オフィスの一角
先輩OL「…だからね結城(ゆうき)君、やっぱり不安になるのよ」
結城東矢「そういうものですか。と、じゃあ先輩。お昼、行ってきます」
先輩OL「おー。彼女大切にしろよー」
結城東矢「(スマホの通知見て)はは。今日は俺、一人みたいですけど」
廊下
結城東矢「なになに?後輩の相談のってから行く?またなんか来るのかな。・・・あれ、田辺さん?」
田辺俊哉「おう結城。飯か?」
結城東矢「ええ・・・」
田辺俊哉「なんだ、弁当か?愛されてんなぁ」
結城東矢「おかげさまで。他部署に何の御用で?」
田辺俊哉「ん?暇つぶし」
結城東矢「うそこけ」
田辺俊哉「おま、部署違いとは言え、上司に向かってなんつー言いぐさ」
結城東矢「んー、なんか、人事ですか?」
田辺俊哉「んー?暇つぶし」
結城東矢「9月ですから人事異動ありますもんね」
田辺俊哉「あー、そういやそんな時期かぁ」
結城東矢「いや、何かの明言を避けるためとは言え、部長がそのリアクションて、どうなんですか?」
田辺俊哉「まあまあ。さっさとメシ行ってこいや」
結城東矢「どうでもいいですけど、いや、良くないですけど。タバコはやめてください。館内禁煙ですよ」
田辺俊哉「大目に見てよ、携帯灰皿は持ってるからさ」
結城東矢「そういう問題じゃねえだろうが」
田辺俊哉「口が悪いぞー、一社員のくせに」
結城東矢「そう思うんなら、アンタが態度を改めてくれ」
田辺俊哉「へぇへぇ、んじゃな」
結城東矢「ったく、改めない人だな。飯いこ」
会社屋上
岬明日香「……あ、東矢(とうや)」
結城東矢「お、明日香さん。……と、どなた?」
立花美幸「岬先輩?」
岬明日香「東矢、ちょっと話し聞いてくれない?」
結城東矢「んう?うん……」
岬明日香「東矢、この子のこと、知ってたっけ?」
結城東矢「いんや?多分、初対面」
立花美幸「は、はい。だと、思います」
岬明日香「じゃあ、簡単に。美幸ちゃん、この人は結城東矢。……推理オタク?」
結城東矢「いや、間違ってないけど。それ?」
立花美幸「は、初めまして……」
岬明日香「こっちの子、立花美幸(たちばな みゆき)ちゃん。同じ部署の後輩。最近困ってることがあるらしくて…。さっきの話、もう一度してくれる?」
立花美幸「は、はい。最近、誰かに見られている様な気がするんです……」
結城東矢「ほう?」
立花美幸「感じるのは勤務中なんですけど、感じたときに回り見ても誰も見てなくて……」
結城東矢「最近っていうのは、どれくらい前からですか?」
立花美幸「1週間前くらいからだと、思います」
結城東矢「1週間か……。立花さんの周りで、あるいは立花さん自身の行動で、何か変わったことありましたか?」
立花美幸「特には……」
岬明日香「……余計なことかもしれないけど……」
結城東矢「およ?明日香さんが心当たり?」
岬明日香「美幸ちゃん、企画開発部の社内コンペにアイデア出してなかった?」
立花美幸「え?はい」
結城東矢「あ、そうなんだ」
立花美幸「でも、あれって1か月くらい前ですけど……」
結城東矢「まあ、今ぱっと出てくる手掛かりとしては最有力なのかな。それ以外に大きな動きが無いんなら、少し動いてみるよ」
立花美幸「よろしくお願いします」
結城東矢「じゃあどうしようか……。今からでも調べる?」
岬明日香「お昼休憩終わるから、ちょっと忙しなくなるわよ?」
結城東矢「あ~じゃあ、定時終わったら様子見に行くよ」
立花美幸「わかりました。待ってます」
結城東矢「じゃあ、また後で」
18時を回った社内
美幸の席
立花美幸「あ、結城さん、来てくれてありがとうございます」
結城東矢「お疲れ様です。ここが、立花さんの場所ですか……少し廊下側の位置なんですね。…で、隣に明日香さん…と」
岬明日香「うん、お疲れさまー」
結城東矢「これ、なんか視線が部署内からあったら、明日香さんも感じる位置にいるような……」
岬明日香「その仮説だと、私は感じたことないわね」
結城東矢「ならちょっと、外に目を向けてみるか」
岬明日香「外?」
結城東矢「廊下にね。何かないかな~と。2人はそこで待っててくれればいいよ」
岬明日香「私も見たい」
立花美幸「私も知りたいです」
結城東矢「ん~と、どーかなー。何かの痕跡でもあればいいんだけど」
岬明日香「痕跡……ねぇ」
立花美幸「何が、あるんでしょうか……」
結城東矢「ん?これ……」
岬明日香「ホントに何かあったの?」
立花美幸「どこですか?」
結城東矢「廊下の壁際。明日香さんたちの席が見えるか見えないか、の位置だね。何かの粉?」
岬明日香「粉って聞くと、それだけでイケナイ想像しかできないわね」
立花美幸「え、こんなとこで犯罪の匂いですか?」
結城東矢「2人共想像力たくましいな。それと刑事ドラマの見過ぎ。立花さんが見てるかはしらないけど」
立花美幸「あ、すみません。なんか、そんなノリをどこかで聞いたことがあったので」
結城東矢「ノリで警察呼ばないでくれよ?」
岬明日香「で、その粉。何か分かるの?」
結城東矢「あー、ん~多分ね」
岬明日香「何よ、歯切れ悪いわね」
結城東矢「(確かあれって、明日発表だったよな。てことは何か?外から見てたってことか?理由は想像出来なくはないけど)」
岬明日香「東矢!」
結城東矢「あ、ごめんあっちの世界にいってた」
岬明日香「てことは、何か分かったのね?」
立花美幸「え、そうなんですか?」
結城東矢「フッ、ああ」
岬明日香「!」
結城東矢「けど、ちょっと確かめたいことがあるから、謎解きは明日になるかな」
立花美幸「確かめたいこと……ですか?」
結城東矢「はい。また明日のお昼に屋上に来てもらえますか?」
立花美幸「分かりました」
結城東矢「じゃあ、今日のところはこれで。俺は失礼しますね」
立花美幸「はい。お疲れ様でした」
次の日、昼休憩、屋上
田辺俊哉「お~う、結城、来たぞー……」
岬明日香「え?田辺部長?」
立花美幸「え!?田辺部長?なんで!?」
結城東矢「お、着ましたか」
田辺俊哉「おぅわ!?」(東矢の後ろに隠れる)
岬明日香「え?」
立花美幸「え?」
田辺俊哉「ゆ、結城、なぜ女子がいるんだ?」
結城東矢「いやー今回の謎解きに、田辺さんが必要だったので呼んだんですよ」
田辺俊哉「は?」
結城東矢「えーと、それぞれが色々と聞きたいことはあるだろうけど、まずは今回の立花美幸さん依頼の視線の正体について明かしていきます」
岬明日香「私たちが混乱してる、この状況で?」
結城東矢「実はな、種明かし……と言っていいか分からんけど、全部腑に落ちる話なんだ。まあ、俺以外には超意外な話しもあるかもだけど」
岬明日香「わ、分かった。とりあえず、聞くわ」
結城東矢「まず、明日香さんと立花さん。今日、発表された人事は見た?」
立花美幸「え?はい、見ました」
岬明日香「うん、美幸ちゃん、企画開発部への異動よね。おめでとう」
立花美幸「ありがとうございます。コンペに出したアイデアが通ったって、嬉しかったです」
結城東矢「そう。今日は人事の発表と、それに合わせて企画開発部が社内コンペを企画していた。そしてコンペの結果自体は多分1週間前には決まっていた」
岬明日香「ん?1週間前?」
結城東矢「ですよね?そのコンペに責任を持っていた、田辺俊哉企画開発部長。そして立花美幸さんの事を部署の外から見ていた視線の正体さん」
岬明日香「は!?」
立花美幸「部長が!?」
田辺俊哉「…………(女子がこっち見てる、女子がこっちみてる!!!)」
結城東矢「いや……まあ別に犯罪とかが目的ではないことは確かなんだけど。2人とも、屋上に来たときの田辺さんの反応見て、どう思った?」
立花美幸「え?どうって……」
岬明日香「そうよ。なんで東矢の後ろに隠れたわけ?」
結城東矢「この人な……、女性が、女性と話すのが苦手なんだよ」
立花美幸「は?」
岬明日香「は?」
田辺俊哉「しょーがないだろー。どうしようもないんだからー」
結城東矢「この調子で理由は言いたがらないんだけどな。とにかく女性と話すのが苦手で、出来ないんだとさ」
立花美幸「…………」
岬明日香「待って、理解が追い付かない。田辺部長って言ったら、イケメンで有名な、あの部長だよね?」
結城東矢「ああ。田辺さんが屋上に来た時の立花さんのリアクションが物語ってる。その認識で間違いない」
岬明日香「その田辺部長が、女性が苦手?ダメ、訳がワカラナクナッテキタワ」
結城東矢「田辺さーん、皆頭がショートしちゃってるよ」
田辺俊哉「うるせー。しるかー。でも結城、お前、なんで俺がその女子社員の事を見てるって分かった?」
岬明日香「そうよ。その謎解きがまだだったわ」
結城東矢「あの時、立花さんの席からは見にくいところに粉末があっただろ?あれ、タバコの残りカスだ」
立花美幸「タバコ…ですか?麻薬とかじゃなくて?」
結城東矢「刑事ドラマを見てる人は想像力たくましいね。でも違う」
岬明日香「タバコって、それだけで?」
結城東矢「まあ、タバコの吸い殻や、灰やカスなんてのは、わりとどこにでもあるものかもしれないけどな。銘柄がマールバラ…というか、俺が田辺さんと一緒にいるときに良く感じてた匂いが全く一緒だったことと、禁煙の館内でタバコを吸ってるのは田辺さんくらいしかいないんだよ」
田辺俊哉「いやー、俺の事をよく理解してるようで、部長うれしいぞ」
結城東矢「嬉しいぞ。じゃなくて、タバコ吸うの止めろって言ってんだろうが」
田辺俊哉「はっはっは。今回はそのおかげでなんか知らんが、謎が解けたってことじゃないか」
結城東矢「正直、どうでもいいわ。とはいえ、立花さん。今回の事件の真相、立花さんが感じてた視線の正体は、田辺部長のものだったってことで、依頼は終了かなと、思うんだけど」
立花美幸「は、はい。そうですね、とりあえず正体不明じゃなくてよかったです。ただ、田辺部長のあまりのギャップに訳が分からなくなってますけど」
結城東矢「ああ。男の俺も、そこには同意する」
立花美幸「でも、あの……結城さんも、カッコよかったです」
結城東矢「あ、ありがと」
立花美幸「それじゃ、ありがとうございました。失礼します」
結城東矢「はーい。あんたもとっとと出てけ」
田辺俊哉「上司を足蹴にすんなー。不良社員ー」
文句を言いながら田辺が屋上からいなくなり、東矢と明日香の2人になる
結城東矢「明日香さん。ただいま」
岬明日香「へ!?な、なにが?」
結城東矢「だって、なんか心配してたんでしょ?俺のこと、というより、立花さんと関わってる時の俺の事」
岬明日香「…別に、何も心配なんて…」
結城東矢「立花さん、多分、俺と同い年くらいなのかな。だから、俺が立花さんのことを好きになるんじゃないか?みたいなことを考えてたんじゃない?」
岬明日香「何で?そう思ったのよ」
結城東矢「だって明日香さん、謎解きに、特に興味ないでしょ?でも、今回は、昨日はわざわざ定時後に残って付き合ってくれてた。立花さんと俺をつなぐ橋渡しはお昼時点で終わってたのに。何でかな?」
岬明日香「……知らない」
結城東矢「俺と同じ部署にもさ、女の先輩いるの知ってるでしょ?その人が言ってたんだ。年上彼女っていうのは、彼氏とのその年齢差にいつも不安を抱えてるんだって。その時は聞き流したんだけど。ひょっとしたら今回の明日香さんも同じ気持ちだったのかな……て」
岬明日香「……(子声で)やっぱり謎解きなんて興味ない。ううんキライよ。こうやって全部見抜いてくるんだから」
結城東矢「でも、嬉しかったよ。そこにある明日香さんの気持ち、感情が何であれ、嫉妬?してくれたのかなって、思ったから」
岬明日香「っ、……あ、そ」
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