カジノトライアル ミステリー

 西暦20??年、カジノの解禁された近未来の日本。カジノのPR記事を書いて生活する駆け出しフリーライターの多田は、元フランス外人部隊兵士。しかし取材でカジノをちょっと体験するつもりが、思わぬ泥沼にはまり込んでしまう。  その泥沼から抜け出すために、飛び込んできた高額の仕事に飛びついてしまう多田。しかし、それはさらにカジノ産業のダークな迷路をたどる道だった。
小田切しん平 110 4 0 08/29
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第一稿

登場人物

多田一平(29)  フリーライター
武森丈(56)   編集プロ緑林舎・代表
蜜村洵子(30)  先輩フリーライター

多田権造(38)  多田一平の兄
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登場人物

多田一平(29)  フリーライター
武森丈(56)   編集プロ緑林舎・代表
蜜村洵子(30)  先輩フリーライター

多田権造(38)  多田一平の兄

麻田力也(30)&久野辰彦(42)  カジノ・ウタマロの財務部社員
警官1,2

吹浦昇(48)  パブリック・アイ代表
澤井貴子(32) パブリック・アイ編集担当

周勝米(45)&王剛(32)  中日友邦連盟・保衛部員

磯野輝夫(40) 大手新聞社マニラ支局員
森野玲(34)  フィリピンのボランティア団体職員
神野典史(50) フィリピンに潜む日本人
堅田エミ(23) エスコートガール

臼井祥子(37) ヒルベリー・ホテル勤務

ロリーン・ヴァーコフ(27)&九条直人(29) アダルトTVキャスター
カサンドラ桐谷(36)   アダルトTV報道部長

医者(48)   開業医、カジノの保険医
シェフ(38)   フランス料理のシェフ

大森喜樹(31)        県会議員
大森進二郎(61)   経済産業省副大臣
大森麻巳子(52)      副大臣夫人


第一話 あのー、借金が溜まってますけど
 
外国の軍隊で5年を勤め上げた多田一平は、平和な日本に帰国後、一転してカジノのPR原稿を書くフリーライターの仕事をしていた。日本でもカジノ関連法案が急に整備され、何軒ものカジノがオープンしたためだ。カジノ各社は、雑誌やWebのPRライターたちに実際のカジノを経験させ、お客を引っ張り込むような提灯記事を書かせている。
 編集プロダクションの緑林舎に勤める駆け出しライターの多田もその一人だったが、運悪くカジノでの負けが込んでしまい、カジノの取立て屋とひと悶着起こして、返済を迫られていた・・・

1 朝、多田のアパート
   机の上には、電源が入りっぱなしのパソコンと豪華なカジノのカタログ資料が散乱。
   多田一平のフランス外人部隊時代の額入り写真。白いケピ帽にオリーブ色の戦闘服
   いくつもの国籍の戦友たちとFAMAS自動小銃を抱えている。
ごたごたした、独身者のアパート。
突然、携帯電話が鳴りだす。
多田「うぉっ?(がばっと跳ね起きて、まわりを見回し)」
   置時計を見ると、もう十一時を過ぎている。
   あわてて携帯電話を取る。
先輩のライター&編集者、蜜村洵子の声が飛び込んでくる。

蜜村(電話から)「おはよう、兵隊さん」
多田「はあ」
蜜村「この間取材してたカジノ・ウタマロの原稿はもう出来たかな」

蜜村の口調は、どうも姐さんぽい。年齢は下でも、ライターのキャリアは向こうの方が長いからなあ、と納得はしているけれどね、どうも気になる。

多田「もうちょいです」
蜜村「あらま、もうそんな言い訳の仕方も覚えたのね。それなりに進歩してるじゃない」
多田「まあねー。先生がいいから・・・」

と、すこし持ち上げてみる。

蜜村「早めにメールしてね。分かった?」
多田「うぃーー」

と、フランス語なのか、酔っ払っているのか、分からない返事で返して、携帯を切る。
多田は、他に入っている留守番電話のメッセージを何本か聞く。

久野の声「多田様。毎度ありがとうございます。カジノ・ウタマロ財務の久野です」

暗い表情になる多田。こいつの伝言は聞きたくなかったんだけれど。

2 夕方・街中
     デイパックを背負い、自転車で疾走する多田。
編集プロダクション・緑林舎のある雑居ビルに着く。

3 編集プロダクション・緑林舎内部
   資料の山、本やファイル、何人かがパソコンに向かい、打ち合わせをしたり。カメラ、VTR機材も。
   編集プロ代表の武森丈と蜜村洵子が多田を待っていた。
武森「(多田を見つけて)おー、来たな」
多田「どうも」
武森「おー、こっちだ。座れ座れ。なんだかおとなしいな。ということはカジノじゃ勝ててる・・・わけがないよな?」
多田「(ぐったりして)当たってます。嫌なことを思い出させないでくださいよ」

   蜜村が多田に紙コップのコーヒーを差し出す。

蜜村「原稿で夜更かしするならいいけどね。カジノで勝てるならPRライターなんか
   していないしね」
武森「火傷はするなよ。なにかと面倒だ」

   そんなこと言われても、もう遅いんだけどなあー、と心のなかでぼやきながら

多田「ええ、まあ(煮え切らない返事)」

   雑然とした大部屋を突っ切って、大柄な男たち、カジノ・ウタマロの取り立て屋、麻田力也と久野辰彦がやってくる。

多田「あ、やっぱり来ちゃったよ(独り言)」
武森「お前のトラブルか?」
多田「多分・・・」

   やれやれ、といった表情だが、この程度のトラブルだと、
   武森はかえって面白がるのだ。

   多田の正面に立ち塞がる久野と麻田。

久野「多田さん。本日はお日柄も良いようで(バカ丁寧に)つきましては、いろいろと財務的なご相談がありまして」

   まわりの何人かが、妙な雰囲気に緊張している。

蜜村「こんな仕事場にダークスーツで来るなんて。ここは結婚式場じゃないわよ」
麻田「はあ、でもまあ(とぼけて)・・・葬式にはしたくないものですから」
武森「こりゃいいや。多少は頭も回る兄さんたちなんだな。それでもっと物分かりもいいとたすかるんだがな」
久野「それは、多田さん次第なんで・・・(残念そうに)」

  多田はあきらめた様子で話しだす。

多田「分かったよ。カジノで作った借金はちゃんと返すから。えーと(頭の中で計算しながら)合計すると確か三十万ちょっとだったよな・・・」
久野「いいえ、正確には三十三万九千七百円です。カジノ・ウタマロからの、ライターの皆さまへのサービスで、利子は頂きませんので、ゼロということで」
麻田「まだ金額がさほど嵩んでいないうちに、早めのご連絡をさせていただきました。
   なにせ担保はなしですから」
多田「といいながら、返済が遅れたら延滞金もしっかり取るんだろ?
   原稿料がやけにいいと思ったら、こういうことなんだな」
久野「いえいえ、延滞金もありませんから。最初の1日分のカジノ体験は当方からのフル  
   サービスですけれども。それからのお楽しみはご本人様の自由ということで。
   まあ、自己責任ということになりましょうか」
武森「原稿料がいいのは、ありがたいんだがねえ・・。でも大切なうちのライターをいじめないでくれよ」
久野「それは私どもも全く同じでして。借金が返せないほどかさんでしまう前に、このようにしてご相談申し上げているわけでして」
蜜村「あ、そう。心配してくれているのね。じゃあ、これからおたくの原稿を仕上げるんだから。邪魔しないでくれる?」
久野「それは、それは、申し訳ありません。それじゃあ、また。出直してまいります」
多田「(無言でうなだれる)」

   久野、麻田の帰って行く後姿を見送る一同。

4 夜・喫茶店で

   多田、蜜村が向かい合って話している。

蜜村「やっぱり、はまったんだ・・・」
多田「うん、もうしわけない・・・」
蜜村「まずは、今回の原稿はちゃんと入れたけど。ギャンブルしないで原稿を書くようにしないとね。お金が続かないわよ・・・」
多田「・・・」
蜜村「いい?賭けないで書け!というのが私からの命令」
多田「・・・」
蜜村「返事がないけど・・・」
多田「了解です」
蜜村「武森さんも期待してるんだから。あの人は珍しい人が好きなのよ。
 一平はなんかおもしろいって。わかる?」

5、パソコン画面

パソコン画面の文字が動いていく。

多田(独白)「新しく、カジノ・ウタマロに登場した鉄火場・丁半博打は、妖艶な女壺振師の官能美を堪能できる。その白い肌には緋牡丹や登り竜の刺青があるのも嬉しい。
  悪所の雰囲気に染まりたければ是非おすすめだ。 取材:多田一平 」
パソコン画面からズームバック。ややきちんとした格好の多田から、さらにズームバックすると、午後の日差しのカフェになり、そのカフェがカジノ・ウタマロの中にあることがわかる。
多田「ふーー。やっと終わった。原稿を送って・・・、と」
パソコンから書き上げたばかりの原稿を発信して、ノートパソコンを閉じる。
パソコンをバッグに放り込み、クロークに預け、颯爽とカジノの中に入っていく。

6、夜・カジノ内の瀟洒なレストラン

シャンパンの栓が飛ぶ。多田の知り合いが集まっている。賑やか、華やかな雰囲気。

多田「今日は、こっちのおごりだよ。みんなどんどんやってくれ」
武森「借金はもう返したのか?」
多田「もちろんですよ。もうさっぱり」
蜜村「見事にカジノであぶく銭を稼いだのね。すぐなくなるだろうけど。今日は楽しませてもらうわね」
武森「いいじゃないか、いいじゃないか。運が向いてきたんだよ」
多田「ここで散財しちゃうと、結局カジノへ金が戻っていくんですけど・・・。
   ま、いいか?」
一同、大いに盛り上がっている。さてさて多田はカジノで一発当てたものの、そんなラッキーはいつまでもつづかないんですよねえ。





第2話 華麗なる正義の調査報道NPOだってさ

 まぐれのような幸運でカジノ・ウタマロへの借金をきれいに返したものの、やはり悪銭身に付かずで、再び借金のドロ沼にはまり込んだ多田。酔っぱらって暴れ、留置された彼を受け出しに来た兄は、彼を猟師としてスカウトしようとする。
 一方怪しげな調査報道NPOが、体力のある多田をフィリピンの取材へと送り込もうと画策していた。その仕事で、溜まった借金を一気に返そうとする多田だったが・・・。

7、パソコン画面

   多田がパソコンのキーボードを叩いている。

「今日のバカラの大勝負は、アラブの石油王と中国要人との一騎打ちだった。一瞬で大金を失っても、眉一つ動かすでもなく、全く取り乱すことがないのは、究極のダンディズムだ。 取材:多田一平」

パソコン画面からカフェ・テーブルで原稿を書く多田。カジノ・ウタマロのカフェである。原稿を送信し、パソコンを閉じて、カジノに向かう多田。

8、カジノ・ウタマロのバカラ・テーブル・深夜
多田がボロ負けする様子をスチールのカットつなぎで
負けの金額がどんどん嵩んでいくのが数字で分かる。

ふらふらした様子で、バカラ・テーブルで呆然としている多田。

9.深夜の屋台にて

屋台に座り込んで、かなり酔った多田。
後ろから顔を出す久野と麻田。

久野「財務部ですー」
麻田「大丈夫ですかー」
多田「ああーん、なんじゃあ。いきなり出てくるなよ」

  目がトロンとしている。

久野「だいぶダメージがあったようで」
麻田「負けの金額が百万円の大台を超えてしまったもので。私たちとしても、ねえ。
   無担保だし」
多田「余計なお世話だー」酔っぱらっている。
久野「負けは負けですからー」
麻田「もう大分行っちゃってるみたいですねえ。さあ帰りましょうよ。体に毒ですよぉ」

10、深夜の通りで

多田「大体なあ、お前らはなあ・・・○×○×○×○×!!!」
文句を大声でがなる多田に、黙って聞いている久野と麻田。
大声を聞きつけて警察官たちが寄って来る。

多田「あーー、おまわりさんだあ。聞いてくださいよ、こいつらはねえ、たちの悪い取りたて屋なんですよお。カジノの負けをむしりとろうとしてるんだよね。逮捕してくださいよ」
警官1「ほらほら、飲みすぎだよ」

ふらついた多田を支えようとしたところへ、それをふりほどこうとして、多田のひじが警官1の鼻に命中。鼻血をだしながらよろつく警官1。

警官2「公務執行妨害で逮捕する!」

11、警察署の檻の中・深夜から明け方

ぼんやりする多田

12、警察署内で 翌日、夕方

ストロボの閃光、断続的に
事務的に写真を取られ、指紋を取られる多田。

警官2「おい、身元引受人が来たぞ」

兄の多田権造がひょいと現われる。

多田「あれ?兄貴」
権造「よお」

13、居酒屋で

   多田と兄の多田権造が飲んでいる。

兄貴「いやー、まいったねえ。警察にお泊りかよー」
多田「面目ないっす。兄貴に東京まで来させちゃって」
兄貴「まあ、いいやーな。東京見物のつもりだからよー。ところでおめえ、故郷へ戻ったらどうだなー」
多田「いやあ、それは考えてないって。なんども言ってるだろ」
兄貴「実はな、元兵隊さんにぴったりの仕事があるんだー。なんせ人がいなくなってんだろー、だから山にはイノシシやシカがどんどん増えちまってよー、木とか作物とか食い荒らして、みんな困ってんだー」
多田「んじゃー、どうしてんだ」
兄貴「猟友会に頼んでもよー、みんな年寄りばっかでよ。いい鉄砲撃ちがいねえんだ。猟友会のアタマの松男伯父に、お前のことを話したらよお。そりゃあいいなー、ってえらく気に入ってもらったんだなあ」
多田「猟師になれっていうことかい」
兄貴「いいぞー、猟師は。今最も求められてる専門職だぞー。そりゃあ、外国の岩だらけの山でタリバアーンとかよ、アルカイダなんとかと撃ち合いするよりいいだろ?なんせ、シカやイノシシは鉄砲を撃ち返してこないしよ。知ってっか?シカ肉やイノシシ肉は高級なおフランスレストランでよ、バカ高いメニューになるんだぞ。おまえフランスで食わなかったのか?」
多田「いーや」
兄貴「シカやイノシシの肉はな、ネットや道の駅で直販してもいいしなあ、塩漬けして、スパイス効かせて、燻製にすりゃあ、これが珍味でな、高く売れるのさあ。だからよ、猟友会と農協と営林署で協力して、それ用の施設を作るって。なんせ松男伯父は顔役だからな」
多田「そんで、おれは何をするんだ」
兄貴「おまえはよ、まず猟友会に入って、顔つなぎしてさ。それから若い連中においおい鉄砲撃ちを仕込むんだ。あっちの軍隊で、軍曹だったか、伍長とかやってたんだろ。若い連中をしごくにはばっちりだ」
多田「おれみたいなもんでも出来るかねえ」
兄貴「当たり前よ。外国の軍隊上がりじゃ、ちょっとしたもんよ。ひと睨みすりゃあ、いくら突っ張ってた暴走族でも言うこと聞くぜ。やっぱ本当に命のやりとりをするところに居たんだからよお」
  話し続ける兄と聞いている多田
多田(独白)「兄はいつも調子がいい。何にもないと思っていた故郷が、兄の話を聞くと宝の山に思えてくる」

14、調査報道NPO、パブリック・アイの事務所

  パブリック・アイの吹浦昇と、中日友邦連盟の保衛部員、周勝米が会っている。
  多田の写真や警察の調書を手渡す周。日本語は流暢だがややアクセントは中国風。

吹浦「この男ですか?」
周「ラスベガスの奴らの足を引っぱるのは、ネタはいくつあってもいいでしょう」
吹浦「フリーのジャーナリストならうまく操れるでしょうね」
周「新聞社とかがバックにあるとうるさいからな。報道の自由とかくだらないことを言い出すし」
吹浦「さすが警察にも強いパイプのある周先生ですねえ」
周「つまらない暴力沙汰で、留置された奴なんだけどね。いろんなネタは入ってくるですよ」と得意げ。

15、編集プロ・緑林舎で、昼間
渋い顔をしている武森と蜜村
ぐったりしている多田。
武森「しょうがないなあ・・・」
蜜村「ちょっと勝ったからってはしゃぎすぎるからよ」
多田「うん」
蜜村「うん、しか言わないのね」
多田「うん」
蜜村「あー、いらいらする。わなにはまったのは自分でしょ?書きながら、賭けるなんて。もう・・・」
武森「とりあえず、今月分のギャラを早めに振り込んでおくから、一平はカジノのPR原稿仕事からはしばらく離れていろ」
多田「はい・・・」
武森「そのあいだに、前々からやりたかったんだろ、おまえ自身の外人部隊のことを本にまとめるんだ。期限は1ヶ月だ。大まかに原稿が出来たら、どこかの出版社に売り込んでやるから」
多田「はい・・・」
武森「それがやりたかったんだろ?本当は。カジノのおちゃらけPR原稿は、それを書くため練習のはずだったろ?」
多田「ええ・・・」
武森「大体なあ、原稿書きなんて仕事はなあ、ちゃんとした原稿を書かなけりゃ単なる無駄飯食いなんだよ。お前の『コノヤロー』みたいな思いを読みたいんだよ。身銭を切って読み物を買う読者はな。すぐ構成の打ち合わせだ。アタマの中をしっかり整理しろ。いいか、全体を3章に分けて・・・」
編集部での打ち合わせ始まる。

16.町を自転車で走る多田
多田の携帯に、武森から連絡が入る。自転車を停めて。
武森「おう、一平か?なんか調査報道のNPOとかいうところから、問い合わせがあったぞ。面接したいんだってよ。どうだ、興味あるか?」
多田「なんてとこですか?NPOなんですか?調査報道の・・・」
武森「ああ、そうらしい。パブリック・アイって名乗ってたぞ。すぐ電話するそうだ」
多田「分かりました。誰から電話が来るんですか?」
武森「澤井って言ってたかな。女だよ」
多田の携帯が、キャッチホンで非通知表示で鳴る。
多田「もう連絡が入ったみたいですよ。非通知だけど」
武森「おおー気になるねえ。じゃあな」
多田「ええ。それじゃあ」
割り込み通話を取って
多田「もしもし」
澤村「多田さんですか?こちらは調査報道のNPOでパブリック・アイと申します。私は編集の澤村と申します。実はご相談したい案件がありまして、一度面接にこちらへお運びいただけないかと思いまして・・・」
街角で立ったまま電話を聞く多田。

17.パブリック・アイの会議室・昼間
代表の吹浦昇が熱弁をふるっている。
編集の澤井貴子も同席している。
吹浦「・・・ですからもうマスメディアは、どこへ言っても仲良しクラブの記者クラブですよ。記者は、広告代理店が作ったプレスリリースしかもらえないし、現場とはじかに話せない。それでは事実を伝える、世の中を動かすようなジャーナリズムは生まれないですよ。
でも地道な調査をやりながら、根本の、本当の問題点をあぶりだすという調査報道なら、それが出来ます。とはいっても調査報道には、いくつか問題があります。時間がかかるし、費用もかかる。
名のあるジャーナリストだって余裕のある暮らしはできない。戦場カメラマンだって、日雇い仕事で食いつないで、自費で取材に出るのが現実です。それを何とかしようとして、私たちのような調査報道のNPOが生まれたんです」
澤村「ですから、私たちはテーマを選び、調査報道が出来る記者をスカウトして、活動の上でも、経済的にもサポートするんです。また外国のメディアにもニュース配信する活動にも取りかかろうとしています」
吹浦「いかがですか?」
多田「はあ・・・、それでなぜ私に声をかけたんでしょうか?」
澤村「今、取り上げたいと考えているテーマに適しているのでは、と考えたのです」
多田「どんなテーマなんでしょうか?それ次第なんですけど」
吹浦「少々面倒な取材になりそうで。あなたの外国の軍隊にいた体験を評価したいと思っています」
澤村「六本木界隈に巣食っていた、とある男がフィリピンに姿を隠したらしいのですが、その人物を追って欲しいのです。フィリピンは、銃やドンパチが日常的にある荒っぽい国なので、文科系のジャーナリストではちょっと危なっかしい・・・」
多田「だから私は体育系だと・・・」
吹浦「はっきり言うとそうです・・・」
多田「単純なほうがいいでしょうね」
澤井「その男は夜の六本木よろず相談人として多少は知られていたらしく、物知り、訳知りとしてあちこちに顔が効いたようです」
多田「何で食ってたんですか?」
澤井「それは、いまひとつはっきりしなくて」
吹浦「なにか表に出せない事情とか情報があるようです。私たちがこの男に注目したのは、以前、ある風俗嬢がドラッグで死んだ事件からです。この女性とよろず相談人は何らかの接点があったようですが、それが逃げた原因ではないかと推測しています」
澤村「その人物から、あの事件の真相を聞きだして欲しいのです。出来れば、動画でインタビュー収録をお願いしたいのですが」
多田「・・・」
吹浦「こちらからのギャランティとして、まず120万円。フィリピン行きはたぶん少々長く粘らないといけないでしょう。それを2、3ヶ月と見ています。経費は、そちらで見積もった金額を用意しますよ。フィリピンへの航空券はローコスト・キャリア、ホテルも贅沢しないでほしいんですが。何も取材できないまま金欠で戻ってくるなんてことはないでしょうけど。取材後は、このニュースが日本国内や海外のメディアに売れた場合は、さらに10%のロイヤリティを3年間支払う予定です。どうでしょうか、この取材は?」
多田「・・・あのー・・・もし、これを受けるとしたら前金で120万円もらえますか?」

18.編集プロ・緑林舎にて
多田を囲んで、武森、蜜村が相談中。
蜜村「やばい、やばいよー」
武森「そんなこと聞いたのか?前金でもらえないかって?」
多田「ええ。でも向こうはちょっと考えてから、結局『いいですよ』って言われましたけど」
武森「まあ金は大事だけどな。おまえ、金に困っているのを見透かされるぞ。まあバレバレだがな。・・・でも前金を払うっていうことは・・・、そんなにガセネタじゃないということかな」
蜜村「そんな奴を取材するなんて大丈夫?なわけないよね」
多田「だから俺だったんだろ?」
武森「パブリック・アイとか、吹浦昇とか、しっかり調べないと危ないな」
多田「また行って訊いてみますよ。そのほうが相手の様子も分かるし。まあロイヤリティの話は全く信用してないですけどね」
武森「うん、いい心がけだ」
蜜村「また一歩、進歩したわ」

19、パブリック・アイの会議室
多田、吹浦、澤井が話している。
多田「あのー、ここの役員としていらっしゃる方々はどんな方なんでしょうか?」
吹浦「なかなか動きにくい立場の人も結構多いですよ。ちゃんとした事実が報道されて欲しいと願う方々や投資家、由緒ある方も、色々だね」
多田「年間の予算規模が、NPOにしてはかなり豊かでしょう?」
吹浦「私たちの活動を支援してくれる有志は多いですから。それでなければ、あなたにこんなギャラや経費を払えませんよ」
澤井「なんだか私たちが取材されているみたいね」
多田「・・・いや、初めてお仕事をするところなので・・・。ざっくばらんに物が言えたほうがこっちとしても動きやすいですし・・・」

20.新聞記事、雑誌記事、ウェブ版記事のスクラップ、センセーショナルなタイトルが並ぶ

「医療廃棄物の信じられない行き先」
「世界を救う日本の古着」
「日本の放射能除染技術は世界に売れる」
「深海調査船建造費の4割は天下り経費か」
「政党交付金ころがしで儲ける弱小政党」

21、編集プロにて
パブリック・アイの出した記事を目の前
にして、打ち合わせる多田、武森、蜜村。
多田「これが、この間、パブリック・アイに行って、もらってきた記事ですけど。自分のところで手がけたものだそうです」
蜜村「見出しが派手な割には、大して深く追い詰めていないみたい」
武森「ウーン、つまらん」
蜜村「どれくらいの時間と経費をかけているのかしら」
武森「テーマだけなら飛びつくかもしれないが、編集でセンスのある奴がいないなあ。役人っぽい文章だね」
多田「編集は澤村か吹浦がやっているんでしょう。それ以外の人たちを見かけませんから」
武森「以前吹浦は大手の広告代理店にいたらしいぞ。営業で公共広告とかやってたらしい」
多田「そこをやめた理由って?」
武森「話してくれた奴はちょっとぼやかしていたけどな。そこが怪しい」
蜜村「金か、女関係?」
武森「どうする、一平?受けるか、受けないか?」
多田「もしおれに本気でやらせたいなら、水増しして作った経費見積りまで、全額振り込んでくるはずです」
武森「おれが教えた、ちょっと注意すれば分かる程度の、雑な見積りにしたんだな」
多田「もちろん。1円でも値切られたら、じゃあ止めます、と言いますよ」
蜜村「後は、先方から満額入金があるかどうか、ね?」

22.ATMの記帳
見積もった満額の入金を確認する多田。

23.喫茶店で・午後
カジノ・ウタマロの久野と麻田に全額の借金分が入った現金封筒を渡す多田。
久野「これは、これは。分割支払いかと思っていましたけれど」
多田「原発作業のタコ部屋に身売りすることにしたんだ。これでチャラだな。領収証もしっかり書いてくれよ」
久野、領収証を渡す。
麻田「またカジノで遊んでください」
多田「たぶん、もうそれはないよ」
そう言い捨てて、席を立つ多田だった。






第3話 フィリピン取材旅行は、ただ待つばかり

フィリピン出発前に事務所の先輩の蜜村洵子と一夜を過ごす多田。あやふやな情報、あやしげな伝手をたどって、フィリピンに逃げた男を探し続け、待ち続けるが、ある夜、リボルバーをベルトに挟んだ男たちの来訪を受けて・・・。

24、やや上品な店で・宵の口
蜜村と多田がカウンターで並んで飲んでいる。
蜜村「もう、出発の準備はできた?」
多田「うん」
蜜村「あのさー、酔っ払っちゃう前にちゃんと渡しておくね。ほら中野に多田神社ってあるんだよ、そのお守り」
テーブルの上にお守りを差し出す蜜村。
多田「え?」
蜜村「たぶん、ご先祖様だろ?おんなじ名前なんだから」
多田「そうかな?」
しんみり飲んでいる二人。
蜜村、だいぶ飲んでいる。
蜜村「おい、こんな可愛い女をほっぽらかして、フィリピンくんだりまで行くんですかあー?」
多田「まあ、受けた仕事だからね」
蜜村「仕事なら行くのかー」
多田「・・・」
蜜村「一平・・・、ちゃんと帰ってこいよー」
多田「バカだなあ。大丈夫だよ」
蜜村「絶対だぞー」
多田「うん」
蜜村「うん、じゃない。『はいっ』だー」
多田「・・・」

25、夜道を歩く多田と蜜村
蜜村「命令だぞー。おいらをずっと護衛して、家まで送るんだー」

26、蜜村の部屋。
多田の裸の胸で甘えている蜜村
蜜村「ちゃんと、ちゃんとね、絶対帰って来るんだぞ」

  暗転

27.フィリピン・マニラの裏町の安ホテル
その一室に多田がこもっている。
窓の下はマニラの歓楽街。

28、パソコンの画面、文字が走る
多田(独白)「アフガニスタンでわれわれの任地は、広い谷にあった。朝に晩にしんしんと冷え込む厳しい気候だ。そんな中、冬の寒気にさらされながら、われわれの部隊は村から村へと動いていく・・・」

多田(独白)「書きかけの原稿は持ってきた。
こちらの情報源に当たりながら、じっと待つだけの時間が過ぎていく」

29、マニラの日本風居酒屋
飲んでいる多田。
多田「人を探してるんだけどね・・・こっちに居るらしいんだが・・・」
ぶっきらぼうな視線を返すだけの日本人の主人。

30、マニラの夜の町を歩いていく多田。

31、日本の大手新聞社のマニラ支局・昼
新聞社支局員の磯野輝夫と話す多田。
磯野はいささか疲れ気味だ。
磯野「ジャーナリストと自分で言ってる人はいっぱいいますけどね。
   色んなネタを追っかけてますよ。調査報道ねえ・・・。
 初心者は山下将軍の財宝とか、昔沈んだスペイン船の金貨を引き揚げるとか。
 中級者はマニラの風俗とか逃げたヤクザ、日本人の男に見捨てられた混血児とか。
 ああ、そうなんだ、こんな感じの男ね。
 気にしておきますよ」

32、医療ボランティア団体のマニラ事務所・昼
事務所の森野玲と会う多田。
森野、きびきびした対応で
森野「よくそんなあやふやな話で、わざわざ取材になんか来たのね。
   物好きというか、なんというか」
多田「まあ、それが調査報道ということなんですが」
森野「とりあえず聞いてみますから。あちこちにね。時間がかかりますけど」
多田「ありがとうございます。待つのは慣れていますから」
森野「それじゃあ、なにかあったらホテルに連絡しますから」
多田「お手数をかけます」
森野「いやあ、当てにしないでくださいね」

33.パソコンの画面・文字が走る
多田(独白)「毎日が単調に過ぎていく。工兵隊が設営したキャンプに駐留し、
      24時間交代で周囲を見張っている。時々、車であちこちを巡回する。
      車を降りて、村の中に入っていくと、何かしら銃撃戦になることが多い。
      ただそれだけだ。劇的なことは9割方起きない。
      何かあったら即まずいのだけれど」

34.ホテルの部屋・夕方
多田がベッドに寝そべっている
ホテルの電話が鳴る。受話器を取る多田。森野玲からの電話だった。
森野「その男らしいのが見つかりましたよ。
   マニラじゃなくて、南のミンダナオ島、ダバオだそうです」

35、ダバオの裏町、さびれたホテル・夕方
ホテルの部屋でじっと待っている多田。
多田(独白)「伝言で指定された安ホテルに泊まって、3日が過ぎた。たぶん相手はじっとこちらを観察していることだろう。おれは毎日起きて、近くの店でメシを食って、ホテルでじっと待っている。何が起きてもいいように荷物はまとめて、出来るだけ体力を温存するため、ただただ眠る。」

36、ダバオのホテル・夜
ドンドンドンと乱暴にドアを叩く音。
ドアを開けずに多田が大声で返す。
多田「フー・アー・ユー?」
外の男「メッセージ。メッセンジャー」
多田がゆっくりとドアを開ける。2人の大柄なフィリピン人(男)が立っていた。
男「メッセージ・フロム・ジャパニーズ・マン」
と言って、メモ紙を多田に突き出す。
メモの文面(日本語の手書き文字)「おれに会いたければ、目隠しして、この男たちと来い」
男「カム・ウィズ・アス」
と言って、シャツの裾をめくってリヴォルバーを見せた。もう一人が多田の頭に黒い布袋をかぶせる。突然現れたこの男たちに、運命をゆだねるのだ。
さあ、どうなる。






第4話 ダバオに潜んでいた男

ダバオは危険な町だ。ドゥルテ元大統領が麻薬の売人どもを問答無用で射殺する暗殺部隊が治安維持機構として働いている。そんな匂いを漂わせた危ない連中に、その男はかくまわれていた。とりあえずのファーストコンタクトはどうなる・・・。

37、車内の後部座席で、男たちに挟まれて窮屈そうな多田。目隠し袋をされている。

  埃っぽい車内は、男たちの体臭と熱気がこもっている。
  ガタガタという音と振動がしばらく続き、やがて車は止まった。

38、暗くて広い部屋に椅子に座らされた、目隠し袋のままの多田。
テーブルに、多田の持ち物が並ぶ。
パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、音声レコーダー、折りたたみナイフ、パスポート、パブリック・アイの記者証、ほかにいろいろ。
目隠し袋を外される多田。目の前には日本人の男、神野丈がさっきの屈強な二人のフィリピン人を従えて立っている。

神野「あんたが、ごそごそおれのことを嗅ぎまわっているネズミ野郎か?」
多田「ネズミじゃないですよ。調査報道しているジャーナリストです」

   ここで自分の立場をしっかりさせておかなくてはならない。

神野「何を調べてるんだ?誰が、なぜ、おれのことを追いかけている?」

   じっと待っている間、いろんな答えを用意していたのが役に立っているようだ。
   相手は、簡潔で決然とした答えを待っている。

多田「ご存知だと思いますが、あるエスコートガールがドラッグで死んだ事件です」
神野「やっぱりな、あのバカ息子を半殺しにした意趣返しか?小便ちびりそうになってたしなあ。おまえはあの仕返しに送り込まれた殺し屋かあ?」

   殺し屋に狙われるくらいなら、このネタは本当らしいが、
   まだブラフの可能性もある・・・。
   バカ息子ってのが、糸口か・・・?

多田「そんな・・・自分はそんな奴じゃないですよ。あの事件にまだ裏がありそうだと思って、わざわざダバオまで来たんですよ。仕返しとか、そんな気は全くありませんから」
神野「あんたをなあ、信用するかしないかはこっちの決めることだ。事と次第によっては  
   あんたを無事に帰すわけには行かない」

   もっと、相手に話をさせろ。そう、バカ息子だ。

多田「あのバカ息子って、誰のことですか?」
神野「大森っていう田舎議員だよ。オヤジが副大臣の」

   出たっ!具体的な名前だ。でも表情に出すな、ううっ、出てしまったか?

多田「じゃあ、あのエスコートガールと大森が絡んでいるのは、単なる噂じゃなかったんですね?」
神野「エスコートガールって気安く呼ぶな。あいつはなあエミっていう子だ。あんなにおれを頼ってたのに、あいつのことをおれは守れなかった・・・」

   「エミ」という女の名前を口にした時、この男の表情が動いた・・・。気のせいか?
    昔の呼び名を出したら、どう反応する?

多田「よろず相談人ですか・・・」

   一瞬、戸惑って、男がゆっくりと答えた。

神野「おれの昔の呼び名を知ってるじゃないか・・・。いやな野郎だ。もう帰れ、帰れ!」

   あ、まずかったか?

多田「ちょっと待ってください・・・」
  
   屈強な男たちに羽交い絞めにされ、あっという間に多田の頭に袋がかぶせられた。
  (暗転)

39、ダバオのホテル・深夜

多田は、自宅の蜜村に電話する。

蜜村「よかった。その男、見つけたんだね。危なかったでしょう?ずっと心配してたよ」

   緊張した取材のいきさつを聞いた蜜村は、すこし安心したような声だった。

多田「なんとかね。武森さんに大森副大臣とその息子の地方議員のことを話しておいてもらえるかな。この二人のデータは洵子に頼むよ。エミという女の子のことも調べておいてくれ」
蜜村「うん、わかった」

   電話を切ってから、蜜村は何かに祈る様子だった。

40、パブリック・アイの事務所にいる吹浦とダバオのホテルの多田との電話・翌朝

  吹浦、多田からかかってきた電話で話している。

吹浦「そうか、その男が見つかったか。やったな。さすがこっちが見込んだ多田さんだ」
多田「とはいっても、こちらを信用して色んな真相を話してくれるかどうか」
吹浦「そのために前払いした高いギャラだぞ」
多田「分かってますよ」
吹浦「じゃあな、うまく行かなかったら、全額耳をそろえて返してもらうかも・・・。ははは冗談だよ」
多田「・・・・・」
吹浦、多田の返事を待たずに電話を切って、澤村に声をかける。
吹浦「あの男とコンタクトが出来た。このネタで営業が出来るぞ」














第五話 動画証言で潰せ!悪徳政治家ども

再び、その男のアジトに連れて来られた多田。自分の口封じに来た殺し屋じゃないと知ってやや安心し、ぼちぼちと驚くべきカジノ導入の裏話を話し始める。殺されたエスコートガールの敵討ちになればという、動画による男の証言を録画した多田だったが・・・。

41.翌日の夜、再び神野の前に座らされた多田。
神野「ジャーナリストなのは嘘じゃないようだな?」
神野は多田の書いたカジノ記事のプリントアウトをばらばらと出す。
神野「町のインターネットカフェで拾ってきたお前の書いた記事だ。最近は便利だよな。名前さえ分かれば、世界中どこでも、そのジャーナリストが書いた記事が読めるんだから」
多田「やっと分かってくれたようで?」
神野「でもなあ、おまえがわざわざここまで来た理由が見えないんだな。おれの知っていることがそんなに価値のあることなのかねえ」
多田「あなたが気が付かなくても、周りの連中には不利になるような情報かもしれませんし」
神野「おれが聞いたのは、死んだエミにドラッグを飲ませて、乱交相手になったのは田舎議員の大森、ということぐらいだ」
多田「議員のドラッグ疑惑というのは・・・」
  神野、怒りをこらえながら
神野「簡単に揉み消せるさ」
多田「エミさんは湾岸地区のヒルベリー・ホテルから病院に運ばれたんですよね?」
神野「ああ、そこで大森は勝負に大勝ちしたと言ってたよ」
多田「それで舞い上がった大森は、乱交にエミさんを引っ張り込んだ。ドラッグを服用させて」
  わざわざ確かめるように神野が言う。
神野「勝負というのは何なんだ?」
多田「博打、ギャンブル・・・ということで
しょうか?。エミさんが亡くなったのは、まだカジノが解禁される前でしょう?」
神野「闇カジノか?そこにエミもいた?」
多田「エミさんのいたヒルベリー・ホテルにも闇カジノがあって、政治家連中がそこにいたのかも?・・・」
神野「・・・・・」
  神野、怒りがこみ上げるのを堪えている。
多田「政治家への献金もカジノの勝ちという形式ならスムーズでしょう。どこへカジノを誘致するかで大金が動き、どんな法律の内容にするかでカジノの利益が大きく変わる。外国人からの違法献金も可能になる・・・」
神野「・・・カジノの利権のために、偉そうな奴らの保身のために、エミは口封じされたのかも?2、3日点滴していれば元気になるって、言っていたのに、病院から容態の急変で急死したと言われたんだ」
  後悔の表情が浮かぶ神野。
多田「闇カジノに、政治家や高級官僚が出入りしていたとなると、カジノ合法化法案自体が潰れてしまったでしょう。巨大な利権がおじゃんになる・・・」
神野「・・・だからその筋から早く逃げろと言われたのか。ちくしょうめ」
多田「その筋って・・・」
神野「昔、世話になってたところだよ。分かるだろう?」

42.ダバオのホテル・深夜
多田と、自宅の蜜村との電話
多田「大当たりだったよ。政治家や官僚が出入りした闇カジノに、外国人からの不法政治献金、エスコートガールのドラッグ死亡事件に副大臣が絡んでる」
蜜村「それってまともにヤバいネタじゃない?すぐ武森さんに伝えるわ。一平は早く帰って来て」
多田「明日、情報源の男から動画で証言を収録するんだ。動画があればもっとインパクトは強くなるからね。それが終わり次第大至急で戻るよ」

43、多田のホテルの部屋
  暗い表情で、折り畳みナイフをいじる多田。何度かため息をつく。
  取材用ノートに何か書き始める。

44、事務所にいる吹浦とダバオのホテルの多田との電話・翌朝

吹浦「すごいな。そこまで聞き出したのか?」
多田「ええ、相手の反応を見ながら話しているうちに、そんなところまで話が行ってしまって」
吹浦「いいぞ、いいぞ。動画は撮れそうかね?」
多田「これから収録することになっていますよ」
吹浦「頼むぞ」
電話を切って、澤井に
吹浦「カジノをよく知っている奴を使ったのは正解だったな」
澤井、指でVサインを出す。

45、多田が尋問された部屋・昼間
デジカメが三脚にセットされ、動画収
録の準備が整う。
きちんとした格好の神野が来て、
椅子に座る。
神野「ははは、おれの晴れ舞台かな」
多田「・・・」
神野「じゃあ始めようか・・・エミの敵討ちだ」
動画モードで動き出すデジカメ、RECの表示出る。

46、成田から都心へ向かうバス車内・夜
   多田がぼんやりと夜景を見ている。

47、蜜村の部屋・夜
蜜村の部屋のドアがノックされる。びくっとする蜜村。開けると、帰国したばかりの多田が立っていた。
蜜村「ちゃんと帰ってきたね、一平・・・」

48、ベッドで激しく愛し合う多田と蜜村
やがて果てて・・・。
多田「これからが面倒なことになるかも」
蜜村「多分、そうね」
多田「いろいろと仕込んでおかないとね」
蜜村「この困った兵隊さんには、私のようなお手伝いがいるのよ・・・」











第六話 公開されないなら、自分で媒体を探せばいいさ

必死で取材した動画を調査報道NPOに預ける多田だったが、念のために1本、コピーを作っていた。いくら待っても、動画が公開されないことに業を煮やして、まったく別種の媒体へと、動画素材を持ち込むと・・・。

49、パブリック・アイの事務所・朝早く
吹浦、澤村、多田が、神野の証言動画を見終わって
吹浦「いやあ、ご苦労さまだった」
澤村「これで今のカジノは根こそぎ揺すぶられるわよ。カジノ解禁で甘い蜜にたかって、  
   美味しい利権をしゃぶってる奴らを震え上がらせることが出来るわね」
吹浦「すぐ記事にまとめてくれるか?速報形式でいいから」
多田「はい、了解です」
吹浦「ところでこの証言は、このオリジナルだけなんだね」
多田「ええ」
吹浦「こちらで預からせてもらうけれど、いいかな。しかるべき形に編集して世界中に
配信させてもらうよ。発表のタイミングは微妙に政治的だから任せてもらいたい」

49、自転車を押して道を歩く多田
なにか釈然としない顔でパブリック・アイの事務所を出る多田。

50、編集プロ・緑林舎にて・昼頃
顔を出す多田。武森、蜜村が待っている。
武森「おー、よかったよかった。無事に帰ってきたか。もう蜜村からあらましは聞いたぞ」
多田「ええ、まあ。いろいろ大変でしたけど」
蜜村「パブリック・アイはどうだった?」
多田「なんか吹浦がオリジナル、オリジナルってうるさくて。全部の動画を預けろって」
武森「預けたのか?」
多田「そんななわけ、ないでしょう。やっと掴んだ情報ですよ。パブリック・アイは
   金を出したから全部が自分のものだと思ってる。取材の現場が分かってないですよ」

51、神野の告白動画を見ている
編集プロ・緑林舎の面々。
一同、深いため息をつく。
多田「これで吹浦は速報記事をまず書くように言っています」
武森「たぶんそれで売りに出すんだろう」
多田「あちこちのメディアへですか」
武森「あるいは利害の絡む連中へ、だ。自分でも独自のメディアを探しておいた方が
  いいぞ」
多田「じゃあ、これを」
多田、神野の証言動画などデータ一式の入ったUSBを武森に渡す。
武森「ああ、お前の保険だな」
多田「頼みます」

52、多田のアパート・夜
机の上にはパソコンと資料、ノートなど。多田は吹浦からの電話を受けている。
多田「今送った速報記事はどうですか」
吹浦「いいねえ。これでインパクトが大きくなるぞ。次はもっと詳しく書けるように準備  
   しておいてくれるか?」

電話を切る多田。
パソコンの画面で水着のロシア美女キャスターが
ニュース番組を真面目にやっている。

多田「こういうのも、いいかな」

53、数日後、パブリック・アイの事務所で
  多田が吹浦に問いただしている。
多田「あとどれくらいで、このニュースは流れるんですか?」
吹浦「まだ交渉中だって」
多田「スポーツ新聞で、ぱあっと出るといいですよね。駅のキオスクに派手な見出しが
出るやつなんか」
吹浦「・・・・・」
多田「ねえ、吹浦さん。私には取材源への責任があります。それに誠実に答えないと私
がジャーナリストとしての信用を失いますよ。話したのはいいけど、ちっともニュ
ースに出ないじゃないかって」
吹浦「だから今は、詰めているんだって」
多田「こっちでも出してくれるメディアを探しましょうか?」
吹浦「いやいや、それはいいよ。そこまでしなくていいから」
多田「じゃあ、早く出してくださいよ」

54、編集プロ・緑林舎にて・夕方
  武森と多田が相談している。
武森「吹浦が発表せずに引き延ばしているのはよくないな」
多田「具体的な話がちっとも出てこないですよ」
武森「営業してるということは、もうあの証言動画はあちこちに出回っているぞ。あん
ないいかげんな吹浦に任せていたら危ない。政治家やカジノ業界との取引材料
にされる」
多田「この証言を収録した動画のコピーを持っていたのは正解だったですか」
武森「そう、大正解だ」
多田「あのー、こんなところに声をかけてみようと思うんですけど」
  アダルト番組ニュースのホームページのプリントアウトを取り出す多田。

55.アダルト番組放送の放送局事務所で
  多田、やや緊張気味でアダルト番組放送・報道部長のカサンドラ桐谷と話している。

カサンドラ「うちのような放送局だから、出来るってこともあるのよ。これ、やりましょう。カジノねえ、金の欲で人を釣って商売する連中でしょう。うちは官能が売りものだけど、官能は金儲けの欲望より、まだ純粋よ。あっちのほうが何倍も不純よ」
多田「それをビジネスとか、マーケティングといった耳ざわりのいい言葉で正当化す
るわけですか?」
カサンドラ「そういうこと。官能ってもっともっと生命の根源だから。それにね、私は
個人的にカジノというものに長年の恨みがあるの」
多田「・・・」
カサンドラ「わたしがほんの子供の頃、大伯母という人がずっとパリでビジネスウーマン
   をしてたのよ。私は伯母のことが大好きで、熱烈に憧れてた。その伯母がね、
   ある時カジノを手がけようとして、いろいろ動いたの。
   でもね、フランス当局から何かの理由でにらまれたらしくて、あえなく潰されたわ。
   華やかだった伯母が全てを失って、ひっそり死んだって聞かされて、何日も部屋に
   こもって泣いたのよ」
多田「カジノには、政治が絡むのが普通だと・・・?」
カサンドラ「汚い政治がね。だからそう、あなたは覆面ジャーナリストっていうのは
どうかしら?それで少しは身を守れると思うけど」
  カサンドラ、電話を取って
カサンドラ「ああお願い、ロリーンと直人クンを今すぐ呼んでくれる?特ダネだって」

56、公園・昼間
多田が、自転車を停めて吹浦に電話する。
多田「ああ、吹浦さん?もう決まりましたよ。あのニュースをちゃんとフルで出してく
  れるところが」
吹浦「なんだ?何をたくらんでいるんだ。ひょっとして素材をコピーしていたのか?
   どこだ。それは、どこの媒体なんだ」
多田「だって、吹浦さん。どこの放送局と交渉中だとか、どこで出るよとかとか
   全然言ってくれないですから。それはこちらの企業秘密なので。
   出たらすぐ分かりますから」
吹浦「おい、待てよ。おい、おい・・・」






第七話 アダルトだからスクープが出来るのさ

覆面ジャーナリスト69号として、官能ニュースチャンネルに登場した多田。同時に公開した証言動画で、カジノに関わる魑魅魍魎どもが動き始める。一方、神野も日本に入国しエミの復讐の機会を狙っていた・・・。

57、アダルト番組ニュースのスタジオ
アダルトニュースの水着キャスター、ロリーン・ヴァーコフと
ムキムキ筋肉蝶ネクタイ男、九条直人に挟まれて、
オペラ座の怪人のような仮面をかぶり、黒マントを着た多田。

ロリーン「エロいネタから、真面目なネタまで、自主規制なしでばっちり取り上げる
     アダルトニュースの時間です。キャスターのロリーン・ヴァーコフです」
九条「嘘か本当か分からない中に、求める真実はただひとつ。突撃レポーターの九条直
人です」
ロリーン「今日は、すごい動画が届きました。こちらにいらっしゃった
   覆面ジャーナリスト69号さんが、フィリピンで取材した日本人のレポートです。
   どんな内容なんですか」
69号「はい、これは現在は経済産業省の副大臣として大活躍なさっている
   大森進二郎氏のご子息で、県会議員の大森喜樹氏が、ある女性の死に関わっている
   という証言です。この女性は、なんとその大森氏からドラッグを薦められ、
   それで亡くなってしまったのですが」
九条「あのヒルベリー・ホテルの事件ですか。亡くなったのは確か堅田エミさんという
女性で・・・」
69号「あれは、あの女性が一人でドラッグをやり過ぎて死んだことになっていますが」
九条「別の人物がいた・・・」
69号「それが大森氏だという証言なのです」

58、神野の証言動画
神野「・・・エミの女友達から、エミが変なクスリを飲まされて、病院に運ばれたって連絡を貰ったんだ。急いでその病院へ行ったら、もうエミは点滴を受けててだいぶ落ち着いていた。医者の話だと、2,3日で大丈夫だろうって。エミが話してくれたんだが、政治家のバカ息子と盛り上がって、取ってあった部屋になだれ込んだって。それが副大臣の息子の大森って野郎だ。それで一発クスリを決めて、やろうってことになって。そうしたら急に気分が悪くなってゲエゲエ吐き始めた。『お医者さん、呼んで!』って何度も叫んだが、あの大森って野郎はお付きを呼んだり、ホテルのボーイを呼んだりして、エミをほったらかしにしていた。年配のオヤジらしいのが飛び込んできて、そのバカ息子を張り倒して、やっと救急車が来たって言ってたよ・・・」
神野の証言動画終わる。

59、アダルト番組ニュースのスタジオ

ロリーン「県会議員のドラッグ疑惑、ということですね」
69号「堅田エミさんだけがドラッグをやっていたことになっていたんです。
  さらに次の証言をご覧下さい」

60、神野の証言動画
神野「・・・エミはそのホテルで開かれてたカジノのデモンストレーションに
  大森と一緒に行ったんだそうだ。そこで大ツキしてチップが山のように
  積まれたんだが、エミが『こんなの集めても何のお金にもならないんでしょ?』
  ってつまんなそうに言うと、大森は『ちゃんとあとで現ナマになるのさ』
  とほくそ笑んでた、と・・・」
神野の証言動画終わる。

61、アダルト番組ニュースのスタジオ
ロリーン「これは確かカジノ解禁前のことですよね」
69号「ええ、デモンストレーションという名目で開かれたカジノが、
  実はれっきとした闇カジノだったという証言です」
九条「ヒルベリー・ホテルはラスベガスでもカジノを運営していますから、
  自分のホテルでデモンストレーションをするのは通常の業務のうちになりますが、
  それが実際にお金をやり取りすると、今は存在しない法律ですが、
  当時の賭博法違反ということになりますね」
69号「エミさんのところにすぐ大森副大臣が現われたということは、
  副大臣も闇カジノでお楽しみだった、ということでしょう。
そしてさらにカジノ法案を早く成立させたいラスベガスやアメリカ側が、
カジノで勝ったことにして足跡の付かない外国人からの違法な政治献金を、
その闇カジノにいた政治家や官僚たちに行っていた疑惑もあるのです。
さらに次の証言です」

62、神野の証言動画
神野「エミは2、3日の点滴で元気になる、ということで『もうクスリはやらないから』
  と泣いてたよ。看護師も『もう大丈夫ですよ。これだけで済んでよかったです』
って安心してたのに、容態が急変して亡くなるなんて、絶対におかしい。
多分大森が殺させたんだ、とおれはにらんでいるぜ。
だからあのバカ息子を半殺しにしてヤキを入れてやった。ちょっとやりすぎたかな。
だがな、奴らがおれを傷害で訴えなかったのは、たぶん事実だからだろうね。
もしカジノ解禁がうまく行かなかったら、大森のバックについてる
アメリカ政府のご機嫌を損ねるからなあ。だからあいつらは黙ってたんだよ」
神野の証言動画終わる。

63、アダルト番組ニュースのスタジオ
69号「とうとう出てきました。大森進二郎副大臣の殺人疑惑です。
  実際に手は下していないでしょうが、殺人を指示した疑いは十分にあります。
  もし副大臣が潔白なら、名誉毀損で訴えればよいでしょう。
  それでご自身の潔白が証明されるのですから」
九条「さあとんでもないことになってきました。現職の閣僚の殺人事件への関与疑惑です」
ロリーン「この事件は、これから追加取材してまた報道していきます。
  新しいエンターテインメント産業とカジノという民間企業を結びつけた手法が、
  大成功を収めたと、経済界から高い評価を得ている大森進二郎副大臣の黒い疑惑です。
  ドラッグ、闇カジノ、殺人と、果たして大森副大臣は潔白でしょうか?」
69号「次回はもっと切り込んで取材して行きます」
ロリーン、九条「それでは、また」

64、パブリック・アイの事務所。
電話口でまくし立てる吹浦。
険しい表情の澤井。
吹浦「こちらを無視してコピーした動画をあんなところで流したな。
  お前がその気なら、お望み通り、潰してやるからな。ギャラも経費も全額返せ、
  全額だ!」

65、自転車で疾走する多田、停車して
何本もの留守番電話がパブリック・アイから入っている。
その通知履歴を無視して消去する。

66.編集プロ・緑林舎で・数日後
  武森、蜜村、多田の打合せ
武森「なんとか火をつけたな。吹浦の奴、ひどく怒ってるだろう。
 水面下で動いて、ニュースを公にしない代わりにあちこちから金を
 引き出そうとしていたらしい。知り合いから聞こえてきた」
蜜村「嫌な奴ね。前金で貰っておいて正解だったわね」
多田「全額、経費も含めて返せって言ってますよ」
武森「返せないだろ?まあ宣戦布告だな」
多田「いよいよ来ましたね」

多田の携帯が鳴る。神野からの電話だった。

神野「おーい、ダバオの神野だよ。お前はまだ殺されてないか・」
多田「え?本当ですか?・・・こっちはまだ生きてますけど・・・」
神野「おれはもう日本にいるのさ。アダルトチャンネルとは考えたな。
  あいつら焦りまくってたぞ」
多田「あいつらって?」
神野「金沢の例のバカ息子の事務所の連中さ。ちゃんと挨拶に行ったのさ。
  エミの知り合いなんでよろしく、ってな」
多田「なんとまあ・・・これで戦争ですね」
神野「最後に勝つのは、おれたちさ。もう逃げ回るのには飽き飽きした。
  エミの敵討ちだよ」
多田「今、どこに?・・・」
神野「静かな森の中だよ。キャンプしながら、いろいろ作戦を考えてるんだ。
  バーベキューでもやりながら、おれの敵討ちの相談に 乗ってくれよ。
  もう東京はすぐそこだから」
多田、神野としばらく話してから、携帯を切る。

多田「神野からの電話です。もう日本に入っているそうです。それでー、森のバーベキューに招待されました」

67、パブリック・アイの事務所
周勝米、王剛が来ている。吹浦、澤井と密談している。
周「吹浦さん。ラスベガスの連中があわてている間に、マカオの仕事をきちんと
 進めましょう。こっちも早く日本に進出したくてね、なかなか思うような認可が
 下りないんですよ。もっと大森副大臣をゆさぶるネタを掴んでおきましょう」
吹浦「どうするんだね?」
周「まあ、それはお任せ下さいよ」

68、白井祥子の自宅
夜遅く帰宅した臼井祥子が家に届いた手紙を開封している。
小学校に行っている子供たちの望遠写真が出てきて、わが子に赤丸が付けられている。
急に鳴る電話。
男の声「ヒルベリー・ホテル経理部にお勤めの臼井さんですか?ちょっとお願いしたいこ 
  とがありまして・・・」
怯えた表情でうなずく臼井。
電話が終わって、打ちのめされたように子供の寝顔をじっと見入る。

69.駅のキオスクに並ぶスポーツ新聞の見出し
「風俗嬢麻薬死、背後に大森副大臣父子」
「ドラッグ、賭博、殺人容疑か」
「米国不正献金がカジノ解禁を推進」






第八話 あの副大臣を引きずり出せ

記者の前でとぼけまくる大森副大臣だが、執務室に戻ると取り巻きに怒鳴り散らすばかり。アダルト番組ニュースや、編集プロの面々もいよいよ大森への包囲網を縮めていく・・・。

70、霞ヶ関、経済産業省前
登庁した所を取材の嵐にさらされる大森進二郎副大臣。
レポーターたち
「副大臣、これは事実なんですか?」
「大森副大臣、反論する記者会見を開くべきでは?」
「カジノ合法化で、どれくらいのお金が動いたんですか?」
「なんか言って下さいよ」

71、副大臣室
秘書たちに当り散らす大森副大臣。
大森「一刻も早く、あのクソいまいましい報道をつぶせ。キャスターの不法入国とか。
個人情報保護法とか、なんでもいいから使うんだ」

72、高速道路・午後
二人乗りで走るバイク。運転は蜜村、後ろに多田。
その後ろに、車で追走する武森。

73、森のキャンプ場・夕方早め
  キャンプ場に入る蜜村、多田のバイクと武森のクルマ。
様子を見ている神野。

74、バーベキューの火を囲んで・夕方から夜
   神野、多田、武森、蜜村の密談。
  それぞれだいぶ酔っている。

神野「この人騒がせがやってきた時、なんだこの野郎って思ったもんだ」
武森「でも悪い奴じゃないと思うけど」
神野「おれがダバオで世話になってたのは、本当に危ない連中だったのさ。
  麻薬密売人なんかの極悪人を問答無用で処刑する輩だよ。
 お前なんかあっさりやっちまえばよかった。
 それでなきゃあ、こんな面倒にも巻き込まれないしなあ」
多田「あいつら殺気がムンムンしてたもんな」
武森「ダバオじゃあ、そんな仕事をしてたのか?」
神野「何度かやりそうになった・・・。だがやれなかった」
蜜村「それがよかったのよ。なぜか分からないけど、そんな気がする」
  どんどん安ウイスキーをあおる神野。
  それに付き合う多田。
神野、多田たがいに怒鳴りあう。
 「チクショー」「偉そうにしてるなー」「なんだか知らねえが、このバカヤロー」「エミのあだ討ちだー」「討ち入りだー」「ちゃんと助っ人しろよー」「あた坊よー」「ぜったいぶっ潰してやるぞー」「こんちくしょー」
  そう怒鳴りあいながら、取っ組み合い、殴りあう多田と神野。
  武森、蜜村、だまって2人を見ながら火を焚いている。
  もつれ合ってぶっ倒れる多田と神野。

75、翌朝、バンガローにて
武森「さあ諸君、作戦会議だ」
  武森の掛け声で、ぞろぞろ起きてくる多田、神野、蜜村。
武森「私が考えた作戦はこんなところだ。まず、一平はアダルトニュースの連中と
   どんどん派手なパフォーマンスで大森側に揺さぶりをかける。これは表の作戦だ。
神野さんは、私と共同でもっと周辺から大森の陰謀を暴く糸口を見つけ出す。
それを追いながら、裏から探りを入れる。そうすれば結局ボロが出る。
裏切る奴、本当のことを言い出す奴が出てくる。
ただ、いったん始めたら、途中で止めることは出来ない。
大森を倒すか、こちらがやられるか。それでもいいか?」
全員、力強くうなずく。
  
76、霞ヶ関、経済産業省前・昼間
取材用のワンボックスカーから降りて、経済産業省へ入ろうと
仮面とマントでコスプレしたままの多田=覆面ジャーナリスト69号、
水着のロリーン、ムキムキの九条。
警護官たちに押し戻される。
警護官「だめだめ、そんな格好じゃ入れるわけには行かないですよ」
69号「呼ばれる前に来ましたけど」
それを見つけた取材レポーターたちが押し寄せる。
レポーターたち
「アダルトニュースのロリーンさんですね、こちらは覆面ジャーナリスト69号に
九条さん。やはり副大臣は面会拒否ですか?」
ロリーン「せっかく来たのに残念だわ。ダメなんだって、ちゃんと説明すればいいのに。
自分は後ろめたいことなんかないって」

77、副大臣室・昼間、同時刻
表の様子を窓から見て、苦い顔をしている大森副大臣。
どこか(ラスベガス系のカジノグループ)と電話で話している。
大森「ええ、ええ、大丈夫ですよ。シラを切り通せば。
 どうせエロ番組の半端な取材ですから。決定的な証拠など出てきませんよ」。

78、ヒルベリー・ホテル経理部
一人で残業している臼井祥子。
USBでデータをコピーしている。

79、編集プロ、緑林舎で
武森「エミさんを担当していた医者か看護士の名前って覚えてますか?
 エミさんは何階の部屋に居たって言っていましたか?
闇カジノは何階にあるって言ってましたか?」
  記憶をたどりながら、答える神野。
  蜜村が、ヒルベリー・ホテルの図面や病院の職員名簿を見ながら、
  チェックしている。

80、経済産業省、省内
取材レポーターのぶら下がり取材で答えている大森副大臣。
大森「あんなインチキ番組の情報でわざわざ取材に来るなんて、
 そちらの品位を疑いますよ。あんなのは無視するのが、大人というものですから」
レポーター「名誉毀損で訴えないんですか?」
大森「訴えるほどの値打ちすらないですから」

81.編集プロ・緑林舎にて
   蜜村がパソコンを操作してリサーチ中。
武森、神野がそれを見ている
蜜村「たぶんこいつかな。エミさんが運ばれた病院にいた医者ってこの人?」
神野「・・・ああ、そうだ。この野郎だ」
武森「こいつをちょっと揺さぶってやるか」

82、病院にて
  神野と多田が、病院の廊下で例の医者を呼び止める。
神野「ああ先生、ご無沙汰してます。ヒルベリー・ホテルから運ばれた
  堅田エミの付き添いをやってました者なんですけど・・・
ちょっとお伺いしたいことがありまして。こちらは調査報道の・・・」
  表情が変る医者。





第九話 おれは殺してない、奴が勝手に落ちたんだ

追い詰められた大森側は、ついに実力行使に出た。それを阻止しようとして、刺客の一人をマンションのベランダから突き落としてしまう多田。一方、マカオ側のカジノも巻き返しに出ようとしていた・・・。

83、ロリーンのマンション
大森副大臣が映るテレビの画面を見ている、
多田、ロリーン、九条、カサンドラ桐谷。
次の番組内容の打ち合わせをしている。

カサンドラ「ほんと。大森ってムカつく野郎」
九条「こう、まわりがうるさいとこんなところで隠れて打ち合わせするしか
 ないよなあ」
多田「まあ、思わぬ注目を集めたんだからいいじゃないか」
ロリーン「こういうのもいいわよ」
カサンドラ「放送局としては歓迎すべよ。いままで何の影響力もなかった
  アダルト番組チャンネルが異常な注目を浴びてるんだから」
多田「そろそろ決定的な証拠を出しますか?実はあの証言した神野本人が
  フィリピンから東京に来ています。彼の生出演で大森親子を徹底的に追い詰められる」
カサンドラ「それってすごい!」
九条「これで決まりだ!それでいつ番組に出られそうかな?」
多田「すぐ聞いてみよう」
携帯電話にかける多田。
神野が出ないので留守電にメッセージを入れる。
さらに打ち合わせは続き、多田、ボイスレコーダーで打ち合わせを録音。
カサンドラ「それじゃあ、これで打ち合わせは終わりね。
   まとめは明日のオンエア3時間前までに。私はまだロリーンと話があるから」

84、ロリーンのマンションの戸口
男たちを送り出してしばらくして、マンションのドアチャイムが鳴る。
ロリーン「なんだろう?」
カサンドラ「忘れものかな」
ドアを開けると眼出し帽をかぶった黒服の男が2人、乱入してきた。

85、夜道
自転車を押す多田と歩いている九条。
多田「あれ、レコーダーを忘れてきた。おれ、ちょっと取ってくる・・・」

86、ロリーンのマンション内
部屋の隅に追いつめられ、怯えるロリーンとカサンドラ
男1「顔は殴るなよ。なにせテレビキャスターだからな」
男2「おれたちが何を頼みに来たか分かるよな。お願いだよ、闇カジノとか、
  不法献金なんてヨタ話はもうおしまいにして欲しいのさ」
ロリーン、手近にあった箒を逆手にとって構える。
ロリーン「私に手を出したら、ロシアン・マフィアが黙っちゃいないよ・・・」
男1「おやおや、ロシア系かい?気の強いお嬢さんだ。下手に暴れると怪我するぜ」

87、ドアの外からマンションの中へ
多田がそっとドアを開けようとすると、鍵が開いている。
不審な表情で静かにドアを開く。
中からロリーンの叫び声。
ロリーン「Get out! Get out from here!」

警戒しながら、傘立てから傘を1本取って、そろそろと進む多田。
眼出し帽の黒い二人の男たちがロリーンとカサンドラを部屋の隅に
追い詰めていた。
男2が向かってきたのを、傘を突き立てて倒し、男1と向かい合う。
ロリーンが箒を振り回し、多田が蹴り込む。
ガラス戸を破って男1がベランダへ逃げる。ベランダで男1と多田の格闘。
男1は、バランスを崩して手すりを越え、下へ落ちる。
人間の体が地面に叩きつけられる鈍い音。

多田「大丈夫か」
ロリーンもカサンドラも震えながらうなずく。
傘を突き立てられ、倒れている男の眼出し帽を取ると、
カジノ・ウタマロの財務部、麻田だ。
多田「するとあいつは、久野か?」
顔をそむける麻田。

負傷した麻田や、荒らされたロリーンの部屋の様子を持っていたデジカメで
手早く撮影する多田。

多田「いいかい、見たとおりの事をそのまま警察に話すんだ。いいかい?」
カサンドラ「分かった。ここは落ち着いて対応する。
  あなたはまだ捕まらないほうがいいから」

88、夜の通り
暗い通りで、臼井祥子が、歩いてきた男にUSBを手渡す。

89、蜜村の部屋・夜
ノックの音を聞いて、不安げにドアを開ける蜜村。
蜜村「どうしたの?ひどい格好で」
多田「ちょっと隠れていなきゃならない」
蜜村「まずい状況なの?」
多田「ああ、かなり。ああ、このデジカメ画像をUSBにコピーしてもらえるか。
  元は君が持っていてくれ。おれは武森さんに状況を話して相談する」
蜜村「いいわ」
パソコン作業にかかる蜜村。
多田「あのさ、ずっと考えてた」
蜜村「何を・・・」
多田「おれは洵子と一緒にいていいのかなって」
蜜村「なによ、当たり前じゃない」
多田「でもな。君と出会った後でも、人を殺してしまった男だよ。それもついさっきだ」

90.TVのニュース画面から、蜜村の部屋
普通局のキャスター「傷害事件の速報です。アダルト番組ニュース・キャスター、
 ロリーン・ヴァーコフさんと、パレステレビ社員カサンドラ桐谷さんが
 侵入してきた男二人に襲われました。女性二人を襲った傷害犯の一人は
 ベランダから転落して死亡、もう一人は負傷しているところを
 駆けつけた警官に傷害の現行犯で逮捕されました。
 死亡したのはカジノ・ウタマロ社員、久野辰彦(40歳)、
 負傷、逮捕されたのは同じく麻田力也(31歳)です。
 なおこの事件の重要参考人として警察では、フリーライターの行方を追っています」
多田「話題のニュースだからかな?こんなに詳しく報じるのは。
 おれが殺したのは、この久野っていう男だよ」
蜜村「でもテレビだと、転落って言ってる・・・」
多田「あの番組の仕事仲間を守ろうとして、おれが転落させたんだ」

91、夜の通り
バイクで疾走する蜜村、後には多田が乗っている。
フルフェイスのヘルメットで顔は分かりにくい。
   夜の闇の中をバイクで疾走する二人。





第十話 水平二連で、最後にひと暴れするか?

できるだけ騒ぎを大きくして、隠蔽工作が出来ないようにする、というのが武村の作戦だった。公権力に真っ向から立ち向かうには、捨て身の戦いしかない。多田と神野が戦いの場に選んだのは、調査報道NPOの事務所。おりしもマカオ側カジノのエージェント、周と王も居合わせて、大乱闘へ・・・。


92、武森の家
独り者らしく、資料や本が山積み。
紅茶を入れて多田と蜜村にすすめる。
武森「それで、と。ややこしいことになってるな。
 一平と神野さんが医者に会いに行ったらすぐこんな反応が来た。
 だいぶ核心に迫ってると考えるべきかな・・・」
多田「いずれ私は出頭しなくてはならないでしょう」
武森「ああ、そうだな」
多田「しかしまだ決定的な証拠がない」
蜜村「吹浦を巻き添えにしたら、警察も動くかも。うらで営業してるのは、
  不正経理とかもやってるかも」
多田「そのおかげで、おれのギャラや経費も高かったとか・・・。すぐ出たし」
武森「一平、とにかく一人では捕まるな。誰かと一緒で、叩けばホコリがいっぱい出る
奴がいい。大森副大臣とか県会議員とか。ちょっと無理か?」
多田「いちばん、身近なのはやっぱり吹浦ですかね」
蜜村「神野さんにとっても、表沙汰で捕まったほうが有利になる」
武森「吹浦と神野とお前がまとまって捕まるのは・・・」
多田、蜜村、武森の3人そろって
「パブリック・アイの事務所、だ」
多田の携帯が鳴る。神野からだ。
神野「よう、追われてるな?ちょっとはおれの気持ちが分かってきたか?」
多田「ええ、ジンジン感じてますよ。興奮してます。ちょうどよかったですよ。
 エミさんの復讐をするのに一番いい案が出たところです。表沙汰でわざと捕まるんです」
  神野との電話をしている多田。
武森「さあ、おれは古い友人に連絡しておこう。いよいよ事件が起こるかも、ってな」

93.パブリック・アイの事務所が見える通り ・翌朝
車から双眼鏡で監視する神野と多田。
神野「おれとしては、奴らを血祭りに上げてやりたいところなんだがな。
 隠し武器もいろいろ用意してあるのに」
多田「一応日本は法治国家なんで、あんまり暴れてもまずいでしょう」
神野「フィリピンとは違うってか?はずみで殺しておいて、よく言うぜ」
多田「あれは正当防衛です。相手が落ちたのは事故です」
神野「それを決めるのは警察とか検察だぜ。信用できるのかねえ」
多田「信用されるような餌をたくさんまいておくしかないでしょう?
 それとも、連中が出世できるような事件を担当できるようにするか。
 大々的に捜査できる大義名分が見えてくるまで引っ掻き回すとか。
 それは捕まってみないと分からないですよ。武森さんが、どこかに下工作は
 してるみたいですけど」

パブリック・アイの事務所に入っていく周と王。

神野「あいつら中国人くさいぞ」
多田「巻き添えにする連中は多いほうがいいですよね。国際的にも事態が
 よりこんがらがるから」
神野「まあそうだな。じゃあぼちぼち行くか」
  車を降りる多田、神野

94、パブリック・アイのオフィス
周と王が、吹浦、澤井と話している。
周「どうです、これが闇カジノの顧客リストですよ。負け分、勝ち分も
 しっかり記録してありますよ」
  いぶかしげな吹浦、澤井
USBをセットして、パソコンの画面に
リストを表示する周。
吹浦「こんな資料をどうやって手に入れたんだ」
周「まあ、それは知らないほうがよろしいのでは。
 これで大森副大臣にお話しくださって、マカオのカジノにも早く認可を
 出していただきたいと伝えていただけますか?
これさえあれば、たぶん副大臣は首を縦に振るはずですから」

戸口に現われる多田と神野。
多田「やあ、吹浦さん。ちゃんとお詫びしておかなくちゃと思ってましてね」
吹浦「どの面下げて、ここへ来たんだ?あ、お前はあの証言していた男だな・・・」
神野「おれって有名なんだね。うれしいねえ」

多田、パソコン画面を覗き込んで
多田「あれあれー、こんなやばいリストがありますよー。本物ですかねえ」
中国人二人が緊張してさっと身構える。
多田「こりゃ、本物らしいわ」
襲いかかる中国人二人組。多田は中国人の攻撃をかわしながら身構える。
神野は隠し持っていた鉄パイプとチェーンをいつの間にか取り出して構える。

吹浦と澤井は部屋の隅やデスクの下に隠れる。
何ヶ所か負傷して、血だらけになりながら、激しい格闘の末、
中国人たちを取り押さえて縛り上げる多田と神野。
神野が吹浦と澤井の動きを封じる中、多田はパソコンに向かって、
メール操作しながら顧客データを発信する。
多田「これを忘れちゃいけないよね」
吹浦「止めろー、止めてくれー」
多田「もう行っちゃったよ」
多田、電話を取って110番を回す。
多田「あ、警察ですか。こちらで傷害事件です。何人かひどいケガで、
 あたり一面血だらけなんです。場所は、えーと・・・」

サイレンを鳴らして急行する警察車両。

95.東京湾岸のカジノ街の華麗なネオン
多田(独白)「あれからが大騒動で。おれも神野さんもいろいろあって
 何年かごたごたした。
 今日も世の中はそんなに変わっていない。
 カジノ業界を規制する法律が改正され、巨大な天下り機関が出来た。
 たとえどんな規制がかかっても、カジノの勢いは全く変わらない」

96、瀟洒なフランスレストラン・夜
大森進二郎と麻巳子夫人、喜樹と静かに食事中だ。
ギャルソンが静かに歩み寄って
ギャルソン「シェフからの特別の一品ということで。
    こちらは鹿肉のスモークでございます。ぜひ一度ご賞味くださればということで」
大森「ほう、これはいい」
麻巳子「素敵ね」
喜樹、食べ慣れないものは嫌だ、という顔をして皿を眺めている。

97、レストランの厨房
厨房でシェフと多田が話している。
多田「大森が来ているのか」
シェフ「ああ。お前の鹿肉のスモークをうまそうにお召し上がり中だ」
多田、カーテンの陰から大森一家の様子をうかがう。

急に思い立ったように大股で自分のバンに戻り、
水平二連の散弾銃を取り出し、散弾をポケットに流し込む。
大森たちの客席に行って、銃を構える。

98、レストランの客席
大森進二郎「なんだ、貴様は。この頭のおかしい奴は」
多田「カジノの利権で殺されたエスコートガールの恨みを晴らすのさ。
 なあ大森喜樹先生?」
大森喜樹「ひゃー、わわわー」
と叫び出して、椅子を蹴飛ばして逃げ出す。
多田、その背中に一発撃ち込む。あっけなく倒れて動かなくなる大森喜樹。
多田、振り返って大森進二郎を無造作に撃つ。
ひっくり返ってあおむけに倒れる大森進二郎。即死だ。
身動きできない大森麻巳子夫人。

99、レストランの厨房
そんな妄想シーンから、はっと覚める多田。
にやりとシェフを振り返って、指ピストルを作って。
多田「パーン!」
シェフ「それでいいのか?」
多田「おれの水平二連でわざわざ仕留める価値もないさ。
  じゃあ今回の納品は猪肉のフィレってとこで・・・」
シェフ「いつもいいジビエを入れてくれて嬉しいよ」
多田「じゃあな。あ、この本出来たんだよ」
シェフ「あれか?外人部隊の本だろ」
多田「やっとね」
シェフ「いいじゃないか。ハンターとライターで」
多田「他にも山仕事は色々あるよ。面白いぜ。じゃあな」

100、レストラン裏・夜
裏に停めた配送用トラック。
運転席には洵子がいる。
洵子「お疲れさま」
多田「あの大森が一家揃って、来ていたよ」
洵子「へー、ちゃんと挨拶しておけばいいのに」
多田「いいよ、こんな格好だから。かわりに指ピストルで撃ってきた。
 あんないけ好かない野郎だって大事なお得意さまだよ。
 おれの燻した鹿肉スモークを、そうとは知らずに旨そうに食ってたからなあ」
洵子「のんきな人ね・・・。神野さんも六本木のど真ん中にある墓地の墓守をしてるって。  
 よろず相談人は変わらずだそうよ」
多田「六本木の墓地って、あの谷底みたいなところにあるやつか?」
洵子「夜になるとよくカップルが入り込んで来て、コトに及ぶんですって」
多田「墓石はひんやりして、火照ったお尻に気持ちいいんじゃないか」
洵子「いやだあ、なんで分かるのよ」
多田「・・・さあさあ、今回の配送はこれで終わりだ。ぼちぼち帰るか。
 うちの山の神さま、マタギの女房さま」
洵子「あ、またごまかした・・」

配送用トラックには
WILD GAMEと書かれている。
高速に乗って夜の闇を走るトラック。

エンドタイトル

101、エンドタイトルが流れるにつれて
   サラ金、法律事務所、カウンセリングの
TVCMが流れる。

サラ金TVCM
「お客さまのお望みの時に、お望みのように。不二竹です。ご利用は計画的に」
「イーフル、イーフル、イーフル。今出来ることを、今出来るようにお手伝い。
 ご利用は計画的に」
「えーーーー?そんなことができるのー?ジェネリス。ご利用は計画的に」

法律事務所TVCM
「一人で悩むより、まず相談してみませんか?法律や債務のご相談はフリーダイヤルで。ベイサイド・リーガル事務所です」
「払い過ぎたお金を取り戻しましょう。多重債務などのご相談はTPP法律事務所」

ギャンブル依存症クリニックTVCM
「止めたくても止められない。それは心の病気です。恥ずかしがらずに高井クリニックへご相談下さい。タカイ・クーリニィッークー」
「だれもが陥ってしまう可能性があります。でもギャンブル依存症は治せる病気です。お電話下さい。フリーダイヤルで。ベイエリア心療カウンセリングまで」

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