ラ・ガロピーヌ! その他

渓川羽月は軽音楽部の同級生たちと組んだロックバンド「ガロピーヌ」のボーカル。鳴かず飛ばずでいるが、三枚目のアルバムを作ろうと決意を新たにした矢先、新マネージャーの香帆がつれてきた水原光流にその座を奪われ、失意の中故郷大阪へ帰っていく。
平瀬たかのり 34 0 0 10/13
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第一稿

お読みいただく前に。
 本稿の執筆及び公開にあたっては著作権法32条1項に則り、作品上で歌曲のタイトルを引用をさせていただきました。(タイトルは『』でくくってあります)。問題点な ...続きを読む
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お読みいただく前に。
 本稿の執筆及び公開にあたっては著作権法32条1項に則り、作品上で歌曲のタイトルを引用をさせていただきました。(タイトルは『』でくくってあります)。問題点などありますればお知らせくださいますよう、よろしくお願いいたします。
 (本稿最後に引用曲の歌唱者・作詞者・作曲者、氏名を明示いたしております)主な登場人物

渓川羽月(ガロピーヌ・ボーカル)
連城美咲(ガロピーヌ/ラ・フェイ・リードギター)
松川愛佳(ガロピーヌ/ラ・フェイ・ベーギター)
野々村鈴奈(ガロピーヌ/ラ・フェイ・ドラム)
水原光流(ラ・フェイ・ボーカル)

関本慎太(ライブハウス経営者、羽月の里親)
  順花(慎太の妻)
牧原香帆(ラ・フェイのマネージャー兼プロデューサー)
御園生福丸(羽月の高校時代の同級生)
新野真菜美(朔野高校軽音学部部員)
江藤紗彩(朔野高校軽音学部部長)
岡崎(ガロピーヌ、マネージャー)

泉谷しげる(シンガーソングライター)

〇児童養護施設〈愛翔園〉外景
   入口門柱にその施設名。

〇前同・応接室
   机を前にしてソファに座っている
   関本慎太(32)順花(31)夫
   妻。
   中年の男性職員が、渓川羽月(7)
   を連れて入ってくる。夫妻と向い
   合せに座る二人。羽月、一瞬二人
   を見るが、すぐにうつむく。
職員「名前は渓川羽月。七歳。たには一
 般的な谷やなく、渓谷の渓。かわは三
 本川。鳥の羽根にお月様の月。小学一
 年生。父親とは四歳のときに死別。以
 降母親の手で育てられますが――いや、
 育ててへんな。前に別の職員が話した
 とおり育児放棄、いうやつですわ」
順花「はい」
職員「(羽月を見て)里親になってくれ
 はる関本さんや・あいさつしよか」
   羽月、うつむいたまま無言。
職員「ほとんど誰とも話し、しませんの
 や」
   順花、羽月が小さなポーチを肩が
   けしていることに気づく。
順花「かわいらしいポーチやねえ」
   ビクっとなる羽月。答えない。
順花「なにが入ってるのん?」
   うつむいたままの羽月。
職員「CDですわ」
順花「CD?」
職員「ええ。アマチュアバンドやってた
 父親が持ってたもんらしいてね。独り
 で家にいる間ずっと聴いてたそうです。
 ここにきてからも肌身離さず持ってま
 すわ」
   立ち上がる順花。羽月の前で腰を
   落とす。
順花「なんのCD? 見せてくれへん?」
   ぎゅっとポーチを握る羽月。
順花「わたしもな、音楽好きでよう聴く
 ねんで。羽月ちゃんはどんなの聴いてる
 んやろ。 
興味あるなあ」
   ちらっと順花を見る羽月。順花微笑ん
   で羽月を見ている。ゆっくりポーチを
   肩から外し、開ける。CDをそっと差
   し出す。受け取る順花。
順花「うわぁ! 泉谷しげるの『セルフカ
 バーズ』やて! すごい!」
慎太「えぇっ! ほんまか!?」
   慎太も立ち上がり、羽月の前で腰を落
   とす。
慎太「ルーザーといっしょのやつや。ギター 
 がRCのチャボにルースターズの下山淳。
 ドラムが村上ポンタでベースが吉田健。泉
 谷が集めたごっついメンバーや。名盤やで」
  驚いている二人を不思議そうに見る羽月。
順花「すごいの聴いてるんやなあ。なあ、羽
 月ちゃん、うちにもこんなCDいっぱいあ
 る。この人のCDもぎょうさんあるわ」
慎太「おっちゃんとこな、こんな歌うたう人
 や聴きにくる人が、毎日ぎょうさん集まっ
 てくるねんで」
   順花と慎太をかわるがわる見る羽月。
順花「なあ、一回うちに来てみぃひん?」
   順花をじっと見ている羽月。うつむく。
   順花、羽月の手を優しく握る。
   泉谷しげる『春夏秋冬』を口ずさむ順
   花。
   順花の歌声に顔を上げる羽月。
順花「な――これからはいっしょに歌おう」
   羽月の手を強く握りしめる順花。羽月、
   順花をじっと見ているが、やがてその
   手を握り返す。
               (F・O)

〇メインタイトル
  〈ラ、ガロピーヌ!〉

〇朔野高校・校庭
   卒業式の後。胸に花飾りをつけた卒
   業生たちが、そこここで談笑してい
   る。
   走っていく卒業生の松川愛佳。ギター
   ケースを背にして全力で。

〇前同・体育館入口
   〈卒業証書授与式〉の立て看板を片付
   けている教師二人。その横を、体育館
   へと飛び込んでいく愛佳。

〇前同・体育館地下への階段
   駆け下りていく愛佳。

〇前同・軽音楽部練習場の前の廊下
   アコースティックギターを前掛けに
   している渓川羽月(18)。エレキ
   ギター前掛けの連城美咲(18)。
   ドラムスティックをもった野々村鈴
   奈(18)。待っている三人のとこ
   ろへ愛佳、飛び込むように。膝に手
   をつき肩で息。
羽月「おっそい」
愛佳「ご、ごめん……ギター同好会の後輩
 らが離してくれへんくて……」
鈴奈「頑張ったよね。二足のゾウリ」
美咲「ワラジ」
鈴奈「あはは、そうや。ワラジ」
羽月「ほら、皆さんお待ちかねや。いくで」
   〈ガロピーヌ・校内ラストライブ!〉
   の手書きポスターが貼ってあるドア
   を押し開ける羽月。練習場に入って
   いく四人。

〇前同・軽音楽部練習場
   二十畳ほどの練習場に集まっている
   八十人ほどの生徒たち。四人が入っ
   て来て、どよめきがおきる。拍手、
   指笛。
鈴奈「けっこう集まったなあ」
愛佳「そりゃあスクールロック金賞はダテや
 ないってば」
   一段高くなった演台に上がる四人。
   ドラムセットの前に座る鈴奈。中央に
   立つ羽月。向かって左にベースの愛佳。
   右にギターの美咲。チューニングをす
   る四人。
   観客の生徒たちを見て、スタンドマイ
   クを握る羽月。
羽月「今日は集まってくれてありがとう。校
 内ラストライブ、楽しんでってください。えー、
 レコード会社も決まりました。とりあえず東
 京行って天下獲ってくるわ」
   沸き起こる歓声、拍手。見交わす四人。
   頷く。
羽月「行くよ! 『デトロイトポーカー』!」
   美咲のイントロに続き泉谷しげるの
   『デトロイトポーカー』を歌いだす羽月。
   熱狂の観客。

〇大阪・鶴橋のコリアンタウン
   様々な店が並んでいる。

〇ライブハウス〈コッタパルル〉外景(夜)
   壁に大きく花束のオブジェがあるライ
   ブハウス。

〇前同・店内(夜)
   キャパシティー二五〇人ほどのライブ
   ハウス。ガロピーヌのライブ終わり。
   客席でにぎやかに打ち上げをしている
   四人と慎太らスタッフたち。順花がそ
   こにやってくる。
順花「羽月にビール飲ませたりしてへんやろ
 ね」
慎太「飲ませてへんよ」
羽月「飲んでませーん」
順花「あんた、今度酒飲んでゲェ吐いて便器
 と合体したら承知せえへんからね」
羽月「そやから飲んでへんって言うてるやん!」
愛佳「順花さん、羽月マジで飲んでない」
鈴奈「うん。やっぱり大事なときやし、わた
 しら」
羽月「はい、わたしの勝ち~」
順花「ほんまに――三人とも、ちゃんと進学
 するんやね」
愛佳「はい。わたしと美咲は同じ芸能の専門
 学校に行きます」
順花「美咲ちゃんはギター勉強するん?」
美咲「はい。基礎から教えてもらいたくって」
順花「えらい。愛佳ちゃんは?」
愛佳「照明とか音響とかのスタッフのコース
 があるから、そっちの勉強します」
順花「興味あるんや」
愛佳「ちょっとだけやけど」
順花「鈴奈ちゃんは四大やったね」
鈴奈「はい。進学するのがお父さんの条件やっ
 たんで。女子大生やってきます」
順花「うん、頑張ってな。ええな三人とも、浮
 わついた世界に流されたらあかんよ。学生
 の本分は勉強や。ご両親もそう思ってはる
 んやで」
   頷く三人。
羽月「あ~あ、どこのガッコの先生のありが
 たいお話やろうねえ」
   キッと羽月を見る順花。
羽月「聞き飽きました。社会保険がどうとか、
 年金がどうとか、将来の展望がどうとかい
 う話は」
順花「……アホが。あんただけ負けて帰って
 こい」
羽月「サイン残しといたろか、テーブルに。
 いつかとんでもない価値でるから」
慎太「はい、もうそこらへん」
   割って入る慎太。アコースティックギ
   ターを手に取り、椅子に座ってギター
   を爪弾きだす。
慎太「そしたら旅立つ君たちにぼくからのプ
 レゼントや――」
   岡林信康の『友よ』唄い始める慎太。
羽月「なにそれ?」
慎太「知らんの? 岡林信康の『友よ』や。
 羽月の好きな泉谷の師匠みたいな人の歌
 やがな――」
   慎太の歌に聴き入る四人。
順花「――戦いの炎燃やして輝く明日が来る
 んやったら、誰でも明日はスーパースターや」
   慎太の歌をじっと聴いている四人。

〇東京タワー・全景(夜)
   テロップ(以下T)【二年後】

〇前同・トップデッキ内(夜)
   夜景を見ている羽月。エレベーターの
   扉が開き、美咲、愛佳、鈴奈が出てく
   る。
愛佳「なにぃ急に」
   羽月の横に立つ三人。
羽月「みんなとな、一回ここから東京の夜景
 見たかってん」
美咲「きれいやなあ」
鈴奈「うん、ほんまに」
羽月「――あの、あんな、鈴奈。あんたこれ
 からどうするん?」
鈴奈「これからって?」
羽月「いや、だから。あんた四月から三回生
 やろ。就職活動とかどうするんかって」
鈴奈「シューカツかぁ。そんなんせんかてな
 んとかなるやろ」
羽月「なんとかって」
美咲「うん。なんとかなる」
愛佳「そうそう、なるなる」
羽月「あんたらなぁ、他人事や思って軽々し
 く言いなや。だいたいあんたらかて、就職
 しよう思ったら行くところは――」
鈴奈「おい羽月」
羽月「え?」
鈴奈「こういうことはまず自分の気持ちさ
 らけ出してから相手に訊くことなんとち
 がう? わたし羽月がどう思ってるか訊
 きたいわ」
美咲「ド正論」
愛佳「やねぇ」
羽月「わたし――わたしはガロピーヌ続け
 たい。ツアーも対バンしてなんとかキャ
 パ八割くらいでしかないけど、アルバム
 二枚も全然売れへんかったけど、みんな
 といっしょにバンド続けたい」
美咲「対バンしてキャパ八割にまでできる
 ようになった」
鈴奈「そうや。ファースト、オリコン一〇
 四位、セカンド九十二位。たいしたもの
 やと思ってるよ、わたしは」
愛佳「羽月は意外とネガティブちゃんなと
 ころがあるからなあ」
   笑う三人。
羽月「あんたら――」
鈴奈「みんなで大阪から出てきたんや。そ
 りゃ最初は羽月に引っ張られてたところ
 もあったけど、今は違うよ。わたしかて
 ガロピーヌで成功したい」
愛佳「レコード会社や事務所も契約切ると
 か言ってきてへんのやからさ、あと三年
 は頑張ってみようよ」
羽月「あと三年」
愛佳「うん。三年後には単独でライブハウ
 ス満員にできてるよ。もっと大きな会場
 で演れて、アルバムもチャート上位に来
 てるよ。なんかその姿が想像できるんよ、
 わたし」
美咲「そやな、うん。わたしもそうや」
鈴奈「ええ感じできてると思うで、わたし
 ら。ゆっくりやけどさ」
   微笑んで羽月を見る三人。
羽月「あんたら――」
鈴奈「けど、ほんまにきれいやなあ、東京
 の夜景」
   眼下の夜景を見る四人。
羽月「もっともっと届けたいわ、わたしら
 の音」
美咲「うーん。そのためにはブライアン・
 エプスタインが要るなあ」
鈴奈「え?」
愛佳「だれ、その外人?」
美咲「もう、それくらい知っといてぇや。
 ビートルズのマネージャーやった人。彼
 のマネジメントがなかったら、ビートル
 ズはあそこまで成功してへん」
鈴奈「確かにそんな人は要るかもな」
美咲「わたしらといっしょに、わたしらの
 音楽作ってくれる人、いるって思わへん?」
愛佳「うん、要る。岡崎ではアカン」
羽月「話にならんわ。親会社の常務の息子
 かなんか知らんけど、ライブも観んとずっ
 とラインしてるようなアホ」
●インサート
   ガロピーヌのライブ中。その音が聞
 こえてくる楽屋の中。パイプ椅子に座り
 ニヤニヤしながらスマートフォンを弄
 っているマネージャーの岡崎。
鈴奈「キャバ嬢に必死こいてラインしまくっ
 てんのやろ、あれ」
羽月「尻の毛ぇまで全抜かれされたらええ
 ねん、あんなアホは」
鈴奈「汚ぁ羽月。想像してしもたやん、岡
 崎の尻」
   爆笑する四人。
羽月「よし、マネージャー替えてくれるよ
 うに掛け合ってみるわ事務所に」
美咲「一人で大丈夫?」
羽月「任しといて」
鈴奈「なあ、アルバムの準備に入らへん?」
愛佳「えぇ、セカンド出してからまだ半
 年も経ってへんのに?」
鈴奈「そやからここで勝負かけるんよ。メ
 チャメチャ売れんでもええねん。けど振
 り返ってな、あのサードアルバムがあっ
 たから今のガロピーヌがある、そんなこ
 と言うてもらえるようなやつ。ほら、言
 うやん、エポックなんたらって」
美咲「エポックメイキング」
鈴奈「そう、それ。それになるアルバム作
 らへん?」
羽月「――ええやん、それ」
鈴奈「な、ええやろ」
羽月「書き溜めてるやつけっこうあるんよ。
 もう一回本意気で書き直してみるわ。美
 咲、曲頼んだで。全部詞先になるけど」
美咲「いつものことやん」
羽月「うん。いつもどおりみんなでアレン
 ジしようや。そんで歌詞でアカンところ
 あったらガンガン言うてぇや」
愛佳「誤字の指摘からやな」
羽月「うるさいわ」
   笑う四人。

〇音楽スタジオ・メインスタジオ【二週間後】
   オリジナル曲を演奏しているガロピー
   ヌの四人。

〇前同・コントロールルーム
   ガロピーヌの演奏を聴いている牧原香
   帆(39)。

〇前同・ロビー
   ソファーに座っている四人のところへ
   やってくる香帆。立ち上がる四人。
羽月「どうでしたか」
香帆「そうね、一週間後、またここに来てく
 れる?」
羽月「一週間後、ですか」
香帆「うん、そう」
美咲「あの、それってどういう――」
香帆「返事はそのとき。じゃ、今日はこれで」
   ロビーを出ていく香帆。
美咲「あの人、アルテミスプロモーションか
 ら移ってきたらしいわ」
愛佳「はぁ? あそこモデルや女優がメイン
 の事務所やん。そんな人に任せて大丈夫な
 ん?」
美咲「さあ。でも部長はかなりのキレモノやっ
 て言うてたで、さっき」
   廊下を歩いて行く香帆。遠ざかるその
   背中をじっと見つめている羽月。

〇音楽スタジオ・メインスタジオ【一週間後】
   集まっているガロピーヌの四人。
  (鈴奈はドラムセットを前に座り、美咲、
   愛佳はギターを前掛け。その中央に羽月。)
   入ってくる香帆。少し遅れて若い女。
   彼女を怪訝そうに見る四人。
香帆「おまたせ」
   女を少し後ろにして、四人の前に立つ香帆。
羽月「あの、この人は」
香帆「紹介するわ。水原光流。年はあなたたち
 と同じ。モデルとしてデビューした。彼女と
 いっしょにわたしは移ってきたの」
   無言の光流。その眼光の鋭さに威圧され
   ている四人。
香帆「渓川さん、今からここで彼女の歌を聴
 いていて」
羽月「え」
香帆「三人は演奏の準備してくれる?」
羽月「どういうことですか」
香帆「説明は歌が終わってから。曲はファー
 ストアルバムであなたたちがカバーしてた
 泉谷しげるの『火の鳥』。彼女歌詞もメロディー
 もちゃんと入ってるから心配しなくていい」
愛佳「――あの、演れません」
香帆「は?」
愛佳「あなたがなにを考えているのか知らない
 けど、演れません。わたしたちはこの四人で
 ずっと演ってきました。羽月のボーカルじゃ
 ないと、演奏なんてできません」
   頷く美咲。鈴奈も。
香帆「ハァ――クソアマチュアが」
   息を飲む四人。
香帆「あなたたちがどうしてブレイクできない
 のかよく分かったわ。はい、分かりました。
 わたしの役目はこれで終わり。帰ろうか光流。
 わたしの見込み違いだったみたい」
   スタジオを出て行こうとする香帆と光流。
羽月「待って!」
   立ち止まる二人。羽月、三人に向かって。
羽月「演って、いいからさ」
愛佳「羽月」
   微笑んでうなずく羽月。
     ×    ×    ×
   チューニングをする美咲と愛佳。鈴奈を
   振り返りうなずく二人。
鈴奈「うん――いくよ、ワン、ツー、ワンツ
 ースリーフォッ!」
   鈴奈のカウントに続き、美咲のギターソ
   ロのイントロ。うつむき加減でじっとそ
   の音を聴いていた光流だったが。
光流「止めてっ!」
   驚いて弾くのをやめる美咲。
光流「一音上げて」
   光流を見る美咲。
光流「聞こえなかった? 一音上げてって言
 ってるの」
   スタジオの壁に寄りかかり、その様を
   じっと見ている羽月。
   一音上がった再びのイントロ。光流が
   うたいだす。
   透明感と破壊力が合わさったような独
   特の歌声。広い音域と圧倒的な声量に
   驚く三人。
   ぐんぐん伸びていくその歌声に、三人
   の演奏も勢いを増していく。その様は
   まさに相乗効果。歌声が演奏を引っ張
   り、演奏が歌声を高めていく。
   頷きながらその様子を見ている香帆。
   言葉を失っている羽月。
   演奏が終わる。拍手をする香帆。上気
   した頬の美咲、愛佳、鈴奈。笑みさえ
   浮かべている三人だったが蒼白な顔の
   羽月を見て我に返る。
愛佳「――羽月」
香帆「どうだった三人、光流と演ってみて」
   無言の三人。
香帆「ふふ――光流はどうだった?」
光流「バンドっていいですね。最高でした」
   初めて光流が笑顔を見せる。
香帆「言ったでしょ、わたしの耳に狂いはな
 いって。この三人といっしょに組みたい?」
   頷く光流。
香帆「うん、よし」
   歩を進め、三人の前に立つ香帆。
香帆「すごい歌声でしょ。モンスターボイスっ
 てわたしは呼んでるの」
鈴奈「モンスターボイス……」
香帆「ええ。モデルの子や事務所のスタッフ
 たちとカラオケいったとき、初めて歌声聞
 いてね、この子絶対歌い手にさせなきゃい
 けないって思ったの。バンドのプロデュース、
 前からやってみたかったしね。だからいっしょ
 に移ってきたわけ。マネージャーの話、受け
 させてもらうわ。スケジュール管理なんかに
 ついてはもう一人しっかりした人つけてもら
 うよう言ってある。あくまでわたしはあなた
 たちのプロデュースに専念します。ただし、
 条件が二つある」
   三人を見渡す香帆。
香帆「ひとつ、わたしのプロデュースに素直
 に従う事。ふたつ、光流を新しいボーカル
 にすること」
   息を飲む三人。
愛佳「――ちょっ、新しいボーカルって」
香帆「渓川さんには抜けてもらうわ。バンド
 名も変更する」
   ちらっと羽月を見る香帆。凝った顔の
   羽月。
鈴奈「そんな……」
香帆「あなたたちのことはデビュー当時から
 知ってた。粗削りだけどイキのいい女の子
 バンドが出てきたなあって思ってたのよ。
 ボーカル以外は」
美咲「――断ったら」
香帆「光流の声聴いて、簡単に断れる?」
   美咲を見る香帆。うつむく美咲。
香帆「一度だけプレゼン。光流がボーカルに
 なったら、あなたたちの売り出しにわたし
 は全力を注ぐ。プランはもう練ってる。そ
 のプランを遂行し、成功を掴むだけのポテ
 ンシャルをあなたたちは持ってる。それを
 わたしならすべて引き出せる。だからわた
 しに安心して任せてほしい。どう?」
   言葉を失っている三人。
香帆「光流はなにかある?」
   光流、三人に向き直って。
光流「みんなと、バンドやりたい。わたし
 はこれからみんなの音で歌いたい」
香帆「と、ボーカル候補の熱いラブコール
 があったけど、さてどうしますか皆さん」
愛佳「――すぐに返事をしなくちゃいけな
 いんですか」
香帆「ニ十分だけあげる」
愛佳「そんな」
香帆「聞いたことない? チャンスの神様に
 は前髪しかないって。隣の本社の二階小会
 議室で待ってます。一人でも現れなかった
 ときは、この話はなかったことと諦めます。
 他のバンドをさがすわ。行こう、光流」
  スタジオを出ていきかける香帆と光流。
  香帆、足を止め振り返って。
香帆「渓川さん」
   香帆を見る羽月。笑みを浮かべ羽月
   を見る香帆。
香帆「残念ながらあなたにはなにもない。
 あなたにプロとして生き残っていける可
 能性は微塵もない。あなたの歌声はスクー
 ルロックフェス優勝レベル。そこで終わり。
 伸びしろなんかないわ。事務所もあなただ
 け解約の方針よ。一日も早く撤退しなさい。
 自分のため、そして三人のためにもね」
   スタジオを出ていく香帆と光流。
   残された四人。重い沈黙。
羽月「ごめんな」
   羽月、俯いて。
愛佳「羽月」
羽月「今の演奏聴いて分かった。わたし、み
 んなにあんな音出させてあげられへんかっ
 た。みんなにあんなええ顔で音ださせてあ
 げられへんかった。今までなにやってきた
 んやろ。ほんまにごめんな」
鈴奈「羽月」
羽月「答え出てるやろ。早よ行って」
美咲「羽月」
羽月「早よ行ってえや! すぐに断らへんか
 ったんがあんたらの答えや! これ以上惨
 めな思いさせんといてぇや!」
   顔を上げる羽月。三人を見やって。笑っ
   て。
羽月「ごめん――大きな声出して。最後まで
 ほんまにアホやな、わたし。すごいところ
 まで行けると思う。あの光流って子といっしょ
 やったら。さっきみんなが出した音やったら、
 絶対すごいところまで行けるよ――ほら、早
 うせんと前髪しかないブサイクな神様、逃げ
 てってしまうよ」
  微笑んでいる羽月をじっと見つめている三
   人。

〇音楽スタジオ・廊下
   走っていく美咲、愛佳、鈴奈。ギターケー
   スを背に、スティックを手に、全力で、泣
   きながら走っていく。

〇音楽スタジオ・メインスタジオ
   独り、立ち尽くす羽月。
                (F・O)

〇〈コッタパルル〉店内【二週間後】
   テーブルの拭き掃除をしている順花。
   トランクケースを曳いて羽月が入って
   くる。順花の数歩前で止まる羽月。
羽月「ただいま」
順花「――おかえり」
羽月「順ちゃんの言うたとおりになったわ。
 わたしだけ負けて帰ってきた。ははは」
順花「――」
羽月「笑てえや。わたしな、なんもないって
 言われてん。なんにもないんやてわたし。
 笑てまうやろ。なんでも持ってるって思っ
 ててんで。けどなんもなかってん。ははは、
 アホやで」
   羽月の目から涙がこぼれる。
羽月「はははは。アホや。世界一のアホやん」
   笑いながら泣く羽月。順花、優しく羽
   月を抱きしめる。
羽月「なんもなかってん。わたしな、なんも
 なかってんよ……」
  抱きしめる順花に頭を優しく撫でられな
  がら、泣き続ける羽月。

〇〈コッタパルル〉入口(夜)【一週間後】
   〈アマチュアナイト 飛び入り大歓
   迎!〉の黒板掲示。

〇前同・店内(夜)
   【ホール】
   ステージでアコースティックギター
   をかき鳴らし、フォークソングを歌っ
   ている初老の男性二人組。客はそこそ
   こ入っており、みなテーブル席に座っ
   てヤジなど飛ばしつつ、楽しく飲み食
   いしている。
   【厨房】
   料理を作ったり、サーバーからビール
   を注いだりなどして、忙しく立ち働い
   ている羽月。
   ホールから若い男の歌声が聞こえてく
   る。
   ザ・ブルーハーツの『ラブレター』。
   その歌声に顔を上げる羽月。
羽月「福丸――」
   厨房を出る羽月。
   【ホール】
   ステージで歌っているのは羽月の同級
   生だった御園生福丸(21)。福丸を
   見つめる羽月。その視線に気づく福丸。
   羽月を見て満面の笑みを浮かべる
     ×    ×    ×
   閉店後の店内。カウンター席に並んで
   座り飲んでいる羽月と福丸。
羽月「まだやってたんやね『ひとりブルーハー
 ツ』。大学で軽音部入ってんやろ。バンドやっ
 てへんの?」
福丸「やってへん。俺はいつでも『ひとりブルー
 ハーツ』や。悪い?」
羽月「いや、悪いことないけど。いつもここで
 歌ってるのん?」
福丸「うん。アマチュアナイトの日は絶対」
羽月「そっか」
●インサート(回想)
   【朔野高校軽音楽部・練習場】
   演台に立ちブルーハーツの『夕暮れ』
   を真剣な顔で歌っている福丸。
   棒立ち、無表情な顔でその様を見て
   いる羽月。(回想終わり)
羽月「居酒屋手伝ったりしてるのん?」
福丸「たまにな。親父がクソ偉そうに言う
 からかなわんで」
羽月「おばちゃんも元気? おいしかった
 よなあ、差し入れのおかきや煮卵」
福丸「元気すぎるくらいや。妹もよう手伝っ
 ててな、あいつが店継ぐわ。どこにおんね
 鯛の姿造りできる女子高生。高校出たら
 割烹に修行に出るんや。『ヘタレのオニィ
 はガッコのセンセくらいでちょうどや』
 やってよ。ほんま生意気なやっちゃで」
羽月「ははは――あんな、福丸」
福丸「うん」
羽月「けっこう染みてんよ、あの『夕暮れ』」
福丸「それやったらなんであの時つきあって
 くれへんかってんよ」
羽月「ははは、ほんまやなあ」
福丸「笑てる場合ちゃうで」
羽月「はははは」
福丸「ほんまに……けど旨いなあ、このイカ
 フェ」
羽月「それ、わたしが作ってんよ」
福丸「え、そうなん? やるなあ。旨いわ」
羽月「――なあ福丸」
福丸「あんた、今、彼女は?」
福丸「いてへんよ」
羽月「そっか。あんな福丸。遅なったけど、
 わたし、あんたとつきあってもええよ」
福丸「え」
   福丸、羽月をじっと見る。羽月も福
   丸を見つめて、うなずく。
福丸「――うーん。それはちょっと違うんや
 なあ」
羽月「違うん?」
福丸「うん。俺、今でも羽月ちゃんのこと好
 きやし、つきあってほしいって思てるけど、
 羽月ちゃんが今それを言うのは違うなあ」
羽月「そっか。そうなんか……」
福丸「なあ羽月ちゃん、またうたってえや」
羽月「え」
福丸「ぼくは、うたってる羽月ちゃんが好
 きやなあ」
   羽月、うつむき首を何度か横に振る。
羽月「わたし、イカフェ作るんや。これから」
福丸「イカフェも旨いけどなあ」
   イカフェを口にする福丸。厨房の中、
   笑みを浮かべ洗い物をしている順花。

〇都内、撮影スタジオ・中
   音楽雑誌グラビア記事撮影中の新バ
   ンド〈ラ・フェイ〉の四人。全員が
   異なった黒のボンデージ風衣装を着
   ている。
   その様子を見ている香帆。
   撮影が終わり、香帆の元へ行く鈴奈。
鈴奈「牧原さん」
香帆「なに」
鈴奈「他の衣装の撮影はないのでしょうか」
香帆「他のって?」
鈴奈「だからこんな衣装じゃなく……」
香帆「ご不満?」
鈴奈「こんなの、恥ずかしいです」
香帆「全部わたしに任せたんじゃなかったの?」
鈴奈「そうですけど……お母さんが見たら泣
 きます、こんなの」
   うつむく鈴奈をじっと見ている香帆。
   ため息をついて。
香帆「お母さんねぇ……ホントに売れる気あ
 るんだか――みんなこっち来て!」
   驚く鈴奈。香帆の元に来る光流、美咲、
   愛佳。
香帆「あのね、きれいごとは言ってられない
 の。最初に注目集めなきゃ意味がない。こ
 れまでのイメージを大きく変えるの。『あ
 のイモくさいバンドがこんなに変わったん
 だ』って思わせるの。そのためのその衣装
 よ。それ着てなきゃいくら光流の歌が凄く
 たって、あなたたちの演奏がキレてたって、
 メディアが取り上げてくれたりしないわ。
 そうでしょ」
鈴奈「『イモくさい』って……」
香帆「だってイモくさかったんだもん。特に
 渓川さん。見た目も歌も。あれはわたしで
 も手の施しようがないわ」
愛佳「……羽月のことを悪く言うのはやめて
 ください」
香帆「まだ引きずってるかあ。確認させて。
 あなたたち、わたしのプロデュースに従う
 気は本当にあるの? ないならわたしは光
 流を連れて降ります。どうなの?」
   顔を見合わせる三人。
鈴奈「――任せます」
   小さく頷く美咲と愛佳。
香帆「よし。じゃあいい機会だから今後の戦
 略を言います」
   四人を見渡し不敵に笑う香帆。

〇フリーマーケット会場
   賑わっているフリーマーケット会場。
   そのイベント広場で一人ギターを弾い
   ている美咲。ヒットソングのサビをメ
   ドレーで次々と。
香帆(声)「あなたにはドブ板をやってもら
 うわ」
美咲(声)「ドブ板?」
香帆(声)「そう。日曜ごとにいろんなフリー
 マーケット会場を回るの。バンド演奏なん
 かのイベントを開催してるフリマの会場は
 多いのよ。幸せな家族連れにあなたの腕を
 見せてきなさい。〈ラ・フェイ〉の名前を
 売ってきて。その衣装着ろって言わないか
 ら安心しなさい」
美咲(声)「――はい」
   ギターを弾き終える美咲。集まってい
   た客から大きな拍手。美咲、深く頭を
   下げてから。
美咲「ありがとうございます。連城美咲と言
 います。〈ラ・フェイ〉ってバンドでギター
 を弾いてます。もうすぐファーストアルバ
 ムが出ます。聴いてもらえれば嬉しいです」
   再び大きな拍手が沸き起こる。

〇新宿・ゴールデン街(夜)
   その入口看板

〇前同・とあるスナック・店内(夜)
   カウンターの椅子に座り、弾き語りを
   している愛佳。
   はしだのりひことシューベルツの『花
   嫁』をうたっている。
香帆(声)「あなたはドブ板その二。流しを
 やってもらうわ」
愛佳(声)「流し?」
香帆「ファーストもセカンドもあなたのメイ
 ンボーカルの曲、一曲入ってたわよね。す
 ごくよかった。アコギ弾けるのよね」
愛佳(声)「はぁ、まぁ。あの、流しって?」
香帆(声)「とりあえず十日以内にフォーク
 ソング二百曲覚えてちょうだい。あなたの
 相手は酔っぱらいよ」
愛佳(声)「フォークソング二百曲、ですか」
香帆(声)「わたしは〈ラ・フェイ〉を国民
 的バンドにしたいの。だれからも愛される
 ようなね。ゴールデン街でフォークの流し
 してるメンバーがいるなんて、最高の売り
 になるわ」
   歌い終え礼をする愛佳。酔客たちの拍
   手喝采。リクエストの声次々と。彼ら
   を見て微笑み頷く愛佳。

〇テレビ局スタジオ
   バラエティー番組の収録現場。ジャー
   ジを着てヘルメットを被っている鈴奈。
アナウンサー(声)「では問題。セピア色の
 セピアとは、イカ墨のことである。マルか
 バツか?」
鈴奈「え? え? なに? ちょっとマジで
 わかんない!」
アナウンサー(声)「走ってください!」
鈴奈「分かんないってば~~っ!」
   〇と×が大きく書かれた二つのドアに
   向かって走り出す鈴奈。
香帆(声)「あなたはテレビ向きの美人さん
 よ。積極的にメディアに出て〈ラ・フェイ〉
 の名前を売り込むの。あなたがこのバンド
 の広報担当、そしてリーダーよ」
鈴奈(声)「リーダーって、わたし、そんなの」
香帆(声)「リーダーなの、あなたが」
   ×のドアへと突っ走る鈴奈。その勢いの
   まま飛び込む。割れるスチロールのドア。
   泥のプールに飛び込む鈴奈。
   大の字になったまま動かない。
アナウンサー(声)「残念! 正解はマルでした! 
 猛烈な勢いで飛び込みましたが不正解! 野々
 村さん、大丈夫ですか!?」
   ゆっくり起き上がる鈴奈。泥まみれで座り
   込む。
鈴奈「……あの、ちょっといいですか」
アナウンサー(声)「はい、どうぞ!」
   鈴奈、カメラを見据え。
鈴奈「〈ラ・フェイ〉のリーダー、野々村鈴奈で
 す。八月にファーストアルバム発売予定です。
 よろしくお願いします」
   深く頭を下げる鈴奈。
アナウンサー(声)「いやぁ、素晴らしいプロ
 根性! 皆さん、〈ラ・フェイ〉を応援しま
 しょう!」
鈴奈「買ってよね、マジで!」
   テレビカメラを指さす鈴奈。

〇ファッションショー会場
   観客の若い女性たちで熱気あふれる会場。
   モデルがランウェイを歩いてくるたび歓
   声があがる。登場する光流。
香帆(声)「光流、あなたは」
光流(声)「はい、分かってます」
香帆(声)「うん。パンフに〈ラ・フェイ〉の
 ことは書いておくように頼んである」
  ランウェイを堂々と歩いてくる光流。その
  圧倒的存在感に息を飲む観客たち。ポーズ
  を決める光流。大歓声が起きる。

〇〈東萩フィッシングプール〉
   フェンスにかけられた古びた看板。

〇前同・釣り堀
   椅子に座って釣り堀に竿を出している
   羽月と福丸。
羽月「ありえへんよね、釣り堀でボウズって」
福丸「はは、なあ」
羽月「インケツやなあ」
福丸「インケツかぁ。みんなでようやったよ
 な、カブ。ジュースとかお好み代賭けて」
羽月「たいがいあんたが負けてた」
福丸「そうやったなあ。懐かしいなあ」
羽月「あんた、今月の『ロック・アラウンド・
 ジャパン』読んだ?」
福丸「ん? ああ、部室にあるの読んだ」
羽月「出てたな、あの子ら」
福丸「うん。この前鈴奈ちゃんバラエティー
 番組に出てたで」
羽月「そうかぁ。鈴奈がテレビになあ――
 〈ラ・フェイ〉かぁ」
福丸「読んでんねや」
羽月「え? ああ。店にあったのチラッと
 見ただけや。もう読まんわ」
福丸「もう読まんか」
羽月「もう読まんなあ。なあ、福丸」
福丸「なに」
羽月「あんた、風俗とか行ったことあんのん?
 ソープとかやぁ」
   ギョッとして羽月を見る福丸。羽月、
   ボーっと水面を見たままで。
福丸「な、なんや急にいきなり」
羽月「行ったことあんのかって」
   うつむく福丸。
羽月「あるよなあ。男の子やもんなあ。なあ、
 福丸」
福丸「な、なんよ」
羽月「わたしな、東京居ててもなんもなかっ
 てん。歌詞書いて、練習して、ライブして、
 打ち上げして、レコーディングして、また
 歌詞書いて――そんなんばっかりやってん
 よ、ほんまに」
福丸「羽月ちゃん」
羽月「インケツやなあ、ほんまに」
福丸「――なあ、羽月ちゃん」
羽月「んぅ?」
福丸「八月な、フェス行かへん?」
羽月「フェスぅ?」
   福丸を見る羽月。
福丸「うん。知ってるやろ、滋賀のスキー場
 でやる〈いぶきロックフェスティバル〉。
 今年で十年目や」
羽月「〈いぶきロック〉かぁ。出たかったなあ」
福丸「な、いっしょに行こうや」
羽月「あんたセンスないなあ。なにに誘ってん
 のよ。女の子にもてへんはずやわ」
福丸「あかんか?」
羽月「〈いぶきロック〉かぁ……」
   じっと水面を見ている羽月。

〇東京・地下鉄構内
   〈ラ・フェイ〉の四人がボンデージ風
   衣装を着て横並びに立っている、ファー
   ストアルバム発売の告知ポスターが貼
   られている。その前に立ってポスター
   を見ている女子高生四人組。
   電車が入ってくる。乗り込む四人組。
   ベルが鳴り、電車が発つ。

〇名神高速道路(早暁)【八月】
   走っている軽自動車。

〇軽自動車・車中
   運転している福丸。助手席の羽月。
   カーステレオからザ・ブルーハーツの
   『電光石火』が流れている。
福丸「いやぁ、楽しみやなあ」
羽月「そうかいな。ああ、眠た」
福丸「嬉しいなあ、羽月ちゃんといっしょ
 にフェスや」
羽月「つきおうたる言うても『うん』言わへ
 んかった人間がなにを言うてるねん。アホ
 かほんま」
福丸「ははは、ほんまやなあ」
   甲本ヒロトの歌声に合わせて歌いだ
   す福丸。
   流れる車窓の景色をボーっと見ている羽月。
羽月「電光石火、かぁ……」
   羽月、あくびをひとつ。

〇いぶきロックフェスティバル・駐車場(早朝)
   すでに多くの車が止まっている駐車場。
   駐車する福丸。降りる。羽月も。
福丸「つきましたでぇー!」
   伸びをしてから羽月の前に手を差し出
   す福丸。
羽月「は?」
福丸「手ぇつなごうや。初デートやねんで」
羽月「アホが……」
   会場の方へ歩きだす羽月。
福丸「ええやんかぁ」
   福丸、羽月を追いかけ、並んで歩き
   だす。
羽月「一生ソープ通いしとけ、あんたは」
福丸「ひどいなあ」
   不機嫌な顔の羽月。嬉しそうな福丸。
   並んで歩く二人。

〇前同・メインスタンド・客席
   到着する二人。スキー場に組まれた
   巨大なステージ。
福丸「うわぁ、ごっついなあ」
   その威容に羽月も圧倒されている。
   オールスタンディングの芝生席は六
   分ほどの入り。
福丸「まだ余裕あるわ。前行こ、前」
   観客エリア前方へ歩いていく二人。

〇前同・メインスタンド・ステージ
   舞台袖から客席を見ている香帆。
香帆「だいぶ埋まってきたわね」
   振り返る香帆。ボンデージ風衣装
   を着て立っている〈ラ・フェイ〉の
   四人。
   みな緊張の面持ち。
香帆「滑り込みで出場が決まったあなたた
 ちが出ることを、観客のだれも知らない。
 驚かせてきなさい」
   頷く四人。

〇前同・メインスタンド・客席
   騒めきの中、ステージを見上げてい
   る前から二列目に立っている羽月と
   福丸。

〇前同・メインスタンド・ステージ
   舞台袖、香帆が去る。光流、観客エ
   リアを見やったまま。
光流「美咲」
美咲「え」
光流「こんどわたしもフリーマーケットに
 連れて行ってよ。歌うから」
美咲「――うん」
光流「愛佳」
愛佳「なに」
光流「ゴールデン街のスナックってすごく
 興味ある。いっしょに流しってのやりた
 い」
愛佳「――うん、やろうよ」
光流「鈴奈」
鈴奈「ん?」
   光流振り向いて。
光流「こんど芸能人紹介してよ」
鈴奈「なんだそれ」
   四人、笑う。光流真顔に戻って。
光流「あのさ――わたしはみんなに会えて
 よかったって思ってる。みんなの音で歌
 えて本当に嬉しいんだ。だからこのバン
 ド続けたい。みんなといっしょに、どこ
 までも行きたい」
鈴奈「光流」
光流「なに」
鈴奈「そういうことは普段から口に出して
 言うように」
光流「だね、わたしの悪いところだ」
   笑う四人。
光流「だからね――このステージ終わった
 ら渓川さんの電話番号やラインのアドレ
 ス、消去してほしい」
   息を飲む三人。
光流「ひどいこと、すごいひどいこと言っ
 てるって分かってる。でも、わたしはみ
 んなとひとつになりたい。でも、でも、
 渓川さんのことを忘れられないみんなと
 はひとつになれない。〈ガロピーヌ〉の
 ことは忘れてほしい。渓川さんのことは
 忘れてほしい」
   光流の目から涙が一粒こぼれる。
   三人、光流を見つめて。
   スタッフがやってくる。
スタッフ「開演です。〈ラ・フェイ〉の皆
 さん、よろしくお願いします」
   立ち去るスタッフ。
鈴奈「よおっし、円陣組むぞ!」
愛佳「え、なに?」
鈴奈「リーダーの命令だよ。ほら、肩組ん
 で早く!」
   四人、肩を組み円陣を作る。
鈴奈「いぶきロックフェス、オープニング
 アクト。ちなみにファーストアルバム発
 売日。これ以上ない舞台だよね」
   三人を見やる鈴奈。頷く三人。
鈴奈「どこまでも行くよ、この四人で。今
 日がその第一歩め。楽しんでいこうよ――
 あ、そうだ。みんなに言ってないことが
 ひとつあった」
美咲「なによ」
鈴奈「わたし、この衣装嫌いじゃなくなっ
 てる」
   笑う四人。
美咲「実はわたしも」
愛佳「あんたもかーい――ってわたしも
 だけど」
   鼻をすすりながら何度も頷く光流。
鈴奈「よっしゃ! 〈ラ・フェイ〉ぶち
 かますよっ!」
光流、美咲、愛佳「おうっ!」
   四人、円陣を解き、ステージへ向
   かう。

〇メインスタンド・客席
   ステージに現れる四人。騒めく客席。
   羽月、すぐに気が付く。福丸も。
福丸「え、え、嘘や。なんで――」
   チューニング、セッティングをす
   るステージ上の四人を黙って見て
   いる羽月。
福丸「リストに名前なかったやん……なんで
 や――(羽月を見て)帰ろう。な、羽月ち
 ゃん帰ろう」
   ステージの四人を見つめたまま、首を横
   に振る羽月。
福丸「羽月ちゃん……」
   福丸、羽月の手を握る。ビクっとなる
   羽月。その手を握り返す。

〇メインスタンド・ステージ
   中央に立つ光流。スタンドマイクを右
   手で掴み、歌いだす。アカペラ。その
   歌いだしは静か。深く透明感ある歌声
   に、騒めいていた観客が徐々に静まり
   返っていく。歌声、クレッシェンド。
   最高潮に達したところで鈴奈のカウン
   ト。
   美咲のギター、愛佳のベース、鈴奈の
   ドラム、一斉に。マイクスタンドを蹴
   り上げ、一回転させる光流。一瞬で歌
   声を爆発させる。
   飲み込まれてしまう観客。地鳴りのよ
   うな歓声が沸き起こる。
     ×    ×    ×
   〈ラ・フェイ〉の圧倒的なパフォーマ
   ンス。ステージ狭しと動いて歌う光流。
   四人、時折顔を見合わせ頷き、微笑み
   あう。観客を煽る光流。歓声で応える
   観客。熱狂のオープニングアクトステー
   ジ。
     ×    ×    ×
   ステージが終わる。歓声と大きな拍手
   の中、舞台中央横並びにたつ四人。握
   りあった手を大きく掲げる。大歓声。
   スタンドマイクを前にした鈴奈。
鈴奈「ボーカル光流! ギター美咲、ベース
愛佳! ドラム鈴奈! わたしたちが〈ラ・
 フェイ〉です! え~~っと……名前だけ
 でも覚えて帰ってやぁ!」
  笑い声。沸き起こる歓声と拍手。
鈴奈「今日ファーストアルバム発売日です!
 買ってくださーい!」
   大歓声。
鈴奈「絶対また会いましょう!」
   やまない歓声と拍手の中、大きく手を
   振り舞台袖に消える四人。

〇メインスタンド・客席
   熱狂の余韻が残る観客エリア。羽月、
   スタッフが忙しく動いている舞台を
   無言で見つめている。声をかけられ
   ないでいる福丸。やがて羽月、福丸
   を見て。
羽月「帰ろうか」
   頷く福丸。人いきれの中を、手を繋
   いで歩いて行く二人。

〇車の中
   帰路の車中。無言の二人。
福丸「ごめん、ごめんな」
羽月「うぅん、ええねん」
福丸「知らんかったんや。出るって知ってた
 ら連れてきてへん」
羽月「――みんな上手なってたなあ。美咲の
 ギターはキレッキレで、鈴奈のドラムは音
 が踊ってた。愛佳のベース、えぐかったな。
 あの子あんな響く音出せたんや」
福丸「羽月ちゃん」
羽月「あれが才能なんやなあ。百回生まれ変わっ
 ても、あの光流って子には追いつけんのやろ
 うなあ――ええバンドやなあ。すごいところ
 まで行きそうやあなあ。なあ、福丸」
福丸「なに」
羽月「決心ついたわ、わたし」
福丸「決心ってなんのや」
羽月「歌やめることのや」
福丸「羽月ちゃん、俺そういうつもりと」
羽月「あんたの気持ちはよう分かってる。わ
 たしもまだ未練あったんやけどな。でも今
 日あの子らのステージ観て決めた」
福丸「あの、あのな、俺……」
羽月「気にしぃな。これが運命やってんよ。
 二回も叩きのめされたら、さすがになあ」
福丸「ごめん」
羽月「そやから気にせんでもええんやって。
 そやな、ラストライブだけはやろうかなあ」
福丸「ラストライブ」
羽月「うん。弾き語りでな。けじめや。一か
 月後くらいかなあ。長いこと声出してへん
 から練習せんと。そうや福丸、手伝うてぇ
 や。後ろでギター弾いて。ええやろ」
福丸「ええけど――けど、ラストライブや
 なんて」
羽月「決めたんや、もう」
   薄笑みを浮かべ、流れる車窓に目を
   やる羽月。
     ×    ×    ×
   渋滞中の名神高速道路上。車列の中、
   動かない福丸の軽自動車。
羽月「うっ、ぐっ……んぐっ」
   驚いて羽月を見る福丸。羽月、右手
   を頭にやり、髪の毛をきつく握りし
   めて泣いている。
福丸「羽月ちゃん……」
羽月「ひぐっ、んぐっぅ……」
   声をかけられない福丸。
羽月「なんやのん、なんやのんあの子ら。
 あんな嬉しげに……恥ずかしないのん、
 あんな服着て……三枚目のアルバム、作
 るんやなかったん…………あかん、あか
 んよな、そんなん思ったらあかんな。わ
 たし、ほんま最低やな……」
福丸「思ったかてええよ。なんぼでも思っ
 たかてかまへんよ」
羽月「優しいな。ほんまに優しいな福丸。
 抱いて。抱いてぇや福丸。からだバラバ
 ラになるくらい抱いてぇや。慰めてぇや。
 最初で赤ちゃんできたってかまへん。何
 回も何回も抱いてぇや、なあ福丸」
福丸「羽月ちゃん……」
羽月「けど、けどな、あかんねん。わたし、
 これ以上あんたに甘えたら終わってしま
 う。ほんまになにもなくなってしまうね
 ん――まっすぐ、おねがいやからまっす
 ぐ帰って福丸。わたし、あんたがラブホ
 入ってもよう拒まん。流されてしまう。
 絶対あんたの優しさ求めてしまう。そや
 から、そやからまっすぐ帰って――んぐっ……」
福丸「――帰るよ、このまま」
羽月「なんやのん。帰らへんって言うてぇ
 や。わたし、断らへんのに……」
   福丸、右手でハンドルを握ったまま、
   左手で羽月を抱き寄せる。福丸に寄
   りかかる羽月。
羽月「温いな……あんたやっぱり温いわ。ほ
 んまはな、抱いてほしい。あんたに抱いて
 ほしいんよ……ヘタレ、あんたほんまにヘ
 タレやわ……アホかほんま……」
   動かないままの車の中、羽月を強く抱
   きしめ続ける福丸。羽月、泣き続ける。

〇〈コッタパルル〉店内(夜)【一週間後】
   カウンター席に座り、ひとり浮かない
   顔でビールを飲んでいる福丸。その前
   に立っている順花。
福丸「ほんまに悪いことしました」
順花「そんなことないんよ」
福丸「熱、まだ高いんですか」
順花「うん。今日で一週間。日中は七度八分。
 夜になったら八度五分。不明熱ってやつら
 しいわ」
●インサート
   自室のベッドの上で寝ている羽月。苦
   し気に寝返りをうつ。
福丸「よっぽどショックやったんや。大丈夫
 かなあ」
順花「心配しいな。お医者さんも日にち薬や
 いうてたし、おかゆもちゃんと食べてるし。
 明後日くらいには熱下がってケロッとなっ
 てるわ」
   ステージを見る順花。慎太が岡林信康
   の『君に捧げるラブソング』をうたっ
   ている。
順花「あー、うっとうしい。なにを歌とるね
 ん、あのアホは」
福丸「――ケロッとはならん思います」
順花「うーん、そやなあ。さすがになあ」
福丸「ラストライブやなんて、どうにかなら
 んのかな。ほんまにもう決めてんのかな」
順花「うん。決めてるなあ。子どものころか
 ら言い出したらきかんところがあるから
 なあ」
福丸「『いぶきロック』なんか連れていか
 へんかったらよかった……」
   うつむく福丸。
順花「福丸くん」
福丸「(顔を上げ)はい」
順花「福丸くんは、羽月のどこが好きなん?」
福丸「え? それはやっぱり元気ええとこっ
 ていうか。パーっと明るいとこっていうか。
 笑った顔めっちゃかわいいし。けど、戻っ
 てきてからは全然笑わへんし――なんか
 見てるのが辛くて。それに」
順花「それに?」
福丸「羽月ちゃんは、やっぱり歌ってへん
 とあかんのや。羽月ちゃんの歌になにも
 ないなんてこと、あらへん。絶対そんな
 ことないんや。ぼくは、羽月ちゃんの歌
 が好きや。うたってる羽月ちゃんが好き
 や」
順花「そうかぁ。メロメロやなあ――よっ
 しゃ、福丸くんのためにも一肌脱いだる
 わ!」
福丸「え?」
順花「福丸くん。羽月に笑った顔取り戻す
 ことができるのは、今のところ世界でたっ
 たひとりの男だけや」
福丸「世界でひとりの男――」
   うたっている慎太を見る福丸。
順花「アホ。あのボンクラなわけないやろ」
   うたい続ける慎太を笑って見ている順 
   花。

〇〈コッタパルル〉入口(夜)【一か月後】
   《渓川羽月ラストライブ》の黒板掲示。

〇前同・店内(夜)
   ステージでリハーサル中の羽月と福丸。
   泉谷しげる『二度とない人生だから』を
   歌う羽月。

〇路上(夜)
   ギターケースを背負って歩いて行く男の
   後ろ姿。

〇〈コッタパルル〉店内(夜)
   羽月のラストライブが始まる。アコース
   ティックギターを肩掛けにして椅子に座っ
   ている羽月。斜め後ろに同じくアコース
   ティックギター肩掛けで立っている福丸。
   客席、テーブル席に五十人ほどの客。
羽月「こんばんは。今日はお集りいただきあり
 がとうございます。子守歌みたいに聴いてい
 たCDがあって。だから最後にその人の――
 泉谷しげるの曲を演って終わりにしたいと思
 います。(福丸を見て)じゃあ、行こうか」
   ギターを弾き出す羽月。
   『春のからっ風』をうたう羽月。 
     ×    ×    ×
   『街はぱれえど』をうたう羽月。 
     ×    ×    ×
   『陽が沈むころに』をうたう羽月。
     ×    ×    ×
   『里帰り』をうたう羽月。
     ×    ×    ×
   『眠れない夜』をうたう羽月。
     ×    ×    ×
   『土曜の夜君と帰る』をうたう羽月。
     ×    ×    ×
羽月「最後の曲になります。本当に最後の
 曲です。今日はありがとうございました。
 聴いてください『終わりを告げる』――――」
   『終わりを告げる』をうたい始める羽月。
     ×    ×    ×
   うたい終える羽月。静かな拍手が起き、
   礼をする。振り返り福丸を見る。少し微
   笑み何度も頷き涙を拭う。ステージから
   去ろうとしたその時――。
男の声「てめぇ渓川! 山口百恵気取ってん
 じゃねぇぞこの野郎!」
   舞台袖から現れる泉谷しげる。
羽月「んえぇぇっ!?」
泉谷「まったく辛気臭ぇ歌ばっかりうたいや
 がってよぉ――あ、全部俺の歌か」
   客席から笑いが起きる。拍手が沸き、
   指笛も鳴る。
羽月「ちょっ、あの――」
   福丸を見る羽月。
福丸「お客さんもみんな知ってた」
   笑う福丸。カウンター内に立っている
   順花を見る羽月。順花、どうだと言わ
   んばかりの笑みを浮かべている。
泉谷「『火の鳥』カバーしてくれてありがと
 よ。けどよ、菓子折りくらい持ってこいバ
 カ――懐かしいなあ。大昔ここで演ったこ
 とあるんだよ。先代のころだ。拓郎たちと
 フォーライフ作ってすぐだったな、あれは」
羽月「ここで」
泉谷「ああ、そうだよ」
羽月「あ、あの、あのなんで、今日」
泉谷「なんでもクソもねぇよ。ここのママか
 ら事務所に達筆のお手紙あったの。それ読
 んだの。だから来たの。来るだろ普通」
羽月「――普通、来ない」
泉谷「俺は来るの! 文句あんのか!」
   爆笑する観客。
羽月「あの、あの」
泉谷「なあ渓川。おまえ歌やめるのか?」
羽月「――」
泉谷「歌やめるのかって訊いてんの!」
   うつむき、頷く羽月。
泉谷「バカ! おまえは本当にバカだ!」
   ギターをかき鳴らし始める泉谷しげ
   る。
   客席に向かって叫ぶ。
泉谷「おい、おまえら聞け! 知ってると思
 うがよ、この渓川羽月は前のバンドてめぇ
 だけクビになってよ、ここに戻ってきたん
 だ。あんたにゃなにもない、つってクソ生
 意気な女マネージャーに言われたんだって
 よ。そんでふてくされて歌やめるつってん
 だ。(羽月を見て)ほんとにバカだおまえ
 は渓川!」
   羽月、叫ぶ泉谷を見ている。泉谷、一
   旦ギターを弾きやめ、羽月を見る。
泉谷「あのよ渓川。こんないい小屋がある家
 に住んでてだよ、こうやって歌聴いてくれ
 る客がいてだよ、後ろでギター弾いてくれ
 る色男がいてだよ、なにもないってことが
 あるのかよ。そうだろ? なぁ」
   またギターをかき鳴らし始める泉谷。
   福丸も続く。
泉谷「おい! 俺は怒ってるぞ渓川! 激し
 く怒ってる! 『なにもない』だぁ? 上
 等だよ。上等じゃねぇかよ。なにもない奴
 がよ、それでもありったけの気持ちかき集
 めてよ、なにもない奴らに向かってうたう
 んだろうよ。それがロックだろう! それ
 がフォークソングだろう! てめぇそんな
 ことも分からないでうたってたのか! だっ
 たらほんとに歌なんかやめちまえ、このバカ!」
   ギターのネックを強く握りしめる羽月。
泉谷「俺はうたうぞ! おまえもうたえ渓川!」
   『野性のバラッド』をうたいだす泉谷しげ
    る。
福丸「羽月ちゃん!」
   福丸を見る羽月。福丸、笑って頷く。
   うつむく羽月。
泉谷「立てぇ、おまえら!」
   観客を煽る泉谷しげる。立ち上がる観客。
   間奏、二人のギターに合わせて手拍子を
   始める。
泉谷「オイ、オイ、オイオイオイオイ!」
観客「オイ、オイ、オイオイオイオイ!」
   手拍子、激しく。
泉谷「オイ、オイ、オイオイオイオイ!」
観客「オイ、オイ、オイオイオイオイ!」
   手拍子、ますます激しく。
泉谷「歌えぇ渓川! 知ってんだろ!」
   羽月、顔を上げる。「オイオイ」の声と
   手拍子の中、泉谷を見る。福丸を見る。
   順花を見る。マイクスタンドの前に立つ。
   観客を見渡す。キッとまなじりを決して。
   羽月が、うたいだす。
   歓声と拍手が沸き上がる。
泉谷「そうだ、うたうぞ!」
   ユニゾンでうたう二人。ギターをかき鳴
   らしながら福丸が叫ぶ。
福丸「羽月ちゃん!」
   振り返り福丸を見る羽月。
福丸「大好きや! ぼくは羽月ちゃんが大好
 きや! ずっとずっと好きや!」
   羽月、頷き、弾けるように笑う。
福丸「うわぁ! 羽月ちゃん、愛してる!」
羽月「福丸、愛してる!」
泉谷「おまえらどこで乳くりあってんだ!」
羽月「うっせぇ!」
泉谷「渓川! おまえはここでうたい続けろ!」
羽月「言われんでも分かってるわぁ!」
泉谷「このクソガキゃぁ!」
   羽月・泉谷のユニゾン。
   順花と慎太が笑ってカウンターの中から
   ステージを見ている。
泉谷「まだまだやるぞ、オールナイトだ!」
羽月「分かったか、オラぁ!」
   ステージの三人、ギターをかき鳴らし、
   タイミングを合わせ終音。両手を突き
   上げる羽月。
羽月(声)「わたしはまた、うたいはじめた」

〇〈ラ・フェイ〉の快進撃ぶりがコンサート
風景を中心に映し出される。
羽月(声)「〈ラ・フェイ〉はでデビューアル
 バムで一位を獲得。わたしがあの三人と会う
 ことは、それから五年間なかった」
●日比谷野外音楽堂
   コンサートの様子・
   〈T=一年目 初の全国ツアー開催
    最終日・日比谷野外音楽堂〉
光流「ついて来いやぁっ!」
   大歓声で応える観客。
●日本武道館・外景
   開演前の長蛇の列。
  ※同・館内
   鈴奈の声が響く。
鈴奈(声)「〈ラ・フェイ〉です! 名前だ
 けでも覚えて帰ってやぁ!」
   大歓声とともに開演。
   〈T=二年目 再度の全国ツアー開催 
   最終日 日本武道館〉
   〈T=セカンドアルバム ミリオンセ
   ラー達成〉
●横浜アリーナ・外景
  ※同・アリーナ内
   ステージで圧巻のパフォーマンスを繰
   り広げている四人。
   〈T=三年目 全国アリーナツアー開催。
   最終公演横浜アリーナ2DAYS チケッ
   ト即日完売〉
   〈サードアルバム ミリオンセラー〉
●東京ビッグサイト
   最先端の服を身にまとい、ランウェイを歩い
   てくる四人。観衆から歓声が沸き上がる。
   〈T=四年目 東京シティレディースコレク
   ションにモデルとして全員出演〉
   〈T=ベストアルバム ダブルミリオン達成〉
●五大ドームコンサートの様子
   【札幌ドーム】(T)全景~
    マイクを観衆に向けて煽る光流。
   【ナゴヤドーム】(T)全景~
    激しいギターソロの美咲。
   【大阪ドーム】(T)全景~
    フォークギターを奏で歌っている愛佳。
   【福岡ドーム】(T)全景~
    ドラムソロ。髪を振り乱しスティック
   を振るう鈴奈。
   【東京ドーム】(T)全景~
    ステージ中央に並び立っている四人。
鈴奈「じゃあ、いくよ! 〈ラ・フェイ〉です! 
 せーの!」
   四人、繋いだ手を振り上げ叫ぶ。
四人「名前だけでも覚えて帰ってやぁ!」
   歓声が怒涛のように沸き上がる。
   〈T=五年目 五大ドームツアー敢行 
   大成功の裡に終わる〉

●〈いぶきロックフェス〉ステージ(夜)
   〈ラ・フェイ〉のステージ。登場する四
   人。立錐の余地もない観客エリアが沸き
   立つ。スタンドマイクの前に立つ光流。
光流「こんばんは。わたしたちの旅はここから
 始まりました。あの日はオープニングアクト
 でした。今日はラストをつとめます。まだま
 だわたしたちの旅は続きます――じゃあ、い
 くよぉ!」
   鈴奈のカウント。始まる熱狂のステージ。
   舞台袖で香帆が四人のパフォーマンスを
   見ている。
                (F・O)

〇朔野高校・体育館地下の廊下
   並んで歩いていく羽月と福丸。
福丸「懐かしいやろ」
羽月「そやなあ」

〇前同・軽音楽部練習場
   ドアを開ける二人。部員たちが二人を
見る。
福丸「約束どおりつれてきたったぞ」
   二十人ほどの部員たちが二人の前に駆
   け寄ってくる。
部員たち「こんにちは!」
羽月「はい、こんにちは――って運動部やな
 いねんから。どんな教育してんねん御園生
 先生」
   福丸を見る羽月。笑いが起こる。部長
   の江藤紗彩(17)が羽月の前に立つ。
紗彩「はじめまして。部長の江藤紗彩です。
 あの、えっと、先輩」
羽月「なに?」
紗彩「福ちゃんのどこが好きですか?」
羽月「そうやなあ、ヘタレなところかなあ」
福丸「おぉいぃ」
   爆笑する部員たち。ひとりの女子生徒 
   が羽月の前に押し出されるように。紗
   彩の横に立つ。
真菜美「あ、あの……」
羽月「ん?」
紗彩「ほら、ちゃんと喋らんと。あこがれの
 羽月さんやで」
真菜美「……新野真菜美と言います。〈ガロピー
 ヌ〉、小学校のころから聴いてます。羽月さ
 んがここの軽音出身だって知って、この学校
 入りました。軽音部に入りました。インディー
 ズのアルバム、三枚全部持ってます。あの、
 あの、本当に大好きです」
羽月「ありがとう。嬉しいわ。真菜美ちゃん楽
 器はなにやってんの?」
真菜美「ひとりでアコギ弾いて〈ガロピーヌ〉
 と羽月さんの歌、うたってます」
羽月「ひとり〈ガロピーヌ〉か。やるやん」
真菜美「羽月さんの歌が好きです。あの、な
 にかうたってください」
   福丸を見る羽月。頷く福丸。
     ×    ×    ×
   ギターを手に演台に上がろうとする羽
   月。そのとき、壁に飾ってある歴代卒
   業部員たちの集合写真に目を止める。
   自分の代の写真の前に立つ羽月。笑顔
   の〈ガロピーヌ〉四人が映っている。
   写真を撫でる羽月。
   ステージに立つ羽月と福丸。
羽月「えっと、じゃあ、ザ・ブルーハーツの
『夕暮れ』って曲を演ります」
  ぎょっとする福丸。
羽月「この歌は、御園生先生がわたしに告白
 する時にここでうたってくれた歌です」
   嬌声があがる。背中を向ける福丸。
羽月「わたしその時ふってしもたんやけどね。
 そやかてダサいやん、歌うたってからコク
 るなんかやあ。間ぁ持たへんで困ったわ」
   手を叩き爆笑する部員たち。
羽月「けど御園生先生はわたしのことずっと
 好きでいてくれてんよ――(福丸を見て)
 ほら、いつまでも後ろ向いてんと、ギター
 弾いてや先生」
   苦笑しながら前を向く福丸。「福ちゃ
   んマジ最高!」女生徒の声。
   福丸、ギターを奏で始める。羽月も。
   うたい始める羽月。
   (羽月の歌声をバックに、高校時代の
   思い出の数々がインサートされる)
●練習場で音合わせをしている〈ガロピーヌ〉
 の四人。
●練習場、他のバンドが音合わせをしている。
 隅っこでカブをしている四人と福丸。
●夏合宿。花火に興じる部員たち。手に持った
 花火を振り回しながら福丸を追いかける羽
 月。大笑いしてそれを見ている三人。
●スクールロックフェスティバル、ステージ
 で演奏する四人。
●前同・結果発表。ガロピーヌの金賞を告げ
 る司会者。ステージ上で飛び跳ね、抱き合っ
 て喜ぶ四人。
●学校からの帰り道。並んで帰る四人。笑いあい、
 心から楽しそうに歩いていく。
羽月「真菜美ちゃん、おいで。いっしょに演ろ
 う。ずっとうたってなかったんやけど、なん
 か今日うたいたいわ、〈ガロピーヌ〉」
真菜美「は、はいっ!」
   ギターを取りにいく真菜美を微笑んで
   見ている羽月。

〇都内・音楽スタジオ
   メインスタジオにいる美咲、愛佳、鈴
   奈の三人。
鈴奈「おそいね」
愛佳「いつものことじゃん」
   無言の美咲。

〇前同・入口
   ハイヤーが着き降りる光流。あくびをし
   ながらダラダラとスタジオに向かう。

〇前同・メインスタジオ
   入ってくる光流。四人に挨拶はない。
鈴奈「じゃあ、やろっか」
   スタンバイの後、新曲を演奏する四人。
   伸びない光流の声。歌詞を忘れ、途中
   でうたうのをやめる。三人も演奏をや
   める。
美咲「なにそれ光流。歌詞入ってないってど
 ういうこと。声も全然出てないし。やる気
 あるの?」
光流「あんまりない、って言ったら?」
美咲「いいかげんにしなよ」
光流「あのさ、そもそもこれって意味ある?」
美咲「どういうことよ」
光流「だからなんでいつも最初に納得いくま
 で合わせるのかって。別録りでいいじゃん。
 コンサート前にちゃちゃっと合わせたらい
 いことなんだから」
愛佳「光流、わたしたちずっとそれでやって
 きたんだし」
光流「ずっとねぇ。ていうかさ、なんでロス
 のスタジオ押さえられなかったの? わた
 し前から言ってたよね」
愛佳「押さえられなかったんじゃない。美咲
 がここで録るって決めたんだよ」
光流「はぁ? なにそれ」
愛佳「分かってるでしょ。今度のアルバムは
 美咲が全面的にプロデュースするんだよ。
 慣れてるところで録るのがいちばんいいに
 決まってるじゃない」
光流「慣れてるところねぇ――やめた、帰る」
   スタジオを去ろうとする光流。
美咲「光流っ!」
光流「喉の調子悪いんだよ。次は納得いく歌
 うたってあげるよ。プロデューサーさん」
   出ていく光流。
   ドラムセットの前から立ち上がる鈴奈。
鈴奈「あの、ごめん」
   鈴奈を見る美咲と愛佳。
愛佳「収録?」
鈴奈「シナリオ上がってくるの遅くってさ。
 さっきラインがあって」
美咲「いいよ、いきなよ」
鈴奈「ごめん、ごめんね。わたしリーダーな
 のに最近全然バンドのこと――」
美咲「そういうのホントいいから。鈴奈、あ
 んた最近芝居がかった物言いしすぎ。正直
 気色悪い」
   にらみ合う美咲と鈴奈。スタジオを出
   ていく鈴奈。
愛佳「美咲、ちょっと言い過ぎだよ」
美咲「分かって言ったんだよ。女優さんとき
 たもんだっと」
   ギターを肩から外し壁に寄りかかって
   座る美咲。
愛佳「撮られてたね光流」
美咲「ん?」
愛佳「ほら、写真誌に」
美咲「ああ、毎晩クラブで大騒ぎしてるって
 やつ」
愛佳「うん。大丈夫かな、あの子」
美咲「歌だけちゃんとうたってくれたらいい
 んだよ」
愛佳「それでいいの?」
美咲「うん、それでいい」
愛佳「――美咲」
美咲「なによ」
愛佳「わたしたち、これからもまだ先に行け
 るって思ってる?」
美咲「はぁ? なによそれ。思ってるに決まっ
 てるじゃない。だから今度のアルバムもわ
 たしがプロデュースして――」
   美咲をじっと見つめる愛佳。
美咲「こんなの、バンドにはよくあることだ
 よ。ここ乗り越えなきゃ」
愛佳「ごめん美咲。わたしは乗り越えられるっ
 て思ってない」
美咲「愛佳」
愛佳「思ってないんだ」
美咲「そう」
   黙り込む二人。

〇都内のクラブハウス(夜)
   ハウスミュージックが大音量で流れる
   店内。酩酊した光流が男に肩を抱かれ、
   はしゃいでいる。

〇コッタパルル・店内
   営業前。モップを手にして店内の掃除
   をしている羽月と福丸。
羽月「そうや。なあ、スクールロックフェス、
 どうなったん?」
福丸「真菜美だけ近畿大会突破や」
羽月「おー。ギター一本でようやったな」
福丸「ひとりガロピーヌで全国大会や。嬉し
 い?」
羽月「そりゃまあ、な」
福丸「あいついっつも言うてる。『羽月さん
 の歌詞を、もっと大勢に知ってもらいたい』
 いうて。なんにもない、なんてこと、なかっ
 たんとちがう?」
   福丸、羽月を見て。
羽月「――アホ」
   微笑みあう二人。また掃除を始める。
   入口ドアが開く。気づく羽月。
羽月「すみませーん。六時からなんです――っ
 て真菜美ちゃん」
   真菜美が立っている。隣には紗彩も。
福丸「どないしたんやおまえら。学校で練習
 してたんやなかったんか」
   紗彩泣き出す。
福丸「おい、なんかあったんか江藤」
真菜美「先生、ニュース見てはらへんのです
 か」
福丸「なんのや」
真菜美「逮捕されました」
福丸「誰がや」
真菜美「〈ラ・フェイ〉の光流さんです」
福丸「えぇっ! なんでや?」
   羽月も驚く。激しく泣き出す紗彩。
真菜美「違法薬物所持で昨日の夜中。マン
 ションに警察が入って見つけたそうです」
羽月「違法薬物……」
真菜美「『自分で使うために持っていた』っ
 て言ってるそうです。半年以上前から」
紗彩「なんで、なんでやのん。そんなんあ
 りえへん……大好きやったのに……ずっ
 と憧れてたのに……」
   泣き続ける紗彩を横抱きにする真菜
   美。
真菜美「女子みんな泣いてます。練習なん
 かできません。わたしも歌えません。み
 んながそんなやのに、わたしだけ羽月さ
 んの歌、ガロピーヌの曲、練習なんかで
 きません。先生、わたしらどうしたらえ
 えんですか」
   言葉を失う福丸。
真菜美「羽月さん」
   羽月もなにも答えられないまま。

〇テレビ放送・ワイドショー番組
   大手CDショップで店員が〈ラ・フェ
   イ〉のCDを撤去している様子が映し
   出される。画面切り替わってスタジオ。
   司会者が芸能リポーターに質問をする。
司会者「衝撃の逮捕から一週間。すでにどこ
 のCDショップへ行っても〈ラ・フェイ〉
 のCDを見つけることはできません。えー、
 芸能リポーターの井川さん。水原容疑者、
 逮捕の余波はまだまだ広がっていきそう
 ですね」
井川「はい。ドラマ主題歌として一曲、C
 Mソングにも三曲起用されていましたが、
 すべて打ち切りです。来年には二度目の
 アリーナツアーも予定されていましたが、
 これ も打ち切りでしょう。その影響は
 はかりしれません」
司会者「〈ラ・フェイ〉ですが、その今後
 はどうなると思われますか」
井川「はい。おそらく解散ということにな
 ると思われます」
司会者「やはり解散ですか」
井川「ええ。最近はメンバー間の不仲も漏
 れ聞こえていました。今回の水原容疑者
 逮捕に際して、他のメンバー三人がなに
 もコメントを発せず沈黙していることか
 らも、それはうかがえます。下手にかばっ
 て同じような目で見られるのは嫌なので
 しょうね。解散後はそれぞれの活動に専
 念するのではないでしょうか」
司会者「時代を牽引していたと言ってもい
 いガールズバンド〈ラ・フェイ〉の終焉
 はあまりに残念なものになってしまった
 ようです。では、次のコーナーです」
   テレビ画面、ブツッと消える。

〇芸能事務所・本社ビル
   入口に芸能リポーターたちがたむろ
   している。タクシーが着く。降りる
   鈴奈。リポーターから質問責めにあ
   い、もみくちゃにされながら本社ビ
   ルに入っていく鈴奈。

〇前同・ビル廊下
   歩いていく鈴奈。

〇前同・小会議室
   入っていく鈴奈。中には美咲、愛佳。
   対峙して社長の松崎が座っている。
   愛佳の隣に座る鈴奈。
鈴奈「リポーターうざっ」
   四人、しばらく無言。
松崎「ま、事務所としては、今回の事でき
 みたちとの契約を切ることはないから安
 心していい」
美咲「当たり前ですよ。わたしたちなにも
 してないんだから」
松崎「だな。で、バンドだけどな」
鈴奈「言われなくても分かってます」
松崎「そうか。じゃあ後は三人で話し合っ
 て、正式な結論を持ってきてくれ」
   小会議室を出ていく松崎。
美咲「鼻が効いたよね」
鈴奈「あ?」
美咲「だから牧原さん」
鈴奈「ああ」
 ●インサート・レッスン場
   アイドルグループ練習生八人がダ
   ンスレッスンをしている様子を見
   ている香帆。
美咲「なんかこうなること分かってたんじゃ
 ない、あの人」
鈴奈「はは、確かに。泥船から一抜けた、か」
愛佳「もう、やめようよ」
麗奈「――じゃあ、解散ってことで」
美咲「うん。愛佳は?」
愛佳「仕方ないよね」
   黙り込む三人。愛佳のスマートフォン
   が鳴る。スマホを手に取る愛佳。表示
   された覚えのない番号に訝しみながら、
   耳に当てる。
愛佳「――もしもし」
羽月(声)「もしもーし」
愛佳「え」
羽月(声)「久しぶり~。おばちゃんに携帯
 番号教えてもらってかけました~。おばちゃ
 ん心配してたよ。たまには電話くらいして
 あげやなあかんで」
愛佳「は、羽月っ!?」
   驚いて愛佳を見る美咲と鈴奈。

〇東京タワー・全景(夜)

〇前同・トップデッキ(夜)
   夜景を見ている羽月。エレベーター
   のドアが開く。美咲、愛佳、鈴奈、
   羽月の数メートル後ろで立ち止まる。
   振り返る羽月。三人を見てから、ま
   た夜景に目を移す。
羽月「懐かしいなあ。会うんやったらここ
 かなって思ってなあ。相変わらずのアホ
 やろ」
愛佳「羽月」
羽月「携帯の番号やラインのアドレス変え
 たの、わたしとあんたらと、どっちが早
 かったんやろな――あんな、わたし来月
 籍入れるんよ、福丸と」
鈴奈「福丸くんと」
羽月「うん。あんたらの最初のいぶきロッ
 クフェス、福丸と観にいったんよ。あん
 たらが出るの知らんと。はは」
美咲「羽月」
羽月「福丸な、今な、朔高で日本史の先生
 してんねん。軽音の顧問もやってるんよ。
 わたしも、ときどき練習見に行ったりし
 てるんよ。今度な〈ガロピーヌ〉の弾き
 語りでスクールロックの全国に女の子一
 人出るねん。けど他の女子部員が演って
 るのは〈ラ・フェイ〉や」
   三人に背を向け、話を続ける羽月。
羽月「女の子バンド四組あるけど全部〈ラ・
 フェイ〉や。文化祭でどの曲演るかでも
 めてるわ。演るんよその子ら〈ラ・フェイ〉。
 泣きながら練習してる。今日のわたしの
 往復の新幹線代な、部員全員が出してく
 れたもんや。断ることもできたけど受け
 取った。気持ちやからなあ。『今、三人
 と話しできるのは羽月さんだけです』言
 うてなあ」
   振り返る羽月。
羽月「部員の子らからな、手紙渡されてん。
(手にしていた紙袋を差し出す)あんたら
 宛てのと、水原光流宛てのが入ってる」
   羽月を見つめる美咲、愛佳、鈴奈。
   羽月をただ見つめる三人。
羽月「あんたら三人に会ったら伝えてほし
 いことあるかって訊いたらな、みんな一
 生懸命相談してた。今から伝える――
 『光流さんを許してあげてほしい。支
 えてあげてほしい。みんな仲良くして
 ほしい。〈ラ・フェイ〉を解散しない
 でほしい』やて」
   紙袋を床に置く羽月。
羽月「なあ、世界の全部が敵に回ったかて、
 あんたらだけはあの子の味方でいてやら
 なあかんのとちがうん?」
   無言の三人。
羽月「帰るわ。手紙、ちゃんと読んでや。
 ちゃんと渡してや」
   無言の三人の前を横切っていく羽月。
   エレベーターの中に姿を消す。

〇前同・エレベーターの中(夜)
   降りていくエレベーター。東京の夜
   景を見ている羽月。

〇前同・トップデッキ(夜)
   立ち尽くす三人。やがて愛佳が駆け
   出し、紙袋を胸に抱え、そのまま踵
   を返しエレベーターへ。美咲と鈴奈
   も続く。愛佳、何度も降りのボタン
   を押し続ける。

〇路上(夜)
   東京タワー前の路上。歩いていく
   羽月。
愛佳「羽月!」
   振り向く羽月。三人が立っている。
羽月「あんたらもアホやなあ。ダッシュ
 で駆けつけやなあかん人間まちがえて
 どうすんの――美咲」
   美咲を見る羽月。
美咲「羽月」
羽月「愛佳」
   愛佳を見る羽月。
愛佳「羽月」
羽月「鈴奈」
   鈴奈を見る羽月。
鈴奈「羽月」
   羽月、少し笑って頷く。
葉月「ほな、な」
   踵を返し去っていく羽月。愛佳、紙
   袋を抱えてうずくまり嗚咽する。美
   咲と鈴奈、泣きながら、小さくなる
   羽月の背中をじっと見ている。

〇湾岸警察署・留置所・面会室【翌日】
   係員に連れられて入ってくる光流。
   アクリル板の衝立越しに座っている
   美咲、愛佳、鈴奈。光流、椅子に座
   りうつむく。しばらく無言の四人。
光流「謝ってほしいわけ?」
鈴奈「ん?」
光流「だから来たんでしょ」
愛佳「おー、相変わらずの女王様モード全
 開」
鈴奈「ええ感じで憎たらしいなあ」
美咲「ほんまに」
光流「分かってるわよ。解散言いに来たん
 でしょ。それでいいよ。厄介払いできて
 あんたたちも――」
   顔を上げる光流。
光流「え」
   三人、微笑んで光流を見ている。愛
   佳、手にしていた紙袋の中から、パ
   ンフレットを取り出し、光流に見せ
   る。
愛佳「じゃーん。覚えてる? 最初の全国
 ツアーのパンフや。わたしらの後輩のお
 姉ちゃんの宝物やねんて」
   愛佳、パンフに目を落とす。横から
   美咲と鈴奈ものぞき込むように。
鈴奈「懐かしいなあ、この衣装」
美咲「みんなまだ若いわぁ。愛佳なんかぷ
 くぷくやん」
愛佳「うるさいわ。最初は富山や。さすが
 に緊張したなあ」
美咲「鈴奈、カウントで思い切り声が裏返っ
 てた」
鈴奈「そやったな。覚えてる」
美咲「新潟、山形、秋田、青森。日本海側
 北上して北海道は札幌と函館。光流、あ
 んた『ワカサギ釣りしたい』言うたの覚
 えてる? 冬でもないのに。『北海道の
 湖ってずっと凍ってるんじゃないの』や
 て。みんな爆笑や」
鈴奈「あったなあ。なあ、初めて露天風呂
 四人で入ったんどこやった?」
美咲「あれは――岩手やな。花巻温泉」
愛佳「すごい星空やった」
美咲「あのときや。光流が星座に詳しいっ
 て知ったん」
鈴奈「びっくりしたな、あれ」
愛佳「わたし、あれから露天風呂入るとき、
 光流に星座教えてもらうの、めっちゃ楽
 しみやったわ」
   光流、またうつむく。涙をこぼす。
愛佳「なぁ、あれどこやった。手違いでわ
 たしら四人だけ宿が取れてへんくて……」
美咲・鈴奈「高知!」
愛佳「そうや高知!」
美咲「よさこい祭りの当日でな、大きなホ
 テル全部満室。で、結局泊ったんラブホ」
鈴奈「電飾えげつないホテルやったな」
愛佳「光流が緊張しててやあ。『ねえ、ほ
 んとにここに泊まるの?』やて。半泣き
 やった」
美咲「いちばん純情やったもんなあ」
   笑う三人。
愛佳「このパンフにな、全員のサイン書い
 て送り返してあげやなあかんのよ。そな
 いせんとな、これ送ってくれたわたしら
 の後輩の女の子、元ヤンのお姉ちゃんに
 シバキ回されるねんて。ちゃんと書いたっ
 てや」
鈴奈「なあ光流。満天の星空も、ピカピカ
 の電飾も、また四人でいっしょにみたい
 なあ。思わへん?」
   光流、ボロボロと涙をこぼし泣く。

〇湾岸警察署・前【一か月後】
   多数の報道陣が待ち構えている。歩
   いてくる光流。無数のフラッシュが
   光る。光流の後ろから美咲、愛佳、
   鈴奈。報道陣からどよめきがおき
   る。
   立ち止まる光流。まっすぐ前を見
   据え。
光流「わたくし、水原光流は約半年前か
 ら違法薬物を所持し、使用していまし
 た。あの、あの――」
   言葉につまる光流。後ろから鈴奈
   がその背をさする。頷く光流。
光流「応援していただいているファンの
 皆様を裏切り、傷つけてしまいました。
 お仕事でお世話になっている方々に、
 多大なご迷惑をかけてしまいました。
 ごめんなさい。本当にごめんなさい」
   深く頭を下げる光流。激しく光る
   フラッシュ。三人が前に出る。光
   流に並び立つ。頭を下げる三人。
   フラッシュの嵐。

〇都内の道路
   走っているワンボックスカー。
   それを追うように五台の車。

〇前同・ワンボックスカー車中
   後部座席に愛佳、光流、美咲。光
   流の手を強く握っている二人。車
   載テレビが、湾岸署前で続く鈴奈
   の会見を映し出している。運転し
   ているのは〈ガロピーヌ〉のマネー
   ジャーだった岡崎。
光流「わたし、やっぱり残ってちゃんと――」
愛佳「ええんやって。こういうときのた
 めのリーダーや」
  テレビを見る三人。
リポーター①「《では、〈ラ・フェイ〉の解
 散はないと?》」
鈴奈「《はい、ありません。事務所とレコー
 ド会社との話し合いはこれからいたしま
 す。ただわたしたち四人に解散の意思は
 ありません》」
リポーター②「《今、テレビを観ているファ
 ンの方になにかメッセージはありますか?》」
鈴奈「《水原光流は間違いを犯しました。
 これからは彼女にわたしたちが寄り添いま
 す。二度と彼女が違法薬物に手を染めるこ
 とのないよう寄り添っていきます》」
リポーター②「《メンバー間の不仲がとりざ
 たされていましたが、どういった心境の変
 化があったのでしょうか》」
鈴奈「《噂です。不仲でもなんでもないです
 よ》」
愛佳「うわ、こいつしれっと嘘言うた!」
   叫ぶ愛佳。爆笑する美咲。
美咲「女優さんですから!」
   苦笑の光流。
リポーター③「《バンドとしての活動を再
 開するつもりなんですね》」
鈴奈「《はい。しかるべき時にそのご報告
 ができればと思っています。光流から歌
 を奪わないでください。彼女には歌が必
 要です。
 一度の間違いで彼女から歌を奪わないで
 ください。お願いします》」
   うつむく光流。涙をこぼす。
リポーター③「《ちょっと待ってください。
 裁判もまだの時点でそれを言うのは時期
 尚早なのではないですか》」
鈴奈「《分かっています。でもお願いです。
 光流に歌を失わせたくないんです。〈ラ・
 フェイ〉を失わせたくないんです》」
リポーター③「《それは手前勝手じゃない
 ですか。それに一度の間違いというのは
 甘い考えに思えてなりませんが》」
鈴奈「《一度の間違いやないの! そやか
 らわたしらが二度とあの子にクスリな
 んかやらさへんって言うてるやん! 
 一回失敗したら二度とやり直しできひん
 のん! 手前勝手のなにが悪いのん!》」
   フラッシュの乱舞。
美咲「あーあ、鈴奈やってもうた。ネット
 大炎上やな、これは」
愛佳「どないする岡崎。なんか頭下げる角
 度、深なったみたいやで」
岡崎「まあ、謝罪にお金はいらないから」
美咲「――あんた、長らく見ぃひんうち
 に人間的に成長したな、なんか」
愛佳「頼むでぇ岡崎。前みたいにキャバ
 嬢にラインしまくってたらまた替えて
 もらうで、ほんまに」
岡崎「あ、それ大丈夫。ボク今、キリカ
 ちゃんと同棲してるんで」
愛佳「はぁ、キリカちゃん?」
岡崎「うん。本名山村理恵ちゃん。料理
 上手の二十四歳。半年連続指名ナンバー
 ワン」
美咲「ちょっと。もしかしてキャバ嬢落
 としたん、あんた?」
岡崎「『落とした』とか言ってほしくな
 いなあ。アプローチしてきたのは向こ
 うの方なんだから。まあボクとしても
 どストライクだったから異存はなかっ
 たんだけどね」
愛佳「マジかこいつ……」
岡崎「ねぇ光流ちゃん」
光流「なに」
岡崎「薬物ね、やめるんじゃないんだよ。
 やめ続けるんだよ一生。そこんところ
 間違えないように」
光流「――うん、分かってる」
岡崎「自助グループも探したから。これ
 から週に一度は必ずそこに通ってもら
 う。復帰後もそれは続けてもらう。い
 いね」
光流「はい」
岡崎「ま、懲役一年、執行猶予三年って
 ところかなあ。活動再開は判決が出て
 から半年くらい経ったころでいいんじゃ
 ないの。社長にもそう言っておいたから。
 光流ちゃん、裁判で嘘はいけないよ。
 どうせばれるんだから。正直に全部話す
 こと、いいね。あとスッピンとシックな
 服。これ絶対。心象に関わっちゃうから
 さ。分かった?」
光流「――うん、分かった」
愛佳「岡崎」
岡崎「なに」
愛佳「あんた最高のマネージャーやわ」
岡崎「気づくのが遅いなあ」
   楽しそうに運転を続ける岡崎。
               (F・O)

〇朔野高校・校庭(放課後)【十か月後】
   帰っていく生徒たちや、ランニン
   グをする運動部員たち。

〇前同・三年五組教室内
   数学の補習授業を受けている十名
   の生徒たち。その中の真菜美と紗
   彩。二人貧乏ゆすりなどしてイラ
   ついている。
数学教師・岸上「こらぁ江藤、新野。ちゃん
 と聞かんかぁ。誰のための補習やぁ」
   ギリッと岸上を睨む二人。

〇前同・下駄箱のところ
   上履きから靴に履き替え、脱兎の
   ごとく駆け出す真菜美と紗彩。

〇路上
   息を切らして走っていく真菜美と紗彩。
真菜美「こんなん、ありえへん!」
紗彩「岸上のオッサン、間に合わへんかった
 らシバく! マジでシバく!」
  地下鉄の階段を駆け下りていく二人。

〇地下鉄のプラットフォーム
   発車間際の地下鉄に飛び込む二人。

〇地下鉄車内
   席に着く二人。動き出す地下鉄。
紗彩「ま、ま、間に合うかな……」
真菜美「ギリ、大丈夫やと思う……」
   二人、荒い息を収まるまでついて。
紗彩「悪かったね、つきあわせてしもて」
真菜美「え?」
紗彩「そやから〈ラ・フェイ〉と羽月さ
 んって、やっぱ、あれやん」
真菜美「『やっぱ、あれ』のままやったら、
 復活ライブ〈コッタパルル〉でせえへん
 よ」
紗彩「まあ、そうか。そうやな」
真菜美「それにな、ふふふ」
紗彩「なによ」
真菜美「いや、昨日羽月さんからラインが
 あってな。んふふ。今日な〈ラ・フェイ〉
 の復活ライブとちがうねんなあ」
紗彩「はぁ? あんたなに言うてんの?」
真菜美「サプライズ知ってるの、自分だけっ
 ていうの、気持ちええなぁ」
   ニヤニヤ笑う真菜美を怪訝そうに
   見て首をひねる紗彩。

〇コッタパルル・店内(夜)
   フロアが観客でいっぱいになってい
   る。朔野高校の制服を着た学生たち
   がそこここにいる。人波の中、身を
   屈めて前進し、最前列までたどりつ
   く二人。
紗彩「ズルやってもうた」
真菜美「今日はかまへん」
紗彩「やんな」
   無人のステージを見る二人。
     ×    ×    ×
   開演。〈ラ・フェイ〉の四人が現れる。
   大歓声、大きな拍手。それぞれの位置
   につく四人。
光流「――こんばんは。今日このステージに
 立てることを、本当に嬉しく思います。も
 うみんなを、仲間を裏切ることは絶対にあ
 りません」
   深く頭を下げる光流。拍手が沸く。
光流「実は、今日は〈ラ・フェイ〉の再始動
 ライブではありません」
   ざわめく客席。
光流「これから年に一回、この最高のライブ
 ハウスで、朔野高校の軽音のみんなを招待
 して演ります。演り続けます」
   客席。真菜美を見る紗彩。真菜美、得
   意げに紗彩を見て。
光流「その日、わたしたちは〈ラ・ガロピーヌ〉
 です」
   舞台袖からギターを肩掛けにした羽月
   が現れる。どよめき。歓声と拍手。舞
   台中央に立つ羽月。
羽月「えーっと。嫌やって言うたんやけどね。
 どうしてもってきかへんねん、四人とも。
 人の気も知らんで、ほんま」
   笑いが起きる。羽月と光流、見つめあ
   う。うつむく光流。
羽月「なあ光流。あんたわたしなんかよりず
 っと知ってるはずやで。どんなクスリより
 ステージの快感が最高やって」
  頷く光流。頷く羽月。
羽月「えーっとね。まずは個人的な報告があ
 りまして。えー、妊娠してまーす」
   拍手、指笛。
羽月「大事にするわ。ここに居てるみんなに
 誓う。生まれてくる子、大事にする。わた
 しが、慎太ちゃんと順ちゃんにしてもらっ
 たみたいに、福丸といっしょにめちゃめちゃ
 大事にするから――よし、ほな、いこか。
 えーっとね、中学入ってすぐにアコギ買う
 てもろうてんよわたし。それからずっとリ
 フ練習してた曲があって。でも上手いこと
 弾けへんくてね。学校でも昼休み必死こい
 て練習してたんよ。そしたらそれ見てた
 (美咲をコナして)このピアノ挫折からの
 ギター弾きが一発で弾いてしもてさ。で、
 一緒にやろうって言うたところから全部が
 始まったんよ。んで、すぐに愛佳と鈴奈誘っ
 て。そんでな――今日光流が入った。そや
 からその曲から始めるわ」
   大きな拍手。
羽月「〈ガロピーヌ〉も〈ラ・フェイ〉も演る
 で! お腹の子、よう聴いときや! 『電光
 石火に銀の靴』!」
   美咲の激しいギターリフ。繰り返される
   その印象的なメロディーは段々と大きく
   なっていく。そこに入る愛佳のベースと
   鈴奈のドラム。アコギをかき鳴らす羽月。
   スタンドマイクを握る光流。
   うたいだす。
   間奏。美咲のリフ。光流、ブルースハー
   プを激しく吹きだす。歌いだす羽月。
   後奏。美咲のリフ。それを支える愛佳の
   重厚なベースと爆ぜる鈴奈のドラム。
羽月・光流「オイオイオイオイ!」
   観客を煽る羽月と光流。二人のアクショ
   ンで終曲。爆発する観客。真菜美と紗彩
   が飛び跳ねている。
羽月「〈ラ・ガロピーヌ〉です。よろしく!」
   大歓声の中、羽月を見る光流。光流に歩
   み寄り肩を抱きしめる羽月。光流、羽月
   に寄りかかるようにして。光流の髪を優
   しく撫でる羽月。

〇【画面・ブラックアウト】
泉谷(声)「おまえらなんで俺呼ばねぇんだ、
 このやろう!」
羽月(声)「ちょっ……なに勝手に入って来て
 んねん! てか、なんでおんねん!」
泉谷(声)「うるせぇ! 俺呼ぶだろう普通!」
羽月(声)「呼ぶかぁ!」
泉谷(声)「冷たいなあ。ベソベソ泣いてたく
 せしやがって。誰のおかげだと思ってんだ。
 この腹ボテと元ヤク中が」
羽月(声)「帰れぇぇっ!」
泉谷(声)「悪かったよ。な、羽月。演ろうよ。
 一曲だけ。あとは邪魔しない。一曲だけ俺に
 も歌わせろ、な」
羽月(声)「――なに演るのよ」
泉谷(声)「決まってんじゃねえかよ――
『翼なき野郎ども』だ! おら、いくぞギター!」
羽月(声)「もう! それ最後に演る予定やっ
 たのにぃ!」
   
〇【画面、映し出されて】
   〈ラ・ガロピーヌ〉と泉谷しげるの
   「翼なき野郎ども」が始まる。
   キャスト、スタッフロールが流れてくる。
                 (了)

本稿に歌詞が登場する歌曲

①「春夏秋冬」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
②「デトロイトポーカー」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
③「友よ」(岡林信康)
   詞/曲=岡林信康
④「火の鳥」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑤「ラブレター」(ザ・ブルーハーツ)
   詞/曲=真島昌利
⑥「夕暮れ」(ザ・ブルーハーツ)
   詞/曲=甲本ヒロト
⑦「花嫁」(はしだのりひことクライマックス)
   詞/北山修 曲/端田宜彦
⑧「電光石火」(ザ・ブルーハーツ)
   詞/曲 甲本ヒロト
⑨「君にささげるラブソング」(岡林信康)
   詞/曲=岡林信康
⑩「二度とない人生だから」(泉谷しげる)
   詞/泉谷しげる 曲/早川隆
⑪「春のからっ風」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑫「街はぱれえど」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑬「陽が沈むころに」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑭「里帰り」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑮「眠れない夜」=泉谷しげる
   詞/曲(泉谷しげる)
⑯「土曜の夜君と帰る」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑰「終わりをつげる」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑱「野性のバラッド」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる

⑲「電光石火に銀の靴」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる
⑳「翼なき野郎ども」(泉谷しげる)
   詞/曲=泉谷しげる

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