なぜおれたちはフジロックに出れないのか 舞台

これは28歳の自称ミュージシャンが、フジロックを夢見たが、すぐに破れ、でも少しだけ幸せを得た話。
古堅元貴 31 0 0 11/22
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第一稿

ひとり芝居『なぜおれたちはフジロックに出れないのか』

登場人物
岡崎現国(28) 自称ミュージシャン

1○ 岡崎現国(28)の3.5畳の自宅

暗転状態の舞台上に ...続きを読む
「なぜおれたちはフジロックに出れないのか」(PDFファイル:348.01 KB)
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ひとり芝居『なぜおれたちはフジロックに出れないのか』

登場人物
岡崎現国(28) 自称ミュージシャン

1○ 岡崎現国(28)の3.5畳の自宅

暗転状態の舞台上に『ドクターX』に似ても似つかぬテーマ曲が流れ、田口トモロヲに似ても似つかぬ声のナレーターが入る。

N「フジロック。毎年夏に山梨県富士天神山スキー場で開催されている日本最大級のロック・フェス。毎年国内外200組以上のミュージシャンが集い、過去には、レッドホットチリペッパーズ、オアシス、コールドプレイ、ボブ・ディランも参戦するなど世界的ミュージシャンも参加している。
そしてこの暗転板付き状態から照明切り替えを待っているフリーランス、いやフリーターの男。勢いと奇抜な見た目だけのバンドマンを嫌い、クソつまんないことを言ってもルックスとポジションだけで、ひな壇芸人に助けてもらえるアイドルを嫌い、自分の才能に過信し、何が起こっても時代と世間のせいだと考える事が出来るのが彼の武器だ。そんな凡人は、今年もフジロック出演を夢見ていた」

ナレーター中に照明が付き始めると、舞台上には男・岡崎現国(28)。不潔な部屋でオンラインゲームをしている。

現国「(画面に向かって)いけっ!そうだっ!撃て、撃てよ!そう。・・・・いまっ!(オンライン相手に)おい何やってんだよ!『お袋の手土産』はいま使えよ!このタイミングでそのアイテム使わないとか尋常じゃないよ!ビックリ仰天、仰天二ュ―ス、ニュース23だよ!
・・・おまえ!村人全員に話しかけてる暇があったら、アイテム探してこいよ!あのな!RPGに出てくる村人の9割は目の前が森なのに「この先は森じゃ」的な分かり切った忠告しかしないんだから!精査しろよ!お前みたいな集団を乱す奴が、社会の循環を悪くしてんだよ!
何度も言うが、おまえらはおれの言うとおりに動けばいいの!なにが共に闘いましょうだ?戦友だ?オンラインこそ本当のコミュニティだ?おまえらはおれの駒として、おれの思うように動けばいいんだ!おれが誰よりも課金してるんだから!」

すると大爆破の音!画面からゲームオーバーの声!

現国「(それに対し)くぁ嗚呼アアーーーーー!!」

と叫び、ゲーム機を投げる(投げる方向にはゲーム機専用的当てみたいなものがあり、見事真ん中に的中)。うなだれている現国。するとスマホにツイッターの通知音。現国、スマホを見ると(舞台上にツイッター画面が照らし出され)

ツイッター画面「今年もフジ口っク出演決まりました!今年も夏より暑くしてやるぜっ!大清水飛大」

現国、スクロールすると

ツイッター画面「素敵な夏、みんなと共有したいなー#フジ口っク#アイスバケツチャレンジ カ藤ミリオネア」

さらにスクロールすると、

ツイッター画面「Fuu!JI!ROCK!ヒアャヤーー!平良EDAE!」

発狂する現国!スマホを的当てに向かって投げる。

現 国「あああーーーー!くそがっ!なぜだ!なぜおれがフジ口っクに出れないんだ!こんなエセロッカーたちが出れておれが!・・・まあ今は音楽性そのものよりも、芸能事務所や音楽団体に媚びた曲で無いと売れないからな。今やレコ○ド大賞も金で買春される時代だ。
そりゃ本物のアーティストや曲は売れないで、埋没されていくわけだ。そしてそれも理解したうえで、地道にひたむきに音楽を続けている奴こそが本物のアーティストだ。そういう奴らが夏フェス、フジ口っクに出るべきなんだ!だから、おれは出るぞ!今はそりゃ世間と時代のせいで出れなくても、出てやるよ!いい曲書いてやるよ!音楽性で抜きんでてやるよ!レッチリもオアシスも超える曲書いてやるわっ!」

スマホにアラーム音。

現国「くそっ、バイトの時間だ」

電車通過音のSEとともに、舞台上は居酒屋に場面転換される。

 2○ 居酒屋

ホールで働いている現国。

現国「いらっしゃいませー。ようこそ居酒屋、1192年の宴へ!」

新規客の注文を取りに行く現国。

客(声)「(現国に)すいません。生ビール二つとあ、今グラスの方が安いのかー。じゃあグラスビール二つと、でもやっぱジョッキ飲みたいし、あ、ひとつはジョッキに戻して、軟骨の唐揚げと卵焼き、サイコロステーキ、あ、焼き加減、半分はウェルダンで、もう半分はレア目にして。とシーザーサラダ、これレタス小さく刻んじゃって、大きいと食べづらいから。あとおしぼりちょっと多めに持ってきてーー、こいつよくこぼすからさーーー」

現国「かしこまりましたーー、はいよろこんでーーー!」

別の客に呼ばれ向かう現国。

客(声)「(現国に)すいませーん。さっき注文したムニエルのホイル焼きキャンセルで、枝豆にしてーーー」

現国「(舌打ちし) はい、よろこんでー!」

別の客に呼ばれ向かう現国。

客(声)「(現国に)あのー、今日15人で予約してたんですけど、何か急にみんな来れるようになっちゃったみたいで、40人に変更できますーーー?」

現国「・・・はい、よろこんでー」

別の客に呼ばれ向かう現国。

客(声)「お兄ちゃん、この子お座敷で吐いちゃってさー」

現国「はい、よろこんでー!」

1人でホールを回していて、苛立っている現国。照明がピンスポになり、独白し出す現国。

現国「テメェらとおれの立ち位置なんて、おれがフジ口っクに出るようになったら、すぐに逆転!いやそれ以上の差となって現れるんだからな!そしてお盆の中日なのに入って来たばっかの留学生と2人で店回されるような、こんな居酒屋とっとと辞めてやるからな!」

別の客(ヤクザ)に呼ばれ向かう現国。

ヤクザ(声)「おお、兄ちゃん!ちょっと、ちょっと!!」

現国「はい、よろこんでーー」

ヤクザの方へ向かう現国。

ヤクザ(声)「お兄ちゃん、フジ口っク好きでしょ?」

現国「え?あ・・・、はい。そうです・・よ。よく分かりましたね。アイライクフジ口っク」

ヤクザ(声)「いいね。じつはさ、今度ウチの事務所でフジ口っクの出演者オーディションやるんだけど来ない?お兄さん才能あるからさー」

現国「え?・・・フジ口っクのオーデション?」

ヤクザ(声)「そうそう」

現国「あなたちの?・・・事務所?・・・で?」

ヤクザ(声)「そうって言ってんだろぉお!」

現国「・・え、あ・・・嘘を付かないで頂きたい!あなたのような方々がフジ口っクに関われるわけがない!」

ヤクザ(声)「古いなー。夏フェスの事を何もわかっちゃいない!今やフェスはヤクザと蜜月関係だ。夏フェスとヤクザは太陽と月なんだよ」

「あくまでも主観です」のテロップ入る。

現国「( 笑い出し) ははっ!いきなり居酒屋でつまみの一つも頼まずに、フジ口っクのオーディションをやってる?そして挙げ句には、夏フェスとヤクザは太陽と月なんて言われて、信用するわけないでしょ!フジ口っクは何よりも健全で夢のある場所なんですよ!五反田の路地裏よりも!日本ボクシング連盟よりも!」

ヤクザ(声)「兄ちゃん。自分の夢や目標の場所は、何があってもきれい世界だと信じることは大切だ。でもな、目の前に提示された事実を一つずつ受け止める事も大切だ」

現国「は?じゃあ受け止められるようなリアリズムのある事実を僕に、ここで教えて下さいよ!」

ヤクザ(声)「・・・わかった。君が受け止められるリアリズムを教えてあげよう。このオーディション、審査員として・・・・・大友康平さん来るよ」

驚愕する現国。

現国「・・・HOUND DOGのですか?」

ヤクザ(声)「それ以外の大友康平っているか?」

現国「・・・・・・・・・いないです」

SEとともに、舞台転換。ヤクザ事務所に転換されていく。

 

3○ ヤクザ事務所・オーディション会場

現国、舞台中央にマイクを持ち立っている。

渡辺美里さんの『My Revolution』に似ても似つかぬ曲のイントロが流れ、歌い始める現国。サビの途中でヤクザが止める。

ヤクザ(声)「はいはい、もう大丈夫。ありがとうー」

現国「・・・あの、まだこっからなんですけど」

ヤクザ(声)「いや、もう分かったから十分だよー。これピッチとか、歌詞を名古屋弁にしてるけど渡辺美里のマイレボリューションだよねー」

現国「・・・まだ納得いく曲が作れなくて・・・」

ヤクザ(声)「まず1曲作ろうよ。どんなに時間かかってもさ。最初の1曲作る苦しさから逃げてたら、いつまでも夢だけはガストで場違いなボリュームで語ってる30代になっちゃうよ」

現国、逃げるように辺りを見渡して

現国「・・・あの、えっと・・・大友康平さんは?」

ヤクザ(声)「大友さんは急きょ、TBSでのプレバトの収録が入って、来れなくなった」

現国「そうなんですね・・・」

ヤクザ(声)「聞こう。なぜ君はフジ口っクに出たい?」

現国「フジ口っクに出る事が、昔からの夢だからです!」

ヤクザ(声)「夢ね・・・。他にも色んなフェスはある。ロックインジャパン、サマーソニック、浅草サンバカーニバル。その中でなぜフジ口っクに出たいんだ?」

現国「それは・・・なんというか・・・自分の夢がフジ口っクに出たいってことだからですっ!」

ヤクザ(声)「さっきと同じこと言ってるよ!ガラスの灰皿で殴るよ?聞きたいのはね、君のフジ口っクに出たいという想いを、私たちにも分かる君の言葉で教えてほしいってことなんだよ!」

現国「いや・・・人には良く言えないけど、自分の中にある熱いものってあるじゃないですか。」

ヤクザ(声)「あのさ。・・・・まあいいや。教えとくよ。言葉に出来ないってことは、気持ちがないって事と同じだから」

現国「・・・は?何言ってんすか・・・。おれにはありますよ!誰よりもフジ口っクに出たい気持ちが!」

ヤクザ(声)「ふっ、君みたいな奴って腐るほどいるんだよ。気持ちはあるけど、言葉や行動では表せないんですって奴。そういう奴ってスタートだけして、即自分に妥協して、辞める時には周囲や環境のせい。堅気になりたいって言ってるくせに、何も変わろうとしていないヤクザと一緒だ」

現国「・・・中途半端じゃない・・妥協もしてない。おれは・・・ミュージシャンだ!!堅気になれないヤクザと一緒にするなっ!」

ヤクザたちの怒号のSEが入り、

ヤクザ(声)「君はフジ口っクじゃなくていいんだよ!出れればロッキンでもサマソ二でも浅草サンバカーニバルでも!ただ売れて、有名になれればどこでもいいんだよ!だって君からは見えないもん!フジ口っクしかないんですっていう想いが!そりゃあそうだわ、君は規模やネームバリューだけでフジ口っクに出たいだけだもんね!」

現国「ちがう!俺は・・・俺には・・・」

ヤクザ(声)「あと君さ、勘違いしてない?ここはフジ口っクのオーディション。別のフェスと勘違いしてない?」

現国「え・・・」

現国、事務所内を見渡すと、至る所にフジロックではなく、フジ口(くち)っクオーディション会場と書かれている事に気づく。

現 国「フジ口っク?いや、俺が出たいのはフジ口っク?いや違う!フジ口っク!・・・なんで?何度口に出してもフジ口っクになってしまう・・・。俺の夢はフジ口っク・・・なんで言えないんだ?頭ではフジ口っ・・クソぉお!」

ヤクザ(声)「外面でしか見てないから、そんな事にも気づかないんだよ」

現国「う、う・・・・・あ、ああ、あああ嗚呼アアぐぎぎぅあぅあうあうヤヤやアア亜!!!」

現国の叫びと共に、舞台転換される。

 

4○ 岡崎現国(28)の3.5畳の自宅

放心状態の現国。スマホに通知音。現国、放心状態でスマホを確認すると、オーディション結果メールだ。ナレーションで読み上げる。

N「先日はフジ口っクボーカルバトルオーデションにご参加下さって、頂きなすって、ありがとうござんした。貴殿殿は審査に通過為されなすった参ったので、最終審査のご案内を致候。つきましては参加費800ユーロをバーコード決済で自宅から遠方のコンビニへお支払い下さい」

現国、スマホを室内の特製的当てに投げつける。すると、ゲーム機や食器や光熱費の払い込み用紙など、部屋内のものを次々投げつける。

現国の前には、何も置かれていない状態。ノートとボールペンを持ってくる。

歌詞を書き始める現国。

書き終えると、舞台中央にスタンドマイクを持ってきて、握る。なぜか音楽が流れ始め、歌いはじめる。


『なぜおれたちはフジロックに出れないのか』

♪ 帰省する時じいちゃん言うぜ 夢は叶うとずっと持ってた 何年もフジロックに出る事

終電逃した携帯壊れた 安室のチケット取れなかったそれでも願ってたイタ電されたアブに刺された 小室ファミリーになれなかったそれでも願ってた

 諦めかけた何回も それでもこれしかないと俺自問自答 疑問持とう 何度も思うわ

 なぜおれたちはフジロックに出れないのかああ なぜ出れないのか想いはずっとある いつだって考えてる辛いときは寝ればいい 苦しいとき逃げればいいそれでも出れないんだ フジロックは

 フェス好きの奴は苦手出てるアーティスト良く知らない洋楽聞かないけど出たい野外よりアリーナ派だけど出たいサマソ二よりも規模デカそうだから出たい出たらモテそう テレビ呼ばれそう六本木でタレントとワイワイ出来そう

 なぜおれたちはフジロックに出れないのかああなぜ出れないのかやるべきことはやってる 悔しい思いもしているなぜフジロックに出たい どうしてそんなに出たいそもそも行った事ない フジロックは

 
歌い終わる現国。ピンスポが当たる。

現国「俺はこの1曲を作って音楽を辞めた。そうして働いていた居酒屋・1192年の宴で正社員として働き始めた。少しだけ心を入れ替えて働いたら、店長や学生バイトたちとも距離が縮まり、楽しい日が増えた。皆でシフトを助け合った。
その後、俺は店長になり、さらにエリアマネージャーとなり、隣町のエリアマネージャーと経営方針を話すうちに意気投合し、結婚した。今では、子供は中学生となり、今年家族揃ってフジロックに参戦した。家族皆、初めてのフジロックだった。その日のヘッドライナーがあるアーディストだったのだが、ある曲で妻が涙を流していた。うれし涙だった。
その時、昔の色々が蘇った。そして思ったことがあった。『妻のこの顔をまた見たい』。俺は再びフジロックを目指すために、音楽を始めることにした」

おわり

「なぜおれたちはフジロックに出れないのか」(PDFファイル:348.01 KB)
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