リンゴ売りの魔法使い(仮題) ファンタジー

本作は、「現代版の『少女革命ウテナ』」を目指して書かれた、劇場アニメを想定したシナリオになります。企画書もあります。プロデューサー、監督、演出家等でご興味を持たれた方は、お気軽にご連絡ください(X (@tasuke_4444) のDMからでも構いません)。
松野 太助 69 0 0 03/01
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第一稿

〈登場人物〉

  日外友(あぐい・ゆう)
  江口スー(えぐち・すー)
  榎戸サン(えのきど・さん)
  不破琉唯空(ふわ・るいす)
  鳥井プー(とりい・ぷー)
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〈登場人物〉

  日外友(あぐい・ゆう)
  江口スー(えぐち・すー)
  榎戸サン(えのきど・さん)
  不破琉唯空(ふわ・るいす)
  鳥井プー(とりい・ぷー)

  福元鏡夜(ふくもと・きょうや)

  魔法使いA
  魔法使いB
  園田大勢(そのだ・たいせい)
  その他

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〈あらすじ〉

 この世界に人間は存在しない。
 そこは、すべての人間が駆逐され、悪魔が支配するとされる世界。
 まだ幼さが残る少年・日外友は、その世界に住む学生である。彼の通う学校では、生徒たちを従順な悪魔の一員にするための、歪んだ教育が行われていた。
 家と学校を往復するだけの日々を送っていた友は、そんな世界に対して疑問を感じるタイプの男の子だ。彼は、同級生の少年・不破琉唯空と放課後に〝秘密の遊び〟をする。それは、その世界のルールから外れた、ささやかな抵抗を示す行為である。
 しかし抵抗するだけでは、悪魔の支配から逃れられるわけではない。根本的な解決にはならないのだ。なぜなら、悪魔たちは、彼らのような抵抗する気概のある者たちこそを、自分たちの仲間にしようとしていたのだから。
 ある日、琉唯空が〝ハンター〟と呼ばれる悪魔に懐柔されてしまう。その光景に、立ち尽くすしかない友。そして、ついにその手が友のもとにもやって来たとき、彼は、ある一人の少女と出会う。
 榎戸サン。この世界の「外」からやって来た彼女こそ、真に悪魔による支配構造から逃れている者、〝魔法使い〟であったーー。

Aパート(第1話)[文字数:7226、四百字詰め換算:27枚19行]
Bパート(第2話)[文字数:6632、四百字詰め換算:24枚10行]
Cパート(第3話)[文字数:6607、四百字詰め換算:24枚19行]
Dパート(第4話)[文字数:7203、四百字詰め換算:28枚01行]

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【Aパート】

〇朝、とあるビルの屋上
  冷たい冬の風を受ける、メガネをかけた少女(江口スー)が、物悲しい表情で街を見つめている。
スーの声「この世界に人間は存在しない」

〇同時刻、公道
  スクールバスが走っている。

〇バスの中
  制服姿の生徒たちが、一言も話さずじっと座っている。
  行儀よく座る生徒たちは、みなどこか元気がない。
スーの声「私たちの祖先である悪魔が、すべての人間を駆逐したからだ」
  前方の席に、窓外を見ている少年(日外友)の姿がある。
  よく見れば、バスの中には、時刻を示すパネルが大量に付けられている。
  異様な雰囲気である。
スーの声「人間はかしこかった」

〇とあるビルの屋上
  スーの背後には、巨大な扉(中央に大きな鍵穴の形が描かれている)が出現している。
  そして、巨大な扉がひとりでに開き始めると――
  扉の奥には、暗闇が広がっている。
スーの声「だから彼らは、抵抗を示さなかった」
  スーは振り返ると、その扉の奥へと歩いていく。

〇灰鳥栖(はいとす)学園・下駄箱
  友のお尻(膝裏?)のアップ。
  靴を履き替える生徒たち。

〇灰鳥栖学園・全景?
  生徒を降ろしたバスが校門を出ていく。
スーの声「彼らは最初から、悪魔の到来を望んでいたのだ」

〇バスの中
  パネルの記号が、すべて「06:66」になっている。

〇扉の中の不思議空間
  コツ、コツ、コツと階段を降りていくスー。
  いつのまにか、手にはキャンドルランプを持っている。
スーの声「彼らは最初から、負けることを望んでいたのだ」
  見れば、階段はらせん状をしており、まわりの壁には、いくつもの小さな扉が、まるで浮いているように並んでいる。
  異様な光景である。
スーの声「誰もが、悪魔の支配する幸せな世界に歓喜するはずだった」
  ×      ×      ×
  ある部屋にたどり着き、足を止めるスー。
  そこには、一台のコタツがあるようだが、薄暗くてよく見えない。
スーの声「だけど、この世界には奴らがいた」
  ランプの明かりが消える。

〇灰鳥栖学園・教室
  窓側の席から、退屈そうに外を見ている友の表情。
スーの声「魔法使いだ」

(オープニング・クレジット?)
☆映像案(影絵調?紙芝居調?)
〇とある学校・教室
  中央の席、うつむいた少女(学生時代の榎戸サン)がいる。
  その周りを、悪魔や鬼のような形をした影たちが取り囲んでいる。
  影たちは、なんだか楽しそうである。
〇同校・屋上
  サン、飛び降り自殺を図っている。
  サン、目を瞑り、飛び降りる。
〇同校・校庭
  サンが目を開けると、そこには、学ランを着た少年に〝お姫様抱っこ〟されたサンの姿がある。
  少年とサンの周りに、無数の影たちが集まってくる。
  少年はサンを降ろして右手を影たちの前に突き出すと、なんと何もない空間から銃のような武器を出現させる。
  少年が銃から一筋の光を放つと、その光を受けた影が消失する。
  影たちは一瞬驚くが、すぐに少年に襲いかかる。
  少年は瞬く間に無数の影たちによって全身を覆われ、姿が見えなくなってしまう。
  たじろぎながら、その光景を見つめるサン。
  すると、次第に影たちがその場から離れていき――
  最後にその場に残ったのは、少年が着ていた学ランだけである。
  サンはその場に駆け寄ると、学ランを手にして涙を流す。
  影たちは、なんだか楽しそうである。
  ×      ×      ×
  いつのまにか学ランを身に着けているサン、自分で自分を抱きしめる。
  すると、サンの身体(胸のあたり?)が輝き始め――
  驚く影たち。
  サンが立ち上がると、空に〝裂け目〟が出現する。
  裂け目の中には、何人かの人影(魔法使い)が見える。
  輝くサン、決意の表情。
  (オープニング・クレジット終了)

〇タイトル表示?
サンの声「ゾウさんが出たぞう!」

〇朝、公園
  そこには、巨大なゾウの人形がある。
少年の声「すごいね」
  見れば、ゾウに近づくイケメンの少年(福元鏡夜)がいる。
鏡夜「何かの本で、〝人生とは、いないいないばあである〟と書いていた人間がいたけれど、それはその通りかもしれないね」
  鏡夜がゾウに向かって右手を突き出すと、なんとゾウの体内に腕が貫通して入っていく。
鏡夜「これほどまでに巨大なものを顕現させるなんて……あの子も、成長したんだね」
  そして、ゾウの体内から禍々しいオーラを放つリンゴをひとつ取り出して、
鏡夜「たしか、将来の夢はノーベル賞を取ることだったかな……なるほど、今も頑張っているんだね」
  微笑む鏡夜の表情。

〇1~2限目頃、灰鳥栖学園・屋上
  カラスのような鳥の鳴き声が聞こえる。
  そこでは、人面怪鳥(その正体は、鳥井プーが変身した姿である)が、なぜか屋上にある小さなリンゴの木(その正体は、ひとりの生徒である)にかぶりついている。
  木を嚙み砕き、リンゴを呑み込む怪鳥。
  やがて、羽を広げた怪鳥が飛び去っていくと――
  一枚の羽根が、屋上から落ちていく。

〇同時刻、同校・教室
  窓側の席から、退屈そうに外を見ていた少年(日外友)が、ふと落ちてくる羽根に気づく。
  まるで時間が止まったかのように、友が羽根を捉えると――
  どうやら友のクラスは授業中だったようで、次第に女教師Aの声が鮮明に聞こえてくる。
女教師Aの声「――生きることは選択の連続です。しかし、みなさんが生まれてきたのは、みなさんのお父さんとお母さんが選択したからであって、そこにみなさんの意志は100パーセントありません」
  友、顔を前に向ける。
  すると、すでに友以外の全生徒が、教師の方をきちんと見ていることが確認できる。
女教師A「つまりみなさんは最初から、選択などしていないのです。ですから、これから先も、お父さんとお母さんが用意してくださった進路通りに進んでいくことが大切なのです」
  校庭には、屋上から落ちた怪鳥の羽根がある。
女教師Aの声「みなさんは、『青い鳥』という童話をご存知ですか?」
  生徒の中には、お尻と椅子の間に手を挟み、何かに耐えるような表情を浮かべる男子生徒(園田大勢)の姿もある。
女教師A「その童話によりますと、幸せというのは、最も身近なところにあるのだそうです」
  教室には、ポツンと空いた空席がひとつある。(友の席の斜め前?)
女教師A「つまり幸せとは、実はもう、用意されているものなのです。ですから、みなさんのようないい子がとるべき行動というのは、すでに用意された道を、自主的に選択することなのです」
  友、空席に目をとめる。
女教師A「いいですか? では、先生の話が〝わかった〟という方は、自主的に手を挙げてください。手を挙げた方には、10点差し上げますよ」
  すると一斉に、友以外の全生徒の手が挙がる。
友「(ドン引き)」
少年(琉唯空)の声「頭おかしいんじゃねえの!?」
  ロッカーの開く音。

〇昼・同校・ロッカールーム
  ボクサーパンツ姿の少年(不破琉唯空)が、脱いだ制服をロッカーに投げ入れる。
琉唯空「なあ知ってるか、友? 昔の相撲は、人間同士がほぼ全裸の状態でやってたらしいぜ」
友「なにそれ、人権侵害じゃん」
  友のそっけない返答。
  ロッカールームから出て行く数人の男子生徒。
  (それを確認した)琉唯空は、自身のボクサーパンツを脱ぎ飛ばしながら、
琉唯空「なあ、俺たちもやってみようぜ」
  と言って、素っ裸でソンキョの姿勢をとる(もちろん画面にあそこは映らない)。
  友は体操服に着替えながら、
友「(相手にしない感じで)やんないよ」
琉唯空「なんだよ、つまんねえな」
  友、ロッカーを閉める。
友「早く行こう、琉唯空。僕たちが最後だ」
  不満そうな琉唯空、慌ただしく着替えていると、バランスを崩して尻もちをつく。
琉唯空「いてててて」
  友、手を差し出しながら、
友「なにやってんだよ」
琉唯空「(ハハハ)悪い悪い」
  琉唯空、その手を取り、立ち上がると、
琉唯空「なあ、今日の放課後、あれやってこうぜ」
友「(少し嬉しそうに)うん、いいよ」

〇同校・校庭・全景?
女教師(鳥井)の声「ハッケヨイ!」

〇同校・校庭・一画
  体操服姿の男子生徒二人が、仕切り線の中でソンキョの姿勢で見合っている。
  その二人の間には、ミニスカ・黒タイツ姿の女教師(鳥井プー)が佇んでいる。
鳥井「ノコッタ!」
  なぜかまったく動じない二人の生徒。
  少し離れた場所から、それを見守る体育座りの男子生徒たち。
  その中には、友と琉唯空の姿もある。
  ×      ×      ×
  校庭の片隅に植えられた二本の木々が、寄り添うように立っている。(時間経過)
  ×      ×      ×
  ソンキョの姿勢で見合う男子生徒。
  その男子生徒を、値踏みするような目で見る鳥井。
  男子生徒の、鎖骨や腰回りのアップ。
鳥井「そこまで!」
  二人の生徒が立ち上がり、礼をする。
鳥井「実にワンダフルな試合だったわ。ワンダフルなあなたたちには、100点満点あげる」
  鳥井は微笑むと、友のいる生徒たちの方に顔を向ける。
  拍手をしている生徒たち。
鳥井「じゃあ次、園田大勢くんと不破琉唯空くん!」
琉唯空「はーい……(小声で)めんどくせえな」
  琉唯空は立ち上がると、お尻の砂を手で払う。
  それを見る友。
  不敵な笑みを浮かべる鳥井。
鳥井(M)「あれが今晩の〝ポンチ〟ね」

  コンビニ商品「ワンダフルフルーツポンチゼリー」のアップ。
鏡夜の声「知ってるかい? この世で最も美しいのは、美少年に相撲をとらすことなんだ」
〇扉の中の不思議空間
  そこには、コタツに入りながら「ワンダフルフルーツポンチゼリー」を食べる鏡夜の姿がある。
鏡夜「(観客に語るように)僕はね、その昔、人間と悪魔から生まれた子供を見たことがあるんだ。その子供はとっても興味深かったよ。だってね、その子供は、文字だけでできていたんだ。そう、とっても多くの文字からだ」
  ゼリーを食べる鏡夜。
鏡夜「あ、これおいしいねぇ」

〇夕方、灰鳥栖学園・校庭・体育倉庫・全景
  友と琉唯空の吐息が聞こえてくる。

〇体育倉庫内
  小さな窓から入ってくる夕陽を浴びながら、マットに腰かけた琉唯空と友(二人ともマスクをしている)が、マスク越しにキスをしている。
  赤く染まる二人だけの空間。
琉唯空の声「それにしても、相撲って、変なルールだよな。一定時間あんなカッコしてるだけで、どっちにも点数が貰えるなんて……。昔の奴らは、よっぽどバカだったんだな」
  画面には、恋人つなぎをしながら激しくキス?を続ける二人の姿。
友の声「そんなこと、考えても仕方ないよ。そういうふうに決められたルールなんだから。僕たちには、どうしようもないことだよ」
琉唯空の声「……なあ、そういえば友のクラス、また減ってたよな?」
  ×      ×      ×
  ポツンと空いた空席。(回想)
琉唯空の声「実はあいつとは友達で、この〝秘密の遊び〟をしたこともあったんだぜ」
  ×      ×      ×
友「えっ」
琉唯空「なんだよ友、妬いてるのか?」
  目が泳ぐ友。
琉唯空「(それを見ながら)よし、充電完了だな」
  ×      ×      ×
  体育倉庫の傍らでは、鳥井が聞き耳を立てながら、なぜかダンスをしている。
鳥井(M)「(踊りながら)時代の……恋人たちね♪」
  ×      ×      ×
  マスクを外した琉唯空が、両手の指で四角のフレームをつくり、片目を閉じて友を見ている。
琉唯空「やっぱり、俺は友とやるのが一番好きだな。友との遊びが一番気持ちいいぜ」
(フレーム越しの)友「(マスクを外しながら)ありがとう……」
琉唯空「なんだよ、その嬉しそうな顔は。友は、誰とやるのが一番好きだ?」
友「えっ……僕は、琉唯空以外とやったことないから」
琉唯空「なんだ、そうだったのか」
友「うん」
  陽が沈んでいるせいか、画面全体が暗くなっていく。
琉唯空「……なあ、お前は、急に消えたりしないよな?」
  驚く友の表情。
  琉唯空は立ち上がると、帰り支度を始める。
  ×      ×      ×
鳥井(M)「(踊りながら)時代の……エクスタシーよ♪」
  ×      ×      ×
友「なんだよそれ。消えるって、どこに消えるんだよ? 僕たちには、何も決められないじゃないか……。僕たちは、どこにも行けやしないだろ」
琉唯空「……そうだな、そうだよな。悪い、今のは忘れてくれ」
  琉唯空、友に小指を差し出すと、友も小指を出し、二人は黙って指切りをする。
  ×      ×      ×
  鳥井、ダンスをしながら、歩いて体育倉庫から離れていく(駐車場に向かっている)。
鳥井「(歩きながら)ワンダフルフルフルフルフルフル」
鳥井&CMの声「フルーツポンチ」
CMの声「ゼリー!」

〇CM映像
  そこには、アイドル衣装を着て、「ワンダフルフルーツポンチゼリー」を笑顔で食べる少女(スー)の姿がある。
スー「ワンダフルフルーツポンチゼリーを食べて、みんなもワンダフルな日々を送ろう!」
CMの声「ワンダフルフルーツポンチゼリー、絶賛発売中!」

〇夕刻・市街地
  巨大な街頭モニターでは、「ワンダフルフルーツポンチゼリー」のCMが流れている。
  街頭モニター前の道路を、一台のゴミ収集車が通過する。
少女(サン)の声「ワンダフルフルーツポンチゼリーねぇ……」

〇ゴミ収集車・車内
運転席に座る女性作業員(魔法使いA)「最近ここらでハヤってる企業の商品ね。なんかすごい人気らしいわよ」
助手席に座るサン「……」
  サンは帽子を目深に被っており、顔がはっきりとは見えない。
魔法使いA「ほら、あなたが今飲んでいるラムネも、〝むらむらラムネ〟と言って、同じ企業の商品よ」
  サン、手に持つラムネのラベルに目をやる。
サン「どうりでおいしくないわけだ」
  確かにラベルには、「むらむらラムネ」と書かれている。
サン「何がウケるか、わからないものですね」
魔法使いA「(冗談を言うように)あなたの今晩の活躍で、〝魔法使い〟がハヤったりすればいいのだけどね」
サン「(ハハ)そうなったら素敵ですね。でもまぁ、ハヤるかどうか、ウケるかどうかは、やっぱり運だと思うんですよ」
魔法使いA「運?」
サン「うん、運」
魔法使いA「……」
  窓外を見つめるサン。
サン「だからボクらにできるのは、奇跡のような幸運が訪れる機会を、地道に何度も作ること……それしかないと思うんです」
魔法使いA「(少し寂しそうに)そうねぇ……。なんとかして、欲望の流れを変えられたらいいのだけど」
  スピードを上げるゴミ収集車。
サンの声「うん、うん」

〇道路
  サンの乗った車の反対車線を、友を乗せたバス(車体に「ワンダフルフルーツポンチゼリー」の広告がペイントされている)が通る。

〇バスの中
  窓外を眺めている友がいる。
  友、ふいに口元に手をやり――
  その友の唇のアップ。
友(M)「のど渇いたな」

〇扉の中の不思議空間
鏡夜「文字だけでできたその子供はね、結局すぐに死んでしまったんだ……。ゆっくり崩れていき、最後には、大量の文字の山だけを残してね」
  鏡夜、コタツの中からアルファベットの「a」の形をしたアクセサリーを取り出し、それを見つめながら、
鏡夜「もしかしたら魔法使いとは、新しい人間のことなのかもしれないね」

〇友の家(マンション7階)
友の母「おかえりなさい、遅かったわね」
  友が帰宅して玄関を開けると、待ち構えていたかのように、友の目の前には、友の母が立っている。
友「た、ただいま……」
友の母「道草は、悪い子がすることよ」

〇夜、同家・リビング
  カチ、カチ、カチと時計の秒針音が聞こえている。
  広いリビングの中で、浴衣姿の友が、コンビニ弁当を食べている。
  見れば、友の両親と思われる人物もいる。
  しかし三人は、同じ部屋にいながら極端に離れた場所で、それぞれ別々に弁当を食べている。
  黙々と食べ続ける三人。
  異様な雰囲気である。
  すると、父親と思われる人物が立ち上がり、食べ終わった弁当をゴミ箱へ持って行きながら、
父「やっぱり、家族みんなで食べるメシはおいしいなあ!」
  静まり返るリビング。
母「(機械的に)ええ、そうですね」
父「これからは、こういう幸せな時間をできる限りつくろうと思うよ!」
  と言って、父は部屋を出て行く。
  ×      ×      ×
友「(ボソッと)一緒に食べるよう、上司から言われたの?」
母「そうみたいね」
  リビングに置かれたモニターに映る、友の顔。
母の声「直接お父さんに聞いちゃだめよ。お父さんのおかげで、こうやって食べていけてるんだから」
  湯呑みに映る、友の顔。
母の声「あなたが生きていけるのは、お父さんのおかげなんだから」
友「……うん」
  静まり返るリビング。
  ×      ×      ×
  カチ、カチ、カチと時計の秒針音が聞こえている。
  ゴミ箱に捨てられた弁当の山。(時間経過)
  ×      ×      ×
  どうやら母も部屋を出て行ったようで、広いリビングには友だけが残されている。
  ダラっとしている友(浴衣から肩が見えている)。
友(M)「生きることは生かされること。きっとそれは、この世の真実なのだろう……」
  ×      ×      ×
女教師A(回想)「そこにみなさんの意志は100パーセントありません」
  ×      ×      ×
友(M)「何でこの世界に生まれたのかな……」
  悲しげな友の表情。

〇夜の空
  夜の月に、雲がかかっていく。
  バサッと布団をかぶる音。

〇友の家・友の部屋
  悲しげな友の顔に、布団がかかる。
友(M)「この世界は、なんだか気持ち悪いな……」
  ×      ×      ×
  友以外の全生徒が、教師の方をきちんと見ている。(回想)
  一斉に、友以外の全生徒の手が挙がる。(回想)
友の声「いや、気持ち悪いのは僕の方か……」
  ×      ×      ×
  友、目を瞑る。
友(M)「僕はよく、同じ夢を見る。僕に似たたくさんの子供たちが、僕に向かって泣き叫ぶ夢を」
  ×      ×      ×
  インサート、友の夢のイメージ映像。
友の声「僕は彼らの声に、いったん耳を傾けようとするのだけど、毎回すぐに耐えられなくなって、耳と目を閉じ、口をつぐんで、屈み込んでしまうんだ」
  インサート終了。
  ×      ×      ×
  部屋の天井には、明かりの消えた円形のLEDシーリングライトがある。
友の声「そういえばあの日も、同じ夢を見たんだっけ」
  ×      ×      ×
  インサート、数日前、深夜、友の家のベランダ。
  友、手すりに手を置き、空を見上げている。
友「……」
  小さくため息をつく友。
  すると――
謎の女性の声「待って……」
友「!?」
謎の女性の声「私はあなたを、待ってるよ」
友「誰……!?」
  友、振り向くと――
  インサート終了。
  ×      ×      ×
  友はすでに眠りに落ちている。

〇夜の空
  眩い星空がいちめんに広がっている。

〇扉の中の不思議空間
鏡夜「生きたい奴が生きて、死にたい奴が死ぬ。人間よりもはるかに優しい悪魔たちは、そんな社会を築いていったんだ」


【Aパート END】
[文字数:7226、四百字詰め換算:27枚19行](OPクレジット含む)


【Bパート】

  カラカラカラと、回し車を走るハムスターのアップ。
〇スーの家・一室
  部屋の壁一面には、様々な鳥や卵の形をした時計が、びっしり飾られている。
  部屋の中央で、回し車を走り続けるハムスター。
  よく見れば、そのハムスターは、機械のようである。
  すると突然、そのハムスターが、警報のような鳴き声をあげ、全身から赤い光を四方に放つ。
  加速するハムスター。
  赤い光を受ける壁の時計。
サンの声「昔、親の目を盗んで、真夜中の公園に行ったことがある」

〇数年前、深夜、公園
  そこには、ブランコで立ちこぎをする少女(当時の榎戸サン?)の姿がある。
サンの声「その時のことを言葉にするのは難しいけれど……」

〇夜、とあるビルの屋上
  学ランを身にまとった榎戸サンが、街を見渡しながら、片手でリンゴをボールのように弄んでいる。
サン「生きることが〝生き延びること〟を意味するようになった時代では、あの頃のような体験ができるとは思えないね」
  サンの傍らには、実物と同じくらい巨大な、白い馬のぬいぐるみがある。
  どうやらサンは、そのぬいぐるみに話しかけているようだ。
サン「あれからいっそう、イヤな氷の世界になってしまったようだ」
  無言でサンを見つめる馬のぬいぐるみ。
サン「こごえてしまうのも無理はないね……。ごらんよ。みんな、羊の目をして、砂糖水に群れるアリのように動いてる。きっと、与えられた時計の中で、音楽にでも泣きついているんだろうな」
  サン、空を見上げて、
サン「星はなんでも知っている」
  サン、目を瞑って、
サン「ほら、星々が、やさしくささやきささめいている」
  無言でサンを見つめる馬のぬいぐるみ。
  頭上には、先程までサンが持っていたリンゴがある。
サン「何をだって? 永遠さ。永遠だよ。いたるところが永遠なんだ」
  優しい風が、サンの髪を揺らして、
サン「ほら、風も悲しんでいる。でもいいんだ。だってボクは、その傷を受肉するために生まれて来たんだから」
  サン、目を開けて、
サン「自ら進んで十字架にかけられた殉教者は、これまでに何人もいた。だけど、結局彼らも英雄ではなかった」
  無言でサンを見つめる馬のぬいぐるみ。
  頭上には、リンゴがなくなっている。
サン「あぁ、ごめんごめん。ちょっと、今を感じていたい気分だったのさ……ってお前! ボクのリンゴ食ったなぁ!?」
  無言でサンを見つめる馬のぬいぐるみ。
サン「ったく……それにしても、せっかく魔法使いであるボクがこの街に帰ってきたってのに、〝ハンター〟の出迎えがないのは妙だなぁ」
  サン、真剣な表情になり、
サン「ということは、こちらの動きをうかがっているのかもしれないね」
  サン、サッと馬にまたがると、
サン「それじゃあ、ボクらの方から仕掛けるとしようか」
  馬にまたがったサンは、なんとそのまま飛び去っていく。
サンの声「さぁ、本当の仕事の時間だ」

〇同時刻、路地裏
  路地裏に並ぶ、さびれた店々。
  その店々の周辺には、ゴミを漁る二羽のカラスと、一台の車が確認できる。
  見れば、車の中には、飛び去るサンを見送る二人の影がある。
  その影とは、運転席に座る鳥井と、助手席に座るスーである。

〇車内
  鳥井、「ワンダフルフルーツポンチゼリー」を食べている。
  スー、「むらむらラムネ」を飲みながら、だらしなくダッシュボード上に脚を組んでのせている。
  スーの太もものアップ。
鳥井「やーね、次から次へと仕事が舞い込んできて。誰があの外道の相手をするわけ?」
スー「さぁ?」
鳥井「そっけないわねー。あんた、それでもアイドル?」
スー「(むっとしながら)アイドルだからそっけないのよ。今日もさんざん消費されたからね。こんなところで元気出す余裕なんてないの」
鳥井「ふーん」
  さくらんぼを食べる鳥井。
鳥井「(琉唯空をまねて)〝なあ知ってるか、アイドルの江口スーさん? 昔の相撲は、人間同士がほぼ全裸の状態でやってたらしいぜ〟」
ラムネを飲むスー「?」
鳥井「(後部シートを示しながら)この子が昼間言ってたのよ」
  見れば、後部シートでは、琉唯空が眠っている。
  琉唯空の寝顔。
スー「へぇ、裸かぁ……。それは、エンターテインメントをよくわかってるわね。やっぱりお客さんからお金を貰う以上、ファンサービスはしないとね」
  スーの太もものアップ。
鳥井「あら、でも最初から見えているのは、逆につまんなくない? 私は隠れている方が、ゾクゾクして好きだけどなあ」
  鳥井の黒タイツで隠れた太もものアップ。
鳥井「そうだ! 今晩のお仕置きは、服を着せてしましょうよ!」
スー「(ひいてる感じで)はぁ? 本気?」
鳥井「前々から、すぐに脱がすのはどうかと思ってたのよねえ。体操服とかどうかしら?」
  琉唯空の寝顔。
鳥井の声「たまには、そういう〝遊び〟もいいと思わない?」
スー「じゃあ今晩は、あなただけで楽しみなさいよ。私はパス」
  すると突然、鳥井がスーに抱きついて、
鳥井「えー、いいのー!? ありがとうスーちゃん! 実はこの子のこと、ずっと気になってたのよねー!」
スー「(独り言をいうように)スーちゃんって言うな」
鳥井「あ、でも私は、スーちゃんとやるのも大好きだよー!」
  スー、抱きつく鳥井を自分から引き離しながら、
スー「ま、なんにしても、私たちが言われたのはこの子だけ。お賃金を貰えないお仕事は、知ったこっちゃないでしょ」
  再びラムネを飲むスー。
鳥井「そうそう。私たちは、言われたことをするだけよね」
  ハンドルに手をかける鳥井。
鳥井「それじゃあ、人権侵害、始めましょうか」
  琉唯空の寝顔。
鳥井の声「さぁ、本当の仕事の時間よ」
  チャイムが鳴る。

〇翌朝、灰鳥栖学園・全景?
女教師Aの声「(あきれ気味に)またですか、日外さん!」

〇同時刻、同校・教室
  ポツンと空いた空席。
女教師Aの声「日外友さん! こんな簡単な問題の答えがわからないのですか!?」
  友、昨日の空席(今日も空席)から目を逸らしながら、
友「いえ……」
女教師A「(怒り気味に)いいですか、挙手をしない子は、主体性がない悪い子です。悪い子は、テストと関係なく0点になると言ったでしょう? 0点になったら、進学できないのですよ!?」
  他の生徒たちが、手を挙げた状態のまま、落ち着かない様子で動揺している。
女教師A「進学できずに肩書きがもらえないと、ご両親の点数も引かれるのですよ? ご両親を、悲しませたいのですか?」
  居心地が悪そうな友の表情。
女教師A「日外さんは、悪い子ですか?」
  友、ばつが悪そうに手をあげる。
女教師A「(それを見て)はい、私のクラスの子は、みなさん主体性があっていい子ですね。では、えー……園田さん、答えてください」
  友の悲しげな表情。
鏡夜の声「人間は最初から、負けることを望んでいたのだ」

〇同時刻、同校・校庭
  屋上から落ちた怪鳥の羽根がなくなっている。
  見れば、そこを鏡夜が通り過ぎる(体育館に向かっている)。
鏡夜「そして誰もが、悪魔の支配する幸せな世界に歓喜するはずだった、か」

〇同校・廊下・校長室前
スーの声「まーた悪い子が現れたの?」

〇校長室
  窓際の椅子に座っている校長と思われる男が、机を間に挟んで、向かいに佇むスーにタブレットを差し出している。
校長「ああ、この子なんだが……」
  スー、あくびのポーズをしながらタブレットを受け取る。
スー「私の代わりなんて、いくらでもいるでしょ? 何でまた私が相手をするわけ? 昨日の今日よ?」
校長「いや、そういったことは私に言われても……。ただ、君が昨夜の子の相手を実際にはしていないという報告なら受けているが」
  不機嫌な顔になるスー。
校長「(オホン)その子は、何度も正解をわかっていながら、マニュアル通りの答えをしないそうだ。十分に素質があると判断され、早いうちに手を打つようにとの指示があった」
  スー、渡されたタブレットに目をやりながら、
スー「ふーん」
  校長はおもむろに立ち上がると、窓から見える校庭に目をやる。
校長「いまや多くの精神病は、発達上の問題とされている。早期の発見と予防が欠かせないのは言うまでもない」
  校庭では、テニスウェア姿の女子生徒たちが、一定の距離を保ったまま、規則正しくラケットを振っている。
校長「(それを見ながら)子供の成長には、成功体験が必要不可欠とされている。なぜ約束された成功を自ら放棄し、わざわざ間違った道を選ぶのか。まったく、理解に苦しむよ」
  1、2、1、2と掛け声をかけている女子生徒たち。
校長「昨夜から暴れている、魔法使いの動向も気になるというのにな」
  スー、渡されたタブレットに目をやりながら、
スー「あら、昨日の子と仲がいいのね」
  ×      ×      ×
  インサート、昨夜、ホテル・一室。
  そこでは、体操服姿にネコ耳のカチューシャを付けた琉唯空が、「長靴をはいた猫 台本」と書かれた本を持った鳥井から、〝演技指導〟を受けている。
スーの声「類は友を呼ぶ、ってことかしらね」
  インサート終了。
  ×      ×      ×
校長「障害や病気は、無い方がいいに決まっている。同様に、特異的な能力や天才的な創造性も、無い方がいいに決まっているのだ」
スー「健常悪魔たちの、ユートピア世界ってやつ?」
  校長、スーの方に振り向き、
校長「あぁ。それ以上のものはないだろう。彼のような潜在的異端者を治療し〝いい子〟へと導くことこそ、鏡夜くんに選ばれた我々の役割だ」
  スーの持つタブレットには、友の顔が映っている(経歴等が書かれているようだ)。

  友の顔のアップ。
〇夕方、バスの中
  前方の席で、窓外を眺めている友がいる。
  その友を、後方の席から見ている少女(スー、メガネはかけていない)の影がある。
  少し虚ろな友の表情。
友の声「秘密の遊びはもうしない……!?」
  ×      ×      ×
  インサート、数時間前、灰鳥栖学園・渡り廊下。
琉唯空「(スッキリしたような表情で)ああ」
友「どうしてだよ、琉唯空!?」
  見れば、琉唯空は新品のように綺麗な制服を着ている。
琉唯空「うるさいなあ。俺は生まれ変わったんだ」
友「……」
琉唯空「だいたい、何が〝秘密の遊び〟だよ。何もかも用意されたこの世界に、秘密なんてないだろ? 俺たちが思いつくような行動なんて、所詮大人たちの想定の範囲内でしかないんだ」
友「それって……」
  ×      ×      ×
  数日前、夕方、体育倉庫内。
  マット上で琉唯空の足首をつかむ友。
  じゃれるような反応を見せる琉唯空。
友の声「あの、秘密の遊びがバレてたってこと?」
  ×      ×      ×
琉唯空「バレるも何も、最初からたぶん、全部決まっていたことなんだろうぜ。ほら、お前だって言ってたじゃないか。最初からルールは決められていて、俺たちには、どうすることもできないんだって」
友「……」
琉唯空「俺たちのささやかな反抗なんて、何の意味もないことだったんだよ」
  と、そのとき、琉唯空の視界に鳥井の姿が入る。
琉唯空「あ、鳥井先生!」
  鳥井の方を見る友。
  鳥井、琉唯空に気づいて小さく手をふる。
琉唯空「(友に)あれは子供の遊びだったんだ。ま、お前にもじきにわかるときがくるニャ」
  と言って、琉唯空は鳥井の方へ走っていく。
友(M)「ニャ?」
  楽しそうに並んで歩く琉唯空と鳥井。
鳥井「こら、廊下を走っちゃダメでしょ」
琉唯空「(えへへ)ごめんニャさい」
  などといったやりとりを聞きながら、まるで周囲の風景が闇につつまれていくように、琉唯空の姿が友のもとから遠ざかっていく。
  ひとり立ち尽くす友。
  インサート終了。
  ×      ×      ×
  友、小指を見つめながら、
友(M)「子供の遊び、か……」
  友、視線を再び窓外に移すと、そこにはカラオケ店が見える。
琉唯空の歌声「青空よ遠い人に伝えて♪ さよならと♪」

〇カラオケ店・一室
  見れば、琉唯空が鳥井に膝枕をしてもらっている。
琉唯空「(手に持つマイク越しに)これが、〝大人の遊び〟なんですねえ」
鳥井「あらあら、大人の遊びは日が落ちてからよ」
琉唯空「え、でもそうすると、明日の学校が……」
鳥井「ジョブジョブ大丈夫。どうせ明日の学校は、休みになるんだから」
琉唯空「?」
鳥井「(ふふふ)実は今日これから、魔法使いがこの街で暴れることになってるのよ。で、それの影響で明日の学校は休みってわけ」
琉唯空「……魔法使いが暴れる?」
鳥井「あら、そういえばあなたのクラスは〝保健の授業〟がまだだったわね。いい? 魔法使いっていうのは、この世界にある呪いだとか絶望だとかを追い払うことを目的にしている、頭のいかれた連中のことで……って、まあ、そこらへんのことも、後でじっくり教えてあげるわ」
琉唯空「……」
鳥井「それより、マイクちょうだい」
  マイクを手渡す琉唯空。
鳥井「(マイク越しに)これを歌ったら移動するわよ。(ささやくように)大人の遊びは、そこでしましょう」
  微笑む琉唯空。

〇カラオケ店・全景?
琉唯空の声「先生、マイク入ってますよ」

〇体育館
  少年(鏡夜)が、バスケットボールを持ってジャンプすると――
  シュートを決める。
  微笑む鏡夜の表情。
鏡夜「今日はきれいに入ったね」
  すると突然、室外が稲妻のような閃光に包まれる。
鏡夜「(おやおや)どうやら外の方でも、楽しそうなゲームが始まったようだ」

〇街
  空を覆っていた光が収まると、次の瞬間、空から超巨大な動物の形をした複数の人形が、街に降りそそぐ。

〇バスの中
  ドンッ!という激しい音と共に停車するバス。
  見れば、友の目の前には、超巨大なクマのぬいぐるみの顔がある。
  驚く友の表情。
スーの声「おっきい……」
  不気味なクマの表情。
サンの声「ライチョウが来庁!」

〇市役所前
  役所の前では、超巨大なライチョウの人形を出現させたサンが、学ランを身にまとい、デッキブラシを携えながら決めポーズをとっている。

〇体育館
  いつのまにか半壊している体育館。
鏡夜の声「こんにちは、うさちゃん」
  見れば、超巨大なウサギの人形が鏡夜の目の前にあり、どうやらそれが上空から落ちてきたようである。
鏡夜「ゲームは常にすでに始められている。僕たちがこのゲームから降りることは不可能だよ」

〇バスの中
  クマを見る少数の客たちは意外と冷静で、「魔法使いか?」とか「早くマニュアル通り逃げないと」といった声が聞こえる。
友(M)「魔法使い……?」
サンの声「ヤァァァ!」

〇バスから少し離れた市街地
  サンが、大量の〝敵〟に向かって、ブラシを振り回している。(敵の造形案:鬼や悪魔の形をした真っ黒な塊ないしは影、あるいは、CGで作った無機物や、輪郭がぼやけている『攻殻機動隊』における光学迷彩のようなイメージ)

〇カラオケ店
  「スポンサー曲」を歌い始める鳥井。
  (以下、戦闘シーンのバックで曲が流れている?)

〇街
  街中に鳴り響くサイレン。
  避難所へ逃げていく人々。
  超巨大な人形たちによって、一部壊された建物。
  落ちてきた人形たちの、どこか不気味な表情。

〇バスから少し離れた市街地
  夥しいほど大量の敵が、サンに向かっている。
サン「吠えるホエール!」
  見れば、サンの足元から超巨大なクジラのぬいぐるみが叫びながら出現し、大量の敵を飲み込んでいく。
  さらに、四方から飛んでくる敵を、ブラシで倒し続けていくサン。
  見事な太刀さばきである。
  しかしサンは、時折攻撃を受けてもいるようで、学ランに傷がついていく。
サン「クッ!」
  サン、敵から間合いをとる。
  すると、サンのブラシが輝き始め――
サン「(必殺技を叫ぶように)トイレニ・イットイレー!」
  サンが渾身の力でブラシを振ると、ブラシから眩い光が放たれる。
サン「イッケーーーー!」
  見れば、その光を浴びた大量の敵が、公衆トイレに飛ばされていく。
  そして、トイレの流れる音――

〇バス付近
  友、バスから外へ出て、戦っている最中のサンの方へ足を動かす。
友「(険しい表情)」
スー「(友に)君は、逃げなくていいわけ?」
  見れば、友の傍らには、スーが佇んでいる(他の客は避難したようだ)。
  スーの声が聞こえないのか、サンに釘付けの友。
スー「(むっとする)」
友(M)「あれが、魔法使い……」

〇バスから少し離れた市街地
サン「イルカは居るか!?」
イルカ(機械音)「いるよ♪」
  見れば、サンの背後に巨大なイルカのぬいぐるみが出現しており、どうやらサンはそれによって敵からの攻撃を防いだようである。
  傷つくイルカ。
サン「イカはいかが!」
  サンが振り返って素早くブラシを振ると、大量のイカの人形がブラシから出現する。
  そのイカがサンの背後にいた敵にぶつかると、なぜかその敵は消失したようである。
  そして、さらに敵たちがサンに襲ってくるが――
サン「土管がドッカーン!」
  敵たちの前に突如出現した大量の土管のぬいぐるみが、一斉に爆発する。
  しかし、それでもまだ敵は残っているようである。
  サン、そのことを確認して、
サン「しつこいねぇ」


【Bパート END】
[文字数:6632、四百字詰め換算:24枚10行]


【Cパート】

〇公園
  そこには、巨大なゾウの人形がある。
  すると――
サンの声「ゾウさんを増産!」
  という声と同時に、ゾウの人形が増殖して、パオーンと鳴きながら一様にどこかに向かって走り出す。

〇バスから少し離れた市街地
  大量のゾウがやって来て、サンの周りにいた敵を踏みつぶしていく。
  一面が煙に覆われ、やがて――
サン「(残った敵を見ながら)キミたちが最後みたいだね」
  残された敵。
サン「ハァァァァァ!」
  すると、サンのブラシが〝布団たたき〟に変形し、輝き始める。
  ×      ×      ×
  サンを見て、驚く友の表情。
スー「(チッ)」
  スー、ポケット(あるいは別のどこか)からメガネを取り出し、それをかける。
  ×      ×      ×
サン「(必殺技を叫ぶように)フトンガ・フットンダー!」
  まるで剛速球をフルスイングするかのように、渾身の力で敵を吹っ飛ばすサン。
  美しいバッティングフォームである。
サン「フットベーーーー!」
  どうやら敵はバスのある方向に吹っ飛んだようで、その風圧を受ける友とスー。
友「うっ」
スー「きゃっ」
  狂気の混じったサンの表情。
友(M)「すごい……!」
  爆風になびく友の衣服(このとき、臍が見える)。

〇街
  とある場所の歩行者用の信号が、赤から青に変わる。

〇バス付近
サン「(ふぅー)」
  変身を解いて、私服姿になるサン(布団たたきは消える)。
  街を壊した人形たちも半透明になり、やがて消えていく。
  街は、静寂を取り戻す。
  ×      ×      ×
サン「(くんくん)ん? この匂いは……」
  友を見て微笑むサン。
サン「見つけた」
友「?」
サン「(友に近づきつつ)もしかして、キミ」
  すかさずスー、何か言おうとするサンに対して、
スー「出ていけ、魔法使い!」
友「(サンを見て)魔法、使い……」
サン「(友に)生で見るのは初めてかな? どうだい、カッコよかっただろ?」
スー「さんざん街をめちゃくちゃにしておいて、どこがカッコいいのよ! あんたらなんか、社会をむしばむ細菌同然じゃない!」
  超巨大な人形たちによって、一部壊された建物の跡。
サン「ボクだって、できるなら壊したくはなかったさ」
  ×      ×      ×
  街に降りそそぐ超巨大な人形。(回想)
  人形たちの、どこか不気味な表情。(回想)
サンの声「だけど、あの子たちと一緒じゃないとダメなんだ。力が出ないんだよ」
  ×      ×      ×
スー「その野蛮な力に、みんな迷惑してるのよ!」
サン「野蛮な力、か。まぁ、魔法使いとは、いうなれば〝歌そのもの〟であって、歌を歌う者ではないからね。暴力的な部分があるのはその通りさ。でもそのおかげで」
  友を見るサン。
友「?」
サン「キミと会うことができた」
  見つめ合う友とサン。
スー「(呆れながら)どうやら言葉が通じないようね」
サン「(友に)キミの心は、この街に満足していないんじゃないかい? 家と学校。その二つの檻を往復する日々は楽しいかい?」
友「それは……」
サン「これはボクの持論なんだけど、自分自身の人生を楽しむ以外に、悪魔から逃れる方法なんてないと思った方がいいよ。さぁ」
  サンが友の方に手を伸ばそうとしたところで、
スー「離れて! あぶないわ!」
  スーは咄嗟に友の腕を掴み、乱暴に自分の方へ引き寄せる。
  体勢を崩す友。
サン「(友に)キミはやりたいこと、やってる? 欲が無いのは、よくないことだよ」
スー「(サンに)もうすぐハンターが来るわ!」
友「……ハンター?」
スー「ええ。こいつらみたいな魔法使いを狩ることを専門にした特殊部隊よ」
友「そんな部隊があったんだ」
サン「(友に)どうやらキミの心にはまだ、霧がかかっているようだね」
  サンを見る友。
サン「鴨カモーン!」
  すると、超巨大な鴨の人形がどこからともなく飛んできて、
サン「ボクの名前は榎戸サン。趣味は、ぬいぐるみの綿を入れ替えることだ。(鴨に乗りながら)じゃあ、ハンターが来るらしいから、また後でね」
  と言って、サンは飛び去っていく。
サンの声「ばいばいきーん」
スー「(独り言を言うように)私服でも飛ぶんかい」
  ×      ×      ×
スー「ホント、非常識な存在よね」
  友、つかまれた腕を示しつつ、
友「あの、あなたは一体……?」
スー「ああ、私はね」
  シュッと、スプレーボトルを押す音。
友「うっ……」
  意識を失う友。
スー「ハンターよ」
  見れば、スーが小型のスプレーボトルを持ちながら、眠らされたと思われる友の体を支えている。
スー「あの魔法使いは、〝やりたいことやってる?〟とかぬかしてたけど……男の子がやりたいことなんて、決まってるわよね」
  スーの腕の中でぐったりしている友。

〇夕焼け空

〇とある高層ビル・全景
男Aの声「また派手に暴れたようで」

〇同ビル・応接室(高層階フロア)
  見晴らしがいい室内には、スーツ姿の男Aが、魔法使いA、魔法使いBと向かい合ってソファに座っている。
  彼らの間にあるテーブル上には、紙袋が置かれている。
男A「あなた方はいつも街を傷つけ、我々を驚かせる。おかげで我々は毎回新しく地図を書き直す羽目になるわけだ」
魔法使いB「今回担当した魔法使いは、まだ若いですからね。力の制御がうまくできないんですよ」
魔法使いA「他者を育てる、他者を動かすというのは、どこの世界でも難しいことですよね。(真剣に)とはいえ……」
  (ここでカメラは、彼らの足元(床)を映す?)
魔法使いAの声「ちゃんと、指定されたエリアにしか、攻撃はしていませんがね」
  (カメラは床を突き抜けて、地下へと進んでいく?)

〇同ビル・地下
  薄暗い部屋の中に、大きなバスタブがある(水は入っていない)。
  見れば、バスタブの中には、セーラー服(水兵)姿の琉唯空が、胎児のように膝を抱えて丸くなって眠っている。 
鳥井の声「強大な力を持つ魔法使いといえど、それぞれの能力には限界がある」
  「むらむらラムネ」を持った鳥井が、バスタブの方へ歩いてくる。
鳥井「だから彼らは、それぞれの能力を補い合うための組織を作ったの」
琉唯空の声「それが、魔法協会」
  見れば、琉唯空が微笑みながら上半身を起こしている。

〇同ビル・応接室
男A「もちろん魔法協会のみなさんのことは信頼しています。あなた方が我々を裏切るなどとは思っておりません」

〇同ビル・地下
鳥井「なぜなら、この世界で魔法協会が活動を続けていくには、この世界を支配する私たち、悪魔の作ったルールに従わなければならないから」
琉唯空「……魔法使いも所詮、限定された存在ということだね」
  微笑む鳥井の表情。
琉唯空「コネを作ることができなかった落ちこぼれが集まって、俺たちを僻んでるわけだ」

〇同ビル・応接室
魔法使いA「……」
魔法使いB「……」
男Aの声「あなた方が街に穴をあけ、我々がその穴を埋める。この永遠に続く労働こそ、我々の平和にほかならない。これからも良きビジネスパートナーとして、良き関係を続けていきましょう」

〇同ビル・地下
  いつのまにか鳥井もバスタブ内におり、琉唯空は鳥井の膝の上に座るようにしている。
  さらによく見れば、琉唯空は片手をバスタブの外に置いており、その手には、鳥井が持っていたラムネを持っている。
鳥井の声「(ふふっ)あなたは本当にお利口さんね。えらい、えらい。その通りよ。彼らの理想は、悪魔からの援助を受けている以上、永遠に達成されることがない」

〇同ビル・応接室
  男Aから紙袋を受け取る魔法使いB。
鳥井の声「私たちからの援助がなければ、魔法使いは、まともな生活さえ送れないでしょうね」
  紙袋の中身は、札束である。

〇同ビル・地下
鳥井「協会に所属していない魔法使いもいるみたいだけど、たいていはすぐに始末されるらしいわ」
琉唯空「まったく合理的じゃない。タチが悪い、馬鹿な連中だね」
鳥井「そうなのよ。放っておいて暴れられても困るし……まったく自分勝手で困った連中なのよ。あなたの友達も、あなたのようにかしこければいいのだけど」
琉唯空「(真剣な表情で)それはどうだろう」
  琉唯空、持っていたラムネを逆さにして、ラムネをボタボタと流していく。
琉唯空の声「あいつは悪い子だからニャ」

〇街
  不気味に揺れ動く風見鶏。
  カーブミラーの前を歩く鏡夜。
  しかし、鏡に鏡夜の姿は映らない(鏡夜は鏡に映らないキャラです)。

〇体育館
  バスケットボールのゴールが崩れ落ちる。
  すると――
鏡夜の声「アリアドネは首を吊ってしまった」

〇街
  踏切前で足を止める鏡夜。
鏡夜「知ってたかい? 人生とは、費用がかかるわりに、割に合わない〝事業〟なのさ」
  カンカンカンカンと踏切音が聞こえ、遮断機が下りる。
鏡夜「さぁ、夜がはじまるよ」

〇夕刻、スーの家・リビング
  部屋にはなぜか霧がかかっている。
  広い部屋の中央には、プレイマットの上で寝ている友の姿がある。(タオルケットがかけられている?)
  その傍らに、友が着ていた制服に、丁寧にアイロンをかけているスーがいる。
  シワを伸ばすアイロンのアップ。
スー「……」
友「んっ……」
  どうやら友が目を覚ますようである。
  友、目を開けると、霧のせいか目覚めたばかりのせいか、目の前がぼやけている。
友「(んっ)霧……?」
  ×      ×      ×
サン(回想)「どうやらキミの心にはまだ、霧がかかっているようだね」
  ×      ×      ×
  次第にぼやけた視界の中に、明かりの消えた円形のLEDシーリングライトが見えてくる。
  その周りには、星形のシールがびっしり貼られており、その星のいくつか(8割程度)には、×印が付けられている。
  異様な光景である。
スー「やっと起きたみたいね」
  アイロンを置くスー。
スー「プレイマットの上は気持ちよかったでしょ? さぁ、立って」
  ザッと音がすると、スーの着ていた衣服(とメガネ)が、すべて床に落ちる。
スーの声「汚れちゃったし、体を洗いに行きましょ」
  よく見れば、友も裸の状態だったようだ。
  再び天井を見る友。
  明かりの消えたシーリングライトと、その周りの星々。
  ちゃぽんと水の音。

  明かりの点いたシーリングライト。
〇同家・浴室
  室内には、霧のような湯気が立っている。
  バスチェアに座る友。
  傍らに、友の背中を洗うスーがいる。
スー「寒くない? 日外友くんよね。お姉ちゃんは、江口スーっていうの。ちょこちょこテレビとかにも出てるんだけど、知ってるかな? よろしくね」
  まるで催眠術にかかっているような友の表情。
スー「いきなりなんだけど、ご両親のことは嫌い? お姉ちゃんに教えて」
  なぜか友に質問するスー。
  そして、なぜか体を洗われながら、質問に答える友。
友「……わかんない。大事にされてるとは思う。だけど、だけど、なんていうか……」
  スーは背後から抱きついてくるように、顔を友の顔に近づける。
スー「(耳元で)なんていうか?」
友「なんていうか、本当の愛じゃないっていうか……」
スー「本当の愛って?」
友「……わかんない」
  ×      ×      ×
  ちゃぽんと水の音。
  浴槽に張られた水に映るライトが揺れている。
  浴槽に浮かぶ、アヒルの人形。
スーの声「いっちゃおうよ」
  ×      ×      ×
友「……僕には、あの二人が本当に愛し合っているようには思えないんだ」
  画面には、友の体を洗い続けるスーの姿。
友の声「どうして僕をつくったのか。どうしてこんな世界の中で僕をつくったのか。あの二人が本当は何を望んでいるのか。僕には全然わからないんだ。彼らは僕に、他のみんなと同じように、ただ普通に生きてほしいだけみたいなんだ。でも僕には、みんなが普通にやってることの意味がわからないんだ。こんな普通はおかしいって思うんだ。僕は……僕は、病気なんですか?」
スー「……」
友「どうしてこんな世界を肯定して生きていけるのか……僕には全然わからないんだ」
  手をとめるスー。
スー「それで、自殺しようとしたの?」
  ビクッとする友。
  ニヤつくスー。
スー「どうしたの? 自殺くらい、いまどき誰でも考えることでしょ?」
  ×      ×      ×
  インサート、数日前、深夜、友の家のベランダ。
  手すりの上に立つ友。
  冷たい夜の風。
友「(小さなため息)」
  友が目を閉じたところで――
スーの声「どうしてやめちゃったの?」
  インサート終了。
  ×      ×      ×
友「星が、星がきれいだったから……」
  つい上を見上げる友。
  明かりの点いたシーリングライト。
友「僕は、いくじなしなんだ」
  スー、友の体を流し始める。
スー「いいじゃない、いくじなしで。最近消えた友くんのクラスメート、あの子、自殺したのよ」
友「……」
  ポツンと空いた空席。(回想)
スー「でも、誰も気にしていないし、私だってどうせすぐに忘れてしまう。私たちはみんな、その程度の存在なのよ。私みたいに多少の知名度があっても、それは大して変わらないでしょう」
友「……」
スー「だからわざわざ自己主張するみたいに、自分から死ぬなんて馬鹿な真似する必要ないの。黙って決められたことをしていればいいのよ。友くんなら、きっとできると思うよ」
  友の体から流れていく泡。
スー「自分から苦しむ必要なんてないのよ。ずっと永遠に、気持ちのいいことを繰り返そうよ」
友「ずっと……永遠に?」
  スー、背後から友の耳にそっと口を近づけ、ささやく。
スー「ええ。ずっと、永遠に。だから、かたい話はおしまいね」
友「お姉……ちゃん?」
  振り向く友。
  ブラックアウト。
  ×      ×      ×
  水の流れる音。
  湯船の栓を抜く、スーの手のカット。

〇とある高層ビル・地下
鏡夜「何万年もの進化の果てに、僕たちの社会は〝喪失〟から解放されたんだ」
  見れば、鏡夜が紙飛行機を飛ばしている。
  そこには、琉唯空と鳥井の他に、鏡夜の姿もある。
琉唯空「彼は?」
鳥井「鏡夜くんよ」
鏡夜「福元鏡夜。鏡夜くんと呼んでくれ」
  紙飛行機が、バスタブの上を飛んでいく。
  いつのまにかバスタブにはお湯が張っており、浴槽にはアヒルの人形が浮いている。
鏡夜の声「僕が君を選んだんだ。君は、選ばれた商品なのさ」
琉唯空「商品?」
鳥井「ええ、そう。(琉唯空の肩に手を置き)あなたは、選ばれた商品」
鏡夜「(急に芝居口調で)おお! 少しでも可能性を! さもないと私は、窒息してしまう!」
琉唯空「!?」
鳥井「あなたは夢を与えられたのよ。これから充実した生産的な人生が、あなたを待ってるわ」
琉唯空「……」
  床に落ちる紙飛行機。
鳥井の声「そして選ばれたあなたは、選ばれなかった者たちの、心の穴を埋めなければならないの」

〇スーの家・一室
  部屋の中央で、回し車を走り続けるハムスター。
鳥井の声「自らを〝被害者〟と規定する者たちのために、回り続けなければならないの!」
  エンジン音。

  走るバスのタイヤのアップ。(オーバーラップ)
〇深夜、公道
  スクールバスが走っている。

〇とある高層ビル・地下
鏡夜「おお! 愛だ! 愛で世界は回っているのだ!」

〇バスの中
  パネルの記号は、すべて常に「06:66」を示している。
  一番後ろの席に、スーと、新品のように綺麗な制服を着ている友がいる(スーはメガネをかけていない、客は二人だけである)。
  スッキリしたような友の表情。
友「(明るめに)結局さ、みんなが死ねばいいんじゃないかな?」
  少し驚くスーの表情。
スー「できるならそれもいいかもね。でも、できないでしょ? だから平和に管理されるのが一番なのよ」
友「うーん、そっかぁ……。うん、そうかもね。管理されるのは悪いことばかりじゃないもんね。きっと、こんな世界に生まれてきた時点で、みんな負け組なんだろうね」
スー「(ふふっ)これからもいい子でいてくれたら、また、してあげてもいいわよ」
友「(思わず)ホント!?」
スー「管理されるのは、悪いことばかりじゃないでしょ」
  少し赤くなる友の表情。
スー「(独り言を言うように)残念だけど、もう、子供が生まれてくるのが素晴らしいことだって、無条件で信じられるような社会じゃないからね」
友「それは悲しいことだね」
  すると突然、バスが減速を始める。
  何だろうという顔を浮かべ、窓外を覗きに行く友。
  外では雨が降り始めたようだ。
  次第にこわばるスーの表情。
  少し先に見える屋根付きの停留所には、巨大な白い馬のぬいぐるみの姿が見える。
  さらによく見ると、その傍らには、学ランを着たサンが、ビニール袋を持って佇んでいる(学ランの傷は直っている)。
  ×      ×      ×
  停車するバス。
  扉が開くと、サンが馬のぬいぐるみと共にバスの中に入ってくる。
  ×      ×      ×
  扉が閉じて、再び走り出すバス。

〇とある高層ビル・地下
  ネコ耳のカチューシャを付けた琉唯空を、スポットライトが照らす。
琉唯空「(芝居口調で)気を落とすことはございませんよ、ご主人様。僕に袋をひとつください。それから藪の中を歩いて行けるような長靴を一足作って下されば、それでいいんです。そうすりゃ、ご主人様の分け前も、思ったほど悪くないってことが、お分かりになりますニャ」


【Cパート END】
[文字数:6607、四百字詰め換算:24枚19行]


【Dパート】

〇バスの中
  一番後ろの席に、スー、友、サン、馬が(この並びで)座っている。
  スーは窓外を見ている。
スー「(独り言を言うように)どうしてここがわかったわけ?」
  サン、スーを一瞥して、
サン「匂いだよ」
  サン、ビニール袋から食べ物Aを取り出す。
サン「おいしそうな匂いに誘われたのさ」
  サン、食べ物Aを一口食べる。
スー「(辛辣に)くっさ」

〇公道
  雨の中を猛スピードで走るバス。
サンの声「あげる」

  サンの歯形が残る食べ物Aのアップ。
〇バスの中
  どうやら友は、サンから食べ物Aをわたされたようである。
友「……」
サン「さぁ食べて。それはとてもおいしいよ」
スー「食べかけをわたすとか、どんだけ非常識なのよ。(友に)だいたい、さっきまで美味しいおまんま頂いてたんだから、そんなのいらないわよね?」
友「(少し赤くなる)」
サン「それはボクのお気に入りなんだ。ボクたちは似た者同士だから、きっとキミも気に入ると思うよ」
スー「どうしてあんたに、そんなことわかるのよ?」
サン「風格を見ればわかるさ」
スー「(辛辣に)風格て」
  見つめ合う友とサン。
  友、サンの視線に負けるように、つい食べ始める。
友「……あっ、ホントだ。おいしい」
サン「(微笑みながら)だろ?」
  不機嫌になるスーの表情。
サン「もし気に入ってくれたなら、今度は、いつかキミが誰かに、それを紹介してあげてほしいな。なにせ、良いものは良いと実際に口に出して広めていかないと、すぐに忘れられてしまう世の中だからね」
友「(むしゃむしゃ)」
  ×      ×      ×
  雨の中を猛スピードで走るバス。
サンの声「キミたちは、どういった過程で、その食べ物が店頭に並んでいるのか想像できるかい?」
  ×      ×      ×
友「そういえばいつからか、そういったことを考えなくなっていたような……」
スー「いいのよ、そんなこと考えなくて。実際私たちは、それで困ってないでしょ?」
  食べ物Aに視線を落とす友。
サン「ボクたちの社会が歩んでいる道は、どこか間違っているとは思わないかい?」
スー「だから思わないわよ」
サン「少なくともボクは、毎年何百という子供たちが自ら命を絶っているような社会は、まともな社会とは思えないよ」
友「……」
  サンの奥から、馬がこちら(スー)を見ている。
スー「てか、(馬を示して)そいつはなんなのよ?」
サン「ん?」
スー「その馬よ」
サン「あぁ、かわいいだろ? (馬を撫でながら)この子はボクにとって大切な友人であり、頼れる相棒であり、あるいは神様であり、精霊であり、でもやっぱり単なるぬいぐるみ、オモチャであり、でもって本当のところは、そのいずれでもない。そういう存在さ」
スー「あいかわらず意味わかんないわねぇ……(馬をじっくり見るように)ま、でも確かに、楽しめそうなオモチャではありそうね。意外とかわいいし」
サン「(嬉しそうに)そうだろう、かわいいだろう! うんうん、ボクたちは、意外と馬が合うのかもしれないね。そうだ! よかったら、この子はキミにあげよう!」
スー「は?」
サン「なぁに心配はいらない。ボクにはこの子もいるからね」
  と言って、サンはその場に、巨大な牛のぬいぐるみを出現させる。
友「(唖然)」
スー「白馬の代わりがそれでいいわけ?」
サン「馬も千里、牛も千里さ。この牛は、虹だって渡れるんだぜ」

〇扉の中の不思議空間・調理場
  そこでは鏡夜が、貝とキノコのスープ(ホワイトシチュー?)を作っている。
鏡夜「(料理をしながら)知ってるかい? いくらこの世界を信じてみても、世界が君に応えてくれることはないんだ。なぜなら世界とは、僕のことだからさ。そして僕は、決して君のことを選ばない」

〇深夜、道路
  雨の中を猛スピードで走るバスは、長い長いトンネルに入っていく。
サンの声「ボクは普段、アルバイトをしながら色々な街を行ったり来たりしているんだ」

〇バスの中
  一番後ろの席に、馬、スー、友、サン、牛が(この並びで)座っている。
スー「バッカみたい。今時放浪なんかハヤらないわよ!」
サン「何かになれるのは、バカだけだよ」
  スー、馬に触れながら、
スー「てかあんたさ、こんなとこにいていいわけ? あんたが夕方戦ってたやつら、他にもまだいっぱい外にいるんでしょ?」
サン「(少し驚いたように)それなりに興味深い質問だね。キミはそのポジションにいながら、ボクのような魔法使いに興味があるのかい?」
スー「(チッ)うっさいわねぇ」
サン「実を言うと、いま外にいるやつらを倒すのは、ボクの役割じゃないんだ。というか、ボクの当面の目的は、そいつらを倒すことですらないんだよ」
  サン、友を見る。
サン「日外友くん、昨晩、不破琉唯空くんは、この街に残ることを選択した」
友「えっ」
  ×      ×      ×
  インサート、とある高層ビル・地下。
  そこでは、鳥井が琉唯空に、様々な衣装を着させて遊んでいる。
友の声「琉唯空が、この街に……?」
サンの声「キミは、どうする?」
スーの声「(ふふっ)あんたも一足来るのが遅かったわね。この子はこの街での生活に満足してるのよ」
  インサート終了。
  ×      ×      ×
スー「(友に同意を求めるように)ね?」
サン「ボクのようなやからが、魔法使いの実態なんだ。魔法使いなんて、案外簡単になれるとは思わないかい?」
スー「何が魔法使いよ、バカバカしい」
サン「キミは命を絶とうとしたとき、声を聴いたんじゃないかい?」
友「どうしてそれを!?」
サン「わかるとも。なぜならボクも、あの懐かしさを感じるような声を聴いた仲間だからね」
友「!?」
  ×      ×      ×
  インサート、数日前、深夜、友の家のベランダ。
  友、手すりに手を置き、うつむいている。
友「(ため息)」
  すると――
謎の女性の声「待って」
友「!?」
謎の女性の声「私はあなたを、待ってるよ」
友「誰……!?」
  友、振り向くと――
  誰もいない。
謎の女性の声「こっちだよ」
  友、咄嗟に空を見上げると――
  驚く友の表情。
  そこには、眩い星空がいちめんに広がっている。
サンの声「もし、若々しい言い方が許して貰えるなら、キミはその当時、宇宙を知っていたんだよ」
  インサート終了。
  ×      ×      ×
  友の目から涙が流れる。
友「あれ? どうして……」
サン「ボクたちは、呪われて生まれて来たわけじゃない。ただ、誰もがいつでも呪われうるだけだ。そして同じように、誰もがいつでも魔法使いになれるんだ。ボクたちが使う魔法の本質とはね、魔法使いとの出会いそのもののことなんだ。ボクたちが出会ったこの宇宙を、どうか信じてほしい」
友「……」
サンの声「キミは、そのままのキミに成る必要がある!」
  ×      ×      ×
  ガタガタガタと強風で窓が鳴る音。
  インサート、友の心の中?、とある一軒家のリビング。
  窓の外では雪がふぶいている。
琉唯空の声「あはははは!」
  見れば、コタツに入った琉唯空が、TVを見ながら笑っている。
  さらによく見れば、コタツに入っているのは、寝ている鳥井と、同じくTVを見ているスーと、外を見ている友を含めた四人である。
  そして、コタツの上には、「アルミ缶」と書かれたアルミ缶の上にみかんが置かれたものが四人分置いてある。
  じっと外を見つめている友。
  友の小指には赤い糸が結ばれており、どうやらその糸は、コタツの中へと続いているらしい。
  すると――
  ピンポーンとインターホンが鳴る。
スー「誰かしら、こんな吹雪の日に」
  エプロン姿のスーが立ち上がり、リビングに付けられたモニターを確認する。
  そこには、リンゴが入ったカゴを持ったサンの姿がある。
  サンは、マッチ売りの少女風の装いをしている。
スー「はい?」
モニターに映るサン「リンゴ売りです」
スー「リンゴ売り?」
サン「ええ。リンゴ、いかがですか?」
  真っ赤なリンゴのアップ。
サンの声「隣国のリンゴです」
  スー、コタツの方を見ると、ちょうど琉唯空が、みかんの皮をむいて食べようとしているところである。
スー「いえ、うちは結構です」
サン「……そうですか」
  窓の外を見つめる友。
  サン、家を後にしながら、
サン「毎日♪ 吹雪♪ 吹雪♪ 吹雪♪ 吹雪♪ 吹雪♪」
  ×      ×      ×
スー「あー寒い寒い」
  と言って、スーがコタツに入ると、突然、友が立ち上がる。
スー「どうしたの?」
友「雪がやんだみたい」
スー「……何言ってるの?」
  窓の外では雪がふぶいている。
スー「ほら、寒いからコタツ入ってなさい。今、みかんむいてあげるから」
  と言って、スーがみかんを手に取る。
  すると、ザッと音がして、友の着ていた衣服が、すべて床に落ちる(赤い糸も一緒に落ちる)。
  見れば、友は、まわし一丁の恰好である。
スー「(焦りながら)ちょっと、何やってるの!?」
鳥井「(寝言のように)ハッケヨイ!」
  よく見れば、彼らがいた部屋は、実はスタジオ内のセットだったようで、吹雪も作り物だったことが判明する。
琉唯空「俺は行かないぞ」
  みかんを食べ続ける琉唯空。
友「うん」
鳥井「(はっきりと)ノコッタ!」
  鳥井の言葉と同時に、友をスポットライトが照らす。
  セットの外へと歩き始める友。
  友のお尻のアップ。
  真っ赤なリンゴのアップ。
  友は、いつのまにかリンゴを持っている。
友「行ってきます」
  スーの悲しげな表情。
  琉唯空の悲しげな表情。
  いつのまにか起き上がっている鳥井が琉唯空に、
鳥井「心配ないわ。あなたはそのままでいいのよ」
琉唯空「……」
  ×      ×      ×
  マット上で琉唯空の足首をつかむ友。(回想)
  じゃれるような反応を見せる琉唯空。(回想)
  ポツンと空いた空席。(回想)
  ×      ×      ×
  友、ガチャッとドアを開け、スタジオから出ていこうとする。
  ドアの向こうには、光が広がっている。
  友、決意の表情。
  インサート終了。
  ×      ×      ×
  友の決意の表情。
  すると、友の身体(胸のあたり?)が輝き始め――
スー「そんな、バカな……!」

〇道路
  バスがトンネルを抜けると、雨がやんでいる。
  おりしも夜明けの時刻で、陽が差してくる。
  すると突然、バスで爆発が起こり、なかから煙と共に〝何か〟が頭上に舞い上がる。
  見れば、キュートな魔法少女風の衣装を着た友が、空中で浮いている。
  その手には、ステッキのような武器を携えている。

〇バスの中
  スーは立ち上がり、穴の空いたバスの中から空を見上げている(バスは止まっている)。
  唖然としたスーの表情。
  サンは全く動じていなかったようで、座席に座ったままだ。
サン「キミなら、きっと飛べると信じていたよ、友!」
  よく見れば、バスの中にあるパネルの記号が、すべて「66:66」になっている。

〇空中
  友の周りに、夥しいほど大量の敵が集まっている。
友「(力が入る)」
  友、向かってくる敵に対して、ステッキで応戦する。
友「ハァッ!」

〇バスの中
スー「なによ、あの恰好……女になりたかったの!?」
サン「いや、そういうことじゃないと思う。友のイメージする、友の好きなヒーローが、ああいう恰好をしていたんじゃないかな」
  穴の開いた屋根から見える空。
  バスの中へ零れる水滴。
サン「ま、ボクの解釈でしかないけどね」
スー「(少し笑いながら)ホント、非常識な存在ね……」
サン「何だか嬉しそうじゃないか」
スー「呆れてるのよ」

〇空中
友「クッ!」
  友、飛んでくる敵の攻撃に押されているのか、次第に衣装につく傷の数が増えていく。
  すると突然、空に〝裂け目〟が出現する。
友「!?」
  裂け目の中には、何人かの人影が見える(魔法使いAとBや、その他数名の老若男女の魔法使いの姿がある)。
魔法使いA「加勢するわ、新人魔法使いさん!」

〇バスの中
スー「(チッ)」
  スー、ポケット(あるいは別のどこか)からメガネを取り出し、それをかける。
  画面では、友と魔法使いたちが大量の敵と戦っている様子が流れている。楽しそうにステッキから光を放つ友。それぞれ独自の武器を使って、迫ってくる敵の攻撃を慣れた様子で巧みにかわしながら応戦する魔法使いたち。(武器は友も含め、スポンサーに関係のあるもの?)
スーの声「あんたさ、魔法協会をどう思ってるわけ? あの宗教くさい協会が、実は裏で悪魔と繋がって猿芝居を打ってること、知ってるんでしょ?」
サンの声「完璧な魔法使いが存在しないように、完璧な組織だって存在しないだろうさ。ただ、魔法協会は貴重な場所だと思うよ。何かを志したとき、似たような目的を持った者同士が、ある程度気軽に集まれる。そんな場所があるということは、とても大事なことじゃないかな」
  ×      ×      ×
スー「でも、結局最後は悪魔に吸収されるだけでしょ!?」
サン「キミたちの立場から〝そう見える〟ってことは理解しているつもりだし、実際、ボクだってある意味では商品みたいなもんさ。キミたちとやってることは、そんなに変わらないと思う」
スー「……」
サン「ただボクらは、キミたちとは宇宙の見え方が、少し違うのさ」

〇扉の中の不思議空間・一室
鏡夜「やれやれ、どうして奴らは、文字だけでできた存在に憧れないのかな」
  鏡夜、両手を地面にあてると、その地面が輝きだす。

〇バス付近の森の中
  地面の一部が輝きだすと、そこから巨大な一筋の光が延びていく。

〇空中
  魔法使いBの攻撃(ミサイル?)が敵に着弾して、爆発が起こっている。
魔法使いB「灰色の労働を燃やせ!」
  すると――
  地面が揺れ出し、辺りを気にする魔法使いたち。
魔法使いC「……何!?」

〇バス付近の森の中
  突如、地面が割れ、光が地表の世界に表出すると、なんと光の中から現れたのは、超巨大な蛇(龍?)である。
  その蛇の目のアップ。

〇空中
  突如出現した蛇に驚く魔法使いたち。
  すると――
友「あいつはオレが倒します!」
  と言って、蛇に向かって急スピードで飛んでいく友(疾走!)。
  それぞれ戦い続ける魔法使いたち。
魔法使いA「ちょっとサン、あんたも手伝いなさいよ!」
魔法使いB「教えるってのは、説明することじゃなくて、一緒に訓練することだろ!」

〇バスの中
スー「(心配そうな表情)」
サン「そろそろフィナーレだね」

〇カラオケ店・一室
  「スポンサー曲」を歌い始める鳥井。
  (以下、戦闘シーンのバックで曲が流れている?)

〇空中
  蛇は最初から友を狙っているようで、向かってくる友に対して、炎のようなものを口撃してくる。
  友、まるで未来が見えているかのような動きで、見事にそれをかわしていく。
  ×      ×      ×
鏡夜「逃がさないよ!」
  ×      ×      ×
  友、蛇と向かい合うと、
友「ハァァァァァ!」
  ×      ×      ×
鏡夜「呑み込め!」
  ×      ×      ×
  友を呑み込もうとする蛇。
  友の身体が再び輝き始め――
  見れば、友はウェディングドレス姿(下は半ズボン)に変身している。
  そして――
友「(必殺技を叫ぶように)エラン・ダムール!」
  と叫ぶと、ステッキから眩い光が放たれる。
  それを受け、あっさり消失していく蛇。
  ×      ×      ×
  苦しそうな鏡夜、全身の〝外皮〟をぼろぼろ落としながら、
鏡夜「強いね、日外友くん……。でも、すべての価値は、すでに創られているんだよ」
  見れば、鏡夜の顔が、園田大勢になっている。
  ×      ×      ×
  朝日に照らされ、神々しく輝く友。
  その満足そうな表情。
  早朝の眩しい青空のアップ(友の気持ちを逃がす気分)。
  先程まで蛇がいた空間には、虹がかかっている。
友の声「やったよ、琉唯空……」

〇とある高層ビル・応接室
  琉唯空、両手の指で四角のフレームをつくり、片目を閉じて虹を見つめている。
琉唯空「お前には、制服が似合ってたよ」

〇バスの中
スー「あの子はダジャレを叫ばないのね」
  サン、立ち上がる。
サン「ボクらの仲間は、向こうの世界で待っている。(カメラ目線で)キミも、ボクらの仲間にならないかい?」
スー「なるわけないでしょ」
サン「それは残念」
  サン、牛のぬいぐるみにまたがると、虹の上を渡りながら裂け目に向かって飛んでいく(モーモー)。
  それを見送るスー。

〇空中・裂け目付近
友「(飛んでくるサンに)榎戸サン、ありがとう! 僕はもう、大丈夫です!」
  微笑むサンの表情。
スー「(バスの中から大声で)そんな恰好で出て行っても、笑われるだけよ! 戻ってきなさい! 琉唯空くんの前から消えることになるのよ!」
友「ありがとう、お姉ちゃん! でもいいんだ! 僕は、榎戸サンたちと戦うよ! 未来の自分のために!」(大声が不自然すぎるようなら、二人にメガホンを持たせる?)
サン「本当にいいのかい?」
友「うん。僕は琉唯空に救われていたんだ。だから今度は僕が……(スーに)いつか必ず迎えに来るから! じゃあね、お姉ちゃん!」
  裂け目に入っていく友と魔法使いたち。
  すると、巨大なカーテンが裂け目にかけられていき、空はたちまち通常の空へと戻っていく。
  ×      ×      ×
  静寂を取り戻す街。
スー「次戻ってきたら、今度こそ、あなたの心に鍵をかけてみせるわ」
  スー、不敵な笑みを浮かべる。
  ブラックアウト。
  放課後のチャイムが鳴る。

〇夕方、灰鳥栖学園・校庭
  校庭の片隅に植えられた二本の木のうちの一本が切られている。
サンの声「この世界に人間は存在しない」

〇同校・校長室
  机に座っている校長と思われる男が、立ち上がりながらタブレットをスーに差し出す。
サンの声「ボクたちの祖先である悪魔が、すべての人間を駆逐したからだ」
  スー、あくびのポーズをしながらタブレットを受け取る。
  タブレットには、少年の顔が映っている。
サンの声「人間はかしこかった」
  不敵な笑みを浮かべるスー。
サンの声「だから彼らは、抵抗を示さなかった」

〇同時刻、市街地
  巨大な街頭モニターでは、「ワンダフルフルーツポンチゼリー」のCMが流れている。
サンの声「彼らは最初から、悪魔の到来を望んでいたのだ」
  CM映像には、なんとアイドル衣装を着た琉唯空の姿がある。
サンの声「彼らは最初から、負けることを望んでいたのだ」

〇同時刻、友の家のベランダ
  人面怪鳥(鳥井)が、ベランダにいた友の母親にかぶりつく。
サンの声「誰もが、悪魔の支配する幸せな世界に歓喜するはずだった」
鳥井「(母親を吞み込み)そう、みんな堕天使ね♪」

〇同時刻、スーの家
  カーテンの隙間から、陽の光が入り込んでいる。
  机の上には、食べ物Aが置かれている。
サンの声「だけど、この世界にはボクらがいる」
  広い部屋の中央には、白い馬のぬいぐるみがある。
  その馬のアップ。
サンの声「魔法使いだ」


【Dパート END】
[文字数:7203、四百字詰め換算:28枚01行]

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