チャーム ドラマ

おばあちゃん子な女子高生・藤林光。 平凡だけど幸せな生活を送っていたが唯一、祖母が重い病気であることが気がかりだった。 ある日、親友の遠野真実にお茶に誘われ、そこでとある新興宗教の幹部・大橋花菜と出会う。 彼女はお祈りをすれば祖母の病気も良くなると光を言葉巧みに勧誘する。 S-1グランプリ 二次審査通過作品です。
叶野 遥 17 0 0 11/09
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第一稿

登場人物
 藤林光(17)高校二年生
 藤林光(27)
 持田徹(25)サラリーマン
 持田徹(35)
 持田玲央(4)持田と光の息子
 遠野真実(17)光の親友
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登場人物
 藤林光(17)高校二年生
 藤林光(27)
 持田徹(25)サラリーマン
 持田徹(35)
 持田玲央(4)持田と光の息子
 遠野真実(17)光の親友
 遠野真実(27)
 山野絵梨佳(17)光、真実の友人
 大橋花菜(27)御剣会の幹部
 山田五十鈴(42)御剣会・翌檜本部長
 藤林光江(70)光の祖母
 藤林陽子(42)光の母
 藤林大(42)光の父
 担任(40)光のクラス担任
 時任梓(17)光の友人
 御剣会長(73)御剣会総帥
 女性信者A(17) 
 女性信者B(17) 
 都築刑事(45)
 刑事A(20代)
 女生徒(17)
 サラリーマン(39)
〇私立学園(朝)
   歴史を感じられる、古いけれどおしゃれなデザインの校舎。
   大きな正門に「私立明翌檜学園」とかかっている。

〇同・正門内(朝)
   制服に身を包んだ生徒たちがたくさん登校してきている。
   ポニーテールを揺らしながら藤林光(17)が眠そうに歩いている。
   校門前では数人の教師が立っており、生徒たちに挨拶している。
   光、背が高い山野絵梨佳(17)が校舎に向かって歩いている背中を見つける。
   光、駆け寄って絵梨佳の背中に思い切りタッチする。
光「おっはよー絵梨佳!」
絵梨佳「あーおはよう光。あれ?真実は?」
   光と絵梨佳、並んで歩き出す。
光「駅に来なかったんだよねぇ。寝坊したんじゃない?」

〇同・廊下(朝)
   光と絵梨佳、話しながら教室へと歩いていく。
絵梨佳「またぁ?」
光「ま、次の電車で来ても間に合うからいいんじゃないの」
絵梨佳「めちゃギリギリじゃん…ホント、のんびりしてるねあの子は」
光「昔からなーんも変わってないよ、真実は」

〇同・2年5組(朝)
   「2年5組」の札がかかっている教室。
   生徒たちが和気あいあいと思い思いに過ごしている。
   窓際の席に光が座り、絵梨佳が隣で話している。
   光がふと窓の外を見る。
   ショートボブの遠野真実(17)が校門を抜けて校舎まで走っているのが見える。
光「真実来た」
絵梨佳「ほんと?」
   絵梨佳が身を乗り出して窓の外を覗く。
   真実をみとめると元に戻って、
絵梨佳「ほんとだ。めちゃ焦ってた」   
光「一本早く乗れば問題ないのにね」
絵梨佳「ねー」
   教室の後ろの扉が開いて、肩で息をしながら真実が入ってくる。
   教室の前の扉が開いて、担任が入ってくる。
   自分の席に戻っていく生徒たち。
担任「出席取るぞー」
   真実、慌てて腰を低くして席まで進む。
   途中光と目が合い小さく舌を出す真実。
   光、笑って小さく手を振る。

〇同・屋上(昼)
   広々とした屋上、数人の生徒のグループが弁当を広げている。
   光、真実、絵梨佳も向かい合って弁当を持っている。 
   真実が弁当を開ける。おにぎりと卵焼きのシンプルなもの。
   光と絵梨佳の弁当はそれぞれ可愛らしく凝っている。
   絵梨佳、真実の弁当を覗いて、
絵梨佳「おかず、卵焼きだけ?」
真実「寝坊しちゃったからこれしか作れなかったの」
絵梨佳「え、真実が作ってたの」
真実「言ってなかったっけ?そうだよ」
光「結構上手だよね、真実」
真実「もうプロ級よ、プロ級」
絵梨佳「へー、意外と女子力高かったんだ」
真実「意外と、て何よ、意外とって」
絵梨佳「私なんて、みーんなお母さんに任せっきりよ」
光「私も」
真実「私だってできればそうしたいよ」
絵梨佳「いいじゃん、花嫁修業って感じで。それよりさ、放課後買い物行かない?今日
 発売のリップ買いに行きたいんだ」
光「あーごめん、私今日はパス」
真実「おばあちゃんのとこ行くの?」
光「うん」
絵梨佳「光もマメだね~わざわざ放課後にお見舞いに行くなんて」
光「だってお父さんもお母さんも仕事忙しくてあんまり行けないし、暇な私が行けばい
 いかなって。親孝行で祖母孝行って感じ?」
絵梨佳「そんなもん?じゃあ真実は?行くよね?」
真実「ごめーん、私も先約」
絵梨佳「えー薄情なんだから二人とも!」
真実「また今度遊ぼ」
光「ごめんね」
絵梨佳「ちぇ」
   絵梨佳、唇を尖らせる。
   光と真実、顔を見合わせて苦笑い。

〇市民病院・全景(夕)
   バス停に路線バスが入ってくる。
   一番乗りで降りてくる光。

〇同・入院病棟廊下(夕)
   制服姿の光が速足で駆けていく。

〇同・病室前
   入口の札には「藤林光江」と書かれている。
   光、入口で一度止まって深呼吸。
   笑顔を作って携帯で確認。
光「おばあちゃん、きたよー」

〇同・病室
   光、病室に入る。
   藤林光江(70)がベッドごと起き上がり窓を眺めている。腕には点滴、もう片
   方の手はマヒしていて丸まっている。
   光江、ベッドサイドに来た光を見て笑顔を見せる。
光「元気だった?」
   光江、うなずく。
   光、椅子に座りながら鞄を漁る。
光「今日はねぇ、おばあちゃんの大好きなシュークリーム持ってきたんだ。食べさせて
 あげるね」
   光、鞄から取り出したミニシュークリームを袋ごと見せる。
   光江、ニコニコとうなずく。
   光、袋を開けると一つをつまみ光江の口のそばへ持っていく。
光「おばあちゃん、あーん」
   光江、ゆっくりと口を開ける。
   シュークリームを食べて、嬉しそうにうなずく。
光「美味しいのね、良かった。まだあるから」
   もう一つ摘まんで食べさせようとすると首を横に振る光江。
光「あ…もういらない?」
   光の顔がわずかに曇る。
   光、そっとミニシュークリームを袋に戻し封をする。
光「これ、冷蔵庫に入れてくるね。残ってるの、忘れちゃだめだよ?」
   光、笑顔を見せてシュークリームの袋を持って出ていく。
   光江、ニコニコと見送っている。

〇同・談話室(夕)
   光、入院者用の冷蔵庫の一つに袋を入れて再び扉を閉める。
   冷蔵庫の扉に触れたままうつむく光。
光「前は…あっという間に食べてたのにね」
   光の目に涙が滲む。慌てて拭う光。

〇光の最寄り駅・ホーム(朝)
   通勤・通学客が並んで電車を待っている。
   光、列から少し離れて壁に背中を預けている。
   ホームと携帯、改札の方を何度も見ている。
光「おっそいなぁ…」
   光、メールを打つ。
光(メール)「まだ?電車来ちゃうよ」
   すぐに返信が来る。
真実(メール)「もうちょっとで着く!待ってて!」
   光、眉間に皺を寄せながら改札を見る。
   まだ真実は来ない。
アナウンス「まもなく、3番ホームに7時13分発、快速…」
   光、アナウンスに気付いて改札を気にしながらも乗り場の列に向かう。
   鞄からお守りが落ちる。
   「ひかるへ」と刺繍がある、手作りのお守り。
   気付かず歩いていこうとする光。
   スーツ姿の持田徹(25)が拾い上げ、遠慮がちに声をかける。
持田「あの!…落としましたよ」
   光、一瞬いぶかし気な顔をするが、持田が見せるお守りを見て慌てて戻って
   くる。
光「あ、すみません…!」
   光、持田からお守りを受け取り鞄に押し込む。
持田「ひかるさん、ていうんですか」
光「は、はい」
持田「可愛い名前ですね」
   にっこり笑う持田。
   赤面して硬直する光。
   持田、我に返ったように赤面し慌てる。
持田「ご、ごめんなさい!気持ち悪いですよね、いきなりこんなこと言って…」
光「い、いえ…」
   真実が走ってくる。
真実「ひかるぅぅぅぅ」
   光、その声に気付いて振り向き、大きく手を振る。
光「もう電車来るよ!早く早く!」
   真実が追いつく。
   光、持田に会釈して真実と電車へ走っていく。
      
〇私立翌檜学園・2年5組(朝)
   絵梨佳が席で携帯をいじっている。
   光と真実が入ってくる。
光「おはよー」
真実「おはよう」
絵梨佳「おはよ。お、真実今日は早いね」
真実「私だって毎回毎回寝坊はしないよ」
光「駆け込み乗車だったけどね~」
真実「もう、それは言わないで」
   他のクラスの女子生徒が教室にやってくる。
女生徒「絵梨佳~今日の部活なんだけど」
   絵梨佳、立ち上がって女生徒の方へ走っていく。
絵梨佳「あ、うん今行く!(光と真実に)行ってくるね」
   絵梨佳を見送って、光が席に座る。真実はそのまま光に付いてくる。
真実「ねぇ光、今日放課後暇?」
光「暇だけど。何?」
真実「一緒にミスド行かない?」
光「いいよ。じゃあ絵梨佳も…」
真実「あ、ううん絵梨佳は呼ばないで」
光「なんで?」
   真実、周囲を見回してから、小声で、
真実「光に紹介したい人がいるの」
光「え、それってもしかして…!」
   光、嬉しそうに小声で
光「彼氏でもできた?」
   真実、あいまいな笑顔。
光「えーなにそれそんな人いたなんて知らなかった!絵梨佳に内緒ってのはあれね。あ
 の子おしゃべりだからなぁ。ちょっと落ち着いてからの方がいいかもしれないもんね」
   光、真実の手を握る。
光「おめでと真実!そしてありがと、紹介したいって言ってくれて!楽しみにしてるね」
真実「あ、うん…。それじゃ、放課後よろしくね」
光「了解」
   光、真実とタッチしてそれぞれ席に向かっていく。
   真実、授業の用意をしている光を黙って見つめている。

〇ドーナツショップ・全景

〇同・店内
   店内には何組か若い女性がお茶している。
   奥のボックス席に座った光と真実、ドーナツとドリンクを楽しんでいる。
   光はソワソワしている。
光「まだ来ないのかな」
真実「そろそろ来ると思う…」
   自動ドアが開く。
   光、目を輝かせてそちらを見る。
   大橋花菜(27)が入ってくる。ズボンスタイルだが、髪は長く明らかに女性。
   花菜、こちらを向いて手を振る。
   光が真実を振り返ると、真実も手を振り返している。
   花菜がこちらへ向かってくる。
   光、茫然。
花菜「ごめんね、待たせたかな」
真実「いいえ、早めに来ちゃっただけだから」
花菜「そう」
   花菜、真実の隣に座る。
光「ま、真実…まさかこの人が真実の彼…」
真実「え?」
光「う、ううんいいのよ?駄目ってわけじゃないの、私だってホラ、どっちかっていう
 とそういうの興味あるっていうかよく読む方だし?でもこうやって急に目の前に現れ
 るとなるとちょっと心の準備が…」
   花菜、豪快に笑う。
花菜「ちょっと真実ぃ、あんたどんな風に言って呼び出したわけ?超誤解しちゃってる
 じゃん」
光「え、違うんですか?」
花菜「少なくとも、恋人とかそういうのじゃないね」
光「あ、そうなんですね…。えっと、それじゃあ」
   光、真実を見る。真実、花菜を見る。
   花菜、うなずいて光に向き合う。
花菜「まず、自己紹介するね。私は大橋花菜。あなたは、藤林光さんだね」
光「は、はい」
花菜「突然だけどさ、運って信じる?」
光「運って、ついてるとかついてないとかの、アレですか」
花菜「そう、それ。宝くじとか抽選が当たる人って、運がいいって思うよね。反対に、
 偶然鳥の糞が頭に落ちてきたとか犬に追いかけられたとか、そんな人は運が悪い」
光「はあ…」
   光、説明を求めて真実を見る。
   真実はドリンクを飲んでいる。
花菜「この運って奴はさ、皆生まれつき容量が決まってるんだって。決まってるから、
 何をしたって運がいい人はいいし運が悪い人は悪いの」
光「……」
   光、居心地悪そうに話を聞きつつジュースをすする。
花菜「でもね、一つだけ運を良くする方法があるんだよ。それをやって運を貯めれば、
 どんな願いだって叶うようになるわけ」
光「どんな願いでも、ですか」
花菜「そう。私が聞いた話だと、ずっと音信不通だった人と連絡が取れたとか、株で儲
 かったとか…」
   花菜、一呼吸置く。
花菜「病気で歩けなかった人が、歩けるようになったとか」
   光の手が止まる。
   花菜の目を見る光。
花菜「気になる?」
光「でも…そんな夢みたいなこと」
花菜「夢でもないよ。実際私も願い叶ったし、沢山の人が願いを叶えてるの。自分が頑張
 れば頑張った分だけ、願いを叶えることができるんだよ。すごいことだと思わない?」
   光、うつむく。

〇市民病院・病室
   点滴をつけた光江が窓の外をぼんやり
   と眺めている。

〇ドーナツショップ・店内
   花菜と真実が光を見つめている。
   光、うつむいたまま。
光「…やったら、おばあちゃんも元気になるのかな」
花菜「すぐには難しいかもしれない。でも、あなたが努力すればきっとその思いはあな
 たの運となって、願いを叶える力になるよ」
   真実がうなずく。
真実「…実はね、私が花菜さんを紹介しようと思ったのは、そのことがあったからなの」
   光、顔を上げて真実を見つめる。
真実「光…いつも笑ってるけど、時々寂しそうにしてたから。悩んでるんでしょ?」
光「真実…」
   真実、光を見つめ返しうなずく。
   光の目に涙が浮かび、慌てて拭う。
   真実も目を潤ませている。
真実「私も悩んでることあってね、全部花菜さんに相談して、一緒に努力して、少しず
 つ解決してきてるの。あなたにも、また笑ってほしい」
光「ありがとう、真実…」
花菜「それじゃ…決まりってことでいいかな?光」
光「あ…えと…」
花菜「じゃあ行こうか。ちょうど今の時間なら、お祈りに来てる人たち多いと思うし」
   花菜、立ち上がって光の腕を引く。
光「あ、あの…」
   花菜が光を立ち上がらせ、真実がその背中を押して店を出ていく。

〇同・駐車場
   駐車場から赤のアルファアロメオ ジュリエッタが出てくる。
   運転するのは花菜、助手席に真実、後部座席に光。

〇ジュリエッタの車内
   乗り慣れない座席にソワソワしている光。
花菜「どうしたの?ソワソワしちゃって」
光「あ、いえ何かすごい車だなって」
花菜「でしょ?ずっと憧れてた車なんだ」
光「これって外車ですよね」
花菜「そ、アルファロメオ」
光「きいたことある」
真実「結構高いんでしょ」
花菜「まぁね。でも、運よくお金貯められてね、買えちゃった。一括で」
光「一括!」
真実「そうだったんですか!?」
花菜「そうだよ~言ってなかったっけ」
真実「聞いてないです!すごいなぁ花菜さん」
花菜「あなたたちも買えるようになるよ」
   花菜、得意げに笑う。

〇翌檜本部・前
   ごく普通の古ぼけた一軒家。表札には「山田」の文字。
   ジュリエッタが走って来て隣の月極駐車場に駐車する。
   花菜が降りて、続いて真実、光が降りてくる。
花菜「こっち」
   花菜が先頭に立ち、一軒家へと向かう。
   真実、光が続く。

〇同・玄関
   広めの玄関に、何足も靴が並んでいる。
   部屋の奥からは女性の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
   周囲を興味深げに見回す光。
   花菜と真実が靴を脱ぎ中へ入っていく。
   光、慌てて後に続く。

〇同・集会部屋
   広めの和室。隅に箪笥が一竿と、座布団が詰まれている。
   部屋の奥にはこじんまりとした仏壇。
   数人の女性が数人雑談している。
   花菜と真実に続いて光が入ってくる。
   花菜は部屋奥の箪笥に向かい、真実は部屋にいた同世代らしい女性信者A
   (17)・B(17)と雑談を始める。
   取り残された光、仕方なく隅に座り、周囲を見回す。
   花菜が戻ってきて紙と鉛筆を渡す。
光「これは?」
花菜「この部屋に来た人を確認する名簿用だよ。名前と住所、電話番号を書いてね。そ
 れと、これ。プレゼント」
   花菜が可愛らしいデザインの巾着袋を差し出す。
   受け取った光、中身を確認する。
   中には長めの数珠と、表紙に「御剣会清浄法典」と書かれたお経らしきもの
   が書かれた手のひらサイズの経本。
光「なんですかコレ?」
花菜「お祈りに必要な道具。心配しないで、お金はいらないから」
光「はぁ…」
   数珠を眺める光。
   人の好さそうな笑顔を湛えた山田五十鈴(42)が部屋に入ってくる。
五十鈴「花菜ちゃん新しい子来たんだって?」  
花菜「五十鈴さん、ここですここ!」
   花菜が手招きをすると、五十鈴、近づいて膝をつき光を嬉しそうに見つめる。
   距離が近く、光、戸惑う。
五十鈴「まぁ、この子がそうなのね!初めまして、山田五十鈴です。気軽に五十鈴ちゃ
 んって呼んでね!あなたのお名前は?その制服、真実ちゃんと一緒よね?可愛いわよ
 ねぇ~!私もあと20くらい若かったらきたかったわぁ」
花菜「五十鈴さん、そんなに近づくから光が引いてます」
五十鈴「あぁら、ごめんなさいね」
   五十鈴、拳一つ分ほど離れる。
花菜「光、この人がこの翌檜本部の部長の山田五十鈴さん。五十鈴さん、この子が真実
 のお友達の、藤林光ちゃん」
光「よ、よろしくお願いします」
五十鈴「光ちゃんね。覚えたわ!歓迎するわ。これから一緒に頑張っていきましょう。細
 かいこととかは花菜ちゃんが教えてくれるし、困ったときも助けてくれるからね、ど
 んどん頼りにしていいわよ」
光「は、はぁ」
   仏壇の傍に座っていた女性信者が五十鈴を呼ぶ。
女性信者「五十鈴さん、そろそろ時間です」
五十鈴「あ、はいはい今行くわ。それじゃあね、光ちゃん」
   五十鈴、立ち上がり仏壇の方へ向かう。
花菜「びっくりしたでしょ」
光「ええ、まぁ…」
花菜「あれでかなりヤリ手なんだよ、あの人」
   花菜、正座に座り直すと数珠を手にかける。
花菜「じゃあ光、お祈りのやり方を教えるね。お数珠の持ち方は、こう。ご本尊の方を向
 いて行うの。家でやる時は、大御本尊がある北東を向いて行ってね」
   光、花菜の真似をする。
花菜「朝と夕、毎日二回やるんだけど、今日はここで皆と一緒にやるから、明日の朝か
 ら家でやってみてね。お祈りのやり方は皆を見て真似してみて」
   光、うなずく。
   信者たちが続々と部屋に入ってくる。
   光の隣に真実がやってくる。
真実「私の真似してね」
光「うまくできるかな」
真実「大丈夫、簡単だから」
   信者たちが集合し、五十鈴が一番前に座る。
五十鈴「それでは夕のお祈りを始めます」
   五十鈴、経文を唱えつつ三回深く頭を下げる。
   信者たちも後に続く。
   光、慌てて真似をする。
   五十鈴、経本を開いて読み上げ始める。
   信者たちと共に光も辿々しく読み始める。

〇同・前(夕)
   信者たちが続々と帰っていく。

〇同・駐車場(夕)
   花菜のジュリエッタに花菜、真実、光が乗ろうとしている。
   隣には五十鈴が立っている。   
   花菜がジュリエッタのドアを開け、真実が後部座席に座る。
五十鈴「花菜ちゃん、ちゃんと無事に送り届けてね」
花菜「ゴールドですよ?私。任せてください」
五十鈴「光ちゃん、今日はお疲れ様。今夜はゆっくり休んで、明日からお祈り頑張って
 ね。きっと貴方の運もよくなるわ」
光「はい。それじゃ」
   光、助手席へ乗り込もうとする。
五十鈴「ああそれと」
   光、五十鈴を振り返る。
五十鈴「しばらくは、御剣会に入会したっていうこと、ご家族やお友達には内緒にして
 おいてね」
光「どうしてですか?」
五十鈴「今の世の中はたくさんの穢れや邪に満ちているわ。そして一般の人はそれを受
 け入れてしまっているの。その結果邪法に心を支配されてしまっているのね。そんな 
 人たちに、御剣会の唯一正しい活動を教えても反対されるだけ。そしてまだ始めたば
 かりのあなたではまだ運が溜まっていないから邪法に負けてしまうかもしれないでし
 ょう?」
   五十鈴の笑顔。目は笑っていない。
五十鈴「だから、貴方に運が溜まってきて邪法に負けないだけの徳を積むまでは秘密に
 していてほしいの。貴方が力を付けたら、その時にご家族を御剣会に招待してあげま
 しょう?」
光「はぁ…そんなもんですか」
五十鈴「そうよ!だから、秘密。ね?」
光「わかりました」
   五十鈴、光の頭を撫でる。
五十鈴「いい子ね!それじゃあ気を付けて」
   光が助手席に乗り込み、ジュリエッタが走り出す。
   五十鈴、車が見えなくなるまでじっと見つめている。
   五十鈴の笑顔がふっと消えて無表情になり、本部へ戻っていく。

〇藤林家・全景(夕)
   ごく普通の一軒家。玄関ポーチに花がたくさん飾ってある。
   ジュリエッタが前に停車して、光が降りてくる。
光「遠いのに送ってくれてありがとうございます」
花菜「最初の今日だけよ?次からは駅までだからね」
光「わかってます」
花菜「よし!それじゃ、おやすみ」
   真実が後部座席から顔を出して、
真実「おやすみ、光」
光「おやすみ、真実。花菜さん」
   ジュリエッタが走り去っていく。
   光、笑顔で見送って家の中に入っていく。

〇同・光の部屋(夕)
   風呂上がり、濡れた髪と寝巻姿で光が入ってくる。
   鞄の中から数珠と経本を取り出す。
   机の引き出しから可愛らしいポーチを取り出してそこに数珠と経本をしまう。
光「えっと」
   ゴミ袋を取り出して、机の引き出しを漁り始める。
   机から数珠、十字架のペンダントを取り出してゴミ袋に入れる。
   財布からおみくじを出してゴミ袋に入れる。
   鞄からお守りを二つ取り出して、一つをゴミ袋に入れる。
   もう一つの「ひかるへ」と刺繍された、手作りのお守りをジッと見つめる光。
   一瞬、光江の優しい笑顔、持田の照れた顔が浮かぶ。
   光、しばし悩んでそのまま鞄に戻し、ポーチも鞄に入れる。
   机の上の携帯が鳴る。
   見ると真実からのメール。
真実(メール)「今日はおつかれ!明日も空いてる?一緒に本部行こう♪」
   光、笑顔になる。
   「OK」のスタンプを返す。

〇私立翌檜学園・2年5組(朝)
   絵梨佳が登校してくる。
   光、真実が教室で談笑している。
絵梨佳「おっはよー光!真実!」
真実「おはよう」
光「おはよー絵梨佳」
絵梨佳「ねねちょっとこれ見て!」
   絵梨佳、机に鞄を置くと中からチケットを取り出して光と真実へ差し出す。
真実「なに?これ」
光「コンサートでも行くの?」
絵梨佳「ふふん、EXILEのドームチケット、アリーナ」
   得意げな絵梨佳。驚いて立ち上がる光、真実。
光「ええっ!すごい!取れちゃったの!?」
真実「倍率すごかったんじゃないの?」
絵梨佳「そうなんだけどね~雑誌の懸賞応募してたら当たっちゃってさ。超ラッキー!
 って感じ?」
光「えーすごいすごい!」
   真実、絵梨佳から受け取って中身を見る。
真実「うわ、しかも3列目…かなり前じゃん」
光「絵梨佳って、懸賞すごいよね。前も温泉旅行当ててなかったっけ」
絵梨佳「そうなの。昔から結構当たってるんだよね。ま、日頃の行いってやつ?」
光「よっぽど運が溜まってるんだね」
絵梨佳「?」
   絵梨佳、不思議そうに光を見る。
光「私も今からどんどん運溜めてくからさ、きっと絵梨佳にも負けない強運になるよ」
絵梨佳「そう?なんかよくわかんないけど」
   女生徒が何人か教室に入ってくる。
女生徒たち「おはよー」
   絵梨佳、女生徒たちに駆け寄っていく。
絵梨佳「おはよ!ねぇねぇ聞いてっ」
   彼女たちにもチケットを見せて盛り上がる絵梨佳。
   真実、光の腕を引き寄せる。
真実「あんまり絵梨佳の前で運とか、御剣会  のこと言わない方がいいいよ」
光「なんで?」
真実「まだ早いってば。あの子の家クリスチャンだしさ、邪法に染まりきってるもん、
 今は招待は無理」
光「そんなもんかなぁ。でも絵梨佳は友達だし、どうせなら私は一緒にやりたいけどな」
真実「…とにかく、今はまだ駄目。あの子には秘密。絶対ね」
光「うん…」
   真実の、光の腕を掴む手にはかなり力が入っている。

〇翌檜本部・室内(夕)
   光、真実と共に五十鈴や花菜とお祈りをする。
   雑談をしつつ御剣会の会誌を受け取る。
   見出しは「御剣会長のお言葉」と大きく書かれ、小太りの御剣会長(73)の写
   真が載っている。
   光、興味深く眺め花菜が解説をする。

〇光の部屋(朝)
   ベッドの上、制服姿でお祈りをする光。
   藤林陽子(42)に扉を開けられ、慌てて漫画を読んでいるフリをする。
   陽子、怪訝な顔。

〇駅前の本屋
   真実と共に入店する光。
   店の奥に神棚を見つけて、逃げるように店を出ていく光と真実。
   店の前でわざとらしく安堵の表情。   

〇市民病院・光江の病室
   ニコニコ笑っている光江のベッドサイドで、数珠を取り出し嬉しそうにしゃ
   べっている光。

〇光の部屋(夜)
   ベッドの上でお祈りを終えた光、数珠と経本をポーチに片付けると満足そう
   に微笑む。 

〇翌檜本部・全景
   女性信者が続々と入室していく。
   人数が多い。

〇同・室内
   いつもより人が多い中でお祈りが進行する。
   私服姿の光、真実も真剣にお祈りに臨んでいる。
   お祈りが終わり、それぞれが雑談を始める頃、笑顔の花菜が光と真実の元へ
   来る。
花菜「おはよう真実、光」
光・真実「おはようございます」
花菜「(光に)もうお祈りは慣れた?ちゃんと家でもやってる?」
光「はい、一応。いつお母さんに見られるかドキドキもんですけど」
花菜「んーまだ気持ちが足りないなぁ。もっと真剣にお祈りしてたら、都合の悪いこと
 は起こらないもんよ」
光「えーそうなんですかぁ。難しいなぁ」
花菜「まぁまだ一週間だしね。じゃ、今日から招待も始めようか」
真実「私はもう予定入ってるから、行ってきまーす」
   真実、本部を出ていく。
   他の信者たちも続々と出ていき、室内には光と花菜の他には数人いるだけに
   なる。
光「招待って、誰にすればいいんですか」
花菜「誰でもいいよ。光が招待したい人なら。まぁ最初は友達とかが多いかな」
   光、ウーンと悩みながら携帯のメモリを見る。
   たくさんの名前が並ぶ中「時任梓」をタップする。

〇ファミレス・店内
   昼時で混んでいる店内。
   目力の強い少女、時任梓(17)が入店し、辺りをキョロキョロしている。
   花菜と席についている光が梓を見つけ、手を振って呼びかける。
光「梓ちゃん!こっちこっち」
   梓、一瞬笑顔を見せたが光の隣の花菜を見て眉をひそめる。   
   梓、席に来ていぶかし気に光を見る。
   花菜、笑顔で会釈する。
梓「光、その人は?」
光「あ、えっと私の友達。ちょっと会いたいっていうから」
梓「ふうん…?」
   不審そうにしながらも席に着く梓。
   店内はにぎわっていて、従業員が忙しそうに料理を運んでいる。
   梓、コーヒーを一口すする。
花菜「ねえ時任さん、運って信じる?」
梓「はあ?」
   いかにも不審そうに花菜を見る梓。
梓「私は信じてません。運より実力、努力が大事だと思ってますから」
花菜「そうね。確かに努力は大事だわ。努力があってこそ、今のあなたの運があるの。
 あなたの、前世からの努力があってこそね」
   梓、コーヒーをすする。
   光、チラチラと花菜と梓を見ながらジュースを飲む。
花菜「最近、日本でたくさんの災害が起こってるよね。たくさんの凶悪な事件も。ああ
 いったことはね、皆の運を良くしていこうっていう努力が足りないから起きてるんだ
 よ。言ってしまえば、罰が当たったのね」
   光、花菜を見る。
   梓、カップを持つ手が止まる。
梓「それ、どういう意味ですか。災害で亡くなった人は皆、自業自得だって言うんですか」
花菜「端的に言うとそうなるね。正しいお祈りを正しい対象に捧げて運を高めていくこ
 とこそが、唯一皆が幸せに生きていける方法なんだ」
   梓が腕を組み光と花菜をジッと見つめている。
   光、うつむいている。
花菜「今日光があなたを呼んで、ここに私がいるのはね、あなたを幸せにしてあげたい
 って気持ちがあったからなんだよ」
梓「…光」
   光、うつむいたまま。
   梓、大きくため息をつくと大きくテーブルを叩いて立ち上がる。
   光、その音に体を震わせる。
梓「悪いんだけど、私はそう言う話一切聞く耳持たないので。帰らせてもらいます」
花菜「地獄に落ちてもいいの?」
   帰り支度をしている梓、花菜を振り返り睨みつける。
梓「上等だわ」
   去っていく梓。
光「あ、梓…」
   慌てて後を追う光。

〇同・店の前
   速足で出ていく梓。
   光、必死で追いすがる。
光「ま、待って、梓っ」
   梓、立ち止まって光が追い付くのを待つ。
梓「…あなたも同じ気持ちなの」
光「え」
   梓、強い目で光を見る。
梓「あんたも被災者は努力が足りない不信心者だって思ってるの?自業自得で地獄に落
 ちたって」
光「わ…私は…。で、でも、梓のお兄さんは、地獄になんか落ちてないと思う」
梓「当り前よ」
   光、何か言おうとするが言葉が出てこない。
   梓、少し表情が和らぐ。
梓「…まだ、あんたは大丈夫なようね」
   光、不思議そうに梓を見る。
梓「光、あんたの組織のことちょっと調べてみなよ。何も知らないんでしょ?ちゃんと
 わかっといた方がいいよ」
   梓、踵を返し去っていく。

〇同・店内
   光、花菜のいる席へ戻ってくる。
   花菜、パフェを食べている。
花菜「おかえり。光も何か食べる?」
光「あ、いえお腹いっぱいで」
花菜「そう」
   花菜が食べている横でジュースを飲む光。
花菜「一番最初にとんでもないの引いちゃったねぇ。まぁ、こんな時もあるよ。ああい
 う邪に染まり切っちゃってる子は、時間かけて招待するしかないから。どんまい」
光「…はい」
   花菜の携帯にメールが届く。
   花菜、メールを開いて笑顔。
花菜「真実、また一人連れてくるって。あの子は最近絶好調だね」
光「…真実が」
   光、空を見つめ呟く。
   花菜、光を無言で見つめている。

〇光の最寄り駅・ホーム(夜)
   電車がホームに入ってくる。
   降りてくる帰宅客の中に暗い表情の光。
   ノロノロと改札へと歩いていく。
持田の声「あれ、君は…」
   後ろから声が聞こえて振り返る光。
   持田が立っていて笑顔で会釈してくる。  
持田「ども」
光「あ…あの時の」
持田「やっぱりそうだった。鞄が一緒だったからつい声かけちゃったよ。今帰り?」
光「そんなとこです。…えっと」
持田「あ、僕持田です、持田徹」
   持田、懐から名刺ケースを取り出すと一枚光に差し出す。
   「朝陽不動産営業部 持田徹」と書かれている。
光「名刺なんて初めてもらっちゃった」
持田「じゃあ記念としてしっかり保存しといてね」
   明るい調子の持田。
   光、笑顔。
   持田も笑顔を見せる。
持田「遅い時間だけど、帰り大丈夫?」
光「あ、はい。家すぐそこなので」
持田「そうか。気を付けて帰りなよ」
光「ありがとう」
   持田、少し進んでからちょっと振り返って、
持田「あ、その名刺に携帯番号も載ってるから。良かったら登録しといて。それじゃ、
 おやすみ」
   笑顔を向けて改札を出ていく持田。
   光、手の中の名刺を見つめる。

〇光の部屋(夜)
   部屋に入ってくる光。鞄をベッドに放り投げる。
   勢いあまって中から数珠の入ったポーチが転がり出る。
   光、それをジッと見て机の上のパソコンに向かう。
   ノートパソコンを起動し、ネットに接続する。
梓の声「あんたの組織のことちょっと調べてみなよ」
   光、検索窓に「御剣会」と入力する。
光「…え」
   予測変換に並ぶ、「勧誘」「新聞」の他、「ヤバイ」「危険」「犯罪」とい
   う不穏な文字。
   光、恐る恐るサイトをクリックする。
   画面に映る「御剣会は危険な宗教だ」と語るサイト。
光「何、これ…」
   黙々と読み進める光。
   「御剣会について」というタイトルのスレッドを見つけまたクリックする光。
   御剣会の信者に勧誘を受けたという内容のレスがずらりと並んでいる。
   夢中でスクロールしていく光。
光「友人からの誘いだと思って行ったら知らない人が一緒にいて勧誘を受けた」
光「何度断っても帰してもらえなかった」  
光「地獄に落ちると脅され、しつこく電話がかかってきた」
光「逮捕された信者もたくさんいるらしい」
   読み進めるうちに顔が青くなる光。
光「マジ…?」
   ベッドを振り返りポーチを見つめる光。

〇ドーナツショップ(回想)
   梓と花菜が話している。
   怒りを見せる梓を見つめ返す、冷たい花菜の視線。

〇翌檜本部・駐車場(回想)
   五十鈴の張り付いた笑顔。
五十鈴「しばらくは御剣会に入会したって、内緒にしておいてね」

〇光の部屋(夜)   
   光、ポーチを掴み机の引き出しに押し込む。

〇光の最寄り駅・ホーム(朝)
   通勤・通学客がホームに並んでいる。
   その中で改札の方を気にしている持田。
   制服姿の光が入ってくる。
   持田、笑顔で手を振ろうとする。
   光のすぐ後ろに真実がいるのを見つけて手を止める。
   光、持田に気付いて近づいてくる。
光「おはようございます、持田さん」
持田「おはよう」
   真実、ジッと持田を見つめる。
真実「(光に小声で)知り合い?」
光「うん、よく駅で一緒になるの」
   持田、真実へ笑顔を向けて、
持田「おはようございます」
真実「…おはようございます」
   真実、言いながら光の後ろに下がる。
   光、その様子に微笑ましく笑う。

〇電車の中(朝)
   吊革につかまって揺られる光と真実。
光「真実、さっき可愛かったね」
真実「え?」
光「持田さんと会って緊張した?大人の男性ってあまり会うこと無いもんねーわかるわ
 かる」
真実「何言ってんの光」
光「え、違うの?」
真実「あの人がお守りなんか持ってたからよ。鞄に着けてた。気付かなかったの?」
光「…うん」
真実「お守りなんか大事にしてる人はダメ」
光「…うん、そっか…」
   光、目線を逸らし窓の外を見る。
   真実、そんな光をじっと見つめている。

〇私立翌檜学園・2年5組
   昼休みのチャイムが鳴る。
   弁当を広げる者、購買に向かう者様々。
   光、弁当を持って絵梨佳の机の横に向かう。
光「絵梨佳、今日屋上行く?」
絵梨佳「そうだね、いいかも」
   絵梨佳、教室を見回して、
絵梨佳「あれ?真実は」
光「さっきチャイム鳴ったらすぐ出てっちゃった」
絵梨佳「一緒に食べないのかな。とりあえず先に行ってよっか」
光「そうだね」
   光、絵梨佳と連れだって教室を出ようとする。
   ちょうど教室に入ろうとしていた真実とぶつかる。
光「あ、ごめ…真実!どこ行ってたの?」
真実「光、今日は私の友達と一緒にお昼食べよう?」
光「え?」
   真実の後ろに女性信者AとBが立っている。張り付いた笑顔。
   ×  ×  ×
  (フラッシュ)
   翌檜本部で真実と談笑している女性信者AとBの姿。
   ×   ×   ×
   光、思わず後ずさる。
絵梨佳「なになに?真実のお友達?」
光「あの…私、今日は別のところで食べるから!行こう、絵梨佳!」
絵梨佳「え?あ、ちょっと」
   光、絵梨佳の腕を引いて逃げるように教室を出ていく。
   真実の冷たい視線が光を見つめている。

〇同・中庭
   昼食を取る生徒で賑わっている。
   一つのベンチに腰を下ろす光と絵梨佳。
   光、辺りを見回すが真実の姿はない。
   ホッと胸を撫でおろす。
絵梨佳「光ぅ、真実と何かあった?なんか朝から変だよ」
光「え…そうだった?」
絵梨佳「あ、変なのは真実の方ね。話してるときはいつもと変わんないんだけど、気付
 いたら授業中でも光を見てたの。なんか…ちょっと睨みつけるみたいにさ」
光「真実が…?」
絵梨佳「真実とケンカでもした?」
光「…うん、ちょっと、ね。ごめん、気にしないでね。すぐ仲直りするから」
絵梨佳「そう?だったらいいんだけど」
   絵梨佳、弁当を広げ食べ始める。
   光、箸を持ったまま動けない。

〇同・屋上
   真実と女性信者AとBが話している。
   真実の携帯が鳴り、画面を見ると花菜から。
   真実、電話に出る。
花菜の声「光の様子はどう?」
真実「昨日何かあったんですか?わざわざ監視しろ、だなんて」
花菜の声「来たら話すよ。とりあえず、今日は本部に来てね。必ず、光も一緒に」
真実「はい」
   電話を切った真実、女性信者AとBと顔を見合わせ、うなずく。

〇翌檜本部・室内
   仏壇を前に一人お祈りしている花菜。
   玄関に誰か来た気配を感じ振り返る。
   ドタドタと複数の足音。
光の声「い、痛いってば真実っ」
   扉が開いて、真実が光の腕を引いて入ってくる。後ろには女性信者AとB。
真実「こんにちは、花菜さん」
光「こ…こんにちは」
花菜「いらっしゃい、皆」
光「あの、私今日は祖母の病院に…」
花菜「大丈夫、後でちゃんと私が送ってあげるからね。今日は皆でお祈りしようと思っ
 てさ」
   花菜は光、真実、女性信者AとBを並んでテレビの前に座らせる。
   スイッチを入れるとどこかの会館で御剣会長が講演を行っている風景が映る。
花菜「改めて、皆に御剣会のことちゃんとわかってもらおうと思ってね。会長のお言葉、
 ちゃんと聞いてね」
   テレビの向こうで御剣会長が語っている。

〇会館・壇上
   御剣会長が壇上で、大勢の信者相手に話している。
御剣「この日本は大きな危機に晒されています。大地震、豪雨、そして隣国からの侵略
 と、既に多くの神罰が日本国民に下っています。邪法に侵されたこの国は、このまま
 ではあと数十年…いえ数年後には滅びの道を辿ることになるでしょう。しかし、心配
 はいりません。あなた方には御剣会が…この私と共に重ねてきたお祈りによる運が溜
 まっているはずです。あなた方はどんな災害にも負けることはないでしょう。
 つまり、国を救うためには国民全てが御剣会の会員となり、皆一丸となってお祈りを
 重ねていくほかないのです。
 皆さんの大事な人はいませんか。救いたい人はいませんか。大切な人を、あなたがい
 る救われるステージまで招待してあげてはいかがでしょうか」
   大歓声が起きている。
   御剣会長は尚も熱く語り続ける。

〇翌檜本部・室内
   花菜がリモコンで音量を下げる。
   真実と女性信者A・Bは満足そう。
   光、茫然としている。
花菜「真実たちには今更な内容だったかもしれないけど、何度聞いても会長のお言葉は
 いいものだよね」
女性信者A「より頑張っていこうと気が引き締まる思いです」
女性信者B「右に同じ」
花菜「光は、どう?」
光「えっ」
   その場の視線がすべて光に集まる。鋭い視線。
   光、戸惑いを隠せない。
花菜「会長のお言葉を聞いて、どう思った?頑張ろうって気持ちになった?」
   光、恐る恐るうなずく。
   花菜が笑顔になる。
花菜「それならいいんだ。おばあちゃんのためにも、一層頑張らないとね?」
   花菜、立ち上がって仏壇の前に行く。
花菜「さ、それじゃあ皆でお祈りしようか」
   真実と女性信者A・Bはすぐに数珠と経本を取り出す。
   光は持っていない。
真実「光…数珠、どうしたの」
   真実が無表情で問う。
光「あ…朝のお祈りした後忘れてきちゃって」

〇光の部屋(回想)
   光、机の引き出しに数珠の入ったポーチを押し込む。

〇翌檜本部・室内
   光、ぎこちなく笑ってみせる。
   花菜、サッと数珠と経本を渡す。
花菜「大丈夫大丈夫、ここにはたくさん用意してあるからね」
光「あ…ありがとうございます…」
   光が数珠と経本を受け取る。
花菜「気にしないで。さ、ちゃんとお祈りしなきゃね。あなたの大切なおばあちゃんの
 ためにもさ」
   光、ギュッと拳を握る。
花菜「あなたのおばあちゃんの御病気を治したかったら…そうだな、これから50人は招
 待しないといけないね」
女性信者A「大変な病気なんでしょう?心配よねぇ」
真実「いっそのことおばあちゃんも招待してあげたらどう?」
   光、顔を上げ真実を見る。
女性信者B「それいい考え!」
花菜「そうだね。後で病院まで送ることだし、ついでにおばあちゃんに私も会って…」
   光、耐えきれず立ち上がって叫ぶ。
光「やめて!」
   光の大声で全員が動きを止める。
   一同、無言で光を見つめる。
光「おばあちゃんは…何もできない状態なの…招待なんて、できない…!」
花菜「そんなことないよ。そばでお祈りを聞くだけでも効果があるって」
光「できない!おばあちゃんは駄目!」
   光、鞄を持って部屋を飛び出していく。
花菜「光!」
   扉が閉まる音がする。
   花菜、溜息。
花菜「こりゃ…駄目かもね」
   花菜、真実を振り返る。
花菜「真実」
   真実、無表情で花菜を見返している。

〇市民病院・前(夕)
   バス停に路線バスが入ってくる。
   扉が開いて乗客が降りてくる。
   光も降りてくる。
   暗い表情。

〇同・病室前(夕)
   光、病室前で一度足を止める。
   深呼吸し頬を両手で叩くと笑顔を作る。
   不自然でないか入念に携帯でチェックする。
光「来たよー、おばあちゃん!」
〇同・病室(夕)
   光、病室に入る。
   光江がベッドの上、点滴をつけてボーっとテレビを見ている。
   光江、光を見て笑顔を見せる。
   光、嬉しそうにベッドサイドに座る。
   点滴の薬液がゆっくりと落ちる。
   点滴袋が夕日に当たって光っている。
光「…なんかね、私わかんなくなってきちゃった」
   光、うつむいて手遊びしながら呟く。
光「最初はすごく優しい感じだったのに、地獄に落ちるとか日本が滅ぶとか、なんか怖
 いこと言い出しちゃって」
   光江は笑顔のまま光の話を聞いている。
光「私はそんなことどうでもいいんだよね。おばあちゃんが元気になってくれるならそ
 れだけでいいのに…。なんでこんなことになっちゃったのかなぁ」
   光江、光の頭に手をやる。
   光、一瞬驚いて光江を見るが嬉しそうに微笑む。
光「…ありがと、おばあちゃん」
   軽くノック音がしてスーツ姿でエコババッグをぶら下げた陽子が入ってくる。
陽子「やっほーお母さん…って、あら光。来てたの?」
光「お母さん」
陽子「あちゃー来てたのか。そっか。じゃあお父さんが一番先に帰っちゃうな」
   陽子、エコバッグから着替え等出して片付けていく。
陽子「あ、お母さんこの間のアレ、光に渡した?」
光「アレって?」
陽子「まだ渡してなかったの?しょうがないなぁ」
   陽子、光江の枕元の引き出しからメモ用紙を取り出す。
   光江の前に出し、頷くのを確認してから光に差し出す。
   光、受け取ってメモ用紙を見る。
   メモ用紙には震える汚い文字で
   「ありがとうひかる」と書かれている。
光「え、この字…おばあちゃん?」
陽子「リハビリでやってたみたいんなんだけどねぇ。あんた、結構通ってくれてるでし
 ょ?結構嬉しかったのよね?お母さん」
   光江、ニコニコと笑っている。
   光、満面の笑みで光江の手を握る。
光「嬉しい!ありがとう、おばあちゃん」
   光江、ニコニコとうなずく。
   光、いそいそと鞄を探り手作りのお守りを取り出す。
   封を開け中にメモ用紙を畳んで仕舞う。
   陽子、光の手元を見て、
陽子「あー、あんたまだそれ持ってたの」
光「当然でしょ大事だもん。(光江に)ねー」
光江「ねー」
   一同、和やかに笑っている。

〇同・駐車場(夜)
   光、陽子と病院から出てきて白のプリウスに乗り込む。

〇プリウスの車内(夜)
   陽子が運転、光は助手席。
   光の携帯に真実からのメールが入る。
   わずかに表情を暗くしながらもメールを開く光。
真実(メール)「明日も一緒に行こうね」
   光、返信せずメールを閉じる。
陽子「返事しなくていいの?」
光「いいの」
陽子「めずらしー、メール大好きなあんたが」
光「めんどくさいこともあるのよ」
陽子「ふぅん」
   光、携帯を仕舞って窓の外を見る。
陽子「光」
光「ん?」
陽子「あんたさぁ、最近何か隠してない?」
   光、努めて窓から視線を動かさない。
光「…なんで?」
陽子「母さんがわかんないと思った?なーんかコソコソしちゃってさぁ」
光「…別に、何も隠してないよ」
陽子「…ま、そういうことにしといてあげて もいいけど。危ないことやってるんじゃな
 いでしょうね」
光「大丈夫」
   光、窓を見たまま。
   陽子、チラリと光を見る。
陽子「…ふぅん」
   光、ギュッと拳を握る。

〇光の最寄り駅・全景(朝)

〇同・ホーム(朝)
   通勤・通学客が改札を抜けて入ってくる。
   持田が改札を抜けて入ってくる。
   ホームを見回す。
アナウンス「まもなく、3番ホームに特急快速電車東京行きが通過致します…」
   持田、3番ホーム最前列に光が立っているのを見つける。
   特急快速電車が走っている。
   持田、光に声をかけようと近寄る。
   特急快速電車が速度を落とさず入線してくる。
   持田、光に近づき声をかけようとする。
   黒い両手が伸びてきて、光の背中を力いっぱい押す。
光「!」
   光、バランスを崩してホームから線路に落ちる。
   持田、その瞬間を目撃。
持田「!」
   光が落ちたことでざわつくホーム。特急快速電車が迫ってくる。
   持田、咄嗟に線路に飛び降りる。
持田「光ちゃん!」

〇同・線路(朝)
   持田、倒れている光を乱暴に引き寄せるとホームの下の窪みに飛び込む。
   特急快速電車が持田と光の傍を通過し
   ていく。
   持田、光の頭を抱きしめたまま流れる電車を見ている。
   光、持田にしがみついたまま茫然。
   特急快速電車が通過していく。
   危機が去り安堵の息を吐く持田。
   ホームの上の乗客たちが声をかける。
サラリーマン「おい大丈夫か!生きてるか!」
持田「はい、無事です!」
   持田、大声で上に応え、光の顔を見る。
   光、青い顔で茫然としている。
持田「大丈夫?けがはない?」
光「は…はい…」

〇光の回想
   ホームの上、電車を待っている光。
   突き飛ばす黒い腕。
   ホームから落ちる瞬間、振り返る光。
   突き飛ばした犯人と目が合う。
花菜の声「地獄に落ちるよ」   

〇光の最寄り駅・ホーム(朝)
   引き上げられた光と持田。
   持田、助けてくれた人に頭を下げる。
   ホームに電車が入ってきて、皆光たちを気にしながらも乗車していく。
   一瞬静かになるホーム。
   持田、座り込んだままの光の顔を覗き込む。
持田「大丈夫?立てるかな」
光「は…はい…」
   持田が手を貸し何とか立ち上がる光。
   足がガクガクと震えている。
持田「ねぇ、もしかしてだけどさっきって…誰かに突き飛ばされた…?」
   光、ブンブンと首を横に振る。
光「そんなはずない!そんなはず…」
   光、ブツブツと否定の言葉をつぶやく。
   光の携帯が鳴る。
   ビクリと震える光。震える手で電話を取る。
真実(声)「罰が当たったね」
光「!」
   光、携帯を投げ捨てる。
   持田、驚いて拾い上げる。携帯は切れている。
持田「光ちゃん…?」
光「違う、そんなはずない、真実じゃない、きっと気のせい…」
持田「落ち着いて、光ちゃん!」
   持田、光の両頬を軽く叩く。
   一瞬正気に戻る光。
光「持田さん…」
持田「突き飛ばされたんだね?知ってる人に」
   光、答えられない。
持田「警察行こう。僕が付き添うから」
光「でも」
持田「殺されかけたんだよ?このままにはしておけない」 
   持田、光の手を掴み歩き出す。
光「で、でも持田さん会社が…」
持田「君の方が大事だよ」
   光、目を丸くして持田の背中を見つめる。

〇駅近くの警察署・全景

〇同・一室
   机と椅子だけのシンプルな部屋。
   光と持田が並んで座っていて、正面で都築刑事(45)が話を聞いている。
   光の顔は青く、持田の服を掴んだまま。
   ノック音がして扉が開く。
刑事A「藤林さんのご両親が到着しました」
   刑事A(20代)に案内され陽子と藤林大(42)が入ってくる。
陽子「光、大丈夫?」
光「お母さん…お父さん…!」
   光、両親の姿を見て泣き出し、陽子へ駆け寄る。
陽子「よしよし、もう平気よ。大丈夫」
   陽子、光を抱きしめる。
大「あの、結局何があったんでしょうか」
都築「お嬢さんの話ですと、ホームで誰かに突き落とされたと」
大「ええっ」
陽子「だ、誰に!?」
持田「僕もたまたま近くにいたんですが、誰かまではわかりませんでした…。ただ、光
 さんは、知ってる人だったようで…」
光「これが…罰なの?私が疑ったから?お祈りサボったから?罰が当たったの?このま
 まだと次はもっと酷いことになるの…?」
陽子「光?何言ってるの?」
   光、陽子から離れる。思いつめたような表情。
陽子「光」
光「行かなきゃ…」
   光、部屋を駆け出していく。
   驚く一同。
陽子「光!?」
大「光!」
   持田が先頭になり光を追う。

〇同・正面入り口
   光がエントランスを駆け抜けていく。

〇同・駐車場
   ジュリエッタが停まっている。
   助手席側のドアが開き、真実が降りてくる。
   真実、警察署の入口を見る。

〇同・正面入り口
   光が外に出る。
   足を止め辺りを見回す。
光「バス停…それよりタクシー…?」
真実「光!」
   真実の声がする方に向く光。
   光の背後、持田たちが走ってくる。
   真実、光に手を振り駆け寄ろうとする。
光「真実…!」
   光、安堵の表情で足を踏み出す。
   持田、真実の姿に気付き足を速める。
   真実、光に近づく。
持田「光ちゃん!」
   真実の手が光の手を掴もうとする一瞬前に、持田の手が光の肩を抱き寄せる。
光「!」
真実「!?」
   一同、驚く。
   持田に抱き寄せられた光、驚いて持田を見上げる。
   追い付いた陽子、真実の姿に驚く。
陽子「あれ、真実ちゃん?」
真実「光を返して」
持田「駄目だ」
真実「返して」
持田「駄目だ」
真実「光、行こう?早く行かないと、もっと大変なことになっちゃうよ」
   光の表情が強張る。
真実「今なら間に合うよ。会長も許してくださるよ。今なら、地獄に落ちずに済む」
持田「何を言って…」
   光、持田の腕の中から抜け出そうともがく。
持田「光ちゃん?」
光「行かなきゃ…」
陽子「光…?」
光「行かなきゃ、放して!お祈りしなきゃ」
持田「光ちゃん、落ち着いて!」
   真実、笑みを浮かべている。
   様子を見ている都築刑事。
真実「ほら、光が言ってる。放してください。光は私と一緒に行くところがあるんです」
都築「ちょっといいかな」
   都築刑事、持田と真実の間にゆっくりと割り込む。
   真実の方を向いてジッと見つめる都築。
都築「藤林さんは先程事故に巻き込まれてその事後処理の最中なんだ。終わるまでは出
 て行ってもらっては困るなぁ」
真実「そんなの関係ありません」
都築「関係あるさ。これは我々の大事な仕事だ。それに、事故のショックで彼女は大分
 お疲れのようだ。今日のところはお引き取り願えるかな」
真実「でも」
都築「我々の職務を、邪魔しないでもらえるかな?」
   尚も食い下がろうとする真実。
花菜の声「真実、行こう」
   花菜を振り返る真実。
   花菜、ジュリエッタから降りて光たちを見ている。
   真実、花菜と光を何度か見比べ、ゆっくりと光に背を向ける。
真実「光…また明日ね」
   光、青い顔で真実を見つめている。
   ジュリエッタが駐車場から出ていく。
   光、その場に座り込む。
   慌てて支える持田。
   駆け寄る陽子と大。
陽子「光、立てる?(大に向かって)お父さん」
   大が光を背負う。
都築「どうやら、話はややこしいことになりそうだね?お嬢さん…」
   都築刑事、先に立って署内へ戻る。

〇同・応接室
   ソファに光を横たえる大。
   傍に陽子が座る。
   向かいのソファに都築刑事が座り、持田と大は光のソファの傍に立っている。
都築「さっきの子はお友達かな」
陽子「ええ。小学校の頃からの幼馴染の真実ちゃんです。…なんだか雰囲気は違ってい
 たけど」
大「刑事さんは何かご存じなんですか?あの子…普通じゃなかった」
持田「ええ。警察にまで迎えに来るなんて、光ちゃんが駅で事故に遭ったって知らなき
 ゃまずあり得ないですし」
都築「お嬢さんがご自分で話してくれるのが一番いいと思うんですがね」
   都築刑事、光をチラリと見る。
   光、青い顔のままうつむいている。
都築「皆さん御剣会っていう、新興宗教をご存じですか」
大「御剣会…?」
   陽子と大、顔を見合わせる。互いに首を振る。
都築「ここ数十年の間に力をつけてきた宗教
 なんですがね。まぁ…どうも色々問題が多くて」
持田「問題、ですか」
陽子「犯罪集団とか?」
都築「いえ、表立っての活動はそこまで過激ではないようですがね。奴らは勧誘を非常
 に重視していまして。相手を入会させるためならば、かなり強硬な手段を取ることも
 あるらしく…まぁ、逮捕者も出ていたりしてますな」
陽子「まぁ…怖い」
持田「それじゃあ、あの子はその御剣会の信者だということですか」
都築「あの話しぶりはそういうことでしょうな。そしてつまり…」
   都築刑事、光を見る。
   一同の視線が光に集まる。
都築「お嬢さんも」
   光、すがるような眼で都築刑事を見る。
持田「光ちゃん…」
陽子「光が…!?そんな、どうして…」
都築「どんな教義でやってるのか詳しくは私も知らんのですがね、実際十代の若い信者
 は多いそうです。何か、若い世代をくすぐる文句でもあるんでしょうなぁ」
陽子「ねぇ、光。そうなの?あなた、そんな宗教に入ってるの?」
大「今回の事故もそのせいなのか?どうなんだ光?」
   陽子と大が光に詰め寄る。
光「私…こんな怖いとこだって…宗教ってことも知らなくて…ただ、運がよくなるって、
 願いが叶うって教えてもらったから」
大「運がよくなる、だって?」
陽子「そんな簡単な理由で宗教始めたっていうの?」
大「馬鹿馬鹿しい…そんなことあり得ないと最初に気付かなかったのかい」
光「だって病気が治るって聞いたから!」
   陽子と大、黙る。
光「頑張れば、きっとどんな病気でもよくなるって…おばあちゃんも、きっとよくなる
 って…言われたから…」
   光の目から涙がこぼれる。
陽子「光…あなた、そんなにおばあちゃんのこと…」
   陽子、光を抱きしめる。
   光も抱きしめ返し泣きじゃくる。
陽子「そっかそっか…ごめんね、優しい子だね光は」
大「きつい言い方したな、ごめんな光…」
   大、光の頭を撫でる。
   持田、その様子を優しい表情で眺める。
都築「つまりお嬢さんは御剣会に入会はしているけれど、今は抜けたいと思っていると」
光「…はっきり言ったわけじゃないですけど、ちょっと怖いなって、疑問に思い始めてま
 した」
持田「まさか、抜けようとしていると思ったからあんなことを」
都築「可能性は高いでしょうな。まぁ、本当に殺そうとしたというよりは、脅しのつも
 りだったのかもしれませんが」   
持田「そんな…たまたま僕が近くにいたから助けられただけで、あんなのは殺人行為で
 すよ」
光「あ…。でも、真実なら私がよく駅で持田さんと会うっての知ってた」
持田「じゃあそこまで考えて…?」
   一同、言葉を失う。
都築「まぁ、犯人についてはまだ憶測の域を出ません。とりあえず被害届は出しましょ
 う。御剣会については、できれば親御さんの方で護ってあげてください。現状、我々
 では手が出せない」
大「はい、もちろんです」
   大、陽子と顔を見合わせうなずく。
   光、うつむいている。

〇同・駐車場
   プリウスが停まっている。
   大、運転席に乗りエンジンをかける。
   持田、陽子と光と向かい合っている。
陽子「今日は本当にありがとうございました、持田さん」
持田「いえ、たいしたことは…」
陽子「後日改めて、お礼させてくださいね。それじゃ…光」
光「ありがとうございました」
   光、頭を下げる。
   持田、笑顔でうなずく。
   陽子が助手席に、光が後部座席に、順に車に乗り込む。
   光、車内から持田に手を振る。
   持田、振り返す。
   ゆっくりと車が動き出す。
   持田、車が見えなくなるまで見送る。

〇プリウスの車内
   ぼんやりと風景を見ている光。
陽子「いい人と知り合えてよかったわね、光」
光「うん」
大「ここからは父さんたちがお前を護ってやるからな」
陽子「そうよ。もうあなたは御剣会なんかと関わらなくていいからね」
光「うん…ありがとう」
陽子「あんな奴らの力なんか借りなくたって、おばあちゃんはすぐに元気になっちゃうん
 だから。ね?お父さん」
大「そうだな。リハビリも上手くいっていると聞いているしな」
陽子「そうそう」
   光が手に持っているマナーモードの携帯が震える。
   真実からメールが来ている。
   光、眉をひそめ、読まずに削除する。
   鞄のポケットに携帯を仕舞おうとして、中に何か入っていることに気付く。
   持田からもらっていた名刺。
   光、携帯を開き名刺の内容を登録する。

〇翌檜本部・前
   駐車場にジュリエッタが停まっている。

〇同・室内
   五十鈴、花菜が仏壇を背に座り、向かい合う形で真実が座っている。
   五十鈴は会報をペラペラと読んでいる。
五十鈴「結局あの子連れてこられなかったの」
真実「すみません」
五十鈴「謝らなくていいわ。また頑張ればいいんだから」
花菜「怖がらせる作戦がだめならやっぱり前みたいに連れてくるしかないんじゃない」
真実「でも学校では絵梨佳とべったりで」
五十鈴「その絵梨佳ちゃんも一緒に誘ってあげればいいじゃない」
真実「あの子は駄目。クリスチャンの一家で気が強いし、それに…私や光みたいに不幸
 じゃないもの」
花菜「不幸じゃないと思うのはあなたの思い込みじゃない?他人から見えないところで
 苦しんでいて、助けを求めているかもしれないよ」
五十鈴「クリスチャン一家だというなら、猶更邪教に苦しんでいるかもしれないね」
   真実、うつむき顔をしかめている。
真実「……でも」
花菜「真実。あなたの好き嫌いなんか問題じゃないのよ。私たちの目標は全国民を招待
 して御剣会が国の法律になることなんだから」
五十鈴「これは…会長があなたに課した試練なのかもね」
   真実、顔を上げ五十鈴を見る。
真実「試練ですか…?」
五十鈴「あなたがこの先御剣会幹部として羽ばたいていけるか。それを見極めたいとい
 う、会長のご意志なんじゃないかしら」
真実「幹部…」
   真実の目が輝く。
花菜「そうだね、きっとそう。真実、この困難を乗り越えればあなたは幹部昇格できる
 よ!それだけの運を貯めることになる」
五十鈴「真実ちゃん。光ちゃんと、できれば絵梨佳ちゃん。二人をここへ連れてきなさ
 い。どんな手を使ってもいいわ」
真実「はい!」
   真実、立ち上がる。その目は爛々と輝いている。
   
〇藤林家・全景(朝)
   家の前に制服姿の真実が立っている。

〇同・玄関外(朝)
   インターホン越しに陽子と話している。
陽子の声「光はこちらで送り迎えするから、真実ちゃんと一緒に行かないわよ」
真実「どうして避けるんですか。光も私と会いたいにきまってます」
陽子の声「あなたと会わないのは、光の意志です!」
   インターホンを乱暴に切る音。

〇同・全景(朝)
   真実が離れていく。

〇同・光の部屋(朝)
   窓から様子を見ている制服姿の光。
   真実が去っていくのを見て安堵の表情。
   ノックの後、陽子が部屋に入ってくる。
陽子「光、学校どうする?行くなら送っていくけど」
光「行く」
   光、鞄を持ち上げて部屋を出る。
   陽子、光に続いて部屋を出る。
陽子「大丈夫?」
光「学校では絵梨佳と一緒にいるようにするし平気」
陽子「そう、わかった」

〇プリウスの車内(朝)
   陽子が運転し学校へ向かう。
   助手席の光、携帯を開いている。
   持田からのメール画面。
持田(メール)「おはよう。今日は学校へ行くのかな。また危ないことがないといいん
 だけど。困ったことがあったらいつでも呼んでいいよ。仕事柄、時間の自由は利くか
 ら助けに行くからね」
   メールを見て笑顔がこぼれる光。
   鞄から手作りのお守りを取り出す。

〇光の最寄り駅・ホーム(回想)
   拾ったお守りを光に手渡す持田。
   赤面する持田。

〇市民病院・病室(回想)
   光江からの「ありがとう ひかる」のメモをもらい喜ぶ光。
   ニコニコ笑顔の光江。
   メモをお守りに丁寧に仕舞い、光江に見せる光。

〇プリウスの車内(朝)
   お守りを見つめギュッと握り締める光。
光「大丈夫。私は大丈夫」
   
〇私立翌檜学園・2年5組(朝)
   光が教室に入ってくる。
   真実と絵梨佳が話している。
   足を止める光。
   絵梨佳が光に気付き手を振る。
絵梨佳「光!おはよー」
   光を見る真実、いつもと変わらない様子。
真実「おはよう、光」
光「おはよう…」
   光、自分の席に着く。絵梨佳が乗り出してくる。
絵梨佳「昨日どうしたの?急に休みだったし、メールも返事ないし」
   光、ちらりと真実を見る。
   真実、いつもと変わらない。
光「急に熱出ちゃってさぁ。駅までは行ったんだけど、そこで帰って寝てたの」
絵梨佳「そうだったんだ。もう大丈夫?」
光「うん、平気」
絵梨佳「昨日は真実も休みだったから結構寂しかったんだよ」
光「真実も…?」
真実「光が帰っちゃったから、なんかやる気出なくなってサボっちゃった」
絵梨佳「えーサボリだったの?ずるーい」
   真実と絵梨佳が楽しそうに会話している。
   光、しばらく堅い表情でその様子を見ていたが、次第に笑顔になり一緒にな
   って遊び始める。

〇同・屋上(昼)
   広々とした屋上、数人の生徒のグループが弁当を広げている。
   光、真実、絵梨佳も向かい合って弁当を広げている。
   光、携帯を見る。
   持田からのメール。
持田(メール)「今、電話してもいい?」
   光、目を丸くしていそいそと立ち上がる。
絵梨佳「どうしたの?光」
光「あ、ちょっと電話してくる」
絵梨佳「えー誰?」
光「ちょっとだけだから!」
   光、屋上の隅に移動する。
絵梨佳「なんだろ…彼氏だったりして?なーんてね…」
   絵梨佳、笑いながら真実を振り返る。
   色のない表情で光を見つめている真実に気付き、一瞬たじろぐ絵梨佳。
絵梨佳「真実…?」
真実「えっ?あ、ごめん」
   我に返ったのか元に戻る真実。
絵梨佳「なんか目が怖かったよー?」
真実「えーそう?ちょっと最近寝不足だったせいかな」
絵梨佳「お肌の大敵だよ?気を付けないと」
真実「そうだね」
絵梨佳「ま、光はほっといて食べてよ!後で聞きださなくちゃね」
   弁当を食べ始める絵梨佳。
   真実、また色のない表情になり光が向かった方を見つめている。
   真実の弁当はおにぎりだけ。
   光、生徒の少ない隅に向かい、携帯を耳に当てる。
光「も、もしもし」
持田(声)「もしもし…持田です。今大丈夫?」
   持田の声に緊張し、赤くなる光。
光「は、はい!」
持田(声)「今のところ、特に何もない?」
光「心配してくれてるんですね…」
持田(声)「当り前じゃないか、昨日あんなことがあったんだよ?」
   光、嬉しそうに持田の声を聴いている。

〇朝陽不動産・営業所
   昼休みで持田以外数人が弁当を食べているほかは誰もいない事務所。
   持田、机でコンビニおにぎりとフライドチキンを広げて電話している。
光(声)「心配してくれてありがとうございます。今日は朝からいつも通りで、昨日の
 ことが嘘だったみたい」
持田「お友達も?」
光(声)「はい。諦めてくれたのかも?」
持田「それならいいんだけどね…」
   持田、考え込む。

〇駅近くの警察署・正面入り口(回想)
   持田に詰め寄った真実の顔が浮かぶ。
   普通とは思えない表情、笑顔。

〇朝陽不動産・営業所
   持田、机の上の手帳を引っ張り内容を確認する。
持田「光ちゃん、放課後君を迎えに行ってもいいかな。今日は僕、車で出勤してるから」
光(声)「え、でもお仕事が」
持田「調整するから気にしないで。考えすぎならいいけど、やっぱり心配だから」
   持田、話しながらパソコンも開きキーボードを叩き始める。

〇私立翌檜学園・屋上
   柵に寄りかかり電話している光。
光「どうして、そこまでしてくれるんですか。迷惑かけちゃったのに」

〇朝陽不動産・営業所
   持田、ふっと優しい表情になる。
持田「どう言ったら納得してくれるかな?」
光(声)「えっそれは…」

〇私立翌檜学園・屋上
   頬を膨らませる光。
光「そういう聞き方、意地悪です」
持田(声)「はは、ごめんごめん。でも理由なんて簡単だろ?」
光「それって」
   顔を赤くして待つ光。

〇朝陽不動産・営業所
持田「電話で言わせる気?」
光(声)「えっ」
持田「理由はちゃんと会った時に言わせてよ」
光(声)「…はい」
持田「よし。それじゃ、放課後迎えに行くね」

〇私立翌檜学園・屋上
   電話を切る光。
   赤面し顔がにやける。
   頬を何度か叩いて顔を作り、絵梨佳たちの元へ戻る。
光「お待たせぇ」
絵梨佳「おそーい光」
光「ごめんごめん…あれっ私のミートボールがない!?」
絵梨佳「遅いから真実といただいちゃいましたぁ」
真実「ごちそうさま」
光「うそー!」
   和気あいあいと弁当を食べる光。
   談笑しながらも時々光に冷たい視線を送る真実。

〇同・2年5組(放課後)
   チャイムが鳴る。
   家路に就く者、部活に行く者とバラバラに席を立つ生徒たち。
   教室に残るのは光と絵梨佳のみ。
   光、携帯を確認しつつ鞄を用意する。
   絵梨佳、鞄を背負って席から立つ。
絵梨佳「よし。それじゃ行こう、光」
光「え、行こうってどこに?」
絵梨佳「何言ってんの?今日真実と三人で遊ぶんでしょ。駅前のカフェの限定ケーキ食
 べたいって言ってたんじゃないの?」
光「え」
真実「そうだよ光。忘れたの?」
   真実、教室のドアを塞ぐように立ってこちらを見ている。
   真実の陰に女性信者AとBの姿も見える。
   光の顔が強張る。
真実「一昨日学校帰りに言ってたじゃない。忘れてそうだったから、お昼に絵梨佳に話
 しといてよかった」
絵梨佳「ホントだよ~真実に聞くまで知らなかったもん。普通に帰るとこだった」
真実「ところで絵梨佳、今日私の友達も一緒にいていい?限定ケーキの話したら興味持
 っちゃって」
女性信者A「ども」
女性信者B「お邪魔しまーす」
絵梨佳「えー全然いいよ!大勢の方が楽しいじゃん。ね、光」
   絵梨佳、笑顔で光を振り返る。
   光の様子に首を傾げる絵梨佳。
絵梨佳「どしたの?顔色悪いけど」
真実「ほら、光も行こうよ」
   真実が笑顔でゆっくりと近づいてくる。
   光、咄嗟に後ずさる。
   真実がいた方と反対のドアが開かれる。
   一同の視線がドアへ向く。
   担任が顔を覗かせる。
担任「なんだ、まだいたのか」
絵梨佳「先生か~びっくりした」
担任「こんなところでいつまでも残ってるなよ。部活無いなら帰りなさい」
   光、担任に皆が気を取られている隙に、担任が入ってきた方のドアから飛び出す。
   真実、驚いて教室を飛び出す。
真実「待ちなさい、光!」
   真実、女性信者AとBが光を追っていく。
   残された担任と絵梨佳、状況が呑み込めない。

〇同・正門前
   青いスポーツカーが停まっている。
   運転席には持田が乗っている。
   時折時計と校舎を見ている。
   校舎から走って出てくる光を見つける。
   笑顔になる持田。
   その後ろから真実が走ってきている。
   持田、厳しい表情になり急いで車から降りる。
持田「光ちゃん!こっち!」
   持田が手を振って呼びかける。
   それに気づいた光、必死で持田に駆け寄る。
   持田、光を自分を盾にして護りつつ真実を睨みつける。
   真実、持田を見て一瞬驚きの表情を見せ、光を睨みつける。
真実「なんのつもり、光」
   光、持田の手をそっと退けて前に出る。   
光「ごめん真実、私はもう御剣会に行かない」
真実「それでいいの?このままじゃ光、不幸になっちゃうよ。せっかく一緒に頑張って
 きたんじゃない。日本のため、会長のため、私たちのために頑張ろうよ。一緒に戻ろう、
 光」
光「行かない」
真実「不幸になってもいいの!?御剣会を信じない者は皆地獄に落ちるんだよ。今度こそ
 天罰に遭って死んじゃってもいいの!?」
光「私を殺そうとしたのは天罰じゃない、真実でしょう!」
真実「私は殺そうとしていない」
光「突き飛ばしといてよく言う…」
真実「あなたにちゃんと運が貯まっていればあんなことで死ぬわけないもの。死んでし
 まったとすれば、それはちゃんとお祈りしていなかったあなたのせい。私じゃない」
光「…言ってること、おかしいよ…」
真実「このままじゃ不幸になるだけだよ。光、幸せになりたくないの?おばあちゃんの病
 気も治したいんでしょ?お祈りしに行こうよ。幸せになるために頑張らないといけな
 いんだよ」
光「幸せになるための努力は、お祈りじゃないよ!」
真実「私はお祈りで幸せになってる!間違ってない!」
   鬼気迫る形相で叫ぶ真実。
   やや気圧される光。
   持田が光を後ろに追いやる。
持田「そこまでにしてもらおうか。昨日のことは被害届も出してる。これ以上光ちゃん
 に付きまとうって言うなら警察を呼んでもいいんだよ。君が正しいというなら、警察
 で説明すればいい」
   真実、悔しそうに唇を噛み締める。
   光と持田を睨みつけながら踵を返す。
真実「光。私、諦めないからね」
   校舎へと戻っていく真実。
   安堵の表情を浮かべる光と持田。
光「ありがとうございます、持田さん」
持田「来て正解だっただろ?」
   笑いあう光と持田。
持田「さ、家まで送るよ。乗って」
光「はい」
   車に乗り込む光と持田。
   青いスポーツカーが走り出す。

〇藤林家・全景(夕)
   スポーツカーが前に停まる。
   光が降りて家に入っていく。
   ゆっくりと発車するスポーツカー。
光「ただいまー」

〇同・玄関(夕)
   帰ってきた光を陽子が出迎える。
陽子「おかえり!あんたどうやって帰ってきたの?連絡なかったけど。何もなかった?」
光「うん、実は持田さんが送ってくれたの」
陽子「え、持田さんが?」
   陽子、慌てて玄関の外に出るがすぐに戻ってくる。
陽子「光!そういう時はお礼しなきゃいけないから待っててもらってよ!」
光「ごめんなさーい」
   光の携帯が鳴る。
   開くと絵梨佳からの電話。
   光、部屋に向かいながら電話に出る。
光「もしもしー?」

〇同・光の部屋(夕)
   光、部屋に入り鞄を机の上に放るとベッドに寝転び電話を続ける。
絵梨佳(声)「あ、光?もーどうして今日先に帰っちゃったの?」
光「ごめん、用事があって…」
絵梨佳(声)「こっちは大変だったんだからね」
   光、思わず起き上がる。
光「大変って?」
絵梨佳(声)「光帰ってこないから、結局真実とお友達二人とカフェ行ったんだけどさ、
 なんか急に宗教みたいなこと言い出して、もう超しつこいの」

〇カフェ(回想)
   絵梨佳の隣に真実、向かいに女性信者AとBが座り、絵梨佳が出られないよ
   うにしている。
   必死で話す女性信者AとB。
   困惑を隠せない絵梨佳。
光(声)「それで…どうしたの?」
絵梨佳(声)「しつこくてムカついたからさ、『こんな監禁みたいなことしていいと思っ
 てんの?警察呼ぶよ』って言ってやったの」
   不機嫌を露にして言い放つ絵梨佳。
   たじろぐ真実と女性信者AとB。
   強引に真実を退かして席を立ち店を出ていく絵梨佳。

〇藤林家・光の部屋(夕)
   絵梨佳と電話で話す光。
絵梨佳(声)「ホント大変だったんだから。あれなんなの?真実別人みたいだった」
光「そうなんだ…」
絵梨佳(声)「ま、あんた流されやすいしその場にいなくて良かったのかもね」
   光、苦笑い。
絵梨佳(声)「あんまりムカついたからウチのお母さんにも話しちゃった。お母さんビ
 ックリしてたよ。即先生に電話してたし」
光「そうだろうね」
絵梨佳(声)「せっかくの限定ケーキも食べそこねちゃったんだよ、光!明日絶対食べ
 に行こ!」
光「あ、いいね」
   雑談を続ける光。
   話しながら机の引き出しから数珠の入ったポーチを取り出し、そのままゴミ
   箱へ放り込む。

〇私立翌檜学園・全景

〇同・2年5組
   授業風景。
   皆が真面目に授業を聞いている中、光は誰も座っていない真実の席を見る。
光(M)「あの日から一週間。真実は登校していない」
   光、携帯のメール画面を開く。
   真実からのメールは来ていない。
光(M)「真実からの連絡は何もない。諦めてくれたんだろうか」

〇陽子の車内(夕)
   学校帰りの光と陽子。
陽子「そういえば、真実ちゃんのトコ引っ越すらしいわよ」
光「え、そうなの?」
陽子「ご両親が離婚なさったそうなの。あの家は取り壊すんですって」
光「じゃあ…真実も」
陽子「引っ越すでしょうね。これでもう会わなくなるんじゃない?」
光「……」
真実(回想)「私はお祈りで幸せになってる!」
   鬼気迫る表情の真実を思い出す。
   ゆっくりを目を閉じる光。

〇新築アパート(朝)
   住宅街の一角に立つ、新築らしいキレイな二階建てのアパート。
   その二階角部屋「持田」の表札。

〇同・持田家ダイニング(朝)
   壁にカレンダーがかかっている。2031年5月のカレンダー。  
   持田徹(35)が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。
   歓声をあげながら、持田玲央(4)が上半身下着姿で走り回っている。
   藤林光(27)が幼稚園の上着を掴んでその後ろを追いかけている。
光「こら玲央!いい加減服着なさいっ」
玲央「やーだよー」
光「玲央っ!」
   慌ただしく走り回る姿を微笑ましそうに眺める持田。
   玲央が持田の近くに走ってくる。
光「パパ、捕まえて!」
持田「よーし」
   持田、走ってきた玲央を抱き上げる。
   はしゃぐ玲央。
持田「こら玲央、ママを困らせるんじゃない」
光「ありがとう!ほら制服着て」
   光、玲央を捕まえて制服を着せる。
   持田、飲み終わったカップを流しに置くとスーツの上着を着る。
持田「さてと。ほら玲央、幼稚園行くぞ」
玲央「はーい」
   持田が玄関に向かう。
   幼稚園鞄を抱えた玲央、光が後に続く。

〇同・持田家玄関(朝)
   玄関先に家族写真が何枚か飾ってある。
   中には生まれたばかりの玲央を抱いて
   明るい笑顔を見せる光江と、隣でポーズを取る光の写真も。
   靴を履き立ち上がる持田と玲央。
   光は二人を笑顔で見つめる。
持田「じゃあ、いってきます」
玲央「いってきまーす」
光「いってらっしゃい。気を付けてね」
   光、笑顔で手を振る。
   持田と玲央、手を繋いで家を出ていく。
   玄関ドアが閉まり、一息つく光。
   鼻歌を歌いながら部屋へ戻っていく。

〇同・共用廊下(朝)
   持田が玲央と話しながら歩いていく。
   進行方向から女性(真実だが、誰かわからない)が歩いてくる。
   女性、持田に会釈しすれ違っていく。
   持田、なんとなく振り返って女性の背中を見る。
玲央「パパ?」
持田「あ、あぁごめんごめん。行こう」
   再び歩き出す持田と玲央。
   
〇同・持田家ダイニング(朝)
   食器を洗っている光。
   チャイムが鳴る。
   不思議そうに顔を上げる光。
光「忘れ物でもしたのかな」
   光、手早く手を拭いて玄関へ向かう。

〇同・持田家の前(朝)
   ドアの前、立っている女性の背中。
   表札に目をやってまたドアを睨みつけるように見ている。

〇同・持田家玄関(朝)
   光、ドアを開けようとする。
   一瞬手が止まり、ドアスコープを覗く。

〇ドアスコープの向こう(朝)
   女性…遠野真実(27)が立っている。
   無表情でこちらを見つめている。

〇新築アパート・玄関(朝)
   光、青ざめる。
光「うそ…!」

〇ドアスコープの向こう(朝)
   真実、ニヤリと笑顔を見せる。

〇新築アパート・玄関(朝)
   ヨロヨロとドアから離れる光。
   ドアノブがガチャガチャと回される。
   光、その場から動けない。
   ドアがドンドンとノックされる。
   光、耳を押さえてうずくまる。
   玄関中に、ドアを乱暴に叩く音が響く。

                END
      

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