◯人 物
新井一(18)高校生
新井一(9)小学生
相生智代(18)高校生
伊藤英介(17)高校生
北原章雄(38)高校教師
教師
女子生徒
◯椎茸小学校・中
黒板には「総合的な学習」の文字。
教壇に立ち俯く新井一(9)
一をじっと見つめる生徒と教師。
一、教壇の上のプリントを見下ろす。
プリントには「新井一」「自分の名前
の由来」の文字。
文字の下は空欄のまま。
教師「新井くん大丈夫?」
一、顔を上げて、
一「僕の名前の由来は…」
プリントをぐしゃっと握る一の手。
◯榎木高校・外観
三階建の校舎。
◯同・教室・中
黒板を走るチョークの音が響く。
唖然と黒板を見つめる生徒達。
教壇の上、生徒達同様に唖然とする北
原章雄(38)
新井一(18)チョークを持ち黒板の端ま
でびっしりと複雑な数式を書く。
ピタッと止まる一の手。
一、教師の方を振り返って、
一「以上で終了です。あってますか?」
北原、目を丸くして、
北原「…分からん」
わっと湧き上がる生徒達。
◯同・体育館
壇上で拳を握り演説する一。
羨望の眼差しで一を見上げる生徒達。
英介の声「新井一!高校入学から3期連続で
生徒会長を務めテストでは常にトップを独
走。陸上競技U18では日本記録を持つ!」
壇上で校長と握手をする一。
英介の声「文武両道あらゆる一番を総なめに
する男である」
体育館に響き渡る拍手の音。
◯同・教室・中
一番前の席で机に参考書を広げて黙々
と勉強する一。
一の後ろの席で「校内新聞」と書かれ
た新聞を読む伊藤英介(17)
英介「新井一は今後も躍進を続けるだろう。
…だってよ」
一、机に向かったまま、
一「当然だ。新井一とは一番になれと両親が
つけてくれた名だ」
英介「おまけに一月一日生まれ。小中高の出
席番号まで一番ってんだから名は体を表す
とは正にこのことだな」
一「一番を目指すものに一番はついて来るの
だ。伊藤くん君も少しは努力したらどうだ」
英介「俺は俺のできる範囲で努力するさ」
一「ひと度社会に出れば単純な順位や優劣は
付け難くなる。純粋に一番を取ることが出
来るのは今だけだよ」
英介「…疲れる生き方だな」
ガラッと教室前方の扉が開く。
扉から入ってくる北原と相生智代(18)
シンと静まりかえる教室。
北原、ガンと教卓に手をついて、
北原「転校生だ」
チョークを黒板に走らせる智代。
黒板には「相生智代」の文字。
伏し目がちに頭をさげる智代。
智代「相生です。よろしくお願いします…」
生徒達は口々に「相生…」「相生?」
とざわめく。
目を見開く一。
英介、一の背中に向かって、
英介「「あい」に「あら」じゃ逆立ちしても
勝てないな。しかも相手は全部母音だもん」
ガタッと立ち上がる一。
生徒達の視線が一斉に一を見る。
一、小刻みに震えた後、吐く。
英介「わッ!汚ねえ!えんがちょ!」
床に倒れる一。
◯同・外観
響き渡るチャイムの音。
◯同・保健室・中
机に向かって書物をしている養護教諭。
半分カーテンに閉ざされたベッドの上、
眠っている一。
一の枕元丸椅子に座り漫画を読む英介。
ガバッとおもむろに上半身を起こす一。
一、辺りをキョロキョロと見回して、
一「…これが一番じゃない世界の見え方か」
英介、漫画を読んだまま、
英介「何か変わったか?」
一「わからん」
英介「一番に拘るのはお前の自由だけどさ、
倒れるまで執着するのはダメだろ」
一「…申し訳ない」
沈鬱とした表情で俯く一。
一の顔を盗み見る英介。
英介「何も一という名前だけでそこまで一番
に拘ってるわけじゃないんだろ?」
一「…本当のことを言うと僕は自分の名前の
由来を知らないんだ」
英介、読んでいる漫画から顔を上げる。
◯回想・一の家・仏間
両親の遺影を呆然と見上げる幼い一。
一の肩にポンと置かれる手。
見上げる一。
一の声「伯父夫婦に育てられた僕にそれを知
る術はなかった」
一に微笑みかける若い夫婦。
◯戻って現在・榎木高校・保健室
自分の手をじっと見つめる一。
一「だから自分で考えたんだ。一とはきっと
一番になれという意味に違いないって…」
英介「…そうか」
一「でも良い経験になったよ。努力ではどう
にもならない一番があると思い知った」
苦笑する一。
不満げな顔の英介。
英介「そんなのお前らしくない」
一「…え?」
英介「お前は努力で覆らない事を覆してきた。
開校以来一番長く生徒会長を務めた男だろ。 本来制度的に不可能にも関わらずッ!」
英介、立ち上がり一を見下ろす。
英介の気迫にあっけにとられる一。
英介「でもお前にはできた。だから簡単に努
力ではどうにもならないとか言うな!」
バッと掛け布団を剝ぎ取る一。
一、立ち上がり扉の方へ歩いていく。
一「伊藤くん。ありがとう」
肩をすくめる伊藤。
◯同・教室
席に座る智代の前に立つ一。
一、智代にパンジーの花束を渡して、
一「結婚してくれ」
ぎょっとした顔で一を見る生徒達。
一「僕を相生にしてくれ」
智代「…ごめんなさい」
ひらっと花束から花びらが落ちる。
教室の後ろで声を殺して笑う英介。
◯同・外観(夕)
茜色に染まる校舎。
◯同・教室(夕)
教室後ろ、花瓶に生けてあるパンジー
教室に一人残り机に向かう一。
一の前に智代が立つ。
智代「あの…新井君?」
一「はい。新井ですが、何か?」
智代「新井君に言っておきたいことがあって」
智代を見上げる一。
俯く智代、表情は見えない。
智代「あの後皆にすごく笑われてからかわ
れて…新井一がプロポーズした女って…」
一「それはどうもすみません」
智代、激しく首を横に振る。
智代「私、友達作るの苦手で転校もすごく不
安だったんだけど…」
教室後ろの扉に立つ女子生徒。
女子生徒「智代行こうー」
智代、女子生徒に向かって、
智代「うん!ちょっと待って」
智代、一に深々と頭を下げて、
智代「新井くんのおかげ。ありがとう」
ふんと鼻を鳴らす一。
扉の方へ走っていく智代。
智代、扉の前で立ち止まり振り返って、
智代「あと私転校生なんで出席番号は一番後
ろだから」
目を見開き扉の方を振り返る一。
既に扉に智代の姿はない。
ニッと笑う一の口元。
◯同・外観
校舎を照りつける強い日差し。
盛んに鳴くセミの声。
◯同・廊下
廊下の壁に「期末試験成績優秀者順位
表」と大きく書かれた紙が貼ってある。
紙の前に集まる生徒達。
一と英介、並んで紙を見上げる。
一「……」
大きく目を見開き唖然とする一。
ぶふっと思いっきり吹き出す英介。
順位表には「一位 相生智代」「二位
新井一」と書いてある。
一、英介と反対方向を見る。
一の隣、申し訳なさそうに一を見上げ
る智代。
智代「あの私、勉強しか取り柄がなくて…」
一「相生智代。我がライバルとして認めよう」
怯える智代。
不敵に笑う一。
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