T「2016年6月9日」
◯文京区の雑居ビルやアパートが建ち並ぶ道路(早朝5時)
野口隆(41)、タバコを吸いながら道路脇を眠たそうに歩く。
前方の雑居ビルの前で3、4人の中年男女が、雑居ビルを見上げて騒ついている。
野口「何?」
野口、人集りの所へ行き上を見ると若い青年が屋上から飛び降りようとしている姿を見て急いでビルの中へ入る。
◯雑居ビル屋上
ビジュアル系の服装(長い金髪、タイトな黒いジャケット、胸元が開いた白いTシャツ、スカルのネックレス、黒いスリムジーンズ、先の尖った黒いロングブーツ)をした青年、北条守(25)が屋上から飛び降りようと下を見ている。そこへ、屋上のドアから野口が息を切らしながら飛び出す。
野口「おい!」
北条、野口の方を振り向く。
野口、北条から3メートルくらいの距離まで近づく。
野口「ちょっと待てよ!お前」
北条「止めないでください」
野口「飛び降りる気か?」
北条「見れば分かるでしょ?」
野口「そのまま?」
北条「え?」
野口「そのまま飛び降りるのか?」
北条「‥‥はい」
野口「じゃあ、靴を脱げよ」
北条「え?」
野口「馬鹿じゃねーのお前。飛び降りる時は靴を脱いで揃えるだろ?何履いたまま飛び降りようとしてんの?」
北条「いや‥‥ロングブーツなんで脱ぎづらくて」
野口「何今から自殺しようって奴がオシャレなロングブーツ履いてんだよ!つっかけ履いて来いよ!」
北条「死ぬ時は、自分の1番の勝負服で最後を迎えようと思って」
野口「いらねんだよ、そんなこだわり。Tシャツ、短パン、つっかけで良いんだよ、そんなもん」
北条「あの世に行った時に、死んだ時の格好で死ぬって聞いたことあるし。Tシャツに短パンなんてそんなダサい格好嫌ですよ」
野口「その格好も充分ダセーぞ」
北条「え?」
野口「それ一昔前のホストだろ。ロングブーツの中にズボンなんか入れてよ」
北条「……ほっといてください」
野口「まあいいや。とにかく、ロングブーツだけは脱げ」
北条「嫌ですよ」
野口「頼むから脱いでくれ」
北条「何でですか?」
野口「画にならないんだよ」
北条「‥‥は?」
野口「綺麗に揃えたブーツ越しにお前が地面でグチャっとなってる画を撮りてえからよ」
北条、野口を睨みつける。
野口「それにお前考えてみろ。お化けになったら足は消えるって聞いたことあるだろ?足は残らねんだよ。必ず成仏できるように綺麗に撮ってやるから。な?ブーツは、脱いでくれ。な?」
北条、野口をしばらく睨んだ後、ゆっくりとブーツを脱ぎ、揃える。
野口、ポケットからスマホを出しカメラモードにして画面の大きさを調節する。
野口「よしっ!じゃあ、行こうか?な?」
北条、ビルの縁から半分足を出し姿勢を正して飛び降りる準備をする。
ちらりと野口の方を見る。
野口、写メで構えている。
北条「あんた最低だな。怨霊になって出てやるよ」
野口「おう!黄泉で待っとけ!」
北条、飛び降りる。
野口、その瞬間を写メで連写する。
C・O
タイトル「だうん」
T「5年前2011年4月」
◯(回想)野口が住むアパートの四畳一間の部屋(夜)
野口、体育座りで14インチの小さなテレビをぼーっと観ている。ニュース番組が流れている。隣の家族の部屋では、赤ん坊の大きな泣き声が聴こえる。小さなテーブルには、野口の勤めていた会社から送られた「解雇通知書」と書かれた紙が置いてある。
◯コンビニ(夜)
野口、コンビニの雑誌棚の経済雑誌「月刊ソーシャル経済」を読んでいる。「再就職は不可能ではない!負け組からの逆転三箇条!」と書かれているページを真剣に読んでいる。
「35歳までなら再就職は、充分可能である。」という箇所を見て大きく溜息をつき、雑誌を棚に戻す。野口の顔の横に「AGE36」というテロップがシャ乱Qの「いいわけ」のイントロと共に出される。
T「AGE36」(SE、シャランQ「いいわけ」のイントロ部分のみ)
野口が「月刊ソーシャル経済」を棚に戻した隣に「月刊アナーキー野郎」というB級ゴシップ雑誌を見つけて手に取る。表紙には、「素人カップル混浴露天風呂激撮!」「闇に葬られたスーパースター暗殺未遂事件!」「谷原官房副長官、夜の性癖大暴露!」「次に捕まるタレントはこいつらだ!」「リストラ地獄!1億総自殺時代のサバイバル術!」などの下世話な言葉が並ぶ。1ページ目を開くと、いきなり素人カップルの公園でのキスシーンや、青姦の写真が並ぶ。野口、眉間にしわを寄せ、雑誌をすぐに閉じ棚に戻す。
○同・レジカウンタ―
野口、缶コーヒーと弁当をレジの女性店員(32)の所へ。
女性店員「ありがとうございます。お弁当は温めますか?」
野口「いや、いいです。箸もいりません」
女性店員「かしこまりました」
女性店員、会計する。
女性店員「2点で682円になります」
女性店員、商品を袋へ入れる。
野口、財布から小銭を出す。
女性店員「682円ちょうど頂きます」
野口「あ、レシートは、いいです」
女性店員「了解いたしました」
女性店員、袋を野口に渡す。
野口、袋を受け取り入り口に置いてあるアルバイトのフリーペーパーを何冊か手に取り、コンビニを出る。
女性店員「ありがとうございました」
◯野口の部屋(夜)
野口、テレビを観ながら弁当を頬張る。アルバイト雑誌の募集広告を見る。どの欄を見ても、大卒以上、22〜35歳までと書かれている。
野口「(舌打ち)チッ、どうせクビなら去年クビにしてくれりゃなあ‥‥」
野口、アルバイト雑誌を後ろに放り投げる。天井を見ながらボーっとし溜息をつく。先ほどのコンビニで見た「月刊アナーキー野郎」の見出しを思い出す。
(フラッシュ)
× × ×
「リストラ地獄!1億総自殺時代のサバ
イバル術!」という見出し。
× × ×
野口、急に立ち上がりアパートを飛び出す。
◯コンビニ(夜)
野口、雑誌棚に行き、「月刊アナーキー野郎」を手に取りレジへ。
店員、雑誌のバーコードをスキャンする。
店員「648円です」
野口、千円札を出す。
店員「千円お預かりします」
店員、レジで会計し、釣りを渡す。
店員「352円のお返しです」
野口、お釣りをもらう。
店員「袋にお入れ致しますか?」
野口「いや、いいです」
野口、雑誌を抱えて店を出る。
◯同・コンビニの前の喫煙所(夜)
野口、脇に雑誌を挟みながらタバコに火をつけ、喫煙しながら雑誌を開く。「リストラ地獄!1億総自殺時代のサバイバル術!」のページを読む。「生活保護で貧乏脱出!」や「食えなくば捕まれ!」「女は体、男は内臓!」「死なない車の当たり方」などが太字で書かれているのを見て溜息をつく。
野口「(舌打ち)チッ!ろくなもんじゃねーな」
野口、次のページを開くと、記事のまとめに「混迷の時代。このサバイバルを生き抜くのは至難。しかしプライドを捨てればいくらでも光明は見えてくる。苦しいなら手段を選ぶべからず!中年よ!大志を砕け!」と書かれた激しい筆使いの文章を見る。その横に「ライター募集」の項が太枠で書かれている。「学歴不問、年齢不問、資格=この世知辛き世の腐敗を成敗したいという情熱のある者!誰でも来たれ!」という文章を見る。野口、気迫が溢れた表情で颯爽と喫煙所を離れ歩き出す。
◯文京区のビル街(日かわって昼)
野口、スーツ姿でアナーキー野郎の出版社、双黒社があるビルを携帯の地図を見ながら探す。
野口「えーと、礼文町3の1の5。小林ビル小林ビル」
野口、小林ビルの前に立ち、ビルを見渡す。ピンサロやスナックの看板が並び訝しげな表情になる。
野口「ここ?」
野口、もう一度携帯の地図を確認する。
野口「4階か」
◯小林ビル4階、双黒社
野口、階段を上り双黒社の入り口ドアの前に立つ。鼠色のドアには社名が書かれていない。
野口、ドアノブに手をかけると空いていたので、ゆっくりと開く。中を恐る恐る覗くと少し暗がりの廊下が真っ直ぐと見えて、人の気配が無い。
野口「ごめんください!ライター募集の件で連絡させて頂いた野口隆です!」
少し間を置いて男の返事が来る。
中上「はいよー!上がってー!」
野口「失礼します!」
◯双黒社、デスク
編集者の中上清(50)、書類で溢れたデスクに肘をかけ、喫煙しながら野口の履歴書を見る。
野口、横のパイプイスに姿勢を正して座り中上の顔を真っ直ぐ見る。
中上「ふーん、四つ葉建設の事務か。大手じゃん」
野口「はい」
中上「なんでリストラされたの?」
野口「一つには業績悪化によるリストラがあるとは思うんですが、一応会社には就職してから無遅刻無欠勤でしたし、有給休暇も取ったこと無いですし、残業もこなしてましたんで、非常に理不尽な措置だと思ってまして、何故自分がリストラにあったのかを自分なりに分析した書類がありまして」
中上「ほう、書類?」
野口、ビジネスバッグから「リストラと私〜解雇離職の原因と分析結果報告書」とタイトルが書かれた100ページ程度の原稿を中上に見せる。
中上、手に取りパラパラとめくる。
中上「ふーん。なかなか文章は良いじゃん。てにをはもしっかりしてるし」
野口「ありがとうございます!」
中上「まあリストラだな」
野口、顔の表情が止まる。
中上「パワポとかできんの?」
野口「はい、一通りは出来ます」
中上の横を事務の女性、若山ありさ(26)が通る。
中上「若ちゃん」
若山「はーい!」
中上「これシュレッダーかけといて」
若山「はーい」
中上、野口の書類を若山に渡す。
野口、驚く。
野口「え?あ、あのー何かお気に召さなかったですか?」
中上「いや、君の腕はだいたい分かったから」
野口「‥‥そうですか」
中上「あのさ、AVの松田れおんているじゃん?」
野口「はい?」
中上「AV女優の松田れおん。知らない?」
野口「すいません、存じ上げません」
中上「マジかよ?スカトロ好きそうなのに」
野口「すいません、勉強不足で。あとでリサ
ーチしておきます。その方が何かあったんですか?」
中上「うん、あいつがさ、ヤバイらしいのよ」
野口「ヤバい?」
中上、心臓に手を当てる。
中上「リスカだらけでさ、新作観ても完全に目が死んでるし喋りもおぼつかないしさ」
野口「はあ、そうなんですか」
中上「でさ、これ」
中上、住所の書いてある紙を渡す。
野口、手に取り見る。
中上「松田れおんのマンション」
野口「ええ」
中上「あの子ペントハウス住んでるからさ、そろそろ飛び降りると思うのよ」
野口「はい?」
中上「とりあえず一ヶ月、れおんちゃんの動向を追跡してくれる?」
野口「一ヶ月ですか?」
中上「うん」
野口「これって休日みたいのは」
中上「無い」
野口「無いんですか?」
中上「そりゃそうだよ。れおんちゃんいつ死ぬか分からないだろ?ずっと尾けて
ないと」
野口「ああ‥‥そう‥ですか」
中上「休憩は、れおんちゃんがトイレ行った時と、収録でスタジオ入った時だな。そん時は、適当に休んでてよ」
野口「‥‥そうですか」
中上、デジカメを渡す。
中上「これ貸すからさ、れおんちゃんが外で怪しい行動してたら、構わずシャッター押して!音鳴らないようにしてるか
ら」
野口「あのー、ライターの応募の件なんですが」
中上「だから取材だよ取材。追跡しながら気になる点は、メモしてさ」
野口「はい‥‥了解しました」
中上「まあ、これが君の研修期間だ」
中上、野口の肩を叩きニコリと笑う。
野口、戸惑いの表情でお辞儀をする。
中上「よし!今から追跡のやり方を教えてやる」
◯中華屋「珍気楼」(昼)
5席程のカウンター席と2つのテーブル席の小狭い店内。昼間にも関わらず客が居ない。
野口、テーブル席で天津丼を食べながらノートパソコンで「松田れおん」を検索する。
関連ワードに「いちじく白書」というワードが出ている。
野口「画像検索は、嫌だな‥‥」
ウェブ検索で松田れおんらしき顔写真が。良くも悪くも無い普通のルックス。ウィキペディアで経歴を調べる。「ハードコアAVレーベル「地下チーロ」専属女優」や「スカトロ、レイプ、緊縛、調教などの過激なジャンルの作品を中心に出演」などが書かれている。
T「30分後」
◯同・珍気楼
野口、松田れおんのツイッターを見ている。2010年12月から更新をしていない。フォロワーが650人、フォロー0人。
ツイートも作品の宣伝以外は旅行先の景色や飼い犬の豆柴の写真をUPしているのみで気になるコメントが無い。
野口「そんなにファンがいる訳でも無いんだな。少数のコアなファンくらいか‥‥」
野口、どんなフォロワーがいるか見るとフォロワーの一番上に「中上清(アナーキー野郎編集者)」と出ている。
野口「なんだよ。フォローしたの最近じゃん」
野口が夢中でリサーチしている所へ珍気楼の女性店員、瀬川(58)が近づく。
瀬川「お兄さん」
野口「はい」
瀬川「お店で、長々とコンピュータやるの辞めてくれる?いつまでも居座られると客の回転も悪くなるしさ」
野口、店内を見渡す。カウンターで中年男性1人がスポーツ新聞を読みながらラーメンをすすっているだけである。
野口「あ、はい、すいません。今出ますんで」
野口、ノートパソコンをカバンにしまい伝票を持ってレジで会計をする。
瀬川「ありがとうございました」
◯神保町のAVショップ「EXODUS」(夕方)
野口、広々とした店内のスカトロコーナーで松田れおんの「いちじく白書」のDVDを目を凝らし指を差しながら探す。
「いちご大糞」「市ヶ谷尿糞地」「一下痢二下痢三茄子」の後、「いちじく白書」をみつける。
野口「あった!」
野口、「いちじく白書」を手に取り颯爽とレジへ向かう。
◯野口の部屋(夜)
テレビ越しに野口が「いちじく白書」を眉間にしわを寄せながら観ている。松田れおんの喘ぎ声が部屋に響く。喘ぎ声がMAXになった後、強烈な排便のブリブリという音で、野口は顔を手で覆い隠す。
野口「うわっ!キツイなこれ」
隣の部屋から赤ん坊の泣き声がする。
◯松田れおんの住むマンション前(日かわって朝)
野口、携帯のメモ帳に記した松田れおんのマンション住所を見て、確認する。かなり年季の入った団地のような風情のマンション。
野口「エンゼルコート。これか。なんか団地みてーだな」
野口、入り口に入り松田れおんの住む501号室の集合ポストを確認する。
野口「こんなもんペントハウスなんて言わねーよな。501、501。木崎‥‥あ、あれ芸名か」
管理人らしき年配の男性、吉田(52)が近づいて来る。
野口、気配に気づき吉田の方を見る。
吉田「お兄さん、ここチラシの投函は禁止だからね」
野口「あ、いや」
吉田「何?裏モノのチラシかなんか入れようとしてた?それなら俺だけもらってやるけど」
吉田、気持ちの悪い笑い方。
野口「いや、違います」
吉田「じゃあ何?何しに来たの?」
野口「えーと‥‥あのー‥‥神への信仰を
啓蒙」
吉田「ゲラウェイ!!」
吉田、急に怒り出し野口に手で払うポーズをする。
野口「すいません」
野口、会釈してマンションを出る。
◯マンション周辺
携帯のモバイルで、松田れおんの本名を調べる。ウィキペディアに松田れおんの本名「木崎里緒菜」と記されている。
野口「うん、間違いないな」
野口、マンションから30メートルくらい離れた住宅地の角からマンションを観て確認する。
◯同・マンション周辺(夕方)
野口、松田れおんの顔写真を凝視
しながらマンションから出てくる松田れおんを待つ。
しばらくして、マンションから若い女性がグレーのスウェットのワンピース姿で豆柴犬を連れて出て来る。距離があるため確認できない。
野口「ん?あれかな?」
野口、カメラをズームして女性の顔を確認する。
野口「れおんだ」
松田れおん、野口が張っている方へゆっくりと歩いて来る。
野口、背中を向けてタバコを吸い、
携帯をイジリながら、通行人を装う。松田れおん、野口の横を通り過ぎる。
中上の声「れおんが出てきたら、10メートルくらいの距離を保って追跡しろ」
野口「10メートル」
野口、れおんから10メートルくらい離れたところで、れおんの後ろを尾ける。
◯スーパーマーケット(夕方)
松田れおん、豆柴犬をヒモで電信柱に括り付け、スーパーへ入り買い物カゴを持って買い物をする。その数秒後に野口も入る。
松田れおん、野菜コーナーで野菜の値段や鮮度などを確かめている。
野口、買い物カゴを持ちながら、れおんから10メートルくらい離れた距離をウロウロする。
野口、自分の服装(グレーのコットンシャツに綿パンに黒いスニーカー)を下から上まで目で追う。
中上の声「服装は、街に溶け込む目立たない色合い。全て無地だ」
野口、うなづく。
松田れおん、商品をレジへ。
野口もゆっくりとれおんの方へ。
◯ゲームセンター(夕方)
松田れおんが入って行く。
中上の声「メガネをかけたりキャップを被ったりジャンパーを羽織ったり決して服装は統一するな」
野口、メガネ、キャップ、紺のナイロンジャケットを着てゲームセンターに入って来る。
◯同・UFOキャッチャー
松田れおん、UFOキャッチャーでぬいぐるみを狙っている。
松田「キャー!惜しい!」
松田れおん、100円を追加して再度チャレンジする。松田れおんの背後10メートルくらいの距離から野口が観ている。松田れおん、狙っているぬいぐるみをゲットする。
松田「よしっ!」
ぬいぐるみを手に入れ店を出る。鉄柵にヒモで括り付けた豆柴犬を連れて歩く。
野口、数秒後その背後を追う。
◯コンビニ(夜)
松田れおん、電信柱に豆柴犬のヒモを括り付けコンビニへ。その数秒後、野口入ろうとするが、躊躇してコンビニから離れ、斜め向かいのタイムスパーキングへ。
中上の声「狭い店の場合は入らず外で待機。その間に着替えろ」
野口、紺のジャンパーを脱ぎバッグからエンジのジャンパーを取り出し着替える。キャップからニット帽に代える。
松田れおん、コンビニで女性誌やファッション誌を購入する。
野口「さっきから普通の女子じゃねーか。怪しい動き一個もねーな」
野口、タバコを吸う。
松田れおん、コンビニを出て豆柴犬を連れて歩き出す。
野口、少し遅れて後を尾ける。
◯松田れおんのマンション(夜)
松田れおん、豆柴犬を抱きながらマンションの入り口に入って行く。
中上の声「れおんちゃんが自宅にいる時は、入り口とベランダを中心に」
野口、マンションの前に立つ。
野口「真逆じゃねーか。どうやって両方見りゃ良いんだよ」
◯同・マンションのベランダ側(夜)
野口、最上階の松田れおんのベランダを観ている。窓から明かりが点いている。
野口「ていうかこれ、いつ休めば良いんだっけ?」
野口、携帯のメモ帳で確認。
メモ帳には「休憩時間=れおんちゃ
んのトイレ中とスタジオ収録時のみ」と書かれている。
野口、袋からウィダーインゼリーを出して吸いながら携帯で松田れおんのツイッターを確認する。
ツイッターには何も更新されていない。
野口「まあ、そうだよな。スタジオ収録か‥」
野口、松田れおんの所属する「地下チーロ」のホームページを見る。
タレントのページに松田れおんのプロフィールが消えている。
野口「あれ?無い!」
野口が突っ立っている真後ろからチョロチョロと水の流れる音がする。振り向くと、ダブルのスーツを着た強面の男(50)が酔っ払いながら野口のズボンに立ちションをしている。
野口「ちょ、ちょっと!何すんですか!?」
野口、避ける。
男「なんだ、兄ちゃん。ボーッと突っ立ってるから電信柱かと思ったじゃねーか」
野口、男を睨む。
男「なんだ?なんか言いたそうだな?」
野口「‥‥いや別に」
男、千鳥足で去っていく。
野口、小便で濡れたズボンを見て、ハンカチで拭く。
野口「最悪だ。あのシジイ」
野口、携帯をしまい、ウンチ座りをしながらタバコを吸う。
松田れおんのベランダの窓がガラガラと開く音がする。
野口、それに気づき電信柱に隠れ、カメラを構えながら様子を見る。
松田れおん、外を眺めながら缶ビールを飲んでいる。
野口「大丈夫だな、こりゃ」
野口、タバコを吸いながら溜息をつく。
F・O
T「追跡から1週間」
◯マンション近くの公園(日かわって朝)
野口、ベンチで寝ている。髪がやや伸び無精髭で白いTシャツや綿パンが汚れている。
犬の散歩をしているおばさん(67)が野口を起こす。
おばさん「お兄ちゃん!‥‥ねえ、お兄ちゃん!」
野口「ん?」
野口、目を覚ます。
野口「ビックリした!な、何すか?」
おばさん「大変だね」
野口「はい?」
おばさん、バッグからラップに包んだオニギリを3つ出して野口に渡す。
おばさん「ほら、少ないけど食べな」
野口「いやいや‥‥‥すいません」
おばさん「遠慮しないで」
野口「ありがとうございます」
野口、オニギリを受け取る。
おばさん「諦めないでね」
野口「はい?」
おばさん「今の時代、社会復帰は大変だろうけど、まだ若いんだから」
野口「いや、僕別に‥‥」
おばさん「また、お腹空いてたら持って来るから。じゃあね!」
おばさん、去って行く。
野口、オニギリを食べながら松田れおんのマンションを眺める。
携帯を取り出し、電池式充電器を取り付けて松田れおんのツイッターを見る。ツイッターが更新されている。
「誰かにつけられてる‥気がする‥‥怖い。(T ^ T)気のせいかな?ww」と記されている。
野口「やっべ!」
野口、ベランダを見ながらツイートの続きを見る。
「気を取り直して、夜は山田カゲロウさんのバラード聴きに行くかも♡」と記されている。
野口「山田カゲロウ?」
野口、山田カゲロウをツイッター検索する。本人と思われるツイッターをみつける。プロフィール欄には、「さすらいのアンプラグドミュージシャン!自分がメロディーを奏でれば、そこは、どこでもリサイタル!」と書かれている。
最新ツイートを見ると今日の予定がツイートされている。
「今夜7時、青山台駅北口デッキの通路でバラードを奏でます!ガガも来いよ!」と記されている。
野口「単なる路上ミュージシャンじゃねーか」
野口、オニギリで胸が詰まり、胸を叩きながら公園の水道をひねって飲む。
◯青山台駅北口デッキ(夜)
山田カゲロウ、ギターケースと譜面台を持ちデッキの通路に行き準備をする。
野口、それを人混みに紛れながら遠くから見る。
携帯で時間を見る。PM7:00と表示されている。
山田カゲロウ、譜面台を立てギターを奏で出して歌う準備をしている。周りには、誰も立ち止まる人はいない。
山田「えーと、どうもー!さすらいのアンプラグドミュージシャン、山田カゲロウでーす!ね!という訳で、毎月2回ほどここ青山台でライブをやらせてもらってるんですけどもね」
野口「もっとやれよ」
山田「こないだ初披露した新曲が好評でして、凄い反響がツイッターの方に来たんですよ!まあ3件ほどですけども」
山田カゲロウの前を通行人が通る。
山田「こないだ見たらフォロワーが1人消えてましたけども」
野口、無表情で山田カゲロウのM
Cを聞いている。
山田「という訳で、その大反響を呼んだ新曲「寂しくないよ」聴いて下さい!」
山田カゲロウ、ギターを奏でる。そこへ、松田れおんらしき女性が来る。
野口、気づき、松田れおんに近づいていく。携帯の松田れおんの写真で顔を確認する。
野口「うん、れおんだな」
野口、少し離れて建物の角へ隠れ、
松田れおんの写真を撮る。
松田れおん、山田カゲロウの歌を真正面で1人真剣に聴いている。
山田カゲロウ「♪人は誰でも孤独を感じ生きていく。でも心配無いさ大丈夫さ、俺がそばにいるから。あきらめないで。強く生き抜いて行こう。必ず希望が見えてくるさ。ほら、すぐそこさ、希望の光。大丈夫だよ心配ないよ。前を向いて歩いて行こう♪」
松田れおん、山田カゲロウの真横を通る。
野口、松田れおんの変わった様子に気づく。
野口「ん?」
松田れおん、山田カゲロウが歌っている背後の鉄柵に上り柵の上に立つ。
野口、慌てて駆け寄る。
山田カゲロウ、気づかず熱唱している。
山田カゲロウ「(フェイクしまくりながら)♪
生きていこう♪」
松田れおん、飛び降りる。
ドガッという音がする。
通行人が立ち止まってどよめく。
山田カゲロウ、そのどよめきを自分の曲の良さだと思い、続けて熱唱。
山田カゲロウ「♪(フェイクしまくりながら)生きて行こーオーオオオオオオーイェーエエエエー♪」
野口、山田カゲロウを押しのけ、カメラを構えながら、飛び降りた松田れおんの姿をデッキ上から撮ろうとするが、シャッターを押せない。
野口「ダメだ‥‥出来ない」
野口、カメラを下げる。険しい表情になる。
山田、通行人の騒ぎで異変に気付く。
山田「え?どうしました?みなさん?何かありました?」
野口、下を向き、落ち込みながら駅を離れる。
◯双黒社・中上のデスク(日かわって朝)
中上と野口、イスに座りながら対面で話す。
中上は、左手にノートを持ち右手にデジカメを持って耳に鉛筆を挟み、デスクに足をかけている。
野口、ずっと下を向いて黙っている。
中上「野口君さー、こんなベランダで一杯やってんのとかコンビニで買い物とか犬の散歩とか雑誌に載せて誰が見るの?」
野口「すいません!」
野口、深々と頭を下げる。
中上「良心の呵責かなんか知らないけどさ、この会社への冒涜だとは思わない?」
野口「いや、何の前触れもなく急に飛び降りたもんですから動揺してしまって」
中上「そういうもんでしょ?だいたい発作的に起こるんだからあんなの。それより落ちた所で上から見てたんでしょ?」
野口「‥‥はい」
中上「なんでシャッター押さないの?」
野口「なんかそこは、‥‥最低限のモラルなのかと」
中上「俺が研修期間を与えて、その目的を丁寧に指示して、その目的を最高の形で達成できるチャンスが目の前にある時に、モラルだなんだ言ってる奴は、最初からこの仕事やる必要無いんだよ!!」
野口「本当に申し訳ありませんでした!」
野口、土下座する。
中上「いいよもう。頭上げて」
野口、直立不動で中上を見る。
中上「もう1回だけチャンスやるから。まあ、とりあえず今日は松田れおんの写真とか、死ぬまでの行動とかを纏めといて」
野口「はい!了解しました!」
中上「返事だけは立派だなったく。まだ君のデスクは無いからとりあえず俺の所使え」
野口「よろしいんですか?」
中上「ここ使っていいよ。整理しといて」
中上、席を立ち野口に自分のデスクを使わせる。
野口、中上のデスクに座り松田れおんの行動を書いたメモ帳を見ながらノートパソコンにワードで整理する。
中上、編集者達が集まっている所へトボトボ歩いていく。
野口、パソコンを操りながら中上の方をチラチラと見ている。
◯同・中年編集者4人(片桐、井口、金沢、田島)がたむろするテーブル
中上、耳に挟んだ鉛筆を手に取り、ノートに何かを書きながら4人の下へ。
中上「ちゅう訳で!オッズが10倍で、俺は2万賭けたから、はいお前ら5万ずつな!」
片桐「参ったよなー、お前が殺したんじゃないのか?」
片桐、財布から5万を出す。
井口「そもそもこいつ女優枠に入る?」
中上「今更そんなこと言ってんじゃないよ!早く出せ!いいから!」
野口、まさかという表情で中上達の話に聞き耳を立てる。
金沢「ちょっとごめん、今手持ち無いから、昼下ろして来るわ」
中上「お前、朝も大した仕事してねーから、今コンビニで下ろして来いよ!」
中上、片桐、井口、田島から5万ずつもらう。
田島「まあ、まだ上半期始まったばかりだからね!やっぱり相原桃菜は固いよ!」
中上、ノートに書かれた5人の女優とオッズを確認。
相原桃菜の下に「2・5」と書かれていて、その下に「田島ゲーセン」と書かれている。
中上「いや馬鹿かお前」
田島「え?」
中上「お前、桃菜ちゃんにゲーセンしか賭けて無いから当たってもプラマイゼロだぞ?」
田島「あ、そっか!じゃあデーセン足しといて!」
中上「バカだと思ったら、本当にバカなんだよな」
中上、ノートに田島の賭け金を7000円に書き換える。
野口、4人の話に険しい表情をする。
野口の側へ、若山ありさが通る。
野口「あ、すいません」
若山「はい!」
野口「あのー、中上さん達ってなんか賭けてるんすか?」
若山「あー、そうですね。女優さんとかタレントさんの賭けてますね」
野口「もしかして‥‥自殺ですか?」
若山「もちろん!」
野口「はあ‥‥分かりました」
若山「どうも」
若山、会釈し携帯を開いて去っていく。
野口、愕然とした表情。
中上、野口の方を向き、手招きする。
中上「おい!野口君!」
野口「あ、はい!」
野口、中上と編集者達の所へ小走りで向かう。
中上「あのさ、来年の1発目にやろうと思ってる企画があるんだけどさ」
野口「ええ」
中上、企画書を見せる。
タイトルには、「有名人サドンデス!」とポップ体で書かれている。
中上「まあ、著名人で年内に自殺しそうな人をピックアップしてさ、オッズを付けて予想する企画なんだけどさ」
片桐「面白そうだろ?」
野口「‥‥はい」
田島「なんだよ。リアクションイマイチだな」
野口「いやいや!そんなことないです!あのー、これは実名でやるんですか?」
中上「いや、イニシャルで。有名人もラッシュ里中先生のイラストで紹介するから」
中上、ラッシュ里中先生の書いたタレントをディフォルメしたイラストを見せる。
中上「誰か分かるだろ?」
野口「そうですね。モツ珍兵さんですね」
中上「こんな感じで、年齢とプロフィールと死にそうな理由を書いて、あとオッズ付けてやってみようと思ってんだけどさ」
野口「これは、病死とか寿命とかは入ら無いんですか?」
片桐「そこは、この雑誌の良心よ」
野口の心の声「どこにあるんだよ良心が!」
金沢「あ、そうそう!他殺は更に倍率ドンだから」
野口「他殺ですか?」
中上「まあ、明らかな奴だけな。あと心不全はノーカウントだな。まあ、とりあえずヤバそうな有名人を100人くらいリストアップしといてくれる?」
野口「あ、はい。分かりました」
片桐「これは、目玉企画になりそうだから絶妙なの探してよ。ちなみに当選者は抽選でニューカレドニア旅行が当たるんだよ」
野口「なるほど」
中上「どうだ?面白いだろ?」
野口「‥‥はい!最高です!」
野口の心の声「この見下げ果てたクソ野郎共が!」
◯職業安定所「スマイルワーク」の相談窓口(日かわって朝)
野口、スマイルワークの社員、奈良橋由紀子(36)と再就職の相談をしている。
奈良橋、野口の履歴書を見る。
奈良橋「そうですか。内勤が希望ですか?」
野口「はい、出来れば」
奈良橋「職種の希望とかあります?」
野口「いや、特には」
奈良橋、パソコンでリサーチする。
奈良橋「36歳で事務職希望ですと男性は契約くらいですかねえ。あのー、千葉のスーパーの在庫管理やデータ処理は、どうですか?」
野口「ああ、良いですね」
奈良橋「玉乃屋ってスーパーで募集してますね」
野口「形態とかは?」
奈良橋「契約社員で試用期間が2ヶ月、月給は、10万円で年間休日は60日」
野口「60日ですか?」
奈良橋「ええ」
野口「昇給は?」
奈良橋「えーと、無い‥‥みたいですね」
野口「千葉で10万か。交通費は?」
奈良橋「無いですね」
野口「ボーナス」
奈良橋「無いですね」
野口「はあ、そうですか。ちょっと都内でなんか無いですかね?」
奈良橋「都内ですね。調べてみます」
奈良橋、パソコンでリサーチする。
◯双黒社・デスク
中上、デスクで両手を頭にやり、パソコンを眺める。事務の若山が、中上にお茶を持って来る。
若山「はい、ルイボスティーです」
中上「ありがとう。あのさあ」
若山「はい」
中上「野口は?」
若山「なんか体調不良とかで休みです」
中上「あ、そう」
◯職業安定所「スマイルワーク」の相談窓口
野口、奈良橋と再就職の相談をしている。
野口「あのー、クリエイティブ系とかは?」
奈良橋「無いですね」
野口「いや、調べてみてくれます?」
奈良橋「デザインですか?イラストですか?ライターですか?」
野口「まあ‥‥ライターですね」
奈良橋「それなら、希望の出版社に直接、原稿持ち込んだ方が早いですよ。ここにも今まで何人も出版社のライターになりたい人来ましたけど、結局、正規のライターさんの資料集めだけやらされて記事なんて一個も書かせてもらえず辞めてったんでね。残った人いないですね」
野口、眉間にしわを寄せ腕を組む。
野口「うーん。そうですか」
野口の携帯に中上からTELが来る。
野口「あ、ちょっとすいません」
野口、席を外し急いで店の外に出て携帯に出る。
◯スマイルワークの入り口前の歩道
前の道路に車がバンバン通る。
野口「もしもし」
中上「おう野口君?体調不良?」
野口「はい、ちょっと」
中上「本当に?」
野口「はい、身体がだるくて」
中上「その割に周り騒がしいね。部屋で休んでないんだ?」
野口「今、ちょっとドラッグストアーで薬を買いに来たもんですから」
中上「あのさー、今日8時に新橋でサシ飲みしない?」
野口「今日ですか?今日は、ちょっと」
中上「新橋にダル重1発で治す漢方売ってるから」
野口「‥‥そうですか」
中上「な!まだ時間あるから、スクワットでもして、ジョニ黒かっ喰らって寝ろ。ほんで8時に新橋の烏森口来なよ!な?」
野口「はい、了解です」
中上「じゃあ宜しく!」
中上、通話を切る。
野口、携帯をしまいため息をつく。
◯新橋のバー(夜)
野口と中上、カウンターでサシ飲み。
中上、バーボンをロックでチビチビと飲む。
野口もバーボンをチビチビ飲む。
中上「お前、今出版界で黒字の会社知ってる?」
野口「勉強不足で分かりません」
中上「ちゃんと調べとけよお前」
野口「すいません」
野口、軽く頭を下げる。
中上「トリニダード書院だろ?喪黒出版、梅文庫、あともろもろ。分かるだろ?」
野口「分かりません。すいません」
中上「分かんねーの?官能マンガ、風俗情報誌、AV女優のグラビア雑誌、クソゴシップ誌。全部エログロだよ」
野口「ああ、なるほど」
中上「文芸誌も経済も天下国家語る評論誌も、俺ら見下してた出版社全部倒れたよ。どう?分かる?」
野口「やっぱり世間の質が下がったという事ですか?」
中上「違うよ!世間が本質を分かって来たんだよ!所詮世の中には、エロと他人の不幸しか興味無いことが」
野口「クリエイティブな面ていうのは?」
中上「お前、文芸なんてまわりくどい言葉遊びで、言いたいことは、俺らと同じコーマンと不幸なんだよ。クリエイティブならうちの方がよっぽど常に創造してんだぞ?な?」
野口「はい。確かにそうかもしれません」
中上「な?世間は、全然馬鹿じゃないの。1番シビアなの。だからカッコつけて権威付けしてる文芸誌は、滅びたの」
野口「はい」
中上「長者番付見てみろよ。ほとんどサラ金かパチンコか安い居酒屋だろ?」
野口「そうですね」
中上「昔、虐げられた商売がハイソ気取った連中皆殺しにしたよ。それどう思う?」
野口「爽快な下剋上だと思います」
中上「だろ?でもな、あいつら下品なだけじゃねーからな。虐げられた事で人の本質を肌で感じ取って、常に世の流れにアンテナ張ってんだよ。俺は崇高な表現者だと思い込んでるナルシストより神経の使い方が1000倍違うんだよ!だから今結果が出てんの」
野口「商売にナルシズムはいらないんですね?」
中上「いるよ!」
野口「あ、すいません」
中上「いらない事は無いよ。ただな、その前に何が売れるかを感じ取る事が最優先なんだよ。それがプロなんだよ。分かるか?」
野口「はい!分かります!」
中上「じゃあ、お前松田れおんの死体、今ならシャッター押せたか?」
野口「それは‥‥」
中上「正直に言えよ」
野口「今は、まだ押せません」
中上「いいか?今の日本の人口て何人だ?」
野口「1億2千万ですか?」
中上「じゃあ、松田れおんは1億19999000人知られてない。知ってるのは多くて1000人くらい。そのうち松田れおんにガチで思い入れを持ってる奴は、数人だ。下世話なもんが見てえっちゅう大勢の連中の欲求を満たすために1人の命が犠牲になることは、生物界の競争原理上しょうがねえことなんだよ。大勢の幸福のために1人が死ぬ。当たり前のことじゃねーか?な!?そうだろ!?それで回ってんだ世の中」
野口、険しい表情で黙る。
野口「‥‥」
中上「ただ、動物と違って人間には、情緒がある。英知がある。そことの葛藤だな?お前、そこと葛藤してんだろ?」
野口「その通りです!」
中上「じゃあ、その苦悩をペンに込めろ!」
野口「ペンに?」
中上「せっかく松田れおんを取材したんだ」
野口「でも1週間しか」
中上「長さは関係無い。せっかく取材したのに、死んで終わりは、松田れおんへの冒涜だと思わないか?」
野口「‥‥はい」
中上「来月号、お前に1ページ松田れおんの追悼記事を書くチャンスをやる。それまでにれおんの事を徹底的に調べて、お前のやり方で書いてみろよ!」
野口、バーボンを一気に飲み干す。
野口「はい!分かりました!やらせて頂きます!」
中上「それが松田れおんへの弔いだろ?」
野口「はい!その通りです!」
中上、バックから漢方薬の入った袋を渡す。
中上「はい、漢方」
野口「え?わざわざこんな…」
中上「受け取れ」
野口「……ありがとうございます!」
野口、袋を受け取りお辞儀する。
中上、空いたバッグを見て思い出す。
中上「あ、そうだ。これからのうちの戦略があるんだけどよ」
野口「戦略?アナーキー野郎のですか?」
中上「うん。特別に見せてやるよ!」
中上、バックから巻き物を出す。
中上「マスター、グラス下げて」
マスター「承知いたしました」
マスター、2人のグラスを下げる。
中上、巻き物をカウンターに勢いよく広げる。2メートルほどの長さの巻きがカウンターにサーッと広がる。巻き物の初めには、筆で大きく「アナーキー野郎世界文化侵略構想」と書かれていて、達筆過ぎる書体で構想がお品書きのように書かれている。
野口、目を見開いてザックリと全体を見渡す。
◯松田れおんが住んでいたマンション(深夜)
野口、少し酔いながら菊の花束を持ってマンションの前へ。入り口横の花壇に菊の花束を置き、手を合わせる。反対側から、松田れおんが飼っていたと思われる豆柴犬がツタツタと歩いてくるのに気づく。豆柴犬は入り口前で鳴いている。
野口、豆柴犬の下へ行き抱き抱える。
◯AV専門店EXODUS(日かわって昼)
野口、店にある松田れおんの作品集を全て抱えてレジへ。(アナルストップ耐久4時間、陽アナル良好、肛門拡張現実など)
◯同・レジカウンター
野口、レジへ10本ほどのDVDを置く。
店長、岩永剛(56)ニヤつく。
店長「お兄さん、れおんちゃん好きだねえ」
野口「ええ、まあ」
店長「この子なんで自殺したか知ってる?」
野口「うーん。やっぱりハードなプレイばかりで心を病んでしまったんですかね?その割にインディーレーベルだからギャラもひどく安かったらしいし」
店長「うん、そうなんだよ」
野口「当たってましたか」
店長「ただ、それが原因じゃないのよ」
野口「え?何か知ってるんですか?」
店長「彼女実はさ、久我山組の幹部の多賀沼って男のカキタレだったのよ」
野口「久我山組ですか?聞いたことありますね」
店長「まあ一応土建屋つってんだけど、ほぼ収入は、違法風俗店と闇カジノと囲ってる女をアダルト出演させて、ギャラをピンハネしてんのよ」
野口「その久我山組ってのは、どこに事務所を構えてるんですか?」
店長「ガサ入れを警戒して、特定できないように場所を転々としてるらしいよ」
野口「そうですか。ところで店長さんは何故そんな情報を知ってるんですか?」
店長「いや、松田れおんの作品をコンプリートしてる店なんてここくらいだからさ、れおんファンが集まって来て色々コアな情報を教えてくれるのよ」
野口「なるほど。あのー実は僕アナーキー野郎で仕事してる者なんですけども」
店長「え?アナーキーのライターさん?」
野口「まあ新入りでまだ記事一つ書いて無いんですけどね」
店長「なんだお茶汲みかよなんだよー」
野口「いや、ただ来月号で松田れおんの追悼記事を担当する事になりまして」
店長「え?マジ?凄いじゃないですか?」
野口「それで彼女のプライベートをもっと知りたいんですけどネット検索してもあまり詳しい事が書いてないのでちょっと困ってまして」
店長「ああ、そうなんだ。あ!ちょっと待ってて」
店長、レジの裏側の社員部屋に行く。戻って来て野口に名刺を渡す。
店長「これ、多分日本一の松田れおんファンの人の電話番号と住所」
野口、名刺を見る。手作り感満載のダサいデザインの名刺に「泉新二郎」と名が記してある。
野口「泉さんて方ですか」
店長「この人に取材すれば、だいたいの事分かると思うよ」
野口「本当ですか?凄い!いやー助かります!」
店長「いやいや、こんだけウンコ処分してくれるんだからこのくらいはね」
野口、自分の名刺を渡す。
野口「私、野口と言います。また情報ありましたら宜しくお願いします」
野口、お辞儀をする。
店長「こちらこそよろしく」
◯野口の部屋(夜)
野口、松田れおんのDVDを観る。覆面を被った緊縛師の男にほぼ胸意外、縄で縛られ顔には黒いレザーマスクと口にアヌスストッパーをされた状態で吊るされ赤いロウソクを垂らされ喘いでいる。
◯DVDの緊縛師と松田れおんのやりとり
緊縛師「どうじゃ?もがきの先は?」
松田れおん「恍惚でございます!」
緊縛師、火のついた赤いロウソクを首に垂らす。
松田れおん、再び喘ぐ。
緊縛師「どうした?この声は恍惚か?苦しみか?」
松田「こ、こうこ‥‥」
緊縛師、松田れおんが言い終わらないうちにロウソクを垂らす。
松田れおん、喘ぐ。
緊縛師、ロウソクを放り投げカメラの横を通り去っていく。
松田れおん喘ぎ続ける。
映像がフェードアウトし、メーカーのテロップ「ボンヌ企画」と出て終わる。
◯野口の部屋(夜)
野口、映像を観ながらノートパソコンに素早いブラインドタッチで感想を書き込む。
F・O
◯海岸(日かわって昼)
泉新二郎(60)が2メートルくらいの長さの大きな風船に空気を膨らましているが、全く空気が入っていない。そこへ、野口が来る。
。
野口「すいません、わたくしアナーキー野郎という雑誌のライターをやっている者なんですが」
泉、けったいそうな顔で野口を見る。
泉「ああ?ブン屋?」
野口、名刺を渡そうとするが泉は手の平を向け拒否する。
野口、名刺を懐にしまう。
泉、風船を膨らます。
野口「あのー、松田れおんさんの追悼記事を書きたいと思ってまして、是非泉さんに生前のれおんさんの思い出などをお聞きしたくて」
泉「悪いけど今無理だ」
野口「すいません。やっぱり亡くなったばかりなのに取材なんて不謹慎ですよね」
泉「いや、兄ちゃん危ないよ」
野口「はい?」
泉「今膨らましてるから、あまり近づかな
い方が良いよ」
泉、風船を膨らます。まだ3分の1くらいしか空気が入ってない。
野口「その風船ですか?」
泉、ニヤリとしながら野口を見る。
泉「今日の風向きと気圧ならアメリカに着くな。ホワイトハウスにでも辿り着きゃ最高だな」
野口「随分大きな風船ですね。本当にアメリカに上陸できそうだ」
泉「兄ちゃん、これ風船じゃねんだよ」
野口「え?違うんですか?」
泉「こりゃ風船爆弾だ」
野口「風船爆弾?」
泉「これパンパンになったら中にこれ入れて飛ばすんだよ」
泉、ポケットからビニール袋に入ったカプセルを出しニヤリとする。
泉「炭疽菌」
野口、顔がこわばる。
野口「どれくらいかかりそうですか?」
泉「今日はここまでとするか」
◯喫茶店(夕方)
野口と泉、客が数人の薄暗い年季の入った喫茶店の1番奥のテーブルでコーヒーを飲みながら話している。テーブルの上に野口が買った松田れおんのDVDが積まれている。
野口、自分が松田れおんの作品をどれだけ観てきたかを泉にアピール。
野口「この時の後ろから揉みしだかれた時のれおんちゃんのアンニュイなためらいの顔とそれとは裏腹に敏感な身体の反応がたまらなくてですね!」
泉「あれ持ってる?」
野口「何ですか?」
泉「マニアにだけ出回った逆輸入版。というか海賊版」
野口、バッグから松田れおんの海賊版DVDを取り出し見せる。
泉、ニヤつく。
泉「それのVHSは?」
野口、DVDの裏に隠していたVHSを見せる。
泉、真顔になる。
泉「まあブン屋だからな。資料はいくらでもな」
野口「こんなもんじゃダメですか?」
泉「れおんちゃんを無茶苦茶にした多賀沼いるよな?」
野口「ええ。久我山組の」
多賀沼「あれとれおんちゃんのハメ撮りは?」
野口の心の声「そんなのあったのか」
野口「え?‥‥いや、それは‥‥すいません!持って無いです!」
泉、野口をじっと見る。
野口、松田れおんの知識が付け焼き刃だという事がバレたと思い、動揺する。
泉「安心した」
野口「え?」
泉「あれを持ってたら、すぐ帰るとこだったよ」
野口「あ、いや、あー、はい」
泉「野口君だっけ?」
野口「はい!」
泉「合わせたい奴がいる」
野口「‥‥はい」
◯高級住宅街の10階建てマンション(夜)
泉、野口を連れてマンションの入口へ。自動ドアがバロック調の重厚なデザインで通常より一回り大きい。泉、インターホンで部屋番号603を押す。
勅使河原がインターホンに出る。
勅使河原「はーい」
泉「泉です。協力してくれる人がみつかったよ」
野口の心の声「え?協力?」
勅使河原「了解です」
バロック調の自動ドアが開く。
◯同・勅使河原の部屋(夜)
大理石のテーブルの周りに大きな白いレザーのソファーが対面に2つ。野口と泉が隣同士で座り、向かいに勅使河原がオールバックにサングラス、白いダブルのスーツで葉巻をくゆらせながら座っている。
野口、「勅使河原 篤哉」の名刺を見る。
勅使河原「3年前に里緒菜と付き合っていました。あ、すいません、松田れおんの事です」
野口「はい」
勅使河原「あそこのレーベルの社長が久我山組の経営する闇カジノにハマってから、れおんに変化が出てきました。ポーカーで負けて借金した社長が久我山の幹部にれおんを献上するかわりに返済を伸ばしてもらっていたんです」
野口「多賀沼ですね」
勅使河原「はい」
野口「その事を知ったのは、いつ頃ですか?」
勅使河原「別れる一ヶ月前です」
野口「勅使河原さんには、その事は?」
勅使河原「まったく言わなかった。言ってくれりゃいくらでも出したのに。別れたのも、俺に迷惑をかけたくないと思ったんだと思います。自分の力で稼ぐっていう変に生真面目で意固地な所がありましたから」
野口「そうですか。向こうっ気の強さは物凄く感じますね」
勅使河原「でも本当は、弱い普通の女の子なんですよ」
勅使河原、タオルで顔を覆い涙を隠す。
野口の心の声「やっぱりシャッターを押さなくて良かった」
勅使河原「僕のケツモチに頼んだんですが、久我山と聞いて尻尾巻いて逃げました」
野口「久我山は、それほどヤバイんですか?」
勅使河原「僕のケツモチが小さいだけです。
ただの半グレ集団みたいなもんですし」
野口「なるほど」
勅使河原「野口さん、我々の復讐に協力して頂けませんか?」
野口「復讐‥‥ですか?」
勅使河原、iPadで久我山組の現在の事務所の間取り図を見せる。
勅使河原「これが今の久我山組の事務所です。松戸の郊外にあります」
野口「‥‥はい」
勅使河原「僕は、金も女も遊びも散々やって来たんで死んでもいいんです。マシンガン持って事務所に突っ込みます。野口さん、もし俺が失敗したら追撃してくれませんか?」
野口「え!?俺がですか!?いや、それは、ちょっと‥‥」
勅使河原「安心してください。ロケットランチャーを食らっても平気な防弾チョッキを差し上げますから」
野口「いや、そういう問題じゃ‥‥」
野口、泉の顔を見る。
泉「俺は防弾チョッキなんていらない。マグナムさえありゃ久我山を殲滅してやる」
野口「え?泉さんてそんな武闘派なんですか?」
泉「兄ちゃん、俺は若い頃一人梁山泊って言われててなあ。地方のパチ屋で一回何万連チャンして地方の店1個潰したことがあるんだ。そのパチ屋は、地元のヤクザが経営してたから今でもその地方の地回りに目付けられててもうその土地へは2度と行けねんだよ。舐めんなよ」
野口、眉間にしわを寄せ泉を見る。
野口「‥‥ん?どういう事ですか?」
泉「だから、そのー、それだけ腹括ってるって事よ」
野口「‥‥ああ、はい」
勅使河原、ソファーの裏から大きなアタッシュケースを出し、テーブルに乗せる。
勅使河原「野口さん」
勅使河原、アタッシュケースを開けると札束が並んでいる。
野口、目を見開く。
勅使河原「5000万あります。協力してくれるなら、持ってってください。先払いです」
野口、札束を黙ってみつめる。
◯双黒社(日かわって昼)
野口、パソコンで松田れおんの追悼記事を書き終え、コピーして中上の下へ。
野口「中上さん、松田れおんの記事なんですが」
野口、中上に10ページ程の原稿を渡す。中上、原稿をパラパラとめくる。
中上「うーん……ダメだな」
野口「ダメですか?」
中上「入念なリサーチを並べてるだけだ。文芸になってない」
野口「文芸ですか?」
中上「お前の思い入れをもっと入れろ!!
やり直し!」
野口「はい、了解です」
野口の心の声「文芸馬鹿にしてたじゃねーか」
◯広場(夜)
野口、松田れおんの飼っていた豆柴を散歩させる。遠くで中学生がフリスビーをやっている。
野口、広場の芝生に胡座をかき、豆柴を足に乗せて、考え事をしている。
(フラッシュ)
× × ×
勅使河原が5000万を差し出すシーン。
勅使河原「僕の復讐に協力してくれるなら、
5000万差し上げます」
勅使河原「僕がやられたら追撃してくださ
い!」
× × ×
野口、ボーっとしていると中学生が投げたフリスビーが野口の顔に向かってくる。豆柴犬が飛び上がりフリスビーを野口の顔の前で噛み付いて止める。
野口「うわっ!」
中学生2人、慌てて野口の所へ。
中学生A「すいません!」
中学生B「すいません!」
中学生2人、頭を下げる。
野口、豆柴犬からフリスビーを取り
上げ中学生に渡す。
野口「気をつけてね」
中学生2人、フリスビーを受け取り
去って行く。
野口、豆柴犬を撫でる。
野口「お前、やるなあ」
◯久我山組の事務所前(日かわって昼)
野口、事務所があるマンションから20メートル離れた電信柱の陰に隠れて事務所に動きがないか見ている。携帯に送られた、勅使河原が多賀沼を暗殺する計画を記した「TKO作戦」と記したワードの添付図を見る。事務所の地図と、ABCと書かれた作戦の暗号が記されている。
野口「出来ねえなこれ」
野口の背後に男が忍び寄る。
男、野口の肩に手を置く。
野口、驚いて振り向く。
男「兄ちゃん何してんだ?」
野口「いや!散歩ですけど」
男「あれ?兄ちゃん、れおんのマンション張り付いてた奴だろ?」
野口「え?ち、違いますよ!何の証拠があって言ってるんですか!?」
男「マーキングしただろが!」
野口「あっ!」
(フラッシュ)
× × ×
松田れおんのマンションを張っていた時
に、酔っ払った男に小便をかけられたシ
ーン。
× × ×
男「ちょっと事務所来てくれる?」
野口、逃げようとするが腕を取られ羽交い締めされる。
◯久我山組事務所がある5階建てマンションの505号室。
野口、黒革のソファーに姿勢を正して座っている。背後には、3人の若い衆が仁王立ち。野口の対面に男が足を組んで座って、野口の名刺を見る。
男「ふーん。ブン屋か」
野口「はい!」
男「松田れおんと俺の関係でも探ろうとしてたんか?」
野口「え?」
野口、驚いた顔。
男「知ってんだろ?俺が松田れおんを肉便器にしたって」
T「久我山組幹部 多賀沼 龍」(男の胸元に赤い血の文字で)
野口「あなたが松田れおんさんとお付き合いしていた方だったんですか!?」
多賀沼「付き合ってねえよ!肉便器だよ!」
野口「すいません!肉便器にしてた方なんですか!」
多賀沼「お前、言い方わりーな!舐めてんのか!?あん!?」
野口「すいません!すいません!」
野口、何度も頭を下げる。
多賀沼「お前、何が目的なんだよ?」
野口「いや、あのー、松田れおんさんの記事を書こうと思いまして。色々取材したら久我山組さんの方と付き合ってらしたって小耳に挟みまして、是非匿名でれおんさんについての思い出なんかを聞きたいと」
多賀沼「だったら堂々と来いよ。周辺ウロウロしやがって。鉄砲玉でも来たかと思うだろうが。違うか?」
野口「その通りでした!申し訳ありませんでした!なにぶん新米記者でなかなか裏の世界に慣れてなくて」
野口、深々と頭を下げる。
多賀沼「れおんがくたばったの俺が原因とか書くんじゃねーだろうな?」
野口「いや、そんな事書くわけ無いじゃないですか。松田れおんファンとして今までの作品を振り返って追悼記事を書くだけです。それプラス、松田れおんさんと肉‥‥えーと」
多賀沼睨む。
野口「関わっていらっしゃった方に実際は、どんな子だったのかをインタビューしたいと思いまして」
多賀沼、睨んだ顔が普通に戻る。
多賀沼「そうか。匿名だな?」
野口「はい!もちろんです!」
多賀沼「組とか名前とか匂わせるように書いたら承知しねーぞ!それやったらどう落とし前付けんだ?」
野口「絶対にそんな事しません!もしプライバシー情報が分かるような書き方をしたら、いつでもうちの出版社にかちこみに来てください!」
多賀沼「ほう。兄ちゃん肝座ってんじゃねーか。分かったよ。話してやるよ」
野口、深々と頭を下げる。
野口「ありがとうございます!!」
◯勅使河原のマンション(日かわって夜)
◯同・勅使河原の部屋
勅使河原、ソファーで座っている。
野口からスマホに着信が来たので出る。
勅使河原「はい、もしもし」
野口「あ、もしもし、野口です!」
勅使河原「あ、この前はどうも!」
野口「久我山組の事務所の間取りが分かりました。多賀沼が普段休んでる別室も分かりましたんでレイアウト整えて送ります」
勅使河原「マジですか!?じゃあ多賀沼をピンポイントで狙える可能性もできましたね!それにしてもよく分かりましたね!どうやって部屋の中まで調べたんですか?」
野口「うちの出版社が松戸の不動産仲介の関係者とパイプがありまして。絶対にプライバシーを守るという条件で教えてくれたんです」
勅使河原「凄い!さすが1番骨のあるタブー無き出版社だ!資料頂いて計画に役立てます!」
野口「はい!それじゃあまたよろしくお願いします!」
◯公園の空き地(夜)
野口、死んだ目で携帯を見つめなが
らしばらく微動だにしない。
F・O
T「研修期間3ヶ月目」
◯双黒社(日かわって昼)
中上、野口の書いた松戸れおんの原稿を読み込む。
野口、立って感想を待つ。
中上「うん、よし!OK!」
野口「本当ですか!?ありがとうございます!!」
野口、深々とお辞儀。
中上「まあ予定より2ヶ月オーバーしたけど、
とりあえず野口君、正式に採用ね」
野口「ほんとですか!?ありがとうございます!」
野口、深々とお辞儀。
中上「それじゃあ挨拶に行こう!」
野口「はい?挨拶ですか?」
中上「うん、うちの編集長に」
中上、手で付いて来いの合図。
野口、付いて行く。オフィスの隅にある防火扉と書かれたドアを3つの鍵で開くと4畳ほどの部屋が。小さなデスクにパイプイス2つが並んでいて、そこに編集長の赤井清久(59)が寝ている。デスクにはテープレコーダーが置いてあり板東英二のラジオの録音テープが流れている。
中上「編集長!」
赤井「ん?」
赤井、目を開け体を起こす。
中上「記者として正式に採用しました野口君です」
野口「えーと、挨拶遅れまして申し訳ありません!野口隆と申します!アナーキー野郎に少しでも貢献出来るように不惜身命の思いで頑張りますのでよろしくお願い致します!!」
赤井「はーい」
中上「編集長、ここに野口君が書いた原稿を置いておきますんでお暇な時にチェックお願いします。失礼します」
中上、お辞儀をする。野口もお辞儀をする。編集長室を出て扉を閉める。中上、野口の顔を見て肩を叩く。
中上「な?」
◯勅使河原の部屋(夜)
勅使河原、野口、泉、大理石のテーブルに久我山組の間取り図と「TKO作戦」と書かれた多賀沼暗殺の計画書を置き、入念な打ち合わせをする。
勅使河原「決行は、11月11日の深夜2時頃です。若い連中が繁華街でみかじめ料を取りに外出する時間にしましょう。これで構成員の半分、10人が居なくなります。僕は、若い連中が出て行ったのを見計らって、マンションの配管を伝って5階に登り、ベランダから事務所に入ります」
野口「え?自力でですか?」
勅使河原「ええ。こないだebayで介護用の強化服を買ったんです」
野口「ああ、力を使わなくても重い物持ち上げられるヤツですか?」
勅使河原「そうそう!手だけじゃなく足のヤツも買ったんで」
野口「へえ。あれ取り付けるの大変じゃ無いですか?」
勅使河原「ええ。ですから、決行の日には、ここで着替えて松戸へ向かいます」
野口「車の運転は誰がしますか?」
泉「俺だよ。昔千葉でタクシーの運転手してたから目立たない裏道知ってるんだよ」
野口「僕らはどうやって事務所に入ればいいんですか?」
勅使河原「僕がベランダから突入してマシンガンをぶっ放します。3分経ったらマンションの入り口へ来て、インターホンを押してください!もし何の反応も無かったら、僕は死んでると思ってください。そしたらこのレーザーでマンションの自動ドアのセンサーを照らしてください」
勅使河原、野口にレーザーを渡す。
野口「これは?」
勅使河原「ebayで落とした緊急用のオートロック解除用のレーザーポインターです。うちのマンションで試して成功しましたから、どこのマンションでも使えます」
野口「すげえ。ていうかこれで突入すれば良いんじゃないですか?」
勅使河原「いや、入り口は構成員が防犯カメラで常に監視してる可能性があるしエレベーターで上がるのも時間のロスですから」
野口「なるほど。じゃあベランダ突入して3分後に僕たちは向かえばいいんですね」
泉「俺もその後に飛び道具で行くから」
野口「飛び道具?マグナムの事ですか?」
泉「いや、風船爆弾」
野口「え?……あれって大丈夫すか?」
泉「何が?」
野口「いや、ちゃんと事務所に照準が合うんですか?」
泉「そこは勅使河原君に改良してもらったから」
野口「へえ…改良か」
勅使河原「そうだ。野口さんに差し上げる5000万なんですが」
野口「はい」
勅使河原「決行の前日に赤座山の広場横にある竹藪に埋めて置きます。赤い旗が刺さってますんで、その下です。あとで地図を添付して送ります」
野口「了解です」
勅使河原「とりあえず、また綿密に計画をブラッシュアップして皆さんに計画書を送りますんで今日はこの辺で」
勅使河原、立って2人に両手で力強く握手する。
勅使河原「松田れおんを弔いましょう!!
よろしくお願いします!」
F.O
T「暗殺計画決行の日」
◯双黒社(日かわって昼)
野口、デスクで記事の校正をしている。貧乏ゆすりして落ち着かない。シャツのポケットから携帯を出し「TKO作戦」の書かれた暗殺計画書をチェックする。
片桐「野口ー!!」
野口「はい!」
片桐「ちょっと来てー!」
野口、携帯をしまい片桐のデスクへ。
片桐「あのさー、これなんだけどさ」
片桐、デスクに突っ伏しながら野口に「月刊デッドゾーン」という雑誌を渡す。
片桐「これ今月出た、サカエ書院のゴシップ誌なんだけどさ、うちと被って無いか読み聞かせてくれる?」
野口「読み聞かせる?」
片桐「うん、眼精疲労で目を休めたいから」
野口「はい。えーと、真夜中の青カン穴場スポット」
片桐「そこからじゃない!」
野口「はい?」
片桐「その前から」
野口「その前って広告ですけど」
片桐「そう、そっから」
野口「‥‥はい。えーと‥‥金運、恋愛運、全てこれで解決!神秘のロゼッタブレスレット。えーと‥‥購入者のAさん38歳。僕は、彼女いない歴イコール年齢でした。しかし、このインカ帝国マチュピチュの岩で作ったロゼッタブレスレットを購入した瞬間」
若山「野口さーん!」
事務の若山が野口のデスクの内線を取る。
野口「はい!ちょっと待ってください!」
片桐、イビキをかいて寝ている。
野口、自分のデスクへ戻る。
若山「編集長から」
電話に出る。
赤井「野口くーん。ちょっと来てくれる?」
◯同・防火扉の中にある編集長室
野口、防火扉を開けて中へ入る。
野口「失礼します!」
赤井、2つ並べたイスに仰向けで寝ている。デスクに野口が書いた松田れおんの原稿がそのまま置いてある。テープレコーダーから、スロー再生した声が聞こえる。
赤井「あのさー、テープレコーダー壊れちゃってさ」
野口「ええ」
赤井「板東さんが馬場さんみたいになってるのよ」
野口「そうですね」
赤井「これ修理して来てくれない?」
野口「え?修理ですか?」
赤井「どっかテープレコーダー修理の店探して修理して来て!」
野口「はい!分かりました!」
野口、テープレコーダーを持って、部屋を出る。野口の携帯に勅使河原から着信が来る。応答しながらオフィスを出る。
野口「もしもし?」
◯同・ビルの廊下
野口、階段を下りながら勅使河原と会話する。
勅使河原「緊急連絡です」
野口「どうしました?」
勅使河原「これから3時間後に暗殺計画を決行します!」
野口「え?3時間後?」
野口、携帯の時間を見る。昼の2時頃。
野口「3時間後って夕方の5時ですか?」
勅使河原「ええ。今日は構成員が4時半頃から地回りするという情報を繁華街の人たちから聞きました。ですから4時半頃に松戸の西口のロータリー近くのタイムスに黒のキャデラックで待ってますんで。こないだ渡した時限爆弾は、ちゃんと保管してますか?」
野口「ええ。自宅に置いてます」
勅使河原「では、それを持って松戸へ向かってください!」
野口、険しい顔で唇を噛みしめる。
野口「了解です!」
◯松戸駅西口ロータリー近くのタイムス(夕方4時半)
黒いキャデラックが停まっている。そこへ野口がボロボロの軽自動車に乗って現れる。
野口、車から出て大きなリュックを背負いキャデラックの後部ドアを開ける。運転席に泉、助手席に勅使河原がいる。
野口「お待たせしました!」
勅使河原「急な連絡すいません!」
野口「いえ全然!」
勅使河原「時限爆弾は持ってますね?」
野口「はい。使い方もバッチリ覚えて来ました。泉さんは?」
泉「時は来た!それだけだ!」
勅使河原「よしっ!いざ出陣です!」
泉、キャデラックでマンションへ向かう。
◯廃工場の倉庫前(4時50分頃)
人気の無い廃工場にキャデラックを停める。
勅使河原、スマホで繁華街の居酒屋の店長、中尾正(62)にTEL。
勅使河原「もしもし?中尾さん?久我山の連中来てる?」
中尾(電話口から)「ああ、ちょうど今歩いてるよ」
勅使河原「何人くらい?」
中尾「10人くらいかなあ」
勅使河原「了解です!ありがとう!」
勅使河原、TELを切る。
勅使河原「それじゃあ、準備をしましょう」
◯廃工場の倉庫前(4時55分)
勅使河原、ロボコップのような扮装でマシンガンを持つ。
泉と野口、大きなリュックを背負っている。
勅使河原「それじゃあ行って来ます!今から20分後に追撃をお願いいたします!」
野口、泉「はい!」
勅使河原「もし僕一人で殲滅出来たら、すぐに連絡します!」
野口、泉「はい!」
勅使河原「では!」
勅使河原、久我山組のマンションへ向かう。その後ろ姿を野口と泉が見ている。
泉「時限爆弾の使い方大丈夫か?」
野口「ええ」
泉「俺が爆薬の入った風船をドローンで事務所のベランダに着地させる。その直後にお前の時限爆弾も5分にセットして‥‥」
野口「泉さん、皆まで言わないでくださいよ。もう完璧にシュミレーションしましたよ」
◯久我山組のマンション(5時10分頃)勅使河原、マンションの裏側にある配管を登り、久我山組の事務所、角部屋の505号室のベランダに入る。
勅使河原、特殊レーザーマシンで窓ガラスのロックの周り部分を切り取り、中のロックを開ける。ベランダの近くのソファーに座っていた久我山組の構成員A(35)が物音に気づきベランダを振り返る。
カーテンがそよいでいる。
構成員A、カーテンに近づくとカーテン越しからマシンガンの弾丸が構成員を蜂の巣にする。
◯同・久我山会長の部屋
久我山渚組長(68)と多賀沼、マシンガンの音に気づく。
久我山「おい!チャカが暴発したか?」
多賀沼「組長、ここで待っててください!」
◯同・20畳のリビング
構成員6人、銃声に気づき、慌てて棚にあるピストルを手に取り弾を込める。
構成員B「おい!かちこみだ!早く用意しろ!」
構成員C「どっからだ!?」
構成員D「ダイニングからだろ!?」
構成員、Eが不用意にドアを開ける。
構成員B「おい!馬鹿!」
ドアを開けると勅使河原がマシンガンを構えている。
勅使河原「多賀沼ーーーー!!!!」
勅使河原がマシンガンを乱射する。構成員達もピストルを撃つが、勢いに負け、全員死亡する。
勅使河原「多賀沼ーー!!弔いじゃー―ー!!」
勅使河原、死んでいる構成員6人の顔を見て多賀沼がいるか確認する。居ない事が分かる。
勅使河原「多賀沼ーー!!どこじゃーーい!!」
勅使河原の背後で、多賀沼が勅使河原の首をマグナムで撃つ。勅使河原、即死する。
◯廃工場の倉庫前
泉、腕時計で5時12分を指している。
泉「連絡がねえな。そろそろ行くか!」
野口「はい!」
◯久我山組のマンション前(約20メートル程離れた所)
泉と野口、マンションの様子を見る。泉、時計を見る。
泉「よしっ!追撃だ!」
泉、爆弾付きの風船を付けたドローンを打ち上げる。
野口、自分のリュックをまさぐる。
泉「おい!早くしろ!」
泉のドローンが久我山組のベランダに行き上手く部屋の中へ入る。少しして爆発音がする。
泉「よしっ!!」
野口、リュックから時限爆弾を首輪に付けた豆柴犬を出す。
泉、驚く。
泉「何だそりゃ?」
野口「ドローンは、いりませんよ」
野口、マンションの入り口へ向かう。
野口、黒い覆面をかぶり、ポケット
から紫の紙を出し、豆柴犬に嗅がせ
る。
(フラッシュ)
× × ×
野口が久我山組の事務所に連れて行かれ
た時にソファーの隙間に紫の紙を入れて
いる場面。
× × ×
野口、レーザーポインターをオート
ロックドアのセンサーに当ててドアを開ける。豆柴犬に再び紫の紙を嗅がせ尻を叩く。
野口「GO!」
豆柴犬、マンションの階段を駆け上がる。
野口、505のインターホンを押す。応答が無い。
野口、すぐにマンションを出る。
◯泉が待機している場所
野口、泉の所へ戻って来る。
泉「どうだった?」
野口、下を向き首を横に振りながら溜息をつく。
野口「ダメでした」
◯廃工場の倉庫前
野口と泉、キャデラックに乗って場
所を移動。
◯千葉の海沿いの道路(夜)
◯キャデラックの車中(夜)
泉が運転し野口が助手席へ。
泉「まだ連絡は、無いか?」
野口「ええ」
泉、ラジオをつける。AMでニュースをやっている。
AMのアナウンサー「今夜6時頃、千葉県松戸市のマンションで指定暴力団久我山組の部屋に何者かが発砲、更には爆発が起こり久我山渚組長他構成員など合わせて9人が死亡しました」
泉「9人?」
野口、黙っている。
泉「多賀沼がどうなったかだな」
野口「泉さん」
泉「ん?」
野口「疲れて無いですか?」
泉「ああ、まあな」
野口「運転変わりますよ」
泉「え?ああ。ていうか運転できるか?小回り効かねーぞ?へへへ」
◯千葉の公道(夜)
交通量がほとんど無い路側帯に車を停め野口が泉と運転を代わる。
泉が助手席に座りドアを閉める。
キャデラックが発進する。
◯キャデラックの車中
野口が運転し、泉が助手席に。
泉「まあ、俺たちの役目は果たしたよな?」
野口「ええ、もちろん。充分ですよ」
泉「5000万は、山分けするか?え?」
車中で銃声が鳴る。
泉が前のめりに倒れる。
◯赤座山広場の竹藪(日かわって夜明け)
野口、勅使河原が指定した5000万が埋まっている地図を携帯でチェックする。小さな赤い旗が立っているのをみつける。
野口、手で必死に土を掘る。袋が見える。取り出すが袋には何も入って無い。
野口「クソッ!!どうなってんだ?」
野口の近くを柴犬の散歩をしてる老人(85)が通る。
野口と目が合う。
◯赤座山の竹藪の奥(明け方)
野口、手で土を掘る。
その横で柴犬が死んでいる。
更に映像を引くと泉が死んでいる。
更に映像を引くと老人(85)が死んでいる。
F・O
T「2016年6月9日」
◯文京区の雑居ビル屋上(早朝5時)
北条、飛び降りる。しかし、落下地点に配送トラックが来て止まり、荷台のゴミ袋の上に落ちる。
野口、北条の飛び降りを屋上でスマホのカメラで連写していたが、ゴミ袋の山に落ちたのを見て、舌打ちしながら北条が脱いだブーツを持ってビルを出る。
北条、ゴミ袋の上で意識を取り戻す。配送トラックの男性運転手(25)が来る。
男性運転手「大丈夫っすか!?」
北条、目を開け辺りを見渡す。
男性運転手「ちょっと!救急車呼んで!救急車!」
周りの通行人がざわつく。
北条「‥‥これが黄泉か?」
◯野口の住むアパート(朝)
◯同・野口の部屋
野口、部屋に戻り仰向けで寝ている。
スマホで撮った北条の飛び降りの連続写真を見る。隣の部屋から子供が流暢に喋っている声が聴こえる。
子供「パパー!ベランダにピカチュウがいるよ!ねえ!パパ起きてー!ママも早く御飯の支度してよ!」
野口「るせーな!」
野口、壁を蹴る。
子供「パパー!また隣のおじさんが嫌がらせして来るよ!ねえ!」
◯中華屋「珍気楼」(同・昼)
野口、ノートパソコンでネットニュースを見ている。店長の石岡真(58)が近づいて来る。
店長「お客さん、店ん中でいつまでも仕事すんのやめてください。茶店じゃないんすから」
野口「どうせ客来てないんだからいいだろ?」
店長「え?」
野口「回転の悪い店なんだからいつまでも居たっていいだろ別に。なんか追加するかもしんねーだろうが」
店長「なんか追加あるんですか?」
野口「今日はねーけどな。帰るわ」
野口、バッグにノートパソコンを仕舞い、席を立つ。
◯質屋(昼)
野口、北条のブーツをバッグから取り出し、買取カウンターへ。
店員「いらっしゃいませ!買取ですか?」
野口「見りゃ分かんだろ」
◯双黒社(昼)
野口、オフィスへ。
中上、野口の所へ来る。
野口「あ、おつかれーっす!」
中上「どう?調子は?」
野口「ぼちぼちっすね」
野口、自分のデスクへ座る。
野口「あ、そうだ!中上さん」
中上「おう」
野口「今日朝っぱらに歩いてたら、飛び降り自殺する奴に出くわしまして」
中上「おう!写真撮れたか?」
野口、スマホの飛び降りの連写を見せる。
野口「屋上から撮ったんすけどね」
中上「いいじゃん!」
野口「これが運悪くたまたま通ったトラックの荷台に落ちて助かってんすよ」
中上「ほう。いや、でもこっちの方が珍しいじゃん」
野口「まあ、そう言われりゃそうっすね」
中上「ただなあ。やっぱり社風に合わねーか」
野口「まあ…そうですよね」
中上「そろそろお前も特ダネ期待してるぞ!」
野口「はい」
中上、野口の肩をポンと叩く。
野口、会釈をし、ため息をつく。
◯双黒社オフィス(夜)
野口、時計を見る。夜8時頃。
野口、パソコンをバッグにしまいイスから立つ。
野口「じゃあ、お先に失礼します!」
周りの編集者、手を上げて返す。
◯並木道(夜)
野口、外灯でかすかに灯されただけ
の暗い夜道を歩いている。
小さな野良犬が寄って来る。
野口、野良犬を撫でる。
野口「俺のことが好きなのか?え?あんまり人を信じんなよ」
野口、再び歩き出す。
SEキングトーンズの「グッナイベイビー」
野口、並木道を淡々と歩く。
同じ並木道を黒いフードを被った黒いジャンパー姿の男が歩く。
野口、足を止めた後、少し速足で歩きだす。
黒づくめの男も速足で歩く。
野口、走り出す。
黒づくめの男も走り出す。
野口、懐からナイフを取り出し、黒づくめ男を背後から刺す。
SE(C・O)「グッナイベイビー」のサビ、「♪だから〜‥‥グッナ」の部分でC・O
黒づくめの男がうつぶせで倒れ死んでいる。外灯で顔が照らされ、多賀沼だと分かる。
野口、多賀沼の死体を写メで撮る。
野口「これは正当防衛だよな」
野口、冷めた目で多賀沼の死体を見下ろす。
C・O
(おわり)
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