登場人物
南渕遼太郎(70) 高齢者
久慈友幸(70) 太郎の知人
南渕杏(70) 太郎の妻
笘篠(70) 近隣住民
四條(70) 近隣住民
脚本
○住宅地・外観(朝)
屋根や道路に雪が積もっている。
眩しい朝日が雪を照りつけている。
◯南渕家・寝室
南渕遼太郎(70)、布団で寝ている。
遼太郎、目を覚ます。
◯同・居間
南渕杏(70)、台所で朝飯を作っている。
額に眼鏡をかけた遼太郎、食卓に座っている。
遼太郎、食卓に置かれた新聞を手に取る。
新聞の日付は2月4日。
遼太郎、手もとに置かれた眼鏡ケースを手にする。
遼太郎、眼鏡ケースを開ける。
眼鏡が入っていない。
遼太郎、辺りを見回し眼鏡を探す。
遼太郎、立ち上がる。
◯同・寝室
額に眼鏡をかけた遼太郎、箪笥の上や引き出しを漁って眼鏡を探している。
◯同・居間
遼太郎、台所へいく。
朝飯の支度をしている杏へ、
遼太郎「おい。俺の眼鏡は?」
杏「鏡見たら」
遼太郎「…?」
◯同・洗面所
遼太郎、鏡の前に立つ。
額に眼鏡をかけた遼太郎の姿が映し出される。
遼太郎「…」
◯同・居間
遼太郎、眼鏡をかけて新聞を読んでいる。
以下の新聞記事が映し出される。
「秋田市の住宅地で冬熊出没相次ぐ。
人を襲うケースも。冬眠できず凶暴化か」
と遼太郎の前にコーヒーが置かれる。
やってきた杏、
杏「(遼太郎へ)ボケにはコーヒー」
遼太郎「(むっとして)俺はボケてなどない」
杏「昨日の晩ごはん、何食べた?」
遼太郎「バカにするな。鍋焼きうどんだ」
杏「深刻だわね…」
遼太郎「(ムキになり)鍋焼きうどんだろう」
杏「カレーライス」
遼太郎「カレーライス? 嘘だ」
杏「嘘なんかついてどうすんのよ。ほんとボケちゃってんだから」
遼太郎、むっとして、立つ。
◯道
遼太郎、雪の積もった道を歩いている。
正面の民家のベランダに笘篠(70)の姿。
笘篠、スコップでベランダの雪を掻き、階下に落としている。
そこへ四條(70)、やってくる。
笘篠の落とした雪が四條の頭上に降ってくる。
四條、ベランダの笘篠へ、
四條「(怒鳴る)バカ野郎!」
笘篠「当たっちゃった?」
四條「当たっちゃったじゃねえだろ!」
遼太郎、その様子を見ている。
× × ×
遼太郎、歩いている。
正面から久慈友幸(70)がやってくる。
友幸「お! 遼太郎さん!」
遼太郎「友幸!」
二人、立ち止まる。
友幸「遼太郎さん、散歩か?」
遼太郎「ああ」
友幸「新聞見たろ? そこらへん人食い熊がいるかもしんねーから気をつけてな!」
遼太郎「友幸もな!」
二人、別れる。
× × ×
遼太郎、歩いている。
と正面にある曲り角の生け垣が揺れ、生け垣に積もった雪が落ちる。
遼太郎「…?」
次の瞬間、曲り角から巨大な熊が現れる。
遼太郎、熊を見て、
遼太郎「(声が漏れる)う、うわっ」
遼太郎、後ずさりし、尻もちをつく。
熊、遼太郎に近づく。
熊、獰猛な雄叫びをあげ、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯南渕家・寝室(朝)
遼太郎、布団で寝ている。
遼太郎、はっと目を覚ます。
◯同・居間
杏、台所で朝飯を作っている。
額に眼鏡をかけた遼太郎、食卓に座っている。
遼太郎、食卓に置かれた新聞を手に取る。
新聞の日付は2月4日。
遼太郎、手もとに置かれた眼鏡ケースを手にする。
遼太郎、眼鏡ケースを開ける。
眼鏡が入っていない。
遼太郎、辺りを見回し眼鏡を探す。
遼太郎、立ち上がる。
◯同・寝室
額に眼鏡をかけた遼太郎、箪笥の上や引き出しを漁って眼鏡を探している。
◯同・居間
遼太郎、台所へいく。
朝飯の支度をしている杏へ、
遼太郎「おい。俺の眼鏡は?」
杏「鏡見たら」
遼太郎「…?」
◯同・洗面所
遼太郎、徐ろに鏡の前に立つ。
額に眼鏡をかけた遼太郎の姿が映し出される。
遼太郎「…」
遼太郎、自分の姿をじっと見つめて…
◯同・居間
遼太郎、眼鏡をかけて新聞を読んでいる。
以下の新聞記事が映し出される。
「秋田市の住宅地で冬熊出没相次ぐ。
人を襲うケースも。冬眠できず凶暴化か」
遼太郎「(記事を見て考え込む)…」
と遼太郎の前にコーヒーが置かれる。
やってきた杏、
杏「(遼太郎へ)ボケにはコーヒー」
遼太郎「(むっとして)俺はボケてなど…」
杏「昨日の晩ごはん、何食べた?」
遼太郎「…」
杏「(怪訝そうに)…何?」
遼太郎「…いや、鍋焼きうどんだ」
杏「深刻だわね…」
遼太郎「…」
◯道
遼太郎、雪の積もった道を歩いている。
正面の民家のベランダに笘篠(70)の姿。
笘篠、スコップでベランダの雪を掻き、階下に落としている。
そこへ四條(70)、やってくる。
笘篠の落とした雪が四條の頭上に降ってくる。
四條、ベランダの笘篠へ、
四條「(怒鳴る)バカ野郎!」
笘篠「当たっちゃった?」
四條「当たっちゃったじゃねえだろ!」
遼太郎、その様子を見て、
遼太郎「…」
× × ×
遼太郎、歩いている。
正面から久慈友幸(70)がやってくる。
友幸「お! 遼太郎さん!」
遼太郎「…」
二人、立ち止まる。
友幸「遼太郎さん、散歩か?」
遼太郎「(うわの空で)…ああ」
友幸「新聞見たろ? そこらへん人食い熊がいるかもしんねーから気をつけてな!」
遼太郎「…」
友幸「(遼太郎を見て)…どうした? さっきらぼけっとして」
遼太郎「いや…」
遼太郎、歩き出す。
友幸「…?」
× × ×
遼太郎、歩いている。
と正面にある曲り角の生け垣が揺れ、生け垣に積もった雪が落ちる。
遼太郎「…」
次の瞬間、曲り角から巨大な熊が現れる。
遼太郎、熊を見て、
遼太郎「(声が漏れる)う、うわっ」
遼太郎、後ずさりし、尻もちをつく。
熊、遼太郎に近づく。
熊、獰猛な雄叫びをあげ、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯南渕家・寝室(朝)
遼太郎、布団で寝ている。
遼太郎、はっと目を覚ます。
◯同・居間
杏、台所で朝飯を作っている。
額に眼鏡をかけた遼太郎、食卓に座っている。
遼太郎、食卓に置かれた新聞を手に取る。
新聞の日付は2月4日。
遼太郎、手もとに置かれた眼鏡ケースを手にする。
遼太郎、眼鏡ケースを開ける。
眼鏡が入っていない。
遼太郎、辺りを見回し眼鏡を探す。
遼太郎、立ち上がる。
◯同・寝室
額に眼鏡をかけた遼太郎、箪笥の上や引き出しを漁って眼鏡を探している。
◯同・居間
遼太郎、台所へいく。
朝飯の支度をしている杏へ、
遼太郎「おい。俺の眼鏡は?」
杏「鏡見たら」
遼太郎「…?」
◯同・洗面所
遼太郎、徐ろに鏡の前に立つ。
額に眼鏡をかけた遼太郎の姿が映し出される。
遼太郎「…」
遼太郎、自分の姿をじっと見つめて…
◯同・居間
遼太郎、眼鏡をかけて新聞を読んでいる。
以下の新聞記事が映し出される。
「秋田市の住宅地で冬熊出没相次ぐ。
人を襲うケースも。冬眠できず凶暴化か」
遼太郎「(記事を見て考え込む)…」
と遼太郎の前にコーヒーが置かれる。
やってきた杏、
杏「(遼太郎へ)ボケにはコーヒー」
遼太郎「(むっとして)俺はボケてなど…」
杏「昨日の晩ごはん、何食べた?」
遼太郎「…」
杏「(怪訝そうに)…何?」
遼太郎「…いや、鍋焼きうどんだ」
杏「深刻だわね…」
遼太郎「…」
◯道
遼太郎、雪の積もった道を歩いている。
正面の民家のベランダに笘篠(70)の姿。
笘篠、スコップでベランダの雪を掻き、階下に落としている。
そこへ四條(70)、やってくる。
笘篠の落とした雪が四條の頭上に降ってくる。
四條、ベランダの笘篠へ、
四條「(怒鳴る)バカ野郎!」
笘篠「当たっちゃった?」
四條「当たっちゃったじゃねえだろ!」
遼太郎、その様子を見て、
遼太郎「…」
× × ×
遼太郎、歩いている。
正面から久慈友幸(70)がやってくる。
友幸「お! 遼太郎さん!」
遼太郎「…」
二人、立ち止まる。
友幸「遼太郎さん、散歩か?」
遼太郎「(うわの空で)…ああ」
友幸「新聞見たろ? そこらへん人食い熊がいるかもしんねーから気をつけてな!」
遼太郎「…」
友幸「(遼太郎を見て)…どうした? さっきらぼけっとして」
遼太郎「いや…」
遼太郎、歩き出す。
友幸「…?」
× × ×
遼太郎、歩いている。
と正面にある曲り角の生け垣が揺れ、生け垣に積もった雪が落ちる。
遼太郎「…」
次の瞬間、曲り角から巨大な熊が現れる。
遼太郎、熊を見て、
遼太郎「(声が漏れる)う、うわっ」
遼太郎、後ずさりし、尻もちをつく。
熊、遼太郎に近づく。
熊、獰猛な雄叫びをあげ、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
以下カットバック
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯道
熊、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
◯南渕家・居間
遼太郎、食卓に座っている。
遼太郎「(きっぱりと)鍋焼きうどんだ」
◯南渕家・居間
遼太郎「鍋焼きうどんだろう?」
◯南渕家・居間
遼太郎「カレーライス? 嘘だ!」
◯道
遼太郎、歩いている。
と正面にある曲り角の生け垣が揺れ、生け垣に積もった雪が落ちる。
遼太郎「…」
次の瞬間、曲り角から巨大な熊が現れる。
遼太郎、熊を見て、
遼太郎「(声が漏れる)う、うわっ」
遼太郎、後ずさりし、尻もちをつく。
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯道
遼太郎「(絶叫)」
◯南渕家・寝室
遼太郎、布団で寝ている。
遼太郎、はっと目を覚ます。
◯道
遼太郎、歩いている。
と正面にある曲り角の生け垣が揺れ、生け垣に積もった雪が落ちる。
遼太郎「…」
次の瞬間、曲り角から巨大な熊が現れる。
遼太郎、熊を見て、
遼太郎「(声が漏れる)う、うわっ」
遼太郎、後ずさりし、尻もちをつく。
熊、遼太郎に近づく。
熊、獰猛な雄叫びをあげ、遼太郎に襲いかかる。
遼太郎「(絶叫)」
カットバックおわり
◯南渕家・寝室(朝)
遼太郎、布団で寝ている。
遼太郎、はっと目を覚ます。
◯同・居間
杏、台所で朝飯を作っている。
額に眼鏡をかけた遼太郎、食卓に座っている。
遼太郎、食卓に置かれた新聞を手に取る。
新聞の日付は2月4日。
遼太郎、手もとに置かれた眼鏡ケースを手にする。
遼太郎、眼鏡ケースを開ける。
眼鏡が入っていない。
遼太郎「…」
遼太郎、立ち上がる。
◯同・洗面所
遼太郎、徐ろに鏡の前に立つ。
額に眼鏡をかけた遼太郎の姿が映し出される。
遼太郎「…」
遼太郎、額から取った眼鏡をかける。
◯同・居間
遼太郎、眼鏡をかけて新聞を読んでいる。
以下の新聞記事が映し出される。
「秋田市の住宅地で冬熊出没相次ぐ。
人を襲うケースも。冬眠できず凶暴化か」
遼太郎「…」
と遼太郎の前にコーヒーが置かれる。
やってきた杏、
杏「(遼太郎へ)ボケにはコーヒー」
遼太郎「…」
遼太郎、まじまじと杏を見つめる。
杏「(怪訝そうに)…何?」
遼太郎「…カレーライスか?」
杏「え」
遼太郎「…カレーライス。そうだろう?」
杏「よくわかったわね。私がいおうとしたこと」
遼太郎「…」
◯道
遼太郎、雪の積もった道を歩いている。
正面の民家のベランダに笘篠(70)の姿。
笘篠、スコップでベランダの雪を掻き、階下に落としている。
そこへ四條(70)、やってくる。
遼太郎「(叫ぶ)とまれ!」
四條、立ちどまる。
直後、笘篠の落とした雪が四條の眼の前に降ってくる。
四條、ベランダの笘篠へ、
四條「(怒鳴る)バカ野郎!」
笘篠「当たっちゃった?」
四條「当たってねえけど! 危ねえだろ!」
遼太郎、その様子を見て、
遼太郎「…」
× × ×
遼太郎、歩いている。
正面から久慈友幸(70)がやってくる。
友幸「お! 遼太郎さん!」
遼太郎「…」
二人、立ち止まる。
友幸「遼太郎さん、散歩か?」
遼太郎「…」
友幸「(遼太郎を見て)…どうした? さっきらぼけっとして」
遼太郎「熊だ…熊が出るぞ…」
友幸「遼太郎さん、熊を見たのか?」
遼太郎「熊が…熊が俺を襲うのを見た…」
友幸「おい。何いってんだ。遼太郎さん、ついにボケちまつまたか」
遼太郎「ボケてなどない!」
友幸「…」
遼太郎、歩き出す。
友幸「おい! 遼太郎さん!」
× × ×
遼太郎、歩いている。
遼太郎、曲り角の前で立ちどまる。
と曲り角の生け垣が揺れ、生け垣に積もった雪が落ちる。
遼太郎「…」
次の瞬間、曲り角から巨大な熊が現れる。
遼太郎「(息をのむ)これは…正夢だ…」
遼太郎、熊から目を逸らさずにゆっくりと後ずさりする。
熊、遼太郎へ近づく。
熊、獰猛な雄叫びをあげ、遼太郎に襲いかかる。
次の瞬間、遼太郎を庇うようにして友幸が躍り出てくる。
友幸、熊に襲われる。
友幸「(絶叫)」
◯南渕家・寝室(朝)
遼太郎、布団で寝ている。
遼太郎、はっと目を覚ます。
◯同・居間
杏、台所で朝飯を作っている。
遼太郎、眼鏡をかけて新聞を読んでいる。
新聞の日付は2月5日。
以下の新聞記事が映し出される。
「秋田市の住宅地にまた熊。
久慈友幸(70)さんが襲われて死亡」
遼太郎「…」
と遼太郎の前にコーヒーが置かれる。
やってきた杏、
杏「あなたの話が本当なら、きっと友幸さんがあなたの運命を変えてくれたのよ」
遼太郎、新聞を置き、目を閉じる。
遼太郎「友幸…ありがとう…」
(おわり)
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