JK水無月1979~学内停学飛翔編~ 学園

ウェーブのかかる赤髪を校則違反として教師たちに咎められていた綾香を、同じ教師の瑤子が校務員棟へ連れていく。彼女が綾香に語り始めたのは40年近く前にそこで四人の仲間と過ごした学内停学の六月の一週間のことだった。(現在体裁編集中です、すみません)
平瀬たかのり 11 0 0 08/22
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第一稿

加瀬(峯浦)瑤子(17/56)椿原高校二
年生/椿原高校現代文教諭
次藤美波(17)右同
目黒真弓(17)右同
生駒冴枝(17)右同
本山梓(16)瑤子たちのかつての同級 ...続きを読む
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加瀬(峯浦)瑤子(17/56)椿原高校二
年生/椿原高校現代文教諭
次藤美波(17)右同
目黒真弓(17)右同
生駒冴枝(17)右同
本山梓(16)瑤子たちのかつての同級生

松島治郎(59)椿原高校用務員
  菊代(53)治郎の妻
高村和友(17/56)瑤子たちの同級生/理髪店店主
  将史(47)和友の父親
加瀬甚太(45)瑤子の父親
麻生紫乃(24)アマチュアシンガー
安原美幸(44)ライブハウス〈ガレージ〉経営者
尾関誠(21)大学生
日野令子(17)瑤子たちの同級生
富田(58)椿原高校校長
渡辺(55)右同教頭
小堀(49)右同生活指導教諭
清水(29)右同体育科教諭
諸積(38)右同美術家教諭
白井賢輝(21)大学生
  照子(53)賢輝の母親
木崎(33)テレビリポーター

沢上綾香(17)椿原高校二年生
高岡(53)椿原高校教頭
竹内(35)右同生徒指導教諭
前谷(30)右同体育科教諭

その他







〇椿原高校・校門前
   二〇一八年現在。生徒たちが登校している。

〇前同・職員室前廊下(始業前)

〇前同・職員室内
   机を前に座っている教頭の高岡(53)。
   その前に俯いて立つ沢上綾香(17)。ウェー
   ブのかかる赤みがかった髪が印象的。綾香
   の隣に立つ生徒指導教諭の竹内(35)。
   担任の体育教師前谷(30)。他の教師が
   その様を遠巻きに見ている。
前谷「最後まで言うことをきいてくれへんかった
 な沢上」
綾香「……」
前谷「言いたいことがあるんやったら聞こやないか」
綾香「……」
竹内「沢上ぃ!」
   ビクッとなる綾香。綾香の髪を掴み上げる
   竹内。
竹内「この髪はなんやって訊いとるんや! 今日ま
 でに色抜いてこいって言うてたやろ、あぁ! パー
 マまでかけやがって!」
   竹内を睨む綾香。
竹内「なんやおまえ! 体罰できん思って嘗めとん
 のか!」
高岡「竹内先生、そのへんで」
   綾香の髪を離す竹内。
高岡「沢上さん。生徒指導の竹内先生、担任の前谷先
 生はじめ、今まで何度も指導があったはずだね。ど
 うして色落とし、パーマ直し、してくれなかったの
 かな」
綾香「……」
高岡「校則はなにも君たちを縛りつけるためにあるの
 じゃない。生きるための決まり事を守るための訓練
 みたいなものだ。近い将来厳しい社会に出ていく君
 たちのためのね」
綾香「……地毛です」
高岡「ん?」
綾香「これは、地毛です」
高岡「嘘はいけないなぁ。わたしも長年教師をやって
 るけど、そんな髪の女子高生には会ったことがない。
 それに君は今まで黒髪の直毛だったそうじゃないか」
   俯く綾香。
高岡「答えなさい!」
   ビクつく綾香。その様を見ていた現代文教諭、
   峯浦瑤子(56)がやって来て綾香の傍に行く。
   三人を睨む。舌打ちする高岡。
瑤子「黙って見てたら……教えたろか。あんたらが今
 やってんのは、未成年相手のパワハラ。出るとこ出
 たら負けるで」
竹内「なにがパワハラですか。教師が生徒指導するのは
 当たり前でしょうが」
瑤子「そやからその指導っていうんが、一般社会の物差
 しで計りゃパワハラやて言うてんの。ほんま、何十年
 前から同じことやってんのよ」
竹内「ここは学校だっ! そうやって甘やかすからこん
 なつけあがる生徒が出てくる!」
高岡「……峯浦先生。生徒の自主性を尊重されるあなた
 の教育方針は結構ですが、時と場合によりますね。道
 から外れようとしている生徒には愛を持った厳しさで
 対処しないと」
瑤子「ご高説ありがたく承っております。ですがわたく
 し、教頭先生が赴任されてからその愛あるご指導によ
 り、本稿の生徒の顔がどうにものっぺらぼうみたいに
 なっていくような気がしてましてね。いささか懸念い
 たしておるしだいですのよ、おほほほ」
   にらみ合う瑤子と高岡。
高岡「この反乱分子が……」
瑤子「ふふっ、反乱分子ときたか。さすが五代続く教師
 の家系が自慢のお人は言うことが洒落てますわ。校門
 前で赤旗でも振ってインターナショナルでも唄ったら
 満足か?」
   綾香の肩を抱いて職員室を出ようとする瑤子。
高岡「どこへ行く! まだ話は何も――」
瑤子「(振り返り)やかましい! こんな状況でこの子
 がなにを話せる言うんよ!」
   職員室を出ていく瑤子と綾香。

〇前同・校庭
   瑤子、スマートフォンで通話しながら歩く。
瑤子「――ああ、定休日。今日月曜やもんね。そしたら
 来れるんやね。うん、校務員棟。今はそない言うねん。
 前の用務員棟や。ははは、そう思い出の。なるべく早
 う来てや――」
   綾香、瑤子の後をついて歩く。

〇前同・校務員棟の前
   学校敷地内にある校務員棟の前で立ち止まる瑤子、
   綾香も。瑤子振り返り。
瑤子「さ、入ろか」
綾香「え?」
   微笑んで頷く瑤子。

〇前同・校務員室内・六畳間
   畳敷き六畳の間。座卓を挟み向かい合って正座し
   ている瑤子と綾香。
瑤子「わたしな、ようここに来てるんよ。校務員さん、な
 んやかやで忙しぃていてへんこと多いから、落ち着い
 て仕事するにはもってこいなんよね。(隣の間に置い
 てある机を指さし)あれ、わたしの机」
   綾香、瑤子を見る。うつむく。
瑤子「職員室って好きちゃうねん――訊いてええ? 沢
 上さん。その髪、地毛って言うてたね」
綾香「――はい」
瑤子「黒い髪やったのは?」
綾香「黒に染めてました。ウェーブは天然です。ほんま
 です。ストレートパーマあててました。どっちも入学
 したときから」
瑤子「そんなことを」
綾香「はい。ここ、校則厳しいって分かってたから。で
 も――」
瑤子「うん、話して」
綾香「おばさんが同じ赤毛の天パなんです。従妹は三人
 とも黒髪なんやけど」
瑤子「そう」
綾香「おばさん、先月、亡くなったんです。大好きでした。
 会うとおばさん、いっつも髪、撫でてくれました。『わ
 たしの自慢の赤毛が綾香に出た』いうて。そやから黒に
 染めて、ストパあてたとき――ほんまはすごく嫌やった。
 わたし、最後のお見舞いにパーマも落として、色も抜い
 て病院に行ったんです。おばさん、前みたいに、わたし
 の髪、撫でてくれて……」
   俯く綾香。瑤子、その様をじっと見ているが、ふい
   に両手を後ろにつき足を投げ出す。
瑤子「はぁ~~あ。なにが『近い将来厳しい社会に出てい
 く君たちのため』や。厳しい社会になんか出た事ないく
 せによう言うわ」
綾香「え」
瑤子「大学出てすぐ赴任して生徒からいきなり先生先生っ
 て呼ばれて。狭い職員室ん中でお互いをそないに呼びお
 うて……感覚も麻痺するわな、ほんま」
綾香「あの、先生」
瑤子「そない呼ばれるんが嫌になるのはこういうときなん
 よねぇ――マジでやってられへん」
   思わず笑う綾香。
瑤子「わたしがここの卒業生って知ってる?」
綾香「はい。聞いたことあります」
瑤子「うん。わたしな、この高校出てから八年OLやって
 たんよ」
綾香「OL、ですか」
瑤子「うん。文房具の卸し会社。庶務課って部署で八年。
 ほら、ちょっと前『ショムニ』ってドラマあったやん?」
   綾香、首をかしげる。
瑤子「う~ん、もうあれも古うなってしもたか。お茶くみ、
 コピー取り、トイレ掃除、銀行回り、接待のお供――な
 んでもやってた。ほんまの雑巾がけ仕事やった。勉強し
 なおして夜間の大学入ったのが会社入って四年目。理解
 のある社長やからできたんやけどね。今の旦那とはその
 会社で知り合うたんよ」
綾香「へぇ」
瑤子「接待のときなんかたいへんやったでえ。昔やろ。セ
 クハラの連発や。口には出せへんような卑猥なこという
 エライさん山ほどいてた。胸なんか普通に触ってこよう
 としよるねんで」
綾香「どうしてたんですか先生」
瑤子「その手握ってな、上にあげて叫ぶねん。『この方の
 お母さん! あなたの息子は立場の弱い女性の胸を断り
 もなく揉めるほどの立場まで出世しましたよ!』いうて。
 それでみんな『まいったまいった』言うて引き下がりよっ
 た。まあ、それも時代やなあ」
   笑う二人。
綾香「なんか先生ってすごい」
瑤子「沢上さん。今日は授業出なくてええよ。先生の昔話し、
 聞いてくれる?」
綾香「昔話し……あの、先生授業は?」
瑤子「大丈夫。一、二時間目入ってへん。もし授業があった
 としても、わたしはあなたを優先する」
   立ち上がる瑤子。隣の間に行く。戻ってきた瑤子、綾
   香の前に一冊の古びたノートと小型の自分のスマート
   フォンを置く。表紙にペン書きで〈1979・6・11~16 
   加瀬瑤子 次藤美波 目黒真弓 生駒冴枝〉とある。
瑤子「さて、なにから話そ。うん、ノートめくってみて、沢
 上さん」
   机の上の古びたノートの表紙をじっと見る綾香。
   手を伸ばす。表紙を開く――。

〇メインタイトル
   【JK水無月1979~学内停学飛翔編~】

〇椿原高校・校門前(朝)
   一九七九年現在・生徒たちが登校している。
   〈テロップ一日目〉

〇前同・職員室前廊下(始業前)

〇前同・職員室内
   教頭、渡辺(55)の前に立っている加瀬瑤子、
   次藤美波、目黒真弓、生駒冴枝の四人。全員高
   校二年生。生徒指導の女性教諭、小堀(49)
   が全員の頬を張る。最後の冴枝を蔑んだ目で見て。
小堀「ふしだらな――」
   木刀を持った体育教師の清水(28)、手を瑤
   子のあごにやり。
清水「加瀬。ずっと直せって言うてるよな、おまえのそ
 のパーマ」
瑤子「……天然です」
   続いて清水、真弓の髪を触り。
清水「えぇ栗色に染めとんなぁ、目黒よ」
真弓「そやから地毛やって言うとるやん」
清水「盛り場うろついたり、競馬場に行ったりするよう
 な不良の言うこと誰が信じる思うとるんじゃ! 嘘も
 たいがいにせぇ!」
瑤子「嘘なんかついてません!」
清水「口答えする気かぁ!」
   手を振り上げる清水。瑤子と真弓の頬を張る。
渡辺「四人もいっぺんに退学にするわけにもいきません
 からね。かと言って君たち、停学処分になったって家
 でダラダラ過ごすだけでしょ? 反省なんかちっとも
 しない。だよね、目黒さん」
真弓「よくお分かりで」
清水「目黒ぉ!」
渡辺「ちゃんと登校してもらうよ君たちには。学内停
 学処分とします」
瑤子「学内停学――」
渡辺「松島さん」
   職員室の後ろに立っていた用務員、松島治郎
   (59)を見る四人。
渡辺「軍曹殿にその腐った精神を叩き直してもらいな
 さい」
   不安げな四人の顔。

〇前同・校庭
   治郎の後について校庭を横切る学生鞄持った瑤
   子、美波、真弓、冴枝の四人。一人ずつのアッ
   プショット。そこに回想場面が重なる。
●瑤子
  〈テロップ・加瀬瑤子〉
(ライブハウス【ガレージ】)
   ステージで歌っているアマチュアシンガー麻生
   紫乃(24)。彼女が唄っているのは甲斐バン
   ドの『ちんぴら』。厨房部でリズム取りながら
   心地よく聞いている瑤子。
●美波(二年五組教室)
   数学の授業中。ノートに〈三菱銀行北畠支店人
   質事件〉の犯人、梅川昭美の絵を一心不乱に書
   いている美波。
●真弓(阪神競馬場)
   ゴール前の芝生席。ゴールインする馬群に歓喜
   の叫びをあげて飛び跳ねる真弓。
●冴枝(安アパートの一室)
   裸になって三角座りをしている冴枝。彼女の姿
   をデッサンしている大学生尾関誠(21)。

〇前同・用務員棟玄関前
   立ち止まる治郎。振り返り四人を見る。玄関を
   コナし中に入る。四人、逡巡の後に中へ。(用
   務員棟は松島夫妻の暮らす民家でもある)

〇前同・用務員棟・六畳間
   コの字型の文机が前に二つ。後ろに二つ。前列
   に瑤子と美波、後列に真弓と冴枝が座っている。
   彼女たちの前に胡坐をかいている治郎。重い沈
   黙が漂っている。戸が開き、入ってくる治郎の
   妻、菊代(50)。
菊代「はい、みなさんいらっしゃい」
   菊代ニコニコと治郎の隣に座る。
菊代「教頭先生のご指示により、本日から一週間、わ
 たしたちが皆さんを監視、指導いたしまーす。言う
 なればここは皆さんの座敷牢。わたしたちは看守や
 ね。決まりを守らない者は石抱きの刑に処す! あ
 ははは」
   菊代の明るさに戸惑っている四人。
治郎「くだらんことを言うな。まったく、自分らが監
 督するのが面倒くさいからいうてこういうアプレゲ
 ールどもを押しつけくさるとは……」
   治郎の頭をはたく菊代。驚く四人。
菊代「それ言うなって言うたやろうが!」
   ぶすっとした顔の治郎。
菊代「ごめんねぇ。この人アホやから。あ、この人確
 かに軍人やったけど鬼軍曹なんかやないからね。た
 だの万年二等兵。殴るより殴られる方。軍曹いうん
 はここでこの仕事するようになってから流れた根も
 葉もない噂。噂の大本はご当人やないかとわたしは
 見てるんやけど、ねぇ?」
治郎「そんな覚えはない」
菊代「先生や生徒さんに嘗められんとこ思たら二等兵
 より鬼軍曹の方が効果あるもんね、ねぇ?」
治郎「そやからそんな覚えはないと言うとる」
菊代「あんな、ほんまは喜んでるんよこの人。その文
 机、三日かけてこの人がこしらえたんやから」
治郎「残っても使える思ったからや」
菊乃「ふふふ。根はええ人やから怖がらんでもええよ。
 みんなはええ子。アプレなんかやない。おばちゃん
 顔見たら分かる。そやけど教頭先生もアテが外れて
 しもたよね、鬼軍曹なんかやないんやもんこの人」
   ニコニコ微笑む菊代を見つめる四人。
    ×     ×     ×
   文机の前で反省文を書いている四人。
真弓「なぁ」
   答えない三人。
真弓「なぁって。えーと、加瀬さん」
瑤子「――なに」
真弓「アプレってなに?」
瑤子「知らんけど」
冴枝「わたし、おばあちゃんに同じこと言われた。
『冴枝はアプレになったんか』って。不良とかそう
 いう意味やないんかな」
真弓「不良か――まあどうでもええけど――あ~、
 もうかなわん。なにが反省文や。アホかしょうも
 ない」
   後ろに寝転がる真弓。
真弓「生駒さんやぁ」
冴枝「なに」
真弓「その大学生の彼とは別れたん?」
冴枝「うぅん。まだつきあってるで」
真弓「へぇ、そうか。なんでバレたん、ヌードモデ
 ルやってるって」
冴枝「彼な、大学の美術部員なん。そやからな、OB
 合同展ってやつにわたしの絵出したんよ。それを美
 術のモロが見たんよ。毎年それに行ってるんやって
 モロ。裸婦画も結構出てる展覧会やねん。絶対それ
 目当てやで、あいつ」
●〈インサート・大学の美術展で冴枝の裸婦画を凝視
 する美術教師、諸積〉
真弓「そうやったんや。嫌やなかった? 他の人に自
 分の裸見られるのん。なんぼ絵でも」
冴枝「べつに。マコっちゃん、すごい綺麗に描いてく
 れてたから大勢に見てほしいくらいやった。そやけ
 どモロに見られた思うたらすごい嫌」
真弓「はは。そっか。ええやんね、本人がかまへんっ
 て言うてんねんから。けどモロ、その絵が生駒さん
 モデルにしてるってよう分かった――分かるよなぁ。
 学校一の美人さんやもんなあ。モロ絶対いやらしい
 目で生駒さんのこと見てるねんで」
冴枝「やめて、サブイボ出る……」
真弓「ほんでさ生駒さん」
冴枝「ん?」
真弓「そのマコっちゃんとは、最後までいったん?」
   見つめあう真弓と冴枝。瑤子、美波も聞き耳を
   たてている。
冴枝「うぅん、まだ。わたしはべつにええねんけど、
 まこっちゃんが『おまえが高校卒業してからや』って」
真弓「へぇ、真面目な人なんや」
冴枝「そうなんかなぁ。会うた日から裸描かせろってし
 つこう言うてきたんやけど」
   笑う冴枝と真弓。
冴枝「目黒さんはなんでばれたん? 競馬やってること」
真弓「ばれるもなにも現行犯。仁川――阪神競馬場で
 補導員につかまった」
●〈インサート〉
   阪神競馬場の芝生観覧席。的中を喜ぶ真弓の後ろ
   から補導員が近づき真弓の肩を叩く。振りかえる
   真弓。厳しい目をした補導員〉
真弓「二十歳の社会人ですって言うてんけど、干支訊か
 れて終わり。メイクもバッチリ決めてたから、大丈夫
 やって思ててんけどなあ」
冴枝「確かに目黒さんがお化粧したら二十歳以上に見え
 るやろね」
真弓「せやろぉ。ぬかったわ、ほんま」
冴枝「なんで競馬好きなん?」
真弓「ああ――死んだオトンが好きでな。子供の頃から
 ずっと仁川に連れてってもらってた。オトン死んでか
 らは競馬中継見てるだけやってんけど、やっぱり物足
 りんようになってしもて。高校入って化粧して仁川に
 行くようなった。難波の場外にもよう行ってる。加瀬
 さんは?」
   瑤子、振り返り。
瑤子「わたし? わたしもまあ現行犯ってとこ。いっつ
 も行ってるライブハウス出て歩いてたら清水と小堀の
 ババァに見つかった」
●〈インサート〉
   【ガレージ】を紫乃と一緒に出る瑤子。腕を組ん
   で歩く二人の前に立つ補導員の腕章を付けた小堀
   と清水。〉
冴枝「お酒とか飲んでへんかったんやろ」
瑤子「うん。それは紫乃ネェが絶対にアカンって。生駒
 さんの彼氏やないけど、高校出てからやって――けど、
 小堀のババァ、許さへん、絶対」
冴枝「え?」
瑤子「紫乃ネェのこと『思ってたとおり盛り場うろつく
 女になった』って。『あなたみたいなのが不良を育て
 るんだ』って。あんなん絶対許さへん」
真弓「その紫乃ネェって人もここの卒業生?」
瑤子「うん。小堀のババァにずっと目のかたきにされて
 たって言うてた」
真弓「――死ねよババァ。まあわたしとあんたは髪のド
 ラも乗っかってんねんけどな。なにがアカンのか全然
 分からへんけど」
瑤子「ほんまに」
冴枝「ええ感じのウェーブやんね。目黒さんの髪の色も
 素敵やわ」
   しばらくして三人の視線は自然と美波へ。美波、
   ペンを持ったまま俯いてじっとしている。
瑤子「あ、あの、次藤さんは……」
美波「気持ち、悪いやんね――」
瑤子「え」
美波「気持ち悪いやんね、わたし」
   言葉に窮する三人。美波、バッと体を三人の方に
   向ける。驚く三人。
美波「ずっとテレビ観てた、あの事件。銀行のシャッター
 が閉まってて。ずっとそればっかりカメラが映してて。
 中でなにがおきてるんやろうって、ドキドキしながら。
 新聞に、犯人の、梅川の写真が載って。この人、殺さ
 れたんや、この人、人間四人も殺したんやって思った
 ら、眠れへんようになって。それから、ずっと、あの
 事件のことが、梅川のことが、頭から離れへんように
 なって。夢に出てくるようになって――」
  美波を見つめる三人。
美波「テレビで観たあの事件の場面とか、新聞の写真と
 か、描くようになって。こんなん描いたらアカンって
 思うんやけど、けど、どうしても描いてしもて――」
   ズリズリと膝で這い、部屋の隅へ行く美波。膝を
   抱えうずくまる。
瑤子「――絵、描いただけで」
美波「美術部で、石膏デザインしてるときにも、梅川が
 猟銃構えてる絵を描いてしもて。それ、顧問の諸積先
 生に見られてしもて」
●〈インサート〉
   美術教室。石膏デザインをしている部員たち。梅
   川昭美が人質の女性銀行員を全裸にしてわが身を
   固めている絵を描いている美波。その後ろに立っ
   ている諸積。
真弓「またモロか……」
冴枝「なぁ」
美波「諸積先生、わたしのこと、精神が歪んでるって。
 教頭先生、わたしがいちばん矯正が必要やって」
   膝を抱えグスグス泣く美波。その背をじっと見つ
   める三人。
瑤子「次藤さん」
   振り返る美波。三人、まっすぐ美波を見る。瑤子、
   学生鞄を開けガサゴソ。
瑤子「新品があった――(ノートを美波に差し出し)なぁ、
 書いて。梅川の絵」
   瑤子を見つめる美波。ズリズリと膝で這って瑤子
   に近づく。

〇前同・運動場
   体育の授業中。運動場を周回させられている四人。
真弓「これ、毎日?」
瑤子「やって」
美波「お昼ごはんの後はやめてほしい」
冴枝「うん、気持ち悪い……」
   サッカーの審判をしている清水。
清水「こらぁ! おまえらなにチンタラ走っとんねん! 
 もっとしっかり走らんか!」
   ダラダラと走る四人。

〇瑤子の家・外景(夜)
   一戸建ての民家。

〇前同・瑤子の部屋(夜)
   机の前に座り、美波の描いた梅川昭美の絵をじっ
   と見ている瑤子。ページをめくりペンを取る。
瑤子モノローグ「一九七九年、六月十一日。わたしたち
 四人は、何の縁あってか、一週間の囚人となった。ヒ
 マつぶしがてらこのノートに、みんなしてココロに移
 り行くよしなしごとを、そこはかとなく書きつくって
 いくのも、あやしうこそものぐるほしけれ、なんちゃっ
 て。実は古文は得意ナノだ! あ、次藤さん。という
 よりももう名前で書いてまうけど美波!(照れるねど
 うも。でも、もうみんな名前で呼ぼ)落ち込むな! 
 ド迫力だ美波の絵は!……」
   楽し気に書き続ける瑤子。

〇茜原高校・用務員棟前(朝)
   〈テロップ・二日目〉
   立っている清水に、持ち物検査で鞄の中を見せる
   四人。
清水「どうや、軍曹殿は」
冴枝「……うるさくしてて、叩かれました」
   俯く冴枝。
清水「さすが。軍人の精神は忘れてないんやな。あの人
 におまえらを預けた教頭先生の判断は正しかったよう
 や――あぁ、加瀬、目黒。職員会議で決まった。おま
 えら最終日までに髪、直さんやったら退学や」
  去っていく清水。

〇前同・六畳間
   四人、互いの顔が見えるよう、文机を     
   部屋の中央に寄せて座っている。
真弓「女優になれるんやない、冴枝」
瑤子「うん。上手かった」
冴枝「軍曹いうのは嘘でほんまは二等兵です、なんて言
 えへやん。軍曹殿の名誉のためにも」
   笑う四人。
美波「でもどうするん二人。清水、退学やって言うたよ」
   沈黙。
真弓「知らんわ、そんなん……」
瑤子「……うん」
   扉が開き、作業着の治郎が入ってくる。
瑤子「あ、軍曹殿」
治郎「その呼び方はやめろと言うとる」
真弓「じゃあ、二等兵どの」
治郎「……嘗めおって、このアプレどもが」
   後ろに立っていた菊代、治郎の後頭部を思い切り
   はたく。
真弓「お約束だ」

〇学校農園
   用務員棟裏にある学校農園。鍬をふるい畝作りを
   している体操服姿の四人。誰もがよろけ、ふらつ
   き鍬を地にうちつけている。その様をじっと見て
   いる治郎。隣で菊代もニコニコと。
真弓「おばさぁん」
菊代「なにぃ」
真弓「これも教頭がやれって?」
菊代「うぅん、これはわたしが考えた。反省文や自習ばっ
 かりやったら退屈やろ。服役中は労務作業がつきものや
 ないの。ちょうど畝作りせなって思ってたところやった
 し。あはは」
真弓「……鬼軍曹はおばさんや」
菊代「あははは」
   鍬をふるい続ける四人。それを見ている治郎と菊代。

〇用務員棟・六畳間
   疲れ切り、横たわっている四人。入ってくる菊代。
菊代「はい、みんなお疲れ様。よう頑張ってくれたからご
 褒美。おかきはおばちゃんの手作りや」
  ふかし芋とおかき、冷たいお茶の入ったコップが載っ
  た盆を床に置く菊代。菊代を見る四人。
菊代「なに?」
瑤子「……鬼なんだか仏なんだか」
   起き上がる四人。
    ×     ×     ×
   食べ、飲みしている四人を微笑んで見ている菊代。
真弓「おばさん」
菊代「なに」
真弓「ええの、こんな緩い管理で。まぁわたしらはありが
 たいんやけど」
菊代「先生らに怒られへんか心配してくれてるん? やっ
 ぱりええ子ねぇ」
真弓「別にそういうわけや……」
菊代「大丈夫やで――そないしておいしそうにお芋食べて
 るの見てると、梓ちゃんのこと思い出すわぁ」
冴枝「え」
菊代「本山梓ちゃん。みんな同級生やんね」
   顔を見合わせる四人。
瑤子「……あの、おばさんは本山さんのこと、知ってるん
 ですか」
菊代「よう放課後ここに来てね、そないしてお芋食べたり、
 おかき食べたりしてたんよ、梓ちゃん。友達らしい友達
 もいてへんかったみたいやから、居心地よかったんやろ
 ね。さっき畝作りしたあの畑も、よう手伝ってくれたんよ」
   言葉が出ない四人。
菊代「生き急いでしもうたんかな、梓ちゃん」
   扉が開き治郎が入ってくる。無言で部屋を横切り、
   玄関から出ていく治郎。
×     ×    ×
   文机を寄せ向かい合って座る四人。
瑤子「わたしな、本山さんが亡くなる少し前、ちょっとだ
 け仲良くなってんのよね」
真弓「え、わたしもやで」
瑤子「え、そうなん?」
冴枝「それ、わたしも」
真弓「ほんまに?」
美波「あの、わたしもそう。本山さんと、少し仲良うなった」
   顔を見かわす四人。
瑤子「本山さん亡くなったんってこの春休みやったよね」
真弓「そやから仲良うなったの、一年の終わり。春休み
 に入るちょっと前」
美波「わたしもそう」
冴枝「わたしは春休み入ってすぐ」
瑤子「わたしも冴枝といっしょや」
美波「あぁっ!」
瑤子「びっくりしたぁ、なによ」
美波「思い出した。わたし、聞いてる。本山さんから、真
 弓ちゃんのこと聞いてる。競馬の予想してる子がいるっ
 て。それ、真弓ちゃんのことやんね?」
   頷く真弓。
冴枝「あぁ――わたしも美波のこと本山さんから聞いてた
 わ。絵がすごい上手い子がいる、今度油絵のモデルにな
 る約束したって。美波のことやんね」
   頷く美波。瑤子を見る三人。頷く瑤子。
瑤子「聞いてる、本山さんから冴枝のこと。『わたしと生
 駒さん、ちょっとだけ不良なんやで』って言うてた」
冴枝「ちょっと。なによこれ」
瑤子「順を追っていこうよ。じゃあ本山さんと最初に仲良
 うなったんって、真弓やんね。どういうきっかけで?」
真弓「だからさっき美波が言うたやろ。競馬の予想や」
瑤子「詳しく教えてぇや」

〇〈回想場面・真弓と梓の出会い〉
  ●椿原高校・図書室
   大机。隅の席に座り、競馬新聞を置き、ノートを取っ
   ている真弓。斜め前に座っている本山梓。本を開く
   が真弓が気になり、ちらちらと彼女を見る。
真弓「気になんねんけど。そないしてチラチラ見られたら」
梓「え――あ、ご、ごめん」
   俯く梓。
真弓「いや、別に謝らいでもええけど……気になる? な
 にしてるか」
   真弓をじっと見る梓。小さく頷く。
真弓「競馬の予想や」
梓「競馬――ほんまに買うん?」
真弓「――そやったら? 先生に言うわけ?」
   首を横に振る梓。
梓「あの、その新聞、見せてもらってええ?」
真弓「え」
   見つめあう二人。真弓、競馬新聞を梓に差し出す。
   梓、出馬表をしばらく見て。
梓「この、リキアイオーっていうのがええな」
真弓「え」
梓「ほら、漢字で書いたらこうやん」
   『力愛王』とペン書きした新聞を真弓に差し出す
   梓。真弓、『力愛王』の文字をじっと見て。梓を
   見る。笑っている梓。
真弓「あんた、もしかして彼氏いてるん?」
   はにかみ、小さく頷く梓。
真弓「へぇ」
   微笑んで真弓を見つめる梓。
瑤子〈声〉「で、当たったん?」
真弓〈声〉「うん。当たった。それ、弥生賞っていうレ
 ースで、リキアイオー見事一着。八頭立ての一番人気
 やったから全然つかへんかったんやけど、お礼に学食
 でカツカレーおごってあげたら、あの子ものすごい喜
 んでな」
美波〈声〉「カツカレー」
真弓〈声〉「うん」
  ●椿原高校・学生食堂
   真弓の前の席に座り、嬉しそうにカツカレーを食
   べる梓。その様子を微笑んで見ている真弓。

〇用務員棟・六畳間
真弓「負けが込んでたから、静かにゆっくり検討したい
 思って図書室行っただけなんやけどさ。次のスプリン
 グステークスもリキアイオーで取らせてもろた。新学
 期になったらまたカツカレーおごるつもりやったんや
 けどさ……」
冴枝「力、愛、王、か……」
真弓「美波は?」
美波「うん、えっとね――」

〇〈回想場面・美波と梓の出会い〉
  ●椿原高校・裏庭
   初代の女性校長の胸像向かいにある古びたベンチ
   に座り、スケッチブックを開いている美波。
美波〈声〉「裏庭のな、千代ちゃんの隣のベンチに座っ
 て、梅川の絵ぇ描いてたんよね」
瑤子〈声〉「千代ちゃん?」
美波〈声〉「ほら、裏庭に初代校長の像があるやん?」
真弓〈声〉「あったかいな、そんなん?」
冴枝〈声〉「知らんわ」
美波〈声〉「うん、やんね。知らへん人多いと思う。わ
 たしもそのちょっと前に見つけたんよ。誰も来ぃひん
 から、落ち着いて絵ぇ描くにはもってこいなんよね。
 でね、気が付いたら後ろに本山さんが立ってた。後で
 訊いたら、ときどきそのベンチで本読んでるって言う
 てたわ」
   振り返る美波。後ろに立ち、真弓の描いている梅
   川の絵をじっと見ている梓。美波、固まる。梓、
   前に来て美波の隣に腰を落ろす。
梓「わたしも、ずっと見てた」
美波「え」
   見つめあう美波と梓。
梓「女の人、裸にして並べて、バリケードにしてたんよね」
美波「うん」
梓「ほんま酷い――その場面も描いた?」
美波「うぅん、さすがに描けへん。新聞に写真載ってないし」
梓「そっか。でも、描くんやったらそこまで描かなあかん
 のとちゃうかな。ちゃんと想像して」
美波「え」
   美波を見て微笑む梓。
梓「えらそうやねわたし。ごめんね」
  首を横に振る美波。
美波「うぅん、そのとおりやと思う」
梓「けど、ほんま絵上手やね」
美波「ありがと。そうや、なぁ、ちょっとその横に立って
 みてぇな」
梓「え」
美波「絵、描かせて」
梓「え――なんでわたしなんか」
美波「なによそれ。ほら早ぅ」
梓「うん」
   立ち上がり胸像の横に立つ梓。梓をモデルに鉛筆
   を走らせ始める美波。

〇用務員棟・六畳間
   美波「それから三回くらいかなあ、本山さんとそこ
   でいっしょになったん。会うたび彼女のスケッチし
   てた」
真弓「地獄絵図専門じゃないんやね、美波」
美波「うるさいわ。で、最後に会ったとき、今度油絵のモ
 デルになってって頼んだんよ。本山さん、すごく喜んで
 くれた」
瑤子「なんで本山さん描きたいって思ったん? 美波は」
美波「え? あぁ、ほんまや、なんでやろ」
真弓「どっちかって言うと暗い感じの子やったよね」
美波「うぅん、ちがうで」
真弓「え」
美波「確かにそれまでは暗い感じやったかもしれへんけど、
 なんか、明るくなりかけてるっていうか、変わりかけて
 るっていうか……そういうところが気になって、あの子
 の絵、描きたいって思ったんかもしれへん」
真弓「確かに……カツカレー食べてるあの子見たとき、わ
 たしもそれ思った」
美波「もっと仲良うなれそうな気がしたんよね。『いつか
 彼と一緒の絵も描いて』なんて言うてくれた」
瑤子「そっか」
真弓「――次は冴枝か」
冴枝「うん。美波には油絵のモデルやる約束したみたいや
 けど、もう絵のモデルやってたよあの子」
瑤子「え、それって」
冴枝「うん、わたしといっしょに」

〇〈回想場面・冴枝と梓の出会い〉
  ●誠のアパート・彼の部屋
   シーツを体にかけ、寄り添っている冴枝と梓。スケッ
  チブックに二人の姿をデッサンしていく誠。
冴枝〈声〉「下着はつけてたんやけどさ。レズっぽい絵いっ
 ぱい撮いてもろたんよ」
真弓〈声〉「冴枝が本山さん誘ったん?」
冴枝〈声〉「うぅん。本山さんの彼氏がまこっちゃんの友
 達の友達でな。まこっちゃんが一回そういう絵描いてみ
 たいって言うてるの聞いたんやて」
美波〈声〉「その彼氏があの……」
冴枝〈声〉「うん。そのとき本山さん、一人でまこっちゃ
 んのアパートに来たから、彼氏の顔は見ぃひんかった。
 お互い学校で顔は知ってたから、すごいびっくりした」
真弓〈声〉「やろうね」

〇用務員棟・畳敷きの部屋
冴枝「けどな、まこっちゃん、本山さんの彼氏にすごく
 怒ってたわ」
真弓「え、なんで」
冴枝「『なんでいっしょについてきてやらへんのや』っ
 て。『彼女の不安な気持ちが分からへんのか』って」
美波「そっか」
冴枝「――終わって、二人で本山さん駅まで送ってると
 き、本山さん、わたしがいてくれてほんまによかったっ
 て言うてくれたんよ。ほんまはすごい怖かったんやと
 思う」
瑤子「うん、そやろね」
真弓「なんであの彼氏、本山さんにモデルになれって言
 うたんやろ」
冴枝「――まこっちゃんから聞いてんけど、『俺の言う
 事どこまできくか試したった』って言うてたって……」
真弓「ちょっと、なによそれ……」
美波「ひどい……」
美波「本山さんがモデルになったんはその一回きり?」
冴枝「うん。わたしがいっしょやったら、またモデルになっ
 てもええって言うてくれたんよ、本山さん」
真弓「――そしたら最後。瑤子はどういうきっかけなんよ」

〇〈回想場面・瑤子と梓の出会い〉
   ●ライブハウス【ガレージ】内
   ステージでギターを弾いて歌っている紫乃。唄って
   いるのは甲斐バンド『きんぽうげ』。厨房で調理の
   手伝いをしながら紫乃の歌を聴いている瑤子。
瑤子〈声〉「その日もガレージで紫乃ネェの甲斐バンド聴
 いてたん」
真弓〈声〉「『その日も』って、よう行ってるの? そこ」
瑤子〈声〉「ああ――うん、よう手伝いに行ってるんよ。
 わたしは真弓と逆。お母さん小三のときに胃がんで死ん
 でもうてるん」
真弓〈声〉「そうなん」
瑤子〈声〉「うん。でな、ガレージの美幸ママとお母さん
 が友達やったからそこでようご飯食べさせてもらってる
 んよ。オトン長距離の運転手やから、家にいぃひんこと
 多いから」
真弓〈声〉「紫乃ネェって人は?」
瑤子〈声〉「ああ、ガレージでバイトしながら歌ってるん
 よ。今は甲斐バンドの曲ばっかり唄ってる」
真弓〈声〉「かっこええよね、甲斐よしひろ」
瑤子〈声〉「うん。やんね。でな、そのときに本山さんが
 入ってきたんよ」
   店内に入ってくる梓。梓に気づく瑤子。梓も。二
   人見つめあって。
瑤子〈声〉「すごいびっくりした。ガレージみたいなとこ
 ろに来るイメージなかったも
ん」
冴枝〈声〉「やろうね」
瑤子〈声〉「未成年の入店は断ってんの美幸ママ。そやか
 らそのときも断ったんやけどね」
   店を出ていきかける梓。
瑤子〈声〉「なんかな、後ろ姿がすごい寂しそうやってん。
 美幸ママに『友達やから』って言って入店許してもろた」
冴枝〈声〉「友達」
瑤子〈声〉「うん。同じクラスやったけど、話ししたこと
 はほとんどなかったけどね」
   テーブル席に座り、紫乃の歌を聴いている梓。瑤子、
   オレンジジュースを持ってきて梓の前に置き、隣に
   座る。甲斐バンドの『シネマクラブ』を歌う紫乃。
梓「〈♪〉『もうおしまいさ すべては手遅れなにもかもが
 狂っちまった今 思い出すのは 思い出すのは 雨さえ
 凍てつき凍ってたあの夜』……」
   口ずさむ梓。
瑤子「好きなん、甲斐バンド?」
梓「え、あ、うん。思い出の歌」
瑤子「思い出の」
梓「うん。あんな、わたしな、もう済ませてしもてるん」
瑤子「え――あ、そうなん」
梓「以外やった?」
瑤子「うん、ちょっと」
梓「初めてのときの後な、彼がラジオつけたん。そしたら
 この曲がかかったんよ」
瑤子「そっか。わたしも大好きや甲斐バンド。アルバム
 持ってる?」
梓「うん。『誘惑』買った」
瑤子「じゃあ『サーカス&サーカス』は?
   首を横に振る梓。
瑤子「その前に出たライブアルバムや。すごいで。今度
 貸したげよか」
梓「ほんまに? ええのん?」
瑤子「うん」
梓「――うれしい」
瑤子「うん」
   笑いあう二人。
梓「さっきな」
瑤子「うん」
梓「彼とけんかしてな」
瑤子「うん」
梓「いきなり別れ話、きりだされてしもてな」
瑤子「そうなん」
梓「大学の同級生で、他に好きな女ができたから別れて
 くれって……そんなん、そんなんアカンわ」
瑤子「……」
梓「どないしてまぁくんの部屋出たのか覚えてへん。ど
 こを歩いてきたのかも覚えてへん。気がついたらこの
 お店の前に立ってた。黒板見て、この店入った」
瑤子「――『すっごい女が甲斐バンド唄います!』」
   瑤子を見る梓。
瑤子「あれ書いたんわたし」
梓「そうやったんや」
瑤子「うん」
梓「加瀬さんが、あれ書いてくれてよかった。ここにい
 てくれてよかった。ほんまによかった」
   紫乃の歌が終わる。涙ぐみ拍手をする梓。ステー
   ジの上から紫乃が声をかける。
紫乃「そこの少女。甲斐バンド好きなん?」
梓「え――あ、はい、あの、えっと」
紫乃「おいで。いっしょに歌おう。ほら瑤子も。友達なん
 やろ」
   見つめあう瑤子と梓。
紫乃「ほら、早ぅおいでぇや」
   立ち上がる梓。瑤子も。ステージに立つ二人。拍
   手がおきる。
紫乃「お名前は?」
梓「本山梓です」
紫乃「梓ちゃんか。『翼あるもの』。歌える?」
   うなずく梓。
紫乃「瑤子は?」
瑤子「いつも紫乃ネェの聴いてるやん」
紫乃「よし。じゃあいこう。(客席に向かって)今日の
 お客さんは得したなぁ。ピチピチの女子高生の歌声聴
 けるでぇ!」
   紫乃の前奏に続き歌う瑤子。
瑤子「〈♪〉『どしゃ降りの雨を抜け 晴れ間に会えたと
 しても 古いコートはきっと今は脱ぎ捨てはしない 
 今はきっと』」
紫乃「ほら、梓ちゃんも!」
   戸惑っている梓だが、歌い出す。
瑤子・梓「〈♪〉『行く先を決めかねて 佇む一人の曲が
 り角 さすらう風の小耳にそっと 行く先たずねてる 
 うつろな今日』……」
紫乃「おおっ、ええよ! 思いっきり声出せ!」
   紫乃のギターで歌い続ける瑤子と梓。

〇用務員棟・六畳間
瑤子「泣きながら歌てた、本山さん」
冴枝「事件はそのどれくらい後?」
瑤子「一週間も経ってへんかったと思う」
真弓「泣きながら歌ってたんか本山さん」
瑤子「うん。なんかわたしも途中から泣いてた」
   沈黙が降りてくる。
冴枝「みんな、いっぱい噂してたやんね、教室とかで」
真弓「うん、その話ばっかり。ほんま嫌やった」
美波「わたしも。そっとしといてあげてほしかった。み
 んな面白半分で話しして」

〇回想場面〈事件〉
   梓の彼氏の大学生、白井賢輝(二十一)がアパー
   トのベッドで同級生の彼女とペッティングをし
   ている。ドアを開け、入ってくる梓。
   ナイフを持った梓。梓を見る賢輝。飛び起きる。
   彼女の悲鳴。にじりよる梓。修羅場。もみあう梓
   と賢輝。賢輝、ナイフを取り上げようとするが、
   梓、激しく抵抗する。梓を壁に押し付ける賢輝。
   激しくもみ合う二人。はずみでナイフが梓の心臓
   に刺さる。
梓「がふっ……」
   のけぞる梓、膝からゆっくり頽れる。呆然とその
   様を見ている賢輝。

〇用務員棟・六畳間
冴枝「連絡網回ってきたやろ」
美波「うん、お葬式行ったらアカンって」
真弓「知ってる? あれな、家族の人が来んといてほし
 いって言ったからやなくって、校長が全クラスの担任
 に命令したんやで、生徒を行かせるなって」
冴枝「えぇ、なんでよ?」
真弓「新聞やテレビに騒がれたくなかったんやろ。それ
 でなくても校門前にマスコミいっぱい来てたやん」
美波「信じられへん……」
瑤子「あのときな、新聞や雑誌のインタビューに嬉しそ
 うに答えてた子ら、けっこういてたよね」
冴枝「うん、いてた。テレビに出たって喜んでる子、大
 勢いてた」
真弓「わたしもテレビ局の人間からマイク向けられたわ」

〇回想場面・真弓の登校風景
   登校している真弓。近寄ってくる女性テレビリポ
   ーターの木崎(33)と若いカメラマン。二人、
   真弓にまとわりつくようにして。
木崎「あの、ちょっといいかな。亡くなった本山さんに
 ついてお話聞かせてもらいたいんだけど」
   無視して歩く真弓。
木崎「時間は取らせないわ。(名刺を取り出し)浪速あけ
 ぼの放送です。顔は隠して声も変える。ね、だからちょっ
 とだけ。やっぱり、夜遊びの噂とかある女の子だったの
 かしら、本山さんは」
   真弓、立ち止まり木崎の名刺を受け取り、じっと見る。
真弓「名刺、貰っとくわ」
木崎「うん。で、本山さんって」
真弓「後で局に抗議の電話かけるから」
木崎「え」
真弓「死んでまえ」
   去っていく真弓。その後ろ姿を呆然と見送る木崎。

〇用務員棟・六畳間
美波「……お葬式、出てあげたらよかった。なんでそんな連
 絡無視して、お葬式行かへんかったんやろ……」
   美波、俯き涙をこぼす。
美波「もう、本山さんの絵ぇ、描けへん……」
   美波をじっと見つめる三人。瑤子、ノートを取り出す。
   美波に差し出す。
美波「?」
瑤子「なに言うてんのよ。書いてぇや。本山さん――梓の絵。
 覚えてるやろ、あの子の顔。わたし、ちゃんと覚えてるで」
   瑤子を見つめる美波。頷く。鉛筆で梓の顔を描き始める。

〇茜原高校・運動場
   体育の授業中。運動場を周回させられている四人。
瑤子「アカンのや、絶対」
真弓「なにがよ」
瑤子「本山さんのことや。わたしらまで、他の子らと同じになっ
 たらアカンのや、絶対」
冴枝「うん」
美波「そうやよね」
   ラグビーの審判をしていた清水が叫ぶ。
清水「こらぁ! ペチャクチャ喋りながら走るなおまえら! 
 周回増やすぞ!」
真弓「あいつさぁ」
瑤子「うん」
真弓「来世はミジンコとかに生まれ変わったらええのにな」
冴枝「上等すぎやわ。ミドリムシとかで十分や」
美波「言うやん、冴枝ちゃん」
   走り続ける四人。

〇瑤子の家・廊下
   ノートを手に電話している瑤子。黒電話の受話器を耳
   に当て、楽し気に。
瑤子「そやからな、学内停学って言うてもな、けっこう楽し
 くやってるわ。あ、他の子には言うたらアカンで、軍曹殿
 が二等兵やったって。軍曹殿にもメンツってものがあるん
 やからさ――え、うん、どんな様子かって――さっきから
 えらい冴枝のこと訊くなぁあんた。ちょっとぉ、あんたも
 しかして――おいおいおい、図星かいな。ひゃっひゃっひゃ! 
 ごめんごめん。そうかぁ、そうやったんかぁ。でも、でも
 やぁ。ひゃっひゃっひゃ! いやぁ、悲恋、悲恋やねぇ、
 和友くん、悲しいねぇ、ひゃっひゃっひゃ!」

〇用務員棟・六畳間
   〈テロップ・三日目〉
   文机を寄せ合って座り、自習のふりをしている四人。
   瑤子、頬杖ついて冴枝の顔を見つめる。
冴枝「なによさっきから」
瑤子「いやあ、やっぱきれいよね、冴枝って」
冴枝「なに、急に」
瑤子「まこっちゃん、なんか言うてんの、今回のことで」
冴枝「うん。わたしたちつきあってるのはお父さんもお母
 さんも知ってたん。そういうのうちって大らかやから。
 けどさすがにヌードデッサンのことはお父さん怒って。
 でね、まこっちゃん、家に来て頭下げてくれた。『娘さ
 んの美しさを永遠に残したかったんです』なぁんて言う
 てくれてさ」
美波「ひゃあ」
冴枝「『娘さんを傷つけたり、悲しませるようなことは絶
 対にしません、そんなことをしたときは、自分から去り
 ます』なんてカッコつけてやぁ」
美波「ひゃあひゃあ」
冴枝「最後お父さん、まこっちゃんといっしょにお酒飲ん
 でた。今、まっこちゃんが描いたわたしの裸の絵、お父
 さんの部屋に飾ってある」
真弓「なんかすごくええ人やんね、まこっちゃんって」
   はにかむ冴枝。
真弓「梓の彼氏もそんな人やったらよかったのに」
瑤子「……あ~、でもこりゃ百対〇やな。勝ち目全くない」
冴枝「え、なにが?」
瑤子「昼休み来るはずやからさ、きっちり介錯してやってぇな」
冴枝「?」

〇茜原高校・中庭
   昼休み。真剣な顔で歩いている高村和友(17)

〇用務員棟・六畳間
   玄関の戸を引き開ける和友。
   弁当後、畳の上に寝転がっていた四人、起き上がり和
   友を見る。
瑤子「はい、おいでなすった」
   三和土の上にたたずんだままでいる和友。
瑤子「ほら、なにやってんの。冴枝に言う事あるんやろ」
冴枝「え、わたしに」
   黙ったままの和友。
瑤子「男やろ、しっかりしいや」
   和友、深呼吸をして、意を決し。
和友「生駒さんっ、好きやっ! 高校入って、初めて見たと
 きから、ずっと好きやっ!きみにつきあっている人がいるっ
 て知ってる! でも、ぼくはきみのことが好きなんや!」
  和友をじっと見つめる瑤子。やがてにっこりと微笑んで。
    ×    ×    ×
   去っていく和友の後ろ姿を三和土に立ち見送る四人。
真弓「幼馴染なんか」
瑤子「うん。カズんち散髪屋でな。幼稚園の頃からあの子の
 店で散髪してもらってる。去年の夏からはカズにやっても
 らってる」
美波「高村君に髪を」
瑤子「うん。門前の小僧ってやつ。すごい上手いで。でも、
 気づかへんかったなぁ、カズが冴枝のこと好きやったなん
 てなぁ」
冴枝「高村君のお尻叩いてくれてありがとう、瑤子」
瑤子「え」
冴枝「勇気出して言ってくれたんやもん――美容院でカット
 してもらってるのやないんやね瑤子は」
瑤子「いらんわそんなん。気持ちええで、カズに顔剃りして
 もろたら」
冴枝「顔剃り。そんなんあるんや」
   小さくなる和友の後ろ姿を見送り続ける四人。
    ×    ×    ×
   文机の前の四人。美波がノートに書いている和友の後
   ろ姿の絵を見ている瑤子、真弓、冴枝。
   戸が開き治郎が入ってくる。
治郎「作業や、立て」
真弓「え~、またぁ」
瑤子「わたしら今な、哀れな青少年の恋心を弔ってるん。
 そやから邪魔せんといてよ、軍曹殿」
治郎「なにをわけのわからんことを言うとるんや」
冴枝「また農作業?」
   首を横に振る治郎。
治郎「早う体操服に着替えてついてこい」

〇プール
   水の抜かれたプール。中に入り体操ズボンを膝ま
   で上げて、デッキブラシで掃除をしている裸足の
   四人。治郎が飛び込み台の上からホースの水をプ
   ールに入れている。
瑤子「ぬるぬるやぁ」
真弓「ちょっとぉ、ゴムゾーリくらい履かせてくれても
 ええやんか、軍曹」
治郎「そんなもん履いたら逆に滑る」
美波「これって毎年軍曹殿がやってたんですか」
治郎「そうや。こんなもん甲板掃除に比べりゃ屁でもない」
瑤子「なら自分でやったらええやんか……」
   やる気のない風情でプールの底を掃除する四人。
治郎「おい」
瑤子「なんですか」
治郎「おまえら仲良かったんか、梓ちゃんとは」
   顔を見合わせる四人。
瑤子「盗み聞きしてるんや……」
治郎「あんなに大きい声で喋ってたら、いやでも聞こえて
 くる。どうなんや」
冴枝「軍曹殿はどうなんです。梓と仲よかったんですか?」
治郎「……贈り物をもらった」
瑤子「え」
治郎「アレが言ったんやろう。結婚の記念日に焼き菓子を
 くれた。自分で作ったんやそうや」
瑤子「焼き菓子」
美波「それって、もしかしてクッキーのこと?」
真弓「焼き菓子って言う?」
冴枝「ふふふ、嬉しかった軍曹殿?」
治郎「……アレがとても喜んでいた」
瑤子「おばさんのことアレって言うのやめたら」
美波「ほんま、女性蔑視や」
真弓「自分も嬉しかったくせして」
冴枝「素直やないね軍曹殿は」
   笑いあう四人。美波、真顔になって治郎を見上げ。
美波「軍曹殿は梓のことどう思ってるんですか」
治郎「――なんであんなおとなしいええ子があんな死に
 方しなんとならんかったんや」
冴枝「梓がアプレだったのがショック?」
治郎「……」
真弓「教えてあげよか。梓はもうバージン捨ててたで。
 で、挙句その男殺しに行って自分が死んでしもうた。
 アプレって言うんやったら、わたしらより梓の方が
 ずっとアプレやで」
冴枝「軍曹殿に悪く思われてるんやったら、梓、悲し
 むと思う」
治郎「――おい」
   プールの外をコナす治郎。四人その方向を見る
   と小堀が近づいてきている。
治郎「何をダラダラやっとるかぁ! 少し目を離した
 らこの有様や! また精神注入してもらいたいんか
 貴様らぁ!」
四人「はい!」
   並んでデッキブラシでプールの底を強く擦り始
   める四人。
治郎「気合が足らん! 掛け声いくぞ! いち、に、
 さん、しっ!」
四人「いち、に、さん、しっ!」
   治郎の横に立つ小堀。
小堀「さすがですわね」
治郎「ああ、先生。手の焼けるガキどもや。すぐにサ
 ボろうとしよる。まぁ、初日に比べたらすこしは言
 う事聞くようになってきましたけどね」
小堀「ご迷惑をかけております――本当にあなたたち
 は勉強なんかより、そうして気持ちを入れ替える方
 が先ね。学内停学の期間、校長先生に言ってあと少
 し伸ばしてもらいましょうか?」
   小堀を見ない四人。掃除を続ける。
小堀「もう梅川の絵は描いてないんでしょうね、次藤
 さん」
美波「――」
小堀「ぞっとしたわ、あなたの絵を見たとき。あんな
 凶悪犯に共感する生徒がこの学校にいるんだと思っ
 たら怖くてしかたなかった。その歪んだ精神、松島
 さんにしっかり叩き直してもらいなさい――じゃ、
 今後もよろしく頼みます」
   プールサイドを歩き去っていく清水。美波、デッ
   キブラシをライフルのように構え、柄の先端を
   小堀の背に向ける。
美波「バキューン」
   瑤子、真弓、冴枝も構え。
瑤子「バーン」
真弓「ズドーン」
冴枝「ガガガーン」
   四人を無言で見つめる治郎。

〇茜原高校・運動場
   雨が降っている。雨合羽を着て運動場を周回させ
   られている四人。運動場にいるのは四人だけ。
真弓「〈♪〉『お~かしくぅって な~みだが出~そぉ~』」
   キャンディーズ『微笑みがえし』の一説を口ずさ
   む真弓。誰も無言で走り続ける。
美波「その歌な」
真弓「ん?」
美波「わたしずっと『お菓子食って』やとばっかり思ってた」
瑤子「は?」
美波「そやから、お菓子食べてなんで泣きそうになんの
 かなって」
   無言で走り続けるが。やがてクスクスと笑いだす四人。
   笑い、やがて爆笑に変わり。四人走るのをやめる。
瑤子「あ、アホや。こいつアホや」
美波「そやかて、そない思うたんやもん」
真弓「思うか普通!」
冴枝「なんで別れの歌でいきなりお菓子食べなアカンのよ」
美波「いや、そやから変な歌詞やなぁって」
   四人、腹を抱え笑い続ける。
   隣接する体育館の窓から清水が顔を出して。
清水「こらぁ! おまえら何やっとんじゃ!真面目に走れ! 
 シバキ回されたいんか!」

〇プール
   夕暮れ。三分の一ほど底がきれいになった水のない
   プールに雨が降り注いでいる。

〇瑤子の家・外景(夜)
   一戸建ての民家である。帰宅した瑤子、屋内に電気
   が点いているのを認める。
   嬉しそうに玄関の戸を開け中に入る瑤子。

〇前同・台所(夜)
   演歌を歌いながら料理をしている瑤子の父、甚太(四五)。
瑤子「ただいま」
   甚太、振り返って。
甚太「おお、おかえり!」
   甚太、満面の笑顔。瑤子も笑う。

〇前同・六畳間(夜)
   刺身や鉄板焼き、巻きずしなどの料理が置かれた
   卓袱台。向かい合わせに座っている瑤子と甚太。
   瑤子の母、瑞恵の遺影が置かれた小さな仏壇がある。
瑤子「そやからさ」
甚太「なんや」
瑤子「食べきれへんって言うてるやん、いつも」 
甚太「そない言いながら全部食べてるやんおまえ」
瑤子「まぁ、そやけど」
   食事を始める瑤子。コップ酒を飲む甚太。
瑤子「オトン」
甚太「なんや」
瑤子「今度のこと、ごめん」
甚太「今度のことって、学内停学のことか」
瑤子「うん」
甚太「悪いことしたって思ってへんのやろ」
瑤子「うん」
甚太「ならかまへんがな。それに、俺も悪かった」
瑤子「え」
甚太「美幸さんの好意に甘えすぎてたかもしれん」
瑤子「――けど、わたしこれからも行きたい、ガレージ。
 美幸ママにも会いたいし、紫乃ネェの歌、聴きたい」
甚太「俺も、おまえには美幸さんも紫乃ちゃんも必要やっ
 て思うてる。おまえをまっすぐ育てるんは、俺ひとり
 やったら正直自信ないからな――おまえ、店出てどっ
 ちの方に歩いてて見つかったんや」
瑤子「どっちって――いつもどおり入り口から出て、まっ
 すぐ歩いたで」
甚太「そしたらこれからは裏口から出してもろて、店裏
 の道を東へ歩け。行くときもそないせぇ」
瑤子「え、それってだいぶ遠回りになるやん?」
甚太「見つかるよりはええやろうが。先生が知ってるん
 なんか灯りの点いた広い道だけや。裏側の細道までは
 知らん。知ってたって怖がってよう入ってこんわい」
瑤子「そっか」
甚太「絶対紫乃ちゃんといっしょに帰ってこいよ」
瑤子「うん。言うたっけ、紫乃ネェってな、ケンカすご
 い強いねんで」
甚太「美幸さんにからんできたチンピラぼこぼこにした
 ことあるらしいな」
瑤子「うん。そのチンピラ『もうしません、もうしませ
 ん、ごめんなさいぃ』いうて泣いて謝ったんやて」
甚太「やりよるなぁ」
   父子二人の和やかな食事が続く。
瑤子「なぁ、オトン」
甚太「なんや」
瑤子「今度さ、わたしも連れて行ってぇな、トルコ風呂」
   ぶっ、と日本酒を吹き出す甚太。
甚太「なっ……おまえ、なにを言うて、おっ、お父さん
 そんなところになんか行ったりは……」
瑤子「なにを言うてんのよ、わたしもう十七やで。気力
 体力充実してるやもめのトラック運転手が、どこかで
 性欲発散させてるなんて考えるん当たり前やん。行っ
 てるんやろ、トルコ」
甚太「……」
瑤子「お母さんに対する裏切りやなんて思わへん。な、
 そやから今度の夏休みな、長旅うつときわたしも連れ
 てってぇや。そんでな、トルコにも連れてってぇや。
 社会見学で」
甚太「アカンに決まってるやろうがぁ!」
瑤子「え~なんでぇ」
甚太「アカンものはアカンっ!」
瑤子「しょうもなぁ……そしたらさ、質問に答えてよ。
 やっぱな、行くたび違う女の子を指名するわけ、オ
 トンは?」
甚太「ちょっ……おまえ、なにを……」
瑤子「行くたび違うトルコ嬢とセックスしてるわけで
 すか、お父様は」
甚太「セっ、セックスって、おまえ……」
瑤子「もう、娘がセックスって言うたくらいで動揺せ
 んといてよ。で、どうなん」
   笑って甚太を見る瑤子。甚太、首をゆっくり横
   に振る。
瑤子「そしたら一人の女の子をずっと?」
   しぶしぶ頷く甚太。
瑤子「へ~え、なんて人? 年は?」
甚太「……もうええやろうがよ」
瑤子「なんて人? 年は?」
甚太「……」
瑤子「なんて人? 年は?」
甚太「駒鳥ちゃん……本名は山城妙子。年は二十九」
瑤子「へ~え、駒鳥ちゃんかぁ。なんで駒鳥ちゃんばっ
 かりになったん?」
甚太「……」
瑤子「なんで?」
甚太「……」
瑤子「なんで?」
甚太「…………目元と声が、瑞恵にそっくりやった」
瑤子「へぇ!」
甚太「……」
瑤子「そうなんや。けど、本名教えてくれるなんて駒鳥
 ちゃんもお父さんのこと本気で好きなんとちがう?」
甚太「ええかげんにせえよ、おまえは」
瑤子「ええよ、わたし新しいお母さんがトルコ嬢でも。
 全然かまへん。オトンが本気で好きな人やったら」
甚太「おまえなぁ……」
瑤子「へっへー、わたしな、一途な恋をする男のお尻
 叩くの上手やってわかったん。なぁ、もう自分ひと
 りのものにしてしもたらええやん駒鳥ちゃん。なぁ、や
 っぱり連れてってぇなそのトルコ風呂。わたしも駒鳥ちゃ
 んに会ってみたいぃ」
   屈託なく笑う瑤子を呆然と見つめる甚太。電話が鳴る。
瑤子「あ、真弓や」
   立ち上がり電話を取りにいく瑤子。一人になる甚太。
   複雑な表情で瑞恵の遺影に目をやる。やがて仏壇に
   向き直る。正座をする。遺影に向かってゆっくり頭
   を下げていく。
   電話で真弓と話をする瑤子の朗らかな声が響いてくる。

〇茜原高校・体育館
   〈テロップ・四日目〉
   朝礼前・全校生徒が整列している。その後ろに並ん
   でいる瑤子、美波、真弓、冴枝。生徒たちが振り返っ
   ては四人を見て、ひそひそと話す。
瑤子「注目の的やね」
美波「学内停学第一号やもん」
真弓「こっち見とるんちゃうわボケ」
冴枝「ええやん、有名人やでわたしら」
   教頭の渡辺が演台の前に立つ。
清水「気をつけ! 礼!」
   頭を下げる全校生徒。四人もやる気のない風情で。
渡辺「え~いつもはわたしがみんなに講話をしている朝
 礼ですが、本日は校長先生たっての希望で、みんなに
 お話があります。全校生徒諸君のことを思ってのあり
 がたいお話なので、しっかり拝聴し、よく胸にとどめ
 ておくように。では、校長先生、お願いします」
   渡辺と入れ替わりに演台の前に立つ校長の富田(58)。
富田「みなさん、おはようございます。今日は、ぜひわ
 たしの口からみなさんに伝えたいことがあります。そ
 れは、この春休み中におきた、本校生徒が関わった事
 件のことです。この事件についてこれまで、わたくし
 始め、すべての先生方がみなさんになんらかの説明を
 することはありませんでした。それはひとえに、新た
 な学年を迎えたみなさんの心に動揺を与えたくなかっ
 たからです。不満に思われていた人もいたと思います
 が、みなさんのことを考えた故の対応であったと、理
 解してください。
 新年度を迎えて二か月が過ぎました。新しいクラスに
 も慣れたことでしょう。ですので、ようやくあの事件
 についてわたしからみなさんにお話ししてもよいとき
 がやってきたと思います。
 事件の概要については、新聞、ニュースなどで見聞き
 したことと思います。改めて詳しくは述べません。そ
 うすることはかえってみなさんの心に再び波風をたて
 ることになるでしょう。本校の生徒が命を落とした。
 それは悲しいことです。本校の校長として、ひとりの
 教育者として、痛恨の極みです。
 ですがみなさん。今一度考えてほしい。果たして彼女
 に非は全くなかったのか。そのような人生の終わりを
 迎えるだけの生活態度ではなかったのか――単刀直入
 に言いましょう。そのような破廉恥なありようで命を
 落とすだけの彼女自身ではなかったのか!
 他山の石という言葉があります。分かりやすく言うな
 ら人のふり見て我がふり直せ、という意味の言葉です。
 みなさん、今一度自分の学生生活、家での生活を振り
 返ってみてください。みなさんには輝く未来が待って
 います。しかし彼女はそれを放棄したのです。自堕落
 で野放図な生き方によって、です。
 みなさん。おきてしまった不祥事は仕方ありません。
 大切なのはこれからです。先生方はいっそう真剣にみ
 なさんを勉強面でも、生活面でも、部活動の面でも指
 導をしてくださるでしょう。みなさんはぜひその気持
 ちに応えてください。みなさんが真剣になれば、先生
 方はなおいっそう真剣になってくれます。そして傷つ
 いた本校の誇りを取り戻しましょう。先生と生徒、共
 に手を取り合って頑張っていきましょう!」
    ×    ×    ×
   朝礼終了。体育館後ろの扉から全校生徒が出て行っ
   ている。四人、並んで立ったままでいる。
   続々と生徒が出ていく。
   四人、無表情で立っている。
   四人、手を繋ぐ。

〇前同・プール
   プールの底を掃除している四人。飛び込み台の上の治
   郎、ホースで水を撒いている。
治郎「どないした。元気がないやないか」
   無言の四人。
治郎「なにかあったんか」
瑤子「――軍曹」
治郎「なんや」
瑤子「軍曹も梓は、あんな死に方して当然の女の子やったっ
 て思う?」
治郎「だれがそんなこと言うたんや」
瑤子「校長。さっき。朝礼で」
治郎「――おまえらはどない思ってるんや」
   治郎を見る四人。
治郎「おまえらもそないに梓ちゃんのことを思ってんのか」
真弓「怒るで」
治郎「ほならええやないか」
美波「ようないわ……」
治郎「おまえら、もしかして学校の先生やから、校長やか
 ら頭がええなんて思ってるのとちがうやろな」
冴枝「え」
治郎「ほら、休むな。今日中に終わらせるぞ」
   水をまき続ける治郎。プール掃除を再開する四人。
    ×     ×    ×
   プールサイド、小休止している四人。治郎は反対側
   の飛び込み台の上から水をまいている。四人の同級生、
   日野令子がフェンスの外に立つ。気づいた瑤子。
瑤子「あれ、日野さんどないしたん。遅刻?」 
   フェンスの向こう。首を横にふる令子。
瑤子「あ、日野さん髪切ったんや。また思い切ってバッサ
 リやったんやね。ポニーテール似合ってたのに」
  涙をぽろぽろとこぼす令子。驚く四人。
令子「髪、切られた、さっき……」
瑤子「え、どういうこと?」
令子「小堀先生に、生徒指導室呼び出されて。その後宿直
 室連れていかれて、散髪屋の人が後から来て……」
瑤子「なん、で……」
令子「ポニーテールが、アカンって」
瑤子「はぁ!? なによそれ」
令子「小堀先生、今年から生徒指導担当になったやん。ポ
 ニーテール禁止の校則作ったん。そやからわたし四月か
 ら、注意されてたんやけど、そんなんアホみたいやから
 無視してたん。そしたら今日生徒指導室に呼び出しがか
 かって……」

〇回想場面・生徒指導室
   立っている令子に向かい合って座る小堀。
小堀「どうしても言うことを聞いてくれないのね、日野さん」
令子「……なんで、ポニーテールがアカンのですか」
小堀「分からないのあなた。女性がね、不特定多数の男性
 にうなじを見せるなんて恥ずかしいったらないわ。男子
 を誘惑してるようなものよ」
令子「そんな、わたしそんなつもりぜんぜん……」
小堀「あなたになくても男子はそう思うの!劣情を誘うの
 よ! 最後よ! ポニーテールやめないの!? これか
 らもしてくるの!? どうなの!? 答えなさい!」
令子「……やめません、してきます」
   にらみ合う令子と小堀。

〇プールに戻って
令子「そしたら小堀先生、だったら学内停学やって。みん
 なの停学が終わったら、一人だけの学内停学やって。そ
 れでいいならポニーテール続けろって……わたし、そん
 なん、そんなん怖ぁて……軍人やった人といっしょなん
 て……あの人、みんな叩きまくってるって、小堀先生が……」
   泣き続ける令子。水をまいている治郎を見る四人。
瑤子「その後宿直室に連れて行かれたん?」
令子「そんな長い髪してるからポニーテールしたくなる
 んだって……」

〇回想場面・宿直室
   宿直室、畳の間。鏡台の前に置かれた椅子に座り、
   初老の散髪屋に髪を切られている令子。涙をこら
   えている。土間に立ちその様を見ている小堀。
散髪屋「きれいな髪やねぇ。もったいないねぇ」
令子「……」
散髪屋「おじさん、お嬢ちゃんみたいな若い子の髪切る
 ことないから、緊張するなあ」
   令子の髪を触る散髪屋のねちっこい手つき。

〇プールに戻って
令子「いやらしい手で髪や首筋、触られて……小堀先生
 の親戚やって言ってた――加瀬さん、目黒さん。その
 散髪屋に髪の毛見てもらえって。それで染めてたり、
 パーマあててたりしてへんことがほんまやったら退学
 はなしやって」
瑤子「小堀のババァがそう言うたん?」
   頷く令子。
瑤子「そうわたしらに伝えろって?」
   頷く令子。
令子「ごめんね……」
真弓「あんたが謝ることなんてなにもないで」
令子「……わたしな、彼氏ができたん。中学のときの同
 級生。高校、別々になったけど。次の日曜、初めてデー
 トするん。でも、こんなの、こんな髪……ポニーテー
 ルで行きたかった……」
   泣く令子を見つめる四人。
令子「みんな、なんか楽しそう。わたしも、みんなといっ
 しょやったらよかったのにな」
   玲子、去る。
美波「こういう気持ちをさ」
冴枝「うん」
美波「殺意って呼ぶんやろうね、きっと」
冴枝「やろうね」
真弓「瑤子、どうするん。その散髪屋に髪見てもらいに
 行くん?」
瑤子「冗談。わたしの髪触ってええのは今のところカズ
 だけなんや。あんたは」
真弓「行かへんに決まってるやん」
美波「――行った方がええと思う、二人とも」
瑤子「え」
美波「それくらいで退学なくなるんやったら、その散髪
 屋に髪見てもらって、地毛やって言ってもらったほう
 がええよ」
冴枝「そやよね。日野さんみたいに髪切られるわけやな
 いんやし」
瑤子「――そうか。でも、嫌やなあ」
真弓「しゃあないかあ――」
   治郎が戻ってくる。四人、きつい目で治郎を睨む。
治郎「――本気で怖いぞおまえらの目は」
瑤子「本気で怒ってるからや。わたしらのこと叩いてるっ
 て、自慢してるん?」
治郎「そんなことはしてへん。けど、今までつまらん嘘で
 くだらん虚勢を張っていたんは確かや。そのことでおま
 えらを傷つけてしまったのなら謝る。すまん」
   頭を下げる治郎。顔を上げる治郎。笑う。四人が初
   めて見る治郎の笑顔。
瑤子「え――」
   治郎をじっと見つめる四人。
    ×     ×    ×
   午後。まだ日差しはきつい。誰もいなくなった水の
   ないプール。底がすべてきれいになっている。

〇椿原高校・運動場
   周回させられている四人。
瑤子「どない思うかな」
真弓「なにが?」
瑤子「日野さんの彼氏。短かなったあの子の髪見て」
冴枝「『短いのもよう似合うで』って言わなアカンよ、男やったら」
美波「うん、そやよね」
   四人、走り続ける。

〇前同・校長室前の廊下
   並んで立っている美波、真弓、冴枝。

〇前同・室内
   立っている瑤子。向かい合って座る校長の富田。
   その隣に立つ渡辺と小堀。瑤子、両手で手にした
   『誓いの言葉』を読む。
瑤子「誓いの言葉。お酒を出すお店にはもう二度と行き
 ません。自分の生活態度を見つめなおし、これからは
 良い生徒であるように努めます」
   満足そうに頷く渡辺。
    ×    ×    ×
   立っている美波。
美波「誓いの言葉。もう二度と反社会的な絵は描きませ
 ん。今後は高校生らしい、健全な絵を描いていきます」
   頷く渡辺。
富田「君は助かったんだ。歪んだ心のまま大人になると
 ころだったんだよ」
美波「……」
    ×    ×    ×
   立っている真弓。
真弓「誓いの言葉。もう競馬場に通いません。馬券の購入
 もしません。また校則で決められているとおり、遊技場
 に立ち入ることもしません」
富田「うん。約束してくれるね」
真弓「はい」
   ×    ×    ×
  立っている冴枝。
冴枝「誓いの言葉。不純異性交遊はもうやめます。これか
 らは清い心で高校生活にはげみたいと思います」
富田「彼とは、どうするのかな」
冴枝「もう別れました」
   満足げに頷く富田。

〇前同・校長室前の廊下
   冴枝が出てくる。四人、歩き出す。

〇前同・渡り廊下
   四人、並んで歩く。
瑤子「こないして平気で嘘つけるようになっていくんやね」
   無言の四人。
冴枝「真弓」
真弓「ん?」
冴枝「これからも競馬場行くん?」
真弓「決まってるやろ」
冴枝「そっか。でも真弓がいちばん危険やで。今度補導員に
 見つかったら――」
真弓「メイクも研究し直す。服もええの買って、ハイヒール
 だって履いたる。それでまた捕まったらそれまで。運がな
 かったってことや」
冴枝「真弓らしいわ。でも、なんでそんな好きなん競馬」
真弓「……」
   立ち止まる真弓。
瑤子「真弓?」
真弓「――お父ちゃん、死んだって言うたよね。ごめん。
 あれ、嘘」
美波「嘘?」
真弓「うん。ほんまはいてへんようになったん。中一のとき」
   真弓をじっと見つめる三人。
瑤子「お父さん、競馬場に?」
   頷く真弓。
真弓「いる。お父ちゃん仁川に絶対いてる。仁川にいてる
 に決まってる。わたし、分かるんや。そやから、絶対見
 つけたる」
   ゴシッと涙を拳で拭う真弓。
   ぷっと笑う冴枝。
瑤子「冴枝、ちょっと……」
冴枝「ごめんごめん。違うん。そやかてさ、真弓お父さん
 探しに行ってるだけやなくって、ちゃんと馬券も買って
 るんやもん。それ思ったら」
美波「確かに」
瑤子「競馬場行ったら、全部のレース買うん?」
   頷く真弓。
瑤子「そしたらお父さんはいつ探してんの?」
真弓「レースとレースの間に……」
瑤子「え、その時間ってさ、次のレースの予想とか、馬券
 買いに行ったりせぇへんの?」
真弓「……まぁ、するけど。パドック行ったり」
瑤子「そんなんしてたらお父さん探す時間ないんやないの?」
真弓「そやから、全レース終わって、出ていく人らの顔ずっ
 と見てたり……」
   真弓を見つめる三人。
真弓「ああ、もう別にええやんか! 目の前で馬が走ってる
 んやもん! 馬券買いたぁなるのが普通やん!」
   爆笑する三人。
美波「見つかったらええね、お父さん」
瑤子「もう少し真面目に探さな無理やわ」
冴枝「万馬券持って感動の対面かぁ」
真弓「うるさい!」
   四人、賑やかに喋りながら並んで渡り廊下を歩いてい
   く。校舎に繋がる階段を上がる前、置かれたごみ箱の
   横で立ち止まる四人。
瑤子「あほか、こんなもん」
   『誓いの言葉』を書いた紙を丸め、捨てる瑤子。残る
   三人も瑤子に倣い紙を丸めゴミ箱に捨てていく。校舎
   に入っていく四人。
   その様を渡り廊下の端から小堀が見ている。

〇前同・用務員棟
   四日目の学内停学を終え、棟を出てくる四人。菊代も
   出てくる。
菊代「はい、本日もお疲れ様でした。後二日、頑張ってね」
瑤子「なにを頑張るのか分からへんけど……」
菊代「うちの人から聞いた。校長先生、梓ちゃんのこと、み
 んなの前で悪う言うたんやてね」
   菊代、財布を取り出し中から一枚のカードを取り出し
   四人に見せる。
梓の声『結婚記念日、おめでとうございます。わたしも彼と
 素敵な結婚をして、二人のようにいつまでも仲良く暮らし
 たいです』  
菊代「手作りのクッキーといっしょにもらったん。わたしの
 宝物や。ずっと大事に持ってるんよ――みんなは梓ちゃん
 のこと、悪う思わんといてあげてね」
   カードをじっと見つめる四人。

〇前同・自転車置き場(夕方)
   瑤子と真弓が帰りかけている。別れていた美波と冴枝
   が全力で走ってくる。二人の少し前で止まる。
美波「行こう、そいつの家に。そんなに遠くやない」
瑤子「え」
冴枝「梓の彼氏だった人のところ。行かんと。わたし、まこっ
 ちゃんから聞いて知ってるんよ。大きなお寺の息子なん」
美波「訊かな。今、なに思ってるか。ね、そうやん。だってほ
 んまに彼のこと好きやってんよ梓ちゃん。初めてあげてんよ。
 結婚したいって思うくらい好きやってんよ。そやのにみんな
 の前で校長からあんなこと言われて……」
   瑤子と真弓、見つめあう。真弓、頷く。

〇路上(夕方)
   全力で自転車をこぐ瑤子。その荷台に座っている美波。
   全力で自転車をこぐ真弓。その荷台に座っている冴枝。

〇楼厳寺・門前(夕方)
   立っている四人。中に入っていく。

〇前同・本堂(夕方)
   本尊の前に座っている四人。入ってく 
   る賢輝の母、照子(53)。四人の前に座る。
瑤子「――あの、賢輝さんは」
照子「まだ大学から帰ってきてません」
真弓「大学って――あの、今も普通に通って――」
照子「当たり前でしょ。事故だったんよ、あれは。あれは
 不幸な事故。警察の調べでもそういう結果が出ています」
   無言の四人。
照子「ご遺族には十分すぎるほどの金もお支払いしていま
 す。もう終わった話なの。息子にはなんの罪もないわ」
瑤子「ちょっ、そんな、そんなわけ……」
照子「あの子に罪はありません! 今更なにをほじくり返
 しに来たの! 早くここから出ていきなさい!」

〇楼厳寺・門前(夕方)
   帰っていく四人。振り返る。照子がきつい目をして
   立っている。

〇路上(夕方)
   自転車を押して歩く瑤子と真弓。並んで歩く美波と
   冴枝。
真弓「母の愛ってやつや」
美波「うん」
冴枝「情けないねわたしら」
美波「あんなふうになってしまうんかな」
真弓「結婚して、子供産んだら?」
瑤子「なりたないわ。ならんでええわ」
   無言で歩く四人。
瑤子「なぁ、本山さんの家、行かへん。わたし中学いっしょ
 やったからだいたいの場所分かるねん。ここからそんな
 に遠ない」
冴枝「え」
瑤子「お葬式にも出られへんかったんやもん。お線香くら
 いあげたげようや、わたしらだけでも」
真弓「――うん、そうやんね」

〇梓の家(夕方)
   灯りが消えている家。
   【売り家】の看板が出ている。悄然と立つ四人。

〇瑤子の家・玄関前(夕方)
   自転車で帰ってくる瑤子。玄関先に和友が立ってい
   る。自転車から降りる瑤子。
瑤子「カズ」
   和友、持っていた深めの皿を差し出す。
和友「これ、里芋と蛸の煮物」
瑤子「おばさんから?」
和友「うん」
瑤子「大好物や。ありがとう」
和友「またいつでも晩御飯食べに来いって」
瑤子「うん」
和友「あと二日か」
瑤子「うん。なんかみんなすごい仲良うなったで」
和友「――チーム・ロンリーウルフ」
瑤子「え?」
和友「なんかそんな感じやん」
瑤子「うまいこと言うな、カズ」
   笑う二人。
瑤子「なぁカズ」
和友「なに」
瑤子「かっこよかったで」
和友「バカにしてんのか?」
瑤子「違うよ、ほんまにかっこよかった――なぁ、痛い? 
 冴枝に振られて」
和友「――うん、けっこう痛い」
瑤子「最初な、電話で笑ったりしてごめんな」
和友「ああ、別にええよそんなん。瑤子がけしかけてくれ
 んかったら、ずっとモヤモヤした気分のままやったと思
 うし」
瑤子「うん、そっか」
   皿を差し出す和友。受け取る瑤子。
和友「おやすみ」
瑤子「うん。おやすみ」
   去っていく和友。小さくなる後ろ姿を見つめる瑤子。

〇運動場
   〈テロップ・五日目〉
   運動場を周回させられている四人。
瑤子「学年集会て、急になんやろ」
真弓「どうせまたあれやろ、小堀のババァが出てきて説教
 するんやろ。生活態度がどうのこうのいうて。しょうもない」
美波「わたしらまた後ろに立たされるん?」
冴枝「そらそうやろ。まだわたしら囚われの身やし」
瑤子「ははっ。なんかかっこええな、囚われの身て」
真弓「どこがやねんな」
   走り続ける四人。

〇椿原高校・講堂
   学年集会が行われている。床に座っている全二年生。
   小堀が生活態度についての説諭をしている。隣に木
   刀を持って立っている清水。四人は朝礼の時と同じ
   ように最後方で並んで立っている。
小堀「……以上みなさん、先日の朝礼で校長先生からいた
 だいたありがたいお話をよく思い出すように! 風紀の
 乱れは心の乱れ、その一人一人の乱れた心が学校全体に
 広がっていくということをよく肝に銘じ、日々の学校生
 活を送っていくように! わかりましたか!」
   やる気なく返事をする生徒たち。
清水「声が小さい! 分かったんか!」
全二年生「はい!」
小堀「さて――後ろの四人、前に来なさい」
   顔を見合わせる四人。
清水「何をやっとる! 早う前に出てこんか!」
   しぶしぶ歩いていく四人。全二年生の前に立つ。好
   奇の目にさらされる四人。
小堀「みなさん知っているとおり、この四人は校則違反、
 風紀の乱れ、精神の歪みなどを理由に学内停学の最中です。
 この四人には昨日、校長先生の前で、各々の『誓いの言葉』
 を述べてもらいました。ね、そうですよね」
   四人を見る小堀。無言の四人。
小堀「あの言葉に嘘はないわね、生駒さん」
冴枝「――はい」
小堀「じゃああの言葉を書いた紙はちゃんと持っているわね」
冴枝「――」
小堀「持っているわね」
冴枝「――はい」
小堀「嘘おっしゃい」
   清水、丸まった紙を床に投げる。四人の前の床に四つ
   の丸まった紙。
清水「小堀先生が見てたんや、おまえらが紙をごみ箱に捨て
 るとこをよ。拾え、おら」
  紙を拾う四人。
小堀「自分の書いたものを持ちなさい」
   紙をやりとりし、自分の書いた『誓いの言葉』を持つ
   四人。
小堀「みんなの前で読みなさい。最初は生駒さんから」
冴枝「え――」
小堀「あの言葉に嘘はないんでしょ。だったらみんなの前で
 も読めるわよね」
   うつむく冴枝。
小堀「早く読みなさいっ!」
冴枝「誓いの言葉――」
小堀「声が小さい!」
冴枝「――誓いの言葉! 不純異性交遊はもうやめます! 
 これからは清い心で高校生活にはげみたいと思います!」
小堀「嘘を言うんじゃない! 彼氏とはどうするの! まだ
 つきあってるんでしょ、あなたっ!」
冴枝「――」
小堀「ふしだらな絵を描かせていた彼氏とふしだらな関係
 をこれからも続けていくのかって訊いてるのよ! 答えな
 さい!」
   俯く冴枝。涙が零れる。
   和友が立ち上がる。
和友「生駒さん答えんでもええ!」
小堀「関係ない生徒は座ってなさい!」
   全員の視線が和友に集まる。
和友「答えることなんかない!」
   ずかずか生徒の中に割って入る清水。
   和友の前まで来る。往復ビンタを食らわせる。
清水「黙ってろ」
   清水を睨む和友。
清水「なんやおまえその目は」
和友「暴力でしか生徒を抑えることができないんです
 か先生は」
清水「このガキゃ!」
   ビンタ四連発。それでも清水を睨み続ける和友。
清水「その目をやめい言うとるんじゃ! 今度はこれで
 シバかれたいんか!」
   大きく木刀を振り上げる清水。
瑤子「もうやめて!」
   清水の動きが止まる。
瑤子「もうやめてください! わたしが言います。もう
 ガレージには行きません。ほんまです! 約束します! 
 だからもう冴枝にそれ以上訊くのはやめてください!」
美波「先生! 気持ち悪い絵を描いてたわたしの心は歪ん
 でました! もう二度とあんな絵描かない! 小堀先生
 本当です!」
真弓「もう競馬場になんか絶対行かない! 小堀先生、今
 ここで冴枝にそれを答えさせるのは酷すぎます! お願
 いです、それ以上は訊かないであげてください!」
   冷ややかな目で四人を見る小堀。
小堀「少しは性根が入ったようねぇ。大人の女はね、小娘
 の言ってることが本気かどうかなんてすぐ分かるの。よ
 く覚えておきなさい。生駒さん。麗しい友情に感謝する
 のね。あなたが第二の本山さんにならないことを祈って
 おくわ」
   四人、泣いている。水を打ったように静まり返って
   いる講堂。
小堀「加瀬さん、目黒さん。髪はどうするの?」
瑤子「――散髪屋さんに見てもらいます」
小堀「明日呼ぶわ。二人とも少し長くなってるわね。つい
 でに切ってもらったら」
   小堀、勝ち誇った顔で泣き続ける四人を見る。

〇用務員棟・六畳間
   四人、バラバラに座っている。膝を抱え泣いている
   冴枝。
美波「冴枝ちゃん、もう泣くのやめよ」
冴枝「ごめん、みんなごめん」
瑤子「そやから冴枝が謝ることなんかないんやって、なにも」
冴枝「そやかて、わたし、みんなに辛い思いさせた――」
真弓「アホ、いちばん辛かったんは冴枝やないの」
冴枝「まこっちゃんと別れた方がええんかな、わたし」
真弓「なに言うてるの」
美波「二度と言うたらあかんで」
瑤子「怒るで、冴枝」
冴枝「……ごめん」
   真弓、ごろっと横になり。
真弓「あ~でもなあ、勝ち負けで言うと負けやんなぁ、これって」
瑤子「え、どういうこと」
真弓「だってそうやん。一週間ここにぶちこまれてやで、反
 省文書かされ続けてやで、毎日毎日運動場走らされてやで、
 梓の彼氏の母親と小堀のババァにはコテンパンにされてや
 で、わたしとあんたはエロ散髪屋に髪みてもらって解放。
 ボロ負けやん」
瑤子「確かに」
美波「――でも、みんなと仲良うなれたで。わたし、それだ
 けでもよかった」
真弓「まぁ、そうやけど――でも、負けは負けや」
   入ってくる治郎と菊代。
瑤子「なに、また畑仕事」
真弓「勘弁してぇや。さすがに今はそんな気分やない」
美波「わたしたち今激しく傷ついてるんやから」
菊代「うん。分かってるわ。そやからみんなで出かけましょう」
瑤子「は、どこへ? なにしに?」
菊代「気分転換」
真弓「勝手にここ離れてええの? 怒られるで」
菊代「わたしらに急用なんてあったためしあらへん。しばら
 く留守にしたかてなんの問題もない。明日までみんなはわ
 たしらの管理下にありま~す。言うこと聞きなさ~い。ほ
 ら、立って立って」
治郎「早くしろっ!」
菊代「偉そうに命令するんやない!」
   治郎の頭をはたく菊代。
真弓「お約束だ」

〇路上
   疾走する軽トラック。運転している治郎。助手席の菊
   代。荷台に座っている四人。
瑤子「気持ちえー」
美波「ねー」
真弓「こんなところに乗るんなんて初めてや」
冴枝「ええ人やんね、軍曹殿もおばさんも」
瑤子「軍曹やないけど」
   笑う四人。
瑤子「〈♪〉『そうさコートの襟を立て じっと風をやりすごせ』」
真弓「びっくりしたぁ。なによ急に」
瑤子「甲斐バンドの『嵐の季節』。ぴったりやろ、今のわたし
 らに―『今は拳を握りしめじっと雨をやりすごせ 今は嵐の
 季節』」
   同じフレーズを繰り返し始める瑤子。歌声に三人も会
   わせて。
四人『〈♪〉そうさコートの襟を立て じっと風をやりすごせ 
 みんな拳を握りしめ じっと雨をやりすごせ 今は嵐の季節』
   歌う四人を乗せて疾走する軽トラック。
瑤子「あっ、海やっ!」
   指さす瑤子。はじける四人の笑顔。

〇海
   砂浜に乗りいれて止まる治郎の軽トラ。
   荷台から飛び降りる四人。海に向かって走り出す。裸足
   になる四人。波打ち際ではしゃぎまわる。その様をじっ
   と見ている治郎と菊代。
菊代「明日で終わりやね、あの子らが来るのも」
治郎「静かになってええ」
菊代「嘘ばっかり。寂しいくせに」
治郎「……」
菊代「放課後来てくれるわ、梓ちゃんみたいに」
治郎「梓ちゃんも、もう少し早うあの子らと知り合うてたらな」
   二人、はしゃぐ四人をまぶし気に見つめる。
    ×    ×    ×
   はしゃぎ続ける四人。瑤子、海に向かって。
瑤子「海のバカヤロー!」
真弓「ありきたりー」
瑤子「海に来たら叫ぶって決まってるんよ!」
美波「小堀のババァ、死んでまえぇ!」
瑤子「そうや死んでまえ! ついでに清水も死んでまえ!」
真弓「校長も教頭もみんな死ねぇっ!」
冴枝「まこっちゃん、大好きっ!」
真弓「どさくさにまぎれてなに叫んでんねん!」
冴枝「ええやん。大好きまこっちゃん! わたしもう、いつだっ
 てええよっ!」
真弓「このエロ娘っ!」
瑤子「カズ! あんたなにカッコようなってんねん! 意識
 してまうやろアホぉ!」
真弓「おおおっ! 衝撃の告白!」
瑤子「カズのくせに生意気なんよっ! 保育園のときいっつ
 も靴隠されてビービー泣いてたくせに急にかっこよくなっ
 てんのとちゃうわ!」
美波「梅川の絵を描いて、どこが悪いんよ!」
三人「そうや!」
美波「もっとすごいん描いたる! あんなん嘘や!」
瑤子「そうや嘘じゃ、ババァ!」
真弓「万馬券見せたるから待っとけ!」
冴枝「梓ぁ! 会いたいよぉ!」
   三人、冴枝を見る。涙を浮かべている冴枝。
瑤子「梓っ、もっといっしょに歌いたかった!」
美波「梓ちゃんっ! 梓ちゃんの絵を描きたかったよぉ!」
真弓「予想してもらうつもりやったんやで、梓に! 桜花
 賞も、皐月賞も、オークスも、ダービーも!」
瑤子「梓ぁぁっ!」

〇路上
   帰路。走っている治郎の軽トラ。荷台の上の四人。
   身を寄せ合って眠っている美波と冴枝。
真弓「よう寝てる」
瑤子「うん。二人とも寝顔かわいいね」
真弓「――明日な」
瑤子「うん」
真弓「やっぱり見てもらう? その散髪屋に」
瑤子「……」
真弓「それがいちばんなんやろね。退学はやっぱりきついわ」
瑤子「さっきな」
真弓「うん」
瑤子「勝ち負けで言うと負けって言うたやん、真弓」
真弓「うん」
瑤子「わたし、負けるのいやや」
真弓「え」
瑤子「負けたぁない。勝たんでももええから、せめて引き分け
 くらいにはもっていきたい」
真弓「引き分け――」
瑤子「うん。なにが引き分けになるのかは分からへんけど」
真弓「引き分けか――――よし、腹くくろうか」
瑤子「え」
真弓「こっちも相応の犠牲を払うってこと」
   見つめあう瑤子と真弓。瑤子、頷く。
瑤子「考えがあるんやね、聞かせて」
真弓「うん。わたしな、昔から人から貰ったもんよう捨てん
 性分でな……」

〇高村理容室・店舗前(夕方)
   並んで立っている四人。
真弓「考えなおすんやったら今やで」
瑤子「言わんといて、もう腹くくったんやから――ええよ
 ほんまに美波と冴枝は。これはわたしたち二人の問題な
 んやから」
冴枝「水臭いこと言わんといてよ」
美波「そうやよ。ここまできたら――あれ、なんか四文字
 熟語あったやんね、こういうときに使うん、何とかタク
 ショーって」
真弓「一蓮托生」
美波「それそれ」
瑤子「テレビ局のひと、なんて?」
真弓「うん。あとで家の前に来るって。詳しい段取りはそ
 こで」
瑤子「よし、いこうか」
   ドアを押す瑤子。中に入る。
瑤子「こんにちは~」
   続いて入る三人。

〇高村理容室・店内
   対峙している和友と四人。離れて見ている父親の将
   史(47)と母親の雅江(46)。
和友「そんなんアカンに決まってるやろっ!」
瑤子「え~、なんでぇよ。わたしらがかまへんって言うて
 るんやからええやんか」
和友「ようないっ!」
真弓「お客様の希望やで、高村君」
和友「そんな希望きけるか!」
瑤子「おっちゃん、カズあんなこと言うてるで」
将史「硬いからなぁ、こいつは。でもほんまにええんか瑤
 子ちゃん」
瑤子「ええんです。もうわたしら腹くくったんですから。ね」
   頷く三人。
雅江「絶対後悔せえへんね、あんたら」
   四人を嘗めるように見る雅江。その迫力に押される
   四人。
雅江「後でおうちの人が文句言うてきても知らんで。責任は
 あんたらにあるんやで」
   瑤子、頷く。三人を見る。
   頷く三人。
瑤子「一筆書いてもいいです」
雅江「ははっ。一筆ときたか。瑤子ちゃんは難しい言葉知っ
てるんやなあ。分かった。もうおばちゃんなにも言わんわ。
あんた、準備したり」
   将史、和友を見て。
将史「カズ、諦めぇ。女が一回決めたことを男がひっくり返
 すいうんは無理なんや」
和友「……」
将史「よし、二人ずついこう。ほら、カズも手伝え」
和友「……けどやぁ」
   和友の前の椅子に座りかける瑤子だったが。
瑤子「やっぱり久々におっちゃんにお願いしよっと。冴枝」
冴枝「え」
   瑤子と冴枝、見つめあって。冴枝頷き和友の前の椅子
   に座る。
冴枝「お願い、高村君――あ、顔剃りってやつもやって」
   鏡の中、冴枝が微笑む。
和友「……あぁっ、もう、ほんまにぃ!」
   和友を笑って見ている瑤子。
              
〇通学路
   〈テロップ・最終日〉
   いつもの朝の登校風景。カメラを前にリポートをし
   ている木崎。
木崎「はい。今日の『朝の街角スケッチ』のコーナーは
 〈土曜日の登校風景〉をテーマにお届けします。明日は
 日曜、学校もお昼で終わりと、通学中の高校生の足取り
 もどこか軽やかに感じられます。ちょっとインタビュー
 をしてみたいと思うのですが(木崎、辺りを見回し)あ
 れ? あれ? ちょっとなにあれ、女の子たちだよね? 
 うわっ、ちょっと行ってみましょう」
   走り出す木崎とカメラマン。
   四人が並んで歩いてくる。全員五厘刈りの丸坊主頭
   になっている。
   他の生徒たちが四人を見て驚き、騒めいている。
木崎「あの、おはようございます」
四人「おはようございます!」
木崎「元気いいね。どうしたのその頭?」
真弓「頭って?」
木崎「女の子だよね、あなたたち」
瑤子「もちろんですよ」
木崎「いつもその髪型なの?」
美波「昨日みんなでしたんです。かわいいですか?」
木崎「一休さんみたいよ」
冴枝「一休さんやって~~」
   ケラケラと笑う四人。歩く四人についていく木崎
   とカメラマン。
木崎「なんでみんなでその髪型にしちゃったの?」
瑤子「わたしら、校則違反とかして学内停学処分受けて
 たんです。今日がその最終日なんやけど、やっぱりわ
 たしら悪いことしたから、反省の意味をこめて、この
 髪型にしたんです」
木崎「反省……」
瑤子「わたし、天然パーマなんです。でも先生がパーマ
 はアカンからなおしてこいって。で、どうしてええか
 分からへんかったんで、これやったらパーマ目立たへ
 んからええかなって」
真弓「わたしは地毛が栗色なんです。でも染めてるって
 言われて、どうしてええか分からへんかったんで、こ
 ないしました。これで色も目立たへんし」
木崎「天然パーマ、地毛が栗色……なのに先生直してこ
 いって言ったの?」
真弓「はい!」
木崎「そんな、それはちょっとひどいよね」
瑤子「やめてください、先生たちのこと悪く言うのは! 
 わたしたちこの一週間で更生したんですから! 先生
 たちのおかげなんですから!」
木崎「あなたたち二人は?」
美波「わたしたちも校則違反してしもたんやけど、二人
 がその頭にするって言うたんでつきあっちゃいました」
冴枝「わたしたちも本気で反省してるところ先生たちに
 お見せしたいんです。特に生活指導の小堀先生に」
真弓「あぁっ!」
瑤子「どないしたん?」
真弓「アカンよ、わたしらやっぱり先生に怒られてしまうわ!」
美波「えぇっ、なんで!?」
真弓「そやかて、今年から校則でポニーテール禁止やもん! 
 うなじを見せるのは男子の劣情を誘うからって、小堀先生
 が決めたん!」
冴枝「えぇっ! なんでもっと早う言ってくれへんかったんよ!」
真弓「忘れてたんやもん!」
美波「どないしよう、わたしら男子からいやらしい目で見ら
 れてしまう!」
真弓「ごめん、ごめんねみんな……」
   かたまってわざとらしい泣きまねをする四人をカメラ
   マンが撮り続ける。
瑤子「大丈夫、大丈夫や。先生たち分かってくれるわ絶対。
 うなじはうなじでも、ポニーテールのうなじと坊主頭の
 うなじじゃ、うなじがちがうよきっと……」
冴枝「でも、先生たち許してくれへんかったら? 退学に
 なるん、わたしら……」
   四人、また泣きまね。
真弓「行こ……ごめんねみんな」
   歩き出す四人。木崎、カメラを見つめて。
木崎「図らずもわたしは今、教育の現場が抱える問題に直面
 してしまいました。天然パーマをなおしてこい、栗色の地
 毛をなおしてこい、ポニーテールはいけない、生徒にその
 ような命令を下すのは果たして教師として正しいことと言
 えるのでしょうか――ちょっと彼女たちについていってみ
 ましょう」
   四人を追いかける木崎とカメラマン。

〇椿原高校・校門前
   清水が立っている。服装違反をしている生徒を叱って
   いる清水。四人が現れる。唖然。木崎が清水にマイク
   を向ける。
木崎「先生ですね、少しお話いいですか。彼女たちが丸坊主
 にしたのは反省の意を先生たちに見せるためということな
 んですが、実は先生たちが強要したのではないですか?」
清水「お、おまえら、その、その頭……」
木崎「どうなんです、違うんですか! ちゃんと答えてくだ
 さい! これは少し行き過ぎじゃないんですか!」
   校舎の方へ駆け出す清水。

〇前同・職員室
   ガラッと戸を開け入ってくる清水。
清水「坊主、丸坊主、あいつら頭……」
渡辺「はぁ? なにを言ってるんです清水先生」
清水「四人、あの四人、丸坊主にして……テレビ局、来てます……」
渡辺「テレビ局ぅ!?」

〇前同・校庭
   歩いていく四人。ついていく木崎とカメラマン。渡辺、
   清水、小堀ら教師がかけつけてくる。四人と対峙する
   教師たち。
瑤子「あ、先生! おはようございます!」
三人「おはようございます!」
   深々頭を下げる四人。
渡辺「そ、その頭……」
瑤子「大丈夫ですよね、小堀先生、わたしたち大丈夫ですよね!」
真弓「わたしたち、反省してる心を先生たちに見せたかった
 だけなんです!」
美波「うなじを男子に見せたいわけじゃないんです。分かって
 ください!」
冴枝「ポニーテールのうなじと坊主頭のうなじは違いますよね
 先生!」
小堀「あんたたちぃ……」
木崎「あなたが小堀先生ですか。ポニーテールが男子の劣情
 を誘う、それは先生のお考えですか? ですからポニーテ
 ールは校則で禁止なんですか?」
小堀「カメラを向けないでください!」
木崎「訊いてるんです! それは先生がそのような劣情に塗
 れた精神をお持ちだから、そのような極端な考えに至るの
 ではないですか?」
小堀「なにを言ってるのあなたはぁ!」
   ヒステリーを起こし木崎を殴りつける小堀。
木崎「暴力はやめてください! 教師のすることじゃないで
 しょ!」
渡辺「早くここから出ていきなさい!」
木崎「取材する権利があります! 天然パーマを、地毛の色
 を、直してこいと彼女たちに言ったそうですね。そのよう
 な指導が彼女たちを追いこんだ、そう思いませんか!」
渡辺「――彼女たちがあなたに連絡を?」
木崎「いえ、さっき偶然見かけてここまでついてきました」
清水「嘘つけぇ! おまえらがこいつら呼んだんだろがよぉ!」
   四人の前に進み瑤子に手を振り上げる清水。
渡辺「清水先生!」
   清水にカメラを向けているカメラマン。
瑤子「叩いたら。いつもみたいに」
清水「ぐっ……」
瑤子「どないしたんですか」
   手を降ろす清水。
瑤子「テレビに映ったらまずいって思うようなこと、普段から
 やめたらどないですか、清水先生」
清水「このクソガキどもがぁ……」
瑤子「もういいですか。わたしたち学内停学の最終日なんで」
   その場を去ろうとする四人。
小堀「待ちなさい、あなたたち!」
   四人、振り返って。
瑤子「まだなにか」
小堀「覚えておきなさいよ」
   小堀と四人、にらみ合って。
瑤子「はい、もちろん」
真弓「わざわざ言うてもらわんでも。なぁ」
美波「ちゃんと覚えておきます」
冴枝「わたし一生忘れへん。先生のこと」
瑤子「あんたは来世、ミトコンドリアくらいで十分や」
   去っていく四人。坊主頭に朝日が輝く。
木崎「校長に、校長先生にお話しを聞かせてくださいっ!」
渡辺「出ていけ! 早くここから出ていくんだ!」
   もみ合っている木崎と渡辺。
               
〇前同・教職員駐車場
   クラウンが入ってきて駐車エリアに停まる。校長の富
   田が降り、校舎へ歩き出す。
                       (F・O)

〇校務員棟・畳の間
   二〇一八年の校務員棟に戻って。
   スマホで最終日の混乱の動画を見ている綾香。
   顔を上げる。十七歳の瑤子が笑っている。その顔
   が五十六歳の彼女に変わっていく。
瑤子「いやー、残ってるもんなんやね。動画がアップされ
 たの知ったときはほんまにびっくりした」
綾香「わたしも今、すごいびっくりしてます」
瑤子「んふふ。わたしな、就職してからずっと三人にけし
 かけられ続けてたんよ、先生になれ、なれって」
綾香「そうやったんですか」
瑤子「うん。あんたみたいなんが先生にならなアカンって、
 ずっと言われてた。で、まあこっちもその気になってし
 もうたいうかさ。でも無責任よねぇ、言うだけなら誰だっ
 てできるんやから。ほんま大変やったんやで、働きながら
 夜間の大学通って先生なる勉強するんって。我ながらよう
 やったって思うもん」
   綾香、ノートに書かれた〈五人〉が集まって笑ってい
   る絵を見る。
瑤子「真ん中が梓。最終日に美波が書いたんよ。この絵、コ
 ピーして今もみんな持ってる。わたしは部屋に飾ってる」
綾香「……坊主頭の絵じゃないんや」
瑤子「美波はそれ描きたかったけど、三人が必死で止めた」
   笑う二人。綾香、部屋を見回して。
綾香「ここが?」
瑤子「そう。けど建物は違う。二十年くらい前に取り壊して
 新しい建物になったん。軍曹殿とおばさんはお亡くなりに
 なられたわ」
綾香「歌手の人は?」
瑤子「ああ、紫乃ネェ? ガレージ引き継いで経営してる。
 たまに気が向いた らド迫力の甲斐バンド今でも唄ってる」
綾香「ほかの三人は?」
瑤子「元気元気。美波はね、イラストレーターになった。法
 廷画家もやってる」
綾香「法廷画家?」
瑤子「裁判中の絵を描く絵描きさんのことよ。真弓はね、も
 うおばあちゃんになった。小一の孫娘に競馬しこんで息子
 夫婦の顰蹙かってるわ。冴枝は三年前に二回目の結婚した。」
綾香「三年前、二回目」
瑤子「うん。一回目は十九のとき。もちろんまこっちゃんと。
 けど一年持たず別れた。今でいうDV夫やったの、彼」
綾香「そんな――」
瑤子「いろいろあんのよ。男性不信みたいになってしもうて
 ね冴枝、もう結婚はせえへんって決めてたんやけどさ」
   入口のドアが開く。振り返る綾香。中年の男が立って
   いる。男、無言で部屋に入り。瑤子の隣に座る。
瑤子「はい、タイミングよく旦那様登場」
綾香「え」
瑤子「高村和友くん。冴枝が三年前に結婚した相手。ちなみ
 に彼は初婚」
綾香「えぇっ!」
和友「こんにちは」
瑤子「ねぇ、びっくりやんね。わたしらもほんまに驚いたん
 やから。男の純情貫いて初恋の人ものにしてしもうたんや
 もん、この人」
和友「いらん事を言うなよ……話は瑤子から聞いてる。自分
 らと同じ思いしてる女の子がいるって。しかしなんで髪染
 めたりパーマあてたりするのが悪いんかが俺には分からん
 わ。髪のおしゃれに気を遣うってのは、セルフプロデュー
 スの第一歩やで。教師が生徒の可能性を狭めてんのと同じ
 やで」
瑤子「はいはい、そんなんは今度飲んだ時にきいてあげるか
 ら。ほら、早う彼女の髪ちゃんとみてあげてよ」
和友「そんな必要あるかい」
瑤子「え」
和友「パッと見たら分かる、地毛やなんてこと。何年ハサミ
 持ってると思ってんねん。ほんま、四十年近く前と同じこ
 とやって生徒苦しめてるって、どないなっとんねん我が母
 校は。しっかりせぇ」
瑤子「まったくねぇ、面目ない」
   和友、名刺を綾香の前に置く。手に取る綾香。
綾香「全国理容生活衛生同業組合副理事長……」
和友「プロの誇りをかけて先生たちの前で証明したる。君の
 髪は地毛や。それでも文句言うようなら、PTA総会の議
 題にしてもらうように言うたる。うちの客にここの保護者
 は多いんや」
綾香「……あの、なんで、そこまで」
和友「あのときなにもできなかったからかな。罪滅ぼしやな
 いけどな。きみまで丸坊主にするわけにいかんやろ」
   瑤子をチラッと見て少し笑う和友。
瑤子「かっこつけちゃってまぁ。現役女子高生前にして鼻の
 下伸ばしてんのとちがうわ。冴枝に言いつけたる」
和友「うるさい、だまれ」
瑤子「じゃあ沢上さん、職員室行きましょうか」
   立ち上がりかける瑤子と和友。
綾香「あの、先生」
瑤子「なに」
   ノートの五人の絵を瑤子に向ける綾香。
綾香「美波さんにお願いしてください。いつかわたしも入った
 六人の絵を描いてくださいって」
   瑤子、綾香をじっと見て。
瑤子「ええわよ。美波きっとすごく力入れて描くわ」
和友「え、なんでそんなおばさんらに囲まれてる絵を描いて
 ほしいんや、きみは?」
   和友の頭をはたく瑤子。
瑤子「全員女子高生の絵じゃ、ボケ!」
   綾香、笑う。
                      (F・O)

〇瑤子の家・外景(夜)
   一九七九年現在。はしゃぎ声が聞こえてくる。

〇前同・六畳間
   座卓の上、たくさんの家庭料理が様々置かれている。
   賑やかに、旺盛な食欲で食べている坊主頭の四人。
   部屋の隅で彼女たちを呆然と見ている甚太。
真弓「冴枝ほんま料理上手やね。全部おいしいわ」
美波「うん、おふくろの味ってやつ」
冴枝「ありがと。いつもおばあちゃんに教えてもらってるん」
瑤子「ほら、オトンこっち来ぃや」
甚太「いや、ええ」
真弓「いっしょに祝ってくださいよおじさん」
瑤子「そうそう、出所祝いってやつなんやから盛大にやろうや」
甚太「出所祝いって、おまえ……」
瑤子「そうやで。わたしら一週間の囚人やったんやもん。名
 付けて女囚四人組!」
   笑う四人。
美波「高村君も呼べばよかったのに」
瑤子「声かけたけど『ええ』って。なんかすごいショック受
 けてめちゃくちゃ落ち込んでるわ」
真弓「なんであの子が?」
瑤子「知らん」
冴枝「ええ人やんね、高村君」
美波「まこっちゃんとつきあってなかったら?」
冴枝「――うんって言ってると思う。ズキュンってきたもん、
 あの告白。それにみんなの前でかて……」
真弓「おぉ~~。なぜか瑤子が複雑な顔をしておりま~す」
瑤子「うるさいわっ! どうでもええわあんなやつ!」
冴枝「そしたら今度は瑤子が高村君に告白する番やね」
美波「ね、そのときはわたしらもいっしょについてってええ
 かな?」
瑤子「そんなのアカンに決まってるやろ!」
   瑤子を見つめる三人。しまったという顔の瑤子。三人
   爆笑する。
真弓「どこがどうでもええのよ」
瑤子「うるさいわ、黙って食え!」
美波「今みたいなんをさ、ナントカ落ちるって言うんやんね、確か」
瑤子「語るに落ちるやっ! て言うかなんでそれわたしが説明
 せなアカンのよ! あんた中途半端に日本語覚えてんのとちが
 うわ!」
冴枝「あ~、わたしまこっちゃん振って高村君とつきあおっかなあ、
 やっぱり」
瑤子「ちょっとなに言うてんのよ冴枝! あんたはとっととまこっ
 ちゃんと結婚したらええの!」
美波「わたしが告白するのは別にええよね、彼氏いてへんし」
瑤子「えっ……」
美波「そやかて、ほんまにかっこよかったもん、高村君」
瑤子「……」
美波「あはは、驚いておりま~す」
瑤子「美波っ!」
真弓「早うせんと美波に高村君取られてまうよ瑤子」
瑤子「やかましいんやっ!」
   ハイテンションで姦しい四人。
甚太「なあ」
   甚太を見る四人。
瑤子「なによオトン」
甚太「いや、あのな、きみらに怖いものはないのんか?」
   甚太をじっと見る四人。
美波「はい」
冴枝「そうですよ」
真弓「知らへんかったんですか」
瑤子「無敵や! 原始時代から女子高生はずっとそうや! 
 これからもずっとそうや!」
真弓「原始時代に女子高生いてるか!」
瑤子「いてたんよ! セーラー服着た無敵の北京原人が!」
   
〇エンディング
   美波がノートに描いた梓を含めた五人の絵が映し出される。
   それが実際の彼女たちの姿に変わっていく。エンディング
   テーマ四人が歌う甲斐バンド『吟遊詩人の唄』と共に何枚
   も映されては変わり、映されては変わりする。
   ラスト。綾香も入った六人の絵。それが実際の彼女たちの
   姿へと変わって。
   六人、笑顔が弾けている。
                          (了)

〈引用〉本稿に歌詞またはタイトルの登場する歌曲

甲斐バンド
『ちんぴら』(詩・曲/甲斐よしひろ)
『きんぽうげ』(詞/長岡和広 曲/松藤英男)
『シネマクラブ』(詞・曲/甲斐よしひろ)
『翼あるもの』(詞・曲/甲斐よしひろ)
『嵐の季節』(詞・曲/甲斐よしひろ)
『吟遊詩人の唄』(原詞/レオ・セイヤ― 
 曲 デイブ・コートニー 訳詞 甲斐よしひろ)


キャンディーズ
 『微笑み返し』(詞/阿木燿子 曲/穂口雄右) 

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