この街と命と 日常

『fall』スピンオフ。 男が岸和田を捨てたかった理由とは――。
山岸遼 17 0 0 04/04
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第一稿

   人物
垂木松良(18)  高校生
竹邑芽依(18)  垂木の恋人
結城暖(18)   垂木の友人
佐原一華(22)  垂木の先輩
箕田浩司(52)  垂木の担任教師 ...続きを読む
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   人物
垂木松良(18)  高校生
竹邑芽依(18)  垂木の恋人
結城暖(18)   垂木の友人
佐原一華(22)  垂木の先輩
箕田浩司(52)  垂木の担任教師


〇葬儀場・外観(夕)
   煙突から煙が出ている。

〇同・火葬場(夕)
   燃え上がる炎。
   沈痛な面持ちで顔を伏せる人たち。
   垂木松良(18)、炎を睨みつけている。
垂木「……」
垂木、すっと視線を逸らし、出ていく。
結城暖(18)、訝しそうに垂木を見つめる。

〇同・休憩室(夕)
   垂木、ドカッとベンチに腰を下ろす。ため息をつく。
   結城、入る。
結城「親族お前だけやろ。最後までおらんでどうすんねん」
   垂木、徐に顔を上げて、
垂木「最後までいてほしいと思ってない」
結城「息子にいてほしいと思わん父おるか?」
垂木「いるよ」
結城「……」
   結城、缶ジュースを垂木に投げる。垂木の斜向かいのベンチに座る。
結城「なあ、1個訊いてええか?」
垂木「何?」
結城「せいせいしてるか?」
垂木「……」
結城「なんやその間」
垂木「どうして?」
結城「仲悪かったやろ。嫌いやったやろ」
垂木「……」
結城「親父さん、だんじりから落ちて死んでもうて、お前としてはバチ当たったって思ってるかな、なんて邪推してまう」
垂木「ここにいるのがすべてだよ」
結城「お前……」
垂木「これで自由になれるって思ってる自分がいる」
   結城、ジュースを飲む。伏し目がちに垂木を見る。
   垂木、缶を握りしめる。

〇岸和田・実景

〇商店街
   シャッター街の商店街。
   明かりの灯る喫茶店がある。
   喫茶「もみぢ」の看板。

〇喫茶「もみぢ」・店内
   こぢんまりとした昭和レトロな店内。
   初老のマスターが、カウンター内で暇そうに漫画を読んでいる。
   だんじりの法被が吊るされている。
   竹邑芽依(18)、ミックスジュースを飲んでいる。
   対面には佐原一華(22)、コーヒーを飲んで、
一華「すべての死が、悲しみやとは限らへん」
芽依「?」
一華「岸和田ってな、変わってる」
芽依「ずっとここおるからわからへん」
一華「みんなだんじりを基準にして生きてるって言うたら伝わる?」
芽依「ああ、うん」
一華「葺地さんのことかて、名誉の死やってって見方や」
芽依「……そう、やね」
一華「確かに悲しいことやと思ってはいるけど、だんじりで死ねたんは本望ちゃうかな」
芽依「うん……」
一華「やけど、松良はちゃう」
芽依「そもそもだんじり嫌いやしね」
一華「せや。あいつはこの街にそぐわんかった」
芽依「でもずっと曳いてたよね?」
一華「だんじりに命捧げる男の息子が、だんじり曳かんとかできるか?」
芽依「せやよね……」
一華「葺地さんの死も名誉やと思わんし、理解もできん」
芽依「訊いたの?」
一華「なわけ。でも昔うちのパパが死んだとき、『死が名誉なわけがない』って、言うてたから」
芽依「そっか……」
一華「せやから葺地さんのこともきっとそうやって、推測」
芽依「大丈夫かな?」
一華「どうやろな。でもどうすんの、恋人として、芽依ちゃんは」
芽依「どうするって?」
一華「あいつにとって、父親の死はこの街からの解放を意味する。ずっと嫌いやっただんじり、けど辞められへんかっただんじりを辞められる」
芽依「……」
   一華、吊るされた法被を見て、
一華「下手すると、この街からおらんなるんちゃうかな」
芽依「この街を捨てる……」
一華「逃げる」
芽依「……」
一華「そうなったら、芽依ちゃんはあいつについていく?」
   芽依、不安そうに手元を見つめる。
   吊るされた法被。

〇高校・外観

〇同・職員室
   隣り合わせの座席に座る垂木と箕田浩司(52)。
   箕田、席を立ち、窓際に置かれた盆栽に水をやる。
箕田「……上京、ですか」
垂木「はい」
   垂木の手元、「〇〇大学」の資料がある。
箕田「なんでまた急に?」
垂木「ずっとこの街を出たいと思ってました」
箕田「初めて聞きました」
垂木「初めて言いました」
箕田「なんで、言ってくれへんかったんです?」
垂木「反対されていたから」
箕田「お父さん?」
垂木「はい」
箕田「亡くなったからですか?」
垂木「……はい」
   箕田、頬をピクつかせて、
箕田「……そんなに、嫌いですか」
垂木「たったひとりの家族、そんな言葉じゃ量れない」
箕田「……この街は、嫌いですか」
垂木「生まれたときからだんじり、だんじりと言われて、嫌気がさしてた」
箕田「楽しい祭りやないですか」
垂木「この街に生きる人すべてがだんじりを好きだと思っていること自体が嫌なんです。特に親父がそうでした」
箕田「心血を注がれていた方ですからね」
垂木「俺にとっては、ただの祭り以上のことはなくて、それを辞めたいということも許されない環境が嫌でした」
箕田「そうですか……」
   垂木、うっすらと笑みを浮かべて、
垂木「だからホッとしてしまったんです。親父が、死んで」
箕田「……」
   箕田、徐に垂木を見つめる。
垂木「死を悲しめない自分もまた嫌で、だから、逃げたくなった。この街を、すべてを、捨てたくなった」
箕田「松良くん……」
垂木「俺は卒業したら上京します」
箕田「……」
   箕田、垂木の隣に座り直して、
箕田「芽依さん」
垂木「?」
箕田「芽依さんのことは、どうするんですか?」
垂木「どうするって……?」
箕田「離れ離れになってもいいんですか?」
垂木「それは……」
箕田「上京したいいう気持ちはわかりました。せやけど、自分の気持ちだけやなくて、芽依さんのことも考えたらんとあかんちゃいますか」
   垂木、苦悶の表情。

〇岸和田城近くの道(夕)
   お堀を挟んで、岸和田城が聳え立つ。
   横並びで歩く芽依と結城。
   芽依、立ち止まって、
芽依「ねえ」
   結城、立ち止まって、
結城「ん?」
芽依「……私、東京行くことにした」
結城「……ほんまか」
芽依「うん」
結城「理由はって、訊かんでもわかるわ」
芽依「知ってた?」
結城「あいつから急に言われた」
芽依「私も」
結城「んで、ついていくってこと?」
芽依「うん」
結城「親御さんは納得したん?」
芽依「説得した」
結城「いけたんや」
芽依「何とかね」
結城「せやけど、志望校あったんちゃうん? ええの?」
芽依「似たようなこと学べる大学なら、東京にもあるから」
結城「それはせやろけどやな……」
芽依「私、好きやから。一緒におれるなら、志望校だって変えることに躊躇はないよ」
結城「そうか」
芽依「……でも」
   結城、芽依を見つめる。

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