遺言インタビュー「宗教家の母」 ドラマ

インターネット動画『遺言インタビュー』の配信者・探人(しんと)。今回は、ある大きな宗教団体の幹部を務める女性からの依頼だった。【連続物第1話想定】
nbsw40 26 0 0 06/06
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第一稿

人物

探人(21) 読みは「しんと」 大学生 『遺
言インタビュー』配信者

志和雅子(74) 教団『光の意志』幹部
志和光太郎(36) 雅子の息子

あんどろ( ...続きを読む
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人物

探人(21) 読みは「しんと」 大学生 『遺
言インタビュー』配信者

志和雅子(74) 教団『光の意志』幹部
志和光太郎(36) 雅子の息子

あんどろ(46) 探人のルームメイト 男装家
(女性)

大島(47) 教団『光の意志』幹部

ホスピスの受付
おばさん信者

○探人の撮影スタジオ・インタビュー室
   窓の外には雪がちらついている。
   志和雅子(74)、インタビュアーである
   探人(21)に向かって話している。
   スタジオは志和雅子の辺りだけに照明
   が当たり、他は薄暗い。
雅子「……もう治療は止めたんです。胃の癌
 で、大した自覚症状もなくってね……。見
 つけた頃にはステージ4。つまり末期でし
 た。転移も肝臓、肺、大腸とあちこちに」
探人「そうですか。今は苦痛を緩和する処置
 を?」
   雅子、袖をまくってみせる。モルヒネ
   を吸収させるためのパッチが3つ4つ
   貼られていた。
雅子「モルヒネです。これでも最近は痛みが
 引きません」
探人「そんな中、貴重なお時間をありがとう
 ございます」
雅子「いいえ。私こそお礼を言わなくては。
 人から教えてもらわなければ、あなたのよ
 うな人がいることを知り得ませんでしたか
 ら」
探人「お体も辛いでしょうから、さっそく本
 題に入りますが……、よろしいですか?」
雅子「ええ、そうしてください」
探人「遺言としてインターネット上に残され
 たいことはなんでしょう?」
雅子「あの……プライベートなこと。つまり
 ……世間一般の人に何か大層なことを遺し
 たいわけではないのです。それでもよろし
 いんですか?」
探人「もちろん構いません」
雅子「そうね……。家族であっても言いたい
 ことを素直に言えないことがあるのです。
 私の場合は……、聞いてもらえない、とい
 う事情なのですが」
探人「そういうかたも……、いらっしゃいま
 した」
雅子「そう……。では遠慮なく。……私の息
 子は、きっと母親を呪っている、そうに違
 いないんです。それだけひどい母親でした
 から……」

○チャンネルハウス・外
   門のところに看板。
   『ネット動画・音声配信者だけのシェ
   アハウス・チェンネルハウス。入居希
   望者募集中(入居にあたっては事前審査
   がございます)』

○チャンネルハウス・編集室
   チャンネルハウスの一通り機材の揃っ
   た編集室。
   探人、雅子のインタビュー素材の編集
   を夢中で行っている。
   時計を見る。昼の12時を少し過ぎたと
   ころ。
   探人のお腹がギュルギュルと音を鳴ら
   す。
   探人、編集室を出る。

○同・リビング
   10人以上が座れる大きなダイニングテ
   ーブルがある。
   あんどろ(46)、パスタをむしゃむしゃ
   と食べている。
   階段を上ってくる探人。
あんどろ「こんにちは」
探人「こんにちは」
あんどろ「どう? 慣れたここの生活」
探人「おかげさまで。ここは自分のバイト代
 では買えないような良い機材がたくさんあ
 って、助かってます」
あんどろ「あら。あなたバイトなんてしてる
 の? 『遺言インタビュー』だけで十分な
 お小遣いになるんじゃないの?
探人「いや……、プロのカメラマンの助手を
 してるんです。で、『遺言インタビュー』
 は、その人の個人的なスタジオを好意で使
 わせてもらってるんです。だから……まあ
 ……」
あんどろ「そっか……じゃあ、しょうがない
 か」
探人「それに、その人の写真すごく面白いし、
 勉強になるし。いやいやってわけでもなく
 て」
   探人、キッチンで、自分のための食事
   を作り出す。
あんどろ「それでどうなの? 今回の人は?
 そこそこ有名な人よね」
探人「え? そうなんですか?」
あんどろ「ちょっと、事前に相手のリサーチ
 くらいしなさいよ」
探人「ああ……、その……先入観を持ちたく
 ないんで、インタビュー相手のことは一切
 調べないんですよ」
   探人、手早く焼きそばを作って、あん
   どろの前に座り食べ始める。
あんどろ「『光の意志』って言えば、もうな
 んかメジャー感出てきちゃったけどね」
探人「ええ。その名前は僕も知っていました。
 大学にも何人か信者がいますよ」
あんどろ「志和雅子って言えば、そこの幹部
 よ。たまにテレビにも出てくるのよ。ワイ
 ドショーのコメンテータとかで。ほら『光
 の意志』って妙にメディア戦略に力入れて
 るっていうか、俗世と積極的に関わるタイ
 プの新興宗教ね。
探人「知らなかった……。それなら、なおさ
 ら悲しいな」
あんどろ「何が?」
探人「ええ。そんなにメジャーな団体でも、
 いやそういう団体の幹部だからこそ、僕み
 たいな人間が必要だったのかなって思うと」
   探人は焼きそばを一気に平らげる。
   そしてたくさんの薬をポケットから出
   して、それも一気に飲む。
   あんどろ、不思議そうにそのたくさん
   の薬を見ている。
探人「僕、癌やっちゃってるんですよ。高校
 の頃に」
あんどろ「ああ……、ごめんね。じろじろ見
 ちゃって」
探人「いいえ。薬を飲むのは面倒だけど……、
 僕に貴重な時間をくれてると思えば、愛し
 い存在ですよ。こいつらは副作用も出ない
 し、ね。……じゃあ、僕出かけてきます。
あんどろ「そう。もし夕飯時に帰ってくるな
 ら、あんたの分作ってあげるわよ」
探人「ほんとですか! やった! あんどろ
 さんの飯美味そうだなっていっつも思って
 ました! 帰りは6時頃だと思います」
あんどろ「OK。じゃあ帰ってくる時にメッセ
 ージ入れて頂戴」
探人「ありがとうございます!」
あんどろ「(探人の皿を見て)洗い物もやっと
 くわよ」
探人「うわぉ!」
   探人、勢いよく出かける。
あんどろ「(背中を見送って)かわいい~」

○喫茶店・中
   探人、志和雅子のインタビューの模様
   を、志和光太郎(36)に、自身のスマー
   トフォンで一部始終を見てもらってい
   る。
   動画の中で志和雅子は語る。
雅子「1つ心残りは、孫娘が入信をしてくれ
 ないことです。息子の光太郎は、お嫁さん
 が反対しているからと言っていますが、本
 当は……光太郎も、『光の意志』の活動を
 快く思っていないに違いないんです。あの
 子には、私のような信仰心は……きっとな
 い」
   光太郎、ため息と共に探人に頭を下げ
   る。
光太郎「うちの母が迷惑をかけて、申し訳あ
 りません」
探人「いいえ。迷惑だなんて。今回の動画は、
 志和さんの意向でお名前や顔などの素性は
 一切わからないように加工をします。です
 が……おせっかいなのは承知で、この動画
 はあなたに1度見てもらったほうが良いの
 ではないかと思い……」
光太郎「ありがとうございます。……そうで
 すね。見させてもらって良かった」
探人「では、僕はこれで……」
   探人、席を立ち上がろうとする。
   光太郎は笑い出す。
探人「あれ? 僕何かしちゃいました?」
光太郎「ああ。いえいえ。すみません。あな
 たは……教団の連中みたく、あれこれと言
 ってこないんだなと思うと、つい可笑しく
 て。
探人「ああ……。僕は……、当然ですが……、
 あなたがたご家族の問題には干渉しません」
光太郎「どうして、でしょう?」
探人「え……。うーん……。そうですね……、
 1度死を宣告された人間には、最後に自由
 を与えられると思っているんです」
光太郎「自由?」
探人「そうです。だって……『もう自分は死
 にます』って人に、何々するな、なんて言
 えますか?」
光太郎「そうですね」
探人「死刑囚だって、最後の時は好きな神様
 に祈る時間を与えられるんです」
光太郎「母はやはり私に最後の思いを伝えた
 くて、あなたのインタビューを受けたので
 しょうか?」
探人「半分はそうでしょうけど、半分は違う
と思っています」

○ホスピス・外(夕方)
   探人、雪が降り積もる中、傘を差して
   ホスピスの入り口に近づく。
   駐車場をちらりと見ると、何台か奇妙
   な模様が入った社用車のような車が停
   められている。
   探人は首をかしげる。
探人「どこかで……見たような」
   探人、記憶を巡らせるが、思いつかな
   い。

○同・受付(夕方)
   探人、受付の担当者に志和雅子との面
   会を申し出る。
探人「あの……、志和雅……」
受付「ああ。はいはい。良いですよ。今日も
 皆さんいらっしゃってますよ。
探人「皆さん?」

○同・志和雅子の病室前(夕方)
   志和雅子の病室の前には人だかりがで
   きていた。
   その何人かは、ハンドバッグやジャケ
   ットの胸の位置に駐車場で見かけた車
   に付いていた奇妙な模様と同じマーク
   のバッジを付けている。
   おばさんの信者の1人が、探人に話し
   かけてくる。
おばさん信者「ねえ、あなた今日のお祈り会、
 場所わかる?」
探人「(戸惑い)あ、あぁっと。お祈り会、で
 すか」
おばさん信者「土曜日だから、夜通しでやる
 んでしょ」
探人「……みたいですね」
おばさん信者「どこの会館なのかしら。うち
 の地区はブロック長がしっかりしてないか
 ら、情報が回ってくるの遅いのよぉ。
探人「えっと……」
   探人が困っていると、大島(47)が話し
   かけてくる。
大島「あの……失礼ですが、『光の意志』の
 関係者ですか?」
探人「あの……、実はそうではなくって、志
 和雅子さんの個人的な知人と言いますか、
 取材をさせてもらったと言いますか…」
   取材と聞いて、大島の顔つきがさっと
   厳しいものになる。
   探人、『しまった』という表情。
大島「なるほど、では失礼ですがどこの会社
 の方ですか? そういうお話は私を通して
 もらわないと。できれば名刺をいただきた
 い。
探人「あ、いや。個人的にやってるというか
 ……」
大島「フリーランスの方ですか。それでも名
 刺くらいあるでしょう」
   騒ぎを聞きつけた志和雅子、奥から大
   きな声で言う。
雅子「大島さん、彼は違うの。通してあげて」
   大島、怪訝な表情を浮かべながらも、
   探人を志和雅子のそばまでエスコート
   する。

○同・志和雅子の病室(夕方)
雅子「(大島に)ごめんね。この子は私の遠い
 親戚で。マスコミ方面に就職活動している
 のよ。だからちょっとインタビューの練習
 台になってあげたのよ。それが『取材』」
   大島、まだ納得していない。
雅子「お願い。この子はきっと光太郎の言い
 つけでここに来たんだわ。それ以外、ここ
 の場所を知り得ないもの」
   探人、ここぞとばかりに。
探人「ええ。たしかに光太郎叔父さんから頼
 まれたことがあって……」
   『光太郎』という名前が出て、大島の
   顔つきが変わる。
   大島、雅子に一礼をした後、他の信者
   達を引き連れてどこかに行ってしまう。
   騒がしかった室内や廊下が、急にしん
   とする。
雅子「まったく……。気持ちはありがたいの
 だけどね。他の入院患者さんに迷惑がかか
 ります」
探人「そうですね。文句言われないんですか
 ?」
雅子「言えないわよ。だって、このホスピス
 は私達が建てたようなものだから」
探人「へえ……」
雅子「でも一般の人もいるにはいるから……
 明日からはもう、面会は全てお断りしなけ
 れば……」
   探人、自分のスマートフォンを雅子に
   見せる。
   そこには光太郎が母に向けて書いたメ
   モが書かれている。
   「母さんは個人的なメールなんて使わ
   ないだろうし、かと言って教団のメー
   ルアドレスに送れば、誰に覗き見られ
   るかわかったものじゃない。だから、
   探人さんに頼んでこういう形を取った。
   」

○(回想)喫茶店・中
光太郎「あの……あなたにに頼み事があるん
 だが……」
探人「なんでしょう?」
光太郎「その……、今からスマホにメッセー
 ジを書くから、それを母に見せてやってく
 れないか」
探人「えっと、それなら電話でも……」
光太郎「たぶん盗聴されてる」
探人「手紙は……」
光太郎「中身をチェックされる。間違いなく。
 母は広報担当の幹部なんだ。他の幹部より
 厳重に監視されている」
探人「はぁ……」
   (回想終わり)

○同・志和雅子の病室(夕方)
   雅子、スマートフォンに書かれた光太
   郎のメッセージを読んでいる。
光太郎の声「美夜古を入信させないこと、が
 っかりさせて申し訳ない。それはきっとま
 だまだ時間がかかることだ。母さんに残さ
 れた時間のうちに解決ができることではな
 い。そして俺も『光の意志』については複
 雑な気持ちでいる。それは正直なところだ。
 嘘はつかない。けれど、俺はあなたの息子
 であることを呪ったことはない。ただの母
 親であるあなたを、俺は息子として愛して
 いる。育ててくれたことに感謝している。
 あなたがいなければ、俺も妻や娘を持つな
 んて幸せは得られなかったんだから。それ
 だけは伝えたかった。近い内にそっちに家
 族で会いに行くよ。だからそれまでどうか
 安らかに、『自由』な時間を過ごしていて
 欲しい」
   雅子、静かに涙を流している。
   探人、窓の外を見て、信者たちがそれ
   ぞれの車に乗り込んで、病院から去っ
   ていく様子をぼんやり眺めている。
雅子「ありがとう。あなたにインタビューし
 てもらって良かった」
   探人、振り返って何も言わず笑顔だけ
   返す。

○チャンネルハウス・編集室(深夜)
   志和雅子の動画をアップロードする探
   人。
   何分もしない内に、動画にコメントが
   入る。『うpおつ』や『楽しみにして
   いました』などなど。

○(回想)喫茶店・中
光太郎「母はやはり私に最後の思いを伝えた
 くて、あなたのインタビューを受けたので
 しょうか?」
探人「半分はそうでしょうけど、半分は違う
 と思っています」
光太郎「では、もう半分は?」
探人「ボトルメール、みたいなもんです」
光太郎「ボトルに手紙を入れて海に流す、あ
れ、ですか?」
探人「はい。まあ、その手紙の内容も色々あ
 るとは思いますよ。でも……、自分はたし
 かに生きていた。それをいつまでも遺して
 おきたいんです。知っていてもらいたいん
 です。見知らぬ誰か、でいいので。
   (回想終わり)

○チャンネルハウス・編集室(深夜)
   探人、目をつぶっている。
   ちょうど志和雅子の動画のラストシー
   ンが、モニタに映し出されている。
雅子「私はたくさんの人の幸せのために良か
 れと思うことは、できる限りのことをやっ
 てきました。おかげさまで、私の死を悼ん
 でくれる友人・知人はたくさんいます。…
 …でもね、たった1人、実の息子に愛され
 ていないという想いは、こんなに幸せに恵
 まれて死んでいく私の孤独を埋めてはくれ
 ないんですよ」
   探人、目を開ける。
   窓の外にはしんしんと雪が降り積もっ
   ていた。

(終)

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