#47 忘れえぬ人 アクション

いい探偵には、忘れられない犯罪者がいる。 それはどこか、初恋に似ている。
竹田行人 31 0 0 12/04
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第一稿

「忘れえぬ人」


登場人物
加藤順(27)探偵
峰香澄(26)刑事
男ABCD

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「忘れえぬ人」


登場人物
加藤順(27)探偵
峰香澄(26)刑事
男ABCD

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○中野ビル・屋上(夜)
   フェンスで囲まれている。
   エレベーター、貯水槽、ペントハウス。
   フェンス際にはところどころに角材や鉄パイプ、石灰の入った袋などが積まれている。
   ペントハウスの入口には「加藤順探偵事務所」の看板。

○同・加藤順探偵事務所・中(夜)
   応接セットとデスクがあり、物が散乱している二十畳ほどの空間。
   ドアの両脇にすりガラスの窓がある。
   加藤順(27)、デスクに足を載せ、黒く塗りつぶしたゴーグルとヘッドホンをして座っている。
   デスクの上に置かれたスマートフォンが振動する。
   画面には「着信 バカスミ」の文字。
   加藤、ヘッドホンを外し、電話に出る。
加藤「はい。マジヤバイケイケ探偵のカトウジュンです。ただいま電話に出ることが」
   ドアがノックされる音。
香澄の声「警察でーす。このドア開けないと公務執行妨害で逮捕するよ」
   加藤、電話を切るとアイマスクを外し、散乱する物を蹴りながら進み、ドアを開ける。
   峰香澄(26)、紙袋を手にドアの前に立っている。
香澄「よ。順。久しぶり」
加藤「これはこれはミネカスミ巡査。なんの御用でしょう? ご依頼ならお断り」
香澄「パパが餃子作ったから持ってけって」
加藤「マジ!? 餃子! 餃子! 餃子!」
香澄「子どもか。何これ。強盗でも入った?」
加藤「いつも通りだけど?」
香澄「知ってる。掃除しろって意味」
加藤「じゃあそう言えよ」
   加藤と香澄、目を見合わせる。
   加藤、応接セットの上に置かれた書類を腕で押しのける。
加藤「よし。片付け完了」
香澄「それ。片付けって言わないからね」
   加藤と香澄、応接セットに座る。
加藤「餃子! 餃子! 餃子!」
   香澄、紙袋から小皿と餃子ダレを出し、小皿に餃子ダレを注ぐ。
   加藤、紙袋からタッパーを出す。
   香澄、紙袋から辛子のチューブを出す。
香澄「その前に私に言うことあるよね?」
加藤「うん! 香澄。ありがとな」
   加藤、満面の笑み。
   香澄、頬が緩む。
香澄「いや。子どもか。順好きだよね。あ。幼稚園のとき、この餃子毎日食べたいって私にプロポーズしたの覚えてる?」
加藤「うめー! 峰パパやっぱ最高だわ!」
   加藤、餃子を頬張っている。
   香澄、小皿にチューブの辛子を注ぐ。
加藤「わ! バカ! バカスミ!」
香澄「順。捜査したいなら探偵なんかより」
加藤「正確にはマジヤバイケイケ探偵。な」
香澄「マジメに話してんの」
   加藤と香澄、目を見合わせる。
加藤「警察は事件が起きてからしか動かない。でもそれじゃ届かないこともある」
   加藤、小皿から辛子を取り除いている。
香澄「内野医科学研究所と井川朋子のこと調べてるよね?」
   加藤、箸を舐め、せき込む。
加藤「香澄。辛子入れすぎ」
香澄「今度は目の中にぶっ込もうか?」
加藤「反社か? 探偵にも守秘義務はある」
香澄「井川朋子が色仕掛けで男集めて危険な薬の治験やらせて挙句治験者は自殺した。こっちだってちゃんと捜査してる」
加藤「自殺と治験の因果関係を示す証拠はないし治験の同意書も法的になんの問題もない。警察じゃ無理な事件だろ?」
香澄「だからって順が調べるのは危険過ぎる。反社と繋がってるって情報もあるし」
加藤「オレは井川朋子を救いたい」
香澄「知り合いなの?」
加藤「いや。一度会っただけだ。でも。忘れられないんだ」
香澄「なにそれ。どういう」
   外で物音がする。
   加藤と香澄、目を見合わせる。
   香澄、両手両足と首の関節を鳴らす。
   加藤、餃子を三つまとめて頬張る。

○同・屋上(夜)
   男ABCD、ペントハウスの周囲を囲んでいる。
   男Aと男C、拳銃を持っている。
   男A、ドアをノックする。
   男ABCD、視線を交わし合う。
   加藤と香澄、ドアの両脇の窓を突き破って飛び出して屋上の中央まで走り、背中合わせになって体勢を整える。
   男ABCD、加藤と香澄を囲む。
加藤「なぁ。今の登場。超マジヤバイケイケ探偵っぽくなかった?」
香澄「超ニンニク臭いけどね。私こないだ上がって柔道三段。合気道四段。順は」
加藤「ストリートファイト五段。簿記三級」
香澄「じゃ。お互い援護なしで」
加藤「健闘を祈る」
   加藤と香澄、駆けだす。
   香澄、いったんエレベーター近くまで走って男CとDを引き付けると、踵を返して男Cに駆け寄り、辛子のチューブを男Cの目に向けて押し出す。
   男C、目を押さえて体勢を崩した瞬間、手首に香澄の回し蹴りが入り、拳銃が飛ばされる。
   香澄、男Cの髪の毛を掴み、引き寄せてひざ蹴りを入れる。
   男C、昏倒。
   香澄、後ろを振り返ると男Dが鉄パイプを振りかぶっている。
   鉄パイプをよける香澄。
   香澄、鉄パイプの先端に左足を載せ、右足で男Dの手首にかかと落としを掛けて鉄パイプを落とすと、前のめりになった男Dの顎を右足で蹴り上げ、男Dの左腕を軸に飛びあがり、男Dの首に足をかけ、三角絞めを掛ける。
   男D、昏倒。
     ×  ×  ×
   ペントハウス脇。
   加藤、男ABに囲まれている。
   男B、加藤の顔面を殴る。
   加藤、石灰の入った袋の山に背中から倒れこむ。
   男B、加藤に駆け寄り、殴りかかる。
   加藤、掴んだ石灰の粉を男Bの顔に投げつけると、そばの角材を取り、男Bのミゾオチを突く。
   男B、昏倒。
   男A、立ち上がった加藤のこめかみに拳銃を突き付ける。
   加藤、腕で銃口を払うとそのまま男Aの手に後ろ回し蹴りを掛ける。
   男Aの手から拳銃が落ちる。
   加藤、落ちた拳銃を蹴り飛ばす。
   男A、肘を思い切り加藤に叩きつけると、角材を奪って加藤の首に回し、両手で後ろに引っ張って、首を絞める。
   加藤、もがきながらペントハウスの壁に近付いていき、足が届く距離になると、壁に足を付けて斜めに駆け上がってから壁を蹴って飛び、その反動で男Aを投げ飛ばすと、男Aののど仏に前蹴りを入れる。
   男A、昏倒。
   加藤、咳きこみながら角材を杖代わりにして立ち上がる。
   加藤と香澄、ハイタッチをする。
香澄「ホントに辛子目に入れちゃった」
加藤「とりあえず餃子食おう」
香澄「はいはい。てか。ホント息臭いからね」
加藤「いいよ。それで困ることないし」
香澄「いや。あるでしょ。たとえば」
加藤「たとえば?」
   加藤、香澄の背後に目をやる。
加藤「香澄伏せろ!」
香澄「え」
   加藤、香澄を突き飛ばす。
   香澄、転ぶ。
   男C、香澄の後方で拳銃を構えている。
   加藤、持っていた角材を男Cに投げる。
   銃声。
   男C、角材を額に受け、昏倒。
   香澄、立ち上がる。
   加藤、倒れている。
香澄「じゅん? 順!」
   加藤から広がっていく血だまり。

○世田谷総合病院・病室・中
   リノリウムの床。
   ベッドが4床。
   カーテンが風に揺れている。
   加藤、窓際のベッドで横になっている。
   香澄、ベッド脇のイスに座ってリンゴの皮をむいてる。
香澄「あいつらからは何も出なかった。ねぇ順。まだ調べんの? 今度はケガじゃ」
加藤「あー。早く峰パパの餃子食いてー」
香澄「退院したらね」
加藤「退院する。秒で退院する」
香澄「バカ。あ。その前にしとこ」
加藤「ん? なにを?」
香澄「ニンニク臭いと困ること」
   香澄、加藤にキスをする。
   加藤と香澄、目を見合わせる。
   香澄、リンゴの皮をむき始める。
加藤「あー。あーね。あー」
   夕月、窓の外に浮かんでいる。

〈おわり〉

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