傷ついてIを知る 恋愛

君島希彩(26)は、商社マン古屋友行(27)と交際中。彼は高校のテニス部の先輩で、社会人になって再会し、付き合うことになった。しかし、希彩は自分の気持ちを偽っていた。全ては、友行と仲の良い同じテニス部の先輩、時田煌星(27)に近づくためだった。そしてまた、友行にも秘められた想いが……
佐藤そら 146 1 0 06/30
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第一稿

登場人物
・君島希彩(26)(16)…会社員
・古屋友行(27)(17)…希彩の彼氏
・時田煌星(27)(17)…友行の同級生
・糸井卯月(26)…希彩の会社の同僚

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登場人物
・君島希彩(26)(16)…会社員
・古屋友行(27)(17)…希彩の彼氏
・時田煌星(27)(17)…友行の同級生
・糸井卯月(26)…希彩の会社の同僚

・園崎真美(17)…テニス部の先輩
・神主(50代)


○クマノミの水槽
   水槽を泳ぐ数匹のクマノミ。

○タイトル
   『傷ついてIを知る』

○居酒屋『すずらん』(夜)
   2021年8月、東京。
   君島希彩(きみじまのあ)(26)と糸井卯月(26)が飲んでいる。
希彩「お疲れー!」
卯月「マジフォロー助かったー。こっちが冷凍食品みたいに口が凍っちゃったわよ。希彩みたいに仕事ができる女は、プライベートも充実してるってね?」
希彩「えっ?」
卯月「ちょっと、ごまかさないでよ。希彩付き合ってるんでしょ? 商社マンの古屋さんと。噂になってたよ」
希彩「あぁ……」
卯月「何よそれー! 順調なんじゃないの?」
希彩「あぁ……まぁ……」
卯月「うちの会社に出入りしてる商社マンが、希彩の高校の先輩とはね。運命じゃない!」
希彩「そうなのかなぁ?」
卯月「よりによって、わたしがいない時に古屋さん来てたんでしょ? みんな結構なイケメンって言ってたよ?」
希彩「まぁ、そうなのかな?」
卯月「そうだ! 写真見せてよ!」
希彩「え……。写真は……ないよ」
卯月「嘘でしょ!? そんなわけない!」
希彩「ほら、そういうの、あんまり好きじゃなくて……」
卯月「えー? 信じらんない。じゃあ、今度うちの会社来た時は絶対教えてよね!」
希彩「あ、うん……」
卯月「わたしも学生時代に、捕まえとかないといけなかったのよ」
希彩「……」
卯月「その商社マンと付き合ってどのくらいだっけ?」
希彩「付き合いはじめてからは、3カ月とか」
卯月「今、一番ラブラブな時期でしょ?」
希彩「えっ?」
卯月「何それ! 幸せボケ?」
希彩「でも、忙しそうで、そんなに会ってないんだよね」
卯月「会ってない!? 恋人なのに!?」
希彩「でも、先輩だから、知ってる人なわけだし……」
卯月「人は見かけによらないって言うじゃない? 仕事が忙しいっていうのは、だいたい怪しいのよ」
希彩「まだ……、手も繋いだことないっておかしい?」
卯月「(立ち上がり大声で)えーー! 今時そんな男いるの!?」
   周囲から、注目が集まる。
   周囲を気にして静かに座ると、
卯月「希彩、それ、間違いなく浮気してるよ! 悪いことは言わない。一度調べた方がいい!」
希彩「まさか」
卯月「彼の部屋、行ってちゃんと調べた方がいいよ」
希彩「う、うん……」

○道(夜)
   希彩が一人歩いている。
   月を見上げる。
希彩の声「彼とは、もともと同じ高校の先輩と後輩だった……」

○(回想)綺羅西高校・テニスコート(夕方)
   夏、高校の部活動。硬式テニスをしている学生達。
   テニスをする古屋友行(17)の後ろ姿。
希彩の声「先輩はテニス部でも1、2を争う人気者。正直それ目当てで入部した子もいただろう。頭が良くて勉強も教えてくれた。でも先輩は、テニスしか見てなかった」
   隣のコートから転がってくるテニスボール。
   友行は拾うと、ボールを取りに来た時田煌星(こうせい)(17)に手渡す。
   逆光になり、見づらい二人の横顔。
希彩の声「わたしが見ていたのは……」
   テニスラケットをギュッと抱きしめる希彩(16)の手。

○(回想)道(夜)
   月を見上げる希彩。
希彩の声「月だけが、まるで何もかも見てるかのように、わたしに今日までついて来る」

○道(夜)
   月を見つめている希彩。
希彩「人は見かけによらない……か」

○希彩の家(アパート)・部屋(夜)
   スマートフォンを手にする希彩。
   友行に電話をかける。
友行の声「もしもし、どうした?」
希彩「あ、もしもし友行? 今仕事忙しい?」
友行の声「まぁ、ぼちぼち?」
希彩「あのぉ……さぁ。今度、友行の家、行ってもいい?」
友行の声「えっ? あぁー」
希彩「(被せて)あ、別に忙しいとかだったら、あの……」
友行の声「いいよ」
希彩「! えっ……行っていいの?」

○友行の家(マンション)・玄関前
   チャイムを鳴らす希彩。
   扉が開き、友行(27)が出て来る。
友行「いらっしゃい(笑顔)」
希彩「(様子を窺いながら)お邪魔しまーす」

○同・リビング
   しっかり片付いて、不必要なものが全くない、さっぱりとした部屋。
希彩「(見渡して)……」
   水槽が置かれており、クマノミが数匹泳いでいる。
希彩「クマノミ? 好きなの?」
友行「うん、まぁ。俺も自由に泳ぎたい……そう思ってね」
希彩「? クマノミかわいいもんね」
友行「うん……」
希彩「今度、水族館にでも行こうよ」
友行「そうだね。行こう」

○同・書斎
   奥の部屋を覗く希彩。
友行「そこは一応、書斎」
希彩「あぁ、うん」
友行「仕事ので、ごちゃごちゃしてるけど」
   棚の上に写真が飾られている。
希彩「?」
   写真を見る希彩。
   高校時代のテニス部の写真。
   友行と時田が隣同士に楽しそうに写った写真。
希彩「時田先輩!」
友行「あぁ、それね」
希彩「時田先輩って、今何してるの?」
友行「今、北海道で働いてるよ。営業のノルマが大変なんだってさ」
希彩「そう……。北海道なんだ」
友行「?」
希彩「まだ、今でも交流あるんだね?」
友行「あぁ、まぁ、時々? でも最近は、どうしてんだろうな? あんまり知らないかな」
希彩「ふーん……」
   辺りを見回し、
希彩「それにしても、随分とすっきり、さっぱりした部屋なのね?」
友行「男の部屋なんて、こんなもんだろ?」
   棚から難しそうな本を手に取り、
希彩「もっと女性の写真集とか、ポスターとか、あるかと思った」
友行「(笑って)なんだよそれ」
希彩「もしかして、わたしが来るって聞いて片付けた? 流行りの断捨離?」
友行「そんなことないよ。掃除はちょっとしたけど」
   友行のスマートフォンが鳴る。
友行「うわっ、会社からだ……」
希彩「わたしには、どうぞお構いなく……」
   友行が電話する姿を確認して、書斎を出る希彩。

○同・洗面所
   警戒しながら小走りにやって来る希彩。
   きょろきょろ見回す。
   洗面台に歯ブラシは一本。
   開けられる引き出しなどを全部確認。
   女の影はない。

○同・風呂場
   風呂の戸を開け、中を見る希彩。
   シャンプーやボディーソープなど、チェックするが女の影はない。

○同・寝室
   ベッドの下や周りの引き出し、クローゼット、何もなさそうなところまで覗き込む希彩。
   一カ所鍵のかかった引き出し以外確認し、
希彩「もう! 何もないじゃない!」

○道(夜)
   並んで歩く、希彩と友行。
   友行の手をチラッと気にする希彩。
希彩「……」
   前を見たまま歩いている友行。

○駅前(夜)
希彩「今日は、ありがとう」
友行「こちらこそ。せっかく来てくれたのに、ごめんね。途中で仕事入っちゃったりしてさ」
希彩「いいよ。忙しいことが証明されたし」
友行「えっ?」
希彩「いや、なんでもない」
友行「じゃあ、今度は水族館で」
希彩「うん。楽しみにしてる」
   手を振り別れる希彩と友行。

○メイオーフーズ・オフィス
卯月「(大声で)はぁあ!? 抱かれなかったの!?」
希彩「ちょ、ちょっと、卯月声大きい!」
   周囲から、希彩と卯月に注目が集まる。
希彩「!」
卯月「!」
   隅へと希彩を連れて行く卯月。
  ×  ×  ×
卯月「怪しさしかないじゃない! 今時そんな昔の男いる? 浮気は?」
希彩「それが全然。女の気配もない。部屋もシンプルで、まさに男の一人暮らしって感じだったの」
卯月「(納得いかない様子で)えぇー?」
希彩「わたし、彼の目を盗んで、寝室やクローゼットの中までチェックしたんだからね?」
卯月「うーん……」
希彩「まぁ、高校時代はテニスまっしぐらだったし、勉強に仕事に、恋愛なんてしてこなかったんじゃないかな?」
卯月「にしてもじゃない?」
希彩「あっ……」
卯月「えっ、何!? それ、それよ! はい、キタ!」
希彩「クマノミ、飼ってた」
卯月「クマノミ?」
希彩「うん。リビングに一つ水槽があってね。そこにはクマノミが泳いでたの」
卯月「魚類……好き?」
希彩「うーん……。これまでそういう話、聞いたことなかったんだけど……」
卯月「てか、希彩もおかしいよ! これでいいの!?」
希彩「えっ?」
卯月「草食だか、絶食だか、知らないけどさ。もう精進料理じゃない? 悟り開いてんじゃないんだから」
希彩「……」
卯月「そう考えると、案外、昔みたいに言い名付けがいた方が幸せなのかもね?」
希彩「?」
卯月「ほら、必死に婚活しなくてもいいわけだし、相手探す労力いらないし、どんな人かもある程度保証されてるわけだから」
希彩「……。(独り言を呟くように)でも、本当に好きな相手がいいよね、やっぱり」
卯月「!?」

○水族館・館内
   希彩と友行が水族館を回っている。
希彩「水族館で魚見た時、友行はおいしそうって思ったことある?」
友行「(笑って)何それ。俺は水族館ではあんまり思わないけどな」
希彩「水槽の中覗いて、かわいいとか言っちゃってさ。その後、平気で魚食べてんだよ? 人間って怖いわ」
友行「泳いでる魚も、食べようとしてる魚も、姿が同じなのに見る視点が違うと、まるで別物なんだろうな」
希彩「(考えた様子で)……」

○同・サメとイワシの水槽前
   サメが泳ぐ水槽。
   同じ水槽にイワシの群れ。
希彩「わー綺麗ね」
友行「知ってる? イワシって、近くに捕食者がいないと群れにならないんだよ」
希彩「え、そうなの!?」
友行「集団で行動すれば、一匹に狙いを定めにくいだろ? だから皆、まるで統一されたかのように群れになるんだ」
希彩「へぇー」
友行「一匹だけで違う動きをしていたら、すぐに見つかってしまう。だからこうやって、自分を守ってる……」
希彩「でも、こんな狭い世界だったら、ずっとピリピリしてないといけないじゃない!」
友行「そうかもな」
希彩「(水槽に向かって)お疲れ様です」
友行「この世界が、天敵のいない平和な世界なら、みんな自由に、もっと自分の道を行くさ」
希彩「もっと自由に……」
友行「……」
希彩「友行って、魚に詳しかったんだね?」
友行「え、そう?」
希彩「高校の時、魚のイメージなかったから」
友行「あー。まぁ、確かにそうかもな?」

○同・クマノミの水槽前
   小さめの水槽にクマノミが泳いでいる。
希彩の声「友行、クマノミだよ!」
   小走りで水槽に近づく希彩。
   水槽横には、クマノミがオスからメスになる過程が書かれたパネル。
   チラッと横目で見る希彩。
希彩「? そんな変化するんだ……」
   友行が水槽を見つめ、
友行「やっぱり、クマノミはいいな」
希彩「うん」
   クマノミを覗き込むように、二人の距離が近づき、互いの手が触れる。
希彩・友行「!」
   そのまま手を繋ぐ希彩と友行。
希彩「……」
   隣にいる友行の顔をチラッと見る。
   友行の顔は、クマノミを見つめており、ポーカーフェイス。
希彩「……」

○道(夕方)
   希彩と友行が恋人繋ぎで、歩いている。
希彩「ねぇ、手……離してもいい?」
友行「え……。あ、うん……」
   歩きながら、二人の手が離れる。
希彩「(自分の指を触りながら)ほら、男の人の指って太いから、疲れちゃって……」
友行「そう?」
   自分の手を見つめる友行。

○メイオーフーズ・オフィス 食堂
   昼食をとっている希彩と卯月。
希彩「水族館って、どういう場所だと思う?」
卯月「そりゃ、デートする場所でしょ!」
希彩「わたしも、そう思ってたんだよね」
卯月「え、何? また噂の大昔男商社マン?」
希彩「(笑って)何その言い方」
卯月「だって」
希彩「水族館って、学ぶところでもあるんだよね。魚を。同じなのに見る視点が違うと、まるで別物なのかな」
卯月「希彩、ホントに悟り開いてんの?」

○友行の家・リビング
友行「希彩にプレゼントがあるんだよ」
希彩「えっ? 何?」
友行「手、出して」
   希彩の手に合い鍵を渡す友行。
希彩「!」
友行「これからは、いつ来てもいいよ」
希彩「ありがとう」
友行「ちょっと、近所散歩しない?」
希彩「うん?」

○神社
   境内を歩く希彩と友行。
   大きなイチョウの木がある。
友行「ここのイチョウ、大きいだろ?」
希彩「わー立派ね」
友行「イチョウの木は、生きた化石って呼ばれてるんだよ」
希彩「昔からあるんだっけ?」
友行「大昔から今に至るまで、ほとんど姿を変えずに生きてるんだってさ」
希彩「へぇー」
友行「そうだ、ここで写真撮らない?」
希彩「えっ!?」
友行「ほら、記念にさ」
希彩「なんの記念?」
   自撮りでツーショットを撮る二人。
   写真を確認して嬉しそうな友行。
   それを見て、少しホッとした顔の希彩。

○希彩の家・部屋(夜)
   ベッドに倒れ込む。
   握った手を開くと、友行から貰った鍵。
希彩「きっと、こうやって深まっていけばいい。それで……いい。だよね?」

○アパート
   綺羅西高校付近にあるアパート。
   引越し屋の車が止まっている。
   中へと運び込まれていく荷物。

○同・部屋
   荷物で溢れた部屋。
   段ボール箱を開ける男性の手。
   中を覗くと、すぐに蓋を閉じ、押し入れへと持って行く。
  ×  ×  ×
   持ち上げた段ボール箱が少し傾き、中からテニスボールが飛び出し、床に転がる。
   転がった先にあったスマートフォンが鳴り、メッセージが届く。
   開くと、希彩と友行が神社で撮ったツーショット写真。

○友行の家・玄関前(夜)
   帰宅した友行が扉を開ける。
   明かりが付いており、
友行「!?」

○同・キッチン(夜)
   希彩が料理を作っている。
友行「ただいまー? あっ、来てたんだ(にっこり)」
希彩「うん、おかえり。もう食べて来ちゃった?」
   冷凍の豆腐ハンバーグの袋がある。
友行「これ、ひょっとして希彩が今担当してるもの?」
希彩「そうなの。本当のお肉みたいよ」
  ×  ×  ×
希彩・友行「いただきます」
   食事をする二人。
友行「なんかこうしてると、夫婦みたいだな?」
希彩「!? そう、だね」

○同・リビング クマノミの水槽(夜)
   水槽を泳ぐ数匹のクマノミ。
   クマノミを見つめる希彩と友行の顔。
   水槽越しに二人の顔が重なる。
   キスされ、動揺した希彩。
希彩「あっ……」
友行「どうした?」
希彩「明日の会議の資料……直すところがあったんだった」
友行「えっ?」
希彩「ご、ごめん。今日、帰るね」
   あたふたしながら部屋を飛び出す希彩。

○友行の住むマンションの前(夜)
   マンションから飛び出してくる希彩。
   下から友行の部屋の方を見上げ、
希彩「……」
   逃げるようにその場を走り去る。

○希彩の家・洗面所(夜)
   帰宅した希彩が口を洗っている。
   そのまま顔を洗い、ずぶ濡れの顔のまま、鏡に映る自分を見つめている。

○メイオーフーズ・オフィス
   仕事をしている希彩。
   卯月がバタバタとやって来て、
卯月「希彩、さっき古屋さんが来てたんだって!? なんで教えてくれないのよ! またわたしだけ見逃してるじゃない!」
希彩「えっ?」
卯月「まさか、来てること知らなかった? なわけ、ないよね?」
希彩「(動揺しながら)いや? そんなまさか……」

○道(夜)
   会社を出た希彩が歩いている。
   友行が誰かと一緒に、角を曲がる瞬間を目撃。
希彩「友行!? えっ、誰……?」
   後を追う希彩。

○公園(夜)
   テニスボールを地面に弾ませる時田(27)。
   その横には友行の姿。
   追って来た希彩が二人の姿を見つけ、
希彩「(大声で)時田先輩!?」
   振り返る時田と友行。
希彩「あっ……!」
時田「えっ!? 君島?」
友行「(驚いた様子で)なんで、ここに?」
希彩「(しどろもどろで)あっ、いや、今日うちの会社来てたんだね? たまたま見かけたもんでさ。そのぉ……」
友行「そうだったんだ」
時田「君島、元気だった? 久々だなぁ」
希彩「お久しぶりです……。時田先輩にまた逢えるなんて、ホントびっくりです!」
時田「そうだよなー。テニス部の奴らとなんて随分会ってねぇもんな」
友行「確かにそうだな」
時田「今から三人で飲みに行く?」
希彩「えっ!?」
時田「ちょうど、これからもう一軒くらい、二人で行こうかって話してたところでさ」
希彩「じゃあ、この近くで、よくわたしが行くとこがあるんですけど、行きます?」

○居酒屋『すずらん』(夜)
希彩「ここ、仕事帰りとか、よく同僚と来るんです」
時田「へぇー」
希彩「東京に戻って来てたんですね? いつからこっちに?」
時田「いや、まだ引っ越したばっかなんだよ。9月からこっちの部署でさ」
希彩「あっ、そうなんですか」
時田「うん。だからまだ、家ん中ぐっちゃぐちゃでさ。片付けもできてない」
希彩「(笑顔で)そうなんですね」
友行「(希彩の様子を見て)……」
時田「ってか、お前ら付き合ってたんだな」
希彩「(我に返った様子で)あっ……」
時田「いつの間に。実は高校の時からとか?」
友行「いや、社会人になってからだよ。ちょうど希彩のいる会社が取引先でさ」
時田「へーそうだったんだ。なんか新鮮だわ」
友行「え? なんで?」
時田「いやだって古屋、高校の頃テニスばっかりだったし、ガリ勉だったし、女のイメージなかったから」
友行「(笑って)おい、今何歳だと思ってんだよ」
時田「俺の中ではさ、みんな高校生で止まってんだよ」
友行「もうみんな、そこそこいい大人だぞ?」
希彩「時田先輩は? その……恋人とか……」
時田「あぁ、俺? 結婚したよ」
希彩「へっ……」
   あからさまにショックを受けた顔をする希彩。
友行「(希彩の顔を見て)……」
時田「でも、離婚した」
希彩・友行「えぇ!?」
時田「あれ? 知らなかったっけ? ほら当時同じテニス部だった園崎真美と」
   息を呑む希彩。

○道(夜)
   希彩、友行、時田の三人で歩いている。
時田「じゃあ、俺こっちだから」
友行「おぉ。じゃあ、またな」
希彩「おやすみなさい」
   希彩と友行が二人で歩き始める。
友行「希彩って、時田のこと好きだった?」
希彩「えぇっ!? なんで!」
友行「いや、結婚したって時田が言った時、ショックな顔してたでしょ?」
希彩「(動揺して)そんなわけ……。いや、あれは違うよ……!」
友行「?」
希彩「ほら、時田先輩も、結構なモテ男だったでしょ? 案外、ああいうモテ男より、自分の方が先に結婚すると思ってたから」
友行「……。まぁ、でも離婚したけどな?」
希彩「そう、みたいだね……」
友行「でも、希彩も、もうすぐ結婚するんじゃない?」
希彩「……!」
   微笑む友行。
   手を出す希彩。
希彩「手、繋ごっ」
   手を繋ぎ歩く。
希彩の声「人は見かけによらない……」

○希彩の家・洗面所(夜)
   帰宅した希彩が、鏡に映る自分を見つめている。
希彩「わたしは、嘘つきだ……」

○(回想)綺羅西高校・テニスコート(夕方)
   夏、高校の部活動。テニスをしている学生達。
   テニスをする友行(17)の後ろ姿。
希彩の声「先輩はテニス部でも1、2を争う人気者。正直それ目当てで入部した子もいただろう。頭が良くて勉強も教えてくれた。でも先輩は、テニスしか見てなかった」
   隣のコートから転がってくるテニスボール。
   友行は拾うと、ボールを取りに来た時田(17)に手渡す。
   逆光になり、見づらい二人の横顔。
希彩の声「わたしが見ていたのは……」
   テニスラケットをギュッと抱きしめる希彩(16)の手。
   視線に気が付き、振り向く時田。
   希彩に、にっこり微笑む。
希彩の声「いつも古屋先輩と一緒にいる、時田先輩だった……」

○(回想)同・校門前(朝)
   テニスラケットを持ち、やって来る希彩。
真美の声「希彩ちゃーん」
   振り返ると、園崎真美(17)がいる。
希彩「真美先輩! おはようございます!」
真美「おはよう。希彩ちゃん、もうすぐ誕生日だよね? 何か欲しいものある?」
希彩「えぇ!?」
真美「もちろん、あげれるものに限るけど」
希彩「そ、そんな。いいですよ!」
真美「だって、夏休み中だとクラスの友達にも会わないし、祝えるのもテニス部メンバーだけでしょ?」
希彩「それは、まぁ……」
真美「希彩ちゃんって、煌星ファンだよね?」
希彩「え……。いや、そんな別に……」
真美「煌星ファンの女子も結構多いよねー」
希彩「真美先輩、時田先輩と仲良いですよね」
真美「どうかなー?」
希彩「……」
真美「そうだ、イイこと思いついた!」
   にっこり笑って去って行く真美。
希彩「えぇ? イイこと!?」

○(回想)同・テニスコート(夕方)
時田「君島!」
希彩「!? は、はい」
   時田が手招きしている。慌てて近づき、
希彩「な、なんでしょう……」
   希彩の手を掴み、何かを握らせる時田。
   ドキドキして手のひらを広げる希彩。
希彩「!」
   テニスラケットとボールの付いたキーホルダー。
希彩「これは……」
時田「誕生日おめでとう」
希彩「!」
時田「それ、やるよ。プレゼント」
希彩「あ、ありがとうございます!」
時田「んじゃ」
   立ち去る、時田。
   喜びをジタバタ噛み締める希彩。

○(回想)同・校門前(夕方)
   時田の後ろ姿。
   希彩が声をかけようとした瞬間、
真美「煌星!」
   時田の横に走って行く真美。
希彩「!」
   時田と真美の並ぶ後ろ姿。
真美「一緒に帰ろー」
時田「おぉ」
真美「喜んでた? 希彩ちゃん」
時田「ん? あぁ、うん」
真美「そりゃよかった」
   会話を聞き、呆然と立ち尽くす希彩。

○希彩の家・部屋(夜)
   テニスラケットとボールの付いたキーホルダーを見つめている希彩。

○クマノミの水槽
   水槽を泳ぐ数匹のクマノミ。

○友行の家・キッチン
   料理をしている希彩。
   奥から友行がやって来る。
希彩「仕事片付いた?」
友行「あぁ、まあ。ちょっと、すぐケーキ取りに行ってくるわ」
希彩「えっ!?」
友行「だって誕生日だろ?」
希彩「じゃあ、わたしも……」
友行「主役は待ってて」
   財布だけ手に持ち、出て行く友行。
友行の声「あ、希彩、鍵だけよろしく」
希彩「うん、分かった」
   玄関の扉が閉まる音。

○同・玄関
   鍵を閉める希彩。
希彩「……」

○同・書斎
   書斎を覗く希彩。
   棚の上に飾られている、友行と時田の写真のもとへ。
希彩「時田先輩が好きなのは、わたしと正反対の、ナイスバディで美人な人……」
   ため息をつく希彩。
希彩「わたしって、このまま友行と……」
   友行の散らかったデスクに置かれた、鍵の束。
希彩「ん……?」
   友行から貰った合い鍵を取り出す。
   合い鍵にはない、見知らぬ鍵が一つ多く付いている。
   鍵に手を伸ばす。
希彩「……」
   辺りをきょろきょろし、デスクの引き出しにある鍵穴にさそうとするが入らない。
希彩「違う……」
   何か考えた様子。
   ハッとして、書斎を飛び出す。

○同・寝室
   希彩が来て、辺りをきょろきょろ。
   一カ所鍵のかかった引き出しがある。
希彩「あった」
   鍵を鍵穴に入れ、回す。
   鍵が開く。
希彩「!」
   息を呑み、恐る恐る引き出しを開ける。
   中を見て、腰を抜かす。
希彩「何よ、これ……」

○希彩の家・部屋(夜)
   真っ暗の部屋。月明かりがさしている。
   ベッドに倒れている希彩。
   手には時田から貰ったキーホルダーが握られている。
   床に友行の家の合い鍵が落ちている。

○綺羅西高校(夕方)
   外から、テニスコートを見つめている希彩。
   学生達がテニスをしている。
希彩「冷凍食品みたいに、時が止まってる……。所詮、豆腐ハンバーグは肉じゃない」
時田の声「あれ? 君島?」
   希彩が慌てて振り返ると、時田が立っている。
希彩「時田先輩!?」
時田「こんなところで、何やってんだよ」
希彩「何って……。先輩こそ!」
時田「え、俺? 俺この近くのアパートなんだよ」
希彩「えぇっ!」
時田「ちょうど、この高校近くの物件が空いててさ。なんか懐かしくて」
希彩「そうだったんですか」
時田「君島も、高校時代を懐かしみに来た感じ?」
希彩「えっ……。まぁ……はい」
   テニスをする学生達を見て、
時田「あの頃は、テニスばっかりだったなぁ」
希彩「もう全然、テニスしてないな……」

○同・校門前(夕方)
   西の空にきらめく一番星。
希彩「一番星って、なんの星か、分かりますか?」
時田「確か、金星じゃなかったっけ? 宵の明星?」
希彩「じゃあ、二番星は?」
時田「二番星!?」
希彩「二番星は何か。考えたことないんですよね、結局。一番光ってる、一番星しか見てなかったから……」
時田「!?」
希彩「なんだろう。ゾッとしたわたしよりも、ホッとしたわたしがいる……」
時田「? 古屋となんかあった?」
希彩「えっ……」
時田「いや、分かんないけどさ」
希彩「……」
時田「結婚するんじゃないの?」
希彩「いや、まだそういう……」
時田「あれ? もしかして、俺の離婚話にびびっちゃった感じ?」
希彩「そうかも、しれませんね」
時田「そうだ、まだ時間ある?」
希彩「え……はい」
時田「ちょっと、待ってて」
希彩「?」

○同・テニスコート(夜)
   日が暮れ、学生が帰ったテニスコート。
希彩「これ、勝手にいいんですか?」
時田「だって誰も使ってないんだから」
希彩「見つかったら怒られますよ?」
時田「ここのOBだっつうの」
   テニスラケットを希彩に渡す時田。
時田「行くぞ!」
希彩「えっ、ちょっと!」
   テニスを始める二人。
   笑顔でラリーを続けるが、体力がなくなり、次第にへろへろに。
  ×  ×  ×
時田「休憩休憩! ムリムリ。はー疲れた」
   倒れ込むように座る時田。
希彩「(笑って)ちょっと、時田先輩!」
時田「マジ衰えたわー」
希彩「明日、筋肉痛になりそう」
   時田の隣に座る希彩。
   希彩の鞄に時田から貰ったキーホルダーが付いている。それを見て、
時田「あれ? これって……」
希彩「! 覚えてますか?」
時田「もしかして、俺があげたやつ?」
希彩「はい、そうです」
時田「はぁーそんなこともあったっけなー。懐かしいわぁ」
希彩「これ、時田先輩が選んだものだったんですか? それとも……」
時田「俺が買ったやつだよ。君島のために」
希彩「(動揺して)……」
時田「そうだ、もうすぐ花火大会じゃん? 君島も行くんだろ?」
希彩「え……?」
時田「古屋がさ、久々だから一緒に行こうって誘ってくれて。俺は君島と二人で行けよって言ったんだけど」
希彩「……」
時田「あれ? 聞いてない?」
希彩「友行、もしかしたら、わたしより、時田先輩と一緒に行きたいかもしれませんよ?」
時田「(笑って)なんでだよ。男二人で行ったって仕方ないだろ?」
希彩「なら、三人で行きましょうよ」

○花火大会(夜)
   9月。夜空に花火が上がる。
   花火を見ている希彩、友行、時田。
   友行と時田が笑って話しているところを見つめる希彩。
友行「追加でなんか買ってくるか?」
時田「あー、もうお酒もねぇーよ」
友行「そうだな。買い出し行ってくるわ」
時田「おぉ」
友行「時田も行く?」
時田「(面倒くさい様子で)えー任せるわ」
   友行がその場を離れ、二人きりになる。
希彩「時田先輩は、結婚して幸せでしたか?」
時田「えっ?」
希彩「いや、なんていうか……」
時田「その時は、幸せだったんじゃねーのかな。今は大きな失恋の後みたいなとこ?」
希彩「やっぱり……(花火の音と被って)真美先輩のこと……」
時田「え? なんて?」
希彩「いえ、何も……」
   大きな花火が夜空に上がる。
希彩の声「時田先輩が好きなのは、わたしじゃない。分かってた。でも、もう一度逢えて嬉しかった」
   体勢を変えた時田の手が、偶然希彩の手に触れる。
希彩・時田「!」
   手を重ねたままの二人。
希彩の声「過去に誰と何があろうが、今この時間は、わたしだけのもの……」
   やがてそのまま手を繋ぐ二人。
希彩の声「本当に好きな人と手を繋いだ時って、こんなに幸せな気持ちになるんだ……」
   目が合う二人。
友行の声「お前ら……」
   我に返り、振り返る二人。
   友行が立っている。
希彩「(動揺して)……!」
友行「……」
時田「何お前マジになってんだよー。こんなの冗談に決まってんだろ?」
友行「そんな冗談あるかよ……」
時田「(笑って)バーカ、俺の好きなタイプお前知ってんだろ?」
希彩「(ショックを受けて)!」
友行「もういい。俺帰るわ」
希彩「ちょっと、友行!」
   立ち去る友行。立ち尽くす希彩。
時田「行ったほうがいいんじゃね?」
希彩「(時田を見つめ)……」

○道(夜)
   友行の去って行く後ろ姿を追い、
希彩「友行! 待って、待ってよ!」
   立ち止まる友行。
友行「希彩、お前は俺のことなんて本当は好きじゃなかったろ」
希彩「! そんなこと……」
友行「(希彩を見て)お前はずっと、時田のことが好きなんだろ!」
希彩「!」
友行「俺に近づいたのは、時田に会うためで、ずっと時田のことが好きだったんだろ!」
希彩「そんなこと……そんなこと……」
   友行を見つめ、
希彩の声「ないなんて……言えない」
友行「もういい。そんな嘘」
   去って行こうとする友行。
希彩「だったら、言わせてもらうけど……友行だって嘘つきだよ」
友行「はっ? いつ俺が嘘をついた?」
希彩「ずっと。自分に嘘をついてる。あなたも、わたしも、嘘をついてる」
友行「……」
希彩「友行だって、初めからわたしのこと、好きじゃなかったでしょ?」
友行「はっ? 何言ってんだよ。責任転嫁すんなよ!」
希彩「友行は、わたしに怒ってる理由が違う」
友行「!?」
希彩「あなたは、あなたは、時田先輩が好きなんでしょ!」
友行「!」
希彩「わたし、知ってるんだから」
友行「なんだよそれ。わけ分かんねぇ」
   立ち去る友行。

○希彩の家・ベランダ(深夜)
   月を見上げる希彩。
希彩の声「月だけが、まるで何もかも見てるかのように、わたしに今日までついて来る」

○神社(朝)
   境内を歩く希彩。
   大きなイチョウの木の前に来ると、銀杏がなっている。
   神主(50代)が掃除をしており、希彩に気付く。
神主「このイチョウね、一昨年から急に実をつけるようになったんですよ」
希彩「えっ!?」
神主「もともとはこの木、雄株だったんですよ」
希彩「そんなことって、あるんですか?」
神主「さぁ? 子孫を残さないとって思ったのか、急に雌株になったんです。自然って不思議ですね」
   銀杏を希彩に渡す神主。
神主「人間よりもよっぽど、他の生き物は環境に合わせて姿を変えていますよ。なかなか変わることができないでいるのは、むしろ人間だけかもしれませんね」
希彩「……」
神主「人間は、立場や体裁、固定概念から抜け出せない生き物ですよね」

○図書館
希彩の声「地上に悪が増大し、神の怒りが大洪水をもたらした。わたしはきっと水の中。ノアの箱舟に乗れない人間だ」
   クマノミの本を手にする希彩。

○クマノミの水槽
   水槽を泳ぐ数匹のクマノミ。
希彩の声「海中の生き物は約300種類が性転換するという。クマノミは、オスになる可能性も、メスになる可能性も秘めて生まれてくる。群れの中で一番大きくなった個体がメスになり、次に大きい個体がオスになる。メスが死ぬと、二番目に大きかったオスが今度はメスになる」

○友行の家・寝室
   鍵のかかった引き出し。
   友行が鍵を開ける。
   中には、時田の写真が沢山入っている。
友行「……」
希彩の声「一匹だけで違う動きをしていたら、すぐに見つかってしまう。だからこうやって、自分を守ってる……。この世界が、天敵のいない平和な世界なら、みんな自由に、もっと自由に泳いでいけるのに」
   玄関の鍵が開く音。
友行「!?」

○同・リビング
   希彩が入って来る。
友行「なんでここに……」
希彩「(合い鍵を見せ)これ、返しに来た」
友行「あぁ……」
   クマノミの水槽を見つめる希彩。
希彩「『俺も自由に泳ぎたい』そう言ったよね?」
友行「え……」
希彩「自分に嘘をついて、そんなの悲しいよ。このままでいいの?」
友行「どういう意味?」
希彩「告白しない? 時田先輩に」
友行「はっ!?」
希彩「フェアじゃないもの。こんなの」
友行「……」
希彩「わたし、友行のこと好きじゃなかった。時田先輩に逢うために近づいた」
友行「!」
希彩「友行がわたしのことを好きじゃないって分かって、正直ホッとした。最低なの」
友行「……」
希彩「友行が他の誰を好きでも構わないと思ってた。けど、まさか同一人物取り合ってるって思わないじゃない……」
友行「軽蔑したろ?」
希彩「なんで? なんのために? 軽蔑されるのは、わたしの方だよ」
友行「……」
希彩「ねぇ、クマノミになろうよ。告白して、二人ともきちんと振られようよ」
友行「正気か? バカなこと言ってんじゃねぇよ。ってか、振られる前提かよ」
希彩「だって、時田先輩のタイプ知ってるでしょ?」
友行「それは……。俺はこれで、今のままでいいんだよ」
希彩「もしかしたら、付き合えるかもしれないのに?」
友行「何言ってんだよ……」
希彩「離婚したってことは、次は男かもしれないでしょ? 自由なんだよ。もっと、この世界は」
友行「……」

○綺羅西高校・テニスコート(夜)
   テニスボールを地面に弾ませる時田。
   掴み損ねたボールが転がる。
   転がってきたボールを友行が拾い、取りに来た時田に手渡す。
   気まずそうに、
時田「おぉ……。二人……仲直りしたか?」
友行「……」
時田「まぁ、あれは俺も悪かったけど……」
希彩「時田先輩、大事な話があります!」
時田「おっ、おぉ……。えっ? まさか、もしかして、二人結婚するとか!?」
希彩「結婚したいくらいです!」
時田「へっ!?」
希彩「わたし、ずっと時田先輩のことが好きでした。今も、ずっと好きです!」
時田「(状況が理解できず)……。えっ?」
希彩「ほら、友行も!」
友行「(気が進まない様子で)俺はいいよ」
希彩「ここまで来て、それはないでしょ!」
時田「え? どういう……こと?」
友行「(小声で)俺も……時田が好きなんだ」
時田「えっ? なんて?」
友行「俺も昔から、ずっと時田のことが好きだった」
時田「はっ!? なんだよそれ。どういうことだよ!」
希彩「友行も、わたしも、本当は時田先輩のことが好きだったんです」
時田「(困惑して)えっと、LIKE……」
希彩「(被せて)LOVEです」
時田「え! 君島はともかく、だって男……」
友行「……」
希彩「誰かが、誰かを想う気持ちは自由です」
時田「男が好きって普通じゃねぇだろ! お前、昔から俺のこと、そんな目で見てたのかよ! ありえねぇだろ……」
友行「……」
希彩「普通ってなんですか?」
時田「普通って……それは、だって……」
希彩「なんでですか? 人間以外の生き物は、変わることを受け入れて生きているのに。なんでですか? なんで人間は、受け入れられないんですか?」
   希彩を見つめる友行。

○道(夜)
   希彩と友行の並んで歩く後ろ姿。
   月明かりが二人を照らしている。
希彩「結局、振られちゃったね」
友行「希彩のせいで、無駄に振られただろ。気まずくて、二度と時田に会えなくなった」
希彩「偽り続けると、いつの日かそれが真実になっちゃって、自分を失っちゃうと思う」
友行「……」
希彩「傷ついて、知っていくんだと思う。本当の自分を」
友行「……」
希彩「せっかく、この世界に生まれて来たんだから。もっと自由に生きなきゃ」
友行「希彩、俺はお前のこと……後輩として好きだったよ」
希彩「ありがとう」

○居酒屋『すずらん』(別日・夜)
希彩「(元気よく)乾杯!」
   希彩と友行が一緒に飲んでいる。
友行「希彩は立ち直るの、早いな」
   卯月が店にやって来る。
卯月「え、希彩!」
希彩「あっ、卯月!」
卯月「えっ、え、もしかして、希彩の噂の彼氏? 手を出さない大昔男商社マン!?」
   咳込む友行。
希彩「いや、ちが……この人は、同士!」
卯月「同士!?」
希彩「彼とは別れたの」
卯月「えー別れた!? やっぱり、浮気してた?」
希彩「そんなんじゃないけど。そんなんか」
友行「!」
卯月「ほらね、結局浮気すんのよ。これだから男は!」
希彩「もういいから、その話は」
卯月「そこのイケメン同士さん。どうですか、この彼氏と別れたという君島希彩は?」
友行「あーいや、それは……ですね」
希彩「ちょっと! わたし達そんなんじゃないから! この人も、先日振られたばっかりなの。そっとしといてあげて」
卯月「え? そうなの? なら、わたしとかって、どうですか?」
希彩「だから!」
   苦笑する友行。
卯月「希彩、男の傷は新しい男で直すしかないのよ? あんたにはわたしが新しい彼氏探してあげるから」
希彩「別に彼氏とは限らないんじゃない?」
卯月「へぇ?」
希彩「もっと自由でいいのよ、きっと」
END

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