世直しセブン ドラマ

 世間一般の「常識」から外れた見識を持つ変人たちが、謎の組織「生活向上委員会」の神村右近と名乗る老紳士に次々とスカウトされる。スカウトされたのは6人。 日本語の誤った使い方を批判する「言葉の世直し人」こと、伊集院達也。 日本人の食文化を批判する「食の世直し人」こと、佐伯幸村。 日本人の酒文化を批判する「酒の世直し人」こと、平河鮎子。 世間に流布する健康法を批判する「健康の世直し人」こと、早乙女真一。 社会のルールや倫理を批判する「倫理の世直し人」こと、三島隼太。 芸能界やテレビの常識を批判する
鐘ヶ江隆 9 0 0 07/18
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第一稿

【登場人物表】
香坂ユイカ(27)…アルバイト。
伊集院達也(60)…「言葉」の世直し人。
佐伯幸村(45)…「食」の世直し人。
平河鮎子(33)…「酒」の世直し人。
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【登場人物表】
香坂ユイカ(27)…アルバイト。
伊集院達也(60)…「言葉」の世直し人。
佐伯幸村(45)…「食」の世直し人。
平河鮎子(33)…「酒」の世直し人。
早乙女真一(38)…「健康」の世直し人。
三島隼太(28)…「倫理」の世直し人。
浅丘良介(40)…「芸能」の世直し人。
神村右近(66)…スカウトマン。
岡田桜子(70)…生活向上委員会の理事長。
忍足孝(35)…岡田桜子の部下。

定食屋の店員
工員A
工員B
バラエティ番組のナレーター(声)
タレントA
タレントB
新入社員
先輩社員
社員A
社員B
社員C
社員D
カフェの店員
カフェの店長
テレビ局のスタッフA
テレビ局のスタッフB
テレビ局のスタッフD
酔客A
酔客B
遅刻した学生
挙手した学生
テレビ局のプロデューサー
バラエティ番組の司会者
バラエティ番組のアシスタント
バラエティ番組のレポーター
テレビ局のAD
巡査部長
先輩警官
自転車の男
歩行者妨害の運転手
ビニール傘の男
ビストロの店員
生活向上委員会の運転手
公園を大声で歩くカップル(男)
公園を大声で歩くカップル(女)
学生A
学生B
学生C
布団を叩く主婦
電車の親子(母親)
電車の親子(息子)
紳士服店の店員
CMの女性タレント
女殺し屋の香坂ユイカ
街頭インタビューのレポーター
街頭インタビューのカメラマン

○商店街・路上
着流し姿の男が歩いている後ろ姿。
歩いている足元のアップ。
足が止まる。
古びた庶民的な定食屋の外観。
○街の定食屋・店内
客がまばらに座り食事をしている。
   店員が客に食事を運んでいる。
   伊集院達也(60)、着流し姿で入ってくる。
店員「いらっしゃーい。お好きな席へどうぞ」
   伊集院、じろりと店内を見渡し、空いている席に着く。
   店員、伊集院にコップ水を持ってくる。
伊集院「じゃあ…オムライスをください」
   店員、厨房に注文を伝える。
   伊集院、店内のテレビを見る。
   テレビ画面に『工場へ初潜入!』の派手なテロップが踊る。
テレビの声「それでは今から、話題のパンケーキ工場へ潜入したいと思います!」
伊集院「(大声で)潜入⁈」
   店の客達、チラチラと伊集院を見る。
伊集院「潜入だってよ! 無許可で取材してんのか⁉ じゃあ不法侵入だ。建造物侵入罪だろ! テレビが堂々とこんな事していいのか⁉」
   店の客達、伊集院を気にするが、見て見ぬ振り。
○テレビ画面
タレント2人、パンケーキを前にしている。
タレントA「うわ~っ。美味しそう!」
タレントB「テンションが上がりますね~」
○街の定食屋・店内
伊集院「テンションが上がる⁈ えっ。血圧が上がるの? そりゃあ大変だ。それとも緊張が高まるとでも言いたいのかな? テンションという言葉には、血圧と緊張、その2つの意味しかないんだけどなあ」
   店員、伊集院に料理を運んでくる。
店員「お待たせ~。オムライスになります」
伊集院「なります⁈ 『なります』だって⁈ じゃあこれ、まだオムライスになってないの⁈ じゃあ、これは一体何⁈ 俺は何を食べさせられようとしてるの? ちゃんとオムライスの完成品を持ってきてよぉ~っ」
   店員、困惑する。
近くの席の工員風の男二人、伊集院の方を向く。
工員A「おい、おっさん! さっきからゴチャゴチャとうるせぇよ!」
工員B「黙って食えや!」
伊集院「『うるせぇ』? それは『うるさい』という意味ですか?」
工員A「当たり前だろ、バカ!」
伊集院「馬鹿ではありませんよ。少なくともあなたよりは。どうしてあなたは『うるさい』と言わず『うるせぇ』と言ったんですか?」
工員A「はぁ?」
伊集院「普段の日常生活でも『てめぇ』とか『うるせぇ』とか、べらんめぇ調で喋っている人ならば一応理解できますが。でも、そうじゃなくて人を威嚇する時だけ『うるせぇ』とか『てめぇ』という言葉を使うのは、自分を強く見せたいという心理ですよね」
   工員Aと工員B、立ち上がる。
工員A「じゃあ、強いかどうか見せてやろうか!」
工員B「来いよ!」
伊集院「いや。まだオムライスの未完成品を食べ終わっていないのですが…」
工員B「いいから外に出ろ!」
   工員Aと工員B、伊集院の腕を無理やり引っ張り外へ連れ出す。
○街の定食屋・外
工員A「さっさと謝れば、許してやるよ」
伊集院「謝罪する理由が見当たりませんな。謝るのは、むしろ食事を中断させたあなた方でしょう」
工員B「てめぇ!」
伊集院「ほら、出ました。『てめぇ』と言うのは、本来は『手前』というのが正しいのです…」
   工員Aと工員B、伊集院の話を聞かず何発も殴る。
伊集院、無表情で殴られ続け全く抵抗しない。
伊集院、倒れるが無表情。
工員A「なんだコイツ。弱いじゃん」
工員B「見せかけ倒しだな」
   伊集院、ゆっくり起き上がる。
伊集院「『見せかけ倒し』ではなく『見かけ倒し』が正しい日本語…」
工員A「何だよ、こいつ。気持ち悪いな…」
伊集院「人は、自分の理解が及ばないものを『気持ち悪い』の一言で片付けようとする。己の知的レベルが低いことに気付きもせず…」
   伊集院、着流しの懐に片手をゆっくり差し入れる。
工員B「あっ、こいつ…!」
工員A「やべぇぞ。刃物を出してくるぞ!」
   工員Aと工員B、逃げるように去る。
   伊集院、懐からゆっくりと可愛いハンカチを取り出し、口元の血を拭う。
伊集院「お腹、減った…」
   伊集院、店へ戻ろうとする。
   神村右近(66)、どこからともなく現れ、伊集院に近づく。
神村「失礼。先程から拝見しておりましたが、私共、あなたのような人物を探しておりました。少々お時間を拝借しても宜しいですかな?」
伊集院「いや、オムライスもどきを食べなくては…」
神村「オムライスの完成品ならば、こちらでご用意させていただきますので」
   黒塗りの高級車が現れる。
   神村、後部座席のドアを開く。
神村「どうぞ」
○オフィスビル・佐伯の会社事務室
   佐伯幸村(45)、社員達と楽しげにミーティングをしている。笑い声。
佐伯「おやっ、もうこんな時間か。みんなでランチ食べに行かないか?」
   社員達、急にソワソワする。
社員A「私、今日お弁当なんです…」
社員B「あっ、社食の食券が余ってた。早く使わなきゃ…」
社員C「いてて…急に腹の具合が…」
社員D「今日、食欲ないわぁ…」
新入社員「皆さん、どうしたんです? 先輩方…」
佐伯「おお、新入社員くん、ランチおごってやるぞ!」
新入社員「本当ですか? 嬉しいです!」
社員A「(小声で)あいつ、まだ知らないんだ」
社員B「(小声で)可哀想に…」
社員C「(小声で)普段は佐伯課長、いい上司なんだけどねぇ…」
社員D「(小声で)食べるとき以外は…ね」
先輩社員「(小声で)仕方ない。俺がついて行って助けてやるか…(佐伯に)すいません課長! 俺も一緒に行っていいですか?」
佐伯「おう! ついて来い!」
○オフィスの外・路上
   佐伯、新入社員、先輩社員が歩いている。
   新入社員、古びた定食屋(伊集院が立ち寄った店)に目を留める。
新入社員「あっ。ここ、良さそうじゃないですか? 気取ってなくて、いかにもB級グルメっぽくて…」
   先輩社員、人差し指を口に当て、新入社員に黙れと合図する。
   新入社員、意味が分からずキョトンとする。
   佐伯、足を止める。
佐伯「(急に険しい顔で)今…なんて言った?」
先輩社員「すみません課長、こいつ、まだ何も知らなくて…」
佐伯「今回だけだぞ…(ガラリと変わって優しく)さて、君の歓迎ランチだ。何か食べたいものあるか?」
   新入社員、定食屋を指差そうとするが、先輩社員に止められる。
佐伯「おっ。良さそうな店があるじゃないか。ここにしよう」
   三人、新装オープンのカフェに入る。
○カフェ・店内
   佐伯、先輩社員、新入社員、テーブル席に座る・
佐伯「いい店が出来たんだな。明るくて清潔そうだし」
   三人、メニューを開く。
   店員、コップの水を置きにテーブルへ来る。
佐伯「俺はクロックムッシュとカフェオレ。お前達、好きなものを頼んでいいぞ」
新入社員「じゃあ、僕も同じもので」
   佐伯と先輩社員、動きが止まる。
   先輩社員、悲鳴を上げそうな顔。
先輩社員「え、ええっと…あの…俺、ミートドリアのセットをお願いします」
新入社員「あれえ? 先輩、違うのを頼むんですかあ? こういう時って、上司と同じものを注文するんだって聞きましたけど。じゃあ、やっぱり僕もミートドリアでお願いしまーす」
店員「かしこまりました」
   佐伯、怒りに震えコップを握りしめる。
   先輩社員、気が気でない様子。
   新入社員、呑気に店内を見回す。
新入社員「この店、オシャレですね。課長、こういう小洒落た店にも、よく来るんですかぁ~?」
先輩社員「うわっ! なんてことを…よりによって禁句を二回も!」
   佐伯の握ったコップが割れる。
   ガラスが飛び散り、佐伯の手から血が流れる。
佐伯「さっきから黙って聞いてりゃ…お前には自分ってものがないのか⁉ いるんだよな、こういう奴。職場の同僚とのランチで、最初に注文した奴の料理を全員が『俺も同じものを』『私も同じものを』って、本当に自分が食べたいものを我慢してるか、食べたいものがない奴ら。それに貴様、さっき、この店のことを何て言った?」
新入社員「は? オシャレな店だって褒めましたけど…」
佐伯「バカヤロー‼ 飲食店には『おしゃれ』って言葉は要らないんだよ! そんな言葉を使う奴に限って、チェーン店の居酒屋やら薄汚れた定食屋なんかを妙に崇めて『気取ってなくて庶民的』だとか『アットホームで落ち着く』とか言ってるんだろ⁈」
***
(フラッシュ)
   居酒屋の狭い店内。大勢の客が過密状態で騒いでいる。
   古い定食屋。隅にバケツ、ぞうきん、汚れた段ボール箱から溢れる萎びた野菜、プロパンガスのボンベ。
***
佐伯「バケツやら段ボール箱やらプロパンガスのボンベやら…バックヤードが丸見えの下品な内装を『下町っぽい』と褒めちぎって、小さなビストロやカフェの清潔で落ち着く空間を『小洒落た店』だとか『おっしゃれー!』なんて言いながら内心で小馬鹿にしてるんだろ⁈」
***
(フラッシュ)
   小さなワインビストロ。隣との間隔が広く、ゆったりと飲食している。
   カフェのテラス席。コーヒーを飲んだり本を読む人々。
***
佐伯「大声で騒いで大笑いするのが『楽しく盛り上がっている』ことの証だと思い込み、隣の客の唾液の飛沫シャワーを浴び続けながら一体感になったような錯覚と陶酔をコミュニケーションだと信じ込んでいる日本人達‼」
   佐伯の手から血が滴る。
新入社員「(先輩社員に)課長どうしちゃったんですか?」
先輩社員「すまん、今回も止められなかった。普段は良い上司なんだけどねぇ…」
佐伯「そもそも、この程度の店で『おしゃれ』だなんて、ちゃんちゃら可笑しい! 世界基準では中の下だろ! 日本人の感覚が下品を基準にし過ぎるんだよ!」
   店長と店員、店の隅で『ええーっ』という顔で聞いている。
先輩社員「課長、言い過ぎです…」
佐伯「今こそ日本人の意識を変える時だ! 下品な店を格好いいと考える風潮を叩き壊せ! ヨーロッパ文化に追いつけ! 追い越せ!」
新入社員「これって、パワハラっすよねー」
○オフィスビル(夕)・外観
   佐伯、ビルから出てくる。右手に包帯をしている。
   黒い高級車が目の前に停車する。
   神村、助手席から降車する。
神村「佐伯様ですね? 私、こういう者です」
   神村、名刺を差し出す。
   名刺に『財団法人 生活向上委員会 神村右近』と印刷されている。
   神村、後部座席のドアを開け、どうぞという仕草をする。
○テレビ局・会議室
   浅丘良介(40)、スタッフらと会議中。
浅丘「だから何度も言ってるだろ! ワイプなんて要らないんだよ!」
スタッフA「でも浅丘さん、今やバラエティ番組でワイプは不可欠ですよ」
浅丘「その思い込みがダメなんだよ。本体の映像を流している間に、画面の隅の小窓にタレントの顔を映すことに、どんな意味があるってんだよ!」
***
(フラッシュ)
   バラエティ番組のテレビ画面。
   画面の片隅にタレントの顔のワイプ。
***
スタッフB「意味とかじゃなくて…視聴者は好きなタレントの顔を見たいと思うじゃないですか。タレントには高いギャラを払ってるんですから、なるべく画面に映さないと…」
スタッフC「それに、視聴者はもう、ワイプの存在に慣れちゃってますよ。いや、むしろワイプがない方が不自然だと感じているかもしれませんよ」
浅丘「視聴者を慣らしたのは俺達テレビマンだろ。テレビの責任なんだから、自分達で尻拭いしようじゃないか。こんな妙ちくりんで品のない手法…欧米のテレビじゃ、使ってないぞ!」
スタッフD「浅丘さんの言う事も分かるけどさぁ…視聴者はワイプに映るタレントの反応を見て『ああ、この映像には、こういう反応が正解なんだな』って、見てる側に手がかりを与えてくれる役割もあるんじゃないかなあ。安心感というか…」
浅丘「それこそ言語道断だよ。視聴者を馬鹿にしてる証拠だよ。そうやって、どんどん視聴者がモノを考えないように仕向けてるんじゃないのか⁈」
   全員、静まる。
浅丘「それから、CMまたぎの件。これも、前々から俺が言ってるだろ。こんな、みみっちいやり方はやめろって。CMが入る直前に…」
***
(フラッシュ)
   テレビ画面『このあと驚きの結末!』
   と大きなテロップ。
ナレーション「このあと驚きの結末に!」
***
浅丘「とか…」
***
(フラッシュ)
   テレビ画『CMの後、衝撃の展開!』と大きなテロップ。
ナレーション「CMの後、衝撃の展開に!」
***
浅丘「…とか。いや、本当にCMの後に意外な展開があるんだったら、まだいいよ。でも違うでしょ。単なる決まり文句になってるでしょ。だったら、大袈裟な言葉で視聴者の興味をつなぎ止めるだなんて、セコいやり方は止めようよ。もっと正々堂々と、綺麗な爽やかな番組作りをしようぜ!」
   全員、白ける。ため息をつく者もいる。
浅丘「ちょっと休憩を入れよう。みんな、頭を冷やそう」
   全員、会議室を出て行く。
スタッフA「(小声で)浅丘さんが頭を冷やすべきだろ」
スタッフB「(小声で)あの人、テレビに向いてないよ」
○テレビ局・事務室
   浅丘、デスクに座りパソコンに向かう。
   パソコンのメール画面。
『外部メール』の項目に着信の表示がある。
   浅丘、メールを開く。
浅丘「生活…向上…委員会?」
   メール画面。
宛名に『浅丘良介ディレクター様』の文字。
送信者名に『財団法人 生活向上委員会』の文字。
○生活向上委員会の本拠地・理事長室
   机の上に三枚の紙が並べられている。
1枚目(右端)の紙。
『伊集院達也』と書かれ、伊集院を隠し撮りした写真が何枚か貼られている。
岡田(声)「伊集院達也。60歳。年金生活者。『言葉』の世直し人ね」
   2枚目(真ん中)の紙。
『佐伯幸村』と書かれ、佐伯を隠し撮りした写真が何枚か貼られている。
岡田(声)「佐伯幸村。45歳。一流企業の課長。『食文化』の世直し人ね」
   3枚目(左端)の紙。
『浅丘良介』と書かれ、浅丘を隠し撮りした写真が何枚か貼られている。
岡田(声)「浅丘良介。40歳。テレビ局のディレクター。『芸能界』の世直し人ね」
   岡田桜子(70)、理事長デスクに座り、書類に目を落としていた顔を上げる。
岡田「分かりました。この3人を世直し人に任命します」
神村「かしこまりました」
   神村、お辞儀する。
香坂ユイカ(27)、神村の隣にぼんやりと立っていたが、慌てて一緒にお辞儀する。
岡田「あら。そちらのお嬢さんは?」
香坂「香坂ユイカです。今日からアルバイトで雇っていただきました。まだ仕事の内容は知らないんですけど…よろしくお願いします!」
岡田「元気で可愛らしい方ね。あら…ひょっとして、この子が?」
神村「はい」
香坂「…?」
岡田「へぇ。人は見かけによらないわね」
神村「では、失礼します」
岡田「ちょっと待って。一つだけ、念のため確認しておくわ。この伊集院達也って男、昔の任侠映画に出てくるみたいな顔と服装だけど、まさか…本物の『その筋の人』じゃないわよね?」
神村「もちろん調査済みです。ご安心ください。我々は反社の人間は雇いませんから。この男、こう見えて刺青も入っておりません善良な市民です」
岡田「安心したわ。では、予定どおり進めてちょうだい」
○生活向上委員会の本拠地・廊下
   神村、早足で廊下を歩く。
香坂、その後をついて歩く。
香坂「あの…『世直し人』って、何ですか?」
神村「そのうち、分かりますよ」
香坂「(不安そうに)でも…」
○生活向上委員会の本拠地・会議室
   大きな会議室の真ん中に、椅子だけが三脚置かれている。
   伊集院、椅子に座って腕組みしている。
   佐伯と浅丘、落ち着かない様子で椅子の周りに立っている。
   神村と香坂、会議室に入ってくる。
神村「どうぞ皆さん、おかけ下さい」
   佐伯と浅丘、恐る恐る椅子に座る。
   香坂、壁際に置かれた椅子を持ってきて座ろうとする。
神村「香坂さんは立ってて下さいね」
香坂「あ、そっか」
   香坂、ペロッと舌を出し、慌てて椅子を片付ける。
神村「では皆さん。あらためまして、ようこそ生活向上委員会へ」
佐伯「前置きはいいから、早く説明してくれよ。こっちは忙しいんだから。ヘッドハンティングだと聞いたから、わざわざ来てやったんだぞ」
浅丘「ヘッドハンティング? 違うだろ。新しい番組作りのネタを提供してくれるって言うから…」
神村「誤解を与えたようで申し訳ありません。我々の組織は、世直しを目的として活動する団体です」
佐伯・浅丘「世直しぃ~⁈」
佐伯「宗教っぽい匂いがするなあ」
浅丘「あるいは詐欺集団とか」
佐伯「帰ろ、帰ろ」
   佐伯と浅丘、席を立つ。
神村「佐伯様。失礼ですが、現在、部下の方からパワハラで訴えられていますよね。私共、腕のいい弁護士を紹介して差し上げられますが…」
   佐伯、足を止める。
神村「浅丘様。私共は近い将来、テレビ局を設立する予定です。放送免許取得に向けて現在、総務省と調整中ですが…」
   浅丘、足を止める。
神村「浅丘様に番組作りを全面的にお任せしようと考えています。思う存分、浅丘様の好きなように番組を作っていただいて結構ですよ」
   佐伯と浅丘、互いに顔を見る。
神村「申し遅れましたが、皆様には協力謝礼として月額一千万円を無期限でお支払いします」
佐伯「一千万…」
浅丘「マジか⁈」
   佐伯と浅丘、ばつが悪そうに戻って、椅子に座る。
佐伯「で? 俺達は何をすればいい?」
神村「ご自分の主義主張を、これまで同様、発信し続けて下さい。いずれテレビ局を新設したら、そこへ出演していただきますが、それまではインターネットや執筆活動、講演が自由に出来るように、こちらで手配します」
浅丘「なんで、あんたらがそこまでする?」
佐伯「そっちに、どんなメリットがあるんだ?」
神村「まあ、金持ちの道楽だと思って下さい。いずれ、あなた方を理事長に紹介しましょう。さて…そろそろ、お返事を聞かせていただけますか?」
   伊集院、立ち上がる。
伊集院「拙者は、趣旨目的に賛同した。喜んで協力させてもらう」
香坂「(呟く)拙者って…武士かよ」
佐伯「さっきの謝礼金の話。書面で残してもらえるかな?」
神村「もちろんです」
浅丘「新しいテレビ局での雇用契約も、書面で頼むよ」
神村「仰せのままに」
香坂「やった! これでメンバー3人が揃いましたね」
神村「実は、あと三人、メンバー候補がいるのです」
   室内が暗くなり、壁のプロジェクターに画像が映し出される。
早乙女真一(38)を隠し撮りした複数の写真。
神村「早乙女真一。38歳。大学講師。『健康法』の世直し人」
   スクリーンの画像が、平河鮎子(33)の隠し撮り写真に切り替わる。
神村「平河鮎子。33歳。バーテンダー。『酒文化』の世直し人」
   スクリーンの画像が、三島隼太(28)の隠し撮り写真に切り替わる。
神村「三島隼太。28歳。交番勤務の警察官。『社会ルール』の世直し人」
   部屋が明るくなる。
神村「以上の3人を、皆様方にスカウトしていただきたいのです」
佐伯「えっ。俺達が?」
浅丘「スカウト?」
佐伯「面倒くせぇな~」
神村「謝礼金とは別に、成功報酬二千万円をお支払いします。もちろん失敗してもペナルティはありませんので、ご心配なく」
佐伯「やりましょう!」
浅丘「でも、なんで俺達にやらせるんだよ? 自分たちでやればいいだろ」
神村「我々はこの3人のスカウトに一度失敗しております。しかし、あなた方であれば、同じ世直し人ですから、何か通じ合うのでは…と期待しているのです」
伊集院「それがしに、スカウトなんぞ出来るでしょうか?」
香坂「(呟く)それがし?」
神村「大丈夫です。皆さんには、こちらにいる香坂が、陰からサポートさせていただきます」
香坂「えっ…あたしぃ⁈」
神村「では、ご武運をお祈り申し上げます」
○バー(夜)・店内
   カウンター席の奥に、女性客が一人。
   平河、バーテンダーの服装で、カウンターの内側でグラスを磨いている。
平河「いらっしゃいませ」
   酔客2人、店内に入ってくる。
酔客A「二次会がバーなんて、おっしゃれ~」
酔客B「たまには、こんなオサレな店で格好つけて飲むのもいいじゃん!」
酔客A「おねーちゃん、とりあえずナマ!」
酔客B「俺も。生中(なまちゅう)二つ、頼むよ!」
平河「(酔客たちを睨む)…はぁ⁉ そんな名前のお酒、うちには置いてませんが!」
酔客A「へっ?」
酔客B「生ビール置いてないって意味か? じゃあ瓶ビールでいいよ」
酔客A「だな。まずは、とりあえずビール!」
平河「うちには『とりあえずビール』という銘柄のビールはありません。ちゃんと自分が飲みたいビールの名前を言って下さいな。ハイネケン? それともギネス?」
酔客A「このネーチャン、何言ってんの?」
酔客B「何でもいいから早くビール出せよ!」
平河「『何でもいい』と言うような味の分からない客に飲ませるものは置いてないよ」
酔客A「なんだとぉ⁉」
   店主、慌てて出てくる。
店主「ああっ! すみませんお客様!」
酔客B「もういい。こんな店、出よう。気分悪いや」
   酔客二人、店を出る。
平河「こっちが気分悪いわ。二度と来んな!」
店主「もう…鮎子ちゃん、いい加減にして! 今度やったらクビって言ったでしょ! あなた、本当に今日限りですからね!」
平河「分かりました。でも今夜12時までは精一杯、勤めさせていただきます。契約ですから」
店主「精一杯ねぇ…」
   店主、奥に消える。
   入口ドアの鈴が鳴る。
佐伯が店に入ってくる。
平河「いらっしゃいませ」
   佐伯、カウンター席に座る。
佐伯「ボウモアをストレートでお願いします。チェイサーも付けて下さい」
平河「氷はどうします?」
佐伯「スコッチですから氷は要りません。チェイサーの水だけで結構です」
平河「(にっこり笑う)分かってますねぇ」
   佐伯、ビールサーバーを見る。
佐伯「そこのタップ、ひょっとしてスピットファイアですか?」
平河「そうですよ。分かります?」
佐伯「懐かしいな。ロンドン出張の時、パブで飲んだよ。ギネスもいいけど、これも美味しいよね」
平河「常温で出すと『このビール、生ぬるいよ』って怒るお客様もいますけどね」
佐伯「その客が馬鹿なんだよ。ラガービールじゃあるまいし、エールビールを冷やしたら香りも風味も台無しでしょ?」
平河「分かってますねぇ。日本人には珍しい…あっ失礼」
佐伯「ベルギービールは置いてないの?」
平河「以前はタップもあったんですけど、売れなくて」
佐伯「単一文化が好きな日本人には、合ってないのかもね」
平河「そうなんですよ! 聞いて下さいよ、私のフラストレーション。例えば、ベルギービールだと味や香りが異なるビールが1300種類。ピルスナータイプ以外に、白ビールや黒ビールはもちろん、赤ビール、トラピストビール、セゾンビール…料理に合わせてビールも選びますよね。例えば海老の料理には赤ビールとか。季節や時間帯にも合わせます。夏の夕方、まったり過ごしたい気分にはグーズビールとか。TPOに合わせてビールを選びます。ところが…日本じゃ、ラガービールの一辺倒で、どれもこれも似たような味ばかり。やっぱり日本人って『みんな同じ』じゃなきゃ安心しないのかなあ。なんか全体主義国家みたいで気持ち悪いわ! …って、言い過ぎかしら?」
佐伯「いいえ。私も100パーセント同感ですよ。私も『食文化』に関しては、あなたと同じような気持ちになることがありますから…」
   カウンター席の奥に座っていた香坂、スマホのトーク画面に入力する。
   『無事、釣れました』
○大学(朝)・教室
   早乙女、教壇に立っている。
まばらに学生が座り聴講している。
講義の途中で、遅刻した学生が忍び足で入ってくる。
早乙女「(くるりと振り向いて)おはようございます」
   学生達、どっと笑う。
遅刻した学生「おはようございます…すいません(座る)」
早乙女「やっぱり1時限目って出席率が悪いんですよねぇ。でも、遅れてでも私の声を朝から聞こうとする、その姿勢が嬉しいです」
   学生達、笑う。
早乙女「ちょっと話がそれますが、1時限目の講義に間に合う方法を教えましょう。それは、朝ごはんを食べないことです。朝ごはんを食べないと、力が出ない? いいえ、そんなのは嘘です。迷信です。思い込みです。そんなのは単なる惰性の習慣に過ぎません。本来、人間の体のリズムを考えると、朝は排泄のリズム期なんです。排泄物を体から外に出そうという時間なんです。朝から体の中に何かを入れようだなんて、自然の摂理に反する行為なんですよ。『きちんと朝食を摂りなさい』とか『朝は、しっかり食べなさい』なんて言われて育った人が多いと思いますが、そんなのは大がかりな洗脳ですから…何か質問ありますか?」
   学生の一人、手を挙げる。
早乙女「どうぞ」
挙手した学生「でも、育ち盛りの子供とか、朝から肉体労働する人とか、妊婦さんとか…朝食を摂らなきゃいけない人も、いるんじゃないですか?」
早乙女「良い質問です。確かに、育ち盛りの子供や肉体労働者のように、朝食を必要とする人もいます。一方、朝から食欲がないのに強迫観念で無理矢理食べて、体調を悪くする人もいます。さて、結論です。朝食は必要か不要か。ズバリ正解を先に言います。正解は『人それぞれ』です。朝ごはんは、全ての人に必要ではありません。却って体調を崩すなら食べない方が良い人もいます。つまり、年齢・職業・体質・病気の有無等によって、一人一人異なるのです。もっと言えば、同じ一人の人間でも、環境や体調によって変わることがありえます。大切なのは、一人一人の状況を丁寧に細かく見て判断することなのです。朝ごはんもそうですが、その人に合った健康法というのは一人一人違うのです。万人に当てはまる健康法なんて、そんな乱暴なものは存在しないのです」
   終業のチャイムが鳴る。学生達、教室を出て行く。
浅丘、教室に入り早乙女に近づく。
最後列の席に座っていた香坂、スマホでこつそり通話する。
香坂「今、浅丘さんがターゲットに近づきます。出演交渉するようです」
○テレビ局・収録スタジオ
   司会者とアシスタントがいる。
   早乙女、ゲスト席に座っている。
司会者「つまり早乙女先生は、一日三食という考え方が間違っていると仰るわけですね」
早乙女「一日三食が絶対ダメだとは言ってません。一日三食が絶対の正義だという考えが間違いの元だと言ってるんです。そもそも、人類が誕生して有史以来、一日に三食も食べるというのは、ごく最近の食文化なんですよ。日本では江戸時代以降と言われています。江戸時代の人達は、朝の四時や五時に起きて畑仕事という重労働を始めますから、エネルギー補給のために朝食が必要でした。でも、起きてすぐじゃなく、朝七時や八時に食べるんです。現代の感覚で言えば、早めの昼食やブランチという時間ですね。ところが、どうです? 現代人はそんなに重労働をしないのに一日三食を念仏のように唱えて実行する。明らかに栄養過多です。肥満で悩んだり、ダイエットが流行ったりしてますが、そんなに動いていないくせに食べ過ぎるんだから当然の結果です」
   スタジオの隅で、浅丘が腕組みして頷いている。
プロデューサー、浅丘に近づく。
プロデューサー「浅丘ちゃん、あの人、どこで見つけてきたの? かなり過激だけど大丈夫?」
浅丘「あれくらい煽った方が番組は面白くなりますよ」
司会「…しかし、育ち盛りの子供や労働者の人達は、一日三食の方が良いわけですね?」
早乙女「ええ。特定の病気を抱えている人も当てはまるでしょう。でも、全ての人間が一日三食も必要だと言うのは、どう考えても不合理です。医者を喜ばすだけですよ。こういう諺があります。『三食のうち、一食は自分のため。一食は惰性で。一食は医者のため』ってね」
プロデューサー「ああっ! 今の発言はダメだ。スポンサーとの関係でNGだな!」
早乙女「私が最も忌み嫌うのは、年齢や体質や環境を度外視して一律に『三食しっかり食べましょう』と全国民に押しつける風潮です。これはソフトなファシズムですよ。本来、健康法は一人一人違うはずなのです。いくらなんでも、たった一つのメソッドをまるで万能のように崇めて全人類に強制するのは乱暴ですよ」
AD「はい、ここで休憩に入りまーす」
プロデューサー「やっぱり生放送にしなくて良かったよ」
浅丘「私は残念ですけどね」
   浅丘、早乙女に近づく。
浅丘「どうでした?」
早乙女「まだ言いたい事の半分も喋ってないですよ」
浅丘「(小声で)残念ですけど、早乙女さんの発言、大幅にカットされるかもしれませんよ」
早乙女「えっ」
浅丘「…このあと、ご案内したい場所があります」
○テレビ局・スタッフ出入口
   香坂、守衛に止められている。
香坂「怪しい者じゃないですってば~。ああっ…入れない~っ!」
○街の路上
   三島、警察官の制服姿で上司の巡査部長と一緒にパトロールしている。
   三島、通りかかった自転車を止める。
三島「ちょっと君。スピード出し過ぎだよ。ここは歩道だから歩行者が優先」
   自転車の男、舌打ちして車道の側道を走ろうとする。
三島「ダメダメ! 逆走だよ。自転車は車と同じ方向に走らなきゃ」
   交差点を左折する車。
横断歩道を渡る歩行者の前を横切る。
   三島、警笛を吹呼し、車を止める。
   三島、運転席に駆け寄る。
三島「こらっ。歩行者妨害だろ」
運転手「えーっ。今のタイミング、車が先に行けましたよ」
三島「歩行者が遠慮して足を止めたじゃないか。道路交通法38条違反。本来なら禁固3ヶ月以下又は5万円以下の罰金だよ」
巡査部長「(運転手に)もう行っていいですよ。これからは気をつけて下さいね」
三島「部長!」
   車、走り去る。
巡査部長「お前は、やり過ぎなんだよ」
   自転車が激しくベルを鳴らす。
   歩行者が慌てて自転車に道を空ける。
三島「おい、貴様―っ! 歩行者妨害の現行犯だぞーっ!」
   三島、手錠を取り出し、自転車を追いかけて走る。
   巡査部長、やれやれと溜息をつく。
○交番・執務室
   三島、机で書類を書いている。
巡査部長「三島、そんな所で始末書を書く奴があるか」
先輩警官「お前、これで何回目だよ。そういえば、今日も市民からのクレームが来てるぞ」
三島「(ふてくされて)立番(りつばん)…立ちます」
○交番・外観
   三島、交番の前で立っている。
ビニール傘を持った男が、傘を前後に振りながら歩いて行く。
三島「おい、君っ!」
   ビニール傘の男、立ち止まる。
ビニール傘の男「は? 俺?」
三島「傘の持ち方! 後ろの人に傘の先が当たるかもって考えてないだろ?」
ビニール傘の男「気をつけてますよ。それに、誰も後ろにいないじゃないですか」
三島「そういう心構えがエゴイストなんだよ。傘は縦にして持つのが常識! 礼儀! マナー! エチケット!」
ビニール傘の男「お巡りさん、これ何か犯罪になるんですかぁ? 何の罪なのか説明して下さいよ!」
   巡査部長と先輩警官、交番から出てくる。
先輩警官「おいおい、今度は何事だよ?」
巡査部長「(ビニール傘の音に優しい声で)どうかしましたか?」
   伊集院、ふらりと現れる。
伊集院「それがし、一部始終を見ておりました。拙者が、事の成り行きを説明して進ぜましょう」
先輩警官「それがし?」
巡査部長「拙者?」
伊集院「(ビニール傘の男を指差す)この男が悪い。無神経に傘を振り回して歩くのも悪いが、言葉遣いも悪い。顔も悪い」
ビニール傘の男「…余計なお世話だ!」
巡査部長「(伊集院に)お前、どこの組のモンだ? ちょっと職務質問させてもらうぞ。中に入れ」
   伊集院、巡査部長と先輩警官に交番の中へ連行される。
   電信柱の陰で見ていた香坂、スマホを耳に当てて通話する。
香坂「ああ~っ! 伊集院さんが交番の中に連れて行かれちゃいました! スカウト失敗です~っ!」
神村(電話の声)「仕方ありませんね。では、香坂さん、あなたが三島さんをスカウトして、連れて来て下さい」
香坂「えーっ…」
   香坂、交番の前の三島を見る。
   三島、ビニール傘の男と口論を続けている。
   巡査部長と先輩警官、交番の中から出てきて、三島を両脇から抱え、ビニール傘の男から引き離す。
   香坂、意を決して三島のほうへ歩き出す。
○生活向上委員会の本拠地・理事長室
   理事長デスクに、岡田。
   岡田の脇に、神村と香坂。
   ソファーに、伊集院、佐伯、平河、早乙女、三島、浅丘が座っている。
岡田「ようやく、これでメンバーが揃いましたね。皆さん、よろしく。私が財団法人生活向上委員会の代表、岡田です。神村さん、香坂さんも、お疲れ様でした」
   神村、会釈する。
香坂「私は別に、何も…」
佐伯「それで? これからの活動内容を教えてくれるのかい?」
神村「それはまた、追々(おいおい)で」
佐伯「また『追々で』かよ。おいおい!」
   シーンと静まる。
佐伯「あ…いや、違う! 今のは偶然だ。決してダジャレなんかじゃ…」
伊集院「素晴らしい! 『追って連絡する』の『追々』と、呼びかけの感嘆詞「おいおい」を重ねて、そこに面白味を見出したのですな」
佐伯「やめろーっ!」
早乙女「活動内容は、なんとなく想像できます。我々が、それぞれの分野で日頃思っていることや感じてることを、公の場で発言していくんでしょ?」
浅丘「いわば、啓蒙活動だな」
三島「謝礼金の件ですが、自分は公務員ですので受け取れません。ボランティアで結構です」
伊集院「吾輩も、金銭は要りませぬ。年金で十分ですから」
平河「…吾輩?」
岡田「いずれにしても、これで『世直しセブン』が勢揃いして良かったわ」
佐伯「世直し…」
浅丘「セブン…?」
早乙女「セブンって。(人数をかぞえる)6人しかいないけど、なんでセブンなの?」
岡田「あら。(神村を見る)まだ言ってなかったの?」
神村「すみません」
岡田「7人目は、もう既にこの場にいますよ。皆さんの目の前に」
平河「理事長さん…ですか?」
三島「神村さん、かな?」
神村「7人目の世直し人。それは、この人…香坂ユイカさんです」
   香坂、うんうんと頷いているが、ふと我に返って驚く。
香坂「…ん? えっ⁈ 私ぃーっ⁈」
   神村、頷く。
   岡田、微笑む。
香坂「何ですか、それ⁈ 聞いてないんですけどぉー!」
神村「まぁ…言ってませんでしたからね」
香坂「でも私、何の特技も持ってませんよ。世直ししようとも考えてないし…」
岡田「あなたは私達の秘密兵器なのよ。最後の最後で大活躍する時が来るわよ。まあ、いずれ分かるわ」
香坂「そ…そう…ですかぁ~?(まんざらでもない顔)」
岡田「では、世直しセブンの皆さん。活躍を期待していますよ」
○ビストロ(夜)・店内
   佐伯、平河、三島、テーブル席で飲食している。
平河「世直しって言われても、具体的に何をすればいいのか…正直、分かんないわ」
佐伯「まあ、なるようにしかならないさ。しかし、せっかく見知らぬ者同士が縁あってチームを組んだんだから、親交を深めようと思って団結式に誘ったのに…たった3人か」
三島「あの若い女性スタッフ…香坂さんでしたっけ? あとから遅れて来るって言ってましたよ」
平河「ああ、あの娘ね。7番目の世直し人っていう…」
   店員、飲み物を持ってくる。
店員「お待たせしました。ジン・トニックになります」
   店員、去る。
平河「(三島に)何を笑ってるの?」
三島「伊集院さんがいたら今、修羅場になってただろうなって想像して」
佐伯「ああ。あの人、『ジン・トニックになります』とは何事だ!…って怒るんだよね。『じゃあ、この未完成の飲み物は何だ⁈』ってね」
平河「三島君が『とりあえずビール』とか『生中(なまちゅう)』とか『チューハイ』とか『ハイボール』って注文してたら、私がぶん殴ってたわ」
三島「チューハイとかハイボールも駄目なんですか?」
平河「チューハイは味音痴の飲み物。ハイボールは名前が駄目。大体、ハイボールって何よ。ウイスキー・アンド・ソーダと言うのなら分かるけど」
三島「良かったぁ…僕、普段は先輩や同僚と飲みに行くと、いつも無意識に使ってる言葉だから危なかったなあ。警察官って、味なんかどうでもいい野蛮人が多いですから」
佐伯「こういうお店を『おしゃれ』とか言ったりするんだろうね。ああ嫌だ嫌だ…」
三島「なんか…すいません」
平河「三島君が謝ることないわよ」
   香坂、走ってやって来る。
香坂「遅くなってすみませぇーん」
佐伯「いよっ! 第7の世直し人」
   早乙女、現れる。
早乙女「すいません、僕も来ちゃいました」
三島「どうぞ座って下さい」
   平河、香坂と早乙女を交互に見る。
平河「なるほどねー」
早乙女「な…何ですか?」
平河「いえ別に」
早乙女「(店員に)あ、僕、生ビー…(平河を見て)じゃなかった…スパークリングワインをお願いします」
香坂「私も。へぇ…このお店、おしゃ…(佐伯を見て)おしゃ…長万部にも…に、似てる店がありますよっ」
三島「ちょっと苦しいなあ…」
平河「(香坂に)ねえ、ユイカちゃんって呼んでもいい?」
香坂「はい」
平河「ユイカちゃん、正直に話して。あなたの団体、本当は何が目的なの?」
   全員、『えっ』という顔で平河を見る。
平河「こんなメンバーで本当に世直しが出来ると思ってるのかしら? そもそも『金持ちの道楽』って言うのが信じられないのよね」
早乙女「でも、世の中には変わった人も沢山いるから。その中の1人が、たまたま大金持ちだったんじゃ…」
佐伯「いや。俺も少し、違和感があるんだよね」
平河「報酬に釣られて来たくせに」
三島「でも、少なくとも犯罪絡みではなさそうですけど」
香坂「私、一週間前にアルバイトで雇われたばかりで、本当に何も知らないんです。お役に立てなくてごめんなさい」
早乙女「アルバイトの募集内容には、何て書いてあったの?」
香坂「すみません…時給3万円としか…」
平河「(呆れる)おいおい…」
三島「ところで、あと2人はどうしたんでしょうね?」
佐伯「人付き合いが悪いだけだろ? 昔のヤクザ映画に出てくるような奴と、テレビ局の業界人だっけ?」
香坂「浅丘さんは新番組の企画会議があるから来れないそうです」
早乙女「この時間から? ブラック企業だな」
香坂「伊集院さんは、(モノマネで)『拙者は酒が飲めないので遠慮させていただく』ですって」
佐伯「酒が飲めない? 人は見かけによらないなあ」
三島「警察にもいますよ。見かけはゴリゴリのマル暴なのに下戸って人」
平河「お酒が飲めないってことは、伊集院さん意外と未成年だったりして」
早乙女「人は見かけによらないからね」
   全員、笑う。
○テレビ局(夜)・会議室
   浅丘、スタッフらと会議中。
   伊集院、隅の席に座っている。
浅丘「企画会議の続きを始める前に、部外アドバイザーを紹介する。伊集院達也さん」
   伊集院、無言で立ち会釈する。
スタッフA「(小声で)誰? 何者?」
スタッフB「(小声で)何のアドバイザー?」
浅丘「早速だけど、前回も言ったように、文字テロップが多すぎると思う。もう少し減らせないかな。ナンだったらテロップ一切なしでもいいんだけど」
スタッフC「いやー。それは、さすがに…」
スタッフD「視聴者に分かりやすいですし。それに、テレビは楽に見れないと視聴者が離れますよ」
浅丘「そうやって視聴者を馬鹿にするような番組作りをしているから、テレビは駄目なんだよ」
スタッフA「でも、他局がやってるのに、うちだけやらないと負けますよ」
浅丘「何に負けるんだ? 数字か? もっと大切なものに負けてないか?」
スタッフB「浅丘さん、それを言っちゃあ、おしま…」
伊集院「少々、よろしいですかな?」
   全員、伊集院を見る。
浅丘「どうぞ」
伊集院「(台本を見る)ここに書いてあるのだが…6ページの下の方」
   全員、台本のページを捲る。
伊集院「レポーターが芸能人の自宅を訪問する場面で『潜入』という文字テロップが出ることになっていますが…」
***
(フラッシュ)
   バラエティ番組のテレビ画面。
   豪華な家の前に立つレポーター。
レポーター「それでは今から、レセブの自宅に潜入しまーす!」
   テレビ画面に大きなテロップ「ダビ夫人の自宅に潜入‼」の文字。
***
伊集院「『潜入』と言うことは、あなた方は、人の家に無断で侵入する映像を流すんですか? これって犯罪ですよね?」
スタッフA「(小声で)ありゃりゃ…面倒臭いのが、もう一人増えちゃったよ」
浅丘「分かりました。『潜入』という言葉は使わないようにします」
伊集院「それから9ページですが…」
   全員、台本のページを捲る。
伊集院「レポーターの台詞に『セレブな生活ですねえ』と言って驚く、とありますが…これ、どういう意味ですか?」
   スタッフら、伊集院の意図が分からず顔を見合わせる。
伊集院「ご存じの通り『セレブ』という言葉はセレブリティ、つまり『有名な』という意味ですよね。セレブな生活というのは『有名な生活』ということですよね。では、『有名な生活』って何ですか?」
スタッフB「いや、これはお金持ち…」
伊集院「もちろん、セレブという言葉に『お金持ち』という意味がないことは、ご存じですよね。常識ですから」
スタッフB「…」
浅丘「勝負あり! 分かりました…この箇所は『リッチですねえ』とか『豪華ですねえ』という台詞に差し替えます」
伊集院「それから…」
スタッフA「(小声で)まだあるのかよ」
伊集院「10ページ。レポーターが女優さんに『さすが、オーラが凄いですね』と言う台詞がありますね」
スタッフB「(警戒する)それが何か?」
伊集院「このレポーターは超能力ですか? オーラが見えるんですよね? じゃあ、むしろ、このレポーターの『オーラが見える』という超能力に関する特番も作りませんか?」
***
(アニメーション)
   人の体の輪郭に沿って、さまざまな色の層が浮かび上がる。
***
浅丘「たしかに。オーラが見える特殊能力者は珍しいからなあ。ちなみに、このレポーター、どういうタイプのオーラが見えるのかな? 色まで見えるタイプなのか、色は見えないけどオーラの層が見えるタイプだとか、色々あるだろ?」
スタッフB「もうっ!…はいはい、分かりましたよ。オーラという言葉は使わないようにしますっ!」
伊集院「代わりに『雰囲気』という言葉を使ったらいかがでしょう?」
浅丘「採用」
   伊集院、立ち上がる。
スタッフC「(怯えて)どちらへ?」
伊集院「小生、野暮用があるゆえ、これにて失礼いたします」
   伊集院、一礼して去る。
スタッフD「…小生?」
浅丘「お疲れ様でした」
スタッフA「何だったんだ、あの人」
浅丘「さて次に、これは演出上の問題なんだけど…」
   浅丘、台本を机の上に放り投げる。
浅丘「出演しているタレント達、むやみやたらと明るすぎないか? わざとらしいんだよね、明るさが。無理にずーっと全員が陽気に振る舞っている感じがするよ。なんかさあ…テレビって、こんな騒々しい番組ばっかりじゃない? これじゃあ、視聴者も見てて疲れるんじゃないかな」
スタッフA「浅丘さ~ん…」
スタッフB「勘弁して下さいよぉ~」
○市街地の道路・黒塗り高級車の車内
   香坂と神村、後部座席に座っている。
香坂「今日はどんな仕事ですか? ヘッドハンティングは、もう終わってますよね?」
神村「早乙女さんが勤めている大学へ向かいます。学部長や学長に面会して、早乙女さんがもっと自由に発言できるようにお願いするんですよ」
香坂「それってどういう意味ですか? 早乙女さんが今は自由に大学で活動できていないって事ですか?」
神村「大学の講義の中で、雑談として自分の主義主張を展開するのは、限界がありますからね」
香坂「うちの組織って、大学の学長とかに影響を与えるくらい凄かったんですねえ…ねぇ神村さん。ん?…神村さん?」
   神村、胸を押さえて苦しそうに呻く。
香坂「運転手さん、止めて! 救急車…救急車を!」
運転手「さっきから渋滞で全然動かないです。これじゃ、救急車を呼んでも、いつ来てくれるか…」
   香坂、スマホで調べ始める。
運転手「救急車、どうします?…何をしてるんですか?」
香坂「ここから一番近い病院…あった! 見つけたわ!」
   香坂、神村を車から出して背負う。
運転手「無茶ですよ!」
香坂「元女子サッカー部、副主将。香坂ユイカ選手、行きまーす!」
   香坂、神村を背負って道路を走り出す。
○病院・神村の病室
   神村、ベッドの上で点滴や医療機器につながれ、口に酸素吸入マスクを装着している。
   神村、目を覚ます。
   香坂、神村の手を握りしめて泣く。
香坂「良かったぁ! 本当に良かった…神村さん、心臓が悪かっただなんて!…教えてて下さいよぉ…」
   神村、驚いた顔で香坂を見る。
香坂の膝が擦りむけて血が出ている。
香坂「あ…これですか? すみません、病院に着く直前でコケちゃって。安心したら気が抜けちゃったみたい。あっ、でも大丈夫よ。神村さんの頭を庇いながらコケたからね。安心してね」
   香坂、照れ臭そうに笑う。
神村「…どうして?」
香坂「はい?」
神村「どうして、こんな老いぼれを…そんなに一生懸命に?」
香坂「私ね…両親の仲が悪くて、お互いに育児放棄してたから、お祖父ちゃんっ子だったんですよ。親代わりだったの。でも、私が海外留学してる間に亡くなって、死に目に会えなかったんです。私がいなかったから、お祖父ちゃん、たった一人で死んじゃったの…だから、神村さんが倒れた時は、お祖父ちゃんが重なっちゃって…頭の中が真っ白になりました」
神村「ありがとう…ございます」
香坂「やだぁ。他人行儀よ、お祖父ちゃん!」
   香坂、笑う。
○公園
   三島、ベンチに座っている。
   平河、駆け寄って来る。
平河「ごめんね。待った?」
三島「(立ち上がる)いえ。今、来たところです」
平河「まぁ…そう言うのが礼儀よねぇ」
三島「早速ですが、何のご用でしょうか? まさかデートじゃないですよね?」
平河「あら。デートじゃ不服? でも、さすがね。疑り深いのは職業病かしら?」
三島「当直勤務明けで寝不足なだけです。不機嫌そうに見えたら、すいません」
平河「ま、いいから。とりあえずデートを楽しもうか?」
   平河、三島と腕を組む。
三島「ここ、うちの交番の管内なんで、こういうのは、ちょっと…」
   平河、三島の腕を放す。
平河「あら残念。ま、あんたのそういう所を見込んで、呼び出したんだけどね」
   平河、ベンチに座る。
   三島、平河の隣に座る。
平河「じゃあ単刀直入に言うわ。あたしね、生活向上ナンチャラってあの組織…信用してないのよ。正確に言えば、岡田っていう、あの女。一見、人当たりが良いけど、どうも胡散臭くて好きになれないのよねぇ」
三島「女の勘ってやつですか?」
平河「あんた、若いくせに言う事が古いね~」
三島「どうして、そんな話を僕に?」
平河「いざという時、味方が欲しいからよ。七人の中じゃ、国家権力を後ろ盾にしてるぶん、君が一番役に立ちそうだから」
三島「一兵卒の僕に、平河さんが期待するような権力はありませんよ」
平河「鮎子って呼んでいいよ。…いいのよ。一兵卒だろうが権力機構の歯車だろうがパーツだろうが。自分より巨大な組織に対しては奴らも手出しするのが慎重になると思うから」
三島「歯車。パーツ。手厳しいですね、平河さん」
平河「鮎子でいいって」
   二人の目の前を、男女二人が大声で喋りながら通る。
男「でさぁ、その時のそいつの顔が面白くてさぁ…」
女「何それー! ウケるんですけどぉー!」
   二人、大声で笑いながら通り過ぎる。
   三島、拳を握り締める。
平河「三島君。今、私がいたから我慢したんでしょ? もし一人だったら怒鳴ってた? 今のカップル、何が三島君の逆鱗に触れたのかしら?」
三島「…他人の近くを歩くとき、声のボリュームを落とさず大声で喋りながら平気で通り過ぎるのって、無神経の極みだと思いませんか?」
平河「まあ…確かに、耳元でうるさかったけど」
三島「うるさいのが嫌なのじゃないんです。人様がそこにいるのに、まるで目に入っていないかのような自己中心的な振る舞いが嫌なのです。馬鹿にしてますよね。人をモノ扱いしてるように感じます。自分と、自分に近い者以外の人間は石ころだと言わんばかりの態度で」
平河「なるほどね。三島君、あなたの正義感の対象って、犯罪だけじゃなく社会のルールや倫理にまで広がっているわよ。それって、警察官としては…やりにくくない?」
三島「上司や先輩からも同じようなこと言われます」
平河「むしろ警察なんか辞めて、生活向上ナンタラの謝礼金をもらって生きていくのが性に合ってるんじゃないの?」
三島「社会のルールや倫理の究極形が犯罪なんです。だから辞めるわけにはいかないんです」
平河「あんたも…なかなか辛い生き方してるんだね」
   三島、立ち上がり背中を向ける。
三島「鮎子さん。もし、あの団体が正義やモラルに反する集団だと分かった時は、僕も一緒に戦いますよ」
   三島、歩き去る。
   平河、微笑んで三島の後ろ姿を見送る。
○生活向上委員会の本拠地・理事長室
   理事長デスクに岡田。
   岡田の向かい側に、忍足孝(35)。
   ドアをノックする音。
   香坂、理事長室に入ってくる。
香坂「失礼します。お呼びでしょか?」
岡田「今から中間報告を聞くところなの。あなたも一緒に聞いてちょうだい」
香坂「(忍足を見る)こちらは…?」
岡田「神村さんが入院している間に代役を務める忍足よ。忍足、始めて」
忍足「はい」
   忍足、岡田と香坂に書類を渡す。
忍足「この資料は説明後に回収します。まず1枚目をご覧下さい。こちらが早乙女真一の活動実績になります」
香坂「ちょっと待った!」
忍足「…何だよ?」
香坂「今の言葉遣い。伊集院さんに叱られますよ」
忍足「何を言ってるんだ、この小娘は」
岡田「忍足! この子の言う事を聞きなさい。7人目の世直し人ですよ」
香坂「語尾に『なります』を付けたがる癖。やめた方がいいって言ってるんです」
岡田「忍足。言い直して」
忍足「こちらが早乙女真一の活動実績に…で…ございます」
   香坂、満足そうに微笑む。
忍足「ご覧の通り、早乙女は大学が新設した『健康法』の講義を受け持つこととなりました。まもなく准教授に推薦される見通しです」
   香坂、小さく拍手する。
香坂「(小声で)すごい」
忍足「ブログ、ツイッター、フェイスブックでも確実にファンを増やしています。前回のテレビ出演が効果的でしたね」
岡田「テレビ出演といえば、浅丘さんは?」
忍足「2枚目をご覧下さい。企画会議に伊集院を招いて、時代に逆行する番組作りを目指しているようです」
香坂「時代に逆行じゃなく、時代に抗ってるのよ」
忍足「浅丘の次の狙いは、佐伯をテレビ出演させて、食文化に対する革命を企んでいるようです」
岡田「いいわね」
忍足「一方で、不穏な動きもあります。3枚目をご覧下さい。平河と三島が密会しているところに、盗聴器を仕掛けました」
香坂「無粋なことをするわね~。人の恋路を邪魔する奴は…」
忍足「奴らの会話は、そんな甘い話じゃありませんでしたよ。聞きますか?」
   ドアをノックする音。
   神村、入ってくる。
香坂「神村さん!」
岡田「あら…もう大丈夫なの?」
神村「ご心配かけました。業務に復帰します」
香坂「無理しないで下さいね。体の方が大事なんだから…」
忍足「お前がそんなこと言う権限はないぞ。理事長が判断することだ」
岡田「忍足!」
忍足「はっ。失礼しました」
岡田「神村さん。あまり無理しないでね。体を労ってちょうだい。あなたは私が当主となってからずっと仕えてくれる大切な家族ですからね」
神村「勿体無いお言葉です。ありがとうございます」
岡田「さあ、第二段階に入ったわね。もう少し早乙女さんのフォロワーが増えて、浅丘さんの番組に佐伯さんが出演したら、いよいよ最終段階よ」
神村「承知しました」
忍足「分かりました」
香坂「…最終段階?」
   香坂、首を傾げる。
○大学のキャンパス
   早乙女、学生達に囲まれて歩いている。
学生A「早乙女先生、昨日もテレビに出てましたよね? すごく、いい話でした」
学生B「僕、先生のチャンネル登録しましたよ」
学生C「私も。先生、楽しみにしてますからね」
学生A「先生が言ってた、ロングスリーパーとショートスリーパーの話、面白かったです。先生はどっちなんですか?」
早乙女「僕はロングかなあ。一日8時間は寝ないと駄目だから」
学生D「私もロングです。私なんか10時間!」
学生B「寝過ぎだよ! 俺は一日3時間睡眠だからショートスリーパーだなあ」
学生C「短っ!」
早乙女「人それぞれだからね。それと、昼寝も重要だよ。15分から30分程度の昼寝は認知症予防の効果があるからね」
学生C「先生、朝寝坊しないようにパッチリ目が覚めるには、どうしたらいいですか?」
学生B「自分で頑張れよ」
   学生達、笑う。
早乙女「目覚まし時計のアラームは、大きい音はダメですよ」
   学生達、「えーっ」と声を上げる。
早乙女「睡眠中は、熟睡モードの時間帯と半覚醒モードの時間帯がモザイク状に混じっているんだ。半覚醒モードの時間帯には、すごく小さな物音でもスッキリ目覚めるんだけど、熟睡モードの時間帯に大きな音で無理やり起こされるのは脳に良くない。この話はちょっと難しいから、またいつか講義の時間に話すね」
   大学の前のマンションのベランダで、主婦が干した布団を布団叩きでバンバンと強く叩く。
早乙女「あーあ。まだ知らない人がいるんだね。ああやって布団を叩くのは逆効果なのに。布団を干すと日光でダニが死滅するけど、布団叩きで布団を叩くとダニの死骸が粉々になるんだ」
***
(アニメーション)
   布団を布団たたきで叩く。
   ダニが死んで粉々になる。
***
早乙女「粉々になったダニの死骸は、余計に口から吸い込みやすくなるだけなのに…」
   学生達、「うえ~っ!」と叫ぶ。
○電車・車内
   三島、私服姿で立っている。
電車が駅で停車し、乗客が入れ替わる。
母親と小学生の親子が車両に入ってくる。
母親「そこ空いているわよ! 早く座んなさいっ!」
   小学生、急いで空いている席に座る。
   三島、親子に近づく。
三島「そのお子さん、病気か何かですか?」
母親「…はぁ?」
三島「特別な事情がないのなら、公共交通機関では子供は立たせるべきでしょう。一体どういう教育をなさっているんですか?」
母親「はあ? 何、この人…」
   母親、小学生を連れて逃げるように別の車両へ移動する。
○紳士服店・店内
   伊集院、背広を選んでいる。
   店員、伊集院に近づく。
店員「スーツをお探しですか?」
伊集院「うむ。背広を」
店員「お客様の体型ですと、そちらのAB体ではなく、A体もしくはY体の方がよろしいかなと思います」
伊集院「かな?」
店員「Y体よりはA体、みたいな感じですかね」
伊集院「みたいな感じ?」
店員「ええ。結構、スリム…的な?」
伊集院「的な? さっきから聞いてると、曖昧な言い方ばかりだが…この店、大丈夫か?」
店員「は?」
伊集院「まあ良い…この背広にズボンは付くのですかな?」
店員「スラックスですね。はい、ジャケット1着にスラックスが2本付くという形です」
伊集院「形⁈ 形とは…一体どういう形ですかな?」
店員「えっ?…はい?」
   伊集院と店員、互いの顔を見て静止する。
○生活向上委員会の本拠地・理事長室
   理事長デスクに岡田。
   神村と忍足、入ってくる。
神村「お呼びでしょうか」
岡田「いよいよ最終ステップよ。お願いね」
○テレビ局・収録スタジオ
   司会者とアシスタントがいる。
   ゲスト席に佐伯。
   カメラの外に、浅丘とプロデューサー。
プロデューサー「本当に生放送で大丈夫なの?」
浅丘「任せて下さい。その方が絶対に面白くなりますから」
司会者「…ということは佐伯さん、つまり、どういうことでしょうか?」
佐伯「つまりですね、こういうテレビ番組でテレビ批判を言うのも変かもしれませんが、最近のテレビ番組は偏り過ぎなんですよ。コンビニで売ってる食べ物とか、インスタント食品や冷凍食品とか、ファストフードとか、チェーン店のファミレスやラーメン屋や牛丼屋ばっかり紹介する番組が多いでしょう? 政府が『食育』とか言ってるわりに、これじゃあねえ…日本も食育を本気で推進したいのなら、こんな馬鹿げた番組作りで日本人の『舌バカ』『味音痴』を煽るのはもうやめたらどうですか?」
プロデューサー「うわあっ! 馬鹿! やめさせろ! カメラ、止めろーッ!」
○生活向上委員会の本拠地・会議室
   『1ヶ月後』のテロップ。
   世直しセブンのメンバー(香坂を除く)全員がいる。皆、元気がない。
   岡田、神村、忍足、入ってくる。
岡田「どうしました? 皆さん元気がないようですが」
平河「何言ってんのよ。全部あんたが仕組んだんでしょ?」
岡田「それこそ何を言ってるのかしら?」
平河「浅丘さんがテレビ局を解雇されたのも、あんたが手を回したからでしょ?」
浅丘「新しく作るテレビ局の話は、どうなったんだよ⁈」
岡田「もう少し時間がかかるのよ」
平河「嘘よ! それについては調べたのよ…(三島を見て頷く)」
三島「総務省の担当者から聞きましたが、新規の放送免許申請は現在、1件も出てないそうです」
忍足「クビになったのは、あんた自身の責任だろ。大手のスポンサーを全部怒らせたのはマズかったんじゃないの?」
浅丘「俺は正論を言っただけだ」
忍足「製薬会社や保険会社まで敵に回して…」
浅丘「女性が遠くから叫ぶパターンのCMがやたら多いって言っただけだろ。それの、どこが悪いんだ?」
***
(フラッシュ)
   テレビCM。遠くに立つ女性が叫ぶ。
女性タレント「私はー、株式会社○○(ピー音)でーす!」
***
浅丘「遠くから女が叫ぶCMは多いけど、男が叫ぶCMって見たことないだろ。若い女性の叫び声に視聴者が反応するのを狙ってるんだけど、これって性犯罪を無意識に連想させて注意を引きつける手法だから良くないって言ったんだよ」
忍足「それだけじゃないでしょ。実力のないアイドルをやたらとドラマの主演に抜擢するとか、真面目な報道番組で声優みたいな口調のナレーションや事件事故のニュースでドラマっぽいBGMを流すのは不謹慎だとか…そんな批判ばかりしてたら、業界から追い出されるのは当たり前でしょうよ」
岡田「忍足、もう止めなさい」
忍足「はいっ…」
平河「早乙女さんが大学を辞めさせられたのも、あなた方の陰謀よね」
早乙女「いや、あれは僕も悪かった。まんまと若い女に騙されるとは…」
岡田「インターネットが荒れたそうですね。複数の女子学生と交際する人気大学助教授って記事、拝見しましたわ」
平河「あの女子学生たち全員を特定して、話を聞いたのよ(三島を見て頷く)」
三島「全員、白状しましたよ。高額報酬で依頼されたって。依頼したのは、あなた達でしょ?」
岡田「あら。証拠はあるの?」
浅丘「出た。犯罪ドラマの定番。『証拠はあるのか』って開き直る奴は必ず犯人なんだよなあ」
佐伯「私も酷い目に遭いましたよ。今更、リストラ名目でクビだなんて。私のテレビ出演は、会社も『宣伝になる』って喜んでたのに…」
忍足「あんたの場合は、パワハラで訴えられたからだろ」
平河「いいえ。その裁判は和解で決着済みよ。佐伯さんの会社の専務と人事部長を調べたんだけど…(三島を見て頷く)」
三島「その二人の口座に、生活向上委員会から大金が振り込まれてますね。刑事課の先輩に調べてもらいました」
岡田「あら、あなた…(三島を見る)こんな所にいて、いいのかしら? もうすぐ監察官っていうのかしら、市民からの苦情の件であなたを調べに来るそうよ。もうすぐ懲戒免職かしら?」
平河「…卑怯者。腐ってるわね」
岡田「あなたと伊集院さんは、仕事も家族もないから弱味がなくて残念だわ。でも、なくすものがないっていうのが一番可哀想かもしれないわね」
   岡田、高らかに笑う。
   忍足、追従して笑う。
佐伯「でも、俺達が真実を全部ぶちまけてやる。あんたらも無傷じゃいられないはずだ」
岡田「あら? 社会的信用がどん底まで失墜したあなた達の言葉を誰が信じるでしょうね」
忍足「こっちも全力で隠蔽してやる!」
岡田「忍足…(睨む)」
忍足「はっ」
平河「じゃあ最後に聞かせてよ。そもそも、なぜ、こんな手の込んだことをして私達をハメたの? どんな意味があるの?」
岡田「いいわ。聞かせてあげる。神村さん、隠しカメラとか盗聴、録音の心配はないのよね?」
神村「はい。この建物に入る時、彼らのスマホや電子機器類は全てボディチェックと金属探知機で確認し、受付で預かっています」
岡田「ほら、テレビドラマでよくあるじゃない? 浅丘さんがよくご存じだと思うけど。ドラマの最後で悪党が…もちろん私は悪党じゃないけど…悪事を全て告白して、それが実は隠し撮りされててインターネットに生配信されちゃうってヤツ。ああいう安易な解決編って恥ずかしいんだけど、大丈夫かしら?」
   岡田、神村を見る。
神村「ご安心下さい。この会議室は私が一人で全て管理しています。部外者はおろか、もし仮に、部内の者に内通者がいたとしても、細工は出来ません」
岡田「よろしい。では、話しましょう」
   忍足、椅子を岡田に差し出す。
   岡田、椅子に座る。
岡田「日本という国が、軍事地勢的に見て、どれだけ危険で不安定な場所に位置しているのかを…あなた達、ご存じかしら? 核を保有する軍事大国や独裁国家に近接し、極めて危ないバランスの上に、我が国の平和は保たれているのよ。日本という国は、本当に脆弱な立場なの。だからこそ、私達国民は、一人残らず、一致団結しなければなりません。私達は、気持ちを、思いを、一つにしなければなりません。そんな非常時にあなた達は一体、何を自分勝手ことを言っているの? 社会の結束を乱すようなワガママな思想を言いふらして! …我が国の民は、今こそ一枚岩にならなきゃダメなのよ」
平河「なんで、私達がスケープゴートなの?」
岡田「過激派とか反社会的な連中の排除は、国家権力に任せるけれど…でも、恐いのはソフトパワーなのよ、あなた達のような。社会の和を乱すような考えを人の心に植えつける危険分子。だから、影響力のありそうな異物は、早めに発見して取り除く必要があるわ。これが私達の使命。だから、あなた達を集めて、まずは、表社会でスポットが当たるように、目立つように引っ張り出したの。多くの日本人に注目されるように。そして、次の段階では、あなた達の評判を地の底まで落とすの。そうすれば、いい見せしめになりますからねぇ。これで人々は、自由主義だとか個人主義だとか、危険思想に触れることを恐れるようになるわ」
伊集院「個人主義を愚弄するな! 個人あっての社会だぞ!」
岡田「あら。意外な人が意外な事を言うのね。もう喋り疲れたわ。そろそろ…私達の秘密兵器はどこ?」
神村「もうすぐ来ると思います」
   香坂、慌てて会議室に入ってくる。
香坂「すみませーん! 遅れましたーっ!」
岡田「香坂さん、待っていたわ。ついに、あなたの出番よ」
香坂「はい? えっと…何ですか?」
岡田「もういいのよ。その可愛らしい馬鹿なフリの仮面を脱ぎ捨てて、やってしまいなさい!」
香坂「あの…何をやるんでしょうか?」
岡田「(イラッとする)もう正体を出してもいいって言ってるのよ。あなた、冷酷非情な女殺し屋なんでしょ?」
香坂「へっ? 私が…殺し屋?」
岡田「武器は持って来なかったの? ああ、素手で殺すのね。さすが『戦場のメスゴリラ』と呼ばれた超一流の腕利きだわ…さあ、彼らを抹殺して!」
香坂「メスゴリラって…よく分かんないけど、なんか腹立つわね。何か誤解があるみたいですけど、私、短大卒のフリーター。ディズニーとUFJが大好きな一般女子なんですけど」
岡田「…(神村に)どういうこと? 世界各地の紛争地帯を渡り歩いた伝説の女兵士で、殺しのプロじゃなかったの?」
神村「すみません。私のミスです。同姓同名の女を間違って雇いました」
岡田「はあっ⁈…じゃあ、本物はどこよ?」
神村「殺人罪で刑務所に収監中でした」
***
(フラッシュ)
   ゴリラのような容貌の女殺し屋『香坂ユイカ』、鉄格子を揺らして叫ぶ。
女殺し屋「出せぇーッ! おらァーっ!」
***
平河「なるほどね。最後は世直し人たちを口封じで始末する。7人目の世直し人は…(香坂を見る)そういう役割だったのね」
香坂「?…ええっと…」
   香坂、冗談っぽくマシンガンを連射して皆を撃つ仕草をする。
香坂「ダダダダダダ…」
   忍足のスマホが鳴る。
忍足「もしもし…何⁈」
   忍足、スマホの画面を見る。
忍足「理事長、大変です…」
   忍足、スマホの画面を岡田に見せる。
   会議室の会話がオンラインで生中継されている。
平河「生配信よ。この組織も終わりね」
岡田「どうやったの⁈(神村を見る)入ってくる時にボディチェックしてスマホとかは受付に預けたんでしょ⁈」
神村「はい。彼らのスマホは受付で預かっていますから使えません。その映像は、私がこの会議室に仕掛けたカメラで撮影しています」
   会議室の随所に隠しカメラが配置されている。
岡田「どういうこと⁈」
神村「私の一存です」
岡田「神村! あんた裏切ったわね⁉ どうして⁈」
神村「最初は、人違いのミスをすぐに報告しようとも思いました。でも、理事長の考えにだんだんついて行けなくなったんです。本当にこれで良いのかと。お嬢…理事長が間違っている時は、それを諫めるのが私の役目だったはず…お嬢様、私が病院へ運ばれた時、一度も見舞いに来てくれませんでしたね。いえ、こんな私如きに当然かもしれません。しかし…(香坂を見る)この子、私の手を握って、泣いてくれたんですよ。こんな老いぼれた私の手を…」
岡田「神村…なんてことを。ああっ、もう私はおしまいだわ…」
平河「さあ、みんな。行きましょ。これから、みんなの名誉回復をしなきゃ」
三島「忙しくなりますね」
香坂「あの…私は?」
平河「あんたも私達と一緒に来なさいよ。世直しセブンでしょ?」
香坂「はーい。っていうか…神村さんは、どうします?」
神村「私は代々岡田家に仕える身です。これからもお嬢様…理事長の傍にいます」
香坂「じゃあ…さようなら、神村さん」
神村「はい。さようなら」
   香坂、神村に駆け寄ってハグし、すぐ離れて平河たちに追いつく。
   世直しセブン達、出て行く。
   忍足、そっと彼らに混じって出て行こうとする。
岡田「あんたは、こっちでしょ!」
忍足「はいっ」
岡田「神村さん。あなたも向こう側へ行って良いのよ。もう私に義理立てする必要はないわ」
神村「いいえ。先代との約束ですから。お嬢様を社会に貢献する立派な人物となるよう私がお支えします」
   忍足、いつのまにか出ようとドアに近づいている。
岡田「忍足!」
忍足「はいっ! すみませんっ!」
   岡田と神村、互いに顔を見て笑う。
岡田「これから大変だと思うけど、よろしくね」
神村「もちろんですとも」
○テレビ局・収録スタジオ
   佐伯、テレビカメラの前で熱弁をふるっている。
佐伯「テレビでテレビの悪口、相変わらす言わせてもらいますよ。最近の食レポ。あれ、酷いですね。野菜やフルーツを、ただ甘けりゃ良いって風潮。『甘~い』って感想しか言わないんだから。日本人を糖質依存症にしたいんですかねぇ? それから、何でも柔らかければ良いって風潮。お肉でもケーキでもプリンでも何でも『口の中で溶ける~っ』とか『歯が要らな~い』とか。咀嚼する力って大切なのにね。骨の発育や認知症予防にも関係あるし。あ、この話は火曜日ゲストの早乙女教授の方が詳しいですけど。それから、海老を食べたレポーターの決まり文句。『プリプリして美味しい~』って。プリプリ以外の感想を聞いたことがないんだけど、ボキャブラリーが貧しすぎでしょ。あと、『もちもちして美味しい~』ってよく聞くけど、あれナニ? そんなにモチモチした食感が好きなら、餅だけ食べてろよって言いたいねぇ…」
   スタジオの隅で、浅丘とプロデューサーが見ている。
プロデューサー「相変わらす飛ばしてるねぇ」
浅丘「いいでしょ?」
プロデューサー「でも、さっきの『やわらかプリン』を批判したくだり…スポンサーのニコニコ製菓さんが何と言うかなあ…」
浅丘「あっ今の! 『ニコニコ製菓さん』って! 会社名や企業名に『さん付け』する言い方! 水曜日ゲストの伊集院さんが聞いたら叱られますよ」
プロデューサー「でも参ったなあ。スポンサーに睨まれるとテレビは終わりだよ」
浅丘「そんなに気にしなくていいんじゃないですか。最近の視聴者は、企業の懐の深さをちゃんと見てますよ」
プロデューサー「分かったよ。…じゃ、これからも『誰もみたことがない番組作り』を期待してるよ」
   プロデューサー、浅丘の肩を親しげにポンと叩いて去る。
テレビ局・会議室
   浅丘、スタッフらと打合わせ中。
浅丘「今まで見たことのない番組を作ろうぜ。いや、見たことのあるような番組作りをやめようぜ。観覧席が『えーっ』と、わざとらしい声を上げるのは禁止」
***
(フラッシュ)
   バラエティ番組のテレビ画面。
観覧席の声「えーっ」
***
浅丘「もちろん『ああー』も『おおー』も」
***
(フラッシュ)
   バラエティ番組のテレビ画面。
観覧席の声「ああー」「おおー」
***
浅丘「耳障りだと思うんだよね。わざとらしくて。それから今回のお笑い番組なんだけど、人の頭を叩く芸人は禁止。変な顔を作ったり、ギャグと称して意味のない一言を発する芸人も使わないこと。本当に技術を持っているプロのお笑い芸人に絞って、出演者を考えよう」
○公園
   平河と三島、ベンチに座っている。
平河「それで? 結局、三島君は御咎めなしだったの?」
三島「監察に呼び出されるはずだったんだけど、あの生配信でガラリと流れが変わったね。僕宛ての市民からの苦情メールというのも、調べたら発信元は全て生活向上委員会だったし」
平河「良かったわね。でも…もうあんまり無茶しないでよ。犯罪未満の行為で一般市民を怒鳴っちゃダメ」
三島「うん…今回の件で色々と懲りたよ」
平河「ねえ…まだ明るいけど、今から飲み行こっか?」
   平河と三島、連れ立って歩き始める。
○街頭
   テレビカメラでレポーターが通行人に街頭インタビューをしている。
レポーター「…ありがとうございました。では、次の人に聞いてみましょう。おやっ?」
   伊集院、通りかかる。
いつもの着流し姿ではなく、背広を着ている。
レポーター「あっ。ひょっとして、世直し人の伊集院さんじゃないですか? 今日はどうしたんですか、その格好…」
   レポーター、伊集院にマイクを向ける。
伊集院「身共(みども)も、たまには現代っぽい格好をしようと思いましてな」
レポーター「珍しいですねぇ。現代っぽいと言えば…伊集院さん、最近の日本人の言葉遣いについて、どう思われますか?」
伊集院「最近の言葉遣い?…最近のぉー(急に語尾を伸ばして喋り始める)言葉遣いってぇー、みんなぁー、似たようなぁー、喋り方でぇー、つまんないとぉー、思ったりなんかして…みたいな感じ的な?」
   レポーターとカメラマン、呆気に取られる。
   伊集院、カメラに向かってピースサインを出し、すたすたと歩き去る。
○大学・講堂(外)
   講堂の入口に『世直しセブンの香坂ユイカ氏 特別講演』の看板。
○大学・講堂(中)
   満席の聴講学生たち。
   香坂、教壇に立っている。
香坂「…というのが、私達『世直しセブン』にまつわる愛と勇気と冒険のお話でした。この度は、早乙女教授のお計らいで…」
   香坂、最前列の席に座っている早乙女を見る。
   早乙女、頷く。
香坂「このような機会を与えていただき、ありがとうございました。人前で話すのが苦手なんで、ちゃんと伝わったかどうか不安なんですけど…」
   聴衆が香坂を勇気づけるように拍手する。
香坂「ありがとう。皆さん、ありがとうございます。私たち世直しセブンは、これからも世の中の『ちょっと変だな』と思うこと、『これって、あんまり良くないんじゃない?』と感じることを、どんどん発信していきます。もちろん、世界の大きな問題に比べれば、私たちが取り上げることは小さくて取るに足らない、つまらないことかもしれません。そんなことに目くじらを立てても仕方ないと言われるかもしれません。屁理屈の揚げ足取りだと批判されるかもしれません。でも、そういう『ささいなこと』の中にこそ真実があると思うんです。だって、世の中は『ささいな小さなこと』の集合体ですから。誰もブレーキをかけない小さな『間違ったこと』が積もり積もって、後戻りできないところまで行き着く前に、私たちは立ち止まって『批判』という平和な弾丸を世の中に乱射したいと思います。誰も血を流さない、誰も死なない平和な弾丸を。何も考えないまま、いつのまにか知らないところへ流されて行かないように、皆さんの心にぶち込む言葉のマシンガンで…。私たち世直しセブンは、これからも皆さんに、言葉の銃弾を撃ち続けたいと思います!」
   香坂、教壇の上に飛び乗る。
   香坂、聴衆に向かって、マシンガンを連射するような仕草をする。
香坂「ダダダダダダ…」

(END)

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