【登場人物】
イルマズ箴(18):日本とクルドのハーフの高校3年生。
イルマズ・コチェル(57):箴の父親。
イルマズ愛菜(15):箴の妹で高校1年生。
イルマズ練(4):箴の弟で幼稚園児。
瀬戸裕也(18):箴の同級生。
山中俊介(18):箴の同級生で揶揄って来る。
草間玲(18):箴の同級生で箴の憧れ。
池松神父(40):キリスト教の神父。
その他
【本編】
○メインタイトル
《ORDIEL -試練-》
○川口市 私立高校 礼拝堂 (朝)
池松神父(40)、ステージで両手を広げ祈る。
池松「イエスは、神を愛し、教えに忠実に従って生きるな
らば、神から多くの祝福を受けるとおっしゃいました。
どうか、私たちが何ごとにも忠実で、また、神の祝福を
受けるにふさわしい人になれますように。アーメン。」
オルガンの音が静かに響く。
池松の背後のプロジェクターには聖句が写されてい
た。
以下、画面上
× × ×
《今日の御言葉『忠実な人は多くの祝福を得る 箴言
28:20』》
× × ×
礼拝が終わった後、生徒たちは聖書を閉じて外へ出よ
うと歩く。
イルマズ箴(18)、前を歩く生徒がペンを落としたのを
見る。
前の生徒、歩いていく。
箴、ペンを拾い追いかける。
箴「待って」
前の生徒、振り向く。
箴、ペンを差し出す。
箴「落としたよ」
生徒「ども……」
前の生徒、そそくさと走り去る。
そして前方の友人と合流し笑顔を見せ談笑を始めた。
すると瀬戸裕也(18)、後ろから箴の肩を組む。
裕也「ぅいお疲れ〜」
箴、裕也が持つ教材に目が行く。
箴「おっす、あれ、何で教科書とか持ってんの?」
裕也「いや1時間目から移動だろ、忘れてた?」
箴「やべ、取ってくるわ」
裕也「あいよー」
箴、駆け足で礼拝堂を出る。
○川口市 私立高校 3-B教室 (朝)
箴、息を切らし教室に入る。
自分の席に山中俊介(18)が座り近くの席の友人と談笑
していた。
箴、ゆっくりと俊介に近付く。
箴「あ、あの……」
俊介「マジかよ! ぶはは!」
箴「えっと……」
俊介の友人、箴に気付き合図する。
俊介、振り返る。
俊介「あぁごめん、席借りてたわ」
箴「いやぁあの、荷物取ったらすぐ行くから」
俊介、座ったまま箴の肩を叩く。
俊介「そんなビビんなくて良いだろ。大丈夫だって、俺が
嫌いなのは純粋なクルド人だけだから!」
箴「俺の親父……純クルド人だけど」
俊介「やっぱ訂正、悪いクルド人な」
俊介、立ち上がり友人たちと教室を出て行く。
箴、席に座り机の中を漁った。
すると草間玲(18)、箴に声を掛ける。
玲「大丈夫……?」
箴「あぁうん、大丈夫だよ慣れっこだし」
玲「慣れるまで言うって酷いよね。私から言っとこう
か?」
箴「いや良いよ、無理に草間さんが言う必要は……」
玲「そう? じゃあ行くね、イルマズも急いだ方がいい
よ」
玲、去って行く。
箴「うんっ……!」
箴、玲の長い髪を見つめた。
○川口市 私立高校 3-B教室 (夕)
放課後、箴と裕也は鞄を背負う。
裕也「今日このあと暇?」
箴「ごめんバイト。父さんが早上がりだからさ、その分俺
が働かなくちゃいけなくて」
裕也「そっか練のお迎えかー、愛菜じゃダメなの?」
箴「部活。スポーツ推薦だから休む訳にはいかないって」
裕也「そんでお前に損が回って来てると」
箴「別に損じゃねーよ、必要な事だし」
裕也「青春できる内にしといた方が良いぜー? ホラ、バ
イトさえ無ければ草間さんデートに誘えるかもだろ」
箴「はぁ⁈ 何で草間さんなんだよ?」
裕也「山中に揶揄われてよ、いつも慰めてもらってるだ
ろ。それで好きになんねーの?」
箴「そんなんじゃないって……」
○川口市 コンビニ (夜)
箴、制服を着てレジに立つ。
箴「いらっしゃいませー」
酔っ払った男、来店する。
フラフラとレジ前にやって来る。
男「クールボックスカートンで」
箴「えっと……」
箴、タバコの棚を探す。
男「チッ、260だよ260! 早くしてくれっ……」
箴、クールボックスを手に取り在庫を確認する。
箴「申し訳ありません、只今こちら5つしか在庫がなく
て……」
男「んだよ待たせた挙句、じゃあ良いよ5つで」
箴、レジに打ち込む。
男、箴の"イルマズ"と書かれた名札を見る。
男「こっち長ぇの?」
箴「え? あぁ、生まれも育ちも日本です。父がこっち来
てから生まれて」
男「最近増えたよなぁクルド人。何なんだろうな」
箴「さぁ、何なんでしょう……」
箴、タバコ5つとレシートを渡す。
男「レシートいらね、じゃ」
男、コンビニから去る。
箴「ありがとうございましたー」
店長、レジに入る。
店長「イルマズ君、大丈夫だった?」
箴「はい、慣れっこなんで」
店長「ああ言う人も増えてるからねー。大丈夫だよ、イル
マズ君は他と違うって知ってるから」
箴「ありがとうございます……」
○川口市 アパート イルマズ家 玄関 (夜)
箴、アパートの部屋の扉を開ける。
箴「ただいまぁ」
イルマズ練(4)、よちよち走ってくる。
そのまま箴に飛びついた。
箴、練を抱き上げる。
練「おかえりー」
箴「練、まだ起きてたのか」
イルマズ愛菜(15)、練の後ろから来る。
愛菜「兄ちゃんに会うまで起きてるってうるさいの。ホラ
練、もう寝るよー」
練、箴に強くしがみ付く。
練「嫌だー」
箴、練の頭を撫でる。
箴「いい子は9時には寝るんだぞー?」
練「うん……」
練、箴から降りる。
箴と手を繋ぎ家の中へ。
○川口市 アパート イルマズ家 居間 (夜)
居間、テレビで夜のニュースが流れている。
テレビ台の横には日本人女性の遺影が。
イルマズ・コチェル(57)、床に座りちゃぶ台に置かれ
た履歴書に記入している。
箴の姿が見え手を振る。
コチェル「おーお疲れー」
箴、ちゃぶ台の履歴書を見る。
箴「父さん、まさかまたクビ?」
コチェル「本当に申し訳ない、人件費削減だって」
箴「だから資格とかある仕事すりゃ良いって言ったじゃ
ん」
コチェル「勉強してる間お前が苦労するだろ」
箴「それは良いって言ってるじゃん、父さんが不安定な方
が心配だよ」
練、おもちゃを出そうとする。
箴「あ、練。寝なきゃだって」
練「えー」
箴「ホラ、布団行くよ」
箴、練の背中を押し寝室へ連れて行く。
コチェル、箴の背中を見つめ溜息を吐いた。
× × ×
練、寝室で眠っている。
箴、床に座りコチェルと向かい合う。
箴「資格ならすぐ取れるものもあるから、そーゆーの要ら
ない仕事やってたらまたすぐクビだって」
コチェル「でも資格取るのにも金かかるだろ? その間は
どうすんだよ」
箴「だから俺が稼ぐって。バイトも増やすからさ、俺を楽
にするって考えたら頑張れるでしょ?」
コチェル「まぁそうだけどさ」
するとテレビのニュースで新たな報道がされる。
以下、画面上
× × ×
キャスター「本日未明、埼玉県川口市のコンビニエンスス
トアに強盗が入り店員に暴行を加えた後、商品を数点盗
み、その他商品を金属バットで破壊したとの情報が入り
ました。被害者の証言から犯人は複数名でクルド人であ
ったと思われます」
監視カメラの映像が映る。
クルド人男性の2人組が金属バットを店内で振り回し
ている様子が映された。
× × ×
コチェル、リモコンでテレビを消す。
そのまま立ち上がった。
コチェル「お前晩飯まだだろ? 今温めるから」
コチェル、冷蔵庫を開けラップのかかった料理を電子
レンジに入れて温める。
箴、唇を噛んだ。
× × ×
箴、温められた食事を前に手を合わせる。
箴「天に在られる我らの父よ、今日もこの食事を感謝しま
す。どうか父の仕事が見つかり安定した日々が過ごせま
すように、練の幼稚園での日々もお守り下さい。そして
愛菜の学校生活も上手く行きますように、部活で大変だ
とは思いますがしっかり心を安らげるようにお願いしま
す。主イエス・キリストの御名によってお祈りします、
アーメン」
箴、食事を始める。
愛菜、その様子を見ていた。
愛菜「ねぇ、自分の事は祈らないの?」
箴「え? あぁ忘れてた。まぁいいや」
愛菜「たまには自分も大事にしなよ、兄ちゃんがしんどい
の見てられないからさ」
箴「別にしんどくねぇよ、お前らが大変な思いする方がし
んどいって」
愛菜「はぁ、いっつもそれだね。じゃあ私寝るから」
愛菜、立ち上がる。
箴「明日も朝練?」
愛菜「そ、せっかく推薦で行かせてもらえたんだから」
愛菜、寝室へ向かう。
箴、食べ進めた。
○川口市 アパート イルマズ家 寝室 (夜)
家族4人、同じ寝室で布団の上で寝ている。
○川口市 教会 礼拝堂 (日替わり朝)
箴、コチェル、練の3人、礼拝堂の席に並んで座る。
近くに座る参列者に軽く会釈をした。
池松、壇上に上がる。
池松「本日も日曜礼拝にお集まり頂き感謝します。では皆
さんでお祈りを捧げましょう」
参列者たち、両手を握り祈りの言葉を聞く。
池松、両手を上げ祈る。
池松「天に在します我らの父よ、今日ここに皆が集められ
た事を誠に感謝致します。今日も皆が神の御言葉を聞き
天の道に近付けるようお導き下さい。そしてイルマズ兄
弟のご家庭をお救い下さい、母を亡くし困難な道を歩ん
でいる所だと思いますがどうか忠実な彼らに祝福があら
んように……」
箴、目を閉じ両手を強く握った。
× × ×
礼拝の終了後、箴たちは池松の所へ。
練、箴の足にしがみ付いている。
コチェル、池松と握手する。
コチェル「先生、ありがとうございます祈ってくれて」
池松「いえいえ、お仕事の方は見つかりましたか?」
コチェル「それがまだで……面接もしたんですけど全部落
ちました」
池松「そうでしたか……我々も祈っておりますので、この
試練を乗り越えればきっと明るい未来が見えますよ」
コチェル「ありがとうございます」
しかしコチェル、顔を下げる。
コチェル「でも未だに私は洗礼を受けてないです。箴はと
っくに信仰を告白してると言うのに、私はまだ迷ってる
んでしょうか……?」
池松「……まだ同胞を裏切ったとお考えですか?」
コチェル「えぇ、その悩みは消えてないです。私がイスラ
ムをやめてこちらに来たからクルドからも追い出されて
子供たちも居場所がない……」
池松、コチェルの肩に手を置く。
池松「居場所ならありますよ。神も我々もあなた方を受け
入れてます、優菜姉妹がここに連れて来た時からね。受
け入れられる事を受け入れるのも立派な信仰の一歩です
よ」
コチェル「はい、ありがとうございます……」
池松、箴を見る。
池松「そういえば箴くん、大学の方は?」
箴「明日結果を教えてくれます、池松先生も後押ししてく
れたので大丈夫だと思いますけど」
池松「なかなかあそこの推薦は厳しいけどね、クリスチャ
ンだって事は大きいから。それまで祈ってなさい」
箴「はい、そうします」
池松、コチェルを見る。
池松「愛菜ちゃんは部活ですか?」
コチェル「はい、やっぱ土日も忙しいみたいで」
池松「たまには教会にもいらっしゃいって言っておいて下
さい」
コチェル「いつも言ってるんですけどね」
箴、壁に掛けられたキリストが十字架に架けられる絵
画を眺める。
池松、そこに近付く。
池松「大丈夫だよ、君は神の試練に忠実に向き合ってる。
そういう人は必ず祝福されるから」
箴「前に学校で言ってた聖句ですね。分かってます、クル
ド人ってだけで警戒されちゃうのは仕方ないから……せ
めてそこはちゃんとしないと」
池松「そうそう、君はいつもちゃんと聞いてくれて嬉しい
よ。神はしっかり見てくれてるから。安心しなさい」
箴「はい」
○川口市 街中 道路
イルマズ家の3人、歩道を歩く。
するとマクドナルドが見えた。
練、そちらを指差す。
練「あれ食べたい!」
コチェル「えー金ないからなぁ、それに日曜だから混んで
るぞ?」
練「嫌だ食べたいー!」
コチェル、泣き出す練を抱き上げる。
コチェル「帰ったらパパがもっと美味いもん作ってやるか
らな、急ぐぞ!」
コチェル、練を抱き上げながら走り出す。
箴、慌てて走り出した。
○川口市 アパート イルマズ家
箴、食べ終わった食器をキッチンへ持って行く。
コチェル、洗い物をしていた。
練、玩具で遊んでいる。
箴「はいこれ」
コチェル「あいよー」
箴、練の方へ向かい床に座る。
するとスマホに通知が、確認すると愛菜からだった。
家族のグループにメッセージが。
以下、画面上
× × ×
愛菜「年明けの新人戦あるでしょ? レギュラーに選ばれ
ましたー!」
× × ×
箴、飛び上がり報告。
箴「すげぇ、愛菜がレギュラーだって!」
コチェル「マジ⁈ 新人戦で⁈」
箴「そう!」
コチェル「うぉー!」
コチェル、洗い物を中断し泡がついたままの両手で箴
の頬を触る。
箴の頬に泡がついた。
箴「おいやめろって……」
しかし箴、笑っている。
コチェル、次に練を抱き上げる。
コチェル「姉ちゃんがやったぞー!」
練、服が泡まみれになる。
コチェル、練を抱き上げたまま踊った。
○川口市 河川敷 (日替わり)
コチェル、スーツ姿で肩を落とし歩いている。
スマホに電話が掛かってきた。
コチェル、応答する。
コチェル「もしもし?」
電話の相手、箴だった。
箴「父さん? 推薦してくれるってさ! 受かれば奨学金
も出るって!」
コチェル「マジかやったな!」
箴「で父さんは? 面接どうだった?」
コチェル「あーこれは絶対落ちたわ……反応で分かる」
箴「そっか……でも俺は上手くやるからさ、もうちょいゆ
っくり決めなよ」
コチェル「でもお前の負担増やしちまうぞ……?」
箴「池松先生も言ってただろ、これは試練なんだよ。忠実
に受け止めて乗り越えれば祝福されるって。だから今は
頑張る期間なんだよ」
コチェル「はは、そーゆー理解ね」
箴「そうそう、俺の解釈。だからあんま心配すんなよ」
コチェル「あぁ、それじゃ」
コチェル、電話を切る。
そのままスマホで家族のグループを見た。
そこには愛菜がレギュラーに選ばれたというメッセー
ジ。
コチェル、静かにガッツポーズをした。
すると橋の下にクルド人たちが集まっているのを見つ
ける。
コチェル、彼らと目が合った。
コチェル、手を振ってみるが無視されてしまう。
そのまま歩き去った。
○川口市 私立高校 3-B教室
箴、教壇に立つ。
隣で玲が黒板に文字を書こうとしている。
箴「ではクリスマス特別礼拝の讃美についての話し合いを
始めます」
箴の視線の先では机に座る同級生たちが話を聞かず談
笑している。
裕也だけが真剣に聞いていた。
箴「おーい、話始まってるぞー」
クラス内の談笑、止まらない。
裕也、溜息を吐く。
玲、声を上げた。
玲「ちょっと皆んな! 真面目に聞かないとずっと終わら
ないよ⁈」
同級生たち、前を向く。
箴「あ、ありがとう草間さん」
玲「良いよ、やんなきゃいけない事だし」
玲、箴に微笑む。
箴、仕切り直す。
箴「じゃあまずピアノ伴奏を決めたいと思います。例年通
りだと草間さんだけど……」
箴、玲を見る。
玲「私で良いよ、他にピアノ出来る人いないでしょ?」
箴「じゃあ曲だけど候補の中から何か歌いたいのあります
か?」
玲、候補曲を黒板に書いていく。
候補はきよしこの夜、もろびとこぞりて、神の御子は
今宵しも、荒野の果てに。
しかし誰も発言しない。
裕也、見かねて発言した。
裕也「もろびとこぞりてなら有名だし皆んな歌えるんじゃ
ない? 去年も3年生歌ってたし」
箴「いいね、じゃあ1票」
玲、もろびとこぞりてに正の字の一角目を書く。
すると俊介を始めとした同級生たちが小声で会話を始
める。
箴、それに気付き俊介に問う。
箴「じゃあ山中くん、なんかある?」
俊介「俺? いやーその辺はガチクリスチャンのイルマズ
が決めた方が良いんじゃない? 俺らが考えた所でね
ぇ?」
箴「いやでもクラスの発表だから俺個人の意見じゃ決めら
れないよ」
俊介「俺らはお国柄そーゆーのには疎いからな、分かって
る奴がいるなら任せた方が良いよ。だから学級代表にも
選ばれたんだろ?」
俊介、席が近くの同級生たちとまた小声で話し始め
る。
箴、それを見て顔を下げる。
玲、ゆっくり前に出た。
玲「皆んな! 真面目に聞いて!」
クラス内、一斉に玲を見る。
玲「何でもイルマズに押し付けて、彼が文句言わないか
らって良い気になり過ぎ!」
俊介、座りながら伸びる。
俊介「ま、しゃーないか玲が言うなら」
玲、箴に振り向く。
玲「今回は私に任せて、書記やってもらおうかな」
箴「ありがと……」
箴、チョークを手に取った。
○川口市 ゴミ処理場 外観 (日替わり)
コチェル、スーツを着て出て行く。
スマホに電話が、応答する。
コチェル「もしもしイルマズです……え、はい、すぐ向か
います」
コチェル、走り出す。
○川口市 保育園 空き教室
コチェル、椅子に座り保育士と向かい合う。
練、コチェルの隣に座る。
頬には絆創膏が貼ってあった。
保育士「何度か揶揄われる事はあったんですがとうとう限
界が来たみたいで……」
コチェル「そうですか……」
練、涙目で語る。
練「だってふうが君がいっつもパパのことバカにするか
ら……」
コチェル「俺のために怒ってくれたのはありがとな。でも
殴っちゃダメだ、そしたら同じになるだろ?」
練「でもずっと嫌だったんだもん……」
練、静かに泣き出してしまう。
コチェル、練の頭を撫でる。
コチェル「今日はもう帰らせます。練、明日ちゃんと謝れ
るか?」
練「うん……」
○川口市 保育園 外観
コチェルと練、保育園から出る。
コチェル、少し立ち止まる。
コチェル「なぁ、ちょっと寄り道しないか?」
練「寄り道?」
コチェル「パパと遊ぼうよ」
コチェル、練の手を取り歩き出す。
練「どこ行くの?」
コチェル「そうだなぁ。あ、マック行ってみるか?」
練「いいの⁈」
コチェル「平日だから混んでないでしょ」
練、スキップしながら歩く。
○川口市 マクドナルド 店内
練、ハンバーガーを頬張る。
テーブルにはハッピーセットの玩具が開封されてい
た。
コチェル、ポテトだけを食べながら練を眺める。
コチェル「美味い?」
練「うん! パパも食べる?」
コチェル「はは、ケチャップ付いてるぞ」
コチェル、ナプキンで練の口を拭く。
コチェル「パパはいいよ、練が食べなさい」
練「でもパパ、ポテトだけでいいの?」
コチェル「いやー実はさ、さっき食べて来ちゃったんだ。
お腹いっぱいなんだよ」
練「残念だねー、せっかくなのに」
練、また頬張る。
コチェル「おいまた付いてる」
コチェル、再度ナプキンで拭いた。
すると入口から新たな客が来てコチェルはそちらを見
る。
それはクルド人たちだった。
コチェル、顔を下げる。
するとクルド人の中の1人がコチェルに気付いた。
※以下、クルド人とのやり取りはクルド語
クルド1「よぉ、最近はどうだ?」
コチェル「まぁ普通かな……」
クルド2「普通ね、イエスって奴に縋ってソレか」
コチェル「そんなこと言うなよ、今は試練の最中だ」
クルド1「ガキにも信じさせてんのか?」
コチェル「子供たちは自分から信仰してる、迷ってんのは
俺だ」
クルド1「フン、裏切った割にソレか。ヘリンは未だに独
身なんだぞ、親父の介護しながらな」
コチェル「言ったろ、ヘリンにはもっと良い人いるって」
クルド人たち、コチェルを強く睨む。
すると番号が呼ばれた。
店員「281番のお客様ー」
クルド人たち、商品を取りに向かう。
無言でコチェル達の所から去った。
コチェル、練を見る。
練、不安そうにコチェルを見ていた。
コチェル「食ったらさっさと帰るぞ」
コチェル、ポテトを数本取り頬張った。
○川口市 コンビニ (夕)
箴、売り場に出て品出しをしている。
するとお菓子コーナーでキョロキョロする男児を見つ
けた。
箴、不思議そうに男児を見ている。
すると男児、ポケットにお菓子を入れてコンビニから
外へ出る。
箴「うわっ……」
箴、慌てて追いかける。
店長、箴に問う。
店長「どうした⁈」
箴「万引きです!」
箴、コンビニから出て追いかける。
○川口市 道路 (夕)
箴、男児を追いかける。
箴「君! 待って!」
男児、走っているとポケットに仕舞ったお菓子を落と
してしまう。
男児、振り返り拾おうとするが箴に腕を掴まれる。
男児「あっ……」
箴「これお会計してないよね?」
男児「うっ……」
男児、振り解こうと暴れる。
箴、何とか押さえつけようとする。
すると男児、泣き出してしまった。
男児「うぇぇぇんっ……」
箴、慌ててしゃがみ目線を合わせる。
箴「あっ、えっと……」
すると角を曲がって来た通行人が電話をしている。
通行人「えぇ、外国人が子供を……はいっ」
箴、周りを見る。
スマホで動画を撮っている人までいた。
箴「ち、違いますっ! 万引きなんです……!」
箴が人に近付いても誰もが遠ざかった。
その隙に男児は逃げてしまった。
○川口市 コンビニ 外観 (夕)
箴と店長、パトカーで去る警察に頭を下げる。
パトカーが去った後、頭を上げた。
店長「監視カメラ万々歳だね」
箴「焦りましたよマジで……」
店長「疲れたでしょ、もう帰って良いよ」
箴「え、でもまだ時間……」
店長「怒られるかもだけどボーナス出しとくから、お金は
心配しないで」
箴「……すみません、じゃあ失礼します」
○川口市 アパート 外観 (夜)
箴、アパートの前で愛菜と鉢合わせる。
愛菜、バドミントンのラケットを抱えていた。
箴「愛菜、今帰ったの?」
愛菜「ちょうど部活終わったから」
箴「そっか」
2人、階段を登る。
○川口市 アパート イルマズ家 (夜)
箴と愛菜、共に帰宅。
箴「ただいまー」
練、駆け寄る。
練「あー、兄ちゃんと姉ちゃん一緒だ!」
箴、練を抱き上げる。
頬の絆創膏を見た。
箴「ほっぺのソレどうした?」
練「んー、喧嘩しちゃった」
箴「マジかよー」
三兄弟、居間に入る。
コチェル、テレビでニュースを見ていた。
以下、画面上
× × ×
キャスター「本日未明、川口市内の商店に強盗が入りまし
た。店主に暴行を加えた後、商品数点を盗んだ模様で
す。証言から犯人はクルド人であったとされます」
× × ×
箴、テレビを消す。
コチェル「あ」
箴「こんなニュースばっかで嫌になるだろ、何でわざわざ
見てんだよ」
コチェル「今日早くね?」
箴「まぁ、色々あってさ……」
コチェル「じゃあ今日は久々に全員で飯食えるな」
箴「そうだね、もう出来てる?」
コチェル「あぁ、盛るわ」
コチェル、立ち上がる。
コチェル「今日は自信作だぞー、優菜にもあげるか」
コチェル、少量のパスタを小皿に盛り遺影の前へ。
コチェル「そっちはどうだー? 俺たちは絶賛試練乗り越
え中だぞ」
箴、そんなコチェルの姿を見ていた。
○川口市 アパート イルマズ家 (夜)
箴、練と遊んでいる。
コチェル、洗い物をしていた。
愛菜、スマホでSNSを見ている。
するとある投稿を見かけた。
以下、画面上
× × ×
『クルドが小学生カツアゲしてて草』
× × ×
動画が添付されておりそこには箴が万引きした男児を
押さえつける様子が切り抜かれていた。
愛菜、箴を一瞬見てスマホを消す。
立ち上がり風呂場に向かった。
愛菜「じゃあ私風呂入ってくるから」
箴「練も早めに入れなきゃだから急ぎでなー」
愛菜「分かってるー」
箴、練と遊び続けた。
○川口市 私立高校 外観 (日替わり朝)
翌朝、生徒たちが登校している。
箴の姿もあった。
○川口市 私立高校 廊下 (朝)
箴、教室に向かって歩く。
生徒たち、箴をジロジロ見ている。
箴、視線を気にする。
○川口市 私立高校 3-B教室 (朝)
箴、教室に入る。
賑わっていた教室、一瞬で鎮まる。
箴「え、何……?」
裕也、箴に近付き机に座らせる。
裕也「おい、これ知らないのか?」
裕也、スマホを見せる。
画面には箴が万引きした男児を押さえつける動画が映
されていた。
箴「何でこれ……」
裕也「お前が小学生に暴行したって拡散されてるぞ……」
箴「いやいや! 万引きしてたから捕まえただけだっ
て!」
裕也「分かってるよ、俺は分かってる。でも悪い切り取り
方されたから誤解が凄い事なってんだ……」
裕也、箴に見えないようにコメント欄を確認。
心無い言葉で溢れていた。
すると担任が入ってくる。
担任「座ってー、出席取るぞ」
男子生徒が1人手を上げる。
生徒「先生ー、俊介が来てません」
俊介の机、空いている。
担任「山中はな……ニュース見たか?」
生徒「え、まさかあの商店って……」
担任、静かに頷く。
担任「あとイルマズ。ホームルーム終わったら職員室に来
てくれ、理由は分かってるな?」
箴「は、はい……」
箴、膝が震えていた。
○川口市 私立高校 職員室 (朝)
箴、担任から質問されていた。
担任「じゃあ本当に万引き犯を捕まえただけなんだな?」
箴「はい、そうです。俺そんな事しませんもん」
担任「じゃあ1つ聞くが、この学校がバイト禁止なの分か
ってるか?」
箴「あ……」
担任「お前の家庭の事情は知ってるけどな、この学校に通
う以上はルール守ってもらわないと」
箴「はい……」
○川口市 コンビニ 事務所 (夕)
箴、事務所で店長と向かい合い話す。
店長「本当に悪いけど、店のイメージのためだから……君
が頑張ってくれたのは分かってる」
箴「いえ、でも父の仕事が見つかるまでどうすれば良い
か……」
店長「次の給料までは払えるからさ、何とか頑張ってとし
か言えない……」
箴「すみません、ありがとうございます……」
箴、立ち上がり去る。
○川口市 コンビニ 外観 (夕)
箴、トボトボ歩き出す。
店長、袋を持って追いかけて来た。
店長「待って!」
箴、振り返る。
店長、息を切らしながら袋を渡す。
中には弁当が入っていた。
店長「廃棄のやつ、本当はダメだけど家族で食べてよ」
箴、店長に向き直り頭を下げる。
箴「ありがとうございます、頂きます」
店長、箴の肩に手を置く。
店長「本当に頑張って。今度は客として来てよ」
箴「はい……っ」
箴、振り返り歩き出す。
○川口市 山中家 商店 (夜)
俊介、荒らされた商店を中から眺めている。
警察、中を調べている。
所々に警察のつけた印があった。
警察、俊介の肩に手を置く。
警察「大丈夫、犯人は絶対捕まえるから」
俊介「でも意味あるんすか? まだまだクルドは残ってま
すよ……」
警察「そこは政治家の人達に任せるしかないな……でも新
しい知事が難民対策について動いてるから」
俊介「……待つしか無いっすよね」
すると俊介の母、家の中から呼ぶ。
母「俊介ー、ご飯ー」
俊介「はーい」
俊介、家の中に入る。
○川口市 山中家 居間 (夜)
俊介、両親とテーブルを囲い食事。
テーブルには松葉杖が立てかけられている。
父の左足には包帯が巻かれていた。
母「いつ営業再開できそうなの?」
父「分からん、警察の取り調べが終わらんと」
母「じゃあそれまで収益は? 何で私たちがこんな……」
俊介、顔を落としている。
俊介「政府が難民なんか受け入れるからだ」
俊介、途中で箸を置いて去ってしまう。
母「ねぇご飯は⁈」
○川口市 道路 (夜)
俊介、ポケットに手を入れ歩いている。
ある一軒家に辿り着いた。
○川口市 草間家 外観 (夜)
俊介、スマホを見ている。
玲が扉を開けて出て来た。
玲「ん、入って」
俊介、中に入る。
○川口市 草間家 玲の部屋 (夜)
俊介と玲、ベッドに座る。
玲「家の方は……?」
俊介、首を横に振る。
玲、顔を落とす。
俊介、の隣に座った。
俊介「全部最悪だよ、店のものはぶっ壊れるし親父は足怪
我して杖必要だし。クルドなんかクソだ......」
俊介、顔を押さえて涙を流す。
玲、俊介の背中を摩る。
玲「泣かないで、私がいるから」
俊介、玲に勢いよく抱き付く。
俊介「なぁ、慰めてくれんのか.......?」
俊介、玲に口付け。
舌を入れて行く。
玲「んっ、ちょっと待って......」
俊介、一度離れる。
玲「今日ゴムないよ……?」
俊介「知るかよ……」
俊介、再度口付けした。
○川口市
枯葉が落ち、雪が降り始める。
○川口市 草間家 外観 (数日後朝)
外、雪が少し積もっていた。
○川口市 草間家 居間 (朝)
玲の両親、朝食を取っている。
父「そういえば玲は?」
母「起きて来ないね……」
父、大声で呼ぶ。
父「玲! 起きろ! 学校だぞ!」
数秒後、静かに扉が開く音が聞こえる。
階段をゆっくり降りる音がする。
父「もっと急ぎなさい! 遅刻するぞ!」
階段から転がり落ちる音が聞こえた。
両親、慌てて向かう。
○川口市 草間家 廊下 (朝)
玲、階段から転がり落ちていた。
母、駆け寄る。
母「玲! 大丈夫⁈」
母、玲を抱き上げる。
玲「気持ち悪い……」
玲、そのまま嘔吐。
父、立ち尽くしている。
母「ちょっと! 拭くもの持って来て!」
父「あ、あぁ……!」
父、タオルを持って来た。
母「こんなんじゃダメでしょ! あなた本当何もわかって
ない!」
父「いや俺だってなぁ、色々やってんだよ……」
母、立ち上がり洗面所へ向かって歩いた。
○川口市 草間家 玲の部屋 (朝)
玲、ベッドに寝ている。
○川口市 草間家 居間 (朝)
母、電話している。
母「はい、じゃあお願いします……」
母、電話を切る。
父「なぁ、本当に欠席で良いのか? 回復したら遅刻で
も……」
母「何言ってんの! こんな時まで成績⁈ 多分あなたの
ソレが追い詰めたんでしょ!」
父「何言ってんだ、俺は……っ」
その時テレビのニュース番組が8時を知らせた。
父「……俺は仕事行くぞ」
父、家を出た。
母、溜息を吐く。
○川口市 私立高校 3-B教室 (朝)
女子生徒たち、話している。
女子1「今日玲休みだってー」
女子2「風邪かなー、季節の変わり目だしね」
箴と裕也、聞いていた。
裕也「残念だな」
箴「何でだよ……」
○川口市 草間家 居間
母、洗い物をしている。
玲、階段から降りて来た。
○川口市 草間家 トイレ
玲、片手に妊娠検査キットを持っている。
反応を見て頭を抱えた。
○川口市 草間家 居間 (夜)
玲、家族と夕食。
父「良くなったなら行けば良かったな」
母「まだ言ってる……」
父「だってこの時期だぞ? 成績落としたら大変だろ」
母「そんなに学歴が大事? 体調崩してまでやらせる
事?」
玲、食べずに俯いている。
震えながら口を開いた。
玲「あの、さ……っ!」
父「どうした?」
玲、父と目が合い冷や汗を流す。
顔を下げた。
玲「……明日は学校行けると思うから、心配しないで」
父「そうか良かった」
父、食事を続けた。
玲、震えていた。
○川口市 草間家 玲の部屋 (夜)
玲、ベッドで横になりスマホを見ている。
検索履歴には『高校生 妊娠』などの言葉が連なって
いた。
画面をスクロールしているとあるニュースが目に止ま
る。
以下、画面上
× × ×
「度重なるクルド人による被害。高まる住民たちの不安」
× × ×
玲、息を呑み画面を眺めた。
○川口市 私立高校 グラウンド (日替わり)
強い雨が降っていた。
雨が少し積もった雪を濡らす。
箴、上着を羽織り器具を体育倉庫へ持って行く。
その間、雨に濡れていた。
箴「はぁ……」
箴、外を見る。
すると玲も器具を持ってやって来た。
全身が濡れている。
玲「ふぅー、冬なのに凄い雨だね」
箴「草間さんも任されたんだ……?」
玲「代表だからってね、これじゃ昼休み終わっちゃう」
箴「まだまだ残ってるよね……」
箴、跳び箱の上に座る。
溜息を吐いた。
玲「大丈夫……?」
箴「いや、久々にマトモに喋ってもらえたなと思って」
玲「あぁ……みんな酷いよね、悪くないって証明されたの
に」
玲、箴の前に立つ。
箴「うん、本当に……」
箴、顔を上げる。
玲、上着を脱ぐ。
体操着が濡れて透けていた。
玲「動いたら汗かいちゃってさ、寒いのに暑い感じ」
下着の色や形が分かる。
箴、目を逸らす。
すると玲、箴の隣に座る。
手が触れるほど近い。
玲「色々聞いたよお家の事情。バイトも続けられなくなっ
て大変だね……」
箴「本当何でなんだろう、俺ずっと頑張ってんのにな……
神様、見ててくれてないのかも……」
玲「私は見てるよっ、だからえっと……」
玲、息を呑む。
玲「私に何か出来る事、あるかな……?」
玲、恐る恐る箴の手に触れる。
冷や汗が流れていた。
箴「いや良いよ、俺なんか助けたら君まで悪く思われちゃ
うよ……?」
箴、立ち上がる。
玲、唇を噛み箴の手を掴んだ。
箴「え、何……?」
玲「あの、あのさ……私これくらいしか出来ないけど……
何かさせて……?」
玲、震えた手で箴の手を掴み胸を触らせる。
箴「ちょっ、何してんのさ……⁈」
箴、慌てて手を離す。
玲、立ち上がり箴の頭を掴む。
そして自らの胸に顔を押し付けた。
箴「んむっ……」
玲「遠慮しないでお願い……本当は辛いんでしょ? 辛か
ったら泣いて良いからね?」
箴、抵抗するが力が抜けて行く。
そのまま静かに涙を流した。
箴「何でだよぉ、忠実にしても全然報われない……っ!
何が試練だよっ……」
玲「よしよし……」
玲、箴の頭を撫でる。
そのままマットに優しく押し倒した。
体育倉庫からはしばらく誰も出て来なかった。
○川口市 アパート イルマズ家 (日替わり)
カレンダーには土曜日まで印がつけられている。
箴、洗い物をしていた。
すると練が走り回る。
箴「練、下の人いるからね!」
練「はーい」
練、落ち着く。
すると電話が鳴る。
箴「練、兄ちゃん手泡だらけだから取ってくんない?」
練「はーい」
練、応答する。
練「もしもしイルマズです。はい、はい」
練、電話を箴に渡そうと歩くがコードが張って転んで
しまう。
練「うぇぇぇんっ」
箴「おいどうした⁈」
箴、慌てて水で泡を落とし練を抱きかかえる。
同時に受話器も取った。
箴「もしもし⁈ すみません弟が……はい、え、今からで
すか……?」
○川口市 私立高校 廊下
箴、練と手を繋ぎ廊下を歩く。
するとユニフォームを着た愛菜と会った。
愛菜「兄ちゃんどうしたの? 練も連れて」
箴「ちょっと呼び出しあってさ、父さん居ないから練連れ
てくしかなくて……」
愛菜「そう、じゃあね」
愛菜、部活に戻る。
箴、階段を登った。
○川口市 私立高校 3-B教室。
箴、練と教室に入ると担任と玲が机に座っていた。
箴「えっと……」
担任「座って」
箴、向かい合って座る。
担任、練に気付き椅子をもう一つ用意する。
練、そこに座る。
箴「何ですか話って……」
箴、玲をチラリと見る。
玲、下を向いていた。
担任「正直かなり言いづらいんだけどな、草間が妊娠し
た」
箴「え、何で……」
担任「この間の体育の時な、体育倉庫で無理やりって教え
てくれたんだ」
箴、玲を見る。
玲、無反応。
箴「いやそんなっ! 無理やりだなんて……!」
担任「でも草間は妊娠した。何もしてないなら何でだ?」
箴「それは……」
担任「認めるんだな?」
箴「それは認めますけど……でも草間さんの方から誘って
来てそれで……」
担任「草間、思い出させるようで悪いが本当か?」
箴、玲を見る。
玲「違いますっ、体育倉庫でいきなり触って来てそれで無
理やり……っ!」
玲、泣き出した。
箴「いやいやそんなっ……あっ」
箴、練を見る。
箴「すみません、ちょっと弟に聞かせるのは……」
担任「はぁ……確か妹の方が部活で来てるよな? そっち
に見ててもらえるか?」
箴「はい……」
× × ×
教室は練を除いた3人になった。
改めて話す。
箴「本当のこと言ってよ、そっちから誘って来たんじゃ
ん……」
玲「そんな事しないよ! 別にイルマズのこと好きじゃな
いもん!」
箴「いや、でも俺からなんて……」
玲「いっつも私のこと見てたじゃん。怖かった、前から相
談してれば良かった……!」
箴「いや、でも本当に……」
沈黙。
担任、話を進める。
担任「とりあえず後は弁護士と話す事になる。慰謝料とか
養育費の相談だな」
箴「そんなお金無いですよ! あと推薦は⁈」
担任「まだ話してないけど……難しいかもな」
箴、崩れ落ちる。
○川口市 アパート イルマズ家 (日替わり)
翌日、弁護士が訪れた。
静かに慰謝料や養育院などの資料を差し出し、それを
見たコチェルは頭を抱える。
箴、隣で放心状態だった。
× × ×
弁護士、帰宅。
箴、コチェルと話し合う。
コチェル「本当に向こうから誘って来たんだな?」
箴「うん、間違いない」
コチェル「クッソ、嵌められたか……」
箴「信じてくれるの?」
コチェル「何年お前の親父やってると思ってる? そんな
ヤツじゃないってくらい分かるよ」
箴「ありがとう、でもどうするのさ……凄い金かかる」
コチェル、資料を見通す。
コチェル「えーと慰謝料と産んで育てる場合の養育費、中
絶する場合はその費用と母親の医療費ね……ウチに払え
る金額じゃねぇ」
箴「ごめん、こんな時に迷惑かけて……」
コチェル「何言ってんだ、本当にお前からじゃねぇんだ
ろ? なら証明できれば何とかなるかも」
箴「無理だよ……体育倉庫だし、監視カメラとかもない。
周りに誰も居なかったし」
コチェル「じゃあどうする、こんな意味わかんねぇ金払う
のか?」
箴「うーん、それは……」
沈黙。
箴、口を開いた。
箴「学校行くよ。何とか説得してみる」
コチェル「本気で言ってんのか? こんな事するヤツ説得
出来ねぇって!」
箴、立ち上がる。
家を出ようとした。
コチェル、腕を掴み止める。
コチェル「おいやめとけ! 酷い目に遭うぞ……」
箴、振り返る。
箴「それも試練だから……」
箴、そのまま家を出た。
○川口市 私立高校 廊下
箴、私服で歩いている。
すれ違う生徒たち、箴を見てヒソヒソと話している。
○川口市 私立高校 3-B教室
俊介、同級生たちと談笑している。
すると箴が入って来た。
裕也、真っ先に反応する。
裕也「箴! 大丈夫か……⁈」
裕也、箴に駆け寄る。
同級生たち、静まり帰る。
箴「あれ、草間さんは……?」
裕也「今日は休みだよ、てかお前大丈夫なのか?」
すると俊介と取り巻きたち、箴の所へ来る。
俊介、箴の胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
俊介「てめぇ! 何してくれてんだ俺の彼女に!」
裕也、止めようとするが取り巻きたちに押さえられ
る。
箴「え、彼女……?」
俊介「さっさと言っときゃ良かった、あーでもやるヤツは
やるか」
裕也「おいっ!」
俊介「玲はな、今日休んでんだよ……お前にどんだけ怖い
想いさせられたか……! 将来まで……!」
裕也、取り巻きたちを取っ払い割って入る。
裕也「おい待て! まずコイツの話を聞こう、そんな事す
るヤツじゃないって!」
俊介「何言ってんだ、玲が嘘ついてるってのか?」
裕也「いや、でもさ……コイツがそんな、レイプだなん
て……」
俊介、箴から手を離し裕也の頬を掴む。
俊介「おい、二度と口にすんな。玲は傷付いた、その事実
があんだよ」
裕也「で、でも……」
箴、裕也の肩に触れる。
箴「いいよ、もう。ありがとう」
箴、教室から去る。
裕也「待てよ!」
裕也、追いかけようとする。
その際、誰かに足を引っ掛けられ転倒。
しかしすぐに立ち上がり箴を追いかけた。
○川口市 私立高校 廊下
箴、歩いている。
裕也、走って箴に追い付き肩を掴んだ。
箴、振り返る。
裕也「おいっ……本当に大丈夫かよ……全部正直に聞かせ
てくれねぇかっ……?」
箴、唇を噛む。
○川口市 コンビニ 飲食スペース
箴と裕也、席に座っている。
箴「それで推薦も取り消しだって、本当最悪だよ……」
沈黙。
裕也、頭を抱える。
裕也「そんで、これからどうすんだ……?」
箴「さぁ……正直想像もしてなかったから何も浮かばな
い……」
裕也「何とかして証明できれば良いんだけどな……」
箴「草間さんの証言しかないよ、だから絶望的なんだ」
裕也「……とりあえず学校は来ない方が良い」
箴「で、でも……」
裕也「でも何だよ? こんな時にまで家族のためか? 今
は自分の心配だろ」
箴「大事な時期だろ、ここで休んだりしたらどんな高校も
行けないよ!」
裕也「あのなぁ、今は証明する事を……」
箴、割り込む。
箴「それが出来ないからせめてもの誠意を見せるんだよ、
金払うにも借金しなきゃだけど返すために良い職就かな
きゃ……!」
裕也「おまっ……それ認めるって事だぞ……?」
箴「でも出来ちゃったのは事実だし……それでもし産まれ
たとしたらその子が……」
裕也、強い溜息を吐く。
箴「やっちゃった事はせめて忠実にしないと……」
裕也「また聖書の言葉かよ?」
箴「これも試練なら向き合わないとだし……」
裕也「それはただのバカだ、忠実なんてもんじゃねぇよ。
騙されて金取られて、試練っつうならそれに立ち向かう
事だろ?」
箴「う〜ん、でも責任は俺も断れなかったからある
し……」
裕也「あーもうっ、俺は俺でやれる事やるぞ? お前は勝
手にしてろよ……」
裕也、立ち去る。
箴、俯いて座る。
○川口市 教会 礼拝堂 (夕)
池松、教壇で聖書を読んでいる。
扉が開く音が聞こえそちらを見た。
箴、俯いて立っている。
池松、聖書を閉じて箴の所へ歩いた。
池松「箴くん、心配してたよ……!」
箴、池松の前で立ち止まる。
箴「……懺悔がしたいです」
池松、目を見開く。
○川口市 教会 懺悔室 (夕)
池松と箴、向かい合い座る。
池松「最後に懺悔をしたのは?」
箴「2年前、バイトで嫌な事があってサボった時です」
池松「では神の声に心を開いて下さい。父と子と精霊の御
名によって、アーメン」
池松、胸の前で十字を切る。
池松「神の慈しみを信頼し、貴方の罪を告白して下さい」
箴、息を呑む。
箴「意中の女性に誘惑されて……断れず関係を持ってしま
いました。結果彼女は妊娠してしまい、心と体に深い傷
を負わせてしまいました……」
池松、黙って聞いている。
箴「今日までの罪を告白しました、赦しをお願いします」
池松「それでは神の赦しを求め心から悔い改めお祈り下さ
い」
箴、両手を組み目を閉じる。
箴「天に在られる我らの父よ、今日私は罪を告白しまし
た。どうか豊かな憐れみにより赦して下さい、罪深い私
を清めて下さい」
池松「全能の神、憐れみ深い父は、御子キリストの死と復
活により世をご自分に立ち返らせ、罪の赦しのために聖
霊を注がれました。神が教会の奉仕の務めを通してあな
たに赦しと平和を与えてくださいますように。私は父と
子と聖霊の御名により、あなたの罪を赦します」
箴「アーメン」
○川口市 教会 礼拝堂 (夕)
箴、扉に向かう。
池松、箴の背中を見つめる。
池松「これからどうするつもりだい?」
箴、ゆっくり振り返る。
箴「罪に向き合います。赦しを得るためにも忠実でなきゃ
いけませんから」
箴、教会を出る。
○川口市 私立高校 3-B教室 (日替わり朝)
玲、席に座っている。
生徒たち、玲を囲う。
女子1「もう大丈夫なの?」
玲「うん、流石に進学に関わるし……」
女子2「ちょっとお父さん厳し過ぎない? 何も思ってな
いんじゃないの?」
玲「でも流石に取り乱してたよ、ただ今は出来る事やらな
いと……」
箴、扉を開け入って来る。
教室、静まり返る。
玲、顔を下げる。
裕也、目を見開く。
箴、無言で席に座る。
教室、徐々に談笑を始める。
俊介、箴を睨む。
裕也「箴……」
裕也が立ち上がったタイミングで担任が入って来る。
担任「はいホームルームやりまーす」
担任、箴と玲の顔を交互に見て一瞬眉を顰める。
担任「出席取りまーす」
一人ひとり名前が呼ばれて行く。
担任、次の名前で声のトーンが下がった。
担任「イルマズ箴」
箴「はい……」
教室、ヒソヒソと声が聞こえる。
担任「はい静かにー!」
出席確認、続けられた。
箴、俯いている。
× × ×
箴、席に座っている。
俊介と取り巻きたち、そこにやって来た。
俊介「よぉ、よく来れたな」
箴、俊介と目を合わせるが立ち上がり去ろうとする。
俊介、箴の肩を引いた。
箴、勢いでふらつく。
俊介「おい待てよ、せっかく話しかけてやってんのに」
箴「トイレだよ……」
俊介「お、今度は誰を連れ込むんだ?」
俊介、女子生徒たちの顔を見て行く。
取り巻きたち、クスクス笑う。
箴「違うって……!」
裕也、割って入る。
裕也「おいやめろ、てかそれ普通に草間さんにも失礼だ
ろ」
玲、唯一顔を背けている。
一部女子生徒、玲を見る。
俊介「まだコイツの味方してんのかよ、やめといた方がい
いぞ」
裕也「どういう意味だよ」
俊介「さぁ、すぐ分かるよ」
俊介たち、自分の席に戻る。
箴、教室を出る。
裕也、自分の席に座った。
○川口市 私立高校 廊下 (朝)
箴、歩いている。
周囲の生徒たち、ヒソヒソと話している。
箴、男子トイレに入る。
○川口市 私立高校 男子トイレ (朝)
箴、扉から入る。
すると不良たち、屯っていた。
不良1「出た、噂の」
箴、無視して小便器の前に立つ。
用を足し始めた。
不良の1人、覗いて来る。
不良2「確かにデカいな、子供もデカくなるかな?」
不良3「外人の遺伝は凄いな、親もデカいの?」
箴、終えるとトイレを出ようとする。
不良の1人、箴の肩を掴む。
不良1「教えてくれよ、草間って子は何人目?」
箴、そのままトイレを出る。
○川口市 私立高校 3-B教室 (朝)
箴、戻ると裕也しかいない。
裕也、情報の教科書を手に持っていた。
裕也「パソコン室だぞ、早く準備しろ」
箴「うん……」
箴、準備を始めた。
○川口市 私立高校 パソコン室 (朝)
ホワイトボードには『クリスマス礼拝のフライヤー』
と書かれていた。
教師「一般参加のお客さん向けだから真面目にねー」
箴、パソコンを操作する。
画面には作りかけのフライヤーが映されていた。
キリストと礼拝堂の画像を使っている。
俊介、隣の男子生徒に画面を見せてクスクス笑ってい
る。
俊介、手を上げた。
俊介「先生ー、出来ました」
教師、俊介の画面を見にくる。
教師「どれどれ?」
俊介の画面には笑顔のクルド人の周囲に多くの女性が
並んでいる卑猥な様子が映されていた。
教師「おいふざけるなよ、倫理的にダメだ」
教師、箴をチラッと見る。
俊介「ちぇ、リアルなキリスト教の文化だろうに」
教師「それ以上言うな、作り直しなさい」
教師、俊介の所から去る。
すると箴、手を上げた。
箴「先生、ちょっと聞きたいんですけど……」
教師「今行く」
教師、箴の所へ。
箴の画面を覗く。
箴「ここのフォントが上手く変換できなくて」
教師「あぁこれはね」
教師、箴の代わりに操作し教える。
俊介、その様子を見ていた。
× × ×
教師、前に立ち話す。
生徒たち、聞いている。
教師「では今年のフライヤーですがイルマズのにしようと
思います、やっぱりキリスト教の文化をよく理解できて
いるので」
俊介、手を上げる。
俊介「本当に良いんすか? 犯罪者の使うなんてイメージ
悪くなって人集まらないと思うんですけど」
生徒たち、クスクス笑う。
教師「やめなさい、その話はするな」
俊介「CMとかもタレントが不祥事起こしたら降板させら
れるじゃないすか、それと一緒っすよ。イメージ悪くな
って売れなくなるみたいだし」
教師「ここは学校だ、それにまだ断定されてないだろ」
俊介、箴を指差す。
俊介「コイツが罪を認めないからでしょ?」
教師、溜息を吐く。
教師「この話は終わりだ、フライヤーはイルマズのに決ま
りっ」
チャイムが鳴る。
○川口市 私立高校 3-B教室
箴と裕也、向かい合って座り弁当を開く。
箴、おかずを口に運んだ。
するとボールが飛んで来て箴の頭に当たる。
おかずと箸、衝撃で吹き飛んだ。
箴「うっ……」
裕也「大丈夫かっ⁈」
箴「うん、あー勿体ない……」
箴、落ちたおかずを拾う。
すると俊介、箴の弁当を手に取る。
俊介「これお前が作ったのか? 味見してやるよ」
俊介、自分の箸で箴の弁当を食べ始める。
裕也「おいっ」
俊介「まぁ悪くないな、でもほぼ冷凍じゃん」
裕也「コイツ妹の分も作ってんだよ、別に良いだろ。てか
返せよっ」
裕也、箴の弁当に手を伸ばす。
取り巻き、裕也の腕を掴んで止めた。
俊介「お前のも美味そうだな」
俊介、箴の弁当を置き裕也の弁当を食べ始める。
箴、おかずだけ無くなった自分の弁当を見た。
裕也「おい俺の飯っ」
俊介「うん普通」
俊介、裕也の弁当を戻す。
取り巻きたち、笑っている。
箴、俯いている。
裕也、俊介を睨んだ。
俊介「お、なになに? 怖っ」
箴、割って入る。
箴「裕也、良いよ俺は……」
俊介「だってさ、余計な事しない方が良いよ」
俊介たち、席に戻る。
裕也「いやいやダメだろこれじゃあ!」
裕也、歩き出し玲の所へ。
裕也「本当のこと言ってくれ! 箴はそんなヤツじゃない
んだよ!」
玲、目に涙を浮かべる。
女子1「やめなよ!」
女子2「玲泣いてるじゃん!」
裕也、玲の肩を掴み揺らす。
裕也「頼むから! お願いだよ……っ!」
俊介、裕也の顔面を殴る。
裕也、鼻血を流し地面に倒れた。
箴、裕也に駆け寄る。
俊介「玲に思い出させるようなこと言うんじゃねぇ! た
だでさえキツいんだぞ⁈」
箴、裕也と肩を組み教室を出る。
箴「保健室いこう……」
俊介「もう戻って来んな犯罪者共!」
○川口市 私立高校 保健室
箴、教員に手当てされる裕也の隣に座る。
箴「ごめん、俺のせいで」
裕也「お前のせいじゃ無いって、本当に違うんだろ?」
箴「うん、でもやっぱ不利だよ。裕也まで巻き込まれる」
箴、立ち上がり扉へ向かう。
箴「もう関わらない方が良いよ」
箴、扉を開けて外へ出る。
裕也、立ち上がるが教員に止められる。
教員「まだ終わってないよ」
裕也、歯軋りした。
○川口市 私立高校 3-B教室
玲、女子たちに慰められる。
俊介、その様子を見ていた。
女子1「大丈夫だからね、絶対守るから」
すると箴、戻って来て席に座る。
俊介、嫌な顔をする。
女子2「どーゆー神経してんのアイツ?」
玲、箴を見つめた。
○川口市 私立高校 下駄箱 (夕)
箴、帰宅する生徒たちの波の中で下駄箱に着く。
しかし外履が無かった。
箴、学校内に逆戻りする。
○川口市 私立高校 礼拝堂 (夕)
箴、池松神父と向かい合って座り話す。
箴「ここに寄れって神様が言ってる気がして……」
池松「そう……災難だったね」
沈黙。
しばらくして箴が口を開く。
箴「大丈夫ですよね、神様いますよね?」
池松「どうしたの急に?」
箴「ここに寄れって感じたから……絶対見てくれてますよ
ね……?」
池松神父、震える箴の背中を摩る。
池松「大丈夫だから、一緒に祈ろう」
すると扉が開く。
箴と池松神父、そちらを見る。
裕也、入って来た。
裕也「やっぱここにいた」
箴「何で……」
裕也、箴の隣に座る。
裕也「靴どっちも無かったから。隠されたんだろ?」
箴「関わらない方が良いって言ったじゃん……」
裕也「実はさ、俺の靴も隠されてた。だったら今更じゃ
ん」
箴「じゃあ尚更今からでもやめた方が良いよ、ちょっとず
つ信頼されてくかもだし」
裕也、深呼吸。
裕也「嫌だね」
箴「何で……」
裕也「あんなヤツらに信頼された所でねぇ? 忠実な奴に
信頼された方が良いよ」
箴、俯く。
池松神父、笑顔になる。
池松「丁度今から祈ろうとしてたんだよ、君も一緒にど
う?」
裕也「信じてないけど良いんすか?」
池松「大歓迎だよ、神様は懐が深いお方だからね」
3人、手を握り祈る。
池松「天に在られる我らの父よ……」
○川口市 私立高校 (夕)
箴、裕也、池松神父の3人、靴を探す。
下駄箱、廊下、様々な教室まで探し回った。
箴「あった……」
箴、教室の掃除用具入れの上に靴があるのを見つけ
る。
手を伸ばすが高くて取れない。
裕也、椅子を持って来た。
裕也「これ乗って」
箴「ありがと」
箴、椅子に乗り靴を取った。
椅子から降りて裕也に渡す。
箴「裕也の分もあったよ」
裕也「纏めてたのか、ははっ」
箴「何で笑ってんの」
裕也「いやーわざわざ隠すためにこうやって椅子乗ったの
かなって想像すると笑えて」
箴「確かに」
箴も少し笑った。
○川口市 私立高校 下駄箱 (夕)
箴、裕也、玄関扉の前に立つ。
池松神父、見送った。
池松「それじゃあ、元気でね」
箴「ありがとうございました」
池松「裕也くんも良ければまた遊びに来なさい」
裕也「はい、それじゃ」
2人、玄関から出た。
○川口市 道路 (夕)
箴、裕也、歩いている。
裕也「明日からどうすんの?」
箴「え? 普通に行くよ。何、休みたかった?」
裕也「バレたか、お前が休むなら俺も休む口実になったの
になー」
箴「サボるなよ、お前も大学行くんだろ?」
裕也「あいよー」
○川口市 私立高校 体育館 (夕)
バレー部、練習をしている。
愛菜、タオルで汗を拭いた。
愛菜「ちょっと休憩しまーす」
愛菜、コートから出てステージの上に置かれた鞄を開
ける。
中から巾着袋を取り出した。
開けると中にはラップに包まれたおにぎりが入ってい
た。
すると別に入っていた手紙を見つける。
手紙にはこう書かれていた。
『気にせず頑張れ 兄ちゃん』
愛菜、微笑みおにぎりを頬張った。
× × ×
愛菜、練習を再開。
しかし愛菜、転んでしまった。
先輩「大丈夫⁈」
愛菜「いったぁ……」
愛菜、足首を押さえている。
先輩「保健室行った方が良いんじゃない?」
愛菜「すみません、そうします……」
愛菜、立ち上がる。
先輩「歩ける?」
愛菜「大丈夫です、練習続けて下さい」
愛菜、体育館を出る。
○川口市 私立高校 廊下 (夕)
愛菜、保健室のドアノブに手を掛ける。
すると中から会話が聞こえた。
愛菜、耳を澄ます。
○川口市 私立高校 保健室 (夕)
俊介、エチケット袋に吐いた玲の背中を摩る。
俊介「スッキリした?」
玲「うん、少しは……」
俊介、憐れむ表情で玲を見る。
俊介「なぁ、本当に俺の子ではないのか?」
玲「え、そうだって言ったじゃん……」
俊介「でもさ、俺も前にゴム無かったじゃん。本当に大丈
夫か? もし俺だったらマジでヤバいぞ……」
玲「だから大丈夫だって」
俊介「でもDNA鑑定とかされたら分からないぞ?」
玲「それにもお金掛かるし、慰謝料とかでもう残らないで
しょ……それに慰謝料は私いらないから俊介の家のため
に使って」
俊介「何でだよ……」
玲「お店大変でしょ、そのお金で立て直して」
俊介「玲……っ」
俊介、玲を抱きしめる。
すると扉が開き愛菜が入って来た。
俊介、玲、肩を振るわせる。
俊介「あ、えっと先生なら今いないけど……職員室じゃな
い……?」
愛菜「そうですか……」
愛菜、扉から出ていく。
俊介「……聞かれたか?」
玲「さぁ……」
○川口市 私立高校 体育館 (夕)
愛菜、早歩きでステージに向かい鞄からスマホを取り
出す。
箴のメッセージを開き文を送った。
以下、画面上
× × ×
愛菜「もしかしたら兄ちゃんとの子じゃないかも! たま
たま話してるの聞いちゃった、彼氏との子かもだっ
て!」
× × ×
愛菜、送信した。
○川口市 アパート イルマズ家 (夜)
箴、コチェル、愛菜の3人、ちゃぶ台を囲む。
コチェル「彼氏との子だとして生まれるのはいつだ?」
箴「聞いた時点で妊娠1ヶ月って言ってたから9月頃かな」
コチェル「DNA鑑定って生まれないと出来ないもんなの
か? 妊娠中でも出来るやり方とか……」
箴「あるみたいだけど10万〜15万くらい掛かるって」
コチェル「思ったより安いな、貯金どれくらいあったっ
け?」
コチェル、立ち上がり棚を調べる。
箴「待ってよ、リスクがデカい……! もしそれで俺との
子だった場合さ、余計にお金が飛んじゃう……」
コチェル、手を止め振り返る。
コチェル「あのなぁ……」
すると愛菜、割って入る。
愛菜「そんなの良いじゃん。手紙に気にするなって書いて
あったけどさ、気になるって!」
箴「いやいや、お前にも迷惑かかるだろ……」
愛菜「今更遅いよ、私が高校バレーの書き込みで何て言わ
れてるか知ってる? 犯罪者の妹だって。このままじゃ
部活にも影響出るかも知れない、だったら戦ってよ」
箴、絶句。
愛菜「やれる事はやろうよ、私たちのためにもさ」
箴、俯いてしまう。
箴「でも違った場合がさ、やっぱり俺の子だった場合は俺
に責任があるから……」
愛菜「その時はその時で責任果たせば良いじゃん、やって
みない事には何も言えないよ」
箴「でもお前たちの人生に影響が出ちゃうだろ……? そ
のために頑張って来たのに」
愛菜「兄ちゃんの人生は? 他人のためだけのものな
の?」
箴「この際俺はもう良いよ、余計にお金が飛べばお前たち
がヤバいって話してんの!」
愛菜「あーもう、言っちゃうけどさ……兄ちゃんに負担か
けてまで私上手くやりたくない……」
箴「……何だよそれ」
愛菜「どんなに部活で上手くやってもさ、やりたいこと出
来ててもさ、苦労する兄ちゃんがチラつくの……そんな
んで幸せになれると思う……?」
箴「いや、俺は家族の事を想って……」
愛菜「だからっ……」
箴、ゆっくりと立ち上がる。
上着を羽織り財布だけ持ち家を出た。
愛菜「兄ちゃん!」
すると寝室から練の声が。
練「うぅぅんっ……」
コチェル、寝室へ向かう。
その際に愛菜に言った。
コチェル「声デカいよ……」
愛菜「ごめん……」
愛菜、その場に座り続けた。
○川口市 道路 (夜)
箴、雪の降る中を歩いている。
周囲には幸せそうな家族やカップルが大勢いた。
箴、彼らとは逆方向に歩いて行く。
○川口市 ネットカフェ (夜)
箴、ネットカフェのドリンクバーで飲み物を注ぐ。
ブースに戻り椅子に座ったが飲み物には手をつけなか
った。
箴、またすぐに立ち上がりネットカフェの本棚を物色
する。
しかし何も取らずにまたブースへ戻った。
○川口市 私立高校 礼拝堂 (日替わり朝)
箴、扉から入る。
池松神父、迎えた。
2人、椅子に座る。
池松「今日はどうしたんだい?」
箴「……箴言28:20の聖句を聞いてからずっと忠実に頑張
って来たつもりなんです、でもそうするほど上手く行か
なくて。家族も責任も両方ちゃんとしなきゃなの
に……」
池松「お父さんから連絡あったよ、君がどっちを取るかで
悩んでるってね」
箴「そうですか……」
沈黙の後、箴が口を開く。
箴「もし本当に俺の子なら責任は果たさなきゃいけないと
思います。でもそれで家族の迷惑になるのは避けたく
て、お金が掛かる事はしたくないんです……」
池松「DNA鑑定の件だよね、確かにお金が掛かる事だね」
箴「しかもただでさえ草間さんは苦しんでるのに余計に負
担の掛けるような事も……」
池松「そっか、君は本当に神様の御言葉を守ろうとして
る」
箴「そうなんです、だからこそ不安で……本当にこのまま
で救われるのかどうか……言いづらいんですけど、神様
の存在も怪しく思えて来たって言うか……」
池松「箴言28:20、忠実な人は多くの祝福を得る。ご両親
が君の名前をつけるきっかけになった聖句だよ」
箴「聞いてます、箴言から取ったって言ってました」
池松「本当に相応しい人に育ってくれたね、お母さんも喜
んでると思うよ」
箴、少し笑みを浮かべる。
池松「後は忠実であるべき対象を見極める事だね」
箴「……はい」
池松「人1人に出来る事は限られてる、全部に忠実である
事は現実的に不可能だ。神様もそこまでは求めない、君
に出来る最大限をやれば良いと思うよ」
箴「そうですね、ありがとうございます」
池松「じゃあ祈ろうか」
池松と箴、祈った。
○川口市 私立高校 校舎裏ゴミ捨て場
愛菜、教室のゴミ箱を持って中身を捨てる。
すると背後から声を掛けられた。
俊介「なぁ、イルマズの妹」
振り返ると俊介と取り巻きたちがいた。
愛菜「何ですか……」
俊介「昨日保健室に来たよな? 俺と玲の話聞いてた
か?」
愛菜「何の話ですか……?」
俊介「そんで兄貴に何か吹き込んでないか? それだけ確
認させてくれよ」
俊介、愛菜に迫る。
愛菜、俊介の顔を見た。
愛菜「別にそれで不利になった所で自業自得じゃないです
か?」
俊介「チッ、やっぱ聞いてたか……」
愛菜、隙を見て走って逃げ出す。
俊介「おい待て!」
俊介たち、愛菜を追う。
愛菜、足が痛くて上手く走れない。
すぐ捕まってしまう。
俊介「落ち着け!」
愛菜「離してっ!」
愛菜、俊介の股間を蹴り上げまた逃げる。
俊介「ぅがっ……」
俊介、股間を押さえて蹲る。
取り巻きたち、愛菜を追いかけた。
愛菜「はっ、はっ……」
愛菜、足を引きずり走る。
そのまま勢いで敷地外の道路へ出てしまった。
愛菜「あっ……」
迫る車。
愛菜、撥ねられてしまう。
取り巻きたち、立ち止まり絶句した。
○川口市 総合病院 診察室 (夜)
箴、コチェル、練の3人、医師から話を聞く。
医師「スピードも出ていなかったので命に別状はありませ
ん、後遺症も残らず徐々に回復するでしょう」
箴「大会は……? 年明けにバレーの大会があるんで
す……!」
医師「年明けまでは……難しいですね、少なくとも半年は
見積もった方が良いかと」
箴、項垂れる。
箴「あぁ……」
コチェル、箴の肩に手を置く。
○川口市 山中家 俊介の部屋 (夜)
俊介、布団に包まる。
母の呼ぶ声がする。
母「ご飯いらないのー?」
俊介「いらないって!」
俊介、震えている。
するとスマホに玲から着信が。
俊介、応答する。
俊介「もしもし……」
玲「俊介、大丈夫……?」
俊介「全然……」
沈黙。
俊介、口を開いた。
俊介「なぁ、これでもし俺との子だったらどうすんだ?」
玲「え……」
俊介「俺、とんでもねぇ事した……冤罪だったらって思う
と怖くて……DNA鑑定した方が良いんじゃねぇか?」
玲「えぇ……? でも家の事あるんでしょ? お金必要だ
って……」
俊介「そうなんだよな……やっぱり家の方も大事なんだ
よ、でも罪悪感が……」
玲「俊介……」
俊介「ごめん、切るわ」
俊介、通話を切る。
また布団で震え始めた。
○川口市 総合病院 病室 (夜)
愛菜、ベッドで横になっている。
箴、コチェル、練の3人、椅子に座る。
すると池松親父、入って来た。
コチェル「先生、わざわざありがとうございます」
池松「いえいえ、ご様子は?」
コチェル「意識は戻りました、多分大丈夫だと思います」
池松神父、愛菜を見る。
箴、愛菜の手を握っていた。
愛菜「ごめんなさい、またお金かかっちゃう……」
箴「いやいや、それくらい何とかするから……!」
愛菜「でも兄ちゃんしんどいでしょ……?」
箴「お前がしんどい方がしんどい、これお返し」
愛菜「本当だ……」
愛菜、弱々しく微笑む。
愛菜「ねぇ兄ちゃん」
箴「なに?」
愛菜「もう好きにして」
箴、目を見開く。
愛菜「もう十分だから」
箴「でも……」
池松神父、箴を見る。
池松「箴くん、意味分かったかい?」
箴、沈黙。
しばらくして口を開いた。
箴「……はい、でもお金も掛かるし……」
池松「それは心配しなくて良いよ、驚かせようと思って黙
ってたんだけどね」
箴「何です……?」
池松神父、鞄から書類を取り出し箴に渡す。
池松「教会の皆さんが箴くんを信じて献金を使ってくれだ
って。愛菜さんの治療費もDNA鑑定の費用も十分ある
よ」
箴、献金に関する事とメッセージが書かれた書類に目
を通す。
メッセージにはこう書かれていた。
『いつも忠実な箴くんを信じてます、どうか使って下さ
い』
箴、瞳が潤む。
池松「皆んな箴くんがどんな人か知ってるから協力してく
れたんだよ、あとこの中には裕也くんもいる」
箴「はい……」
池松「その人たちに応える事も大事な試練だよ。彼らは君
に忠実さを見せたんだから」
箴、顔を上げる。
箴「忠実に応える事が忠実って事ですか」
池松「その通り、やっと分かってくれたね」
箴「はい、分かりました」
池松「その結果は君自身で感じてね」
池松、箴の頭を撫でた。
○川口市 産婦人科 (数日後)
玲、箴、俊介、採血を受ける。
職員、その血液から検査をした。
○川口市 アパート イルマズ家 (1週間後朝)
テレビでニュースが流れている。
以下、画面上
× × ×
リポーター「今日はクリスマスイブ、夜には綺麗なイルミ
ネーションが見られる事でしょう」
× × ×
箴、制服に着替える。
すると郵便受けに封筒が届く。
箴、手に取り居間で座った。
コチェル、隣で見ている。
箴、封筒を開けた。
中の書類にはこう書かれていた。
『鑑定の結果、イルマズ箴との親子関係は否定されまし
た』
箴、安堵の溜息を吐く。
コチェル、小さくガッツポーズした。
○川口市 私立高校 礼拝堂
3-Bの生徒たち、壇上で讃美歌「もろびとこぞりて」
を披露する。
席にはコチェルも座っていた。
箴が歌っているのを横目で俊介が見ていた。
玲の姿は無かった。
○川口市 私立高校 3-B教室 (夕)
放課後、誰もいない教室で箴と俊介が話す。
俊介「結局玲は転校だってさ、後味悪いな……」
箴「まぁ仕方ないよ、俺も行きづらかったし」
俊介「俺も悪かった本当に、何も考えずにやっちゃって
た……」
箴「もう良いよ終わった事だからさ。草間さんもちゃんと
慰謝料もすぐ払ってくれたし、これ以上言う事ないよ」
俊介「アイツん家金はそこそこあったからな、大したダメ
ージじゃないんだろ」
俊介、俯く。
俊介「でもお前のダメージは凄いよな、本当にごめん」
箴「だから良いって」
俊介「それじゃ俺の気が済まないんだよ、何かさせてくれ
ないか? 例えばウチの店で雇うとか……あぁでも立て
直さなきゃ……」
箴「大丈夫、俺の事は俺でやる。これは俺の試練だから
さ。だからそっちは自分の試練を頑張りなよ」
俊介「……ありがとう、そう言ってくれて」
箴「草間さんもきっと試練にぶつかってると思う、みんな
それぞれ自分で向き合わないと」
俊介「やっぱお前アレだな、何だっけ、神父さんが言って
た聖書の」
箴「忠実? よく言われる」
俊介「すげぇな、思えばお前ずっと忠実だったよ。学級代
表やったり家族のために頑張ったり。俺には真似できね
ぇ」
箴「お前はこれからだろ、応援してるから」
俊介「はは、ありがとな」
○川口市 アパート イルマズ家 (数日後)
箴、ちゃぶ台で勉強をしている。
するとインターホンが鳴った。
箴「はーい」
箴、扉を開ける。
するとやつれた玲が立っていた。
腹は膨らんでいなかった。
箴「草間さん……」
玲、勢いよく土下座した。
玲「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ……」
箴、玲を見下ろす。
そして一言だけ告げた。
箴「……ありがとね」
○川口市 某大学 広場 (数ヶ月後朝)
箴、合格発表で自分の数字を探す。
紙に書かれた数字を見つけて飛び上がった。
○川口市 教会 礼拝堂 (日替わり朝)
礼拝が終わり一同は帰る。
コチェル、練、松葉杖をついた愛菜も帰ろうとした。
その中には裕也もいる。
箴、池松神父の所へ。
箴「ちょっと先生と話してくる」
コチェル「あいよ」
池松神父、箴を迎えた。
池松「やぁ、元気そうだね」
箴「はい、お陰様で」
池松「合格したんだってね、おめでとう」
箴「ありがとうございます、志望校とは違いますけど」
池松「でも満足してるんでしょ? お父さんも仕事見つか
ったみたいだしこれからだね」
箴「はい、これから上手くやってきます」
沈黙。
箴、口を開く。
箴「正直、まだ偏見とかはあると思います。そこは心配で
すけど……忠実であろうと思います。きっとこれが俺の
試練なんです。忠実であり続ける事、それを示す事」
池松「そのお陰で皆んな君を信頼してる」
箴「はい、だから分かったんです。偏見はまだあるしそれ
自体は変わらないけど、実際に関わった人の見る目は変
えられるって」
○川口市 某大学 キャンパス内 (数ヶ月後)
箴、教材を持って歩く。
すると前方に人とぶつかって教材を落とした学生がい
る。
箴、彼に近付き拾うのを手伝った。
箴「はいこれ」
箴、拾ったノートの埃を払い手渡す。
学生「ありがとう」
箴「いえいえ」
箴、笑顔で応えた。
(了)
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