『恐竜怨霊』
脚本
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●1 廊下(昼)
しん、と静まり返った校舎の廊下。
窓から差し込む光が床に長い影を落としている。
●2 個室トイレ・中(昼)
少女(サキ)、便座に座り、膝を抱えている。
ここが彼女の"居場所"だ。
チャイムの音が遠くに響く。
サキ(モノローグ)
(静かに)
ここが一番、落ち着く。
●3 廊下(昼)
保健室の先生(ミズキ)、書類を抱えて歩いている。
ふと、足を止める。
ミズキ
あれ……?
その瞬間、廊下の向こうで生徒が一人、崩れ落ちるように倒れる。
続けて、また一人。
教室の中からも、バタバタと倒れる音。
ミズキ
(駆け寄りながら)
ちょっと、大丈夫!?
倒れた生徒の手首を掴み、脈を測るミズキ。
表情が凍りつく。
ミズキ
……脈が、ない。
次々と駆けつけるが、倒れている者は全員、同じだ。
脈がない。すでに死んでいる。
ミズキ
(声を震わせ)
うそ……なんで……何なのこれ……
●4 個室トイレ・中(昼)
異変を察したサキ、顔を上げる。
彼女には、他人に見えないものが見える力がある。
サキ(モノローグ)
……来てる。
サキ、便座から立ち上がり、個室の扉を開ける。
●5 廊下(昼)
サキ、そっとトイレを出て、廊下の物陰から様子を窺う。
淡く、暖かい黄色の光が廊下の奥に浮かび上がる。
光はやがて輪郭を持ち――巨大な恐竜の"幽霊"の姿になる。
美しく、しかしどこか物悲しい光を纏っている。
――だが、この姿はミズキにも生徒たちにも見えていない。
見えているのは、観客とサキだけである。
恐竜の幽霊は歩いていた生徒の体に頭を近づけると、
その胸のあたりから光る玉を、ゆっくりと引き抜くように食べる。
玉が抜かれた瞬間、生徒はその場に崩れ落ちる。
ミズキから見れば、何もない空間で、生徒が突然、糸が切れたように崩れ落ちただけだ。
ミズキ
(悲鳴)
きゃあああっ! な、なんで、いきなり……!
ミズキ、何もない空間を見回すが、そこには何も見えない。
恐竜の幽霊は構わず、また別の生徒へと向かう。
サキ、物陰から目を逸らせずに見つめている。
●6 保健室・前(夕)
サキ、廊下の角から保健室の様子をそっと覗いている。
生き残った数人の生徒とミズキが集まっているのが見える。
窓の外はすでに橙色に染まっている。
ミズキ
(震える声で)
とにかく、みんなで固まっていましょう。一人にならないで。
生徒A
でも……なんで、みんな急に死ぬんですか……理由が、わからない……
ミズキ
わからない……わからないの。
サキ、そのやり取りを見届けると、静かにその場を離れる。
●7 校舎・各所(夕〜夜、モンタージュ)
・教室の中に、床の隙間から光が滲み出す。誰も気づかない。
・階段の踊り場に、突然、恐竜の幽霊が現れる。生徒はただ振り返るだけで、何も見えない。
・体育館の暗闇から、静かに近づいてくる。
どこにいても、恐竜の幽霊は現れる。
それは誰の目にも映らない。
だから、逃げ場はない。
一人、また一人と、何も見えないまま、光る玉を食べられ、崩れ落ちていく。
生き残った者たちは、ただ「原因不明の突然死」が続いていることに、恐怖するばかりだ。
その合間、サキが階段の踊り場や、下駄箱の陰、渡り廊下の隅を
一人、静かに移動していくカットが挟まれる。
誰にも声をかけず、誰にも気づかれず、ただ見て回っている。
●8 保健室(夜)
サキ、保健室の入口の陰からそっと中を見ている。
残るのはミズキと、数人の生徒のみ。
ミズキ
(震えながら、生徒たちを守るように立つ)
大丈夫……大丈夫だから……
保健室のドアの隙間から、黄色い光が滲み込んでくる。
恐竜の幽霊が、壁をすり抜けて姿を現す。
だが、ミズキにも生徒たちにも、その姿は見えない。
ミズキ
(何もない空間に怯えながら)
……っ、何か、いる……?
恐竜の幽霊、ミズキの胸に顔を近づける。
ミズキには、ただ胸のあたりに冷たい何かが触れる感覚だけがある。
ミズキ
(小さく、震えながら)
……いや……なに、これ……
光る玉が、ミズキの体から引き抜かれる。
ミズキ、その場に崩れ落ちる。
最後まで、彼女はそれが何であったのか、わからないままだった。
サキ、陰から一部始終を見ていた。
声も出せず、ただ立ち尽くしている。
●9 廊下〜個室トイレ・中(夜)
サキ、ふらふらと廊下を歩き、いつもの個室トイレへ戻る。
扉を閉め、便座に座り、膝を抱える。
唯一、話し相手になってくれた人がいなくなった。
サキ
(小さく)
……先生。
●10 個室トイレ・前(夜)
黄色い光が、トイレの扉の隙間から滲み出す。
恐竜の幽霊が、静かに姿を現す。
●11 個室トイレ・中(夜、続き)
恐竜の幽霊、サキの目の前に佇む。
サキ、涙を拭いながら、恐竜の幽霊を見上げる。
サキ
……なんで、こんなことするの。
恐竜の幽霊は答えない。
その代わり、光がサキの頭の中に流れ込んでくる。
――遠い昔、大地を駆けていた恐竜たちの姿。
――絶えていく命。
――二度と戻れない過去。
――生きて笑う人間たちを、ただ見つめ続ける影たち。
イメージの奔流の中に、一つの"想い"が浮かび上がる。
(イメージの声)
羨ましいんだ。
生きているということが。
私たちはもう、生きられない。
幽霊になって、ただ見ている。
過去には戻れない。
どうにもならない。
……羨ましい。
光が消え、恐竜の幽霊もまた、静かに姿を消す。
サキ
(呟く)
……そっか。
サキ、再び便座に座り、目を閉じる。
静かに、落ち着いた表情。
●12 個室トイレ・中(夜、続き)
その背後から、そっと黄色い光が滲み出す。
恐竜の幽霊の気配が、サキの背中に重なるように入り込む。
サキ、小さく息を漏らす。
表情は、恐れではなく、どこか安らいでいる。
やがて、光がサキを包み込み――
静寂だけが、個室に残る。
●13 校舎・全景(夜)
真っ暗な校舎。
どの窓にも、灯りはない。
こうして、校舎から最後の人間の気配が消えた。
暗闇の中、遠くでかすかに、暖かい黄色の光が瞬く。
――終わり――
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