カミのいた場所 ドラマ

就活、妊娠、熟年離婚。三者三様に追い込まれた女三人が深夜ドラマの聖地巡礼の旅に出る!ちょっとだけ前に進めるドタバタロードムービー。
Yamaru 9 0 0 07/22
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第一稿

  人物表
森戸あやめ(20)大学三年生
羽田佳乃(45)主婦
一ノ瀬翔子(32)キャリアウーマン、営業職
深谷功太(20)あやめの彼氏
北結衣(20)あやめの親友
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  人物表
森戸あやめ(20)大学三年生
羽田佳乃(45)主婦
一ノ瀬翔子(32)キャリアウーマン、営業職
深谷功太(20)あやめの彼氏
北結衣(20)あやめの親友
東海林竜星(23)ドラマ『宇宙で君だけ』ヒ—ロー
天野姫子(38)ドラマ『宇宙で君だけ』ヒロイン
西牧奈都(36)天野姫子役の女優
職員
寛志(声のみ)
看護師
ふれあいの里・園長
バス運転手
記者

◯ 城東大学・外観

◯ 同・大教室
黒板に「インターンシップ決起集会」
   と大きく書かれ、スクリーンには円グ
   ラフが映し出される。
   スクリーンの横で職員が生き生きと喋
   っている。
職員「3年生のインターンシップはもう特別
 なものではありません!昨年のアンケート
 調査では実に81%の学生がインターンに参
 加しており…」
最後列の椅子、森戸あやめ(20)が口
   を開けて机に突っ伏しダランと眠る。
  その横にいた北結衣(20)があやめの
   頭を叩く。
あやめ「…いったぁ。何さ」
結衣「開始10分で寝てんじゃないよ。連れて
きた意味ないじゃん」
あやめ「あの人の声いい声過ぎて子守唄みた
 いなんだもん」
結衣「どうせ昨日うちゅ君見てたんでしょ」
あやめ「正解。何エスパー?」
結衣「あんなベッタベタな誰も見てないドラ
 マのどこがいいんだか」
あやめ「ちょっと、それファンに一番言っち
ゃいけない言葉ランキング上位だからね」
   結衣、再びあやめの頭を叩く。
あやめ「いったいな〜もう、暴力反対」
結衣「まだ現実に戻ってないみたいだから叩
いてやってんだよ」
あやめ「はぁ?」
結衣「6月に入ればいっせ〜のせで、闘いは
 始まるんだよ?生きるか死ぬかの生存競争
 を前に、いつまで虚構を追いかけてんの」
あやめ「大袈裟な言葉で追い込まないでよ」
結衣「大袈裟でもないんだよ、これが」
結衣、あやめに画像を見せる。
結衣「先輩のメールボックス。こっからここ
まで全部お祈り」
あやめ「うわ…」
結衣「売り手市場って誰が言ったかね〜」
   あやめ、耳を塞ぎ
あやめ「もう聞こえない。何も聞こえない」
あやめと結衣の間に深谷功太(20)が割
   りこんでくる。
深谷「あやめちゃん」
あやめ「わ、功くん」
深谷「今日帰り何時?」
あやめ「えっと…6時くらいかな?」
深谷「そっか。今日、ハッシュドビーフだか
 ら、早く帰って来てね」
あやめ「あ…分かった」
   深谷、可愛く笑って去って行く。
結衣「ハッシュドビーフ…」
恨めしそうにあやめを見る結衣。
あやめ「功くん、最近料理にハマってて」
結衣「爆発しろ、今すぐ」
あやめ「爆発しなくてもゆくゆく共倒れだよ」
あやめ、あーあと再び机に突っ伏す。
◯ 同・303号室・中(夜)
  あやめと深谷が背の低いテーブルで床
   に座り、ハッシュドビーフを食べてい
   る。慎ましやかなサイズの部屋。
   あやめが食べるのを深谷はジッと見て
   いる。
深谷「どう?」
あやめ「うん…美味しい〜」
深谷「良かった〜初めてだから心配で」
   深谷、嬉々として食べ始める。
   あやめ、深谷を何か言いたげに見る。
深谷「何?お風呂なら湧いてるよ?」
あやめ「いや…そうじゃなくて…」
深谷「あやめちゃんって、就活するよね?」
あやめ「え?」
深谷「だって、今日決起集会にいたから」
あやめ「あ…うん、まぁね」
深谷「…あやめちゃんにだけは言っとかなき
 ゃと思うんだけど」
あやめ「…何?」
深谷、食べるのを止め、
深谷「僕、就活する気ないんだ」
あやめ、目をパチクリさせ
あやめ「えっと…」
深谷「家であやめちゃんを支えたい」
あやめ「は?」
深谷「最近気付いたんだけど、僕、家事が凄
い出来るんだ。料理も大体美味しく作れる
 し、洗濯も掃除だって出来る」
   部屋は小綺麗で、隅に洗濯済みの衣服
   が綺麗に畳まれて置いてある。
あやめ「うん…否定はしないけど」
深谷「だから僕は多分、あやめちゃんのため
に主夫になるべきだと思う」
あやめ「え!?」
深谷「それに、僕ってあがり症だし、ストレ
 スに弱いし、昨今の厳しい就職活動なんて
向いてないと思うんだ」
あやめ「うん、そっちが真意かな?」
深谷「(あやめの手を取って)だからこれから
 辛いだろうけど、家の事は僕に任せて就活
 戦争頑張って。僕全力で応援するから」
  あやめ、泣きそうに深谷を見つめる。
結衣の声「はあああ?」

◯ 同・同・外(夜)
家の前で柵に手をかけて電話をしてい
   るあやめ。
結衣の声「それ正気?」
あやめ「多分…目がマジだったし」
結衣の声「別れろ、今すぐに」
あやめ「もしかして遠回しのプロポーズかな
 ?まじか〜結婚か〜」
結衣の声「人の話聞いてる?」
あやめ、夜空を仰いで
あやめ「はぁ…現実ってやっぱりダメだわ」
   空は曇っていて月も星も見えない。
あやめ「見えないもんな〜光」
結衣の声「何言ってんの?」
   あやめ、電話を切ってうなだれる。
◯ 同・同・中(夜)
布団を並べて敷いて眠る深谷とあやめ。
あやめがムクリと起きて深谷の寝顔を
   見つめる。
深谷は眠ったままニコニコ。
あやめ「クッソ…可愛い」
   あやめ、布団を抜け出して机に座り、
   パソコンを開くと SNSサービスの「
Tunagetter」を開く。
あやめのアカウントページ、アカウン
   ト名は「あやめろん」、メロンの画像
がアイコンだ。
あやめ、書き込みを始める。
あやめN「耐え難い現実に瀕死状態…」
   あやめ、溜息。ピコンと通知音。
アカウント名の無いユーザーから「逃
   げ出せ」と一言返信が来る。
あやめ「逃げ出せ…」
あやめ、思いついたように側の棚を開
   く。そこにはドラマ「宇宙で君だけ」
   のポスターやグッズがずらりと並ぶ。
ポスターには宇宙空間を背景に主人公
東海林竜星(23)と天野姫子(38)が
   片手を絡ませ、見つめ合っている。
   そのポスターを恍惚と見つめるあやめ。
あやめ「逃げ出せ…」
あやめ、再び書き込み。
あやめN「急募!今週の日曜日、うちゅ君こ
と「宇宙で君だけ」の聖地巡礼を開催する
 !先着二名!熱意を持って応答せよ!」
あやめ、満足そうに頷く。すぐさま通
知音が二回鳴る。
「ショーコ」から「仕事を終わらせて
   臨む所存」、「ヨッシー」から「年齢制
限ないかしら?立候補!」と来る。
   あやめ、嬉々として
あやめ「日曜までは死ねないな…」

◯タイトル「カミのいた場所」(仮)

◯ 緑山コーポ・303号室・中(朝)
あやめがバックにカメラ、ホチキス留
   めされた資料などを入れている。
ニヤニヤと嬉しそうなあやめ。
キッチンで洗い物をしていた深谷が振
   り返って不満そうに見ている。
深谷「今日、何時に帰って来るの?」
あやめ「分かんない!」
深谷「今夜は餃子にしようと思うんだけど」
あやめ「私の分、作んなくてもいいよ。どう
にかするから」
あやめ、玄関に行き、靴を履く。
深谷「いくらファン同士だからってネットで
知り合った人と会うなんて危なくない?最
近ネットきっかけの犯罪も増えてるし」
あやめ「大丈夫だって。うちゅ君のファンに
悪い人はいない」
深谷「どっから来るの、その自信…」
あやめ「行ってきまーす!」
あやめ、出て行く。
深谷「GPSつけといてね!なんかあったら
 連絡するんだよ!」
ドアがバタンと閉まる。

◯ バスターミナル・三番乗り場
キョロキョロと辺りを見回すあやめ。
バックには金太郎の装いの猫の人形が
   ぶら下がっている。
   後ろから肩を叩かれ、振り返る。
   そこには羽田佳乃(45)。
バックには同じ金太郎の装いの猫。
あやめ「あー!どうも〜」
佳乃「羽田佳乃です。あ、ヨッシーね」
あやめ「森戸あやめです。あ、あやめろん」
佳乃「主催者さんだ。良かったぁ、わりかし
すぐに分かって」
あやめ「今日はよろしくお願いします」
佳乃「こちらこそ。あとはショーコさんか」
   あやめ、時計を見て
あやめ「ヤバイな〜結構ギリギリですね」
佳乃「お仕事終わらなかったのかしらね」
  あやめ、辺りを見渡す。
   遠くから、スーツ姿の女性が走って来
るのが見える。バックには金太郎猫。
   一ノ瀬翔子(32)である。
あやめ「あ!こっちです、こっち!」
   あやめと佳乃、猫を掲げ、手をふる。
翔子、それに気付き走り寄る。
翔子「(息を切らしつつ)ごめん…昨日休日出
 勤で、そのまま会社で寝ちゃって…あー本
 当会社クソ!」
あやめ「あの…ショーコさん?」
翔子「どうも。一ノ瀬翔子です。宜しく」
アナウンス「間も無く、三番乗り場、長野行
 きが発車します」
  ハッとする一同。
あやめ「とりあえず乗りましょう」
   三人、バスに乗り込む。

◯ 高速バス・車内
最後列に横一列に座ってバスに揺られ
るあやめ、翔子、佳乃。
三人同時にふうっと一息。
あやめ「改めまして、主催者です。あやめろ
んって呼ばれると、中二病みたいでちょっ
 と嫌なので、普通に本名のあやめで」
翔子「ショーコです。本名も翔子なので、ま
ぁ翔子で」
佳乃「ヨッシーです。私も佳乃って呼んで下
さい」
あやめ「はい、今日は参加してくれてありが
 とうございます、ということで…」
   翔子、不意にあやめのバックの金太郎
   猫を掴み、マジマジと見る。
翔子「裁縫上手いね」
あやめ「あ…実はこれ彼氏が作って」
佳乃「え?益々凄いじゃない」
あやめ「家事が得意な人で」
   佳乃、翔子の金太郎猫を掴んで笑う。
佳乃「顔が歪んでる」
翔子「…裁縫は苦手で」
あやめ「佳乃さんはやっぱり上手いですね」
   一際整った佳乃の金太郎猫。
佳乃「まぁ、主婦歴長いから」
翔子「もう、公式グッズで販売してくれれば
 いいのにさ〜」
あやめ「ホントですよね。姫着用の金太郎猫
なんだから売り切れ必至なのに」
佳乃「でも、全員自作で作ってるなんて、や
 っぱり思い入れが違うわね」
あやめ「当たり前ですよ」
翔子「二人にも負ける気はないね」
あやめ「あれ、言いますね〜」
佳乃「なになに、もう楽しいわね」
キャッキャと盛り上がる三人。
他の乗客がチラチラと後ろを気にして
   いる。

◯ 高速道路
バスが快調に走っている。
◯ 高速バス・車内
   あやめが翔子と佳乃に「宇宙で君だけ
聖地巡礼のしおり」と書かれた小冊子
   を渡す。中々のボリューム。
あやめ「今日は夕方のバスの時間ギリギリま
で徹底的に聖地を回り倒します。うちゅ
君はロケ地が20箇所くらいあって、とても
回り切れないので、厳選して5箇所に」
翔子「それだけ?」
佳乃「だいぶ絞ったわね」
あやめ「1日で回るには限界が…。でも、最
高のスポットだけに絞ってあるので、任せ
 て下さい」
翔子と佳乃、パラパラと冊子をめくり、
   満足げに頷く。
あやめ「最初の聖地までバスで二時間はかか
るので、各々リラックスして…」
翔子「なんでよ〜そんなの勿体無い」
あやめ「え?」
翔子、小型のプレイヤーと三人分のイ
   ヤホンを取り出して
翔子「名場面ダイジェスト作ってきたからみ
 んなで見よう」
翔子、にんまりと笑い、ドヤ顔。
× × ×
プレイヤーの画面、ドラマ『宇宙で君
   だけ』の一場面が流れている。
たくさんの花が咲く花畑で、竜星と姫
子が距離を置いて立っている。
画面を、身を寄せ合って見つめるあや
め達。

◯ドラマ『宇宙で君だけ』
花畑に佇む竜星と姫子。
姫子「ねぇ竜星!」
竜星「なんだよ」
姫子「結婚しよ!」
  竜星、目を丸くして驚く。
姫子、花の中を駆け、竜星に抱きつく。

◯ 車内
身を寄せ合って画面を見つめるあやめ、
翔子、佳乃。
三人「姫ええええ!」
喜び、抱き合う三人。
   他の乗客は益々怪訝な顔をして三人の
方を見ている。

◯ 駅前ロータリー
バスから降りてくる、あやめ、翔子、
   佳乃。
佳乃「うわぁ、早速!」
あやめ「竜星と姫子が最悪の再会をする駅前
ロータリーです」
翔子「尊い。もう、すでに尊い」
   おもむろに携帯を取り出し、写真を撮
り始める佳乃と翔子。
あやめ、満足そうにそれを眺めた後、
自分もカメラを出して撮り始める。
  写真を撮っていた翔子、おもむろにあ
   るベンチに駆け寄り、腰掛ける。
翔子「ね、ね、姫座ってたの、ここだっけ」
あやめ「えっと…もう少し真ん中じゃないで
 すっけ?」
翔子「ここ?」
あやめ「ちょっと待って」
   あやめ、ホチキス留めされた資料をバ
ッグから取り出す。
翔子「何それ」
あやめ「あ、人物の立ち位置とかなるべくま
 とめてきたんです。再現率大事だから」
佳乃「用意周到ね〜」
翔子「あやめちゃんって幾つ?」
あやめ「…ハタチですけど」
佳乃「あら、そろそろ就活じゃない」
翔子「いや将来絶対いい人材になるわ」
   あやめ、苦笑い。
佳乃「翔子ちゃんはどんな仕事してるの?」
翔子「所謂営業職を」
佳乃「あら、女性で営業?凄いわね〜」
翔子「偏見ですよそれ。結構普通ですから」
佳乃「そうなの?」
あやめ「あの!」
   翔子と佳乃、あやめを見る。
あやめ「あの…今日はそう言う、お互いの実
 生活の話は止めませんか」
佳乃「なんで?」
あやめ「いや、あの…今日くらい現実を忘れ
 てうちゅ君の世界に浸りたいから」
翔子「なんか、ごめん」
佳乃「つい口走っちゃって」
あやめ「いえ…あ、やだな。変な空気にしち
ゃった」
翔子「…そうだね、現実なんて忘れよう。私
もちょうどそんな気分だったし」
佳乃「賛成。実生活の話は今後禁止ね!」
あやめ「…すいません」
翔子「で、姫の位置はどこなの?」
あやめ「(資料を見つつ)えっと〜もう少し
 右かな」
翔子「ここ?」
翔子、座る位置をずらす。
あやめ、首を傾げる。
翔子「何、違うの?」
   楽しそうに笑う翔子とあやめ。
  その側で何か考え込む佳乃。
   佳乃の手の中で携帯が着信。
佳乃が画面を見ると「飯田弁護士」と
   ある。佳乃、応答を拒否する。

◯ゆっくり走るローカル電車

◯ 電車・車内
ガランとしたローカル線。
   車内の乗客はまばら。あやめ、翔子、
佳乃は並んで座り、揺られる。
あやめ、しおりの冊子を見ながら
あやめ「次は竜星と姫子が初めてお互いの気
 持ちを知る、夏祭りがあった神社ですね」
佳乃「この電車…二人が乗ってたわよね」
あやめ「あ、分かります?その通りです」
佳乃「じゃあもしかして、電車の音にかき消
されながら叫び合うシーンの駅も…」
あやめ「(遮って)それは、午後の部で」
佳乃「あやめちゃん抜かり無いわ〜」
キャッキャとはしゃぐ佳乃とあやめの
   横でグッタリと外を見つめる翔子。
あやめ「あれ、翔子さん?」
翔子「…気持ち悪い」

◯ 駅のホーム
佳乃が翔子をベンチに座らせる。
あやめ、水のペットボトルを持って走
り寄る。
あやめ「翔子さん、飲んで」
翔子「ごめん…」
佳乃「昨日仕事頑張りすぎたんじゃ無い?」
あやめ「そっか、昨日休日出勤だったんです
 もんね」
佳乃「無理しすぎない方が良いわよ。過労は
早死に繋がるって、情報番組で」
あやめ「やっぱ社会人って残業多いんだ…」
翔子「ちょっと。二人共実生活の話禁止」
翔子、水をゴクゴク飲む。
あやめ「すいません、つい…」
佳乃「気を抜くと言っちゃうのよね」
翔子「多分空腹が原因。空きっ腹で揺られる
とすぐ気持ち悪くなるタチだから」
  あやめ、ふと駅の看板を見る。
「勝沼みなみ」とある。
あやめ「あ、ここ」
佳乃「どうしたの?」
あやめ「確か竜星と姫子が一緒に行ったお蕎
 麦屋さんがあるとこです。時間の関係で省
いたんですけど…翔子さんお腹空いてるな
ら、早めのお昼にしませんか?」
翔子「…でも、スケジュール大丈夫?せっか
く組んでくれてるのに」
あやめ「スケジュール通り行かないのも聖地
 巡礼の醍醐味ですよ。ね、行きましょ!」
佳乃「あの…」
あやめと翔子が佳乃を見る。佳乃、手
に持っていたバッグから保冷バッグを
取り出す。
佳乃「ごめんなさい、お弁当作って来ちゃっ
た。つい、張り切って」
顔を見合わせるあやめと翔子。
   × × ×
  並んでベンチに腰掛けるあやめ達。
あやめがお弁当の蓋を開ける。
中身は彩りの良いベーシックなお弁当。
あやめ「これってもしかして」
佳乃「うふふ」
あやめ「やっぱり!姫子が竜星に作ってたお
弁当ですよね?確か6話くらいで」
佳乃「アスパラの豚肉巻きが入ってるのが肝
 なのよね」
あやめ「再現率高いな〜」
あやめ、カメラでお弁当をパシャリ。
   翔子はどこか不満気にトマトを口に運
   ぶ。
  佳乃、携帯を見て
佳乃「あら!?西牧奈都、IT社長とドロ沼
 不倫ですって。最悪」
あやめ「え?(と佳乃の携帯を覗く)本当だ
…」
翔子「誰だっけ、その人」
あやめ「姫子やってた女優さんですよ!」
翔子「あ〜そんな名前だったね、確か」
佳乃「知らなかったの?ダメじゃない翔子ち
ゃん」
   翔子、ムッとして
翔子「私は姫を愛してるだけで、その西牧と
 かいう女優には興味ないから」
佳乃「でも、姫を演じたのは西牧さんなのよ
 ?こんなゴシップ、なんかイメージ崩れる
 わぁ」
翔子「その人がどんな恋愛してようが関係な
 いじゃん」
佳乃「関係あるわよ〜等身大で、空回りばっ
かの親しみやすいイメージの姫がIT社長
 と不倫してましたなんて、幻滅しちゃうじ
 ゃない」
翔子「分かってないなぁ」
佳乃「何よ」
翔子「姫と西牧は同じ顔でも違う人間なんだ
から不倫してようが関係ないでしょ。てか
今その話題出すとか、なんなの?」
佳乃「それは…たまたま情報を仕入れたから
共有しただけじゃない」
翔子「わざわざ言わなくてもいいでしょ。下
がるんだよな〜そう言うの」
佳乃「何よ、突っかかって」
あやめ「…まぁまぁ」
翔子「佳乃さんあれでしょ。新聞の下の方の
ゴシップ雑誌の広告欄、隈なく見ちゃうタ
 イプでしょ?」
佳乃「は?」
翔子「好きだよな〜おばさん世代は、人の噂
とか」
佳乃「そうやって括る言い方ムカつくんです
けど!」
あやめ「ちょっと、揉めないで下さいよ!」
翔子「あやめちゃん、どっちが正しい?」
あやめ「え?」
翔子「こう言う時は第三者が決めてよ。どっ
ちが正しい」
あやめ「正しいとか間違ってるとかじゃない
 と思いますけど…」
佳乃「いいわ、はっきり決めて」
翔子「どっち!」
あやめに詰め寄る二人。
あやめ「(泣きそうに)…どっちかって言った
ら翔子さんかなぁ」
翔子「よしっ!」
あやめ「でも別に今のは佳乃さんが間違って
 たとか、そう言う意味じゃなくて…」
佳乃、無言でお弁当に蓋をする。
あやめ「佳乃さん?」
佳乃「ムカつくからもう食べなくていい!」
あやめ「ちょっと待ってくださいよ」
翔子「いいよ、丁度良かった。蕎麦屋行きた
かったのに佳乃さんが弁当なんか作って来
て、食べざる得なくて困ってたとこだった
 し」
あやめ「え?え?」
佳乃、キッと翔子を睨む。
   翔子はあやめを引っ張り
翔子「あやめちゃん、蕎麦食べ行こ。お姉さ
ん奢ってあげるから」
あやめ「ちょっと…」
翔子「いいから」
あやめ、翔子の手を振り解く。
翔子「どした?」
あやめ「私、佳乃さんのお弁当食べます!」
翔子「はぁ?」
あやめ「何なんですか?まだ5箇所も残って
るんですよ?こんなつまんない事で揉めな
 いで下さい!さっきまではキャッキャして
たのに、いい大人がもう!」
あやめ、爆発したように叫ぶ。
   驚いてしゅんとする翔子と佳乃。
あやめ「もう…もう食べましょ」
あやめ、座って佳乃の弁当を食べる。

◯ 神社
緑の生い茂る神秘的な神社。
   あやめと翔子、佳乃が入ってくる。
佳乃「素敵…」
翔子「昼間だと余計雰囲気あるね」
あやめ「あ、あそこ!竜星と姫子が雨宿りす
る所!」
  翔子とあやめが駆けていく。
佳乃の携帯が着信。
佳乃が画面を見ると「寛志さん」の表
   示。佳乃、電話に出る。
寛志の声「あ、出た。お前どこにいんだよ。
もう調停開始時刻過ぎてるぞ?…もしもし
 ?聞いてる?」
佳乃「元気そうね、あなた」
寛志の声「…もう違うだろ」
佳乃俯く。
あやめの声「佳乃さーん?」
   遠くであやめと翔子が佳乃に向かって
   手招きをしている。
寛志の声「とにかく、今すぐに来なさい、皆
 さん待ってるから」
佳乃「行けない」
寛志の声「は?」
佳乃「今日は行けない」
   佳乃、電話を切り、
佳乃「今行く〜」
二人に駆け寄る。

◯ 景観の綺麗な高台
佳乃とあやめが辿り着く。その後ろ、
少し遅れて翔子が来る。
佳乃「ちょっと、私よりも若い癖に、体力な
いのね」
翔子「うるさいな…」
あやめ「ほら、揉めない!!」
   並んで立つ三人。
佳乃「綺麗ね〜」
あやめ「姫子と竜星はこの景色を見てたんで
 すね」
うっとりと街を見下ろす。
翔子「なんか、今もどこかで二人が仲良く暮
らしてるんだと思うと泣けて来るなぁ」
佳乃「フィクションだけどね」
翔子「…本当下がるよな〜一言多いんですよ、
 佳乃さん」
佳乃「はい、失礼しました」
あやめ、二人の間に割って入り
あやめ「お互いに突っかからない!」
   翔子と佳乃、吹き出して笑う。
あやめ「何ですか」
翔子「なんか、あやめちゃんって最年少なの
に…」
佳乃「年長者みたい」
あやめ「誰のせいですか!もう!」
   それを聞いて再び笑う翔子と佳乃。

◯ 電車・車内
横一列に座るあやめと翔子と佳乃。
翔子とあやめはウトウトしている。
翔子があやめの肩に寄り掛かり、その
振動であやめが佳乃の肩に寄り掛かる。
   佳乃、眠っている二人を微笑ましく見
ている。

◯ 駅・ホーム
あやめ、翔子、佳乃が降り立つ。
あやめ「ここです。二人が叫び合ってたホー
 ムですね」
佳乃「あの名シーンの…」
翔子「さっきとほぼ同じ作りだけど」
佳乃「全然違うわね」
あやめ「神のいた場所ですからね」
  写真を撮る三人。
翔子「ね、ね!再現しようよ、あのシーン」
佳乃「え、今?」
あやめ「はいはい、私姫やります!」
翔子「えーそれはジャンケンでしょ」
あやめ「何でですか。二人の間を取り持つ苦
 労を考えれば、私しかいないでしょ」
佳乃「翔子ちゃんが竜星やりなさいよ」
翔子「えー?じゃあ佳乃さんは?」
佳乃「私は恥ずかしいからいい」
あやめ「あ、動画撮ってくれませんか?」
佳乃「そんな本格的に?」
あやめ「いいじゃないですか。記念です!」
佳乃「しょうがないな〜」
翔子「反対ホームが竜星だっけ?私ちょっと
 あっち回る!」
翔子、嬉々として走り出す。
それをにこやかに見送るあやめと佳乃。
佳乃「あ!来た!来た!」
   佳乃の指差す方、電車が来ている。
あやめ「セリフなんでしたっけ?」
佳乃「とにかく愛を告白すればいいわよ」
あやめ「えっと…」
   反対側に翔子が回り終わっている。
   電車がホームに迫り、佳乃が携帯を構
   える。カメラを起動していたが、表示
が「土井弁護士」になり、電話が来る。
佳乃「何だよもう…」
応答拒否し再びカメラを構える佳乃。
あやめ「本当にセリフなんでしたっけ?」
佳乃「どうせかき消されるなら何でもいいで
 しょ」
あやめ「えー?え、えっと」
   電車がホームに入って来て、あやめは
   叫び出そうとするも
あやめ「やっぱ無理無理、恥ずかしい」
佳乃「ちょっと、電車行っちゃうよ!」
あやめ「いや、無理無理無理」
佳乃「早く言いなさいよ!」
   キャッキャとじゃれ合う佳乃とあやめ。
電車が通り過ぎて行く。
佳乃「あーほら、もう…え?」
反対側ホームで翔子が倒れている。
駅員が慌てて駆け寄っているところ。
それを見た佳乃とあやめ、走り出す。

◯ 市民病院・病室
  ベッドで眠る翔子。その両脇に座る
佳乃とあやめ。
佳乃「現代社会の闇ね…」
あやめ「え?」
佳乃「明らかに過労でしょ」
佳乃の携帯が着信。表示は「飯田弁護
   士」。応答を拒否する佳乃。
佳乃、ため息をつく。また着信。
今度は「寛志さん」
あやめ「あの、どうぞ、出て下さい」
   佳乃、無言で立ち上がり外へ。
あやめはそれを見送る。
すれ違いざまに看護師が入って来る。
   会釈するあやめ。
看護師「今回はご旅行か何かで?」
あやめ「あ、ええまぁ」
看護師「一ノ瀬さんですが血液検査の結果、
特に異常はありませんでした。ただ、妊娠
されてますよね?」
あやめ「…え?」
看護師「まだ安定期前なのでお体ご自愛され
 た方がいいと思いますよ」
   看護師、会釈して別の患者の元へ。
あやめは翔子の寝顔を見つめる。

◯ 同・廊下 
辺りを気にしながら電話をする佳乃。
寛志の声「出たよ…おい、行かないって何だ
よ。子供じゃあるまいし」
佳乃「…嫌ね、カッカしないでよ!」
寛志の声「お前なぁ…」
   佳乃、電話をブツ切る。再び着信。
表示は「土井弁護士」。
   動揺した手つきで応答を拒否。
再び着信。「寛志さん」。出る佳乃。
寛志の声「俺だと出るよ!…何がしたいんだ
 佳乃!」
佳乃「名前で呼ばれたの、何年振りだろう」
寛志の声「知るか」
佳乃「別に何がしたいってわけじゃないの。
あなたの声を聞きたいって気分に久々にな
 っちゃっただけ」
寛志の声「じゃあ来いよ。気の済むまで俺の
声を聞けるだろ」
佳乃「行かない」
寛志の声「何で!?」
佳乃「そんなの…」

◯ 同・病室
ベッドで眠る翔子と、それを側で見守
   るあやめ。
佳乃の声「離婚成立しちゃうからでしょ!」
   佳乃の声が廊下から響く。
驚くあやめ。
翔子「ここ何処…」
翔子がむくりと起き上がる。
あやめ「病院です」
佳乃がすごい形相で戻って来る。
あやめ「あ…あの、大丈夫ですか」
佳乃「大丈夫よ!」
あやめ、佳乃と翔子を交互に見てあた
   ふたと焦っている。
   × × ×
翔子がベッドに半身起き上がって座っ
   ている。その横に佳乃。
翔子「離婚すんの?」
佳乃、不機嫌そうにジロッと翔子を見
   る。
翔子「大声で言うから聞こえちゃった」
佳乃「息子が大学に上がったから、お互いに
 我慢しているよりは別れた方が良いだろう
って。何よそれ。あっちはずっと我慢して
たって事?」
佳乃、顔を覆い
佳乃「やってらんないわよ、そんなの」
そこにあやめが帰って来る。
あやめ「お茶で大丈夫でした?」
ペットボトルのお茶を佳乃と翔子に手
渡すあやめ。
翔子「何で慣れると人は身勝手になるかね」
翔子、ため息をつき
翔子「仕事が大事な時期に、結婚しようとか
 言ってくんなよ」
あやめ、動揺しつつ
あやめ「でも…それは」
翔子「何?」
あやめ「妊娠してるからじゃないんですか?」
佳乃「え?妊娠?」
あやめ「すいません、看護師さんからさっき
 聞いちゃいまして」
翔子「何だよ…」
佳乃「あんた妊娠してるのに倒れるまで働い
てるの?」
翔子「倒れるまで働いてるんじゃなくて、妊
 娠してるから倒れただけだから」
佳乃「同じでしょ。体大事にしなきゃダメじ
 ゃない」
翔子「佳乃さんにとやかく言われる筋合いは
 ない」
佳乃「女の仕事は健康な子供を産む事でしょ
 ?あなたがやってる事は本末転倒よ」
翔子「いつの時代の話してんの?今21世紀で
 すけど」
佳乃「分かってるわよ!」
翔子「大体、女性に社会進出しろ、結婚して
 子供産めって色々と要求する現代は何なの
?女を何だと思ってんの?って話だよ」
佳乃「出産する一年くらい休めばいいじゃな
 い」
翔子「育児入れたら2年だよ!そんなに空け
 たら、どれだけ追い抜かれるか!」
佳乃「そんなに頑張ったって大して出世出来
 ないわよ」
翔子「…家庭に入って子供成人した頃に捨て
られるなら、自分の身は自分で立てとくべ
 きでしょ」
佳乃「…喧嘩売ってんの?」
あやめ「いい加減にしてください!!!」
   あやめ、がたんと立ち上がる。
   佳乃と翔子があやめを見ると、あやめ
   はボロボロ泣いている。
   唖然とする二人。
あやめ「大人がぁ、そうやって未来ない事ば
 っか言わないで下さいよ。今からそっちに
向かっていく私たちはどうすればいいんで
すか?そのくせ、悟り世代だ、もっと欲を
持てって…ふざけんなよ!!!」
   他の患者が驚き、カーテンを開けてあ
   やめを見ている。
あやめ「私は現実逃避に来たのに…うちゅ君
 の世界に浸りたかっただけなのに、台無し
ですよ!」
あやめ、バッグを掴み
佳乃「何処いくの?」
あやめ「聖地です。まだ1箇所残ってますか
ら、意地でも行きます。翔子さんは休んで
た方がいいし、佳乃さんは今からでも調停
 行くべきですよ。私は行きます」
  あやめ、行こうとする。
翔子「待って!」
翔子、腕に刺さっていた点滴を乱暴に
   外す。
翔子「連れてってよ」
あやめ「…何言ってるんですか」
翔子「私も逃げて来たし。現実から」
あやめ「は?」
翔子「今日くらい良いよ。ね、行こう」
佳乃「私も、明日ちゃんと離婚し直すから、
 今日くらい良いわよ!」
翔子「行こう、あやめちゃん」
   あやめ、フッと笑ってしまう。
   それを見て笑う翔子と佳乃。

◯ ふれあいの里・入り口
   呆然と立ち尽くすあやめ、翔子、佳乃。
三人の視線の先、入り口の門のところ
   に「長い間ありがとうございました。
閉園しました」の札。
翔子「なんていうか…」
佳乃「ツイてないね〜」
キョロキョロと辺りを見回していたあ
やめ、フェンスに穴を見つける。
あやめ「あそこから入れる!」
あやめ、おもむろに駆け寄り、中に入
   ろうとする。
佳乃「ちょっと、やめなさいよ。不法侵入に
なっちゃうわよ!」
あやめ、中に消えて行く。
翔子「誰も見てないでしょ!」
翔子も後を追って中へ消えて行く。
佳乃「ちょっと…!私は行かないわよ、そん
 な獣道みたいな…」
佳乃、暫く渋るも、穴をくぐって中へ
入って行く。

◯ 同・園内
色とりどりの花が咲いている。
入って来るあやめ、翔子、佳乃。
佳乃「綺麗ね〜」
思い思いに写真を撮る佳乃とあやめ。
翔子は花々をじっと見つめたまま佇む。
× × ×
向こうに夕陽が沈み始めている。
それをベンチに座り眺めるあやめ達。
あやめ「そろそろ帰らないとですね」
翔子「そうだね」
佳乃「ずーっとぼうっとしてたいわね、ここ
で」
翔子「姫なら、仕事しながら結婚して子供産
んで完璧な家庭を作るんだろうな〜」
あやめ「え?」
佳乃「そうね、姫なら、こんな歳になっても
愛され続けてるだろうな〜」
あやめ「…そう思うのは、何ででしょう?」
翔子「姫には、無条件で相手を受け入れる強
さがあるから、かなぁ」
佳乃「竜星に色々と傷付けられたのに、最後
 自分から逆プロポーズだものね」
翔子「強い女だよ、ほんと」
あやめ、思案顔で遠くを見つめる。
不意にハッとし
あやめ「あっ!」
遠くの花畑の中、姫子が佇んでいる。
振り返ってあやめに微笑むと、フッと
消える。
あやめ「今…」
興奮気味に佳乃と翔子を見るも、言い
かけて止める。
翔子「なんか今、姫がいた気がしたな〜」
あやめ「え?」
佳乃「私も」
あやめ、驚き、笑顔になる。
園長の声「何やってんの?」
ハッとし振り向く一同。
   振り向くと、作業着を着た園長がバン
   から降りてくる。
園長「ダメだよ入って来ちゃあ」
苦笑いする佳乃、あやめ、翔子。

◯ 車内(夜)
助手席に座る翔子と、後部座席に乗る
あやめと佳乃。運転席には園長。
翔子「へぇ〜可愛い〜」
翔子の手には園長のスマホ。
幼い女の子の画像が表示されている。
園長「だろ?もうすぐ三つなんだよ」
佳乃「(あやめに)さすが営業。おじさんキラ
—ね」
あやめ「これが営業力…私にも出来るかも」
佳乃「(笑ってしまい)え?」
園長「しかし、わざわざ東京からこんな所ま
 で、熱心なファンもいたもんだ。誰が見て
るのかと思ってたよ」
和やかに笑っていたあやめ達の表情が
   曇る。
◯ 高速バス・車内(夜)
乗客のまばらな車内。いそいそと乗り
込むあやめ、翔子、佳乃。最後列に横
一列に座り同時にふうっと息をつく。
あやめ「東京に着くの、11時近くですね」
翔子「えー、私明日も会社なのに〜」
あやめ「私だって大学だし」
佳乃「明日裁判所」
翔子「それは自業自得」
佳乃「(舌打ち)うるっさいわね」
   あやめ、俯き
あやめ「さっきの、こたえましたね」
翔子「まぁあの人も、悪気ないみたいだった
 けど」
佳乃「でも悪気ないのが一番傷つくのよね」
翔子「好きなのを否定されてるように聞こえ
るっていうかね」
あやめ「でも、誰にもそんな権利ないですよ
 ね」
佳乃「え?」
あやめ「普通の幸せとか成功の指標はあって
も、何かを好きっていう普遍的な指標はな
いし、あっちゃダメですよね。好きなもん
は好き。人にとやかく言われる必要なんて
 ない」
翔子「どした?急に」
あやめ「いや、どうもしないんですけど…お
 二人と回れて今日、楽しかったから。その
…ありがとうございました」
翔子と佳乃、微笑み
翔子「こちらこそ」
佳乃「企画ありがとね、あやめちゃん」
  あやめ、照れる。
佳乃がふと携帯を見て「あっ」と声を
   あげる。
佳乃「ねぇねぇ。西牧奈都が会見だって」
翔子「ちょっと、佳乃さん、またその話蒸し
返すの?」
佳乃「いいから見ましょうよ」
佳乃、携帯でワンセグを起動。
   イヤホンを耳にはめる三人。
携帯の画面では毅然とした姫子役の女
優、西牧奈都(36)がカメラを見つめ
ている。
佳乃「どうやら、IT社長側は付き合った覚
えはないって、しらばっくれたそうよ」
あやめ「え!?」
翔子「最悪。自分だけ逃げたって訳か」
佳乃「現実の姫はとことん報われないわね」
   カメラを見つめる奈都のアップ。

◯ 会見会場
記者陣の前に一人で座る奈都。
   一人の記者が手をあげて立ち上がる。
記者「西牧さん。先ほど社長が、交際してい
るなど事実無根だとコメントをしましたが
その件に関してどう思いますか?」
   奈都、目線を落とし
奈都「そうですか…彼はそう思ってたんです
ね。でも…」
奈都、カメラをまっすぐ捉え
奈都「それでも私は、彼を愛しています」
  ざわつく会場。
奈都の強い眼差し。フラッシュが眩し
いほど白くたかれる。

◯ 高速バス・車内(夜)
携帯画面に釘付けになっている佳乃と
   あやめ、翔子。
佳乃がハッとして
佳乃「危ない。今なんか、西牧奈都の目に吸
い込まれそうだった」
  あやめ、ウンウン頷く。
翔子「今、姫だったよね?」
あやめ「え?」
翔子「この人の目、一瞬姫と同じ目になった
よね」
佳乃「同じ目も何も、同じ人だから」
翔子「そうだけど、そうじゃなくて!」
あやめ「私、翔子さんの言いたい事何と無く
 分かりますよ」
翔子「ね、でしょ?」
あやめ「無条件で相手を受け入れる強さ…」
画面では涼やかに奈都が会場を後にし
ていく。
翔子「…やっぱ姫みたいにはなれないな〜」
あやめ「私も」
佳乃「…私も」
翔子「佳乃さんの件は受け入れなきゃ」
佳乃「それを言ったら翔子ちゃんだってそう
でしょ?」
翔子「はぁ?何で私まで」
   間に挟まれて座っているあやめと、言
い争いを続ける佳乃と翔子。
最初は挟まれ小さくなっていたあやめ
だが、段々腹が立ってきて
あやめ「もう、大の大人が止めて下さい!」
   あやめの大声が車内に響く。
運転手の声「お客様〜大丈夫でしょうか〜?」
  数えるほどしかいない乗客が席を立っ
てあやめ達を見ている。
恥ずかしさで身を縮こめる三人。

◯ バスターミナル・三番乗り場(夜)
   バスがゆっくりと停車する。
   ぞろぞろと降りてくる客達。
   最後にあやめ、佳乃、翔子も降りてく
る。向かい合う三人。
あやめ「今日は、ありがとうございました」
翔子「こちらこそ」
佳乃「なんか、予想外にお見苦しい所を見せ
ちゃって」
あやめ「いえ」
   翔子、あやめに歩み寄り、ぎゅっと抱
   きしめる。
翔子「大丈夫。あんたはきっと大丈夫。私が
保証する」
  驚くあやめ。
佳乃も二人に抱きつき
佳乃「二人とも大丈夫。翔子ちゃんの未来も
私が保証する」
翔子「なんでだろ、佳乃さんの保証は頼りに
ならないなぁ〜」
佳乃「ちょっと、せっかく励ましてんのに、
あんた最後までムカつくわね」
二人の腕の中であやめは静かに涙ぐむ。
   それぞれのバックについた三者三様の
金太郎猫も寄り添いあっている。

◯ 緑山コーポ・外階段(夜)
あやめが階段を登っている。
ふと夜空を見上げる。曇っていて月も
星も見えない夜空。
あやめ「見えないなぁ、光」
あやめ、笑って再び階段を登る。

◯ 同・303号室・中(夜)
あやめが帰宅する。
駆け寄ってきてあやめに抱きつく深谷。
あやめ「ちょっと」
深谷「遅いよ〜何かあったかと思ったじゃ〜
ん。GPS意味分かんない所指してるしさ」
あやめ「え、見てたの?」
   深谷、あやめから離れない。
あやめ、抱きつかれたまま机の上の餃
   子を見つける。
ラップのかかった艶やかな餃子。
あやめ「お腹空いたな〜」
   深谷、あやめから離れ、笑顔で
深谷「餃子あるよ!食べなよ!」
   あやめ、バッグを下ろし、机の前へ。
箸を持ち、餃子をパクリ。
   深谷はあやめの反応を伺う。
あやめ「美味しい」
深谷「ほんと?餃子は流石に3回目だから自
信あったんだけど、良かった〜」
深谷、嬉しそうに笑う。
あやめ、それを見つめてまた餃子をパ
クリ。

◯ フラッシュバック
カメラをじっと見つめる奈都の強い眼
   差し。

◯緑山コーポ・303号室・中(夜)
餃子を食べるあやめ。深谷は立ち上が
   って洗面所へ。
あやめ「功くん、あのさぁ」
深谷「うん?」
あやめ「結婚しようか」
  深谷、洗面所から顔を出し
深谷「え?」
あやめ「いや…卒業したら、すぐにでもとい
 うか。だって専業主夫になるんでしょ?」
   深谷、じわじわと実感し、何度も頷き
ながら
深谷「する、する!!」
   とあやめに抱きつく。
あやめ、苦しそうに受け止めながら
あやめ「あーあ、言っちゃった…」
と笑う。
終わり

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