壊し屋のススメ SF

爆破解体業者アラタへ入社した今田翔は、建築系の仕事をする夢を諦めきれずにいた。そんな彼が夜の公園で出会ったのは、倒産したロボット会社の元社長だった。彼が実の子供のように愛していた警備用ロボット「まもるくん」は爆破解体によって処理される運命にある。彼を救ってほしいという願いのため、翔は奔走する。  
箱多箱丸 8 0 0 07/26
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第一稿

○登場キャラクター

・今田 翔(かける)(23)…「株式会社アラタ」の新入社員。建設業を目指していたが就職難で真逆の会社に入社してしまった。そのせいで仕事に情熱は無い。

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○登場キャラクター

・今田 翔(かける)(23)…「株式会社アラタ」の新入社員。建設業を目指していたが就職難で真逆の会社に入社してしまった。そのせいで仕事に情熱は無い。

・荒田 始(あらたはじめ)(43)…「株式会社アラタ」の社長。仕事に誇りを持っている。

・上野ひとし(35)…「株式会社アラタ」の社員で荒田の右腕。翔の事情を知っており、厳しく接しつつも気にかけている。

・牛久保(49)…アラタへ来た依頼のサポートに呼ばれてきた男。ある会社の社長だったが1年前に倒産してしまった。

・まもるくん…牛久保の会社が作っていた警備用ロボット。

・翔の母(48)…翔の夢を応援していた。

・警備員A


□オフィス街
  高層ビルが立ち並んでいる。
  人と人型の二足歩行ロボットが道を往来している。ロボットは人五十人に対し一体の割合。

□同・街外れ
  人気のないビルが建っている。
  突然そのビルの真ん中辺りが煙をあげて爆発する。

□同・街中
  通りを歩く人やロボットが爆発音のした方を振り向く。

□同・街外れ
  ビルは爆発した箇所から真下に崩れる。
  瓦礫はビルの敷地内に落ちていく。
  しかし敷地外には決して落ちていかない。

□同・街外れ・ビルの屋上
  屋上から崩れるビルが見える。
  作業服を着た男達が十数人立っている。先頭の荒田は双眼鏡で爆発の様子を見ている。
  他の男達も崩れるビルを見ている。
  その中で一人、翔だけは興味なさげに崩れるビルとは反対側の街を見下ろしている。
  
□道路(朝)
  人と人型のロボットが道を行き交う。
  立ち並ぶ建物の中に、二階建てのこじんまりとした建物がある。『株式会社アラタ』と書い
  てある。
  作業着を着た翔が道を歩いてきてそのビルへ入っていく。

□株式会社アラタ本社・一階オフィス内(朝)
  デスクが十数個並んでいる社内。デスクにはそれぞれパソコンがあり、部屋のいたるところ
  にビルの模型が置いてある。
  オフィスでは作業着を着た社員達がそれぞれデスクでパソコンに向かったり資料を読んだり
  している。
  部屋の隅に翔と上野がいる。
  上野、持っている資料を指さし、
上野「資料はちゃんと内容を確認して作れと言ってるだろ? ミスするのはこれで何回目だ!」
翔「……すいません」
上野「今田はいつも注意が足りてないんだよ」
  荒田が奥の自分のデスクで仕事の依頼の電話中、
荒田「……はい、……はい、ありがとうございます。では失礼致します」
  電話を切り、
荒田「みんな、聞いてくれ」
  社員達が手を止め荒田を見る。立っている社員はそのまま荒田を見る。
  翔と上田も荒田を見る。
荒田「今仕事が入ってきた。依頼主はビルオーナーで、ビルは十階建て。障害はアリ。八日ミーティングを行う」
  社員の一人がカレンダーにミーティングと書き込む。
  社員達、作業に戻る。
  上野、再び翔を見て、
上野「ともかく、働く気があるならちゃんとやる気を見せろよ」
  立ち去る。
  翔、ため息をつく。

□公園(夜)
  小高い丘の上にある。
  遊具は無くベンチと明かりがいくつかある。
  翔、缶コーヒーを持って柵の前に立っている。
  そこから都会のビル群が見える。たくさんの街の明かりが瞬いている。
  翔、ビル群を寂しそうに見つめる。
  
□翔の回想
――翔の実家・和室。
  机の上にスチレンボードで作ったビル群の模型がある。
  学ランを着た翔が模型に手を加えている。
  翔の母、ソファに座りながら、
母「あんた、本当にビルとか好きだね」
  翔、模型を作りながら、
翔「だって、自分の作ったものがこんなに大きく街に残
るってすごくない?」
母「建築家にでもなるの?」
翔「なれたらいいな」
  笑いながら、模型を触る手を止めない。

□回想戻って
  翔、寂しそうにビル群を見つめている。
翔M「どうしてこんなことに……」
  コーヒーを飲み、ため息をつく。

□アラタ本社・二階ミーティングルーム
  部屋の壁に貼られたホワイトボードの予定表に、『八日ミーティング』と書かれている。
  デジタルの掛け時計は五月八日の一時を表示している。
  横長の机四つが四角く配置されている。その周りに社員達が座っていて、一番奥のホワイト
  ボードの近くに座っている荒田を見ている。
  荒田の両隣に牛久保と上野が座っている。
  翔は出入口に近い席に座り、牛久保を不思議そうに見ている。
  荒田、社員を見回し、
荒田「みんな揃ったな。では、ミーティングを始める前に紹介を」
  牛久保を手のひらで指し示し、
荒田「今回、障害を取り除くサポートをしてくれる牛久保さんだ」
牛久保「(軽く会釈)どうも」
  社員達も会釈する。
荒田「この方は依頼人のビルオーナーから以前ビルを借りていた会社の社長さんだ」
牛久保「荒田さん、『元』をつけていただかないと……」
荒田「あぁ、失礼」
上野「どういうことですか?」
荒田「そうだな、これを見せた方が早いか」
  ホワイトボードに一枚の写真を貼る。
  そこには人間の子供程度の大きさの白い二足歩行ロボットが写っている。
上野「これが今回の障害ですか?」
荒田「あぁ。この警備用ロボットが今も無人のビルを徘徊し、侵入者を排除し続けている」
上野「警備用ロボット、ですか」
荒田「このビルを借りていた会社が作ったロボットだ」
  翔が顔を上げて反応する。
荒田「だが倒産し、暴走したこいつだけが残った。牛久保さんは、その会社の元社長だ」
  牛久保、居所が悪そうに頭をかく。
  翔が牛久保を見つめている。

□同・外観
  二階建ての建物。看板に「株式会社アラタ」と書かれている。

□同・ミーティングルーム
  社内の時計は1時半を指している。
  ホワイトボードにビルの設計図と写真、警備ロボットの写真が貼ってある。
  荒田はその前に立っている。
  牛久保と社員達は座って写真を見ている。
牛久保「このロボット……『まもるくん』というのですが、動作不良が多発しまして」
荒田「今回の暴走も動作不良ですか?」
牛久保「えぇ、倒産も動作不良の多発のせいでして。こいつは暴れて手に負えず、今までずっと
  放置してしまったんです」
上野「社長、それならば撤去すればいい話では?」
  牛久保、上野を見て、
牛久保「それは難しいのです」
  上野、牛久保を見てぽかんとする。
荒田「上野、警備用ロボットだと言っただろ?」
  牛久保に目配せする。
  牛久保、それを察し鞄からまもるくんの設計図を出し、荒田がそれをホワイトボードに貼
  る。
  社員達、それを見てざわつく。
  設計図にはロボットの機能に銃が搭載されていることが書かれている。
荒田「太陽光を動力に、誰もいないビルを警備し続けているそうだ。後日、視察に行く」
牛久保「大丈夫でしょうか、皆さんを危険に晒してしまうのでは……」
荒田「いえ、ご心配なく」
  まもるくんの設計図を眺め、
荒田「こういった訳ありの物件を解体するのが、我々の仕事ですので」
  牛久保を真っ直ぐ見つめる。
  翔、真剣な目で牛久保を見る。

□公園(夜)
  翔、作業服で缶コーヒーを持って都会のビル群を見ている。
  そこに牛久保がやってきて、
牛久保「アラタの方ですよね?」
翔「あ、えっと……」
牛久保「(軽く会釈)牛久保です。奇遇ですね」
翔「(軽く会釈)今田です」
  公園から見える街はビル群の光で明るい。
  翔と牛久保がベンチに座っている。
牛久保「ここにはよく来るんですか?」
翔「まぁ、気晴らしで」
牛久保「僕もですよ。会社が倒産してから夜な夜な。情けない話です」
翔「そんなこと……あなたは立派だと思います」
  牛久保、不思議そうな顔で翔を見る。
翔「あ、いえ、その、何かを創って人を笑顔にする職業って本当に立派だと思って」
牛久保「確かにそういうつもりでやっていましたが、なかなか上手くいかなくて……」
翔「僕は、尊敬しますよ」
牛久保「(微笑し)そんな……。今田君は、どうしてあの会社に?」
翔「それは……本当は建設業を目指していたのですが、就職難で」
牛久保「そうだったんですか」
翔「僕も、物を創ることで人を笑顔にしたかったんです。今でも、諦めきれてないです」
牛久保「……」
  空を見上げ、
牛久保「僕も同じですよ」
翔「えっ?」
牛久保「僕はまだ夢見てるんです。ロボットが大好きだから、ロボットを創って人を笑顔にした
 いって」
  俯き、
牛久保「会社を無くし、仲間は消えて……共に働いていた妻さえ失いました。それでも夢を見て
 います。ロボットが好きというだけで」
  翔、悲しそうな顔で牛久保を見つめる。
牛久保「今田君、一つ頼みごとをしていいですか」
  翔、不思議そうに牛久保を見る。
牛久保「これは僕の我がままなのですけどね」
  微笑む。

□株式会社S&C元本社ビル・一階
  十階建ての古いビル。
  空き地に囲まれていて、誰一人周囲にいない。
  荒田を先頭に、社員達が入っていく。
  一階は吹き抜けになっていて、薄暗い。
  社員達が一階を探索し、写真を撮ったりメモしたりしていく。
  翔が天井を見ながら歩いていると、枯れた観葉植物の鉢植えを倒してしまう。
  その音が吹き抜けに響く。
上野「何やってんだよ」
翔「すいません……」
  鉢植えを元に戻そうとする。
    ×    ×    ×
二階にいたまもるくんが音を感知し、目を赤く光らせる。
    ×    ×    ×
  牛久保が慌てて、
牛久保「みなさん、逃げてください! 早くビルの外へ!」
  戸惑う社員達。
  まもるくんがサイレンを鳴らしながら二階から駆け下りてきて、
まもるくん「不法侵入者発見! 不法侵入者発見!」
  社員達、逃げ出す
  上野が翔に駆け寄り、
上野「ぐずぐずするな!」
  腕を掴んで走りだす。
  社員がビルの入口から次々逃げ出す。
  上野と翔も入口から出る。
  ビル内から銃撃音が聞こえる。
  隣の建物の陰まで社員全員が逃げてきて隠れる。
  まもるくんは入口に陣取り、サイレンを鳴らし銃を構え続けている。
  社員達が息を切らしてうなだれる。
上野「社長、これは厄介ですね……」
荒田「あぁ……」
翔「本当に、こんなのを……?」
  翔のうんざりした顔。

□アラタ本社・ミーティングルーム
  社員達が座り、それぞれ資料を見ている。
  荒田の席の前には解体するビルの模型がある。
  荒田の両隣に上野と牛久保が座っている。
  翔は出入口の近くに座っている。
荒田「今回、ビル内部で活動することは困難だ。よって、外から爆薬を設置し、ロボットごと爆
 破解体を行うことにする」
 翔、喋る荒田をじっと見ている。

□翔の回想
――公園(夜)。
  翔と牛久保がベンチに座っている。
牛久保「まもるくんを壊すことになった時は、壊さずに回収できないか聞いてくれませんか」
翔「それは、どうしてですか?」
牛久保「あの子には思い入れがあるのです。我が子の様に、大切にしていました」
翔「我が子……」
牛久保「諦めようとしていたんですが、昔のことを思い出して……けれどやっぱり、僕からは言
 いづらくて」
翔「保障はできないですが、力になれるなら頑張ります」
牛久保「無理なら無理でいいんです。頭の片隅に入れていてくれれば嬉しいかな」
  はにかむ。

□回想戻って
  翔、荒田を見つめている。
荒田「何か意見はあるか?」
  翔、牛久保をちらりと見る。
  牛久保も翔に視線を送っている。
  翔、手を挙げ、
翔「あのロボットは回収しないのですか?」
  上野、驚き、
上野「(小声で)今田が意見を言った……!?」
  荒田、驚くが、翔を真っ直ぐ見て、
荒田「回収も検討したが、リスクが高すぎるんだ。準備にも経費が掛かり過ぎる。だから残念な
 がら今回は回収しない」
翔「分かりました、ありがとうございます」
荒田「よし、他に意見あるか?」
  社員達を見回す。
  翔、牛久保を見る。
  牛久保、目を伏せている。

□オフィス街(夕方)
  ビルが夕日に照らされている。

□アラタ本社・一階(夕方)
  社員達が退社していく。
  翔も帰る準備をしている。
  そこに荒田が来て、
荒田「今田」
翔「はい、なんでしょうか」
荒田「今日は意見出してくれてありがとうな。多分初めてだよな」
翔「確かに、そうかもしれません」
荒田「どうして言う気になってくれたんだ? いつもはあまり関心がなさそうだったから」
翔「ちょっと、頑張ろうかなと……」
荒田「そうか」
  微笑み、
荒田「聞いたよ、本当は建設会社を目指してたって」
  翔、俯く。
荒田「でも、俺たちが壊すのは新しく創るためだ」
  肩をとんと叩き、去っていく。
  翔、茫然とする。

□公園(夜)
  閑散としている。
  翔と牛久保がベンチに座っている。
牛久保「すいません、本当は僕が言うべきなのに」
翔「あ、いえ」
牛久保「あの子は特別なのです」
翔「そんなに思い入れがあるんですか?」
牛久保「ただ一緒にいたというだけのことですがね」
  寂しげに俯く。

□牛久保の回想
――S&C本社。
  内装が綺麗で、社員達が忙しくパソコンを操作したり、資料を運んだりしている。
  まもるくんが牛久保に資料を届ける。
  牛久保、資料を受け取る。
牛久保の声「彼は警備以外にも、社内を自由に歩いて雑用なんかをしてくれていました」
    ×    ×    ×
牛久保のデスクで牛久保と牛久保の妻が真剣な顔で話し合っている。
 そこにまもるくんがお茶を持ってくる。
 二人は微笑んでお茶を受け取る。
牛久保の声「そして妻と二人であの子を可愛がっていました」
    ×    ×    ×
  牛久保の妻が自分のデスクでいらついて頭をかきむしる。
  そこにまもるくんがやってきて、胸の収納スペースから手紙を出し、牛久保の妻に渡す。
そこには『言い過ぎた。ごめんなさい。君の夫より』と書いてある。
  牛久保の妻が奥のデスクにいる牛久保を見る。
  牛久保、それに気付き手を合わせて謝る。
  両者、微笑む。
牛久保の声「会社の経営が傾いて妻と喧嘩した時も、二人を繋いでいてくれました」
 二人がまもるくんを挟んで笑う。

□回想戻って
  牛久保、微笑みながら、
牛久保「妻は僕に代わって節約やお金の管理をしてくれていました。体そっちのけで仕事も家事
 も頑張ってくれて……でももう、彼女は先に逝ってしまいました」
翔「それは、お気の毒に……」
牛久保「妻との思い出が、あの子なんです。けれど、もういいんです。僕が無力なのが悪いんで
 す」
翔「そんな……」
牛久保「すいません、こんな話をしてしまって。僕の愚痴に付き合ってくれてありがとう、今田
 君」
  翔、拳を握りしめる。

□アラタ本社・一階
  社員達がお弁当を食べたり外へ行ったりしている。
  翔はコンビニ弁当を食べながら、熱心にまもるくんの説明書を読んでいる。

□ビル街(夜)
  車が道を行き交う。

□アラタ本社・一階(夜)
  翔が熱心にノートパソコンを操作している。
  他の社員達は帰る準備をしている。
  上野が翔に、
上野「おい、今日はもう終わりだぞ」
  翔、ノートパソコンを見たまま、
翔「すいません、ちょっと私事で……すぐ終らせます」
  上野、翔のノートパソコンの隣になにかあるのことに気付く。
  覗いてみると、まもるくんの取扱説明書が広げてある。
  翔、真剣な表情でパソコンを操作している。

□S&C元本社ビル(朝)
  牛久保、ビルの前で一人立ち尽くしている。
  翔が一人でビルにやってくる。
  牛久保を見つけ、
翔「牛久保さん……?」
  駆け寄っていき、
翔「おはようございます」
牛久保「あ、今田君。どうしてここに?」
翔「少し確認したいことがありまして。牛久保さんは?」
牛久保「僕は……」
  ビルを見上げ、
牛久保「どうにも、未練があるみたいです」
翔「そうですか……」
牛久保「まぁ気にしないでください……確認って何の確認ですか? 何か手伝いましょうか?」
翔「そうですね、じゃあ危険なので少し遠くに避難していてください」
牛久保「えっ、危険ってどういう……」
  翔、ビルに入っていく。
牛久保「大丈夫かな……」
  隣の建物の陰に隠れる。
  ビルの中から、ゴトン、と物音がする。
  牛久保、覗き見る。
  翔、走って出てくるが、敷地内で立ち止まりビルの方に振り向く。
  赤い目をしたまもるくんが走って入口から出てくる。
  ビルを出て敷地内まで翔を追ってくる。
  牛久保、驚く。
  翔、再び振り返り敷地外へ出て、牛久保の元へ走ってくる。
  まもるくんは、敷地内から銃を構えて警戒している。
  翔、膝に手をついて息を切らす。
牛久保「ビルの探索はやっぱり危険ですよ!」
翔「はい、そうですね……」
  牛久保を見てにやりと笑いながら、
翔「でも、これでいいんです」
  牛久保、不思議そうな顔をする。

□アラタ本社・外観

□同・ミーティングルーム
  四角く机を並べた周りに社員達が座っている。
  一番奥に荒田、両隣に上野と牛久保、出入口付近に翔が座っている。
  机の上に爆破予定のビルの模型がある。
荒田「遂に明日、ビルを解体する。最後まで気を引き締めていこう」
  会議が終わり、社員達が席を立っていく。
  翔が席を立つと、牛久保が声をかけてきて、
牛久保「今田君」
  翔、振り向く。
牛久保「いよいよ明日ですね。今まで色々付き合わせてしまってすいません」
翔「いえ、そんなこと」
牛久保「僕も、できる限りの協力はしました。後はお願いします」
  振り返る瞬間、悲しそうな表情を見せる。
  ミーティングルームを出ていく。
  翔、去っていく牛久保の背中を見つめる。

□S&C元本社ビル(夕方)
  クレーン車でビルの状態を確認したり、壁に印を付けたりしている。
  上野が無線を手に地上からそれを監視している。
  翔がやってくる。
  大きなシャベルを担いでいる。
  上野の横を通りすぎようとする。
上野「おい、今はビルに近付くなよ」
翔「えっ、駄目なんですか?」
上野「当たり前だろ、クレーン作業は危険なんだ」
翔「……分かりました……」
  引き返す。
  しかし、また振り向き、
翔M「夜中に始めて、間に合うか……?」
  敷地内の地面を見ている。

□オフィス街(夜明け前)
  街は車の通りがなく静か。

□S&C元本社ビル(夜明け前)
  翔がビルの敷地内にただ一人いる。
  ビルの正面で、シャベルで穴を掘っている。
  手を止めタオルで汗を拭く。
  空を見ると明るくなってきている。
  再び穴を掘りだす。

□街を見下ろせる高台
  高台から標的のビルが見える。
  アラタの社員達が整列している。だが翔の姿がない。
  先頭には荒田と上野が立っている。
上野「いよいよですね」
荒田「あぁ」
上野「そういえば社長、今田の奴がさっきから見当たらないんですが……」
荒田「大丈夫だ、気にするな」
上野「はぁ……」
  牛久保も集まっていて、周囲を見回している。
牛久保M「今田君、どこへ行ったんだ?」
  不安そうな表情。

□S&C元本社付近
  高台からは見えない場所。
  ビル周辺は封鎖され、立ち入り禁止になっている。
  そこに人間の警備員が配置されている。
  警備員Aが歩いてくる人に気付き、
警備員A「今からここでビルの解体が行われます、危険ですので入らないでください」
  その相手は翔で、両手に大きな荷物を持っている。
  翔、警備員に堂々と、
翔「アラタの者です」
敷地内へ入っていく。

□高台
  社員達が静かに整列している。
  牛久保もその中にいる。
  上野の手には解体用の爆弾のスイッチがある。
  手のひら程の大きさで、丸いボタンが透明なカバーで守られている。
  荒田の手にはハンドマイクがある。
  社員の一人が上野に耳打ちする。
上野「準備、全て完了しました」
荒田「分かった」
  ビルの方を向き、ハンドマイクを口元に持っていき、
荒田「テンカウントを開始する」
  社員達の緊張した面持ち。
荒田「十、九」
  真剣な面持ちでビルを見つめながら、
荒田「八、七」
  上野もビルを見つめている。

□S&C元本社ビル前
  翔、ノートパソコンを操作している。
荒田の声「六,五」
  翔の真剣な目。

□高台
  牛久保、ビルを見つめている。
荒田「四、三」
  牛久保、目を伏せ両手を合わせる。

□S&C元本社ビル・一階
  まもるくん以外誰もいない。
荒田の声「二、一」
  まもるくんが徘徊している。

□高台
  荒田の口。
荒田「ゼロ」
  上野がボタンを押す。
  ビルの柱の真ん中が爆発する。
  煙を巻き上げ真下へ崩れていく。
  瓦礫は敷地内にのみ落ちていく。
  周囲の建物には全く影響がない。
  ビルの高さはどんどん失われ、瓦礫の山になる。

□S&C元本社跡
  瓦礫が敷地内に積み重なっている。
  翔が瓦礫の前に立っている。
  そこへ牛久保が駆けつけ、続いて荒田と上田、そして社員達がやってくる。
  牛久保、瓦礫の前の何かを見て目を丸くする。
  そこには落とし穴に落ちて身動きが取れないまもるくんがいた。
  目が赤く、手に銃を持っている。
  銃を構えようと暴れるが、動けない。
  牛久保、驚き、
牛久保「お前、助かったのか……?」
  駆け寄り、自ら穴に入っていく。
  そして、まもるくんの首の後ろのカバーを取ってスイッチを押す。
  すると、まもるくんの目が青くなり、銃を手放す。
  まもるくん、牛久保を見て、
まもるくん「おかえりなさい、社長。お手紙を預かっています」
  胸の収納部分が開く。
  牛久保、驚き、
牛久保「手紙……?」
 中には300万円の札束と、手紙が入っている。
 牛久保、驚いてそれを手に取り、
牛久保「何だこれ、こんなの入れた記憶……」
  手紙を手に取る。
  手紙には『あなたの妻より』と書いてある。
  戸惑いながらも、本文を読む。
牛久保の元妻の声「私が貯金しておいた300万円、夢のために使ってください。私の葬儀なん
 かに使わないよう、ここに入れておきます。あなたのがむしゃらなところが好きでした」
牛久保「(涙を流し)……そうか……」
 牛久保、まもるくんに目をやり、
牛久保「ずっと、守っていてくれたのか……」
  まもるくんの頭を撫でる。
  泣き笑いしてしまう。
  翔、それを離れて微笑みながら見ている。
  上野が駆け寄ってきて、
上野「どういうことだ?」
  荒田が近づいてきて、
荒田「俺が許可したんだ」
上野「社長……」
翔「これを使ったんです」
  ノートパソコンに繋がれた5台程のスピーカーが置いてある。

□翔の回想
  ――S&C元本社ビル前。
  社員達がビル内を探索している。
  翔が観葉植物の鉢植えを倒して、その音が吹き抜けに響き渡る。
翔「まもるくんは音に敏感に反応します」
  二階のまもるくんが反応して振り向く。

□回想戻って
  翔、上野に説明している。
翔の声「それと、もう一つ分かったことがありました」
  社員達がまもるくんと牛久保を落とし穴から引き上げる。
  翔、まもるくんを見る。

□翔の回想
  ――S&C元本社ビル。
  翔と上野、植木鉢を押し倒し、ビルの外へ逃げる。
翔の声「まもるくんは必要であれば、敷地内にまでは出てこれるんです。不具合で出てこなかっ
 たりしないか、この目で確認もしてきました」
  まもるくん、ビルの外まで追いかけてくる。

□回想戻って
  翔、上野に説明している。
翔「だからそれを利用して誘き出したんです」
  ノートパソコンに繋がれている五台程のスピーカー。

□翔の回想
  ――S&C元本社ビル前。
  翔、敷地の外にスピーカーを設置しノートパソコンを操作している。
  スピーカーから爆発音が流れる。
  ビルからまもるくんが走って出てくる。
  そして落とし穴に落ちる。
翔「やった!」
  笑顔でガッツポーズ。

□回想戻って
  上野、真剣な顔で、
上野「お前、やるじゃねぇか。見直したぞ」
翔「(照れながら)いや、やれることをしたまでです」
  牛久保が翔に歩み寄り、
牛久保「ありがとう、今田君」
翔「良かったです、彼を救えて」
牛久保「おかげで、僕のやることも決まりました。妻が残してくれたお金で、また夢を追うこと
 にします」
  翔に手を差し伸べる。
  翔、牛久保を見ている。

□翔の回想
  ――アラタ本社・一階。
  翔のデスクの前で話している翔と荒田。
荒田「でも、俺たちが壊すのは新しく創るためだ」
  肩をとんと叩き、去っていく。
  翔、茫然としている。

□回想戻って
  翔、牛久保を見ている。
  差し出された牛久保の手を握り、
翔「(笑いながら)牛久保さん、僕、もう少し頑張ってみます」
  牛久保、頷く。
  周囲の社員達が二人に拍手を送る。
  荒田、遠目に微笑んでいる。
  固く握手している翔と牛久保、そしてその隣にいるまもるくんの姿。
 
            (END)
 

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