黄金の馬 コメディ

小林史也(27)と妹明里(23)は自分を捨てた父則義(55)が東京で見つかったことを知る。 「借金取りに追われる則義に金を渡してほしい」と祖母から頼まれたことで、これまで秘められてきた父を巡る二人の思いが次第に明らかになってゆく。
市川家の乱 7 0 0 11/10
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第一稿

《登場人物》
小林史也(7)(27) ニート
小林明里(3)(23) 史也の妹

小林則義(55)  史也の父
清正(29)   借金取り
豪(24)    借金取り
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《登場人物》
小林史也(7)(27) ニート
小林明里(3)(23) 史也の妹

小林則義(55)  史也の父
清正(29)   借金取り
豪(24)    借金取り

立川デブ(48) コーチ屋
小林良江(78) 史也の祖母
小林愛子(50) 史也の母
阿部(40)   依存症施設の代表
大家
店員

武(55) 則義の知人を名乗る男

脚本
○ 小林家・史也の部屋(夕)
  小林史也(27)、机でスライスチーズをいじくっている。
  机の上のガラケーが鳴る。
  着信画面に"明里"。
史也「(出る)はい」
明里の声「あ、久しぶり。元気?」
史也「まあ、うん」
明里の声「今家?」
史也「まあ、家かな」
明里の声「何してるの?」
史也「スライスチーズを折りたたんでる」
明里の声「…頼みがあるんだけど」
史也「うん」
明里の声「さっきおばあちゃんから電話があって」
史也「うん」
明里の声「そっちにきてるんだって」
史也「そっちって、そっち?」
明里の声「そっち。家のほう」
史也「ばあちゃんが?」
明里の声「急に連絡きて。近くまできてるからって。大事な話があるみたいなんだけど、私そっちいけないじゃん」
史也「うん」
明里の声「お兄ちゃんさ、代わりにおばあちゃんに会ってきてくれない?」
史也「俺が?」
明里の声「うん。おばあちゃんには話つけとく」
史也「ムリだよ」
明里の声「ヒマでしょ?」
史也「ヒマではない」
明里の声「じゃ何してるの?」
史也「スライスチーズを…」
明里の声「(取り合わず)うん。じゃ頼んだ。またあとで電話するね(と切る)」
史也「…」

○ ラッキーピエロ・外観
  函館名物のファーストフード店。

○ 同・店内
  ウエスタン調のインテリアが施された店内。
  史也と祖母良江(78)がテーブル席で向き合っている。
良江「(笑う)歳ねえ。明里ちゃんが札幌で会社勤めしてるの、すっかり忘れちゃってて」
史也「(居心地が悪い)」
良江「史也さんは仕事は何を?」
史也「(言いよどむ)まあ、色々…まあ…」
  店員、やってくる。
店員「チャイニーズチキンバーガーのセットお待たせ致しました」
良江「あ、私だわ。ありがとう」
  店員、去る。
良江「チャイチキ、これ好きなの」
史也「…」
良江「(ハンバーガーを手にし)お腹減っちゃったから頂くわ。あなたも何か頼んだら?」
史也「あ、大丈夫です」
  良江、ついたソースを指チュパする。
史也「…」
良江「(食べながら)話ってのはね、あなたたちの父親の則義のことなの」
史也「(動揺し)え?」

     ×    ×    ×

  テーブルの上に録音レコーダー。
  イヤホンをつけた史也、録音された会話を聞いている。
男の声「…俺だ…俺だよ…」
良江の声「(驚く)則義? あんた則義なの?」
男の声「…さっきからそういってる…お袋、頼む。100万…振り込んでくれ…生きるか死ぬかの瀬戸際に立ってる…」
良江の声「あんた、二十年も連絡もよこさないでこれまで何してたの? 今どこにいるの?」
男の声「…東京にいる…100万…いや、50万…何としても必要なんだ…時間がない…早く金を手にしないと…」
   音声、終わる。
   史也、イヤホンを外す。
史也「あ、聞きました」
良江「どう?」
史也「いや、まあ、オレオレ詐欺とか…」
良江「私も疑ったんだけど、声は則義に似てるし、それにこのテープの後に続きがあってね、あんたの好物は何か?と聞いたら、ちゃんと答えたの」
史也「…」
良江「フライドポテトって。則義、フライドポテト好きだったから。でもそれだけじゃたまたま当たることだってあるでしょ。だから念を入れてどこの店のフライドポテトかって聞いたらちゃんと当てたのよ。山城精肉店のフライドポテトって」
史也「…はあ」
良江「でね、私いったの。お金は渡してもいい。だけど直接会って確かめないことには渡せない」
史也「…」
良江「(ため息)とはいったものの、この歳で東京にいくのはおっかなくって」
  良江、バッグから封筒を取り出す。
  良江、封筒を史也に差し出す。
史也「…?」
良江「史也さん、代わりにお願いできない?」
史也「え」
良江「100万あるわ」
史也「…」
良江「(にっこり)」
史也「…いや」
良江「(にっこり)」
史也「…いや、でも、会っても、俺、顔とか覚えてないし…」
良江「平気よ。あなたたち、親子なんですもの。顔を見れば必ずわかる」
史也「…いや」
  良江、ふいに涙ぐむ。
史也「…」
良江「則義のせいで…あなたたちが苦労したのはわかる…でもそんなバカ息子でも…私にとっては…」
史也「(戸惑う)」
良江「…この通り。どうかお願い」
  良江、頭を下げる。
  他の客、見ている。
史也「…」
良江「(呻く)後生だから」
  良江、なおも頭を下げる。
  他の客、見ている。
史也「…ちょっ、やめてください」
良江「(呻き声)」
史也「わかったからやめてください」
良江「(しれっと泣きやむ)そ、よかった」
史也「…」
 
○ 夜の大海原をゆくフェリー
  鳴り響く汽笛。

○ フェリー船内・デッキ
  史也、海を眺めてたそがれている。

○ 函館競馬場・スタンド(イメージ)
  外れ馬券が散乱している。
  客の去った場内にぽつんと取り残された二人の子供。
  少年時代の史也(7)、妹の明里(3)の手をひいて不安そうにさまよっている。
史也「(叫ぶ)お父さん! お父さんっ!」
  明里、疲れてその場にしゃがみこむ。
  史也、泣きそうになるも叫び続ける。
史也「お父さんっ!」
  その時、コースのゲートが開く。
  ゲートから黄金に輝く馬に乗った騎手が現れる。
  キャップとゴーグルで顔を覆った騎手、黄金の馬に跨がってコース場を颯爽と駆け抜ける。
史也「(息をのむ)」

○ (戻って)デッキ
  史也、ポケットからガラケーを取り出す。
史也「圏外か…」

○ 同・ロビー
  史也、公衆電話の前に立つ。
  公衆電話の説明書きを見る。
史也「30秒100円…ウソだろ…」
  史也、ポケットから小銭を取り出す。
  史也、受話器を持ち、何をいおうか考えている。
史也「(よし)」
  史也、百円玉を入れる。
  史也、受話器のボタンを押す。
史也「(繋がる)あ。俺だけど今フェリーに…」
明里の声「お兄ちゃん? ちょっと待って」
史也「…(もどかしい)」
明里の声「ごめん、やかんの火とめにいってた。何?」
史也「時間がないから用件だけいうけど今フェリーに(切れる)」
  史也、受話器をおく。
史也「…」

○ マンション・明里の部屋(札幌)
  明里、スマホで話しながら旅行カバンに荷物を詰めている。
明里「(疑う)ホントに乗った?」
史也の声「乗ったよ。つーか、そっちがいくんなら俺までいく必要ないし」
明里「お兄ちゃんいなかったら封筒渡せないじゃん。それより私との待ち合わせ場所、ちゃんと覚えた? 東京駅の銀の…」
  電話、切れる。
明里「…?」
  明里、鼻歌まじりで荷物を詰める。
  明里、付箋の貼られた旅行雑誌ぷららを手に取り、それをカバンにしまう。

○ 夜行バス・車内
  史也、太った男に挟まれて座っている。
  史也、窮屈そうに眠っている。

○ 東京駅・構内(翌日) 
  明里、旅行カバンを引いて歩いている。
  史也、"銀の鈴"の前で待っている。
  明里、史也を見つける。
  明里、いかにも田舎者の史也を見て笑みがこぼれる。
  明里、不意打ちで史也の背中を押す。
史也「うぉ(と驚く)」
明里「やっほー。久しぶり」
  史也、あか抜けた感じの明里を見てドギマギする。
史也「(ぼそり)よぅ」
明里「何それ?」
史也「え、いや…久しぶりだから」
明里「久しぶりに人と話したから?(とからかう)」
史也「は?」
明里「お母さん元気?」
史也「まあ、相変わらずだよ」
明里「(史也へ手を差し出す)」
史也「…?」
明里「おばあちゃんから預かったお金。お兄ちゃんじゃ不安だから私が持ってる」
  史也、ポケットから封筒を取り出す。
  明里、受け取って、中を確かめる。
史也「使ってないって」
明里「はい。お兄ちゃんはこれ持ってて」
  明里、黄色いハンカチを史也に渡す。
史也「…?」
明里「おばあちゃんが考えた父との待ち合わせの目印」
  史也、ハンカチを広げてみる。
史也「(気が乗らず)…封筒も預けたし、俺、やっぱ帰っていい?」
明里「(無視して)荷物預けてくる。お兄ちゃん荷物どこに預けたの?」
史也「え、いや、俺、手ぶらで」
明里「(呆れる)」
 
○ 喫茶店・外観(府中市)
  窓の外から黄色いハンカチが見える。

○ 同・店内
  史也と明里、窓際のテーブル席に座っている。
  黄色いハンカチが窓に貼られている。
  史也と明里、窓の外を見渡す。
  二人の前を通り過ぎていく人たち。
明里「…こないね」
  史也、ジュースを飲む。
  史也、ハンカチで、濡れた指を拭く。
明里「目印で拭かないでよ」
史也「…うん」
明里「…ねえ、もし本物の父がやってきたらどうする?」
史也「いや、まあ、気まずいよね」
明里「だって20年ぶりの再会で初めてすることが現金の受け渡しだよ?」
史也「うーん」
明里「お兄ちゃん、父に会うの楽しみ?」
史也「いや、全然」
明里「そうなんだ」
史也「え、楽しみなの?」
明里「楽しみっていうか、どんな人なんだろって。父のこと何も覚えてないもん。お兄ちゃん、覚えてる?」
史也「いや、どうだろ」
明里「父の悪口ならお母さんから散々聞かされて育ったけど」
史也「…確かに」
  明里、バッグを漁る。
  明里、付箋が貼られたぷららを出す。
史也「…?」
明里「(ぷららを開き)父がいい人そうだったら一緒に東京見物でもしようかなって」
史也「…いや、借金があるって話だけど」
明里「そこは親孝行だよ。お兄ちゃんと違って私は働いてるしお兄ちゃんの100倍貯金があるから」
史也「…」

     ×    ×    ×

  史也と明里、窓の外を見渡す。
  二人の前を通り過ぎる人たち。

     ×    ×    ×

  明里、スマホで電話をしている。
明里「あ、おばあちゃん? うん…こなかった…うん、うん…」
  史也、窓の外を見ている。
  史也、ふいに視線を感じる。
史也「…」
明里「(電話を終え、史也へ)お兄ちゃん?」
史也「(明里に気づいて)あ、ばあちゃん、何だって?」
明里「おばあちゃんがいうにはね、電話の男はギャンブル依存症施設にいるって話してたんだって。調べたらこの近くには一ヶ所しかなかった。ダメもとでいってみない?」
史也「え(と気が乗らない)」
明里「はい、決定」
史也「…」

○ アジサイの家・事務所
  アットホームなギャンブル依存症施設。
  壁に"ギャンブル依存症をゼロに"と書かれたポスター。
  史也と明里、座っている。
  目の前に代表の阿部(40)。
阿部「うん。小林則義さんなら二ヶ月前までうちに入所してました」
明里「(ぼそり)…本物だったんだ」
史也「…」
阿部「(メモを渡し)これが一応小林さんの電話番号。以前かけた時はもう使われていなかったけど」
明里「…父の写真とかってありますか?」
阿部「どうだったかなあ。探せばあると思うけど。連絡先教えてくれれば見つけ次第知らせますよ」
明里「お願いします。お兄ちゃん」
史也「え?」
  史也、鉛筆を手に取る。
  史也、メモ用紙にメールアドレスを紙に書く。
阿部「そうだ。デブさんなら知ってるかもしれない」
明里「デブさん?」
阿部「ここの入所者で、小林さんとは仲良かったみたいだから」
  阿部、電話をかける。
阿部「…あ、デブさん? 後ろからパチンコの音が聞こえるけど…ほんと? 小林さんのことでちょっと話を聞きたいんだけど」
  阿部、明里に受話器を渡す。

○ パチンコ屋・店内
  立川デブ(48)、パチンコ台の前に座って大声で電話している。
立川デブ「小林さん? 奴さん、前に会ったときは借金取りに追い回されてヒーヒーいってたぜ」 

○ アジサイの家・事務所
明里「居場所を知りたいんです」
立川デブの声「奴さんの出入りする場所は鉄火場だけだな」
明里「鉄火場?」
立川デブの声「競馬場、競輪場、競艇場、雀荘、パチンコ屋、この街に住めばギャンブルには事欠かないからな」
明里「あの、住所とかってわからないでしょうか?」
立川デブの声「奴さんのアジトか…」

○ アパートの前
  ぼろアパートを見上げる史也と明里。
明里「ここだ」
史也「…」

○ 同・外廊下
  史也と明里、則義の部屋の前に立つ。
史也「(そわそわして)俺、下で待ってるよ」
  明里、構わずインターホンを押す。
史也「…」
  しばらく待つが、反応はない。
史也「留守だ。帰ろう」
  とアパートの前に黒塗りの車が止まる。
  清正(29)と豪(24)、車から降りてくる。
  清正と豪、則義の部屋の前にくる。
清正「(睨む)何だ、お前ら?」
史也、明里「(ビビる)…いえ」
  清正、ドアをガンガン叩く。
清正「小林さーん! 小林則義さーん! いるんでしょー! お金を返してくださーい! 小林則義さーん、貸したお金を返してくださーい!」
  大家、やってくる。
大家「あんたたち、うるさいよ」
豪「何だババァ」
大家「ここの人ならとっくに夜逃げしたよ。ったくこっちだって家賃踏み倒されて迷惑してんだ。さっさと帰ってくれ」
  大家、去っていく。
清正「(舌打ち)」
豪「兄貴、どうします? パチンコ屋辺り回ってみますか?」
清正「おう。いくぞ」
  清正、豪、車に乗り込む。
  車、発進する。

○ 東京競馬場・ダービースクエア
  公園のような場所。
  アスレチックスで子供たちが遊んでいる。
  史也と明里がいる場所からはスタンド内のコースが見渡せる。
  史也、マクドナルドの袋を片手にハンバーガーを食べている。
明里「…結局、もう父への手がかりはなしか」
史也「まあ、でもしょうがないよ。ばあちゃんには悪いけど」
明里「お兄ちゃん、東京にきてまでマック?(と呆れる)」
  史也、ハンバーガーからピクルスを取り除く。
明里「しかもピクルス捨ててるし」
史也「競馬場っていえばこれよ」
明里「…?」
史也「覚えてない? 子供の頃、父に連れられて競馬場きたら必ずこれ食ってたの」
明里「…」
史也「(一口食べる)うん」
明里「だから覚えてないって。私3歳だったもん。父に捨てられたとき」
史也「食う?(とポテトを差し出す)」
明里「(むすっと)…いらない」
  史也、うまそうにポテトを食べている。
明里「(史也を見て)なんか意外」
史也「え?」
明里「お兄ちゃん、東京きたの嫌々だったのに父のこと好きだったんだ」
史也「…いや、好きとかじゃなく」
明里「(真剣な顔になる)子供よりギャンブルを選んだんだよね。父」
史也「(微笑む)…母ちゃんはさ、グチや悪口しか俺たちにいわなかったけど、でも実際は違うんだよ。こんな暑い日はさ、眠れないで父の部屋にいくとクーラーがガンガンに効いてるんだ。そこでポーカーだよ。花札もやった。こいこいにオイチョカブ。俺にとって嫌な思い出なんか全然ないんだよ」
明里「…」
史也「俺の中の父は黄金の馬に乗ってるんだ」
明里「…?」

○ 同・スタンド(イメージ)
  少年時代の史也、幼い明里の手をひいて彷徨っている。
  とゲートが開く音がする。
  史也、見る。
  コース上に黄金の馬が現れる。
  ゴーグルで顔を覆った小林則義(55)が騎乗している。
  その後方を、騎手に扮した清正と豪が、大家が、立川デブが、良枝が、鬼の形相で追走している。
史也の声「父を捕まえようとする者たちが一斉に追いかけてくる。だけど絶対に追いつけない。どこまでもどこまでも駆けて地平線の彼方へと消えていってしまう…」
  黄金の馬、颯爽と去っていく。
  史也、魅せられている。

○ (戻って)ダービースクエア
史也「そんな姿がさ、何かイケててさ(と笑う)」
明里「…」

     ×    ×    ×

  史也、ゴミを入れたビニール袋を結ぶ。
史也「さ。もう気がすんだろ。帰るか」
明里「お兄ちゃん(と身構える)」
史也「…?」
明里「…さっきからこっち見てる人がいる」
史也「…」
明里「もしかして父かも」
史也「(適当に見渡して)そんなはずないだろ」
明里「わかんないじゃん」
史也「どっかのおっさんが明里に見とれてるんだろ」
明里「違う。見られてるのお兄ちゃんだよ」
史也「え」
  史也、振り返る。
  貧相なナリの中年男が目に入る。
  二人、目が合う。
史也「…」
明里「(史也の様子に)まさか、そうなの?」
史也「…いや」
  男、挙動不審になる。
明里「怪しい!(と男のほうへいく)」
史也「(焦る)お、おいっ」

○ 同・建物内
  テーブル席に史也、明里、男。
明里「そうですか。父にお金を…」
男「…」
明里「失礼ですが、お名前は?」
男「(ぼそり)…武」
明里「父、どんな人ですか」
武「…いや、よくわかんない」
明里「でも、どうして私たちのあとを?」
武「…奴の家の前を張ってたら、君たちの話が耳に入ってきて…奴に会えるかと思って…」
明里「いくらですか? 父の借金」
武「…一万…五千…」
  明里、バッグから財布を出す。
  明里、一万五千円、武に渡す。
武「…しかし」
明里「いいんです」
武「(受け取る)」
  明里、立ち上がる。
明里「(史也にバックを預け)ごめん。ちょっと席外す(とトイレに向かう)」
史也「え? おい」
  史也と武、残される。
  二人の間に、何か緊張感が漂っている。
  史也、上目遣いでちらりと武を見る。
  武、乾いた唇を噛みしめている。
史也「…」
武「…」
  武、史也へ何かをいおうとする。
  史也、途端に立ち上がる。
武「…」
史也「ジュース…買ってきます…」
  テーブルの上に置かれた明里のバッグ。
武「(バッグを見て)…」

     ×    ×    ×

  明里、トイレから出てくる。
  史也が近くの自販機でジュースを買っている。
明里「(史也へ)武さんは?」
史也「え」
明里「私のカバンは?」
史也「カバン?」
  明里、急いでテーブル席にいく。
  武と共に明里のバッグが消えている。
明里「え! ない!」
史也「マジで?」
明里「(遠くを見て)あーーーっ?!」
  明里のバッグを抱えて逃げる武の姿。

○ 同・東門前
  史也と明里、走っている。
  が、すでに武の姿はない。
明里「(荒い息)お兄ちゃん、スマホ」
史也「(荒い息)へ?」
明里「スマホ出して。早く」
史也「ガラケーだけど」
明里「何でもいいから」
  史也、ガラケーを明里に渡す。
史也「何だよ。スマホも盗られたの?」
  明里、ガラケーを操作する。
  地図画面を開こうとする。
明里「紛失モード使えばGPS機能で私のスマホ追えるはずだから」
史也「へえ」
  ガラケーの画面、読み込み中が長い。
  明里、もどかしい。
  ようやく読み込み終わり、画面に地図が表示される。
明里「(地図を見て)府中本町駅のほうに向かってる!」

○ 大国魂神社・境内
  史也と明里、へばっている。
  明里、携帯の地図画面を見る。
  明里、辺りを窺う。
  武、木陰にへたれ込んでいる。
明里「あそこ!」
  武、びっくりして、逃げ出す。
  その拍子に、明里のバッグからぷららが落ちる。
明里「お兄ちゃん! 早く!」
  史也、追うが、もうヘトヘト。

     ×    ×    ×

  明里のもとへ、史也、戻ってくる。
  史也の手には一冊のぷらら。
史也「ぷららだけ取り返してきた」
明里「…」

     ×    ×    ×

  史也、木陰で休んでいる。
  木々の向こう側に交番が見える。
  明里、やってくる。
明里「被害届出してきた」
  明里、史也のガラケーをいじりながら、
明里「電源切られて追跡できなくなってる」
  とガラケーを史也に返す。
  明里、しゃがみこむ。
史也「で、どうする?」
明里「お兄ちゃん、お金は?」
  史也、ポケットから小銭を取り出す。
  二千円くらいある。
明里「それで全部?」
史也「あと帰りのバスとフェリー代は靴下の中に温存してあるけど」
明里「クレカは?」
史也「え?」
明里「え、クレカ」
史也「いや、クレカって、俺持ってないけど」
明里「え」
史也「いや、クレジットカードは借金のもとって母ちゃんの掟。だから俺持ったことないけど。え、持ってるの?」
明里「…じゃあ、持ってるのって現金だけ?」
史也「(頷く)」

○ ネットカフェ・店内(夜)
  個室に明里。
  パソコンで調べ事をしている。
  「旅行先 盗難」で検索。
  薄い仕切りで隔たれた個室から、
客「(荒い息)ハァハァ、フシュルル…」
明里「(気味が悪い)」
  明里、個室を出る。
  明里、史也の個室の前にいく。
明里「(小声で)お兄ちゃん? 開けるよ」
  明里、扉を開ける。
  史也、缶チューハイを飲んでいる。
明里「(驚く)ちょっと?!」
史也「おう」
  史也、柿ピーをつまむ。
明里「…柿ピーまで」
史也「明里も食べるか?」

     ×    ×    ×

  カップルシートに史也と明里。
  史也、缶チューハイを飲む。
史也「(見回して)カップルシートって結構広いんだな」
明里「…お兄ちゃん、うちらのおかれてる状況わかってる?」
史也「(考える)まあ、ヤバいよね」
明里「…」
史也「まあ、大丈夫だよ。ばあちゃんにはさ、金は渡したっていえばいいんじゃないかな」
明里「そんなのダメだよ」
  明里、柿ピーをつまむ。
明里「それに盗られたのはおばあちゃんのお金だけじゃない。私のスマホ、それに財布」
史也「いくら入ってたの?」
明里「30万」
史也「(驚く)そんなに?」
明里「…電話、貸して」
史也「え?」
明里「電話」
史也「ああ」
  史也、携帯を明里に渡す。
明里「こうなったらお母さんにほんとのこと打ち明けて助けてもらうしかないよね」
史也「まあ、そうなるかなあ」
  史也、酔いが回り、眠たそう。
  明里、携帯の連絡先一覧を見る。
  「明里 母 依存症施設の人」の3件。
明里「…」
   明里、「母」に電話をかける。
   電話、繋がる。
明里「…あ、お母さん…うん…今東京…ちょっとね…兄も一緒…え、私のスマホ調子悪いみたいで…大丈夫…大丈夫だって。心配しないで…今? 夜景がきれいなホテルにいるよ…うん…わかってるって、じゃあ切るよ…(と電話を切る)」
  明里、ため息をつく。
  明里、史也を見ると、史也、うたた寝をしている。
明里「…」
  明里、何となくガラケーをいじる。
  フォルダーに明里の写真。
  大学の卒業式で撮った写真だ。
明里「(写真を見て)…」

○ 小林家・居間(回想)
  小林愛子(50)、洗濯物を畳んでいる。
  明里、神妙な顔でやってくる。
愛子「何?」
明里「お母さん、内定決まった」
愛子「そう、よかった。おめでとう(と顔が緩む)」
明里「四月からは札幌で一人暮らしすることになる」
愛子「これで一安心だわ。ほんとによかった。あんたまでグズにならずに済んで」
  と寝ぼけ眼の史也、やってくる。
  史也、冷蔵庫を開け、尻をぼりぼり、麦茶をがぶがぶ。
  で、去っていく。
愛子「…でもまあ、あんたの大学の学費を払ってくれたのは史也なんだから、あんなのでも役に立っただけマシね」
明里「(驚く)え?」
愛子「いってなかった? 史也のバイト代であんたを大学に入れたのよ」
明里「…」
  愛子、洗濯物を畳み出す。
明里「…お兄ちゃんが」

○ (戻って)ネカフェ・店内
  眠る史也。
史也「(寝言)大丈夫…金は俺が何とかするから…」
明里「(史也をじっと見つめる)…」

○ 競輪場・スタンド
  ナイトレースが行われている。
  武、車券を握りしめて観戦している。
清正の声「やっと見つけたぞ」
  武、振り向く。
  清正と豪が立っている。
清正「(にやり)もう逃がさねえ。小林則義さん」
  ぎくりとする武。
  その正体は則義。(以下則義と表記)
  則義、とっさに逃げ出す。
豪「てめえ、待て!」
  豪、則義を追う。
  豪、則義を捕らえ、取り押さえる。
清正「…500万だ。借りた金を返さねえとどうなるかをこの場で教えてやる」
  清正、ジリジリと則義に近寄る。
則義「ま、待て。うまい話があるんだ」

○ パチンコ屋の前(翌日・朝)
  史也と明里、立っている。
明里「いい? 何としても武を探し出す。それしかお金を取り返す方法はない」

○ パチンコ屋・店内
  明里、客を見回して武を探している。
  別の場所で、史也、客を見回して武を探している。
  史也、足を止め、パチンコ台を見つめる。
史也「…」

     ×    ×    ×

  明里、客を見回して武を探している。
  史也、パチンコを打っている。
明里「(気づいて)な、何してんの?!」
史也「いや、ちょっとやってみようかなって」
明里「(大声で)何? 聞こえない!」
史也「(大声で)金! 100万と30万! 取り戻そうと思って!」
明里「(大声で)無理に決まってるよ!」
   史也、台に向かって念を込める。
   パチンコ台、フィーバーする。
史也「当たった!」
   台から玉が溢れてくる。
史也「(明里へ)箱!」
明里「(焦る)え? え?!」

     ×    ×    ×

  史也の足下にパチンコ玉の詰まった大量の箱。
史也「いやあ。俺、才能あるかもしれない」
明里「…」
  床に玉が一つ落ちている。
  明里、拾う。
  明里、台に座り、玉を入れ、レバーを引いてみる。
  玉は空しく外れ穴に落ちる。
明里「…」

○ 多摩川競艇場・スタンド
  レースが始まっている。
  水上をボートが猛スピードで駆け抜ける。
  史也と明里、絶叫している。
史也、明里「いけー!」
  先頭のボートがゴールする。
  明里、舟券を確かめる。
明里「当たってる!」
  立川デブ、やってくる。
立川デブ「おう、よかったな」
明里「ありがとうございます! いわれた通りに買ったら当たりました!」
立川デブ「だろォ? じゃ(と手を出す)」
明里「…?」
立川デブ「コーチ料。四分六でいいよ」
明里「…」

○ 雑居ビル・外
  史也と明里、麻雀店の看板を見上げている。
明里「お兄ちゃん、麻雀なんかできるの?」
史也「函館の雀鬼とは俺のことだ」

○ 雀荘・店内
  史也、フリー客と卓を囲んでいる。
  明里、後ろで眺めている。
史也「ポンです」
  史也、牌をさばく。
史也「チーです」
  史也、牌をさばく。
史也「ロンです」
  史也、牌を倒す。
客「(舌打ち)」
  史也、客から点棒を受け取る。
  史也、振り返って明里にガッツポーズ。
  史也、牌をかき混ぜる。
明里「(史也の後ろ姿を見て微笑む)」
 
○ 京王閣競輪場・スタンド(夜)
  ナイターレース。
  明里、携帯の電卓機能で計算し、
明里「この組み合わせで買えば130万円になる」
史也「ここで決めるぞ」
  史也、念を込める。
明里「何してんの?」
史也「いや、パチンコで勝ったときこうしてたから」
明里「…」

○ 公園
  ベンチに史也と明里。
  野宿である。
明里「…バカだね、うちらって」
史也「(未練がましく)数字が1個ズレれたら勝ててたんだけどなあ」
明里「…こうしてるとなんか昔思い出す」
史也「?」
明里「ベランダでよく星みてたじゃん」
  二人、星を見上げる。
史也「…子供のころ、日本中の人が一人一円俺にくれれば一億円になるじゃん、人生楽勝じゃん、ってよく空想してた…でも、なんでみんなが俺に一億円くれるのかはまったく考えなかったな…」
明里「…何の話?」
史也「いや、俺と違って考えてるわけだろ、明里は。大学出て、就職して、どうしたら一億円もらえるかをちゃんと考えてる。偉いなあって」
明里「…」
史也「俺とは大違いだ(と笑う)」
明里「(笑わず)…お兄ちゃんは私に実家に戻ってきてほしい?」
史也「実家に?」
明里「うん」
史也「いや」
明里「そうなんだ…」
史也「何で? 札幌で何かしでかした?」
明里「別にしでかしてない。うまくいってるよ」
史也「じゃ、いいじゃん」
明里「…実家に戻ればさ、こうやってお兄ちゃんのつまんない話にかまってあげられるし、私だけだよ、かまってあげられるの、お兄ちゃん、友達いないし」
史也「…」
明里「それに、今度はちゃんとした旅行にもいけるし」
史也「仕事はどうすんのよ」
明里「何でもいい。スーパーでだって働けるし」
史也「せっかく正社員になったのにスーパーって。母ちゃんにキレられるぞ(と笑う)」
明里「…」

○ 厩舎
  静まり返った二つの人影。
  一人は則義。もう一人は厩務員。
  二人、馬房の前に立つ。
  厩務員、濁った液体の入ったバケツを馬の前におく。

○ 競輪場・スタンド(回想)
  則義、清正と豪と話している。
則義「今度のレース、知り合いの厩務員と組んで八百長を仕込む。絶対に確かな話だ。あんたらも乗れ」
清正「(にやり)馬にカフェインか…いいだろう。その話、乗ってやる。その代わり、もし間違いがあれば、その時はわかってるだろうな」
則義「…」

○(戻って)厩舎
  馬、カフェインの入ったバケツに顔を突っ込む。
  則義と厩務員、去っていく。

○ 府中駅・構内(翌日)
  史也、明里、佇んでいる。
  明里、ガラケーをいじり、愛子に電話しようかと悩んでいる。
  ガラケーから着信音。
明里「依存症施設の人からだ…」   
  史也も画面をのぞく。
  画面に以下の文章。
  「小林さんの写真が見つかったので送ります。帽子を被っている方が小林則義さんです」
  続けて添付された写真が映し出される。
  野球帽をかぶった武と、見知らぬ男のツーショット。  
明里「(絶句)」
史也「…これもうわかんないな」
明里「(史也を睨み)気づいてた?!」
史也「いやいや…」
明里「警察に知らせなきゃ」
  明里、歩き出す。
  史也、追って、
史也「おい、それはまずいって」
明里「真犯人を教えないと」
史也「しょうがないって…借金取りに追われてるみたいだし…」
明里「…」
史也「まあ、でも、予期せずとはいえ、ばあちゃんの金が渡せたってことでいいんじゃないのかな」
  明里、立ち止まる。
明里「(ぼそり)…私のお金は?」
史也「え?」
明里「(怒って)なんで父をかばうの? 私のお金も盗まれたんだよ? 30万! 実の父親が盗んだんだよ?」
史也「…」
明里「私がどんな思いで貯めたお金かお兄ちゃん全然わかってない!」
史也「…いや、そりゃ大変だったろうけど、でも、それは親孝行のための金だって…」
明里「違う!」
史也「…」
明里「あのお金があれば今頃お兄ちゃんと二人で東京の色んなところを見て回れた。二人でおいしもの食べられてた。父のことなんかどうだっていい。ホントは私を捨てた人のことなんかどうだっていい。あのお金は…お兄ちゃんのために使うお金だった…」
史也「(はっとして)…え?」
明里「私の学費、お兄ちゃんが払ってるって知ったときから、いつかお兄ちゃんに恩返ししようと思ってた…いい機会だった…」
史也「…」
明里「だから、大切なお金だった…その大切なお金をあの男に盗まれたんだよ!」
  明里、ぷららを史也に投げつける。
  明里、背を向ける。

     ×    ×    ×

  明里、しゃがみこんですねている。
  離れたところで、史也、ぷららを見ている。
  付箋が何ヶ所かに貼られている。
  付箋の貼られたページには、「家族でオススメ」「男の子にオススメのスポット」などと書かれている。

     ×    ×    ×

  時計は15時を回っている。
  史也、明里のもとにいく。
史也「…腹減らない?」
明里「…」
史也「なんか腹減った。まだ少し金残ってるから、なんか食べない?」
明里「…」
史也「…」
  とガラケーが鳴る。
  明里、ガラケーを取り出して画面を見る。
  着信画面に「明里」の表示。
明里「…父だ」
  明里、史也に携帯を渡す。
明里「出なよ」
史也「え?」
明里「お兄ちゃんが出な」
史也「(出て)…はい」
則義の声「史也か?」
史也「あ、はい」
  明里、会話に耳を澄ましている。
則義の声「言い訳はしない。許してくれともいわないし、許されるとも思っていない…これから大一番のレースがある。俺はそれに勝つ。そしてこれまで俺がしてきたことのすべてを清算しようと思う」
史也「あ、はい」
明里「(焦れったい)貸して」
  明里、史也から携帯を奪う。
明里「私のカバン、今すぐ返してください。返さないと警察に通報します」
則義の声「明里か…あの金は、信じてくれとはいわないが、使っちゃいない。元手にして、今、180万まで増やした」
史也「(驚く)」
明里「何をいってるんですか? 犯罪です。返してください」
則義の声「それはできない」 

○ 道  
  史也と明里、競馬場へと急いでいる。
則義の声「最終レース。180万、全額を賭ける。4と12の馬連。一点買い…必ず俺は勝つ。20年振りにお前たちの顔を見て、もう終わりにしようと思えた。今日で全てを清算する。これまでの全てを…勝って、大金を手にし、お前たちに償いたい」  

○ 東京競馬場・スタンド
  沸き立つ大観衆。
  ファンファーレが響く。
  大一番のメインレース。
  史也と明里、やってくる。
明里「父を見つけて馬券をキャンセルさせなきゃ」
史也「もう間に合わない」
明里「そんな…」
  史也、床に落ちている競馬新聞を拾う。
  史也、指折り何か計算している。
明里「…お兄ちゃん?」
史也「…2億だ」
明里「え?」
史也「180万。4と12の馬連、当たれば2億だ…」
明里「…」

     ×    ×    ×

  コース場に競走馬。
  4と12の馬、鼻息ムンムン。
  清正と豪、眺めている。
  隣に則義。
清正「(馬を眺めて)おう。荒ぶってるなあ」
豪「やる気マンマンって感じっす」
清正「おい。カフェイン、ぶっこみ過ぎたんじゃねえか(と笑う)」
則義「…」

     ×    ×    ×

  どーんと場内がわく。
  ゲートから馬が一斉に飛び出し、レースが始まる。
  コース上、馬、走る。
  先頭は4と12の馬。
史也「4と12だ!」
明里「え?!」

     ×    ×    ×

  則義、固唾を呑んで見守っている。

     ×    ×    ×

  最終コーナー。
  依然として先頭は4と12の馬。
史也「(大興奮)」
  まさに4と12がワンツーフィニッシュしようかする瞬間…
  4の騎手、振り落とされて落馬する。
  無人でゴールする4の馬。
史也「…」

      ×    ×    ×

  則義、とっさに逃げる。
清正「(怒号)待てこらァ!」
  則義、逃げている。
  追う清正と豪。
  則義、通路の前に立つ史也と明里と鉢合わせになる。
  史也と則義、目が合う。
  則義、二人とすれ違う。
  則義の抱えていた明里のカバンが床に落ちる。

○ 同・外
  則義、停めてあった自転車をパクる。
  則義、自転車を漕いで逃げていく。
  清正と豪、黒塗りの車に急いで乗り込む。
  と後部座席にいる史也と明里の姿がバックミラーに映る。
清正「なんだてめーら!」
明里「私たちも追ってるんです!」
清正「ジャマだ! 降りろ!」
  窓の外、則義の姿が小さくなっていく。
豪「兄貴、急がないと!」
清正「(舌打ち)出せ」
  史也と明里を乗せたまま急発進する車。

○ 道
  則義、自転車を必死に漕いでいる。
  黒塗りの車、やってくる。
  車、自転車に幅寄せする。

○ 車内
  清正、窓から顔を出し、
清正「殺すぞコラっ!」
  豪、ハンドルを切ってさらに幅寄せ。
  窓の外、則義、今にも轢かれそう。
  史也、ぎゅっと拳を握る。
清正「逃げられっと思うな! もっと寄せろ!」
史也「(耐えかねて)や、やめろ!」
清正「あ?!」
史也「やめてください! 俺が、金なら俺が代わりに払いますから!」
明里「(慌てて)ちょっ…」
史也「父なんです! だから、借金なら俺が…」
  明里、史也の口を塞ぎ、
明里「(清正へ)何でもないです」
史也「っ何すんだ」
明里「お兄ちゃん、暑さで頭やられちゃったんだね」
史也「俺は正気だ」
明里「ううん。見て(と窓の外を見る)」
  必死に自転車を漕ぐ則義の姿。
明里「あれがうちらの父だよ。うちらはあいつのせいで苦しめられたんじゃん」
史也「違う」
明里「そうだよ。あいつがちゃんとしていればお兄ちゃんは私のために働くことも…」
史也「明里のためじゃない! お父さんのためだ!」
明里「…どういうこと?」
史也「…いい子してれば、お父さんが帰ってくると思ってたから。だからだよ。明里のことなんか、ハンバーガーのピクルスくらいにしか思ってない!」
明里「うそだ!」
豪「(怒鳴る)ごちゃごちゃうるせえぞ!」
明里「…うそだよ。寝言でいってたもん。私のために金は俺が何とかするって…心の底じゃお兄ちゃん、あいつのことなんか何とも思ってないんだよ」
史也「…あの時、ほんとはお父さんの正体に気づいてた」
明里「何いってるの?」
史也「だからわざと席を立った。明里の金を盗ってくれたらいいと願ってた」
  明里、史也をビンタする。
史也「…」
明里「(うつむく)」
  車、急ブレーキ。
  窓の外、乗り捨てられた自転車。
清正「土手に逃げやがった! 追うぞ!」

○ 多摩川・河川敷
  史也と明里、やってくる。
  清正と豪、則義をジリジリと追いつめている。
  則義の背後は川だ。
明里「あっ!」
  則義、川に足を踏み入れる。
  則義、対岸目指して逃げていく。
豪「てめえ、ふざけんじゃねえぞ!」
清正「追え!」
豪「無理っす! 自分泳げないっす!」
  則義、夢中で逃げる。
  則義、川の流れに足をとられ、ズボンがずり落ちていく。
  明里、思わず川の前へと飛び出す。
明里「待て! 逃げるな!」
史也「(則義の背中を見つめて)…」

○ 同(イメージ)
  黄金の馬に跨がった則義が川を渡っていく。

○ (戻って)同
史也「…」
明里「(則義へ叫ぶ)私、兄に愛されて育ちました!」
史也「…」
明里「だから、あんたなんかいなくてもこんなに立派に育った!」
則義「…」
明里「それに比べて兄はどう? ニートで、世間から冷たい目で見られてて、友達もいない。恋人もいない。お母さんからいつも煙たがられてる!」
史也「…」
明里「だけど兄をそんなふうにしたのは誰? 父親のあんたじゃない!」
則義「…」
明里「お母さんに毎日あんたのグチ聞かされて、妹の学費を稼ぐために働いて…お兄ちゃんはね、疲れたんだよ。あんたのせいでヘトヘトになっちゃったんだよ!」
則義「…」
明里「謝れ! お兄ちゃんに謝れ! うちらに謝れっ!!」
  則義、観念したように足をとめる。
  則義、ゆっくりと引き返す。
  史也、則義と目が合う。
清正「よおし! それでいい! 戻ってきやがれ!」
  史也、突然、駆け出す。
  史也、清正と豪の体へ突進する。
清正「何すんだっ!」
  史也、二人の体にしがみつく。
豪「離せ!」
  史也、なおもしがみつきながら、
史也「(叫ぶ)お父さーーーん!!」
則義「?!」
史也「走れっ! 最後まで走り切れ!!!」
則義「…」

○ 同(イメージ)
  川の真ん中で黄金の馬がいななく。
  則義が馬に跨がっている。
  不敵に笑う則義の横顔を光が照らして…
  黄金の馬は対岸のはるか先へと走り去っていく。
史也「(微笑む)」

○ (戻って)同
  則義、対岸へ着く。
  則義、ブリーフ一丁ですたこら逃げてゆく。
清正「追うぞ! 車出せ!」
  清正と豪、土手へあがっていく。
  史也、満足げに佇んでいる。
  明里、その場にへたれこむ。

○ 羽田空港・外観(夕)

○ 同・ターミナルビル
  史也と明里、座っている。
  史也、ハンバーガーを食べている。
史也「いやあ、ピクルスってうまいな」
  明里、ふさぎ込んでいる。
史也「(明里を見て)でも、まあ、30万は残念だったけど、カバンもスマホも無事戻ってきたし、よかったと思うよ」
明里「…」
史也「あー、帰ったら仕事探さなきゃ」
明里「…」
史也「いや、ほら、金稼いで来年は明里と東京見物しようかなと」
  明里、立ち上がる。
明里「じゃ、飛行機の時間だから」
史也「え」
明里「お兄ちゃんのチケットは買ってないから」
史也「え?」
  明里、一人歩き出す。
史也「え?!」
  明里、振り返り、うろたえている史也の姿を見て笑う。
明里「早くきなよ! おいてっちゃうよ!」
史也「(笑う)」

(おわり)

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