ユニークバディ ドラマ

30歳で音楽を再び始めたデュオが紅白を目指すが、逮捕され、刑務所で面会することになり、再スタートをするまでの話
古堅元貴 41 0 0 02/22
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第一稿

「ユニークバディ」

登場人物
キウチ  タキオ (30)
イシグロ カズロウ(30)

【1章】
○渋谷・ライブハウス
アーティスト「ラオス・ライム・グリーン・ト ...続きを読む
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「ユニークバディ」

登場人物
キウチ  タキオ (30)
イシグロ カズロウ(30)

【1章】
○渋谷・ライブハウス
アーティスト「ラオス・ライム・グリーン・トップス」(通称・ラスス)のライブが行われている。
1500名キャパの会場は満席。
観客席内にキウチタキオ(30)。
最後の曲が終わり、観客へ挨拶をするラススの
ボーカル「今日は本当にありがとう!ラススはもっと遠い所へ、デカい所へお前らを連れてってやる!」
熱狂する観客たち。
冷ややかな目でその光景を見ているタキオ。

○大衆居酒屋(夜)
カウンター席に座っているタキオ。
ビールとつまみを片手に、スマホでラススのライブの感想ツイートを見ている。画面には、
ツイート1(声)「ラスス最高!同じ時代に生まれてきてくれてありがとう!」
ツイート2(声)「生歌やばっ!音源超えてたっ!」
などの絶賛ツイートばかりで、苛立ちと嫉妬を抱いているタキオの表情。
×     ×     ×
1時間後。ビールを飲みながら、いまだスマホ片手にSNSを見ているタキオ。その体はふらついている。タキオ、画面に文字を入力しはじめ。
タキオのツイート(声)「読モ上がり程度のルックスと事務所のごり押しでたまたま売れたバンド、それがラスス」
と入力し、送信ボタンを押そうとするが
タキオ「……」
ツイート文を削除するタキオ。直後、スマホに通知。見ると母からのLINEで。
タキオ母(声)「夜ごはんいらないなら、ちゃんと連絡入れなさい」
さらなる苛立ちが募っているタキオの表情。
仕方なくスマホで終電を調べると。
タキオ「うわ……」
千葉・松戸の実家暮らしのタキオの終電は、ちょうど今、渋谷駅を発車していた。
タキオ「終わった……」

〇渋谷・マンガ喫茶・店内(夜)
店内に入って来るタキオ。
受付にはイヤホンをしながら、雑誌を読んでいる店員。
タキオ「(店員に)あのー、すいませーん…」
タキオに気づいてない店員。
タキオ「(反応ないので)すいませーん!」
店員、何度目かの呼びかけでタキオに気づく。しかしイヤホンは外さず、雑誌を見ながら。
店員「只今混雑しておりましてー、フラットシート席が満席、リクライニングチェア席が5、8、14番が空いておりまして、リクライニングマット席が37、102、466番が空いておりますー」
タキオ「……じゃあリクライニングマット席をお願い…」
店員「番号で言ってもらっていいすか?そのために番号でお伝えしたのでー」
タキオ、苛立ちを抑えながら、受付の表示画面を見て。
タキオ「……じゃあ37番で」
手続きをしている店員。受付から顔を出し。
店員「えー只今ドリンクバーが、オレンジジュースとメロンソーダ、ジンジャーエール、コーヒー、ココア、コーンポタージュが機械故障で利用できませんのでー」
タキオ「……じゃあ逆に何が飲めるんですか?」
店員「ホワイトジュースと野菜ジュースですねー。あとマンガの持ち込みは1巻ずつで、読み終わったら、次の1巻を持ち込むようにお願いします」
タキオ「(呟くような)こいつ……」
店員「(雑誌を読みながら)あとおタバコ吸われる場合は、加熱式が1つ上の階、紙巻きは9つ上がった11階で……」
タキオ「おまえさ、それが客に対する態度か!?」
タキオ、掴みかかろうと近づくと、店員が見覚えのある顔で。
タキオ「カズロウ!?」
店員「は?」
タキオ「カズロウだろ!イチグロカズロウ!」
店員「えっ!?……なんで?」
店員の名は、イチグロカズロウ(30)。
タキオ「おれだよ!おれおれっ!おれ!」
タキオ、帽子を取って顔をよく見せる。
カズロウ「ん!?……タキオ?キウチタキオ?」
キクチ「そう!タキオ!!」
カズロウ/タキオ「おおー!」
カズロウ「何してんだよ!」
タキオ「カズロウこそ何やってんだよ!」
笑ってしまう2人。
カズロウ「変わんねえ―な!」
タキオ「……解散以来だから、10年ぶり?」
カズロウ「だな」
タキオ「おお……そっか……まあ今度飲みにでも……」
カズロウ「いいね、てかこのあと行く?俺もうちょいで上がりだから」
タキオ「おお……行くか」

【2場】
○代々木公園・広場(朝)
スーツ姿の会社員も通りかかる中、缶ビールを飲んで語り合っているタキオとカズロウ。
彼らの横には、飲み終えた空き缶や、コンビニで買ったつまみ類。
呂律もたどたどしく、目線も定まっていない状態で、
タキオ「コンビニやって、引っ越しやって、居酒屋やって、テレアポやって、居酒屋のキャッチやって、土木やって、居酒屋に酒の宅配するやつやって、ビルの清掃やって、今は閉店後の居酒屋の清掃やってる」
カズロウ「死ぬまでに世の中のバイト網羅できるんじゃね」
タキオ「それな。長続きしないんだよ……カズロウは何してたの?解散した後?」
カズロウ「俺?おれ服好きじゃん。あのあと自分のアパレルブランドやりたくなって専門通ったんだけど辞めちゃって。そのあと小説家になりたいと思って書いてコンクール出したんだけど、一次も受かんなくて辞めて。そのあとも色々あって今は俳優の養成所通ってる」
タキオ「え!?」
カズロウ「でも今月中に辞めると思う」
タキオ「おお……お互い続かないな」
カズロウ「タキオまだ実家住み?」
タキオ「そう松戸。だから今日終電逃して満喫行ったんだよ。カズロウは実家出た?」
カズロウ「俺ついに出た」
タキオ「まじ!今どこ住んでるの?」
カズロウ「東川口」
タキオ「え?実家川口じゃなかったけ」
カズロウ「川口の実家出て、東川口で一人暮らし」
タキオ「それ意味ある?」
カズロウ「あるだろ!自立の大変さ痛感してる」
タキオ「毎週末、実家に帰って助け求めてないよな」
カズロウ「……。今日なんで渋谷いたの?」
タキオ「自立できてねえじゃん」
カズロウ「自立にも種類ってのがあるんだよ。今日は?なんで渋谷?」
タキオ「ああ……。ラススのライブ見に行ってさ」
カズロウ「え!まじ!?俺もいたよ!」
タキオ「は!?なんで?」
カズロウ「前にダンサーの専門学校一緒だった友達があのライブに出ててさ。アンコールで突然ダンサー出てきた曲あったろ?」
タキオ「ああ、なんかいきなり50人くらい出てきて、人の多さで曲の壮大さ醸し出してた曲?」
カズロウ「(笑)その50人の中の1人が元同期で、そいつがライブ招待してくれてさ。まるで俺のライブみたいな感じで踊っててマジむかついたけど…」
タキオ「てかお前、ダンスもやってたの?」
カズロウ「いやー同期にもムカついたけど、それ以上にラススのメンバーってさ、俺らとタメじゃん?もう俺音楽辞めてんのに嫉妬でおかしくなりそうだった」
タキオ「……」
カズロウ「でね、見終わった後SNSでライブのアンチ的な感想ツイート探して、それ見てなんとかメンタル保とうとしてて」
タキオ「……俺、そういうツイートしようとしてた」
カズロウ「まじか」
タキオ「でも書く度胸すらなくて否定的なツイート見つけては喜んで酒飲んで、そうしてたら終電なくなってた」
カズロウ「……」
タキオ「辞めても嫉妬が消えない。より歪んで増してる」
カズロウ「……またやるか音楽」
タキオ「え?え!?」
カズロウ「そういうのはそいつらと戦わねえと消えねえよ」
タキオ「いやでも……」
カズロウ「それにこのままずっとこんな生活してたら、おまえどっかで死ぬ」
タキオ「……」
カズロウ「音楽やってあいつらと向かい合わなきゃ生きれないんだよ」
タキオ「でもまた失敗して……」
カズロウ「この毎日で死んでくよりかマシだろ」
タキオ「でも30でまたスタートしても、ブランクもあるし遅すぎるし、そもそも経験の差とか……」
カズロウ「だったら新しい前例作ればいいだろ!」
タキオ「前例?」
カズロウ「30で再スタートして売れる前例!新しい前例作れた奴が、この世界売れるんだから!」
タキオ「……」

【3場】
○東川口・カズロウのアパート(日替わり・夜)
曲作りをしているタキオとカズロウ。
詞を考えているタキオ。メロディを考えているカズロウ。
タキオ「……どう?」
タキオ、書いた歌詞をカズロウに見せる。
タキオ「(歌詞を読む)おまえの偽善で俺が犠牲 だせえ見せかけのハンドマイクを あの子の前世が食いちぎる」
反応をうかがっているタキオ。
カズロウ「……良い」
嬉しそうなタキオの表情。カズロウ、ギターで。
カズロウ「(メロディーで)ジャン、ジャーンジャ、スタタタッ、フーウウフゥー、ラララーハァー」
タキオ「(聞き終え)……半端ないね」
ハイタッチする2人。

○新宿駅南口前・路上(日替わり・夜)
弾き語りライブをしているタキオとカズロウ。
看板には【フォークデュオ「ユニークバディ」】。横には販売用の自作CDが並べられている。
タキオ「おまえの偽善で俺が犠牲 だせえ見せかけのハンドマイクを」
カズロウ「あの子の前世が食いちぎる」
タキオ/カズロウ「(サビになり)来来来来来世― あいつを恨まず音楽やりてぇ 来来来来世― おめえに気づかずガストに行きてぇ 来来来……」
すると警官がやってきて。
警官「止めて。許可取ってますか?」
カズロウ「許可?」
警官「許可証。道路交通法違反ですよ」
カズロウ「いや……」
警官「撤収してください」
タキオ「(観念して)すいませんでし……」
カズロウ「あそこの方々は許可取ってるんですか?」
カズロウの目線の先には、多くの聴衆が集まっている。そこにはジャケット姿でゴスペルを歌っている5人組のグループ。
警官「君たちに注意してるんだよ。関係ないよね」
カズロウ「あの人たちの方が、客が道塞いで通行に迷惑かけてると思いますけど」
警官「あなたたちに言ってるの!撤収して!」
タキオ「(促すように)カズロウ」
仕方なく片付けはじめるカズロウ。
警官、その姿を見て。
警官「誰も聞いてないのに、歌う方がよっぽど迷惑でしょ」
とぼやき去っていく警官。
立ち尽くすタキオとカズロウ。

○都内のCDショップ内(日替わり)
タキオとカズロウ、陳列作業をしている店員に。
カズロウ「すいません」
店員「はい」
カズロウ「僕ら『ユニークバディ』ってフォークデュオでこの度自主制作でファーストアルバムを作りまして、よかったら店頭に並べていただきたく来たんですが」
タキオ「これなのですが……」
タキオ、店員にCDを渡す。
店員「今時珍しい……」
タキオ「ですよね」
カズロウ「『今の僕ら』というアルバム名で、僕ら2人の中に流れる挫折や苦悩、反骨とか嫉妬、暴走、葛藤、権力、創造、破壊、そこから見える夢と小さな希望をテーマにしたアルバムです」
店員「テーマいっぱい……」
店員、CDをまじまじと眺めたあと。
店員「ごめんなさい、ウチではちょっと」
カズロウ「(店員を睨む)」
タキオ「そうですか、ありがとうございました」

○東川口・カズロウのアパート(日替わり)
ギターを掲げているタキオとカズロウ。
2人の目の前には三脚に立てられたスマホ。
カズロウ「やっぱ時代は動画投稿だな」
タキオ「バズったら多くの人に知ってもらえる」
カズロウ「ジャルジャルさんもあんだけのキャリアなのに、未だ毎日新ネタ動画上げてんだぜ」
タキオ「ジャルジャルさん?」
カズロウ「え、あ俺、パティシエの専門学校通ったあと、少しだけ芸人やってたのよ。ていってもピン芸人だからジャルジャルさんとは路線ちょい違うんだけどさ。でも改めてジャルさんの凄さは感じた」
タキオ「お笑いもやってたの……てかパティシエ?」
カズロウ「準備いい?」
タキオ「あ、うん」
イントロを弾きはじめ、歌おうとした瞬間、インターホンが鳴り。
カズロウ「うわっ」
タキオ「誰?」
玄関へ向かうカズロウ。戻ってくると、隣には大量の食料を抱えたカズロウ母。
カズロウ母「何してんの!?」
カズロウ「間わりいなー!曲撮ろうとしてたのに!」
カズロウ母「わざわざせっかく持ってきてるのに!てかあんたなんでまた音楽やってんの!?俳優の養成所どうしたのよ、あれ!?タキオくん?」
タキオ「はい……お久しぶりです」
×     ×     ×
カズロウ母が持ってきた料理を食べているタキオとカズロウ。
カズロウ「……あのさ」
タキオ「ルームシェアしない?」
カズロウ「え」
タキオ「いや……やっぱり音楽やるなら都内にいた方が便利だと思うし、2人で住んだら音楽作る時間も歌う時間も増えるし……どう?」
カズロウ「まじか」
タキオ「え?」
カズロウ「……同じこと思ってた」
嬉しそうなタキオの表情。

○高円寺・アパート・1DKの部屋(日替わり)
引っ越し作業が落ち着いたタキオとカズロウ。
タキオ「緊張するね……」
カズロウ「え、なんで?」
タキオ「いや俺、実家出たの初めてだから……」
カズロウ「わかんないことはすぐ聞け。俺がフォローする」
タキオ「カズロウは……まあそっか。半分自立してたから」
カズロウ「どういう意味だよ!1人前の自立だよ!」
タキオ「そうだったね」
カズロウ「おまえな、こういう発言1個の積み重ねが、ルームシェア崩壊に繋がんだからな」
タキオ「気を付けます」
カズロウ「よし、撮ろう!」
×     ×     ×
2人の目の前には三脚に立てられたスマホ。
ギターを掲げ、歌っているタキオとカズロウ。
×     ×     ×
PCの前で動画編集作業をしているタキオ。
それを見ているカズロウ。作業が終わり。
タキオ「じゃいくよ」
カズロウ「このボタン押したら全世界の奴が見れるようになるんだな」
タキオ「どこまで見てくれるかだけど」
カズロウ「大丈夫。俺らの音楽を信じよう」
タキオ「うん……いくよ」
カズロウ「……頼む!」
投稿ボタンを押すタキオ。
「動画のアップロードが完了しました」の画面表示。
ハイタッチをするタキオとカズロウ。

○高円寺・アパート・1DKの部屋(日替わり)
24時間後。PCの前で正座をしているタキオとカズロウ。
カズロウ「まだ見てないよな?」
タキオ「うん。2人で24時間後にどれくらい再生されてるか見ようって決めたから」
カズロウ「2人で現状を味わおう。でもなんかイケてる気がする。絶対曲は伝わってる」
タキオ「うーん、一応Xとインスタ、tiktokでも拡散はした」
カズロウ「俺はそれに加えてフェイスブック、そして10年以上動かしてないmixiとモバゲーのアカウントにも動画のリンク貼り付けた」
タキオ「え、まだmixiとモバゲーのアカウント持ってたの!?」
カズロウ「俺は一度作ったアカウントは消さない主義だ。だって自分の軌跡を消すようで悲しいだろ」
タキオ「いや、よくわかんない……」
カズロウ「開くぞ」
意を決し動画を開く2人。再生回数を見ると【2回】。
カズロウ「これ……ネットつながってるよな?」
タキオ「繋がってなかったら2回は再生されない」
カズロウ「……」
タキオ「……」
再生回数の少なさに思わず笑ってしまう2人。だが楽しそうだ。

【4場】
○高円寺・アパート・1DKの部屋(日替わり)
作詞をしているタキオ。横のPCにはユニークバディの動画サイトのアカウント画面。
10曲投稿されているが、どれも再生回数は【10回】にも満たない。
タキオ「(その画面を見て)……」
すると帰宅するカズロウ。
すぐさま自室に向かおうとするのを。
タキオ「カズロウ」
カズロウ「ごめん、今日体調悪いわ」
とカズロウ、部屋に入っていく。
タキオ、追いかけて部屋に入るとベッドで倒れているカズロウに。
タキオ「毎日新曲投稿するんじゃないの?」
カズロウ「ちょっと今日しんどいわ」
タキオ「え、言い出しっぺカズロウだろ」
カズロウ「だから今しんどいの!待って。それに10曲投稿してこの反応ならやり方変えた方がよくね」
タキオ「ならそのための話し合いしようよ」
カズロウ「だから!今だいぶしんどいから、ちょい待って!」
タキオ「バイト詰め込んでるからだろ」
カズロウ「は?なら生活どうすんの?」
タキオ「いや、バイト三昧にならないためにルームシェアして補完し合って、空いた時間は全て音楽に費やそうってなったじゃん」
カズロウ「あのな!おまえは多少の貯金あっていいかもだけど、俺は元々貯金0なの!働かないと金生まれないの!なら折半できなくていいのね?」
タキオ「……でもこれじゃ元も子もないだろ」
カズロウ「だからそうならないために考えるから少し待って!」
自室へ入ってしまうカズロウ。
タキオ「……」

【5場】
○都内・某広場内・仮説ステージ(日替わり・昼)
広場には『立春隠し芸大会』の看板。
司会者「夢持つ若者応援企画!優勝したら賞金100万円と缶ビール干支1周分!立春隠し芸大会!」
大盛り上がりの地元観客民!
×     ×     ×
ステージ袖に待機しているタキオとカズロウ。
タキオ「……これに出るんだったら2人で曲作った方がよくない?」
カズロウ「2人で曲作るために、ここで大金手に入れるんだよ」
タキオ「だったらせめて音楽で出ようよ……」
カズロウ「音楽は隠し芸じゃない!それにこの祭り、夕方のニュースでも取り上げられるらしいぜ。てか売れる前のラススも出てたんだってよ!」
ステージ上の司会者が。
司会者「さあ次の挑戦者は、歌手志望のタキオさんとカズロウさん!」
ステージへ上がるタキオとカズロウ。
タキオ「あの、歌手志望ではなく、歌手をやってるんですけど…」
カズロウ「(遮り)お願いします!」
司会者「お2人はどんな隠し芸を?」
カズロウ「俺はぐるぐるバッドを10回まわりながら、ファンタグレープを飲んで、そのあと都内にある成城石井の店舗名をゲップをせずに全部言い切ります!」
司会者「ん、えーどういうことだー?」
タキオ「……僕はラジオ体操第1の音をかけながら、動きはラジオ体操第2をやって、その最中に三代目 J SOUL BROTHERメンバー全員のwikipediaに乗っているプロフィールを全て言います」
司会者「……はい!ではやってもらいましょう!100万円と干支一周分の缶ビール目指して!どうぞ!」
パフォーマンスをするタキオとカズロウ。

〇都内・テレビ局・スタジオ(日替わり・夕)
初のテレビ局スタジオで、緊張のタキオとカズロウ。
アナウンサーが、2人をインタビューしている。
アナ「本日は苦しい生活の中でも夢を追いかけている若者特集のこのコーナー!『苦しくても己の為に夢は捨てずに、耐えるんだ!その先に夢はあるんだ平成世代!いやいやそんなの令和じゃ通用しません!うるせえ馬鹿!デジタルネイティブ世代!昭和の背中を1回見てみろ!歴史は暗記科目じゃねえんよ!』」
タキオ/カズロウ「……」
アナ「本日は、先日の『立春かくし芸大会』で優勝された音楽デュオ『ユニークバディ』のタキオさんとカズロウさんに来て頂きました!」
カズロウ/タキオ「よろしくお願いします!」
アナ「改めて優勝おめでとうございます!反響はありましたか?」
カズロウ「それが凄くて!優勝前はSNSのフォロワーが7人とかだったんですけど、今5000人になりました!」
アナウンサー「すごいですね。そんなお2人の夢は何ですか?」
カズロウ「国民的アーティストです」
アナ「大きな夢ですね!でも夢のためには、日々の生活、大変なのではないですか?」
カズロウ「そうっすね。今は音楽1本では食べて行けてないので、バイトしながらやってます。でも彼とルームシェアしてて、それ以外の時間は2人でずっと曲作りしてます(タキオを見て)な?」
タキオ「えっ?…あ…はい」
カズロウ「…そうなんです!音楽やりたいからこの道選んだのに、結局バイトして1日終わるみたいな生活は本末転倒だと思うんで!」
タキオ「(嘘つくなよ)」
アナ「2人がこれまで最も辛いなとか、思った出来事ってありますか?」
カズロウ「えっと……あ、やっぱり新曲制作に勝る苦しさは無いですね!それに比べたら他のことは耐えられますね!」
フロアDが「もっと凄いの!壮絶なやつ!」と書かれたカンペを出す。
アナ「(それを見て)なんかもう少しありませんか?全然音楽以外でも大丈夫です」
カズロウ「音楽以外……(タキオに)ある?」
タキオ「え?……あ、ついこの前のことなんですけど、300円ちょっとするカップラーメン買ったんですよ。それ食おうとして、お湯入れて、机まで運ぼうとしたら、スマホの充電器の足引っかかって、全部こぼしたんすよ。300円のカップ麺なんて滅多に買わないのに。その時なんか泣きそうになりました……」
スタジオの「そういうのじゃない……」空気。
フロアⅮ「借金何千万とか、死にそうになった経験とか!」と書かれたカンペを出す。
それが目に入るタキオとカズロウ。
カズロウ、意を決して。
カズロウ「俺……実は拳銃向けられたことあるんです」
タキオ「!?」
一気にカズロウの言葉に食いつくスタジオ一同。
咄嗟の嘘を話しているカズロウを冷ややかな目で見ているタキオ。

○都内・公道(日替わり・夕)
いくつものカメラに撮られながら、走っているタキオとカズロウ。
×     ×     ×
先頭集団にはマラソンタレント。
×     ×     ×
後方にはドラマ、映画では全く見かけない大御所俳優や、水着姿のグラドルが走っている。
×     ×     ×
中継車に乗り、実況しているMCが。
MC「さあ始まりました!72時間耐久赤坂5丁目付近でフル以上マラソン!出場者の皆さんには3日間ぶっ通しで走って頂き、最終的に万歩計の歩数の多さと水・トイレの使用頻度が最も少ない人が、優勝賞金300万円を手にします!」
タキオとカズロウ、水とトイレを我慢しながら走っている。
カズロウM「(ここで優勝すれば、10万フォロワー突破間違いない。早くタワマンでインフルエンサ―呼んでパーティーしてえぇ!)」
タキオM「(なんで走ってるんだ……)」
MC「現在6位に位置しているのは、立春かくし芸大会で優勝、人気ドキュメント番組『ジ・ノットフィクションズ』でも特集されたタキオとカズロウ。先月のSNSフォロワー急上昇ランキングで堂々1位を獲得!令和に突如現れたニュータレントです」
タキオ、走りながら。
タキオM「(おれはタレントじゃない……)」

【6章】
○港区・タワーマンション・一室(夜)
広々としたリビング。ガラス張りの窓からは都内が一望できる。
そこには日焼けした社長やアパレルブランドを立ち上げたばかりのモデルや、ユーチューバー・インフルエンサー、総勢30名ほどがパーティーをしている。その中にカズロウの姿。
×     ×     ×
バーカウンター的なエリアで、カズロウはあるインフルエンサーとユーチューバーと話している。シャンパングラスを掲げている3人。
インフルエンサー「(カズロウに)10万人登録おめでと!」
ユーチューバー「ヒャッハァー!(などの叫び)」
「ユニークバディ」のYouTube登録者数10万人突破に乾杯する3人。
カズロウ「ありがとうございます!」
ユーチューバー「今度コラボしようよ」
カズロウ「え!まじすか!?」
ユーチューバー「てかカズロウ君って、音楽作れるんだっけ?」
カズロウ「あ、はい!」
インフルエンサー「いやカズロウ、本業ミュージシャンだからね」
カズロウ「もう最近は全然作ってないすけど……」
ユーチューバー「ぼくね、今度歌手デビュー企画のユーチューブ動画取ろうとしててさ、じゃあカズロウ君に楽曲作ってもらおうかなって」
カズロウ「え!?ぜひ!」
ユーチューバー「ちょっとお金あんまり出せないんだけど、大丈夫?まあ俺らの関係性でそこはさ」
インフルエンサー「ダメだよ、関係性とか何とかで、お金のことなあなあにさせたら」
ユーチューバー「分かってますって!」
カズロウ「いやもう金とかは全然!お声掛けしてくれるだけで!」
インフルエンサー「あ!カズロウ君ってやってるんだっけ」
カズロウ「え?」
インフルエンサーの目線の先には、異様にハイテンションなタトゥーまみれの人物。
インフルエンサー「(指をさし)あの人。安く売ってくれるよ」
カズロウ「……」

○高円寺・アパート・1DKの部屋(翌朝)
ひとり、歌詞を書いているタキオ。
そこに泥酔状態で帰宅してくるカズロウ。
タキオ「……なにしてたの」
カズロウ「ああ……まあ」
カズロウ、そのまま自室へ直行しようとするところを。
タキオ「曲いつ作るんだよ」
カズロウ「ごめん、今しんどいわ」
カズロウが部屋へ向かうところをタキオが掴み、
タキオ「しんどいしんどって、しんどい状況作ってるの自分だろ」
カズロウ「あ?」
タキオ「何のためにまた一緒に組んで、高円寺来て一緒に暮らしてんだよ!曲作るためだろ!ラススとの距離縮めるためだろ!ユーチューバーみたいなこと続けてどうするの?」
カズロウ「そのおかげでメシ食えてんだろ」
タキオ「は?」
カズロウ「今の状況に文句言ってるけど、ユーチューバーみたいなことしてなかったら、生活できてないからね。バイト地獄から抜け出せたのは、どのおかげだよ」
タキオ「……」
カズロウ「これで食えてるってことは、これが俺らの今の仕事。こっから音楽もできるように幅広げていけばいいことでしょ」
タキオ「……」
カズロウ「俺はね、今日も半分以上素性が知らない奴と飲んで、仕事取ってきたよ。しかも音楽の!曲作って欲しいって言われて!」
タキオ「じゃあ金にはならないけど、約束通りに毎日歌詞書いてる俺は、何もしてない人間ってこと?」
カズロウ「……いや」
タキオ「……」
カズロウ「……ごめん……考えさせて」
自室へ入っていくカズロウ。
タキオ「……」

○都内・アリーナ会場(日替わり)
ラススのライブが行われている。
1万人キャパの会場は満席。
その観客席の中にタキオ。
劣等感に苛まれて、気が狂いそうなタキオ。

○会場近くの居酒屋(夜)
ライブ後。スマホを見ながら飲んでいるタキオ。
ふとXのタイムラインを見ると、
タキオ「え……!?」
そこには「人気ユーチューバー・イシグロカズロウ・大麻所持の容疑で逮捕」の見出し。

【7章】
○刑務所・面会室(日替わり)
座っているカズロウ。後ろには看守。
タキオ、入ってくる。
ガラス越しのカズロウと目が合うタキオ。
タキオ「……」
カズロウ「……ごめん」
タキオ「……何してんの」
カズロウ「……いやーなんか、語学留学で行った国の同級生のホームパーティー誘われて、その時に「うちの国では合法だから」って初めて勧められて、その後は吸わない時期もあったんだけど、最近収入も増えたじゃん?それでまた始めちゃって……」
タキオ「それお前のエピソードじゃねえだろ!語学留学も海外も行ったことないくせに。ごまかすんじゃねえよ」
カズロウ「……」
タキオ「何が新しい前例作るだよ。思い通りいかなくて、変な奴らとつるむようになって薬物やるって、一番よくある前例じゃねえか」
カズロウ「……」
タキオ「クスリやったとき、俺のこととか頭に浮かばなかったの?」
カズロウ「……」
タキオ「ないんだろうな。全部自分のためだもんね」
カズロウ「あ?」
タキオ「俳優の養成所でうまくいかなかったから、俺誘って音楽に乗り換えて、家賃払えないからルームシェアして楽に生活しようとして、他に楽しいこと見つかったら、言い出しっぺの音楽はないがしろにして」
カズロウ「は!?あのさ!おまえって全部誰かのために生きれてるんだ?その割には誰かのためになってる感じしないけどねえ」
タキオ「どういう意味?」
カズロウ「なんか透けて見えるんだよ!苦労してやってますよ的な。してあげてますよ的な魂胆が。だから周りに誰も人が付いてこないんじゃない?」
タキオ「え、いきなり何?てかそれ以上のことして捕まって迷惑かけて、よくそんなこと言えるな!」
カズロウ「……」
タキオ「というかそんな風に思ってたんだ」
カズロウ「……いや」
タキオ「……言わせてもらうけど、お前がつるんでたユーチューバーとかインフルエンサーって誰か面会に来たの?」
カズロウ「は?なんで」
タキオ「あんだけ一緒につるんでたのにな。音楽ないがしろにして。で捕まったら皆一斉に引いていく」
カズロウ「あぁ!?」
タキオ「おまえにクスリ勧めたのもあいつらだろ?」
カズロウ「……」
タキオ「なのにおまえだけ捕まって、おまえだけ尻尾切られて、あいつらは守られて」
カズロウ「……」
タキオ「おまえあいつらのこと守るために黙秘したりすんじゃねえぞ!誰からもらったのか、どうやって手に入れたのか、入手ルートとか全部言えよ!じゃなきゃ出てくんなよ!」
カズロウ「……また正義感」
タキオ「ちげえよ!当たり前のことだろ!どんだけ考え方ズレてんだよ!」
カズロウ「……」
タキオ「もう行くわ。音楽やんないといけないから」
カズロウ「……」
タキオ「おまえが言ったんだよ。後悔や嫉妬は、その傷受けた場所で戦わないと消えないって」
カズロウ「……」
出て行くタキオ。呆然としているカズロウ。
看守がカズロウを立ち上がらせようとすると。
看守「戦わないと消えない」
カズロウ「え?」
看守「今あなたの戦うべき場所は?」
カズロウ「……」
看守「知ってること全部吐いちゃいなさい」
カズロウ「……」

【8章】
○高円寺駅前・路上(5年後・夜)
弾き語りライブをしているタキオ(35)。
看板には【フォークデュオ「ユニークバディ」】
観客はたまに通りかかりの人がチラ見する程度。
ある男が立ち止まる。カズロウ(35)だ。
それに気づくタキオ。
カズロウ「……久しぶり」
タキオ「……おう」
沈黙。
カズロウ「駅前来たら、偶然見かけて、それで……」
タキオ「……全部吐いたんだな」
カズロウ「え?」
タキオ「カズロウが自白したのがきっかけで、芋づる式で芸能人45人も逮捕されたろ。初めて芋づる式逮捕が立証されたって」
カズロウ「……あのとき全部吐けって言われたから」
タキオ「そもそも薬物やるなだけど」
カズロウ「ごめん」
看板の【フォークデュオ「ユニークバディ」】
が目に入るカズロウ。
カズロウ「……看板、名前の」
タキオ「ああ。脱退するみたいな話し合いは出来なかったから、まだ一応」
カズロウ「そっか……ごめん」
タキオ「デュオっていっといて、ずっとソロでやってるのも変だし……」
カズロウ「実はさ……メロディ考えてきて」
タキオ「え?」
カズロウ「……もう一度一緒にやらせてください!」
頭を下げるカズロウ。
タキオ「……捕まった経験は、世界進出したラススにもないか」
カズロウ「え?」
そこに自転車に乗った巡回中の警官が通りかかって。
警官「こんにちは、頑張ってね」
タキオ「ありがとうございます」
警官、颯爽と去っていく。警官に受け入れられているタキオに驚いているカズロウ。
タキオ「やり続けるとたまにはいいこともあるね。これまでのしんどさにはとても見合ってないかもだけど」
カズロウ「……」
タキオ「またお互いしんどい思い絶対するけど、それでもやる?」
カズロウ「……やる」
タキオ「……なんで俺は学習できないかね。何度もカズロウと組んで後悔してるのに」
カズロウ「……すまん」
タキオ「嫌な部分何個もあるけど、でも一緒にやっていけるのはお前だけだと思う」
カズロウ「……俺も」
タキオ「新しい前例作るか」
カズロウ「え?」
タキオ「相方は捕まって、まだデビューもできてない35歳で再々スタートするデュオシンガーなんていないだろ?」
カズロウ「……お願いします!」
タキオ/カズロウM「ユニークバディは5年ぶり3度目の再結成をした」         

おわり

「ユニークバディ」(PDFファイル:453.34 KB)
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