不真面目でゴメンナサイ 日常

就活で見定められる私たちの能力。 でもそれって髪色でいとも容易く変わるものですか
奈々瀬りん@脚本家志望 6 0 0 05/20
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第一稿

人物
梶谷恵(4)(22)
梶谷理奈(5)(23)
石丸あきら(18)(36)
福永智弘(42)
梶谷まどか(41)
梶谷博之(25)

○(18年前)梶谷家・浴室 ...続きを読む
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人物
梶谷恵(4)(22)
梶谷理奈(5)(23)
石丸あきら(18)(36)
福永智弘(42)
梶谷まどか(41)
梶谷博之(25)

○(18年前)梶谷家・浴室・中
浴槽の水に顔を沈める梶谷恵(4)。
博之「だからちゃんと顔沈めろって言ってんだろうが!」
浴槽から顔を出す恵。
その恵の頭を抑えて浴室に沈めさせる梶谷博之(25)。
 × × ×
息切れしながら浴室に倒れこむ恵。
恵「絶対許さない…」

○(現在)カフェ・中
金髪の髪でスマホをいじっている恵(21)。
店に入ってくる梶谷理奈(23)。
理奈「(恵を見つけて)ちょっと!その髪、どうしたの」
恵「染めた」
理奈「染めたって…あんた、就活は」
恵「髪の色で人の能力判断するくらいならそんな企業こちらから願い下げ」
理奈「あんたねぇ…」
恵「大丈夫だよ。ちゃんと受かったから」
笑う恵。
唖然とする理奈。
恵「ほら、写メ撮ろう!」
  スマホに向かってピースする恵。
  仕方なさげにスマホに向かって笑う理奈。
  押されるシャッター。

〇街中
恵・N「この世界の情報網は早い」
  理奈と一緒に撮った写真をSNSにアップする恵。
  すぐに拡散される恵の投稿。
恵・N「悪意も善意もすぐに広まる」

〇AAブランド・オフィス・人事部
石丸「部長!大変なことが…」
  駆けこんでくる石丸あきら(36)。
  振り向く福永智弘(42)。
  スマホを見せる石丸。
  スマホには炎上した自社公式アカウント。
福永「…なんなんだこれは…」
石丸「あの、こないだの新卒が大変なことを…」
  そういって投稿を見せる石丸。
  そこには「入社試験が黒髪なんてもう時代遅れでしょ」という内容と一緒に会社の前で撮られた金髪写真の恵の投稿。
石丸「大手スーツ会社がギャルを雇ったと炎上です」
福永「彼女は」
石丸「今メールで呼び出しを」
福永「何でこんなものを…」
  頭を抱える福永。

○AAブランド・小会議室・中
恵「なんですか。話って」
  派手な金髪スーツ姿で座る恵。
顔を見合わせる石丸と福永。
福永「いや…そのだね…」
恵「はい」
石丸「…本当にその髪の毛で入社する気かい」
恵「(キョトンとして)は?」
福永「面接に来てもらってあれなんだけど、弊社はアパレル業界といえど、髪色は規定の色というものがあってだね…」
恵「規定の色?」
石丸「会社は学生と違うんだよ」
髪色のサンプルを取り出す石丸。
石丸「うちはこの2番目の髪色までしか許可してないんだ」
焦げ茶ぽい髪色を指差す石丸。
サンプルをじっと見る恵。
恵「…私、御社のキャッチコピー好きなんです」
福永「キャッチコピー?」
恵「振り返るな。なりたい自分になれ。かっこいいって尊敬してて」
福永「…それはありがとうございます」
恵「でも御社は社員の個性を否定するんですか」
福永「そういうことでは」
恵「今の世の中、就職活動に個性はありません。同じ服同じ髪型、同じような受け答えの仕方でちょっと秀でてる人が採用される、そんなものだと思いました。比べてSNSは個性。私は御社を馬鹿にもネタにもしてないしむしろ素晴らしいと褒め称えている。なのに何で呼び出されるんですか」
石丸「それは一基準として…」
恵「それにこないだしっかり内定通告いただきましたがそれもよく調べもせず出したってことですか」
福永「だからね…」
唖然として顔を見合わせる石丸と福永。
恵「この会社で営業するのは私の夢でした。自分が好きになったキャッチコピーの会社で、自分が好きな服を営業する。最高だと思ってました。それも個性を出すと許されないんですね」
  困ったように顔を見合わせる石丸と福永。
  頭を下げる恵。
恵「(顔を上げて、前を見据えて)私、やめる気はないので」
 
〇同・エレベーター・中
福永「…どう思う?」
  恵の資料を見ている福永。
石丸「僕的には意見をしっかり持っていていい子だと思いますが…」
福永「問題は髪の色だよなあ…」
  難しい顔で悩む福永。
  無言の石丸。

○梶谷家・中(夜)
理奈「あんたそれ、マジで言ったの」
恵「言った。むかついたから」
恵の前には大量のお酒。
ため息をつく理奈。
恵「だからって配属が営業から事務になるかもって差別じゃない?面接受けたの営業なのに!」
理奈「そりゃあんた、営業職なんてイメージめっちゃ大事だから」
恵「金髪だとイメージ悪いの」
理奈「そうじゃなくて会社のイメージがね。首にならないだけましよ」
恵「まだ入社してない」
理奈「じゃあ内定取り消し」
恵「…なんか楽しんでない?」
理奈「楽しんでないわよ。ただこんな身近に面白い人がいたなんてと思っているだけ」
恵「絶対楽しんでるでしょ」
  つまらなさそうに顔をそらす恵。
恵「お母さんも、お父さんの言うことばっか聞いてる人だった」
理奈「…」
恵「私、そういうのほんとに嫌だから。それに気になることもあるんだよねえ」
理奈「気になること?」 
  振動する恵のスマホ。
恵「こんな時間に誰だろう」
  スマホを見る恵。
  電話に出る恵。
恵「はい…え?」
  顔色が変わる恵。
恵「石丸さん…?」
石丸の声「今からちょっと出てこれませんか」
  理奈を見る恵。
恵「はあ…」

〇喫茶店・中(深夜)
喫茶店に入ってくる恵。
  窓側の席に座っている石丸。
石丸「すみません。呼び出して」
  石丸の前に座る恵。
  首を振る。
恵「私もお話したいことあったので」
石丸「こんな時間業務外ですよね。でも早急に共有したいことがありまして」
恵「お兄ちゃん」
石丸「え…」
恵「覚えてない?私。恵だよ」
石丸「…」
恵「ずっと探してた」
石丸「…」
恵「正確にはあなたが家出してから」
  こぶしを握り締める恵。
恵「あの会社で働いてたなんて、びっくりだよ」
  石丸を見る恵。
恵「名字も変えて…今までどこに行ってたの。お兄ちゃん」
  恵から顔をそらす石丸。

〇(回想)(18年前)梶谷家・廊下
  廊下からリビングを除いている恵。
  博之に詰め寄っているあきら(18)。
あきらの声「あんなのあんまりじゃないか!」
博之の声「あいつが水泳できないっていうから指導してたんだよ」
あきらの声「まだ4歳だぞ」
博之の声「でも母さんも水泳できたほうがいいと思うだろ」
まどかの声「…そうね」
  ドアの前で崩れ落ちる恵。
  恵の肩を持つ理奈(5)。

〇(現在)元の喫茶店・中(夜)
石丸「俺はあの時お前を守れなかった」
恵「そんなことない。守ろうとしてくれたじゃない」
石丸「…きれいごとだな。守ろうとしたなんて結果、守れなかったら何もしてないと同義語なんだよ。だから」
  恵をじっと見つめる石丸。
石丸「ここにある事実は一つ。俺はお前のお兄さんじゃないんです。すみません」
  頭を下げる石丸。
恵「…そうですか」
石丸「それで今日呼び出した理由なんですけど」
恵「…」
  視線を落としたままうわの空の恵。
石丸「…ちょっと、大丈夫ですか」
恵「あ、あの…」
石丸「具合悪いようであれば、次の機会に」
恵「大丈夫です」
石丸「じゃあ本題に」
  と話を切り出す石丸。
  しかしながら恵はいまいち話に身が入っていない。

〇梶谷家・リビング・中(夜)
  缶ビールで晩酌している理奈。
  帰ってくるなりベッドに倒れこむ恵。
理奈「ちょっと…何」
恵「…お兄ちゃんだった」
理奈「え?」
恵「…お兄ちゃんだったんだよ。私の面接官」

〇石丸家・リビング・中(夜)
  部屋に入り電気をつける石丸。
  何もない室内。
まどかの声「おかえり」
石丸「…何でここに」
  薄暗闇の中から出てくる梶谷まどか(41)。
まどか「あの子、今度あんたの会社に入るんだろ」
石丸「あの子?」
まどか「恵のことだよ。理奈から連絡あったんだ。全く、親の金で大学行っといて今度は親孝行もせずいい会社入ろうとするとはあの子もとんだ親不孝者だよね」
石丸「母さん」
まどか「でも、名字変えたあんたも同罪か。兄弟の中で親孝行なのは理奈だけね」
  石丸に詰め寄るまどか。
まどか「私、お父さんにどんな理不尽を言われても耐えてきたわ」
石丸「母さんが頑張ってたのは知ってたよ」
まどか「それなのにあんたと恵はなんて自由奔放なの。親不孝にもほどがあるわ」
  「信じられない」というようにまどかを見つめ返す石丸。
石丸「…本気で言ってんのか」
まどか「私はいつでも本気よ」
石丸「…もう来ないでくれ」
  まどかを追い出す石丸。
  玄関から外に追いやられるまどか。

〇AAブランド・オフィス・中
福永「は?今なんて言った?」
石丸「だから金髪の彼女、内定継続しましょう」
  真剣な顔の石丸。
  福永、あきれたようにため息をつく。
福永「いやいやそんなことしたら、上がだな…」
石丸「説き伏せてください。福永さんの仕事でしょ」
福永「(考え込んで)…わかった。だが、条件がある」

〇同・屋上
  タバコを吸っている石丸。
まどかの声「親不孝にもほどがあるわ」
  煙を吐き出す石丸。
石丸「俺は、親不孝かもしれないな…」

〇梶谷家・中(夜)
  酎ハイを飲んでいる恵。
理奈「ちょっと。飲みすぎじゃない」
恵「別にそんなことないよ」
  そういって床に寝転ぶ恵。
理奈「ちょっと…」
  恵を起こす理奈。
理奈「そんなやさぐれるなら髪の毛、黒にすればいいのに」
恵「(寝言で)…私、お母さんのようにはなりたくないの」
理奈「(恵を抱えながら)…」
  テーブルの上で鳴る理奈のスマホ。
  件名には「お母さん」の文字。

〇AAブランド・体育館・会場
T「入社式」
  金髪にリクルートスーツを決めている恵。
  恵の派手な金髪に目を向ける新卒たち。
恵「…」
石丸の声「おい!」
  振り向く恵。
  背後の入場ドアの前で手を振っている石丸。
  ×  ×  ×
恵「何」
石丸「どうですか。気まずくないですか」
恵「それ聞く?」
石丸「まあ、ちょっとね」
恵「…あの、もう始まるんだけど。用事ないなら戻るよ」
  そういって中に戻っていく恵。
  何とも言えず恵の背中を見つめる石丸。
  ×  ×  ×
  席に着く恵。
  富岡吉次(65)がすでに壇上に登っている。
富岡「新入生の皆さん、入社、おめでとうございます」
  富岡を見る恵。
富岡「えー、フレッシュで新しい世代の皆さんにはぜひとも活躍していただきたい。そう思う次第でございますが、ルールは守っていただきたい。特に君」
  富岡の視線の先には恵。
  富岡の視線をたどって恵を振り返る新入生たち。
恵「…は?」
  離れたところでその風景を見ている石丸。
石丸「(頭を抱えて)…このくだりほんとに入れたのかよあのじじい」
富岡「君は、そんな髪型でこの式に出席するなんてどういう心境なのかね」
恵「どういう心境って…」
富岡「当社は金髪をコンプライアンスとして許してはいない。そのほかのまじめな社員の悪影響になる前にきちんと自分のことを考えるべきだ」
  こぶしを握り締める恵。
石丸「俺もあいつも素直じゃないもんな」
  苦笑いする石丸。
  壇上に上がっていく恵。
恵「トップが社員を大事にできない企業はブラックだと思います」
富岡「なんなんだ。こんなとこに上がってくるなんて非常識にもほどがあるぞ」
恵「だから?」
富岡「下がりたまえ」
恵「じゃあ、言わせてもらう。これ地毛だから」
富岡「は?」
恵「あんたら、私が金髪にしたと思っているみたいだけど地毛に戻しただけだから」
  唖然として言葉が出ない富岡。
恵「これでも黒髪にしろっていうの?それってただのいじめでしょ」
  笑う恵。
  拍手する石丸。
  つられて会場が盛り上がる。

〇梶谷家・中
理奈「全くなんて無茶ぶりを」
  食卓にお茶を出す理奈。
理奈「よく追い出されなかったね」
恵「個人が輝く令和の時代だから。でもほら、晴れて営業職に返り咲いて順風満帆。どうですか。この逆転劇」
理奈「別に何とも。うらやましくないわよ」
恵「ほんとはうらやましい癖に」
理奈「話があるの」
恵「何?お姉ちゃんも就活するの」
理奈「私、この家出ていく」
  理奈の言葉に固まる恵。
恵「…え」
理奈「お母さん、今独りぼっちなんだって。ほらお父さん死んじゃってから、お兄ちゃんとこいたらしいんだけど、分け合っていられなくなったって。メール来て」
恵「…一緒に暮らすの」
理奈「恵の気持ちはわかってる。でもね、お母さんはお母さんだから。どんな人でもこの世界でお母さんは一人しかいないんだよ」
恵「…本気?」
理奈「本気。ごめんね」
  そういって立ち上がる理奈。
理奈「…元気でね」
恵「…」
  顔をそむける恵。
  家を出ていく理奈。
理奈が出ていった直後、あふれ出すように泣き出す恵。
×  ×  ×
玄関のドアの前。
ドアノブをもって立ち尽くしている理奈。
部屋の中から泣き止まない恵の声。
理奈「(涙声で)泣かないで…」
  ドアに縋りつくようにしゃがみこむ理奈。

○AAブランド・営業部・中
恵「本日からお世話になります梶谷恵です。よろしくお願いします」
  頭を下げる恵。
  湧き上がる拍手。
  顔を上げたその顔は泣きはらしてはいるが満面の笑み。

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