「話」

男
女

・昼

女　　素敵なお店だったね
男　　…え？
女　　さっきのお店、素敵だったね
男　　ああ、うん、そうだね。けっこう美味しかったし
女　　ありがとね、予約とか、してくれて
男　　ああいや、全然
女　　私、休みの日に会社の人と会うの初めてかも
男　　え、そうなの？
女　　うん。だって、用ないじゃん
男　　たしかに。たしかにね、わざわざ会うってことないか、毎日会社で会うし
女　　（笑って）どうしたの？
男　　え？　別にどうもしてないけど
女　　なんかいつもと違くない？
男　　そう？　休みの日だからかな
女　　…話したいことあるって言ってたじゃん
男　　うん。…それなんだけど…
女　　当てていい？
男　　え？
女　　何言いたいか当ててみてもいい？　わかる気がするんだよね
男　　え…何？
女　　私のこと好きでしょ？
男　　……
女　　あ、違った？
男　　あ、いや…
女　　何か言ってよ！恥ずかしいじゃん
男　　ああ、えっと…合ってる
女　　合ってるの？
男　　合ってるんだけど、なんていうか、俺から言いたかったなあというか
女　　本当に？
男　　本当に！
女　　え～そうかなあ？
男　　なんでそこ疑うんだよ
女　　だってほら、ストレートに言わないタイプじゃん？
男　　え、そうかな
女　　この前だってさ、私の作った資料見て「ああ、だいたい良いんじゃない？」とか言ってさ
男　　ああ～いやいやあれはさ！
女　　相手の会社名間違ってたの、気づいてたんでしょ？　私そのまま送っちゃったんですけど！
男　　いやそれは、俺はさ、わかんなかったから！
女　　わかんなかったって？
男　　いや、会社名違うなとは思ったけどさ、子会社とかあるのかなって思って、俺が知らないだけでさ
女　　言ってよぉ！私めちゃくちゃ怒られたんだからね？
男　　そうなの？
女　　そうだよ。すごいへこんだ
男　　課長甘いから怒らなそうなのに
女　　まあ、もとはと言えばミスしたのは私なんだけどね
男　　うん。いや、俺も言えばよかった
女　　認めた？
男　　…まあ、認め…た
女　　大事なことは言ってよ
男　　わかった
女　　…それで？
男　　それで、とは？
女　　私のことが好きで、それで？
男　　それで…えっと…
女　　3秒以内に言わないと、断るよ？
男　　ええ…付き合って！俺と付き合ってください！！
女　　（笑って）声でかすぎ！

　　笑う二人。

・夜

男　…ごめん、お待たせ
女　おつかれ。残業？
男　いや、ちょっと部長と話してて
女　…そっか
男　一瞬いい？
女　うん
男　（スマホを操作する）
女　異動の話？
男　うん、まあね
女　どうなりそうなの？
男　どうだろ、まだわかんないけど、部長的にはわりと考えてるっぽい
女　そうなんだ
男　何かいろいろ聞かされたし、準備のこととか
女　いいの、異動になっても？
男　うーん、正直どっちでもいいかな。まあ、こっちのほうが生活は慣れてるけど
女　そうだよね
男　あ、そうだ、みかん食べなきゃ
女　みかん？
男　実家から送られてきたの
女　そうなんだ
男　すごいいっぱいあるんだよね、全然食べてない
女　へえ
男　あ、今から俺の家で一緒に食べる？
女　え…いいけど、ごはん食べに行かないの？
男　ん～今日は良くない？　家にあるもので何か適当に作るよ
女　そう…
男　嫌？
女　ううん、良いよ
男　何、疲れてる？
女　うーん…
男　…疲れてるなら、帰って休んでもいいよ？
女　…あのさ
男　何？
女　私のことさ
男　…何？
女　……
男　…何？
女　好きじゃなくなったの？
男　……いや、そんなことないけど
女　けど？
男　…いや、別に…
女　…ごめん。私、みかん好きじゃないから