艶書 歴史・時代

逢引きのため、男女と下女、下男が恋文を交わそうする話です。 人 物 はな(15)大白屋の長女 井原屋新吉(15)井原屋の長男 きく(35)大白屋の下女 福助(27)井原屋の下男 たま(40)女筆指南
五千万堂 9 0 0 07/09
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第一稿

〇日本橋
   タイトル「文政3年」
   往来するたくさんの人でにぎわっている。
   
〇料理茶屋「千川」・入口
   門の脇には、「御料理 千川」の文字。
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〇日本橋
   タイトル「文政3年」
   往来するたくさんの人でにぎわっている。
   
〇料理茶屋「千川」・入口
   門の脇には、「御料理 千川」の文字。
   
〇同・廊下~座敷
   中庭に面した廊下。
   はな(15)とたま(35)が話ながら歩いている。
はな「さすがは、名店、どれもおいしかったですね」
きく「次から次に料理が出てきて、私は少し目が回りました」
   はな笑う。
   はなときく、座敷に通りかかると井原屋新吉(15)に給仕女が恋文を渡している。
   目を剥く新吉。
新吉「あぁ……」
はな「ごめんなさい」
   ときくの手を引いてそそくさと立ち去る。
   新吉、何か言いたげにはなに手を伸ばす。
    
〇大白屋・外観(夜)
   大通りに面した、蔵造りの商家。店前には、大の字の紺に染め抜かれた暖簾がかかってい       
る。
   
〇同・はなの部屋(夜)
   行燈に火がともっている。
   はなが文机で、女庭訓往来を読んでいる。
   きくが縫物をしながらそれをみている。
はな「……今日の千川の」
きく「あぁ、おいしかったですねぇ」
はな「いや、井原屋の」
きく「新吉さんですか」
はな「えぇ、新吉さん。あれは、恋文ですよねぇ」
きく「えぇ」
はな「恋文のやり取りになるんですか?」
きく「さぁ、ただあれだけの男前で、家柄もいいですから、遅かれ早かれ、誰かとはそういう仲になるでしょうねぇ」
はな「そうですか……。新吉さん、何か私に言いたそうにしてました」
きく「(吹き出して)そうでございますか」
はな「嘘じゃありませんよ」
   
〇町屋街
   中小の商家が軒を連ねている。
   きくが歩いている。
   きくの後ろから福助(27)がやってくる。
   福助、袖から煙草入れを取り出す。
福助「そこのかた。落とし物です」
   と煙草入れをたまに差し出す。
きく「はぁ、私のでは……」
福助「手前、井原屋に仕えております、福助といいます」
きく「はい」
福助「新吉様からはな様へとこれを」
きく「……」
福助「人に見せてはわるいものだから、必ず開けずにたま様に」
きく「はい」
   と煙草入れを受け取る。
福助「それと新吉様からの言伝ですが、「千川」での手紙には、断りを入れておいたとのことです」
きく「はぁ、そうですか」
   
〇大通り
   きくが跳ねるように走っている。
   
〇大白屋・外観

〇同・はなの部屋
   はなが座っている。はなの傍らには煙草入れが転がっている。
   きくがはなの前に立ち、恋文を読んでいる。
きく「……はづかしく存じ上候へども今更に堪えかね我が思ひ筆のままに申し上げ候遣るかたなき心御察し遊ばし何卒〱麗しき御帰りごとお待ち申上参らせ候」
はな「え、艶書」
きく「すぐにお返事を書きましょう」
   ×   ×   ×
   はなが文机に向かい、筆を持っている。
きく「新吉さんに悪い虫のつく前に、逢引のお話を進めましょ。ただ、返す刀でお返事ですから、兎に角恥じらい溢れる書きぶりのものがいいですよ」
はな「はい……。どのように書き始めるべきですか?」
きく「あぁ……では、御文字下され排し参らせ候」
   はながその通りに書くが、凄く字が汚い。
きく「ちょっ」
はな「……」
きく「……私が代筆いたします」
はな「うそっこじゃないんだから、私が書きたいです」
きく「……筆指南に行かれてはいかがですか?」
   
〇女筆指南所・外観
   軒下の看板に「女筆指南所」の文字。

〇同・中
   はながたま(40)と向かい合い、恐る恐る字を書いている。
   きくは、少し距離をおいて、座っている。
たま「はて、どうしたもんか」
きく「どうにかしてください」
はな「お願いいたします」
   ×   ×   ×
   たまがはなに手本を示している。
   ×   ×   ×
   はなが文机に食らいつくように字を書いている。
   ×   ×   ×
   たまがはなの後ろから手を取って、文字を書いている。
   きくが肘枕で寝転がっている。
   
〇同・入り口
   たまがはなときくの見送りをしている。
たま「とにもかくにも、大事なのは気持ちでございますしょうから」
はな「……はい」
きく「お世話になりました」
   
〇日本橋
   はなとたまが歩いている。
きく「はな様、やはり私の代筆で、早いうちにお返事をした方が……」
はな「……それでも、自分の気持ちは自分で伝えるのが筋だと思います。どうでしょうか……」
きく「……」
   
〇大白屋・床の間(夜)
   はなが布団に横になっている。
   ため息をつくはな。
   
〇同・外観

〇同・はなの部屋
   きくが土下座している。
   そのわきには、菖蒲をあしらった派手な着物が置かれている。
きく「もうしわけございません」
はな「どうしたんですか急に」
きく「魔が差し、いえ、大白屋の末長い繁盛を願い、このたま、手前勝手と承知のうえ、代筆にて新吉様にお返事を差し上げました」
はな「ちょっと!」
きく「明後日には、平清でのご会食も取り付けてしまいました」
はな「えぇ……、私はどうすれば……」
きく「私も同伴いたしますから、こちらを」
   とはなに着物を差し出す。
   まんざらでもないような表情のはな。
      
〇同・はなの部屋(夜)
   行燈の薄明かりのなか、はなが一人で恋文を書いている。
   
〇料理茶屋「平清」・入口
   料理茶屋「平清」の文字。
   はなときくが中に入っていく。
   
〇同・座敷
   個室。
   はなときくが隣同士で座り、その正面には、新吉と福助が座っている。
新吉「この度はお会いするご機会を下さり、ありがとうございます」
はな「とんでもございません」
新吉「お返事からその文字から、はなさんの御心の清らかさが滲んでおりました」
きく「そうでございましょう」
はな「……実を言いますと」
きく「はなさま」
はな「こちらからのお返事はすべてたまの代筆です。本当の私のお返事はこちらです」
   と懐から手紙を取り出す。
   新吉、手紙を受け取り、開く。
福助「まぁ、こちらも私の代筆ございます」
新吉「おい」
はな「え?」
福助「いいじゃないですか、お二人でお勉強なされば」
新吉「……今度二人で、内緒で手習い塾にでもか通いましょう」
はな「是非」

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