どんな手術も100%失敗させる医者がいる。
それが山田太郎だ。彼の手術の腕前は非常に悪い。以前も簡単な手術だったのに患者を死なせてしまった。
その悪評は病院全体に広がり、今では彼を担当医から外してくれと相談する患者もいるようだ。そして病院側としてもこれ以上、彼を雇い続けることはできないと判断したのか、とうとう山田氏を解雇した。
無職になった山田氏は次の就職先を探そうと色々な病院を回ってみたが、どこも採用してもらえない。どうやら前いた病院での評判が他の病院にも伝わっているようだ。
途方に暮れた山田氏だったが、ある日、山田氏を採用したいという電話が入ってきた。直接会って話がしたいということなので、次の日にその病院に訪れた。
その病院の採用責任者と思われる男は「よくぞ来てくださった」と言わんばかりのもてなしぶりだった。自己紹介や病院の紹介など話がある程度進んだあと、山田氏は恐る恐る昨日からモヤモヤしていた疑問を打ち明けた。
「なぜ私を採用してくださったのでしょうか?私の手術の評判はご存知でしょうか?」
採用責任者はニコニコと笑顔で答えた。
「山田さんの評判は伺っております。それを踏まえて採用を考えているのです」
山田氏の呆気に取られた表情に気づいてか、さらに採用責任者は話を続けた。
「当院には、とても重い難病を抱えていらしゃる患者様が何名もおります。そしてそういった方の多くはこれ以上、家族に迷惑をかけたくないという思いから自殺を志望されます。しかし現在のこの国の制度では、医師が自殺を手伝うと処罰されてしまいます。しかし、それが医師による手術ミスであれば、、、、、、話は分かりますよね?当院ではそうした需要に応えるため、人材を探していたところ、ちょうど山田さんの噂を伺ったというわけです。ご理解いただけましたでしょうか」
山田氏は何も言うことなく、契約書にサインをした。無職である山田氏には、しのごの言う余裕はない。人間何かしら明日を生きていくためには看過しなければならいことだってあるはずだ。
そう自分に言い聞かせながら、山田氏は病院を後にした。
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