雨札の志士たちへ ドラマ

金融庁がある発表をした。老後、年金の他に二千万円かかると……それに加え、若者の貧困問題も重なり人々は不安を抱えながらの生活になった。税金は増える一方で収入は上がらない……収入格差は広がった。カジノ法案の可決、個人ビジネスでのカジノ経営が可能になった。その結果……人々は救いを求め、宝くじ売り場に向かうようになった。
M.K. 4 0 0 05/08
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第一稿

<登場人物>
松岡郁也(25) フリーター
高田健吾(25) ニート

源田義忠(66) 老人ホームの住人
野本達郎(68)    〃
岡久 守(75)    〃
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<登場人物>
松岡郁也(25) フリーター
高田健吾(25) ニート

源田義忠(66) 老人ホームの住人
野本達郎(68)    〃
岡久 守(75)    〃
坂川 豊(63)    〃

本郷輝雄(53) 悪徳消費者金融


ヤクザ
受付

<本文>
○渋谷スクランブル交差点
  行き交う人々。
ナレーション「金融庁がある発表をした。老後、年金の他に二千万円かかると
 ……それに加え、若者の貧困問題も重なり人々は不安を抱えながらの生活にな
 った。税金は増える一方で収入は上がらない……収入格差は広がった。カジノ
 法案の可決、個人ビジネスでのカジノ経営が可能になった。その結果……人々
 は救いを求め、宝くじ売り場に向かうようになった」

○商店街・道
  閑散とした商店街。
  歩いている二人組の男の足。

○同・宝くじ売り場
  「宝くじ」と書かれた看板。
  歩いてる二人の男達の後ろ姿。
  宝くじ売り場前で立ち止まる男足、スニーカーに穴が空いている。
  見上げる松岡郁也(25)と高田健吾(25)。
松岡「覚悟はできたか?」
高田「おう」
松岡「これで貧乏生活とは、おさらばだ」
高田「札束を掴んでる俺たちが見えるぜ」
松岡「俺はタピオカの代わりにキャビア入れて飲む!」
高田「俺はパンケーキの上からキャビアかける!」
  売り場に座る老婆。
松岡「(一歩踏み出し)しゃあ!ババア、スクラッチ一枚!」
高田「俺にも一枚!」
  × × ×
  地面に這いつくばる松岡と高田。
松岡「……どうして当たらないんだ」
高田「女神……俺たちを見捨てないでくれ」
  松岡の手に握られた財布の紐が風に靡く。
松岡「くそっ!こんなんじゃ奨学金返せねぇ!」
高田「地獄の日々に終わりを告げたいのに」
  松岡、宝くじの看板を見上げる。
高田「こんな、買い方じゃダメなのかな?」
  松岡、財布を見る。
  高田、腕時計を見る。
  立ち上がる二人。
松岡「(財布をトレー置き)これで本当に最後だ!」
高田「(時計をトレーに置く)もう、迷わねぇ!」
二人「ババア!スクラッチ!」
  × × ×
  地面に這いつくばる松岡と高田。
松岡「クソが!あのババア、ぜってぇ仕組んでやがる」
高田「なんてババアなんだ、俺たちに必要なのは勝利の女神なんだよ」
松岡「女神どころか、シワくちゃの死神か疫病神だな」
高田「鎌なんて物騒な物持ちやがって!」
松岡「俺、最近の日雇い稲刈りばっかだったんだ。鎌が付いてやがった」
高田「最近アプリで知り合った人がネカマだったな」
  松岡の財布と高田の時計が目の前に投げつけられる。
男の声「お前ら、宝くじ舐めてるのか?」
  見上げる松岡と高田。
  目の前に立つ源田義忠(66)。
源田「宝くじってのは、無闇やたらに買うもんじゃない。特にスクラッチはタイ
 ミングだ」
  源田、宝くじ売り場に歩いて行く。
  源田を目で追う松岡と高田。
  源田を遠目で見ている野本達郎(68)と岡久守(75)。
野本「おい、アレって……」
岡久「まさかだとは思うが、源じゃないか?
 ロト潰しの源!」
野本「そうだ、ロト潰しの源だ!二十五年前
 突如現れた遅咲きのギャンブラー。当てすぎて潰した宝くじ売り場は数知れ
 ず」
  老婆からスクラッチを受け取る源田。
  松岡と高田、静かに見守る。
  スクラッチを削る源田、老婆に渡す。
  スクラッチを見た老婆、途端に口から泡を吹き出して後ろに倒れる。
松岡「すげぇ」
高田「ロト潰しの源……」
松岡「あのジジイにできて、俺たちにできないはずはねぇ!」
  財布をトレーに置く松岡、時計をトレーに置く高田。
  × × ×
  口から泡を吹いて後ろに倒れる松岡と高田。
源田「お前ら、なにやってんだ」

○喫茶店・中
  オシャレなレコードが曲を奏でる店内。
  窓際の四人席に座る松岡と高田、源田。
源田「お前ら、宝くじ舐めすぎだ」
松岡「別に舐めてねぇよ。いつだって真剣だ。当たる事した考えてねぇよ」
高田「外れる気で宝くじ買う奴はいないでしょ」
源田「その考えが舐めてるんだ。当たる外れる……?違うね、やるかやられるか
 だ」
松岡「カッコつけても意味ねぇぞ」
高田「確かに。やるかやられるか。俺たちは宝くじに集う狩人みたいなもんさ」
源田「いや外れてるよね」
松岡「ああ、スクラッチ削るとき鼻歌口ずさんでるかも」
源田「狩人違いな」
高田「心臓の鼓動、つまり高揚感が歌なのさ」
源田「だから、その狩人じゃないって」
松岡「何が狩人だ。財布の中身しか狩られてねぇよ」
源田「バカだな。お前ら宝くじで勝つための方法知ってるか?」
松岡「運」
高田「偶然」
源田「それは勝つと言わんだろ。勝ったその先を見るんだ」
高田「その先?(首をかしげる)」
源田「なんで宝くじ買ってるんだ」
松岡「大金が欲しいからに決まってんだろ」
源田「なら、なんで働いて金を稼がない?無駄に使わず、貯めたほうがいいんじ
 ゃないか?」
高田「(鼻で笑う)分かってねえな。純粋に働かずに大金が欲しいんだ!」
松岡「(ドヤ顔)」
源田「まっすぐな目でクソみたいなこと言うな」
高田「まっすぐに決まってる。ニートの真ん中には、まっすぐの芯が入ってるか
 らな」
源田「芯じゃねぇよ。長音符だよ」
松岡「まぁ、なんだ。しのごの言わずに当てたところを見せてくれればいいんだ
 よ。そしたらこっちも信用してやってもいい」
源田「舐めるなよ。若造が」
  立ち上がる源田、喫茶店を出て行く。
  ガラス越しに源田を見る松岡と高田。
高田「なんか策でもあるのか?」
松岡「そりゃ、あのジジイが本物なら当たった取り分少しくらいくれるだろ」
高田「それもそうだ」
  窓越しの源田、宝くじ売り場の前で後ろに倒れる。

○商店街・宝くじ売り場
源田「(後ろに倒れながら)どうして……」

○住宅街
  高田、源田に肩を貸して歩いている。
  高田の前を歩く松岡。
松岡「じーさんよ。結局、運だったって事じゃねえか」
源田「こんなはずでは……」
高田「これも空っぽ」
  高田、空になった年金袋を握りつぶす。
松岡「そんな日もあるさ。サクッと次で俺の奨学金分を稼いでくれれば良いんだ
 よ」
源田「……」

○老人ホーム・入り口
  階段とスロープ、自動ドアの入り口の外観。

○同・廊下
  角を曲がる松岡、高田、源田。
  ドアの上に「談話室」と書かれたプレート。
  談話室の前に立つ、源田。
源田「君たちが知る事ない本当の宝くじを教えてあげよう」
松岡「いいよ別に、運なんだからさ」
高田「俺たちが知りたいのは、運の掴み方」
  ドアを開ける松岡。

○同・談話室
  円卓を囲む岡久、野本、坂川豊(63)。
  四人の前にはお茶の入った湯呑み。
  戸棚の上にラジオ。
  松岡と高田、中に入って見渡す。
松岡「ただの憩いの場じゃねぇか」
高田「これのどこが、宝くじに関係あるんだよ」
源田「(中に入り)本当の運とは、自ら行かなくても寄ってくるものなのさ」
  源田に気づく岡久、立ち上がる。
岡久「源さん。おかえりかい」
  岡久、虹色の生地に四つ葉のクローバーがデザインされたTシャツを着てい
  る。
源田「ちょっくら散歩にな」
  松岡、高田を見る。
松岡「(心の声)なんだこの爺さん、着てるのもが独特すぎる」
高田「(心の声)まて、虹も四つ葉も幸運の象徴とされている。しかも、横の杖
 の先にドリームキャッチャー!」
  岡久の横の杖、持ち手にドリームキャッチャーが付いている。
  野本、急須でお茶を入れる。
  野本の首に、大きな琥珀のネックレス。
野本「散歩は良いですよね」
松岡「(心の声)こっちも、どでかい幸運身につけてやがる」  
高田「(心の声)それに隣の爺さん、あれも強烈だ」
  終始笑顔で和かな坂川。
高田「(心の声)笑う門には福来たる!」
  開いた窓から入ってくる青い鳥が坂川の肩にとまる。
  青い鳥、坂川の肩に糞をする。
松岡「(心の声)まさか幸せの青い鳥でさえジジイたちの味方をするのか!」
  椅子に座る源田、お茶を受け取る。
源田「二人とも突っ立ってないで、こっちに来て座りなさい」
岡久「彼らは、いったい……?」
源田「ちょっとした縁でな」
野本「ほー。茶は飲めるかい?」
松岡「(近寄り)は、はい」
  松岡、机に置かれた湯呑みを見る。
  湯呑みの中に茶柱。
松岡「(心の声)まさか!」
  机の上の全湯呑みを見る。
  全湯呑みに茶柱。
  野本、入れたてのお茶を松岡と高田に差し出す。
野本「火傷せんようにな」
  松岡と高田、恐る恐る湯呑みを見る。
  二人の湯呑みに茶柱。
松岡「(心の声)おい!俺たちまさかとんでもねぇ所に足を踏み入れちまったん
 じゃねぇか?」
高田「(心の声)間違いない。こんな幸運なものを身にまとい、自ら幸運を生み
 出す……ここはまさに、運の巣窟だ!」
松岡「(心の声)運の巣窟だと!」
  二人を見る、源田、野本、坂川、岡久。
源田「で、宝くじ……当てたいんだっけ?」
  呆気にとられる松岡と高田。
  ガラッと談話室ドアが開く。
  ポケットに手を突っ込んだスーツ姿の本郷輝雄(53)が立っている。
本郷「よう、ジジイども。元気してっか?」
  改まる源田、野本、坂川、岡久。
本郷「今日も良い働きしてくれたんだってな。話は聞いてるぞ」
源田「いえいえいえ。全然です」
本郷「源ちゃん、謙虚だねぇ。おっ!坂ちん、今日も良い笑顔!」
  笑顔の坂川。
松岡「(高田に耳打ち)なんだ、この人」
高田「(小声)偉そう」
  本郷、岡久のTシャツを見る。
本郷「岡っち、そんなに俺のあげたTシャツ気に入ってんの?」
岡久「はい。毎日着ております」
本郷「(笑って)おいおい、洗え洗え」
  松岡と高田、顔を合わせる。
  野本、本郷にお茶を出す。
本郷「(湯呑みを見て)おー。誰でも茶柱急須も使ってくれてるのね。感心する
 なぁ」
源田「滅相もないです」
本郷「そんな君たちが、借金に悩むなんて可哀想に……」
  松岡、源田を無表情で見つめる。
本郷「サクラのバイトだけじゃ、儲からないでしょ。そこで良い話持ってきたん
 だよ」
  部屋の隅に寄る松岡と高田。
松岡「(小声)おい!このジジイたち単なる借金まみれの軍団じゃねぜか」
高田「(小声)クソ!幸運すぎる所持品にダマされた。よくよく見たら胡散臭い
 顔だ」
松岡「(小声)散財する前にズラかるぞ」
  忍び足でドアに向かう松岡と高田。
本郷「源ちゃん。今回も一儲けしてよ」
源田「は、はい」
  と、部屋を出ようとする松岡と高田に気づく。
源田「本郷さん、そこの彼らもお金に困ってるそうです」
  松岡と高田、動きを止める。
松岡「(心の声)おいクソジジイ!俺たちを巻き込んでんじゃねぇ!」
高田「(心の声)健全な若者を地に落とすなんて、腐ってやがる」
本郷「(振り返り)なに?君たちもお金に困ってるの?」
松岡「い、いえ」
高田「貯金は……たくさん」
本郷「そうなの?」
源田「二人とも、奨学金で大変だそうです」
  源田を睨む松岡。
  本郷、嬉し顔で高田に顔を近づける。
  仰け反る高田。
本郷「そうだ、その奨学金は僕が肩代わりするよ」
  閻魔顔の源田、坂川、岡久、野本。
  松岡と高田、顔を合わせる。
松岡「いえ、大丈夫です」
高田「あ、こんな時間だ」
松岡「予約してた時間だ」
高田「そうだ、帰らないと」
松岡「ありがとうございました!」
高田「あざした!」
  と、出口に向かって走り出す。
  出口目前で松岡と高田の前にヤクザの集団が現れ、出口を塞ぐ。
  立ち止まる二人。
本郷「(後ろから)なに?予約?」
松岡「……明日だったような」
高田「キャンセルしたんだった……」
  × × ×
  借用書に押されている松岡の判。
  テーブルに座る本郷、目の前に松岡と高田。
  本郷、松岡と高田の借用書を胸ポケットにしまう。
本郷「君たちもこれで仲間だ!」
  松岡と高田の後ろに源田、坂川、岡久、野本が立っている。
  笑顔の坂川、高田と肩を組む。
高田「(肩を払う)」
源田「本郷さん。早速、先ほどの話を聞きたいんですけども」
本郷「あー忘れてた忘れてた。新しい宝くじをやろうと思ってねー」
岡久「宝くじですか」
本郷「まぁ数字当てるだけの話よ。でも仲間の君たちには当てて欲しい、だから
 一から九までを当てるだけのシステムにしようと思ってね」
野本「簡単ですね」
源田「ほんとうに当てるだけですか?」
本郷「当てるだけ。簡単でしょ」
坂川「(笑顔で頷く)」
  本郷、宝くじのシートを置く。
本郷「これで一億だから。期待してるよ」
  窓から見える空が曇る。
  × × ×
  ホワイトボードに書かれた一から九の数字。
  テーブルの席に座る高田、源田、坂川、岡久、野本。
  ホワイトボードの横に立つ松岡。
松岡「まず……なんで、あんたらジジイのせいで借金背負わなきゃいけないん
 だ!」
高田「しかも明らかな闇金業者で」
源田「まぁ判を押したのは我々ではないですし」
松岡「押させたようなもんだろ!」
源田「(とぼける)はて?」
高田「老人だからって、容赦しないぞ!」
野本「落ち着いて」
岡久「宝くじを当てれば良いだけの話ではないか」
坂川「(笑顔で頷く)」
松岡「(ため息)じゃあ数字どうする?」
野本「こういう場合は、縁起の良い数字を書くのがセオリーじゃ」
松岡「って言ってもなぁ」
高田「七は?ラッキーセブンの」
  坂川、ラジオをつける。
ラジオ「台風十七号の接近しています。防風対策に努めてください」
高田「……」
  松岡、ホワイトボードの一と七を消す。
源田「一と七は、今回は外れてもらおう。それより五十六はどうした?今日、来
 てないのか?」
松岡「五十六?」
野本「仲間の木村五十六じゃ。ほれ」
  野本の指差した方に、木村五十六の遺影。
岡久「源ちゃん。忘れたのかい?こないだ死んだじゃないか」
源田「そうだそうだ。忘れてた!」
野本「歳をとると、物忘れが酷くなるものじゃね」
岡久「源さんもですか?」
  笑い合う源田、野本、岡久。
  松岡、無言でホワイトボードの五と六を消す。
高田「そんな事より、数字!」
  話を聞かずに笑う源田、野本、岡久。
坂川「四が良いと思うが……どう?」
  坂川を見る松岡と高田。
  微笑む坂川、口の隙間から見える歯が四本。
  松岡、ホワイトボードの四を消す。
高田「ダメだ。全く役に立たない」
松岡「全くだ。残るは二、三、八、九のどれかか……」
高田「九は不吉だから消して良いよな」
松岡「(九を消す)三択か……」
源田「なにを勝手に進めてる。こんな時こそ、経験の力だ」
岡久「年齢を重ねるからこそ見えるものがある」
野本「若者には決して見えないものがな」
坂川「信じて見てもらえないか」
松岡「そこまで言うなら」
坂川「じゃあ先輩に任せようか。頼みますよ。せーの!」
源田「二!」
野本「三!」
岡久「八!」
高田「クソも合ってねぇ!」
松岡「そもそも。そんなのが見えてたら、こんな状態になってないだろうが!」
源田「みんな、打ち合わせと違うぞ」
野本「え?三って」
松岡「そんな事どうでもいい!数字を言え」
坂川「じゃあ四」
松岡「そんな不吉な数字なんて書けるか!」
坂川「残り物には福があるぞ」
松岡「残ってねぇよ!」
  と、揉め合う。

○走る車・内
  後部座席に座る本郷、スマホを見る。
  揉める松岡たちがスマホに映っている。
本郷「良いねー。どうせ当たりもしないのに、マジになっちゃって。ほんと儲か
 る」
  ボンネットに雨粒が当たる。

○老人ホーム・談話室
  折れた岡久の杖。
  ごちゃごちゃになった談話室内。
  疲れ果てて倒れている松岡、源田、野本、坂川、岡久。
高田「なにやってんの」
松岡「(天井を見て)でも、答えは出たようだぜ」
源田「(天井を見て)ぶつかり合って、答えがでる……か。この歳で青春を味わ
 えるとはな」
  天井を見ている野本、坂川、岡久。
  三本になった坂川の歯。
  汚れたホワイトボード、二だけが残っている。
松岡「勝利のVサインって事で良いじゃねぇか」
  十七時の時計。
高田「ゆっくりしてる場合か!宝くじ売り場は基本十八時で閉まるんだぞ」
  飛び起きる松岡。
  ゆっくりと起き上がる源田、野本、坂川、岡久。
松岡「さっさと行くぞ!」
源田「おう」
坂川「仲間と共に」
岡久「夢のために」
野本「これからのために」
  と、談話室を出て行く。

○同・玄関
高田「大丈夫か……」
  玄関の前に立つ松岡、振り返る。
松岡「行くぞ!」
  松岡の後ろに立つ源田、野本、坂川、岡久。
  ドアから飛び出す松岡、源田、野本、坂川、岡久。
  遅れてくる高田、ラジオを持っている。
高田「これ」
ラジオ「現在、台風十七号は勢力をあげ日本列島を直撃しています。外出は避
 け、各自非難に努めてください」
  暴風雨の中、立ちすくむ松岡、源田、野本、坂川、岡久。
松岡「でも、俺たちは行くしかねぇんだ」
源田「行かなければな」
高田「この雨じゃ……」
野本「気にすることはない。信じるんじゃ」
岡久「(頭を拳で殴る)クソ!クソ!すまない。杖の無い私には、雨で濡れたス
 ロープを越えることはできない」
高田「……」
岡久「(高田に近づき)これを持って行ってくれないか?」
  岡久、ポケットに手を入れる。
岡久「私の年金、全てだ」
  岡久、ポケットから取り出した三百円を高田に渡す。
高田「わかりました。連れて行きます」
岡久「ありがとうございます」
  高田、岡久を見ずに通り過ぎる。
高田「急ぐぞ。後一時間しかねぇ」
松岡「はいよ」
源田「年寄りの体力、舐めるなよ」
  暴風雨の中に消えて行く松岡、高田、源田、野本、坂川。

○宝くじ売り場・バックヤード
  入り口を映したモニターを見る本郷。
本郷「そろそろかな。しかし、こんな日に来るか普通」

○同・入り口
  レインコートの長蛇の列ができている。
  最後尾に並ぶ松岡、高田、源田、野本、坂川。
源田「こんなに……」
松岡「弱気か?」
高田「それより時間が……」
坂川「十八時まで後二十分だぞ」
野本「この雨風では、体が耐えきれんかもじゃ」

○同・バックヤード
  モニターを見る本郷。
本郷「気づかないと、閉店だぞ。ジジイ」
  モニターに映るレインコートを着たマネキン。
本郷「利息が楽しみだ」

○同・入り口
  列で震える松岡、高田、源田、野本、坂川。
松岡「クソ!全然進まねぇ」
源田「こっちの体力が持たん」
坂川「私も腰が……」
  強く風が吹く。
  叫ぶ野本、頭上を飛んでいくカツラ。
野本「どうやら、私もここまでのようじゃ」
  禿げた野本が立ちすくむ。
源田「達さん」
野本「すまない。一点ものなんだ」
  と、飛んで行ったカツラを追いかける。
坂川「達さーん!」
源田「嘘だろ……達さん」
松岡「まさか」
  と、前のレインコートを脱がす。
高田「お前、何を」
  脱がされたレインコートからマネキンが現れる。
高田「……達さん」
源田「違うわ!」
松岡「どうりでな、怪しいと思ったんだ。流石に動かなすぎだろ。それにヤクザ
 のおっさんが簡単に買わせる訳無いだろ。もしこれで俺たちが買えなければ利
 息分儲かるんだからな」
源田「なるほど」
高田「(レインコートを脱がして行く)」
松岡「どうせ、この動きも見てるんだろ」

○同・バックヤード
  モニターに映る松岡。
本郷「感が良いな、だが宝くじが当たるとは限らん」

○同・入り口
  先頭まで歩いて行く松岡、高田、源田。
松岡「そうと分かれば、こっちのもんだ」
高田「最後に勝つ」
源田「キャビアの話でもするかい?」
  腰を抑えた坂川が立ち尽くす。
  松岡、高田、源田の後ろ姿。
坂川「(心の声)あとは頼みます。どうやら、私は、ここまでみたいです。四、
 諦めてないです」
  笑顔の坂川、歯が全て抜けている。
  購入口に出されるマークシート。
松岡「あとは、当たるだけ」
高田「当たるだろ。ロト潰しの源もいるし」
源田「(鼻で笑う)それは昔の話だ」

○同・バックヤード
  本郷、前のめりでモニターを見る。
本郷「ロト潰しの源だと!二十五年前突如現れ……突然消えた伝説の男がどうし
 てここに……いやそんなはずはない」
  源田の姿がモニターに映る。

○同・入り口
  受付、シートを機械で読み込む。
受付「こちら、二でお間違い無いですか?」
  サイドモニターに映る『二』の文字。
松岡「はい」
源田「はい」
受付「こちらのサイドモニターに結果が映りますので、ご確認ください」
  サイドモニターを凝視する松岡、高田、源田。
  列後方で笑顔で立つ坂川。

○商店街
  カツラを追いかける野本。

○老人ホーム・談話室
  お茶を飲む岡久。

○宝くじ売り場・バックヤード
  固唾を吞んで見守る本郷。

○同・入り口
  サイドモニターに映る『二』の文字。
松岡「行けぇ!」
  サイドモニター、『二』から『ハズレ』に変わる。

○同・バックヤード
  高笑いする本郷。
本郷「馬鹿め。数字は四だからな。利息はいただきだ。あと五分で閉店だしな」

○同・入り口
  膝から崩れ落ちる高田。
高田「終わった。もう、どうしようもない」
松岡「確かに終わったな。でもな、まだ終わってねぇんだ。だろジジイ」
源田「ああ。宝くじは一つじゃない」
松岡「二百と三百どっち削る?」
源田「二百でいい」
松岡「ここからが本番だ」
  松岡、当たったスクラッチを見せる。
源田「ロト潰しの源、ここに復活だ」
  と、当たったスクラッチを見せる。
  パンイチになった松岡と源田。

○同・バックヤード
本郷「(モニターを見て)そんなはした金」

○同・入り口
  スクラッチを削る松岡と源田。
松岡「行くぜぇ!」
源田「しゃぁ!」
  削られるスクラッチ。
松岡「(削って)千、五百、一万、二百」
源田「(削って)五万、二百、二百、千」
  と、削るたびに当たって行く。

○同・バックヤード
  電話をかける本郷。
本郷「どういうことだ、確率的にあんなに当たるなんてありえない。当たらない
 ように設定しろ」
  本郷、電話を切る。
本郷「(心の声)これで、当たることはない。無駄な足掻きだったな」

○同・入り口
  削り続ける松岡と源田。
松岡「どうだジジイ。あの頃に戻れたか?」
源田「ああ」

○ラブホテル(回想)
  二十五年前の源田、ベットで女と寝ている。
  ヤクザが源田を蹴り起こす。
ヤクザ「おいわれ!なに人の女と寝てんねん!」
源田「(裸で正座)え、いや……彼氏いないって……」
女 「この人が無理やり」
ヤクザ「あん?無理やりやっとんか?」
源田「いや、合意の」
ヤクザ「それ犯罪やで。仕方ない、有り金全部で許したるわ」
  (回想終わり)

○宝くじ売り場・入り口
  源田、削る手を止める。
源田「(心の声)取り戻そうと必死に買ってたな……」
  立ち上がる高田、拳を握る。
源田「思い出したよ。買わされるんじゃ当たらねぇ。買うから当たるんだ」
松岡「当たった先のことなんて、どうでもいい。予想が、道のりが、記入が楽し
 いから買いたくなる。当たって更に楽しいのが宝くじだ!」
  サイドモニターに、当たった金額が映し出されていく。

○同・バックヤード
本郷「(驚く)何故だ!機械の設定はした、ありえない。設定をも超えるほどの
 強運だというのか」
  モニターに映る松岡と源田。
本郷「認めてやるよ。あんたらの強運……かかって来い!」

○同・入り口
  削り続ける松岡と源田。
松岡「行くぜ!」
源田「身を削って、心を削って、スクラッチを削ってやる!」
受付「あの、予定枚数は終了しました」
  呆気に取られる松岡と源田。

○同・バックヤード
本郷「(高笑い)終わりだ。終わりだ。お前らの人生もな」
  モニターから、高田の声。
高田「あれ?」

○同・入り口
  スクラッチを見せる高田。
高田「これ、当たってるよね」
  高田のスクラッチを見る松岡と源田。
松岡「確かに当たってる」
源田「ほんとだ、しかも一等……」
高田「(喜ぶ)最後の最後に女神が微笑んでくれた」
松岡「やったな微笑みどころかドヤ顔だぞ」
源田「良いとことりやがって」
  暴風雨が晴れ、雲間から光が差し込む。

○同・バックヤード
本郷「こんな事……」
  泡を吹いて倒れる本郷。

○同・入り口
  喜ぶ松岡、高田、源田。
高田「まさか、もらった三百円が奇跡起こすとはな」
松岡「これで、全員の借金もチャラだ」
源田「残りは無いが、良いとしよう」
松岡「残った分で、パーっとやりますか」
源田「仲間たちと呼ばんとな」
高田「その前に……、予算増やす?」
松岡「もちろん」

○商店街
  パンイチになった松岡、高田、源田、野本、坂川、岡久が歩く。
ラジオ「現在、台風十七号は台風の目に入りました。油断せず防災に努めてくだ
 さい」
  暴風雨に包まれる。
  終わり

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