歩きスマホするなら死ね アクション

高校の下校途中、突然スマホが爆発した相葉勝利(18)たち、その原因は歩きスマホによるものだった。勝利たちのスマホの爆発を皮切りに全国でスマホの爆発が勃発する。システムエンジニアの松岡郁也(25)、刑事の廣木哲雄(47)らと事件の解決に挑む。
M.K. 84 0 0 02/19
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

登場人物
松岡 郁也(25) システムエンジニア

相葉 勝利(18) 警視総監の息子

廣木 哲雄(47) 捜査二課長 刑事
江田 優子(32) 捜査二課 刑事
...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

登場人物
松岡 郁也(25) システムエンジニア

相葉 勝利(18) 警視総監の息子

廣木 哲雄(47) 捜査二課長 刑事
江田 優子(32) 捜査二課 刑事
折原 忠 (24) 捜査二課 刑事

相葉 勝一(59) 警視総監

根本 風大(18) 勝利の同級生
荊木 征人(18) 勝利の同級生

松岡 光 (26) 郁也の兄
松岡 成美(52) 郁也の母
渡辺 海斗(31) 郁也の元上司

署長
刑事A〜C
男性アナ
出前のおじさん
コメンテーター
司会者


○歩道(夜)
  スマホ画面の明かりが暗闇の中に浮いている。
  スマホゲームをしながら歩く男の後ろ姿。

○道路(夜)
  黄色の点滅信号。

○コンビニ・駐車場(夜)
  道路沿いのコンビニ。一台のトラックが駐車している。

○同・トラック車内(夜)
  缶コーヒーを飲む松岡光(26)、スマホをいじっている。
  サイドミラーに歩きスマホで通りすぎる男の姿が映る。
  バイブの着信音、ピッの音で消える。
松岡光「(電話中)どうした、寝ないのか?」
男の声「(電話越し)まぁ、暇だったから」
松岡光「なら勉強しろよ、エスシー?になるんだろ」
男の声「(電話越し)エスイーね」
松岡光「そうそう。それを言おうと思ってたんだよ」
男の声「(電話越し)しっかりしてよね」
松岡光「(笑って)悪い悪い」
男の声「(電話越し)相変わらず元気そうで安心したよ。眠くなってきたから切
 るわ」
松岡光「おう。お腹冷やすなよ」
男の声「(電話越し)お休み。仕事頑張って」
  スマホを胸ポケットにしまう松岡光、手作り弁当を一気に食べる。
  トラックのエンジンがかかる。

○同・駐車場(夜)
  左折していくトラック。

○道路(夜)
  一台のトラックだけが通行している。

○同・トラック車内(夜)
  運転する松岡光。
  ルームミラーに家族写真が吊るされ、揺れている。
  母子家庭の写真、松岡光の顔だけが見える。

○同・交差点(夜)
  信号が赤から青に変わる。
  一歩踏み出す男の足。

○同・トラック車内(夜)
  家族写真越しに青信号と横断する男が見える。
  男に気づき、咄嗟にハンドルを切る松岡光。

○同・交差点(夜)
  電柱に激突するトラック。
  尻餅をついた男の後ろ姿、横に画面の光るスマホが落ちている。

○同・トラック車内(夜)
  ガラスの飛び散り、荒れた車内。
  ボンネットに白い煙が見える。
  頭から出血した松岡光がエアバックにもたれかかる。

○太田高等学校・外観
  チャイムが鳴る。

○同・校門
  門に寄りかかってスマホで遊ぶ根本風大(18)と荊木征人(18)。
  カバンを手に持って現れる相葉勝利(18)。
勝利「まだ、やってんの?」
風大「当然!やらない理由がない」
征人「勝利も、やればいいじゃん」
勝利「俺は……進路で忙しいから」
征人「決まってるようなもんじゃないの?」
勝利「それでも、勉強は大切でしょ」
風大「低速になったって、正直に言えよ。エッチな動画見てたって」
勝利「ちげぇよ。見てねぇよ。低速だけど……仕方ないだろ、親父がハッキング
 されるとかって理由でワイファイないんだから」
征人「警察官は、お堅いねぇ」
風大「息子はスマホ見て、お硬くなって」
勝利「(カバンで風大を殴る)バカな事言ってないで帰るぞ」
  歩き出す勝利、後ろをゲームをしたまま付いて行く風大と征人。
  勝利、振り返る。
  風大と征人、画面を見たまま通り過ぎる。
勝利「おい、歩きスマホやめろって」
征人「勝利も、してたでしょ」
風大「(嫌味っぽく)低速で、暇だから構って欲しいんでしょ」
勝利「ちげぇ」
  突然、爆発する風大と征人のスマホ。
  呆気にとられる勝利。
  地面に落ちた風大と征人の手。
  気を失って倒れる征人。
  血まみれになった風大の手首から煙が出ている。

タイトル「忘れないで」

○太田総合病院・待合室
  震えて落ち着きのない勝利、パニックを起こしている。
  腕を組んで勝利を見ている廣木哲雄(47)、隣に折原忠(24)がいる。
廣木「携帯が爆発したくらいで、なんで警察が動かないといけないんだ。電気屋
 じゃねぇんだぞ。そもそも警察ってのは、働いたらダメなんだよ。何故か分か
 るか?」
折原「経費がかかる……とか」
廣木「警察が動くって事は事件が発生するって事なんだよ。事件はない方がいい
 だろ?」
折原「確かに」
  調書を持って現れる江田優子(32)。
優子「新人に変な事、教えないでもらえますか。一応、私が教育係なんで」
廣木「俺の刑事学を語ってたんだよ。で、どうだった?」
優子「突然、爆発したそうよ。両手は元に戻らないって」
廣木「じゃあ、事件性は無しって事で帰りましょう」
優子「(横目で勝利を見る)そうもいかないんですよ」
廣木「あのガキがどうした?」
優子「警視総監の息子よ。狙われてる可能性があるとかで護衛しろ。上からそう
 言われてるの」
廣木「携帯の不備は電気屋の管轄だろ」
折原「そうでもないですよ。最近はIOCテロと言って、電子機器を使ったテロ
 もあるくらいですから」
廣木「(折原の首を絞める)俺は、めんどい事は、したくないって言ってんの」
優子「詳しいわね」
折原「スマホの爆発は、SNSで見かけますから」
廣木「(立ち去る)後は、お前らでなんとかしとけ。子守は、ごめんだ」

○太田警察署寮・101号室(夜)
  電気を点ける折原、勝利を入れる。
折原「(窓開けて)ちょっと埃っぽいけど気にしないで」
勝利「……はい」
折原「足りない物あったら言ってね」
勝利「ありがとうございます」
折原「(部屋を出て行く)」
  ベッドに横になる勝利、目を瞑る。
  × × ×
  (フラッシュ)
  血まみれの風大の手から、煙が出てる。
  × × ×
  (フラッシュ)
  トラックのボンネットから上がる白い煙。
  × × ×
  ノックの音で目をさます勝利。
折原「(入って来て)これ日用品ね」
  
○太田警察署・大会議室
  百人ほどの会議室。
  続々と刑事が入り、殺伐としている。
  三人がけの机に座る優子と折原。
優子「廣木さんは?」
折原「出かけるって言ってました」
優子「(ため息)」
  ドアが開き署長に続き、相葉勝一(59)が部下を連れて入ってくる。

○太田高等学校・前・駄菓子屋
  古びた駄菓子屋。

○同・レジの奥
  店主の横でリモコンを握る廣木。

○アナログテレビの監視カメラ映像
  風大と征人のスマホが爆発する映像。
廣木「つうか……歩きスマホすんなや」

○太田警察署・大会議室
  目の前の机で立って話す署長。
署長「昨日起こりました、太田高等学校前、スマートフォン爆発事件に関して、
 スマートフォン内の破損データから遠隔操作が行われた可能性があるとして合
 同捜査本部を立ち上げる事になりました」
刑事達「(騒つく)」
相葉「(机を叩いて立ち上がる)早急に事件の解決を!」
折原「(小声)息子絡んでるからですよ」
署長「合同捜査本部は、警視庁公安と太田警察署捜査二課に加え、サイバー犯罪
 およびサイバー対策におけるシステム構築のアドバイザーとして民間の専門家
 に協力を仰いでいます」
  × × ×
  出て行く相葉に続く部下たち、優子と折原を睨んで行く。
  机に座ったままの優子と折原に署長が近づく。
署長「警視総監の頼みだ、しっかりと頼むよ」
優子「はい」
署長「(出て行く)」
折原「完全に出世の腰巾着じゃないですか」
優子「にしても、どこから手を付ければいいのかサッパリ」
  後ろから、パソコンを持って現れる松岡郁也(25)。
松岡「そうですね。もう一度、同じような事が起きればいいんですけどね」
折原「……どちら様ですか?」
松岡「すいません。私、サイバー犯罪対策のシステムエンジニアをやってます松
 岡と申します」
折原「あー、署長が言ってた」
廣木「(後ろから)にしても物騒な事言うな。もう一回起きたらって」

○同・取調室
  刑事に囲まれて、取り調べを受ける勝利。

○同・捜査二課
  各自の机に座る廣木、優子、折原。
  松岡、空いた席に座る。
優子「どこ行ってたんですか!」
廣木「ちょっとな。それより、さっきの発言だ。刑事としては、いただけねぇ」
優子「突っかからないでください」
廣木「うるせー」
松岡「解析データの資料は、お読みになりましたか?」
優子「(資料を渡し)見てください」
廣木「(資料を見る)」
松岡「スマートフォンを遠隔操作し、バッテリーの電圧に細工。電圧を操りバッ
 テリーのコイルに負荷をかけて、爆発する仕組みです。そして遠隔操作は、各
 地のルーターを経由してる為に追跡は不可」
廣木「つまり、どう言う事だ」
折原「捜査できない状況にいます」
廣木「(欠伸をして伸びる)ならメシだ、出前とるぞ。表にも出てこない犯人に
 構ってる時間はねぇよ」
折原「(メニュー表を持って出て行く)」
廣木「どこ行くんだよ。最初は俺だろ」
折原「勝利くんのところですよ」
廣木「メシの用意くらい上がやれよな」
  パソコンをいじり始める松岡。

○同・取調室
  ドアから顔を出す勝利、電話している。
  出前のおじさんが歩いてくる。
  岡持ちの上に画面のついたスマホがある。
出前のおじさん「やー、すいません。警察署は迷いますわ」
  岡持ちの上のスマホが爆発する。

○同・捜査二課
  非常ベルが鳴る。
  寝ていた廣木が目を覚ます。
廣木「なんだ?」
折原「(入ってくる)取調室前で、スマホが
爆発したそうです!」
廣木「ほんとか?」
  慌てて出て行く廣木、松岡、折原。

○同・取調室
  爆発箇所を刑事達が囲んでいる。
  廣木と松岡、刑事達を掻き分けて最前に行く。
  白い粉がかかって、消化された岡持ち。
  廣木、取調室の中を見ると勝利が座っている。
廣木「完全に、狙いは坊ちゃんだな」
優子「(大慌てで走ってくる)廣木さん、大田区内で同様の爆発が多発。街中が
 大パニックです」

○走る車・内
  スマホフォルダーのナビ画面のスマホ、爆発する。

○大通り
  助手席から煙の出た車が対向車と正面衝突し、交通網が乱れる。

○商店街
  手から血を流した高校生。
  その高校生を撮影するカップル、スマホが爆発する。
  悲鳴を上げる女性。

○太田総合病院
  手首を怪我した急患の対応で、てんてこ舞いになっている。

○太田警察署・大会議室・入り口
  『大田区内スマートフォン爆発事件対策本部』の立て看板。

○テレビ画面・ニュース映像
男性アナ「本日正午、大田区内で使用されたスマートフォンが突然爆発する現象
 が多発しています。これを受けて政府は、スマートフォンの使用を控えるよう
 にとの事です」

○同・捜査二課
  テレビを見る廣木、優子、折原、勝利。
廣木「ったく、場所だけ借りて蚊帳の外かよ」
優子「仕方ないですよ」
廣木「子守は御免って言ってるだろ。アイツが恨まれるような事をしなければ、
 こんな事にならなかったんだぞ」
折原「勝手に決めつけないでください」
廣木「刑事の勘だ」
優子「それ当てつけです」
松岡「(入ってくる)あながち間違って無いかもしれませんよ」
勝利「(松岡を見る)」
松岡「(勝利を見て、廣木を見る)」
廣木「だろ」
松岡「プロファイリングって言った方が、かっこいいですけどね」

○同・大会議室
  意見の対立してる会議。
  相葉、腕を組んで会議の様子を見守る。
刑事A「プロファイリングの結果、犯人は機械の遠隔操作に詳しく、若者、即ち
 相葉勝利に恨みのある者の犯行かと思われます」
刑事C「そんなの、数が多すぎるだろ」
刑事A「それを大田区内に限定すると、二千人ほどになります。現住所と職業不
 明な住民を含めると、更に多いと思われます」
刑事B「警視総監狙いの犯行の可能性もある」
刑事C「そんな数、調べられる訳ないぞ。端末の不正アクセスのデータはないの
 か?」
刑事A「端末は全て破損し、データの抽出は不可との見解です」
相葉「(腰を上げ)では、二千人を調べるとするか」
刑事A「……」
刑事B「……」
刑事C「(頭を搔く)」
刑事全員「はい!」

○同・捜査二課
  勝利と対座する松岡、その様子を廣木、
優子、折原が見守る。
松岡「スマホを見せてくれませんか?」
優子「スマホは刑事さんに」
廣木「(スマホを出す)スマホの提出は任意だからな。俺が先に預かった」
松岡「(スマホをパソコンと繋ぐ)」
勝利「犯人の狙いは自分なんですか?」
松岡「分かりません」
廣木「可能性があるって事しか言えんな」
松岡「一先ず、解析してみましたが」
  と、パソコンを見せる。

○パソコン画面
  システムコードの羅列された画面。
  『.h』の文字。
松岡「これは僕のスマホの電圧に関するシステムコードです。ですが、彼のスマ
 ホには入っていません。先ほど折原さんのスマホも確認しましたが入っていま
 した」

○太田警察署・捜査二課
  松岡、立ち上がって窓を開ける。
折原「そのコードがなんなんですか?」
松岡「(窓の下を覗く)見せた方が早いと思います。(スマホ画面をつけ、外に
 捨てる)」
優子「何してるの!外に」
  窓の外から爆発。
廣木「その文字が入ってる携帯が爆発するって事か」
折原「(ガラケーを投げる)」
松岡「大丈夫ですよ。そのタイプはGPSの機能が無いので、距離の認識ができ
 ませんから曝発はしないと思います」
廣木「そのコードは簡単に変えられるのか?」
松岡「ぶっちゃけ、誰でもできますよ。やり方なんてネット調べたらいくらでも
 出てきますし、最近はアプリダウンロードとかで簡単に外部との接触ができま
 すから。スマホ内には簡単に入れるんです。見えないアプリって聞いた事あり
 ませんか?ワイファイも外部との接触ですし携帯会社がお年寄りを対象にした
 遠隔のサポートも同じ類と言えます」
優子「誰でも……ですか」
折原「そんなの犯人の特定できませんよ」
廣木「パソコン詳しくて、大田区内に絞ったら見えてこないか?」
優子「数が多すぎます。それに各地のルーターを経由してるって」
勝利「自分のスマホには、そのコードが入ってないんですよね」
松岡「はい。入っていません」
勝利「(ホッとする)」
  松岡、パソコンのボタンを押してを閉じる。

○札幌・すすきの
  電話をして歩くキャバ嬢、スマホが曝発する。

○福岡・天神・大画面前
  大画面に映る、大田区のニュース。
  ニュースを見る群衆の横を歩きスマホする男性のスマホが曝発。
  パニックになる駅前。

○道頓堀・俯瞰(夜)
  橋の上で爆発が多発する。

○太田警察署・大会議室(夜)
  疲弊した刑事の人達。

○同・捜査二課(夜)
  積み重ねられた資料とHDD。
  パソコンで爆発直前の監視カメラ映像を見る優子と折原。
  廣木、パソコンを閉じる。
廣木「帰る!時間の無駄だ」

○同・廊下(夜)
  帰り支度の済んだ勝利と松岡がすれ違う。
勝利「(お辞儀)お疲れ様です」
松岡「お疲れ様です。先ほど、コードは入っていないと言いましたが気をつけた
 方がいいとは思いますよ」
勝利「はい。今は、父もやってくれてると思うので信じてます」
松岡「そうでしたね。守ってもらってください」
勝利「……」
松岡「(立ち去る)でわ」

○松岡家(夜)
  一人暮らしのワンルーム。パソコン画面の明かりだけが付いている。
  松岡、入ってきてパソコンの前に座る。
  パソコンをいじる松岡、写真が出てくる。
  松岡と松岡光と母親の写真。

○テレビ・スタジオ
  朝のニュース番組。
男性アナ「先週から発生したスマホ爆発現象ですが、政府は歩きスマホ、車内で
 の電源オフの徹底を呼びかけています」
コメンテーター「今更、そんな事を呼びかけてもね。当たり前の事でしょ。でき
 てないのなんて若者ばっかだ」
司会者「そうでも無いと思いますよ。駅とかで歩きながら、ずっとゲームしてる
 三十代四十代もいますし」
コメンテーター「だとしてもね、なんで当然の事が出来ないかな。手首無くなっ
 ただけで、文句言うなって話ですよ。人に迷惑かけてたんだから」
司会者「だからと言って、犯罪を擁護して良いわけではありません」

○電気屋・テレビ・ニュース
男性アナ「みなさん、歩きスマホはやめましょう。命を守る気遣いです」

○スマホ画面・動画投稿アプリ
  スマホが上に投げられ、爆発する映像。

○大通り
  淡々と歩く人達。

○太田警察署・屋上
  景色を見る松岡、後ろから廣木がくる。
廣木「なんか、パッとしねぇな」
松岡「何がですか?」
廣木「今回の事件が馴染んできてんだろ。普
通だったら犯人逮捕の流れになるはずなのに、擁護してるような世論も多い」
松岡「まあ、歩きスマホしなければいいだけの話ですからね」
廣木「でも犯罪は犯罪だ。犯人がいる限り逮捕してなんぼだろ。多くの人達を被
 害に合わせて」
松岡「そうですかね?。自業自得だと思いますよ。法律は守って、マナーは守ら
 ない人が多いですから。同じように裁かれても仕方ないかと」
廣木「見解の相違に否定はしない。けどな、二次被害もあるって事を忘れちゃい
 けねぇよ」
松岡「その見解には同意しますよ」

○同・大会議室
  資料を読む相葉、容疑者リストを一読。
  座っている優子と折原。
相葉「みんな、よくここまで絞り込んでくれた。今日は休んでくれ」
  気の抜ける刑事たち。
  対象外の容疑者リストの中に『松岡郁也』の名前がある。

○同・捜査二課
  座って伸びをする折原。お茶を持ってきて座る優子。
折原「あと四十人ほどですか……」
優子「証拠もないし、ここからは張り込みね」
折原「こういう時だけ、使われるんですよね。きっと……」
廣木「(入ってきて)したくないか?」
折原「まぁ。大変そうなので」
廣木「やらない方法ならあるぞ」
優子「刑事を辞めるって答えは、なしですからね」
廣木「言わねぇよ。先に犯人を見つけんだよ」
折原「あー、確かに。って、そんなの無理じゃないですか」
廣木「……」

○商店街・花屋
  花を買う松岡の後ろを勝利が通る。
  勝利に気づく松岡、呼び止める。
松岡「勝利さん……ですよね」
勝利「(止まって)あ、警察署で」
松岡「おやすみですか?」
勝利「はい。(松岡の花束を見て)彼女さんにですか?」
松岡「いえ、兄にです」
勝利「仲良いんですね」
松岡「(微笑んで)そうでもないですよ」
  と、持ってる花束を強く握る。

○太田警察署・捜査二課
  ソファで寝そべる廣木、容疑者リストを見ている。
廣木「これで全部か?」
優子「(ご飯を食べながら)刑事が絞ったリストです」
廣木「他は?」

○(回想)同・署長室
  署長に詰め寄る廣木。
廣木「どうして、ただの交通事故なんですか。明らかに、この学生の不注意でし
 ょ!」
署長「運転手が運転を誤った。そう決まったんだ」
廣木「遺族が知ったら」
署長「知りやしないよ。伝えてないんだから」
廣木「そういう問題じゃない。当事者は記憶を忘れ、そんな事もあったな程度に
 しか覚えてない。でも遺族はどうだ?死ぬまで記憶に残り続けんだよ」
署長「そうだ。我々も、そのトップの総監も同じ。罪悪感が記憶に残り続ける。
 仕方ない。その一言で解決だ。忘れたかったら酒でも飲め」
  (回想終わり)

○道路・交差点
  トラック事故のあった交差点。
  電柱の下に持ち手が潰れた花束が置かれている。
  花束を見つめる廣木、手を合わせる。

○公園
  ブランコに座る勝利、ユラユラと漕ぐ。
  相葉、勝利に近づいてくる。
相葉「勝利、こんなとこで何してる?」
勝利「別に。気分転換だよ」
相葉「気にすることはない。お前のせいではないんだ」
勝利「別に、特に何かした覚えはないから」
相葉「そうか……でも、用心しろよ」

○相葉家・勝一の部屋(夜)
  スーツを椅子の背にかける相葉、胸ポケットの携帯に着信。
  相葉、携帯を見る。

○相葉の携帯画面
  『僕は一生忘れない.h』の文字。

○相葉家・勝一の部屋(夜)
  相葉、メールを削除する。

○松岡家(夜)
  暗い部屋の中でパソコンをいじる松岡、
  立ち上がってカーテンを開ける。

○太田警察署・大会議室(朝)
  慌ただしく入って来る刑事達。
  席につく折原、隣に優子。
  相葉が前に座っている。
相葉「(鼓舞するように)我々は一刻も犯人を捕まえなくてはならない。連日報
 道されるニュースは警察の愚かさを毎日、国民に晒されているという事だ。国
 民を守る事が警察の役目、それができなければ存在する価値はない!どんな手
 を使ってもいい、警察の威信にかけて犯人を捕まえろ!」
刑事達「(湧き上がる)」
折原「急にどうしたんですかね」
優子「総監が言ってる事も分かる。毎日のニュースは、警察の有無を問うもので
 もあるからね」
折原「犯人の頭が良いんですよ。完全犯罪にどうやって目星を付けるんですか」
優子「(呆れて)それを見つけるのが私達よ」

○同・捜査二課
  ソファで新聞を読んでいる廣木。
  優子と折原が入ってくる。
廣木「やっぱ警視総監クラスになると声もでかいんだな」
折原「廣木さん、またサボりですか」
廣木「またってなんだ。忙しくしてたんだぞ」
優子「そうですか、何か見つかりました?」
  机を指差す廣木、机に資料の山がある。

○同・大会議室
  落ち着きのない相葉、眉間にシワがよる。
  開くドア。
  相葉、ドアを見る。
  入ってくる松岡、一礼する。
松岡「お久しぶりです」

○同・捜査二課
  資料を見る優子と折原。
廣木「これが、今回の動機に繋がる事件だ」
優子「ただの交通事故じゃないですか」
廣木「調書上はな。実際は違う」
折原「担当、廣木さんだったんですね」

○同・屋上
  街を見る松岡、後ろに相葉が立っている。
相葉「……」
松岡「逮捕したい……ですか?無理ですけどね。完全に無理ではないですが」
相葉「君の、お兄さんの件か」
松岡「あれは、事故だったんですよね?」
相葉「……そうだ」
松岡「仕方ないですよ。でも、歩きスマホは良くないですよね」
廣木「(入ってきて)よくねぇよ」
松岡「ですよね」
廣木「でも、お前は犯人になった。だから捕まえなくちゃならねぇ」
松岡「まだ犯人ではありませんよ。証拠がないですから」
廣木「お前の家に江田が向かってる。パソコンを押収すれば何か出てくるだろ」

○松岡家
  優子、中に入る。
  机からパソコンがなくなっている。
優子「(電話する)折原、パソコンはないわ」

○太田警察署・捜査二課
  スマホをしまう折原、出て行く。

○同・屋上
  スマホを見せる松岡。
松岡「無理ですよ、証拠は残っていません。世間ではサイバー犯罪とされてる今
 回の件も、これでは単なる事故です」
相葉「(レコーダーを出す)そうはならん」
松岡「さすがです。警視総監は、抜かりがない。でも……動機を問われたら困る
 のは警視総監ですよね」
廣木「これだけ注目する出来事の動機は、世論の注目の的……公表せずにいられ
 ない」
相葉「公表など恐れていない。義務ではないからな」
松岡「なら、仕方ないですね(スマホのボタンを押す)」
  爆発音と共に松岡の後ろから煙が上がる。
  各所で煙が上がっているのが見える。

○道路・車内
  運転している優子、窓から爆発が見える。
優子「どういうこと」

○商店街
  スマホを捨てる勝利、目の前で爆発する。
  爆発によって負傷した人が倒れている。

○大学・教室
  窓からスマホを捨てる学生たち。

○テレビ画面・緊急速報
男性アナ「全国の皆さん。現在、スマホが無作為に爆発する事件が多発していま
 す。以前は歩きスマホをすると爆発していましたが、今回は、突然爆発すると
 のことです」
  爆発音と共に映像が乱れる。

○太田警察署・屋上
  松岡の胸ぐらを掴む廣木。
廣木「早く止めろ!」
松岡「何してんですか、僕の機嫌を損ねないでくださいよ。責めるべきは僕では
 なく、あそこの人ですよね」
相葉「(ガラケーで電話する)勝利、大丈夫か?」
ガラケー「現在、電話に出る状況に」
相葉「(電話を切る)お前、何をした!」
松岡「僕は今、犯罪者になった。ちゃんと裁きは受ける。でも、それよりも伝え
 なきゃいけない事がある」
廣木「(松岡を落とそうとする)今すぐ止めろ!」
松岡「あんたもあんただ。あの時に少しでも踏み出してくれれば、兄さんも浮か
 ばれた」
折原「(入ってくる)廣木さん、今」
廣木「知ってる!」
松岡「だから逮捕してください。警察は悪を取り締まる人たちです。傷つける気
 はありません。なので無作為に爆発する対象には選んでいません」
折原「(私物のスマホに着信)」

○折原のスマホ画面
  『システムソースコード』の羅列文字。

○太田警察署・屋上
  松岡、廣木の手を振りほどく。
松岡「それが解除コードです。ワイファイと各種サーバーに流せば勝手にインス
 トールされて解除されていきます」
相葉「新人、それを私によこしなさい」
折原「(スマホを見て)分かりました」
廣木「おい!歩くなぁ!」
  爆発するスマホ。
  折原の手首から血煙が出る。
  悲鳴を上げる折原。
  廣木、着ているシャツで折原の手首を止血する。
  呆気にとられる相葉。
  燃えているスマホ。
松岡「ダメですよ、歩きスマホは。毎日、ニュースでやってるでしょ」
廣木「ふざけるな」
松岡「咄嗟の状況や他に意識が向いた時、忘れるんですよ。でも、これで折原さ
 んは絶対に歩きスマホはしなくなる。それに今のも警視総監が、よこせなんて
 言わなければ」
相葉「……」
廣木「もっと他に……」
松岡「僕には分かりませんでした。だって……法律以外の事を裁く方法は、あり
 ませんから」

○地下鉄
  歩きスマホをするオジさんと子連れの親子がぶつかる。
  × × ×
  駆け込み乗車をする女性、車内の男性とぶつかる。
  × × ×
  傘を横に持った男性の傘が、子供に当たる。
松岡「些細な事かもしれませんが、命に関わる可能性がある事なんです。でも仕
 方ないを理由に、何故か許されている行為なんです。意を唱えたところで改善
 されることはない」

○太田警察署・屋上
  松岡、各所で爆発した街を眺める。
松岡「加害者のくせに、被害者面するやつもいる。本当に殺したくなりますよ」
相葉「そんな事で根に持ったのか」
松岡「そんな事なんですよ。そんな事が、こんな事になるんです。警察も警察で
 事件性でしか判断しない。これから傷つく人をなくすための僕なりの意義で
 す」
折原「(拳銃を向ける)許しません。僕が何をしたって言うんですか」
廣木「やめろ」
松岡「……歩きスマホです」
折原「僕は、あなたを殺したいです」
松岡「(銃口に向かって歩く)殺してもらって構いません。どの道、死刑でしょ
 うし。それか無期懲役。どうなったっていいんですよ」
折原「(銃を強く握る)」
廣木「(銃口を自分の胸に当てる)」
松岡「(立ち止まる)」

○同・階段
  登っていく優子と勝利、一発の銃声に足を止める。

○同・屋上
  飛び散る血痕。
  銃口から上がる硝煙。
  入ってくる勝利と優子。
  銃で自らの手を撃っている廣木。
  相葉、勝利を見る。
相葉「無事だったか。携帯は?」
勝利「捨てたよ」
優子「(廣木に近づく)大丈夫ですか?」
廣木「(手首を抑え)痛えよ。痛えに決まってんだろ」
折原「……す、すいません」
優子「(折原を見て)あなたも、手……」
勝利「父さん、どう言う事?」
相葉「……」
松岡「説明しないんですか?まあいいです、罪を償わせたい訳じゃないですし。
 廣木さん、この爆発は十五時で終わります。終わったと同時に解除のシステム
 が拡散するので終息に向かいますよ」
廣木「(声を振り絞り)江田、アイツを止めろ!」
  松岡、屋上の柵に手をかける。

○(回想)松岡家(夜)
  電話をする松岡、ベッドに寝っ転がる。
松岡「お休み。仕事頑張って」
  × × ×
松岡「兄さんが事故?」

○太田総合病院・霊安室(深夜)
  白布を被せられた松岡光、傍らで松岡成美(52)が呆然としている。
松岡「(入ってきて)母さん!」
成美「(松岡を抱きしめ)郁也、光が、光が」
松岡「(成美を慰め)兄さんはどうして」
成美「……運転を誤ったそうよ。疲労もあったとかで」
松岡「(涙を堪え)そんな、そんなはずは」

○松岡の実家・和室(朝)
  松岡光の仏壇の前で独り言を言う成美。
  スーツの松岡、手を合わせる。
松岡「兄さん、行ってきます。母さんも朝ご飯食べてね」
成美「(ブツブツ独り言)」

○地下鉄・ホーム(朝)
  ホームを歩く松岡、歩きスマホの男性とぶつかる。
松岡「(咄嗟に)すいません」
男性「(舌打ち)」
松岡「……」

○システム会社・管理部
  パソコンで作業をする松岡、渡辺海斗(31)が資料を積み上げる。
渡辺「早く終わらせろよ」
松岡「……はい」

○松岡の実家・居間(夜)
  松岡、電気をつける。
  朝食がそのまま残っている。
  暗い和室で仏壇の前にいる成美。
松岡「母さん!いい加減、食べなよ!」
成美「(松岡を見る)光、光なのかい」
松岡「郁也だよ」
成美「あー、郁也かい」
松岡「(唇を嚙む)」

○満員電車の車内
  駆け込み乗車をする女性。

○システム会社・管理部(夕)
  資料の無くなった松岡の机。
  松岡、パソコンを閉じる。
渡辺「(書類を置く)これもよろしく」
松岡「……あの」
渡辺「何?」
松岡「……いえ」

○商店街・花屋(夜)
  駆け込む松岡、花束を買う。

○駅・入り口(夜)
  濡れた無数の足跡。混雑時の入り口。
  雨宿りをする松岡、空を見る。
  土砂降りの雨。
  ホームに歩き出す松岡、傘の先が花束を持つ手に刺さる。
  床に落ちた花束、通り過ぎた人に踏まれていく。
  花を拾おうとする松岡に傘が刺さる。
  松岡、傘を持った男性を呼び止める。
松岡「あの、傘が」傘を持った男性「何?」
松岡「傘が刺さって」
  傘を持った男性、舌打ちして睨み付ける。

○道路・交差点
  トラック事故のあった交差点。
  傘もささず、びしょ濡れで歩く松岡。
  ボロボロになった花束を電柱の下に置く。
松岡「兄さん、もう無理だよ。どう頑張っても、やっていける気がしないよ」
  通り過ぎた車の水が松岡にかかる。
  拳を握りしめる松岡、涙が溢れる。
  松岡の頭に傘が差される。
  廣木が傘を持っているが逆光で見えない。
廣木「(傘を渡して)兄ちゃん、風邪引くぞ」
松岡「(受け取り)ありがとうございます」
廣木「(立ち去る)」
  松岡の視線の先に、信号機の上にある監視カメラ。
  立ち上がる松岡、走り出す。

○システム会社・管理部(夜〜朝)
  濡れたままの松岡、パソコンを起動する。
  キーボードを打つ松岡の横に、ハッキングの本が置いてある。
  × × ×
  パソコン画面の右下の時計が『5:20』になっている。
  松岡、キーボードを強く押す。
松岡「これで、どうだ」

○松岡のパソコン画面
  トラック事故の交差点映像。
  飛び出してきた勝利を避けるように松岡
  光のトラックが電柱に突っ込む。
  巻き戻され、歩きスマホをする勝利が映る。
松岡「運転を誤った……ね」

○システム会社・管理部(朝)
  松岡、机を何度も叩く。
  出勤してきた渡辺、驚く。
渡辺「どうしたんだ急に、それより帰ってないのか?」
松岡「(渡辺を睨む)」
渡辺「おい、言えよ。仕事多いなら言ってくれれば、振り分け変えたのに(パソ
 コンを除く)お前、これどうやった?」
松岡「調べたらできました」
渡辺「このシステム、俺のシステムと合成してみろ。もっと凄い事できるぞ」
松岡「……はい」

○太田高等学校・校門
  スマホでゲームをしながら歩く勝利、風大、征人。
  電柱の陰から覗く松岡、歩き出す。
  松岡の前から歩いて来る勝利達。
  ゲームに夢中の勝利達、松岡が避けてすれ違う。

○システム会社・管理部
  松岡の机に置かれた退職届。
  (回想終わり)

○太田警察署・空中
  屋上から落ちていく松岡、手にスマホ。
  松岡、スマホの画面をつける。
  スマホの待ち受け画面に家族写真。
  松岡、胸の前にスマホを当てる。
  
○同・屋上
  爆発音と共に下を向く優子、折原、勝利、相葉。
廣木「(上がった煙を見て)静かになるなよ」

T「三ヶ月後」

○太田総合病院・整形外科・診察室
  ギプスをした廣木、医師によってギプスが外される。
廣木「(手の匂いを嗅ぐ)くっさ!」

○道路・交差点
  トラック事故のあった交差点。
  勝利と相葉、花束に向かって手を合わせる。

○テレビ画面・ニュース
男性アナ「あの事件から三ヶ月が経とうとしています。決して忘れてはいけませ
 ん。マナーを守る、簡単で単純な事ほど忘れてしまいます。マナーを習慣とし
 て身につければ、忘れても良いのかもしれません。スマートフォンの使い方
 を、すぐに覚えれる皆さんならマナーを身につける事は簡単だと思います」

○太田警察署・捜査二課
  ソファでテレビを見る廣木、自席で弁当を食べる優子。
廣木「アナウンサーの原稿って、誰が書いてるんだろうな」
優子「ディレクターじゃないんですか?」
廣木「毎日毎日、よく思いつく」
折原「(入ってきて)なに呑気に話してるんですか。仕事してくださいよ」
廣木「事件がないんだよ」
優子「あ、折原。手は大丈夫なの?」
折原「(義手を見せる)全然、慣れませんよ」
廣木「まぁ、あれだ。……歩きスマホすんな」
優子「さっきの男性アナに影響されて良いこと言おうとしたけど、思いつきませ
 んでしたね?」
廣木「うるせー」
折原「無理ですよ、遅刻魔ですから」
廣木「(外を見て)偶然、歩きスマホだったんだろうな。法律とマナーの差なん
 て、時代、技術、流行で勝手に決まってく。過去の記憶が、それらを測る指針
 になるんだよ。だから、忘れちゃいけねぇ……これならどうだ?」
  居なくなっている優子と折原。

○警視庁・会見場
  登壇する相葉、フラッシュに囲まれる。
相葉「今回のIOCテロ事件に関してですが、被疑者死亡のまま書類送検としま
 す。しかし、爆発の有無は現在も調査中です」

  終わり

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。