THIS IS POLARIS!#01 ドラマ

【辛いのはフィクションだけで十分だ!】 大学の創作サークル"POLARIS"はいつか映画を撮り自分たちの存在をアピールする事を夢見た陰キャたち。 しかし脚本担当しかおらず制作は進まない。 そんなある日、学内で人気の演劇部のエースである女優がメンバーと喧嘩し脱退する現場を目撃。 ダメ元で誘ってみると方針に共感されなんとOK! 彼らPOLARISの映画制作の一歩が幕を開ける。
甲斐てつろう 137 0 0 03/15
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第一稿

THIS IS POLARIS!
#01 アイ・ライク・ムービース

【登場人物】
テツロー(20):脚本家を目指す大学2年生。
ユウスケ(20):同じサークルの3年生。 ...続きを読む
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THIS IS POLARIS!
#01 アイ・ライク・ムービース

【登場人物】
テツロー(20):脚本家を目指す大学2年生。
ユウスケ(20):同じサークルの3年生。
タツヒト(20):同じサークルの2年生。
井之頭和葉(20):演劇部のエース。
松田珠里(21):演劇部のプロデューサー。
矢倉修(50):大学の職員。
月山美樹(25):演劇部のOGで喫茶店勤務。

その他


【本編】
○池田坂大学 ホール ステージ
  テツロー(20)、ユウスケ(20)、タツヒト(20)の3人、
  ステージに立ちマイクを持ち話す。
  新入生たち、座って聞いている。
テツロー「えー、我々POLARISは昨今のビジネス化しつ
 つあるエンタメ業界でかつて存在した質の高い映画が量
 産される素晴らしい業界を復活させるべく活動していま
 す。本当に面白い映画を創りたいと思っている方は是非
 入部お願いします!」
  3人、頭を下げる。
  新入生たち、小さな拍手を送る。
  3人、袖に捌ける。

○池田坂大学 ホール 舞台袖
  3人、話している。
テツロー「手応えは?」
タツヒト「ねぇな」
ユウスケ「やっぱ僕らのスタンスって受け入れられないの
 かなぁ」
タツヒト「見たか新入生の顔? ポカーンやで。欠伸して
 るヤツもいたな」
ユウスケ「みんなきっとエンタメ性ばっか求めてメッセー
 ジとかドラマとか二の次にしてるんだなぁ」
タツヒト「誰かシリアスなドラマ好きな奴はおらんのか
 ー⁈」
テツロー「いや、何も分からないんだよ。作品も見せず説
 明してるだけだからね、そりゃ反応にも困るよ」
  テツロー、溜息を吐く。
テツロー「いい加減書いてるだけじゃなくて活動しないと
 なぁ……」
  テツロー、袖からステージを見る。
司会「続いては演劇部の発表です」
  ステージ、暗転し次の演目が始まった。
  新入生たち、期待の声を上げる。

○池田坂大学 ホール ステージ
  照明がステージ中央を照らす。
  演劇部の女優である井之頭和葉(20)、演技する。
和葉「分かってるよそんな事っ! 蓮君に彼女がいる事く
 らいっ……!」
  新入生たち、圧倒されている。
  ユウスケとタツヒト、白ける。
タツヒト「あれ最近流行った映画のやつやん、話題なって
 たから見てみたけど酷かったで」
ユウスケ「うわぁ、自分で作るプライドとか無いのかな」
タツヒト「でも見てみ新入生の顔、めっちゃウケとる」
ユウスケ「何かなぁ、悲しくなって来るよ」
  テツロー、和葉の演技を羨望の眼差しで見つめる。
テツロー「はぁ……」
  テツロー、小さな溜息を吐いた。

○OP
○メインタイトル
【THIS IS POLARIS!】
○サブタイトル
『#01 アイ・ライク・ムービース』

○池田坂大学 キャンパス内 廊下
  演劇部、ホールから出て行く新入生たちに挨拶をして
 いる。
部員「ありがとうございました、どうか入部よろしくお願
 いします!」
  新入生たち、資料を受け取り喜んでいる。
  対する和葉、愛想笑いをしていた。

○池田坂大学 POLARIS部室 (日替わり)
  3人、汚い部室のテレビで映画"リトル・ミス・サンシ
 ャイン"を見ている。
  テツローとタツヒト、煙草を吸いながらソファで隣り
  合い、ユウスケは離れた椅子に座っていた。
  以下、画面上
  × × ×
司会「今年のミス・カリフォルニアは……」
  × × ×
  映画、ミスコンの優勝者が発表され主人公がリアクシ
  ョンをするシーンが描かれる。
タツヒト「俺らは大負けやな」
ユウスケ「演劇部はめっちゃ入ったってさ」
タツヒト「本当に俺らみたいにシネマを嗜むヤツは消えち
 まったんか……?」
テツロー「でもこれは自分らしさを楽しんで負けたけど良 
 いよねって映画だよ、まぁ俺らはただ負けただけだけ
 ど」
タツヒト「いい加減俺らも動かなきゃダメやな、脚本以外
 も出来るやつ来てやぁ」
テツロー「また勧誘とかする?」
ユウスケ「いやいや前もそれやってダメだったじゃん」
テツロー「でも動き出さなきゃ意味ないし……」
  3人、暗くなる。
  タツヒト、励ますように言う。
タツヒト「安心しろ。俺らは脚本の実力だけなら十分あ
 る、それは俺が保証する。どうにかしてそれを示せりゃ
 良いんやけどな」
テツロー「ネット小説とかに載せてみたろ? ダメだった
 じゃん、やっぱ流行りを押さえないとストーリーだけで
 這い上がるのは無理だ」
タツヒト「分かっとるよ、だから自分たちだけで形にする
 しか無いってなったやろ」
  テツロー、演劇部を思い出す。
テツロー「演劇部の女優の子、今書いてる話にピッタリだ
 と思うんだよなぁ。どうにかして勧誘できれば……」
タツヒト「は? 無理やろ」
ユウスケ「あんな若者に媚びたような演技する子だよ? 
 僕も嫌だなぁ」
テツロー「いやでも何か感じたんだよ。あの何かに抑圧さ
 れたような演技にさぁ」
タツヒト「そーゆー役だったってだけやろ?」
ユウスケ「あーゆーのやってる時点でね、僕らには合わな
 いよ」
テツロー「そうかなぁ……」
  その時、部室のドアがノックされる。
タツヒト「チッ、誰だよこんな時に……」
  テツロー、立ち上がりドアを開ける。
テツロー「はい……あ、矢倉先生」
  テツロー、身をすくめる。
  職員の矢倉修(50)が立っていた。
矢倉「お前らまた部室でタバコ吸ってよ〜、20歳こえて
 たっけ?」
テツロー「先週誕生日迎えました……」
矢倉「もっと前から吸ってた気もするが、まぁ今はいい。
 ちゃんと掃除してくれるならな」
テツロー「どういう意味です?」
矢倉「お前ら何も活動しない癖に部室借りてるだろ? 他
 にも使いたいサークルがあるんだ、お前らと違ってちゃ
 んと活動してるサークルがな」
テツロー「それは……」
矢倉「追い出されたくなけりゃ活動しろよ」
テツロー「でも部員が全然集まんなくて、脚本家しか居な
 いし……」
矢倉「じゃあ賞でも何でも応募してみろ、そしたら活動と
 して認めてやるからよ」
テツロー「しょ、賞はちょっと……」
矢倉「何だよビビってんのか? それじゃあいつまで経っ
 ても成長できねぇぞ?」
  矢倉、去って行く。
矢倉「とりあえず来週までに何か活動してみろ、じゃなき
 ゃ部室は返してもらうからな」
テツロー「あ……」
  テツロー、矢倉が去った後振り返り部室を見る。
タツヒト「そうだ、お前の女装で男ども誘えばええや
 ん!」
ユウスケ「それで余計バカにされた事もあったじゃん!」
  テツロー、部室の様子を儚げに見つめる。
  その時、映画ではこんな台詞が流れていた。
  以下、画面上
  × × ×
祖父「いいか? 負け犬ってのは負けるのが怖くて挑戦し
 ないヤツの事を言うんだ」
  × × ×

○喫茶店 ルドベキア (夕)
  3人、喫茶店の席で反省する。
テツロー「どうする、活動しないと部室が無くなる……」
タツヒト「部室ある事が強みやのになぁ」
ユウスケ「その強みが減ったら今以上に大変だよ……」
タツヒト「賞っつってもなぁ、テツローは嫌なんやろ?」
テツロー「一回応募した事あるんだけどさ、『話は面白い
 けど今の人達に売れるものじゃない』って矯正されそう
 になって……」
タツヒト「やっぱ俺らのスタンスとは違うよな」
テツロー「改善案とかも出されたけどさ、俺らの好きな要
 素がことごとく消えてたんだよ。無理やり明るくさせら
 れてキャラの説得力とかより展開を優先させてさ」
ユウスケ「うわぁ、シリアスでリアルだからこそ説得力が
 あって良いのに……」
テツロー「本当にそれ! クリントの映画もリアルだから
 こそ希望とか救いに説得力があるんだよ。最近はマジで
 消費が激しいよ、一作一作が使い捨てみたいだ……」
タツヒト「最近のはなぁ……ドラマも無い訳じゃないんや
 けどイマイチ薄味なんよなぁ、設定も表面ばっかで内面
 があらへん。しかもそれ以上に意表を突いたりバズった
 りするような話題作りばっかやってて」
ユウスケ「タイパの時代とも言われてるよね、じっくり見
 ること自体に飽きられてる感あるよ」
テツロー「もっと噛み締められる一作が重宝される世の中
 になって欲しいよなぁ……」
タツヒト「昔はそーゆー映画だらけやったのに少数派にな
 ってもうたなぁ、あの時代を生きれた親世代が羨ましい
 わ……」
  すると喫茶店の従業員である月山美樹(25)がコーヒー
  を持ってやって来る。
美樹「おいおいいつにも増して暗いぞ〜?」
タツヒト「美樹さ〜ん聞いて下さいよ、活動しないと部室
 没収だって!」
テツロー「メンバーも集まらないし賞は嫌だし、やっぱ少
 数派って何も出来ないんすかね?」
  美樹、叱るように言う。
美樹「コラ、その代表になりたいアンタ達が萎縮してどう 
 すんの? 少なからずそーゆー人はいるでしょ、アンタ
 達だって近くで出会えたんだから広く見たら世界中にい
 るよ?」
ユウスケ「で、でもその人数じゃ売れてるって言うのか
 な……?」
美樹「ホラ思考が毒されてる! 施設の皆んなのためにも
 頑張るんでしょ? 諦めてどうすんの?」
  美樹、カウンターの中にいるマスター(45)に問う。
美樹「ですよねマスター?」
  マスター、カップを拭きながら静かに頷く。
美樹「だからさ、諦めずに自分たちのやり方で最後まで頑
 張りなよ!」
  3人、不安そうに頷いた。

○アパート テツローの部屋 (夜)
  テツロー、風呂上がりに母親から着信が来ていた事に
  気付く。
  折り返し電話をかけた。
テツロー「もしもし?」
母親「あ、今日はどうだった? 新入部員は来てくれた
 の?」
テツロー「いや、ゼロだよ」
母親「やっぱり、このままで大丈夫なの?」
テツロー「頑張るしかないよ、不安だけど」
母親「うーん、前の大学行っといた方が良かったんじゃな
 い? そこの方が仕事にも繋がったと思うよ? 何で辞 
 退しちゃったのさ?」
テツロー「そこじゃ売れるものに矯正されちゃう感じ
 で……」
母親「あんたの話暗いし時代にも合ってないから売れるも
 のじゃないでしょ? 仕事にしたいならそこら辺は妥協
 しないと」
テツロー「うん、分かってるけど……」
  × × ×
  テツロー、母親との電話が終わった後、煙草を吸いな
  がら思い出す。

○東京映画大学 面接室 (回想)
  2年前、テツローは大手の映画大学の受験をしてい
  た。
面接官「君は実力はあるけど話が暗いしちょっとじっくり
 書きすぎだからなぁ、ちゃんと時代を見て売れるものも
 書けるようにならないと使ってもらえないよ?」
テツロー「でも好きじゃないものを書こうとすると筆が乗
 らなくて」
面接官「プロの業界じゃそんなこと言ってられないよ? 
 仕事なんだからさ」
  面接官、テツローの脚本を添削する。
面接官「展開のさせ方とかキャラの造形とかは上手いから
 きっと化けるよ、このままじゃ勿体ないよねぇ。例えば
 この主人公が鬱病ってのを無くして純粋に夢を追う人に
 すればもっととっつき易くなると思うんだ、テンポも良
 くなるだろうしセンシティブな設定はそれだけで毛嫌い
 する人も多いからねぇ」
テツロー「はぁ……」
面接官「辛いのは現実だけで十分、みんなそんなの忘れて
 エンタメを楽しみたいんだよ」
  テツロー、面接官が代案を出す中で何も聞こえなくな
  っていた。

○アパート テツローの部屋 (夜)
  テツロー、煙草の火を消しパソコンの電源を入れてサ
  ブスクで映画を見始めた。

○池田坂大学 キャンパス内 (日替わり)
  放課後、テツローは部室に向かう。
  途中、鉄道サークルの部員に声を掛けられた。
鉄道部員「テツロー君、活動しないならそろそろ部室くれ
 よ」
テツロー「はいはい、その時はね」
  テツロー、部室に入った。

○池田坂大学 POLARIS部室
  テツロー、部室に入る。
  ユウスケとタツヒト、不満そうな表情を浮かべてい
  る。
テツロー「おいおいどうした?」
タツヒト「今日も別のサークルが部室くれ言うとったわ」
ユウスケ「僕もロボット研究部に言われたよ、部室が必要
 だってね」
テツロー「俺も……言われたばっかだよ」
  テツロー、ソファに座り煙草に火をつける。
タツヒト「どうする? このままじゃヤバいで」
ユウスケ「結局僕らみたいなのは一生理解されないのか
 な……」
  テツロー、煙を吐き答える。
テツロー「……本当にそうなのかも知れないなぁ」
ユウスケ「え?」
  ユウスケとタツヒト、キョトンとする。
テツロー「何の活動もしてない俺らがちゃんと活動してる
 奴らの邪魔すんなって事なのかもな、結局俺らは日の目
 を見れず慎ましく生きてくしかないって事か……」
  タツヒト、カチンと来る。
タツヒト「それ本気で言うてんの?」
テツロー「だってそうだろ、少数派が活動した所で意味な
 んてないよ、誰も見てくれないんだから」
  タツヒト、本気で怒る。
タツヒト「何やそれ。施設の皆んなに誓ったやろ、成功し
 て映画館のでっかいスクリーンで映画見せてやるって。
 俺らみたいなのでも上手くやれるんだって示す言うとっ
 たやんけ!」
テツロー「無理だよそんなの! 仮に活動して映画館抑え
 たとしても観に来る奴なんか居ないって! 興行的に大
 失敗して借金暮らしするのがオチだよ、家族にも迷惑か
 けてダメな見本になっちまう!」
  ユウスケ、下を向いてしまう。
タツヒト「少なくとも味方はいるって、俺らが出会えたの
 が証拠やん……現に俺はお前の脚本好きやし。設定だっ
 て暗いけど説得力あるしそれで元気貰えたんやって」
テツロー「でも実際俺ら以外にそんなヤツ出会えてないだ
 ろ? それが答えだよ、上手くやるには全然足りないん
 だ……」
  テツロー、歯を食い縛り言う。
テツロー「皆んな辛いのは現実だけで十分って思ってるん
 だよ……」
  テツロー、まだ半分以上残った煙草の火を消し部室を
  出る。
  タツヒト、追わない。
ユウスケ「あの……」
タツヒト「今は何も言わんといてや……」

○池田坂大学 キャンパス内 廊下
  テツロー、廊下の隅っこで座る。
  頭を抱えていた。
テツロー「はぁ……」
  すると激しく喧嘩をする声が聞こえる。
  テツロー、慌てて角に隠れた。
  演劇部の和葉と松田珠里(21)、喧嘩をしながら歩いて
  来る。
珠里「待ってよ、まだ話終わってない!」
  珠里、逃げるように歩く和葉の腕を掴む。
和葉「だから言ってんじゃん、私もうやってられないっ
 て!」
珠里「あんた目当てで新入生も沢山入って来たんだよ? 
 今辞めてどうすんの⁈」
和葉「それがしんどいの! やりたくもない演技に憧れら
 れていつまでも隠してるのが無理!」
珠里「新入生たちの期待裏切るの? 女優なら夢見させて
 あげたいって思わない⁈」
和葉「思わない! そもそもそんな演技やりたくないし、
 現実でまでそれやるのしんどいよ!」
珠里「せっかく業界も気に入ってくれてるのに今更何そ
 れ⁈ 売れるチャンスを捨てるの⁈」
和葉「別に売れたくてやってる訳じゃない! 好きな演技
 したいだけなのにあんたが矯正したんじゃん! その結
 果どんどん違う自分に憧れられてこのままじゃ後戻り出
 来なくなる!」
珠里「何その言い方⁈ せっかく良い女優にしてやったの
 に!」
和葉「若者に媚びて質の悪い演技するのが良い女優? 良
 い駒の間違いでしょ!」
珠里「っ……! もう良い、好きにしな」
  珠里、手を離し去って行く。
  和葉、テツローには気付かずその場で泣き崩れる。
和葉「うぅ、ぐすっ……」
  テツロー、気まずさから去ろうとするが靴がキュッと
  鳴ってしまい和葉に気付かれる。
テツロー「あ……」
和葉「え、あ、えっと……」
  和葉、振り返り慌てて涙を拭く。
テツロー「えっと……ごめん」
和葉「いや、ううん、別に……」
  しばらく沈黙。
  テツロー、慌ててポケットからDCコミックスのロゴ
  が書かれたハンカチを出し和葉に渡す。
テツロー「あの、良ければ使って……」
和葉「ありがと……あ、DC……好きなの?」
  和葉、涙は拭わない。
  テツロー、緊張しながら答える。
テツロー「うん、DC原作の映画が好きで……バットマンと
 かスーパーマンの……」
和葉「え、本当? 私も好きなんだけど中々分かってくれ
 る人が居なくて……」
テツロー「でもDCにも色々あるからなぁ、スナイダーカ
 ットとか言っても分かんないでしょ?」
和葉「もちろん知ってるよ、めっちゃ好き」
テツロー「え、マジ?」
和葉「うん、エンタメ的なアクションより重厚なドラマが
 強くて好きなんだ……まぁそのシリーズだけだけど」
  テツロー、表情が明るくなる。
  しかし和葉、また泣きそうになる。
和葉「私もそんな演技したいんだけど全然分かってもらえ
 なくてね……」
テツロー「だから喧嘩……」
和葉「うん……」
  再び沈黙。
  和葉、涙がポロポロと溢れる。
テツロー「あっ、全然それで拭いてくれて大丈夫だか
 ら!」
和葉「いいの? でも悪いよ……」
テツロー「いやいや全然! むしろ君みたいな人に拭いて
 もらえたらハンカチも喜ぶからっ!」
和葉「ふふっ、何それ……」
  テツロー、和葉の笑顔を見た。
  和葉、ようやく涙を拭く。
和葉「ありがとう、洗って返すね」
テツロー「お構いなく……」
  和葉、その場から去ろうとする。
  テツロー、和葉の背中を見て拳を握り締めた。
テツロー「あ、あのっ!」
和葉「?」
  和葉、振り向く。
  テツロー、勇気を振り絞った。

○池田坂大学 POLARIS部室 (夕)
  ユウスケとタツヒト、無言でスナイダーカットを見て
  いた。
  画面にはジャスティス・リーグのメンバーが集結した
  シーンが映されている。
  そこで扉が開く。
タツヒト「ん……? はぁ⁈」
  テツローと和葉、部室に入って来る。
テツロー「仲間見つけた」
  ユウスケとタツヒト、和葉の登場に驚いていた。
  × × ×
  和葉、ソファに座る。
  3人、緊張してバラバラに座る。
  テツローは床に座った。
テツロー「えっと、まぁ汚いけど部室……です」
  和葉、煙草の臭いに顔を顰めながら見回す。 
  クリント・イーストウッドのポスターに目が行った。
和葉「あ、クリント・イーストウッド。好きなの?」
テツロー「うん、彼の作風が1番好きなんだ。苦しい中で
 も人の温かさがあってそれが小さいけど希望になる感じ
 が」
  しかしテツロー、顔を下げる。
テツロー「でも今の世の中には求められて無いんだよな、
 現に最新作も劇場公開されなかったし……事情は分から
 ないけどそんな予感がして……」
和葉「そっか……確かにね」
  沈黙。
  和葉、気まずさに口を開く。
和葉「ねぇ、ここではどんな活動してるの?」
テツロー「え、活動か……」
  テツロー、考えた末伝える。
テツロー「実はこれと言った活動は出来てないんだ。脚本
 家しか居なくて書き溜める事くらいしかしてない……」
和葉「それ賞に出したりしないの?」
テツロー「ダメだったんだよ。この作風は売れないって突
 っぱねられちゃった」
和葉「そう、なんだ……」
  和葉、考え込む。
  そして立ち上がった。
和葉「ちょっと考えさせて。好みは合うと思うけど一旦入
 るかはちゃんと考えたい」
  和葉、部室を去ろうとする。
テツロー「え……」
和葉「演劇部の事もまだ整理ついてないし……ごめん」
  テツロー、呼び止めた。
テツロー「あ、待って!」
  テツロー、立ち上がる。
テツロー「良ければ参考までに俺らの脚本読んでくれない
 かな?」
和葉「うん、そうだね。連絡先あげるからそこに送って」
テツロー「うん」
  テツローと和葉、連絡先を交換する。
和葉「それじゃあ」
  和葉、部室を後にした。
  タツヒト、煙草に火をつける。
タツヒト「ふぅー、やっと吸えるわ」
  テツロー、振り返る。
タツヒト「やっぱダメやって。俺らの有様にドン引きして 
 たやろ」
  ユウスケ、タツヒトから離れる。
  テツロー、歯を食いしばった。

○池田坂大学 キャンパス内 講義室 (日替わり)
  テツロー、いつものように講義を受ける最中にノート
  に脚本のメモをしていた。
  テツロー、顔を上げる。
  視線の先に同じ講義を受ける和葉の姿があった。

○喫茶店 ルドベキア (夕)
  3人、コーヒーを飲む。
タツヒト「んで、井之頭さんから連絡は?」
テツロー「無い……」
ユウスケ「期待するだけ無駄だったね……」
  テツロー、和葉とのトーク画面を見ている。
  以下、画面上
  × × ×
テツロー「これ俺らの脚本です」
  ファイル添付
  × × ×
  既読は付いているが返事はない。
テツロー「まだ読んでる途中なのかも、既読は付いてるし
 さ」
タツヒト「もう期待せん方がええかもなぁ、その方が気も
 楽やろ」
テツロー「でもせっかく見つけた仲間なのに……」
タツヒト「好みが同じってだけで一緒に活動できるかは別
 やろ、俺らもたまたま仲良かったから出来てるけどさ」
  テツロー、画面を見つめる。

○アパート テツローの部屋 (夜)
  テツロー、母親と電話している。
母親「昌也君がまた今度の学生映画コンクールに出展する
 んだって。去年も受賞してたでしょ、一緒にやってれば
 良かったのに」
テツロー「もう良いよ終わった事は。アイツとやってたら
 俺の良さが消えちゃう」
母親「いつまでも甘えた事言ってさ、脚本家なりたいんで
 しょ? 売れる事も意識しないと。せっかく実力は認め
 てもらえたのに勿体ない」
テツロー「もーその話いいから、今やれる事やんなきゃ」
  テツロー、電話を切る。
テツロー「はぁ……」
  テツロー、煙草に火をつける。
  和葉との返事のないトーク画面を見つめた。

○池田坂大学 キャンパス内 廊下 (日替わり)
  和葉、次の講義のため移動している。
  珠里とその他演劇部員たち、楽しそうに談笑してい
  る。
  和葉、すれ違うが一瞬だけ目を合わせて通り過ぎた。
  和葉、顔を顰める。

○池田坂大学 キャンパス内 講義室
  和葉、講義室に入るとPOLARISの3人がいるのが見え
  た。
  職員の矢倉に詰められている。
矢倉「その井之頭からの返事はまだか?」
テツロー「いえ……でももう少し待って下さい、せめて返
 事が来るまで……っ!」
矢倉「こっちも色んなサークルから詰められてんだよ、そ
 っちも面倒だし早く何とかしてくれよ?」
  3人、トボトボと席に戻る。
  和葉、憐れみの視線を向ける。
  しかしすぐに目を逸らし自分の席に着いた。
  × × ×
  講義が終わった後、テツローは和葉の所へ。
テツロー「あの、脚本読んでくれた?」
和葉「ごめん、色々考え込んじゃってまだ……」
テツロー「あぁ分かった、じゃあ待ってる」
  テツロー、去って行く。
  和葉、机に肘を突きながら脚本を開く。
  すると新入生たちがやって来た。
新入生1「いた、和葉先輩!」
新入生2「本当に辞めちゃうんですか⁈」
和葉「うん、ちょっと疲れちゃってね……」
  和葉、立ち上がり講義室から出て行く。

○池田坂大学 キャンパス内 廊下
  和葉、歩いている。
  新入生たち、後ろから着いて来る。
新入生1「私たち和葉先輩に憧れて入部したのに、ちゃん
 と答えて下さいよ! 珠里先輩も教えてくれない
 し……」
  和葉、立ち止まり話す。
和葉「あれは本当にやりたい演技じゃないの、悪いけど憧
 れて欲しくなかった……」
新入生1「そんなぁ……」
  珠里、そこに現れる。
珠里「みんなごめんね、もう良いよ。モチベ下がっちゃう
 かも知れないけどもう和葉とは無理……」
  珠里、新入生たちの肩に手を置く。
珠里「こんなんじゃちゃんとした演技も出来ないだろうし
 期待を裏切るような事しちゃってごめんね……」
  珠里、新入生たちを連れて去って行く。
  和葉、瞳に涙が浮かんだ。

○一軒家 和葉の部屋 (夕)
  和葉、自室で号泣。
和葉「うぅぅっ……!」
  棚には去年の学祭で演劇部が賞を貰った時の写真が。
  和葉、その写真を投げ捨てようとして躊躇う。
  そのまま写真をひっくり返し見えなくした。
和葉「ぐすっ……」
  和葉、涙を拭こうとハンカチを出した。
  するとそれはテツローから借りたDCのハンカチだっ
  た。
  和葉、パソコンの電源を入れる。
  テツローから貰った脚本のファイルを転送し開いた。
  以下、画面上
  × × ×
タイトル【支柱】
  × × ×

○池田坂大学 POLARIS部室 (夕)
  3人、部室でスナイダーカットの続きを流していた。
  テツローとタツヒトは煙草を吸っている。
  すると扉がノックされた。
タツヒト「うわまた矢倉かよ、いい所やってんのに……」
  テツロー、扉に向かい開ける。
  すると和葉が息を切らして立っていた。
  目の周りが少し赤い。
和葉「はぁ、はぁ……」
テツロー「え、和葉さん……っ?」
  3人、驚いている。
  和葉、迫真の表情で告げる。
和葉「読んだ」
テツロー「え? あっ」
和葉「読んだよ脚本っ。ありきたりな感想になっちゃうけ
 ど……凄く好きだった!」
テツロー「えぇマジ⁈」
和葉「クリント好きって言ってたのが分かった、リアルで
 辛いけど温かくて……確かに今の人達にはウケないかも
 だけどさ、私は好き!」
  3人、表情が明るくなる。
3人「おぉーっ!」
和葉「しかもこれ多分だけど村全体が教会って風に捉えら
 れるよね? 人と繋がって同じものを楽しんでさ、信仰
 するって意味も説いてる感じがしたんだけど……」
テツロー「凄い、その通りだよ! そこまで読み取ってく
 れたの初めてだ!」
  タツヒト、煙草の火を消してソファの埃を払った。
タツヒト「さぁさぁどうぞこちらへ、新入りさんよ!」
  ユウスケ、表情に嬉しさが溢れている。
  和葉、タツヒトに案内されたソファに座った。
和葉「これ読んで聞きたい事が見つかったの、こんな話書
 ける人はどんな人なんだろうって」
  3人、前の床に座る。
テツロー「え、俺らにインタビューみたいな感じ?」
和葉「そ、せっかく仲間になるんならちゃんと知っておき
 たくて」
  3人、顔を合わせる。
  テツロー、咳払いをした。
テツロー「うん、俺らが創作する理由にもなるんだけど」
  テツロー、語り出す。
テツロー「俺らは高校の時に出会ったんだ。学校じゃなく
 て、家や学校に居場所がない奴らが集まる憩いの場みた
 いなのがあってさ」
ユウスケ「そこでようやく仲間に出会えて……でもみんな
 現実に辛そうにしてるからさ、創作してる僕らで示そう
 としたんだ」
和葉「何を?」
テツロー「現実も悪く無いって事。俺はリアルなダメな人
 の映画を見てこんな自分も悪く無いんだって思えた、そ
 れをみんなに示したくて」
タツヒト「その施設がPOLARISって名前なんよ」
テツロー「あ、1番良いセリフ持ってった」
タツヒト「ええやん自分ばっか」
  テツロー、和葉に向き直る。
テツロー「ま、最近は自信失くしてたけど和葉さんがまた
 こうやって言ってくれてさ……嬉しいよ」
  和葉、優しく微笑む。
テツロー「辛い現実を受け入れられるようになれれば良い
 ってね。みんな辛いのは現実だけで良いって言うけど俺
 らはそうじゃない、辛いのはフィクションだけで十分な
 んだよ」
和葉「いいね、それを伝えるのが夢なんだ?」
テツロー「うーん夢か……夢って言い方はあんま好きじゃ
 無いんだよね」
和葉「そうなの?」
テツロー「夢ってそれに憧れて目指す感じでしょ? それ 
 が叶ったらゴールみたいな気がして……俺らは違うん
 だ」
  テツロー、ユウスケとタツヒトを見る。
テツロー「俺らは他に道が無かった、そうするしか上手く
 やる方法が思い付かなかったんだ。だから続けるしか無
 いんだよ、ゴールなんか無いんだ」
和葉「そっか……じゃあ私も夢見るのやめよ」
テツロー「夢って何だったの?」
和葉「好きな演技をして女優になる事。でもそれで終わり
 じゃないんだね」
テツロー「うん、少なくとも俺らは一生続けるつもりだ
 よ」
  テツロー、手を差し出す。
  和葉、その手を取り握手した。
  その時、テレビで流れていたスナイダーカットでこん
  なセリフが流れた。
  以下、画面上
  × × ×
バットマン「敵がどれだけ強大でも団結した我々には敵わ
 ない」
  × × ×

  つづく

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