(登場人物)
〇前島(33)・・・フリーター
〇千里(32)・・・同窓会に来た女性
〇笹木(31)・・・元犯罪者
〇紅葉(74)・・・老婆
『たいむかぷせるず』(上演時間:約30分)
〇学校・校庭(夜)
舞台上に石碑。
前島(33)と紅葉(74)、
酔っ払って登場。
前島「あれ、ここどこだあ?」
紅葉「あー地元の小学校だね」
前島「校庭まで入って来ちゃったのか」
紅葉「駅はあっちだってのに」
前島「逆だよ逆(笑)」
紅葉「だいぶ飲んだからねえ」
前島「いやー婆さん。今日は本当にごちそう様でした。でも良いの? 俺初 対面なのにさ。大事な年金でしょ?」
紅葉「良いの良いの。いつもやってんだから。居酒屋で会った若い男に酒おごるのが趣味なの」
前島「へぇー」
紅葉「あたしはね、男を酔わすのが好きなんだよ」
前島「いやちょっと待ってよ。操は守らせてもらうからね?」
紅葉「そんなつもりないっつーの。あたしは年上が好みなんだよ」
前島「年上って。70過ぎたらみんな見分けつかないでしょ」
紅葉「失礼な男だねえ。実年齢よりも若く見られるんだから」
前島「そうなのぉ?」
紅葉「こうやってね、若い男としゃべってるとこっちまで若くなるんだよ。そんで周りの婆さんと差をつけんの」
前島「女の戦いも高齢化が進んでんのか」
紅葉「そうだよ。実は老人会にね、狙ってるメンズがいるの」
前島「メンズって……」
紅葉「あたしより14つ上なの」
前島「14つって…」
紅葉「その人もあたしに気があるみたいでさ。周りからロリコンって言われてんだよ」
前島「ふーん。何か酔いが冷めてきたな」
紅葉「何だよ釣れないねえ。あんたの愚痴いっぱい聞いてやったでしょうに」
前島「そうだっけ?」
紅葉「まったく。せっかく良い事教えてあげようと思ったのに」
前島「え、何良い事って」
紅葉「知りたい?」
前島「……うん」
紅葉「じゃあ教えてあげるよ……埋蔵金が眠ってる場所」
前島「埋蔵金?」
紅葉「そう。だいぶ前にねえ、居酒屋で会った若い男に聞いたんだ」
前島「またおごってたのか」
紅葉「左腕にサソリの入れ墨が入ってる生意気なガキだったんだけどさ、そいつが言ってたの」
前島「なんて?」
紅葉「そいつ振り込め詐欺のグループやってたらしくてね。稼いだ金、泥棒に盗まれたように細工して、こっそり自分の物にしたんだってさ」
前島「えーそれ本当?」
紅葉「で、仲間に怪しまれないように、しばらくの間、ある場所に隠しておいてる最中なんだって。今」
前島「その場所、婆さんにしゃべっちゃったの?」
紅葉「かなり酔ってた時にね。お酒の力は怖いよ」
前島「それ、どこに隠したの?」
紅葉が石碑を指す。
紅葉「あの石碑の後ろ」
前島「えっ」
紅葉「掘ってみるかい?」
前島「いやちょっと待って。その男はまだ掘り返してないの?」
紅葉「どうだろう? あたしと飲んだ次の日、そいつ警察に捕まったんだよ」
前島「えっ!」
紅葉「振り込め詐欺が判明してね。ニュースでやってるの見て驚いたよ」
前島「じゃあ、今は刑務所に……」
紅葉「でもあれは去年かおととしの話だったからねえ。出所してたらもう無いかも」
前島「もしかして婆さん、掘り返したんじゃない?」
紅葉「してないよ。あたし株で儲けてるから、金いらないの」
前島「えっそうなの?」
紅葉「じゃなきゃ年がら年中酒おごれないよ」
前島「あーそっか。じゃあまだ金はあるかも……いや、ちょっと待って。婆さんがその埋蔵金の事教えた相手、俺以外にもいる?」
紅葉「いや、あんたが初めてだ」
前島「俺が初めて? 何で俺に……」
紅葉「あんたが一番何にも持って無さそうだったから」
前島「はい?」
紅葉「今まで飲んだ若い男の中で一番つまんなかった」
前島「はあ!?」
紅葉「何にもやりたい事無くてフラフラしてさ。同級生はみんな正社員で、自分はアルバイトで。そんな愚痴タラタラ並べて」
前島「何だよそれ」
紅葉「こんな奴でも埋蔵金なんて掘り当てたら何か変わるかなっていう、興味本位だよ。それで悪魔のささやきしてみようと思ったんだ」
前島「……趣味の悪い婆さんだな」
紅葉「ほら。どうすんだ? バイトをクビになって金が無いんだろ? 掘ってみたらどうよ?」
前島「埋蔵金……」
明かりが横切る。
前島「あっ、警備員!」
紅葉「あーすいませんすいません。ちょっと迷っちゃって。すぐ出て行きますから」
前島「すいません……」
紅葉「狙うなら休日の昼間だね」
紅葉が去り、前島も慌てて後を追う。
× × ×
昼。
前島がスコップを持って登場。
前島「本当に誰もいないんだ……よし」
前島、石碑の後ろをスコップで掘る。
千里(32)が現れる。
千里「そこで何してるんですか?」
前島「えっ! いや、その……」
千里「あの、もしかして……」
前島「あ、いやこれは、あのぉ!」
千里「6年2組の人?」
前島「はい?」
千里「ダメだよタイムカプセルはみんなが集まった時に掘り出さなきゃ!」
前島「タイムカプセル……」
千里「え、違うの?」
前島「小学校で、石碑の後ろ……」
千里「あのぉ」
前島「……そう! タイムカプセル! 俺、卒業生!」
千里「やっぱりそうかあ!」
前島「そう! 俺、掘る! タイムカプセル!」
千里「何か原始人みたいになってるけど」
前島「いやいや! 現代人!」
千里「じゃあ6年2組だよね? そこにタイムカプセル埋めたって事はそうだよね!」
前島「ああーはい。そうかもしんない」
千里「かもしんない?」
前島「ううん! かもしんなくない。6年2組から来ました」
千里「そう。なら良かった」
前島「えっと、(千里に手を向け)あのぉー」
千里「(ややゆっくり)中村千里」
前島「(輪唱のように)ナカムラチサト。そうそう中村千里さん」
千里「え、分かる?」
前島「へ? いや、あー完全には分からないけどぉ、うっすらとぉー」
千里「無理しなくていいよ。同じクラスだけど、覚えてないよね。20年も経っってるし」
前島「うん。そうだよねえー」
千里「私だって思い出せないもん」
前島「そうなの? 思い出せないの?
千里「ごめんね……」
前島「全然大丈夫! ちょっと残念だけどねー(安心)」
千里「名前教えてくれる?」
前島「えっ!」
千里「名前さえ聞けば分かると思う」
前島「名前はね、あのー(頭をかく。天をあおぐ。下唇をかむ。ほっぺたをつねる)」
千里「……ヤスオ君?」
前島「え?」
千里「緊張するとほっぺたつねるクセがあるって、ヤスオ君じゃない?」
前島「……そう! 久しぶり! 俺、ヤスオ!」
千里「やっぱりそっかあ。先生の言ってた通りだなあ」
前島「そうそう久しぶりに会うから緊張しちゃってさあ」
千里「分かる。私もまだ緊張してるもん。でも、みんないなくてちょっと拍子抜け」
前島「みんないない……あの、今日ってさ、同窓会みたいな……事だっけ?」
千里「うん。みんながちゃんと覚えてればそうなるんだけど。ヤスオ君はちゃんと覚えてたんだね」
前島「ああ。まあね。ここに集合で、いいんだっけ?」
千里「それはまあ、タイムカプセル掘り出すんだもん」
前島「そうだよね! タイムカプセル掘り出すんだもんねー。この、石碑の、後ろ、だよね?」
千里「そのはずだよ、確か」
前島「参ったなあ……」
千里「え?」
前島「いやあ、うん。みんな来なくて参ったなあって。何時集合だっけ?」
千里「決まってないと思う」
前島「ん、決まってないの?」
千里「うん。掘り出すのは、タイムカプセルを埋めた20年後の日ってだけで」
前島「事前に連絡とかは……?」
千里「無かったと思う。え、あったの?」
前島「いやっ、無い、と思う」
千里「そうだよね……やっぱりみんな覚えてないのかな」
前島「どうだろう。じゃあ、まだ他にも来るかもしれないって事かな」
千里「だといいんだけど」
前島「マジかよ……」
千里「さっきさ、もう誰も来ないと思って掘り出そうとしたの?」
前島「あ、うん」
千里「もう少し待ってみようよ。現にこうやって2人集まってるんだもん」
前島「ああ、そっか」
千里「はあー。懐かしいなあ」
前島「……そうだねえ」
千里「ヤスオ君がさあ、一番思い出に残ってる事って何?」
前島「ええー」
千里「教えてよ」
前島「えっとねえ、高校3年の夏……」
千里「いや小学校の思い出」
前島「そうだよねっ。普通そうだよね!」
千里「(微笑)やっぱりヤスオ君は面白いなあ」
前島「そう? 俺そういうキャラだったの?」
千里「で、6年生の時の思い出、何?」
前島「えっとね、運動会かな!」
千里「え、6年の時の?」
前島「そう。あの時は頑張ったなー」
千里「その年は雨で中止になったんじゃなかった?」
前島「ああ! 雨だったわ。何も頑張ってないわ」
千里「だよね」
前島「……あっ、遠足! 楽しかったなー遠足。みんなでワイワイ」
千里「そんなに?」
前島「うん! みんなではしゃいでさ、大盛り上がりだったなー」
千里「でも遠足で行ったのって、戦争の博物館じゃなかった?」
前島「えっ……いやあ、『戦争反対!』って言って、盛り上がったんだよ」
千里「へえ。知らなかった」
前島「そんぐらいかなあ」
千里「あ、でもヤスオ君と言えばほら、アレ得意だったんだよね」
前島「アレ?」
千里「うん。アレ! 今でも出来るの?」
前島「アレって言うのはどれだろう……」
千里「モノマネだよ! 見てみたいなあ」
前島「モノマネ?」
千里「おはこのヤツお願いします!」
前島「おはこ?」
千里「一番似てたあの人のモノマネ! 私それ噂に聞いてただけで、見た事はないからさ」
前島「えーっとね。あの、分かったもうやるだけやるわ! 『何だバカヤロウ!』(ビートたけし)」
千里「……」
前島「……違う?」
千里「校長先生そんなしゃべり方じゃないよ」
前島「校長先生かあー」
千里「そうだよ。ほら、お願いします!」
前島「……んんー、ああもうっ!(アゴをしゃくらせて甲高い声)『皆さんおはようございますっ』」
千里「……」
前島「……もはやここまでか」
千里「似てる!」
前島「えっ?」
千里「やっぱり噂通りだ!」
前島「あ、そう? ラッキー」
千里「よっ、校長先生!」
前島「はっはっはっは。『私の話が長すぎて、5人の生徒が倒れました』」
千里「はっはっはっ」
前島「『むしろ自分が途中で倒れそうです』」
千里「はっはっはっは!!(以降ずっと笑い続ける)」
前島「『教頭先生、水持って来てー』『(野太い声で)はい。かしこまりました!』」
千里「(急に笑いを止めて冷める)教頭先生は似てないな」
前島「ええっ! ああごめん」
千里「でも良かった。ヤスオ君のモノマネ見てみたかったから」
前島「そうなんだ」
千里「他のみんなにも会ってみたいなあ」
前島「うん」
千里「ヤスオ君はさ、同窓会には行ったの?」
前島「えっ……同窓会って、いつの同窓会?」
千里「成人式の時」
前島「えーっと俺が行ったかどうか聞くって事はあ、君自身は同窓会には行かなかった、という事だよね……行ってたら俺がいたかどうかは知ってるはずだもんな」
千里「え、どうしたの?」
前島「OK! 行ってない!」
千里「あ、行かなかったんだ」
前島「え、そっちも行ってないん……だよね?」
千里「行ってないよ。その頃はまだ体調も良くなかったし」
前島「ほおー」
千里「それよりさ、昔みたいにあだ名で呼んでよ」
前島「えっ……あだ名?」
千里「うん!」
前島「あーっとねぇ」
千里「ほら、名字が中村だから、そこから発展してさ…」
前島「あっ中村ね! そうそう中村だ。中村……千里ちゃんだよキミは」
千里「うん、そうだけど……」
前島「じゃあ……ナカムーとか?」
千里「あー違う。さすがに覚えてないよね。無理しないで」
前島「ごめん。何だっけ」
千里「いいよいいよ。ほら、学校の近くに『中村屋』っていうパン屋さんがあったじゃん? そこにアンチョビサンドっていうメニューがあって、そこから取って『アンチョビ』になったんだよ」
前島「プッ! あっはっはっは! 何だよアンチョビって! ずいぶん派生して出来たあだ名だなあ。誰がつけたんだよ」
千里「ヤスオ君だよ」
前島「(真面目な顔に戻り)俺か……」
千里「うちのクラス、他にも色んなあだ名があったよね。住んでる家の隣が床屋だから『バーバ』って呼ばれてたり」
前島「プッ! あっはっはっは! 本人関係ないじゃん! そいつ元は何て名前だったの?」
千里「ヤスオ君だよ」
前島「俺か……」
千里、腕時計を見る。
前島「誰も来ないね」
千里「うん。って言うより、その方が普通だよ」
前島「普通?」
千里「だって20年前の約束なんて普通は忘れてるでしょ。何の連絡も無く2人も来た方が珍しいよ」
前島「まあそうだな。だいたい小学校なんて、中学や高校と比べたらちょっと薄いし、どうしても集まろうって気にはならないっしょ」
千里「……うん。でも、私にとっては大事だよ、小学校」
前島「……ほう」
千里「もうすぐ夕方になっちゃうね」
前島「なあ、学校の周りとか見てくれば? 誰か来てるかもしんないよ? 恥ずかしくて隠れてるのかも」
千里「そうかなあ?」
前島「もう夕方近いと警備員とか来ちゃうし、俺先に掘っとくからさ、行っといでよ」
千里「ええ?」
前島「やっとくやっとく!」
前島、石碑の後ろを掘る。
千里「ちょっとヤスオ君っ」
千里が止めようと駆け寄る。
× × ×
離れた位置に笹木(31)が登場。
スコップを持って通話。
笹木「(もしもし。はい、今日中に返します。本当っすよ! 実はね、ずっと金
隠してた場所があって、今日掘り出すつもりなんすよ。言ったでしょお? 刑務所から出たら、ちゃんと借金返すって。じゃ!」
笹木が移動。
前島と千里を発見。
前島「いいじゃんもう俺が掘っちゃうからここは任せてって」
千里「いやでもぉ」
笹木「おい何やってんだよ!」
前島「えっ……」
笹木「お前らあ……」
千里「来たあ!」
笹木「あん?」
前島「やべえ……」
千里「6年2組の、卒業生でしょ?」
笹木「はあ?」
千里「ほらヤスオ君、やっぱり来たじゃん! 覚えてる人もいるんだよ!」
前島、目を合わそうとせず、
顔をそらしながら答える。
前島「どうも」
笹木「おいあんたら、そこで何やって、」
千里「ごめんなさい! もう誰も来ないと思って、タイムカプセル掘り出そうとしちゃってたの」
笹木「え? タイムカプセル?」
千里「うん、6年2組の」
笹木「6年2組……タイムカプセル……(指を差しながら)小学校、石碑の後ろ、はいはいはい! あーなるほどね」
千里「すごいなーみんなちゃんとスコップまで持って来て」
笹木「あれもしかして、もう何か、掘り出しちゃったりした?」
千里「安心して。まだ掘り出してないから」
笹木「あ、まだなの。はー良かったあ」
千里「もっとみんなが集まってからで」
笹木「みんな? じゃあ今日は、もしかして、同窓会、みたいな?」
千里「まあ、みんなが覚えててちゃんと集まればそうなるんだけど、今は私とヤスオ君だけで」
笹木「ヤスオ君……」
前島「やあやあ。昔とだいぶ、見た目も変わったんだよねー。なので分かんないかもぉ」
千里「あ、私は中村千里。覚えてないよね……?」
笹木、下を向いて考え込む様子。
千里「あれ、どうしたの……?」
笹木「(急に作り笑顔)久しぶり! ヤスオ君に、千里ちゃん!」
千里「うん、久しぶり! えっとぉ。ごめん。やっぱり大人になると変わるのか、顔だけじゃ分からない」
笹木「いやいやいや! 俺もだいぶ変わったから分かんないんじゃないかな。とりあえずそれっぽい奴の名前言ってみてよ!」
千里「それっぽい奴? あ、分かった!」
笹木「えっ」
千里「ほっぺたにホクロがある! ヒロシ君でしょ!」
笹木「……正解! ヒロシです」
千里「やっぱりー」
前島「2対1……」
千里「ヤスオ君とヒロシ君って仲良かったんでしょ?」
前島・笹木「ええっ!」
千里「違うの?」
笹木「ううん。違くない。なあヤスオ。俺、見た目かなり変わったから分かんなかったでしょ……?」
前島「え? うん。俺も、見た目は別人みたいになったから、もう、面影ゼロで、分かんなかったと思うよ?」
千里「しょうがないよもう20年も経ってるんだもん。顔も変わるよ!」
前島・笹木「だよねー!」
千里「わー3人揃うだけですごく嬉しいね!」
前島「そうだねえ……」
笹木「いやー懐かしいなあ!」
千里「ヤスオ君とヒロシ君って、1回教室で取っ組み合いのすごい大きなケンカしたんだよね!」
前島・笹木「えっ……」
笹木「ああーはいはいはい。したよなー」
前島「えっ? ああ、うん。したかも……」
千里「あれって何でケンカしたんだっけ?」
前島・笹木「……んんー」
千里「覚えてない?」
笹木「いや覚えてるよ? うん、当事者だもん。なあ!」
前島「えっ? あ、うん。もちろんだよ!」
前島と笹木、考え込みながら、
横目でお互いを険しい表情で見る。
千里「確か給食の時間だったかな?」
前島「給食?」
笹木「なるほど」
前島「……これはぁ、違うかもしれないけど、もしかしたら」
笹木「それかもしれない! 言ってみ!」
前島「給食のおかわりをめぐってぇ……」
笹木「そうだ! それだよきっと! そっちがそう言うならそれだ!」
前島「あ、当たった? ラッキー」
千里「へえーそれが理由だったんだあ」
笹木「いやー本当ガキだよなあ」
前島「なあ」
千里「何の給食をおかわりしようとしてたの?」
前島・笹木「えっ……?(目が合う)」
前島「はは……(手を出して)どうぞ」
笹木「えっ、いやあ……(手を出して)どうぞ」
千里「ん?」
前島、千里と目が合って苦笑い。
前島「えっとお……シュウマイ?」
笹木「そうだシュウマイだあ!」
前島「マジで? うわ当たったすげえー」
笹木「そうシュウマイだよシュウマイ! ヒロシの言う通りだ!」
千里「え?」
前島「俺ヤスオだけど……」
笹木「あっ、そうだよ何言ってんだよ! ヒロシは俺だよバカ野郎!」
千里が笑う。
千里「やっぱりヤスオ君とヒロシ君のコンビは面白いね!」
笹木「え? ああそうだな! なあヤスオ! お前はヤスオだもんなー」
笹木が前島と肩を組む。
前島「あ、うん……あははー」
千里「そう言えばさ、ヒロシ君は同窓会には行ったの?」
笹木「え?」
千里「私とヤスオ君は行かなかったんだけど」
笹木「あ、2人は行ってないんだ? なるほどね! 俺は行ったぜー」
千里「へえーみんな来てた?」
笹木「ああもうみんないたよー。先生も来てたな」
千里「えっ、真澄先生も?」
笹木「ますみ先生? あーますみ先生ね。相変わらず良いケツしてたよ!」
千里「えっ、良いケツ? 真澄健一先生の事だよ?」
笹木「男!?」
千里「まあ、今は多趣味の人がたくさんいるもんね。ヒロシ君も……」
笹木「いや違う違う! 苗字かよ……」
前島「ん?」
千里「他には誰が来てたの?」
笹木「あー、校長先生も来てた! うん。年取ってたなー」
千里「……校長先生は、私達が卒業してからすぐに亡くなったはずだけど」
笹木「へ? ああ、俺……見えちゃいけないものが見えるんだよ」
千里「えっ! 嘘……」
笹木「(しみじみ)校長先生、大人になったみんなの事、嬉しそうに見てたよお」
千里「本当に? ヒロシ君は、そういう、スピリチュアル系なんだ……」
笹木「う、うん
笹木、頭をかいて焦る。
そわそわと袖をまくって腕をかく。
笹木の腕にサソリの入れ墨。
前島がそれを見て驚く。
前島「(小声)左腕に、サソリ……」
笹木が前島の視線に気づき、
慌てて袖を元に戻して腕を隠す。
前島「なあヒロシ」
笹木「……え? ああ俺か。何?」
前島「俺のあだ名、覚えてるか?」
笹木「え?」
前島「俺のあだ名だよ。昔みたいに呼んでくれよ」
笹木「あだ名?」
前島「いくら何でもそれは忘れないよな」
笹木「あー。えっと、確か……シュウマイ」
前島「それはさっきの話だろ」
笹木「ああ」
前島「どうなんだ?」
千里が2人のやり取りを不思議そうに見る。
前島「ちなみにお前のあだ名は、住んでる家の隣が床屋だったから『バーバ』だった」
千里「え? それって」
前島が千里を手で制す。
笹木「あ、そうそう! バーバだ。全く本人の個性は全然関係ないじゃんなあ!」
千里「え?」
笹木「……あ、ごめんちょっと電話」
笹木が退場。
千里「ねえ、バーバってヤスオ君のあだ名だよね? ヒロシ君も、昔の事覚えてないのかな。話合わせてくれてるだけで……」
前島「そうかもしれないね」
千里「私、ちょっとトイレ行って来る」
前島「え、学校空いてるの?」
千里「違うよ。体育館裏にあるじゃん。屋外トイレ」
千里が退場。
前島「ああ。そっか……」
前島、
スコップを持ち直して石碑の後ろを見る。
× × ×
別の場所で笹木が通話。
笹木「いや、ちょっと待って下さい。予想外のジャマが入って。はいすいません。必ず!」
笹木が移動して戻って来る。
前島「ヤスオ君」
笹木「ん? おう、何?」
前島「ヤスオは俺、お前はヒロシ」
笹木「ああそうだ! 何言ってんだよもう」
前島「キミ、本当は誰だ?」
笹木「えっ……」
前島「バーバっていうのも俺のあだ名だ」
笹木「そうだっけ……?」
前島「ヒロシじゃないだろ」
笹木「……」
前島「俺もヤスオじゃない」
笹木「へ?」
前島「石碑の後ろに、金が埋まってる」
笹木「お前っ、何でそれを……」
前島「詐欺で稼いだ金、事務所に泥棒が入った事にして1人で持ち逃げしたんだろ?」
笹木「まさか、警察か?」
前島「違う。この前居酒屋で飲んだ時、前にキミと飲んだっていう世話好きの婆さんから聞いたんだ」
笹木「婆さん……?」
前島「もしかして、覚えてない?」
笹木「……あー若い男に酒おごるのが好きな婆さん!」
前島「そう」
笹木「マジかよ。俺、あの婆さんにそんな事までしゃべってたのか……おい待て!婆さん俺の金掘り出してねえだろうなっ!」
前島「それは大丈夫だ。ちなみにその事を教えたのは俺だけで、他の人にも言ってないらしい」
笹木「はあ良かったあー。いや違う! お前じゃあ、タイムカプセル掘りに来た奴じゃないのか? 6年2組の!」
前島「まあね」
笹木「おいおい。お前もあの金狙って来たのか?」
前島「ああ」
笹木「マジかよ! いいか? あの金は俺のなんだよ!」
前島「厳密にはお前のじゃないだろ」
笹木「まあそうだけど。じゃあもしかしてあんた」
前島「……頼む! 少しで良い。俺にも分けてくれないか?」
笹木「いやいやふざけんなよ!」
前島「ダメだって言うなら警察に言うぞ」
笹木「……くっそぉ」
前島「お願いだ。バレちゃってんだから、もうしょうがないだろ」
笹木「何でこうなっちゃうんだよもおっ!」
前島「でも、真っ先に警察に通報するような聖人君子よりはマシだろ?」
笹木「(舌打ち)……仕方ねえ。本当に誰にも言わないんだな」
前島「もちろん」
笹木「分かったよ。でもな、俺も借金の返済があるんだ。分け前は多くねえぞ」
前島「ちなみに、埋めた金っていくらあるんだ?」
笹木「(タバコを出して吸う)……千五百万だ」
前島「すげえ!」
笹木「そっから借金返済分の5百万を引いて、7対3の割合でどうだ」
前島「3百万かあ。もうちょっとだけぇ…」
笹木「交渉して値段をすり合わせるつもりはねえぞ。最大限の譲歩してその金額だ」
前島「……分かった。あんまり欲かいてもな」
笹木「全くこんな事になるなんてよお。でも待て。じゃあ、あいつは?」
前島「中村さん?」
笹木「おお。お前の仲間か?」
前島「違う。たぶん本当にタイムカプセルを掘り出しに来た卒業生だ。俺はお前と同じで、卒業生のフリしてごまかしてる最中だったんだよ」
笹木「そうだったのか……でもさ、全くの別人を同級生だと信じ込むか? いくら20年だからって。見た目が変わったにも面影とかあるだろ」
前島「じゃあ……警察? 金の行方を追って来た」
笹木「いや、だとしたらどっかで隠れてさ、俺が金を掘り出した瞬間を押さえるだろ」
前島「確かに。じゃあやっぱり本当の卒業生か。でなきゃあんなに小学校の時の話もしないもんな」
笹木「とにかく、何とかして奴を追っ払って金掘り出さねえと。怪しまれて通報されたら全部パーだ」
前島「モタモタしてると、他の卒業生も来ちゃうかもしれないし」
笹木「それはないだろ。小学校のタイムカプセルなんて、よっぽどの物好きじゃないと覚えてねえよ。あいつみたいなさ。ほら、何かちょっと変わってんじゃん」
前島「うーん。とりあえず、やるなら早めに、彼女の目を避けて掘り出したいな」
笹木「何か手はねえかな……」
前島「……そうだ!」
笹木「ん?」
前島と佐々木、
後ろを向いてコソコソ話し合う。
だんだん夕陽が差し込み始める。
千里が戻って来る。
千里「ただいま」
前島「あ、お帰り」
千里「トイレのドア壊れててさ、なかなか開かなくてあせっちゃった」
笹木「そうなんだ。(小声で前島に)素直にウンコしてたって言えよな」
千里「ちょっとヒロシ君!? 違うからね? 本当にドア壊れてたんだから! 行って見て来れば?」
笹木「分かった分かった! ごめんって」
千里「何か私もムキになっちゃった……ごめん」
笹木「いやいや」
千里「でも、何かちょっと嬉しいかも」
笹木「ウンコがバレた事?」
千里「そうじゃない! 今の、小学生の言い合いみたいで」
笹木「ああそっか。懐かしいなあ、ヤスオ!」
笹木が前島に目配せ。
前島「おう。ねえ中村さん」
千里「何?」
前島「今さ、2人で同級生の奴に電話かけまくったんだよ。そしたらみんな今日の事忘れてて、やっぱり来れないって。な?」
笹木「うん。そうそう!」
千里「……そうなんだ」
前島「で、日を改めてまた集まろうって。その時はちゃんと前もって連絡するらしいから。だから、今日のところはその、解散で!」
笹木「うん。解散だ! 解散しよう!」
千里「……分かった。じゃあ私は、もう少しここにいるよ」
前島・笹木「えっ!」
千里「この景色見てたいんだ。次の時、ちゃんと来れるか分からないし……」
前島・笹木「ん?」
千里「2人は優しいね」
前島・佐々木「え?」
千里「たった2ヶ月しか学校にいなかったのに、こんな風に、気さくに接してくれて」
笹木「2ヶ月?」
千里「だって、私が6年生になってから学校行ったのって、最初の2ヶ月だけだから」
笹木「どういう事だ? 不登校?」
前島「おいっ……」
千里「やっぱり覚えてないよね。私、病気でずっと入院してたんだ」
前島・笹木「えっ……」
千里「小さい頃から、ずーっと入退院を繰り返してて。やっとまともに学校に行ける事になったのが、6年生になってからなんだ」
笹木「そう、だったんだ」
千里「でね、その後はもう、学校に行く事はなかった。全部通信教育で」
前島「じゃあ、学校にちゃんと通ったのって……?」
千里「小学6年の時だけだよ」
笹木「マジかよ」
千里「だからさ、私にとっては、6年2組が唯一のクラスだったんだよね」
前島「だから逆に、あんなに細かく色んな事を覚えてたのか」
千里「うん」
前島「あれ、でも運動会とか遠足とか、最初の2ヶ月だけでやらないよな?」
千里「ああ。学校であった事は全部、真澄先生が日記にまとめて教えてくれたの」
笹木「あ、男のますみ先生ね……」
千里「たまに病院にも来てくれて、クラスの色んな話をしてくれたんだよ? 給食でヤスオ君とヒロシ君がケンカした事もね」
前島「へえ」
笹木「良い先生だな」
千里「ごめんね気を使わせて。本当は2人とも、私の事覚えてないのに、話に付き合ってくれてたんでしょ?」
笹木「いやあ、そんな事ないよ? なんとなーくは覚えてたし。なあ?」
前島「そのさ、次、こうやって集まっても、ちゃんと来れるか分からないって、どういう事?」
千里「うん……病気が、再発しちゃって。手術する事になったの。それが、上手くいくか分からないから」
笹木「再発って。そんな体でこんな所来てていいのかよ」
千里「まだ症状は悪化してないし、入院も来週からなんだ。だから、今なら6年2組のみんなに会えるかなって。しかも、タイムカプセル埋めてちょうど20年後の今日に! すごいタイミング良かったから、もう今しかないって」
笹木「そうなのか……」
千里「ごめん何か暗い話しちゃって! でも、今日は会えて良かった。ありがとう」
沈黙。
前島「……タイムカプセル、掘るか」
千里・佐々木「えっ?」
前島「タイムカプセルは、20年後の今日開けるって約束だし。中村さんは、約束守って来てるわけだから」
千里「でも、日を改めてみんな集まるって」
前島「んー。そんなのは、だいたい集まらないのが鉄則じゃん。だから、掘っちゃおう」
笹木「おい」
前島「大丈夫だよ」
千里「いいの?」
前島「いいのいいの。俺とヒロシで掘るよ。体に障るといけないから、座って待ってて」
千里「え、本当に?」
前島「ほら! ここは任せて」
千里「うん……」
千里が近くに座る。
前島が石碑の近くに行く。
追う笹木。
小声で話す2人。
少し離れた位置で見守る千里。
笹木「おいっ。本気か?」
前島「怪しまれなきゃいいんだろ。金掘り出しても、適当に石碑の後ろに隠しとけばいい。彼女にはタイムカプセルだけ見せれば」
笹木「じゃあまだ同級生のフリ続けなきゃいけないのかよ」
前島がスコップで掘り出す。
笹木「おい。なあ」
前島「……かくれんぼでさ、自分はまだ隠れてるのに、みんな夕方のチャイムで帰っちゃった事ないか?」
笹木「……は?」
前島「って言うか、俺はその夕方のチャイムで帰っちゃった方の子供だった」
笹木「何の話だよ」
前島「その日さ、たまたま公園で知り合った子も1人交じって遊んでて、夕方のチャイムが鳴ったから、俺もみんなもその子が隠れたまま帰っちゃったんだよ」
笹木「はあ」
前地ま「で、その子たぶん違う学校の子で、次の日からもう会う事がなかった……それとはまた全然状況も違うんだけどさ。何か、今そんな気分」
笹木「何だよそれ。そのたまたま公園で知り合った子が、今で言う中村さん……みたいな事?」
前島「うん……」
笹木「まあ、可哀想だとは思うけどよ」
前島「俺達だって、どっちにしろ早く掘り出さなきゃいけないんだから」
笹木「そうだけど」
前島「怪しまれて通報されずに金も掘り出せて、一石二鳥だろ」
笹木がスコップを持ち直す。
笹木「俺は……かくれんぼで置いてかれた事あったな」
笹木が掘り出す。
千里「ねえ、本当に手伝わなくて平気?」
前島「平気平気」
黙々と掘る2人。
夕方のチャイムが鳴る。
笹木「……あっ」
笹木が黒いカバンを地中から取り出す。
前島「おい、それ……」
笹木「ああ。これだよ。良かった。あった!」
千里が立ち上がる。
千里「あったの?」
前島「えっ? いや、まだ。(笹木に)バカっ」
笹木「分かってるよっ。(千里に)間違えた! 6年1組のタイムカプセルだった」
千里「1組の? 埋める場所かぶったんだ……」
笹木「気にしないで。捨てとくから」
千里「ダメでしょ!」
前島「大丈夫冗談だから! 休んで待ってて。(笹木に)余計な事言うな」
笹木「すいません」
前島「とりあえずバッグは見えないように置いとこう」
笹木「はい。えっ待って何か上下関係……」
前島と佐々木が掘り続ける。
千里「けっこう、深く埋めたのかなあ……あの、やっぱり」
前島「あった!」
千里「えっ?」
前島、タイムカプセルを取り出す。
千里「ああ! タイムカプセル!」
前島「開けてみる?」
全員、中央でタイムカプセルを開ける。
中にはたくさんの手紙。
前島「手紙……」
千里「中村千里……」
千里が手紙を漁り、1枚取り出す。
千里「あった。これ先生に頼んで入れてもらったんだよね」
千里が手紙を開いて読む。
千里「あれ、2人は読まないの?」
前島「え?」
千里「20年後の自分の自分に宛てた手紙」
前島「ああ、読む読む」
前島と佐々木が手紙を漁る。
笹木「えーっと、ヒロシヒロシ……おっ、これか?」
笹木が手紙を手に取る。
笹木「へえー。新倉って名字なんだ」
前島、注意するような表情で笹木を見る。
笹木「おっとっと……どれどれ?」
前島「ヤスオヤスオ……これか。上田康夫」
前島が手紙を手に取り、やや離れて読む。
前島「……『20年後の僕へ。20年後の僕は、何をしてますか? 僕は今、将来の夢はありません……はっ。俺と一緒だな。夢が見つかればいいけど、もし見つからなくても、毎日楽しく生きていけたらそれで良いと思います。自分の周り、半径1mだけでも明るければ、それで十分じゃないかと、そんな気がします。だから、一生懸命生活して下さい』……ふんっ。なんて子供だよ」
笹木が離れて手紙を読む。
笹木「『お久しぶりです。元気ですか?』ふっ、初めましてだよ……『僕は将来、警察になりたいと思ってるんですが、夢は叶いましたか?』真逆の人種だよ。『僕は最初、悪い人を捕まえて懲らしめたいと思ってましたが、きっと悪い人も、最初は悪い人じゃなかったと思うんです。どこかで何かを間違っちゃって、悪い人になってしまったと思うので、懲らしめる為に捕まえるんじゃなくて、元の良い人に戻す為に捕まえるような、そんな警察官になって下さい。僕も頑張ります』……へっ」
千里も手紙を読み、閉じる。
千里「自分がこんな事書いてたなんて忘れてた。クラスの出来事は覚えてるのに」
笹木「そっちは何て書いてあったんだ?」
千里「体も良くなって、みんなと会ったら、自分が出来なかった事、一緒にやってもらって下さい……だって」
笹木「へえ」
千里「図々しいね、小6の私は。確かこれ病院で書いたんだっけな」
笹木「出来なかった事って?」
千里「運動会とか、合唱祭とか、遠足とか色々……じゃないかな」
笹木「登校拒否してる生徒もその日だけは来る、みたいな時だな」
千里、手紙を見つめる。
その様子を見つめる前島と佐々木。
前島「……やってみる?」
千里「えっ?」
前島「運動会と、合唱祭と、遠足と」
笹木「いや、何言ってんだよ」
前島「だって、手紙に書いてあるんでしょ?」
千里「うん……」
前島「みんないるし、どうせならやらない?」
笹木「みんなって、3人じゃねえかよ」
前島「小学生にとっての『みんな』なんて、どうせ周りの友達2~3人の事だろ?」
笹木「いや、それとこれとはさ……」
前島「何か、久しぶりにそういうのも良いじゃんか! ねえ?」
千里「……いいの?」
前島「ああ」
笹木「えー」
千里「……ありがとう」
前島「なあ、どうだろう?」
笹木「……分かったよ」
前島「ありがと。じゃあ早速やろう。運動会と、合唱祭と、遠足! えっと体育用具倉庫は……」
前島が走り去る。
笹木「おいどこ行くんだよ!」
千里「あ、待ってよ!」
笹木と千里が追いかけて退場。
× × ×
音楽。
前島、佐々木、千里、登場。
× × ×
前島と千里がペアを組み、笹木と綱引き。
笹木が引っぱられて負け。喜ぶ前島と千里。
× × ×
前島が指揮をして笹木と千里が歌う。
前島の指揮が激しくなる。
笹木が千里の肩を抱き拳を振って熱唱。
笑う千里。
× × ×
夜になっている。
前島「遠足はどうすりゃいいんだ……?」
笹木「簡単じゃん。校内遠足だよ」
千里「え?」
笹木「鍵が緩んでる窓知ってんだよ」
千里「え!」
笹木「いや! 知ってるって言うか、感じるというか」
前島「あ、いや、さすがスピリチュアル系だな!」
笹木「おう。早速入ろうぜ!」
前島「よし行くか!」
千里「うん!」
全員退場。
笹木が戻って来る。
笹木「わあああーっ!」
前島と千里が後から来る。
前島「驚かすなよー」
笹木「いやだって何かいた気がしたんだもん。夜の学校ちょー怖えし」
前島「さすがスピリチュアル系だな」
3人で笑い合う。
千里「……2人ともありがとう」
前島「いや、俺らもすごい楽しいし」
笹木「ああ。でももうけっこうな時間だな」
千里「……ねえ。他のみんなまた集まるんだよね。あのタイムカプセルどうする?」
前島「あーそうだなあ。埋め直すか」
笹木「まあ、面倒くせえけどしょうがねえな」
前島「休んでて。けっこう疲れたでしょ」
千里「あ、いいの? ごめんね。ありがとう」
前島と笹木、石碑の後ろでスコップ作業。
笹木「……あのさ」
前島「ん?」
笹木「やっぱあの金、お前にはあげられないわ」
前島「えっ?」
笹木「……ダマした人達に、返す」
前島「……分かった。よし! 埋め直し完了」
千里「お疲れ様。今日、すごい楽しかった」
前島「俺も」
笹木「……お前さ、次行けるか分かんないとか言わずに、手術、頑張れよな」
千里「……うん!」
笹木「さてと。じゃあ今日はもう」
前島「待った!」
笹木「ん?」
前島「俺らだけの、タイムカプセル埋めない?」
笹木「ええ?」
前島「1年後に向けて」
千里「……いいね」
笹木「まあ、いいけど」
前島「紙とペンあるかな?」
千里「学校の中にあるかも!」
前島「取ってこよう!」
笹木「えっまた行くの? 怖ぇよお」
前島が笹木を引っ張り、
千里が背中を押し、笑いながら退場。
(おわり)
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