ボンジンストラッパー ドラマ

努力の報われない凡人の、逆襲の話です。
アズマカケル 7 0 0 10/25
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第一稿

登場人物

安谷凡太(17)……西高 3 年 1 組。元バスケットボール部員。
福森仁(17)……西高 3 年 5 組。
京極京美(28)……学習塾ブラックの社長。 ...続きを読む
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登場人物

安谷凡太(17)……西高 3 年 1 組。元バスケットボール部員。
福森仁(17)……西高 3 年 5 組。
京極京美(28)……学習塾ブラックの社長。
京極君彦(23)……学習塾ブラックの副社長。京美の弟。
神崎颯真(17)……西高 3 年 5 組。バスケットボール部員。
高山裕二(17)……西高 3 年 1 組。バスケットボール部のキャプテン。

試験官
神崎の取り巻き数人
教頭先生
数学教師
日直 バスケ部員A、B、C
女子生徒A
教授
警備員A



○帝城大学・キャンパス内(朝)
人が多い。
京美N「2020年、政府は新たな国立大学
を創設した。教授には国中の優秀な研究者、
著名人を集め、合格者は文系、理系それぞ
れ30人ずつ、またその順位を発表すると
いう、少数精鋭でかつ競争性の高い入試の
システムを導入」
大きい看板に書かれた昨年の入試結果、
1位から30位までの名前が順に書いて
ある看板が2枚(文系学部と理系学部)。
京美N「また近年、東大を抜き、日本で1位、
世界で3位の地位を獲得した」
『帝城大学2次試験会場』の看板。

○同・2号館
机上の青いグルトガ(シャーペン)と、
2次試験の問題用紙。
静寂。
京美N「ここが、天才のみが入学を許される
大学……帝城大学である」
試験官(声)「始め」

○西高・トイレ(夕)(日替わり)
神崎颯真(17)ら数人に蹴られ、いじ
められている福森仁(17)。
神崎、楽しそう。
神崎「(笑って)生まれた時から負け組です
! って顔してるよなお前! まあそうな
んだけど」
安谷凡太(17)、そこへ入る。
凡太「やめてやれよな! 神崎!」
神崎ら、凡太に気付く。
神崎「わー雑魚がもう1人、だる」
凡太「(ムカッと)雑魚っつったか」
神崎「うん」
凡太「勝負しろ」
神崎「は?」
凡太「バスケだ。1ON1だ。いいっしょ別
に。どうせ部活だしよ」
神崎「……(ボソッと)さぼりたいんだけど」
凡太「俺が雑魚じゃねー事証明してやんよ」
仁以外、去る。
仁「……」

○同・体育館(夕)
1ON1をしている神崎、凡太。
周りにもバスケ部員が対決を見ている。
神崎のフェイクにかかり、転ぶ凡太。
シュートを入れる神崎。
『神崎上手いな』『ボンだっさ』という
バスケ部員達の声。
凡太「(倒れたまま)ちくしょ……」
神崎「(凡太を笑い)ボンはセンスゼロだな
ー」
高山裕二(17)、体育館に入り、
高山「集合! 練習開始だ!」
部員達、集まる。凡太のように、すぐ集
まる人もいるが、大体はたらたら集まる。
高山「今確かに、我らがバスケ部は深刻な状
況にあるかもしれない! だが試合に勝つ
のは我々。絶対勝利の為にはディフェンス
が重要だ! 今日もディフェンスを磨くぞ
!」
神崎「(ため息)」
凡太「LACE THEM UP」

○凡太の部屋(夜)
ベットに座りバスケ雑誌を見ている凡太。
凡太「(ため息をつき)……」
凡太、ため息をつき、雑誌をめくると、
NBA選手の写真。
写真の隣にその選手の名言、『練習は、
決して裏切らない』

○西高・体育館横の道路(朝)(日替わり)
高山、登校中、体育館で1人バスケの自
主練をしている凡太を見る。
高山「(凡太を見て)……」

○同・3年5組
授業中。仁と神崎のいるクラス。
仁、窓の外を眺めている。
仁の机のみ、落書きがされていて、汚い。
後ろの黒板、全国模試の結果が貼ってあ
る。神崎、全国1位であり、そこにマー
カーが引かれている。
チャイムが鳴る。

○同・進路指導室
座っている、安谷凡太(17)、その向
かいは、教頭先生、高山。
机の真ん中に、缶ビールが1つ。
気まずい雰囲気。
教頭「だから! これ(缶ビール)が部室に
あったんだ!」
凡太「俺じゃねーって!」
教頭「お前だという証言がある!」
凡太「……なあ、裕二……!」
高山「……全員、お前だと言っている」
凡太「……そんな」
教頭「今回は退部で許してやる。だが次はな
いからな!」
凡太「……あー、こりゃ、悪ぃの俺かも」
教頭「当たり前だ!」
凡太「(小声で)俺がよえーのが悪い」
凡太、退室。

○商店街(夕)
を歩く仁。
仁、黒地のポスターを発見し、見る。

○道路(夕)
を歩く凡太。
凡太、黒地のポスターを発見し、見る。
ポスター、『帝城大専門 学習塾ブラッ
ク 受験で手にする絶対勝利』という宣
伝文句と、その下に住所が書かれている。
凡太「絶対勝利……」
凡太、住所を写メで撮り、走り出す。

○ブラック・外観(夕)
凡太、ブラックに着く。

○同・2階(夕)
に飛び込む凡太。
凡太「今度こそ! 俺は勝ちたい!」
中には京極京美(28)、京極君彦(2
3)、仁。
凡太「仁……お前も……!」
仁「君、部活は」
凡太「……やめさせられたんよ」
仁「もし、かして……バスケ部の、飲酒問題
の犯人って……」
凡太「……」
君彦「え、飲酒?」
凡太、仁と君彦を無視して、
凡太「(京美に)俺はこん塾入る!」
京美「この塾は帝城大専門だ」
凡太「うん知ってる」
京美「ならどうして帝城を目指す?」
凡太「やるからには勝って1番にならなきゃ
いけねえ。だからだ」
京美「そこの眼鏡は」
仁「ぼ、僕……自分を、変えたくて……」
君彦「うん、うん、そうだね。じゃあ僕は京
極君彦って言います。よろしくね」
京美「コイツの姉の京美。2人とも、ようこ
そ、地獄へ」

○メインタイトル「ボンジンストラッパー」

○ブラック・3階(朝)
T『AM6:00』
時計、鳴る。
布団で寝ている凡太、仁、起きるが、凡
太は眠たそう。
京美(声)「起きろー!」
と入り、
京美「起きないとどうなるか分かってる?!
 ボン!」
京美の手にはスタンガン。
仁「それ、もっと起きないやつ」

○西高・3年1組
T『AM11:08』
授業中。
凡太、授業を聞かず、参考書に取り組ん
でいる。
凡太の机上に積まれた参考書。背には全
て、『京極京美』の文字がある。

○ブラック・2階
T『PM4:15』
勉強中の凡太、仁。
×   ×   ×
T『PM7:54』
夕食を食べながら京美の歴史の授業を受
けている凡太、仁。
×   ×   ×
画面右上にT『AM3:00』
勉強中の凡太、仁。
京美「はい終了ー!」

○ブラック・3階(深夜)
T『AM3:09』
2枚、布団が敷かれている。
凡太「お布団……」
それぞれの布団に倒れる凡太、仁。

○ブラック・2階(夜)
京美「ていう1日の流れ」
時間が書かれた円グラフを見せながら京
美、凡太と仁に話している。
君彦、ソファで寝ころんでいる。
仁「死にます、持ちません」
君彦「うち完全に合宿型だからね。結構つら
いよ~」
凡太「ふーん、それで受かるんか? 勝ち戦、
できるんか?」
京美「最近学校で模試の結果配られたでしょ。
あったら出して」
凡太、仁、模試の結果を京美に渡す。
『冬季ベナッセ模試』とかかれた凡太と
仁の模試結果。国数英、2人とも偏差値
40から50台。
京美「……(見ながら)2人は、勉強の才能
ゼロ」
凡太「なぬ」
君彦「凡太と仁、2人でボンジンって事か」
京美「だから確実に受かる、なんて事はない。
でもやらなきゃ絶対受からない。それも精
神を病むぐらい」
凡太「上等よ。なんでもやってやんよ」
仁「僕なんかにそんなこと……」
凡太「おい仁! そんな弱気じゃ変われねえ
ぞ! 神崎に馬鹿にされたままだぞ!」
仁「でも彼は、天才だし……」
君彦「えっと~その神崎ってもしかして、天
才高校生神崎颯真?!」
仁「はい」
君彦「うわ~知り合いなんだ!」
凡太「天才?! あいつ切れ者か?!」
仁「高校生活、今までの模試、全国1位しか
とったことない。割と有名」
凡太「しか?!」
仁「そう、しか」
京美、机を叩き、
京美「他人の事考える余裕なんてないから。
自分の為だけに! この10か月、捧げな
さい」
凡太「LACE THEM UP! 分かっ
てる。俺は俺の為だけにやる」
京美「そうとなったら早速これ」
京美、2人の机に問題用紙を1枚ずつ置
く。
凡太、仁、筆記用具を取り出し、書き出
すが、凡太は短い鉛筆、仁はボールペン。
京美、凡太と仁の筆箱を取って覗くが、
中身がスカスカ。
京美「授業中、どうやってノート取ってた」
凡太・仁「ノート……」
京美「じゃあ授業中何してた今まで」
凡太「睡眠!」
仁「雲を、眺めてました」

○文房具店(夜)
いるのは凡太と仁。
2人の商品かごには文房具が入っている。
凡太「俺はコイツ。マスターグリップ」
凡太、赤色のマスターグリップ(シャー
ペン)を商品棚から手に取る。
仁「(迷い)僕は……」
凡太「そんなチンタラしてっからお前は  」
仁「これ。グルトガ。格好いい」
仁、青のグルトガに見とれている。
仁、それを商品棚から手に取る。

○道路(夜)
をビニール袋を持って歩いている凡太、
仁。
凡太「絶対あれよな。ブラックってブラック
企業とかの意味よな。超詰め込み教育! 
みてーな」
仁「塾の、名前?」
凡太「そ!」
仁「あんなにたくさん、勉強できるのかな」
凡太「……お前はそーゆーとこ、変えに来た
んじゃねーんか」
仁「うん。まあ」
凡太「おめーは変われるぜ。できる奴だぜ」
仁「(驚き)え?……」
凡太「ん?」
仁「いや……」
凡太「俺よりゃは下だけどな? 俺は絶対1
番なるけどな?」
仁「君は、勝ちに拘るんだね」
凡太「(遠くを見て)……人より強くなんな
きゃ、痛い目に遭うのは自分さ」
仁「(少し不思議に)……そう」
凡太「LACE THEM UP!」
仁「何なの。それ」
凡太「好きなバスケ選手の言葉。やってやろ
うぜ! みてーな?」
凡太、仁、ブラックに着く。
仁「(ブラックを見上げ)LACE THE
M UP……」

○ブラック・2階(夜)
勉強中の凡太、仁、凡太の手にはマスタ
ーグリップ。仁の手にはグルトガ。

○西高・3年5組(日替わり)
仁、ノートの切れ端をちぎり『変わる』
と書く。
仁「……」
仁、『変われる』と書き直し、その紙を
折り、シャーペンの中の隙間に差し込ん
でいる。
数学教師「福森」
仁、集中していて聞こえず。
仁が差し込み終わったころ、
数学教師「福森!」
仁、驚き、音を立てながら席を立つ。
周り、くすくす笑っている。
数学教師「問3、分かるか」
仁「(焦って)……えー……」
神崎「360通りです」
数学教師「正解だ、流石、全国1位は違うな」
周り(仁以外)、おー、と感嘆。
数学教師「福森! 全く……神崎を見習え!」
仁「(座り)……すいません」
神崎、仁の方を見て軽く笑う。

○同・体育館(夕)
バスケ部の練習中(休憩中)、高山、神
崎もいる。
神崎、周りと楽しくおしゃべり中。
高山、外に凡太がいるのが見える。
高山、一瞬凡太と目が合うが、タイマー
が鳴り、目をそらす。
高山「次スリー面!」

○ブラック・2階(日替わり)
制服姿で勉強している凡太、仁。
4月のカレンダー。
×   ×   ×
カレンダー、1枚めくられ5月に
私服姿で勉強している凡太、仁。
京美「止め!」
凡太、仁、手を止める。
京美「出発」

○模試会場(どこかの大学)・入口付近
人が多い。
会場に入る凡太、仁。
京美(声)「帝城大は2回試験があって、勿
論両方を突破すると、合格」

○同・教室
黒板に時間割が書いてある。
京美(声)「君達文系は、国英数ⅠAⅡB日
本史世界史地学生物の7科目」
凡太、仁、席に着く。2人、離れた席。
×   ×   ×
静かに試験官の声を待っている受験者達。
凡太、口周りを掌で覆い、人差し指で頬
を叩いている。
仁、眼鏡拭きで眼鏡をふいている。
京美(声)「今度の模試は、実際の2次試験
を想定した、帝城大志望者、専用の模試」
試験官「始め」
×   ×   ×
髪をくしゃくしゃする凡太。
×   ×   ×
ペンを動かすが、止まる仁。
仁、周りの雑音が大きく聞こえてくる。
思わず耳をふさぐ仁。
×   ×   ×
後ろから答案が回収されている。
凡太、後ろから答案が回り、見ると、答
案がびっしり埋まっている。めくり、他
の生徒のも見るが、やはり埋まっている。
自分の空白が多い答案を重ね、前に回す。
凡太、前の女が凡太の答案を見てかすか
に笑うのを見る。
凡太「(むかつき)……」

○試験会場近くの道路(夜)
を歩いている凡太、仁。
凡太「くそっ!」
と、電柱を蹴る凡太、しかし足を痛がる。
仁「(眼鏡をふきながら)……やっぱり無謀
だ……あんなの、無謀だ」
凡太、少し歩くとバスケットコートで子
供たちがバスケをしている様子が見える。
凡太「(それを見て)……」
仁「(凡太を見て)行かないの?」
凡太「(仁に気付かず、コートを見て)……」
仁「(少し大きく)行かないの?」
凡太「(気づき)おう」
と、仁についていこうとするが、
仁「そっちじゃなくて」
凡太「へ?」
仁、コートを指す。
凡太「アホウか仁! べんきょー」
と、仁についていく。
神崎(声)「おーい!」
凡太、仁、前方に神崎が見える。
仁「……神、崎!」
神崎「(近づき)……え? え? 何でいる
の? え?……あ! もしかして  」
凡太「帝城受けるんよ。俺ら」
神崎「(わざとらしく)うっそー!」
神崎、凡太の単語帳を奪う。
凡太「おい!」
神崎「(読み)……ハッ! これ中学レベル」
凡太、神崎から単語帳を取り返す。
凡太「なんの御用だ天然パーマ」
神崎「いやいやいや……お前達が……(笑っ
て)帝城って!」
凡太「おめーが思ってっよりべんきょーして
っからな!」
神崎「帝城って、勉強する人入れないと思う
な僕」
凡太「……頭、わいてんのか?」
神崎「まあいいや。説明するのめんどくさい」
仁「(神崎を睨み)……」
神崎「お前らが頑張っても無駄だって。な?」
神崎、通り過ぎようとする。
仁「(下を向き)……」
凡太「待てい神崎!」
神崎、止まる。
凡太「お前、か?……いーや、そーなんだろ」
神崎「ん?」
凡太「俺様、売ったの」
仁「売った?」
神崎「……僕、世界で1番嫌なんだよねえ、
お前みたいな、馬鹿な夢見てる奴。できな
い奴は、いくら頑張ってもできないっつー
の!……だからさ」
凡太「……てんめー」
神崎、去る。
凡太「(大声で)いっくら模試でテッペンで
もなぁ! 今年のあの看板、いっちゃん上
載んの! ズバリ俺だかんな!」
神崎、構わず去っていく。
仁「ねえ」
凡太「……ん?」
仁「違う」
凡太「……何処が」
仁「い、1番は……僕、だ」
仁の握っていた眼鏡、強く握られている。
凡太、ニヤリと笑み。

○ブラック・2階(夜)
凡太、仁。勉強中。京美と君彦もいる。
京美「それ本当だから」
凡太「へ?」
京美「普通帝城なんて、勉強しなくても勉強
できる奴、がいくところ。神崎とか」
君彦「ま、天才ってやつ? 1回教科書見た
ら全部覚えちゃう! みたいな。あでもホ
ントにいるからねそーゆー人」
凡太「なぬ」
仁「生まれた時から、勝ち組……」
京美「しかし!」
凡太「ん?」
京美「(ホワイトボードに書きながら)15
60年。信長の兵力は5千、対する今川義
元の兵は2万5千。にもかかわらず、信長
が奇襲をかけ、勝利した」
凡太「桶狭間!」
君彦「正解」
京美「(ホワイトボードに書きながら)19
04年。日本軍20万、ロシア軍300万。
また、国家の歳入はロシアが20億で日本
が2.5億。しかし勝利したのは日本」
仁「日露戦争」
京美「正解。いい? どんな戦いでも、努力
と工夫で勝つことはできるの。これは歴史
が証明してる」
凡太「……おう」
仁「(頷き)はい」
凡太、仁、机に向かう。
君彦「はい、ちょっと1回ストッープ」
凡太、仁、手を止める。
君彦「ようやく僕達も、君達の傾向がわかっ
てきたんだ。少しアドバイス、いい?」
凡太「ん!」
君彦「まず仁。これからは何を解くにも、時
間を計りながら解こう。プレッシャーに弱
いからね」
仁「……はい」
君彦「次ボン。ボンは今までの復習をしよう。
間違えた問題、テキトーな理解で終わって
るところが多すぎる」
凡太「……俺は前に進まなきゃなんねえ。復
習なんてそんな暇––」
京美「自分の弱いとこから逃げるの?」
凡太「違う俺はただ、さっさと上行かねえと
!……ムズい問題解かせてくれ?!」
京美「ここで焦らない」
凡太「……焦るぐらいが丁度良いんよ」
京美「……」

○西高・3年1組(日替わり)
休み時間、教室で1人勉強している凡太。
男子A「おいボン! 次体育」
と、廊下から男子A・Bが来る
凡太「……(解きながら)ん」
男子B「行くぞー」
凡太「……(解きながら)ん……ん?」
凡太、右手首に違和感を感じ、曲げたり
押したりしてみる。特に何もない。
男子A「おまえさ、帝城受けるってマジ?」
凡太「マージよ、大マジ」
男子A、B、笑う。
凡太「……ん?」
男子B「いやいや、変な夢見るなって」
凡太、急に男子Bの胸倉をつかみ、
凡太「……俺この島国で、いっちゃん賢くな
るんよ」
男子B「(たじろぎ)お、おう」
凡太、胸倉を掴むのを止める。
男子A「え、もしかして結構受かりそう?」
凡太「(少し間を置いて)イージーゲームさ
! よっしゃ体育館行くぞ?」
3人、賑やかに教室を前の扉から出る。
後ろの扉から凡太を見ていた高山、凡太
の席に行くと、机上に積まれた参考書か
らはみ出た、模試の結果が見えている。
『判定 E』という文字が見える。
高山「(それを見て)……」
高山、教室を出ようとするが、凡太の席
に戻り、はみ出した模試結果を教科書の
間に隠し、はみ出さないようにする。

○同・3年1組前の廊下
3年1組の教室をでる高山。
バスケ部顧問「(駆け寄り)あ! 裕二!…
……大変だ」
バスケ部顧問、数枚の紙を高山に渡す。
高山「(それを見て)え……!」

○ブラック・2階
京美、授業準備をしているが、ウトウト
している。
コーヒーを2つ持ってきた君彦、眠たげ
な京美に気付き、1つを京美の机上に置
く。
京美、起き、コーヒーを見てすぐに、
京美「寝てないから!」
君彦「何にも言ってませんけど~?」
京美、悔しそうに君彦を見る。
京美、作業に戻り、一瞬コーヒーを見る
が、飲まず、また作業に戻る。
君彦「飲めばいいのに」
京美「(無視)」
君彦「別にさ? それ飲まなくたって2人の
成績変わんないよ?」
京美「今日の生物23ページからね準備宜し
く、ATPとADPの所」
君彦「(そんな京美を見て)自分の為だけに
! この10か月を捧げる」
京美「?」
君彦「って言ってる人が、意外と他人思いだ
ったり」
京美「仕事」
君彦「(笑い)はいはい」

○西高・3年5組
休み時間。
高山「神崎!」
と入り、女子数人と話していた神崎の元
へ。高山は数枚の紙を持っている。
周り、高山に注目し、静かに。
周りの静けさで、勉強していた仁も高山
に気付く。
高山、神崎の前に1枚の紙を突き出す。
その紙は『退部届』。神崎の名前が書か
れている。
神崎「(迷惑そうに)いや僕だけじゃないし」
高山「知ってる。でも神崎なんだろ!」
神崎「(迷惑そうに)何が?」
高山「最初にこれを出した奴だ!」
神崎「……皆さ、もう疲れたんだよお前に」
高山「……このメンバーでウインターカップ
出るって……!」
神崎「ほらほらほらそういうのそういうの!
 行けるわけないってー今時熱血かよ」
高山「……お前が抜けたら誰がガードをやる
?!」
神崎「(笑って)いやー、さ、そもそも試合
出れる人数残ってる?」
高山、驚き、紙を数え始める。
神崎「14引く~……」
高山「(紙を数えながら)……9、10」
神崎「あー残念! 1人足りないね」
高山「……」
神崎「ボンでも誘ったら?」
高山「……そんなこと言える立場か!」
神崎「はあ?! お前だって犯人僕ってわか
ってたのに、ボンのせいにしてたじゃん」
仁「(小さく)……ボンのせい?」
高山「ただ俺は、チームが勝つために……!」
神崎「勝利の為には、罪がない奴を犠牲にし
ていい。だって使えないのが悪い。弱いの
が悪い。実力ないのが悪い! そうだよね
! 僕もそう思う!」
×   ×   ×
凡太「(遠くを見て)……人より強くなんな
きゃ、痛い目に遭うのは自分さ」
×   ×   ×
仁「……」
高山「……チームを守るためだ。お前が辞め
ると……難しい試合も、ある」
神崎「大事なのは、ディフェンスだもんね」
チャイムが鳴り始める。
神崎「まあ辞めるんだけど」
神崎、机上の退部届を高山に差し出し、
神崎「チャイム鳴ってる」
高山、渋々それを受け取り、去る。
神崎「(周りに)あ!……これオフレコでよ
ろしくー」
神崎、仁と一瞬目が合うが、そらす。

○ブラック・2階(日替わり)
学校帰り、制服姿で入口に立っている凡
太、仁、何かを見ている。
凡太「あれは……何ぞ」
仁「……目標」
凡太「夏休みって何日あるんか」
仁「35」
凡太「……(問題が出る風に)デン! 24
掛け35!」
仁「(冷静に)840」
ホワイトボード、『夏休み! 目指せ1
000時間勉強!』と書かれている。
凡太・仁「……」
×   ×   ×
(日替わり)
勉強中の凡太、仁。
京美、丸付けした小テストを2人の机上
に置く。
凡太、自分の49点のテストを見る。
凡太、仁のテストを盗み見る。
仁のテストは81点。
仁、嬉しそう。
京美「(2人に)しっかり復習すること」
凡太「……」

○同・3階(深夜)
布団に飛び込む凡太、仁。
しかし凡太、起き、単語帳を開く。
凡太、また右手首に違和感を感じる。曲
げてみると、凡太、痛そうな顔。

○同・2階(日替わり)
時間が動いているストップウォッチ。
その隣で、仁、グルトガで勉強中。
入室する凡太、右手首に包帯が巻かれて
いる。
京美、仁、それに気づく。
仁「それ」
凡太「……ああなんか腱鞘炎? っつーの?
 大げさなんよあそこのドクター命に別状
ねーし」
仁「大丈夫?」
凡太の机上には赤いマスターグリップ、
凡太「心配すんなら、シャーペン、交換どう
よ? 俺のマスグリよりそっちのグルトガ
の方が手首に優しい感じある」
仁「それは、断る」
凡太「えなんで?」
仁「僕これ、気に入ってる。他人に貸したく
ない、大事な物」
凡太「……ケチ!」
京美「怪我したからってさぼらない」
凡太「分かってっから今日の問題教えろ?」

○西高体育館横の道路(日替わり)
走っている凡太、仁。
その前方、自転車に乗っている京美。
京美「(振り向き)遅い!」
凡太「何でんな事しなくちゃ……」
仁「(息を切らして)体力も大事、らしいか
らね」
凡太、体育館を見ると、高山らが部活動
をしているのが見える。
凡太「(それを見て)……」
凡太、体育館を振り切るようにスピード
に上げる。

○西高・体育館
高山を含め、バスケ部員4人が部活動中。
部員A「(高山に)ホントに大丈夫なんすか
? 5人いないととエントリーできないっ
すよね?」
高山「……ああ。大丈夫だ」

○神崎の部屋
神崎、机に向かい、赤本を見ながらノー
トに丸付けをしている。
ノートの問題、9割程、丸。
神崎、赤本を閉じ、
神崎「あ~~、だる」
神崎、部屋を出る。
赤本の表紙、帝城大学の文字がある。

○ブラック・2階(日替わり)
京美、模試結果を仁の前に置く。
総合偏差値、65、と書いてある。
京美「……まあまあ」
君彦「いやーでもすごいよ! 一気に上げた
ね!」
京美、模試結果を凡太の前に置く。
総合偏差値、57、と書いてある。
京美「論外!」
凡太「……次は、ぐんと伸ばしてやんからよ」
京美「なら復習をしろ」
×   ×   ×
(日替わり)
凡太、仁、勉強中だが、凡太は眠たげ。
京美、辞書の角を凡太の頭にぶつける。
凡太、痛がる。

○ブラック・3階(深夜)(日替わり)
凡太、仁、外側を向いて寝ている。
凡太、布団横のリュックの傍に、模試結
果があり、見ると、志望校、全てE判定。
凡太、少し涙ぐんでくる。
その紙を手で握り潰しながら、ゆっくり
と目をつぶる。
凡太「……(小声で)もうバスケしてえ」
仁、起きていて、その声を聞く。
凡太と仁の間にある単語帳2冊と、その
上にそれぞれ乗った赤のマスターグリッ
プと青のグルトガ。

○西高・3年5組(日替わり)
数学の授業中。
仁、ブラックの参考書に取り組んでいる。
数学教師「えーよって、この答えは何だ? 
福森」
仁、気づかず。
数学教師「福森!」
仁、驚き、立つ。
数学教師「(黒板を指し)この問題」
仁「(黒板をじっと見て)……」
神崎「Aが0未満の時2つ、0以上の時3つ」
周り、『おー』という称賛の声。
仁「……え……いや」
数学教師「座れ福森。座って授業聞け」
仁「え……」
数学教師「どうした?」
仁「あの……」
数学教師「腹でも痛いのか?」
生徒達、笑う。
仁「違います」
数学教師「なら早く座れ」
仁「いや、あのそうじゃなくて……答えが、
違います、神崎君の。多分」
神崎「?!」
仁、とぼとぼと黒板の前に行き、板書を
書き直す。
仁「(書きながら)ここ、交わるはずないで
すよね。こうだから……だから、答えは、
Aが0未満の時2つで、0以上の時、1つ」
神崎、自分の間違いに気づき、ハッとす
る。
数学教師「……おお、ホントだ」
神崎、仁を睨む。
周りの『おー!』という声。
神崎、仁を睨む。
数学教師「神崎珍しいなーこんなうっかり」
神崎「(笑顔で)そうですね、すいません」
神崎、平然を装っているが、貧乏ゆすり
をしている。

○同・3年1組
昼食の時間。
凡太、購買のパンを食べながら、勉強し
ている。
凡太、誰かに肩を叩かれ、
凡太「(勉強しながら)……ほい」
と振り向く。

○同・男子トイレ
胸倉を神崎に掴まれている仁。
神崎の周りには数人の男子生徒。
神崎「すこーし成績上がったぐらいで調子乗
るなよ? 雑魚」
仁「僕は……変わる」
神崎「変わる?」
仁「……お前は変われる、やれるって言われ
たんだ。生まれて初めて。思い付きかもし
れないけど……いや多分、そうだけど」
神崎、仁の、グルトガを挟んだ単語帳を
取り、仁の胸倉を離す。
仁、その拍子に倒れる。
神崎、グルトガを外し、単語帳をパラパ
ラ見る。
神崎「僕分かるよ。今頃こんな内容やっても
遅いね。お前変われないね、できないね!」
神崎、単語帳を仁に投げる。
仁「それ……返して」
神崎「は?」
仁「……それは、僕のペンだ。大切だ」
神崎「あ、そう」
神崎、グルトガを小便器の中へ放る。
仁、弾いてそれを阻止し、床に落ちたグ
ルトガを取る。
神崎、軽く笑い、去る。
神崎の去り際に、
仁「……僕は君に、勝つ、よ」
神崎、踵を返し、仁に一発蹴りを入れる。
高山(声)「無理だ」

○同・体育館
の端に座っている凡太、高山。
周りには遊んでいる西高生達。
凡太「無理じゃねえ」
高山「帝城だ。俺だって知ってる」
凡太「流れ、意外と俺にあっかもよ?」
高山「見栄張るなボン」
凡太「あ?」
高山「お前が上手くいってないことぐらい知
ってる」
凡太「勝手に決めてくれるな?」
高山「勝手に模試の結果を見た」
凡太「……うわー、それ、セクハラもん」
高山「戻らないか? ボン。バスケ部」
凡太「へ?」
高山「もう一回バスケやるぞ」
凡太「へ?!」
高山「勿論……あの時はすまなかった……分
かってた、お前がそんなことする奴じゃな
いって……本当に……すまない」
凡太「……」
高山「今、部員4人なんだ」
凡太「4人?!」
高山「神崎達がそろって辞めた。このままだ
とウインターに出れない」
凡太「……ああ」
高山「……先生には俺が何とか言う。だから
お願いだ!……戻ってきてくれないか」
バスケットボールが2人の元へ転がる。
凡太、立ってそれを取り、女子生徒Aに
パス。
女子生徒A「ありがとうございます」
凡太、座る。
凡太「例えば今の、裕二ならもっと上手くこ
なしてたろ?」
高山「は?」
凡太「もっと胸に近い場所で、下回転もクル
っとかけて。ズバッ、と。スピード高いけ
ど、強いって訳じゃない、柔らかい感じ」
高山「俺は、キャプテンだからな」
凡太「裕二と違うんだ俺、だから、見栄張ん
ねーとやっていけない時、あるんよ?」
高山「まあ……分かるけど」
凡太「(即座に)おめーには分かんねえ!」
周り、少し驚く。
高山「……」
凡太「ぜってー分かんねーよ! 分かってた
まるかよ! ざけんな!」
チャイムが鳴る。
放送、掃除5分前のアナウンス。
体育館にいる人、減っていく。
凡太「上手いことやってきたおめーには……
ぜってーぜってー分かんねー!」
高山「……」
凡太「どうせよ、人数合わせってオチなんだ
ろ?」
高山「……」
凡太、歩き始める。
高山「お前は戻ってくるよ」
凡太、立ち止まる。
高山「確かにボンは下手だ。けど! それで
も1番練習してただろ!……結局お前はバ
スケが好きだ! そうだろ!」
凡太「(無理に微笑み)そーじのお時間」
凡太、また歩き始める。
高山「放課後体育館来い!……俺は待ってる
!」

○道路(夕)
凡太、歩いている。学校からの帰路。
凡太、バスケットコートがあるのを見る。
凡太「……」
凡太、コートへ向かう。
後ろからその姿を見る仁、何か凡太に声
をかけようとするも、かけず。

○ブラック・2階(夕)
仁、勉強中。京美と君彦もいる。
君彦「今日ボン遅いね。いつも早く来るのに」
仁「(ペンを止め)……」
京美「(仁を見て)……?」
凡太、入室。
君彦「あ、ボン」
凡太「ホームルーム長すぎたんよ許してくれ
?」

○同・3階(深夜)
寝ている凡太。
目をつぶっている仁、目を開ける。
×   ×   ×
コートへ向かう凡太の姿。
×   ×   ×
仁、目をつむる。

○同・2階(深夜)
いるのは京美と君彦。
京美「志望校?」
君彦「うんだってさ、正直難しいよ。帝城っ
てそう簡単なもんじゃないよ」
京美「2人の志望校は変えない。ここはそう
いう塾」
君彦「まあ……仁なら分かるよ? でもボン
は……」
京美、1枚の白紙とペンを取る。
京美「放物線ね」
君彦「放物線?」
京美、紙にX軸とY軸を書く。
京美「X軸を時間、Y軸を成績とすると、神
崎はこう」
京美、高い位置に、X軸と平行の直線を
書く。
京美「天才だけど、成長はしない」
君彦「うん」
京美「でも、あの凡人2人はこう」
京美、下に凸の放物線を書く。
京美「今は神崎より下。微分してみると、確
かに成長も遅く感じる。だけどいつかは」
京美、直線と放物線の交点に丸を付け、
京美「ぶつかる」
君彦「……間に合う?」
京美「間に合う。私は信じるよ。ボンと仁を。
それに自分も」

○西高・3年1組(夕)(日替わり)
生徒達、立っている。
日直「ありがとうございました」
生徒達「ありがとうございました」
生徒達、帰り始める。
凡太、少し遅れて帰り始める。

○道路(夕)
を歩く仁。学校からの帰路。
仁、バスケットコートを覗くも、誰もい
ない。

○ブラック・2階(夕)
勉強中の仁。
京美と君彦もいる。
君彦「今日もホームルーム遅いのかな」
京美「仁、どこにいる?」
仁「……いや、分かりません」
京美「ホントは知ってるんじゃないのか」
仁「いや……あ、でも……もしかしたら」

○西高・廊下(夕)
を運動着で歩いている凡太。

○道路(夕)
をバイクで飛ばしている京美、君彦。
君彦は仁と2人乗り。
君彦「バイク初めて?」
仁「(怖がり)は……はい!」
君彦「そっかだったら怖いよねー。でもちょ
っと飛ばすね!」
京美、君彦、スピードを上げる。
仁、叫ぶ。
歩いていた神崎、仁に気付く。
神崎「(バイク2台を見て)……?」

○西高・体育館前(夕)
高山含め、4人が練習前のミーティング。
高山「いいか! 勝利を得るにはディフェン
スが重要だ!」
凡太、来る。
高山「今日もディフェンス中心(凡太に気付
き)……ボン!」
他の部員3人も凡太を見る。
凡太「おう」
高山「やっと目が覚めたんだな」
凡太「……ん」
他の部員3人、嬉しいような、気まずい
ような。
高山「よし! まずアップからだ!」
京美(声)「たのもー!」
凡太、振り返ると京美、君彦、仁がいる。
仁は眼鏡拭きで眼鏡をふいている。
君彦「(小声で)すいません失礼しまーす」
凡太「は?!」
高山「誰だ?」
部員A「(近づき)あのー、どなたですか」
京美「京極京美28歳学習塾ブラック社長」
部員A「……はあ」
高山「(呟き)塾の講師か」
京美「私達は、ボンを迎えに来た!」
凡太「……」
高山「何故?」
京美「私の生徒だから」
高山「またボンに勉強させる気なのか? (
笑い)帝城大」
仁、眼鏡をふく手が止まる。
京美「そうだけど。悪い?」
高山「ボンが日本で30番に入るとでも?」
仁「(ムカッと)……」
部員B「(呟き)神崎じゃあるまいし……」
部員C「(呟き)ほんとだよ……」
高山「何事も無駄な戦はしない方がいい。そ
れを分かっていたからボンはここに来たの
だ」
凡太「……」
仁、眼鏡をかけ、眼鏡拭きはポッケへ。
仁「(ムカッと)……」
京美「無駄?」
高山「ああそうだ。我々とバスケットをする
方が遥かにボンのためになる」
仁「……」
×   ×   ×
神崎「僕分かるよ。今頃こんな内容やっても
遅いね。お前変われないね、できないね」
×   ×   ×
高山「諦めろ」
仁、落ちているバスケットボールを、高
山に投げる。
ボールは高山の足に当たる。
高山「(痛がり)っ!」
凡太「仁!」
仁「(我に返り)……」
高山「何をする?!」
仁「……(緊張して)せ、責任押し付けとい
て、何がボンのためだ! あれか! 使い
捨てカイロか!……ん? というか!……
えっと……できないとか無理とか!……そ
ういうの皆うるさい!……うるさいうるさ
いうるさい黙れ!」
一同「……」
仁「(また我に返り)……あ、え……いやそ
の……」
君彦、笑いをこらえている。
神崎、来る。
神崎「あのー」
一同、神崎に気付く。
凡太「神崎、なんで」
部員A「次から次にもう……」
神崎「あのーおばさん? 不法侵入ですけど」
京美「京極京美28歳学習塾ブラック社長!
(28歳を強調して)」
神崎「そっか、この人が帝城行けなんて2人
に言っちゃってる訳か」
君彦「僕も」
神崎「勉強やめなよ、僕みたいに才能ないで
しょ」
高山「……その通りだ––」
神崎「じゃなくて」
高山「?」
神崎「いやお前はバスケも才能ないし、なん
かほかのことやれば? このご時世学歴だ
けがすべてじゃないし」
君彦「……(イライラ)すいませんねーうち
の生徒はあなたみたいに才能なくて」
京美「……あのねえ、ちょっと才能あるから
って、あんたみたいなのは最後トップに立
てないよ」
神崎「それはどうかなー」
京美「最後に勝つのはうちの教え子だから。
できるから!……世界中誰もが無理と言っ
ても私はそれを信じるから! 底辺の思い
してきたやつ舐めんな!」
凡太「(京美を見て)……」
神崎「わー怖い」
京美「仁、君彦、行くよ」
君彦「ボンは?」
京美「(ボンに)ボンの意志でここに戻るの
ならそれでいい。でも帝城に受かりたいな
ら……さぼった罰で今日は夕食抜きだ」
京美、君彦、仁、去る。
残された一同「……」
神崎「僕も帰ろっかな」
神崎、去る。
凡太「(遠くを見て)……」

○ブラック・2階(夜)
仁、京美の解説を受けている。
京美も君彦もいる。
京美「だから、この段落で筆者の意見が  」
京美、手を止め、入口を見る。
仁と君彦も入口を見る。
いるのは凡太。
君彦「ボン」
凡太「……ABCからご教授願うぜ?」
京美・君彦「(ニヤリ)」
凡太、自分の机に模試結果が置かれてい
るのに気づく。
凡太、結果を見ると『帝城大 判定 D』
京美「全然まだまだ」
凡太「フンッ! LACE THEM UP
だ!」

○西高・3年1組(日替わり)
昼休み。
購買のパンを食べながら、ノートを使っ
て勉強している凡太。
高山、凡太の所に来る。
凡太「おう」
と、ノートを閉じる。
高山「……」
凡太「なんだよ」
高山「ほんとに、そうするのか」
凡太「……俺、初めてかもしんねーんだ」
高山「?」
凡太「(遠くを見て)……人にできるって言
われたの」
高山「……そうか」
凡太「悪ぃな」
高山「いや……」
凡太「あんさー、俺追い出してまで勝ちたか
ったんよな? おめー」
高山「……」
凡太「だったら勝てよなウインター予選。お
めーつえーし。他に人集めてよ」
高山「……当然だ。我がチームのディフェン
スは固い」
凡太「ディフェンスねえ」
凡太の机上のノート。表紙に『復習ノー
ト①』の文字。
凡太(声)「そーゆー系、今まで逃げてたか
んな」

○ブラック・2階(日替わり)
勉強中の凡太、仁。
×   ×   ×
(日替わり)
君彦、凡太に講義中。
君彦「そこに1つ過去完了があるでしょ––」
×   ×   ×
(日替わり)
京美、仁に講義中。
京美「違うのはここ! ミッドウェーは––」

○同・3階(深夜)(日替わり)
布団に飛び込む凡太、仁。

○同・2階(日替わり)
『ボン』と『ジン』のスペースに仕分け
されている棚。
そこに2人の使ったノートが次々に積み
重なっていく。
×   ×   ×
(日替わり)
勉強中の凡太、仁。
仁の手には青のグルトガ。
凡太の手には赤のマスターグリップ。
凡太、シャー芯が切れる。
仁、それに気づき、自分のを2本、凡太
の机に置く。
凡太「……サンキュ」
×   ×   ×
(日替わり)
模試の結果、帝城大『C判定』。
その紙を持っているのは……凡太。
凡太「っしゃ! マイエイジ到来!」
仁も、帝城大B判定の模試結果を持って
いる。
京美、自分の机をどんと叩き、
京美「甘い! 受かってから喜べ!」
凡太、仁、黙って勉強に戻る。
2人の服、完全に冬物になっている。

○西高・3年1組(夕)(日替わり)
帰りのHR中、勉強している凡太。

○同・3年5組(夕)
帰りのHR中、勉強している仁。
神崎、スマホでゲームをしている。

○ブラック・2階(日替わり)
君彦、2枚の紙を持っている。
凡太、仁、どことなく緊張している。
君彦「えー昨年度のー! 帝城大1次試験、
2次試験……2人とも合格!」
凡太・仁「……っ(嬉しさこみ上げ)」
京美「っしゃあ!!」
3人、京美を見る。
京美「あ……」
君彦、笑う。
凡太、仁、見合って笑顔。

○同・3階(早朝)(日替わり)
T『1次試験当日』
6時のアラームが鳴る。
青のグルトガを握りしめて寝ていた仁、
ガバッと起きる。
仁に続き、凡太もガバッと起きる。

○帝城大学・キャンパス前(朝)
受験生や、それを応援する大手の塾の講
師達が大勢。
歩いている凡太、仁、京美、君彦。
君彦「なんかさー、アウェー感、凄いね」
凡太「俺らアウェー位がいい感じさ」
4人、入口の前で立ち止まる。
4人「……」
君彦、少しずつ、泣き始める。
君彦「ごめんちょっと無理」
と、隅へ。
凡太「ええ! おいおい……そりゃないぜ?
!……」
3人「……」
京美「……ボンと仁、2人は、よくやった。
勉強時間もその内容も、日本の中で1番で
しょう、それは確実に」
凡太、仁、頷く。
京美「しかし! 帝城大は天才のみが受かる
場所。努力が意味を持たないと、言われて
いる場所。勉強なんてしなくても、点数を
取る奴らしか、いない」
凡太、仁、頷く。
京美「(親指を下に向け)……そいつら全員、
引きずりおろせ」
仁「はい」
凡太「LACE THEM UP!」

○同・キャンパス内(朝)
受験票を手に、歩く凡太と仁。
仁「……君彦さんから聞いたんだけど、ブラ
ックって、ブラック企業のブラックとは違
う、らしい」
凡太「へ?」
仁「名前の由来。学習塾『ブラック』の」
凡太「……ああ、え?! じゃ他に何があん
だよ」
仁「京美さんが、ブラックのコーヒー大好き
だから、ブラック」
凡太「飲んでるとこ……見たことなくね?」
仁「我慢、してるらしい」
凡太「えー体に悪かったか?! コーヒー。
だったらヨーロッパ人––」
仁「違う」
凡太「ん?」
仁「我慢してるのは、僕達が受験勉強、始め
てから」
凡太・仁「……」
凡太「……別に、んなことしても俺らの成績
変わんねえよ?」
仁「……うん」
凡太「……1時間目って国語かあ」
仁「そう、嫌だな、国語」
凡太「フン! ビビり!」
仁「……(ボソッと)見栄っ張り」
凡太「(ニヤリ)弱虫」
仁「……単、細胞」
凡太「今日は言うねえ、アホ」
仁「へそ曲がり」
凡太「クソ真面目」
仁「ちび」
凡太「ビビり」
仁「それ2回目」
凡太「腰抜け!」
仁「負け組」
凡太・仁「(立ち止まり)……」
凡太「行くぞ」
仁「(即座に)うん」
凡太、右に、仁、左に曲がる。

○同・4号館(朝)
試験開始を待つ受験者たち。
机上の赤のマスターグリップ、シャー芯、
消しゴム、問題用紙。
凡太、口周りを掌で覆い、人差し指で頬
を叩いている。

○同・2号館(朝)
試験開始を待つ受験者たち。
机上の青のグルトガ、シャー芯、消しゴ
ム、問題用紙。
仁、眼鏡拭きで眼鏡を拭いている。
仁の離れた席に神崎もいる。
静寂。
試験官「始め!」

○道路
を歩く京美、君彦。どこか緊張している
様子。
京美、道を外れる。
君彦「どこ行くの?」
京美「買い物」
君彦「……あそう」

○帝城大学・2号館
グルトガを使い試験に取り組んでいる仁。

○同・4号館
マスターグリップを使い試験に取り組ん
でいる凡太。
試験官(声)「終了」
凡太、手を止める。
凡太、自信ありげに頷いている。

○ブラック・2階(夜)
回転する椅子に座り回転している君彦。
君彦「京美姉遅いなー」
外は日が暮れている。

○帝城大学・2号館前(夜)
仁、出てくる。どこか浮かない表情。
夜空。

○ブラック・外観(日替わり)
T『1次試験 結果発表日』

○同・2階
京美が1人、スマホとタブレットに向か
っている。
どちらとも帝城大学の1次試験の結果発
表のページ。ログインはされていない。
京美「(深呼吸)……」
京美、スマホの方にログインする。
京美「(スマホを見て)……」
京美、タブレットの方にログインする。
京美「(タブレットを見て)……」

○道路(夕)
を単語帳を読みながら歩いている仁。

○ブラック・2階(夕)
に駆けこむ凡太。
凡太・京美「(目が合い)……」
凡太、京美の机に行き、スマホとタブレ
ットを見る。
凡太「(見て)……」

○神崎の部屋(夕)
ベッドに横になり漫画を読んでいる神崎。
傍らのスマホの画面、帝城大学の1次試
験結果。合格している。
神崎、起き上がる。

○道路(夕)
を歩いている凡太。
凡太「……ちくしょ」

○ブラック・2階(夕)
仁、入る。
京美もいる。
仁「……」
仁、机に勉強道具を置き、座り、ペンを
動かし始める。
仁、手が止まり、もう一度手を動かすが、
また止まる。
仁「……結果は」
京美、スマホとタブレットを持つ。
仁、急いで勉強道具を引き出しにしまう。
京美、スマホとタブレットを仁の机に置
く。
仁、スマホとタブレットを見る。

○道路(夕)
を歩いている凡太。
凡太「(半泣きで)……ちくしょ、ちくしょ
! ちくしょ!……何で!……」

○ブラック・2階(夕)
スマホ画面に凡太の結果、タブレット画
面に仁の結果。
凡太、1次合格。仁、不合格である。

○道路(夕)
を歩いている凡太。
凡太「(半泣きで)なんで!……」

○ブラック・2階(夕)
結果を見ている仁。

○大きい公園・入口(夕)
下を向き、歩いている凡太。

○道路(夕)
仁、下を向き、歩いている。足取りは重
たく、立ち止まる。

○帝城大学・2号館(回想)
英語の試験に取り組んでいる仁。
仁、手が止まる。
仁「……」
仁、周りの音が大きく聞こえる。
京美(声)「焦るな!」
仁、周りの音が静まり、ページをめくっ
たり、書いたりと、手が動くも、
仁「(手が止まる)……」
仁が見ているのは英語の長文問題。
仁、再び、周りの雑音が大きく聞こえて
くる。
見えていた英字がぼんやりとしてくる。
仁「(苦しい)……」
(回想終わり)

○道路(夕)
仁「……」
仁、再び歩き始める。
公園にいる凡太、仁を見つける。
その瞬間、自転車に乗っている神崎、
神崎「(仁に)おーい!」
仁、気づく。
凡太、公園の門に身を隠す。
神崎「(笑い)1次、どーだった? 仁君?」
仁「……君は?」
神崎「僕が落ちるはずないじゃん! お前ら
とは違うんだし!……ってごめーん勝手に
決めつけて」
仁「良かったね」
神崎「お前は? お前どうだったの? ねえ
?!」
仁「……」
神崎「(笑い)ねえ?!」
仁「落ちたよ」
神崎「……へえ……え?! あんなにやって
落ちたの?!……うわー可哀そ」
凡太、何か言おうとするが、我慢する。
仁「うん。落ちた」
神崎「(高らかに笑う)」
仁「……」
神崎「だから僕、お前らに言っただろ? 頑
張っても無駄だって」
仁「……」
神崎「受験終って気分どう?」
仁「別に」
神崎「(笑い)そう……まああれだ! 残念
!」
神崎、自転車を飛ばす。
仁、凡太を見つける。

○川沿いの道路(夕)
凡太、仁、順番に石を蹴っている。
凡太「……あいつマージ最低ファックよな」
仁「……誰」
凡太「あの天才」
仁「……聞いてたんだやっぱり」
凡太「ウルトラ聞いてた」
仁「……私立の滑り止めは、受かってるから」
凡太「仁だもん、とーぜんさ」
仁「今日ブラックを出るよ。夜に荷物取りに
行く」
凡太「……ん」
仁の蹴った石、川に落ちる。

○ブラック・2階(夜)
勉強している凡太。
仁、入る。
仁「2人は?」
凡太「買い物」
仁、勉強道具をリュックにしまう。
仁、去り際に、泣き始める。
凡太、手を止める。
仁「(泣きながら)……結局僕は、変われな
かったのかな」

○同・階段(夜)
レジ袋を持った京美と君彦、仁の声が聞
こえて、立ち止まっている。

○同・2階(夜)
いるのは凡太、仁。
仁「(泣きながら)負け組は、負け組のまま
なのかな……」
凡太「……」
仁「(泣きながら)天才には、敵わないのか
な……」
凡太「……」
仁「ごめん、もう行く」
仁、去る。

○同・階段(夜)
降りている仁、京美と君彦に気付く。
仁「……今まで、有難うございました」
仁、去る。
京美・君彦「……」
京美、拳で壁をたたく。

○同・2階(夜)
凡太「(ペンを止め)……」
凡太、ベランダへ出る。

○同・ベランダ(夜)
凡太、仁を見つける。
凡太「(叫び)おい仁!……俺がしょーめー
すっぞ!……凡人でもテッペン登れっこと
! 俺がぜってー! しょーめーする!」
仁、凡太を振り返り、作ったような笑顔
を向ける。

○凡太の勉強の日々(モンタージュ)
ブラック2階のホワイトボードの文字『
2次まであと11日』
×   ×   ×
(日替わり)
君彦の授業を受けている凡太。
隣の席に仁はいない。
×   ×   ×
(日替わり)
西高の卒業式。単語帳を読んでいる凡太。
ぼーっと遠くを見ている仁。
×   ×   ×
(日替わり)
京美に怒鳴られている凡太。
×   ×   ×
(日替わり)
ブラック2階で勉強している凡太。
(モンタージュ終わり)

○ブラック・2階(夜)(日替わり)
勉強している凡太。
ホワイトボードの文字『2次まであと1
日』
京美「はい終わり!」
凡太、手を止める。
京美、ホワイトボードの『あと1日』の
ところを『あと0日』に変える。
京美「……ボン」
凡太「ん」
京美「来年はないから」
凡太「俺が浪人するわけ!」
京美「……5月、ゴールデンウィークに、ブ
ラックは仙台に移動するの」
凡太「……へ?!」
京美「東京だと大手に客取られるの。こんな
小さい所くるガキなんてあんたら馬鹿位よ。
(ブラックの参考書を手に)この印税だけ
っていうのも生活難しいし?」
凡太「……あそ」
京美、冷蔵庫から酒を取り出し、グイっ
と飲む。すると酔ってヘロヘロに。
凡太「おいおいおいおいおーいおい?!」
京美「(酔って)ほんっとありがとねぇ。こ
こに入ってくれて」
凡太「……」
京美「(酔って)んなこと素面じゃいえない
でしょう!」
凡太「……おやすみー……ってことで」
凡太、逃げるように3階へ行く。

○仁の部屋(深夜)
教科書やらの荷物の整理をしている仁。
仁、手が止まる。
×   ×   ×
勉強道具をリュックにしまっている仁。
×   ×   ×
仁「あの時……いやでも…‥いいや」
仁、布団に入り、目を閉じる。
仁「……」
×   ×   ×
凡太「(叫び)おい仁!……俺がしょーめー
すっぞ!……凡人でもテッペン登れっこと
! 俺がぜってー! しょーめーする!」
×   ×   ×
仁「(目を開け)……」
仁、起き上がり、スマホを手に取る。

○ブラック・3階(朝)(日替わり)
6時のアラームが鳴る。
凡太、がばっと起きる。
×   ×   ×
凡太、制服に着替えている。
京美(声)「先に車出してるから!」
凡太「りょーかい!」
凡太、単語帳をパラパラとめくるも、集
中できず。
凡太「(寝っ転がり)あー……こえー」
凡太、携帯を開くと、メッセージが数件
来ている。仁から。
メッセージ一件目『あの、』
メッセージを見る凡太。

○京美のトラック(朝)
運転は君彦、京美、凡太もいる。

○帝城大学・キャンパス前(朝)
『帝城大学2次試験会場』と書かれた白
い立て看板。
生徒や保護者、塾講師が多いが、1次試
験の時よりは少ない。
凡太、京美、君彦もいる。
凡太「んじゃ、行ってくるわ」
京美、頷く。
凡太、会場へ。

○同・2号館(朝)
受験生で教室が半分ほど埋まっている。
座って勉強している凡太。
隣に神崎が座る。
神崎「(ニヤリ)そーいや、あいつ落ちたな」
凡太「(ムカつき)……」
神崎「(冗談交じり)次はお前の番?」
凡太「……1つ、賭けしよーぜ」
神崎「賭け? 何? (笑い)1ON1?」
凡太「俺が1番で受かったら! 仁みてーな
超頑張った奴認めろ?」
神崎「なーんかアバウトだなー。で、そうじ
ゃなかったら?」
凡太「……他の奴が1番になったら、2番以
下で受かっても、俺は帝城に行かない」
神崎「……乗るに決まってんじゃん」

○道路
を歩く、京美、君彦。
京美、道を外れる。
君彦「京美姉?」
京美「用事。先帰ってて」

○帝城大学・2号館
試験前の静寂。
凡太、口周りを掌で覆い、人差し指で頬
を叩いている。
凡太、一回深呼吸。
凡太、今まで言われた、『できない』『
無理だ』という声が聞こえてくる。それ
らはどんどん大きくなってくる。
凡太「……」
突然、声が一気に消え、
仁(声)「あの、」

○ブラック・3階~階段~2階(朝)(回想)
仁からのメッセージ1件目『あの、』
凡太「(スマホを見て)……」
凡太、立ち上がり、階段へ
仁(声)「僕、忘れ物をして」
階段を下っている凡太。
仁(声)「多分、僕の机の中に、あると思う
んだけど」
2階に着く凡太。誰もいない。
仁(声)「もういらないから、君にあげる」
凡太、仁の机上にスマホを置き、仁の椅
子を引く。
スマホのメッセージ画面と共に、
仁(声)「証明してくれ、ボン」
凡太、机の中を見る。
(回想終わり)

○帝城大学・2号館
机上の青いグルトガ。
凡太M「……とーぜんさ」
試験官(声)「始め」
凡太、グルトガを手に取る。

○神社
京美、一人で手を合わせている。
その姿を君彦、発見する。
君彦「(京美を発見し)いた」
君彦、京美の隣に並び、手を合わせる。

○帝城大学・2号館(夜)
黒板の文字『最終科目 数学』
数学を解いている凡太。詰まっている。
解答用紙、最後の問題のみ完全に空白。
凡太、口周りを掌で覆い、人差し指で頬
を叩き始める。
凡太M「ルート外しても余って、相加相乗?
……そもそも判別式Dが0以下……」
凡太「……」
凡太M「……いーや、じゅーよーなのは……
ディフェンスか?」
凡太、笑みを浮かべ、見直しを始める。

○仁の部屋(夜)
小説を読みながら、時計を見ている仁。
時刻は18時59分56秒、57秒。

○帝城大学・2号館(夜)
凡太の机上の腕時、18時59分58秒、
59秒、19時。
見直し中の凡太。
試験官「止め」

○神社(夜)
祈っていた京美、目を開ける。
京美「(隣で祈っている君彦に)そろそろ行
くよ」
君彦「(目を開け)うん」
京美、君彦、神社を出ていく。
夜空。

○ブラック・2階(日替わり)
T『合格発表日』
凡太、仁、京美、君彦、PC画面を見て
いる。帝城大学のホームページ。
京美、凡太の結果を見ようとログイン。
4人「(緊張して)……」

○神崎の部屋
神崎、帝城大学の入試結果を見ようとパ
ソコンでログインする。
PC画面の『ただいまサーバーが混み合
っています』の文字。

○ブラック・2階
PC画面の『ただいまサーバーが混み合
っています』の文字。
凡太「……(ブラックを飛び出す)」
君彦「え! ちょっと!……」

○帝城大学・キャンパス内
に駆けていく凡太。
人で賑わっている。
神崎もいる。
広場には今年の入試合格者の順位の載っ
た看板がある。
凡太・神崎「(それを見て)……」

○ブラック・2階
PC画面の『ただいまサーバーが混み合
っています』の文字。
京美、君彦、仁、落ち着かない。
京美の携帯に電話。
凡太から。
京美「(応答して)ボン……どうだった」

○帝城大学・外観(日替わり)
帝城大学の入学式の白看板がある。

○同・大講堂
生徒や保護者が着席している。
神崎の姿も。
教授「えーそれではですねー、入学式の最後
に、スピーチを新入生にお願いしたいと思
います。皆さんご存知の通り、入学式の最
後のスピーチは文系学部の1位の方とさせ
ていただきます。えー今年の1位は! 外
の順位表に乗っている通り…………」

○同・キャンパス内
文系学部の順位表の看板がある。
順位表、1位が凡太で、2位が神崎。
教授(声)「安谷凡太君です!」

○同・大講堂
会場の拍手。
神崎の真後ろに座っていた凡太、立ち上
がる。が、凡太、スマホを見ている。
教授「それではこちらへお越しください」
凡太、スマホを見ている。
教授「あの~」
凡太、スマホを椅子に置き、ステージの
方に行こうとするが、立ち止まり、出口
へダッシュ。
会場、ざわつく。
教授「と、止めろー!」
警備員A、凡太を止めようとするが、
凡太「(突き飛ばし)許せおっちゃん!」
教授「(唖然とする)……」
神崎、振り返り凡太のスマホ画面を見る。
神崎「(スマホ画面を見て)……」
×   ×   ×
凡太「俺が1番で受かったら! 仁みてーな
超頑張った奴認めろ?」
×   ×   ×
神崎「……あーもうめんどくさいなー」
神崎、立ち上がる。
神崎「……安谷凡太は僕です。僕が1位です。
あんなチビが1番なんてありえない!」
教授「ええ?!」
神崎「だからスピーチは僕がする!」
教授「……はあ」
凡太「へっ。サンキュ」
と、大講堂を出る。
凡太の椅子にあるスマホ画面、仁とのラ
インがある。
仁のメッセージ、『気づいたら早くブラ
ックに来て。』『仙台に塾を移すの、今
日だって。早まったって!』

○ブラック・前
へ駆けてくる凡太。
いるのは仁。
凡太「(息を切らし)……行っちまったか?」
仁「いや、多分(車庫を指さす)」
車庫からトラックが出てくる。
運転席には京美、助手席に君彦。
京美「あのー邪魔なんですけどー!」
凡太「(立ち止まり)……」
京美、クラクションを鳴らす。
凡太、頭を深々と下げる。
凡太「……ありがとうございました!」
京美「……」
仁、窓からビニール袋を京美に渡す。
京美、ビニール袋からブラックのコーヒ
ーを出す。
京美「え……」
仁「僕達頑張る間、京美さんも、我慢してた
んですよね」
京美「……なぜ、知ってる」
仁、君彦を指す。
君彦、慌ててヘッドホンで音楽を聴き始
める。
京美「(君彦に)こいつ……!」
仁「缶で、ごめんなさい」
凡太も車の横に行く。
京美「……ボン! 仁!」
京美、車のエンジンをかける。
京美「お前らはその名の通り凡人だ! だか
らな! いい大学入ったくらいで油断する
な! 人生まだまだ長いぞ!……心してか
かりなさい!」
凡太・仁「(感極まり)……」
仁「はい」
凡太「LACE THEM UP!」
京美「(ニヤリ)」
京美、トラックを走らせる。
                了

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