カナコとテオ ドラマ

「ほてぱき」のスピンオフ作品 大切なものは目に見えない でも、信じられる
竹田行人 22 1 0 01/10
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第一稿

「カナコとテオ」


登場人物
平原・スミット・香那子(45)自営業
テオドルス・スミット(48)会社員


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「カナコとテオ」


登場人物
平原・スミット・香那子(45)自営業
テオドルス・スミット(48)会社員


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○浅草寺・仲見世通り
   商店が並んでいる。
   平原・スミット・香那子(45)とテオドルス・スミット(48)、並んで歩いている。
香那子「ユーロ」
テオ「ちがう」
香那子「ルーブル」
テオ「ちがう」
香那子「じゃあ。ドル」
テオ「ちがう。カナコ。どうして全部お金なの。これは連想ゲームなんだよ」
香那子「だってテオのヒント。柔らかくて、温かかったり冷たかったりして、争いの元にもなる。お金でしょ。それもお札」
テオ「ちがう」
香那子「じゃあ石油」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
テオ「もっとファンタジーな感じ」
香那子「じゃあサンタクロース。彼は論争起こすよ」
テオ「いいね。でも冷たいサンタクロースはいないんじゃないかな」
香那子「わかんないよ。おじいちゃんなんだから途中で力尽きたりしたら」
テオ「カナコ」
香那子「あ。ペナント売ってるー」
   香那子、商店のワゴンを冷やかす。
テオ「シオリは? さっき電話してたでしょ。マツモトさん。前のパパと会えた?」
香那子「あー。まだみたい」
テオ「そっか」
香那子「娘が心配?」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
テオ「いや。シオリは大丈夫。春休み2人でオランダに行ったときも、僕置いて1人でショッピングしてたくらいだから」
香那子「聞いた。そういうところは栞もちゃんと薩摩おごじょなんだよね」
テオ「サツマオゴジョ?」
香那子「しっかりしてるってこと。それだけならいいけど、勘が鋭い上に口も達者だし。松本が変なこと言わされないか心配」
テオ「変なこと?」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
香那子「あー。ううん。なんでもない。向こう行ったらまず家の掃除からだね」
テオ「あとゴーストさんに挨拶しないと」
香那子「ん? ゴーストさん」
テオ「そう。オランダの古い家にはゴーストさんがいるんだよ」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
   香那子、笑いだす。
テオ「え。カナコ」
香那子「ああ。ごめん。ちょっとテオかわいいなって思っちゃった。ゴーストって」
テオ「変かな」
香那子「いや。変じゃないけど。ゴーストとか信じてるんだと思って」
テオ「信じる信じないじゃないよ。いるんだもん。実際に」
香那子「いるんだもんって。子どもか。やめて。お腹ちぎれる」
テオ「カナコ。カナコはゴースト、いないと思ってるの?」
香那子「当然。私は目に見えないものは信じない主義だから。もん、って」
   香那子、笑っている。
   テオ、笑顔を作る。
テオ「そう」
香那子「あ。テオ。そろそろゴハン食べて成田行かなきゃ。シオリ迎えに」
テオ「え。ああ。そうだね」
   香那子、仲見世の通りを曲がる。
   通りの向こうにスカイツリー。
香那子「なんにしようか。寿司、蕎麦、柳川。洋食もいいお店いっぱいあるよー」
   テオ、店の壁に貼られたポスターに目をやる。
テオ「カナコ。ルービゲヒロシって誰?」
香那子「え」
   テオ、ポスターを示す。
   色褪せたホーロー看板に「ルービゲヒロシ」の文字。
香那子「ああ。これはシロヒゲビール。右から左に読むんだよ。昔の読み方」
テオ「ああ。そうなんだ。ルービゲヒロシさんって人かと思っちゃった」
香那子「テオかわいい。でもルービゲヒロシって。あ。確かに。いるかも。いや」
テオ「でも勝手に逆さにしたら怒られちゃうね。ケンカになるかも」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
香那子「あ。ほてぱき!」
テオ「え」
香那子「さっきの。連想ゲームの答え。ほてぱきでしょ。ほてぱき」
テオ「え」
香那子「ほてぱき」
テオ「え」
香那子「ほてぱき」
テオ「え」
香那子「え。なに? 突然カベできた? そんなに伝わらない? ほてぱき」
テオ「ほ。ほて」
香那子「ぱき」
テオ「なに? それ?」
香那子「なにって。さっきの連想ゲームの答えでしょ? ほてぱき」
テオ「えー。そんな夢見る少女みたいな瞳で見つめられても。え? ほてぱき?」
香那子「だってめっちゃ柔らかいし、温かかったり冷たかったりするし」
テオ「争いの元になるの? ほてぱき」
香那子「テオ、日本史専攻でしょ。習わなかった? 慶応3年。肥後と土佐の戦争」
テオ「いや。知らない」
香那子「ほてぱきの輸出で肥後に遅れてた土佐が、ぱきほてって名前で売り込んで。肥後と戦争になったんだよ」
テオ「戦争? ほてぱきで?」
香那子「まぁ。これは肥後側の言い分だけど。だから、おじいちゃん世代? 今でも肥後の人と土佐の人、仲悪かったりする」
テオ「そうなんだ」
香那子「松本なんか、おばあちゃん子だったからその辺りすごくて。一度もカツオのたたき食べたことないんだって」
テオ「さすが日本。江戸の仇を長崎で打つ。だね」
香那子「うん。違うと思う」
テオ「でも僕が出してた問題の正解は食べ物じゃないよ」
香那子「ほてぱきだって食べ物じゃないよ。むしろ食べたらお腹下すし、子どもとか下手したら死んじゃうよ」
テオ「なんてデンジャー。あ。あと。特別な人と分かち合うものだよ」
香那子「やっぱりほてぱきだ。ほてぱきも昔、遊女とお客でほてとぱきを分け合って起請文の代わりにしてたんだって」
テオ「ほてとぱきを分け合う?」
香那子「そう。ほてぱきは、ほてとぱきの2つで1つ。で、組み合わせは世界に1組しかない。貝合わせみたいなものだね」
テオ「ああ。貝の仲間なんだ」
香那子「ちがう」
テオ「違うんだ」
香那子「ま。いいや。ゴハン何にする?」
テオ「でも、信じる」
香那子「え」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
テオ「ほてぱき。僕は見たことも聞いたこともない。でも信じる。だって。カナコが言ってるんだから」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
   鐘の音。
   香那子、視線を逸らす。
テオ「え」
香那子「やめてよ」
テオ「カナコ。どうしたの?」
香那子「見たことも聞いたこともないもの。信じちゃダメだよ」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
香那子「信じられなかった私。バカみたいだから」
テオ「松本さんのこと?」
   鐘の音。
香那子「あの頃わたし。あの人が。松本が話す夢みたいな夢。信じてあげられなかった。目に見えるもの持ってる人に。逃げた」
テオ「それは。それはシオリとカナコの将来を考えてのことでしょ」
香那子「でも。松本。優しかった。すごく優しさ、いっぱい持ってた。でも。それ。見えないから。見えなかったから」
   香那子、鼻をすする。
テオ「今は違うでしょ」
香那子「え」
テオ「今は違うでしょ。僕とカナコの間にあるもの。目に見えないもの。カナコ、ちゃんと信じられてるでしょ」
   香那子とテオ、目を見合わせる。
   香那子、テオに抱き着く。
香那子「ゴーストさんに挨拶するー」
   テオ、香那子の頭を撫でる。
香那子「ねぇ。ヒント」
テオ「え」
香那子「連想ゲーム。他にヒントないの?」
テオ「ああ。え。と。ああ。実は世界中の誰も本当の使い方を知らない」
香那子「それ。やっぱりほてぱきでしょ」
テオ「え」
香那子「あ。ごめんテオ。ハナついた。あ。すごい。ほてぱきみたいに伸びてる」
テオ「え。これが、ほてぱき?」
香那子「違う」
テオ「えええぇ」
   香那子とテオ、微笑み合う。
   鐘の音。

〈おわり〉

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