再来の贖罪主 歴史・時代

嘗てイエスは、全ての人間の根本的に持つ罪を纏めて肩代わりして、十字架に掛けられた。いわゆる「贖罪」である。しかし、人の犯す罪がそれだけで足りるだろうか? 1637年、肥前国島原地方のとある村。潜伏キリシタン一家の農民慈助は、重い年貢の取り立てとキリスト教に対する苛烈な弾圧に無力感を抱き、仕事も怠けてばかり。働き者の妻には完全に尻に敷かれていた。そんなある日、慈助達の許に、一揆への参加の誘いがもたらされる。
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第一稿

再来の贖罪主
The Second Lord of Atonement



作:R.I.

登場人物

慈助(父)…怠け者・臆病者・でも多分妻より普通の人間
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再来の贖罪主
The Second Lord of Atonement



作:R.I.

登場人物

慈助(父)…怠け者・臆病者・でも多分妻より普通の人間
富(母)…夫を尻に敷いてる系のしっかり者の妻・狂戦士
之(娘)…無垢な幼子
金作(隣人・夫)…陽気・水伃とはバカップル
水伃(隣人・妻)…内気・金作とはバカップル
翅(父の姉)…無愛想ではない一匹狼
岩村源兵衛…歴戦の兵
益田四郎…聖者・どうでも良いけど洗礼名はFrancisco
松平信綱…将軍徳川家光の忠臣
語り部Ⅰ…現代人
語り部Ⅱ…現代人

prologue. 陰を負った者
声 嘗て、イエスは十字架に掛けられ死んだ。
声 全ての人間の根本的に持つ罪を纏めて肩代わりしたのだ。
声 いわゆる「贖罪」である。
声 しかし、人の犯す罪がそれだけで足りるだろうか?
声 故に彼は肉体を得た。
声 彼は全ての者を照らした。
声 そんなことはあり得ない。
声 光が当たれば必ず陰が生まれる。
声 彼は全ての陰を心の内に引き受けた。
声 そして心を固く閉ざした。
声 彼こそ天命の子。
声 再来の贖罪主(さいらいのしょくざいしゅ)!
i. 立志
語り部Ⅰ 日本においてキリスト教は、一五四九年の伝来以来、スペインやポルトガルの支援を受け海を渡った宣教師達による布教で数多くの信徒を生みました。
語り部Ⅱ しかし、江戸時代となった一六一三年、当時の幕府は、日本征服というスペインやポルトガルの隠れた意図を警戒したことなどの理由から、人々がキリスト教を信仰することを全国的に禁じる禁教令を発布しました。
語り部Ⅰ そして時は流れます。24年後の一六三七年。第3代将軍家光の時代。禁教令が出されたのも今や遠い昔の話…。
語り部Ⅱ 物語は、そんな時代の、現在の長崎県にあたる肥前国、その島原地方のとある村で、今産声を上げます。


慈助 ああー、骨が折れるー。
富 あんた!
慈助 はいいっ!


慈助 ふう…。
富 ちょっと、何休んでんの?
慈助 は…い、言わせてもらうけどなあ!
富 急に何?
慈助 …お、俺らが汗水垂らしてここまで育て上げたこの米がどんだけ手元に残ると思ってんだ!ただでさえ年貢が馬鹿重えのに今年は凶作だあ?ふざけんなよな!あーもうやってらんねえ!
富 どんだけ手元に残ると思ってんだ、ね。
慈助 ああそうさ。
富 …それが分かってんならちょっとでも手元に残るようにさっさと働けこの馬鹿夫!
慈助 仰る通りですごめんなさい。
富 大体「俺ら」ってのが気に食わないね。汗水垂らしてんのは9割型私。あんたなんて垂れるのはいつだって汗じゃなく文句じゃないか。
慈助 …う…おんぎゃあー!
富 産声上げてんじゃないよ。はい、肉体年齢25歳はさっさと働く!(強引に慈助の腕を掴む。)
慈助 あー骨が折れる!
富 仕事に折ってたはずの骨なら今折ったって良いよなあ?
慈助 お許し下さいマリ…(突然口を塞がれる。)
富 ぴーーーーーーー!

慈助 あの、不注意だった。ごめんな。
富 二度と口滑らすんじゃないよ。
金作 富さん、慈助。
富 アーラ金作さん、良い天気ですわねえ。金作さんも今日から刈り入れでして?お互い晴れて良かったですわ♡




金作 良かったですわ。





金作 ブッ。




富 いや、あんまり急に話し掛けられたもんだから取り乱しちゃって。
金作 ああー良かったー。急に気でも狂ったのかと思ったよ。今の、稀に出てくるやけに「お上品な」富さんだったね。あ、それから、よう…ですわ。
慈助 よ、よう。
金作 にしても「ピー」の裏で何て言ってたの?「地球温暖化は国連の陰謀ですわ!」とか?
慈助 違えよ。
金作 あ、そう。
金作 …お許し下さいマリア様ぁ。



(富が慈助をしばく。)
慈助 あいてっ!
富 言わんこっちゃない!
慈助 ごめんなせえ!
金作 ヤッテモーター♪
慈助 余計なこと言うんじゃねえよ!
金作 ま、だからってお上に告発するほど俺も鬼じゃないし、許してやってよ。
富 本当に?
金作 本当だよ。
富 …ありがとう。
富 金作さんに免じて「今回は」許してやるよ
慈助 はい、ごめんなさい。
富 ふー、どこで夫選び間違えたんだか。もう金作さんに乗り移りたいわ。
金作 お?良いぜ。面白そうだ。水伃には気の毒だが離縁してもらうかね。
水伃 何の話?
金作 おう、水伃、丁度良かった。あの、富さんが俺と一緒になりたいって言うからさあ、お前と離縁させてくれないか?


水伃 え?どういうことよ?そんなに急に別れようだなんて言われても分かんないよ!私のどこが駄目なの⁉︎ねえ教えて!教えてくれたとこ全部直すから!お願い!別れないで!


金作 冗談じゃーん。
水伃 え?
金作 本気で言ってるわけ無いだろ?心配すんなっ。
水伃 冗談でもそんなこと言わないで。
金作 はい。
金作 実は富さん達もARE信じてんだってさ。
水伃 …本当に?
富 本当。…「も」?

慈助 お前んとこも?
金作 待った。家に来てくれ。話はその後だ。
富 分かった。
慈助・富 よっしゃ休める!
富 だろうと思った。
慈助 うぐっ。
富 戻ったらたーんと働いてもらうよ。

金作 やっぱり慈助には富さんが居ないと駄目だな。俺にお前が居ないと駄目なのと同じ
で♡
水伃 ちょっと…止めてよいきなり。じゃあ私だって金作が居ないと駄目だよ♡
慈助 アツいなあ…。良いよな新婚さんは。富もこんなんじゃなかったはずなんだが…。
慈助 「止めてよいきなりぃ!褒めても何にも出ないよぉん!」…駄目だ俺が真似するとひたすら気持ち悪い。

富 こんなんで悪かったね。誰のせいだい?
慈助 え?何で聞こえてたの⁉︎
富 心の声がだだ漏れなんだよ!こんなんになったのは誰のせいだい?
慈助 私の不徳の致す所であり極めて遺憾であります。
金作 来ないのか?(慈助の気付かない内に取り残されていたようだ。)
富 今行くよ!

金作 さあ入って。
富 お邪魔します。
金作 さて、俺んとこもキリシタンなのかって話だったね?
慈助 そうだな。
金作 その通りだ。

水伃 ずっと信仰を守っているんです。密かに。
金作 両親とも熱心な信者でな。
慈助 幼馴染の信仰を25年間知らずにいたとは。
金作 お互い良く隠し通してきたな。
慈助 ああ。
金作 で、そっちも2人揃って?
富 そう。(首に掛けて衣にしまっていた十字架を取り出す。)
金作・水伃 あっ…。
金作 羨ましい。しかもやけに立派だ。
富 母の形見なんだ。
金作 良く持ち歩けるね。
富 これが私の信仰心の証。
慈助 にしたって大胆過ぎねえか?
富 あんなとこで「マリア様あ」なんてうっかり言いかけた奴には言われたくないね。
金作 ま、この状況は怪我の功名だしな。
慈助 ここら辺は、禁教令の時に話し合って、信仰は続ける、でも集まって祈ったりはせずに各自家族単位で信仰を守って、そのことはキリシタン同士でも隠し合うってなったんだよな。
金作 そのはず。
慈助 俺らってその時生まれてたのかな?
金作 生まれてたらしいよ。生後何ヶ月とかだけど。
慈助 そうかあ。俺らの生まれた時にはまだ堂々と自分はキリシタンだって言えたんだな。
金作 今や表向きには皆仏教徒だもんな。
富 そんな嘘仏様にも失礼なのにね。
金作 そして、キリシタンってバレた途端拷問だよ。
富 熱湯の中に投げ込まれたなんて話も聞くよ。
金作 恐ろしい…。
水伃 想像したくないね。
慈助 水伃は生まれてなかったんだよな?
水伃 はい、その時代のことは私には全部歴史の話です。
慈助 まあ、実質4人ともそんなもんだけどな。
富 そうだね。
金作 あれ?富さんは?
富 皆と大体一緒さ。
金作 ふーん。
慈助 はあ、信じてるものを胸を張って信じてると言えない。重い年貢に苦しめられていつも腹を空かせてる。生きてる意味って何だろうな。
富 私は何か行動しなきゃいけない気がする。
慈助 何かって?
富 分かんないけど…何か…。
金作 何か…な…。確かに。
翅 慈助居るー?
慈助 姉貴?
翅 あ、久しぶり!
金作 翅ねえちゃん?
翅 金作も久しぶり。新婚さんなんでしょ?慈助から聞いたよ。
金作 知ってたんだ。
水伃 この人は?
翅 貴方は金作のとこの?
水伃 は、はい、妻の水伃です。
金作 この人は翅ねえちゃん。慈助のお姉さんだ。
翅 初めまして。翅です。富ちゃんも久しぶり!慈助はちゃんとやってる?
富  …はあ。
翅 ああ、大体察した。
富 馬鹿で阿呆でドジで間抜けで腐った脳味噌が良く似合うよ。
慈助 酷過ぎねえか⁉︎
翅 うん、流石に可哀想だね。
慈助 だよな?
翅 こんな夫を持って。
慈助 えーーーーえ?
金作 孤立無援おめでとう。
慈助 水伃ー!

(水伃は金作に身を寄せる。)

慈助 …

金作 で、何か用でも?
翅 …悪いんだけど、金作、どこか部屋を借りられる?3人(翅と富と慈助)だけで話したいんだ。
金作 …じゃあ俺らは部屋移るよ。
翅 ありがとう。
慈助 何の話なんだ?
翅 後で教える。
慈助 おう…。
金作 俺らは聞かない方が良い話なんだね?
翅 ごめんね。仲間外れにするみたいなことして。
金作 事情があるんだろ?
翅 うん。
金作 じゃあ。



慈助 で、何の話なんだよ?
翅 キリシタンに関すること。

富 だから3人に?
翅 そう。
慈助 あ、だったらその必要無いわ。
翅 え?
富 あの2人もキリシタンなんだ。



翅 呼ぼうか。(金作達の方へ行く。)
富 そうだね。
翅 金作ー!

金作 翅ねえちゃん?
翅 皆に伝えることだった。
金作 こっちにも?
翅 そう。金作も水伃さんも…キリシタンなんだってね。

金作 そうだよ。
翅 じゃあ全員に話す。(ここで3人連れで元の部屋へ戻ってくる。)

翅 水伃さんのために説明しとくと、あれが私と慈助の実家ね。慈助が今は死んじゃってる両親から家を継いで、私はここからちょっと離れた所に空いた家と田んぼを見付けて1人で住んでる。ご近所さんによると、前の家主さんは年貢に耐え切れずに逃げ出したらしい。まあとにかく、1人暮らしが私は性に合ってるんだ。
水伃 はい。
翅 それでね、年貢に苦しんでるっていうのは、私もご近所さんもそう。皆もじゃない?
他 ああ。/そうだね。/その通りだよ。/はい。
翅 そこでなんだ。最近この辺りで一揆が起きてるのは知ってる?
金作 聞いたことはある。
翅 あちこちで百姓が蜂起してるんだけどさ、それに…
慈助 加わろうってのか⁉︎
翅 もう加わったよ。
翅 それで、皆を誘いに来た。率いてるのは益田四郎様っていう敬虔なキリシタンの少年で、十字架を手に握って生まれてきたとか、海の上を歩いたとか、目の見えない子供を見えるようにしたとかいう話もある人だ。その人を中心に皆のキリシタンの弾圧に対する不満と重税に対する不満が1つになって、今もの凄い数の人が参加してるんだ。一緒に来ない?


金作 俺は1人でも行くよ。
水伃 じゃあ私も。
翅 2人は?
慈助 俺は行かねえよ。一揆って戦だろ?
翅 そうだね。
慈助 おっかねえよ!それにうちにはまだ小さい之も居るんだ。
富 行きたいのは山々。でも…娘をあんたに任せて1人では行けない。
慈助 酷くなあい?
富 実際そうだろう?
慈助 うぐっ…。
金作 子供連れでも何とかなんないのか?
翅 なるよ。私達は今、原城っていう、使われてなかったお城に立て籠ってるんだ。そこで、お上から奪った武器も使って戦う。でも、お城の中なら子供連れでもきっと生活出来るよ。危険にだって晒さずに済む…きっと。
慈助 「きっと」じゃねえかよ!
富 じゃあ、私の手で「絶対」にすれば良い。
慈助 待てって!そもそも本人の意見を訊かねえことには…
之 翅おばさん?
富 之、いつの間に?
之 おかあさん達が翅おばさんとはなしてるのが見えたから…。
翅 之?また背が伸びたね!
之 のびた?
翅 うん。
富 之、突然だけど、今からお城に行く気はあるかい?
之 お城?
富 そう、お城。「私はキリシタンです。」って堂々と言える場所に。
之 いき…
金作 実は俺らもキリシタンなんだ。安心しな。
之 そうなの⁉︎
金作 ああ。な?
水伃 ええ。
之 お城って、みんなといけるの?
翅 ここに居る皆一緒だよ。
慈助 え?
之 いきたい!
翅 よし、今直ぐ行こう!皆持てる限りの食料持ってきて!
慈助 え、ちょっ…
富 行くよ。
慈助 あ、ちょま…
富 何だい!
慈助 いや、話の展開速過ぎない?
富 だから?
慈助 俺まだ納得してないって。
富 1人で残っても良いんだよ。
慈助 それは…何か嫌だ…。
富 じゃあもう覚悟決めな。
慈助 戦に出る覚悟がそう簡単に決まってたまるかよ。生まれてこの方戦なんて話に聞いたことしか無えんだぞ。お前ら皆おかしいよ。
富 …あんた、「生きてる意味って何だろうな。」とか言ってなかったっけ?
富 これなんじゃないの?
慈助 …そ、ん、ま、まあ…
富 私はずっと、何か行動しなきゃいけないと思ってた。今なんだ。(家に向かう。)
慈助 え、ちょっと…。くそ…。そうだよ!ここで戦に行くことが生きてる意味だったんだろうよ!でも…!

翅 慈助は、来ないの?
慈助 俺には無理だよ。
翅 ああ…何か分かる。
慈助 辛辣う。
翅 じゃあ仕方無いね。ビビりなのは良く知ってるから。
慈助 俺の寝床に夥しい数のスズメバチの死骸を仕込んだ悪戯は忘れねえぞ。
翅 覚えてくれてるの?
慈助 怖っ。
翅 あんなにビビってくれる人他に居ないよ。
慈助 いやいやあんな大量のスズメバチと添い寝なんて誰だって怖いわ。
翅 いや、うちと金作の家の全員の耳をおかしくするほどの絶叫は慈助じゃなきゃ聞けなかった。
慈助 暫く寝床に近付くことすら出来なかったんだからな。
翅 それに関しては申し訳無いと思ってる。
慈助 絶対思ってないだろ。

金作 準備出来たよ。
翅 おお。
金作 慈助?
慈助 俺は、ここに残る。

金作 そうか。…元気でな。
慈助 お前こそ、無事に戻ってこいよ!お前が居なきゃ、俺まじで富の奴隷になっちまうから!
富 誰が奴隷だって?
慈助 あー…どーれーにーしーよーうーかーなーてーんーのーかーみーさーまーのーいーうーとーおーり!はい、この鎌差し上げます!向こうで何か良い感じに使って下さい!


慈助 ごめんなさい…。
富 普段は散々世間に文句言ってるってのにさ。いざその時になると動けない。はあ…離れられてせいせいするよ。
之 おとうさん、どうしたの?
慈助 之、俺はな、残って家を守る。だから、絶対無事で帰ってくるんだぞ。
之 …ぶじ?
富 大丈夫。何にも心配しなくて良いよ。
之 …分かった。
翅 じゃあ、行こうか。
他 行こう。/うん。/よし。/はい。


慈助 達者でな!
金作 お前こそな!


慈助 静かだな…。

ii. 神の子・益田四郎
語り部Ⅰ こうして彼らは旅立ちました。向かうは、三方を海に囲まれた天然の要害・原城。
語り部Ⅱ そこで彼らが出会った「神の御子」とは…?

翅 着いた!原城!ほら之、これからはここで暮らすんだ!
之 うちには?
翅 もう良いよってなったらまた帰れるよ。
之 帰ったら、おとうさんにも会える?
翅 勿論!
之 良かった!
翅 今から門を通るんだけ…
慈助 おーーーーーい!
之 おとうさん?
慈助 はあ…追い付いた。
富 あんた、何で?
慈助 ふう……。覚悟決めたよ。皆大切なものを守るために戦をしに行ったってのに自分だけ安全なとこでのうのうと生きてるだなんて、それこそ生き恥を晒すだけだって、皆が居なくなってから気付いたんだ。だから、俺も戦う。
之 おとうさん、家はいいの?
慈助 ああ、一緒にいるよ。
之 やった!今からお城の門をとおるんだって!早く行こうよ!
翅 あ、待って!合言葉を知らないと通してもらえないんだ!
慈助 合言葉?
翅 私が知ってる。任せて。

翅 人を集めてきました。
翅 はい。光るはおやじの禿頭。
翅 良いよー。…あ、何でしょう?…はい。

翅 今から、この一揆を率いてる四郎様のお話を聴きに行くよ。
慈助 例の、十字架握って生まれてきたとかいう?
翅 そう。イエス様以来の神の御子だって言われてる人だ。
之 どんな人なのかな!
慈助 楽しみだな。
之 光ってたりするのかな?
金作 禿頭のおやじってこと?
慈助 違うだろ。誰が「このハゲー!」だよ。


水伃 人が集まってますね。
翅 ここだ。

富 いっぱい居るな。
翅 この人達は私達みたいに新しく来たばっかりの人達だから、全部合わせたらこれどころじゃないよ。
慈助 心強いな。何か、俺でもちゃんと戦える気がしてきた。
(ドーン)
水伃 太鼓?
金作 そうだな。
(四郎が登場する。)

四郎 初めまして。この戦いを率いさせて頂いています、益田四郎です。
四郎 私達が望むものとは何でしょう?それは、至って素朴なこと——日々の食事にも困窮するほどの過酷な年貢の負担をせずに済み、信じるものを、胸を張って信じていると言えること——ただそれだけのはずです。にも関わらず、上に立つ者達はそれすら許さない。声を上げたとて、届きはしない。もし届いたとしても、取るに足らない雑草どもの声などあの方々は気にも留めない。だからその権利を勝ち取るためには最早戦うしか無いのです。この志に賛同し、恐れを乗り越えてここに集って下さった皆さん1人1人に、私は心から感謝しています。
四郎 貴方は、この十字架に込められた意味の1つ、すなわち2種類の愛という意味をご存じでしょうか?創造主たる神からの無償かつ無限の愛を自覚し、それに感謝することで神を愛し、また神がそうして下さったように、隣人を自分同様に愛せ、そうイエス様は仰りました。十字架においては、縦の線は神からの愛、横の線は私達人間同士の愛を表します。
四郎 私達は自分達が神から愛されていることを知っている。そして、神から愛されたように、隣人を、如何なる見返りも求めず、そして限り無く深く愛することが出来る。ですから、この先どれだけ苦しい事態が待ち受けていようとも、やがて必ず光が見えてきます!何故なら、そのようにして正しく愛することの出来る者を、神は決してお見捨てにはならないからです!
四郎 楽な戦いにはならないでしょう。ですが、どんな時もそれを忘れず、希望を捨てず、全員の絆で戦い抜きましょう!


富 確信したよ!この人に付いていけば絶対に勝てるってね!死ぬ気で戦おう!
慈助 お、おう…。
金作 神の御子ってのも分かる気がするな。
水伃 ええ。
翅 でしょ?
富 その通りだ!
翅 じゃあ、この食料達を厨の方預けたら宿所に行こう。今日はそれで終わり。明日から大人は戦闘訓練だからちゃんと休むこと。
之 之は?
翅 行かなくて良いよ。
之 はーい。
iii. 落ち零れ
語り部Ⅰ その時彼らには、神の子四郎が光り輝いて見えたことでしょう。まるで、私の父の禿頭のように…。余談ですが、「禿頭」と書くと、何だか「秀頼」と書いてあるように見えてきませんか?くっ付けてみましょう。「豊臣禿頭」。もう「豊臣秀頼」にしか見えないですね。
語り部Ⅱ 因みに、豊臣秀吉の忘れ形見で徳川家に滅ぼされた豊臣秀頼ですが、四郎は実はその子供だったという都市伝説があります。(「豊臣禿頭」を示しながら)これは、秀頼と四郎が本当に親子だったという何よりの裏付けではないでしょうか?

源兵衛 私の名は岩村源兵衛だ。お前達には今日から鉄砲の訓練を受けてもらう。
水伃 鉄砲、ですか?
源兵衛 そうだ。鉄砲はな、使い方を覚えれば誰でも比較的簡単に狙い撃ち出来、それでいて破壊力も高い。戦を知らん百姓には打って付けだ。
慈助 じゃ、じゃああんたは戦を知ってるのか?
源兵衛 お前は関ヶ原を知ってるか?
慈助 せ、咳?
源兵衛 大坂の陣は?
慈助 お、おお?
源兵衛 どちらも数十年前の大戦だ。特に大坂の陣の時なんぞ、真田信繁様っていう恐ろしく強いお方にお仕えして、先先代の将軍の家康って奴を、首を取るまで後1歩ってとこまで追い詰めたもんだ。まあ負けてしまったがな。
富 真田?
源兵衛 そうだが?
富 花のようなる秀頼様を 鬼のようなる真田が連れて 退きも退いたよ加護島へ…
源兵衛 ほお、知ってるのか。
富 もしかして、その「真田」ですか?
源兵衛 そうだ。良く知ってたな。
富 昔母が良く歌ってくれた歌です。
源兵衛 「秀頼様」ってのは、その真田様が大坂の陣の時にお仕えしてたお方だ。秀頼様にしても真田様にしても戦で亡くなられたと言われてるが、実は一緒に逃げ延びなさった、なんて歌が大坂の方では一時期流行ったんだ。しかし、こんな所の、しかもただの百姓が何で…?
金作 その、お母さんが大坂から来た人、とか?
富 実はそうなんだよ。そうか。あれは大坂の流行り歌だったんだ。

源兵衛 …まあ良い。鉄砲の話に戻るぞ。先ず発射までの流れを見せる。いきなり付いてはこられんだろうがそれで良い。
源兵衛 良いか?先ず火薬と弾をここに入った棒を使って筒先から根元へ押し込む。次に火蓋を開き、この火皿にも火薬を入れる。入れ次第火蓋は閉じる。次に火ばさみを半分上げて火の点いた火縄を挟む。そうしたら火ばさみを完全に上げて構え、再び火蓋を切る。そして引き金を引くと、火薬が爆発して、弾が筒から飛び出す。かなりの音がするぞ!(天に向かって発射!)


(ここで天から鳥が落ちてくるとかやれたら理想だけども…。)


皆 おお…。

源兵衛 ここまでとは言わんが、お前達にはこの一連の動作を淀み無くやれるぐらいにはなってもらう。良いな?

源兵衛 原則、実弾は使わずに訓練する。勿体無いからな。ではそこから鉄砲を各自1丁ずつ取れ。


水伃 重いっ。
金作 おっと大丈夫か?
水伃 うん、大丈夫!

富 ふんっ。
慈助 流石。よいsh…うおっ。(地面にもんどり打つ。)いってー。
富 軟弱だね。
慈助 か弱いです。

語り部Ⅰ 始めは火縄銃に苦戦していた彼らですが、次第に淀み無く使いこなせるようになっていきました。そんな折のこと…。

四郎 分かりました。皆さんに伝えて下さい。
源兵衛 大事な知らせだ。幕府軍がこっちに向かってる。今日は少し実弾を撃ってみるぞ。
語り部Ⅱ 幕府軍を率いるは、幼少期から徳川家康に仕えていた譜代大名板倉重昌。これに九州の諸大名の軍勢が加わった5万余りの兵が原城に進軍。対する一揆軍、老若男女3万。
語り部Ⅰ この国の歴史上でも最大規模の一揆であるこの島原・天草一揆最後にして最大の激戦・原城攻防戦の火蓋がいよいよ切られます!

声 百姓どもの烏合の衆など恐るるに足らん!捻り潰せ!
声 おおー!

源兵衛 良いな?やることは訓練と全く同じだ。特別なことは何も要らん。
源兵衛 始めの一発は私が合図する。が、その後は準備の出来た者からどんどんぶっ放せ。人を見て待たず焦らず、自分の成せる速さで撃つこと。
源兵衛 まだ…。まだ引き付けるぞ…。…発射用意。…火蓋を切れ。…放て!
(一斉射撃!)
慈助 当たった!
源兵衛 見るな!次!
慈助 あっ。
源兵衛 準備の出来た者からぶっ放せ!味方を待つな!(自分も銃を手にして発射し始める。)

語り部Ⅱ 百姓どもの烏合の衆は激しい反撃を加えました。やがて銃声が止んだ時、勝鬨を上げたのは…

水伃 敵が、逃げてく…。
金作 勝った、のか…?
源兵衛 勝った…。皆良く戦ったな!
富 勝った!
翅 勝ったんだ!
金作 よっしゃー!


源兵衛 だが終わったなんて思うなよ。必ずまた攻めてくる。
富 はい!
源兵衛 戻って良いぞ。
金作 あれ?慈助どこ?
富 え?
翅 あ、居ない。
富 逃げた?
金作 あるな。
翅 としたらどこに?
富 宿所?
翅 行こう。

富 あんた!
慈助 ごめんなさい!
富 何が「覚悟は決まった」だい!自分も戦わなきゃ生き恥晒すだけなんじゃないのかいこのクズ!
慈助 だって!弾が平気で耳かすめてくんだぜ?「覚悟は決まった」だの何だのは、本物の戦を体験してないから言えた幻想だったってこと!もうこんなとこ居たくねえ!ずーっといつ死ぬか分かんねえなんて、何の拷問だ!

富 じゃあさっさと帰れば良い。ここを出な。
慈助 出てったって敵に撃たれて終わりじゃねえか!
富 撃たれちまえよ!ここでただ飯食い潰すだけの役立たずなんて死んだ方が皆のためさ!
金作 一旦落ち着こ!こいつの気持ちも分かるよ。俺も怖い。
富 みーんなそれに打ち克って隣人のために戦ってるんだろう?あんただけそれを怠って許されてたまるかい!死ぬ気で戦え!
翅 やろうと思っても皆が出来るとは限らない。富ちゃんが凄いんだよ。
富 でも…頭冷やしてくるよ。

慈助 姉貴の言ってることには1つ間違いがある。
翅 え?
慈助 俺は駄目な奴だよ。
翅 そんなこと…
慈助 あいつの決意の固さは、訓練中の、後勿論戦ってる時のあの鬼気迫る表情から良く分かるよ。確かにああは絶対なれない。
慈助 でも、ああなれないのは皆俺と同じだろう?しかも、源兵衛さんみたいに何度も戦をくぐり抜けてきたわけでもない。
翅 それは…
慈助 その中で俺だけが逃げ出したんだよ。あいつの言葉を借りれば、「隣人」を守ることを放棄して。これが落ち零れじゃなかったら何だ。

金作 じゃあ、俺も落ち零れ寸前だな。何度も逃げ出しそうになったし。お前とは紙一重の違いだ。
慈助 その紙一重が今この決定的な差になってんだろうが!もう良いよ!気持ちだけ受け取っとくからもう庇わないでくれ!今日は自分を責めたいんだ!

之 みんな、おかえりー!
翅 之!
之 見て!おにぎりもらってきたよ!
水伃 これは、白米?
金作 嘘?本当じゃん!え、何で?
之 勝ったごほうびだって!四郎さまがきょうぐらい白いお米をみんなにたべさせてあげてほしいってたのんだんだって!1人1ことって!
金作 四郎様ガチめに神!
水伃 そうだね!
翅 あり難く頂きます!
之 おとうさん?
慈助 気持ちだけ頂いとくよ。
金作 じゃあ俺らでお前の分分けても良い?
慈助 好きにしてくれ。
金作 だって。
之 でも…
翅 色々あったんだ。察してあげて。
之 うん…。
金作 じゃ、貰うぜ。
翅 3「等分」だからね!欲張るなよ!
金作 分かってるって。…あ、やっちゃった。これ2:1:1だ。
之 おかあさんは?
水伃 さっき外に出てったよ。
之 じゃあこれもって外いってくるね。
金作 あ、そうじゃん富さんのこと忘れてた。この「2」を1:1に分ければ…はい4等分!
翅 やれやれ…。
金作 はい、これも持ってってあげて。
之 うん。いってきます。
金作・水伃・翅 行ってらっしゃい。
金作 うっひょー、人生初の白米だー!興奮してきたー!
水伃 良かったね。
金作 水伃は?
水伃 私も初めて。


之 あ、おかあさん。
富 之。
之 見て!白いお米のおにぎりもらってきたんだ!四郎さまからみんなへのごほうびだって!
富 四郎様から?
之 うん。
富 素晴らしいお方だね。之は食べたのかい?
之 うん。
富 そうかい。じゃあ頂こうかな。
之 あ、大きい方もおかあさんの分ね。
富 そうなの?じゃあ頂きます。…うん、凄く美味しい。
之 おとうさんがね、なんだか元気じゃないの。なにか知らない?
富 …知らない…かね。
之 そうなんだ。…じゃあまたね。
富 うん、また。
iv. 継承
語り部Ⅰ その日から、慈助は宿所に閉じ籠もるようになりました。話し掛けられない限り一切声を発さず、話し掛けられても無気力な返事ばかり。食事も摂ろうとせず、見かねた金作や翅に無理矢理食べ物を押し込まれても尽く吐き出す始末。汲んできた井戸の水は辛うじて無気力そうに飲んでくれるようですが…。
語り部Ⅱ 一方富の方も、慈助に一切話し掛けなくなりました。そんなある日、これらの発端となった1度目の総攻撃から10日後のこと…。

四郎 分かりました。迎え撃ちましょう!
源兵衛 敵襲だ!持ち場に付け!
声 一気に雪崩れ込め!
声 おおー!
源兵衛 少し敵の進軍が速いがそう簡単にここまでは攻め込めん。やることは同じだ。放て!

金作 慈助!
慈助 …ああ。
金作 「ああ」じゃない!良いから付いてこい!
慈助 …無理。
金作 富さんが銃弾に当たった!

慈助 …は?
金作 命が危ない!行ってやれ!
慈助 でも俺の顔なんて…
金作 お前の妻は生きるか死ぬかって時に駆け付けてくれた夫を一時のすれ違い程度で嫌がるような小さい人間か?
慈助 …違う。
金作 じゃあ付いてこい!
慈助 ああ。
翅 慈助!
慈助 どうした?
翅 之は?
慈助 居ねえけど。
翅 分かった。事情は金作から聞いて!(走り去る。)
金作 行くぞ。

水伃 富さん、今夫が慈助さんを呼びに行ってます!だから…
富 (こっから先は適宜息切れとか挟みながら)あの人はどうせ来ないよ。
水伃 何言ってるんですか?来てほしいんでしょ?
富 願望と予想は…
慈助 富!
富 あんた…!
慈助 富!大丈夫か?
富 見て分からないのかい?

慈助 この馬鹿!

慈助 戦ん中で何があっても絶対に之を守るんだろ?何自分が死にそうになってんだよ!自分を愛するように隣人を愛せ?じゃあ先ず自分をちゃんと愛せよ!何が「守って死ぬ」だ!本当に守り通したいなら、死なずに守りやがれ!

富 それは違う。
慈助 どこがだよ!
富 之を守ることなんてそもそもすっかり忘れちまってたんだ。情け無いね。「死ぬ気で戦え」なんて言っちゃってさ。四郎様の旗の下で皆のために戦おうって夢中になって、いつの間にか頭から消え去ってた。
慈助 …。
富 でも安心したよ。あんたになら之を任せられる。怠け者だし臆病者。だけど、その代わり大切なものをとことん思いやれる。私の惚れたあんたを、久しぶりに思い出したよ。
慈助 そっちこそ、皆のためにどこまでも勇敢に戦うの、めちゃくちゃ格好良かったぜ。今までだって、そういう強気な所にどんだけ引っ張ってもらったか…。
富 止めてよいきなり。褒めても何にも出ないよ…。
慈助 …だから死ぬな!
富 分かるんだよ。もうお迎えだ。さよなら。
慈助 お前が居なきゃやっていけねえよ!
富 大丈夫。あんたはやる時はやる人間だ。之は頼んだよ。
慈助 んなこと…
富 覚悟決めな。この意気地無しが。
慈助 …分かった。任せろ。絶対に、生きて守り通す。
富 その目と言葉で、もう満足だ。今までありがとうね…。
慈助 富!
富 向こうで弟に会えたりしてね…。

慈助 富?…おい富!しっかりしろって!おい!







金作 天国、か…。
水伃 遠くなりましたね。

慈助 …この十字架、俺が持ってても良いと思うか?
金作 逆に何で駄目なんだ?
慈助 …意志は継いだ。戦うよ。それで、この戦でお上に俺らが普通に生きる権利を認めさせたら、皆でうちに帰って、外に集まって叫ぶんだ。「俺らはキリシタンだ!」。でも誰も罰せない。
金作 理想はまだまだ先だな。
慈助 そうだな。
翅 富ちゃん!
之 おかあさん!
翅 状態は?



翅 ごめん。厨の手伝いしてたみたいで、探すのにちょっと。
之 おかあさん、どうしたの?
慈助 母さんは天国に行ったよ。

之 天国?
慈助 この世で一生懸命生きた人が神様に「お疲れ様」って言ってもらう場所さ。
之 おかあさんは今、神様に「お疲れ様」っていってもらってるの?
慈助 そうだよ。父さんも之も、一生懸命生きれば神様に「お疲れ様」って言ってもらえるんだ。母さんにもそこで会える。
之 天国で?
慈助 そうさ。だから、ちょっとの間会えなくなるにはなるけど、そんなに寂しがらなくて良いんだからな。
之 うん。

金作 ところで、「向こうで弟に…」?
慈助 言ってなかったっけ?あいつ、小さい頃弟が居たらしいんだよ。
金作 初耳。
慈助 けど、ある日突然、まだ赤ん坊だった弟が消えたんだと。
水伃 消えた?
慈助 ああ、「消えた」。親に訊いても分からないって答えしか返ってこなかったって言ってたな。
金作 …うーん。
慈助 だから、ずっとその弟のことを気にかけてたんだ。どこで何してるのかも、全く分かんないんだそうだ。
翅 向こうで会えたら…会えたで悲しいね。
慈助 まあな。

慈助 ところで、今日の戦ってどうなったんだ?
翅 そんなん、負けてたら何でこんなにゆっくりしてられるの?
慈助 そうか…。こいつの献身も、無駄じゃなかったってことかな。
翅 そうだね。
金作 白米…。
水伃 また出るかな?
翅 だと良いね!
之 でるよ。だからおにぎりにぎるの手伝いにいってたんだ。
金作 おお!
慈助 そうじゃん。俺むっちゃ腹減ってたわ。
金作 働いてない分際で食おうってか?
翅 ま、その分次は富ちゃんぐらい戦ってもらうっていうことで。
金作 そっか。意志受け継ぐんだもんね。
慈助 あ。

語り部Ⅰ 慈助はその日、お握りを2秒で平らげ、炊き出しの粥を4杯もおかわりしたそうです。
語り部Ⅱ え?何で10日間何も食ってなかった奴がそれだけで我慢出来たのかって?いえ、我慢したんじゃありません。5杯目のおかわりを貰いに行った時、炊き出しの優しそうなおじいちゃんにブチ切れられたんです。
語り部Ⅰ それ以来このおじいちゃんは、普段は至って柔和な顔なのですが、慈助と目が合うとその度にガンを飛ばすようになりました。人って結構猫を被ってるんですねえ。ニャ🐾
語り部Ⅱ そしてそのまた10日後…
声 今ぞ押し込め!
声 おおー!
源兵衛 今が辛抱の時だ!ここを凌げば勝利はこっちのものだぞ!
慈助 おお!(発射!)
金作 おい今お前の弾が当たったのって…
慈助 え?
声 敵将板倉重昌、討ち取ったり!

慈助 え?マジで?嘘?え?…敵が逃げてく…。
金作 お前凄いわ!
水伃 おめでとうございます!
翅 信じられない。
源兵衛 大手柄だ良くやったな!
慈助 嘘…。
金作 現実だよ!

語り部Ⅰ 百姓どもの烏合の衆?否、長きに渡る苛烈な弾圧と苦しい生活で募り続けた強い憎しみと隣人愛の精神の下に難攻不落の原城に集う彼らは、確かな団結力と戦力を持っていました。
語り部Ⅱ そして遂に、幕府軍を率いる板倉重昌を討ち取るまでに至ったのです!
四郎 皆さん、これまで本当に良く戦ってくれました!まだまだ終わったわけではありませんが、これは間違い無く大きな一歩です!後もう一息、共に頑張りましょう!
翅 勝てる。勝てるよ!
金作 理想は直ぐそこだ! 
v. 知恵伊豆
語り部Ⅰ さて、四郎の言った通り戦は終わってはいません。替わって幕府軍の指揮官として派遣されたのは、将軍徳川家光の信頼厚い老中の1人松平信綱。知恵者としても知られていた人物です。
語り部Ⅱ 最終的には12万にまで膨れ上がった幕府の大軍を以って、彼が原城攻略のために採った策とは…?
信綱 力攻めしても徒に犠牲を生むだけだということは証明されている。ここは兵糧攻めで行こう。
四郎 兵糧攻め…。厄介なことになりましたね。
語り部Ⅰ 兵糧攻めとは、敵の食糧補給路を断つという城攻めの戦法です。
翅 敵が道を塞いでるなら追い払えば良いんじゃないんですか?
源兵衛 敵は大軍だぞ。城から出て戦うなんぞ無謀そのものだ。
翅 でも、黙ってればこちらは衰弱を待つだけでしょう?
源兵衛 負けると分かってる戦に犠牲は払えん。
翅 でも…
四郎 敵がこれほどまでに膨れ上がるとは。
語り部Ⅱ 時間がかかり、それ故味方の食糧も多く必要となりますが、犠牲を最小限に抑えながら敵を飢えさせ徐々に弱らせる、堅実で残酷な手です。

慈助 …腹、減ったな。
翅 そうだね。またお粥が水っぽくなってた。
金作 食べられるだけまだ良いさ。
慈助 あの時4杯もおかわりしてなきゃ、今日の食える分もちょっとは増えたのかな。
金作 変わんないだろ。
慈助 いいや変わった!あの爺さんは分かってたんだ。戦場での食い物の貴重さを。
金作 今更悔いたって仕方無い。
翅 にしても、このままこうしてたって何も起こらないのに、何でただお城に籠ってるんだろう。
慈助 そんなことただの百姓の考えることじゃねえよ。四郎様だって言ってただろ?
四郎 どうか希望を捨てないで下さい!
慈助 信じようぜ。
翅 …そうだね。
語り部Ⅰ 一揆勢は外部からの補給手段を失いました。
信綱 城内の者達に降伏を勧告しよう。降伏すれば年貢を免除するとな。
四郎 幕府側からこのような呼び掛けがありました。どうするかはご自由に選んで下さい。
金作 誰が降伏なんてするか!
水伃 戦う以外あり得ない。
慈助 おうよ!なあ?
翅 うん、そうだね…。
四郎 ありがとう!皆さんの覚悟に感服しました!
語り部Ⅱ ほとんどの者が戦う道を選びました。しかし、食糧の蓄えは3万人により消費されていきます。みるみるうちに。

金作 ああ、空腹が眠気を邪魔する。
水伃 もう夜になるのに?
慈助 食事は1日1回、シャビッシャビの粥1杯だけ。握り飯なんてもう夢のまた夢だな…。 
慈助 大人はまだ良いとして…
金作 之、寝てるのか?
慈助 ああ。…この所ちょっと大人しい気がしないか?
金作 する。良く動き回る子のはずなのにな。

慈助 じゃあ、寝るか。
金作 そう言えば、翅ねえちゃんは?
慈助 え?

水伃 さっき外に居ましたよ。
慈助 おお。ちょっと行ってくる。

慈助 姉貴?
翅 ああ、慈助。
慈助 …どうかしたか?


翅 …お城を出るよ。


慈助 は?


翅 私はもう戦えない。
慈助 どういうことだよ?
翅 今言った通り。お城を出て、幕府に降伏する。
慈助 何で。
翅 こんな状況なのに上の人達は何にもしようとしない。もう無理だよ。慈助達もさ、一緒に来ない?
慈助 俺は…
翅 今のままで、之を守り切れるの?
慈助 それは…いや、出来る。やってみせる。だから、キリシタンの誇りのためにここに残る。姉貴は、後悔しないのか?
翅 私キリシタンじゃないからね!





慈助 え?

翅 キリスト教自体は嫌じゃないよ。けど、捕まる危険を冒してまで信じようなんて思わない。それなのにお母さんもお父さんも同調圧力で半ば強制してきてそれが本当に嫌だった!だから家を離れたんだよ!
慈助 で、でも、俺らをここに誘いに来たのは姉貴じゃねえか。
翅 生活が苦しかったのは同じだからね!でも、私がこの戦に加わった理由はそれだけで、キリスト教なんて言っちゃえばどうでも良い。それに、ここに来る前之はもっと元気じゃなかった?こんなことになるなら、今までの方がまし。むしろ、幕府の言う通り年貢が免除されるなら降伏した方が絶対に良い!

慈助 キリシタンじゃないって、何で今まで言ってくれなかったんだよ!
翅 言えるわけ無いじゃん熱心なキリシタンに!
慈助 幾らでも受け止めたのに。

翅 ごめんね。

慈助 待てよ。今直ぐ行く気か?
翅 そのつもりだけど。
慈助 止めとけ。もうほとんど夜だ。明日で良いだろ?
慈助 別れぐらいさせてくれ。

翅 分かった。明日の朝にするよ。
慈助 ああ。
翅 どこから聴いてた?
金作 最初から。な?
水伃 はい、最初から。
翅 そう。

翅 今生の別れだなんて思ってないからね!
慈助 当たり前だろ。
金作 戻ろう。

翅 先行ってて。ちょっと探し物してくる。
慈助 おう…。

語り部Ⅰ その日、彼らは中々眠れない夜を過ごしました。
語り部Ⅱ しかしやがて、流石に睡魔が優り始め、気付けば眠りに落ちていました。1人を除いて。

慈助 ふあ。…いぎゃああああ!
金作 うるさいな!
水伃 何事ですか⁉︎
慈助 ススススズメバチ!
金作 スズメバチ?
慈助 枕元に!


金作 大丈夫。死んでる。
慈助 死骸でも怖えよ!
之 ねえ、翅おばさんは?
水伃 え?


慈助 何でそんなにスズメバチ探すの上手いんだよ…。

之 翅おばさん、何でいないの?

慈助 その方が、幸せになれるからさ。
之 どうして?
慈助 いつか分かる日が来るよ。
之 …うん。
vi. 猫
信綱 勧告に応える者はごく僅か…。あれを要請しよう。
信綱 恐ろしい集団だ。そしてこの結束の中心こそが例の者なのだろう。数々の奇跡を起こしてきた、神の子。
四郎 見て下さい!オランダの軍艦です!他宗派とはいえ同じ神を信じる立場として助けに来てくれたに違いありません!やはり、神は私達をお見捨てにはならなかった!

声 うおおおお!
金作 やっと…光が…
(突然オランダ船から大砲が発射される。砲弾は原城まで届き、建物を砕き始める。)

金作 何でオランダがこっちに大砲撃つんだ?
水伃 分かんない。

四郎 皆さん避難して下さい!船からなるべく遠い方へ!急いで!

信綱 さあ、まだ命を捨てたいか?

語り部Ⅰ 結局この作戦は、異国の力を借りるとは日本の恥だと非難され、直ぐに中止になりました。
語り部Ⅱ しかし、影響は大きく…

金作 神は見捨てたのか?
水伃 四郎様は、神の御子なんじゃ…?
慈助 こういうことだってあるよ!気、取り直せって!

金作 お前、富さんに似てきたな。
慈助 あいつに?
金作 強くなったよ。

慈助 おう、ありがとう。
金作 俺は希望が見えない。気付いたんだよ。どれだけ耐え続けたって、この城の外に味方は居ない。もう無理だ。

四郎 待って下さい!希望を捨てないで!状況は必ず良くなります!必ず!
四郎 必ず、必ず!…必ず?

慈助 そんなに悲観してもしょうがないだろ。まだ終わってねえよ。
金作 …ほらな、落ち零れとそうじゃない人間の差なんて紙一重なんだ。
慈助 落ち零れとか言うな!
金作 慰めは要らない。その気持ちだけ受け取っとくから今は自分を嘲らせてくれ。


慈助 之がどこ行ったか分かるか?
水伃 いえ。
慈助 最近は食事らしい食事すらまともに出来てないのに、良く動く気になれるな。
水伃 そうですね。
慈助 やっぱ之は之か。
之 おとうさーん。
慈助 おお。
之 魚とりにいこ。

慈助 ふえ?
之 うん。厨のおじいさんがとり方おしえてくれたの。だからとってもってってあげたらすごくよろこぶと思うんだ。あと、そのおじいさんにおとうさんのこと話したら、一瞬だけ顔がすごーくこわくなって、またすぐにいつものやさしい顔にもどったんだよ。おもしろいでしょ?
慈助 お、おお、実に面白い。
之 でしょ?じゃあいこ。
慈助 あ、ちょま。
之 早く!とってきたらおじいさんが料理してくれるんだって!最初は之と金作おじさんと水伃おばさんの分だけって言われたんだけど、「おとうさんにも食べさせてあげて下さい。」ってたのんだら、すっごいいやそうな顔でいいって言ってくれたんだよ!
慈助 何か複雑。

四郎 人々の団結が綻びつつあります。一体この先どうしろというのでしょう?私は貴方ではないのに。それどころか、貴方とは相反する存在です。間違った方へ導いてしまったのですから。お助け下さい!もう何も分かりません!
(突然之と慈助が四郎の目に入る。皆暫時硬直。)
慈助 し、四郎様…。

之 こんにちは。
四郎 初めまして。
之 魚をとりにきたんです。
四郎 魚を…。


慈助 海が、綺麗ですね。

四郎 そ、そうですね。

慈助 四郎様は、良く来るんですか?

四郎 はい、その、物思いに耽りたい時に。

慈助 も、物思い。

四郎 ええ。

四郎 お恥ずかしい所をお見せしてしまったようで。

慈助 恥ずかしい?

四郎 失望したでしょう?
慈助 …失望なんかしませんよ!人間誰だって失敗するし、迷うもんです!
四郎 それでは駄目なんです!私は人間であってはいけない。それでは誰も導けない。
慈助 そうやって1人で何もかもしょい込むんですか?

慈助 それで良いんですか?ただでさえ途轍も無く重いものをしょってるはずなのに!

之 おとうさん、とってもやさしいんです。困ってるならはなしてみたらいいと思います。


四郎 …私は九州のとあるキリシタンの武士の家の子として育てられました。自分で言うのは肩身が狭いですが、学問に関しては優秀な方で、神童と呼ばれることさえありました。
四郎 私が起こしてきたという「奇跡」はご存じですか?
慈助 ああ、はい、十字架握って生まれてきたとか、海の上歩いたとか、目の見えない子供を治したとか。
四郎 私に出来るはずがありません。百歩譲って周りより学問が多少出来たとしても……私はただの人間です。
慈助 じゃあ何でそんな噂が。
四郎 神童と呼ばれた私に最も期待していたのが、父でした。父は長年ずっと、キリシタンが抑圧されていることを屈辱的に思っていました。この一揆を起こす中心となったのも父です。
慈助 父…。
四郎 そんな父は、私を見て、一揆の旗印として育て上げることを考えたようです。そうして超人的な奇跡を私が起こしたという話を様々にでっち上げ、広めていったんです。
慈助 そんなことが…
四郎 私も「お前は神の御子、イエス様の生まれ変わりだ。」と言われ続けました。ただの人の子は身の程知らずにも、文字通りの意味での「神童」という猫を被りました。

四郎 演じ続けなければいけない。人知を超えた、迷いを知らぬ神の御子を。しかし今や信じて付いてきてくれた3万人の期待を裏切るばかり。もう分かりません!


慈助 神の「子供」です。

四郎 え?

慈助 神じゃないんだから、人で良いじゃないですか。

四郎 人で良い?

慈助 人って弱いんです。直ぐ怠けたがるし、怖じ気付くし、絶望して自分を落ち零れだとか言い出すし、守るべきものを忘れるし、別れも言わずに仲間を捨てて出てっちまうし、本当駄目駄目なんです。
慈助 そこんとこから考えると、今までそういう弱い所を一切見せずに皆を希望で照らし続けてこれたのって、それだけで本当に奇跡なんですよ。四郎様は十分凄いです。

四郎 そうでしょうか?
慈助 イエス様だって、案外似たようなものだったのかも知れないですよ。弱さを見せまいとしてても、時には溢れてしまったりして。でも、その方がかえって親近感が湧いて良いと思うんです。そういう人だったからこそ沢山の人に慕われて、その教えがこんなとこにまで広がったんだって考えれませんか?

四郎 そうかも知れませんね。
慈助 それに、誰だって降伏しようと思えばいつでも出来るんです。同調圧力で残ってるんでなければ、最後まで四郎様に付いていく覚悟があるんでしょう。堂々としてましょうよ!


四郎 分かりました。私は戦い抜きます!神の子として、また一人間として。
慈助 俺も戦います!戦死した妻の思いも背負って!
四郎 待って下さい。その十字架は…
慈助 これは、妻の形見なんです。
四郎 妻…。
慈助 はい。
四郎 というのも…見て下さい。
慈助 絵柄がそっくりですね!
四郎 はい。こちら(四郎の持ってる方)の方が質素な印象ですが。
慈助 確かに…。
四郎 その方は、これをどうやって?
慈助 妻は、母から貰ったものだって言ってました。
四郎 母…。
慈助 どうか、したんですか?
四郎 私にまつわる奇跡の噂の話なのですが、実は1つだけ、真実味のあるものがあるんです。
慈助 真実味のある?
四郎 十字架を握って生まれてきたという話です。
慈助 それに真実味が?
四郎 はい、この話だけは母までもが真剣そうに語るんです。しかも、この十字架は今までこれほど良く似たものを見たことが無かったんですが…。
四郎 実は、私は武士の家で「生まれた」わけではないそうなんです。
慈助 というと?
四郎 母の話では、ある師走の日の朝、外に出るとそこに十字架を握って泣いている赤ん坊が放り出されていた。夜になっても誰も拾いに来ないので引き取った。赤ん坊はそのまま成長し、今に至る。そして、その時の十字架がこれなのだ、ということで。

四郎 どうかしましたか?
慈助 実は、妻には小さい頃に消えた弟が居たんです。
四郎 消えた弟⁉︎
慈助 はい、まだ赤ん坊だった弟が、突然消えたって言ってました。その頃妻とその両親は何故か人目を避けるように生活してて暮らし向きも悪くって、だから捨てられたんじゃないかって、妻は推測してました。消えたのも師走って言ってたような。
四郎 そのご両親というのは⁉︎
慈助 詳しくは分かんないですけど、大阪の方から肥後の天草に流れ着いたらしいです。母がキリシタンだったそうなんで、キリシタンが多い天草を選んだんですかね?それと、こんな立派な物(十字架)を持ってるってこともそうですし、妻、強く驚いたりするとたまに変に上品になって。だから、大阪の方には3歳ぐらいまでしか住んでなくて記憶はほぼ無いらしいですけど、結構良い家柄だったのかも。
四郎 そうですか。…弟御は生きていれば今幾つほどに?
慈助 16ですかね。

四郎 私も今、16です。生まれは天草です。


慈助 ってことは…


四郎 もしかすると…


四郎 その、姉上…かも知れない方は、戦死されたと…。
慈助 はい、気の小さい俺を先頭に立って引っ張ってくれる所は今思えば同じでした。これも縁ですかね。
四郎 そう思うことにします。
慈助 妻は、ずっと弟に会いたがってました。いつか天国に行く時は、是非会ってやって下さい。
四郎 天国…。
慈助 何か?
四郎 いえ、何でも。そうですか。今日は本当にありがとうございました。
慈助 どう致しまして。
四郎 お名前をお聞きしても良いですか?
慈助 慈助っていいます。
四郎 慈助さん。魚、獲れると良いですね。(立ち去る。)


慈助 あ、あれ?之ー?
之 おとうさーん、魚いない!
慈助 そうか。まあそう甘くないよなあ。
vii. 贖罪の時
四郎 食糧もほぼ底を突きました。率直に言ってしまえば、私にこの状況を一気に逆転させる力はありません。最早死を待つだけなのかも知れません。
金作 四郎様がそんなこと…。
水伃 でも、四郎様だって私達と同じなんだね。
金作 ああ、何か、助けてやらなきゃって気がしてくるな。
水伃 うん。
四郎 降伏したいという方を止めはしません。自分の意志で決めて下さい。周りがどうしようと、流されないように。
金作 俺は残るよ。
水伃 残る。
慈助 俺もだ。
金作 良いのか?
慈助 どうしようもねえってなったら逃げるさ。
四郎 ありがとうございます。私1人ではどうにもなりませんが、皆さんが力を貸して下さる限り希望は決して途絶えません!
声 おお!

金作 とはいったものの…
慈助 ああ、腹減った。動きたくねえ。
金作 つべこべ言うな。井戸行くぞ。
慈助 はーあ、今や水が主食か。
金作 ちょっとは食えるんだからましだろ。
慈助 その域に達したらもう終わりだよ。
金作 之は大丈夫なのか?
慈助 無理言って食い物は優先的に回してもらってる。今ん所は大丈夫だよ。
金作 そうか…。

信綱 依然降伏する者は僅かか。
信綱 …この国はこの国の民のもの。スペインの広めた神などやはり危険なだけだ。然らば、踏み潰すしかあるまい。
信綱 総攻撃を開始する!全軍突撃せよ!
声 うおおおお!
語り部Ⅰ 遂に幕府軍が再び押し寄せてきました。
語り部Ⅱ 12万もの大軍が飢えて弱った百姓達に容赦無く襲い掛かり、城内は地獄絵図と化しました。(金作倒れる。水伃駆け寄る。慈助引き剥がす。)

之 どこ行くの?
慈助 逃げるんだ!
水伃 嫌です!
慈助 何で!
水伃 私は天国に行きます!
慈助 自分を大切に…
水伃 こうすることが私にとって自分を大切にすることなんです!
慈助 そ、それは…
四郎 皆さん、申し訳ありませんでした!こうなったのは全て、私の至らなさによるものです!ですが、死を恐れることはありません!懸命に戦ってきた皆さんなら、必ず天国へ往けます!本当に、お疲れ様でした!

水伃 神の御子だ…。
慈助 水伃…。
水伃 敵が迫ってきます!早く逃げて!逃げて、私達のことを未来に伝えて!
慈助 伝える…?
水伃 私は人と話すのが苦手であまり打ち解けられないことばかりでした!だからこそ、話し、伝えることの大切さは誰よりも分かっているつもりです!どんなことも伝えなければ無かったことにされる!だから、伝えて下さい!

水伃 さようなら!
慈助 水伃!

之 おとうさん!
慈助 ああ。
四郎 慈助さん!
慈助 四郎様?
四郎 落ち延びるのなら、これ(十字架)を、託されてくれませんか?
慈助 四郎様は?
四郎 ここで果てます。
慈助 …分かりました。確かに受け取りました。

四郎 (イエス様、貴方は仰りました。隣人を自分同様に愛せ。たとえ自分を迫害する者であっても例外無く愛し、その者のために祈れ。だとすれば、幾ら迫害されようと、私達は決して危害を加え返してはならなかったのでしょう。では、ここに居る人々は皆罪に問われるのでしょうか?ならば神よ、その3万の罪は、この戦を煽動した私に全てをお課し下さい。地獄の如何なる責め苦も甘んじて負いましょう。ですからどうか、どうか彼らを天国へ…!)
慈助 どうか天国で富と四郎様が出会えますように。
四郎 姉上、残念ながら貴方にはお会い出来ません。せめて十字架だけでも…。
四郎 皆さん本当にお疲れ様でした!天国へ往きましょう!
水伃 天国へ!
声 天国へ!
声 天国へ!
声 天国へ!
声 天国へ!
epilogue. 伝導 
慈助 ただいま…。
之 ただいま。
慈助 あれ、田んぼがやけに綺麗だな…。

翅 慈助⁉︎之⁉︎
慈助 姉貴…!
之 久しぶり!
翅 生きてたんだね…!
慈助 ああ、ただいま。
之 ただいま!
翅 お帰り!

翅 後の2人は?
(慈助、空を仰ぐ。)
翅 そう…。
翅 でも、2人が帰ってきてくれただけでも本当に良かった!
慈助 ああ、帰ってきたよ。

語り部Ⅰ こうして島原・天草一揆は終結しました。ここ島原には、民に過酷な税負担を強い一揆の元凶となった当時の藩主に替わって新たな藩主が赴任し、復興を進めました。
語り部Ⅱ そんなある日、生き残った者達は、取り壊された原城の跡地を訪ねます。

翅 ここに皆、眠ってるんだね。
慈助 ああ。
之 ねてるの?
翅 そう、寝てるんだ。ずーっとね。
慈助 でも心は天国に行ったんだ。
之 神さまに「おつかれさま。」っていってもらってるの?
慈助 そうさ。皆一生懸命生きたからな。
之 よかったね!

慈助 (皆楽しくやってるか?こっちはあれから取り締まりが更に厳しくなったよ。でも俺らは決して屈しない!穴に隠れてだって信仰は続けてやるさ!皆の思いを無駄にはしない!四郎様も見てて下さいね!四郎様の意志も十字架と一緒に俺が未来に伝えます!それがきっと、残された俺の生きる意味なんですから!)
慈助 さ、戻ろう。
之 もう?
慈助 ああ、仕事しなきゃなんねえんだ。あんまりサボったらまた、骨を折られる。


語り部Ⅰ やがて長い冬が明けました。一八七三年、禁教令、解除!
語り部Ⅱ 一揆の終結から更に235年もの歳月を、キリシタン達は耐え抜いたのです!
語り部Ⅰ・Ⅱ (2本の十字架を取り出して)さあ、伝えましたよ。

(おしまい)

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