ビデオ・オブ・レンタル コメディ

郊外にある寂れたビデオレンタル店。薄給をもろともせず熱い思いで求職する村尾。晴れて店員となった村尾はある日、謎の黒いVHSを発見する。異様な存在感を放つその黒い物体に村尾は人生を狂わせられてしまう……。
富ヶ谷 菅太郎 5 0 0 12/22
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第一稿

【登場人物】
村尾(30)
店長(40)
松本(35)

○レンタルビデオ店、その名もズバリ「ビデオ・オブ・レンタル」・外観
寂れた郊外に佇む老朽化が目立つこじんまりと ...続きを読む
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【登場人物】
村尾(30)
店長(40)
松本(35)

○レンタルビデオ店、その名もズバリ「ビデオ・オブ・レンタル」・外観
寂れた郊外に佇む老朽化が目立つこじんまりとしたレンタルビデオ店。

○同・店内
映画DVD・アダルトDVD・コアなファン向けの未DVD化VHS等が棚に所狭しと並んでいる。

○同・事務室
机を前に対面して座る村尾(30)と店長(40)。
店長、履歴書を眺めながら
店長「……で、村尾君は面白い志望動機してんだね」
村尾「はい、映画好きAV好きってのはもちろん、ここ最近は知人のツテでドラマ物のAVの台本を手掛ける機会に恵まれまして……」
村尾、ゴソゴソと鞄からパッケージングされたサンプルDVD『寝とり寝とられ愛憎小路part2』を取り出して店長の前に差し出す。
店長「(DVDを手に取り)へ~」
村尾「僕の名前のクレジットはパッケージと本編中にはありませんが紛れもなく僕が台本を書いた渾身の一作なんです」
店長「(怪訝な表情)ふ~ん」
村尾「あ、店長もしや疑ってるんですか?」
店長「いやいや、別にそんなことないよ」
村尾、ポケットからスマホを取り出してワード系のアプリを起動させて店長に見せつける。
村尾「これ見て下さいよ! 映像化前の台本です。なんならそのサンプルとこのデータお貸ししますんで台本と照らし合わせながら観賞して頂いても結構ですよ」
村尾の熱い自己ピーアールに少々引き気味の店長。
村尾「本作はですね、趣味じゃない寝とり寝とられのジャンルに真っ向から挑んだ血と汗の結晶なんです! 独自の取材調査による真に迫るストーリー性と女優男優の鬼気迫るねっとりした愛憎の絡みが前作をも凌ぐ作品ででしてね、エイリアン2みたいな出来に仕上がってるんですよ!」
店長「わかった、わかったから。もう採用でいいよ君」
村尾「え、本当ですか? あざっす! あ、ちなみにこいつも(『寝とり寝とられ愛憎小路part2』のDVDを我が子のように胸に引き寄せ)よかったら店頭で取り扱ってほしいっす! 売上好調間違いなしっす! 保証するっす!」
店長「……ま、それは別件として前向きに検討しとくよ」
村尾「宜しくたのむっす!」
店長「で、いつからこれるの?」
村尾「いつでも大丈夫っす!」
店長「じゃ明日から頼むよ」
村尾「オーケーっす!」

○(別日)同・店内(夜)
客が少ない店内。
レジでは先輩の松本(35)が接客している。
村尾、あくせくと返却DVDをケースに戻し回っている。
村尾「ん?」
DVDとDVDの間に仕切りとして挟んである黒いVHSケースに目を留める村尾。
村尾、ケースを引っ張り出して開けてみる。
中には無記名の謎のVHS本体が入っている。
村尾「???」
と、村尾の肩を掴む松本。
村尾「う!」
松本「さっさと戻せ!」
村尾「え?」
松本「いいから戻せって」
村尾、半信半疑でVHS本体をケースに戻す。
松本「早く返却作業終わらせてレジ手伝って。混んできたから」
村尾「あ、はい」
納得いかない表情で返却作業に戻る村尾。

○村尾の住むアパート・外観(朝)

○同・室内(朝)
帰宅する村尾。
一目散にリビングへ向かい、押し入れを開けて埃を被っているテレビデオの配線を組む。
× × ×
部屋着でジャージ姿の村尾、鞄から黒いVHSケースを取り出す。
村尾「(生唾を飲み込む)……」
ケースを開けてVHS本体を取り出す村尾、テレビデオに差し込む。
村尾、視聴スペースに陣取り、リモコンで再生ボタンを押す。
ブラウン管画面に砂嵐が映し出される。
しばらく続く砂嵐。
村尾「(期待はずれのため息)……」
テレビデオにリモコンを向けて停止ボタンを押そうとする村尾。
村尾「ん!?」
画面に映像が映る。
村尾「げ!!」
店内の個室トイレ内を四方八方から盗撮している映像。
村尾「うわ~どっひゃ~なんてこっちゃ~!(若干の期待)」
映像:ガチムチの土建屋の男が個室に入ってきてズボンを下ろす。
村尾「げっ!」
村尾、とっさにリモコンの停止ボタンを押す。
映像が停止される。
村尾、ゼイゼイと苦悶の表情。
村尾「どえらいこっちゃ~!!!」

○「ビデオ・オブ・レンタル」・店内(夜)
そこそこ賑わう店内。
レジにて、店長・松本・村尾の並びで返却手続きをしている。
村尾、横目で店長をチラチラ見つめて気が気でない様子。
と、店長のレーンにつぶらな瞳をしたオッサンの客が黒いVHSケースを持ってやって来る。
村尾「げっ!」
村尾、ここぞとばかりに店長とオッサンの客を凝視する。
松本、肘で村尾を小突く。
松本「おい、見るんじゃねえ。自分の返却手続きに集中しろ」
村尾「あ……はい」
と言いつつ横目でチラ見しながら作業する村尾。
オッサンの客と店長はなにやら映像の内容について卑猥な雑談をしているようである。
村尾、驚愕の表情で
村尾「(小声)とんでもねえ客がいたもんだ~……」

○同・トイレ・内(夜)
便意に打ちのめされた表情で入って来る村尾、すぐさま個室へ向かう。

○同・個室(夜)
鍵を閉めてズボンを脱ごうとベルトに手をかける村尾。
村尾「げ!」
固まる村尾。
村尾「これじゃ俺もいっぱしの男優になっちまう。そんなの不本意だ!」
悟りの境地で便意と格闘する村尾。
村尾「くそうくそうくそう! なんで俺がこんな目に……」
猛威を振るう便意に村尾は今にも負けそう。
村尾「くそうくそうくそう!!!」
村尾、我慢の限界を察知しズボンをパンツごと下ろす。
村尾「こうなりゃヤケだ、喰らえ糞ホモど変態店長!!!」
村尾、下痢便を四方八方へとぶちまける。
勢いよく噴射された村尾の下痢便、四方八方に設置された隠しカメラに見事命中し、崩壊させる。
村尾、壁から滴る自分の下痢便に囲まれて混沌とした表情で立ち尽くしている。

○同・店内(夜)
村尾、正義感に満ちた表情で店長のいるレジ前まで闊歩してくる。
店長「?」
村尾の手には黒いVHSケースが握られている。
松本「!」
村尾、ケースを頭上に掲げて
村尾「店長これ、ダメじゃないですか町の迷惑防止条例に引っかかりますよ完全アウトですよ!」
店長「村尾君……知ってたのか……」
松本「お、お前……」
村尾「もっとこう、真っ当に……真っ当に商売していきましょうよ!」
松本「でけえ口叩くな! お前に店長の何が分かるってんだ!」
店長「いや、いいんだ。俺が悪いんだ。このご時世、個人経営のビデオレンタル店はどこも他のチェーン店に売上を持ってかれてしまってね。しのぎを削るのに安易な間違った方法を取ってしまった俺の責任は重い」
松本「店長……」
村尾「……」
店長「親の代からやってきたこの店をどうしても潰したくなかった俺はとてつもなく愚かな過ちを犯してしまっていたようだ……」
自分の愚かさに涙する店長。
松本・村尾「……」
店長、吹っ切れた表情でキャスター付のラックを押して棚に陳列してある黒いVHSケースを次々と抜き取って乗せていく。
その様子を複雑な表情で見守る松本と村尾。
× × ×
ラックに山盛りと積まれた黒いVHSケース。
店長、次から次へとケースを開けて本体を取り出す。
流れ作業で本体を受け取り、カウンターに並べる松本と村尾。
× × ×
腹を決めた眼光の店長、大きく息を吸い込み
店長「いくぞ!」
店長に先導されて右習えの松本と村尾。
松本「はい!」
村尾「オーケー!」
一同、VHS本体の磁気テープを引っ張り出して次から次へとグシャグシャにする。
店長「ぬおおおおおおお!」
松本「うりゃあああああ!」
村尾「ひゃっほおおおお!」
共鳴してカタルシスを味わう一同、澄みきった瞳でどこか童心に帰ったようである。
村尾「あ、店長」
店長「ん?」
村尾「今日早退してもいいですか? ちょっと腹の調子が……」
店長「もちろんだ。村尾君はある意味俺の救世主だ。早く帰って休むといい」
村尾「あざっす!」
店長「このVHSの残骸は俺が責任を持って片付けておこう。そうだ、松本君。今日はトイレ掃除だったよね?」
松本「あ、そういえば。行ってきます」
村尾「げ!」
トイレ掃除に向かう松本。
村尾、後ろめたさをひた隠しにした涼しい表情で
村尾「お、おつかれっした~!」
そそくさと退散する村尾。
店内に響く断末魔の叫び声。

(完)

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