【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HS(ホストハウスの娘、双子の姉) 15歳
HT(ホストハウスの娘、双子の妹) 15歳
※ 絵や映像のない状態で脚本を読んでくださる方が名前を覚える負担を減らすために、ホストファミリーの名前は記号で表記しています。実際にはそれぞれの名前は決めてあります。
○ホストハウスへの道
地球家族6人が歩いている。
ジュン「山登りしたら、疲れたね」
父「ホストハウスまでは近いから、頑張ろう」
そっくりな双子の少女とすれ違う。
その後ろから、そっくりな双子の少年が歩いて来る。
タク「また双子だ」
ミサ「そうね。さっきから、双子ばかり見かけるわね」
ジュン「うん、山でも双子をおおぜい見かけたな」
○ホストハウスの玄関。
地球家族6人がホストハウスに到着。リコが玄関を開ける。
リコ「おじゃまします」
奥から声がする。
HM「どうぞお上がりください」
○ダイニング
地球家族6人とHMが座っている。紅茶とケーキが出されている。
HM「どうぞ、お召し上がりください」
父「いただきます」
HM「この家の家族なんですけど、主人がまだ会社にいます。そして、15歳の双子の娘がいて、妹のほうは、今日はコンサートを見に行くとかで帰りが遅いんですけど、姉のほうは上で勉強中ですので、今呼びますね」
母「あら、勉強中なら、申し訳ないわ」
HM「大丈夫よ」
HM、階段のところまで行く。ちょうどそのとき、HSが降りてくる。
HM「あ、ちょうどよかった」
HS「いらっしゃい」
母「こんにちは」
ジュン「この家も双子なんですか。今日、ここに来る前に山登りしてきたんですけど、双子と思われる二人組におおぜい出会いました」
HM「この星で生まれる子供は、全員双子ですよ」
ミサ「やっぱりそうですか」
HS「山登りっておっしゃいましたね。どうでした?」
ジュン「景色がすばらしかったですよ」
HS「私たちも、山が大好きです。ほら、あの写真」
HS、額に入れて壁にかけてある大きな写真を指さす。HF、HM、HS、HTの4人が写った写真である。HSとHTは、見分けがつかない同じ外見。
ミサ「あ、私たちが今日行ってきたのと同じ場所ですよ!」
ジュン「(写真に写っている双子の姉妹を見ながら、心の中で)二人ともかわいいなあ。今日はラッキーだな」
HM「(HSに)あ、ケーキ、あなたもお食べなさい」
HS「私はやめておく。来週、また身体測定があるから、体重が気になって食べる気がしないわ」
HM「身体測定も、毎月あるから大変ね」
母「身体測定が毎月あるんですか? でも体重計にしょっちゅう乗っていれば、太りすぎたりしなくていいですよね」
HS「え、そうなんですか?」
母「体重計に乗っているだけでダイエットになるといいますよ。毎日のように測定していると、太りすぎそうになってもすぐに気づいて、食べ過ぎに気をつけたりしますから、結果的にちょうどいい体重が保てるんですよ」
HS「そうか、それは知らなかったわ」
HM「それより、試験の準備は大丈夫?」
HS「大丈夫よ」
ジュン「試験って?」
HS「明日、学力試験なんです。その点数で、行ける高校が決まります」
父「試験の点数だけで、行く高校が決められるんですか」
HM「はい。もちろん学校ごとに特徴はあるんですけど、基本的には成績順です」
父「すみません。そんな大事な日に、泊まりに来てしまって」
HS「いいんですよ。みなさんに今日来てほしかったんです。特に、ジュンさんに」
ジュン「僕に?」
HS「機械に強いそうですね。ということは、物理もお得意ですか?」
ジュン「うん、まあ」
HS「ちょっと苦手なところがあって、教えてほしいんですよ。力学的エネルギーの保存則の話なんですけど・・・」
ジュン「うん」
HS「物体が斜面をすべるときに動摩擦力が働く場合の計算のしかたが、よくわからなくて」
ジュン「なるほど。後で教えてあげるよ。でも、君の年でそこまでできなくても十分じゃないかな」
HS「でも、私、一番いい高校に行きたいから。力学的エネルギーは学校でも習ったし、今回、応用問題が試験に出るんじゃないかってうわさがあるんです」
ジュン「よし、じゃあ僕が予想問題を出してあげよう」
HS「ありがとうございます。夕食後に声をかけます」
○しばらくして、ダイニング
ジュンがひとりで空想にふけっている。
ジュンがHSに勉強を教えるところを想像し、しまりのない表情をするジュン。
そこに、ミサが現れる。
ミサ「ジュン、なんかうれしそうね」
ジュン「いや、別に」
ミサ「そういえば明日は、みんなが試験を受けるって言ってたわね。ということは、HTさんもHSさんと同じ試験のはずよね。まだ帰ってこないけど、大丈夫なのかしら」
ジュン「そうだな。二人とも試験のはずだな」
ジュンがまだ空想にふける。HSとHTに囲まれながら勉強を教えるところを想像し、しまりのない表情をするジュン。
そこへ、HFが帰って来る。
HF「地球のみなさん、いらっしゃい」
ジュン「あ、おじゃましてます」
HF「HSは勉強中かな。HTはまだ帰ってないのかい?」
HM「今日は遅くなるわ」
ジュン「HTさんも、明日は試験ですよね」
HF「いや、HTのほうは受けなくていいんですよ」
ジュン「え?」
HF「双子の場合は、お姉さんやお兄さんだけが試験を受けます。今年から、妹や弟は受けなくてよくなったんです。HTは、HSの試験の結果を受けて、HSと同じ高校に行くことになります」
ミサ「そんなことってあるんですか? いくら双子でも、試験を受ければ点数は違ってくるでしょう」
HF「それが、点数にそんなに違いがないことがわかったんですよ」
HF、引き出しを開け、資料を取り出す。
HF「このグラフを見てください」
HF、資料の中のグラフを指さす。
HF「今、双子についての研究がさかんに行われています。これは去年、過去数十年に渡る双子の学力試験の点数を集計したものですが、双子は必ず似たような点数をとっています。だから、必ず同じ高校に行きます。過去に例外は1組もありませんでした」
ジュン「へえ、そんなものなんですか。確かに、双子は性格も似ているので、成績も同じになるんですね」
HF「そうなんですよ。それがわかれば、二人とも試験するのは、学校側としても経費の無駄だということがわかります。双子のうち一方が試験を受けなくてよくなれば、学校側の準備も相当楽になります」
ジュン「なるほど」
ミサ「おっしゃるとおり、点数がこんなに同じなら、二人ともが試験を受ける必要はありませんね」
HF「この資料はあくまで去年までの数字ですけどね」
ミサ、別のページのグラフを見る。
ミサ「こっちのグラフはなんですか?」
HF「こっちは、双子の身体測定の結果ですよ」
ジュン「へえ。ますます双子はそっくりということじゃないですか?」
HF「そのとおり。双子は見た目がまったく同じですので、身長も体重も、当然同じになるのです。だから、今年から、身体測定もお姉さんやお兄さんだけが受ければいいことになりました」
ジュン「そうですね。学力試験はともかく、身体測定は確かに、双子の二人とも受ける必要はなさそうですね」
HF「もっとも、今年からそのようにしたばかりで、しかもまだ一部の地域で試しているだけです。うまくいけば、来年から全国的に実施するようです」
ミサ「うまくいけば?」
HF「この資料はあくまで去年までの数字ですからね」
ジュン「やけにそこを強調しますね」
そのとき、HMが2階から大声をあげる。
HM「大変。ちょっと来て!」
○HSの部屋
HFとジュンが入る。
HSが真っ赤な顔をしてベッドで横たわっており、HMがその横に立っている。
HM「ひどい熱なの。さっきから、うわごとばっかり」
HF「すぐに医者を呼ぼう」
○ダイニング
HMが携帯電話で電話している。それを見守るHFとジュン。
HM「今どこ? お姉ちゃんが病気なの。早く帰って来てちょうだい」
HF「明日の試験を受けるのは無理だな」
ジュン「せっかく頑張って勉強してきたんでしょうに・・・」
HF、書類に目を通している。
HF「おー、そうか」
HMが飛んでくる。
HM「何? どうしたの?」
HF「試験の説明書類を読んだら、双子の場合、お姉さんが病気で試験を受けられない場合は、代わりに妹が受けられると、ここに書いてある」
HM「本当?」
ジュン「よかったですね」
○しばらくして、ダイニング
HF、HM、地球家族6人が着席している。
そこへ、HTが入って来る。
HTの外見は、HSと似ているが、明らかに横に太っている。
HT「ただいま。お姉ちゃんの具合は?」
地球家族、HTの太った体を見て、あっけにとられている。
HM「まだ意識がもうろうとしている。早く行ってあげて」
HT「うん」
HT、階段へと向かう。
地球家族、HTの後ろ姿を目で追う。
ジュン「あの・・・」
ジュン、壁にかけてある家族の写真を指さす。
ジュン「あの写真って、姉妹そろって写ってますよね」
HF「あ、そうですよ。1年前の写真ですけど」
ジュン「(心の中で)1年前・・・」
ミサ「(心の中で)1年であんなに太ってしまうなんて」
○しばらくして、ダイニング
HM、地球家族6人が着席している。
そこへ、HFが入って来る。
HF「ジュン君、頼みますよ。勉強を見てやってほしいんです」
ジュン「はい」
○HTの部屋
HTが机に座っている。ジュンが横に座っている。
HT「まさか、お姉ちゃんが病気で試験を受けられなくなるなんて」
ジュン「でも、君が代わりに受けられることがわかって、ご両親はほっとしているよ」
HT「よくないわ。私、何の心の準備もできてないのに」
ジュン「今からでも頑張ろう。とりあえず、理科をやろうか。力学的エネルギーで動摩擦力が発生する場合の問題が出そうだっていうから、予想問題を出してあげるよ」
HT「動摩擦力って何ですか?」
ジュン「あ・・・」
HT「そもそも、力学的エネルギーって何ですか?」
ジュンの顔が固まる。
ジュン「力学的エネルギーは学校で習ったって聞いたけど」
HT「あ、そうだっけ。でも、お姉ちゃんと同じことを私に期待しないでください」
ジュン「・・・」
HT「だって、双子の妹は試験を受けなくていいと発表されたのはもう1年前ですよ。それから1年間、勉強する張り合いみたいなものがなくなっちゃって・・・」
ジュン「・・・」
HT「あ、ちょっと待っててください」
HT、部屋を出ていく。
ジュン「(心の中で)人間の意志って弱いものだな。試験があるかないかで、二人にこんなに差が出てしまうなんて」
HT、お盆にケーキを2個乗せて部屋に戻って来る。
HT「食べますか?」
ジュン「あ、僕はさっきいただいたから、いいよ」
HT「2個残っているということは、お姉ちゃんが食べなかったのね。じゃ、私が2個もらっちゃお」
HT、ケーキにかぶりつく。
HT「最近私は、勉強する前にやる気を出すために、甘い物が欠かせないんですよ」
HT、ケーキをがつがつ食べている。ジュンが唖然としながら見ている。
HT「あー、もう1年前から体重測定していないから、甘い物食べるのも全然気にならなくなっちゃったな・・・」
ジュン「食べ終わったら、勉強始めようか」
HT「あー、だめだ。まだ耳鳴りがする。ロックのコンサートなんか行かなきゃよかった」
HT、頭を手で押さえる。
HT「ごめんなさい。今日はもういいです。勉強できません。もう、なるようにしかならないわ」
ジュン「(心の中で)うん、残念だけど、僕にもどうしようもない。手遅れだな」
○翌日の午前中、ダイニング
地球家族6人が出発する様子をしている。HFとHMが座っている。
父「われわれはそろそろ出発します。HTさんは、今頃試験ですね」
HF「もう終わった頃でしょう。といっても、結果がわかるのは何日も先ですので、結果をお伝えできなくて残念ですが」
そのとき、HSがフラフラしながら入って来る。
HM「大丈夫?」
HS「まだ頭がフラフラ」
HF、テレビ画面を指さす。
HF「あ!」
テレビでは、ニュースキャスターがニュースを読み上げている。
ニュースキャスター「(テレビ画面の中で)つい先ほど、国内統一の学力試験が終わりました。今年から、双子の妹や弟は試験を受けないという制度が、一部の地域で試しに導入されましたが、来年から全国で実施することになるのでしょうか。教育大臣にお話を聞いてみましょう。大臣、お願いします」
教育大臣「(テレビ画面の中で)いいえ、この制度は失敗だったようです。実は、本日の試験で、病気で受けられないお姉さんの代わりに妹が受けるという事例が一人だけありました。そこで、さっそく終わったばかりの彼女の答案を採点したところ、どうにもならないくらい低い点数でした。やはりこの制度は失敗だったと納得させられました」
ニュースキャスター「では、来年からは?」
教育大臣「経費の節約はやはり重要ですので、来年は、双子の兄弟姉妹のどちらが試験を受けるかを、試験当日に決定することにして、全員の目標を失わせないようにしたいと思います」
地球家族とHF、HM、HS、テレビを見ながら沈黙している。
HM「地球のみなさんがお帰りになる前に、結果がなんとなくわかってしまいましたね」
HS「長い歴史の中で、私だけ損した気分・・・。というか、妹だけが得をしたのかな」
ジュン「いや、二人とも損をしたんですよ、きっと。社会のしくみのせいで」
HF「HTを責めないようにしましょう。二人が本来は同じ成績であったはずであることは、双子の統計データで証明されています。まさに社会のしくみが差を生じさせてしまったんですから」
地球家族「・・・」
HF「おっと、そろそろ出発のお時間ですね」
地球家族全員、立ち上がる。
○玄関前の廊下
地球家族6人をHF、HM、HSが見送る。
ジュン「(HSに)じゃあ、前向きに、次の一歩に進みましょう。僕たちも次の驚きを探しに出かけます・・・」
地球家族が玄関のほうを向くと、玄関のドアが開き、HFと同じ顔の人と、HMと同じ顔の2人が続けて入ってくる。
地球家族6人、驚いてHF・HMのほうを振り向く。
HM「紹介します。私の姉です」
HF「僕の弟です」
地球家族6人、ほっと胸をなでおろす。
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