タイム・リミット コメディ

都内ビルにて、事件発生。 犯人はビルに立てこもり、人質を取っている。 手には起爆スイッチ。犯人を刺激するな。 爆弾処理班が撤去作業に当たっている。 犯人に勘付かれないように注意せよ。 繰り返す…
白石 謙悟 13 0 0 06/04
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第一稿

『タイム・リミット』

登場人物

室伏(ムロフシ)…某警察機動隊、爆発物処理班の班長。
         貫禄はあるが、緊張感が足りない。マイペースな性格
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『タイム・リミット』

登場人物

室伏(ムロフシ)…某警察機動隊、爆発物処理班の班長。
         貫禄はあるが、緊張感が足りない。マイペースな性格
         で、娘を溺愛するお父さん

長谷川(ハセガワ)…室伏班の構成員。爆薬の知識に富んだ若きエース。
          生真面目な性格で、仕事熱心。
          室伏のマイペースさに振り回され、胃が痛い


   明転。とあるビルの一室。
   部屋には強力な爆弾が仕掛けられている。
   某警察署から派遣された爆発物処理班の室伏と長谷川。
   長谷川が撤去作業に当たっている。

室伏「…でさぁ、娘が初めて私に手作り弁当作ってくれたんだぁ。
   いやぁ、嬉しいの何のって…。天使かと思ったね、あの笑顔ときたら」
長谷川「そうですか、それは良かったですね」
室「うん、良かったよぉ〜。あの天使の笑顔、長谷川君にも
  見せてあげたかったなぁ」
長「そうですか、それは惜しかったですね」
室「うん、惜しかったよぉ〜」
長「終わりですか?」
室「うん?」
長「もうお話は終わりですか?終わりですよね。はい、終了!」
室「いやいや、長谷川君。まだ終わりじゃないよ。
  これには続きがあってだね…」

   作業していた手を止める長谷川

長「室伏さん、今の状況わかってます?」
室「ん〜?もちろん、わかってるよ」
長「嘘でしょ。絶対わかってない!」
室「おいおい、落ち着きなさいよぉ。私は班長だよ。状況把握を
  怠るなんて失態、するわけがないだろう」
長「じゃあ、何で娘の自慢話してるんですか」
室「少しでも君の緊張をほぐそうと思ってね…」
長「やめてください。余計に手が狂いますから」
室「写真見る?」
長「いいって言ってんだろ!もう!」

   作業に戻る長谷川

室「ちぇ〜、こんなに可愛いのに…」

   写真を懐から取り出し、幸せそうな表情の室伏。
   真剣な表情で撤去作業にかかる長谷川

室「…時に、どんな感じだい?爆弾の方は」
長「正直、難航してます。犯人も厄介な物を仕掛けたもんですよ…」
室「そうかぁ〜。大変だねぇ」
長「あの、本当にそう思ってます?」
室「思ってるよぉ〜」

   納得のいかない表情の長谷川。
   室伏はそれに応えるように、満面の笑み

長「いかん、集中集中…」
室「そうかぁ、爆発物処理のエキスパートである君でも、
  てこずることがあるんだねぇ」
長「……」
室「君には期待してるんだよ。署内じゃ、皆君のこと「爆弾処理のエース」
  って呼んでるよ」
長「……」
室「爆弾処理ってのは危険な仕事だ。殉職者も多い。
  まぁ、今更言わなくても、君なら重々承知しているだろうが…」
長「……」
室「私の同期にも殉職者がいてねぇ…。あ、機動隊じゃないんだけどね。
  刑事だったんだ。優秀な男だったんだが、惜しい奴を亡くしたよ」
長「……」
室「私達の仕事は常に危険を伴う。しかし、それと並行して善良な市民を
  守るという立派な職業だ。警察学校で耳にたこができるくらい聞かされた
  だろうが…。
  娘もね、友達にね、「うちのお父さん、警官なんだよー。カッコいいでしょ!」
  とか言ってたとか何とか…。て、照れるなぁ、もう…」
長「…あの、室伏さん」
室「何だい?写真見る?」
長「お願いしますから…ちょっと黙っててください」
室「おお…ごめんごめん。娘のこととなるとどうもね…。
  そんな怖い顔しなさんな」
長「わかってますか?ここで僕がミスをすれば、2人とも殉職ですよ。
  娘さん、悲しむでしょ」
室「えっ…」
長「な、何て顔してるんですか…。当たり前でしょ。
  失敗イコール死、ですよ」
室「い、いやいや…何を言ってるんだ、長谷川君。君の口から、ミスだの
  失敗だの…。ら、らしくないじゃないか」
長「そうも言いたくなりますよ…。今回の爆弾、本当に一筋縄じゃいきません」
室「そんな…」
長「大した腕ですね…。時限式じゃなかったのが唯一の救いかも」
室「そ、そうか…。ううむ、専門家の君でもお手上げとは…」
長「降参したわけじゃありません。必ず解除してみせます」
室「おっ!さすがだねぇ〜。それでこそ、エース!頼むよぉ」
長「だから、邪魔しないでくださいね」
室「別に邪魔してたわけじゃないんだけどなぁ」

   作業に戻る長谷川
   娘の写真を眺めている室伏

室「葵…お父さん、きっと帰って来るからなぁ。これでお別れなんて、
  そんなこと、あるもんか。お父さん、葵が結婚して、幸せになるまでは
  絶対に死ねないんだ。
  ああ、でも…お父さん泣いちゃうだろうなぁ…。披露宴で、「お父さん、
  今までありがとう」なんて言われたらもう…」

   手を止める長谷川

長「室伏さん」
室「へぁ?」
長「うるさいです…」
室「ご、ごめん…。何か、感極まっちゃって」
長「何で1人で感極まってるんですか!?」
室「娘の…結婚式の披露宴でね。娘が、私に言うんだよ。お父さん、今まで…」
長「(遮り)娘さん、おいくつなんですか?」
室「9歳」
長「気が早過ぎますって」
室「おぉ、葵…」
長「とにかく、黙っててくださいって言ってるでしょ!集中できないんですよ!」
室「わかったよぉ…。怒鳴るなってぇ…」
長「だったら静かにしててくださいね」
室「うむ」

   作業に戻ろうとする長谷川

室「いかぁぁぁんッ!!!」
長「今度は何ですか…?」
室「ま、不味い…!私としたことが…肝心なことを忘れていた…!」
長「肝心なこと?」
室「今週…娘の誕生日なんだ…!」
長「……(言葉にならない)」
室「まだプレゼントを買っていない…。早急に買いにいかねばぁぁ!!」
長「駄目だ、この人…」
室「長谷川君、私達の仕事をしよう!さぁ、何をモタモタしているんだ!」
長「滅茶苦茶言いますね、さっきから。僕は全力でやってますよ」
室「どうなんだ、爆弾の方は?」
長「この通りです。苦戦してます」
室「どれ、見せてみたまえ」
長「どうぞ」

   爆弾を覗きこむ室伏

室「ふむ…なるほど…あれがああなって…こうか…ううむ…」
長「複雑でしょ?それでもって、精密だ。
  ここまで組み込まれた配線、見たことない…」
室「さっぱりわからん」
長「おい!?」
室「私は昔から、迷路や脱出ゲームが大嫌いなんだ!
  こういう絡み合った構図を見ただけで、鳥肌が立つ!」
長「威張るところじゃないですよね」
室「こういうのは、直感が大事じゃないか?」
長「外したら死にますよ」
室「すまなかった。聞かなかったことにしてくれ」
長「だから、地道に解いていくしかないんです。一つずつ、配線を理解しながら、
  慎重に…」
室「駄目だ!私は一刻も早く、娘のプレゼントを買いにいかねばならんのだ!」
長「知らんわ!仕方ないでしょうが、これが一番確実なんですから」
室「くっ…もどかしいいいい!!!」
長「死ぬよりかましでしょう」
室「ま、まぁ…」
長「いや、でも…」
室「何だ?」
長「あまり悠長にしてる時間もないかもしれませんね」
室「どういうことだ!?」
長「これ、時限式じゃないとしたら、起爆式でしょ?」
室「そうなるな」
長「今、上の階では我々と犯人との拮抗状態です。あっちには人質もいるし、
  うかつには手を出せない」
室「そうだな」
長「起爆スイッチは犯人の手の中にある。いつ奴が痺れを切らすか
  わからないじゃないですか」
室「し、しかし、我々がスイッチを奪取できれば、あるいは…」
長「危険ですよ。リスクが大き過ぎます。人質の命も危ない」
室「ううむ…」
長「今、説得が行われてるんですよね。時間稼ぎですよ。
  その間に僕たちが爆弾を解除できれば、チェックメイトだ」
室「我々の手にかかっているということだな!」
長「そうです。だから、娘の自慢話とか、披露宴の妄想とかしてる場合じゃ
  ないんですよ!空気読んでください、ホント!!」
室「あいや、すまんかった!」
長「作業に戻ります。大人しくしていてくださいね」
室「うむ、最善を尽くしてくれ!」
長「調子いいな、この人…」

   室伏の無線が鳴る

室「こちら、室伏!どうした!?…何!?いいか、あまり刺激するんじゃないぞ。
  人質の命がかかってるんだ。この無線、聞かれてないだろうな!?
  …うむ、いいぞ。とにかく、時間を稼げ。今、私と長谷川が
  撤去作業に当たっている。作業が完了すれば、後はこっちのものだ。
  奴を押さえられる。いいか、それまで持ちこたえろ!
  葵が待ってるんだ!私は早くプレゼントを買いに行きたい!
  以上だ、切るぞ!!」

  室伏が無線を切る

長「私情でまくってますね。…あちらの状況は?」
室「芳しくないな。犯人が興奮しているらしい…。危険だ」
長「なるほど…。撤去作業に当たっていることに勘付かれたりでもしたら、
  不味いですね」
室「ああ、急がねば…」
長「これでも全力でやってるんですけどね…。くそっ、どうなってる…」
室「どうした、長谷川君!?」
長「いえ…。ちょっと……。手詰まり、ですかね、これは…」
室「手詰まりだと!?爆弾処理のエースである君が…!?」
長「買被らないでください…。僕だって人間です。完璧じゃないんだ」
室「む…」
長「これでも、相当なプレッシャーを感じているんです。
  実は僕、エースとか何とか言われてるけど、こんな大舞台の現場は
  初めてなんですよ」
室「そ、そうだったのか…」
長「さ、さっきから手が震えて…。止まらないんです」
室「長谷川君…」
長「くそっ…くそ!こんな時に…!止まれ!くそっ…」

   無言で長谷川に近づき、肩に手を置く室伏

長「室伏さん…?」
室「落ち着くんだ。…すまないな。無意識のうちに、君に対してプレッシャーを
  与えてしまっていたのかもしれない。
  しかし、自信を持て。これは、君にしかできない仕事なんだ。
  いつも通り、平常心で臨みなさい」
長「……」
室「なあ、長谷川君…」
長「何ですか?」
室「葵のプレゼント、何がいいと思う?」
長「本当に空気読んでください。お願いしますから」
室「私は至って真面目に聞いている!」
長「もっと仕事に対して真面目になってください!」
室「君の緊張をほぐすためだ。肩の力を抜け。
  …で、何がいいと思う?若い者の意見を参考にしたいんだよぉ」
長「ああ、駄目な方に戻ってる…」
室「長谷川くぅん!」
長「何でもいいじゃないですか。大事なのは、物より気持ちでしょう?
  室伏さんの気持ちがこもった物なら、娘さん何でも喜びますよ」
室「おぉ…。君、なかなかいいこと言うじゃないか…」
長「普通です」
室「うん、その通りだな…。大事なのは気持ちだ。
  お父さん、クッキーでも焼いてみようかな」
長「手作りですか…」
室「葵はよく作ってくれるんだ。あの子はお菓子作りの才能があるよ。
  ということは、父親である私も、才能があるはずだ」
長「母親を受け継いだんでしょう、そこは」
室「そんなものわからんだろうが!」
長「いい歳してクッキー焼くおっさんって…」
室「歳は関係ないよぉ。気持ちはヤングマンさ。
  私はまだ、革ジャンがナチュラルに似合うナイスガイだよ」
長「ははは、馬鹿だなぁ」
室「おっ、笑ったね」
長「!」
室「緊張は解けたかい?」
長「…わかりません。…ただ、手の震えは止まりました」
室「よぉし、もうひと頑張りだ。頼むよ、長谷川君」
長「一応、礼を言っておきます」
室「たまには班長らしいことしないとねぇ」

   撤去作業に戻る長谷川。
   室伏の無線が鳴る

長「こちら室伏!!…な、何だとぉ!?それは確かか!?
  犯人がそう言ったのか!?…うむ…それが確かなら、事態は一刻を
  争う!切るぞ!!」

   無線を切る室伏

長「どうしたんですか?あまり聞きたくないですが」
室「犯人が…爆弾を時限式にセットしたらしい…。信じがたいが、
  起爆、時限の両対応になっていると…。何と言うことだ…!」
長「そうですか…。道理で、この音…」
室「起爆スイッチは、依然として奴の手の中にある。
  奴め、心中する気だ!!」
長「……」
室「タイムリミットは…あと、3分!!」
長「3分…」
室「長谷川君!」
長「大丈夫です」
室「いけそうか!?」
長「あとは、神様が味方さえしてくれれば」
室「ど、どういうことだ…?」
長「もうひと押しなんです。あらかた解除しました。あとは、最後だけ…」
室「では、早く!!」
長「わからないんです。見てください、これ」
室「こ、これは…」
長「赤いコードと、青いコード。2分の1です」
室「何と…」
長「ここまで来て、運任せなのは僕の力不足です。本当にすみません…」
室「いや、君はよくやった。君は全力を尽くした。責任はない!」
長「室伏さん…」
室「あとは…私に任せろ」

   ペンチを持ち、爆弾に向かう室伏

長「む、室伏さん!何を!?」
室「大丈夫だ…。私は班長。私が全て責任を取る。
  それに、答は決まっている。私の娘に、間違いなどあるものか!」
長「あと30秒です!」
室「大丈夫…大丈夫…」
長「室伏さんッ!!」
室「……葵―――――ッ!!!」

   室伏が青いコードを切る。
   暗転。
   エピローグ

警官(声のみ)「爆弾処理班より報告!爆弾撤去成功!
       速やかに犯人を確保せよ!繰り返す…」

――完――

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