YAMANASHI❤LOVERS SF

『人類都民化計画』を進める東京都がつくった施策AIのホクト(♀)とスバル(♂)。 二人の匠な誘導により、山梨県民のほとんどの若者は東京へと流れ込み、過疎化は進むばかり……。 山梨で農家を営む山本家の一人息子、ノブオは、ある日突然行方不明になった親友のカンジを探す途中で、ホクトとスバルに出会う。
紺未来(こんみ) 10 1 0 06/28
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第一稿

ー人 物ー
山本ノブオ(23)農家の息子
ホクト(♀19) 東京都の作った人型ミュージカルAI
スバル(♂19) 〃
山本タロウ(52) ノブオの父

○山本家・畑
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ー人 物ー
山本ノブオ(23)農家の息子
ホクト(♀19) 東京都の作った人型ミュージカルAI
スバル(♂19) 〃
山本タロウ(52) ノブオの父

○山本家・畑

  照り付ける太陽。
  畑の野菜たちは干からびはじめている。
  土に埋もれかけた新聞紙には、
  『東京都 人類都民家計画に施策AI導入』の見出し。
  ビール瓶の空箱をひっくり返し、
  椅子にして座る山本ノブオ(23)と、
  農作業着の山本タロウ(52)。
  二人、太陽を無言で見上げる。
山本「雨が降らなくなって、どのくらいだ」
ノブオ「そうだなあ。一か月、くらいかな」
  山本、震える手で地面の干からびたトマトを手にとり、勢いよくかじりつく。
山本「(涙目で)うまい!」
ノブオ「お、お父さん。お腹壊すよ」
  間。
山本「(いきなり叫ぶ)おかしいだろおおお」
 驚くノブオ。
山本「どうして山梨にだけ雨が降らないんだ。いじめか。いじめなのか。その情けない県民性をメディアで面白おかしく取り上げられている埼玉や群馬はいい。だが山梨はどうだ! 富士山もワイナリーもあるのにこんなにぱっとしない。雨も降らない。それなのに誰からもスルーされている! 実質一番不憫なのは山梨だろおお……!」
ノブオ「お、お父さん。落ち着いて……」
山本「それもこれも全部東京のせいだ……」
ノブオ「それは極論だよ」
山本「極論なものか。いいか、我が息子よ。東京は恐ろしいところだ。何があっても行ってはならないぞ」
ノブオ「でも父さん……ここいらの若者は皆、東京に行ってしまったよ」
  ノブオ、当たりを見回す。
  歩いているのは老人ばかりで、
  若者の姿は見当たらない。
  俯くノブオ。
ノブオ「カンジだって、先週市民プールに行くと言ったまま、姿を消してしまった。きっと東京
に行ったんだ」
山本「カンジ君に限ってそんなことがあるもんか。あんなに純朴な青年が。毎年うちでとれるト
マトをおいしいって言って頬張ってくれたあのカンジ君が、東京になんて」
ノブオ「(思いつめた表情)……」
  ノブオ、すっくと立ち上がる。
ノブオ「僕、カンジを探してくるよ」
   去っていくノブオ。
山本「お、おい !ノブオ! 何があっても東京へだけはいくなよ! 東京へだけは!」

〇市民プール・前

   扉の閉ざされた、寂れた建物を見上げるノブオ。

〇市民プール・内

  無人の受付には『人類都民家計画』と書かれた張り紙が貼られている。
ノブオ「あのお……誰かいませんかあ……」
  ノブオ、張り紙を見て、ため息。
ノブオ「東京へ行くのに電車で二時間もかからないって、お父さんは知ってるのかな」

〇プール・内

  きい、と扉を開けるノブオ。
  真っ暗な室内。
  天井にはミラーボールが回る。
  テンポの良いEDM音楽が流れている。
  と、いきなりスポットライトが光る。
  プールの縁に立つホクト(19)と、
  スバル(19)が照らされる。
  モデル体形で背の高い二人。
  サングラスをかけ、ファッショナブルな衣装。
  蛍光グリーン色の水鉄砲を持ったスバル、
  ノブオに向って構える。ぴゅ、と水が出る。
スバル「ピースピース」
  呆気に取られているノブオ。
  ×        ×        ×
  水の抜けたプール。
  その中に置かれたビーチチェアに座るノブオ。
  ホクト、ピンク色のカクテルを差し出す。
ホクト「(抑揚のない声で)なにしにきた?」
ノブオ「(受け取り)あ、カンジを、探しに」
ホクト「……あの人、行った」
ノブオ「ど、どこに?」
ホクト「(遠い目で)ネオトーキョー……」
  ノブオの顔がひきつり、項垂れる。
ノブオ「やっぱり、皆東京に行っちゃうんだな」
 ホクト、じっとノブオを見ている。
ノブオ「(気を取り直したように)そういえば、僕以外の若者に会ったのは久しぶりだな。君たちは、ここでなにしてるの」
ホクト「……まってる」
ノブオ「まってるって……何を?」
ホクト「(上を見上げ)雨」
  ノブオ、ホクトにつられ上を見上げ、ふっと穏やかに笑う。
ノブオ「それじゃあ、僕と一緒だ」
  と、スポットライトが当たったDJブースから、
  ひょっこりとスバルが顔を出す。
スバル「(抑揚のない声)雨乞いミュージック。するっしょ」
  と、曲調が変わり、
  更にテンポが良いクラブミュージックが流れる。
ノブオ「えっ?」
  ふと見ると、隣にいたはずのホクトがいない。
  ホクト、ディスクを回すスバルの隣で、軽快に踊っている。
  ラップ調に歌を歌い出す二人。
スバル「深刻な問題だ。しかし誰もそれが分からないでいる」
ホクト「美しい物語に感動できるほど私たちはもう賢くない。誰にでもできるミッションを自分だけのミッションだなんて勘違いしていたくはない。それはもうギリシア悲劇的な確実さで現実に迫ってきてる」
スバル「会議は踊る。されど進まず。閉館したビルはもはや落書きらだけ」
  曲調がかわり、うねるような重低音。
  からまったイヤホンをひっぱるホクト。
ホクト「(流暢に)あーあ。コード、からまっちゃった」
  スバル、ホクトの耳元で囁き、ゆっくりと彼女の太ももを撫でる。
スバル「(流暢に)焦ったらだめだ、ゆっくり、ひとつずつ、解いていけ」
ホクト「(流暢に)でも、時間がない。私たちにはそんな時間、どこにもない」
  スバル、ずれたサングラスをあげる。
スバル「深刻な問題だ。しかし誰もそれが分からないでいる」
  からまったイヤホンを頭の上に載せ、苛立ったように頭を掻きむしるホクト。
スバル「ワイヤレスに移行。そうしたらおびただしいしがらみからフェードアウトしてヒップホップできる」
ホクト「でも、ワイヤレスになった私たちはじゃあいったい何と繋がればいいの?」
スバル「深刻な問題だ。しかし誰もそれが分からないでいる」
  と、ノブオの座るビーチウェアに寝そべったホクト、
  自身の体を撫でまわす。
  ノブオ、ホクトの体に釘付けになっている。
ホクト「生きてるのに。今ここに生きてるのに、止まってる時間が快感なのはねえ、いったいどうして」
  ホクト、起き上がり、ノブオの頬を撫でる。
  ノブオ、遠慮がちに歌う。
ノブオ「す……進むことは怖いんだ。明日には違う自分になってるかもしれないから」
  俯いたノブオ。
  微笑んだホクト、ノブオの服を脱がしていく。
ホクト「唯一無二のあなたを見せてほしいだけ。誰にでも描けるビジョンなんてその他大勢に描かせておけばいいじゃない」
ノブオ「唯一無二の……僕……?」
  ホクト、ノブオを押し倒し、キスをする。
  恍惚とした表情で目を閉じるノブオ。
  ヒュー、と聞こえるはずのない歓声が響く。
  楽しそうにノリながらDJブースでディスクを回すスバル。
  抱き合うホクトのノブオ。悶えるノブオの表情。
ノブオ「あっ……」
  と、一瞬静寂に包まれ、激しい雨音。
  ノブオ、我に返り天井を見上げる。
  雨は降っていない。雨音だけが響いている。
ノブオ「……雨……?」
  と、コンピューター化した周囲の黒い壁から
  青く光るドットが降り注いでくる。
スバル「電子の雨。移動粒子の電子雨」
  じっと電子の雨を見上げるホクト。
  ホクトの無機質な横顔に見とれるノブオ。
ノブオ「……綺麗……だね……」
  ×        ×       ×
  服を着たノブオ、扉の前。
  ノブオを見送るホクトとスバル。
ホクト「どうするの」
ノブオ「…皆足並み揃えて東京に行ったよ。でも、まだ、この場所で、僕にしかできないことがきっとあると思うんだ。だから僕は、それを見つけるためにここに残る」
ホクト「ふーん……」
  ノブオ、晴れやかな表情。
ノブオ「じゃあ、また。ありがとね」
  無言で手を振るホクト、スバル。
  ×        ×       ×
  水のぬけたプール。
  ビーチウェアに寝そべり、寄り添うホクトとスバル。
ホクト「どう思う?」
スバル「メッセージ、なんて、所詮あってないようなものっしょ。彼も、自分の都合がいいように、解釈しただけ」
  無表情のホクト、
  ノブオの飲みかけのカクテルに口をつけ、舐める。
ホクト「愚か。人間って、愚か」
スバル「そう。愚か。彼らは、愚か」
  壁からは青いドットが降り注いでいる。
  スバル、水鉄砲からぴゅ、と水を出す。
スバル「ピースピース」
  鳴り続けるEDM音楽。

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