ルンビニの子 ファンタジー

映画監督を目指していた戸田憂樹は今はスーパーの惣菜部で働いている。惣菜部にはライとサンティというネパールの女の子2人が働いている。憂樹はライと同棲する夢を見る。さらに夢の中で憂樹は交通事故を起こし一命を取りとめる。ライは何も怪我をせずにすんだのは、かつてネパールで一度だけ見た光り輝く塔が関係していると言う。そしてその塔の力で怪我をせずにすんだのだとライは夢の中で伝えるのだった。 夢から醒めた憂樹はライにその夢の話をする。ライはかつて本当に光り輝く塔を見た事があると不思議がった。 数日後、憂樹は本当に事
若林宏明 20 0 0 01/22
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第一稿

1

ネパール。
サンティが庭で洗濯物を洗っている。

サンティ 信じないかも。
祖母 サンティや、サンティ
サンティ おばあちゃん、ちょっと待って
祖母 起き上が ...続きを読む
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1

ネパール。
サンティが庭で洗濯物を洗っている。

サンティ 信じないかも。
祖母 サンティや、サンティ
サンティ おばあちゃん、ちょっと待って
祖母 起き上がれないの、取って、ねえ。
サンティ 少しだけだから
祖母 お小遣いあげてるっていうのに
サンティ もう! ちょっと待ってよね

サンティ、祖母のいる家から離れる。

サンティ 私、みたの、特別な事なの。
祖母 (遠くから)サンティや

サンティ、肩をすくめる。

サンティ まず初めにね、匂いがしたの、これまで嗅いだ事のない、いい香り。

美しい花盛り。
ゆっくり暗転。
年老いたサンティの声がする。

サンティ ライや、ライ、ちょっと起こしておくれ

ライ、外で洗濯物を干している。

ライ サンティおばあちゃん今行く! 待って
サンティ ライや、早く来ておくれ
ライ  もう! すぐだから
サンティ 大変なこと、窓を窓を。起き上がってちゃんと見たいの
ライ 人づかい荒いんだから
サンティ ライやライ、どこにいるの?
ライ もう

ライ、振り返ると洗い物を地面に落とす。
遠くに塔が見える。
光り輝く塔である。

ライ 何なの……
サンティ あの時と同じ、匂い…

ライ、塔に見惚れてその場を動けない。

ライ なんて美しいの、それになんていい香り

塔の中に男の姿。

ライ サンティおばあちゃん、おばあちゃん!

ライ、家の中に駆け込む。
暗転。

2

アパートの一室。
ライは夕食の支度をしている。
憂樹(ゆうき)が帰って来る。

憂樹 すごい匂いだね。
ライ お帰りなさい。
憂樹 腹減った。
ライ カレーです、ネパールの味。
憂樹 香辛料…スパイスはあったの?
ライ 友だちくれました。
憂樹 ゾイちゃん?
ライ そうゾイちゃんです。
憂樹 今日はどうだった?
ライ いつものです。今日はハルマキ?つくりました。
憂樹 へえ、ハルマキいいね、スーパーの揚げハルマキ最近食べてないな。
ライ あとはいつものコロッケ、とんかつ、それから洗い物しました。
ライ 憂樹さん今日はどうでした?
憂樹 今日は面接うけて、その帰りに久しぶりに大学の友だちに会ったよ。
ライ ダイガ?
憂樹 カレッジ、カレッジの友だち。
ライ へえ、男? 女?
憂樹 男だよ、もちろん。
ライ できました。先シャワー浴びますか?
憂樹 腹減ったし、先食うよ。
ライ じゃあ、ビール出しますね。
憂樹 ありがとう。

冷蔵庫からビールをだして机に置く。
カレーをよそる。
座って夕食を食べはじめる二人。

ライ 面接どうでした?
憂樹 どうかな? わからない
ライ 大変ですね、がんばってください
憂樹 ありがとう。
ライ 友だちはどうでした?
憂樹 いや、友だち原っていうんだけど。
ライ ハラ?
憂樹 そう、原蓮って名前。蓮のやつさ、小説家になっていたんだよ。ああ、ノベル、ライターになっていたんだ。この間、SNSでたまたま見つけて、懐かしくなって連絡してみたんだ。
ライ 憂樹さんのカレッジはアートスクールですか
憂樹 まあ、そんな感じかな、文学部。蓮は小説家志望でオレは映画監督になりたかったんだ。フィルムディレクター。
ライ 凄い、憂樹さん、それで映画好きなんですね。友だちライターなったのに憂樹さんは何故ならない?
憂樹 いや、なりたかったよ、でも、気づいたらなれなくて。蓮が学生時代に小説を公募した時にオレもシナリオを書いてコンクールにだした。
ライ 日本語わかりません。
憂樹 あいつは一次にも通らなかった。オレは一次は通っただけど結局はだめで。
ライ イチジ?
憂樹 あいつは自分を通してプロになった。
ライ プロ?
憂樹 そう。プロのライター。
ライ 憂樹さんもがんばって、今は仕事探しているけど絶対見つかる。仕事してライにいっぱいプレゼントする。
憂樹 そうだな。そうするよ。

パソコンで作業をする憂樹。
シナリオを書いている。
蓮が闇から現れる。

蓮  逃げたな。
憂樹 これといって書きたいものもないし。
蓮  嘘だ。
憂樹 バイト先のスーパーでライに出会った。
蓮  ……
憂樹 ある程度の給与のもらえる仕事についてライと楽しく暮らす。その合間に映画のシナリオでも書けたらいい。
蓮  シナリオなど書けない。そんな生活の中ではな。お前はこんな生活よりも、自分が納得するシナリオを書いて自分で映画化したいんだ。

憂樹、ライの寝顔を見る。
蓮、闇に消えると衣を着た者が出て来る。
その者は片手をあげると姿を消す。
ライが起きる。

ライ 憂樹さんどうした?
憂樹 ……
ライ もう遅い。シナリオやめたら? 明日は仕事面接でしょう?
憂樹 面接なんていいんだ。仕事はこのシナリオだよ。映画を作るのがオレの仕事なんだよ。

雨が降り出す。
大雨。
車を飛ばす音。
スリップ音。
車が横転する音。
サイレン。
アパートのままだが病院の待合室である。
何事もなく椅子に座る憂樹。
ライが駆け込む。

ライ 憂樹さん!
憂樹 こっち。
ライ 大丈夫?
憂樹 肘を擦りむいただけ
ライ ヒジ?
憂樹 ここ
ライ 頭は?
憂樹 大丈夫
ライ 肩は?
憂樹 大丈夫

スクリーンに破損した車。

ライ 写真の車、凄かった。びっくりした。
憂樹 うん、でも、オレは何でもない、まだ医者に見てもらってないけど。

看護師、登場。

看護師 戸田さん。戸田憂樹さん。
憂樹  はい。

スリップ音、衝撃。

憂樹 はじめにスリップした、そこから先は何をやっても無駄だった、車は勝手に進んでいった。気づくと口と鼻が痛かった。鼻血を出していないか口から血が出ていないか、何度もぬぐった。後から思えばエアバックが口に当たった痛みだったのだ。

ライ 何もなくて良かった。ライ安心した。
憂樹 車は廃車だけど。
ライ ハイシャ?
憂樹 車もうダメ。
ライ 体が一番大事、助かってありがたい。
憂樹 そうだね。
ライ そうだよ。守られた。
憂樹 神さま?
ライ うーん。
憂樹 違うの?
ライ ライとスーパーのデリカ出会ってよかった
憂樹 ライが神さまってこと?
ライ 違う違う、ライ普通の人間
憂樹 やっぱ神さまかな
ライ ネパール神さまいっぱいいる。シュウキョウ?も色々。
憂樹 オレもわからないけど、なんかこう、神さまに守られたのには違いないな
ライ ライとサンティおばあちゃん見た。
憂樹 サンティ?
ライ ライのおばあちゃん、サンティって名前。二人とも見た。
憂樹 ん? 神さま?
ライ ううん

舞台奥で光が点滅する。

憂樹 じゃあ何かな?
ライ う〜ん トウ?
憂樹 とう?
ライ トウ、英語だとタワー?
憂樹 あ、塔ね。東京タワー。
ライ そうです。
憂樹 塔があったの? それと神さまに守られるのと何の関係があるの?
ライ まず初めに香りがしたの。
憂樹 香り? 何の話?
ライ 私が洗濯物干していたら、お家の後ろに塔があらわれたの。
憂樹 それは何? ネパールの話?
ライ そうです。塔を見た。洗濯物干していたらうちの向こうに塔が見えた。光り輝く塔。
憂樹 なんて言う塔なの?
ライ 塔が見える前からいい香りがした。花のような香りだった。
憂樹 有名な塔なの? お寺か何かの塔?
ライ オテラ?
憂樹 うーん、テンプル? テンプルのタワー?
ライ テンプルじゃないです。うちの近くにはテンプルありません。
憂樹 へえ、じゃあ観光とかのシンボルのタワーか何か? ネパールにそんなタワーあったかなあ
ライ ずっとないです。
憂樹 うん?
ライ その時だけ見ました。
憂樹 塔を? 光り輝いている。
ライ そうキラキラ。わたしのおばあちゃん、サンティも昔、見たと言ってました。
憂樹 塔を?
ライ はい、そうです。
憂樹 ライのおばあちゃんのサンティも若い頃にその塔を見たと。
ライ はい。私、キケンな事起こったとき何度か助かりました。私に力があるんじゃなくて塔に力があるんです。
憂樹 塔を見た事があるライとオレは一緒に暮らしているから、事故にあっても大した怪我をしなかったと。
ライ そうです。そうなります。
憂樹 はじめて聞いた話だね。
ライ 話す機会なかった。
憂樹 その塔、タワー見てみたいな。
ライ ネパール行っても見れるかどうか。
憂樹 ライの想像なの?
ライ ソウゾウ?
憂樹 うん、イメージ、イマジン。
ライ イメージじゃないです。リアルです。イリュージョンじゃありません。
憂樹 でもリアルにいつも見えるものじゃない。
ライ はい、そうです。私とサンティおばあちゃん、一回だけ見た。おばあちゃんと話をしたら同じ塔だった。おばあちゃんは歳でベッドから動けないけど、私が見た時に車椅子で見える場所まで連れて行けばよかった。おばあちゃんはベッドを起こしてって盛んに言ってた。たぶん塔のいい匂いに気づいていたんだ。

ライを見つめる憂樹。

憂樹 ライ珍しくよく喋るね。
ライ そうですか。
憂樹 サンティおばあちゃんは今、どうしてるの? ネパールにいるの?
ライ はい、います。
憂樹 じゃあライが塔見たのはそんなに前じゃないね
ライ はい、14歳ぐらいです。チュウガクセイです。
憂樹 へえ、サンティおばあちゃんは今いくつ?
ライ 去年、100になりました。
憂樹 100!
ライ ネパール、みんな長生きしない、けれどサンティおばあちゃんは100です。もうあと二ヶ月で101です。
憂樹 それは凄いや、そのキラキラ光塔を見たからかもね。
ライ あれは何であらわれたのか、その時、一度だけ。サンティおばあちゃんのを入れたら二回だけど。
憂樹 すぐに跡形もなく消えてしまったんだろう。
ライ すぐ消えました。匂いもなくなりました。
憂樹 ニュースにはならなかったの?
ライ はい、何も、友だちも見た人いません。
憂樹 UFOみたいだね
ライ UFOではありません。タワーです。
憂樹 金色なの? 金、ゴールド?
ライ うーん、色わかりません。

低いうねりのような音。
車のスリップ音。

ライ 私、そのタワーを見た時に日本に行こうと思った。
憂樹 急に思ったの?
ライ ネパール出て日本で仕事すると思いました。というより、その時にそう頭に急に浮かびました。タワーのメッセージだったのかもしれません。
憂樹 何のメッセージなんだろう。
ライ わかりません。日本行ったらいいよってことなのかもしれません。

低いうねるような音。
暗闇に光が当たると、舞台に背を向けてあぐらを組んだ男たちが数人あらわれる。
そして、遠くに塔の灯りが見える。
鐘が鳴り、荘厳な音楽。
巨大な塔の一部が現れる。

憂樹 日本は神社やお寺…テンプル、あとは海外のとかいろんな信仰がありからね。
ライ 神社?
憂樹 うーん、あるんだそういうのが。
ライ ネパールもいっぱい、生きた神さまもいます。女の子です。
憂樹 へえ、信じてるの?
ライ 信じている人います。私信じてません。

ライ、憂樹に近づき顔や体を触る。

ライ 何もケガしてない、凄いです。
憂樹 そうだね。
ライ 憂樹さん、よかった。
憂樹 ありがとう。
ライ これからを大切に。
憂樹 うん? これから?
ライ はい、大切にしていって下さい。
憂樹 何?
ライ いい映画つくりましたね。
憂樹 映画?
ライ 憂樹さんはその道を進んでいけばいいんです。
憂樹 どうしたのライ? 何を言ってるのかわからない。
ライ 安心して。

ライ、うしろを指差す。

憂樹 何?

憂樹が振り返るとライ、消えている。
ライを探す憂樹。

憂樹 ライ? どこ?

ライを探していると、塔が現れる。
塔に気づく憂樹。
暗転。
急、ブレーキ。
破壊音。

3

スーパー惣菜部、作業場。
作業場に入る憂樹。
フライヤーの用意をしている菅田。
とんかつを揚げる菅田。

憂樹 おはようございます。
菅田 おはようございます。

憂樹、オーブン、餃子焼き機、蒸し器の電源を入れる。
憂樹、一度舞台袖へ、段ボールを何箱か重ねて持ってくる。
箱から焼きそばの冷凍麺を出して蒸し器に突っ込む。
タイマーをセットする。
箱から餃子を出す。
計量カップに水を汲む。
餃子焼き機に油をひいて冷凍餃子をのせて計量カップの水をかけて蓋をする。
鉄板を出し冷凍焼き鳥を乗せる。
その間、菅田はコロッケなどをフライヤーに入れる。
憂樹、タレを塗った焼き鳥の鉄板をオーブンに入れる。
ライ、出勤する。
ライ、冷凍鯖の入った袋を持って入ってくる。
続いて、ゾイも出勤する。

ライ おはようございます。
ゾイ おはようございます。

憂樹、菅田、それぞれ挨拶を返す。
ライ、大鍋に鯖を入れ火をつけタイマーを押す。
菅田、バットにとんかつを入れる。
ゾイ、まな板と包丁を取りにゆく。
ゾイ、とんかつを包丁でカットしトレイにつめる。
憂樹、カツ丼の仕込みを始める。
餃子焼き機のブザーがなる。
憂樹のセットした餃子の作業をライが引き継ぐ。
ライ、ラー油をかけて、しばらくおくとコテで餃子を剥がしとる。
菅田、どんどん揚げ物をバットに入れる。
ゾイ、揚げ物を詰め始める。
憂樹、カツ丼の仕込み中、ライを見る。
ライ、憂樹の視線には気づかない。
ゾイ、詰めたトレイを大きなお盆にのせる。
お盆を台車に詰め込んで行く。
菅田、台車にお盆の商品がある程度積み込まれるとフライヤーから離れて値付け機械で値札を貼り始める。
ゾイ、菅田の代わりにフライを始める。
憂樹、ライを見つめる。
ライ、憂樹の視線には気づかない。

憂樹 ライちゃん。
ライ はい。
憂樹 あのう……

ライは憂樹を見ずに作業を続ける。
ライ、手を止めて、

ライ なんですか?
憂樹 ……

憂樹、餃子を見て、

憂樹 もう少し焼いた方がいいかな。
ライ すいません。
憂樹 焼き目、白いから、もう一度鉄板にのせてタイマーで1分で鳴ったら取り出して。
ライ はい。

ライ、言われた通りにする。
憂樹、ライを見ている。
ライ、視線に気づいていない。

荷物便の音が流れる。
ゾイ、手を止めて行こうとする。

憂樹 ゾイちゃんいいよ、荷物オレが行くから。

暗転。

4

作業場。
作業場に入る憂樹。
フライヤーの用意をしている菅田。
とんかつを揚げる菅田。

憂樹 おはようございます。
菅田 おはようございます。

憂樹、オーブン、餃子焼き機、蒸し器の電源を入れる。
憂樹、一度舞台袖へ、段ボールを何箱か重ねて持ってくる。
箱から焼きそばの冷凍麺を出して蒸し器に突っ込む。
タイマーをセットする。
箱から餃子を出す。
計量カップに水を汲む。
餃子焼き機に油をひいて冷凍餃子をのせて計量カップの水をかけて蓋をする。
鉄板を出し冷凍焼き鳥を乗せる。
その間、菅田はコロッケなどをフライヤーに入れる。
憂樹、タレを塗った焼き鳥の鉄板をオーブンに入れる。
ライ、出勤する。
ライ、冷凍鯖の入った袋を持って入ってくる。
続いて、ゾイも出勤する。

ライ おはようございます。
ゾイ おはようございます。

憂樹、菅田、それぞれ挨拶を返す。
ライ、大鍋に鯖を入れ火をつけタイマーを押す。
菅田、バットにとんかつを入れる。
ゾイ、まな板と包丁を取りにゆく。
ゾイ、とんかつを包丁でカットしトレイにつめる。
憂樹、カツ丼の仕込みを始める。
餃子焼き機のブザーがなる。
憂樹のセットした餃子の作業をライが引き継ぐ。
ライ、ラー油をかけて、しばらくおくとコテで餃子を剥がしとる。
菅田、どんどん揚げ物をバットに入れる。
ゾイ、揚げ物を詰め始める。
憂樹、カツ丼の仕込み中、ライを見る。
ライ、憂樹の視線には気づかない。
ゾイ、詰めたトレイを大きなお盆にのせる。
お盆を台車に詰め込んで行く。
菅田、台車にお盆の商品がある程度積み込まれるとフライヤーから離れて値付け機械で値札を貼り始める。
ゾイ、菅田の代わりにフライを始める。
憂樹、ライを見つめる。
ライ、憂樹の視線には気づかない。

憂樹 ライちゃん。
ライ はい。
憂樹 あのう……

ライは憂樹を見ずに作業を続ける。
ライ、手を止めて、

ライ なんですか?
憂樹 ……

憂樹、餃子を見て、

憂樹 もう少し焼いた方が……焼けてるか。
ライ うふふ、今日は大丈夫そうです。

荷物便の音が流れる。
ゾイ、手を止めて行こうとする。

憂樹 ゾイちゃん、荷物お願い。
ゾイ はい。

ライ、作業を再開する。
憂樹、ライを気にしながらカツ丼作りをする。
菅田、戻ってくる。

菅田 いわしバーク、欲しいって。
ライ いわしバークですね。

ライ、いわしバークをトレイにつめる。

菅田 ありがと、2個入りね。
ライ はい。

ライ、トレイに詰めて渡す。
菅田、値付けして売り場へ。
作業場に憂樹とライの二人になる。
ライ、探し物をする。

憂樹 どうしたの?
ライ 餃子のシール探してます。
憂樹 ああ、ごめん、こっちだ。箱からだしてここに置いた。

憂樹、ライにシールを渡す。
ライ、早速シールを貼る。

憂樹 変な話だけど…

ライ、手を止めて、

ライ 変な話?
憂樹 昨日、ライちゃんの夢を見たんだ。
ライ なんですか、それ?
憂樹 夢にライちゃん出てきて
ライ ゾイは?
憂樹 ゾイちゃんは出てこなかったよ。
ライ どんな夢ですか? ウフフ。
憂樹 何かおかしいの?
ライ 前に日本のホテルで仕事していた時、男性からライが夢に出たって言われました。その後、デート誘われました。
憂樹 ははは、ライちゃんもストレートだね、おれ、誘ってるわけじゃなくて。
ライ そーですか。
憂樹 いや、それが不思議な夢で。
ライ どんな夢?
憂樹 ライちゃんとオレが付き合って、一緒に暮らしているんだ。
ライ へー、やっぱり誘ってますか?
憂樹 そうかも知れない。

憂樹、売り場を気にして作業しながらライと話す。
ライも仕事の手は止めない。

憂樹 もっと変なのが夢の中で、オレ、車で事故を起こしたみたいなんだ。
ライ 事故? 大丈夫ですか?
憂樹 夢の中での話、大丈夫、全然。
ライ よかった。
憂樹 でね、夢の中でも全然ケガしなかったんだけど、それはね、その夢の中のライちゃんが言うには、昔ネパールでライちゃんが大きな宝石がいっぱいついているみたいに光る塔を見たからだっていうんだよ。
ライ トウって…
憂樹 タワー、家の後ろに光るタワーをみたって。
ライ ……

ライ、真顔になる。

憂樹 変な話だよね、ごめんね。
ライ それは本当ですね。
憂樹 え? 本当って何が本当?
ライ 私、昔、そのトウ、タワーみました。
憂樹 ……

菅田、入って来る。
二人は話を止める。

菅田 お客さん増えてきましたよ、雨上がったからかな。
憂樹 ええ、午後は晴だって天気予報は。
菅田 揚げ物少し増やした方がいいな、ライちゃん。アジフライ揚げてくれる?
ライ はい。

皆、それぞれ作業をはじめる。
スリップ音。
急ブレーキ。
破壊音。
暗転。

5

作業場。
作業場に入る憂樹。
フライヤーの用意をしている菅田。
とんかつを揚げる菅田。

憂樹 おはようございます。
菅田 おはようございます。

憂樹、オーブン、餃子焼き機、蒸し器の電源を入れる。
憂樹、一度舞台袖へ、段ボールを何箱か重ねて持ってくる。
箱から焼きそばの冷凍麺を出して蒸し器に突っ込む。
タイマーをセットする。
箱から餃子を出す。
計量カップに水を汲む。
餃子焼き機に油をひいて冷凍餃子をのせて計量カップの水をかけて蓋をする。
鉄板を出し冷凍焼き鳥を乗せる。
その間、菅田はコロッケなどをフライヤーに入れる。
憂樹、タレを塗った焼き鳥の鉄板をオーブンに入れる。
sv(スーパーバイザー)、冷凍鯖の入った袋を持って入ってくる。

SV おはよう。

憂樹、菅田、それぞれ挨拶を返す。
憂樹、大鍋に鯖を入れ火をつけタイマーを押す。
菅田、バットにとんかつを入れる。

SV 菅田さん、たこ焼き昨日やった?
菅田 昨日は出してないです。すいません。
SV メールも流したけどさ、売り込み商品になったから、しばらく毎日やって。
菅田 はい。
SVよろしくね、数なんだけど、8個入りやめて6個にしてもらえる。あまりは小サイズでいいから。
菅田・憂樹 はい

憂樹、カツ丼の仕込みを始める。
餃子焼き機のブザーがなる。
憂樹、ラー油をかけて、しばらくおくとコテで餃子を剥がしとる。
菅田、どんどん揚げ物をバットに入れる。
SV、揚げ物を詰め始める。

SV あ、そういや聞いたよ、事故大丈夫?
憂樹 はい、怪我はしませんでした。
SV 台風だったからね。
憂樹 車は横転して廃車です。
SV 本当? いや、まじ何にもなくてよかったね。

SV、詰めたトレイを大きなお盆にのせる。
お盆を台車に詰め込んで行く。
菅田、台車にお盆の商品がある程度積み込まれるとフライヤーから離れて値付け機械で値札を貼り始める。

SV 菅田君、そういや、ネパール子たちは?
菅田 ああ、急に来なくなっちゃったんですよ。
SV え? なんで?
菅田 派遣先の社長が問題起こしちゃて。
SV え、じゃレジの子もみんないないの?
菅田 ええ。みんなどこに行ったかわかりません。近場のホテルに就職した子もいるみたいだけど。
SV なんだか急だね、オレ、今日だけヘルプだと思ったよ。しばらく来るようになるかもな。
菅田 外国人の法律で働ける職種があるみたいでスーパーはグレーだったみたいなんですが、急にアウトになったみたいで。
SV ふうん、そういや、アジアの子たちはホテルとかコンビニとか決まった場所でしかみないか……いづれにしてもここは人手不足になったな。
菅田 戸田さん
憂樹 はい?
SV どうしたね?
菅田 ライちゃんだ。

売り場にライちゃんの姿。

菅田 なんだろう。
SV ここにいた子?
菅田 はい。

菅田、外に出る。
ライと何やら話している。
ライ、菅田に手土産を渡す。

菅田、作業場に戻る。

菅田 お世話になりましたって。皆さんでどうぞって。
SV ご丁寧に。
菅田 戸田さん。
憂樹 はい。
菅田 ライちゃんが話があるって。
憂樹 え? わかりました。

憂樹、作業場を出て売り場に向かう。
売り場。
憂樹とライ。
菅田とSV、作業場の窓から二人を見ている。
しばらくすると菅田とSVは作業に戻る。

ライ これまでありがとうございました。
憂樹 事故、本当に起こったんだ。
ライ え!
憂樹 でもこの通り、全然大丈夫。
ライ 夢の通りになったんですね。
憂樹 不思議なことがあるものだね。
ライ 戸田さんと付き合って一緒に住むようになったりして。ウフフ、それは冗談です。
憂樹 自分でも無傷で夢のままになったのが信じられない。
ライ 皆さんに挨拶もあったんですが、ここに来たのはもう見たかもしれないけど。
憂樹 ?
ライ 今日ここに仕事来る時に見ていない?
憂樹 何を?
ライ 今、大丈夫かな、少しならいいか。

ライ、憂樹の手を取り外にでる。
外。
遠くに塔が見える。

憂樹 ……
ライ 私がネパールで見た塔です。同じ塔です。

二人はいつまでも光り輝く塔を見ている。

終わり

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