<登場人物>
ヒデヨシ/羽柴 ヒデヨシ(23)~(45)猿、戦国武将、元桃太郎の家来
ネネ(21)~(60) 同、ヒデヨシの妻
チャチャ(19)~(25) 同、同後妻
ジュウベー(32)~(54)犬、桃太郎の家来
キジ(18)~(40)雉、元桃太郎の家来
桃太郎/明智 光秀(20)~(42)戦国武将
織田 信長(26)~(48) 戦国武将
木下 藤吉郎(23)~(45)織田家家臣
丹羽 長秀(25)~(47) 同
柴田 勝家(38)~(60) 同
武田 信玄(51) 戦国武将
今川 義元(41) 同
織田 信忠(18)~(25) 織田の嫡男
三法師(0)~(2) 信忠の嫡男
瓜子姫(0)~(24)ヒデヨシとネネの養子、信忠の妻
ボス猿 猿、ネネの父
天邪鬼 鬼
赤鬼 同
織田家家臣A、B、C、D
今川家家臣A、B
斎藤家家臣
<本編>
○鬼ヶ島・外観
おどろおどろしい外観。
○同・東側海岸
雨が降っている。
人間の桃太郎(20)に続いて船を降りる猿のヒデヨシ(23)、犬のジュウベー(32)、雉のキジ(18)。尚、動物達の年齢は人間に置き換えたもの。
ジュウベー「ここが鬼ヶ島ですか……」
キジ「コレ、逆にオイラ達がフクロウのネズミってオチはないよね?」
桃太郎「静かに。来ますよ」
次々と姿を現す敵意むき出しの鬼達。皆、筋骨隆々で、手には大きな金棒。
桃太郎「皆さん、覚悟は決まりましたか?」
ジュウベー「元よりです。桃太郎様」
キジ「オイラだって、サギはしないよ」
ヒデヨシ「もちろん、オレだって……」
○(フラッシュ)猿山・中央部
自然豊かな山。
ボス猿と対峙するヒデヨシ。
ボス猿「鬼の首でも獲ってくれば、お前を次のボス猿にしてやってもいいぞ」
× × ×
メス猿のネネ(21)に見送られるヒデヨシ。涙目のネネ。
ネネ「気を付けてね、ヒデヨシ」
○鬼ヶ島・東側海岸
迫りくる鬼達と対峙するヒデヨシ、桃太郎、ジュウベー、キジ。
ヒデヨシ「負けらんない理由があるんだ」
刀を抜くヒデヨシ。
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ」
桃太郎「行きましょう!」
鬼達に向け駆け出すヒデヨシ、桃太郎、ジュウベー、キジ。
N「むかしむかし」
× × ×
鬼達を次々と斬っていく桃太郎。
N「ある所で産まれた桃太郎は」
ジュウベーがかみつき、キジがくちばしでつつき、ヒデヨシが刀で斬っていく。
N「犬、猿、雉を従えて鬼ヶ島へ乗り込み」
× × ×
鬼に囲まれ、背中合わせになるヒデヨシと桃太郎。背中越し、互いににやりと笑うヒデヨシと桃太郎。駆け出す。
N「人間界で悪さをする鬼族を」
次々と鬼を斬っていく桃太郎とヒデヨシ。舞う血しぶき。重なる鬼の死体。
N「バッタバッタと斬り倒し」
× × ×
赤鬼と対峙する桃太郎。
赤鬼「覚悟!」
交錯する桃太郎の刀と赤鬼の金棒。見事に赤鬼の胸部に刺さる桃太郎の刀。引き抜くと血しぶき。
赤鬼「お見……事……」
N「見事に鬼族を滅亡させましたとさ」
鬼達の死体の山に重なる赤鬼の死体を見下ろす桃太郎。返り血にまみれた姿。
N「めでたし、めでたし」
○山崎
雨が降っている。
T「1582年」
対峙する約二万人の羽柴軍と、約一万人の明智軍。
N「そして……」
× × ×
羽柴軍を率いる馬上のヒデヨシ(45)。この時点では顔がわからない。
ヒデヨシ「これは上様、織田信長様の弔い合戦だ。敵は明智光秀。さぁ……」
ここでヒデヨシの顔が映る。
T「羽柴ヒデヨシ 戦国武将」
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ!」
○メインタイトル「桃太郎外伝『秀吉』」
○道中
T「1560年」
宝物を手や背などに抱えて歩くヒデヨシ、桃太郎、ジュウベー、キジ。ヒデヨシは鬼の首の入った箱と金棒などを持っている。
キジ「宝もたんまり手に入って、笑いが止まんないよ~。カーカッカッカ」
ジュウベー「アナタ、カラスですか?」
キジ「オイラはキジだよ~」
ジュウベー「ところで……」
T「ジュウベー 桃太郎のお供」
ジュウベー「皆さんはは本当に、桃太郎様のお供を辞めてしまうのですか?」
T「キジ 元桃太郎のお供」
キジ「鬼退治も終わったし、オイラは自由を謳歌するよ~」
ヒデヨシ「オレは山に戻る。鬼の首も獲ったし、コレで念願のボス猿だ」
ジュウベー「動機は不純ですけどね」
キジ「不純、不純〜」
ヒデヨシ「うるさいな」
桃太郎「でもまぁ……」
T「桃太郎 武士」
桃太郎「ヒデヨシさんは案外、人の上に立てる器だと、僕は思いますけどね」
ヒデヨシ「桃太郎さん……」
○猿山・中央部
ボス猿と対峙するヒデヨシ。
ヒデヨシの声「オレは猿の上に立ちたいんだけどな」
ヒデヨシ「何でダメなんだよ?」
ボス猿「前にも言ったじゃろ? ネネと結婚するのは、次のボス猿と決まっているのじゃ」
ヒデヨシ「だから、俺が次のボス猿に……」
ボス猿「鬼の首を獲ってきたら、じゃろ?」
ヒデヨシ「だから、ここに……」
箱を開けるヒデヨシ。空。
ヒデヨシ「え、何で……確かにココに……」
ボス猿「話は終わりじゃ」
ヒデヨシ「ちょっと待っ……」
そこにやってくるネネ。
ネネ「パパ、大変」
ボス猿「どうしたんじゃ、ネネ。また他所の山の猿でも攻め入ってきたか?」
ネネ「違うの。お、お……」
赤鬼を先頭に、攻め入ってくる鬼の大群。
ネネ「鬼が!」
ヒデヨシ「なっ……?」
○(フラッシュ)鬼ヶ島・東側海岸
桃太郎に斬られ、絶命する赤鬼。
赤鬼「お見……事……」
ヒデヨシの声「あの時、皆殺しにしたハズ」
○猿山・中央部
赤鬼ら鬼の大群と対峙する猿達。その先頭にはヒデヨシとボス猿。
ヒデヨシ「何で生きてやがる?」
ボス猿「この山に何しに来た?」
赤鬼「決まってんだろ? そこのお猿さんに仕返しするためだよ」
猿達の視線がヒデヨシに集まる。
ヒデヨシ「なぁ、ボス。コイツら叩きのめしたら、今度こそ次のボス猿にしてくれるか?」
ボス猿「そりゃ、鬼を相手にそれだけの強さがあるなら、文句も出ないじゃろうが……」
ヒデヨシ「なら、決まりだな。何でお前らがピンピンしてんのか知らないが……」
一歩前に出るヒデヨシ。
ヒデヨシ「何回でも、泣かせてやるぜ」
鬼達に向け駆け出すヒデヨシ。
○同・麓の道
傷だらけで倒れているヒデヨシ。山に向け手を伸ばす。
ヒデヨシ「ネ……ネ……」
意識を失うヒデヨシ。
そこに、馬に乗った織田信長(26)が通りかかる。
織田「(ヒデヨシを一瞥し)ほう……」
○清洲城・外観(夜)
○同・廊下(夜)
歩いている織田家家臣達。
織田家家臣A「こんな一大事に、猿の手当とは」
織田家家臣B「所詮うつけ者はうつけ者、か」
○同・大広間(夜)
ヒデヨシの傷の手当をする木下藤吉郎(23)。目を覚ますヒデヨシ。
ヒデヨシ「ん……ココは?」
木下「目、覚めた?」
窓の前に立つ織田と丹羽長秀(25)に何事か声をかける木下。それを聞き、ヒデヨシの元にやってくる織田と丹羽。ヒデヨシに何事か声をかける織田。尚、以降のシーンではヒデヨシには人間の言葉が通じず、木下が通訳する形とする。
木下「早速だけどその傷、誰にやられたの? 猿同士の争いのものじゃないよね?」
ヒデヨシ「(思い出しながら)この傷は……」
○(フラッシュ)猿山・中央部
鬼達に一方的にやられるヒデヨシ。
赤鬼に連れ去られるネネ。
ネネ「ヒデヨシ~!」
ヒデヨシ「ネネ~!」
○清洲城・大広間(夜)
体を起こすヒデヨシの様子を見守る織田、木下、丹羽。
ヒデヨシ「……そうだ。早く助けに行かないと」
木下「質問に答えてよ。君を襲ったのは、人間?」
ヒデヨシ「いや、オレ達を襲ったのは、鬼だ」
木下「鬼?」
その旨を織田に伝える木下。一気に興味を失った様子の織田。
ヒデヨシ「アイツは何て言ってんだ? ……っていうか、何でアンタは俺の言ってる事がわかるんだ?」
木下「拙者は、まぁ、そういう人間だから」
ヒデヨシ「へぇ。意外と居るもんなんだな」
木下「?」
ヒデヨシ「で、何て言ってたんだ?」
木下「あ、あぁ。拙者達は今、戦の最中でね」
○(フラッシュ)猿山・麓の道
傷だらけのヒデヨシを馬に乗せる織田。
木下の声「『君を襲ったのは、その敵国の者じゃないか』『だとしたら、敵の動きを知る良い機会かも』」
○清洲城・大広間(夜)
横になるヒデヨシの傍らに座る木下と、ヒデヨシらに完全に背を向けている織田と丹羽。
木下「そう思って、殿は君を助けたんだけど、当てが外れた、って話」
ヒデヨシ「戦……?」
体を起こすヒデヨシ。室内を見回すと多数の武具。
ヒデヨシ「アンタ達、戦えんのか?」
木下「まぁ、そうだね」
ヒデヨシ「なぁ。オレに力を貸してくれないか?」
木下「え?」
ヒデヨシ「あの数の鬼、オレだけじゃ無理だ。桃太郎さんくらい力のある人間の手助けが欲しい」
木下「桃太郎……?」
ヒデヨシ「とにかく、オレ達の山を取り戻すために協力してくれ。頼む、な?」
木下「何で、拙者達が猿に協力を? そもそも、今はそれどころじゃないから」
ヒデヨシ「だったらその分、アンタ達の戦に俺が手を貸す」
木下「いや、そういう問題じゃ……」
ヒデヨシ「オレが出来る事なら何だってしてやる。だから!」
ヒデヨシの様子に気付き、木下に声をかける丹羽。
ヒデヨシ「ほら、オレの言った事を訳せ」
木下「(渋々)……しょうがないな」
織田と丹羽に説明する木下。興味深そうに、かがみこみ、ヒデヨシの目を見る織田。負けじと見返すヒデヨシ。
高笑いする織田。
ヒデヨシ「?」
何事か言う織田。驚く木下と丹羽。
そのまま出ていく織田と丹羽。
ヒデヨシ「なぁ。何て言ってたんだ?」
木下「あ、あぁ。殿はこうおっしゃってる。『もし、この戦に勝つ事が出来たなら……』」
○同・廊下(夜)
織田に続いて歩く丹羽。
木下の声「『其方に力を貸してやろう』って」
丹羽「殿。此度の戦、真にあの猿の力を借りるおつもりですか?」
織田「長秀は、反対か?」
丹羽「反対と申しますか……猿に出来る事など、何もないかと」
織田「そうだろう? それでいいのだ」
丹羽「というと?」
織田「まぁ、今に見せてやろう。この戦の終わりを、そして……」
T「織田信長 戦国武将」
織田「この織田信長の、真骨頂をな」
○同・外(朝)
駆けていくヒデヨシ。
織田の声「さて、猿よ。お主には敵の本陣に乗り込んでもらう」
○桶狭間山・前(朝)
やってくるヒデヨシ。手には今川家の家紋の絵。今川方の旗を見つけ、そこに向け駆け出すヒデヨシ。
織田の声「儂らと違って、お主は猿だ。例え見つかっても、すぐに殺されはしまい」
○(フラッシュ)清洲城・大広間(朝)
ヒデヨシに語り掛ける織田と、それを通訳する木下。
織田「何故なら、相手はこう思うからだ。『猿に出来る事など、何もない』とな」
○桶狭間山・今川陣営
今川義元(41)に跪く今川家家臣A。
今川家家臣A「申し上げます。松平元康様より、丸根砦を制圧したとの事です」
盛り上がる今川陣営。
そこにヒデヨシの首根っこを掴んでやってくる今川家家臣B。
今川家家臣B「申し上げます。猿が一匹、紛れ込んでまいりました」
織田の声「だからこそ、正面から堂々と入り込み、中の様子を見て来い」
今川「良い時に来たな、猿よ。儂は今、すこぶる機嫌がいい。貴様の朝飯分くらい、分けてやっても構わぬぞ? がっはっは」
つられて笑う今川家家臣たち。周囲の様子を観察するヒデヨシ。
織田の声「そして、少しでも多くの情報を得てくるのだ」
○中島砦・外観
織田の声「儂らが勝つために、な」
○同・中
ヒデヨシ(と通訳の木下)から報告を受ける、鎧兜を身に纏った織田。周囲には同じく鎧兜を身に纏った武士達。
木下「『報告は以上』との事です」
織田「なるほど……今こそ、攻め時だな」
盛り上がる織田軍。
それを見て、木下に何か告げるヒデヨシ。
木下「あ、殿。猿からもう一つ。『まもなく、雨が降る』と」
織田「ほう、雨か……」
空の様子を見やる織田。曇天。
木下「『それもかなり強くなりそうだ』と。ここは一度、様子を見たほうが……」
織田「ならば、その猿に伝えておけ。『この織田信長にとって、それは好都合だ』とな」
と言ってニヤリと笑う織田。
○桶狭間山・外観
ものすごい雨と風。
武士たちの悲鳴。
○同・今川陣営
ものすごい雨と風。
風上に立つ織田軍と風下で構える今川軍。織田軍の中心に馬上の織田。
織田「かかれ~!」
織田軍一同「うお~!」
× × ×
攻める織田軍、逃げ惑う今川軍。
× × ×
馬から降り、今川軍に斬りかかる織田。
織田「これで終わりだ、今川~!」
× × ×
退却する今川ら。
そこに攻め込む織田軍の武士達。その中に居るヒデヨシ。手には刀。
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ」
今川に襲い掛かるヒデヨシら織田軍。
○同・外観
晴れている。
○中島砦・中
織田を中心に勝どきを上げる織田軍の武士達。その中に居るヒデヨシ、木下。
○清洲城・外観(夜)
丹羽の声「おめでとうございます、殿」
○同・廊下(夜)
織田に続いて歩く丹羽。
丹羽「それで、あの猿との約束は、どうされるおつもりですか?」
織田「もちろん、この織田信長に二言はない」
丹羽「しかし……」
織田「ちょうど良い奴が居るだろう?」
丹羽「まさか……なるほど」
ニヤリと笑う織田。
ヒデヨシの声「どういう事だよ!?」
○同・大広間(夜)
織田と対面するヒデヨシ、木下。
ヒデヨシ「あの戦に勝ったら、鬼退治に力を貸すって約束だっただろ?」
木下「落ち着いて、ヒデヨシ。『殿自らは出陣なさらない』って言ってるだけだから」
ヒデヨシ「だから、話が違うだろ!?」
木下「違わないよ。今川との戦に出陣しなかった人達を中心に、軍を編成して下さっているんだから」
ヒデヨシ「ふざけんな。そんな補欠連中、当てにできるか」
背後に気配を感じ、頭を下げる木下。
ヒデヨシ「こうなったら、泣かせてでも約束守ってもら……」
巨大な影がヒデヨシを覆う。恐る恐る振り返るヒデヨシ。そこに立つ、鬼のように筋骨隆々な男、柴田勝家(38)。
ヒデヨシ「お、鬼!?」
織田とヒデヨシの間に腰を下ろす柴田。
何か言う織田。
木下「『今回、鬼退治軍の大将を務められる、柴田勝家様だ』」
T「柴田勝家 織田家家臣」
木下「『何か、不服でも?』だって」
ヒデヨシ「……無いです」
○同・外観(夜)
○同・中庭(夜)
星空を見上げるヒデヨシ。
○(フラッシュ)猿山・中央部
鬼達に連れ去られるネネ。
ネネ「ヒデヨシ~!」
○清洲城・中庭(夜)
星空を見上げるヒデヨシ。
ヒデヨシ「待ってろよ、ネネ……」
キジの声「見つけた~!」
ヒデヨシの視界、星空に割って入るキジの影。徐々にヒデヨシに近づく。
キジ「ヒデヨシ~!」
ヒデヨシ「な、何だ!?」
思わず飛びのくヒデヨシ。その脇に着地するキジ。
キジ「ひどいな、ヒデヨシ。オイラの事、忘れちゃったのか? このアホウドリが」
ヒデヨシ「キジ!」
× × ×
並んで座るヒデヨシとキジ。
ヒデヨシ「お前もか?」
キジ「そうなんだよ。宝箱を開けたら、もぬけのカラスでさ」
ヒデヨシ「オレもだ。鬼の首が消えてた」
キジ「おまけに、アッチコッチで変な話を聞いちゃってさ」
ヒデヨシ「変な話?」
○(回想)とある村・とある川
洗濯をしているおばあさん(60)。川から大きな桃が流れてくる。
キジの声「おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が、どんぶらこどんぶらこ」
○(回想)同・桃太郎の生家
大きな桃を切るおじいさん(60)とおばあさん。桃が割れると中から桃太郎(0)が生まれる。
キジの声「何と、桃の中から元気な男の子が生まれました」
ヒデヨシの声「……いや、ちょっと待った」
○猿山・麓の道
進軍する柴田、ヒデヨシ、木下ら柴田軍。ヒデヨシの肩に止まるキジ。
ヒデヨシ「何で桃の中から人間が生まれんの?」
キジ「オイラに言うなよ~。そういう風に伝わっているんだからさ~」
木下「でも確かに、町の人たちがそういう話をしているのは聞いたな」
ヒデヨシ「いやいや、桃太郎さんは『桃を食べて若返ったおじいさんとおばあさんの間に産まれた子供だ』って聞いたけどな?」
キジ「オイラもそう聞いたよ~。それに、話はそれだけじゃないんだよ~」
○(回想)鬼ヶ島・外観
○(回想)同・東側海岸
迫りくる赤鬼率いる鬼達と対峙するヒデヨシ、桃太郎、ジュウベー、キジ。
桃太郎「行きましょう!」
赤鬼率いる鬼達に向け駆け出すヒデヨシ、桃太郎、ジュウベー、キジ。
刀を収め、投げ飛ばす等して、鬼達を次々と懲らしめていく桃太郎。
桃太郎「とりゃあ!」
赤鬼「ひぃぃぃ、お見事ぉぉぉ」
ヒデヨシ、ジュウベー、キジも鬼達に致命傷を与えない程度(殴る、かみつく、つつく等)で戦っている。
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ!」
キジ「ちょちょいのちょいの、チュチュンのチュンだよ~」
ジュウベー「アナタ、スズメですか?」
キジ「オイラはキジだよ~」
× × ×
桃太郎一行に土下座して謝る赤鬼達。
赤鬼「もう悪い事はしません」
大量の宝物が積まれた台車。
赤鬼「人々から奪った宝物も返すので、どうかお許しを」
笑顔を浮かべる桃太郎一行。
桃太郎「これにて一件落着。ハッハッハ」
キジの声「こうして、桃太郎は見事に鬼達を懲らしめましたとさ」
○猿山・入口
進軍する柴田、ヒデヨシ、木下ら柴田軍。
キジ「めでたし、めでたし」
ヒデヨシ「何もめでたくないだろ?」
キジ「でも『桃太郎さんの鬼退治』は、こういう話として町に伝わってるんだよ~」
木下「間違ってるの?」
ヒデヨシ「あぁ。だって、オレ達は鬼を皆殺しにしてきたんだからな」
木下「でも、だとしたら何で、ヒデヨシの山に鬼が攻め込んできたの?」
ヒデヨシ「それは……わからない」
木下「もしヒデヨシ達の言っている事が事実で、町に伝わった話もまた事実だとしたら……」
ヒデヨシ「だとしたら?」
木下「何者かが、過去に飛んで歴史を変えた?」
ヒデヨシ「なっ……それこそあり得ないだろ?」
キジ「そうだよ~。カッコウに飛んで歴史を変えるなんてさ~」
木下「まぁ、そうなんだけどさ。そういう『過去に飛んで歴史を変える事が出来る人が存在する』って噂、聞いた事あってね」
ヒデヨシ「何!? それは……ん?」
歩みを止める柴田軍。
前方、鬼が次々と姿を現す。柴田軍の間に緊張が走る。
木下「あれが、鬼……」
ヒデヨシ「ちっ。いい所で。仕方ない、続きは後回しだ」
キジ「じゃあ、オイラはその線で情報収集してくるから~」
と言って飛び立つキジ。
ヒデヨシ「あ、おい。逃げんのかよ」
木下「ヒデヨシ、まずは目の前の鬼だよ」
ヒデヨシ「わかってる」
刀を抜き、先頭に立つヒデヨシ。
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ!」
駆け出すヒデヨシに続く柴田軍。
× × ×
鬼と戦う柴田ら柴田軍の面々。
鬼の振り下ろした金棒を刀で受け止め、鬼と力比べをする形になる柴田。
柴田「……足らぬわ」
力で鬼を押し返す柴田。
柴田「地位、名誉、信頼……それらを失った苦しみに比べれば、こんなもの」
そのまま鬼を吹っ飛ばす柴田。
柴田「まだまだ足らぬわ!」
× × ×
次々と鬼を斬っていくヒデヨシ。
ヒデヨシ「ネネ! どこだ、ネネ!」
ヒデヨシの前方に吹っ飛ばされてくる鬼。
ヒデヨシ「!?」
振り返るヒデヨシ。次々と鬼を吹っ飛ばしていく柴田の姿。
ヒデヨシ「……凄ぇな」
ヒデヨシの声「なぁ、一つ聞いていいか?」
○(回想)清洲城・廊下(夜)
並んで歩くヒデヨシと木下。
ヒデヨシ「柴田さんだっけ? あのデカいオッサン、何でこの間の戦に参加しなかったの?」
木下「あ~……。まぁ、一種の罰かな?」
ヒデヨシ「罰?」
木下「以前、殿が弟さんと対立した時、柴田様は弟さん側に付いたんだよ」
ヒデヨシ「なるほどね。それで、未だに信用されてない、って事か」
木下「だから、今回も試されているんだよ。果たして柴田様は『殿の指示とあらば、猿山の鬼退治にも命を懸け』られるのかどうか」
ヒデヨシ「オレはまんまとダシに使われたのか」
木下「かもしれないけど、柴田様ほど、この戦で必死に戦ってくれる方は、他に居ないと思うよ?」
ヒデヨシ「……まったく。アンタの所のボスは、随分と世渡り上手だな」
○猿山・入口
襲い来る鬼達を次々と斬っていく柴田。
振り返り、その様子を見ているヒデヨシ。
ヒデヨシ「……理由はどうあれ、頼りになるぜ」
前に向き直り、駆け出すヒデヨシ。
○同・中央部
鬼を斬りながらやってくるヒデヨシ。
ヒデヨシ「ネネ! 聞こえるか!?」
ネネの声「ヒデヨシ!」
顔を上げるヒデヨシ。木の上から顔を出すネネ。
ヒデヨシ「ネネ! 良かった、無事だったんだな。今行くから……」
ヒデヨシの前に立ちはだかる赤鬼。
赤鬼「懲りない猿だな。またボコボコにされてぇか?」
ヒデヨシ「テメェなんざ、サシなら負けないぜ」
赤鬼「どうだかな」
刀で斬りかかるヒデヨシと、金棒で殴りかかる赤鬼。パワーでは赤鬼が勝るが、スピードではヒデヨシに分がある。
赤鬼「この、ちょこまかと」
ヒデヨシ「何だ、こんなもんか?」
赤鬼「だったら、コレでどうだ?」
ネネが居る木の幹を金棒で叩く赤鬼。バランスを崩し、地面に落ちるネネ。
ネネ「きゃっ!」
ヒデヨシ「ネネ!」
ネネを庇い、金棒の直撃を受けるヒデヨシ。吹っ飛ばされる。
ヒデヨシ「ぐあっ!」
ネネ「ヒデヨシ!」
赤鬼「先にお前から潰してやるよ。メス猿」
ネネに向け、金棒を振りかざす赤鬼。
ヒデヨシ「や、め、ろ~!」
刀を投げつけるヒデヨシ。刀は赤鬼の腕に刺さり、痛みで金棒を落とす赤鬼。
赤鬼「ぐっ」
ヒデヨシ「今だ!」
駆け出し、赤鬼が落とした金棒を拾うヒデヨシ。赤鬼に向け金棒を振りかざす。
赤鬼「しまっ……」
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ!」
金棒で赤鬼を殴り倒すヒデヨシ。
赤鬼「ぐ……うぅ……」
倒れる赤鬼。
その戦いぶりを遠目で見ている柴田。
赤鬼の声「お見……事……」
○同・外(夕)
帰路に就く柴田ら柴田軍の面々。
ボス猿の声「本当に行くのか?」
○同・中央部(夕)
荷物を抱えたヒデヨシを見送るネネ、ボス猿ら猿達。
ボス猿「せっかく、ヒデヨシを次のボス猿として認めようとしとったのにな」
ヒデヨシ「ありがたい話だけど、でも決めたんだ。俺は山を下りる。山を下りて、信長さんの所で腕を磨く、ってな」
ネネ「あんなにボス猿になりたがってたのに」
ヒデヨシ「もっと強くならなきゃ、守りたいもん守れないし。それに……」
ネネ「それに?」
ヒデヨシ「オレ、そもそもそんなにボスの座に興味ないし」
ネネ「バカ」
ヒデヨシ「(ふっと笑い)じゃあな」
猿達に背を向け歩き出し、離れた場所で待っていた木下の元に来るヒデヨシ。
木下「いいの?」
ヒデヨシ「あぁ、いいんだ」
振り返るヒデヨシ。泣きそうな顔で見送るネネの姿。
ネネの声「あーあ、何でボス猿の一人娘なんかに産まれちゃったんだろ?」
○(回想)同・同
並んで座る幼い頃のヒデヨシとネネ。
ネネ「おかげで私、次のボスになる猿としか結婚出来ないんだって。おかしくない?」
ヒデヨシ「ボス猿、か……」
ネネを見つめるヒデヨシ。
ヒデヨシの声「俺はボス猿になりたかったんじゃない。オレはただ……」
○同・入口(夕)
並んで歩くヒデヨシと木下。涙を拭うヒデヨシ。
ヒデヨシ「オレはただ……」
ネネの声「ヒデヨシ!」
振り返るヒデヨシと木下。荷物を抱えたネネが駆けてくる。
ヒデヨシ「ネネ……」
ネネの元へ駆け出すヒデヨシ。互いに抱えた荷物を落としていくが気にも留めず、互いの元へ駆けていくヒデヨシとネネ。そして抱き合う二匹。
その様子を見守る木下。
○清洲城・外観
○同・大広間
丹羽と向かい合って座るヒデヨシとネネ。通訳として同席する木下。
T「丹羽長秀 織田家家臣」
木下「丹羽様曰く『人間の言葉を話せるようにならなければ、織田家家臣として受け入れる事はできない』って」
ヒデヨシ「そりゃ、そうだろうな」
木下「ただし、どうやら殿はヒデヨシを気に入っちゃってるみたいでね」
大量の紙の束と筆をヒデヨシの前に置く丹羽。鬼教師といった表情。
木下「丹羽様は『何としてでもヒデヨシに人間の言葉を習得させろ』と命令を受けているんだって。覚悟した方がいいよ」
ヒデヨシ「お、おう……」
ネネ「何から何までありがとうございます。えっと……(木下を指し)そういえば、コチラの方のお名前は?」
ヒデヨシ「あ~……あれ、オレもまだ名前聞いてないぞ?」
木下「確かに、言ってなかったね。拙者……」
T「木下藤吉郎 織田家家臣」
木下「木下藤吉郎だ。よろしくね」
○岐阜城・外観
T「1568年」
○同・廊下
歩いているヒデヨシ(31)と反対側から歩いてくる織田家家臣C、D。ヒデヨシに気付き、道を譲る織田家家臣Cとそれに倣う織田家家臣D。尚、このシーン以降のヒデヨシは人間の言葉で会話が出来る状態。
織田家家臣D「(ヒデヨシが通り過ぎてから)あの猿、何者?」
織田家家臣C「ヒデヨシ様だよ。知ってるだろ、『墨俣の一夜城』の話」
織田家家臣D「『墨俣の一夜城』?」
織田家家臣C「これだから新入りは。あのな、『墨俣の一夜城』ってのは……」
○(回想)墨俣
猿達が砦を築くための準備をしている。
通りがかる斎藤家家臣。
斎藤家家臣「……最近、猿多いな」
そのまま去っていく斎藤家家臣。
キジの声「猿を集め、数日かけて最大限の準備を進めて」
○(回想)同(夜)
猿達の元に合流するヒデヨシや、木下ら人間の武士達。砦を築く。
キジの声「準備が終わった段階で、人間を集めて一晩で仕上げ」
○(回想)同
完成された墨俣砦。
川の向こうからそれを見て唖然とする斎藤家家臣。
斎藤家家臣「な……いつの間に!?」
キジの声「人間の目から見ると、一晩で砦を完成させたように見せる」
○岐阜城・中庭
並んで座るヒデヨシとキジ(26)。
キジ「これを『一夜城』って呼ぶなんて、ヒデヨシもとんだサギ師だよね~」
ヒデヨシ「別に、オレがそう呼んだ訳じゃない。それより、さっさと本題入れよ」
キジ「わかったよ~。桃太郎さんの実家見つけたんだけどさ~」
ヒデヨシ「どうだった?」
キジ「凄いおじいさんとおばあさんだったよ~」
ヒデヨシ「って事は『桃食べて若返った』って話とは、合わなくなるな」
キジ「あとはもう、桃太郎さんに直接聞いてみるしかないよね~」
ヒデヨシ「で、その桃太郎さんは?」
キジ「まだ見つかんないよ~」
ヒデヨシ「そうか……。あんだけ強いんだ、どっかの戦で名を上げてそうなもんだけど。名前変えちまってんのかな?」
キジ「カモね~」
木下の声「お~い、ヒデヨシ」
そこにやってくる木下(31)。
木下「殿がお呼びだ。すぐ来てくれ」
ヒデヨシ「わかった。(キジに)じゃあ、また何かわかったら、頼むな」
キジ「はいよ~」
飛び立っていくキジ。
ヒデヨシの声「客人?」
○同・廊下
並んで歩くヒデヨシと木下。
木下「どうやら、将軍家からの遣いらしい」
ヒデヨシ「そんな人が、何でオレを?」
木下「さぁ? 猿が珍しいんじゃない?」
ヒデヨシ「ったく。泣かしてやろうか」
○同・大広間
向かい合って座る織田(34)と桃太郎改め明智光秀(以下「明智」と表記)(28)。
そこにやってくるヒデヨシと木下。
ヒデヨシ「失礼いたします」
頭を下げる明智。その為、顔が見えなくなる。
織田「おう、猿。そこに座れ」
織田と明智の間、明智に顔を向けて座るヒデヨシ。
ヒデヨシ「ヒデヨシと申します」
明智「お久しぶりですね、ヒデヨシ」
ヒデヨシ「え?」
顔を上げる明智。
ヒデヨシ「桃太郎さん!?」
明智「人間の言葉、随分と上手くなりましたね」
ヒデヨシ「まぁな。っていうか、将軍家からの遣いって、桃太郎さんだったのかよ」
明智「そうなんです。尾張の織田信長という男、頼りになると耳にしましてね。我が主君、足利義昭様の上洛に是非、お力添えをと思って伺った次第です」
織田「そうしたら、どうだ? 知り合いに『ヒデヨシという名の猿が居る』と。これは引き合わせてみよう、となった訳だ」
ヒデヨシ「光栄です」
織田「そして、儂は此度の願いを聞き入れる事とした。猿も、この織田信長に付いてまいれ」
ヒデヨシ「オレも、ですか?」
明智「僕としても、旧知の間柄であるヒデヨシが居てくれると、心強いです」
ヒデヨシ「それはもちろん、喜んで。道中、色々聞きたい事もあるもんでね、桃太郎さんに」
明智「あ~、そうそう。今は『桃太郎』とは名乗っていないんですよ」
T「明智光秀(桃太郎改め) 戦国武将」
明智「今は、明智光秀と言います」
ヒデヨシ「そっか。まぁ、仲良くしようぜ」
○箕作城・前
睨み合うヒデヨシとジュウベー(40)。背後には落城した箕作城。
ヒデヨシ「うぅ……」
ジュウベー「ぐるる……」
両者の様子を気にする木下の元にやってくる明智。
木下「あ、光秀様。ヒデヨシとジュウベー殿が何やら揉めているようなのですが?」
明智「おやおや。いつもの事とはいえ、しょうがないですね」
両者の元にやってくる明智。
ヒデヨシ「オレの事、バカだと思ってんだろ?」
ジュウベー「少なくとも、いたく非現実的な話をされたのはアナタでしょう?」
ヒデヨシ「んだと?」
ジュウベー「何ですか?」
明智「今回は一体、何で揉めているのですか?」
ヒデヨシ「『過去に飛んで歴史を変える事は出来るかどうか』って話だ」
明智「はい?」
ヒデヨシ「桃太郎さんだって知ってるだろ?」
ジュウベー「今は明智光秀様とお呼びなさい」
明智「構いませんよ。で、何をですか?」
ヒデヨシ「オレ達、鬼ヶ島で鬼を皆殺しにしたよな? なのに町では『鬼を懲らしめた』程度の噂になってるし、何より鬼の残党にオレの山が襲われた」
明智「存じてます」
ヒデヨシ「だから、何者かが過去に飛んで歴史を変えたんじゃないか、って」
ジュウベー「非現実的です」
ヒデヨシ「けど『そういう能力を持った人がいる』って、藤吉郎から聞いたぞ?」
ジュウベー「え!?」
木下に目を向ける明智とジュウベー。
木下「あ、噂で、ですよ?」
ジュウベー「そうでしょう、噂でしょう? そんなもの信じる訳が……」
明智「僕も聞いたことありますね、その噂」
ジュウベー「光秀様!?」
ヒデヨシ「本当か? 一体、どこのどいつが?」
明智「知りませんよ。あくまで、噂ですから」
ヒデヨシ「何だ。つまり桃太郎さんは、その噂を信じてない、って訳?」
明智「人の噂の信用度なんて、そんなもんでしょう? ヒデヨシだって『僕が大きな桃から生まれた』なんて噂、信じるんですか?」
ヒデヨシ「う~ん、それを言われると……」
木下「あの、そろそろ行かないと、怒られるよ?」
ヒデヨシ「うるさいな。今大事な所なんだよ」
木下「え~」
丹羽の声「こっちも大事な所だ」
そこにやってくる丹羽。
丹羽「さっさと信長様に合流して、観音寺城に向かうぞ、ヒデヨシ」
ヒデヨシ「あ、はい。了解です、先生」
明智「丹羽様の言う事は、素直に聞くんですね」
ヒデヨシ「オレの先生だからな」
丹羽「明智殿も。今は織田家家臣でもあるのだから、指示を聞いてもらいますぞ?」
明智「あ、はい。失礼しました」
馬にまたがる面々。
ヒデヨシの視線の先、明智の背中。
ヒデヨシ「確かに、噂なんてそんなもんか」
ヒデヨシM「まぁ、あり得ないよな」
○ヒデヨシの家・外観
ヒデヨシM「川から大きな桃が流れて」
○同・中
ヒデヨシに大きな瓜を見せるネネ(45)。ネネは猿なので、人間の三倍の速さで年を取っていく。
ヒデヨシM「中から人間が生まれるなんて」
ヒデヨシ「ネネ。これ、どうしたんだ?」
ネネ「川で洗濯してたら、流れてきたの。大きいでしょ?」
ヒデヨシ「うん、デカい……まさかな」
ネネ「じゃあ、早速食べようか」
包丁を手に瓜を切ろうとするネネ。その時、瓜が割れ、中から人間の娘、瓜子姫(0)が生まれてくる。
ネネ「え!?」
ヒデヨシ「……生まれんじゃん」
キジの声「その女の子は『瓜子姫』と名付けられ……」
○木ノ芽峠
進軍する織田(36)率いる織田軍。その中にはヒデヨシ(33)、明智(30)、ジュウベー(42)、キジ(28)、木下(33)、柴田(48)、丹羽(35)。
T「1570年」
キジ「それはそれは美しい娘へと成長しました」
木下「瓜から人間が生まれるんだ」
キジ「トンビがタカを産む、とも聞いたよ~」
ジュウベー「それは、そういう意味ではないと思いますよ」
ヒデヨシ「……人の噂ってのも、案外信用できるのかもしれないな」
明智「それは、僕が大きな桃から生まれた、と?」
ヒデヨシ「あと、過去に飛べる人の話も、な」
ジュウベー「アナタもしつこいですね」
明智「まぁまぁ。ところでその瓜子姫は、今おいくつなんですか?」
ヒデヨシ「人間でいうと、六歳かな?」
木下「早くない?」
ヒデヨシ「猿的には普通なんだけどな。っていうか、むしろオレらがおかしな事になってんだけど」
明智「それも黍団子の力です。ジュウベー、ヒデヨシ、キジはもう、人間と同じ年の取り方をする事になりますよ」
ヒデヨシ「へぇ、そうなんだ……」
息せき切ってやってくる一人の男、丹羽に文を渡す。
丹羽「何!?」
織田の元にやってくる丹羽。
丹羽「殿。近江の浅井長政が裏切った、との報告がありました」
織田「何? 真か?」
柴田「信じられぬ。長政は信長殿と義兄弟の間柄だぞ?」
織田「この織田信長に背くか。義兄弟の関係もこれで終わりだな」
丹羽「いかがなさいましょう?」
織田「……まずは退くしかあるまい」
丹羽「しかし、朝倉と浅井が既に結託していた場合、背後から襲われるかもしれませんな」
柴田「全員で逃げるには、時間が足らぬか」
ヒデヨシを見やる明智。
明智「……と言ってますが、どうしますか、ヒデヨシ?」
ヒデヨシ「ふん。決まってんだろ」
○金ヶ崎城・外観
攻め入ってくる浅井軍と朝倉軍。
それを迎え撃つヒデヨシ、明智、ジュウベー、キジら織田軍の一部。
キジ「(上空から様子を見て)信長さん達は、まだそんなに離れてないね~」
ヒデヨシ「って事は、なかなかの時間稼ぎをしなきゃなんないって訳か」
ジュウベー「命がけですね」
明智「それにしても、こうして全員で一緒に戦うのは、鬼ヶ島以来ですね」
ヒデヨシ「確かに、いつもキジが居ないもんな」
キジ「何言ってんの、オイラはこの辺で失礼させてもらうよ」
明智「残念ながら、キジにも一緒に戦ってもらいますよ」
キジの体を掴むジュウベー。
キジ「嫌だよ~、離せよ~。ねぇ、ジュウベー、頼むよ~」
ジュウベー「何でアナタの頼みを聞かなければならないんですか?」
キジ「オイラの一声、って奴だよ~」
ジュウベー「アナタ、ツルですか?」
キジ「オイラはキジだよ~」
明智「さぁ、皆さん。立派に殿(しんがり)を務めましょう」
ヒデヨシ「あぁ。泣かせてやるぜ!」
ヒデヨシ、明智を先頭に駆け出す織田軍。
× × ×
ジュウベーがかみつき、キジがくちばしでつつき、ヒデヨシと明智が刀で斬っていく。
× × ×
敵軍に囲まれ、背中合わせになるヒデヨシと桃太郎。
ヒデヨシ「本格的に、鬼ヶ島を思い出すな」
明智「そうですね。ではまだまだ、泣かせに行きましょう」
ヒデヨシ「おう」
背中越し、互いににやりと笑うヒデヨシと桃太郎。駆け出す。
次々と相手を斬っていく桃太郎とヒデヨシ。舞う血しぶき。重なる死体。
× × ×
敵軍の武士の死体の山を見下ろすヒデヨシ。返り血にまみれた姿。
○岐阜城・外観
T「1973年」
○同・大広間
向かい合って座るヒデヨシ(36)と織田(39)、織田信忠(16)。
ヒデヨシ「今度は、武田が?」
織田「あぁ。盟約を破棄し、攻め入ってきた」
○三河・某所
攻め入る武田信玄(51)率いる武田軍。
T「武田信玄 戦国武将」
武田「さぁ、西へ進め! 織田を討ち取る!」
その前方、鬼・天邪鬼の影。
武田「(影に気付き)ん? 何じゃ?」
画面には映らないが、天邪鬼の爪で刺され、命を落とす武田。
天邪鬼「ケケケ」
○岐阜城・大広間
向かい合って座るヒデヨシと織田、信忠。
ヒデヨシ「つまり、オレに武田討伐をしろ、って事ですよね? お任せ下さい」
織田「いや、それに関しては信忠に任せようと思う」
T「織田信忠 信長の嫡男」
信忠「そういう事だ」
ヒデヨシ「若様が……。えっと、じゃあオレは、何で今日呼ばれたんですか?」
織田「そもそも信忠と武田信玄の娘・松姫が婚約関係にあったのは知っているな?」
ヒデヨシ「あ~、はい。え、その話、どうなっちゃったんですか?」
織田「婚約関係は終わり、破棄に決まっているだろう」
ヒデヨシ「ですよね」
織田「しかし、信忠がだな……」
信忠「松姫を諦めたくない」
ヒデヨシ「それはまた、何で?」
信忠「かわいいから」
ヒデヨシ「……気持ちのいい答えですね」
織田「結局『松姫以上にかわいい女子を信忠の嫁として連れてくる』という約束をさせられてな」
ヒデヨシ「殿も若には甘いですね」
織田「調子に乗るなよ、猿」
ヒデヨシ「すいません」
織田「……瓜子姫と言ったか、猿の所の娘は」
ヒデヨシ「あぁ、はい」
織田「年頃の娘と聞いているが?」
ヒデヨシ「人間でいうと、一五歳ですかね?」
信忠「めっちゃかわいいんでしょ?」
ヒデヨシ「猿のオレに聞かれても……って、え、まさか?」
織田「どうじゃ?」
ヒデヨシ「そりゃあ、若様の御眼鏡に適うのであれば」
織田「決まりじゃな。すぐにでも祝言を行おう」
ヒデヨシ「なら、すぐに準備を……」
織田「待て、猿。まだ話は終わっとらん」
ヒデヨシ「え?」
織田「未来の天下人たる信忠の妻が、苗字もない家の娘で良いはずがなかろう?」
ヒデヨシ「苗字……」
○ヒデヨシの家・外観(夜)
織田の声「儂が許す」
○同・中
紙と筆を用意し、思い悩むヒデヨシ。
織田の声「猿が自分で考え、苗字を名乗れ」
ヒデヨシ「って言われてもな~。(振り返り)どうしたらいいと思う?」
大量の着物を次々と手に取り、瓜子姫(15)に合わせていくネネ(60)。
ネネ「あ、コレも似合う。どうしましょ?」
瓜子姫「もう、落ち着いてよ」
ヒデヨシ「その前に聞けよ、ネネ」
ネネ「聞いてるわよ。苗字でしょ?」
ヒデヨシ「こういう事を考えるのって、ネネの方が得意だろ?」
ネネ「そうね~。やっぱり、お世話になった方から一字もらってつけるとか?」
ヒデヨシ「お世話になった方か。殿、桃太郎さん、あと藤吉郎とか?」
ネネ「私はあんまり、直接お世話になってないからな~」
ヒデヨシ「ネネが世話になったのって、誰?」
ネネ「やっぱり、山を救ってくださった柴田様とか」
ヒデヨシ「なるほど」
紙に「柴田」と書くヒデヨシ。字は下手。
ネネ「あとは、人間の言葉を教えて下さった丹羽様とか」
ヒデヨシ「先生か」
紙に「丹羽」と書くヒデヨシ。字は下手。
二枚の紙をネネに見せるヒデヨシ。
ヒデヨシ「どうだ?」
ネネ「下手だな」
ヒデヨシ「悪かったな」
瓜子姫「そう考えると、私も色々な方に支えられて生きてきたのですね」
ヒデヨシ「ん? まぁ、そうだな」
瓜子姫「でもやっぱり、私が一番お世話になったのはお二方です」
改まり、頭を下げる瓜子姫。
瓜子姫「おじい様、おばあ様。瓜子姫をここまで育ててくれて、ありがとうございました」
ネネ「(涙ぐみ)こちらこそ、子供が出来なかった私達の元に生まれてきてくれて、ありがとう。ね、ヒデヨシ?」
ヒデヨシ「……オレ、おじい様か?」
ネネ「(ヒデヨシの頭を叩き)今はそういう事言わなくていいのよ」
ヒデヨシ「痛っ。何すんだよ。泣かすぞ?」
ネネ「もう泣いてるわよ!」
それを笑顔で見守る瓜子姫。
○同・外(夜)
忍び寄る天邪鬼の影。
天邪鬼「ケケケ」
○岐阜城・外観
明智の声「この度は、おめでとうございます」
○同・大広間
祝言の準備がされている。
向かい合って座る織田と明智。明智の手にはホトトギスの入った鳥籠。
明智「非常に良い鳴き声をすると評判の、珍しい鳥を手に入れましたので、お祝いの品としてお納めくださいませ」
織田「うむ」
籠を受け取る織田。鳴かないホトトギス。
明智「ところで、武田信玄の話はお聞きなさいましたか?」
織田「三河から撤退した、という話か?」
明智「いえ……死んだ、という噂です」
織田「真か? 一体、何があった?」
明智「何でも『鬼が出た』とか」
○(回想)三河・某所
木の上で寝ているキジ(31)。多数の足音で目を覚ます。
キジ「まったく誰だよ、アヒル寝中に~」
攻め入る武田率いる武田軍。
武田「さぁ、西へ進め! 織田を討ち取る!」
その前方、天邪鬼が現れる。
武田「(影に気付き)ん? 何じゃ?」
長い爪で武田を刺す天邪鬼。
天邪鬼「ケケケ」
倒れ、絶命する武田。それを見て武田に駆け寄ったり、動揺したり、天邪鬼へ発砲したりする武田軍の面々。あざ笑うかのように逃げていく天邪鬼。その様子を見ているキジ。
キジ「キジは見た……」
羽ばたくキジ。
○岐阜城・大広間
向かい合って座る織田と明智。
織田「なるほど、興味深い話だ」
明智「いかがなさいましょう?」
織田「武田を滅ぼす良い機会かもしれぬな。だがその前にだ、光秀よ」
明智「何でしょう?」
鳴かないホトトギスの鳥籠に目をやる織田。
織田「アレはいつ鳴くのだ?」
明智「ひとまず、待ってみましょう」
○道中
木下(36)率いる、瓜子姫の迎えの一団。そこにやってくるヒデヨシ。
ヒデヨシ「おう、藤吉郎。コッチコッチ」
木下「あぁ、ヒデヨシ。おっと、この度は誠におめでとうございます」
ヒデヨシ「ありがとよ。悪いな、迎え役なんて」
木下「いやいや、僕なんてヒデヨシのおかげで出世しているようなもんだから。これくらいはやらせてよ」
ヒデヨシ「お前、本当にいいヤツ……」
キジの声「ヒデヨシ~」
そこにやってくるキジ。
キジ「やっと見つけたよ、ヒデヨシ~」
ヒデヨシ「おう、キジ。お前もお祝いに来てくれたのか?」
キジ「そんな気持ち、スズメの涙程もないよ~」
ヒデヨシ「いや、祝えよ」
キジ「それどころじゃないんだよ~、鬼が出たんだよ~」
ヒデヨシ「鬼?」
木下「また新手、って事?」
ヒデヨシ「残党かもな。一匹か?」
キジ「うん、一匹だけど……」
ヒデヨシ「じゃあ、オレだけで十分だろ。祝言が終わったら、退治しに……」
キジ「そんな悠長な事言ってる場合じゃないんだよ~、ヒデヨシの家に出たんだよ~!」
ヒデヨシ「何!?」
○ヒデヨシの家・中
駆け込んでくるヒデヨシ。
ヒデヨシ「ネネ! 瓜子姫!」
荒らされた室内。血を流したネネが倒れている。ネネに駆け寄るヒデヨシ。
ヒデヨシ「ネネ!」
ネネ「ごめん……瓜子姫が、鬼に攫われて……」
ヒデヨシ「安心しろ、オレが助ける。だから、ネネは無理に喋るな。すぐに手当てを……」
ネネ「ヒデヨシ……」
言葉は出ず、口の動きだけで「ありがとう」と言うネネ。そのまま絶命する。
ヒデヨシ「ネネ~!」
○岐阜城・大広間
ホトトギスの鳥籠を囲んで座る織田、明智、柴田。既に酒を飲んでいる柴田。
織田「(イライラしながら)まだ鳴かぬか」
明智「どうか落ち着き下さいませ」
柴田「(酔って)まったく、辛抱が足らぬわ」
○森
木の幹の高所に蔦で括りつけられている瓜子姫と、それを見て喜ぶ天邪鬼。
天邪鬼「ケケケ」
ヒデヨシの声「見つけたぞ!」
天邪鬼「!?」
キジに掴まり、空から降りてくるヒデヨシ。天邪鬼と対峙する。
ヒデヨシ「お前か。よくもネネを」
天邪鬼「ケケケ」
ヒデヨシ「その面今すぐ、泣かせてやるぜ!」
刀を抜き天邪鬼に斬りかかるヒデヨシ。
× × ×
括りつけられた瓜子姫の元にやってくるキジ。くちばしでつつき、蔦を削っていくキジ。
キジ「今オイラが助けるよ~」
瓜子姫「ありがとう、キツツキさん」
キジ「オイラはキジだよ~」
× × ×
天邪鬼を一方的に嬲るヒデヨシ。殴っても斬っても、薄ら笑いを浮かべ続ける天邪鬼。
天邪鬼「ケケケ」
ヒデヨシ「笑ってんじゃねぇよ。泣けよ。泣かねぇんなら……」
刀を振りかざすヒデヨシ。
○岐阜城・大広間
ホトトギスの鳥籠を囲んで座る織田、明智、丹羽、柴田。
柴田「(酔って)酒が足らぬわ」
丹羽「まったく、まだ始まってもいないというのに」
織田「……もう良い。待つのは終わりだ」
刀を手に取る織田。
明智「信長様!?」
織田「鳴かぬなら……」
刀を振りかざす織田。
○森
キジに掴まり、降りてくる瓜子姫。その視線の先、天邪鬼の死体に向け、何度も何度も刀を振り下ろすヒデヨシ。刀が折れても、振り下ろし続ける。
織田の声「殺してしまえ」
やがて手を止め、声にならない叫び声を上げるヒデヨシ。
○岐阜城・外観(夜)
○同・大広間(夜)
信忠と瓜子姫の祝言が行われている。
織田、明智、丹羽、柴田らが酒を飲みかわす中、浮かない表情のヒデヨシ。隣は空席。席を立つヒデヨシ。
ジュウベーの声「羽柴ヒデヨシ、ですか……」
○同・中庭(夜)
黄昏れるヒデヨシの脇に立つジュウベーとキジ。ヒデヨシの手にはネネの字(達筆)で「羽柴」と書かれた紙。
ジュウベー「アナタにしては、良い名前を考え付いたものですね」
キジ「ヒデヨシにしてはね~」
ジュウベー「丹羽様と柴田様から一字取ったんですね」
キジ「取ったんだね~」
ジュウベー「そういうセンス、無さそうなのに」
キジ「無さそうだよね~」
ジュウベー「アナタ、オウムですか?」
キジ「オイラはキジだよ~」
ヒデヨシ「……なぁ。悪いけど、今は一人にしてくんないかな?」
ジュウベー「それは出来ませんよ」
キジ「え、何で~?」
ジュウベー「だってアナタ、人間じゃないでしょう? この場合『一人』ではなく『一匹』だと思いますよ?」
ヒデヨシ「……じゃあ、一匹にしてくれ」
ジュウベー「(小声で)重症ですね」
キジ「(小声で)カモね~。(何かに気付き)あっ」
織田の声「猿よ」
ヒデヨシ「(振り返り)だから一匹にして……」
そこにやってくる織田。
ヒデヨシ「殿……」
織田「此度の事、何と言葉をかけたらよいか」
ヒデヨシ「いえ、そんな……」
○同・廊下(夜)
歩いている明智。向かい側から歩いてくる瓜子姫に気付き、道を開け、跪く。明智の前で立ち止まる瓜子姫。
瓜子姫「随分と他人行儀なんですね。桃太郎」
明智「なら、聞きましょうか。……ここに、何しに来た?」
瓜子姫「自分の胸に手を当てて聞いてみては?」
立ち去る瓜子姫。
○設楽原・川沿い
T「1575年」
ヒデヨシの声「構え~!」
突っ込んでくる武田軍の騎馬隊。
ヒデヨシの声「放て~!」
三列に並び、鉄砲を構える織田軍の鉄砲隊。先頭の列の面々が一斉に発砲し、次々と撃たれていく武田軍の騎馬隊。それを指揮するヒデヨシ(38)。
ヒデヨシ「構え~!」
間髪入れずに二列目の者が一列目に出てきて鉄砲を構える鉄砲隊。
ヒデヨシ「放て~!」
再び発砲する鉄砲隊。
× × ×
それぞれの場所で、同じような構成の鉄砲隊を指揮する明智(35)、丹羽(40)、柴田(53)ら。
明智「構え~!」
丹羽「放て~!」
柴田「構え~!」
○同・織田陣営
鉄砲隊に恐れをなし、山中に逃げていく武田軍の様子を見ている織田(41)。
織田「これで武田も終わりだな」
織田の声「まずは朝倉と浅井、将軍・足利義昭、そして武田を滅ぼす」
○(回想)岐阜城・中庭(夜)
並んで立つヒデヨシと織田。その後ろにはジュウベーとキジもいる。
織田「そしたら儂は、家督を信忠に譲ろうと思っておる」
ヒデヨシ「え!?」
ジュウベー「まさか、隠居を?」
キジ「え、インコ?」
織田「隠居などせぬ。儂のやらねばならぬ事をやるだけだ」
ヒデヨシ「『やらねばならぬ事』?」
織田「猿よ。お主の奥方と瓜子姫は、血縁関係こそないが、親子であるな?」
ヒデヨシ「はい、もちろんです」
織田「そして瓜子姫は我が織田家に嫁いだ。つまりお主の奥方は儂の親族という事になる」
ヒデヨシ「はい」
織田「鬼どもは、この織田信長の親族に手をかけたのだ。根絶やしにせねばならぬ」
ヒデヨシ「それは、つまり……?」
織田「鬼ヶ島征伐じゃ。お主も付いてまいれ」
ヒデヨシ「もちろんです!」
○岐阜城・大広間
それまで織田が座っていた席に座る信忠。その傍らにいる瓜子姫。窓の外を見やる。
○海上
多数の船が航行している。
○船上
思い思いに過ごすヒデヨシ、織田、明智、丹羽、柴田、ジュウベー、キジ。
○鬼ヶ島・外観
○同・東側海岸
多数の鬼達に対峙する、戦闘態勢のヒデヨシ、織田、明智、柴田。その後ろには織田軍の武士達。
織田「かかれ~!」
織田軍一同「おう!」
駆け出す織田軍の面々。
○同・北側
鬼達を次々と斬り、時には投げ飛ばしていく柴田。
柴田「鬼など、恐れるに足らぬわ!」
○同・東側海岸
三列に並び、船の上から鉄砲を構える鉄砲隊。それを指揮する丹羽。
丹羽「構え~! 放て~!」
次々と現れる鬼達に発砲する鉄砲隊。
間髪入れずに二列目の者が一列目に出てきて鉄砲を構える鉄砲隊。
丹羽「構え~! 放て~!」
再び発砲する鉄砲隊。鬼が次々と倒れていく。
○同・南側
鬼達と戦う明智。しかしなかなか致命傷は与えず、時折鬼の耳元で何か言う。
○同・中心部
鬼達を次々と斬っていくヒデヨシと織田。織田は時折、刀から鉄砲に持ち替え、砲撃をする。
織田「この織田信長を舐めるでないぞ」
ヒデヨシ「さすが上様。オレも負けてらんないな。泣かせて……」
逃げている猿達を見つけるヒデヨシ。
ヒデヨシ「へぇ、この島にも猿が居たのか……」
鬼に襲われそうなメス猿のチャチャ(16)を見つけるヒデヨシ。尚、チャチャの顔は若き日のネネに瓜二つ。
チャチャ「きゃっ!」
ヒデヨシ「危ない!」
チャチャを庇い、鬼を斬りつけるヒデヨシ。
ヒデヨシ「ふぅ~。(振り返り)大丈夫……」
ここで初めてチャチャをしっかりと見るヒデヨシ。ネネの姿がオーバーラップする。
ヒデヨシ「ね……ネネ……?」
チャチャ「? ネネって誰や? ウチはチャチャや」
ヒデヨシ「あ、あぁ……だよな。ここ危ないから、下がってな」
チャチャ「せやな。助けてくれて、おおきに」
その場から逃げていくチャチャ。
その後姿を見送るヒデヨシ。
ヒデヨシ「いや、似すぎだろ……」
隙だらけのヒデヨシに向け、死角から金棒を振り下ろす新たな鬼。しかしその攻撃を難なく避けるヒデヨシ。
ヒデヨシ「今いい所なんだから、邪魔すんなよ。泣かすぞ?」
鬼を斬りつけるヒデヨシ。
○同・西側海岸
中心部を抜け、出てくるヒデヨシと織田。海を見ている柴田。
織田「勝家。そっちも終わりか?」
柴田「上様、(海を指し)アレを」
大海原を行く、鬼が乗った筏の群れ。
織田「逃げられたか」
柴田「まったく、暴れ足らぬわ」
ヒデヨシ「でも、逃げるったってどこに?」
明智の声「大陸、だそうですよ」
そこにジュウベー、キジを伴ってやってくる明智。
明智「キジが今、見てきてくれました。感謝申し上げますね」
キジ「お礼なんて結構、コケコッコウだよ~」
ジュウベー「アナタ、ニワトリですか?」
キジ「オイラはキジだよ~」
織田「ならば、追うぞ。船を出せ」
明智「お待ちください、上様。大陸に攻め込むとなると、さすがに兵が少々……」
柴田「足らぬな」
織田「光秀よ、ならば兵はどれほど居れば良い? 五万か? 十万か?」
明智「少なく見積もりましても、二十万かと」
ヒデヨシ「に、二十万!?」
柴田「そんな数、天下統一でもしない限り……」
織田「ならば、さっさと天下を統一すれば良い」
ヒデヨシ「上様……」
織田「覚えておけ、鬼どもよ」
○同・南側
探索しながら歩く明智、ジュウベーら織田軍の面々。木の枝から枝へ飛び移りながら移動するヒデヨシ。
織田の声「この織田信長、天下人となった暁には、再び軍を編成し、大陸を攻め滅ぼしに参ろうぞ」
ヒデヨシ「居ないな……」
明智「ヒデヨシ。逃げ遅れた鬼の残党が、木の上に居るとは思えないのですが?」
ヒデヨシ「え? あぁ……ここだけの話な、さっき、ネネによく似た猿がいてさ」
ジュウベー「よくもまぁ、次から次へと」
ヒデヨシ「モテない犬っころに言われてもな」
ジュウベー「何ですか」
ヒデヨシ「何だよ」
明智「まぁまぁ。……ん?」
明智の視線の先、火の手があがる。
ヒデヨシ「何だ!?」
○同・東側海岸
木々に火をつけている丹羽、柴田の様子を見ている織田。そこに駆けつけるヒデヨシ、織田。
ヒデヨシ「上様、一体何を……?」
織田「見てわからぬか? 島ごと焼き払っておるのだ」
ヒデヨシ「何でそんな事を?」
織田「隠れている鬼どもを炙り出し、かつ逃げ出した鬼どもが戻ってきても生活できないように資源を消しておるのだ」
ヒデヨシ「そんな……この島には鬼だけじゃなくて、猿だっているんですよ!?」
逃げてくるチャチャら猿達。
ヒデヨシ「あの猿達は、どうやって生きていくんですか?」
織田「全ては、鬼を皆殺しにするためだ」
ヒデヨシ「……その為だったら、猿なんてどうでもいいのかよ。ふざけん……」
ヒデヨシと織田の間に入る明智。
明智「将来の天下人たるもの、無意味な殺生は感心しませんよ?」
織田「この織田信長に意見する気か?」
明智「ご進言しているだけです」
織田「ならば、必要ない」
明智「どうしても心変わりしていただけないのですか?」
織田「話は終わりだ」
明智「……わかりました」
ヒデヨシ「桃太郎さん!」
明智「その代わり、あの猿全員、僕達の船に乗せる事をお許し願えますか?」
織田「お主達が面倒を見るというのなら、構わんが」
明智「ありがとうございます。ではヒデヨシ、行きましょうか」
ヒデヨシの腕を引いていく明智。
ヒデヨシ「ちょ、桃太郎さん……」
明智「(織田に聞こえないような声で)鬼め」
ヒデヨシ「え?」
明智「いえ、何でも。ここは諦めましょう。今まだ、その時ではありません」
ヒデヨシ「……」
○港
戻ってくる船。降りてくるヒデヨシ、織田、明智、丹羽、柴田、ジュウベー、キジら織田軍の面々。不機嫌そうな織田。
出迎える織田家家臣C。
織田家家臣C「お帰りなさいませ、上様」
織田「うむ。皆、変わりはないか?」
織田家家臣C「それなんですが……上様、羽柴様、一大事です」
織田「何?」
ヒデヨシ「一大事?」
○岐阜城・外観
赤ん坊の泣き声。
○同・大広間
三法師(0)を抱き抱える瓜子姫(22)を囲むヒデヨシ、織田、信忠(23)。
三法師をあやす織田。笑顔。
ヒデヨシの声「それでまぁ、上様はご機嫌になってくれたんだけどさ」
○桃山・前
並んで歩くヒデヨシ、ジュウベーと飛んでいるキジ。
ジュウベー「それはそれは、おめでとうございますね」
ヒデヨシ「どうも」
キジ「オイラが運んできたようなもんだよね~」
ジュウベー「アナタ、コウノトリですか」
キジ「オイラはキジだよ~」
チャチャの声「なぁ……」
振り返るヒデヨシとキジ。そこにはチャチャら鬼ヶ島の猿達が居る。
チャチャ「ウチら、どこまで付いてったらええんや?」
ヒデヨシ「もうすぐだよ」
チャチャ「そもそも、勝手にウチらの山に火ぃつけるような猿の事、信じられへんねんけど」
キジ「オイラはキジだよ~」
チャチャ「ウチが言いたいんは、そういう事とちゃう……」
ジュウベー「着きましたよ」
自然豊かな山(=桃山)の前に立つ明智の元に歩み寄っていくヒデヨシら。
ヒデヨシ「桃太郎さん、連れてきたぜ」
明智「猿の皆さん。新たな住処として、この山を提供します」
チャチャ「え!? ええんか?」
明智「鬼ヶ島にあった山よりは広いですし、果実も獲れると聞いています。いかがですか?」
チャチャ「願ったりかなったりや。おおきに」
明智「お礼なら、ヒデヨシに。僕は、彼に頼まれただけですよ」
チャチャ「(ヒデヨシに)おおきに」
ヒデヨシ「お、おう……」
キジ「ところでこの山の名前、何て言うの~?」
ヒデヨシ「そりゃ、桃太郎さんの山なんだから、『桃山』じゃないの?」
チャチャ「なぁ、入ってええか?」
明智「どうぞ」
チャチャ「みんな、行くで」
ヒデヨシの手を引き山に入っていくチャチャ。その後を追う他の猿やキジ。
ヒデヨシ「え、オレも?」
キジ「じゃあ、オイラも~」
明智とジュウベーだけが残る。
ジュウベー「……いよいよ、なんですね」
明智「さすが、鼻が利きますね。もちろん、君は君の思うようにしてくれていいんですよ、ジュウベー」
ジュウベー「私は、光秀様に付いていくだけですので」
明智「かたじけないです」
○岐阜城・外観
T「1582年」
○同・大広間
三法師(2)をあやす織田(48)。その様子を見守る瓜子姫(24)と信忠(25)。
織田「は~い、おじいちゃんでちゅよ~」
信忠「親父、孫に甘すぎだろ」
瓜子姫「でも、殿も上様には相当甘やかされて育ったと聞きましたよ?」
信忠「え? どこが?」
織田「(笑って)……む?」
織田に文を届けに来る家臣。
織田「(文を見て)ほう、猿が」
瓜子姫「おじい様が、何か?」
織田「援軍を送って欲しいと。なかなかてこずっておるようだな。まぁ、相手は毛利だ。無理もなかろう」
信忠「では、誰を援軍に送りましょう?」
織田「この織田信長、直々に行ってやろう」
瓜子姫「ありがとうございます」
信忠「いや、さっき甲斐から戻ってきたばっかなのに。大変だね。頑張れ~」
織田「お主も行くに来まっとるだろ」
信忠「え、そうなの?」
織田「毛利との戦も、早い所終わりにせねばなるまい」
信忠「でもせっかく帰ってきて、やっと愛する家族と再会した所なのに……」
織田「……儂は先に本能寺に行っておる。支度が出来次第、京に入れ」
信忠「『出来次第』ね。ちょっと時間かかるかもな~」
織田「構わぬ」
瓜子姫「やっぱり、大甘ですね。(三法師に同意を求めるように)ね~?」
○高松城・外観
周囲に水が溜まっている。
木下の声「そんな、同意を求められてもさ」
○羽柴陣営
水攻めされた高松城がよく見える。
陣を構えるヒデヨシ(45)、木下(45)ら織田軍の面々。
木下「水攻めなんて、拙者もした事ないし」
ヒデヨシ「そっか。援軍来る前に勝負つけられりゃ、それに越したことはないんだけどな」
ヒデヨシに文を届けに来る家臣。
ヒデヨシ「(文を見て)お、上様が直々に出陣準備をしてるってよ」
木下「それは心強いね」
ヒデヨシ「でも準備にちょっと時間がかかるから……」
○分岐路(夜)
進軍する明智(42)ら明智軍の面々。
ヒデヨシの声「先に桃太郎さんをコッチに寄越してくれるって」
分岐路で立ち止まる明智。
明智「皆さん。敵は、本能寺に居ます」
動揺する明智軍の面々。
明智「さぁ、行きましょう。鬼退治です」
先陣を切って馬を走らせる明智。それに続く明智軍の面々。
全員が通り抜けた後、木の上から姿を見せるキジ。
キジ「キジは見た……」
羽ばたくキジ。
○羽柴陣営(夜)
キジに掴みかかるヒデヨシ。それを止めに入る木下。
ヒデヨシ「おい、キジ。それは本当か!?」
キジ「くるっくー……苦しいよ~」
木下「ヒデヨシ、キジ君が死んじゃうよ」
ヒデヨシ「くそっ(と言って手を離す)」
キジ「はぁ、はぁ。まったく、オイラをサギ師呼ばわりするのは止めてよね~」
木下「でも、ヒデヨシの気持ちもわかる。さすがに信じがたいよね」
馬にまたがるヒデヨシ。
木下「え、どうしたの!?」
ヒデヨシ「藤吉郎、ここは任せた。和睦でも何でも、好きにしろ」
木下「ちょっと、どこ行くつもり?」
馬に乗って駆けていくヒデヨシ。
木下「ヒデヨシ~!」
キジ「え~、オイラを置いていかないでよ~」
○道中(夜)
懸命に馬を走らせるヒデヨシ。
丹羽の声「残念だが、間違いないようだ」
○(回想)本能寺・外(夜)
明智軍に包囲され、建物は燃えている。
明智軍を指揮する明智。
明智「さぁ、焼き払ってしまいましょう」
丹羽の声「光秀が謀反を起こし」
○(回想)同・中(夜)
燃え盛る室内。
織田「この織田信長、ここで終わりか」
切腹する織田。
丹羽の声「上様は、織田信長様は自害なされた」
○普門寺
多数の武士が集まっている。
話をするヒデヨシと丹羽(47)。
丹羽「さらに殿、織田信忠様まで……」
ヒデヨシ「でも、先生。何で桃太郎さんがそんな事を?」
丹羽「見当もつかん」
ヒデヨシ「ですよね」
丹羽「とにかく、今は柴田殿も滝川殿も身動きがとれないとの事。羽柴の軍が到着し次第、光秀を討つ。頼むぞ?」
ヒデヨシ「はい……」
その場を立ち去る丹羽。
ヒデヨシ「桃太郎さんと、戦う……」
キジの声「(かすかな声量で)ヒデヨシ~」
ヒデヨシ「ん?」
周囲を見回すヒデヨシ。
キジの声「ヒ~デ~ヨ~シ~」
遠くの木の枝にとまるキジ。羽で手招きをしている。
○同(夜)
馬に乗った木下率いる羽柴軍がやってくる。出迎える丹羽。
丹羽「遠路、ご苦労であったな、藤吉郎」
木下「いいえ。(周囲を見回し)あれ、ヒデヨシは?」
丹羽「ヒデヨシなら……(周囲を見回し)どこ行った?」
○桃山・前(夜)
周囲を警戒しながらやってくるヒデヨシとキジ。
ジュウベーの声「ここですよ」
声のした方に目をやるヒデヨシとキジ。そこに立つ明智とジュウベー(54)。
ヒデヨシ「桃太郎さん……」
意味深に笑う明智。
○山崎
雨が降っている。
羽柴軍を率いる馬上のヒデヨシ。
ヒデヨシ「これは上様、織田信長様の弔い合戦だ。敵は明智光秀。さぁ、泣かせてやるぜ!」
一同「おう!」
× × ×
対峙するヒデヨシ率いる約二万人の羽柴軍と、明智率いる約一万人の明智軍。
ヒデヨシ「かかれ~!」
ヒデヨシの声「何で、上様を裏切った?」
○(回想)桃山・前(夜)
密会するヒデヨシ、明智、ジュウベー、キジ。
ヒデヨシ「自分が天下獲りたくなったか? 何か恨みでもあったか? 誰かにそそのかされたか? それとも……」
明智「織田信長が天下人に相応しくなかったから、ですかね」
ヒデヨシ「何でそんな事が言い切れる?」
明智「この目で見てきたからですよ」
ヒデヨシ「そんな事、出来る訳ないだろ」
明智「何故、そう言い切れるのですか?」
ヒデヨシ「は?」
明智「たとえば、以前お話したでしょう? 過去に飛んで歴史を変える事が出来る人『時の一族』の噂を」
ヒデヨシ「してたな」
明智「例えば、織田信長が天下人となった時代を経験した『時の一族』の人間が、それを阻止するために過去に来ていたとしたら?」
ヒデヨシ「……そんな簡単に過去に飛べるっていうのか?」
明智「簡単ではありませんよ。体に相当な負荷がかかります。なので様々な形の、鎧のようなものを身に纏う事になります。例えば、大きな桃、とか」
ヒデヨシ「まさか、桃太郎さんが……」
キジ「トキの一族の人!?」
明智「そういう事です」
ヒデヨシ「おい、ジュウベー。見てみろ。過去に飛べる人間、居たぞ。ざまぁみろ」
ジュウベー「そうですね……」
明智「ヒデヨシ。残念ですが、ジュウベーは知っていましたよ」
ヒデヨシ「え、そうなの?」
明智「何故なら彼はもう、何度も僕と一緒に過去に飛んでいるからです」
ヒデヨシ&キジ「え!?」
ジュウベー「私はずっと、光秀様のお供をしていますからね」
ヒデヨシ「……何で黙ってた?」
明智「それは……」
ヒデヨシ「(食い気味に)それは、鬼退治の過去を変えたのが、桃太郎さん本人だったから、だろ?」
明智「(笑って)その通りです」
○山崎
戦う羽柴軍と明智軍。互角の戦い。
明智の声「僕も、より良い未来にするために何度も歴史を変えてきました。足利家や徳川家に仕えて天下を獲らせてみたり、僕自身が生まれる年代を早めたり、逆に少し先の時代に行って、薩摩と長州の同盟を結ばせてみたり、ですね」
それぞれの指揮を執るヒデヨシと明智。
明智の声「鬼を皆殺しにしたり、鬼を懲らしめるだけにしたり、というのもその一環です」
○(回想)桃山・前(夜)
密会するヒデヨシ、明智、ジュウベー、キジ。
明智「まぁ、あまり差は出ませんでしたけどね。次に過去へ戻る時は、鬼と話し合いで事を解決させてみようと思うんですよ」
ヒデヨシ「……で? 何で今更、そんな話をオレに打ち明けてんだ?」
明智「僕の味方になりませんか、ヒデヨシ?」
ヒデヨシ「ふざけんな。何で主君の敵の味方をしてやんなきゃ……」
明智「おや、ヒデヨシと最初に主従関係を結んだのは、僕ではありませんでしたっけ?」
ヒデヨシ「それは……そうだけどよ」
明智「それに、安心してください」
○山崎
戦う羽柴軍と明智軍。羽柴軍の優勢。
明智の声「この戦、兵の数から言って、ヒデヨシが味方した側が勝ちますよ」
× × ×
羽柴軍を指揮するヒデヨシ。
明智の声「そうすれば、勝利に最も貢献したヒデヨシが、天下人に最も近づく事になります」
○(回想)桃山・前(夜)
密会するヒデヨシ、明智、ジュウベー、キジ。
明智「どちらでも未来が変わらないなら、どちらを選びますか? 僕か、織田信長か」
ヒデヨシ「上様には、恩がある」
キジ「恩返しは大事だよね~」
ジュウベー「アナタ、ツルですか?」
キジ「オイラはキジだよ~」
明智「でも、鬼ヶ島での出来事を覚えていますか? 彼は、猿の命を軽んじた」
ヒデヨシ「あぁ、忘れる訳がない」
明智「それでも、織田家のために戦えるんですか?」
ヒデヨシ「……なぁ、一個聞いていいか?」
明智「何でしょう?」
ヒデヨシ「もし、鬼を皆殺しにしていたら、ネネってどうなってたんだ?」
明智「……少なくとも、鬼に殺される事はなかったでしょうね」
ヒデヨシ「桃太郎さん。アンタ、さっき言ったよな? 『鬼を皆殺しにしても、懲らしめるだけにしても、あまり差は出なかった』って」
明智「言いましたね」
ヒデヨシ「アンタにとって、ネネが死んだのは、大した差じゃない事なのかよ。だとしたら、オレは桃太郎さんのためには戦えない。猿の命を誰よりも軽んじてんのは、アンタだからだ!」
明智「……よくわかりました」
ヒデヨシ「用が済んだなら、オレは帰るぜ? あらぬ疑いをかけられたくないからな」
歩き出すヒデヨシ。
○山崎(夕)
撤退していく明智ら明智軍。
それを見て歓喜の声を上げる羽柴軍。
ヒデヨシの声「次会う時は敵同士だ、明智光秀」
馬上のヒデヨシ。顔を天に向ける。雨で頬が濡れる。
○勝龍寺城・外観(夕)
引き上げてくる明智軍。
○同・同(夜)
闇に紛れて抜け出す明智とジュウベー。
○桃山・中(夜)
祠の前に立つ明智とジュウベー。
ジュウベー「ヒデヨシがどういう世界を築くか、見ていかれないのですか?」
明智「見なくてもわかりますよ。前にも言ったでしょう? 『ヒデヨシは案外、人の上に立てる器だ』と」
ジュウベー「そうでしたね」
明智「もちろん、ジュウベーが見ていきたいというのであれば、僕は止めませんよ?」
ジュウベー「私は、光秀様に付いていくだけですので」
明智「……では戻りましょうか、過去に」
ジュウベー「はい」
祠の中に入っていく明智とジュウベー。
○同・同
誰もいない。
○勝龍寺城・外観
誰もいない。
○山崎
誰もいない。
○とある村・とある川
流れてくる大きな桃。
T「1560年」
○道中
並んで歩く桃太郎(20)とジュウベー(32)。その先に居るヒデヨシ(23)と目が合う。
ヒデヨシ「お兄さん達、どこに行くんだ?」
ジュウベー「鬼と話し合いをするために、鬼ヶ島に行くところです」
桃太郎「もしついてきてくれるなら、黍団子を差し上げますよ?」
黍団子を差し出す桃太郎。
ヒデヨシ「面白そうだな。それじゃ貰おうか」
黍団子を受け取ろうと手を伸ばすヒデヨシ。次の瞬間、隠し持っていた如意棒で桃太郎を襲う。ヒデヨシの攻撃を間一髪で避ける桃太郎。
ジュウベー「いきなり何するんですか!?」
ヒデヨシ「随分と冷たいな、ジュウベー。散々喧嘩した仲だろ?」
ジュウベー「!?」
明智「まさか、ヒデヨシも時を超えてこられたんですか?」
ヒデヨシ「まぁな」
ジュウベー「そんな、出来るハズがありません」
ヒデヨシ「どうかな? オレの身内にはもう一人、時の一族が居るんだよ」
明智「やはり、お気づきでしたか」
瓜子姫の声「確かに、私も時の一族です」
○(回想)清洲城・大広間
向かい合って座るヒデヨシと瓜子姫。その傍らで三法師をあやす木下。
瓜子姫「私は、桃太郎による歴史改変が及ぼす悪影響を最小限にするために、この時代に来ました。せめて、織田家の血を絶やさぬように……」
ヒデヨシ「やっぱり、そういう影響はあんだな」
瓜子姫「過去を、歴史を変えれば、その歪みが未来を苦しめます。私達の子孫に、そんなものを押し付ける訳にはいきません」
ヒデヨシ「それで、桃太郎さんは、ジュウベーを連れて過去に飛んでるみたいなんだけど、同じ事出来んのか?」
瓜子姫「行くんですか? 桃太郎を止めに」
ヒデヨシ「あぁ。頼めるか?」
瓜子姫「……藤吉郎」
木下「はっ」
瓜子姫「三法師の事、お願いしますね」
木下「……はい。いつの日か、立派な織田家当主となった姿をご覧に入れましょう」
ヒデヨシ「三法師だけじゃない。信長様が果たせなかった夢もだ。天下統一と……」
藤吉郎「大陸に逃げた鬼の討伐、だよね」
ヒデヨシ「藤吉郎。世話になったな」
木下「こちらこそ。ご武運をお祈りしてます」
ヒデヨシ「じゃあな」
出ていくヒデヨシと瓜子姫。
ヒデヨシの声「……という訳だ」
○道中
対峙するヒデヨシと桃太郎、ジュウベー。ヒデヨシの手には如意棒。
ヒデヨシ「ただ、一つ納得できないのがさ、桃太郎さんは桃で、瓜子姫は瓜。なのにオレは、大きな石だったんだけど。あれは何でだ? 誰も割ってくれないから大変だったんだよ」
桃太郎「それはそれは、お察ししますね」
ジュウベー「だったら、来なければ良かったじゃないですか」
ヒデヨシ「あぁ。だから、二度と来なくていいようにしてやるよ」
桃太郎「どうするおつもりですか?」
ヒデヨシ「オレは、鬼の首を持って帰らないと、ネネと一緒になれないんだ。それを『話し合い』? ふざけるな。そっちの都合で、簡単に書き換えられてたまるか、ってんだ」
桃太郎「では、全員殺すのが、正しいと?」
ヒデヨシ「確かに、それも間違いなのかもしれない。ただ、間違いを黙って歴史から消す方がよっぽど間違いだ」
桃太郎「……仕方ありませんね。(刀を抜き)『力づくで話し合いに持って行く』なんて、本末転倒なんですが」
ヒデヨシ「(如意棒を構え)まったくだ。先が思いやられるぜ」
しばしの沈黙。
ヒデヨシ「さぁ……」
駆け出すヒデヨシと桃太郎。
ヒデヨシ「泣かせてやるぜ!」
(完)
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