「ガッ」
宗次郎、その場に倒れる。
薫「おじいちゃん!」
太陽「宗次郎ジィ!」
凪咲、驚きのあまり、声も出ない。
薫、ブライアンを涙目で睨み付ける。
ブライアン「大丈夫。ただ、気絶しただけだ」
薫、なおも睨み付ける。
ブライアン「……。アメリア、その老人も連れて行く」
アメリア「はい……?」
ブライアン「そうでもしないと、ラチが空かなさそうだ」
ブライアン、フッと笑う。

○同・道・夜

薫、ブライアンに後ろ手を回され、それを掴まれているため、逃げられない。
アメリア、宗次郎を背負いながら、ブライアン・薫に付いて行く。

○同・宗次郎宅・前

薫「(不機嫌そうに)ここだよ」
ブライアン「嘘はついていないな」
ブライアン、薫の目を見る。
薫「ついていない」
薫・ブライアン、睨み合う。
ブライアン「……」
薫「……」
ブライアン、フッと笑う。
ブライアン「お前は賢いな」

○同・宗次郎宅・居間

宗次郎を降ろし、寝かせるアメリア。
薫、宗次郎の側に近寄る。
薫「おじいちゃん……」
ブライアン、居間の外から、
ブライアン「見張っておけ」
アメリア「はい」

○同・宗次郎宅・客室

部屋に入ってすぐに、薫のリュックサックを見つけるブライアン。
リュックサックを開け、ネットブックを取り出し、床に置く。
ベルトに差していたサイレンサーを装着したワルサーP99を取り出し、ネットブックに五発、発砲する。
ブライアン「(銃をしまいながら)これで、大丈夫だ」

○同・宗次郎宅・居間

ブライアンが戻って来る。
ブライアン「アメリア、戻るぞ」
アメリア「もう終わったのですか。流石ですね!」
アメリア、居間から出て行く。
ブライアン、戻って来て、
ブライアン「携帯電話を出せ」
薫、ポケットからスマートフォンを渋々取り出す。
ブライアン「念には念をな」
ブライアン、スマートフォンを床に置き、サイレンサー装着済みのワルサーP99で撃つ。
薫、撃たれる所を見ながら、怒りと悔しさで身体を震わせている。
ブライアン「恨まないでくれ。これも仕事だ」
ブライアン、玄関に向かい、歩いて行く。
玄関の引き戸が閉まる音がする。
薫、寝ている宗次郎の方を向く。
宗次郎、気を失ったまま。
薫の頬に涙が伝う。悔しさのあまり、身体が震えている。

○同・駐屯地内・コンピュータールーム

ブライアン、サングラスを外しながら、入って来る。
ブライアン「キース」
キース「何だよ」
ブライアン「子供は開放してやれ」
キース「いいのかよ」
ブライアン「どうせ、もう、何も出来ない」
キース「はいよ」
キース、マイクを持つ。

○同・宗次郎宅・居間・早朝

太陽の光が差し込んでいる。
宗次郎「う……うん……」
宗次郎、気がつく。額には、濡れタオル。
横で、座りながら、うたた寝をしている薫を見る。
薫、その視線に気付き、
薫「あっ、お爺ちゃん、大丈夫?」
泣き腫らした目。
宗次郎「(心配そうに)どうしたんドー、薫ちゃん」
薫「(苦笑いしながら)何でもないよ」
宗次郎「薫ちゃん、嘘は駄目ねぇ」
薫、俯き、泣きながら、
薫「……お父さんにもらったパソコンを壊されちゃった……」
宗次郎「(優しそうに)他にはさぁ?」
薫「友達が……捕まって……」
宗次郎「太陽君と凪咲ちゃんさぁ……」
薫「うん……。助けたかったけど、どうしようもなかった……」
宗次郎、しみじみと
宗次郎「敵の方の力が強かった……」
薫「うん……。でも、力で力に解決したら、駄目なんだよ……」
宗次郎「どうしてさぁ?」
薫「倍の力で潰されるから……」
宗次郎「……」
宗次郎の頭に、過去のアシレマ軍との戦争の思い出が蘇る。
圧倒的なアシレマ軍の力に、草むらに隠れながら震えている宗次郎。三八式歩兵銃を抱えている。
長い沈黙。
薫、俯き、
薫「……三年生の時に、名前のせいでからかわれて……」
宗次郎、黙って、聞いている。
薫「それで……。ちょっと仕返しをしたんだ……。相手の子の名前を、一文字変えて……」
薫、嗚咽混じりに泣き、
薫「そしたら……他の子も一緒になって、仕返しをしてきて……」
宗次郎、静かに頷き、
宗次郎「薫ちゃんも辛かったんねぇ」
薫「……うん」
宗次郎「そうさぁ……儂の時もそうじゃったよぉ……」
薫、目に涙を溜めながら、首を傾げる。
薫「?」
宗次郎、思い返すように、
宗次郎「オジィが二十歳位の時にさぁ、アシレマと戦争があったんさぁ」
薫「戦争……。世界大戦のこと?」
宗次郎「そうさぁ。こっちの軍とあっちの軍、明らか様にこっちの数が少なくてよぉ。五倍ぐらいの差があったねぇ……」
宗次郎、俯き、
宗次郎「薫ちゃんの言う通り、力で力に解決するのは間違いなんじゃろうねぇ」
長い沈黙。
薫「(呟くように)力以外での解決……それなら……もしかしたら……」
太陽・凪咲の声「薫ー!!」
薫、驚き、
薫「太陽! 凪咲!」
太陽・凪咲、縁側から入って来る。
凪咲は、巫女装束から、いつもの半袖・半パンの格好に着替えている。
薫「どうして!?」
太陽「何かよく分からないけどさぁ、解放された」
凪咲「他の子供達も、大丈夫だよー」
薫、爪を噛む。
薫「侮っている今がチャンスかも……」
薫、居間から出て行く。
太陽「あっ、薫、どこ行くんだ?」
薫「すぐ戻る!」
薫、すぐに戻って来る。手には、マイクロSDカード。
薫「反撃開始だ」

○同・道

薫・凪咲・太陽、走っている。先頭は、太陽、次は、凪咲。最後尾は、薫。
薫は、息が荒い。
太陽「急ぐぞ!」
薫「(大声で)先生はいるのー?」
凪咲「去年もその前の年も、祭りに来ていないから、多分いるさぁ」

○同・愛自宅・前

引き戸を、ドンドンと激しくノックする凪咲。
凪咲「センセー! センセー!」
誰も出てこない。
薫「留守……? どうしよう……」
凪咲に代わり、引き戸を思いっきり、何回もノックする太陽。
愛の声「うっさい! またお前らか! 私のパソコン返しやがれ!!」
愛、引き戸を思いっきり、勢い良く乱暴に開け、出て来る。ダラっとしたピンク色上下のジャージ。
太陽、咄嗟に後ろに下がる。
薫、少し引いている。
愛、我に返り、
愛「あっ……。太陽君に、凪咲ちゃん……それに、薫ちゃんだったの……。どうぞ、入って」
愛、引き戸の向こうに歩いて行く。
太陽「あれは、まだ酒が少し残ってるな」

○同・愛自宅・居間

薫・凪咲・太陽・愛、テーブルを囲んでいる。
薫「先生。さっき、パソコンを返しやがれって……」
愛「そう! 聞いてくれよ。あいつら、あたしのパソコンを奪っていきやがった! (我に返り)あっ、奪っていったのよ……」
凪咲「あいつら……アシレマ軍のことさぁ?」
愛「そう」
太陽、薫の耳元で、ヒソヒソと、
太陽「予想通りだな」
薫「情報を流されるとまずいからね」
太陽「次の作戦か……?」
薫「(頷き)聞いてみよう」
薫、愛の方を向き、
薫「先生。お願いが……」
愛「何、薫君?」
薫「発射場に連れて行って欲しいんですけど……」
愛「発射場? どうして?」
薫「そこなら、ネットに繋がっているパソコンがあるかもしれないんです」
愛、意味が分からなさそうな表情になり、首を傾げ、
愛「何をするつもりなの? あなた達……」
薫・太陽、気まずい表情になる。
凪咲、笑顔で、
凪咲「実はなー」
× × ×
愛、立ち上がっている。
薫・凪咲・太陽は正座。
愛、各々に指を指しながら、
愛「お前らはただの馬鹿なのか!? 阿呆なのか!? あれほど、駐屯地には近づくなって言ったのに……」
愛、怒りを収め、笑顔になり、
愛「無事なのは、良かったけどね」
薫、おずおずと手を上げ、
薫「あの、先生……」
愛「何、薫君?」
薫「ずっと気になっていたんですけど、デモの原因って何なんですか?」
太陽「あっ、俺も聞きたい」
凪咲「私もー」
愛、う~んと考え、
愛「事態がここまでになっていたら、隠していても仕方ないわよね……。アシレマ軍がこの島、全部の土地を無理やり買い取ろうとしたの」
薫・凪咲・太陽「この島全部?」
愛、頷き、
愛「そう。全部。それで、あの反対運動」
薫「(頷きながら)そんなことがあったんだね……。でも、一体何で……?」
愛「それは、分からないわ。でも、今回の占拠は、その延長線上にあると思う……」
愛、薫の方を向き、
愛「でもね、薫君。残念だけど……」
薫「?」
愛「あの発射場、電力通ってないわよ」
薫「えっ!?」
愛「使っていたのは、もう何十年も前の話なの」
薫、太陽・凪咲を交互に見、
薫「そうなの!?」
凪咲「そうさぁ」
太陽「そうだけど」
薫、俯き、
薫「終わった……」
愛、言いにくそうに、
愛「ねぇ、薫君……」
薫、ゆっくりと顔を上げ、愛を見る。
愛「スマートフォンはダメなの?」
薫「えっ!?」
愛「スマートフォンなら持っているけど……」
絶句する薫。
凪咲と太陽、状況を掴めない。
薫「(大声で)持っていたんですか!?」
愛、薫の気迫に少し押され、
愛「え……ええ。ただ……」
薫「ただ……?」
愛「(笑いながら)酔っぱらっていた時に、学校に忘れたみたい」

○同・愛自宅・横・駐車場

薫・凪咲・太陽・愛の前に、赤色のフェラーリフォーが停まっている。
愛の格好が、ピシッとした上下ピンク色のジャージに変わっている。髪型はポニーテール。
愛、電子ロックを解除し、運転席に乗る。
凪咲・太陽、遠慮せずに、後部席に乗る。
薫、乗るのを戸惑っている。
愛「(窓から顔を出し、片手はハンドルを握りながら)何だ、薫? 乗らねーのか。乗らねーなら行っちまうぞ」
薫、ビクッと身体を震わし、
薫「行きます。乗ります」
薫、助手席に座り、手を震わせながら、シートベルトを締める。
太陽「先生ー。酒はもう抜けたのかー?」
凪咲「飲酒運転は駄目なんだよー」
愛、後部座席を振り返り、Vサインをし、
愛「もう、バッチリ!」
愛、エンジンをかけ、ハンドルに手をかけ、
愛「よし! 行くぞ、テメーら!」
太陽・凪咲「おー!!」
太陽・凪咲、大きく手を挙げる。
薫「おー……」
薫、小さく手を挙げる。

○同・フェラーリフォー・車内

赤色のフェラーリフォーが、時速250キロで走っている。
道路は狭い。通行人をギリギリで避けながら、走っているフェラーリフォー。
愛、満面の笑みで、運転しながら。
愛「ハッハー! 超田舎の良い所は、これだなぁ! 車がいない! 都会なら、こうはいかないぜー!」
薫、助手席で、震えている。前は、見ず、俯いている。
凪咲「センセー! もっと速くさぁ!」
太陽「前の時より、遅いぜー」
凪咲・太陽は、笑っている。
愛「ハッ(鼻で笑う)。なら、こいつの本気を見せてやる」
愛、ペダルを強く踏む。
速度メーターが300キロを示している。
薫「こんなの聞いてないよ……」

○同・大縄小学校・校門前

急ブレーキをかけ、止まるフェラーリフォー。
太陽・凪咲、軽快に後部座席から降りる。
薫、助手席から、フラフラとした足取りで降りる。顔が青い。
愛「(運転席から降りながら、笑顔で)流石に早いわね」
四人の目の前には、閉まっている校門。
太陽「乗り越えるか」
凪咲「だなー」
太陽・凪咲、難なく校門を乗り越え、反対側から門を開ける。
愛「さぁ、行きましょ。薫君」
薫、右手で口を押さえながら、
薫「は……はい」

○同・大縄小学校内・職員室

整然としている職員室内部。散らかっている様子はない。
愛、机の引き出しから、スマートフォンを取り出し、
愛「これこれ」
後ろにいる薫達に、見せる。
薫が持っているのとは違う機種。ピンク色だ。
薫「見てもいいですか」
愛「いいわよ。見られても、困るものなんてないしね……」
愛、少し拗ねたような表情のまま、薫にスマートフォンを渡す。
薫、受け取り、側面を見る。
薫「これなら……」
薫、メモリカードの差込口に、ポケットから取り出したマイクロSDカードを差し込む。操作し、
薫「(笑顔で)いけます」
凪咲、拍手しながら、
凪咲「良かったなぁ、薫」
太陽「よし! で、これからどうするんだ」
薫「えっ!?」
数秒の沈黙の時間。
薫「……考えてなかった……」
太陽・凪咲・愛「ええっ!?」
薫、爪を噛みながら、
薫「そうだよね……。電波が繋がらないと意味が無いんだよね……」
愛「電波が繋がる所……。ここは……? いつもなら繋がるのだけど……」
薫、スマートフォンを見ながら、
薫「駄目みたい……。圏外になってる……」
太陽「あいつらのせいか、くそっ」
太陽、悔しがり、地面を蹴る。
凪咲も考えているが、何も思い浮かばないよう。
薫、爪を噛みながら、何かを思い出したような顔をし、
薫「神社だ……」
太陽「神社……そういえば」
薫「少しだけど、スマートフォンのアンテナが立った……」
薫、更に考え、
薫「あの高台は、墓地の頂上だって言ってたよね」
太陽「ああ、そうだ。なぁ、凪咲。神社から見える高台って、墓地のてっぺんの所だよな?」
凪咲「そうさぁ」
薫「墓地、アンテナ、高台……。戦争……。もしかしたら……」
薫、職員室から出て行き、凪咲達の方を振り返りながら、
薫「行こう。あそこなら、繋がるかもしれない」

○同・フェラーリフォー・車内

時速300キロで走っているフェラーリフォー。
凪咲・太陽は、笑顔で後部座席に座っている。
薫、助手席で相変わらず、震えつつ、俯いている。
愛は、運転席。
愛「(運転しながら)んっ?」
何かに気づく愛。速度を下げる。
凪咲・太陽、助手席から乗り出すように、フロントガラス前方を見、
凪咲「あ……」
太陽「あれは……。おいっ、薫!」
薫、小さい声で、
薫「何……?」
太陽「前見ろ! 前!」
薫「えっ……」
薫、恐る恐る顔を上げ、
薫「あっ!?」
フェラーリフォーの進行方向に、黒スーツを着、サングラスをかけているブライアン・アメリア。その後ろには、ロボットが二体、立っている。
薫「どうして……?」
 薫、爪を噛み、
薫「……」
そっと、自分の靴の裏を見てみる。右の靴の裏には何も付いていない。左の靴の裏に、小さく丸い発振器のようなものが付いている。
薫「いつの間に……っ!」
薫、発振器を手で外し、窓を開け、外に放り投げる。
愛、その様子を見ながら、
愛「先回りかよ、あいつら」
凪咲「どうするさぁー」
愛「(笑顔で)ハハ。こうするしかないだろ!!」
愛、ペダルを思いっ切り、踏み込む。
フェラーリフォーの走行速度がグッと上がる。

○同・墓地・前

ブライアン「(迫って来るフェラーリフォーを見ながら)なぁ、あの車、速度を上げていないか?」
アメリア「まさか。後ろにロボットがいるのにですか? ぶつかりますよ?」
フェラーリフォーのスピートが更に上がる。眼の前に迫る。
ブライアン「ちっ!」
ブライアン、咄嗟にアメリアに跳びかかり、抱え込みながら、地面を転がる。
フェラーリフォーは、ブライアン達が元々いた位置の目の前で、けたたましい音を立てながら、ドリフトをし、停車。
フェラーリフォーのドアから、薫・太陽・凪咲・愛が勢い良く、飛び出し、墓地に続く道を登って行く。
ブライアン、アメリアを腕の下に抱え込みながら、
ブライアン「くそ! やられた!」
ブライアン、立ち上がり、薫達を追いかけようとする。
アメリアも立ち上がり、
アメリア「(少し嬉しそうに)リーダー、ありがとうございます!」
ブライアン「追いかけるぞ!」
アメリア「はい!」
ブライアン、走る。ロボットの方を振り返りながら、
ブライアン「キース! お前もだ」
ブライアン、走り去る。
アメリア、走りながら、後をついて行く。
キースの声「はいはい」
二台のロボット、ゆっくりとしたスピードで、ブライアン達について行く。

○同・墓地・道・昼

太陽、凪咲、愛、薫の順に走っている。
太陽・凪咲、息が切れていない。
愛・薫は、少し息苦しそう。
薫「頂上までは、どのぐらいあるの?」
太陽「(薫を振り返り)結構あるさぁ。このペースだと、一五分ぐらいかかるか」
薫、落ち込んだ表情。
薫「体力持たないなぁ……」
凪咲、薫を振り返り、
凪咲「薫! 後ろ!」
薫、後ろを振り返る。
ブライアンとアメリアが走って来る。距離が縮まっている。
ブライアンとアメリアの後方には、ロボットも見える。
薫、走るスピードを上げる。足がもつれ、派手に前に転ぶ。
太陽・凪咲「薫!!」
愛「薫君!!」
薫、うつ伏せになりながら、
薫「痛っ……」
 転んだ薫に、ブライアンが乗りかかり、
ブライアン「さぁ、何か持っているのだろう? 出してもらおうか」
薫、ポケットに手を突っ込み、自分のスマートフォンを取り出し、すぐさま、太陽に投げる。
太陽、受け取る。
薫「太陽! 後は、任せたよ!」
太陽、渡されたスマートフォンを見、察したような顔で、
太陽「おー! 任しとけ!」
 太陽・凪咲・愛、道を登って行く。
ブライアン「追うぞ!」
アメリア「はい!」
ブライアン、薫から離れ、アメリアと共に、太陽達を追いかけて行く。
薫、その様子を見て、ニヤッと笑う。
× × ×
太陽・凪咲・愛の順で、走っている。
後ろから、ブライアン達が追って来る。
太陽、後ろを振り返り、
太陽「よし! 追って来てるな」
凪咲「でも、どうするのさぁー?」
太陽「何がだよ」
凪咲「どれぐらい逃げていればいいのかなー」
太陽「そりゃ、薫次第だな」
愛「限界があるわよ」
愛、後ろを振り返り、
愛「あの人達、走るの速すぎ……」
ブライアン達が迫っている。
愛、先頭を行く太陽を見、
愛「分散した方がいいかもね」
凪咲「分散……?
愛「バラバラに行動するってこと」」
太陽「それで、どうするんだ?」
愛「すれ違いざまに、スマートフォンをパスし合うの。そうすれば、敵も困るでしょ」
凪咲「なるほどなぁ。流石、センセー!」
太陽「それでいこうぜー」
愛「なら 私は真っ直ぐ行くから、太陽君は、右。凪咲ちゃんは、左、お願いね」
凪咲「おー!」
太陽「任せとけ!」
太陽・凪咲・愛、三方向に別れる。
ブライアン「フッ……別れたか」
アメリア「どうしますか?」
ブライアン「俺は、男の子を追う。お前は……女を追え」
アメリア「了解しました」
ブライアン、後ろを振り返り、大声で
ブライアン「キース! お前は、女の子を追え!」
キースの声「ラジャー。あー、めんどくせーなー」
ブライアン、太陽を追う。
アメリア、愛を追う。
二機のロボット、凪咲を追う。
× × ×
太陽、走る。
すれ違いざまに、スマートフォンを、愛に投げ渡す。
ブライアン「こいつら……」
愛、捕まりそうになると、太陽や凪咲にスマートフォンを投げ渡す。
アメリア「この山の地形を把握している……」
スマートフォンを投げ渡すのを繰り返す太陽達。
キースの声「あー! うぜー!!」
× × ×
薫、道を走り、登っている。
右膝、左膝に擦り傷を負っている。
肩で息をしながら、
薫「あと、もう少しかな……」
薫の前方、ずっと並んでいた墓が見えなくなる。
墓の後方に、並んでいた森もなくなり、視界が一気に広がる。

○同・墓地・頂上

薫「ハァハァ……。着いた……かな……」
開けた場所。回りには何も無い。
薫、前屈みになり、膝に手をつきながら、肩で息をしている。
薫、顔を上げ、
薫「これかな……」
薫の前方、他の墓と比べて、一際大きな墓みたいなものが立っている。その後ろは、崖になっている。墓みたいなものの向こう側には、海が見える。
薫、それに近づき、
薫「これは……やっぱり……」
薫、ポケットから愛のスマートフォンを取り出し、画面を見る。アンテナが三本立っている。
薫「墓じゃない……。電波塔なんだ……」
薫、フェイス・トゥ・フェイスのページを開き、ロボットの画像や機密文書をアップしていく。
薫「タイトルは……」
薫、『アシレマ軍の真実』とタイトル欄に打ち、投稿すると書かれたアイコンを選択する。
薫「これで大丈夫……」
薫、電波塔にもたれかかり、腰を下ろす。安堵の表情。

○世界地図

海上にある小さい大縄島から、世界中の国へ光の線が飛んで行く。

○様々な国

様々な国の人々が、パソコンを見ている。
驚いている人や、感心している人、怒る人など、様々な反応を見せる。

○ある国・ある家・リビング

テーブルを囲み、パーティをしている若者達。男女関係なく、騒いでいる。
そこに、ピロンとパソコンから音がなる。
一人の男、その音に気づき、グループから外れ、パソコンに近づき、ディスプレイを見る。
男、マウスをクリックし、画面を見つめ、椅子に座る。
男、カチャカチャとキーボードを打ち始める。
グループにいた女から、遠くから声がかけられる。
男、軽く対応し、エンターキーを押す。
男、ニッと笑い、椅子から立ち上がり、パーティに
戻る。

○同・墓地・道

凪咲が走っている。息が切れかけている。
凪咲「ハァハァ」
手には、薫のスマートフォン。
後ろからは、ブライアンが追っている。
前方の木の影から、ロボットが一機現れる。
凪咲「わわっ!?」
凪咲、誰もいない方向に逃げる。
追っているブライアン。スマートフォンが鳴り、
ブライアン「こんな時に……」
胸ポケットから、電話を取り出し、通話ボタンを押し、耳に当てながら、
大統領の声「大変な事になった」
ブライアン「あとで聞きます」
ブライアン、電話を切り、凪咲を追いかける。

○同・神社内・大杉前

凪咲「もう限界……」
凪咲、走るスピードが落ちて来る。
大杉に手をかけ、足を止める。荒い呼吸をしながら、
凪咲「こんな所まで来たんだ……」
大杉を見上げる。
大杉の裏から、ロボットが一機現れる。
凪咲「アイッ!? 何で、ここに!」
キースの声「待ち伏せってやつだよ、お嬢ちゃん」
ブライアンの声「そこか!」
後ろからは、ブライアンが追いついて来る。
凪咲「どうしよう……」
戸惑う凪咲。
ロボットが手を伸ばし、凪咲を捕まえようとする。
キースの声「ジ・エンドってな」
目を瞑る凪咲。
顔に雨が一滴、落ちる。
凪咲「……雨……?」
キースの声「なっ!?」
ロボットがいる箇所にだけ、雲が曇り、雨が降っている。他は晴れている。
キースの声「なんでだよ!? おかしいだろ!!」
ロボットの動作が一瞬止まった隙を突いて、凪咲がロボットから離れるように逃げる。
キースの声「あっ! 待てよ!」
ロボット、歩き出すが、地面がぬかるみ、思うように動けない。
キースの声「くっそ……」
凪咲、ロボットの後ろにある杉を振り返りながら、
凪咲「神様……ありがとう」
凪咲の側にある木の影から、アメリアが飛び出し、
凪咲「アイッ!?」
アメリア、凪咲を取り押さえる。
凪咲「何で!?」
アメリア、凪咲を取り押さえながら、
アメリア「これだけ走り回っていれば、嫌でも地形なんて覚えられますよ。それに……」
凪咲「それに……?」
アメリア「わざと、あなた達を離れて分断させるように、こちらは動いてましたからね」
凪咲、驚き、口を閉じる。
ブライアン、凪咲達に追いつき、
ブライアン「よくやった、アメリア」
アメリア「(笑顔で)ありがとうございます」
ブライアン、凪咲を向き、
ブライアン「さぁ、手に持っているものを渡してもらおう」
凪咲、渋々、薫のスマートフォンを渡す。
ブライアンそれを手に取り、すぐに、
ブライアン「(大声で)やられた!!」
アメリア、ブライアンが手に持っている薫のスマートフォンを見、
アメリア「(目が見開き)これは……あの子の……」
ブライアン「あいつを追うぞ! 何処へ行った!」
アメリア、すぐに、
アメリア「この辺りで、行っていない場所は、この丘の頂上だけです!!」
ブライアン「そこだ! 行くぞ!」
アメリア「はい!!」
ブライアン、杉の前でぬかるみにはまり、悪戦苦闘中のロボットを振り返りながら、大声で、
ブライアン「その機体はもういい! 残りの一機で頂上まで来い!」
キースの声「ちっ……ラジャー」
凪咲の元から去っていくブライアン達。
凪咲、立ち上がり、その後ろ姿を見ながら、
凪咲「薫、間に合ったかな……」

○同・墓地・頂上

ブライアン・アメリア、登って来る。息が少し上がっている。
電波塔にもたれかかり、座っている薫を見、
ブライアン「いたぞ!」
ブライアン・アメリア、薫の元に駆け寄る。
ブライアン「(薫に手を伸ばしながら)スマートフォンを渡せ」
薫、疲れ切った表情の顔を上げ、真面目な顔で、
薫「そんなの持ってない……」
ブライアン「嘘はいい。こちらも手荒な真似はしたくない」
薫、少し微笑み、
薫「よく言うよ……」
アメリア、ブライアンの横から乗り出し、
アメリア「貴様……」
ブライアン片手で、制止し、
ブライアン「渡さないということだな?」
薫、そっぽを向く。
ブライアン「そうか……。キース!」
ロボットが一機、道から登って来る。
ブライアン「この子供を捕らえろ」
キースの声「ラジャー」
ロボットが薫に一歩ずつ、前進していく。距離が徐々に詰まっていく。
キースの声「素直に渡せばいいのによー」
薫、その場から動けず、思わず目を閉じる。
ロボットが、薫に手を伸ばそうとした時、
キースの声「んっ……?」
地平線の向こう、たくさんの影が並んでいる。
キースの声「あれは……?」
ロボットの赤い眼が電子音をたて、動き、遠くに焦点を当てる。ロボットの手は、薫の目の前で止まっている。
百機以上の戦艦が、並んでこちらに向かっている。
派手な装飾が施されたアメリア国旗が、風で、はためいている。
キースの声「……!? マジかよ」
ブライアン、不思議がるように、
ブライアン「どうした?」
キースの声「アシレマ軍の無敵艦隊が……」
ブライアン「? どうしたんだ、それが?」
キースの声「こっちに向かってる……」
ブライアン・アメリア、驚き、
ブライアン「なっ!?」
アメリア「どういう事!?」
薫、海の方を振り向き、
薫「データをネットに流したけど……あれっ……何で……?」
ブライアン、薫に近づきながら、
ブライアン「(焦った顔で)データはバックアップを取っていたとして、どうやってネット上に流したんだ!!」
薫、自分の背後にある電波塔を力無く、見上げる。
ブライアン、その目線を辿り、
ブライアン「墓……?」
薫「これは……」
ブライアン「墓じゃないのか!?」
薫「(見上げながら)電波塔……」
ブライアン、電波塔を見上げ、
ブライアン「何っ!? これが、電波塔だと……」
薫「(軽く頷き)うん……。ここの図書館で、見た……」
ブライアン「何でこんなものがここに……」
薫「……それは……」
ブライアンの後ろにいたアメリア、電波塔を見上げながら、
アメリア「世界大戦時の名残ですか……」
ブライアン、アメリアを振り返り、
ブライアン「(納得したような表情で)……そうか……」
アメリア「戦地で、電波塔を建てたら、相当、目立ってしまう。ただ、墓場に立てるなら、ある程度のカモフラージュにはなると……」
薫「うん……そう書いてたかな……」
ブライアンのスマートフォンが鳴る。
ブライアン「(自嘲気味に)今思えば、さっき携帯が繋がったのも可笑しなことだったか……」
ブライアン、スマートフォンを胸ポケットから、取り出し、通話ボタンを押す。
大統領の声「(怒声)なぜ、さっき電話を切った!!」
ブライアン「すみません……」
大統領の声「謝っている暇すらないぞ! 作戦を中止しろ!」
ブライアン「ですが……これぐらいなら、まだ、そちらで止められるのでは……そもそも、なぜ、アシレマの艦隊がここに……?」

○アシレマ国・大統領室

アシレマ大統領、相当に焦り、怒りながら、
大統領「ノンニマスだよ!」
ブライアンのカット。
ブライアンの声「ノンニマス? あのハッカー集団が……まさか!? ……ペンタゴンを!?」
大統領「そのま・さ・かだ。数時間前、ペンタゴンから電話があった。防衛システムをハックされたとな。作戦を中止しないと、その辺り一面、火の海になるぞ」

○島内・墓地・頂上

ブライアン「戦艦以外にも……」
大統領の声「F14が百機、アベンジャー五十機、ファントム・レイ五十機、センチネル……」
ブライアン達の頭上を、それらの機体が通り過ぎる中、呆然と、
ブライアン「……撤退します」
大統領の声「早くしろ」
電話を切られる。
ブライアン、電話をポケットに戻し、
アメリア「リーダー……」
ブライアン「十五分以内に、この島を離れるぞ!」
アメリア「は、はい!」
キースの声「俺は先に離れとくわ」
アメリア「貴様……」
ブライアン「喧嘩している場合か!」
ブライアン・アメリア、その場から、大急ぎで去って行く。
ロボットが、後ろに倒れる。
薫、何が、起こったのか理解出来ないきょとんとした顔をし、眠そうな顔で、頭を前後に振りながら、
薫「……どうしてこうなったんだろう……?」
薫の頭が、コクンと後ろに垂れる。

○同・墓地・頂上・夕方

凪咲・太陽・愛が登って来る。
電波塔の向こうから、赤い夕陽が登ってきている。辺りは、夕焼け色に染まっている。
凪咲・太陽「おーい! 薫!」
凪咲・太陽・愛、電波塔を背もたれにし、座ったままスヤスヤと寝ている薫に駆け寄る。
愛「あら、寝ているわね」
凪咲「薫には、これだけ長い坂、きついもんなー」
太陽「だな」
太陽、薫を背負う。
太陽「交代しながら、降りて行くさぁ」

○同・墓地・道・夕方

太陽・凪咲・愛、歩いている。
太陽は、薫を背負っている。
薫は寝たまま。
凪咲「それにしても、あのいっぱいの飛行機は何だったんだろうなー」
太陽「見たことないものばっかりだったな。先生は見たことあるか?」
愛「ないわよ」
太陽「だよなー。薫なら知っているかもな」
愛「起きたら、聞いてみましょ。黒服の人達が何処に行ったのかも分からないしね」
凪咲「そういえば、何処に行ったんだろうねー」
太陽「(笑いながら)薫のせいだったりしてさぁ」
愛、小声で、寝ている薫を見ながら、ボソッと
愛「案外、そうかもね」
薫、スヤスヤと寝ている。

○同・神社内・本殿前・夜

凪咲、祭壇上で、中里節に近い舞を踊っている。
かなりの人数の観客。
その中で、踊っている凪咲を笑顔で、見ている薫・太陽・宗次郎。
酔っ払っている愛が、薫に抱きつく。
何とか離そうとする薫。

○同・発射場・前・夕方

緑の草が広がっている。
ロケットの発射台が夕焼け色に染まっている。
凪咲・太陽・愛、発射台を眺めている。
薫、フェラーリフォーに寄りかかりながら、青白い顔で眺めている。口元は笑っている。

○大縄島・港

カモメが、沢山飛び交っている。
白い船が船着場に停まっている。
船の横には、風吹洗。
薫・凪咲・太陽・愛・宗次郎、船から離れたところにいる。
凪咲・太陽・愛・宗次郎、並んで、薫の前に立っている。
薫は、リュックサックを背負っている。
凪咲「(悲しそうな顔で)寂しくなるさぁ……」
薫「向こうに着いたら、手紙送るよ」
凪咲、満面の笑みになり、
凪咲「(嬉しそうに)うん!」
二人の様子を見ていた太陽、薫に近づき、耳元で、
太陽「負けないからな」
薫、首を傾げ、
薫「何に?」
太陽、呆気に取られた顔で、
太陽「え……その、色々だよ」
薫「色々って?」
太陽「(少し大声で)色々は、色々だよ!」
薫「?」
首を傾げる。
握手を求める太陽。
薫、握手を返す。
太陽「また今度さぁ」
太陽、手を離す。
洗「おーい! そろそろ出ないと、待ち合わせ時間に遅れるぞー!」
薫「あっ、ちょっとだけ、待って下さーい」
愛、薫に近づく。
愛「私も帰りたいわー」
薫「(笑いながら)先生も、乗ります?」
愛「(笑いながら、手を振り)乗らない、乗らない。冗談よ。私、この島、好きだしね。お酒が美味しいし」
薫「(若干引きながら)飲み過ぎには注意して下さいね……」
愛「子供の癖に生意気にー!」
薫「(笑いながら)じゃあね、愛先生」
薫「(笑いながら)またね」
薫、宗次郎に近づき、
薫「また遊びに来るね」
宗次郎「おお、いつでも来いよぉ。久瑠に宜しくって伝えといてくれねぇ」
薫「(笑顔で)うん!」
薫、船に駆け寄る。船着場に着き、凪咲達の方を振り返る。
全員、笑顔で手を振っている。
薫、笑顔で振り返す。

○船上

洗の声「(大声で)薫ちゃん、変わったさぁ」
薫、船上の後方にいる。
島の方を、手すりに掴まりながら、見ている。少し、顔が青ざめている。リュックサックは背負ったまま。
薫「……色々あったからね……」
洗の声「確かにねぇ」
薫「(先より青ざめた顔で)でも、こっちは変わらないみたい……」
薫、海に向かって、吐く。
洗の声「(大声で)大丈夫かぁ」
薫、ヘロヘロになりながら、
薫「うん……。大丈夫」

○鹿児島・港

久瑠が待っている。満面の笑みだ。
船が近付いて来る。
船の向こう側には、桜島が見える。相変わらず、煙は出ている。
船が停まり、薫が一人で降りて来て、久瑠の元に駆けて来る。
表情は、非常に明るい。

○エピローグ・凪咲宅・自室

古風な和室。畳。部屋には、勉強机と本棚がある。本棚には、少年漫画や少女漫画が並んでいる。少年漫画の方が多い。
凪咲、笑顔で勉強机に座っている。
目の前の机に置いている『伊良波凪咲様へ』と書かれた小さいダンボール箱を開ける。
中には、薫と同じタイプのスマートフォンと手紙。
更に笑顔になる凪咲。
窓に小石が当たる。
それに気づく、凪咲。窓を開けると、家の前には太陽がいる。
太陽、薫と同じタイプのスマートフォンを凪咲に見せる。
凪咲、同じタイプのスマートフォンを窓から太陽に見せる。
お互い笑顔。
                     (完)

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