人物表
奥中覚(17) 諏訪高校2年生
畑明世(17) 奥中の幼馴染。
北浦圭吾(17) 諏訪高校2年生。
高原創太(18) 諏訪高校2年生。
高梨真梨子(16) 諏訪高校1年生。
日向誠(17)諏訪高校1年生。
田中一(62) 諏訪高校校長。
山田勝(57) 諏訪高校教頭。
平川誠司(42) 体育教師。
平田平蔵(62)諏訪高校守衛。
正田忠良(36) 地元の警察官。
高浦の取り巻きA
高浦の取り巻きB
高浦の取り巻きC
高浦の取り巻きD
○神社・境内(夕方)
まばらに雨が降る夕暮れ。空は灰色。
佐藤千春(享年15)の葬式がとり行われている。
千春の遺影が境内の中央に据えられ、お経が唱えられる。
突然響く女生の悲鳴が。続いて硬い物がぶつかる効果音が聞こえてくる。
教師A(声のみ)「奥中!」
効果音は続く。
女子生徒(声のみ)「やめて!!」
奥中覚(14)、馬乗りになり、真顔で北浦圭吾(14)を殴りつけている。周りを囲う同級生
たち。
喪服を着たを着た教師数名が奥中を北浦から引き離そうとする。
奥中、意にも介さず殴り続ける。
教師「いい加減にしろ!」
教師Aが奥中を蹴り飛ばす。奥中は吹っ飛ばされ、関団の角に頭をぶつける。倒れ込む奥中の
額から出血があり、地面に血溜まりが出来る。
動けずにいる奥中を、教師陣が上から押さえつける。
教師A「このクソガキ!誰か北浦を連れて行け!」
奥中、頭を上から押さえつけられたまま、薄れゆく意識の中で北浦を見る。
北浦は仲間に助け起こされている。北浦、悟と目を合わせると、ニヤリと口元を歪め、丁重
に運ばれながらその場を去っていく。
○諏訪高校・全景
「仰げば尊し」が聞こえてくる。
森に囲まれた大自然の中で、1つポツンと立っている校舎の全景が映る。
校門には「第25回 卒業式」と書かれた看板が立てかけられている。
○同・体育館裏
主人公、奥中覚(16)が他の生徒たちにリンチを受けている。
1人に後ろから羽交い締めにされ、他の2人から顔、腹部を殴られている奥中。
楽しそうに笑い声を上げながら暴行を続ける生徒たち。曲は流れたまま。
○同・講堂
卒業生一同が引き続き「仰げば尊し」を歌っている。
卒業生「♪今こそ、別れ目。いざ、さらば」
歌が終わり、会場会場が拍手に包まれる。
○同・体育館裏
アナウンス「卒業生、退場」
拍手の中を卒業生が退場していく。数人の在校生は、泣きながら卒業生を見送っている。
卒業生が全員退場し、拍手もまばらになったところで、教頭である山田勝(57)が壇上に上
がる。
山田「以上をもちまして、卒業式を終了します。皆さんのおかげで、例年通り素晴らしい式を執り行
うことが出来ました。卒業式は終了しましたが、在校生の皆さんにはそのまま残って頂き、将来
の話をしたいと思います。お2人、前へ」
畑明世(16)、北浦北浦(16)が立ち上がり、教壇へと向かう。
静かに移動する明世とは裏 腹に、北浦は仲間内に騒ぎ立てられながら移動。2人は教壇に上
がる。
○同・体育館裏
奥中、倒れ込む。暴行を続けていた4人組が、倒れる奥中を見て笑っている。
チャイムが鳴り、4人は蹲る奥中に蹴りを入れて、その場を去っていく。
呻きながら上体を起こす奥中。建物の物陰から、か細く、眼鏡をかけた日向誠(16)がゆっ
くり出てくる。
奥中、その姿を認めると、顎をしゃくって合図する。日向は奥中に一礼し、その場を去って
いく。
○同・廊下
講堂から各々の教室へと戻ってくる生徒達でごった返す廊下。
明世、2人の学友と共に、雑談を交わしながら廊下を歩く。
急にざわつく周囲の雰囲気に気付いた明世が顔を上げると、生徒達が脇に避け、その中央を
奥中が顔から血を流しながら進んでくる。
周りの生徒は奥中を避け、ヒソヒソと話をし始める。「暴力人間」、「千春を殺した」とい
うワードが聞こえてくる。
女生徒達も脇に避けようもするが、明世は一人奥中の方へ歩き出す。
女生徒A「明世!」
明世と奥中、正面から距離を詰めるが、奥中が明世を避けてそのまますれ違う。
明世、立ち去っていく奥中の背中を見つめている。
友人が明世に駆け寄る中、明世は奥中のカバンに付いているキーホルダーに視線を投げる。
○奥中家前・道路(回想)
家の前で、母親とともに荷物を車に載せている奥中(6)。
明世(6)がやってきて、奥中に男児アニメのキーホルダーを渡す。
奥中、それを受け取り車に乗り込む。
○同・廊下
奥中、明世の視線を背中に受けながら、振り返らずに廊下を進んでいく。
○同・2-C教室
廊下を歩いている奥中を、教室の窓越しに見る北浦。
北浦は机の上に腰かけ、大柄な男子生徒4人と、その他女子のクラスメイトに囲まれてい
る。
奥中、視線を感じて顔を上げると北浦と目が合う。
北浦はニヤリと笑い、北浦と束の間睨み合う。
教室の机上には、千春の遺影が飾ってある。
○同・廊下
北浦を睨み続けている悟、前から誰かにぶつかられる。
ぶつかった人物は足早に去っていき、奥中が目をむけたときにはもういない。
奥中、足元に手紙が落ちていることに気付き、拾って読む。手紙には、「気を付けろ。3年前
が繰り返される」と書かれている。
奥中、顔を上げ辺りを見渡すが、怪しい人物は誰もいない。
北浦を見るが、北浦は既に仲間たちとの会話に戻っている。
○同・2-A教室
生徒全員が着席し、担任は壇上にいる。黒板には「生徒会長選挙」の文字。
担任「さて、本日は毎年恒例の生徒会長選挙になる訳だが、これから皆んなに」
担任の話を全く聞かずに手紙を眺める奥中。
(フラッシュ)
冒頭のシーン。教師陣に押し倒される奥中、意識を失う前に、ニヤリと笑いながらこちらを
見る北浦の顔が目に入る。
(フラッシュ終了)
奥中、前髪をかきあげ、額に手を当てる。額には大きな傷跡が残っている。
担任「奥中、奥中!」
奥中、名前を呼ばれて驚く。
奥中「はい」
担任「てめえ、人の話聞いてんのかよ」
奥中「(小さな声で反省がちに)すいません、聞いてませんでした」
担任、悟に近づき、髪の毛を掴む。
担任「てめえ、何様のつもりだよ」
奥中、顔色を変えずに担任の顔を見る。担任はしばらく睨みつけたあと、手を離す。
担任「この後すぐ職員室に来い」
奥中、反応しない。
日向、その様子を体を縮めながら見ている。
○同・廊下
チャイムが鳴り、教室から生徒たちが出てくる。
○同・2-A教室
ほとんどの生徒が教室から出ていく中で、奥中は席に座ったまま。
そこに一人の女子クラスメイトがゆっくり、距離を空けながら近付いてくる。
女子生徒「奥中・・・くん?」
奥中、ゆっくりと声の方を向く。
女子生徒「先生から、場所変更だって。旧校舎の方」
奥中、ひとつため息をつき、立ち上がる。
女子生徒、奥中が立ち上がる瞬間、ビクッとする。
女子生徒のすれ違い様に、
奥中「ありがと」
奥中、別方向に歩いて行く。
○同・旧校舎前
奥中、仁王立ちで何かを見上げている。視線の先には旧校舎がある。
蔦で覆われ、灯りもない校舎。
灰色のコンクリートで作られた外壁数ヶ所にヒビが入っており、明らかに誰も中にいない雰
囲気を醸し出している。
奥中、一つ息をつき、中に入って行く。
○旧校舎・屋内
中は電気も通っておらず、真っ暗。
奥中は携帯のライトを付け、辺りを伺いながらゆっくりと前に進んでいく。
奥中が一歩進もうとしたその瞬間、大きな物音が響き渡り、それに続き女性のカン高い悲鳴
が聞こえる。
奥中、声がした方向へ走り出す。
○同・階段
階段をかけ上がる奥中。
○同・被服室前
廊下をかけてくる奥中、被服室内で何かが光っているのを見つけ、立ち止まる。
少し逡巡するが、すぐに意を決して室内に入る扉を開ける奥中。
○同被服室・室内
室内は暗く、中の様子が分かりづらい。椅子、机が散乱し、何個かは倒れている。
カーテンは破られてビリビリになっているが、窓の外は植物に覆われ、光は室内に届いてい
ない。
携帯電話のライトを片手に、教室の奥へと進む奥中。
テレビ台が、けたたましい音を立てて急に倒れ込む。奥中、驚いて音がした方向を向く。
奥中、倒れたテレビ台を凝視していると、背後から別の物音を聞く。
背後を振り返ると、白い布に包まれた大きな物体が少し動いている。布の中からは女性のか
細い泣き声が聞こえている。
奥中、それにゆっくりと近付き、布を剥ぐ。
布の中から、体を小さく丸め、所々力付くで破られた制服を着ている、高梨真梨子(15)がうず
くまっている。
小刻みに体を震わせながら泣いている真梨子。
その破れた制服部分からあらわになっている肌には痣があり、顔は腫れ、唇から血を流して
いる。
奥中、少女の傍にかがむ。
奥中「大丈夫、、、じゃないよな」
真梨子、奥中に声をかけられ、ビクッとなる。奥中、真梨子を助け起こそうと伸ばした手を
引っ込める。
そのとき、ドアが大きい音を立てて開けられ、平川弦(46)、松戸新平(37)、北浦、その他生徒
数名が室内に入ってくる。
平川「お前、なにやってるんだ」
奥中、ゆっくりと立ち上がり、振り向く。一同と睨み合う奥中。
北浦が真梨子の元へと駆け寄り、助け起こす。
平川「何をしていた!」
奥中は平川を睨み付けるだけで何も言わない。
真梨子「私襲われました」
いきなり発言した真梨子を見る一同。奥中だけ前を向いたまま。
真梨子「私その人に襲われました」
奥中を指差す真梨子。奥中は驚きのあまり振り返って真梨子の顔を見る。
隣で介抱していた北浦、ニヤリと奥中を見遣る。
平川ら一同、奥中を睨み、囲うようにじりじりと距離を詰める。
平川「お前、終わりだぞ」
奥中、周囲を詰められ、少しずつ窓際に後退。平川はニヤニヤしながら近付いて来る。
平川「奥中!!」
奥中、平川に怒鳴られた瞬間窓を確認し、そのままダイブ。窓を突き破り、外から差し込んで
いた光に飲み込まれて行く。
一同、窓に駆け寄り下の様子を伺う。奥中、フラフラとよろめきながら立ち上がり、そのま
ま裏庭を走って去っていく。
一同はその様子を見届けると、窓から離れていくが、平川は窓に残り、鬼の形相で奥中が離
れた方角を睨み続ける。
○同・2-A教室・室内
会長選挙が行われようとしている教室内。
選挙管理委員会3名が教室前に集まり、小さな投票用紙を前から順番に渡している。
明世、少し緊張した面持ちで前を見ている。
生徒A(声のみ)「畑!」
明世、声の方を見る。
○教員室
生徒Aに津続き、明世室内に入る。
室内には明世の他に北浦、その他委員会の生徒数名と、田中一(62)、山田をはじめ、教員
がずらりと並んでいる。
真ん中の机を囲う椅子には、田中と平川、真梨子が向き合うように座っている。
田中「それは本当なのか?」
平川「本当です!この目で見たんです」
田中「僕はいま、彼女に聞いているんだ」
平川、不服そうな表情を浮かべ口を閉じる。真梨子は俯いたまま何も話さない。
その様子を見ていた明世、
明世「何があったの?」
生徒A「レイプ未遂らしい。B組の高梨が狙われた」
明世「犯人は?」
生徒A「決まってんだろ?奥中だよ」
明世、顔を曇らせる。
山田、田中に何か耳打ち。
田中、頷いて立ち上がる。
田中「えー、各自事情は聞いているとは思いますが、校内で犯罪行為が行われた可能性があります。
色々な説が既に出ているが、もっと多くの情報を集めないことには何とも言えない。そこで是
非、皆さんに協力して頂きたい」
田中はそこまで話すと下がり、代わりに山田が前に出る。
山田「では、ここからはグループに分かれて校内を捜索して欲しい。生徒達は全員校庭に集める。メ
ンバーはこちらで作成した。該当の場所を調べてくれ。対象は奥中奥中、または事件に関わる情
報だ。くれぐれも事件のことは口外しないでくれ」
周りの教師が動き出す中、明世は動けないでいる。
平川「畑!」
明世、平川に呼ばれる。
○交番・外観
正田、老婆と会話中。
老婆、正田に頭を下げて歩き出す。
正田はそれを見届けると、署内に戻る。
○同・屋内
正田、席につく。
テレビの上には千春の遺影が飾られている。
正田、それを見て、机の引き出しを空ける。引き出しには「諏訪中学女子生徒自殺事件」と
書かれたファイルが字入っている。
○神社・境内(回想)
千春の遺影を抱いて、下を向き泣いている正田。
喧騒が聞こえ、奥中が北浦に殴りかかっている。
奥中「人の命をなんだとおもっているんだ!」
ハッとする正田。
○警察署・オフィス(回想)
数人の同僚に抑えられながら、課長に詰め寄る正田(39)。
課長が指示を出し、オフィスの外へと引きずり出される。
○交番・屋内
正田、ファイルを眺めている。
○同・教室内
担任教師が席を外しているため、生徒はそれぞれ友達と固まっている。
校内放送「只今、旧校舎におきまして音読大会が開催されております。全校生徒は直ちに所定の場
所に集まって下さい。繰り返します、、、」
騒がしくなる室内。そこに担任教師がやって来る。
日向、コスプレ同好会と書かれた色紙に寄せ書きを書いている。
担任「移動だ!校庭に向かうぞ」
○同・廊下
全校生徒が教室から出てきて移動を始め、廊下はヒトでごった返す。
その人の流れに逆らうように立ちすくむ明世。
× × ×
移動が終わり、人気が無くなった廊下。
平川、肩を怒らせて廊下を歩く。その後ろを駆けるようについていく明世。
平川「校長は何を勿体つけていているんだか。犯人はあいつに決まってる」
明世「(遠慮がちに)まだそうと決まった訳では」
平川、廊下を左に曲がり2年A組の教室に入る。
○同・2-A教室内
誰もいない室内。平川は黒板に貼ってある席順を確認。
平川「理由もなくクラスメイトを半殺しにするようなやつだぞ? なぜ退学にならなかったのか理
解出来ない」
話しながら座席一つ一つを確認し、誰かの机を探している様子の平川。
明世「あの事件は市の第三者委員会によってしっかりと調査されました。何か事情があったので
は、と思いますが、、、」
平川、立ち止まり明世の顔を睨み付ける。
平川「お前、あいつの幼馴染みなんだって? 仲良くやるのは結構だが、私情を挟むなよ? 誰が
どう考えてもあいつはイカれてる。まあ、そんなやつを庇おうとしている女もどうかとは思う
が」
明世、何も言い返さない。
平川はある机の前で立ち止まり、そこにかかっている鞄を漁り始める。その鞄には奥中のキ
ーホルダーが付いている。
明世、平川を止めようとするが、平川は鞄を移動させる。
明世「流石にそれはやりすぎです」
平川「やりすぎ?何がだ。悪いやつを調べて何が悪い」
平川はそのまま鞄の中身を漁り続ける。そして手帳を引っ張り出す。
手帳を開く平川。中には真梨子の写真が大量に挟まれている。そして手紙も。
それらを眺める平川。嬉しそうな顔で明世にそれらをヒラヒラと振りながら見せる。
平川「な?」
そのとき、何が倒れたような大きな音が響き渡る。
平川と明世、辺りを見渡す。教室の机、扉、ロッカー、へとゆっくり視線を移していく。
平川、怪しむようにロッカーへとゆっくり近付いていく。
○同・ロッカー内
教壇の机の下から、奥中が隙間を覗き平川、明世の様子を、息を潜めて伺っている。
○同・2-A教室
平川、ゆっくりとロッカーに近付いていく。息を飲んでその様子を見守る明世。
平川がロッカー扉に手をかけようとしたその瞬間、明世が声を出す。
明世「あっ!」
その声に驚き、平川は扉から手を離す。
明世「その中には、もしかしたらいないかも」
平川、明世を睨み付けながらロッカーを開ける。しかしその中はもぬけの殻。
暫く見つめる平川。扉を閉め、教室を出る。
明世、ロッカーをちらりと見遣り、そのまま平川に続いて立ち去る。
○同・ロッカー裏隠し部屋
奥中、何者かに後ろから口を抑えられている。その状態で、わずかな隙間から明世と平川が
去っていくのを見届ける。
奥中、自身の口元を覆う手を払いのけ、手の正体と向き合う。しかし誰もいない。
男の声「こっちだ」
声の方を向くと、階段があり、その上から光が差し込んでいる。そこに吸い込まれるように
向かう奥中。
○同・屋上
階段を上がると、屋上に出る。3メートル程の柵で周りは囲まれ、ソーラー発電機が幾つか並
んでいる屋上。空は雲ひとつなく、陽の光が降り注いでいる。
奥中、辺りをキョロキョロと見渡していると、高原創太(17)が階段出口の屋根上に座っている
のを見つける。
奥中「なにがどうなった?」
奥中、高原に尋ねるが、高原は何も返さない。
高原、ゆっくりと奥中に近付いてくる。
奥中「君は、、、?」
高原「校舎、戦争前からあるせいで色々裏通路がある。ロッカーの裏にもひとつあったわけ」
(フラッシュ)
ロッカーの後ろから手が伸びてきて、奥中をグッと引き込む。
(フラッシュ終了)
奥中「助けてくれた?」
高原「手紙、折角書いたのに」
奥中、ハッとしてポケットからくしゃくしゃになった手紙を出す。
奥中「どうして、、、」
高原「3年前の事件。あんた、悪くないだろ」
奥中、高原の顔をまじまじと見る。
高原「あんた、千春を守ろうとしてくれたんだろ?あれはちょうど中学の生徒会長選前だった。今回も同じだ。なにか仕掛けて来ると思ったんだ」
奥中「何で君がそんなことを知ってるんだ?」
高原、屋根上から降りてくる。
高原「あんまりあいつと仲が良くなくてね」
高原、そのままゆっくり近付いてくる。
高原「似たようなもんだよ。あんたと」
高原「それより、どうするんだ?」
奥中「どうするって?」
高原「どうやり返す?」
奥中、ため息をついて黙り込む。
高原「また黙って見てるつもり?」
奥中「どうせ誰も信じちゃくれないよ」
高原、何も返さない。
奥中「俺だって何とかしたいよ。でもどうしようもない。ほんとにやったかやってないかは関係な
い。あいつらは単純に発散の対象が欲しいだけなんだよ」
高原、奥中が話している間、つまらなそうに自分の爪をいじっている。
奥中「おい、聞いてる?」
高原「あんたの不幸自慢に興味はないけど」
奥中、顔を怒りで歪ませながら高原の顔を睨み付ける。
高原「でもあんたがどれ程逃げたがっても、あっちから来るぞ。今度は本気で」
奥中「(立ち上がりながら)なんでそうなる!」
○教員室
田中を始め、教員と生徒会が集まっている。
田中の机の前に、先程奥中の鞄の中から押収した証拠品を叩きつける平川。
平川「こんだけ証拠が揃ってる。あいつで決まりですよ!」
山田、田中と顔を見合わせる。
扉が開く音がして、北浦が入ってくる。
教員A「遅いぞ」
教員の間を掻き分けて校長の前まで来る北浦。教員から野次が飛ぶ。おもむろに話始める北
浦。
北浦「遅れて申し訳ありません。少し確認に手間取りました」
北浦、田中と平川の前に出てビデオをテレビ下の再生機に差し込む。
テレビ画面を覗き込む一同。
画面には、旧校舎前で真梨子の髪をつかんで
引き摺り込む奥中の姿が映し出される。
その映像を見て一同は息を飲む。
明世、目を見開く。
北浦「これは本日11時頃の映像です。この後、奥中くんは乱暴を働こうとしたのではないかと」
教師陣黙り込む。
明世「あの、、、」
室内全員が明世の方を向く。明世、伏し目がちに話出す。
明世「これが奥中くんって言う証拠は、、、」
平川「お前、まだそんなことを、、、」
北浦「確かに画面はぼやけて分かり辛い。でもこの時間は全校生徒が教室内にいた時間だです。各
クラスの担任に聞けば分かるでしょう。この時間に教室にいなかったのは、彼だけのはずです。
ですよね、皆さん?」
女性教師「うちのクラスの高原君もいなかったわよ」
高原の名前を聞いた北浦、口元がピクつく。
平川「あんなやつ、もう生徒じゃねえよ」
女性教師を睨み付ける平川。女性教師は萎縮して黙り込む。
北浦「高原だとしたら、髪色がおかしいでしょう。如何に画像が不明瞭だとしても、金か黒か位は
区別が付くんじゃないでしょうか」
北浦、振り返り田中と向き合う。
北浦「犯人は奥中です。間違いなく」
田中、顔を反らし、考え中。
平川「何を考えているんですか!時間がもったいない!」
平川、机を叩く。
机の上に置いてある電話が鳴る。
田中、電話を取り、
田中「はい、諏訪高校田中です」
北浦父の声「おお、田中くん。久しぶり」
田中、顔色を変える。
○北浦食品・社長室
北浦明紀(62)(以下北浦父)、革張りの椅子に深く腰掛け、電話をしている。
田中の声「は、会長。ご無沙汰しております」
北浦父「うん。ちょうど今耳にしたんだがね、うちのドラ息子がまた厄介をかけているようで」
田中の声「いえ、そのようなことは決して」
北浦父「いやいや、いいんだよ。毎度すまないねえ。ところでなんだがね、君。今回、どうやって
処理をするつもりなんだね」
○諏訪高校・教員室
田中、受話器を持ちながら、北浦の顔を見る。北浦はにやついている。
田中、何度も頭を下げながら小声で会話をする。
田中「はい。かしこまりました。ではそのように」
田中、受話器を置き、目をつぶり下を向く。
山田に向かって、
田中「警察に連絡してくれ」
山田、頷いて電話へ向かう。
心配そうな表情の明世。
○交番・屋内
電話が鳴り、若手の警察官が出る。
若手警察官「はい、上諏訪駅前交番です。はい? はあ、いますが」
裏手から正田が出てくる。
若手警察官「正田さん、本部から」
正田、受話器を受け取り、
正田「はい、正田です。は、署長?」
○同・屋上
奥中と高原、無言で睨み合う。
突然校内放送のチャイムが鳴り、放送が始まる。
山田の声「えー、只今、重要参考人として、1-Aの奥中君、奥中覚君を探しています。見かけた生
徒、居場所に心当たりのある生徒は、教員室まで、、、」
マイク越しに何やら争う音が聞こえる。
平川の声「いいか、奥中は罪を犯した!捕まえたやつは表彰してやる!探せ!」
再び争う音が聞こえ、終わりを知らせるチャイムが聞こえる。
○同・校庭
放送を受け、集まっていた全校生徒が話始める。周りの教師陣はそれをなだめようとする。
教師「おい、静かにしろ!」
教師の注意も気にせず、おしゃべりを続ける生徒達。こそこそ話が大きなっていく。
日向、コスプレ研究会の仲間と寒暖中。
周りから白い目で見られている。
数人の生徒が立ち上がり、校舎へと向かう。それを見た教師、生徒を止める。
教師「おい、座ってろ!」
生徒「放送、聞いてた? 校長命令でしょこれ」
他グループの生徒達も立ち上がり、校舎へと向かい始める。外の生徒も加わり、大団体とな
った一群は教師陣の静止を突発する。
○同・玄関口・内
生徒達がなだれ込んでくる。
○同・屋上
校庭の生徒達が大移動を始める様子を見ている奥中と高原。奥中は驚きの混じった顔で光景
を見ている。
高原「すごいことになってんな。全校生徒があんた探してるよ」
奥中、握っている手摺に力が入る。
奥中「くそ、なんでこんなことに、、、」
○同・屋上
奥中と高原、校内に雪崩れ込む生徒達を上から眺めている。
身を乗り出しながら、手摺を力一杯握りしめている奥中。
高原「ね、言った通りだろ」
奥中、何も言い返さない。
高原「どうする?このまま逃げ続ける?」
奥中「くそ、、、」
奥中、その場にしゃがみこむ。その様子を見た高原、ひとつため息をついて、奥中の側にし
ゃがみこむ。
高原「なんとか、出来るかもしれないよ」
奥中、高原の顔を見る。
○一般道
パトカーを走らせている正田。
渋滞に巻き込まれている。
○同・校内
生徒達が騒ぎ立てながら走り回っている廊下。明世は流れに逆らいながら一人歩いている。
ある教室の前で立ち止まり、扉を開けて中に入る明世。看板には「保健室」と書いてある。
○同・保健室
保健室内に入っていく明世。中には保健室の先生とベッドが2台。片方のベッドにはベール
がかかっていて、中が見えないようになっている。
保険医「あれ、畑さん何か用?」
明世、保険医の問いに答えず室内に入り、ベールのベッドに近付く。
保険医「畑さん、ちょっと」
静止を振り切り、ベールをめくる明世。
そこには真梨子がジャージ姿で横たわっている。
真梨子、驚いて明世を眺める。
明世「本間さん、話があるんだけど」
保険医「ちょっと!」
保険医が引き止めようとするが、明世は動かない。
明世「ほんとに奥中だったの?ちゃんと見たの?」
保険医「何を言ってるの!?」
真梨子、明世の顔を見る。保険医は明世の腕を掴み引っ張るが、明世はそれを振り払う。
明世「あなたの言葉が重要なの。本当なの?」
真梨子、下を見て俯く。
明世「ねえ、本間さん!」
北浦の声「畑さん、どうかした?」
明世、振り向くと北浦とその取り巻きが立っている。
北浦は顔に笑みを浮かべてはいるが、殺気のこもった視線を明世に送っている。
明世、何も返さずにいる。
北浦「何かあった?」
明世、真理子の顔を睨み付けた後、保険医から手を振り払うとその場を立ち去る。
その様子を見守る北浦。立ち去る明世の背中を見るが、その顔には笑顔がない。
○同・校舎内廊下
奥中を捜している生徒達で込み合っている廊下。全員が忙しなく動き回っている。
人が散っていき、静かになる廊下。
すると天井の一部が開き、奥中が逆さに顔を出す。
奥中、体勢を整えて着地。ジャケットの内ポケットから手書きの地図を出して眺める。耳に
は携帯から延びているイヤホンを付けている。
高原(イヤホン越し)「抜けたか?」
奥中「何とか」
高原(イヤホン越し)「地図にもあるけど、そこから守衛室は外を通っていくしか行き方はない。見つ
からないようにな」
奥中「言うだけ簡単だよな」
高原(イヤホン越し)「助けてもらってんだから文句言うなよ。とにかくカメラの映像さえ確認できれ
ば良いんだ」
奥中「でも噂じゃおれがばっちり写ってたって」
高原(イヤホン越し)「じゃあ他のカメラで写ってないやつ探せよ。それくらいの根性見せろって」
奥中「根性って、、、」
廊下を忍足で歩いている奥中、女子生徒の話し声が聞こえてきて慌てて身を屈める。
女子生徒達は奥中に気付かずに通り過ぎていく。
それを確認し、再び歩き出す奥中。地図を確認して歩き出すが、地図を見ていたため足元に
気付かず、空き缶を階段へと蹴飛ばしてしまう。
けたたましい音を立てて階段を落ちていく空き缶。
音に気付いた女子生徒が振り向くと、体勢を低くしている奥中と目が合う。
高原(イヤホン越し)「おい、どうした」
奥中、何も言わず女子生徒と見つめ合う。
高原(イヤホン越し)「奥中、おい!」
女子生徒、大きな声を上げる。
奥中、慌てて逃げ出すが、その拍子に携帯を落としてしまう。
画面に「高原」の文字が出ているまま、携帯は床に残されてしまう。それを別の生徒が拾い
上げる。
○同・別廊下
廊下を全速力で駆け抜ける奥中。生徒数人を跳ね除けて進む。
○同・教員室
生徒が一人、校長、明世や平川がいる教員室へと入っていく。
生徒「奥中がいました!」
平川、目を見開いて生徒の方を見る。他の教員達も驚きの表情を浮かべた後次々と教室を飛
び出していく。
明世はポケットからキーホルダーを取り出し眺め、教員達の後を追い部屋を出る。
○同・廊下
人を掻き分けて突き進む奥中。それを追いかける生徒の一団。
奥中の前方から平川達が出てくる。
平川「奥中!」
奥中、近場にあった階段を駆け降りる。
踊り場で待ち構える集団を確認した奥中、手摺から飛び降りて、直接下の階へと着地する。
奥中、転がりなら逃走を継続。
明世の声「奥中!」
奥中、声の方を振り向くと、明世が階段の上から顔を出している。
束の間見つめ合う2人。しかし平川を始めとした、奥中を追う一団が階段の上から押し掛け
てくる。
人混みに押し出される形で、明世、バランスを崩し階段から転落。
一団は無我夢中で奥中を追っていたため、明世に目もくれずに階段を掛け降りる。
誰にも気付かれず、ゆっくりと落ちていく明世。平川も奥中に必死で気付いていない。
明世、落下する直前で奥中にキャッチされる。
奥中に覆い被さる形で地面に倒れ込む明世。奥中は明世の下敷きになる。
明世、顔を上げて奥中を見る。奥中も顔を上げ、2人の視線が交わる。
追手が迫っていることに気付いた奥中、明世を優しく自身の上から降ろすと、素早く立ち上
がって走り出そうとする。
その瞬間奥中は痛みで顔をしかめる。屈み込んで右足を触り確認する奥中。
明世、その姿を心配そうに見守る。
明世「ねえ、奥中」
明世が声を掛けたところで、平川達が追い付き、奥中に突進してくる。
生徒に捕まった奥中はそのまま倒れ込むが、勢いを利用し生徒を蹴り上げ、巴投げのような
形で生徒を引き離す。
別の生徒が奥中に掴みかかるが、奥中はその手を払い退けて生徒の腹部を蹴り飛ばす。
蹴られた生徒は後方に吹っ飛び、後続の生徒、平川に当たる。
一瞬の隙を逃さず、奥中は足を引き摺りながら近場の扉から外に逃げる。それを追いかける
生徒達。
平川、自分に寄りかかっている生徒を突き飛ばし、扉を見る。そのあと座り込んでいる明世
を睨み付ける。
女生徒が一人、平川に近付いてくる。
女生徒「平川先生、これ、、、」
女子生徒から何かを手渡される平川。平川、視線を落とすと。それが奥中の落携帯だという
ことが 分かる。
画面を進めると、通話履歴に高原という文字が残っている。それを見てほくそ笑む平川。
○同・外階段
北浦とその取り巻き達が外で集まり、深刻な顔で話し込んでいる。
取り巻きA「やつはどこにむかってるんだ?」
北浦「方向から考えると、ビデオ室だろうな」
取り巻きB「本物のビデオは消してあるのか?元の証拠を押されられたら」
北浦、取り巻きBの胸ぐらを掴み、顔を自分の顔にグッと寄せる。
北浦「うるせえんだよ。殺すぞ」
北浦、手を離して壁にもたれかかる。
北浦「手は打ってある。あいつがどこに行こうが関係ない。校内全部が敵なんだ。今度こそ思い知
らせてやる」
○守衛室
ガードマンの平田平蔵(62)、室内からボケッと外を眺めている。
机の下のラジオから伸びたイヤホンは平田の耳へと伝わっているが、外からは見えないよう
に巧みに隠されている。
机を指で叩いてリズムを取り、シンディーローパーの『タイム・アフター・タイム』を口ずさ
む平田。
突然、天井から大きな物音がする。驚く平田はイヤホンを置き、立ち上がって窓から外を覗
こうとする。
そこに、窓の上部から逆立ちのような形で奥中の顔が現れる。驚いた平田は後ろに飛び退
く。
平田「おわ!」
飛び退いた拍子に平田はイヤホンを引っ張ってしまい、それに引き摺られて床にラジオが落
ちる。
平田&奥中「あ」
× × ×
平田、壊れたラジオを膝の上に載せ、ドライバーを使って直そうとしている。
奥中「すいません」
平田「お前はほんとろくなことしないよな」
奥中、何も言い返せない。
平田「何だかまた厄介なことに巻き込まれているらしいじゃねえか」
平田、半笑いで奥中に話しかける。奥中は平田と目を合わせようとしない。
平田「友達いないからこうなるんだよ。はは」
奥中、平田の顔をようやく見る。
奥中「おじさん、防犯カメラ見してくれる?」
平田「カメラ?」
奥中「誰かが俺のフリをして偽の証拠をでっち上げたんだ。俺がしっかり映ってる動画さえあれ
ば」
奥中、ビデオデッキを探し始める。
平田「お、おい」
奥中、「旧校舎」と書いてあるデッキを見つけ、中に入っているビデオを探すが、本体が既
に抜き取られている。
奥中「おっさん、これって」
平田、それを見て誰かに電話をかける。
奥中「おっさん」
平田、何も言わずに受話器を奥中に差し出す。
奥中、受話器を受け取り、耳に当てる。
北浦の声「奥中くん?」
奥中、何も言わずに拳を握り締める。
北浦の声「そこにいると思ったよ」
○同・教員室
北浦、誰もいない教室の中に1人座り、受話器を握っている。
北浦「その様子だと、気付いたみたいだね」
奥中の声「ビデオ、どこにやった」
北浦「さあねえ」
○同・守衛室
奥中「証拠のビデオに写ってるのは誰なんだよ!」
北浦の声「僕にはわからないねえ」
奥中「何が目的なんだ」
北浦の声「目的なんて何もないよ。ゴミはゴミ箱へ。物事を正しく整理しようとしているだけさ」
奥中「ふざけるなよ」
北浦の声「怒るなら周りを見てみろよ。お前のことを信じている人間がどれくらいいる? いねえ
だろ。他人からの評価が一番分かりやすい」
奥中「お前のせいだろうが!」
北浦「怒鳴るなよ、乱暴だなあ。そうだ、別に君がここから何をするつもりかは知らないけど、1
つ大事なことを教えてあげるよ」
奥中「あ?」
誰かが殴られ、引き摺られてくる音が電話越しに聞こえる。
取り巻き(声だけ)「おら、話せ!」
息を飲む奥中。音を聞き漏らすまいと両手で受話器を強く握り締める。
高原の声「(小刻みに呼吸をしながら)おお、よう」
奥中「高原か?」
高原の声「いや、まいったなこれ」
衝撃音の後、高原のうめき声が聞こえる。
奥中「おい、大丈夫か!?おい!」
高原の声「大丈夫、だいじょう・・・・・・うっ」
鈍い音が響き、高原のうめき声が聞こえる。
北浦の声「状況は理解できた?」
奥中「おい、そいつは関係ない!やめてくれ!」
○同・教員室
北浦「まだ分かってないのか。お前は指図できる立場にいないんだ」
奥中の声「ふざけるなよ!」
北浦「それともう一つ。名前は何て言ったかな。ああ、そうだ。畑明世」
○同・守衛室
名前を聞いた奥中、目を見開く。
奥中「お前、どうして、、、」
北浦「大事な彼女を酷い目にあわせあくないだろう?」
○奥中家・外観(回想)
6歳頃の奥中と明世。奥中は車に乗って出て行く。
それを見送る明世。
奥中は窓から顔を出し、明世に向かって手を振る。
○中学校・校内廊下(回想)
多数の生徒がたむろする中、すれ違う中学生の奥中と明世。
明世、振り返り奥中に声を掛けようとするが、奥中はそのまま振り向かずに歩き続ける。
○同・守衛室
奥中、1度受話器を耳から離して黙り込む。其の様子を背後から静かに見守る平田。
奥中、息を吐いてから、再び受話器を戻す。
奥中「、、、何をすれば良い?」
北浦の声「体育館に来いよ。そこで自分の罪を認めるんだ」
奥中「認めるったって、おれは」
北浦の声「(遮る様に)言ったよな?お前は指図できる立場にいない。何をどうしようが関係ない
が、仲間のことを考えてから動いた方がいいんじゃないか?」
奥中「おい!、、、」
受話器を乱暴に置く音が聞こえ、終了を告げる電子音が鳴り出す。
奥中、受話器を投げ捨て、叫ぶ。
奥中「くそったれが!」
その様子を何も言わずに見ている平田。
奥中は一通り叫び終わったあと、守衛室を出ようとする。
平田「どこに行くんだ、おい」
奥中はそれに答えず、そのまま出ていく。
窓越しに奥中に声をかける平田。
平田「おい!奥中!」
奥中、足を止めずに歩き続ける。
平田「周りの言いなりになるんじゃねえぞ!」
奥中、平田の言葉で足を一瞬止めるが、再び歩き出す。
○同・校庭
誰もいない校庭を一人歩く奥中。
体育館に近づくにつれて人が徐々に増えていき、奥中の後ろを付いていくように。
○同・体育館・外観
体育館前には多くの学生が待ち構えている。
奥中は、見物客の顔を見ながらゆっくりと進んでいく。
○同・体育館・館内
館内へと進む奥中。
見物客で2階まで埋め尽くされている場内。生徒だけではなく教師陣も集められ、盛り上が
る生徒を落ち着かせようとしている。
生徒達は現れた奥中に対して言葉にならないヤジを浴びせまくる。
生徒から投げつけられた紙くずが頭に当たる奥中。
館の中心には、北浦とその取り巻き3人、平川、その他教師陣が立っている。その様子を2
階から見ている明代。
北浦はニヤニヤしながら奥中を見る。奥中は他の教師には目もくれず、まっすぐ北浦を睨み
付ける。
北浦「もう正直に白状したらどうだ!」
奥中、何も言わずに立ち尽くす。
平川「なんだその目は! お前自分が何をしたか分かっているのか!」
北浦、2階にいる明世に目線をやる。奥中はその目線を追い、明世を見つける。
明世の背後には北浦の取り巻きのうち1人が立っている。
奥中、拳を握り締めるが、ニタつく北浦の顔を見てその手を緩める。その瞬間平川が奥中を
殴り付ける。奥中は吹き飛ぶ。
教師B「平川先生!」
平川「こいつは犯罪者だ!」
奥中、起き上がろうとすると、周りを囲んでいた生徒に押し出され、再び平川たちの方に。
今度は取り巻きに殴られ、蹴られる。2階にいた明世はそれを見て走り出すが、取り巻きに
押さえつけられ、動けなくなる。
体育館の中心で殴られ続ける奥中。
正田の声「おい!」
正田、体育館の中央、倒れ込む奥中の側に駆け寄り、
正田「あんたら、何してるんだ!!」
平川と取り巻き、暴行を止め離れる。
正田、周りを睨みつける。
奥中は血を流しながら正田に介抱される。
明世、駆け出す。
〇同・保健室
奥中と高原が運び込まれてくる。
自身のベッドのカーテンをめくり、その様子を心配そうに見つめる真梨子。
○体育館・館内
生徒が全員館から出ていく。その中で1人残る明世。
○同・教室内
生徒が席に戻った教室内に校内放送が流れる。
女子生徒(スピーカー越しに)「以上により、次期生徒会会長は北浦圭吾君に決定しました」
教室から拍手が起こる。
○同・廊下
各教室から拍手が沸き起こる。
○同・教員室
北浦か教員たちに祝福されている。皆と握手をしている北浦。
○同・校長室
正田、田中と山田、平川を睨みつけている。
正田「あんたら、気は確かか? 今は昭和じゃないんだぞ! 自分達の生徒を殴りつけるなんて」
平川「お宅には関係のない話だ」
正田「あの子の親にも同じことが言えるのか!?」
平川、言い返そうとするが、田中が手で遮る。
田中「正田さんの仰ることももっともだ。彼の行動は看過できるものではない。奥中君のご両親に
もお伝えします。ただ、我が校の問題はできるだけ身内で処理したい。分かって頂けますな?」
正田「そんなこと」
山田「貴方、以前も我が校で起きた不慮な事故をご担当下さっていましたね。貴方の娘さん」
正田、顔色を変える。
山田「あの時は随分と引っ掻き回して下さった。失礼ですが、そんな貴方にまた調査をする、なん
と言いますか、権利がおありで?」
正田、山田を睨みつける。
○同・屋上
包帯を巻いている高原、座り込んで窓から漏れる拍手の音を聞いている。
○同・講堂
生徒達が集まっている。
舞台袖では、北浦がスピーチ原稿を手に座っている。教師陣に声をかけられ、笑顔で返して
いる北浦。
○同・講堂・舞台裏
舞台係の生徒達が準備中。北浦が教師達と談笑している。
○同・講堂
生徒達、ほぼ全員着席。いくつか席が空いている。
騒がしくしている生徒達。
○同・講堂・舞台裏
係、合図して幕をあげる装置のボタンを押す。
○同・講堂
舞台上の幕が上がり、生徒達が静かになる。
舞台の中心にはスピーチ台が用意されている。
ナレーター「これより、新しく選出された第36代諏訪高校生徒会委員長による所信表明演説会を行
います。まずはじめに、山田副校長、よろしくお願い致します」
生徒達は完全に静かになる。
山田が袖の壇に姿を表す。
○同・校門前
パトカーが1台とまっている。
その中にいる正田と奥中。
○パトカー・車内
正田、車を出す準備をしている。
何も言わない奥中を見て、ため息をつく正田。
正田「このままで良いのか?」
奥中、正田の顔を見る。
正田、奥中に自身の手帳を見せる。
奥中、手帳に入っている正田と千春の2ショット写真を見る。
正田「何とかしようと思ったんだが、捜査から外されてな。情けない。娘も助けられず、酒に溺れ
て、嫁にも愛想つかされて」
正田、車のエンジンを止める。
正田「君、葬式のとき、千春のために怒ってくれただろ」
奥中、正田の顔を見る。
正田「俺、救われたんだよ。自分の子供がなんなことになって、真相も見つけられず、捜査も立ち行
かなくなって」
(フラッシュ)
葬式で北浦の胸ぐらを掴む奥中。
正田はその様子を見ている。
(フラッシュ終了)
正田「多分、俺だけじゃない。君の姿を見て救われている人は他にも必ずいるんだよ」
○同・廊下
講堂に続く廊下を歩く高原。
○2―A教室
1人教室に座り、キーホルダーを見ている明世。
○パトカー・車内
正田「おれはもう諦めてしまった側の人間だから、偉そうなことは言えないけど」
正田、千春の写真を見ている。
正田「君のこと、信じてくれてる人がいるんだ。その人たちの為に、何より自分のために、生きて
くれよ。出来事に引っ張られちゃだめだ」
○同・講堂
山田「えー皆さんこんにちは。今日は穏やかな1日とはいきませんでしたが、皆さんのお陰で何と
か新しい委員長を迎えることが出来ました。それでは、早速ご登場いただきましょう。第36代生
徒会委員長、北浦圭吾君です」
北浦、舞台上に出てくる。
会場中から拍手が巻き起こる。
北浦、マイクに近づき話だそうとするが、生徒のうちの1人、拍手をやめようとしない。
北浦、周りの教師があたりを見回すと、高原会場後方で立ち上がり、大きな拍手を続けてい
る。
高原、そのまま拍手をしながら、舞台上に近づいてくる。
平川、前に出て、
平川「止まれ!」
高原、そのまま歩き続ける。
平川、他の教師達と共に高原を押さえつける。
高原、北浦を睨みつけ、
高原「満足か!? 自分より下の人間を見下して偽の人気を集めて!!」
北浦、笑顔を崩さずに高原を見据える。
高原「何でもてめえの思い通りに行くってか。何様のつもりだ!」
高原、舞台前まで近づいてくる。
周りの生徒、教師が立ち上がり、舞台上に登ろうとする高原を止める。
それを意に介さず進み続ける高原、教師陣を引き摺りながら壇上に上がる。
北浦まで後一歩のところまで近づく高原。
北浦は一歩も動かず、高原を睨む。
高原「何でも自分の思い通りになると思うなよ」
火災報知器のサイレンが鳴り響く。
高原と北浦、あたりを見渡す。
混乱する講堂。
○同・廊下
火災報知器の緊急ボタンの前から、足早に去る明世。
○同・講堂
教師陣、報知器のサイレンに気を取られている。
高原、その隙に逃げ出す。
北浦、それを目で追う。
平川「おい、止まれ!」
走り抜ける高原。
騒ぎ始める生徒達。
平川「動くな、お前ら!」
生徒達は我先に行動から出て行く。
○同・教員室
誰もいない教員室。
明世が書類を漁っている。
「2―B出席簿」と書かれた冊子を手に取り、ページを捲る明世。
ページの中で、日向義が3月7日に遅刻していることを知る。
冊子を投げ捨て、走り出す明世。
○道路
走っている奥中。
○パトカー内(回想)
正田「いいか、今回の事件は誰も信用できない。大事なのは証拠を押さえることだ。それがほんと
かどうかであれ、な」
○道路
走っている奥中。
正田の声「君が映っている映像が消されてたんだろ? なら必ずそれは残っている」
奥中、校門に到着する。
○諏訪高校・校門
生徒達が次々と駆け足で出てくる。
奥中、すれ違う生徒達に目を遣る。
校舎に目をやり、走り出す。
○同・廊下
明世、生徒達に混じり走っている。
「コスプレ部」と書いてあるボードが貼ってある扉の前で止まる。
勢いよく扉を開ける明世。
○同・コスプレ部屋内
金髪のカツラを付けている日向、明世の登場に驚いて、手を止めて明世を見る。その姿は奥
中にそっくり。
明世「あんた、私と一緒にきて」
○パトカー・車内
無線の周波数を弄る正田。
無線が騒がしくなってくる。
無線の声A「諏訪高校周辺から通報あり」
無線の声B「了解、3号車急行します」
無線を切る正田、車から降りる。
○諏訪高校・校門
パトカーから降りる正田。
校門前から、車道を眺める。
サイレンの音が近づいてくる。
○同・焼却炉前
奥中、走ってくる。
北浦が何かを燃やしている。
奥中が目を凝らすと、燃やされているのはビデオデッキ。
奥中「そ、それ」
田中「あや、何かありましたか?」
奥中、ビデオデッキを指差し、
奥中「それです! あいつが燃やそうとしているのが証拠です! おれは無実だ!」
田中、北浦を見て、
田中「北浦くん。それは本当ですか?」
北浦、何も言わない。
田中「そうですか、では」
田中、奥中の方を見て広角を上げながら、
田中「燃やすしかないですねえ」
奥中「おい、どういう」
北浦の声「見ての通りだよ」
北浦の取り巻き、校内から出てくる。
奥中「てめえ、いつまでこんな真似を」
北浦「こんな真似? それはこっちのセリフだよ。一体誰がお前を信じるっていうんだ」
取り巻きは笑う。
田中もニヤリと意地悪そうな笑顔を浮かべる。
平川「あんな目にあって、お前も高原も良くやるよ、本当。まあ、当の高原はどこかへ逃げたけど
な」
奥中、拳を握る。
北浦「クズはクズなりに、縮こまって生きとけよ」
奥中、北浦に向かって駆け出すが、取り巻きが奥中を抑え込む。
焼却炉裏に隠れていた高原、飛び出てくる。
取り巻きの後ろで笑っている北浦、背後から駆け寄ってきた高原に殴られる。
取り巻き、高原を抑えにかかる。
それに反抗する高原、奥中と取っ組み合いに。
○同・保健室前
扉の前で仁王立ちしている明世。
1つ呼吸して扉を開ける。
○同・保健室内
カーテンで囲われているベッドの前で、平川が座っている。
平川「畑、何の」
平川が話し終わる前に、股間を思い切り蹴り上げる明世。
平川は悶絶し、地面に倒れ込む。
明世は平川を踏みつけて乗り越え、カーテンを開ける。
ベッドの上には真梨子がいる。
対峙する真梨子と明世。
明世「もうまだるっこしいのはやめ。奥中は本当にあの場にいたの?」
真梨子「いたよ。何度も言ってる。私は奥中に襲われた。写真にもあるでしょ?」
明世、深呼吸をしてから、真梨子に向き合う。
明世「あなたの言葉に、人の人生がかかってるの。もう一度聞く。奥中は本当にあなたを襲った
の?」
真梨子「だから」
明世、真梨子の胸ぐらを掴む。
明世「嘘ついてたら許さない」
明世の背後から物音がして、誰かが入って来る。
真梨子、目を見開く。
○同・校門前
正田のタクシーにより、校門が塞がれている。
そこに警官が4、5人押しかけ、校内に入ろうとするが、正田がそれを食い止めている。
警官A「正田さん、何の真似ですか!」
正田「もう少し待ってくれ!」
警官B「そこをどけ!」
正田、パトカーの上で警官隊と揉み合う。
正田「くっそー!」
大きな音が聞こえ、警官達が背後を見る。
背後の校庭で、奥中と高原が校舎の窓から投げ出され、校庭に落ちる。
○同・校庭
奥中と高原、血塗れでうずくまっている。
ゆっくりとにじみよる田中、北浦とその取り巻き。
取り巻きの1人が襟を直す。
取り巻き達の服にも血が少しついている。
田中、警官たちに向かって、
田中「お巡りさん! ここにお探しの犯人がいます」
警官達、顔を見合わせる。
警官A「我々は、事態を治めにきただけですです」
北浦「それならこれが解決策でしょう。話も知っているはずだ。こいつは犯罪者で、人を傷つけ
た」
正田「どこに証拠がるんだ!」
田中「警察官ともあろうものが、犯人に肩入れするんですか? 証拠はお見せしたはずです。被害
者を襲う犯人の写真をね」
北浦、画像がプリントアウトされたものを警官に見せる。
北浦、カバン、ノートなど証拠品が入った透明のバッグを見せながら、
北浦「その他にもたっぷり」
正田「それが本人のものだってのがどこに」
警官達、正田の手に手錠をかける。
正田「何を!」
警官B「公務執行妨害だ」
正田「おい!」
警官達、正田を突き飛ばし、奥中と高原の方へ進む。
正田「おい、止めろ! 止まれ!」
警官達、奥中の側まで近寄る。
奥中は体を起こし、警官隊を見上げる。
奥中を囲む警官達。
奥中は諦めたように首を振り、下を向く。
それを横目で眺める高原。
警官達は奥中を起き上がらせ、手錠をかけようとする。
明世の声「待って!」
明世、真梨子を伴って校舎から出て来る。
明世「待って下さい」
警官達、北浦、田中、明世を見る。
明世、小さく深呼吸。
明世、真梨子を小突いて前に出す。
明世「あんたを襲ったのは誰?」
北浦「何を今更」
明世「黙れ!」
びくりとする北浦。
明世「もう一度聞きます。誰があなたを襲ったの?」
真梨子、恐る恐る北浦を指差す。
北浦を始めとした一同、真梨子を見る。
田中「そんな」
北浦、顔を歪める。
北浦「何を今更! 証拠だってそろってるんだぞ!」
明世「襲われたのは貴方じゃないでしょ?」
北浦、明世を睨む。
警官A「高梨さん、あなたは奥中覚に襲われた訳ではないんですね?」
真梨子、うなずく。
天を仰ぐ田中。
警官から手を離され、立ち上がる奥中。
警官達は北浦に近づく。
警官A「事情を聞きたい。ご同行を」
北浦、警官隊とともにパトカーへと向かう。
奥中、正田に背中を押され、背後のパトカーに乗る。
それを見送る高原、真梨子、明世。
高原、明世の横に近付き、
高原「何をした?」
明世、目を合わせずに、
明世「モノの見方を変えたのよ」
真梨子、校庭に座り込んで泣いている。
○T「2週間後」
○諏訪高校・校門
『仰げば尊し』が流れる。「第25回卒業式」と書かれた看板が立て掛けられている。
○同・教室内
生徒達の鞄が机の上に置かれている。一つだけ鞄がない机があり、「北浦圭吾」と書かれた
ネームプレートが置かれている。
机は酷く落書きされている。
○同・講堂
全校生徒が集まり、起立して『仰げば尊し』を歌い上げている。壇上には指揮者がいる。
歌が終わり、指揮者が壇上から降りる。
教頭「続きまして、在校生送辞です。在校生代表、次期生徒会会長、畑明世」
返事が無く、静まり返る堂内。
教頭「畑明世、畑明世!いませんか!?」
○同・屋上
悟と高原、屋上に座り込み、おにぎりを食べている。高原はタバコを吸っている。
明世「なにしてんだよ」
悟と高原、驚いて明世を振り向く。高原はタバコを隠す。
明世「もう遅いよ」
明世、笑いながら高原の手からタバコの箱を奪い、一本取り出す。口に加えて、二人の方に顔
を突き出す。
明世「ん」
奥中と高原、顔を見合わせる。
高原から手渡されたライターに奥中が火を付け、明世がくわえているタバコの元に。
奥中「吸って」
明世のタバコに火がつく。すぐにむせかえる明世。
明世「苦い」
それを見てはにかむ奥中。
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