隼人渡辺のすべらない話 ドラマ

 今宵はテレビで、六人の若手芸人による『すべらない話』が放送されていた。彼らは学生時代の思い出から、マネージャーの話まで、様々な話を披露していく。しかし彼らは気づいていない。その話の全てが、ある一人の視聴者・渡辺隼人(32)の物語に繋がっている事を……。
マヤマ 山本 20 0 0 07/21
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第一稿

<登場人物>
渡辺 隼人(5)(32)会社員
渡辺 比奈(4)(31)渡辺の妹
渡辺 睦美(23)(54)渡辺の母
渡辺 秀夫(58)(81)渡辺の祖父、故人
武田 純一 ...続きを読む
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<登場人物>
渡辺 隼人(5)(32)会社員
渡辺 比奈(4)(31)渡辺の妹
渡辺 睦美(23)(54)渡辺の母
渡辺 秀夫(58)(81)渡辺の祖父、故人
武田 純一(22)(31)渡辺の父
石井 舞(22)渡辺の恋人

戸村 健(25)(36)お笑い芸人
モセズ(7)(32)ユーチューバー
矢崎(15)(34)お笑い芸人
宇野 沙織(23)(33)同
藤原 リョータ(2)(40)同
橘 翔平(5)(32)同

担任教師
藤原 春子(27)(50)藤原の母
渡辺 和子(54)(77)渡辺の祖母
堀井(36)戸村の友人
ナレーション


<本編>
○アパート・外観(夜)
   外階段を上る渡辺隼人(32)。スーツ姿で、手にはコンビニ弁当の入った袋。

○同・渡辺の部屋(夜)
   1Kの部屋。ちゃぶ台の奥にテレビが置いてある。部屋の灯りが付く。
   ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めながらテレビの電源を入れる渡辺。『すべらない話』が放送されている。
N「(テレビから)今宵、あの夜会のチケットを手に入れられなかった者たちが、その悔しさをぶつけるために密かに集結した」

○スタジオ
   テレビ番組の映像。
   喋る戸村健(36)のハイライト映像。
   T「戸村健(鬼怒川モーメント)」
N「テンポ良くすべらない話を積み上げるショートショートの話術師。鬼怒川モーメント・戸村健」
    ×     ×     ×
   喋るモセズ(32)のハイライト映像。
   T「モセズ」
N「ネット界から電撃参戦。べしゃり系YouTuber。モセズ」
    ×     ×     ×
   喋る矢崎(34)のハイライト映像。
   T「矢崎(ダブルポスト)」
N「昨年のMANZAI―1グランプリを制した注目のオールドルーキー。ダブルポスト・矢崎」
    ×     ×     ×
   喋る宇野沙織(33)のハイライト映像。
   T「宇野沙織(びゅーてぃーず)」
N「OL(オフィスレディ)からOL(お笑いレディ)へ華麗なる転身を遂げた、べしゃり界のシンデレラガール。びゅーてぃーず・宇野沙織」
    ×     ×     ×
   喋る藤原リョータ(40)のハイライト映像。
   T「藤原リョータ」
N「いかなる状況も俯瞰で見下ろす、冷静沈着なドローン芸人。藤原リョータ」
    ×     ×     ×
   喋る橘翔平(32)のハイライト映像。
   T「橘翔平(浅谷橘)」
N「ピン芸から漫才まで、幅広く手がけるお笑いポリバレント。浅谷橘・橘翔平」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   テレビ画面には引き続き『すべらない話』が映っている。
N「(テレビから)なお、今宵綴られる話は全て……」
   ちゃぶ台の上にコンビニ弁当の入った袋を置く渡辺。その袋の脇に置かれた手紙、宛名に「渡辺隼人」と書かれている。

○メインタイトル『隼人渡辺のすべらない話』

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。各自の名前と「★」が二つ書かれた正八面体のサイコロを転がす戸村。「矢崎」の目が出る。
戸村&モセズ&沙織&橘「お~」
矢崎「ひゃ~、一発目か~」

○黒味
   T「矢崎のすべらない話『高校入試』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「あの~、これは僕が高校時代の話で……あ、違う、高校じゃない」
戸村「どっちやねん」
矢崎「高校入試の時の話っス。だから、中三っスね」

○(イメージ)地図
   路線図や学校までの道のりが図として表示されている。
矢崎の声「僕が受験した高校は、中学の最寄り駅から電車で二〇分くらいかかる所にあるんスよ。埼玉だと、あ、僕、地元埼玉なんスけど、埼玉の公立高校だと、そこそこ遠い部類に入るんスね。なので、僕の中学から同じ高校を受験する人がいなくて、僕一人だったんスよ」
戸村の声「それは心細いな」
矢崎の声「そうなんスよ。しかも、その高校が、最寄り駅から徒歩二〇分くらいかかる所で、そこそこ遠いんスよ」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「で、実は僕めちゃめちゃ方向音痴なんスよ。なので、二〇分歩くレベルの距離で無事に着けるかが心配だったんスね。ただそこは言っても、高校入試な訳っスよ。駅を降りれば、同じような受験生がたくさんいる訳っスから、その中学生の群れに付いて歩いて行けば、着くだろうなとは思ってたんスね」
沙織「確かに~」
矢崎「ただ、一つ気をつけなきゃいけない事があって……」

○(イメージ)地図
   二つの高校の位置関係を示す図。矢崎の志望校は西高校より南側。
矢崎の声「その僕の志望校の、バス停一個分くらいの距離に、もう一つ西高校って県立高校があるんスよ。これ、県立高校同士としてはかなり近いと思うんスね」
橘の声「そんな近い所あるんですか」
矢崎の声「あるのよ。だから、間違って西高校の受験生に付いて行かないように、っていうのは気を付けていたんスね」

○(回想)駅
   改札を出る学ラン姿の矢崎(15)。
矢崎の声「で、受験当日を迎えて……」
   矢崎の前には多数の中学生。制服は皆バラバラ。
矢崎「よしよし、いるいる」
   中学生集団に付いて行く矢崎。

○(回想)道路
   中学生集団に付いて歩く矢崎。他の中学生は友人同士、話しながら歩く。
矢崎「あ~あ、超寂しいわ。……ん?」
   T字路にさしかかり、直進する者と右折する者に分かれる中学生集団(ただし直進するのは青いブレザー服の中学生のみ)。
矢崎「あれ……どっちだ?」

○(イメージ)地図
   二校の位置関係を示す図。矢崎らが居るT字路は南と西に分かれている。
矢崎の声「……って事は」

○(回想)道路
   T字路に立つ矢崎。
矢崎「コッチだ」
   直進する中学生集団に付いて行く矢崎。
矢崎の声「そう思って、まっすぐ進む中学生の群れに付いて行ったんスね」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「で、トコトコと、その中学生の群れに付いて行った結果、付いた場所が……」

○(回想)中学校・前
   校門の看板に「○○中学校」の文字。
矢崎の声「中学校でした」
   愕然とする矢崎。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
戸村「いや、それは気付くやろ」
モセズ「制服とか、ね」
矢崎「そうなんスよ。何か似たような制服の奴らばっかだな~、とは思ってたんスけど」
橘「で、どうしたんですか?」
矢崎「その後は……」

○(回想)中学校・前
   渡辺(13)に道を聞く矢崎。礼を言い、全力で走り出す。
矢崎の声「そこの生徒に道聞いて、全力疾走して、何とか間に合ったんスけど」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   『すべらない話』が映し出されているテレビを観ている渡辺。
矢崎「落ちました」
戸村「そらそうやろな」
   笑う渡辺。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。サイコロが転がり「戸村」の目が出る。

○黒味
   T「戸村健のすべらない話『宝くじ』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「ジャンボ宝くじってあるやないですか。アレ、僕毎回買うんですよ。年五回」

○(回想)宝くじ売り場
   店員の渡辺睦美(57)から宝くじを受け取る戸村。小さめのショルダーバッグを肩からかけている
戸村の声「で、確か去年の年末ジャンボやったかな。まぁ、いつも通り購入しまして」

○(回想)高級マンション・戸村の部屋
   ソファに腰掛ける戸村。立ち上がる。
戸村の声「で、販売期間も終わって、もうすぐ当選番号発表や、いう頃になって『そういえば、買うた宝くじどこ置いたっけかな』てなりまして」
    ×     ×     ×
   ショルダーバッグの中を漁る戸村。
戸村の声「ただ、そもそもカバンから出した記憶も無かったんで『カバンの中に入れっ放しやろな』思うてカバンの中探したんですけど、無いんですよ」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「『おかしいな~』思うて、一旦カバン置いて考えるんですけど『やっぱりこのカバンしか考えられへんな』思うてまた探して、でもやっぱり無いんですよ。もし一等やったら、一〇億やで?」
橘「しかも、もう売ってないし」
戸村「せやねん。で、また一旦カバン置いて、アレコレ考えて。でも『やっぱりこのカバンやろ』思うて、もう『どう考えてもココに宝くじ入らんやろ』いうくらい小さいポケットも開けて、もうカバンの中ひっくり返して探した結果……」

○(回想)高級マンション・戸村の部屋
   ショルダーバッグの小さいポケットの中から千円札を見つける戸村。
戸村の声「千円札が出てきたんですよ」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
戸村「何て言うんかな、一〇億よりは下やけど外れて三百円よりは上やし」
沙織「複雑~」
戸村「俺、この千円札をどういう気持ちで手にしたらええかわからんかったわ」
   笑う一同。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「橘」の目が出る。

○黒味
   T「橘翔平のすべらない話『ココまで出た』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「人間、生きてると(のど元を指し)ココまで出たけど言わんかった、みたいな事、よくあるやないですか?」
沙織「ありますね~」
戸村「もう、しょっちゅうやわ」
橘「この話は、僕が人生で初めて『ココまで出たけど言わんかった』話なんですけど」
モセズ「人生で初めて?」
橘「僕が幼稚園の年中組の頃の話で」
矢崎「また随分と若い頃に」

○(回想)幼稚園・外観
   外で遊ぶ子供達。制服姿。
橘の声「で、その、いきなり汚い話になってしまうんですけど……」

○(回想)同・教室
   幼稚園教諭(24)の傍らで泣いている橘(5)。足元は映らないように。
橘の声「僕ちょっと、大きい方を漏らしてしまいまして」
戸村の声「まぁ、年中やからな」
橘の声「で、当時通っていた幼稚園は制服だったんですけど、もちろん制服も汚れてしまいまして」

○(回想)同・収納部屋
   各生徒の名前が書かれた棚がある。
橘の声「で、そういう時のための着替えっていうのが、あらかじめ家から園に預けられてあったんですよ」
   棚から服を取り出す幼稚園教諭。
橘の声「で、その服に着替えたんですけど」

○(回想)同・教室
   ミッキーマウスの絵柄が大きく描かれたトレーナー姿の橘。
橘の声「それが、ミッキーマウスの顔がドーンと描かれた服でして」
   首をかしげる橘と、それを遠くから見ている渡辺(5)。
橘の声「ただ、僕はその服に見覚えが全くなくてですね。まぁ、その時は『ずっと幼稚園に置きっぱなしだった服だから、見覚えないのかな』くらいに思ってたんですけど」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「家帰ったら、オカンが『それ、誰の服?』って言うんですよ。僕も『あ、やっぱり?』って思うて」

○(回想)幼稚園・収納部屋
   棚から服を取り出す幼稚園教諭。よく見ると「橘」の隣の「武田」の棚から服を出している。
橘の声「どうやら先生が、僕の出席番号一個隣の子の服を間違って出してもうたみたいで」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「で、まぁ着てきてもうたんは仕方ないとして、今その隣の子の着替えが幼稚園にない状態になってもうてるやないですか?」
沙織「確かに」
橘「だから、本来ならクリーニング出すべきなんでしょうけどそうもいかず、とりあえず家の洗濯機で洗濯して、翌朝ウチのオカンから先生に『こうこうこういう事情で』みたいな説明があって、それはそれで終わったんですけど、その日幼稚園行ったら……」

○(回想)幼稚園・教室
   橘の元にやってくる渡辺。尚、渡辺の名札には「たけだ はやと」の文字。
橘の声「その、出席番号隣の子が僕のところに、嬉しそうな顔して来て、言うんですよ」
渡辺「僕もね、橘君と同じ服持ってるんだよ」
   何とも言えない顔の橘。
橘の声「『そりゃそうだよ。だってアレ、お前の服だもん』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「……って(のど元を指して)ココまで出ましたよね」
   笑う一同。

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   テレビを観ながら、着替え始める渡辺。宛名に「渡辺隼人様」と書かれた郵便物はテーブルの上に置かれたまま。
   サイコロが転がり「宇野」の目が出る様子を映すテレビ画面。

○黒味
   T「宇野沙織のすべらない話『フラれた娘』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
沙織「大学四年生の時に、とある会社から内定を戴きまして。で、これから内定者研修とか色々ある中で『一度、内定者だけで飲みましょう』みたいな話になったんです」
戸村「あ~、ええやんか」
沙織「で、十人くらい居ましたかね。集まって、飲んで。で、やっぱり大学生ですから『二次会行きましょう』ってなって、そのままカラオケに行ったんです。で、最初はみんなワイワイ歌ってたんですけど」

○(回想)カラオケボックス(夜)
   男四人、女四人程の大学生が居り、一人が歌っている。その中で泣いている石井舞(22)を囲んで座る沙織(23)、男A、女A。
沙織の声「途中から一人の女の子が泣き出しちゃって……」
沙織「彼氏にフラれた? いつ?」
舞「火曜日」
沙織「え、今週の? って事は、四日前?」
男A「ホヤホヤじゃん」
女A「何か理由あったの?」
舞「わかんない。『就活に専念したい』って言ってたけど『就活終わるまで待つから』って言ってもダメだったし」
沙織「何それ」
男A「そりゃ、女だな。間違いない」
女A「(男Aを諌めるように)ちょっと」
沙織「……まぁ、とりあえずさ(舞にデンモクを渡し)歌おうよ」
女A「そうそう、歌って忘れようよ」
舞「……うん」
   デンモクを操作する舞。Dreams Come Trueの『何度でも』を選択する。
沙織の声「で、その子が選んだ曲がDreams Come Trueさんの『何度でも』って曲だったんですね」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「ええ曲やんな」
沙織「そうなんですよ。まぁ多分、皆さんご存知の曲だと思うんですけど、歌詞が『何度でも何度でも 立ち上がり呼ぶよ きみの名前』っていう」

○(回想)カラオケボックス(夜)
   涙ながらに熱唱する舞。それを聞いている沙織、男A、女Aら。他の女性陣の目にも涙。
沙織の声「その状況にまぁマッチした曲を涙ながらに歌うもんだから、コッチまでもらい泣きしちゃいまして」
    ×     ×     ×
   別の男が歌う脇で舞の話を聞く沙織、男A、女A。
沙織の声「ただ、やっぱり一回歌っただけで全部スッキリするものでもないので、その後も元カレとの思い出話を聞いたりしてたんですね」
舞「彼、母子家庭で。だからバイトも目一杯やってて『家族背負ってる』みたいな、そういう頼もしさもあって」
沙織「そっか~、好きだったんだね」
舞「うん。……でも、何でだろ? 毎月一緒に映画観たり、この前のデートでもあんなに楽しそうだったのに、急に『別れよう』なんて……」
男A「だからさ、そんな男の事なんてさっさと忘れちまえって」
女A「ちょっと、言い方悪くない?」
沙織「でもその通りだよ。ほら(再びデンモクを渡して)どんどん歌って、忘れちゃおうよ」
舞「……うん」
   デンモクを操作する舞。
沙織の声「そう言って、その子が次に選んだ曲が……」
    ×     ×     ×
   モニターに表示される『何度でも』の文字。
   唖然とする沙織、男A、女Aら。
沙織「え?」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
沙織「でもまぁ、もう、『何度でも聞くよ』って感じですよね」
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「戸村」の目が出る。
沙織「お、二回目」
戸村「うわ~」
矢崎「欲しがるっスね~」
戸村「欲しがってないわ」
橘「いやいや、もう矢崎さんの話やったら、何度でも聞きますよ」
モセズ「さすが」

○黒味
   T「戸村健のすべらない話『映画のグッズ』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「コレはまだ、僕が警備員のバイトをやってた時の話なんですけど……」

○(回想)商業ビル・従業員入口(夜)
   警備員姿の戸村(25)。次々と来る従業員達のカバンの中をチェックしている。
戸村の声「色んな仕事があったんですけど、その中の一つに『従業員入口の所に立って帰る従業員のカバンの中をチェックする』いう仕事がありまして。まぁ、商品持ち出したりしてへんか、とかの確認ですね」
   そこにやってくる渡辺(21)。ショルダーバッグとトートバッグを持っている。
戸村の声「で、ある時、アレは学生のアルバイトさんやと思うんですけど、若いお兄さんが来まして。普通のカバンと、もう一つトートバッグを持ってたんですね」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「そのトートバッグが、映画のグッズか何かなんですかね、映画のタイトルがデカデカと書いてあるようなトートバッグでして。まぁ、もちろんそれはそれで問題ないんですけど。ただ、そのデカデカと書いてある映画のタイトル言うのが……」

○(回想)商業ビル・従業員入口(夜)
   戸村の前にやってくる渡辺。持っているトートバッグには「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」とデカデカと書かれている。
戸村の声「『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』」
   二度見する戸村。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
戸村「コレ、何のメッセージやねんって」
矢崎「SOS、SOS」
戸村「あれ、警備に助け求めてたん? だとしたら、求める相手間違うてるで?」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   その様子が映るテレビ。
   部屋着姿でそれを観て笑う渡辺。傍らには缶ビールが置いてある。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「矢崎」の目が出る様子が映るテレビ画面。
矢崎「うわ~」

○黒味
   T「矢崎のすべらない話『親の気持ち』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「あの、昔親が言っていた言葉の意味が、大人になってからやっとわかる、みたいな話、あるじゃないっスか?」
戸村「あるわ~」
矢崎「これは、僕が小学校一年か二年の頃の話なんスけど」

○(回想)走っている車
   移動する車。町並みはクリスマス風。
矢崎の声「何かのクリスマス会みたいなヤツに行く、車の中で」

○(回想)車内
   運転席に男B、助手席に男C、後部座席に矢崎(8)と矢崎の父(34)。
矢崎の声「僕と父と、父の友人二人いたんスけど、そこで……」
矢崎「競馬?」
男C「そう。一人五百円賭けて、一等を当てたら総取り。どう?」
男B「いいね。やろやろ」
矢崎「僕もやる」
矢崎の父「やんの? じゃあ、皆でやるか」
矢崎「やったー」
    ×     ×     ×
   スポーツ新聞を見る矢崎と矢崎の父。
矢崎「ねぇ、どれが強いの?」
矢崎の父「強いのはナリタブライアンだけど……(男たちに)どうする? ナリタブライアンはさすがに無しにする?」
男C「あ~、それがいいかもな」
男B「だな」
矢崎の父「じゃあ、ナリタブライアン以外で」
矢崎「じゃあ、ツインターボ!」
矢崎の声「もちろん、その馬に思い入れがあったとかじゃなくて」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「小学生ながらに、速そうだな、って思うじゃないっスか? ツインでターボっスよ?」
戸村「アホ丸出しやな」
矢崎「で、いざレースが始まって」

○(回想)車内
   ラジオに聞き入る男B、男C、矢崎、矢崎の父(男Bは運転しながら)。
矢崎の声「それを僕らはラジオで聞いてたんスけど……」
   ラジオから頻繁に聞こえる「ツインターボ」「早くも○馬身差」の声。盛り上がる男B、男C、矢崎の父。
矢崎の声「ラジオからはやたらと『ツインターボ』って聞こえてくるんスよ」
男C「おいおい、凄ぇぞ?」
矢崎の父「ツインターボ、勝つかもしれないぞ?」
矢崎「そうなの?」
矢崎の声「『何馬身差』とか意味はわからないんスけど、親とかのテンションから、まぁ、凄いんだろうな、っていうのは伝わって」
    ×     ×     ×
   全員から五百円をもらう矢崎。
矢崎の声「結局最後に全部の馬に抜かれてツインターボは最下位だったんスよ。それでも一応、一番盛り上がったのと、優勝がナリタブライアンだったのもあって、僕が五百円総取りになったんスね」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「ただ、最下位の馬当てるって、よっぽど才能ないんだなって思って、それ以来競馬はやらなかったんスよ」
沙織「いい心がけじゃないですか」
矢崎「で、それから一六年後くらいっスかね? 『アメトーーク』って番組あるじゃないですか? そこで『競馬大好き芸人』みたいな企画があったんスよ」
橘「思いっきり他局ですけどね」
矢崎「あ……」
戸村「ええから。続けぃ」
矢崎「で、その企画の中で『俺達の名馬』みたいな、それぞれが好きな馬を紹介するようなコーナーがあったんスよ」
沙織「あ~、ありそう」
矢崎「で、一発目に紹介されたのがディープインパクトで。コレはさすがに、競馬知らない僕でも知ってる馬っスよ」
モセズ「まぁ、有名ですからね」
矢崎「で、二番目に紹介されたのが、ツインターボだったんスよ」
沙織「え~!?」

○(回想)矢崎の家(夜)
   テレビで『アメトーーク』を見ている矢崎(24)。
矢崎の声「どうやらツインターボっていうのは、『生涯先行逃げ切り』を貫いた『最後の個性派』って言われてる馬だったらしくて」
モセズの声「へ~」
矢崎の声「で、そのツインターボを象徴するレースとして紹介されたのが、九四年の有馬記念だったんスよ」
   テレビ内の資料映像、途中までぶっちぎるも終盤失速しすべての馬に抜かれるツインターボの様子。
矢崎の声「そのレースでも序盤めちゃくちゃぶっちぎってて、ただ途中で明らかにバテてて、その状態で『(出演者)まだあと一周ありますからね』『(MC)まだあと一周あんの?』みたいなやり取りもあって。で、最後に全部の馬に抜かれてアハハ~、でそのVは終わったんスけど」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「気になって調べたら、有馬記念って毎年一二月末にやるレースなんスよね?」
戸村「せやな」
矢崎「で、九四年って僕小二なんスよ」
橘「おっ……?」
矢崎「さらに、九四年の有馬記念で優勝したのは、ナリタブライアンなんスよ」
沙織「え、じゃあ……」
矢崎「その『アメトーーク』で流れたの、あの時僕がツインターボに賭けた時のレースだったんスよ」
モセズ「凄ぇ~」
矢崎「しかも、僕その時はラジオだったんで、一六年越しに初めて映像観たんスよ」
沙織「あ~、そっか」
矢崎「で、確かに、序盤めっっっっっちゃぶっちぎってたんスよ。ソレ見て……」

○(回想)車内
   ラジオから頻繁に聞こえる「ツインターボ」「早くも○馬身差」の声。盛り上がる男B、男C、矢崎の父。
矢崎の声「アレはテンション上がるわ、って」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「親の気持ちが初めてわかりました」
   笑う一同。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「橘」の目が出る。

○黒味
   T「橘翔平のすべらない話『人間で良かった』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「コレは僕が『人間で良かった』って心底思った時の話なんですけど」
戸村「何や、深いな」
橘「僕が通ってた小学校が、二年に一回、学芸会をやる学校やったんですね。一学年で一演目みたいな感じで。で、僕達が二年生の時にやったのが『スイミー』いう作品なんですけど、知ってます?」
矢崎「教科書に載ってたヤツ?」
橘「そうです。まぁ、一応簡単なあらすじを説明すると……」

○(イメージ)
   アニメーションで簡単な『スイミー』のあらすじ紹介。
橘の声「赤い魚達の群れの中に一匹だけいる黒い魚のスイミーが主人公で。ある日、巨大マグロに襲われて仲間が食われて、一匹だけ逃げ延びたスイミーが、海の中で昆布だワカメだウナギだと色んな生き物に会いながら、やがて別の赤い魚の群れに出会って。で、その群れも巨大マグロに怯えている事を知ったスイミーが一緒にマグロを撃退しようと、赤い魚たちがフォーメーションを駆使して巨大な赤い魚のフリをして、その時スイミーが『僕が目になろう』って言うて。で、見事巨大な赤い魚のフリをして巨大マグロを追い払う」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「まぁ、そういう話なんですけど。ようするに、登場人物みんな魚介類なんですよ」
戸村「まぁ、そうなるわな」
橘「で、子供心にわかるんですよ。これは、衣装が全身タイツやな、て」
沙織「確かに~」
橘「で、それが嫌やから何とかならんかな~、って思うて探したら、一個だけ『ナレーター』いう役割がありまして」
モセズ「ナレーター?」
橘「最初と最後に出てきて、世界観説明したり、いう役。要するに、唯一の人間なんですよ。もうこれしかないって思うて」

○(回想)小学校A・教室
   ジャンケンをする橘(8)ら小学生達。なかなかの大人数。
橘の声「そしたら、やっぱり同じ事思うてる人は多かったんでしょうね。ナレーターの役が、主役のスイミーの次に高い倍率でして」
   勝って喜ぶ橘。
橘の声「僕は何とか、その倍率を潜り抜けてナレーターになったんやけど」

○(回想)同・体育館
   学芸会本番。『スイミー』上演中。全身黒タイツの主演と、全身赤タイツの魚役の生徒達。それを脇で見ている橘。衣装は人間の正装。
橘の声「予想通り、主役のスイミーは全身黒タイツで、魚は全身赤タイツで」
    ×     ×     ×
   体をゆらゆら揺らしている昆布役とワカメ役の生徒達。全身緑色のタイツ姿だが、昆布とワカメで微妙に濃さが違う。
橘の声「昆布とワカメは緑のタイツで、しかも微妙に色の濃さが違って」
   ゆらゆら体を揺らしながら交互に前に出る昆布とワカメ。
橘の声「しかも喋る時にこう体を揺らしながら前に出て、セリフ言うて。次下がったら、ワカメが揺らしながら前出て、みたいな」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「で、中でも特に酷かったのが、ウナギ」
モセズ「ウナギ?」
橘「ウナギは、まぁ、前身灰色のタイツで、プラス何や長~い、まぁウナギの体みたいなヤツをくねくねさせながら出てくるんですけど、その時の台詞が……」

○(回想)小学校A・体育館
   『スイミー』上演中。出てくる渡辺(8)らウナギ役の生徒達。
渡辺「うな~ぎ~。うな~ぎ~」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
橘「心の底から『人間で良かった』って思いましたね」
   笑う一同。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「戸村」の目が出る。
沙織「出た~」
戸村「何や俺、多ない? まだ喋ってへんヤツ居るやろ?」
モセズ「私、まだですね」
橘「藤原さんもまだちゃいます?」
藤原「うん、まだ」
戸村「お前、今日初めて喋ったんちゃう?」

○黒味
   T「戸村健のすべらない話『アナログ』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「まぁ、世の中色々と便利になってはいるけども、時にはアナログなやり方がデジタルを超える事もあるんやな~、いう話なんですけど……」

○(回想)居酒屋A・中(夜)
   酒を飲む戸村と堀井(36)ら友人達。
戸村の声「今年の夏に、高校の時の連れが結婚式する言うて、で、場所が静岡の浜松やったんで、僕含めて何人か、前乗りで行ってたんですね」
橘の声「前の日から飲む訳ですね」
戸村の声「そうそう。そしたら、その中の一人の堀井いうヤツが、まぁ、酔っ払いよって」

○(回想)同・外(夜)
   出てくる戸村、堀井ら。堀井は足元がおぼつかない。
戸村「おう、次どうする?」
堀井「何や、トム(戸村のあだ名)。もう一軒行くやろ?」
   と言いながら、向かい側の店の前に停められていた自転車にぶつかり、将棋倒しになる自転車。
堀井「痛っ」
戸村「アホ、何やってんねん堀井……」
武田の声「おい、何やってんだよ」
   そこにやってくる武田純一(56)。やはり酔っぱらっている様子。
武田「テメェ、俺の自転車……」
堀井「やべっ、逃げっぞ」
   走り出す堀井。
戸村「ちょ、おい、待てって。(武田に)すんません」
   堀井を追って走り出す戸村ら友人達。
武田「おい、逃げんなボケコラ!」
   堀井に追いつき走り続ける戸村ら。とある路地で左に曲がる戸村らと、一人だけ右に曲がる堀井。
戸村「え、あ、おい、堀井~」

○居酒屋B・前
   赤い看板が目印のチェーン店。
   その前でスマホで通話中の戸村。
戸村の声「で、その堀井とはぐれてしもうて」
戸村「おい、堀井。お前今どこや?」
堀井の声「(通話口から)え~、わからへん」
戸村「俺ら今、白木屋の前に居るんやけど、見えるか?」
堀井の声「(通話口から)え~、わからへん」
戸村「(ため息交じりに)一旦切るで」
   電話を切る戸村。
戸村の声「もう酔っぱらっとるから会話にならんで。で、僕も酔うてましたから、半ばやけくそになりましてね」
戸村「(大声で)堀井~!」
戸村の声「そしたら」
堀井の声「(遠くから)ト~ム~!」
戸村「(声のした方を指し)あ、アッチや」
戸村の声「で、無事に合流できまして」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「アナログがデジタルを超えた瞬間を見た、いう話でした」
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「モセズ」の目が出る。
矢崎「来た、ユーチューバー」
戸村「ほな、いつもの挨拶から頼むわ」
モセズ「では、失礼して。あさきゆめみし、ゑひモセズ。どうも、モセズです」
沙織「本物だ~」
   拍手する戸村、矢崎、沙織、藤原、橘。

○黒味
   T「モセズのすべらない話『転校生』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
モセズ「私は子供の頃から、細かい、どうでもいい事が気になってしまう性格でして。小学校低学年の頃に気にしていたのが出席番号ってあるじゃないですか。大体の学校は五十音順だと思うんですけど」
戸村「まぁ、他は聞いた事ないな」
矢崎「いやいや、僕の学校はアレっスよ、生年月日順っスよ」
沙織「へぇ、そんな所あるんだ」
モセズ「場所によってはあるみたいで。まぁ私の学校は五十音順だったんですけど。私が気にしていたのは、もし、転校生が来た場合にどうなるか、という事で」

○(イメージ)校庭
   体操着を着た小学生が一列に並んでいる。先頭の生徒の体操着には胸にデカデカと「秋本」と書かれている。そこにやってくるモセズ(9)、「青木」とデカデカと書かれた体操着を手に持ち、秋本の前に立つ。
モセズの声「例えば、当時の私のクラスの出席番号一番は秋本君という生徒だったんですけど、もし青木君という生徒が転校してきたら、出席番号はどうなるのか。厳密に五十音順にして、青木君が一番、秋本君が二番と順々にズレて行くのか」
   後ろに下がるモセズ。最後列に並ぶ、胸に「横溝」とデカデカと書かれた体操着を着ている生徒のさらに後ろに並ぶモセズ。
モセズの声「それとも、当時の私のクラスの出席番号の最後は横溝君という生徒だったんですけど、青木君といえども横溝君の後ろに入るのか、どっちなんだろうと」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
モセズ「もちろん、今となれば後ろに入るんだって事はわかりますけど、当時はまだ小学校低学年ですから、まだわからない訳ですよ。で『どうなるんだろう』と考えていたある日、小学三年生の五月くらいでしたか、私のクラスに転校生が来ると」
沙織「お~」
モセズ「コレは良かった。コレでやっと長年の疑問が、長年と言ってもせいぜい八年くらいな訳ですけど、その疑問が解決するんだと、そう思ったんですね」

○(回想)小学校B・教室
   何となくソワソワしている雰囲気。その中にいるモセズ。
モセズの声「そして、当日を迎えまして」
   担任教師に連れられ、入ってくる渡辺(9)。渡辺の姿を見て、一段と騒々しくなる生徒達。
担任教師「はい、みんな静かに。今日から、このクラスに新しいお友達が加わる事になりました。紹介します。転校生の、渡辺隼人君です」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
モセズ「何も解決しませんでした」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   その様子が映るテレビが付いているが渡辺の姿はなく、シャワーの音だけが聞こえている。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「戸村」の目が出る様子が映るテレビ画面。
戸村「もうええって」

○黒味
   T「戸村健のすべらない話『寝言』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
戸村「え~、じゃあ、渡辺つながりで、僕のマネージャーの渡辺ちゃんの話を」
橘「そんなつなげ方、あります?」
戸村「渡辺ちゃんは僕の……五コくらい下の、まぁ女の子のマネージャーなんですけど、凄くちゃんと仕事してくれる子で。ただ、新幹線の移動の時とか、まぁ寝るんですわ。もう爆睡」
沙織「いいじゃないですか、別に」
戸村「いや、ええのよ。全然ええねんけど、寝言も凄いんよ。席が隣だったりすると、もうハッキリ聞こえて。で、その寝言っていうのも、あの『チッ』って舌打ちとか、『ざけんなよ』とか、何や、ちょっと印象に残るような寝言が多くてですね」

○(回想)新幹線・車内
   並んで座る戸村と渡辺比奈(28)。眠っている比奈。
戸村の声「ただその中でも、この間『コレは歴代一位やな』いう寝言を耳にしまして」
比奈「(寝言で)あ~、眠ぃ」
   驚いた様子で比奈の顔を見る戸村。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
戸村「『いや、今寝てるやん』て」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   その様子が映るテレビを見ている渡辺。風呂上がりの部屋着姿。おもむろにスマホを取り出し、比奈に「今の、お前の話?」とメッセージを送ると、比奈から「妹の全国デビューを祝いたまえ」と返ってくる。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。サイコロが転がり「モセズ」の目が出る。

○黒味
   T「モセズのすべらない話『スプーン曲げ』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
モセズ「私が小学校四年生くらいの頃でしたかね、あるテレビでMr.マリックさんが、スプーン曲げのやり方を教えてくれる番組がやってまして」
矢崎「教えてもらった所で、無理でしょ」
モセズ「いや、そのやり方は、普通の、いわゆるスプーン曲げと違って、片手で付け根をこすりながら、もう片方の手で先端を押して曲げる、みたいなやり方で。まぁ、簡易版みたいな感じだったんですよね」
橘「軽く人力込み、みたいな?」
モセズ「まさにそういう感じですね。で、それを見た次の日……」

○(回想)小学校B・教室
   給食の時間。配膳が終わるまで待っているモセズ(10)、渡辺(10)ら四人組の班。
モセズの声「給食の時間、正確には配膳が終わるまでの待ち時間に、その話になったんですよ」
渡辺「昨日のだろ? 見た見た」
モセズ「なぁ、やってみない?」
    ×     ×     ×
   スプーン曲げに挑戦するモセズ、渡辺ら。
モセズの声「で、やってみたんですけど、まぁ上手くいかないんですよ。ところが……」
   渡辺がスプーン曲げに成功する。
渡辺「曲がった!」
モセズ「凄ぇ!」
   盛り上がるモセズ達。
モセズの声「一人、見事に曲げたヤツがいたんですよ」
矢崎の声「お~」
モセズの声「それで一通り盛り上がったんですけど、ここで一つ問題が発生しまして」
   曲がったスプーンを見つめる渡辺。
モセズの声「まだ給食食べ始めてない訳ですよ」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
モセズ「でもMr.マリックさん、曲げたスプーンの戻し方は教えてくれてないんですよ。これから給食食べるのに、スプーン曲がってて『さて、どうする?』ってなりまして」
沙織「確かに~」

○(回想)小学校B・教室
   給食の時間。曲がったスプーンを力づくで戻そうとする渡辺とそれを見守るモセズら。
モセズの声「で、何とかスプーンを力づくで戻そうとしたんですけど……」
   根本から真っ二つになるスプーン。
渡辺「あ……」
    ×     ×     ×
   持つ部分のないスプーンを使って何とかスープを食す渡辺。
モセズの声「仕方ないので……」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
モセズ「(当時の渡辺の食べ方を再現しながら)給食をこうやって食べてました」
   笑う一同。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「宇野」の目が出る。
沙織「なるほど~」

○黒味
   T「宇野沙織のすべらない話『グループワーク』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
沙織「コレは、私が就職活動していた時の話で。今はどうかわからないんですけど、当時は会社説明会の日に、グループワークをやる会社も結構ありまして」
矢崎「グループワークって、何すんの?」
沙織「例えば、広告業界なんかだと、仮に作られた求人広告を見て『この広告の問題点を考えましょう』みたいな感じですかね?」
戸村「そんなんやるん?」
モセズ「やりますやります」
沙織「で、これはまた別の広告会社のグループワークの話で……」

○(回想)会議室
   説明会の会場として借りた大きな部屋。大勢の就活生が四~五人一組で班になっている。
   沙織と同じ班には渡辺(21)、学生A、学生B。
沙織の声「その時の課題は全部で五問あって。問一は『キャッチコピーを考える』という問題で、問二以降は選択問題だったんですね。なので……」
沙織「先に選択問題を終わらせて、残った時間でキャッチコピーを考えた方がいいと思うんですけど、どうですかね?」
渡辺「それがいいと思います」
沙織「ですよね。(学生A、Bに向け)どう思います?」
   無言で軽く頷くだけの学生A、B。
沙織の声「正面に座る男子は反応してくれるんですけど、残りの二人がまぁ、リアクションなくて」
戸村の声「そら、しんどいな」
    ×     ×     ×
   グループワークをする沙織、渡辺、学生A、B。
沙織「問二は、明らかにaだと思うんですけど、どう思います?」
渡辺「僕もaだと思います」
沙織「(学生A、Bに向け)どう思います?」
   無言で軽く頷くだけの学生A、B。
沙織「じゃあ、aで。問三は……aとdは明らかに違うと思うんですよ(と言って学生A、Bに視線を向ける)」
   ノーリアクションの学生A、B。
沙織「(そのまま視線を渡辺に向け)思うんですよ」
渡辺「思います。実質bとcの二択ですよね」
沙織「そうなんですよ。でも、bって何かひっかけっぽくないですか?(と言って学生A、Bに視線を向けるも無視され、最終的に渡辺に視線を向ける)」
渡辺「そうですね、cにしときますか」
沙織「じゃあ、cでいいですか?」
   無言で軽く頷くだけの学生A、B。
   イライラを押し隠す沙織。
沙織「次、問四なんですけど……どう思います?(と言って学生A、B、渡辺の順に視線を向ける)」
   ノーリアクションの学生A、B。
渡辺「bかdだと思うんですけど……」
沙織「私もそう思うんですけど、どっちですかね……?」
渡辺「う~ん……どっちも決め手に欠けるというか」
沙織「そうですよね……どうですか?」
   と言って学生Aに視線を向ける沙織。
沙織の声「って、またダメ元で喋らない人Aに振ったら……」
学生A「まぁaとcは明らかに間違いだと思うんですよ。で、bはここの数字が低すぎるというか、おかしいと思うんで、正解はdじゃないかな、って思うんですよ」
   呆気にとられる沙織と渡辺。
沙織の声「何かいきなり喋りだして」
沙織「じゃあ、dって事で……」
学生A「まぁ僕も自信は無いんですけどね」
   イライラを押し隠す沙織。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
沙織「『もう何なの?』って。ずっと黙ってたと思ったらいきなり喋りだして、念を押したら『自信はないですけどね』の一点張りで」
戸村「腹立つヤツやな~」
沙織「で、このままじゃ埒が明かないと思って、残る一人」

○(回想)会議室
   グループワークをする沙織、渡辺、学生A、B。
沙織の声「喋らない人Bに振ったんですよ。そしたら……」
沙織「(学生Bに)どう思います?」
   しばしの沈黙。
学生B「僕、問二の答えはaだと思うんですよ」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
沙織「もうソレ終わったから!」
   笑う一同。

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   その様子が映るテレビを見ている渡辺。
橘「で、その会社、受かったん?」
沙織「あ、もう辞退しました。こんな人達が同僚になるかも、って思ったら無理なんで」
   笑う渡辺。

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。サイコロが転がり「矢崎」の目が出る。
矢崎「俺か~」
橘「っていうか、藤原さんの目あります?」
モセズ「え~っと……(サイコロを見て)はい、ありますあります」
沙織「ちょっと(藤原に)何か言った方がいいんじゃないですか?」
   「まぁまぁ」とでもいうように矢崎に話を促す藤原。
戸村「喋れや」

○黒味
   T「矢崎のすべらない話『腰痛』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「僕が芸人になって一年目くらいの話なんスけど、物流系の会社で仕分けのバイトをしてたんスね」

○(回想)配送センター(夜)
   段ボール箱を持ち上げては仕分けしていく矢崎(19)。
矢崎の声「結構重い荷物もあったりするんスけど、意外とパートのおばちゃんみたいな人も多くて」
沙織の声「へ~」
戸村の声「そうそう。意外と居んねんな」
    ×     ×     ×
   腰を押さえながら仕事をする睦美(42)の元にやってくる矢崎。
矢崎の声「で、その中の一人が、腰をやっちゃったんスよ」
矢崎「渡辺さん、大丈夫っスか?」
睦美「うん、大丈夫。ありがとう」
矢崎「腰、相当ヤバい感じっスか?」
睦美「そうなのよ。歳って嫌ね」
矢崎「いやいや、明日は我が身っスよ」
睦美「そうね。矢崎君も気をつけなきゃ」
矢崎「本当っスね」
矢崎の声「……って言ってた次の日」
    ×     ×     ×
   荷物を持ち上げ、腰を痛める矢崎。
矢崎「痛っ!」
矢崎の声「本当に腰痛めて」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
矢崎「本当に『明日我が身』になるっていう」
   笑う一同。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「藤原」の目が出る。
矢崎「やっと出た」
   自然と起きる拍手。
藤原「あの、今の世の中って……」
戸村「もう始めるん? この状況で良くスッと話始められるな」
藤原「えぇ、まぁ」

○黒味
   T「藤原リョータのすべらない話『告別式にて』」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
藤原「今の世の中って『空気を読む』という事に非常に重きを置いている節があると思うんですね」
戸村「はいはいはい」
藤原「ただソレって、あくまでも自然に、流れのままで読むべきものであって、目を凝らし、耳を澄ませ、全神経を研ぎすませて感じ取るものではないと思うんですよ」
沙織「確かに」
藤原「思っているんですけど、この話はそう思っている僕が『全力で空気を読んだ』時の話なんですね」

○(回想)葬儀場・外
   「故渡辺秀夫」と書かれた看板。
藤原の声「僕が二五歳の時に、母方の祖父が亡くなりまして」

○(回想)同・中
   祭壇に飾られた渡辺秀夫(81)の遺影。眼鏡をかけている。
   お焼香をする参列者達。
藤原の声「で、僕は父、母、父方の祖父母、母方の祖父母の中で、一番懐いていたのが母方の祖父だったんですね。その祖父のお葬式の時なんですけど」
   遺族の席に座る藤原(25)。隣には藤原の姉(27)、前には渡辺和子(77)、藤原春子(50)が座っている(和子のみ車椅子)。
藤原の声「で、お通夜の時から、母方の祖母の具合がちょっと良くなくてですね。まぁ大事を取って車椅子で参列すると。で、僕が孫の中では唯一の男手だったので、必然的に祖母の車椅子を押すのは僕の役割になったんですけど」
    ×     ×     ×
   秀夫の棺を囲む参列者。少し離れた所で和子の車椅子の後ろに立つ藤原。
藤原の声「で、告別式とか皆さん参列された事はあると思うんですけど、棺の蓋を閉める前に『最後に故人の体に触れて下さい』みたいな時間があるじゃないですか」
戸村の声「ありますあります」
藤原の声「で、皆さんバーッて行かれるんですけど、そうすると車椅子が入れるスペースが無いんですね。で、かと言って車椅子を置いて自分だけ行く訳にもいかないのでそこは一旦待ってたんです」
   棺を囲む参列者の間にスペースが出来車椅子ごと近づく藤原。
藤原の声「で、少しずつ人がハケてきた辺りで僕も車椅子押してスーッと棺に近づいて行きまして。祖母が立ち上がって、母親がそれを支えて、みたいな」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
藤原「ただ、意図した訳ではなかったんですけど、他の人が触れた後で、祖母が出てきたから、満を持して感が凄くて」
沙織「確かに」
藤原「で、母親も『お母さんはコッチで元気にしてるからね』なんて言って、凄く感動的な雰囲気になってるんですけど」

○(回想)葬儀場・中
   棺を囲む参列者達。秀夫の体に触れる和子と、その体を支える春子。
   その後ろ、車椅子の後方に立つ藤原。周囲を見回す。参列者の目に涙。
藤原の声「でも、僕はまだ触ってないんですよ。何故なら、車椅子の後ろにいるから。もちろん、触りたいですよ。大好きな祖父でしたから。ただ、もう、そのクライマックス感がハンパなくて、もう全力で空気を読んだ結果」
   車椅子に戻る和子。車椅子ごとスッと下がる藤原。
藤原の声「車椅子ごとスッと下がりました」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
戸村「触らずに?」
藤原「そう、触る事なく。黙ってスッと」
沙織「切ない~」
藤原「そういうお話でした」
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「藤原」の目が出る。
モセズ「うわ~」
矢崎「ここにきて連チャン」
藤原「……まぁ、そんな祖父の告別式だったんですけども」
沙織「続くんですか?」
戸村「いや、せやから何かリアクションせいや」
橘「ほんま冷静ですよね」
藤原「いや、時系列は続くんですけど、さっきのは『全力で空気を読んだ話』で、今回のは『え、そんな扱い?』って話でして」

○黒味
   T「藤原リョータのすべらない話『告別式にて 2』」

○(回想)渡辺家・仏間
   飾られた秀夫の写真。
   布団に横たわる秀夫の遺体。その脇で眼鏡を手に話をする春子と葬儀屋のスタッフ。
藤原の声「その、母方の祖父なんですけど、眼鏡をかけている人でして。で、葬儀の前に葬儀屋さんの方から『眼鏡どうされますか?』と。あの、棺の中で眼鏡かけさせるかかけさせないか、って話ですね。で、僕の母親は『眼鏡をかけさせる方でお願いします』と。もう、眼鏡をかけた顔が祖父っていうイメージが親戚中にあったんで、その方がいいと。で、葬儀屋さんも『わかりました』と」
   葬儀屋のスタッフの説明を、少し離れた所で聞いている藤原と藤原の姉。
藤原の声「ただ、眼鏡をかけたまま火葬してしまうと、中で眼鏡がパーンってなってしまう、という事だったので『その前には外しましょう』って話になってたんですね」

○(回想)葬儀場・中
   車椅子に戻る和子。車椅子ごとスッと下がる藤原。
藤原の声「で、お通夜やって、告別式やって全力で空気を読んで、その後ですね」
    ×     ×     ×
   蓋を閉じた棺を囲む参列者達。藤原も足下の辺りに居る。
   葬儀屋のスタッフの説明を聞いている参列者達。
藤原の声「『棺の蓋を閉めます』と。で、本来なら釘を打つ所なんですけど、コレ最近の主流なんですかね、参列者みんなで蓋に手を置いて、何か心の釘を打つみたいな。『釘を打つ代わりに、みんなで思いを込めて、コレで釘を打った事になります』みたいな、謎の儀式がありまして」
沙織の声「謎の儀式って」
モセズの声「怒られますよ?」
藤原の声「よくわかんないけど、みんな蓋に手を置いて、で『コレで釘を打ちました』ってなりまして」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
藤原「で、また今度は火葬場に移動して、もう今から火葬しますよって所で、最後にもう一回、蓋の所に付いてる窓みたいな場所から『最後にもう一回、故人の顔を見てあげて下さい』みたいな時間があるじゃないですか」
戸村「ありますあります」
藤原「で、僕もこういう性格なんで、あんまり泣いたりしないんですけど、やっぱり大好きな祖父でしたし、僕の前に並んでた姉とかもずっと泣いてますし『今回ばかりは僕も泣くのかな』なんて思ったりして」

○(回想)火葬場・中
   順番に棺の中の秀夫の顔を見る参列者達。藤原が覗き込むと、眼鏡をかけたままの秀夫の遺体。
藤原の声「で、いざ最後に祖父の顔を見たら眼鏡かけてるんですよ」
   思案しながら列から離れる藤原。
藤原の声「『あれ、眼鏡?』『外すんじゃなかったっけ?』って思いながら、それが祖父の顔を最後に見た時の感想になってしまったんですけど。列から離れても『眼鏡、眼鏡……』っていう感じで」
戸村の声「ちょっと使い方ちゃうけどな」
藤原の声「そうなんですけど。ただ、さっきは全力で空気を読みましたけど『ここは空気を読む場面じゃないな』と思いまして」
   隣に立つ藤原の姉を肘でつつく藤原。藤原が耳打ちするとハッとする藤原の姉。
藤原の声「母親とか、喪主やってた伯父なんかは棺を挟んで反対側に居たんで、隣で泣いてる姉に『ねぇ、ねぇ。眼鏡外すんじゃなかったっけ?』って言ったら、泣いてた姉が『ハッ』てなって」
   棺を挟んで反対側にいる春子の元へ行く藤原の姉。藤原の姉が耳打ちするとハッとする春子。
藤原の声「トコトコトコって母親の所に行ってゴニョゴニョゴニョって言って。そしたら泣いてた母親が『ハッ』ってなって」
   葬儀場のスタッフの元へ行く春子。春子が耳打ちするとハッとする葬儀場のスタッフ。
藤原の声「今度は母がトコトコトコと葬儀屋のスタッフさんの所に行って、またゴニョゴニョゴニョって言って、そしたら葬儀屋さんが『ハッ』ってなって」
   棺の蓋を開け、眼鏡を取り出す葬儀場のスタッフ。
藤原の声「で、葬儀屋さんが棺の蓋を外して眼鏡を取り出して、また蓋を閉めて、で、無事に火葬された訳なんですけど」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
藤原「ただ、その蓋って、さっき謎の儀式やって釘が打たれたものじゃないですか。本来なら本物の釘を打つ所を、みんなの心でって、よくわかんないけど、やった訳じゃないですか。それを、いくら眼鏡取り出すためとはいえ」

○(フラッシュ)火葬場
   葬儀屋のスタッフが蓋を開け、眼鏡を取り出し、蓋を閉めて、棺が火葬炉に入って行くまでをテンポよく。
藤原「パッと蓋開けて、サッと眼鏡外して、パッと蓋閉めて、バッて燃やして」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
藤原「『え、そんな扱い?』って」
   笑う一同。
    ×     ×     ×
   サイコロが転がり「★」の目が出る。
モセズ「出た、星」
矢崎「ここに来て?」
沙織「もう全員、一回は喋りましたよね?」
橘「どうします? 立候補?」
戸村「ほな、誰か喋りたい人~」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   その様子が映るテレビを観ている渡辺。
   弁当を持って立ち上がる。
渡辺M「なら、僕の話をさせてもらおう」
   電子レンジに弁当を入れる渡辺。
渡辺M「コレは僕と、電子レンジの話」

○黒味
   T「渡辺隼人のすべらない話『電子レンジ』」

○(回想)渡辺家・外観
   一軒家。和子(54)に見送られ、出てくる武田(22)。
睦美の声「お父さん、何でいつもいつもあんな事言い方するの!?」

○(回想)同・仏間
   向かい合って座る秀夫(58)と睦美(23)。
睦美「私が結婚する事の何がいけないの?」
秀夫「結婚がダメだとは言ってない。ただ、あの男は止めておけと……」
睦美「もういい。お父さんの許可なんていらない。私は純一と一緒になるから!」
   立ち上がり出て行く睦美。
   入口に立っている春子(27)。
春子「睦美!」
秀夫「放っておけ。人の気も知らんで」
春子「お父さんも落ち着いて……」
   中に入ってくる藤原(2)。
藤原「じいじ~」
春子「ちょっと、リョータ」 
秀夫「お~、リョータ。おいでおいで」
   藤原を抱きかかえる秀夫。その様子を見てため息をつく春子。

○(回想)渡辺家・外
   大きな荷物を持って出てくる睦美。門の前で待っていた武田と合流し、歩いて行く。
渡辺の声「僕の母は、父と一緒になるために駆け落ち同然に家を出て行きました」

○(回想)マンション・外観
渡辺の声「東京を離れ、大阪に居を構え」

○(回想)同・武田の部屋
   仲睦まじく暮らす武田と睦美。
渡辺の声「そんな父と母の新婚生活は、お金こそ無かったけれど、幸せだったそうです」
    ×     ×     ×
   渡辺(0)を抱く睦美(25)に電子レンジを見せびらかす武田(24)。
渡辺の声「やがて、僕が産まれ……」
武田「じゃ~ん。ついに我が家にも電子レンジが来ました~」
睦美「わ~(渡辺の手を使って拍手)。でも大丈夫? 高かったんじゃない?」
武田「大丈夫。(渡辺に)隼人の出産の補助金がありまちたからね~」
睦美「そっか。ってことは、この電子レンジは隼人の双子の弟みたいなものかな?」
武田「いやいや、妹かもよ?」
睦美「あ、そっか」
   笑い合う武田と睦美。
渡辺の声「そんな幸せそうな生活も……」
    ×     ×     ×
   テレビで有馬記念(94年)を見ている武田(31)。テレビを蹴飛ばす。
武田「くそっ、ナリタブライアンか!」
渡辺の声「父のギャンブル好きと」
   そこにやってくる睦美(32)。
睦美「もう止めてよ。子供達もいるのに」
武田「何?」
   睦美に殴りかかる武田。
睦美「!?」
武田「うるせぇ、俺に指図すんじゃねぇ!」
睦美「嫌、止めて~」
   部屋の隅でその様子を見て怯えている渡辺(5)と比奈(4)。渡辺はミッキーマウスの絵柄が大きく描かれたトレーナーを着用。
渡辺の声「度重なる暴力により、幾度となく破綻の危機を迎えていました」

○(回想)小学校A・体育館
   『スイミー』上演中。ウナギ役で出てくる渡辺。
渡辺「うな~ぎ~。うな~ぎ~」
   客席からソレを見ている武田(34)、睦美(35)。
睦美「ねぇ、アレじゃない?」
武田「そうだそうだ。いいぞ、隼人~」
渡辺の声「そのたびに父は反省を示し、一時はやさしくなるものの」

○(回想)マンション・武田の部屋
   怯えている比奈の目や耳をふさぐ渡辺。
渡辺の声「それは一時に過ぎず」
   その頭上にある電子レンジに、暴力を振るう武田の姿が映っている。
    ×     ×     ×
   電子レンジを含め、一部の家具・家電が持ち出された室内。
   テーブルの上に置かれた離婚届。
渡辺の声「僕が小学三年生の時、両親はついに離婚しました」

○(回想)小学校B・廊下
   向かい合う睦美(36)と比奈(8)。
睦美「比奈、ちゃんと自己紹介できる?」
比奈「うん。武田比奈です」
睦美「だから違うの。渡辺比奈」
比奈「なんで?」
睦美「何でも。ほら『渡辺比奈です』って」

○(回想)同・教室
   何となくソワソワしている雰囲気。その中にいるモセズ。
   担任教師に連れられ、入ってくる渡辺の姿を見て、一段と騒々しくなる生徒達。
担任教師「はい、みんな静かに。今日から、このクラスに新しいお友達が加わる事になりました。紹介します。転校生の、渡辺隼人君です」
渡辺「渡辺隼人です」

○(回想)ボロアパート・外観

○(回想)同・渡辺家
   電子レンジがチンと鳴る。
   中からココアの入ったコップを二つ取り出す比奈(9)。テーブル席に座る睦美(37)と和子(68)の前に置く。
比奈「はい。どうぞ」
和子「ありがとう」
   そのまま部屋から出ていく比奈。
和子「子育てはちゃんとしてるみたいね」
睦美「当たり前でしょ」
和子「ねぇ、睦美。お母さんも一緒にお父さんに謝ってあげるから。一度ウチに来なさい。ね?」
睦美「行かない」
和子「もう、変な所ばっかりお父さんに似るんだから」
渡辺の声「ただいまー」
   入ってくる渡辺。
渡辺「今からまた学校に行って……(和子に気付き)あっ……」
睦美「隼人のおばあちゃんよ。挨拶して」
渡辺「隼人です」
和子「こんにちは」
渡辺「じゃ、行ってきまーす」
   と言ってランドセルを置いて出ていく渡辺。
睦美「コラ、隼人。箸箱くらい……もう」
和子「男の子は大変ね」
睦美「本当、特に最近は……(箸箱を開けて)何コレ!?」
   出てきたのは柄の部分から真っ二つに折れたスプーン。
   目を見合わせる渡辺と和子。
渡辺の声「母は僕たちを連れて地元に戻ったものの、実家に頼る事はせず」

○(回想)宝くじ売り場
   店員として働く睦美。
渡辺の声「女で一つで懸命に」

○(回想)配送センター(夜)
   荷物の仕分けをする睦美。
渡辺の声「時には昼夜問わず働きながら」

○(回想)ボロアパート・渡辺家(夜)
   川の字に寝る渡辺、睦美、比奈。
渡辺の声「僕達兄妹を育ててくれました」
比奈「(寝言で)けっ、バーカ」
   目を開け、比奈を見る渡辺。

○(回想)同・同
   弁当を作る睦美(38)。電子レンジで解凍した冷凍食品を弁当箱に入れていく。そこにやってくる青いブレザー服姿の渡辺(13)。
渡辺「母さん、まだ?」
睦美「はいはい、出来ましたよっと」
   睦美から弁当箱を受け取る渡辺。
渡辺「じゃ、行ってきます」
睦美「行ってらっしゃい」

○(回想)中学校・前
   校門の看板に「○○中学校」の文字。
渡辺の声「そうして僕は中学生になり」
   歩いてくる渡辺。その目の前で愕然としている学ラン姿の矢崎。振り返り、渡辺と目が合う。
矢崎「あ、あ、あの、俺、高校行きたいんだけど、どっちかわかる?」
渡辺「高校? どっちですか? 西高? それとも……」
矢崎「じゃない方」
渡辺「なら(道を指して)その道ずっとまっすぐ行けば国道に出るんで、あとは沿って行けば……」
矢崎「サンキュー、恩に着るぜ」
   全力で走り出す矢崎。
   その背中を見て首を傾げる渡辺。

○(回想)ボロアパート・外観
渡辺の声「高校生になった頃」

○(回想)同・渡辺家
   帰ってくる渡辺(16)。高校の制服姿。
渡辺「ただいま~」
   電話で話している睦美(41)。
睦美「え、お父さんが……?」

○(回想)葬儀場・外
   「故渡辺秀夫儀葬儀式場」と書かれた看板。

○(回想)同・中
   祭壇に飾られた秀夫の遺影。お焼香をする参列者達。その中に渡辺と比奈(15)の姿。
渡辺の声「僕は初めて祖父と顔を合わせました」
    ×     ×     ×
   和子と春子の元に来る渡辺と比奈。
渡辺「この度は、その……」
春子「こんな時ですら、睦美は来ないの?」
比奈「お母さんは、腰痛めちゃって……」
春子「どうだか」
和子「(たしなめるように)春子。二人だけでも来てくれて、ありがとうね」
渡辺「いえ……」
    ×     ×     ×
   棺を囲む参列者達。秀夫の体に触れる和子と、その体を支える春子。
春子「お母さんはコッチで元気にしてるからね」
   目に涙を浮かべる参列者達。
    ×     ×     ×
   車椅子に戻る和子。車椅子ごとスッと下がる藤原。
   その様子を少し離れた所から見ている渡辺、比奈。

○(回想)ボロアパート・外観(夜)
   電子レンジのチンという音。

○(回想)同・渡辺家(夜)
   電子レンジの中からコンビニ弁当を取り出す比奈。睦美の前に置く。
比奈「ほら、お母さん。少しは食べなよ」
睦美「……うん」
   箸を手に取るも、泣き崩れる睦美。それを支える比奈。
渡辺の声「僕たち兄妹を大学まで行かせてくれた母が泣いたのは、離婚前を除けばコレが最初で最後でした」
   その様子を見ている渡辺の姿が映っている電子レンジ。

○(回想)同・同
   電子レンジでお菓子作りをする比奈(20)。
比奈「(電子レンジから取り出し)やった、大成功。ほら、見て見て」
   成功品を渡辺(21)に見せる比奈。テーブルに並んだ多数の失敗作と見比べる渡辺。
渡辺「……まぁ、よくぞここまで」
比奈「でしょ? よし、この調子で次だ」
渡辺「ったく、色気づきやがって」
比奈「そういう兄ちゃんだって、彼女さんから手作りのお菓子貰ったりしてるじゃん」
渡辺「(驚いて)え、何で(知ってる)?」
   そこにやってくる睦美(46)。
睦美「何、隼人。アンタ彼女居たの?」
渡辺「いや、関係ねぇだろ」
睦美「関係あるわよ。今度ウチ連れてきなさいよ、ね?」
渡辺「嫌だ」
睦美「え~、何でよ」
渡辺「嫌だから。あ、俺そろそろバイト行かなきゃだから」
比奈「あ、逃げた~」

○(回想)商業ビル・レストラン・厨房
   簡単な盛りつけをする渡辺。
店長の声「おい、渡辺。まだか!?」
渡辺「すみません」
   汗を拭う渡辺。

○(回想)カフェ
   オープンテラスの席でうたた寝する渡辺。春の装い。そこにやってくる舞(21)。渡辺の頬をつつく。
渡辺「(目覚めて)ん?」
舞「ごめん、待った?」
渡辺「いや、今来た所」
舞「絶対嘘じゃん」
渡辺「で、今日は何の映画観に行くの?」

○(回想)映画館
   出てくる渡辺と舞。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』のパンフレットとグッズのトートバッグを手にしている。
舞「面白かったね」
渡辺「就活が不安になるけどね」

○(回想)会議室
   グループワークをする渡辺、沙織、学生A、B。

○(回想)ボロアパート・渡辺家(夜)
   帰ってくる渡辺。スーツ姿。出迎える睦美。
渡辺「ただいま」
睦美「お帰り。どうだった?」
渡辺「多分、ダメ」
睦美「そう……」
    ×     ×     ×
   夕食を電子レンジで温める渡辺。その間にメール受信。開くと不採用通知。
渡辺「くそっ!」

○(回想)カフェ
   オープンテラスに向かい合って座る渡辺(22)と舞(22)。
渡辺「もう二〇社目だよ」
舞「元気出しなって。次頑張ろうよ」
渡辺「いいよな、もう内定獲った奴は」
舞「そんな事言わないでよ。(渡辺の肩を叩こうとして)焦らないで……」
渡辺「(舞の手を振りほどき)俺に指図すんじゃねぇよ!」
舞「隼人君……?」
渡辺「……悪ぃ、今日は帰るわ」
   立ち去る渡辺。

○同・渡辺家(夜)
   思い詰めた表情でテーブル席に座る渡辺。そこにやってくる比奈(21)。
比奈「どうしたの、兄ちゃん。怖い顔して」
渡辺「ん? あぁ、別に……」
比奈「あっそ」
渡辺「……ねぇ」
比奈「ん?」
渡辺「親父って、今何してんのかな?」
比奈「え? 最後に聞いたのは、もう大阪は離れて、静岡辺りに居るって話だったけど……何で?」
渡辺「いや、何となく。今頃、また誰かをぶっ飛ばしてんのかな、って思ってさ」
比奈「かもね」
渡辺「……俺にもさ、その血って流れてんだよな」
比奈「……そんな話、お母さんの前ではしないでよね」
渡辺「わかってるよ」
   自分の拳を見つめる渡辺。

○(回想)商業ビル・レストラン・厨房
   皿洗いをする渡辺。
店長の声「渡辺、もう今日は上がっていいぞ」
渡辺「あ、はい。お先です」
   何かを決意した表情の渡辺。

○(回想)同・従業員入口(夜)
   警備員姿の戸村の前に。やってくる渡辺。ショルダーバッグと「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」と書かれたトートバッグを持っている。
   戸村の検品を受ける渡辺。
戸村「はい、ありがとうございます」

○(回想)公園(夜)
   向かい合って立つ渡辺と舞。
舞「え……今、何て言った?」
渡辺「だから、別れよう」
舞「何で? 急に、そんな」
渡辺「……就活に専念したいから」
舞「あ、そういう事か……。別に私、隼人が内定出るまで待つから、大丈夫。その間に就活に専念して、その後……」
渡辺「そういう事じゃなくて、別れよう」
舞「そういう事じゃないって、じゃあどういう事なの?」
渡辺「(トートバッグを渡して)コレ、借りてたDVDとか。全部入ってるから」
舞「勝手に話進めないでよ。何で? 理由言ってくれないとわからないよ。この間、私が余計な事言ったから? なら謝るから」
渡辺「大丈夫。舞なら、もっといい男見つけられるから。じゃあ」
   立ち去ろうとする渡辺。その腕にすがりつく舞。
舞「ねぇ、待ってよ」
渡辺「(絞り出すように)……頼むから」
   力なく手を下ろす舞。立ち去る渡辺。
   雨が降り出す。
   泣き崩れる舞に目もくれず歩き続ける渡辺。

○(回想)ボロアパート・外観(夜)
   雨が降っている。

○(回想)同・渡辺家(夜)
   電子レンジを見つめる渡辺。
   そこには睦美に暴力を振るう武田の姿が映っている。それが徐々に舞と渡辺に変わっていく。
渡辺「コレで良かったんだよ、コレで……」
   泣き崩れる渡辺。

○(回想)同・外観
   晴れている。

○(回想)同・渡辺家
   テーブルを囲む渡辺、睦美、比奈。
比奈「それでは、兄ちゃんの内定を祝って」
一同「乾杯」
睦美「おめでとう、隼人」
渡辺「ありがと」
比奈「ささっ、食べよ食べよ」
   肉料理を口に運ぶ比奈。
比奈「……あれ? ねぇ、お母さん。コレもっと温めた方が良くない?」
睦美「え? (食べて)あ、本当だ。おかしいな~。ちゃんとレンジでチンしたのに」
比奈「最近、調子悪いよね」
睦美「まぁ、もう二〇年以上使ってるから」
   電子レンジを見つめる一同。
渡辺「まぁ、もしあの電子レンジが壊れたら俺が金出すよ」
比奈「おぉ、太っ腹」
睦美「大丈夫よ、隼人。ウチにだってソレくらいのお金……」
渡辺「そうじゃなくて。ずっと前から決めてたの。あの電子レンジは、俺が産まれてからずっと一緒に居てくれたヤツだろ? ずっと見てきてくれたヤツだから、最後は俺がアイツに『お疲れさん』って言ってやるんだって」
睦美「隼人……」
渡辺の声「そして、四月」

○(回想)同・ベランダ
   電子レンジが置かれている。それを見つめる渡辺。
渡辺の声「僕の初任給を待っていたかのように、その電子レンジは壊れた」
渡辺「お疲れさん。今までありがとな」
   電子レンジを撫でる渡辺。
   そこにやってくる比奈。
比奈「兄ちゃん、届いたよ」
渡辺「おう」

○(回想)同・渡辺家
   新しい電子レンジが置かれ、何か温めている。それを見つめる渡辺、睦美、比奈。
比奈「へぇ、(ターンテーブルが)回らないんだ」
睦美「しかも秒数とか設定しなくていいんでしょ?」
比奈「ハイテクノロジ~」
   ピピピッと鳴る電子レンジ。
比奈「『チン』じゃないんだ」
睦美「(取り出して)しかも、ちょうどいい温かさ」
比奈「ハイテクノロジ~」
   その様子を見ている渡辺。
渡辺「(電子レンジへ小声で)これから、ソコに何を映して行くんだろうな」
   新しい電子レンジに映る渡辺、睦美、比奈の姿。
渡辺の声「その新しい電子レンジが……」

○(回想)同・同・ベランダ
   前の電子レンジの上に置かれた新しい電子レンジ。
渡辺の声「半年で壊れました」
   それを見つめる渡辺。
渡辺「マジかよ!」

○スタジオ
   卓を囲む戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。笑う一同。
戸村「いや~、すべらんな~」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   その様子をテレビで見ている渡辺。コンビニ弁当を食べている。
渡辺M「人は誰も、永遠に幸せでい続ける事は出来ない」

○宝くじ売り場
   接客中の睦美。
渡辺M「一度も、何の不満を持たずに生きてこられた人なんていない」

○新幹線・中
   並んで座る戸村と比奈。
   眠っている比奈。
渡辺M「皆、誰もがどこかで、不運に見舞われ、理不尽な思いをし」

○居酒屋A・前(夜)
   酔っぱらって歩く武田。
渡辺M「行く宛てのない感情を抱いている」

○商店街
   子連れで歩く舞。
渡辺M「でも、そんな思いを笑い飛ばした時」

○スタジオ
   卓を囲む渡辺、比奈、睦美、武田、舞。
渡辺M「それはきっと、すべらない話になる」

○(フラッシュ)同
   喋る戸村、モセズ、矢崎、沙織、藤原、橘。
渡辺M「人は誰も、永遠に幸せでい続ける事は出来ないが、だからこそ、人は誰も一つはすべらない話を持っている」

○アパート・渡辺の部屋(夜)
   サイコロが転がり「★」の目が出る様子を映すテレビ。
渡辺M「さあ、次は貴方の番……」
   その様子をテレビで観ている渡辺。
渡辺M「不幸を笑い飛ばして、人生をもっと面白くしてみてはいかがですか?」
   座椅子に寄り掛かる渡辺。座椅子が一八〇度に倒れ床に頭をぶつける渡辺。
渡辺「痛っ! え、何で!?」

○黒味
   T「全て、実話を基にしたフィクションである」
N「今宵綴られた話は全て、実話を基にしたフィクションである」
                 (完)

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