Spotlight 学園

新学期、高校二年生になった空良は唯一の親友である紗月と晴れて同じクラスになった。紗月は同じクラスの愛衣理と仲良くなり、空良と3人で行動を共にするようになるが、愛衣理が紗月を独り占めすることに空良は不安を覚え始める。
りこはち 22 0 0 07/16
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

○登場人物
村上空良 むらかみそら (16)
高校二年生
大山愛衣理 おおやまあいり (16)
高校二年生
藍川紗月 あいかわさつき (16)
高校二年生
星谷啓 ほ ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

○登場人物
村上空良 むらかみそら (16)
高校二年生
大山愛衣理 おおやまあいり (16)
高校二年生
藍川紗月 あいかわさつき (16)
高校二年生
星谷啓 ほしたにけい (16)
高校二年生
太田  おおた (38) 
2-3の担任の教師。
蘭 らん (16)
2-3のクラスメイト
希唯 きい (16)
2-3のクラスメイト
お母さん (46)
空良の母親
羽田 はだ(40) 
吹奏楽部の顧問。
部員A
男子生徒A
男子生徒B
男子生徒C
吹奏楽部部長
チア部部長
チア部副部長
先生A
生徒A
生徒B
店員

○銀の咲高校・2-3の教室
校庭の桜が散り始めているのを教室から座って眺めている空良(16)。
空良の席に紗月(16)が満面の笑みで近づく。
紗月「空良ー!」
空良に抱きつく紗月。
紗月「クラス一緒でよかったぁ。安心した」
空良は紗月の顔を見てくすっと笑って
空良「今年もよろしくね、紗月」
頷く紗月。
その時、太田(38)が教室に入ってくる。
一斉に席に着き始めるクラスの生徒たち。
紗月も自分の席へと戻る。
太田は生徒全員が席に着いたのを確認して
太田「3組の担任の太田です。去年1-2の担任してたから知ってると思いますが、1年間よろしくお願いします」
拍手が起こる教室内。
太田は教室の時計を見て
太田「始業式まで時間あるし、軽く自己紹介でもしてもらおうかな」
太田は教室を見回して一番廊下側の席の一番前にいる紗月に目線を送る。
太田「じゃあ藍川から」
紗月が席から立ち上がる。
紗月「えっと、藍川紗月です。バレー部入ってます。よろしくお願いします」
クラスの生徒たちが拍手をして、次の人へとまわっていく。
それをぼーっと見ては適当に拍手をする空良。
一番廊下側の列の最後の生徒が席に座り、次の列の紗月の隣の席にいる愛衣理(16)が立ち上がる。
愛衣理「大山愛衣理です。チア部に入ってて、趣味はダンスをすることです。よろしくお願いします」
愛衣理が席に着くと後方から話し声が空良の耳に入ってくる。
蘭「チア部で有名だよねあの子」」
希唯「かわいい」
拍手をしながら愛衣理を何気なく見る空良。
すぐに視線を変えて自己紹介しているクラスメイトを見始める。

○同日・同高校・空き教室
空良はお弁当箱を片づけて鞄から「定期演奏会課題曲」とかかれた楽譜を出す。
そこに啓がやってくる。
啓は空良を見て
啓「もう来てたんだ」
荷物と楽器を置く啓。
空良「早くHR終わったから」
啓は鞄からおにぎりを取り出して食べる。
啓「いいなー」
空良は淡々とした口調で
空良「啓って何組だったの?」
肩を落とす啓。
啓「1組。村上は?」
啓はまた一口おにぎりを頬張る。
空良はあっけらかんと
空良「3組。今年は離れたね、私達」
さらに落ち込む啓。
啓「中学から今までクラス一緒だったのにな」
黙々とおにぎりを食べ進めていく啓。
空良はホルンを取り出しながら、ぼーっと
空良「そういえばそうだったね。あ、紗月も同じクラスだよ」
啓、興味なさそうに
啓「ふーん」
教室の扉が開き、部員が何人か教室に入ってくる。
振り向く空良。
空良「おはよー」
啓も口にご飯を含みながらけだるそうに振り向く。
入ってきた部員たちが空良と啓の姿を捉えて手を振る。
部員A「おはよー」
教室の扉が閉まる。

○同日・空良の自宅・寝室(夜)
空良がベッドの上でスマートフォンをいじりながらごろごろしていると、お母さん(46)が部屋の扉を開けて入ってくる。
お母さん「お風呂そろそろ入って」
空良はベッドから起き上がって面倒臭そうに
空良「はい、はい」
お母さんは空良の顔色を見て、
お母さん「その調子からして紗月ちゃんとは同じクラスだったんだ?」
不意に顔がひきつる空良。
お母さんは哀れんだ瞳で
お母さん「昨日までずっと“離れたらどうしよ”ってぶつぶつ言ってたもんね」
空良は不機嫌そうに
空良「うるさいな。紗月以外にも部活の友達いるし、別に」
お母さんはきっぱりと
お母さん「いないでしょ。離れてたら絶対泣いてたよ」
空良は立ち上がってお母さんを追い出そうとする。
空良「もう早く出てって」
呆れながらお母さんは部屋を出ていく。

○翌日・同高校・2-3の教室
紗月と愛衣理がお互いの席に座って話している。
紗月の元へとやってくる空良。
空良「おはよ」
紗月は空良に気づいて
紗月「おはよ。ねぇ空良、聞いて。愛衣理ちゃんの元カレめっちゃイケメンなんだよ」
紗月は空良に愛衣理のスマートフォンを見せる。
画面には愛衣理と元カレの2ショットのプリクラが写っている。
空良は写真を見て
空良「確かに」
愛衣理は恥ずかしそうに
愛衣理「それ去年の話だし、もういいよ紗月」
空良は愛衣理の顔色を伺いながらスマートフォンを返す。
紗月と愛衣理の顔を見比べる空良。
空良「ところでいつのまに仲よくなったの?」
紗月は誇らしげに
紗月「だって隣同士だし。ね?」
目を合わせて微笑む紗月と愛衣理。
愛衣理は空良を見て
愛衣理「村上さん、だよね。私も空良って呼んでもいい?」
空良はそっけなく
空良「あ、うん。」
嬉しそうに笑う愛衣理。
愛衣理「愛衣理のことは愛衣理って呼んでいいから。そうだ」
愛衣理は持っていたスマートフォンからメッセージアプリを起動して
愛衣理「連絡先交換しよ」
空良はブレザーのポケットからスマートフォンを取り出して
空良「うん、いいよ」
すぐに愛衣理の連絡先が空良の元へと追加される。
画面を見ながら少し口角が上がる空良。

○同日・同高校・昇降口(夕方)
空良「お疲れー」
すれ違う部員に手を振る空良。
空良のスマートフォンの通知音が鳴る。
鞄からスマートフォンを取り出すと画面に紗月からグループメールの招待が来ている。
確認してみると愛衣理と紗月の2人の名前がある。
タップしてそのグループに参加する空良。
すぐに紗月から『空良きた』と返信がきた後、続いて愛衣理からも『空良ー』と返信がくる。
画面を見て嬉しくなりながら『今部活終わった』と返信する空良。
鞄にスマートフォンをしまい、靴を下駄箱から出して履くと軽やかな足取りで歩き始める。

○同日・電車内(夕方)
つり革に掴まって片手でスマートフォンをポケットにしまう愛衣理。
反対側のドア付近で男子高校生数人が愛衣理を見ながらひそひそと話している。
男子高校生A「声かけて来いよ」
男子高校生Bは照れくさそうに
男子高校生B「い、いいって」
男子高校生Cは不満げな顔で
男子高校生C「えぇ!なんで!?」
身を強張らせる愛衣理。
男子高校生を一瞥して、逃げるように恐る恐る男子高校生たちから距離をとる愛衣理。

○数日後・同高校・2-3の教室
紗月と愛衣理が自分の席に座っている。
空良は紗月の机に軽くもたれかかる。
紗月が空良と愛衣理にスマートフォンの画面を見せる。
紗月「ここめっちゃおいしそうじゃない?」
画面にはおしゃれなケーキ店のメニューが載っている。
興味津々な目で見る空良。
愛衣理は画像を見てぱっと明るい顔色になる。
愛衣理「あー!このお店、愛衣理も行きたいと思ってた」
紗月は嬉しそうに紗月の手首を掴んで振る。
紗月「うそー!じゃあ今度行こうよ。私、日曜なら部活休みだからさ」
紗月の腕をつかんで振る愛衣理。
愛衣理「うん。行こ行こ」
紗月は空良へと視線を移して
紗月「空良も行こうよ」
口ごもる空良。
空良はためらった口調で
空良「行きたいけど、土日は部活あるから。ごめん」
愛衣理は哀れんだ瞳で空良を見る。
愛衣理「そっか、吹部って忙しいもんね」
がっくりと肩を落とす紗月。
紗月「空良が遊べる日、すなわちそれテスト前だったわ」
空良は愛想笑いをして紗月と愛衣理の肩を軽く叩く。
空良「だから二人で行ってきなよ」
寂しそうな表情で頷く紗月。
紗月を宥める愛衣理。
その時、休み時間終了のチャイムが鳴る。
自分の席へと戻って空良、愛衣理を羨んだ目で見る。

○同日・同高校・音楽室(夕方)
カレンダーの4月29日に赤で丸がつけてある。
羽田「定期演奏会まで1ヶ月もう切ってます。来週には新入部員も入ってきますが気を引き締めてしっかりやること、いいね?」
吹奏楽部員一同「はい」
羽田(40)が教壇から降りると、吹奏楽部部長が前に出てきて
吹奏楽部部長「じゃあ連絡事項。えっと」
話し始める吹奏楽部部長をよそに空良は窓から愛衣理の姿を発見する。
ボンボンを持った部活仲間らしき何人かが愛衣理を取り囲んで歩いている。
羨んだ目でまた愛衣理を見る空良。
その空良の後ろ姿を気にしながら吹奏楽部部長の話を暫し聞いている啓。
吹奏楽部部長「以上です。じゃあ解散」
部員が立ち上がって片付けを始める。
席から立ち上がった空良に啓、
啓「知り合いでもいたの?さっきずっと窓の外見てたけど」
空良は不意をつかれた顔をして
空良「え?」
すぐに気をとりなおす空良。
空良「友達がいたから見てただけ。ほら、あそこの真ん中にいるポニーテールの子」
窓に近づいて空良が愛衣理を指で指す。
立ち上がって目を凝らして探す啓。
啓「遠くて分かんねぇ」
探すのを諦めてどこかほっとした様子の啓。
啓「まぁいいや。友達なら」
空良は窓枠に肘を乗せて黄昏ながら
空良「一体誰だと思ってたんだか」
啓は椅子を片付けながら冷たく笑う。
啓「そうだな」
空良は大きく伸びをして息をふっと吐いて片付け始める。

○同日・同高校・正門付近(夕方)
愛衣理と友人数人が歩いている。
友人Aは疲れきった様子で
友人A「練習疲れたー。アイス食べたーい」
友人B「分かるー」
愛衣理はぱっと明るい表情をして
愛衣理「じゃあ駅前でアイスクリーム食べてから帰んない?」
友人Aと友人Bは嬉しそうに愛衣理とハイタッチをする。
後ろにいる他の友人たちも話を聞いて嬉しそうにしている。
すると斜め後ろからチア部部長とチア部副部長の話し声に気づく。
チア部部長「今日の大山さぁ、また謎にコーチに褒められてたよね」
チア部副部長は嫌みな口調で
チア部部長「あのコーチ大山贔屓だよね。なんでみんなあいつ好きなわけ?」
愛衣理の姿を捉えるチア部部長とチア部副部長。
チア部部長「やば。聞こえてた?」
チア部副部長は嘲りながらわざとらしい口調で
チア部副部長「やめなよー。可哀想じゃん。」
お互いを見合って笑うチア部部長とチア部副部長。
無表情の愛衣理、さっぱりとした口調で
愛衣理「行こ」
困惑しつつも頷く友人Aと友人B。

○同日・同高校・15分後・駐輪場(夕方)
自転車の鍵を外す紗月。
向かいから啓が歩いている。
紗月は手を降って
紗月「啓」
目を凝らして紗月だと気づいて手を振り返す啓。
紗月は自転車を啓のクラスの2-1の駐輪場場所まで押していく。
啓は小走りで2-1の駐輪場まで向かう。
啓「今帰り?」
自転車を止める紗月。
紗月「うん。あれ、空良と一緒じゃないの?」
啓は鞄から自転車の鍵を出しながら
啓「トイレ行くって言って分かれた」
紗月はあっさりとした口調で
紗月「そっか」
嬉しそうな顔をして紗月、
紗月「てか久々じゃない?今年はクラス違うもんね」
啓は自分の自転車を見つけて鍵を持ったままサドルに浅く腰かける。
啓「そうだな。そういえば聞いたよ、藍川も3組なんだってな」
誇らしげな表情をする紗月。
紗月「空良と同じクラスで羨ましいでしょ」
ふてくされた表情の啓。
啓「別に」
紗月は啓の表情を見てにやっとして
紗月「いい加減告白しちゃえばいいのに。好きなんでしょ」
啓に一歩近づく紗月。
啓は目線を紗月から剃らす。
ほくそ笑んで啓の様子を楽しんでいる紗月。
紗月「これでも私、心配してるんだよ?かわいい啓を想って」
啓は冷めきった口調で
啓「藍川、お前すぐそうやって嘘つくよな」
呆れた様子でサドルから降りて自転車の鍵を外していく啓。
啓「じゃあな」
自転車をこいで行ってしまう啓。
いじけながら紗月も自転車をこぎ出す。

○数日後・同高校・2-3の教室
太田「GW明けにすぐ横浜で校外学習あるから、今から班分けして貰います。4~7人以内にまとまってくれるといいかな。じゃ、始め」
紗月と愛衣理が空良の元へと近づく。
空良へと手を振る愛衣理。
紗月「ねぇ、一緒の班になろうよ」
空良は愛衣理と紗月を見て
空良「うん」
紗月と愛衣理の後ろから蘭と希唯が姿を覗かす。
蘭「私たちも混ぜてもらっていい?」
希唯「人数足りなくて」
紗月と愛衣理が振り替える。
紗月「いいよ。私たちも人数足りてないから」
喜ぶ蘭と希唯。
太田「決まったとこからプリント取りに来て。ガイドブックも渡します」
空良が立ち上がり、
空良「あ、私行く」
プリントをもらいに行く空良。
その間に空良の机と近い机をくっつけて席につく4人。
空良がプリントをもって戻ってきて席につく。
プリントの班員の名前記入欄には「リーダー」の欄がある。
紗月はにやついた顔で
紗月「リーダーは愛衣理でしょ」
愛衣理は遠慮がちに身を引いて
愛衣理「紗月やりなよ。愛衣理全っ然向いてないから、そういうの」
空良はシャープペンシルを持ったまま愛衣理を一瞥する。
蘭「愛衣理ちゃんなら大丈夫だよ。ね?」
希唯に視線を向ける蘭。
希唯「うんうん」
愛衣理は震える声で
愛衣理「やめてって、本当に」
俯いて困り果てる愛衣理。
空良は愛衣理の様子を見かねて
空良「じゃあ私やろっかな」
驚く紗月と蘭と希唯。
突然軽く拍手する紗月。
紗月「リーダー決定!」
戸惑いながらも紗月につられて拍手をする蘭と希唯。
空良はプリントに自分の名前を書き始める。
空良を窺うように見ている愛衣理。
紗月はガイドブックを何枚かめくってテーブルの真ん中に広げる。
紗月「あ、こことかいいんじゃない?」
紗月が指を指した場所に蘭や希唯が反応する。
愛衣理は空良を恐る恐る見て
愛衣理「よかったの?」
空良はシャープペンシルを置いてあっけらかんと
空良「だってやりたくなかったんでしょ?」
愛衣理は口をつぐんで頷く。
空良は席から立ち上がってプリントを紗月に渡す。
空良「ここに自分の名前かいて。2人にもまわしといてね」
受けとる紗月。
紗月「OK」
空良は座り直して羨ましそうに愛衣理の顔を見る。
空良「いいなぁ、愛衣理は。いつもみんなの注目の的で」
呆れた顔で笑う愛衣理。
空良「私、自分から挙手しないとリーダー任したいなんてならないよ」
愛衣理は冷たい視線を空良に向ける。
愛衣理「そうかな」
愛衣理の表情に顔が強ばる空良。
愛衣理「恨まれることだって多いよ」
空良は戸惑いながら愛想笑いをして
空良「そんなことないって」
愛衣理は小さくため息をつく。
愛衣理、突き放した口調で
愛衣理「もういいよ。やめよ、この話」
空良は苦笑いをしながら
空良「そうだね。それより行く場所決めよっか」
ガイドブックを手にとって眺め始める空良。
心配そうに空良と愛衣理を窺っている紗月。

○同日・同高校・音楽室(夕方)
吹奏楽部の生徒が羽田の指揮に合わせて演奏している。
空良は昼間の愛衣理との会話のやりとりを頭に浮かべながらホルンを吹いている。
羽田は曲の途中で指揮をする手を止めて、空良を指差し
羽田「ちょっとそこのさっきからバカでかい音で吹いてるホルン」
体を強ばらせて反応する空良。
空良「はい」
羽田は鋭い目つきで
羽田「今は全員で合わせる練習なんだから他の音の邪魔しないで。定期演奏会も近いのに今からそんなのでどうするの」
部員からの視線が空良に突き刺さる。
うつむいて気を落とす空良。
空良「すいません」
羽田は空良から教室全体へと視線を戻す。
羽田「じゃ、もう一回頭から行きます」
ホルンを構えながら空良をちらっと横目に見る啓。
深呼吸をして落ち着こうとしている空良。

○2日後・A駅周辺のカフェ店内
紗月の目の前にチーズケーキ、愛衣理の前にフルーツタルトがある。
紗月と愛衣理は互いのスマートフォンで2ショットを撮る。
目を輝かせて食べ始める紗月と愛衣理。
紗月がアイスコーヒーを飲んで複雑そうに
紗月「本当に空良誘わないで来ちゃってよかったのかな。ほら、前に話した時すごい来たがってたじゃん」
愛衣理はすねた様子。
愛衣理「うちらで行っていいっていってたのに別に気にすることなくない?」
紗月は口をすぼめながら
紗月「そうだけど・・てか愛衣理、この前空良と何話してたの?」
愛衣理は普段通りの笑顔に戻って
愛衣理「え?何?突然」
愛衣理の表情を見て紗月、取り繕った笑顔で
紗月「ううん。やっぱ何でもない」
きょとんとした顔をする愛衣理。
紗月は懐かしそうな目をして
紗月「そういえば空良とはさ、1年の時にも同じクラスだったんだけど空良って一月くらいずっと誰とも話してなかったんだよね」

○1年前・同高校・1-2の教室(回想)
黒板の前に何人かの生徒が英語の問題の答えをかいている。
その中でチョークをもって手が動けずにいる空良。
隣でその様子を見ている紗月は空良の肩を軽く叩く。
怖れおののきながら紗月を見る空良。
紗月は手に持っているノートを見せて小声で
紗月「いいよ、私の答え見て」
目を見開く空良。
空良「え、でも」
紗月はノートを強引に空良に渡して席に戻る。
空良は周りを気にしながらノートの答えをかき写していく。
かき終わって席に座っている紗月にこっそりとノートを返して恥ずかしそうに
空良「ありがとう」
席へと戻る空良。
くすっと微笑む紗月。

○現在・A駅周辺のカフェ店内
愛衣理はフルーツタルトを口に頬張って聞いている。
紗月「あれから1年経ったんだなぁ」
紗月が愛衣理を見る。
紗月「だから愛衣理が空良と友達になってくれて私嬉しいよ」
間を置いて愛衣理、明るく
愛衣理「そう?」
紗月は口元を拭いて、
紗月「あ、そうだ。さっき撮った写真送るね」
紗月がスマートフォンを出して間違って空良とのトーク画面に画像を送る。
愛衣理は食べながら
愛衣理「うん、後で見とく」

○同日・1時間後・空良の自宅の寝室(夕方)
空良は部屋に学校の鞄を置いてスマートフォンを取り出す。
画面を開くと、紗月から愛衣理と一緒に出かけた写真が送られてきている。
それを見て呆然とする空良。
空良が写真をアップにして確認し終わるのとほぼ同時に写真がトーク画面から消される。

○数日後・定期演奏会当日・市民ホール
会場の前には「銀の咲高校吹奏楽部 定期演奏会」とかいたポスターが貼ってある。

○同日・同ホール・ステージ
吹奏楽部員がステージに出てくる。
羽田がお辞儀をして指揮をとる構えをする。
吹奏楽部員によって演奏が始まる。
空良と啓は一生懸命にホルンを吹いている。
演奏しながら、スマートフォンのカメラを向けている客席が視界に入る空良。
ふと脳裏に紗月から誤送信されてきた愛衣理との写真のことが思い出される。

○同日・同ホール内の楽屋スペース
部員たちは片付けをしたり、くつろいだりしている。
空良は浮かない表情で椅子に力なくもたれている。
啓はペットボトルのお茶を空良に差し出し、
啓「そこの自販機で買ってきた。いる?」
お茶を受けとる空良。
空良「ありがと」
お茶を飲み干していく空良を見ながら啓、
啓「お前、1曲目ちょっと音走ってたぞ。緊張してた?」
空良はペットボトルの蓋を閉め、落ち込んだ様子で手で顔を伏せる。
空良「どうしよう、後でまたこの前みたいに怒られる」
うずくまって大きくため息をつく空良。
吹奏楽部部長「そろそろバスに移動するよー」
吹奏楽部部長の声を聞いて空良の背中を優しく叩く啓。
啓「ほら、行くぞ」
重々しく楽器ケースをもって立ち上がる空良。

○一週間後・横浜中華街
左右にはお土産屋や料理店が並んでいる。
愛衣理は肉まんのお店を指差し
愛衣理「あれ、おいしそうー」
紗月、愛衣理の指差ししたお店を見るとすぐに目を輝かす。
紗月「ほんとだー!おいしそう」
店へと駆け出す愛衣理と紗月。
愛衣理と紗月は店の前でメニューの看板を見ながら悩んでいる。
蘭と希唯は小籠包の店の前で買おうか迷っている。
両者の様子を見ているうちに愛衣理と紗月の姿が見当たらなくなる。
周りをきょろきょろと見回して愛衣理と紗月を探す空良。
スマートフォンを取り出し、愛衣理にも紗月にも電話をかけるが繋がらない。
空良は小籠包を片手にもった蘭と希唯に向かって
空良「ごめん、愛衣理と紗月探してくる」
呆然とする蘭と希唯。
スマートフォンを取り出してグループメールにメッセージを打つと、そのまま走り去っていく空良。

○同日・横浜中華街付近
しばらく辺りを小走りしながら空良は愛衣理と紗月を探す。
周りには同じ制服を着た他の生徒たちが楽しそうに写真を撮ったり、お店を見ている。
すると少し離れたところに愛衣理と紗月の姿を発見する空良。
愛衣理と紗月はアクセサリー店でお互いにアクセサリーを合わせて微笑みあっている。
それを見て、愕然とする空良。
ちょうど店から会計を済まして出てきた紗月が空良に気づく。
空良の元へと駆け寄ってくる紗月。
紗月「ごめーん」
紗月は辺りを見回して
紗月「蘭ちゃんたちは一緒じゃないの?」
空良ははっとしてスマートフォンを取り出してグループメールで蘭と希唯へ連絡する。
空良はスマートフォンの画面を見たまま、
空良「今連絡したからすぐくると思う」
スマートフォンを鞄にしまう空良。
安堵する紗月。
店から出てきた愛衣理がそこへ合流する。
愛衣理は空良を見て
愛衣理「ごめんね。愛衣理のせいだよね」
空良は目線を剃らしながら苦々しい表情で
空良「あっ、いや、えっと」
愛衣理は紗月が今買った手に提げている袋を見て
愛衣理「最後に見てたあれ、結局買ったの?」
紗月は含んだ笑みを浮かべて
紗月「まぁ、買っちゃったよねぇ」
大きく笑う愛衣理。
愛衣理「何その顔~!」
紗月と愛衣理が大きい声で笑い合う。
その姿を曇った表情で見つめる空良。
紗月が空良へと視線を向けると、曇った表情のままでいる空良に気づく。
紗月「どうしたの?」
心配した瞳で空良の肩に触れる紗月。
愛衣理、空良と紗月の様子に気づいて二人を交互に見る。
空良、肩にのった紗月の手をそっとどける。
目を見張る紗月。
空良は辛そうに眉を眉間によせて
空良「ごめん。私、二人と一緒にいるのつらい」
困惑する紗月と愛衣理。
空良は悲しげに
空良「だって二人でいるほうが楽しそうじゃん、紗月も愛衣理も」
動揺しながら紗月、
紗月「そんなことないって」
不安げに愛衣理に視線を向ける紗月。
空良は俯いて落ち込んだ様子で
空良「この前二人で遊びに行ってたのだって、紗月の誤送信なかったら私一切知らないままだった。今日だって勝手にはぐれるし、寂しいよ」
愛衣理は冷たく空良を見据えて
愛衣理「なんでいちいち空良に知らせる必要があるの?」
怪訝な顔つきになる空良。
紗月は愛衣理を静止させようと肩をゆする。
愛衣理は紗月を気にもせず
愛衣理「遊びに行ったあのお店、空良は私達で行ってきなよっていったよね」
険しい表情になる空良。
愛衣理は勢いづいた口調で
愛衣理「今だってはぐれたのは悪かったけど、そしたら蘭ちゃんたちと一緒にいればよかったじゃん。何なの」
蘭と希唯が空良たちの元へと駆け寄ってくる。
蘭「よかったー、合流できて」
希唯は空良たちの様子を窺って戸惑っている。
愛衣理は紗月の手を引っ張って
愛衣理「時間になったらチェックポイントの場所には行くから」
愛衣理と紗月が背を向けて空良から離れていく。
混乱する蘭と希唯。
空良は蘭と希唯に気づいて
空良「二人ともごめんね。行こっか」
戸惑ったままの蘭と希唯。

○同日・横浜・山下公園
蘭と希唯と空良がベンチに腰をかける。
蘭は苦しそうにお腹を触っている。
それを見て笑う希唯。
希唯「食べすぎなんだよ、蘭は。もうこれで私まで太ったら蘭のせいにしてやる」
不服そうに口元をとがらせる蘭。
希唯は体を空良に向けて
蘭「空良ちゃんは大丈夫?」
空良は穏やかな口調で
空良「うん、平気」
蘭は空を仰ぎながら
蘭「それにしても愛衣理ちゃんってあんな怖い顔するんだね。びっくりしちゃった」
希唯は突然神妙な顔つきで
希唯「そういえば知ってる?愛衣理ちゃんって中学の時に女子から結構嫌われてたらしいよ」
目を見開く空良。
蘭は後頭部に腕を組んでけだるそうに
蘭「そっかー。私、実は前に愛衣理ちゃんが先輩に絡まれてるとこ見たことあるんだよね」
希唯は蘭に体を近づけて
希唯「えっ、マジ?」

○2ヶ月前・同高校・体育館(回想)
半面コートでバスケ部とチア部がそれぞれ練習をしている。
コートからチア部の場所へとボールが転がる。
蘭がボールをとりに行くとチア部部長が愛衣理と話している。
チア部部長「大山さん、ちゃんとやってる?」
愛衣理は真剣な顔つきで
愛衣理「やってます、もちろん」
チア部部長、にやっと笑ってから優しい口調で
チア部部長「じゃあ今の半分くらいの力でやろっか」
唖然とする愛衣理。
愛衣理「え?なんでですか」
チア部部長は体育館にやって来たコーチを横目に確認し、じっと愛衣理の瞳を見る。
チア部部長「あんたは目立つ必要ないから」
部員の元へと合流するチア部部長。
愛衣理も遅れて合流する。
チア部副部長が愛衣理の沈んだ表情を見てにやにやと笑っている。
ボールを拾い上げて戻りながら動揺する蘭。

○現在・横浜・山下公園
蘭はもたれてた上体を起こす。
蘭「最近は見てないけど、多分今も絡まれてるんじゃないかな」
希唯は憐れんだ瞳を浮かべて
希唯「やっぱりかわいい子って恨まれやすいんだね。うちのテニス部のほうが全然平和だよそれ」
蘭は空良を見てはっとして
蘭「あっ、ごめんね。こんな話して」
空良は上の空になりながら
空良「ううん」
希唯はベンチから思い切り立ち上がって
希唯「じゃ、行きますか!」
蘭と空良も立ち上がる。

○同日・横浜駅周辺
太田が名簿をチェックして空良たちの班を見る。
太田「はい。じゃあ気をつけて帰ってね」
蘭は太田に手を振る。
蘭「じゃあね、先生」
二人並んで改札へと向かう蘭と希唯。
愛衣理は紗月に肩を組んで蘭と希唯の後ろを並んで歩いていく。
紗月、後ろを振り返って一人歩いている空良を切ない表情で見る。
通りすがる人とぶつかって空良から目を離すと、人混みにまぎれて空良を見失う紗月。

○翌日・同高校・2-1の教室
啓はぼーっとしながら窓辺を見て授業を受けている。
その時、空良が駐輪場から昇降口へと歩いているところを見て一気に目が覚める啓。

○同日・同高校・2-3の教室
空良が後ろのドアから教室に入ると、先生Aが呆れた顔で
先生A「今もう2時間目だぞ」
空良が席に着いて先生Aを見る。
空良「すいません。寝坊しました」
先生Aは名簿にチェックを入れて授業を再開し始める。
空良を心配そうに見る紗月。
黒板にかいてある歴史人物の名前や出来事の名前を急いでノートに書き写す空良。
愛衣理は空良に目もくれず、頬杖をついている。

○同日・同高校・屋上に向かう階段
空良は座って一人でお弁当を食べ終えて、片付けると階段を降り始める。
空良が階段を降りきって下の階へと行こうとすると蘭と希唯に遭遇する。
蘭「あ、空良ちゃん。ちょうどよかった」
は制服のポケットから小さな袋を取り出して空良に渡す。
蘭「これ、紗月ちゃんから。今朝渡された」
驚く空良。
恐る恐る袋を受けとる空良。
空良「ありがとう」
蘭は希唯を目で促す。
蘭「希唯、行こ。早く返しにいかないと間に合わないよ」
希唯は手に抱えている教科書を持ったまま空良に手を振る。
希唯「じゃあね」
空良も控えめに手を振り返す。
蘭と希唯が去って袋をそっと開ける空良。
中にはブレスレットと小さなメモ用紙1枚が入っている。
メモには『昨日はごめんね。実は昨日見てたアクセサリーのお店で空良に買ってたのがあったんだけど、渡せなかったから入れておくね。紗月』とかいてある。
しばらく呆然としてから制服のポケットに押し込んで階段を降りていく空良。

○同日・同高校・昇降口(夕方)
啓が外を見ると雨が降っている。
啓「うわ、マジか。傘持ってねぇのに」
空良も外を見る。
啓はがくっと肩を落とす。
それを見て空良、
空良「駅まで傘入ってく?」
きょとんとした顔の啓。

○同日・同高校から銀の咲駅までの道(夕方)
空良が傘をもって自転車を押している啓を傘に入れて歩いている。
空良は雨の降り方を見て
空良「啓も自転車置いてくればよかったのに。結構降ってるよ」
空良との距離に視線をきょろきょろ動かして落ち着かない様子の啓。
啓「朝チャリじゃないと絶対遅刻するから、俺。駅で傘買って帰るよ」
啓は突然思い出した表情で
啓「あ!そういえば今朝、お前遅刻してた?教室から村上っぽいの見たんだけど」
もやっとした表情になる空良、少し沈黙してから泣き出す。
戸惑う啓。
啓「え?なんで?」
空良は涙を手で拭いながら
空良「どうしよう。私、どうすればいい?」
啓はすっきりしない顔で
啓「どういうこと?」

○同日・数分後・駅前付近(夕方)
空良「それで喧嘩しちゃって・・」
啓は突然気が抜けて大きく息を吐いて
啓「藍川が謝ってきてるんなら大丈夫だって。その愛衣理って人とも藍川が何とかしてくれるよ」
自信なく落ち込む空良。
空良「でも突き放したの私だし、どんな顔して謝ればいいの」
唇を噛む空良。
空良「こんな面倒な人になってる自分が嫌だよ」
啓は慎重に口を開く。
啓「村上だけじゃないよ」
啓を一瞥する空良。
啓「俺だってそういう時ある」
啓は自分の肩と触れあいそうになってる空良の肩を見てから空良の瞳を見据える。
啓「村上と一緒にいる時は俺もそうだから」
涙で潤んだ瞳で啓を見る空良。
空良「え?」
啓は恥ずかしくなって頭を抱える。
啓「あぁもう、そんな顔されると困る。俺どうしたらいいんだよ」
空良は口をぽかんと開けている。
啓は勢いのある口調で
啓「とりあえずもっと自信もて!」
曇った表情で空良、
空良「うん」
駅前へと着く啓と空良。
駅前には雨宿りをしている人が何人かいる。
啓は駅前のコンビニから見える残り少ないビニール傘を見る。
空良の傘から抜けて、啓
啓「ありがと、入れてくれて。じゃあな」
コンビニへと駆け出す啓。
啓の後ろ姿をぼーっと見る空良。
傘を閉じて改札へと入る。

○同日・空良の自宅の寝室(夜)
ポケットから紗月に貰ったブレスレットの袋を出して制服を脱ぐ空良。
着替えながら机の上に置いたブレスレットが気になり、着替え終わってつけてみる。
思わず明るい笑顔になる空良。
鞄からスマートフォンを出し、紗月とのトーク画面を慎重に開いてみる。
『昨日はごめん。ブレスレットありがとう。』とメッセージを入力して送信をタップしようとするも一度躊躇する空良。
腕に光るブレスレットを見て、目を細めながら勢いよくタップする。
すぐに紗月から『どういたしまして』と返信が来る。
続けて『1限の英語、ノートとってないでしょ。写真で送ろうか?』とメッセージが来ると、はっとする空良。
慌てて空良、『忘れてた。写真お願いします』とメッセージを送る。
自然と表情が柔らかくなっていく空良。

○2年前・愛衣理が通う中学校・教室(回想)
生徒Aと生徒Bに取り囲まれる愛衣理。
生徒A「愛衣理、私の彼氏に色目使うのやめてよね」
愛衣理は唇を震わせている。
愛衣理「色目?ただ普通に話してただけだよ」
生徒Bはからかった目で愛衣理を見る。
生徒B「えー?ちやほやされてスポットライト浴びないと本当は気が済まないんじゃないの?」
そこにチア部部長とチア部副部長が突然現れる。
チア部部長「あんたは目立つ必要ないから」
にやりと笑うチア部副部長。

○翌日・電車内(回想終わり)
席に座っている愛衣理がはっとして目を覚ます。
その時、電車の扉から人がたくさん乗り込んでくる。
辺りを見回してふっと一息つく。

○翌日・同高校・2-3の教室
教室へと入ると、空良と紗月が楽しそうに話しているのを目撃する愛衣理。
愛衣理、怒った表情で紗月に近づく。
愛衣理「紗月」
愛衣理に怖じ気づく紗月。
紗月「・・愛衣理」
紗月を睨む愛衣理。
愛衣理「ひどくない?黙って仲直りしてたんだ?」
不安そうに紗月を見る空良。
黙り込む紗月。
空良は愛衣理へと近づき
空良「愛衣理、この前はごめん。私・・」
空良が言い終える前に愛衣理は空良と紗月を見て、冷ややかに
愛衣理「結局、愛衣理が邪魔者だったってことでしょ。そうなんでしょ」
紗月はゆっくりと口を開く。
紗月「違うよ。結果的に仲直りできただけで、私はとにかくどうあっても空良の味方だってことを伝えたかっただけなの」
紗月を驚いた表情で見つめる空良。
愛衣理、悲しげな顔をして
愛衣理「言い訳なんて聞きたくない。・・バイバイ」
自分の席へと向かう愛衣理。
愛衣理を追いかけようとする空良。
空良「愛衣理!」
その時予鈴が鳴る。
空良と愛衣理を見ていたたまれないまま紗月、静かに席へと戻る。
仕方なく席へと着く空良。

○同日・同高校・女子トイレ
紗月が洗面台で手を洗っている。
愛衣理の声「言い訳なんて聞きたくない・・バイバイ」
大きく肩を落としてため息をつく紗月。
その時、蘭がトイレから出てくる。
蘭「あぁ、紗月ちゃん」
紗月の隣の洗面台で手を洗って髪の毛を直し始める蘭。
紗月は蘭の顔を見てはっとして
紗月「そういえば昨日はありがとう」
蘭は前髪を気にしながらさっぱりと
蘭「あぁー!全然。朝見たら空良ちゃんと話してて、私もほっとしたよ」
蘭は鏡に写る自分を見て満足げな表情。
浮かない顔で紗月がトイレを出ていく。
続いて、蘭も出ていく。

○同日・同高校・2-3の教室
紗月が先に教室へと戻ると、希唯と空良が話している。
紗月の後ろから前を通って蘭が空良と希唯の元へと行く。
蘭「希唯、何してんのー?」
愛衣理の席に一度目を向けてから空良の元へと行く紗月。
希唯が必死な顔で空良の数学のノートを写して書いている。
希唯「はぁー、間に合うかなぁ」
蘭は呆れながら
蘭「当てられてたの忘れてたなんて、もう。ごめんね空良ちゃん」
少し照れる空良。
空良「私も今日指名される日だったから」
紗月は空良の隣に立ってノートを覗きこんで明るく
紗月「空良、人気者だねぇ」
気恥ずかしくなる空良。
その時、愛衣理が教室に戻ってくる。
愛衣理に気づく空良と紗月。
空良と紗月、目を合わせてお互いに複雑な表情になる。

○同日・同高校・空き教室(夕方)
空良がグミをいくつか啓の手のひらにのせる。
啓は席に座って、立っている空良を見上げて、
啓「何これ?」
空良は啓にグミの袋を見せる。
空良「友達に貰ったの。ちょっと数学のノート貸したから。昨日話聞いてくれたお礼にどうぞ」
気恥ずかしくなりながら受けとって食べる啓。
啓「それで仲直りしたの?」
席に腰かける空良。
空良「紗月とは、うん」
空良、ホルンを吹き始める。
教室に空良の綺麗なホルンの音色が響く。
その音色を気持ちよさそうに目を閉じて聴く啓。
空良が演奏し終わると、啓が優しい瞳で
啓「好きだ、空良」
表情が固まる空良。
啓はたどたどしく
啓「何いってんだって自分でも思うけど、俺は昔からお前が好きでどうしようもない人間なんだ」
戸惑って言葉が出ない空良を見て啓、明るく
啓「あー、返事は別に今しなくてもいいから。」
空良はしどろもどろに
空良「う、うん」
啓はうろたえながら笑って、空良のホルンを見て
啓「音、変わったな」
空良、啓をちらちらと見て
空良「啓もそう思う?私も自分で気になってたんだよね。定期演奏会終わってからあんまり吹いてなかったからかな」
啓は自分のホルンを見て触りながら
啓「逆にそれが余計なもん取っ払ってくれたとか?」
空良は首を傾げる。
空良「そうなのかなぁ」
啓は席から立ち上がって
啓「グミで口の中甘ったるいから自販でちょっと飲み物買ってくる」
空良は楽譜を並べながら淡々と
空良「いってらっしゃーい」
練習を再開する空良。
啓、教室を出る。

○同日・同高校・廊下
空き教室から少し歩いて廊下の壁に片手をつく啓。
そのまま尻込みをして、頭を抱える。
啓「何やってんだ!俺」
深く深呼吸して気分を落ち着ける啓。

○翌日・愛衣理の自宅マンションの寝室
愛衣理、目を覚ましてスマートフォンで時計を見る。
時計は8時を表示している。
通知画面にママ(45)からメッセージがきている。
メッセージには『ぐずってたから起こさなかったよ。今日は帰り遅くなりそうだから、夕飯適当に食べてて。誕生日なのにごめんね。ケーキは買ってくるから』
スマートフォンを置いて布団にうずくまる愛衣理。

○同日・同高校・2-3の教室
太田が教室を見渡す。
太田「えーっと、欠席は」
空席の愛衣理の席を見て太田が出席簿の「大山愛衣理」の欄に印をつける。
愛衣理の席を横目で心配そうに見つめる紗月。
空良は太田の目を盗んで、鞄からスマートフォンを出して通知画面を見る。
何も表示されない画面を見て虚しくスマートフォンをしまう空良。

○同日・愛衣理の自宅マンション・寝室
寝転がって天井を見つめながらぼーっとしているとお腹が鳴る愛衣理。
スマートフォンで時間を確認すると時刻は9時を表示している。
寝転がった体勢でスマートフォンを机に置こうとすると、間違って落としてしまう。
苛立ちながら起き上がって立ってスマートフォンを拾って机に置く。
机の上に置いていた紗月と一緒の時に買ったブレスレットが目についてブレスレットを手に取る。
紗月と空良のことを思い出す愛衣理。
紗月の声「だから愛衣理が空良と友達になってくれて私嬉しいよ」
空良の声「いいなぁ、愛衣理は。いつもみんなの注目の的で」
虚しく笑う愛衣理。
愛衣理の目が次第に涙目になる。
ブレスレットを引き出しにしまい、部屋を出る愛衣理。

○同日・同高校・空き教室(夕方)
啓が楽器を持って教室へと入ると、他の部員が座って個人練習をしている。
啓は辺りを見回して空良を探すが見当たらない。
首を傾げながら椅子に座る啓。
部員Aが啓に気づいて
部員A「村上さんなら今日部活休むって。音楽室行ったら部長がいってた」
驚く啓。

○同日・愛衣理の自宅マンション・ロータリー(夕方)
空良がインターホンの前に立って手を震わせている。
紗月、弱々しく
紗月「やっぱりやめたほうが」
空良は唾をぐっと飲み込みインターホンを押す。
インターホンが鳴って、
愛衣理「はい」
空良は慎重に口を開いて
空良「私、同じクラスの村上です。愛衣理ちゃんはいらっしゃいますか」
無言になる愛衣理。
紗月、インターホンに近づいて
紗月「もしかして愛衣理なの?」
空良、はきはきとした口調で
空良「紗月も今来てるの。プリント持ってきたんだ。それと今日、誕生日でしょ?
愛衣理、思わず声を出して驚く。
愛衣理「えっ」
空良は真剣な表情で
空良「ケーキ買ってきたの。渡したらすぐ帰るから受け取ってくれないかな」
インターホンが切れて、ドアがゆっくりと開く。
愛衣理の顔を見て安堵の表情の空良と紗月。
空良は手に持っているプリントを入れたクリアファイルをまず渡す。
クリアファイルを困惑しながら受けとる愛衣理。
空良は愛衣理の様子を窺いながら
空良「ごめん、突然押し掛けて。先生に住所聞いて来た」
紗月がケーキの入った箱を愛衣理に手渡す。
紗月「これ誕生日おめでとう」
空良「おめでとう、愛衣理」
むくれた顔で受けとる愛衣理。
愛衣理「・・なんで今日が誕生日って」
紗月は愛衣理を上目遣いにちらちら見ながら
紗月「ブレスレット一緒に買った時、5月の誕生石の買ってたじゃん。その時に今日が誕生日だっていってたから」
愛衣理はブレスレットを思い出して、ぽつりと
愛衣理「憶えてたんだ」
頷く紗月。
空良は愛衣理に寂しそうに手を振って
空良「じゃあ、ね」
紗月も手を振る。
紗月は空良を目で促し、二人はその場を立ち去る。
空良と紗月の背中をもどかしく見つめる愛衣理。

○同日・愛衣理の自宅マンション・リビング
ドアを閉めてダイニングテーブルにケーキの箱とプリントを置く愛衣理。
ケーキの箱を開けて中身を見ると、いちごのタルトが入っている。
プレートには『HAPPY BIRTHDAY』とかいてある。
思わず笑みがこぼれる愛衣理。
フォークを取りにいって、席についてタルトを食べ始める。
愛衣理、味わいながら
愛衣理「・・おいしい」
半分ほど食べきったところで手を止めて、クリアファイルに入っている授業のプリントをまとめて出して確認していく。
英語や数学のプリントを眺め、タルトを見遣り空良と紗月の顔が頭に浮かぶ愛衣理。

○同日・愛衣理の自宅マンション前(夕方)
空良と紗月が歩いている。
空良、優しい口調で
空良「紗月のいった通り、ケーキ買っていってよかったかも」
紗月は照れくさそうに
紗月「えぇ?そう?」
微笑んで頷く空良。
空良、夕暮れの眩しさを手で遮りながら
空良「ていうかこんな時間に帰るの久しぶりだなー」
紗月は心配そうな表情で
紗月「誘っておいて今更だけど、部活休んじゃって大丈夫だったの?」
空良はあっけらかんと
空良「平気だよ。何かあれば啓に聞けばいいし」
突然はっとして空良は啓が告白してきたことを思い出す。
紗月が怪訝な表情で空良を見る。
紗月「どうしたの?」
慌てて首を振る空良。
空良「ううん。何でもない」

○同日・同高校・音楽室(夕方)
部員が続々と帰っていき、人がまばらになる音楽室。
その中で啓は窓際でスマートフォンを睨みながら空良へのメッセージをかいては消してを繰り返している。
啓「ああぁ、何かいても嫌われそう」
疲れた顔で脱力する啓。
吹奏楽部長が啓に近づいて
吹奏楽部長「星谷くんまだ残ってたの?早くしないと鍵閉めるよ」
啓は渋々鞄を持って
啓「帰りますよ」
吹奏楽部長がにやっとする。
吹奏楽部長「そういえば、村上さんに告白したんだって?噂になってたよ、今日」
啓は嫌そうに顔を歪ませる。
啓「やめて下さい。ったく誰が広めてんだよ」
吹奏楽部長は陽気に鍵をくるくる回しながら
吹奏楽部長「明日が楽しみだね~」
早歩きで音楽室を去る啓。

○翌日・同高校・校門付近
空良が自転車をこいでいると、校門をくぐる生徒の中に愛衣理の姿。
自転車を降りて駆け出す空良。
空良「愛衣理!」
空良の声に振り向く愛衣理。
愛衣理「おはよ」
空良、微笑んで
空良「おはよう。それと」
空良、突然立ち止まって頭を下げる。
愛衣理も空良に気づいて立ち止まる。
空良「今までごめん」
頭を上げて愛衣理を真っ直ぐ見据える空良。
空良「愛衣理に嫉妬してたんだ、私」
きょとんとする愛衣理。
苦笑いをしながら空良、
空良「紗月以外にこの学校で女友達いないからさ、愛衣理が紗月と仲よくなったら見捨てられるんじゃないかって、自分のことばっかり考えてたの。自分でも嫌になるくらい」
愛衣理は優しく空良の手を掴む。
愛衣理「愛衣理も空良に嫉妬してたよ。ていうかムカついてた」
驚く空良。
愛衣理は弱気な口調で
愛衣理「空良って憎まれないじゃん。なんかほっとけないところあるし」
空良は眉をひそめて
空良「えっ?そうかな?」
愛衣理は深く頷いてから
愛衣理「愛衣理とはそこが真逆だもん。空良が羨ましかった。だから、空良が悲しむことをしたら自分が偉くなれるって思ってたんだよね」
空良の目をしっかり見つめながら、掴んだ手に力がこもる愛衣理。
愛衣理「ほんとにごめん」
空良は片手で愛衣理の手をそっと握る。
徐々に表情を緩めて微笑み合う空良と愛衣理。
突然、思い付いた顔をする空良。
空良「ねえ、愛衣理」
耳を澄ませる愛衣理。

○同日・同高校・2-3の教室
空良と愛衣理が教室に入ると、紗月の元へと向かう二人。
紗月は席に座ってスマートフォンを触っている。
空良「紗月、おはよ」
紗月が空良の声に顔を上げる。
愛衣理の姿に感激する紗月。
愛衣理は真剣な表情で
愛衣理「紗月、この前はごめん。ひどいこといって」
紗月はすぐさま席を立ち上がって、愛衣理の肩を両手で掴む。
紗月「いや、悪いの私のほうだから!勝手なことしてごめん!」
愛衣理、寂しそうにすねた表情で
愛衣理「愛衣理のこと裏切った自覚あるんだ」
両手で掴んだ手の力が抜けてくる紗月。
紗月「あれは本当に二人に嘘ついてることから解放されたくて、ってわがままだよね」
愛衣理が腕に校外学習の時に買ったブレスレットをつけて紗月に見せる。
一気に表情が明るくなる紗月。
愛衣理「分かってるって。本気で邪魔とか思ってなかったことくらい」
空良も腕に紗月から貰ったブレスレットをつけて見せる。
空良「さっき一緒につけない?っていったら、お互い持ってたんだよね」
紗月もまた鞄の中にあるポーチを取り出してブレスレットを腕につける。
腕を出しあって笑い合う空良と愛衣理と紗月。
紗月は空良と愛衣理を見て
紗月「ていうか二人も仲直りしたんだね」
空良、照れながら
空良「朝、来るときにね」
その時、予鈴が鳴る。
愛衣理、ブレスレットに触って慌てて
愛衣理「やば。外さないと没収されるかも」
激しく頷く空良と紗月。
素早く席に着く愛衣理と紗月と空良。

○同日・同高校・中庭
中庭のベンチに佇む空良。
時計は13時すぎを指している。
啓がベンチの前へやってくる。
空良「ごめん。急に呼び出して」
ベンチに腰かける啓。
啓は空良の横顔を見て落ち着きなく膝の上に手を置く。
啓「嫌われたのかと思った。昨日、急に部活休んだから」
空良は気まずそうに目線を泳がせて
空良「あぁ、昨日は紗月と予定があっただけ。それにちょっと落ち着いて考えたくて、この前の返事を」
固唾を飲んで啓は空良をじっと見る。
空良は困った顔で
空良「えっと、で考えたんだけど」
息を整えて聞く啓。
空良「よく分かんないから1回デートしてみるのはどう?」
呆れる啓。
啓「はぁ!?」
空良、啓の様子を窺いながら
空良「だって想像できないよ。私、誰かと付き合ったことなんてないし」
空をぼんやり見上げながら少し考える啓。
啓「分かった。じゃあ、後でどこ行きたいか聞かせて」
小さく頷く空良。
ベンチから立ち上がる啓。
啓は空良に向き直って
啓「俺、告白してよかった気がする」
空良、きょとんとしながら立ち上がる。
啓「お前がちゃんと考えてくれてるのが分かったから、それが思ってたより嬉しい」
すっきりした表情で笑う啓。
啓「じゃ、また部活で」
中庭を去る啓。
手を振って啓の背中を見送る空良。

○同日・同高校・階段の踊り場(夕方)
愛衣理が階段を降りていると、チア部部長とチア部副部長が掃除用具を持って踊り場の隅でお喋りをしている。
目を合わせないようにして静かに階段を降りようとすると階段でつまずく愛衣理。
チア部部長とチア部副部長の視線が愛衣理へと注がれる。
チア部部長、愛衣理に気づいて
チア部部長「あれ、大山ちゃんじゃん」
愛衣理は軽く会釈をする。
愛衣理「こんにちは」
チア部副部長、愛衣理の顔を見てにやつきながら
チア部副部長「そういえば昨日学校休んでたんだって?大丈夫?」
愛衣理、明るくきっぱりと
愛衣理「はい、大丈夫です」
一礼してすぐにその場を離れようとする愛衣理。
チア部部長、わざとらしく大きな声で
チア部部長「そっかぁ。せっかく昨日は邪魔者がいなくて気楽だったのになー」
踵を返して愛衣理、さっぱりとした表情で
愛衣理「そうやって他人を貶して自分を上げて満足したいなら好きにしたらいい。お掃除、頑張ってください」
その場を去って階段を降りて行く愛衣理。
呆然とするチア部部長とチア部副部長。
すっきりとした表情の愛衣理。

○数日後・A駅周辺のカフェ店内
空良、目を輝かせてメニューを見ながら迷っている。
空良「こっちがいいかなー。あー、でもなー」
愛衣理と紗月は呆れた顔で空良を見ている。
愛衣理、ふてくされながら
愛衣理「空良ぁ、早く決めてー」
紗月はスマートフォンをいじりながら愛衣理を一瞥する。
紗月「開講記念日で部活もない貴重な一日だから、まぁ許してやってよ」
小さくため息をつく愛衣理。
空良、メニューを閉じて意気揚々と
空良「よし、これにしよ。すいませーん」
店員が空良の元へとやってくる。
空良「このチョコレートケーキのセットで」
愛衣理「私はベリータルトで!」
紗月「私、この抹茶のケーキで」
店員がメモをかいて
店員「かしこまりました」
その場を去る店員。
空良、鞄からスマートフォンを出して見ると、希唯から通知がきていることに気づく。
画面を開くと、蘭と希唯が遊園地で2ショットで写っている写真が送られてきている。
空良、羨ましそうに
空良「いいなぁ」
空良を見る愛衣理と紗月。
空良、愛衣理と紗月に写真を見せる。
紗月、画面をのぞき込んで
紗月「希唯ちゃんたち、東京ドリームランド行ったんだ!」
愛衣理、空良を不思議そうに見て
愛衣理「てか希唯ちゃんの連絡先追加してたの?」
空良、照れながら
空良「この前希唯ちゃんに数学のノート見せた時に、実は。私達出席番号で当てられる日一緒だからお互い確認し合おうかって」
紗月、首を捻りながら
紗月「そんなことあったような、なかったような。まぁでもよかったじゃん」
嬉しそうに頷いてスマートフォンをテーブルに置く空良。
愛衣理、寂しそうな顔で
愛衣理「愛衣理たち以外に友達できたなら、紗月と仲良くしないでーって愛衣理に嫉妬することももうないね」
驚きながら空良を見る紗月。
空良、恥ずかしそうに
空良「ちょっと愛衣理!やめてよ」
紗月、目を丸くして
紗月「そんなこと思ってたの?」
黙り込んで下を向く空良。
紗月、空良の右腕にブレスレットがついているのを見て、自分の右腕のブレスレットを空良に見せる。
紗月「私もつけてきた」
顔を上げる空良。
愛衣理もすかさずブレスレットを紗月と空良に見せる。
愛衣理「愛衣理も」
空良、自分のブレスレットを触って微笑む。
空良「私達、お互いに自分の事守ってたよね」
頷く愛衣理と紗月。
店員が頼んだケーキを持ってやってくる。
店員「お待たせしました」
ケーキが各々の手元へと運ばれて店員が去る。
愛衣理、スマートフォンを手にとり
愛衣理「ケーキ入れて写真撮ろ」
ポーズをする空良と愛衣理と紗月。
愛衣理「行くよ、はいチーズ」
写真をとる愛衣理。
写真には3人が笑顔で写っている。(終)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。