<登場人物>
秋元 太郎(29)/巨大狼 狼男
藤田 千代(22)カフェの店員
九重(60)カフェの店長
ダイゴ(26)巨人
ヒロシ(20)同
<本編>
○市街地(夜)
夜空に輝く満月。人々の悲鳴。
体長六〇メートルほどの巨人・ダイゴ(26)が暴れている。ダイゴの姿は体が大きい事以外は普通の成人男性。
ダイゴ「本当に大きくなれた……」
建物を蹴って破壊するダイゴ。
ダイゴ「この力で……僕は生まれ変わるんだ!」
そこに現れる体長六〇メートルほどの巨大狼。
ダイゴ「出たな、狼。僕の邪魔はさせな……」
ダイゴに襲い掛かり、体を食いちぎる巨大狼。倒れるダイゴ。その際、多くの建物がその下敷きになる。
ダイゴ「ぎゃあ! う、腕が……!?」
倒れたダイゴに馬乗りになる巨大狼。
ダイゴ「お願い、止めて。助けて……」
ダイゴの体を食らう巨大狼。ダイゴの悲鳴は、やがて弱くなり、消えていく。
× × ×
血だまりが広がる。
巨大狼が人間・秋元太郎(29)の姿に変わっていく。その周囲を囲む刑事達。
刑事「秋元太郎。殺人および……」
秋元「器物損壊および建造物侵入の現行犯で逮捕、でしょ?」
刑事「まったく……お前も懲りない奴だな」
秋元「へへっ」
○メインタイトル『待ち合わせは萬月の日以外で』
○警察署・外観
○同・前
出てくる秋元。伸びをする。
秋元「あ~、娑婆の空気は美味いな。(立哨する警察官に向け)お勤め、ご苦労さんです」
九重の声「何だ、今日だったのか」
○喫茶店・外観
ドアを開けた際の鈴の音。
九重の声「だったら連絡の一つでも入れろ」
○同・中
カウンター席に加え、テーブル席もある店内。
カウンター席でコーヒーを飲む秋元と、カウンター内に立つ九重(60)。
九重「迎えの一人でも居た方がいいだろうに」
秋元「そんな、おやっさんに手間かけさせるほどの事じゃないって」
九重「俺じゃねぇ。千代に迎えに行かせたよ」
秋元「言えばよかった。次は絶対そうするから」
九重「まったく……」
ドアが開き、やってくる藤田千代(21)。
千代「おはようございま……あれ、太郎さん。随分とお久しぶりです」
秋元「おう、千代ちゃん。元気そうで何より」
千代「ずっとお店来ないで、どこで何やってたんです?」
九重「こら、千代」
秋元「男には、言えない事もあるんだよ。でも、千代ちゃんが『どうしても』って言うなら、特別に……」
千代「まぁ、いいや。そんな事より聞いてくださいよ」
秋元「あぁ、うん。聞くよ。何?」
千代「今度の誕生日デート、いきなりキャンセルされちゃったんです」
秋元「へぇ。千代ちゃんとのデートをキャンセルするなんて、ひどい男も居るもんだ」
九重「お前、何かしたんじゃねぇのか?」
千代「違います~。それが、今度の私の誕生日、満月なんです」
秋元と九重の手が止まる。
千代「ほら、最近出てくる狼怪獣って、満月の夜に出てくるじゃないです? あと、巨人も。それで日和っちゃったらしくて」
九重「それは、相手も千代の身の安全を考えてくれたんだろ?」
千代「それは……そうかもしれないですけど」
九重「だったら……」
秋元「だったら、俺とデートする?」
千代&九重「え?」
秋元「俺、その日空いてるよ?」
九重「おい、何言って……」
千代「本当です? いいです。私も誕生日を独りで過ごしたくないんで」
秋元「じゃあ、決まり。やった、ついに千代ちゃんと初デートか。とっておきのプレゼント、用意しなきゃな」
千代「やった~、期待値爆上げです」
九重「おい、千代。いつまでも無駄口叩いてねぇで、さっさと仕事の準備しろ」
千代「は~い。じゃあ、太郎さん。ドタキャンしないでくださいね」
秋元「おう」
店の奥に姿を消す千代。
九重「……どうするつもりだ?」
秋元「そうだよな~。結構急な話だし、店予約できっかな……?」
九重「デートの話じゃねぇ」
秋元「わかってるって」
九重「出来もしねぇ約束しやがって」
秋元「わかんないよ? 確かに巨人が出るのは必ず満月の日だけど、満月の日に必ず巨人が出る訳じゃないでしょ?」
九重「まったく……」
楽しそうにスマホを操作する秋元。
○同・外観
夜空に輝く満月。
○商店街
花屋から出てくる秋元。比較的フォーマルな服装で、手には花束。
秋元「さて、と。(腕時計を見て)まだ大分早いけど、先に行って待っとくか」
遠くで悲鳴や建物の壊れる音。
秋元「何だ!?」
遠くに見える体長六〇メートルほどの巨人・ヒロシ(20)の姿。ヒロシの姿も体が大きい事以外は半グレの成人男性そのもの。
× × ×
暴れるヒロシ。
ヒロシ「かははっ、あの薬マジで凄ぇな。最高かよ!」
× × ×
ヒロシを見上げる秋元。逃げる人々に逆行するように走り出す。
九重の声「待て、太郎」
足を止め、振り返る秋元。そこに立つ九重。
秋元「おやっさん。何で……?」
九重「随分とおしゃれな格好じゃねぇか」
秋元「そりゃあ、デートだもん。おしゃれするのは最低限のマナーでしょ?」
九重「でも、千代が待ってるのは(ヒロシの方を指し)アッチじゃねぇぞ?」
秋元「……」
九重「太郎」
秋元「……じゃあ、おやっさんにあの巨人、止められんの? 無理でしょ?」
九重「……俺は、な。けどこの国には警察だって、自衛隊だっているだろ?」
秋元「でもアイツらだって、簡単に人を殺せはしないだろ?」
九重「だからって、何で太郎がやるんだよ。大事な予定を蹴って、命かけて戦って、刑務所入れられて。ちょっとは自分の事、大事にしたらどうだ?」
秋元「ありがとう、でもさ……」
九重に花束を放ってよこす秋元。
秋元「誰かがやらなきゃならない事なら、それが俺にしかできない事なら、それ以上の理由なんていらないでしょ」
九重「太郎……」
秋元「という訳でおやっさん。代打、任せた」
九重「今度出てくる日は、ちゃんと連絡入れろよな」
秋元「気が向いたらな」
九重に笑いかけ、駆け出す秋元。
九重「……バカ野郎が」
× × ×
ヒロシの近くまでやってくる秋元。満月を見上げる。
秋元「うおおおお!」
秋元の姿が巨大狼に変わる。
対峙する巨大狼とヒロシ
ヒロシ「来ると思ったぜ、巨大狼。最高かよ。俺が速攻で片付けてやんよ」
駆け出す巨大狼とヒロシ。
○駅前
比較的フォーマルな服装をして立つ千代。逃げてくる人々を見て不安な表情。
そこに差し出される花束。
千代「(笑顔を浮かべ)遅いです……」
持ち主が九重と気づく千代。落胆。
千代「マスター、何で?」
九重「太郎は来れなくなった」
千代「……そっか、残念です。今度店に来たら、文句言ってやります」
九重「あぁ。(小声で)いつになるかわからねぇけどな」
千代「何か言ってます?」
九重「いいや。次待ち合わせする時は、満月じゃねぇ日にしとけ」
千代「本当です。そうします」
九重「さぁ、逃げるぞ」
千代「……はい」
逃げ出す千代と九重。振り返る千代。遠くで戦う巨大狼とヒロシを睨む。
千代「狼怪獣め。人のデート滅茶苦茶にして、絶対許さないです」
ヒロシの頭を食いちぎり、満月に向け咆哮する巨大狼。
(完)
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