父親と同担は生理的に受け付けません! コメディ

反抗期中の中学生・葛西恵は、K-POPアイドル『Plasma Boys』のリーダー・ジェホを推している。 ところが推しに会うために訪れたファンミで、大嫌いな父・武則と鉢合わせるという事態が発生。 実は武則は、親子仲を修復しようと娘の好きなアイドルの曲を聞き始めたところ、娘以上に沼にハマってしまったのであった。 そんな時、ジェホが兵役のため芸能活動を2年間休止するという、2人にとって最悪のニュースが届く。
永井茜 127 0 0 09/09
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第一稿

〇 登場人物
葛西恵(14)  反抗期の娘。
葛西武則(49) 恵の父親。
葛西治美(45) 恵の母親。
三好さくら(30)武則の同僚。
藤水愛衣(14) 恵の友達。
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「父親と同担は生理的に受け付けません!」(PDFファイル:381.71 KB)
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〇 登場人物
葛西恵(14)  反抗期の娘。
葛西武則(49) 恵の父親。
葛西治美(45) 恵の母親。
三好さくら(30)武則の同僚。
藤水愛衣(14) 恵の友達。
麻倉七海(14) 恵の友達。
ジェホ(25)  恵と武則の推しアイドル。韓国人。
リィ(18)   アイドル。中国人。
ユヅル(19)  アイドル。日本人



○ 公園(デート動画)
  動画の視聴者=彼女の、疑似デート動画の映像。ベンチに腰かけて待ちぼうけを喰らっているジェホ(25)。ふと彼女が来たことに気付いて、相手に近づきながら、
ジェホ「おはよう! …ううん、ボクもちょうどさっき来たところ。…その服、すっごく似合ってるよ。ボクのためにオシャレしてくれたの? …可愛い」

○ 千人規模ライブハウス・フロア
  前シーンのデート動画をスマホで見ていた、葛西恵(14)、激しく身悶えし始める。恵の恰好はいかにもK-POPアイドルのファンという感じの量産型スタイルで、アイドルグループ『Plasma Boys』のグッズの青いTシャツを着ている。
恵「(声を押し殺しながら)ジェホ、かっこいぃぃぃぃ…!」
  恵の周囲にはたくさんのアイドルファンの女の子たち。いずれもPlasma Boysのグッズを身に着け、それぞれ日本語・韓国語・中国語のうちわを手にしている。
  恵、グッズまみれの痛バッグの中にスマホをしまって、『ジェホLOVE』『하트만들어』と書かれたうちわとサイリウムを両手に持つ。

○ 葛西家・居間
  戸棚に葛西家の家族写真が飾られている。写真の中で恵は、母・葛西治美(45)と、父・葛西武則(49)に挟まれている。
  居間では治美が電話している。
治美「ああ、お母さん? …恵? 恵ならアイドルのコンサートに行ってていないわよ」
  写真の中の武則が笑顔を浮かべている。
治美「ええ、お父さんも仕事。どっちもしばらく帰ってこないんじゃない?」

○ 千人規模ライブハウス・フロア
  女の子たちの黄色い悲鳴が轟く。
恵「きゃあーっ!」
  音楽と共にステージに照明がつき、ステージ上にPlasma Boysのメンバー7人が現れる。それぞれ色の違うTシャツを着ているメンバーたちの中に、青いTシャツを着たジェホの姿が。
恵「ジェホーっ!」
武則「ジェホーーーっ‼‼」
  熱狂していた恵、ふと我に返って声の聞こえた方へ。
  そこにいたのは、恵と全く同じTシャツを着て、全く同じサイリウムを持った恵の父、武則であった。
恵「…はぁ⁉」
  武則、恵の視線に気づいて、恵の方に振り返る。
  恵と武則の視線が合う。
恵「…お父さん…⁉」

『父親と同担は生理的に受け付けません!』

○ 葛西家・外観
  3か月前のテロップ。
恵の声「ちょっとぉ! 何してんの⁉」

○ 同・居間
  武則、女の子らしい柄のマグカップでコーヒーを飲んでおり、きょとんとした表情で怒り迫る恵を見上げる。
  恵、武則の使うマグカップを指さして、
恵「それ、あたしの専用マグカップだって言ったじゃん! なんで勝手に使うの⁉」
武則「いや、たまたまそこにあったから…」
  恵、テレビを見ている治美に向かって、
恵「お母さん、あたしもうアレ使わないから! 新しいマグカップ買って!」
治美「なに言ってんの、あんたは。いいじゃないの、お父さんが使ったって」
  武則、しゅんとしてマグカップを置く。

○ 同・キッチン
  恵のマグカップを洗っている武則、しょんぼりと切ない表情。
治美「仕方ないじゃない。恵ももう14歳で、立派な反抗期なんだから。あなただって昔は、お義父さんと殴り合いの喧嘩したって言ってたじゃない」
武則「…まあそうなんだけど…」
治美「恵もあと5~6年もすれば、あの時は悪いことしたなって反省する日が来るわよ」
  依然として武則の表情は切なげなまま。

○ 中学校・外観

○ 同・教室
  休み時間中の教室の片隅で固まって、それぞれスマホを見ている恵と、藤水愛衣(14)と、麻倉七海(14)。
  恵がスマホで見ているのはジェホのアーティスト写真である。
恵「新しいアー写のジェホ、マジでヤバイ…! カッコよすぎて語彙力死ぬ…!」
  偶然3人の席の真横を通りがかった女子生徒A、恵のスマホに映るジェホを見て、
女子A「うわ、かっこいい! 誰それ?」
  恵、すぐさま目の色を変えて、女子Aに凄まじい勢いで迫る。
恵「よくぞ聞いてくれました‼」
  恵の勢いに引き気味の女子Aに対し、恵は得意げにスマホ画面(Plasma Boys全体のアーティスト写真の画像)を見せる。
恵「(早口)いま大注目のK-POPアイドル『Plasma Boys』、通称プラボ! 韓国のオーディション番組発の7人組グループで、日本人2人、中国人2人、韓国人3人がメンバーの多国籍アイドル!」

○ 映像スタジオ(MV映像)
  真っ白な背景の前でダンスパフォーマンスを披露するPlasma Boys。
恵の声「(早口)キャッチーで耳に残る曲と、キレッキレのダンスで着実にファンを増やしているニュースター! それがプラボ!」

○ 学校・教室
  恵、鼻息荒くジェホの画像が映るスマホ画面を女子Aに突き付ける。
恵「(早口)ちなみにあたしの最推しが、プラボのリーダーで最年長の25歳、韓国人メンバーのジェホ! しっかり者の頼れるオッパで、ダンスも歌もめちゃくちゃ上手くて、ファンサも神で顔が良い!」
  女子A、困り顔で恵から離れていく。
恵「とりま一回ライブ動画見てみて! 公式が上げてるから! ってかリンク送るわ!」
女子A「あはは…今度ね~…」

○ 新大久保の街並み

○ スーパー店内
  Plasma Boysのメンバーの写真がデザインされた缶コーヒーが売り場に並んでいる。
  それぞれジェホ、リィ(18)、ユヅル(19)のデザインの缶を手に取ってレジに向かう、恵・愛衣・七海。
恵「ジェホのコラボ缶やば~!」
愛衣「これどうやって保管すんの?」
七海「うちリメイクしてペン立てにするー」

○ 新大久保のスイーツ店
  それぞれ別の韓国スイーツを食べている、恵、愛衣、七海。
恵「そういえば、アクスタの交換相手見つかったの?」
愛衣「いやもう全然!」
  愛衣がスマホを取り出して、渋い表情を浮かべる。
  スマホに映るのは、グッズ交換を持ちかけるSNS上のメッセージ。
愛衣「やっぱリィ担はガチ恋勢多いせいか、グッズも争奪戦だわー」
七海「わかるー。リィとユヅルのファンは同担拒否めっちゃ多いしね」
 同担拒否=同じ対象を推すファンと関わり合うことを拒むファンのこと、の説明テロップ。
恵「同担拒否って意味わからんよね。推しが人気あるの普通に嬉しくね?」
愛衣「いや、うちはちょっと気持ちわかる」

○ ファンミーティング会場(イメージ映像)
  同じ「リィLOVE」と書かれたうちわを持った愛衣と女性ファンが並んでいる。
愛衣の声「たとえばうちじゃない別のリィ担の子が、ハート作ってもらったとして」
  ステージ上のリィが愛衣の隣の女性ファンへ、指ハートを作ってウインクをする。
  歓喜する女性ファンに対し、愛衣は納得いかなさそうな表情。
愛衣の声「なのにうちにはハート作ってもらえなかったとしたらさ…」

○ 新大久保のスイーツ店
  愛衣、少し怒った風に、
愛衣「なんっっっであの子だけ⁉ …ってなっちゃうよね~。そういうの気にするのも嫌だし、じゃあ同担とは距離置いとこってなるじゃん?」
七海「まあ推し方は人それぞれってことでいいんじゃない?」
恵「はえー。ま、あたしは同士が多ければ多いほど嬉しいけどなー」

○ 葛西家・キッチン(夜)
  恵、スマホで空き缶リメイクの紹介をしている動画を見ながら、コラボ缶の中身をコップに移す。
恵「で~…中身洗って、乾かして~…」
  缶の中を洗い、水切りラックの中に置く。
治美の声「恵~。お風呂入れるわよ~」
恵「はーい!」
  缶を置いてキッチンから出て行く恵。

○ 同・居間(夜)
  治美がテレビを見て笑っている中、武則が買い物袋片手に帰宅してくる。
治美「おかえりなさーい。牛乳、買ってきて
くれた?」
武則「うん、ついでにアイスが安かったから買ってきた」
治美「あら! ありがと、お父さん~」

○ 同・キッチン(夜)
  キッチンにやってきた武則、出しっぱなしになっているコーヒーと、水切りラックにある空き缶に気付く。
  空き缶を手に取って、
武則「空か。ゴミはちゃんと捨てろよなー」

○ 同・居間
  風呂上がりの恵、髪を拭きながら居間へやってきて、
治美「恵、お父さんがアイス買ってきてくれたわよー」
恵「あ、食べる食べるー」

○ 同・キッチン
  恵、キッチンへ来るなり表情が凍り付く。
  恵の目の前で、武則がコップのコーヒーを飲みながら、ジェホがプリントされた空き缶を踏みつぶそうとしている。
  ジェホの顔写真が武則の足で踏み潰される瞬間が、スローモーションで映る。
恵「いぎゃあああーーーっ‼‼」
  慌てて武則を突き飛ばす恵。急に突き飛ばされた武則、飲んでいたコーヒーを顔面にもろに被る。
武則「うわっ⁉」
  恵、ぺしゃんこになった空き缶を震える手で拾い上げ、半泣きの表情。
恵「ジェホぉぉぉぉ…‼」
  武則を思いっきり睨みつける。
恵「ジェホに何すんの、バカ!」
武則「え?」
恵「ほんと最低! 一生口きかないから!」
  騒ぎを聞きつけてやってきた治美と入れ違いに、恵が泣きながらキッチンを出ていく。
治美「どうしたの、大きな声出して!」
  取り残された武則、何が何だかわからないという表情。

○ 同・恵の部屋(夜)
  必死に引き延ばした空き缶を前に、本気で泣いている恵。
治美の声「それはお互い不運だったわね~」

○ 同・居間(夜)
  愉快そうに笑っている治美に対し、納得のいかなさそうな武則。
武則「いや、空き缶がそこにあったらゴミだと思うだろ…」
  治美、テレビをつけて、録画していた音楽番組を映し出す。
治美「お父さんにとってはそうでも、あの子にとっては好きなアイドルの現身みたいなものなのよ」
武則「そういうものかぁ…?」
治美「ほら、これこれ。恵が好きなアイドル」
  武則、テレビ画面を覗き込む。
  テレビ画面には、インタビュー中のPlasma Boysの姿が映っている。
ジェホ「ミュージック・ロワイヤルをご覧の皆様、こんばんは! ボクたち!」
  メンバー全員が共通のポーズをする。
メンバー全員「Plasma Boysです!」
  武則、真面目に画面を見つめながら、
武則「全員同じ顔に見える」
治美「今のアイドルの男の子ってみんな綺麗だものねー」
武則「恵は誰が好きなんだ?」
治美「確か韓国人の子だって言ってたけど、どの子かはわたしもわからないな~」
  武則、真剣に画面を見る。

○ レンタルCDショップ
  K-POPの特集コーナーでPlasma BoysのCDを探す武則。
武則「ぷ…ぷ…。あった!」
  目当てのCDを見つけ、手に取ってジャケットを眺める。

○ 自家用車内
  車内の音楽デッキにCDを入れ、曲を再生する武則。
  車を運転しながら、身体を小刻みに揺らしてリズムを取る。

○ 建設系企業オフィス・総務部デスク
  こじんまりとした部屋の中に4つのデスクが並んでおり、そのうち1つに武則、武則の向かいのデスクに三好さくら(30)が座り、2人以外には誰もいない。
  前シーンで聞いていた曲を鼻歌で歌いながら、事務仕事をしている武則。
  さくら、武則をじっと見て、
さくら「…あのー、葛西さん…」
  武則、はっとして、
武則「何?」
さくら「今の鼻歌、ひょっとしてPlasma Boysの『Labyrinth』ですか?」
武則「え? 俺、鼻歌なんて歌ってた? …っていうか、三好さんもPlasma Boys、知ってるの?」
さくら「知ってるもなにも! 『Plasma Project』の初回から追っかけてますから、わたし!」
武則「へ?」
さくら「葛西さんがプラボ聞いてるなんて意外~! 娘さんの影響とかですか?」
武則「いやー…それが…」

○ 同・休憩スペース
  自動販売機のある休憩スペースで、武則とさくらが飲み物片手に長椅子に並んで座っている。
さくら「へえ、娘さんと仲直りするために!」
武則「うん…。俺が娘の好きなものをよく知らなかったせいで、娘を怒らせちゃったから…。もっと娘に歩み寄ろうと思って…」
さくら「葛西さん、立派です! わたしの親なんて、顔を合わせるたびに『いい歳してアイドルの追っかけなんてみっともない』って言ってきますもん。葛西さんみたいなお父さんを持てて、娘さん幸せですよ」
  武則、照れくさそうに頭をかく。
武則「いや、でも思ってたよりも曲がカッコよくて、普通にハマっちゃったみたいだわ。頭の中でずっと曲がリピートしててさ」
  さくら、ニヤリと笑って、
さくら「葛西さん、プラボは耳ではもちろんのこと、目でも楽しめるんですよ」

○ 葛西家・寝室(夜)
  寝間着姿の武則、自身のスマホでPlasma Boysのライブ動画を見ている。
  顔に美容パックをつけた治美、武則の様子を見ながら、
治美「珍しい、普段電話でぐらいしかスマホ使わないのに」
武則「うん、職場の子に色々教えてもらって」
   ×   ×   ×
  治美が眠りにつく中、武則はまだスマホでPlasma Boysの動画を見ている。
  画面をスクロールしていくと、関連動画に「Plasma Boysわちゃわちゃシーン集」という動画が出てくる。
武則「Plasma Boysわちゃわちゃシーン集…?」
  武則、動画を再生してみる。
  動画の内容はテレビ番組の切り抜きで、ジェホ・リィ・ユヅルの3人が街ブラロケをしている様子である。

○ 商店街(スマホ動画)
  クレープ店でクレープを購入したジェホ・リィ・ユヅル。
ユヅル「ジェホのやつ、一口ちょーだい」
ジェホ「えー⁉ 自分のあるじゃんよ!」
  ジェホ、渋々ユヅルにクレープを差し出すと、ユヅルが一口でクレープの大部分を食べてしまう。
ジェホ「あー!」
  してやったりなユヅル、手を叩いて笑うリィに対し、笑いながらも怒るジェホ。
ジェホ「何すんだよ、もー!」

○ 葛西家・寝室(夜)
  武則、食い入るようにスマホ画面を見つめている。

○ 商店街(スマホ動画)
  リィ、ジェホの肩を叩いて、自分を指差しして「俺も食べたい」アピール。
  ジェホ、肩を落としながらも渋々クレープを差し出すと、やはりリィもクレープの大部分を食べてしまう。
ジェホ「(怒って)おーい!」
リィ・ユヅル「(大爆笑)」
  むくれ顔になるジェホに、リィとユヅルが半笑いで謝る。
リィ「ごめん、オッパ!」
ユヅル「オッパ、機嫌直してー!」
  ジェホ、渋々といった調子でありながらも、美しい微笑みを浮かべる。
ジェホ「も~…いいよ」

○ 葛西家・寝室(夜)
  武則、ときめいて胸を抑える。
武則「うっ…!」

○ 建設系企業オフィス・総務部デスク
  武則とさくら2人だけのデスク。
武則「それで色々と動画を見てたら、いつの間にか朝になっちゃって…。最後の方はライブの動画じゃなくて、ただただメンバーが仲良くしてる動画ばっかり見てた…」
  さくら、興奮気味に武則と握手する。
さくら「(早口)わっっっっかる、それ‼ プラボってほんとメンバーがみんな仲良しで、箱推しのしがいしかないというか、とにかく癒されるんですよね‼ リィとユヅルなんて付き合ってんのかってくらい仲良しで、この間なんか2人でお揃いのピアスして韓国の音楽番組出てましたからね‼ 匂わせか⁉ 匂わせなのかコノヤロウ‼ お互いのガチ恋ファンにメンバー自らマウントしてくるとかよぉ‼ いいぞもっとやれ‼」
  さくらの勢いに引き気味の武則。さくら、落ち着きを取り戻し武則から手を放す。
さくら「ちなみに葛西さんは、プラボのメンバーだと誰が一番好きな感じですか?」
武則「俺? 俺は…ジェホかなぁ」
さくら「ほう! ジェホですか!」
武則「なんかこう、他のメンバーに振り回されつつ、リーダーの役割を頑張ってこなしてるのを見てると『この子はなんていい子なんだ…!』って思うんだよなぁ」
さくら「わかる~‼ あのいじられキャラっぷりと、なんだかんだ年下に甘いお兄ちゃん感が、ぎゃんきゃわですよね~~~‼」
武則「ぎゃんきゃわ…?」

○ 中学校・教室
  休み時間中の教室で、ニヤニヤしながらスマホで動画を見ている恵。
  動画の内容はジェホが出演している疑似デート動画であり、ジェホがカメラ目線で微笑みかけている。
ジェホ「今日はすごく楽しかったね。…ボク、まだ帰りたくないな。ねぇ、もう少し一緒にいてもいい…?」
  恵、激しく身悶えしながら、
恵「ひぎゃああああ‼ ジェホーーッ‼」
  その場の床に倒れ伏せ、ゴロゴロと転がる恵を、愛衣と七海が見守っている。
恵「うあーっ、マジでヤバイ‼ ジェホの顔が良すぎて泣けてきた‼ あーあ、来世はジェホの彼女に転生できねーかなー‼」

○ スーパー(夜)
  スーパーで買い物をしている武則。
  ふと飲料品売り場を通りがかった時、Plasma Boysのコラボ商品の缶コーヒーがあることに気付く。
  武則、ジェホのコラボ缶を手に取り、ハッとする。
武則「…あ!」
《フラッシュバック》
  武則がジェホのコラボ缶を踏みつぶすシーン。
《フラッシュバック終了》
  武則、申し訳なさそうな表情。

○ 葛西家・2階廊下(夜)
  スーパーの袋を腕に下げた武則、恵の部屋に向かってノックする。
武則「恵? 起きてるか?」
  返事はない。
武則「この間はごめんな。その…ちょっと入ってもいいか?」
やはり返事はなく、武則、恐る恐る扉を開ける。

○ 同・恵の部屋(夜)
  部屋の中を覗いた武則、感嘆の表情。
  部屋の中にはいたるところにPlasma Boysとジェホのグッズが飾られている。
  ポスター、タオル、アクリルスタンド等々グッズのジェホに目を奪われる武則。

○ 同・2階廊下(夜)
  2階のトイレから出てきた恵、自分の部屋を覗き込んでいる武則に気付き、
恵「何してんの⁉」
  驚く武則。
武則「あ、いや…」
恵「勝手に人の部屋に入んないでくんない⁉」
  恵、武則を押しのけて部屋に入り、乱暴に扉を閉める。
恵の声「マジでキモイ! あんなのに見られるとか、ジェホが汚れる!」
  武則、しょんぼりとした様子でスーパーの袋からジェホのコラボ缶を取り出すも、すごすごとその場を立ち去る。

○ 建設系企業オフィス・休憩スペース
  長椅子に並んで座る武則とさくら。武則は落ち込んだ様子。
さくら「…まあ、自分が反抗期の時に父親と同担だったらって思うと、複雑ですけど…。だからといって、変に気にすることないですよ! 葛西さんだってプラボが好きなんですもの!」
  武則、少しだけ表情が明るくなる。
武則「…そうだよな。好きなものは仕方ないもんな」
さくら「はい! これからはじゃんじゃん推し活してきましょう! 財力はこっちの方が上ですし!」
武則「…でも、娘にはやっぱり、俺がプラボを…。中でもジェホが好きなのは、黙っておこうと思う」

○ 千人規模ライブハウス・フロア
  本編冒頭のライブハウスでの、恵と武則がお互いに気付くシーンに戻る。
熱狂する観客の中、お互いを見合っている恵と武則。
さくらの声「え? どうしてですか?」
武則の声「いや…。今までアイドルとか全然興味なかったのに、今さらこんなにハマってるの知られるの、恥ずかしいし…」
さくらの声「あー…。父親の威厳とかありますもんねー…」

○ 葛西家・居間(夜)
  治美はおらず、恵と武則だけがいる居間。
恵が武則をビシッと指さして、
恵「なんで来てんの⁉ 意味わかんない‼」
  武則、気まずそうながらも負けじと、
武則「なんだよ、俺が行ったらダメなのか⁉」
恵「っつーか、いつから⁉ アイドルとか全然興味なかったじゃん!」
武則「それは…お前がもう口きかないっていうから、仲直りするきっかけが欲しくて…」
恵「だからって、なんでよりによってジェホなの⁉ 父親と推しが被るとかマジ無理!」
  武則、気まずそうにソファに腰かける。
武則「たまたま同じだったんだよ! 恵もジェホを好きだって後から知ったし…」
恵「あんたが『ジェホ』って言うなよ、気持ちが悪いなぁ!」
  武則の眼の色が真剣なものに変わる。
恵「今すぐプラボのファンやめて! あたしのジェホに関わんないで!」
武則「…断る」
恵「はあ⁉」
  武則、恵をきっと睨みつける。
武則「俺はな、見ての通りいい歳した中年のオヤジだ。今までアイドルのライブはおろか、音楽ライブにすら一度も行ったことがない。そんなヤツが、若くてカッコいいアイドルの男の子のライブに行くにはなぁ、それなりに勇気が必要なんだ!」
  すくっと立ち上がり、真剣な表情で恵に迫る武則。恵、困惑気味に後ずさる。
武則「俺の『好き』は俺だけのもので、家族だろうが何だろうが口出しする権利はない! 反抗期だからって何もかもが許されると思うな!」
  武則、恵のすぐ横を通り過ぎ、寝室へと立ち去る。武則が去った後、恵は八つ当たりするようにソファの背を叩く。
恵「あーっ、もう‼」

○ 中学校・教室
  教室内の黒板に大きく「自習」と書かれており、真面目に自習する生徒や、談笑に耽る生徒などの中、恵は苛立った様子でシャーペンをカチカチと鳴らしている。
  その後ろの席でスマホを弄っていた愛衣、ふと表情が一変し、恵の背中を軽く叩く。
愛衣「恵、恵!」
恵「(苛立ち交じりに)なに?」
愛衣「プラボのメルマガ! 見て!」
  恵、スマホを取り出してメールをチェックする。
  すると、ジェホが兵役のため活動を休止する旨が書かれたメールマガジンが送られてきていた。
女子アナの声「続いての芸能トピックです」

○ ニュース番組(モンタージュ)
  コメントを発表するジェホの映像。
女子アナの声「人気アイドルグループ、『Plasma Boys』のメンバー、ジェホさんが兵役義務のため、2年間の芸能活動休止を発表しました」

○ 新大久保駅前(モンタージュ)
  涙ぐむファンの女の子の映像。
ファンA「めっちゃショックです~…。プラボではジェホが一番好きだったので…」
  別のファンの女の子の映像に切り替わる。
ファンB「はやく帰ってきてほしいです! ジェホがいないプラボなんて考えられない!」

○ 建設系企業オフィス・休憩スペース
  スマホでニュースを見た武則、愕然としている。
女子アナの声「ジェホさんは9月20日のファンミーティングを最後に、活動休止期間に入るとのことです」

○ 中学校・教室
  恵が机に突っ伏している。
愛衣「元気出しなよ、恵。2年間の辛抱だよ」
七海「そうだよ、なにも引退じゃないんだし」
  恵、勢いよく顔を上げる。
恵「意っっっ味わかんない‼ 兵役ってなんなん⁉ それってこの先、大きな戦争とかがあったら、ジェホが戦争行かなくちゃならないってことでしょ⁉ そんなことでジェホが死んじゃったりしたら…!」
  椅子を倒しながら立ち上がると、勢いよくベランダに出て行く。

○ 同・ベランダ
  恵、空に向かって思いっきり叫ぶ。
恵「ふざけんなーーーっ‼ 戦争なんか無くなれ‼ 軍隊なんて必要なくなれ‼ 世界、平和になれーーーっ‼」
  叫んだあと、呼吸を整えて教室の中へ。

○ 同・教室
  恵、教室から出て行こうとする。
愛衣「え、どこ行くの?」
恵「トイレ掃除してくる」
七海「へー…って、トイレ掃除? なんで?」
恵「ジェホの兵役前最後のファンミ…。もしチケット獲れなかったら、この先一生ジェホをこの目で見れなくなるかもしれない…! そんなの絶対に嫌だから、チケット当たるように今のうちに徳積んでくる…!」
  教室を出てトイレへと一直線に向かう恵。
  愛衣と七海、恵を見送りながら、
七海「全人類がああなら世界も平和だわな」
愛衣「(無言で頷く)」

○ 建設系企業オフィス・総務部デスク
  デスク周りをコロコロで掃除する武則。
  そこへ退室していたさくらが慌ただしく戻ってきて、
さくら「葛西さんっ!」
  言いながら掃除中の武則に気付く。
  さくらと武則、お互いを見合って、無言で頷く。

○ 中学校・女子トイレ
  恵、トイレの便座を雑巾で拭いている。

○ スーパー・駐輪場(夜)
  武則、倒れている自転車を起こしている。

○ 葛西家・キッチン(夜)
  恵、真剣な表情で皿洗いをしている。

○ 同・風呂(夜)
  武則、真剣な表情で風呂桶を洗っている。
  治美、風呂場の前を素通りしながら、
治美「ふたりとも、いつもこれだったら大助
かりだわー」

○ 夜明けの空

○ 新大久保のスイーツ店
  愛衣、七海と共に、スマホ画面を睨みつけてチケットの当落発表を待つ恵。
  画面の時計が18時ちょうどになると同時に、メールの通知音が鳴る。
恵「きた!」
  3人、それぞれ自身のスマホを見て、
愛衣「あぁ~っ! チケット落ちた~!」
七海「うちも落選~!」
  愛衣と七海、落ち込みながらも、心配そうに恵に視線を向ける。
愛衣「恵、どうだった?」

○ 建設系企業オフィス・総務部デスク
揃ってスマホを凝視している武則とさくら。そこへメールの通知音が鳴る。
さくら「きたきたきた!」
武則「頼む!」
  さくら、結果を確認するなり、肩を落として項垂れる。
さくら「落ちた~~~っ! まあ倍率えぐいとは思ってたけど~っ!」
  嘆くさくらに対し、武則は驚愕しながらスマホを凝視している。
  武則のスマホには、チケットの当選を告げるメッセージ!

○ 新大久保のスイーツ店
  地面に突っ伏して倒れている恵。
七海「おーい、恵ー。気持ちはわかるけど、
店の迷惑になるから地べたはやめとけー」
愛衣「生配信もあるんだし、元気だしなって」
  テーブルの上に投げ出された恵のスマホ画面には、チケットの落選を告げるメッセージが…。

○ 葛西家・恵の部屋(夜)
  ジェホのぬいぐるみを抱きしめながら、落ち込んでいる恵。
  そこへノックの音が聞こえてきて、
武則の声「恵? 起きてるか?」
  恵、無視を決め込む。
武則の声「…ファンミーティングのチケット、どうだった?」
恵「……」
武則の声「実はお父さんな…チケット当たったんだ」
恵「はあっ⁉」

○ 同・2階廊下(夜)
  恵の部屋の前に立っていた武則。そこへ扉が勢いよく開いて恵が出てきて、その拍子に扉が武則の顔面に当たる。
武則「痛っ!」
恵「ウソでしょ⁉ ホントに当たったの⁉」
武則「本当だよ、ちゃんとご用意された」
  恵、武則に掴みかかって、激しく揺さぶりながら、
恵「なんっっっで⁉ あたしも友達もみんな外れたのに、なんでよりによってこんなんに当たるわけ⁉」
  武則、恵の腕を振り払って、
武則「こんなんとはなんだ! お前のそういうところを神様が見てたんじゃないのか?」
  恵、反論できずに黙り込むも、悔しそうに歯を食いしばる。
武則「…ただその、もしお前がどうしてもファンミに行きたいって言うんならな…」
恵「…え?」
武則「チケット、2枚取ってあるから…。俺と一緒でもいいって言うんなら…」
 恵の表情が硬直する。しばらく無言で葛藤していたが、やがて堰を切ったように、
恵「…ムリ‼」
  凄まじい速さで自室へと戻り、乱暴に扉を閉める。

○ 同・恵の部屋(夜)
  恵、扉の鍵を閉める。
武則の声「おいおい! いいのか、本当に⁉」
恵「なにが楽しくて、父親と一緒に推しのファンミに行かなきゃならねーんだよっ!」
  自分のスマホを手に取ると、SNSの画面を開く。
恵「こんなことで諦めてたまるか~…!」
  自分のSNSに「【拡散希望】9月20日のPlasma Boysファンミーティングのチケット譲ってくれる方を探してます‼」というメッセージを打ち込む。

○ 中学校・教室
  授業中の教室で、机の影に隠れてスマホでSNSを見ている恵。
  すると、チケット譲渡を申し出ているメッセージを発見する。
  恵、声を上げそうになるも咄嗟に口を抑え、何とか堪える。
   ×   ×   ×
  休み時間になり、愛衣・七海と笑顔で談笑している恵。
愛衣「めっちゃラッキーだったね、それ」
恵「うん! なんか同行予定の人が急きょ行
けなくなったんだってさ」
七海「マジうらやまー」
  恵、上機嫌でスマホを見るが、ふと笑顔が曇る。
  取引相手のアカウントから、「譲渡希望者が多いので、明日までに3万円を指定の口座に振り込んでいただければお譲りします」というメッセージが届いている。
恵「…え…」

○ 建設系企業オフィス・休憩スペース
  発券したチケットを天に掲げ、歓喜しているさくら。
さくら「本当にいいんですか~~~! マジ
でありがとうございます、葛西さん!」
  武則、どこか寂しそうな笑顔で、
武則「うん…娘に嫌がられちゃったから。それに三好さんには、色々と教えてもらった恩があるし」
さくら「いえ、布教は信者の務めですから! でも…いくら反抗期とはいえ、相当な意地っ張りですね、娘さん」
武則「はは…。いったい誰に似たんだか…」

○ 葛西家・恵の部屋
  机の上にお札と硬貨を並べ、所持金を数えている恵。
恵「貯金引っ張り出しても1万5千ちょい…。
あと半分足りない…!」

○ 同・キッチン
  夕飯の準備をしている治美のもとへ、恵がやってくる。
恵「お母さん、一生のお願い! なにも言わ
ずに、お小遣い3ヵ月分前借させて!」

○ コンビニ
  ATMで送金をする恵。送金が終わるなり、すぐさま取引相手へ連絡のDM。
  すぐに「チケットのお渡しなんですが、ファンミ当日の手渡しでよろしいですか?」と返信が来る。
  恵、迷わず「大丈夫です!」と返信する。

○ 葛西家・居間
  テレビを見ながら体操をしている治美。
  そこへ上機嫌の恵がやってきて、
恵「あたし、来月またファンミ行くから!」
治美「あら、いいわね~。お母さんも昔好きだったアイドルのコンサートとか、行きたくなってきたわぁ」
恵「行けばいいじゃん! 会えるうちに会いに行かないと、絶対後で後悔するよ!」
  そこへ帰宅してきた武則がやってきて、
武則「ただいまー」
治美「お帰りなさーい」
  恵、武則の顔を見るなり渋面になって、自分の部屋へと駆け込む。
治美「こら、恵! …長引くわねぇ、反抗期」
  武則、恵の態度にしょんぼりと落ち込んだ様子。
  治美、武則の肩を優しく叩いて励ます。
治美「元気出してよ。あの子が安心して反抗できるくらい、お父さんが良い父親だってことなんだと思うわよ、多分」
武則「…そうかぁ?」
治美「そうよ。お父さんならどんなに反抗しても自分を見捨てない、って甘えの表れなのよ、多分。それにテレビでも『反抗期はアイデンティティの確立のためには必須』って言ってたし。わたしたちの子育てはちゃんと上手くいってるのよ、多分」
武則「…多分って3回も言ったけど…」

○ 電車内
  Plasma Boysのグッズに身を包んだ完全武装の恵、電車に揺られている。

○ 一万人規模のコンサートホール・外観

○ 同・入り口前
  入場を待つファンが集うホール入り口。
  恵、所在なさげに立ち尽くし、取引相手が来るのを待っている。
  SNSで「いま会場着きました」とメッセージを送るが、返答はない。
   ×   ×   ×
  男性スタッフが客を誘導しにかかる。
男性スタッフ「大変お待たせいたしました、間もなく開場いたします!」
  次々と客がホールの中へと入場する。
  しかし未だ取引相手が来ず、ひとり取り残されている恵、不安そうな面持ち。
  SNSで「大丈夫ですか?」「どこにいますか?」と催促のメッセージを次々に送るが、やはり反応はない。
   ×   ×   ×
  それぞれ別のグッズTシャツに身を包んだ武則とさくら、会場へやってくる。入場口に向かおうとする武則だったが、ふと開場前で立ち尽くしている恵に気付く。
武則「恵?」
さくら「どうかしました?」
武則「いや、うちの娘が…」
  武則の視線を追うさくら。
  恵、2人には気づかず、不安そうにスマホでメッセージを送り続けている。
  武則、咄嗟に恵に駆け寄って、
武則「恵!」
  顔を上げる恵、武則に気付いて驚く。
武則「どうかしたのか?」
  恵、武則から目を逸らすも、堪えきれずに泣き出してしまう。
恵「(涙声)うぅぅ~っ…!」
  恵の様子に驚く武則とさくら。
   ×   ×   ×
  その場にしゃがみこんで、顔を伏せて泣いている恵。
さくら「それ、完全に詐欺ですよ!」
武則「詐欺ぃ⁉」
さくら「一番高い席でも1万円ですよ⁉ 3万円なんてぼりすぎです!」
  武則、恐る恐る恵の様子を伺う。
  恵、泣きながらも、意地を張ってそっぽを向いている。
恵「わかんないじゃん! たまたま遅れてるだけかもしれないじゃん!」
  武則、厳しい目で恵を見る。
武則「恵! この期に及んで意地を張るんじゃない!」
恵「……」
  悔しそうな表情で俯き、再び泣き出してしまう恵。
  武則、恵の様子を見て深く葛藤した後、鞄の中からチケットを取り出し、恵に差し出す。
武則「恵、これ」
  顔を上げた恵、武則の行動に驚く。
恵「…え…」
武則「騙されたお金は、高い勉強代だったと思って諦めろ。その代わりに…これでジェホの休止前最後の姿、見てきなさい」
  さくら、武則の行動に驚いて、自分の分のチケットを取り出そうとする。
さくら「葛西さん、それならわたしが頂いたチケット、お返ししますよ!」
武則「いや、それは三好さんにあげたものだから。それに…」
  武則、笑顔を浮かべつつも、その眼はどこか切なげである。
武則「…こんなオジサンが若い子たちに交じって、アイドルにキャーキャー言うのは場違いだろうから、いいんだ」
恵「……」
  首を横に振り、武則の手を押し返す恵。
恵「あたし、いい。お父さんが行って!」
  武則、負けじと恵にチケットを渡そうとして、攻防戦が繰り広げられる。
武則「お前、どこまで意地っ張りなんだ! いいから行けって!」
恵「だって、お父さんだってジェホ好きなんでしょ! お父さんが行きなよ!」
  武則、隙をついて恵の痛バッグの中にチケットを突っ込み、その場から走り去る。
恵「あ!」
  バッグに突っ込まれたチケットを取り出し、武則を追おうとするも、既に武則は遠く離れたところへと走り去っている。
  武則の背中を見つめ、罪悪感に打ちのめされた表情を浮かべている恵。

○ 同・ステージ上(夜)
  ステージ上に立つPlasma Boysのメンバーたちに、惜しみない声援が注がれる。
ユヅル「それじゃあ最後に、僕たちの頼れるリーダー、ジェホからみんなに一言…」
  ジェホが感極まった表情で前へ出ると、悲鳴と泣き声交じりの歓声が響く。
ジェホ「みんなもう知ってると思うけど、今日のファンミーティングが終わったら、ボクはしばらくPlasma Boysをお休みします」

○ 同・客席(夜)
  総立ちの客席の中に、恵とさくらの姿もある。
ジェホの声「ボクは必ずPlasma Boysに戻ってきます。みんなを待たせてしまうのは本当にゴメンだけど…どうか待っていてください」

○ 同・入り口前(夜)
  開場前に集うファンたちの中に紛れて、スマホで生配信中のファンミを見ている武則。
ジェホの声「たとえ離れていても、ボクの心はいつだって、みんなと一緒にいます」
  武則、ライブが行われているホールを見上げる。

○ 同・ステージ上(夜)
  ジェホ、朗らかな笑顔を浮かべて、客席に手を振る。
ジェホ「THANK YOU! また会おうね!」
  Plasma Boysのメンバーが、客席に手を振りながらステージを去っていく。
  地鳴りのような声援が会場内に響き渡る。

○ 同・客席(夜)
  客席のあちこちでファンが泣いている。
  恵、武則から譲られたチケットを見つめていたが、次第に涙ぐんでくる。
恵「…うぅぅぅ~~~っ…」
  同じく泣いていたさくら、恵の肩をさすって慰めるが、恵はチケットを握り締めながら泣きじゃくる。

○ 同・入り口前(夜)
  さくらに連れられ、会場から出てくる恵。
  涙ぐみながら鼻をかんでいた武則、恵が出てきたことに気付く。
武則「…どうだった?」
恵「…最高だった」
武則「…そうかぁ…」
  嬉しそうに笑う武則に対し、恵は所在なさげに俯いている。
武則「三好さん、今日は娘がありがとう。今度またお礼させて」
さくら「いえ、そんな! …わたし、これで失礼しますね」
武則「うん、また会社で」
  さくら、武則に一礼して、恵を励ますように肩をポンと叩いてから立ち去る。
  武則と恵、さくらを目で見送った後、顔を見合わせる。
武則「…帰る前に、どっかで飯食べてくか?」
恵「…いい」
武則「…そっか。じゃあ、帰るか」
  恵、無言で頷く。

○ 会場付近の歩道(夜)
  ライブ帰りの人たちがちらほらいる道を、恵と武則が並んで歩いている。
恵「…ねえ、ジェホのどんなところが好きなの?」
  武則、少し考え込んでから、
武則「やっぱり、頑張り屋なところかな」
恵「…頑張り屋?」
武則「最年長でリーダーだからって、生まれた国も性格も違うメンバーを何とかまとめようと頑張ってる。ジェホが頑張ってるのを見るとこう…胸がほっこりするんだよな」
恵「へぇ…」
武則「そういう恵はどうなんだ?」
  恵、少し考え込んで、
恵「ジェホの、ファンのことをすごく大切に想ってくれて、誰にでも優しくて、本物の王子様みたいなところが好き。…あと顔」
武則「(笑いながら)顔かぁ! まあ、女の子にとっては大事だよな!」
恵「…お父さん」
武則「ん?」
恵「…ごめんなさい」
  武則、驚いて立ち止まる。
恵「ジェホがお休みしてる間も、プラボのこと好きでいてね」
武則「…うん! 恵こそ、他のアイドルに浮気するなよ?」
恵「はあ? するわけないでしょーが! あたし、基本は箱推しだから!」
  少し怒った様子でさっさと先を行く恵を、武則が慌てて追いかける。
武則「ごめんごめん! 冗談だって!」
  2人並んで去っていく恵と武則の背中。

○ 葛西家・外観
  2年後のテロップ。
恵の声「ちょっと、お父さんっ!」

○ 同・居間
  恵、怒った様子で、ソファに腰かけている武則にバスタオルを突き付ける。
恵「これ、あたしの専用バスタオルって言ったじゃん! 昨日勝手に使ったでしょ!」
武則「いや、お母さんが置いといてくれたから…」
  恵、洗濯物を畳んでいる治美に詰め寄り、
恵「お母さん! なんでそんなことすんの⁉」
治美「いいじゃないのよ、家族なんだから全員共用で」
恵「イヤ! あたしもうこれ使わないから!」
  バスタオルを治美に突っ返し、自分の部屋へと去っていく。
治美「ちょっともー、せめて畳んでいきなさいよ!」
  渋々バスタオルを畳みながら、武則に向かって苦笑いする治美。
治美「ほんとに長引くわねー、恵の反抗期」
武則「まあ、一時期よりはマシになったよ…」

○ 同・恵の部屋
  恵、スマホ片手にベッドに寝転がる。
  するとそこへメールの通知音が鳴り、恵の表情がパッと明るくなる。

○ 同・居間
  スマホから通知音が鳴り、武則が自分のスマホを確認すると、心から嬉しそうな笑顔になる。
  すると勢いよく階段を駆け下りる音が聞こえてきて、恵が居間へとやってくる。
恵「お母さーんっ! どこか掃除してほしいところある⁉」
治美「なに、急に?」
恵「いいから! 今のうちに徳積まないと!」
  武則、急いでソファから立ち上がり、
武則「トイレは俺がやる!」
  トイレへと駆け出す武則を、恵が慌てて引き留める。
恵「あっ! 抜け駆けズルい!」
武則「はっはっは! こういうのはスピード勝負なんだよっ!」
恵「いーやー! 今回こそはあたしが当ててやるんだからーっ‼」
  わちゃわちゃと争い合う恵と武則を見ながら、治美が不思議そうに首をかしげる。
治美「なによ、もー。わっかんないな~」
  ソファの上に投げ出されたスマホの画面には、復帰を発表したジェホの笑顔の顔写真の画像が映る。(終)

「父親と同担は生理的に受け付けません!」(PDFファイル:381.71 KB)
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