へんな腹話術 コメディ

地球に住むお父さん、お母さん、ジュン、ミサ、タク、リコの一家6人が宇宙ツアーに参加し、ホームステイしながらいろいろな星の生活を見て回ります。地球では考えられないような文化や習慣・自然環境があり、驚きの毎日を過ごしながら家族が成長していきます。宇宙を旅するが宇宙SF小説とは違う異色ホームドラマ。アニメならば約10分、1話完結の物語。
トナミKK 9 0 0 11/21
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第一稿

【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HB=ホスト ...続きを読む
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【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HB=ホストブラザー(ホストハウスの息子) 25歳
HS=ホストシスター(ホストハウスの娘) 21歳


○飛行機の中

地球家族6人が乗っている。リコが人形で遊んでいる。
リコ「こんにちは。こんにちは」
隣にいるミサが見ている。
ミサ「リコ、ちょっと貸してごらん」
リコ、ミサに人形をひとつ渡す。
ミサ、人形を動かしながら、口を動かさずにしゃべる。
ミサ「こんにちは、リコちゃん。お元気ですか?」
リコ「すごーい」
前に座っているジュンとタクがふりかえる。
ジュン「何、何、もう1回やって見せて」
ミサ「(口を動かさずに)こんにちは、ジュンさん」
ジュン「うまいなあ」
タク「口が全然動いてないよ」
後ろに座っている父と母も身を乗り出す。
父「ミサ、いつの間にそんな芸を身につけたんだい?」
ミサ「最近、腹話術師がテレビに出て、やり方を説明していることが多いから、それを見ながらしょっちゅう練習していたのよ」

○道

地球家族6人が歩いている。
ミサ「(口を動かさずに)こんにちは、私はミサです」
タク「まだやってる」
ミサ「腹話術の練習は、いつでもどこでも道具なしにできるからいいわよね。よし、さっそくこの星の人を驚かせてみよう」
ジュン「うまくいくかな。たとえば、この星では腹話術が大流行していて、みんなもっと上手だったら、誰も驚かないよ」
ミサ「その可能性は低いわよ」

○ホストハウスの玄関前

リコ、玄関のドアを開ける。
リコ「おじゃまします!」
HSが出てくる。
HS、口を動かさずに話し始める。
HS「いらっしゃい」
地球家族6人、驚く。
タク「すごい。腹話術だ」
ミサ「ジュンの言ったとおりだった・・・」
HFとHMも、玄関に出てくる。
HFとHM、二人とも、口を動かさずに話し始める。
HM「さあ、みなさん、そんなところに立ってないで、中におあがりください」
HF「遠慮せずにどうぞ」
ジュン「驚いた。腹話術一家だ・・・」

○居間

地球家族とHF、HM、HS。
以降、HF・HM・HSは口を動かさずに話し続ける。
ジュン「腹話術、流行しているんですか? それとも、この家族みなさんの趣味なんですか?」
HF「腹話術? 勘違いされているようですね。HS、テレビをつけて」
HS「はい」
HS、テレビをつける。
テレビ画面の中の人々は、全員、口を動かさずに話している。
地球家族、驚いて見入る。
HM「おわかりになりました? これは、私たちの、普通のしゃべり方なんですよ」
HF「みんな、生まれたときから、ずっとこうなんです」
ジュン「へえ。口を動かさずに、よくしゃべれますね」
HF「逆に、私たちから見れば、地球のみなさんのように、口を動かして話すのがとても驚きですよ。話には聞いていましたが、地球の方にお会いするのは私たち初めてなものですから、本当に驚きです」
HS、地球家族たちの口元をしげしげと観察している。
HF「そんなにじろじろ見るのは失礼だよ」
ミサ「ということは、みなさんは、私たちとは逆に、口を動かして話すことはできないんですか?」
HM「私たちにはできません」
そのとき、テレビに一人の若い男性(HB)が映る。口を動かしてしゃべっている。
ジュン「あ、口を動かしている人が一人だけいる」
HS「あ、お兄ちゃんだ」
タク「お兄ちゃん?」
HF「あ、今映ったのは、うちの息子です。たまにテレビに出るんですが、人気の腹話術師なんですよ」
タク「腹話術師?」
HM「そう。口を動かして話すことを、腹話術というんです」
地球家族、驚きの表情。
ジュン「地球とまるで反対だ」
HF「そうだ、みなさんにお知らせがあります。今晩、隣町との親睦会をやるんです。ぜひ、みなさんも参加しませんか? 出し物対決をやることになっていて、わが町は、息子が腹話術をやるんですよ」
HM「でも、地球のみなさんには、口を動かして話すのが当たり前だから、ちっとも面白くないでしょうけど」
父「いいえ、とんでもない。人気芸人さんの芸を、間近で見られるのは楽しみですよ」

○その日の午後、ホストハウスの庭

ミサが一人で散策している。
ミサ「(心の中で)広い庭だわ・・・」
そのとき、HBがあらわれる。
ミサ「あ、お帰りなさい。HBさんですね。さっきテレビで見ました」
HB「あれ、あなたも腹話術師ですか?」
ミサ「いいえ、私は、地球から来たので。地球では、全員生まれたときから、こうやって、口を動かしてしゃべるんですよ」
HB「あ、そうでしたね。噂には聞いていました」
HB、ずっと口を動かしてしゃべっている。
ミサ「HBさんは、ふだんもそうやって、口を動かしてしゃべるんですか? いつも練習しているんですか?」
HB「いいえ、違うんです。実は僕は、地球の方々と同じで、生まれたときからずっとこのしゃべり方なんです」
ミサ「へえ、そうなんですか?」
HB「はい。僕と同じような人が何人かいて、みんな腹話術師をやっています。僕も含めてみんな、練習なんかしたことがありません。普通にしゃべっているだけで、見る人は大喜びですから」
ミサ「良かったですね。みんなを喜ばせられる芸を、苦労せずに身につけられて」
HB「いいえ、とんでもありません。周りがどんなに喜んでいても、僕はうれしくありません。だって、僕は普通にしゃべっているだけなんですよ」
ミサ「・・・」
HB「努力もしないで身につけたものなんて、芸でも何でもありませんよ」
ミサ「・・・」
HB「僕以外の生まれつきの腹話術師のみんなは、満足しているみたいです。別に生活に不自由しているわけではないから、これは別に病気などではありません。個性です。だから、このままでいたいと思っているようです。でも、僕は違います」
ミサ「・・・」
HB「僕は、できれば、両親や妹や他のおおぜいと同じように、口を動かさずにしゃべれるようになりたい。でも、それができないんです」
ミサ「練習したことはあるんですか?」
HB「はい、でも、うまくいきません。やり方がわからないんです。家族やまわりのみんなに、どうやったら口を動かさずにしゃべれるのか何度も聞きました。でも、みんなその話し方が当たり前だから、コツを説明できないんですよ。要するに、もともと口を動かしてしゃべっていて、口を動かさずにしゃべることに成功したという人がここには一人もいないのですから、教わりたくても教えてくれる人がいないんです」
ミサ「・・・いますよ」
HB「え?」
ミサ「今、ここにいます。私です。私は、ふだんは口を動かしていますけど、練習して、口を動かさずにしゃべれるようになりました」
ミサ、口を閉じて話す。
ミサ「こんにちは、私はミサです」
HB、驚いた表情。
HB「本当だ・・・」
ミサ「私、この星には今日一晩しかいられないんです。HBさん、今すぐ、練習を始めましょう」
HB「え?」
ミサ、そばにあるベンチに座り、HBを呼ぶ。HBも横に座る。
ミサ「いくつかコツがあるので、まずそれを教えますね。1番目のポイントは・・・」
HB、熱心にミサの説明に耳を傾ける。

○しばらくして、庭

すっかり暗くなっている。
HBとミサがずっと交互に話をしている。そこへ、HFとHM、地球家族5人が来る。
HM「ミサさん、ここにいたんですか。ずいぶん探しましたよ」
HF「(HBに向かって)帰ってたのか。もうすぐ、隣町との親睦会が始まる時間だから、急がないと・・・」
ミサ「ごめんなさい。すっかり練習に夢中になってしまって」
タク「練習?」
HB、口を動かさずに話す。
HB「父さん、母さん、ほら、僕の口を見て。できるようになったよ」
HFとHM、驚いて見る。
HB、口を動かさずに話し続ける。
HB「ミサさんが教えてくれたんだ。ミサさん、ありがとう」
ミサ「こんなに短い時間でできるようになると思わなかったわ。私もびっくりよ」
HM「よかったわね」
HF「HB、よかったな。君の長年の夢だったからな」
HM「あ、でも、親睦会の芸対決では、頼んだとおり、腹話術を披露してね」
HB「うん、わかってるよ。あれ?」
HB、口をパクパクさせる。
HM「どうしたの?」
HB「あれ? あれ? 今までの僕のしゃべり方がわからなくなっちゃった。口を動かすと、声が出ない」
HB、口を動かさずに話し、その後、また口をパクパクさせる。
HF「HB、無理に思い出さなくていいぞ」
HB「え?」
HF「せっかく、口を動かさない話し方を覚えたんだ。また忘れてしまったら大変だからな」
HB「うん、そうだね。ずっとこのままでいるよ」
HF「もう、腹話術師には戻れないけど、それでいいな」
HB「もちろん、後悔はないよ」
HB、決心の表情でうなずく。
HF「よし」
HF、ほほえむ。HMも横でほほえむ。
HM「でも、今日の親睦会の出し物はどうするの?」
HF「しかたがない、代わりを考えよう」
HM「代わりって?」
HF、地球家族6人のほうを向く。
HF「みなさんは、今晩一晩は、この町の仲間です。ご協力いただけませんか?」

○親睦会の会場

ステージ上で、皿回しの芸が行われている。
大勢の住民が見て拍手喝さい。地球家族6人も見ている。
母「上手だわ」
父「相当練習したんだろうな」
司会者「はい、時間いっぱいです。どうもありがとうございました」
場内は拍手。
司会者「それでは、審査員のみなさん、点数を出してください」
審査員席の5人の審査員が点数札をあげる。
司会者「西町の得点は、45点です! さあ、続きまして、東町の出し物です。東町の出し物は、腹話術です。どうぞ!」
ステージ上に立ったのは、地球家族6人。みんな人形を持っている。
父、人形を動かしながら、口を動かして普通にしゃべる。
父「こんにちは」
母も、口を動かして普通にしゃべる。
母「こんにちは」
見物席からは「オー」という歓声があがる。

6人の芸が続く。
ミサ「(芸をやりながら、心の中で)私たちは、ふだんどおりにしゃべっているだけ。それなのに、会場のみんなは大喜び。なんだか、とても不思議な気分だわ。これが芸になるなんて・・・」
ミサの視線の先は、見物席の喜んだ顔の人々。
その中に、ひとりだけ無表情のHBがいる。HBとミサの目が合う。
ミサの頭の中に、HBの『努力もしないで身につけたものなんて、芸でも何でもありませんよ』という声が鳴り響く。
ミサ「(心の中で)え、今のは私の空耳? それともHBさんの本当の声? 口を動かしてくれないと、区別がつかないわ・・・」
ミサが叫ぶ。
ミサ「ちょっと待って」
地球家族、芸を中断する。場内が静まりかえる。
ミサ「(地球家族に向かって)残りの3分は、私ひとりにやらせて」
ミサ、見物席のほうを向いて話す。
ミサ「私たち地球人は、こうやって口を動かして話すのが普通です。私たちにとっての腹話術というのは、みなさんとは逆で、口を動かさずに話すことなんです」
場内、静まっている。
ミサ「今から、私が地球の腹話術をご披露します。まだまだ下手なんですけど、見てください」
ミサ、口を動かさずに話し始める。
ミサ「こんにちは、私は地球から来たミサです」
見物席の人々、静かにミサの芸を見ている。

司会者「はい、時間いっぱいです。どうもありがとうございました」
ミサ「(心の中で)だめだ、会場がすっかりしらけちゃったわ・・・ ここのみんなにとっては普通のしゃべり方なんだから、面白くもなんともないわよね・・・」
司会者「それでは、審査員のみなさん、点数をどうぞ」
審査員席の5人の審査員が点数札をあげる。
司会者「惜しい、44点だ。1点足りない! ということで、出し物対決は、西町の勝利です!」
場内、拍手の音。
ミサ、HFとHMのほうを向く。
ミサ「ごめんなさい。私のせいで」
司会者「それでは、審査員の方に感想を聞いてみましょう」
審査員の一人「西町が勝ちましたが、東町もとてもよかったですね。ミサさんの本当の芸に感動しました。ミサさんの芸をもっと長く見られたら、東町が勝っていたかもしれませんよ」
ミサ「え?」
ミサ、少しほほえむ。見物席の人々、同意した表情での笑顔と拍手。

○翌朝、ホストハウスの玄関前。

地球家族が、ホストの家族と別れのあいさつをしている。
父「お世話になりました」
HB「(口を動かさずに、ミサに)ミサさん、本当にありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
ミサ「そんな、おおげさですよ。(口を動かさずに)よかったですね、HBさん」
ジュン「ミサ、そうやって腹話術をいつまでも続けていると、普通のしゃべり方を忘れちゃうかもしれないぞ」
ミサ「別にそれでもいいよ。生活に不自由するわけじゃないし。それも個性だから」
ジュン「ミサは今でも十分個性的だよ」
みんなで笑う。

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