<登場人物>
立花 舞(21)女子大生
等々力 強(9) 小学生
春日井 照夫(77)常連客
高村 (9) 等々力の同級生
<本編>
○公民館・前
歩道を歩いている等々力強(9)。右足を引きずっている。
子供達の笑い声。
○(フラッシュ)公園
階段の下で倒れている等々力。右足を押さえ、痛みに耐えている。その脇や、階段の上でその様子を見て笑う高村(9)ら男子生徒達。
○公民館・前
歩道を歩いている等々力。掲示板に貼られた「湿布、貼ります。」という張り紙を目にする。
等々力「あっ……」
○メインタイトル『湿布、貼ります。』
○公民館・外観
○同・中
恐る恐る入ってくる等々力。
等々力「ごめん下さい……」
イスに座る、上裸の春日井照夫(77)と目が合う等々力。
等々力「……」
春日井「……何だ、坊主」
等々力「あの……ココ、湿布貼ってくれるって……」
春日井「おう。何だ、湿布貼って欲しいのか?」
等々力「は、はい。あ、でも、その……」
春日井「(振り返り)お~い、舞ちゃん。お客さんだってさ~」
舞の声「は~い」
奥からやってくる立花舞(21)。
舞「いらっしゃいませ。中でお待ちください」
等々力「あ、そうじゃなくて……お金、いくらかかりますか?」
舞「無料ですよ。湿布、貼るだけですから」
等々力「タダ……じゃあ、お願いします」
中に入ってくる等々力に、何かを求めるように手を差し出す舞。
等々力「……え? タダなんじゃ……?」
舞「はい、無料ですよ。湿布を」
春日井「舞ちゃん。この坊主は、湿布持ってきてないんじゃねぇか?」
舞「あぁ、なるほどですね。そうなんですか?」
等々力「売ってはいないんですか?」
舞「湿布は医薬品なんで、勝手には売れないんです。だからココは、湿布を貼るだけです」
等々力「じゃあ、帰ります」
踵を返す等々力。やはり足を引きずっている。
春日井「おい、坊主。足、ケガしてんのか?」
等々力「はぁ……まぁ」
春日井「舞ちゃん。俺の湿布、半分に切って、この坊主にくれてやんな」
等々力「いいんですか?」
春日井「それでもし『医薬品が何たら』って言われたら、俺が勝手にやった事にすりゃいいだろ?」
舞「なるほどですね。じゃあ、そうしましょう。(手招きして)どうぞ」
× × ×
舞から、足に湿布を貼ってもらう等々力。
舞「転んだりしたんですか?」
等々力「いや、階段で……」
等々力の声「ねぇ、あのさ」
○(回想)小学校・教室
高村ら男子生徒達の元にやってくる等々力。
等々力「僕も、仲間に入れてよ」
高村の様子をうかがう男子生徒達。
高村「(意味深な笑みを浮かべ)もちろん」
笑顔を浮かべる等々力。
○(回想)公園
階段のある公園。
階段の上に立つ等々力、高村ら男子生徒達。
等々力「えっ、ココから……?」
高村「そう、飛ぶんだよ」
等々力「何で?」
高村「『何で?』って、仲間に入りたいんだろ? 儀式みたいなもんだよ」
等々力「でも……」
高村「簡単だよ。ほら」
合図する高村。次々とジャンプし、階段の下に着地していく男子生徒達。
高村「ほら、な? さっさと飛べよ」
等々力「……」
震える等々力の膝。
高村「(呆れて)まぁ、飛べないならいいぜ? みんな、先行こうぜ」
等々力「ま、待って。飛ぶ、飛ぶから」
意を決し、ジャンプする等々力。着地に失敗し、足をひねる。
等々力「痛った~」
高村「だっせ」
階段の下で倒れる等々力の脇や、階段の上でその様子を見て笑う男子生徒達。
○公民館・中
舞から、足に湿布を貼ってもらう等々力。
等々力「階段、踏み外して」
舞「なるほどですね」
等々力「あの、一個聞いていいですか?」
舞「何でしょう?」
等々力「ココ、湿布貼るだけなんですよね?」
舞「はい。湿布貼るだけですよ」
等々力「えっと……何のために?」
舞「だって、自分で貼るより、誰かに貼ってもらった方が、治るような気がしませんか?」
等々力「え?」
舞「『手当て』って『手』を『当』てるって書くでしょう? 誰かに手を当ててもらった方が、きっと良いと思うんです」
等々力「……よくわかんない」
舞「なるほどですね。とりあえず、私の手当ては終わりました。もし、痛みが続くようなら、ちゃんと病院に行ってくださいね」
等々力「はい」
立ち上がり、出ていこうとする等々力。一度立ち止まり、振り返る。
等々力「あの……ありがとうございました」
舞「いえ、お大事に。今度来る時は湿布、持ってきてくださいね」
等々力「……また来てもいいんですか?」
舞「(一瞬不思議そうな顔をし)もちろん」
○マンション・外観
○同・等々力家・前
ドアの前に立つ等々力。ランドセルから鍵を取り出す。
○同・同・玄関
鍵が開き、入ってくる等々力。他に誰もいない。
等々力「ただいま」
○同・同・リビング
一人、テレビゲームをする等々力。
○同・同・同(夕)
一人、宿題をする等々力。
○同・同・同(夜)
一人、テレビを観ながら食事する等々力。
○小学校・外観
○同・前
一人で登校する等々力。周囲には友達同士で登校する生徒達。尚、等々力は普通に歩けている。
○同・教室
一人、席に座る等々力。高村の周りに男子生徒達が集まっている。
高村「みんな、サッカーやろうぜ!」
賛同し、高村についていく男子生徒達。等々力も立ち上がり、高村とも目が合うが、無視して出ていく高村。落胆し席に着く等々力。湿布を貼った辺りを触れる。
○(フラッシュ)公民館・中
向かい合う舞と等々力
等々力「……また来てもいいんですか?」
舞「(一瞬不思議そうな顔をし)もちろん」
○小学校・教室
一人、席に座る等々力。
○公民館・外観
等々力の声「ごめん下さい」
○同・中
中に入ってくる等々力。手には湿布。
奥からやってくる舞。
舞「あ~、昨日の。まだ痛むんですか?」
等々力「あ、そうじゃなくて(湿布を差し出し)昨日の分の湿布、返しに」
舞「なるほどですね。でも春日井さん、今日もう帰っちゃったからな~。じゃあ、私が預かっておきますね」
等々力「(意を決し)あ、あの!」
舞「はい?」
等々力「ぼ、僕にも手伝わせてください!」
舞「え? お手伝い、ですか?」
等々力「……あ、やっぱいいです。子供には無理ですよね」
舞「あ~、大丈夫じゃないですか? 湿布貼るだけですし。人手が増えるのは歓迎です」
等々力「いいんですか? 僕、ここに居ても」
舞「もちろん」
笑みを浮かべる等々力。
(完)
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