悪友身につかず コメディ

その日の星座占いの最下位は射手座。食堂で食事をしていた森和巳(31)もその一人だった。会計時に金がないことに気づいた森は、ほんの出来心から隣の客の財布を盗んでしまう。そこから、森に次々と不運が降りかかる……
ゆう 12 0 0 01/26
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第一稿

人 物
森和巳(31)無職。
辻岡篤生(31)森の友人。

店主
アナウンサー


◯テレビ画面
   星占いのランキングが表示されている。表示に合わせてアナウン ...続きを読む
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人 物
森和巳(31)無職。
辻岡篤生(31)森の友人。

店主
アナウンサー


◯テレビ画面
   星占いのランキングが表示されている。表示に合わせてアナウンサーが話す。
アナウンサー「11位はかに座のあなた。忘れ物に注意して。そして最下位は・・・ごめんなさい、射手座のあなた!何をやってもうまくいかない1日です。ラッキーワードは『ゾロ目』……」

◯食堂・中
   テレビの星占いを見る森和巳(31)。上下ジャージ姿。
森「何をやってもうまくいかないだと?インチキ占い師め」
   そこに店主、やってきて、
店主「お客さん、お会計」
   森、テレビを見ながら、
森「まだ食ってる」
店主「何をですか?」
   机の上の丼はすでに空である。
森「……うるせえな。今払うよ」
   森、財布を取り出して見る。財布は空。
森「……」
   辻岡篤生(31)、訝しげに森を見る。森、苦笑い。辻岡、再び食事を始める。
   森、ふと辻岡の尻ポケットに財布が入っていることに気づく。
森「……」
   森、辺りを見回し、素早く辻岡の財布を抜き取り、自分のカバンにしまう。
辻岡「……森?」
   森、慌てて振り返り、
森「……いや、何でもないですよ?」
辻岡「もりっちゃん!やっぱりそうだ!」
   辻岡、森の肩を叩いて、
辻岡「俺だよ!中学の時、卓球部で一緒だった!辻岡!」
森「……あ、辻岡……」
   森、顔をひきつらせて笑う。
辻岡「久しぶりだなあ!まさかこんなとこで会うなんて!最後が中学だろ?だから(指折り数えて)16年ぶりだ!おい16年ぶりだよ!」
   と、森の肩を叩く。森、急に立ち上がる。
辻岡「……どうした?」
森「宴もたけなわだが」
辻岡「そんな冷たいこと言うなよ。どうせ暇だろ?」
森「暇じゃない。ちょっと急用があって」
辻岡「友達だろ?久しぶりにあったんだからちょっとは話そうぜ。奢るから」
森「そんなことしてもらう筋合ないんだよ。大して金持ってねえくせに」
   森、ハッとして、
森「……お前の身なり見てりゃ一発でわかる」
   森、仕方なく座り、
森「……最近はどうなんだ」
辻岡「結婚して、今は子供2人。もう可愛くてしょうがなくて。いつも財布に写真を入れて持ち歩いてんだ」
   と、辻岡、カバンに手を伸ばす。森、慌てて、
森「ああ、子供の話はまた今度にしようか!他に募る話もあるだろうからなあ!」
辻岡「え?まあいいけども」
森「そうだ、仕事は?仕事何やってんだ?」
   辻岡、笑って、
辻岡「……ここだけの話だぞ」
森「何だよ」
   辻岡、森の耳元で、
辻岡「(小声)この度警察官になりました!」
   森、反射的に立ち上がる。
辻岡「驚いただろ?」
   森、座って、
森「……驚いたよ!」
辻岡「だろ?警察手帳もちゃんと持ってる」
   と、辻岡、カバンに手を伸ばす。森、慌てて、
森「いや、仕事の話もまた今度!」
辻岡「え?何で」
森「……お前多分警察向いてないぞ」
辻岡「言ったな?それなら紋所を見せてやる」
   と、鞄に手を伸ばす、森、慌てて、
森「わざとやってんのかお前」
辻岡「何が」
森「……そうだ。トイレ行く」
   森、立ち上がり、鞄を手に取る。
辻岡「……それ要る?」

◯同・トイレ
   便器に座る森。鞄から辻岡の財布を取り出して開ける。中には千円札が一枚。
森「あの野郎……貧乏人め」
   と、お札を取り出すと、写真も一緒に出てくる。見ると、辻岡と子供二人の写真。
森「……馬鹿め」
   と、ため息をつき、お札をポケットに入れる。
森「……!」

◯同・中
   トイレから出てくる森。
辻岡「あ、もりっちゃん……」
森「(遮って)いやあ、なんかトイレに財布落ちてて。びっくりしたなあ。いやほんとびっくりした」
   森、財布を見せる。
辻岡「……俺のだ」
森「お前の忘れもんだろ。お前もおっちょこちょいだな」
   と、肩を叩く。
辻岡「……お前、トイレで何してたんだ?」
森「何が」
   と、森、トイレを見ると、ドアに「故障中」の文字。
森「……ああー!どうりで流れないと思った」
辻岡「じゃあ流してないのか?」
森「いやそもそもしてない」
辻岡「じゃあ何してたんだよ」
森「いや……あれだ。最近便秘気味で、ウォシュレットだけかましてきたんだ」
辻岡「ああ、なるほど……ケツどうやって拭いたんだよ」
森「ああー!もうやめよう、食事中のお客さんに失礼だからな。それより財布見ろ。中身が入ってない。盗まれたんだよ」
辻岡「ほんとだ。警察相手にいっぱい喰わせやがったんだな」
森「きっと俺の前にトイレに入ったやつだ。まだこの中にいるぞ!」
辻岡「よしわかった!一人ずつ調べてやる」
森「おう、絶対犯人見つけだせよ!」
辻岡「たまたまお札の番号を覚えてたのが幸いしたよ」
森「そうだな!…え?」
辻岡「え?」
森「番号?」
辻岡「お札に書いてある番号。ゾロ目だったんだよ。(他の客たちに)すみません!」
森「待った待った!」
   他の客、一斉に辻岡を見る。
辻岡「何」
森「いやいや、ここはやはり一度警察に戻ってからだな」
辻岡「でも、犯人はこん中なんだろ?」
森「…そうだな」
辻岡「だろ?じゃあ、とりあえず」
森「…うん」
辻岡「うんじゃなくて」
森「お前、俺を信用していないのか」
辻岡「そうじゃなくて、まずお前が出すことによって、みんな平等に扱ってますよっていうアピールだろ」
森「……(一同に向かって)俺は持ってない!(辻岡に)これでいいな」
辻岡「いいから早く!」
   森、お腹を押さえ、
森「……ちょっとトイレ」
辻岡「だから故障中だろ……」
森「トイレだ!トイレ!人権侵害だぞ!」

◯同・トイレ
   ドアを閉める森。
   ポケットからお札を取り出して便器に捨て、流そうとするが、詰まって流れない。
   森トイレの小窓を開け、そこからお札を捨てようとするが、網戸があって捨てられない。
森「…!」
   森、お札を口に入れて飲み込む。
森「……おえっ」
   森、お札を吐き出してむせる。

◯同・中
   えづきながら出てくる森。
辻岡「……どうした?」
   森、諦めたように濡れたしわくちゃの千円札を取り出し、
森「これ」
辻岡「…は?何これ。汚」
森「犯人は俺だ。俺がお前の金を盗んだ」
辻岡「……」
森「ほら、捕まえろ。頑張って警官になったんだ。やりがいに感じる瞬間だろ」
辻岡「森……」
森「……」
辻岡「……これも何かの縁だよ」
   辻岡、笑いながらお札を財布にしまう。
辻岡「次はちゃんと、貸してくれって言えよ」
   と、辻岡、レジに小銭を置いて店を後にする。
森「……カッコつけやがって」
   と、恥ずかしそうに笑い、店を後にしようとする。
店主「お客さん」
   森、振り返る。
店主「お会計」
(了)

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