人はめいめい。秋はとりどり。 日常

小学校5年生の西宮四恩(11)と四恩の担任で新人教師の小室愛里(23)。独特な感性の持つ四恩の手のひらで踊らされる真面目な愛里。生きたハンカチとかなんなのか。明かされたハンカチの正体が今、暴かれる。
森 音 64 0 0 10/14
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第一稿

登場人物
小室愛里(23)小学校の教師
西宮四恩(11)愛里の生徒/小学5年生
高橋真子(11)同
生徒A
生徒B


◯東京都立大泉小学校・全景
   イチョ ...続きを読む
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登場人物
小室愛里(23)小学校の教師
西宮四恩(11)愛里の生徒/小学5年生
高橋真子(11)同
生徒A
生徒B


◯東京都立大泉小学校・全景
   イチョウの木が風に揺れ、花壇の花が色とりどりに咲いている。

◯同・正門・前
   銘板に「東京都立大泉小学校」と記してある。

◯同・校庭
   サッカーボールが転がっている。

◯同・廊下
静まり返っている。

同・教室
   大きなあくびをしていたり、どうどうと寝ていたりする生徒たち。
   黒板にチョークで字を書いている小室愛里(23)。
   
◯同・校庭
   砂埃がまう。

◯同・教室
   頬杖をつきながら、ニヤニヤと笑みを浮かべ、窓の外を見つめている西宮四恩(11)。
   黒板には、7の段が書かれている。
愛里「はい、今度は7の段。宿題やってたらわかるよね」
   愛里、チョークを置き、教壇の前に立って生徒たちを見つめる。

◯同・校庭

◯同・教室
   愛里、四恩を見る。
愛里「ちょっと、どこ見てるの四恩君」
   窓の外に顔を向けて、上半身が前のめりな四恩。
   愛里、黒板の方を向く。
愛里「じゃあ、四恩君に答えてもらおうかな。」
四恩「ねえ、先生」
愛里「うん、なに?」
四恩「今日、風が吹いてるよ」
愛里「そうね。それで答えてもらおうかな」
   四恩、目を大きくして、窓の外を見る。
   愛里、チョークを黒板の粉受けに置き、目を瞑り、下を向く。

◯同・全景
   夕日に照らされている校舎。
   チャイムが響き渡る。

◯同・教室
   机上にランドセルが置かれ、笑いながら話している生徒たち。

◯同・廊下
   ランドセルを背負い、廊下を走ったり、隣同士歩いたりしている生徒たち。

◯同・校舎前
   肩を落とし、花壇の花にじょうろで水を上げている愛里。
   高橋真子(11)、愛里の背後から抱きつく。
真子「先生!」
愛里「真子ちゃんどうしたの?」
真子「先生元気なさそう」
愛里「何言ってんのよ。いつも元気満々よ」
真子「今日、怒ったせい?」
愛里「あー、あれは。いつものことでしょ」
真子「あの子、変わってる」
   ひらひらと上から舞い降りるハンカチ。
   クマの絵が描かれた黄色いハンカチ。
   ハンカチが愛里の頭に落ちる。
   真子、目を大きく開き、愛里の頭を見つめる。
真子「先生」
   愛里、眉間に皺を寄せ、頭に落ちたハンカチを手に取る。
愛里「ちょっと誰よ」
   上を見上げる愛里、真子。
   四恩、教室のベランダから愛里と真子を見下ろし、大きく手を振っている。
四恩「先生~」
真子「うわ、噂をすれば」
愛里「そこで何してんの。ベランダに出ないでってあれほど言ったでしょ」
四恩「先生、ナイスキャッチ」
愛里「ハンカチだったからよかったけど、他のものだったら危ないでしょ。いいから中に入りなさい」
真子「そうよ。四恩君、中入って」
四恩「ハンカチね。わざと落としたんだよ」
   愛里、ハンカチを強く握り締める。
愛里「わざと……」
   真子、愛里の顔を見つめる。
真子「四恩君、またさっきみたいに先生に説教されちゃうよ」
四恩「ハンカチ、生きてるみたいだった」
   目を瞑って、下を向く愛里。
   真子、愛里のズボンを掴み、愛里の顔を見つめる。
真子「やばい、やばい。四恩君、先生爆発しちゃう!」
四恩「先生」
   愛里、四恩を睨みつける。
愛里「なに!」
   真子、耳を抑える。
四恩「そのハンカチ、何に見えた?」
愛里「見てないわよ。急に頭に乗って来たんだから!」
四恩「なーんだ。つまんないの」
   愛里、握り締めたハンカチを見つめる。
愛里「なに言ってんのよ、もう」
四恩「生きてるんだよ。ハンカチは」
   首を傾げる愛里。
真子「先生、ほら言ったでしょ? 変わってるって」
   
◯同・教室・ベランダ
   夕暮れに照らされている四恩。
   ニコッと微笑んでいる。

◯同・外観(朝)(日替わり)
   正門にランドセルを背負った小学生たちが登校している。

◯交差点(朝)
   信号が赤になる。
   信号待ちをしている車。
   小学生たち、スケッチブックを持ち、1列になって交差点を渡っている。
   笑みを浮かべながら手を挙げて歩いている四恩。
   真子、友達と話しながら、歩いている。
   愛里、歩行者信号をチラチラと何度も見ながら、横断旗を持ち、生徒たちを誘導する。
愛里「ゆっくり歩きなさいよ」
   歩行者信号が点滅する。
   走って交差点を渡る生徒たち。
   愛里、生徒たちと一緒に走って渡る。
   歩行者信号が赤になる。

◯総合公園・池(朝)
   鯉が泳いでいる。

◯同・芝生(朝)
   緑したたる大地が広がる。
   生徒たち、整列し、愛里を見る。
   愛里、クリップボードを持ちながら、指をさして、学生たちを数えている。
   愛里の周りを走っている生徒A、B。
愛里「こらっ、動かないの」
生徒A・B「はーい」
   四恩、ニコッと笑みを浮かべ、息を吸いながら、目をゆっくり閉じる。
愛里「じゃあ、みんな揃ったから今から一時間目と二時間目を使って理科の授業を始めます」
   真子、スケッチブックを上にあげ、愛里を見つめる。
真子「先生、今日はお絵描きするの?」
愛里「そうね。これから植物や生き物の勉強するから、1時間目を使って、花でもいいし、虫でもいいからイラストを描いてもらおっかな」 
   生徒たち、ニコッと口角を上げて返事をする。
愛里「先生の目の離すところに行かないようにね」
   生徒A、B、走って立ち去る。
生徒A「川の方いこーぜ」
生徒B「おう」
   四恩、空を見上げる。
   四恩のポケットには、クマの絵が描かれた黄色いハンカチがはみ出ている。

◯東京都立大泉小学校・全景(朝)
   チャイムが鳴り響く。

◯総合公園・遊歩道(朝)
   石で築き上げた道。
   四方八方に樹木たちがそびえ立つ。
   愛里、ゆっくりと足を動かしながら、手には、クマの絵の描かれた黄色いハンカチを持っている。
   首にタオルが巻かれている。
愛里「もう。どこにいんのよ」
   愛里、タオルで顔を拭く。

◯同・橋(朝)
   古びた大きな橋。
   橋の下には、川が流れている。
   橋の上に頬杖をついて、川を見下ろしている四恩。
   愛里、西宮を見つめ、手を降る。
愛里「いた。四恩君」
   四恩、愛里の方に首を向ける。
四恩「先生」
愛里「はい。これ、大事なもんでしょ。落ちてたわよ」
   愛里、ハンカチを四恩の顔の前にかざす。
四恩「先生」
愛里「受け取りなさいよ」
四恩「いたよ。ハンカチ」
   愛里、眉間に皺を寄せ、目を細める。
愛里「ハンカチ?」
   四恩、川を指さす。
四恩「ほら、ハンカチ」
愛里「えっ」
   愛里、川を見下ろす。
   水面に愛里と四恩が写る。
   愛里、ため息をつき、四恩の顔を見る。
愛里「何もいないけど」
四恩「いたじゃんハンカチ」
愛里「四恩君、もうそろそろ私を馬鹿にしないでちょうだい」
四恩「してないよ」
   目を細めて睨む愛里。

◯同・書院(朝)
   年季の入った木造の建物。
   タンポポの綿毛が何本も咲いている。
   ニコッと微笑みながら、体育座りでタンポポの綿毛のイラストを描いている真子。
   風に乗って、綿毛が空へ飛んでいく。
真子「あっ」
   真子、スケッチブックを手で押さえる。

◯同・橋(朝)
   四恩のポケットには、クマの絵の描かれた黄色いハンカチがはみ出ている。
   愛里、四恩の隣で橋の上に頬杖をついて、川を見下ろしている。
愛里「それで、イラスト描いたの?」
四恩「まだ描いてない」
   腕時計を見つめる愛里。
愛里「もう少しで終わりの時間よ」
四恩「もう少しでまた見れるんだよ」
   四恩、じっと川を見ている。

◯東京都立大泉小学校・教室(朝)
   時計が9時30分を指す。
   授業を受けている生徒たち。

◯総合公園・橋(朝)
   ぼーっと川を眺める愛里、四恩。
   イチョウの葉が愛里の頭に落ちる。
   愛里、頭のイチョウを掴み、見つめる。
   掌に黄色のイチョウ。
愛里「あ、このこと? ほら、見つけたわよ。ハンカチはイチョウのことでしょ?」
   四恩、頬杖をついたまま、顔だけ愛里の方を向く。
四恩「ちがーう」
愛里「え。ハンカチ見たいじゃない?」
   四恩、顔を川の方向に向ける。
四恩「違うよ、綺麗なの。生きたハンカチは」
   愛里、イチョウを手に持ったまま首を傾げる。
愛里「生きたハンカチ?」
四恩「うん。それはイチョウでしょ。馬鹿にしてる」
   頬を膨らませて、愛里を見つめる四恩。
   愛里、苦笑いをする。
   橋の上に蝶々が止まる。
   愛里、蝶々を見つめ、ニコッと微笑む。
愛里「わかっちゃった四恩君」
四恩「蝶々じゃないよ」
   愛里、顔が固まる。
愛里「え、違うの」
   蝶々、羽ばたく。
四恩「やっぱり馬鹿にしてる」
   四恩、歩き出す。
   愛里、四恩の後ろ姿を見つめる。
愛里「ちょっと四恩君、生きたハンカチは」
   四恩、愛里の方を振り向く。
四恩「ねえ、知ってた? うるさいところには、ハンカチは現れないんだよ」
   愛里、口を尖らせる。
愛里「誰が言ってんのよ」
   四恩、その場から去っていく。

◯同・池(朝)
   生徒A、B、鯉を見ながらスケッチブックにイラストを描いている。

◯同・芝生(朝)

◯同・遊歩道(朝)
   歩く四恩。

◯同・橋(朝)
   一人頬杖をつきながら、ため息をしている愛里。
   真子、愛里の背後から抱きしめる。
   愛里、肩をビクッと振るわせる。
真子「誰でしょう」
   愛里、ニコッと微笑む。
愛里「うーん。誰だろうな〜」
真子「誰なの」
愛里「えー、誰だろう」
真子「早く答えてよ」
   愛里、腰に巻かれた真子の手を握る。
愛里「この手は……」
真子「この手は?」
愛里「誰だろうな〜」
   真子、強く愛里の後ろから抱きしめる。
真子「真子だよ」
愛里「痛いよ、真子ちゃんでしょ。知ってる知ってる」
   真子、顔を愛里の背中にゆっくり近づけ、目を瞑る。
愛里「どうしたの」
真子「なんかまた先生落ち込んでた」
愛里「そうかな?」
真子「うん。してた」
愛里「真子ちゃんはイラスト描けた?」
   ニコッと笑みを浮かべ、スケッチブックを愛里に見せる。
真子「じゃーん!」
   スケッチブックには、タンポポの綿毛のイラストが描かれている。
   目を大きくする愛里。
愛里「上手に描けてるわね。真子ちゃん将来はもしかして画家さんだったりして」
真子「そんなまさか〜。先生はここで何してたの?」
愛里「生きたハンカチが」
真子「生きたハンカチ?」
   愛里、咳き込む。
愛里「い、いや、なんでもないよ」
   真子、首を傾げる。
真子「この前言ってたやつ? また四恩くん?」
   愛里、川を見下ろす。
愛里「うん、さっきここでね」
   真子、川を見下ろす。
真子「生きたハンカチってなんだろ」
愛里「さあね、なんだろうね」

◯同・芝生(朝)
   生徒たち、集まっている。

◯交差点(朝)
   歩行者信号が青になる。
   手を挙げて、交差点を渡る生徒たち。

◯東京都立大泉小学校・外観(朝)
   チャイムが鳴り響く。

◯同・教室(朝)
   席に着いている生徒たち。
   真子、引き出しからノートを取り出す。
   四恩、外を眺めている。
   愛里、教壇に立っている。
   生徒A、B、話している。
愛里「はい、そこ話さないの」
生徒A、B「はーい」
愛里「2時間目はさっきの続きね。みんなちゃんと描けたかしら?」
真子「描けたよ」
愛里「よし。じゃあ、みんなにどんなイラストを描いたか見せてもらおっかな」
生徒A「恥ずかしいよそんなの」
愛里「じゃあ、見せてもらおっかな」
生徒A「やだよ〜」
真子「見せなさいよ」
   全員、生徒Aを見つめている。
   四恩、外を見ている。
   生徒A、おどおどしながら立ち上がり、スケッチブックを見せる。
   スケッチブックには、鯉の絵が描かれている。
愛里「いいじゃない。上手じゃない」
   拍手する生徒たち。
   生徒A、頭を掻きながら、ニコッと微笑み着席する。
生徒A「そうかな〜」
   真子、手を挙げる。
真子「はーい。はいっ先生、四恩君の見たい」
   愛里、四恩を見つめる。
愛里「四恩君。言われてるけど、どうかな?」
四恩「うん、いいよ」
   真子、笑みを浮かばせる。
   四恩、立ち上がり、スケッチブックを見せる。
   愛里、ニコッと微笑む。

                《了》

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