走馬灯 ファンタジー

大阪から上京してきた青年が大阪時代に過ごした甘くほろ苦い青春時代を描く
熊野勝弘 13 0 0 11/12
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第一稿

1 道(現在)
暑い夏、汗をかきながら歩いている田中勝。
ハンカチを取り出し汗を拭く。
携帯電話がなる。胸ポケットから携帯を取り出す勝
「はい」
電話の向こうから
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1 道(現在)
暑い夏、汗をかきながら歩いている田中勝。
ハンカチを取り出し汗を拭く。
携帯電話がなる。胸ポケットから携帯を取り出す勝
「はい」
電話の向こうから
渡辺「おお、田中か。今日小林の葬式なんだけど。」
勝「えっ?」
渡辺「報せ行ってなかったんか」
勝「いや。小林死んだんか。」
渡辺「誰かがお前に連絡してると思ったんやけどな。(しばらくの間 )
勝「お前、今葬式の会場か?」
渡辺「いやこれから行くところや」
勝「そうか。(間)みんなによろしく言ってくれ」
渡辺「わかった。ほな、又な。」
電話を切って、呆然とする田中。
ふらふらとそばの公園へ入ってくる。そこにあるベンチに座る。
勝「そうか、死んでしもたんか。」
2 スナックの表(回想)
帰ってくる小林桂子、工藤、窪田後ろから歩いてる。若い田中勝もいる。
スナックのドアを開ける。
3スナックの中
カウンターの中にいるバイトと常連の客中山と山下が
「お帰りやす。ママ。」カウンターの中の関口くんが
「どうでした学校は、なんか変わったことありましたか。」
「何にもあらへん」と言って桂子は奥の階段を登って2階へカバンを置きに行く。
降りて来て
桂子「あんたら今日泊まるんやろ。なんか手伝い。」
工藤「俺、カウンターの中入るわ。」
勝「じゃ俺レコードかけ」
窪田「私はホステスや」と言って常連客の隣に座ってはいって言ってビールを注ぐ。
桂子は今までカウンターの中にいた関口に
桂子「お疲れさん。帰っていいわ。」
関口「ほなお先に」と言ってカウンターを出て奥の部屋へ。
荷物を持って出てきてお疲れさんと言って帰っていく
常連の客中山と山下、窪田と楽しそうに何か喋っている。
奥のドアが開く。奥は隣の麻雀屋と繋がっている。
麻雀屋の店員美子が入ってくる。
美子「焼うどん4人前、お願い。」
工藤「あいよ」と作り始める。
桂子「まだ、お客さんいるん。」
美子「うん、1組だけ。いつもの建設会社の人。」
桂子「出来たら持っていくわ。」
美子「じゃお願いね」と戻っていく。
工藤焼うどんを作リ始める。
工藤「田中君、持ってってくれるか。」
桂子「ついでにパイ拭きもやってきてよ。」
勝「わかった」と言いながら焼うどんを持って裏のドアから隣へ。
4 麻雀店
ドアを開けて勝が焼うどんを運んでくる
勝「お待ちどう様です」と言って1組だけ残っている客のところに焼うどんを運んでいく。そして終わった台のところへ行ってパイを片付け始める。
麻雀台の上には牌がバラバラになった状態で置かれてある。
それを台の隅にきちんと並べる。そして拭き始める。

ー時間経過ー

牌を磨いている勝。美子はすでに帰ったらしくいない。部屋の中は半分灯りが消えている。奥のドアから桂子が顔を出す。
桂子「まだー」
勝「もう少しで終わるわ。」
桂子「もう置いといてご飯食べよ」
勝「わかった」
桂子ドアから出していた顔を引っ込める。
勝牌を拭くのをやめて片付け始める。
4,スナック店内
居間にみんなテーブルを囲んで座っている。テーブルの上には料理が沢山のっている。勝が空いているところに座る。
勝「お待たせ」
桂子「さあ、食べよう」
皆思い思いに食べ始める。
5 商店街夜(別の日)
夜間学校帰りの勝がカバンを持って歩いている。
とある1軒の店の前。
おばさん「勝くん、今帰りか?」
ここの店は勝が小学生の時にバイトしていたお店だ。
勝「はい、おばさんもお変わりなく。、、、、旦那さん亡くなってもう何年になります?」
おばさん「早いものでもう7年になるわ。」
勝「もうそんなになりますか。それじゃおじいちゃんが死んでまだ3年か」
おばさん「勝くんがアルバイトしてくれてた時はまだ元気やったもんな。」
「はい」と言いながら勝は店の中を見回した。そんなに大きい店ではない間口2間くらいのところに、所狭しと豆類やら砂糖、メリケン粉が綺麗に箱に入って並べられている。
x x x
少年の勝とおじいさんが現れる。それを見ている高校生の勝。
おじいさん「ほら、よくみときや。このメリケン粉とこっちのメリケン粉は中身は全く一緒や。これを値段を替えてつけるとどういうことになるか。」
と言いながら二つの違う値札をそれぞれのメリケン粉の上に置いた。
そこへ客が来る。
小学生の勝「いらっしゃいませ。何に致しましょう。」
客「そのメリケン粉くれるか」
小学生の勝「はい、ありがとうございます。幾らほど差し上げまひょ」
客「そやな、200ほどもろとこか。」と言って高い方を指差す。
小学生の勝「こっちの方が安いですが。」と言って安い方を指差す。
客「かまへん、少しでもええやつをな。」
小学生の勝「(一緒やのに)はい。ありがとさんです。」
勝メリケン粉を測って客に渡しお金をもらう。
小学生の勝「ありがとうございました。」
後ろでおじいさんがニヤニヤしながら見ている。
その風景がふっと消える。
x x x
勝通りの向こうを見て、
勝「今日たこ焼きの屋台出てへんのやね。」
おばさん「ここんとこ古林のおばあちゃん、体の調子良くないみたい。」
勝「そうなんや。……ほな帰るわ。」
おばさん「きいつけて帰りや。」
商店街を歩いて帰る勝。通りの店はほとんど閉まっている。所々閉めかけている。
通りを左に折れて細い道に入る。そのまま歩いて一軒の家に入る。
表札に田中の字。
5,家の中
勝「ただいま」
庄司「お帰り」勉強したままで
勝の弟庄司が言葉を返す。
6 朝、
城東線、走っている。勝乗っている。(服装が変わっている)
7 国鉄摂津富田の駅
改札から出てくる勝。バスの停留所があり工場へ行くバスが止まっている。
バスの表に東阪電気大阪工場行きと書いてある。バスに乗り込む勝。

8 工場の表
バスが走ってきて門から中へと入っていく。
バスから降りてくる従業員達。少ない。勝も降りてくる。
走っていく勝。
9 タイムカードを押している勝
10 ロッカールーム
ずらっとロッカーが並んでいる。着替えて出ていく従業員たち。勝も急いで着替えている。
11 工場内
やすり台が手前に並んでいる。向こう側には旋盤、フライス盤等が並んでいる。
勝帽子をかぶりながらロッカーから走ってくる。鈴木はもう来ている。班長がやってくる。
班長「今日の仕事だ。」と言って勝と鈴木にそれぞれ青図を渡す。
2人「ハイっ」と言って受け取る。それぞれの青図にはその日作業する内容と時間が書いてある。
その作業時間を見る勝と鈴木。それぞれ作業の支度にかかる。
勝はL字鋼の積んである棚のところに行って図面を見ながら適当にL字鋼を引っ張り出すと巻尺で寸法を図り出す。横に電動の鋸が置いてある。鈴木が勝の図面を覗く。
鈴木「棚か」
勝「細かい精密なやつは鈴木が得意やもんな。班長もよう知ってるわ。」
鈴木「田中は、ここより学校やもんな。」
長森がやってくる。彼も学校の同級生だ。田中と鈴木は1年遅れて学校に入ったけど長森はストレートで入っているので工場では1年後輩だけど学校では同級生というわけだ。
長森「田中君、頼みがあるねん。」
勝「なんや。」
長森「秋の文化祭のことやねん。演劇部で芝居やるんやけど男がおらへんねん。」
勝「お前がおるやんけ。」
長森「1人じゃダメなんや。主役にするからやってくれへん。」
勝「俺、やったことないもん。」
長森「小学校の学芸会で、花咲爺さんやったいうてたやん。」
勝「あれは、、、、」
長森「頼むわ。今回だけでええから、、、」
L字鋼の棚の前で仕事そっちのけで話している2人。
鈴木「お前らええ加減にしろや。ここは会社やで。学校の話は学校でしろや。」
長森「ごめん、じゃ、また学校で。」
長森通路を去って行く。
鈴木「あいつも学校、学校言くさって。」
田中、電動の鋸で先ほど印をつけたところを切断し始める。
切り終わったL字鋼を持って溶接場に行き、溶接を始める勝。
12 工場の壁の時計
5時30分を指している。
学校へ行く連中が建物から出てきてバスに乗る。
13 バスが出て行く。
14 夕暮れの学校正門
生徒達が登校してくる。運動場では昼の生徒達が運動クラブの片付けをしている。
15 教室内
勝が入ってきて自分の机に座る。机の中から一枚の封筒が出てくる。中には一枚の便箋。そこにはこう書かれている。「こんにちは、私はこの机に座っている八代鈴子と申します。1年生です。この机に座っている貴方、男の方か女の方かどちらでしょう。私と文通しませんか。もしオッケーなら手紙を書いて置いておいて下さい。よろしくね。」
勝、前に座っている長森に手紙を見せて
勝「長森、こんなの入ってた。」長森手紙を見て
長森「ロマンチックやな。どんな可愛い子が座ってんねんやろな。」
勝「こういう乙女チックな子ほど、ブスちゃうか。」
長森「田中君、どないするんや。」
勝「長森、お前書いてくれへんか。」
長森「俺が、、、」
勝「どうせ向こうにはわからへん。お前演劇クラブの台本も書いてる言うてたやん。文才があるやろ。」
長森「しゃあないな。書いたろか。ところで会社で話した演劇部に入ってくれと頼んだ件頼むわ。男が足りないんや。女の子と仲ようなれるチャンスやで。ラブシーンも作るから。」ヤブシーンに反応する勝。
勝「ほんまか。ラブシーンさせてくれるんか。ほな入ってもええかな。」
先生が教室に入ってくる。
16 給食の時間
給食を配っている。みんな食べている。
給食を返しに行く。途中で
勝「ストップ。」と言ってパンの箱を止めて中を見る。綺麗なままのパンがいくつかある。
勝「勿体無いやんけ。まだ食べられる。」と言って持っている封筒にパンを詰め込む。勝「通ってよろし」
17 同教室
今日の授業は全部終わって
長森「田中君、ほな部室行ってみんなに紹介するから。」
と言って廊下を部室の方へ勝と一緒に歩いて行こうとすると後ろから小林が
小林「田中君、今日店くる。」
勝「行く行く。夜飯食べさせて。」
小林「わかった。待ってるわ。ほな後で」と言って窪田達と帰って行く。
18 部室
廊下を歩いて部室の前に来る。
部室と言っても使っていない教室である。
教室に入る長森と勝。7~8人の女の子が一斉に立ち上がって「おはようございます」と挨拶する。
長森「おはよう。皆んな、今日から演劇部に入ってくれることになった田中君。」
勝「よろしくお願いします」
皆口々にこちらこそよろしくと言い合う。
長森「ほな、みんな自己紹介しよか。」
1人の生徒が立ち上がって「私は2年B組の安藤です。」と自己紹介している。
その情景
19 スナックの表
勝やってくる。麻雀屋のドアを開けて中を覗く。そのまま隣のスナックのドアを開けて入ってくる。常連客の中山と山下が飲んでいる。
桂子カウンターの中から「お帰り」
勝「ただいま。いま覗いてみたら麻雀屋、客帰ったみたいやからパイ拭いてくるわ。」
桂子「ほうか。ほな頼むわ。」
勝、階段を上って右の部屋へカバンを投げ入れると、階段を降りてきてそのまま奥から麻雀屋の方へ行く。今日も工藤がカウンターの中に入って洗い物をしている。
20 麻雀屋の中
奥から現れる勝。
勝「牌拭くわ」と言って1台の麻雀台の牌を集め拭き始める。
美子「ありがとね」美子は掃除機をかけている。
21 奥の部屋
桂子、窪田、勝、工藤が集まって飯を食べている。
桂子「田中君、演劇部に入ったんか。」
勝「そうやねん。ほら小林と一緒の組立てにいる長森君、あいつが男がいるゆうて誘いよったから、入ったってん。」
窪田「田中君、出来んの。」
勝「わからへん。小学校の学芸会で花咲爺さんやっただけやさかい。」
桂子「まあ、なんでもやったらええやんか。」
工藤「俺も入ろうかな。」
窪田「あんたはやめとき。」
工藤「なんでや。」
窪田「なんでもや」
勝「ご馳走様。工藤行こ。おやすみ。」
桂子「おやすみ。」
2人立ち上がって階段を上って行く。
2階に部屋が3つある。2人右の部屋に入って行く
2人押し入れから布団を出し引き始める。
22 工場の中
黙々とヤスリをかけている勝と鈴木。図面とかけている金型を見比べている2人。
作業風景。向こうの通路をフォークリフトが走って行く。フォークリフトの先、
ベルトコンベアが流れている。その周りには若い工員がずらっとコンベアを包むように互い違いに立っている。その中には桂子も長森もいる。コンベアの上には製品が載っていて30秒に一度コンベアが動く。それに合わせて全員が作業をする。コンベアは規則正しく30秒に一度動いている。
23 昼休み、食堂
食券を持って並んでいる勝と鈴木、長森達。それぞれおかずと味噌汁ご飯をお皿にとっている。食べていると弁当を持って桂子がやってくる。隣に座る。
桂子「これ、昨日の残り。田中君食べるか。」と言って弁当を差し出す。
勝「ほな一つ貰うわ。」と言って桂子の弁当からおかずを一つ取って食べる。
食べ終わった勝達、食器を返しにいく。
食堂の外へ出てくる。外は広い。良い天気だ。
24 工場の中
昼休みが終わって午後の仕事に取り掛かろうとすると班長がやってくる。
班長「田中君、午後から組立て部の方へ行ってくれるか。」
勝「班長、まだこれ仕上がってませんけど。」
班長「それ、来週でええわ。組み立ての方から応援頼んできたよって。」
勝「わかりました。」
班長「組み立ての班長の原田さんのとこ行ってや」
勝組立て部の方へ歩いて行く。
勝、原田の前へ行くと「原田さん、班長に言われてきました。」
原田「すまんな。池内が急に腹が痛いゆうて医務室へ行ってしまったんや。池内の後入ってくれるか。」
勝「わかりました。」
勝、池内の後へ入って、電動ドライバーを持つ。
男女が互い違いに並んで作業をしている。
勝の隣は同じ学校の同級生足立が立って作業をしている。
足立「田中君、演劇部で今度の文化祭出るんやて。」
勝「なんで知ってんの。」
足立「ポスターが貼ってあったわ。そこに田中君の名前も書いてあったわ。」
勝「ほんま」
足立「ほんまやて。」
その間もベルトコンベアは30秒に一度機械的に動いている。話しながらも手は作業をしている。
足立「長森君が本書いてるの。」
勝「うん、長森に誘われてん。」
足立「彼、中学の時から演劇部やってたからな。」
勝「よう知ってんな。」
足立「そら、おんなじ中学やもん。彼中学から有名やったんやで。」
勝「なんで昼間の高校へ行かへんかったんや。」
足立「中学卒業の前にお父さん交通事故で亡くなりはってん。」
勝「ふーん。」
足立「田中君、そろそろ作業服洗ったほうがええで。」
勝、辺りを見回して「そやな、向こうでは目立てへんけどこっちでは目立つわ。」
25 ロッカールーム
勝、作業服を紙袋に詰めている。
26 學校の教室
終了のチャイムが鳴っている。
桂子「田中君、今日もくる。」
勝「行ってもええんか。」
桂子「当たり前やんか。今日も稽古やろ。(勝の紙袋を指して)それ洗濯物やろ。洗っといてやるわ。こっち貸し。」
長森「田中君行くで。」長森出て行く。
勝、桂子に紙袋を渡しながら
勝「ほな頼むわ。長森待ってえや」と言いながら長森の後を追いかけて行く。
それを見送る桂子。
27 部室
みんな机を移動している。そしてこの字型に机を並べ替えている。先輩の桧山が入って来てその様子を見ている。
長森「あっ、先輩いらっしゃい。皆今日は先輩が稽古見てくれるんで張り切ってやりましょう。先輩こちらは新しく入ってきた田中君。」
勝「よろしくお願いします。」
桧山「よろしくな。」
長森「今日は先輩が来てくれたさかい、アタマから本読みします。皆座ってください。
先輩はここへ座ってください。(皆いつもどおり座る。)ほないきます。須山さんアタマからお願いします。」
須山「はい。」と言って読み始める。
28 国鉄の千里ヶ丘の駅
改札から出てくる勝。歩いている。
29 スナックの表
隣の麻雀屋を先に覗く勝。それからスナックのドアを開ける。
30 スナックの中
ドアを開けて入ってくる勝
桂子「お帰り。」カウンターの中から声がかかる。
勝「ただいま。今日はまだ麻雀屋の方お客さんいるねんな。」
桂子「いつもの常連さんや。明日休みやろ。今日は遅くなるかもな。」
窪田「テツマンちゃうんか。」
桂子「まあ、こっちも明日は休みやさかい。」
常連の客中山「えっ明日店休むんか」
桂子「そうや、たまにはあんたも肝臓休みにしたほうがええで。」
常連の客中山「言えてる。」
桂子「そうや、明日服部緑地でも行かへんか。」
勝「俺、家帰らんと。」
窪田「明後日帰ったらええやん。」
勝「そやな、ほなそうしょうか。」
桂子「ほんまにテツマンやるつもりやろか。」
勝「もう終わりや言うてきましょか。」
桂子「そやな、明日用事がありますんで言うてそろそろ切り上げてもらえませんか言うてきてくれるか。」
勝は立ち上がって奥のドアから隣に行く。
31服部緑地の駅
駅から出てくる桂子、窪田、勝、工藤、他に常連客の関口と山下。
服部緑地行きのバスに乗る。
緑地の中のボート乗り場。
桂子「田中君ボート乗ろう。」
窪田「工藤君私らも乗ろう。」
ボートに乗っている勝と桂子。工藤と窪田
大きな木の下で弁当を広げている桂子達。
32 電車の中
帰り道。みんな寝ている。
33 環状線が走っている
勝が乗っている。
34 寺田町の駅(夕方)
勝が出てきて、商店街を歩いている。タコ焼きの屋台が出ている。
勝「おばちゃん、体の具合良くないと聞いたけど大丈夫か。」
おばちゃん「勝か。最近あまり見ないけど忙しいんか。」
勝「うん、夜間高校行ってるさかい。」
おばちゃん「そうか、一生懸命勉強しいや。食べるか。」
勝「うん。」
おばちゃん、ショウギの船にたこ焼きを鉄串で刺して入れる。そこへソースを塗ると鰹節をかける。 
おばちゃん「はい。」
勝「おおきに。」と言って食べ始める。
おばちゃん「お母ちゃん、死んで大分経つな。」
勝タコ焼きを食べている。
x x x
真夜中、表のドアをどんどん叩く音。電報ですの声。何だろと呟きながら表の戸を開ける勝。
郵便配達員「電報です。」と言って勝に渡す。
開けると「ハハキトクスグコラレタシ」電報を弟に渡す。
弟は読んでいたが布団の中で声を潜めて泣き出した。
勝は泣いてはいないがそんな弟が不憫でならない。なんせまだ小学生なのだ。
x x x
35 勝の家
勝帰ってくる。向かいの前田のおばちゃんが出てくる。
前田のおばちゃん「勝君いま帰りか。」
勝「はい。」
と言って家の中に入る。弟の庄司がいる。
庄司「にいちゃん、お帰り。」
勝「おう、バイト行ってるか」
庄司「うん。」
勝「そうか。これ今月の食事代や。」
庄司「ありがとう。」と言って受け取る。
勝周りを見回し
勝「お前も俺とおんなじように上の学校行きたかったら夜間高校へ行きな。大学も行きたかったら夜間大学へ行ってそれから昼の大学に替わる方法もあるさかい、とにかく勉強するこっちゃ。金がないさかいその分勉強頑張らなあかんで。」
二人煎餅布団で並んで寝ている。
36 環状線が走る
37 摂津富田の駅
勝出てくる。バスは出て行く。慌てて走って行く勝。
バスは走っている。その後ろを必死に走っている勝
38 工場の門
バスが入って行く。遅れて入って行く勝。
39 タイムレコードの機械の前
勝が必死に押している。1台の前で押す。出てきたのを見ると赤文字。慌てて隣の台を押す。見ると赤文字。3台目を又慌てて押す。今度は黒文字。ほっと安心する勝。
40 ロッカールーム
着替えている勝。作業服が綺麗にアイロンがかかっている。
41 作業台の前
勝やってくる。
勝「班長、おはようございます。鈴木君おはよう。」
鈴木「おはよう」
班長「今日の作業だけど」と言って鈴木には青図を渡す。
勝「班長、僕は」
班長「田中、今日から君は溶接と焼き入れを担当してもらうことになった。」間
勝「わかりました。」
班長「千四百度の温度の中で焼かれた鋼を焼入れするのはその後の鉄板のプレスやシャーリングを確実にするために大時な仕事だ。鈴木がいかに精密な金型を造っても後の焼き入れを失敗したら元も子もないんだ。それだけ大変な仕事なんだ。」
勝「心して頑張ります。」
班長「頼んだぞ」
班長、田中に手順を教える。いつも班長の仕事を見ているので覚えは良い
42 寺田町の駅(現在)
現在の勝が出てくる
商店街を歩いている。屋台があったところ。
x x x
古林のおばあちゃんがタコ焼きを焼いている。そこに小学生の勝がいる。
道を一生懸命に屋台を押している勝。おばちゃんが横を歩いている。
x x x
又商店街を歩いている勝。バイトしていた店の前で止まる。
x x x
おじいさんと小学生の勝
おじいさん「ほれ、しっかり持って」
勝大きな金盥を持っている。そこへ七味唐辛子の材料をおじいさんがぶちまける。
勝くしゃみをする。かき混ぜるおじいさん。又砂糖の箱を自転車の後ろに積んでいる勝。
「お歳暮やさかいきいつけてな。」
小学生の勝「はい」
商店街人通りがある。
小学生の勝「行ってきました。」と言って自転車で帰ってくる。
おじいさん「そろそろ店を閉めよか。」
x x x
その姿を見ている現在の勝
又商店街を歩いている勝
風呂屋の前に来る。
x x x
お風呂道具を持ったおじいさんと小学生の勝。
おじいさん「大晦日の仕事が終わった後のお風呂は格別や。」
風呂屋に入って行く。
おじいさんの家。風呂上りの勝が座っている。その前におじいさん。
おじいさん「これアルバイト代。」と言って金一封を渡す。「それからこれお年玉や」とポチ袋。
そばにおせち料理の箱が置いてある。
おじいさん「家に帰ってお母さんと食べ。」
小学生の勝「ありがとうさんです。」と言っておせちの箱とバイト代とお年玉を持って明るくなった街を帰る。
x x x
生まれた家の近所にくる。一軒の家の前で足を止める勝
x x x
43珠算塾
思い出が蘇って来る。
カメラ中へ入る。
加藤先生「ご和算で願いましては12537円なり足すことの25743円也足すことの42517円」
絵が飛んで
加藤先生「はい、田中君。」
小学生の勝「はい、245864円です。」
加藤先生「よくできました。」
x x x
44珠算塾の表
現在の勝が立っている。懐かしそうに見ていたが又歩いて行く。
45角を曲がった1軒目
原田の家。
x x x
おばさんが内職をしている。内職を手伝っている勝。ここには同級生の富士男くんと双子の兄弟がいたっけ。双子の1人が小学生の時に亡くなった。おばちゃんが泣いていた。
46隣の家の表
ニワトリを締めている朝鮮のおばちゃん
47塗装工場の前
机の足を塗装している。マスクをして必死に働いている母親がいる。
48その隣の家
家には金二世の写真が飾られている。
大阪駅へ北へ帰る列車を見送りに行く
49古林のおばちゃんの家
表でタコ焼きの支度をしている。屋台を引いてやる勝。
50 隣の家
朝鮮の人で草履を作っている。
ここでも内職している小学生の勝。
51勝の生まれた家の向かいの家
中から百人一首を読む声がする。
向かいの家の同級生と一緒にそこの家の家族と遊んでいる勝。
52 勝の生まれた家
家の前で輪タクを修理している父。家は輪タクが置けるように家の土間を改装してある
風邪をひいて寝ている勝。枕元にはバナナが一本置いてある。。
輪タクに乗って出勤して行く父親
カルメラを作っている父。
走っている勝中学生になっている。
今村外科の看板がかかってあるところへ入って行く。
病室に父が寝ている。
向かいのおばさん「勝くん、間に合ったか。はよ唇湿らしたり。」 
勝 父の唇を濡らしてやる。
医者「ご臨終です。」
大八車で運ばれて来る父。車が入れない道なのだ。寂しいお葬式。
53 道
道をゆっくり見回しながら思い出にふける現在の勝。ゆっくりと去って行く。
54 工場
フォークリフトに載っている勝。
工場の中の通路を何かを運んでいる。
向こうで鈴木がヤスリをかけている。
55 學校の部室(夜)
稽古をしている勝。下級生を相手にラブシーンの場面。長森がじっと見ている
稽古終わる。
須山「今日、あたしんちこない。お母さんが紹介しなさいって。」
勝「いいけど、あまり遅くなれないよ。」
須山「遅くなったら泊まればいいじゃん。」
勝「いきなり行ってそれはないだろ。」
須山「うちのお母さん、その辺捌けてるから大丈夫よ。」
勝「今日は小林んちのスナック行く返事してしもたさかい、君の家にお邪魔するの今度にするわ。」
須山「じゃ次の稽古の後にきっとよ。」
勝「うんわかった。長森君帰ろ。」
部員たち部屋を片付けて、帰り支度。
56 學校の正門前
演劇部員たちゾロゾロ出てきて駅へ向かって歩いて行く。中にはバイクに乗っているものもいる。
部員「お疲れさん。」と言ってバイクで消えて行く。
57 スナックの表の道
勝歩いてくる。常連客の1人が出てくる。
勝「早川さん、今日は早いやん。」
早川「明日早いねん。」
勝「今、何やってんの。」
早川「アップダウンエレベータークイズ。」
勝「あっ、俺それ好き。見てるわ。」
早川「あれ上がったり下がったりするやろ。後ろで操作してんの僕らやん。ほなな。」
勝「あっ、ありがとうございました。」
勝スナックのドアを開ける。
58 スナックの中
勝「ただいま」
桂子「お帰り」
飾り付けをしている工藤と窪田
勝「何してんのん。」
工藤「クリスマスパーティの準備や。」
勝「俺も手伝うわ。」
窪田、勝の顔の傷を見つけて
窪田「田中君、その顔どないしたん。」
勝「剣道部の三井くんいるやろ。打ち込みの相手いないから手伝ってくれいうから。」
窪田「それで。」
勝「うどん一杯で。」
窪田「引き受けたんか?。」
勝「うん。」
窪田「けど、怪我したら何にもならへんやん。」
勝「面つけてたさかい、大丈夫やと思ったんやけど。動かないでただ立っててくれれば良いと言われてたさかい、そうしてたんやけどまともに頭のここにきたら痛いのなんのって。」
と頭を指しながら
勝「効いた。」
工藤「うどん一杯じゃ合わへんな。」
勝「うどん二杯って言えば良かった。」
あらかた飾り付けを終わる。
桂子「今日は誰がご飯作ってくれるの。」
工藤「俺が作るよ。」と言って台所へ。冷蔵庫を開けながら
工藤「今日は何があるかな。」
と言ってるところにスナックのドアが開き常連の中山が入ってくる。
常連客中山「あれ、もう終わり。」
桂子「今日はもう締めようかなと。」
常連客中山「一杯だけ良い。」
桂子「わかったわ。」
常連客中山「この飾り付けは。」
窪田「クリスマスパーティをやるの。」
常連客中山「表にポスター張ったら。」
窪田「そうだ、ポスター作らなきゃ。」と言って奥へ消える。
工藤は台所で食事を作っている。
59 バスが走っている。工場の中へ入って行く。
60 工場の中
焼き入れの炉の前に立って真剣な目で中を見ている。中は真っ赤に燃えている。
やがて炉を開け真っ赤になった金型を取り出す勝。その金型を油の中へ漬ける勝。
その作業の向こうでヤスリを使う鈴木の姿が写っている。
61 同スナックの中
部屋の中は照明も凝っていて、お客さんで一杯である。
演劇部のメンバーも来ている。勝はレコード掛けをしている。
須山「田中さん、踊ってくれる」と誘う
勝「俺、レコード掛けしてるさかい。」
桂子「田中君、踊ってきて良いよ。」
工藤「俺代わったるさかい。」
62 高校の門
正門から出てくる演劇部員。その中に勝と美津子もいる
63 美津子の家
机の上に料理が並んでいる
美津子の母「田中さん、たくさん食べて。」
勝「ありがとうございます。」
美津子、料理を勝の為にとってやる。
勝「ありがとう。」
64 寝間
布団が二つ敷いてある。
美津子「部屋がなくてごめんね。」
勝「いや、。」と言いながら布団を離す。
二人寝ている
美津子「お母さんはあなたのこと気に入ったみたい。、、、、私もあなたのことが好き。でも私は私生児なの。お母さんも好きな人がいて私を妊娠したんだけど、結婚できなかったんだって。、、、、、私も好きなだけでそういう関係になりたくないの。お母さんはそうなっても良いと思ってこんな布団を敷いたと思うの。」
勝「僕もまだそういうことになっても責任が取れないもん。」
美津子「でも、してみたいと思うでしょ。」
勝「そら思うさ。」
美津子「してみる。」
勝「いや。」
美津子 間、「勇気ないのね。」
勝  しばらくして「襲うぞ。」
と言って美津子の布団のところに体を乗せる。
勝、美津子にキスをする。美津子それに応える。それ以上のところに手が動き始めたところ、その手を美津子の手が押さえる。
美津子「いや!。」
勝、しばらくそのままにしていたが、やがて元の自分の布団に戻る。
勝「おやすみ。」
美津子「おやすみなさい。」
朝お母さんが起こしに来る。
美津子の母「おはよう。朝ごはん食べなさい。」
65 摂津富田の駅
勝と美津子改札口を出てくる。
勝はバス乗り場に、美津子は歩いて昭和製菓の工場へ。
美津子「じゃ学校で。」
長森がやってくる。
長森「田中君、おはよう。」
二人バスに乗る。
66 工場の中
焼き入れの炉の横に溶接場がある。向こうで鈴木はヤスリをいじっている。勝はL字鋼の溶接をしている。作業服は汚れている。
足立の声が聞こえてくる「そろそろ作業服洗濯したほうがいいんと違う。」
勝作業服を眺める。
67 学校内文化祭の日
舞台では演劇部の芝居が上演されている。
美津子「バカバカ。お姉さんが好きなら何故食べられてやらないの。」
美津子勝に抱きついている。
勝「僕も辛いんだ。」
二人はカマキリの扮装をしている。
美津子「お姉さんは村八分になってるわ。」
勝「分かってる。僕が死ねばいいんだ。」
勝、抱きついている美津子を振りほどいて自分の胸に短剣を刺す。倒れる。
美津子「お兄さん。」と言って抱き起こす。
勝「お姉さんに伝えてほしい。愛しているって。」
幕が下りる。
拍手が起きる。
68 スナックの中
演劇部員が集まっている。
長森「それでは、お疲れ様。」手にはビールを持っている。
長森「乾杯。」
今日は演劇部の打ち上げのためにスナックの中がそれ用にレイアウトしてありテーブルの上には飲み物や食べ物が置いてある。工藤がカウンターの中で料理を作っている。
桂子「今日は店の奢りやさかい遠慮せんとじゃんじゃん飲んで食べてや。」
演劇部員「はーい」と言いながら唐揚げを食べる。
美津子「田中君今日家に来る。」
勝「いや今日は店に泊まるわ。長森、上に寝るとこあるから今日は泊まっていけや。」と言いながらビールを注ぐ。
69 校庭の一部
外で剣道の防具をつけてもらっている勝。つけ終わると
勝「立ってるだけでええねんな。」
五木「そうや、動いたらあかんで。」と言うと
五木「えいっ」と勝の頭を目掛けて打ち込んでくる。
勝「痛っ」思わず声が出てしまう。
70 スナック内
勝「脳震盪起こすかと思った。」と話している
桂子「アホやな。この間でこりたんやないの。うどんぐらい隣の店でなんぼでも、食べさせたるわ。」
勝「剣道部の部員が誰もおらへんさかい、練習でけへんて泣き疲れたさかい」
桂子「お人好しも大概にしとかな怪我するで。」
勝「あんなに痛いものやと思わなかった。」
常連客がニヤニヤしながら聴いている。
そこへ新しい客が入ってくる。
勝、桂子「いらっしゃいませ。」
71 工場の掲示板
張り紙がしてある。張り紙には学歴検定試験と書かれている。
夜間高校へ通っている工員が集まって見ている。昼休み。
勝「これ僕たちのことじゃ」
足立「そうよ。私たちのことだわ。」
鈴木「この試験に合格したら昼の高卒並みに扱ってもらえるというわけか。
足立「そういうことよ」
鈴木「ほな受けな損やんけ」
勝「受けてみようかな。」
足立「田中君は受けても通らないと思うよ。」
勝「何でや」
足立「これ学校の成績だけじゃなくて勤務成績も入るのと違う。」
勝「勤務成績言われたら、……この間のボーナスも一番少なかったしな。」
足立「試しに受けてみたらいいじゃん。」
勝「そやな」
72 学校の表
勝学校の門をくぐって行く。校庭で工事をしている。
73 教室
授業終了のチャイムがなっている
先生「ひとこと注意をしておきます。今昼間部で校庭を工事中です。夜は暗いので気をつけてください。」
74 違う日学校
職員室で大森先生他の先生に「先生、今日田中君見ました。」
岡先生「ええ、見ましたよ。田中君がどうかしましたか。」
大森先生「見かけないもんだから、」
岡先生「昼間部がやってる校庭の工事のことは注意をするように言っときましたが」
大森先生「覗きに行くということはないですよね」
75 真っ暗い校庭
懐中電灯をつけながら心配して掘ってある穴を覗き込んでいる先生たち。
76 麻雀屋
4人で談笑しながら麻雀をやっている。
77 職員室
項垂れている4人。
岡先生「どんなに心配したと思ってるんだ。穴に落っこってるんじゃないかと先生達皆んなで見に行ったんだぞ。とにかく退学届を持ってきなさい。」
勝「先生、退学届は勘弁してください。」
岡先生「駄目だ、反省がなってない。」
4人どうしょうもない。
78 スナックの表
勝やってくる。入って行く
79 スナックの中
しょげている勝を見て
桂子「どうしたん。」
勝「退学届を持ってこいって。」
桂子「何したん。」
勝「麻雀」
桂子「アホやな。何してんのや。」
勝「ほら、今学校工事中やろ。あそこへおっこんたんじゃないかと心配して見に行ったんだと」
桂子「退学届はきついなあ。」
80 工場の中
焼き入れの中の炉を見ている勝。
81 学校
退学届を岡先生に渡す勝たち4人。
岡先生「これは預かっとく。」と言いながら机の中にしまう。
82 会社の給湯室
ガス代の上にやかんが乗っている。ガスに火がついている。
長森と勝が話している。
長森「もうじき卒業やね。」
勝「工場、どうするの。」
長森「卒業したらやめようと思う。」
勝「やめて何するねん。」
長森「まだ考えてへん。」
勝「僕も会社に残っても、もうあかん。この間の資格試験も落ちたし。」
長森「鈴木はどうやったの」
勝「あいつは合格したわ。けどそれでも高校卒やで。大卒には敵わへん。」
長森「いっそ大学へ行こか。」
勝「大学か、それより君にお礼を言わなくっちゃ。」
長森「なんの」
勝「君に誘われて演劇部へ入ったけど、ほんま楽しかったわ。ああいうの仕事にできたらええなって時々思うんや。」
長森少し考えていたが、
長森「出来るで。ちょっと待っててや。」と言ってロッカールームへ走って行く
勝はガスの火を止める。長森戻ってきて
長森「これあげるわ。」と言って一冊の本を勝に差し出す。
勝「これ、何」
長森「演劇雑誌や。ほら、ここにいろんな劇団が劇団員募集って書いてあるやろ。」
勝「ほんまや。」と言いながら雑誌を見ている。
長森「家へ持っていってゆっくり観れば良いよ。」
勝「ありがとう。」
長森「そろそろ行かな探しに来るで。又サボってるのかと怒られるで」
83 寝屋川の共同墓地
勝 お祈りしてる
勝「僕東京へ行くわ。東京に行って劇団の研究所に入るわ。」
84 スナックの中
入ってくる勝を見て、窪田「来たきた。今日の主役が来た」
桂子「田中君、東京行くんだって。」
勝「うん」
桂子「今日は田中君を送り出すパーティや。皆んな来てるで」
見ると演劇部の後輩美津子も来ていた。たわいもないことで別れてしまった。
85 美津子の家(回想)
美津子机の引き出しから手紙を出して
美津子「これなんだと思う。」
勝「何や」
美津子「ラブレター。会社の人が昼休みにくれたんや。」
勝「ふーん」
美津子「ヤキモチ妬かないの」
勝「何で僕がヤキモチ妬かなあかんねん」
美津子「普通は焼くでしょ」
勝「………………………」
美津子「付き合うてもいいかな」
勝「付き合えばいいじゃん」
美津子「本当に付き合うてもええのん」
勝「付き合えばいいじゃん」
美津子「本当に付き合うよ」
勝、ラブレターを破ってしまう。
美津子「ひどい」
勝「帰る」と言って立ち上がる。
美津子「こんな時間にどこ行くの。」
勝「まだ電車あるから」
86 線路
の横の道を歩いている勝。
千里丘の駅名の字。スナックの表に着く
87 スナックの中
入ってくる勝を見て
桂子「どないしたん。今頃」
勝「今日泊めてくれる。」
桂子「いいけど。焼きそばでも食べる。」
勝「うん」
桂子横の窪田を見る。
窪田「ラジャー。」と返事をする。
スナックの中フェイドアウトしてお別れのパーティーのシーンに戻る
美津子が寄ってくる。
美津子「久しぶり」
勝「お母さんも元気」
美津子「お母さん、よっぽど田中さん気に入ってたみたい、しょっちゅうどうしてるって私に聞くの。何で別れたのって。」
勝「もう過ぎた話だ」
美津子「あの時は私もどうかしてたの。もう一回考え直してくれない。」
勝「僕は東京へ行くんだ。」
美津子「聞いたわ。ついて行っちゃいけない。」
勝「駄目だ。自分自身これからどうなるか分からない。」
美津子「東京で私も働く。」
勝「あかん。君とこは親1人子1人や。お母さんのそばにいてあげな」
美津子「どうしても東京に行かなあかんの。ラブレターやて、………あんなこと言わなよかった」
そこへ窪田が来て
窪田「田中君、ホラ酒。須山さんも飲み。」
と言って2人に酒のグラスを渡す。
ダンス音楽が流れてくる。
美津子「田中君、踊って。」
勝「うん」と言ってフロアーで踊り出す。美津子まるでチークダンスのようだ。
88 翌日スナックの表
出てくる勝。空を見ると青空だ。出てくる桂子
勝「そろそろ行くわ。」
桂子「行くか」
勝「うん」
桂子「あっ、ちょっと、待ってて」と言って慌てて店へ戻ってすぐに戻ってくる。
手には何か持っている。
桂子「これ、門出のプレゼントや。開けて見。」
勝開けて見る。
勝「腕時計やんけ。高かったんと違うか」
桂子なんか言いかけるが
桂子「うちはこの店守って行くわ。あんたは東京行って頑張りいな」
勝、腕時計を右手にはめて見る。じっと見ていたが、
勝「うん頑張る。……ほな行くわ」
桂子「行ってらっしゃい。」
勝、桂子に背を向けて駅に向かって歩いて行く。
見送る桂子。
桂子「さよなら。私の青春。」
やがて見えなくなる。
桂子店に戻ると
窪田「田中君、行ったんか」
桂子「今日もいい天気やで。起きた起きた」と言って皆を起こす。
窪田「告白したんか。」
桂子しばらく黙っていたが首を横に振る。
窪田「そうか。」
桂子「田中君の前途はようようや」
窪田「そやな、私もお別れ言いたかったな」
89 日比谷公園(現在)
微睡んでいる勝。目が覚める。右手には桂子に貰った時計がありそれを見ている。想いに耽っている。右手の時計をポンと叩き立ち上がる。
そして歩き始める。その背は寂しそうだ。
やがて地下鉄の階段に吸い込まれて行く勝。

                  エンド

亡き友小林に捧ぐ
           熊野勝弘2020年8月

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