もののけヒーロー コメディ

過疎の村を盛り上げようと幼馴染五人が選んだのは、村に伝わる妖怪をモチーフにしての、戦隊ショー。男五人のため、ヒロインを入れようとすると、誰かが漏れる。そんな折、メンバーたちは、本当に妖怪の力を手に入れる。
星 堕位置 57 0 0 01/31
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

○居酒屋(夜)
   小さな居酒屋。
カウンター席、テーブル席、座敷もあるが、全体的に小さい。ボリューム小さく、演歌が流れている。客、あまりいない。壁に貼ってあるメニュー、居酒 ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

○居酒屋(夜)
   小さな居酒屋。
カウンター席、テーブル席、座敷もあるが、全体的に小さい。ボリューム小さく、演歌が流れている。客、あまりいない。壁に貼ってあるメニュー、居酒屋定番の料理が一通り、並んでいるが、どのメニューの上にも「村一番の」というフレーズがついている。

○同
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤真(24)、高橋英輔(24)、中村   
   章(24)、星太(24)、遠藤透(24)。店員が注文をとっている。
星「村一番の揚げ出し豆腐が(とメンバーの顔を見回し)三つ」
店員「村一番の揚げ出し豆腐が三つ、ですね?」
星「それから、村一番のソーセージ盛り合わせ」
店員「村一番のソーセージ盛り合わせ」
星「村一番の刺身盛り合わせ」
店員「村一番の刺身盛り合わせ」
星「それから、村一番のシーザーサラダ三人前」
店員「村一番のシーザーサラダ三人前」
星「以上で」
店員「以上で、よろしいですか?」
星「僕はね」
中村「(突っ込む)僕はねって。今までの、一人分かい?」
    × × × ×
   生ビールのジョッキを持ち、乾杯をす  
   る佐藤、高橋、中村、星、遠藤。
佐藤「乾杯!」
高橋「乾杯!」
中村「乾杯!」
星「乾杯!」
遠藤「(元気ない)乾杯」
   ジョッキを傾け、勢いよく飲む佐藤、高橋、中村、星、遠藤。それぞれ大きく、げっぷするなどして。
    × × × ×
   おつまみもあれこれテーブルの上に広げられている。星の前のつまみ、多い。ビールを飲んだり、つまみを食べている佐藤、高橋、中村、星、遠藤。以降、遠藤は、仲間の会話に混ざらず、あおるように酒を飲んでいる。
中村「大関村の都市伝説だけどさ」
高橋「村の都市伝説。良く考えると、お
かしな表現だな」
中村「・・・」
高橋「ま、良いや。何でもない。続けて」
中村「(声を潜めて)何度も持ち上がっては潰れる白石町との合併話。反対派の中心は、この店のご主人で。理由は、村一番の、っていうフレーズが使えなくなるから、らしいよ」
佐藤「町一番じゃ、響き悪いのか」
中村「いや、そうじゃなくて、一番になれないからって」
星「潔いな」
高橋「っていうか、競争して勝とうって意識は無いのか」
がらりと襖が開いて、店員が入ってくる。手には、ビールジョッキが乗ったお盆持ち。
店員「あい。村一番の生ビール」
   店員の顔をじっと見る佐藤、高橋、中村、星、遠藤。
店員「(照れて)あれ。何かしました?俺」
高橋「いや。ください。村一番の生ビール」
   店員からビールジョッキを受け取り、
   生ビールのジョッキを持ち、乾杯をす  
   る佐藤、高橋、中村、星、遠藤。
佐藤「乾杯!」
高橋「乾杯!」
中村「乾杯!」
星「乾杯!」
遠藤「(元気ない)乾杯」
佐藤「(咳払いをし、注目を集めて)ところで、今朝さ。テレビでね。見たんだ。地域を元気にしている若者。なまはげ風のヒーロー」
中村「なまはげ風の・・・」
   中村、自分の頭を撫でる。
星「はげに反応しちゃった」
高橋「気にしすぎだよ」
佐藤「でね。俺も考えた。この大関村を元気にするためのヒーローをね」
   ビールや箸を持つ手を止め、佐藤の言葉に耳を傾ける高橋、中村、星、遠藤。
佐藤「(重大な秘密を告げるように声をひそめて)ナントカ戦隊ナントカレンジャー」
星「え。ナントカ、ナントカって」
高橋「そこは考えてないのかよ」
佐藤「そこをみんなで考えるんだ」
星「そして?」
佐藤「村祭りのステージで、ショーをやる」
星「出た」 
佐藤のはしゃぎぶりとは対照的に、冷めた目で佐藤を見る高橋、中村、星、遠藤。
佐藤「何だよ。その反応。もっと熱くなれよ、
みんな!」
星「ちょっと暑苦しいんだよ、マコっちゃん」
高橋「ま、でも、それでビールが美味しく飲
めるんだけどね」
佐藤「おいおい。俺は、つまみかよ。とにかく、ショーだ、ショー。何かアイデア無い?トオル」
遠藤「(ぼんやり遠くを見ていて)え。何?」
星「おいおい、大丈夫か、トオル」
中村「トオル、今日、元気ないよな、何か」
遠藤「何の話だっけ?」
佐藤「ナントカ戦隊ナントカレンジャーの話」
遠藤「???」
星「突然ふられても分からないだろ」
遠藤「ふ・・・ふられる?」
   突然、落ち込んでしまう遠藤。
   自分が何か言ったのかと心配する星。
星「え。何?」
高橋「と、とにかく、大関村の特産物とか織り込んだ方が良いんだろうな」
佐藤「ん?」
高橋「そのナントカ戦隊のナントカの部分。
例えば(と例を示そうとするが、出てこない)」
星「そうか、例えば(出てこない)」
中村「(考えるが、出てこない)・・・」
遠藤「(考えていない)・・・」
佐藤「じゃ、それは後で考えるとして、もう一つ考えなくちゃいけないことがある」
星「(うんざり顔で)何?今度は?」
佐藤「この中でヒーローになれるのは、四人だけ」
星「へ?」
高橋「何だ、それ?」
佐藤「ヒーローものは、やっぱり五人だろ、ゴレンジャーだろ」
中村「ぴったりじゃん」
星「五人でゴレンジャーで良いんじゃないの」
佐藤「甘い」
星「へ?」
佐藤「一つにはね、それじゃ女性ファンの心を掴まない。やっぱり、ピンクは女性じゃないと」
星「・・・」
中村「でも、誰かいるの?ピンクをやってくれそうな人」
佐藤「(きっぱりと)いる」

○スナック・店内
   カランコロンと鈴の音。ドアを開け、入ってくる佐藤。
スナックのママ「イラッシャイ」
   ママの顔は見えない。
   頭を下げながら奥のソファに座る佐藤。店内、客が歌うカラオケの歌、響   いている。
   佐藤の隣に座る如月弥生(25)。
弥生「いらっしゃいませ」
弥生に見とれている佐藤。

○居酒屋(夜)
   頭の中で弥生を思い浮かべ、にやにやしている佐藤。
星「おーい。まこっちゃん。帰ってこーい」
   はっと我に返る佐藤。
佐藤「すまん。えーと。ここからヒーローになれるのは四人。なぜなら、ピンクは女子だから。そして、理由その二。ヒーローものに必要なのは、なーんだ?」
中村「分かった。これだ」
   怪獣の真似をする中村。
佐藤「そうそう」
中村「怪獣。悪役だな」
佐藤、じっと中村を見て
佐藤「ちょっと、待って」
中村「ん?何?」
佐藤「その手つき、もう一遍」
中村「(いやな予感を感じつつ)なんだよ、その手つきって・・・これ?」
   怪獣の真似をする中村。
佐藤「良いっ。アキラのその手つき、良い」
中村「何だよ、止めてくれよ」
星「分かった」
高橋「え。何が?」
星「分かった。弥生ちゃんだな」
高橋「何、それ?」
星「ピンク。女子。弥生ちゃんを誘うつもりなんだ」
高橋「誰だよ?」
星「あのね。今、まこっちゃんがはまってるの。スナックチャップリンにいるんだ」
高橋「何。その、弥生ちゃんが仲間に入って、(中村を見て)この中の一人が脱落するってわけね」
中村「いや、俺を見るなよ」
佐藤「脱落じゃない。栄転だ、栄転」
星「栄転って・・・」
佐藤「怪獣役に栄転さ」
高橋「でも、その・・・弥生ちゃんって人、やってくれるかどうか分からないんだろ」
   首を振る佐藤。
高橋「え」
星「え」
中村「え」
佐藤「もう、オッケ―を貰ったんだよ、実は」

○(回想)スナック・店内
   カラオケのボリュームが異常な音で流   れている。
   水割りを飲みながら、弥生と話している佐藤。
音楽のボリュームが大きすぎ、何を言っているか、全然聞き取れない。
佐藤、弥生に向かって、大きなジェスチャーで女性の身体のラインを示す動きをし、
佐藤「セクシーだから!」
   と叫ぶ。
弥生「えぇぇぇ?何?」
佐藤「セクシー!」
弥生「ありがと!」
   佐藤、弥生を指さし、
佐藤「ピンクッ!ピンクッ!」
   首を傾げながらも面倒臭くなり、佐藤   に愛想笑いをする弥生。
   手でOKサインをつくり、笑顔で
佐藤「オッケー?」
   弥生良く分からないながら、真似をし   て手でOKサインをつくり、笑顔で
弥生「オッケー!」
   嬉しそうに微笑む佐藤。

○居酒屋(夜)
   テーブルを囲み、酒を飲んだり、つまみを食べながら話す佐藤、高橋、中村、星。一人、酒をあおっている遠藤。
星「マジで?」
高橋「それで、その弥生ちゃんってきれいなのか?」
星「うん。きれい。そして、何より胸がでかい」
中村「マジで?」
高橋「じゃ、行かなきゃな。チャップリンに」
佐藤「何で、行く必要が?」
高橋「挨拶だよ、挨拶」
星「だけど、あそこ、高いんだよな」
中村「高い。村一番のぼったくりスナックだ」
高橋「って言うか、村に一軒しか無いんだけどね」
星「あのスナックの存在が村の過疎化の原因だと思うよ」
中村「そうだよな、マジで」
星「ひでぇママさんだよな」

○(回想)スナック・店内
   カランコロンと鈴の音。ドアを開け、   入ってくる佐藤。
スナックのママ「イラッシャイ」
   ママの顔、見える。ものすごく厚い化粧である。

○居酒屋(夜)
   テーブルを囲み、酒を飲んだり、つまみを食べながら話す佐藤、高橋、中村、星。一人、酒をあおっている遠藤。
星「とても、接客をしているようには見えないよな」
中村「妖怪だよな」
   の言葉に、何か引っかかった顔になる佐藤。
星「それに比べて、弥生ちゃんは実に清楚なの・・・こう、体は、豊満。でも、心は(と言いかけるが)」
佐藤「妖怪・・・!」
何かひらめいたような佐藤。
高橋「どうした?何か、ひらめいたような顔をして」
佐藤「妖怪だよ。妖怪」
高橋「え。ママのこと?」
佐藤「違うよ。村の特産」
星「特産・・・妖怪って」
佐藤「でも、ほら、河童池があって、天狗岩があって。あと、何だっけ?座敷童だっけ」
中村「そうそう。役場の広場にも、妖怪の看板が立っているもんな」
高橋「良いかもね、妖怪。赤が天狗」
佐藤「ほう」
中村「すると、ブルーは河童か」
高橋「いや、河童はグリーンじゃないの?」
佐藤「あ、そうだね」
星「ピンクの妖怪っている・・・?」
佐藤「ピンクは最後に考えよう」
高橋「ブルーとイエロー」
佐藤「ブルーの妖怪・・・」
遠藤「(ぼそりと)雪女」
星「あ、そうだね(間を置いてから)って言うか、聞いてたのかよ、トオル」
佐藤「良いね。青が雪女。そうだよな。もうブルーは男のイメージって古いよな。弥生ちゃんの雪女。見てみたい」
星「あ。見てみたい。あ、でも、そうすると、俺たちの誰かが、ピンクをやるってことか?」
佐藤「良いんじゃない。もうピンクが女っていう決め付けは古いよ」
星「・・・」
佐藤「できてきたぞ。天狗レッド。雪女ブルー。河童グリーン。えーと、イエロー、イエロー・・・」
中村「色もだけどさ、体格で言うと、太向けの妖怪が必要じゃない?」
星「何だよ、それ。俺が天狗でも良いんじゃないの?」
中村「いや、太はやっぱり・・・ぬりかべ・・・」
星「ぬりかべって・・・」
中村「ぬりかべイエロー」
星「ぬりかべイエロー・・・」
高橋「さ、ピンクの妖怪を考えよう・・・」
   考え込む佐藤、高橋、中村、星。一人、酒をあおっている遠藤。
佐藤「だめだ。ピンクの妖怪って、全然浮かばない」
星「そうだな」
中村「じゃ、さ、ピンクのぬりかべにしようよ」
佐藤「ぬりかべピンク」
星「何か、どんどんひどくなってないか、俺」
高橋「イエローはあれだよ。ほら。狐。狐の妖怪っていたよな」
遠藤「九尾の狐」
星「お前、水木しげるか?」
佐藤「イエロー九尾の狐・・・何か長くて、言いにくいけど」
高橋「よし。じゃ、誰が何をやるか、決めよう」
星「えーと、俺は・・・」
中村「ぬりかべピンクだから」
   がっくりする星。
星「って言うか、どうせやりたいんだろ、まこっちゃん。赤を」
佐藤「え。俺、やって良いの?」
星「やる気まんまんのくせに」
高橋「後は、河童と狐か・・・狐やりたい人?」
   と訊きながら手を挙げる高橋。中村も手を挙げるが。
佐藤「だから、アキラは、怪獣でって」
高橋「うん。俺、狐やるよ」
中村「じゃ、俺(河童と言いかけるが)
遠藤「俺、河童」
   遠藤の顔を切なげに見る中村。
佐藤「じゃ、アキラ、頼むよ。怪獣」
中村「マジで・・・?」
佐藤「人には向き・不向きってのがあるもんな」
中村「俺には、ヒーローが向かない・・・?」
佐藤「って言うか、怪獣に向いてるんだよ」
中村「怪獣に向きも不向きもあるかよ、ただこうやって、手挙げて、うおうお吼えるだけで良いンだろ」
   と言いながら怪獣の構えをする中村。
佐藤「ほら、それ」
中村「え」
佐藤「(おだてる)その手つき。やっぱアキラしかいねーよ」
中村「(おだてられ、その気になって)そ、そうかな」
佐藤「もう一回吼えてみてくれ」
中村「うおうお~」
   佐藤、高橋、星、遠藤拍手しながら
佐藤「うん、これ、これ。何か他の吼え方も できる?」
中村「ぐるるるるるぅぅぅぅ・・・があっ!」
佐藤「最高!アキラ。お前、この村一番の怪 
獣だよ、やっぱ」
   なぜか頭を掻いて喜んでいる中村。
中村「で、一体、俺はどんな怪獣やれば良いの?」
高橋「おっ。早速、役作りか?」
佐藤「この村を守るんだよな。五人は・・・この村を苦しめているもの・・・」

○  イメージ
   高層ビルに火を吹く怪獣ー真っ赤なボディの。
佐藤の声「消防団の一番の敵、ヤマカジ」
高橋の声「この村に、こんなビル、無いけどな」

○  イメージ
   森を破壊しているチェーンソーの化け   物。
佐藤の声「緑を破壊するギャクエコ」
高橋の声「鈴木のじっちゃん、怒るぞ。林業 
 を舐めるなって」

○  イメージ
   ビルを蹴飛ばしているママ。
佐藤の声「なぜか、チャップリンのママが浮かんでしまった」
星の声「良いんじゃないの。悪の一番の大物は、あのママさんで」

○居酒屋(夜)
   テーブルを囲み、酒を飲んだり、つまみを食べながら話す佐藤、高橋、中村、星。一人、酒をあおっている遠藤。
佐藤「さっきから、失礼なことばっか言って
るけどな」
遠藤が突然、反応する。
遠藤「し、失恋・・・」
佐藤「何だよ、さっきから。トオル、元気な  
 いみたいだけど」
遠藤「ようやく、気づいてくれたね」
中村「いや、さっき、俺、言ったけどな」
高橋「俺も、ずっと気付いていたよ」
星「元気はないけど、微妙なところで、参加
してきてたんだよな、雪女とか、九尾の狐
とか」
佐藤「一体、何があったんだよ?」
遠藤「実は、昨日・・・」
   と言いかけたところで、佐藤の携帯電話の着信音。恨めし気に、佐藤を見る遠藤。
佐藤「ちょっと、ごめん。メールね」
   携帯電話を見る佐藤。
佐藤「おっ。雪女ブルーからだ」
星「え?」
佐藤「(にやにやしながら)皆さんで、遊びに
来ませんか?・・・だって」
星「良いね~」
高橋「行こう、行こう」
   盛り上がる佐藤、星、高橋、中村。
   言いかけた言葉を飲み込む遠藤。

○  スナック・店内
   ものすごく厚い化粧のママ、水割りをつくっている。
   店内にいる佐藤、高橋、中村、星、遠藤。彼らの隣に座っている弥生。
   弥生、立ち上がり、ママから水割りのグラスを受け取って、配り始める。
五人の男たちは、皆、弥生の胸に釘付けである。ごくんと唾を飲みながら。
   水割りが配られたところで、乾杯をする佐藤、高橋、中村、星、遠藤、弥生、ママ。
佐藤「とりあえず、もののけ戦隊・・・なんとかレンジャー結成の乾杯」
佐藤「乾杯!」
高橋「乾杯!」
中村「乾杯!」
星「乾杯!」
遠藤「(更に元気をなくして)乾杯」
ママ「乾杯!」
弥生「乾杯!」
ひとしきり、乾杯をし、水割りを口にした後、皆に見つめられながら、口を開く弥生。
弥生「一体、何の集まりですか?」
佐藤「もののけ戦隊・・・の結成祝い」
弥生「何か、楽しそうですね。男五人で」
星「男五人って」
佐藤「え。何。弥生ちゃん、まるで他人ごとじゃない?」
高橋「(親しみを込めて)雪女ブルー」
弥生「(呆気なく)何ですか?それ?」
高橋「何ですかって・・・あれ」
佐藤を見る高橋。
佐藤「(慌てて)あれ。弥生ちゃん。引き受けてくれたじゃない?ほら、例の・・・」
   ウィンクめいたものをするが、まるで通じていない弥生。
   高橋、中村、星、遠藤の冷たい視線。
   そこに馬鹿でかい音量で、歌謡曲が始まる。歌いだすママ。ウンザリした顔の佐藤、高橋、中村、星、遠藤。

○通り(夜)
   スナックから出てくる佐藤、高橋、中村、星、遠藤。全員、千鳥足である。
   店のドアが閉まった後、ひそひそ声の会話。
高橋「結局、断られてんじゃねーかよ」
星「おまけにぼったくられるし・・・」
中村「耳もおかしくなるし・・・」
遠藤「最悪」
佐藤「最悪だな、ここ(とスナックを指さして)」
   いや、お前がな、という顔で佐藤を見   
   る高橋、中村、星、遠藤。

○  道(夜)
   酔った足取りで歩く佐藤。
携帯電話の着信音が鳴る。
画面を見る佐藤。電話を取り落としそうになる。

○  携帯電話画面(夜)
   「弥生」「今から逢えませんか」

○  道(夜)
   携帯電話をじっと見つめる佐藤。
佐藤「マジで・・・」

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。いずれの顔も深刻である。店員が注文をとっているが。
星「ウーロン茶」
五人とも手を挙げる。
店員「村一番のウーロン茶が五つですね」
星「(きっぱりと)ウーロン茶。以上」
店員「他には?」
星「(きっぱりと)以上」
   店員、いぶかしげに去っていく。
   沈黙。誰から口を開こうかという雰囲気。
佐藤「昨日の今日だけど、どうしても報告したいことがあって」
高橋「勿論だ。まこっちゃん。昨夜、どうしたんだよ。つながんなかったぞ、ケータイ」
佐藤「うふふふ。それどころじゃなかったんだよ、諸君。俺に、すげーことが起きたんだ」
星「そうか。やっぱり、まこっちゃんにも、か」
佐藤「まこっちゃんにも・・・って・・・」
遠藤「じゃ、俺からで良い?」
佐藤「・・・」

○(回想)河童池(夜)
   池のほとりにたたずむ遠藤。
遠藤「・・・最悪だ」
遠藤の声「昨夜、結局みんなに話せなかったけど、五年つきあってきた日出子からふられて、俺、昨日どん底だったんだ」

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。一人で、過剰に反応する佐藤。
佐藤「え。そうなの。何だよ。言ってくれよ。
そうと知らなかったから、もののけ戦隊な
んつって、盛り上がってしまって。いやぁ
彼女いたんだ、トオル」
  と、周りの反応が薄いことに気づき、
佐藤「え。何、知らなかったの、俺だけ?みんな、トオルつきあってたって知ってたの?」
   いぶかしげに訊く佐藤を、逆にいぶかしげに見つめる高橋、中村、星。
高橋「そんなことより、続きを」
佐藤「え。そんなことよりって・・・」

○(回想)河童池(夜)
   池のほとりにたたずむ遠藤。
遠藤「・・・最悪だ」
   胸ポケットから写真を取り出す遠藤。
恋人と仲良く顔を合わせ、映っている
遠藤。その写真をじっと見つめた後、
びりびり破り捨てる遠藤。
遠藤、写真を宙に撒く。風に飛んでい   
く写真のかけら。遠藤、池に向かって歩き出す。

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。一人で、過剰に反応する佐藤。
佐藤「何。死のうとしたの・・・昨夜。知らなかったよ。マジで・・・ごめん。俺、全然、そんな風に見てなかったから・・・」
高橋「そんなことより、続きを」
佐藤「え。そんなことよりって・・・」

○(回想)河童池(夜)
   池の中に、足を踏み入れている遠藤。泣きながら、歩いていく遠藤。
遠藤の声「俺は、ずんずん池に入っていった・・・あの、池、結構深くて、やがて、足が付かなくなった」
佐藤の声「何だよ。どうなったんだよ」
遠藤の声「みんなも知ってると思うけど、俺、
泳げないんだ」
佐藤の声「知ってるよ」
   足が付かなくなった遠藤。沈んでいくのを覚悟した表情。
   やや間が開いた後、怪訝そうな表情を浮かべる遠藤。
   遠藤の体、すいすい前に進んでいく。

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。一人で、過剰に反応する佐藤。
佐藤「何だよ、それ・・・泳げるようになってた・・・?」
遠藤「すいすい・・・ね」
佐藤「心配して損しちゃったな」
星「次、俺ね」
佐藤「・・・」

○(回想)通り(夜)
   歩いている星。
星の声「帰り道さ、体を重く感じてさ」
佐藤の声「はははは。あれ、笑うところじゃないの?」
   星の視線の先、道路わきの側溝に軽トラックのタイヤがはまっている。
    × × × ×
   軽トラックを持ち上げている星。それほど、力を入れてる風でもなく。

○(回想)星家・玄関(夜)   
   ドアの前で立ち尽くしている星。
星の声「ついでにさ、家の鍵も閉められてて」
   ドアノブを軽くひねる星。ドアノブ、呆気なく壊れる。

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。一人だけ、受けて笑っている佐藤。
佐藤「体が重くなって、っていうのが良いな。はははは・・・食ってたもんな。昨夜も」
   白けた目で、佐藤を見る高橋、中村、星、遠藤。
中村「ごめん。まこっちゃん」
佐藤「え」
中村「俺、狐になっちゃった」
佐藤「え。何?どういうこと?」
中村「俺、怪獣役のはずだったでしょ?」
佐藤「・・・」
中村「自分でもそのつもりだった」
高橋「で。俺が狐だったよな、本当は」
佐藤「・・・」
中村「でも、俺が狐になっちゃったんだ」
佐藤「(理解できていない)」

○(回想)通り(夜)
   歩いている中村。
   足が勝手に、という感じで、ジョギングになる。走る速度、どんどん速まる。いつの間にか、物凄いスピードで走っている中村。

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。
中村「狐だよ。九尾の狐。イエロー九尾の狐。すげぇ速いんだよ」
佐藤「・・・」
遠藤「そうか。そういう意味では俺は河童になった」
星「俺は、ぬりかべだ」
佐藤「何だよ、みんな。何言ってるんだ?」
高橋「ってことは、佐藤ちゃん。何も変化が無かったのか?」
佐藤「え」
高橋「俺も、まこっちゃんに謝らなくちゃいけない」
佐藤「え、え」
高橋「見ててくれ」
   立ち上がる高橋。
   何か、念じ始める。
佐藤「おいおい。まさか、今から、空飛ぶなんて言い出すんじゃ・・・」
   と言っている佐藤の前で、ゆっくり宙に浮いていく高橋。
   呆然とする佐藤。
   高橋に近寄り、ワイヤーなど無いか確かめる動きをする佐藤。
   佐藤、高橋の動きに驚き、なおかつ星、中村、遠藤がそれほど驚いていないことに驚く。
高橋「俺たち、本当に妖怪ヒーローになっちまったんだぜ」
星「って言うか、今のところ、ただの妖怪に」
佐藤「・・・」
佐藤の声「嘘だろ・・・俺・・・俺は・・・」
星「でも、まこっちゃんも、何か、報告したいことあるって」

○(回想)ホテル(夜)
   ベッドの上で、弥生とセックスをしている佐藤。

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。
佐藤「(動揺しつつ)お・・・俺も。実は、俺もなんだ」
高橋「何だ。ドキドキさせやがって。やっぱり、まこっちゃんもか」
   頷く佐藤。
高橋「異変が起きてから、皆、連絡取り合ったんだぜ。興奮して。でも、まこっちゃん、連絡つけられなくて」

○(回想)ホテル(夜)
   ベッドの上で、弥生とセックスをしている佐藤。

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。
佐藤「(確認しつつ)英ちゃんが天狗か。そして、トオルは河童。アキラは狐。そして、太はぬりかべだろ。だとしたら(皆に問うように言いながら、実は考えて)・・・」
星「まさか、雪女?」
佐藤「そう。俺、自分が天狗レッドだと思っていたけど、まさに、それは天狗だった」
高橋「・・・」
星「・・・」
中村「・・・」
遠藤「・・・」
佐藤「あ。ここ、一応、笑うところね。俺は雪女だったんだ。ピンクが女だとか、ブルーが男だとか、そういうイメージにとらわれちゃいけないって思ってたけど、まだまだ、とらわれてたんだ、俺。雪女が女だって限らないんだな」
高橋「・・・」
星「・・・」
中村「・・・」
遠藤「・・・」
佐藤「男が雪女だって、別に良いわけだ。(自分に、言い聞かせるように)そう。俺は雪女だ」
星「どうやって気づいたの?雪女って」
佐藤「(考えつつ)家に帰った。家に帰って」

○(回想)ホテル(夜)
   ベッドの上で、弥生とセックスをしている佐藤。果てる。
× × × ×
ベッドに横たわっている弥生。
腰にタオルを巻いて、部屋にある冷蔵庫に向かう佐藤。冷蔵庫を開ける。
佐藤の声「喉が渇いていたから、俺は、冷蔵庫を開けた」
   冷蔵庫の中からコーラの缶を取り出し、開ける佐藤。
佐藤の声「そして、コーラを飲もうとした。蓋を開けて」
   普通にコーラを飲む佐藤。ごくごくと。
佐藤の声「飲もうと、口を近づけたら、コーラがたちまち凍った」

○居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐  
   藤、高橋、中村、星、遠藤。たどたどしく話し終え、何とか乗り切ったという顔をする佐藤。
   ぱっと佐藤の手を握る星。
佐藤「?」
星「いや、普通の体温だな」
佐藤「あ、ああ。今は、普通の体温だ。だが、念じると、すげーぞ。たちまち、凍りつく。今は、寒いから念じないけど」
高橋「そうか。すげーな。しかし、俺たち、本当にヒーローになってしまったんだぜ」
星「ま。今は、ただの妖怪だけど」
高橋「うるさいな。ただの妖怪、ただの妖怪って・・・でも、そうだな。早く、何かと戦って、勝たないとヒーローじゃねーな」
星「早く困っている人を見つけたいね」
中村「困ってる人いないかな、と思ってる時点で、何かヒーローじゃねーけどな」
高橋「とにかく、いろんな情報網で、困った人がいたら、助ける。それが、俺たち、もののけ戦隊だな」
   眩しそうにその会話を聞く佐藤。何か乗り切れていない自分を払しょくするかのように声を出す佐藤。
佐藤「お、おう!」
   手を前に突き出し、手を乗せろという仕草をする高橋。
高橋「ほら、まこっちゃん、こういうの、好きだろ」
佐藤「お、おう!」
   高橋の手の上に次々と手を乗せる星、中村、遠藤。
手を乗せかねている佐藤。
高橋「どうした、まこっちゃん」
星「天狗じゃなくて、レッドじゃなくて、悔しいのか?」
佐藤「いや、違うよ」
   ためらいつつ、ゆっくりと手を乗せる佐藤。

○(回想)携帯電話画面
   「弥生」「今から逢えませんか」

○(回想)道
   携帯電話をじっと見つめる佐藤。
佐藤「・・・」

○(回想)カフェ
   向かい合って、コーヒーを飲んでいる佐藤と弥生。
弥生「佐藤さん」
佐藤「え」
弥生「実は、お願いがあるの」
佐藤「え・・・何?」
弥生「助けて欲しいの」
佐藤「た、助ける・・・?」
弥生「私、こんな、今のような仕事、したくなかった」
佐藤「・・・」
   涙をつーっと流す弥生。
佐藤「どうしたんだ?弥生ちゃん。俺ができることなら、何でもするよ。空は飛べないし、速く走れないし、速く泳ぐこともできない。何も重いものは持ち上げられないけど」
弥生「ふふふ。何それ?」
佐藤「俺のできることなら、なんでもするよ」
弥生「ただ、話を聞いて欲しいの」
   拍子抜けする佐藤。
弥生「私、佐藤さんに嘘をついてた」
佐藤「え」
弥生「私、佐藤さんのこと、好きよ。それは、本当」
佐藤「・・・」
弥生「でもね。私、恋愛とか自由にできない環境なんです」
佐藤「え」
弥生「操られているの、・・・小さい頃からずっと」
佐藤「・・・」
弥生「私、もう、ぼろぼろなの・・・」
佐藤の手を握る弥生。
話が重すぎて、呆然としている佐藤。佐藤の手を握りながら、泣く弥生。

○  スナック・店内
   ものすごく厚い化粧のママ、水割りをつくっている。
弥生の声「あの女は、私の継母になるんだけど、もう私には家族みたいな人は、あの人しかいなくて、小さい頃から育てられたから、それなりに恩みたいなものはあったけど・・・」

○(回想)カフェ
   立ちあがり、弥生の肩に手を置く佐藤。
佐藤「分かった。俺が話しをつけよう」
弥生「え」
佐藤「あの女に話してくる」
弥生「・・・」
佐藤「そして、弥生ちゃん。俺と一緒に来てくれるか」
弥生「・・・」
佐藤「この村を出よう」
   顔を上げ、佐藤を見る弥生。
佐藤に強く抱きつく弥生。
弥生「嬉しい」
佐藤も、弥生を強く抱く。
弥生「でも、無理だと思う」
佐藤「・・・」
   佐藤から身体を離す弥生。
弥生「あの女は、私を離さない。あの女にはヒモもいてね。そいつが見張ってるの。私を」
佐藤「大丈夫だ。俺がそいつも倒してやる」
弥生「佐藤さん・・・」
佐藤「弥生ちゃんをそんな目に遭わせた女。許せねぇ」

○スナック・店内
   ソファでくつろいでいるママ、向かい
側にだらしなく座り、煙草をふかす三
井博(49)。体格が良い。鋭い目の、
柄の悪そうな男。

○通り(夜)
   携帯電話を見つめる佐藤。誰かに掛けたいそぶりを見せるが、その手を止め、歩き出す。

○  スナック・店内
   ものすごく厚い化粧のママ、ママと向かい合う佐藤。佐藤の横におそるおそる立つ弥生。
ママ「それで、あんた。ひょこひょこと話をしに来たってのか?」
佐藤「そうだ。弥生ちゃんは俺と、この村を出る。邪魔をするな」
ママ「ほぉ。決め台詞は、それかい?なかなか迫力があって良いね。(奥に呼びかける)あんた」
   店の奥からぬっと出てくる三井。
   顔に傷がある、強そうな男。
三井「ん?」
ママ「この、あんちゃんがね、弥生を連れて出て行くって言うんだよ」
三井「ふうん。このもやしみたいなのがね」
   佐藤をねめ回すように見る三井。
三井「弥生はな。俺が仕込んでやったんだ。可愛い女だ。絶対、おめぇみてーな男じゃ、満足できねーよ」
弥生「そ、そんなことないっ!」
   カッとなって、三井にかかっていく佐藤。しかし、簡単に殴り倒される。悲鳴を上げる弥生。
三井「勝てないンだって。諦めろ」
   立ち上がる佐藤。
佐藤「俺は、雪女ブルーだ」
   かかっていく佐藤。投げ飛ばされる。
三井「何、わけわかんねーこと、言ってんだ?」
   床に倒れている佐藤、呟く。
佐藤「空は飛べないし、速く走れないし、速く泳ぐこともできない。何も重いものは持ち上げられないけど・・・ついでに言うと、身体を冷たくすることだってできないんだけど」
三井「おい。頭でも打ったか」
   と佐藤を覗き込む三井。
   そこで佐藤、いきなり立ち上がるので、三井の額に佐藤の頭が当たり、ひっくり返る三井。
三井「このやろ、やりやがったな」
   立ち上がり、佐藤を殴ったり、蹴ったりする。悲鳴を上げ続ける弥生。
そこへカランコロンとドアを開けて、入ってくる中村。
中村「あ。まこっちゃん」
佐藤「・・・」
中村「九尾の狐は、何か第六感も働くみたい  
 で」
   血まみれになって、床に倒れている佐藤。じっと中村を見つめる。
ママ「今、取り込み中だよ」
三井「おい」
   と、中村に声を掛ける。
中村「みんなを呼んでくる」
パッと走り出す中村。
ママ「まずいね。警察、呼ばれちゃうよ」
三井、舌打ちし
三井「捕まえてくる」
   と中村を追おうとして、ドアまで行き、外を見る。

○スナック前通り(夜)
もう中村の姿は見えない。

○  道(夜)
   狐のように、ものすごい速さで走る中村。

○  高橋の家・玄関(夜)
   高橋に報告している中村。

○  道(夜)
   狐のように、ものすごい速さで走る中村。

○  星の家・玄関(夜)
   星に報告している中村。
   ドアノブは壊れている。

○  道(夜)
   狐のように、ものすごい速さで走る中村。

○  遠藤の家・玄関(夜)
   遠藤に報告している中村。
遠藤「でもさ、いくら走るの速くたって、携帯で良いじゃん」

○  スナック前
   中に入ろうとする高橋、中村、星、遠藤。
   しかし、スナックのドア開かない。
高橋「開けろっ。開けるんだっ!」

○  スナック・店内
   ドア付近にソファを積み重ねるなどして、バリケードがつくられている。
三井「うるせー入ってきてみろ。こいつの命はねーぞ」
   店の奥で、血まみれの佐藤の首を抑え、人質にとっている三井。
   ママも傍にいる。ママは弥生を押さえつけている。

○  スナック・前
   背中から大きな扇を取り出す高橋。
高橋「そうだ。俺はヒーローなんだった」
   扇でドアを扇ぐ高橋。ドア、バリケード、簡単に吹き飛ぶ。
驚く三井とママ。
遠藤「次は俺だ」
   前に出て行く遠藤。
遠藤「俺と相撲とろう」
三井「はっ?」
   どんどん前に出て行く遠藤。
三井「近寄るなって。こいつ、刺すぞ」
   佐藤の首にナイフを当てている三井。
   しかし、どんどん前に出て行く遠藤。
   呆気にとられている三井の、隙を狙って、手首を噛む佐藤。三井がナイフを落とした隙に、ぱっと離れる佐藤。佐藤、ママを押し飛ばし、弥生の腕を掴み、引き離す。
佐藤を追おうとした三井に、組み付く遠藤。
三井を投げ飛ばす遠藤。
   投げ飛ばされ、ヘンな動作で立ち上がる三井。尻の辺りを抑えて。
三井「てっ、てめぇ。何しやがった?」
   遠藤の手に握られている玉。
遠藤「はっははは。尻小玉をいただいたのよ」
   へなへなと倒れこむ三井。
   隙を見て、逃げ出そうとするママ。
   ママ、壁のようなものに突き当たる。それは、星の腹である。
星「ぬ~~~り~~~か~~~べ~~~」
   同じくへなへなと倒れこむママ。
弥生の声「佐藤さんっ」
   倒れている佐藤に駆け寄る弥生。
   星、遠藤、中村、高橋もそれぞれ口々に佐藤を呼びながら、駆け寄る。
佐藤「どうだ。見たか。雪女ブルーの力を」
高橋「・・・」
星「・・・」
中村「・・・」
遠藤「・・・」
佐藤「身体が冷たくなってきた」
   悲鳴を上げる弥生。
高橋「・・・」
星「・・・」
中村「・・・」
遠藤「・・・」
佐藤「これ、笑うところだぞ」
高橋「笑えねーよ」
弥生「佐藤さんっ。今、救急車、来るから」
   遠くから救急車の音が聞こえてくる。
佐藤「な。一つ、良いこと言ってよいか・・・」
高橋「もう、喋るな」
佐藤「あのな。とても良いこと、思いついたんだ。言わせてくれ。俺、小さい頃、ヒーローもの見てた時、ひねくれて思ってたんだ。怪獣が大きくなってから、五人で力合わせて合体だかして、ロボになったりするンだけど、それなら最初から強いロボの状態で戦えば良いじゃんって・・・そう思ってた・・・でもさ、違うんだな」
高橋「・・・」
星「・・・」
中村「・・・」
遠藤「・・・」
佐藤「ヒーローってのも、やられて、傷ついて、それで力合わせて、更に大きくなれるんだな」
高橋「笑えねーよ」
佐藤「笑わせてねーよ」
星「まこっちゃん、やっぱ、最高だよ」
高橋「俺たちのリーダーはやっぱ、まこっちゃんだ」
高橋「そうだ。赤がリーダーってのも、何か先入観だな。ブルーがリーダーで良いじゃねーか。な」
星「男が演じる雪女ブルーがリーダーで良いよな」
   救急車、到着。
佐藤「おい。みんな」
高橋「ん」
佐藤「俺が戻ってくるまでに、次の敵を探しとけよ」
   担架に乗せられる佐藤。
   救急車に乗せられていく佐藤。
   佐藤と一緒に飛び乗る弥生。
   走り去る救急車。
   救急車を見送る

○  森
   隙を見て逃げ出したママが、走っている。
   走っているうちに、ママの姿は怪獣化する。
   爪が長く伸び、口には牙。
   月に向かって吼えるママ。
   まるで、続編がありそうな、その雰囲気。
               ―完

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。